(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記フッ素系結晶性樹脂バインダー(b−1−1)が、フッ化ビニリデン及びフッ化エチレンから成る群より選択される1種以上を含むモノマーの重合体又は共重合体である、請求項1〜5のいずれか一項に記載のセパレータ。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のセパレータは、多孔基材層(A)と多孔層(B)とを有する。
<多孔基材層(A)>
本発明における多孔基材層(A)について説明する。
上記多孔基材層(A)としては、電子伝導性が小さく、イオン伝導性を有し、有機溶媒に対する耐性が高く、孔径の微細なものが好ましい。
そのような多孔基材層(A)としては、例えば、ポリオレフィン樹脂を含む多孔膜;ポリエチレンテレフタレート、ポリシクロオレフィン、ポリエーテルスルホン、ポリアミド、ポリイミド、ポリイミドアミド、ポリアラミド、ポリシクロオレフィン、ナイロン、ポリテトラフルオロエチレン等の樹脂を含む多孔膜;ポリオレフィン系の繊維を織ったもの(織布);ポリオレフィン系の繊維の不織布;紙;並びに、絶縁性物質粒子の集合体が挙げられる。これらの中でも、塗工工程を経てセパレータを得る場合に塗工液の塗工性に優れ、セパレータの膜厚をより薄くして、電池等の蓄電デバイス内の活物質比率を高めて体積当たりの容量を増大させる観点から、ポリオレフィン樹脂を含む多孔基材層(A)膜(以下、「ポリオレフィン樹脂多孔基材層(A)膜」ともいう。)が好ましい。
【0014】
多孔基材層(A)は、電池用セパレータとした時のシャットダウン性能等を向上させる観点から、多孔膜を構成する樹脂成分の50質量%以上100質量%以下をポリオレフィン樹脂が占めるポリオレフィン樹脂組成物により形成される多孔膜であることが好ましい。ポリオレフィン樹脂組成物におけるポリオレフィン樹脂が占める割合は、60質量%以上100質量%以下であることがより好ましく、70質量%以上100質量%以下であることが更に好ましい。
【0015】
ポリオレフィン樹脂組成物に含有されるポリオレフィン樹脂としては、特に限定されず、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、及び1−オクテン等をモノマーとして用いて得られるホモ重合体、共重合体、又は多段重合体等が挙げられる。また、これらのポリオレフィン樹脂は、単独で用いても、2種以上を混合して用いてもよい。
中でも、電池用セパレータとした時のシャットダウン特性の観点から、ポリオレフィン樹脂としてはポリエチレン、ポリプロピレン、及びこれらの共重合体、並びにこれらの混合物が好ましい。
ポリエチレンの具体例としては、低密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、超高分子量ポリエチレン等、
ポリプロピレンの具体例としては、アイソタクティックポリプロピレン、シンジオタクティックポリプロピレン、アタクティックポリプロピレン等、
共重合体の具体例としては、エチレン−プロピレンランダム共重合体、エチレンプロピレンラバー等、が挙げられる。
【0016】
中でも、電池用セパレータとした時に低融点かつ高強度の要求性能を満たす観点から、ポリオレフィン樹脂としてポリエチレン、特に高密度ポリエチレンを用いることが好ましい。なお、本発明において、高密度ポリエチレンとは密度0.942〜0.970g/cm
3のポリエチレンをいう。なお、本発明においてポリエチレンの密度とは、JIS K7112(1999)に記載のD)密度勾配管法に従って測定した値をいう。
【0017】
また、多孔基材層(A)の耐熱性を向上させる観点から、ポリオレフィン樹脂としてポリエチレン及びポリプロピレンの混合物を用いることが好ましい。この場合、ポリオレフィン樹脂組成物中の、総ポリオレフィン樹脂に対するポリプロピレンの割合は、耐熱性と良好なシャットダウン機能を両立させる観点から、1〜35質量%であることが好ましく、より好ましくは3〜20質量%、更に好ましくは4〜10質量%である。
【0018】
ポリオレフィン樹脂組成物には、任意の添加剤を含有させることができる。添加剤としては、例えば、ポリオレフィン樹脂以外の重合体;無機材;フェノール系、リン系、イオウ系等の酸化防止剤;ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛等の金属石鹸類;紫外線吸収剤;光安定剤;帯電防止剤;防曇剤;着色顔料等が挙げられる。これらの添加剤の総添加量は、ポリオレフィン樹脂100質量部に対して、20質量部以下であることがシャットダウン性能等を向上させる観点から好ましく、より好ましくは10質量部以下、更に好ましくは5質量部以下である。
【0019】
多孔基材層(A)は、非常に小さな孔が多数集まって緻密な連通孔を形成した多孔構造を有しているため、イオン伝導性に非常に優れると同時に耐電圧特性も良好であり、しかも高強度であるという特徴を有する。
多孔基材層(A)は、上述した材料からなる単層膜であってもよく、積層膜であってもよい。
【0020】
多孔基材層(A)の膜厚は、0.1μm以上100μm以下が好ましく、より好ましくは1μm以上50μm以下、更に好ましくは3μm以上25μm以下である。機械的強度の観点から0.1μm以上が好ましく、電池の高容量化の観点から100μm以下が好ましい。多孔基材層(A)の膜厚は、ダイリップ間隔、延伸工程における延伸倍率等を制御すること等によって調整することができる。
【0021】
多孔基材層(A)の平均孔径は、0.03μm以上0.70μm以下が好ましく、より好ましくは0.04μm以上0.20μm以下、更に好ましくは0.05μm以上0.10μm以下、特に好ましくは0.06μm以上0.09μm以下である。高いイオン伝導性と耐電圧の観点から、0.03μm以上0.70μm以下が好ましい。多孔基材層(A)の平均孔径は、後述する測定法で測定することができる。
平均孔径は、組成比、押出シートの冷却速度、延伸温度、延伸倍率、熱固定温度、熱固定時の延伸倍率、熱固定時の緩和率を制御することや、これらを組み合わせることにより調整することができる。
【0022】
多孔基材層(A)の気孔率は、好ましくは25%以上95%以下、より好ましく30%以上65%以下、更に好ましくは35%以上55%以下である。イオン伝導性向上の観点から25%以上が好ましく、耐電圧特性の観点から95%以下が好ましい。多孔基材層(A)の気孔率は、後述する方法で測定することができる。
多孔基材層(A)の気孔率は、これがポリオレフィン樹脂多孔基材膜である場合には、ポリオレフィン樹脂組成物と可塑剤の混合比率、延伸温度、延伸倍率、熱固定温度、熱固定時の延伸倍率、熱固定時の緩和率を制御することや、これらを組み合わせることによって調整することができる。
【0023】
多孔基材層(A)がポリオレフィン樹脂多孔基材膜である場合、該ポリオレフィン樹脂多孔基材膜の粘度平均分子量は、30,000以上12,000,000以下であることが好ましく、より好ましくは50,000以上2,000,000未満、更に好ましくは100,000以上1,000,000未満である。粘度平均分子量が30,000以上であると、溶融成形の際のメルトテンションが大きくなり成形性が良好になると共に、重合体同士の絡み合いにより高強度となる傾向にあるため好ましい。一方、粘度平均分子量が12,000,000以下であると、均一に溶融混練をすることが容易となり、シートの成形性、特に厚み安定性に優れる傾向にあるため好ましい。更に、電池用セパレータとした時に、粘度平均分子量が1,000,000未満であると、温度上昇時に孔を閉塞しやすく良好なシャットダウン機能が得られる傾向にあるため好ましい。ポリオレフィン樹脂多孔基材膜の粘度平均分子量は、後述する方法で測定することができる。
【0024】
多孔基材層(A)としてポリオレフィン樹脂多孔基材膜を製造する方法としては特に制限はなく、公知の製造方法を採用することができる。例えば;
(1)ポリオレフィン樹脂組成物と孔形成材とを溶融混練してシート状に成形後、必要に応じて延伸した後、孔形成材を抽出することにより多孔化させる方法、
(2)ポリオレフィン樹脂組成物を溶融混練して高ドロー比で押出した後、熱処理と延伸によってポリオレフィン結晶界面を剥離させることにより多孔化させる方法、
(3)ポリオレフィン樹脂組成物と無機充填材とを溶融混練してシート上に成形した後、延伸によってポリオレフィン樹脂組成物と無機充填材との界面を剥離させることにより多孔化させる方法、
(4)ポリオレフィン樹脂組成物を溶解後、ポリオレフィンに対する貧溶媒に浸漬させてポリオレフィンを凝固させると同時に溶剤を除去することにより多孔化させる方法
等が挙げられる。
【0025】
以下、ポリオレフィン樹脂多孔基材膜を製造する方法の一例として、ポリオレフィン樹脂組成物と孔形成材とを溶融混練してシート状に成形後、孔形成材を抽出する方法について説明する。
【0026】
まず、ポリオレフィン樹脂組成物と上記の孔形成材を溶融混練する。溶融混練方法としては、例えば、ポリオレフィン樹脂及び必要によりその他の添加剤を押出機、ニーダー、ラボプラストミル、混練ロール、バンバリーミキサー等の樹脂混練装置に投入することで、樹脂成分を加熱溶融させながら任意の比率で孔形成材を導入して混練する方法が挙げられる。
【0027】
上記孔形成材としては、可塑剤、無機材又はそれらの組み合わせを挙げることができる。
【0028】
可塑剤としては、特に限定されないが、ポリオレフィンの融点以上において均一溶液を形成しうる不揮発性溶媒を用いることが好ましい。このような不揮発性溶媒の具体例としては、例えば、流動パラフィン、パラフィンワックス等の炭化水素類;フタル酸ジオクチル、フタル酸ジブチル等のエステル類;オレイルアルコール、ステアリルアルコール等の高級アルコール等が挙げられる。なお、これらの可塑剤は、抽出後、蒸留等の操作により回収して再利用してよい。更に、好ましくは、樹脂混練装置に投入する前に、ポリオレフィン樹脂、その他の添加剤及び可塑剤を、予めヘンシェルミキサー等を用いて所定の割合で事前混練しておく。より好ましくは、事前混練においては、可塑剤はその一部のみを投入し、残りの可塑剤は、樹脂混練装置に適宜加温しサイドフィードしながら混練する。このような混練方法を用いることにより、可塑剤の分散性が高まり、後の工程で樹脂組成物と可塑剤の溶融混練物のシート状成形体を延伸する際に、破膜することなく高倍率で延伸することができる傾向にある。
【0029】
可塑剤の中でも、流動パラフィンは、ポリオレフィン樹脂がポリエチレンやポリプロピレンの場合には、これらとの相溶性が高く、溶融混練物を延伸しても樹脂と可塑剤の界面剥離が起こりにくく、均一な延伸が実施し易くなる傾向にあるため好ましい。
【0030】
ポリオレフィン樹脂組成物と可塑剤の比率は、これらを均一に溶融混練して、シート状に成形できる範囲であれば特に限定はない。例えば、ポリオレフィン樹脂組成物と可塑剤とからなる組成物中に占める可塑剤の質量分率は、好ましくは20〜90質量%、より好ましくは30〜80質量%である。可塑剤の質量分率が90質量%以下であると、溶融成形時のメルトテンションが成形性向上のために十分なものとなる傾向にある。一方、可塑剤の質量分率が20質量%以上であると、ポリオレフィン樹脂組成物と可塑剤との混合物を高倍率で延伸した場合でもポリオレフィン分子鎖の切断が起こらず、均一かつ微細な孔構造を形成し易く、強度も増加し易い。
【0031】
無機材としては、特に限定されず、例えば、アルミナ、シリカ(珪素酸化物)、チタニア、ジルコニア、マグネシア、セリア、イットリア、酸化亜鉛、酸化鉄等の酸化物系セラミックス;窒化ケイ素、窒化チタン、窒化ホウ素等の窒化物系セラミックス;シリコンカーバイド、炭酸カルシウム、硫酸アルミニウム、水酸化アルミニウム、チタン酸カリウム、タルク、カオリンクレー、カオリナイト、ハロイサイト、パイロフィライト、モンモリロナイト、セリサイト、マイカ、アメサイト、ベントナイト、アスベスト、ゼオライト、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ藻土、ケイ砂等のセラミックス;ガラス繊維が挙げられる。これらは1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いられる。これらの中でも、電気化学的安定性の観点から、シリカ、アルミナ、チタニアが好ましく、抽出が容易である点から、シリカが特に好ましい。
【0032】
ポリオレフィン樹脂組成物と無機材との比率は、良好な隔離性を得る観点から、これらの合計質量に対して5質量%以上であることが好ましく、10質量%以上であることがより好ましく、高い強度を確保する観点から、99質量%以下であることが好ましく、95質量%以下であることがより好ましい。
【0033】
次に、溶融混練物をシート状に成形する。シート状成形体を製造する方法としては、例えば、溶融混練物を、Tダイ等を介してシート状に押出し、熱伝導体に接触させて樹脂成分の結晶化温度より充分に低い温度まで冷却して固化する方法が挙げられる。冷却固化に用いられる熱伝導体としては、金属、水、空気、或いは可塑剤等が挙げられる。これらの中でも、熱伝導の効率が高いため、金属製のロールを用いることが好ましい。また、押出した混練物を金属製のロールに接触させる際に、ロール間で挟み込むことは、熱伝導の効率が更に高まると共に、シートが配向して膜強度が増し、シートの表面平滑性も向上する傾向にあるためより好ましい。溶融混練物をTダイからシート状に押出す際のダイリップ間隔は200μm以上3,000μm以下であることが好ましく、500μm以上2,500μm以下であることがより好ましい。ダイリップ間隔が200μm以上であると、メヤニ等が低減され、スジや欠点等膜品位への影響が少なく、その後の延伸工程において膜破断等のリスクを低減することができる。一方、ダイリップ間隔が3,000μm以下であると、冷却速度が速く冷却ムラを防げると共に、シートの厚み安定性を維持できる。
【0034】
また、シート状成形体を圧延してもよい。圧延は、例えば、ダブルベルトプレス機等を使用したプレス法にて実施することができる。圧延を施すことにより、特に表層部分の配向を増すことができる。圧延面倍率は1倍を超えて3倍以下であることが好ましく、1倍を超えて2倍以下であることがより好ましい。圧延倍率が1倍を超えると、面配向が増加し最終的に得られる多孔基材層(A)の膜強度が増加する傾向にある。一方、圧延倍率が3倍以下であると、表層部分と中心内部の配向差が小さく、膜の厚み方向に均一な多孔構造を形成することができる傾向にある。
【0035】
次いで、シート状成形体から孔形成材を除去して多孔基材層(A)とする。孔形成材を除去する方法としては、例えば、抽出溶剤にシート状成形体を浸漬して孔形成材を抽出し、充分に乾燥させる方法が挙げられる。孔形成材を抽出する方法はバッチ式、連続式のいずれであってもよい。多孔基材層(A)の収縮を抑えるために、浸漬、乾燥の一連の工程中にシート状成形体の端部を拘束することが好ましい。また、多孔基材層(A)中の孔形成材残存量は多孔基材層(A)全体の質量に対して1質量%未満にすることが好ましい。
【0036】
孔形成材を抽出する際に用いられる抽出溶剤としては、多孔基材層(A)がポリオレフィン樹脂である場合、ポリオレフィン樹脂に対して貧溶媒で、かつ孔形成材に対して良溶媒であり、沸点がポリオレフィン樹脂の融点より低いものを用いることが好ましい。このような抽出溶剤としては、例えば、n−ヘキサン、シクロヘキサン等の炭化水素類;塩化メチレン、1,1,1−トリクロロエタン等のハロゲン化炭化水素類;ハイドロフルオロエーテル、ハイドロフルオロカーボン等の非塩素系ハロゲン化溶剤;エタノール、イソプロパノール等のアルコール類;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類が挙げられる。なお、これらの抽出溶剤は、蒸留等の操作により回収して再利用してよい。また、孔形成材として無機材を用いる場合には、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の水溶液を抽出溶剤として用いることができる。
【0037】
また、上記シート状成形体又は多孔基材層(A)を延伸することが好ましい。延伸は前記シート状成形体から孔形成材を抽出する前に行ってもよい。また、前記シート状成形体から孔形成材を抽出した多孔基材層(A)に対して行ってもよい。更に、前記シート状成形体から孔形成材を抽出する前と後に行ってもよい。
延伸処理としては、一軸延伸又は二軸延伸のいずれも好適に用いることができるが、得られる多孔基材層(A)の強度等を向上させる観点から二軸延伸が好ましい。シート状成形体を二軸方向に高倍率延伸すると、分子が面方向に配向し、最終的に得られる多孔基材層(A)が裂けにくくなり、高い突刺強度を有するものとなる。延伸方法としては、例えば、同時二軸延伸、逐次二軸延伸、多段延伸、多数回延伸等の方法を挙げることができる。突刺強度の向上、延伸の均一性、シャットダウン性の観点からは同時二軸延伸が好ましい。また面配向の制御容易性の観点からは遂次二軸延伸が好ましい。
【0038】
ここで、同時二軸延伸とは、MD(多孔膜連続成形の機械方向)の延伸とTD(多孔膜のMDを90°の角度で横切る方向)の延伸が同時に施される延伸方法をいい、各方向の延伸倍率は異なってもよい。逐次二軸延伸とは、MD及びTDの延伸が独立して施される延伸方法をいい、MD又はTDに延伸がなされているときは、他方向は非拘束状態又は定長に固定されている状態とする。
【0039】
延伸倍率は、面倍率で20倍以上100倍以下の範囲であることが好ましく、25倍以上70倍以下の範囲であることがより好ましい。各軸方向の延伸倍率は、MDに4倍以上10倍以下、TDに4倍以上10倍以下の範囲であることが好ましく、MDに5倍以上8倍以下、TDに5倍以上8倍以下の範囲であることがより好ましい。総面積倍率が20倍以上であると、得られる多孔基材層(A)に十分な強度を付与できる傾向にあり、一方、総面積倍率が100倍以下であると、延伸工程における膜破断を防ぎ、高い生産性が得られる傾向にある。
【0040】
多孔基材層(A)の収縮を抑制するために、延伸工程後、又は、多孔基材層(A)を成形後に熱固定を目的として熱処理を行うこともできる。また、多孔基材層(A)に、界面活性剤等による親水化処理、電離性放射線等による架橋処理等の後処理を行ってもよい。
【0041】
多孔基材層(A)には、収縮を抑制する観点から熱固定を目的として熱処理を施すことが好ましい。熱処理の方法としては、物性の調整を目的として、所定の温度雰囲気及び所定の延伸率で行う延伸操作、及び/又は、延伸応力低減を目的として、所定の温度雰囲気及び所定の緩和率で行う緩和操作が挙げられる。延伸操作を行った後に緩和操作を行っても構わない。これらの熱処理は、テンターやロール延伸機を用いて行うことができる。
【0042】
延伸操作は、膜のMD及び/又はTDに1.1倍以上、より好ましくは1.2倍以上の延伸を施すことが、更なる高強度かつ高気孔率な多孔基材層(A)が得られる観点から好ましい。
緩和操作は、膜のMD及び/又はTDへの縮小操作のことである。緩和率とは、緩和操作後の膜の寸法を緩和操作前の膜の寸法で除した値のことである。なお、MD、TD双方を緩和した場合は、MDの緩和率とTDの緩和率を乗じた値のことである。緩和率は、1.0以下であることが好ましく、0.97以下であることがより好ましく、0.95以下であることが更に好ましい。緩和率は膜品位の観点から0.5以上であることが好ましい。緩和操作は、MD、TD両方向で行ってもよいが、MD或いはTD片方だけ行ってもよい。
この可塑剤抽出後の延伸及び緩和操作は、好ましくはTDに行う。延伸及び緩和操作における温度は、ポリオレフィン樹脂の融点(以下、「Tm」ともいう。)より低いことが好ましく、Tmより1℃から25℃低い範囲がより好ましい。延伸及び緩和操作における温度が上記範囲であると、熱収縮率低減と気孔率とのバランスの観点から好ましい。
【0043】
<多孔層(B)>
樹脂バインダー(b−1)及び無機充填材(b−2)を含む多孔層(B)について説明する。
前記多孔層(B)に使用する無機充填材(b−2)としては、特に限定されないが、耐熱性及び電気絶縁性が高く、かつリチウムイオン二次電池の使用範囲で電気化学的に安定であるものが好ましい。
無機充填材(b−2)としては、例えば、アルミニウム化合物、マグネシウム化合物、その他化合物が挙げられる。
【0044】
アルミニウム化合物としては、酸化アルミニウム、ケイ酸アルミニウム、水酸化アルミニウム、水酸化酸化アルミニウム、アルミン酸ソーダ、硫酸アルミニウム、リン酸アルミニウム、ハイドロタルサイト等が挙げられる。
マグネシウム化合物としては、硫酸マグネシウム、水酸化マグネシウム等が挙げられる。
その他化合物としては、酸化物系セラミックス、窒化物系セラミックス、粘土鉱物、シリコンカーバイド、炭酸カルシウム、チタン酸バリウム、アスベスト、ゼオライト、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ藻土、ケイ砂、ガラス繊維等が挙げられる。酸化物系セラミックスとしては、シリカ、チタニア、ジルコニア、マグネシア、セリア、イットリア、酸化亜鉛、酸化鉄等が挙げられる。窒化物系セラミックスとしては、窒化ケイ素、窒化チタン、窒化ホウ素等が挙げられる。粘土鉱物としては、タルク、モンモリロナイト、セリサイト、マイカ、アメサイト、ベントナイト等が挙げられる。
これらは単独で用いても良いし、複数を併用してもよい。
【0045】
上記の中でも、電気化学的安定性及び耐熱特性の観点から、酸化アルミニウム、水酸化酸化アルミニウム、ケイ酸アルミニウムが好ましい。酸化アルミニウムの具体例としては、アルミナが挙げられる。水酸化酸化アルミニウムの具体例としては、ベーマイトが挙げられる。ケイ酸アルミニウムの具体例としては、カオリナイト、ディカイト、ナクライト、ハロイサイト、パイロフィライトが挙げられる。
【0046】
前記酸化アルミニウムとしては、電気化学的安定性の観点から、アルミナがより好ましい。多孔層(B)を構成する無機充填材(b−2)として、アルミナを主成分とする粒子を採用することで、高い透過性を維持しながら、非常に軽量な多孔層を実現できる上に、より薄い多孔層厚でもセパレータの高温での熱収縮が抑制され、優れた耐熱性を発現する傾向にある。アルミナには、α−アルミナ、β−アルミナ、γ−アルミナ、θ−アルミナ等、多くの結晶形態が存在するが、いずれも好適に使用することができる。この中でα−アルミナが熱的・化学的にも安定なので最も好ましい。
【0047】
前記水酸化酸化アルミニウムとしては、リチウムデンドライトの発生に起因する内部短絡を防止する観点から、ベーマイトがより好ましい。多孔層(B)を構成する無機充填材(b−2)として、ベーマイトを主成分とする粒子を採用することで、高い透過性を維持しながら、非常に軽量な多孔層を実現できる上に、より薄い多孔層厚でも多孔膜の高温での熱収縮が抑制され、優れた耐熱性を発現する傾向にある。電気化学素子の特性に悪影響を与えるイオン性の不純物を低減できる合成ベーマイトが更に好ましい。
【0048】
前記ケイ酸アルミニウムの中では、カオリン鉱物で主に構成されているカオリナイト(以下、カオリンともいう)が軽量性及び透気度の観点から好ましい。カオリンには湿式カオリン及びこれを焼成処理した焼成カオリンがあるが、焼成カオリンは焼成処理の際に、結晶水が放出されるのに加え、不純物が除去されるので、電気化学的安定性の点で特に好ましい。多孔層(B)を構成する無機充填材(b−2)として、焼成カオリンを主成分とする粒子を採用することにより、高い透過性を維持しながら非常に軽量な多孔層(B)を実現できるうえに、多孔層(B)の厚みがより薄い場合であっても、多孔基材層(A)の高温での熱収縮が抑制され、優れた耐熱性を発現する傾向にある。
【0049】
前記無機充填材(b−2)の平均粒径は、0.1μm以上10.0μm以下であることが好ましく、0.2μm以上5.0μm以下であることがより好ましく、0.4μm以上3.0μm以下であることが更に好ましく、0.6μm以上1.5μm以下であることが最も好ましい。無機充填材(b−2)の平均粒径を上記範囲に調整することは、透気度及び高温での熱収縮を抑制する観点から好ましい。
【0050】
無機充填材(b−2)の粒度分布としては、最小粒径は0.02μm以上であることが好ましく、0.05μm以上がより好ましく、0.1μm以上が更に好ましい。最大粒径は20μm以下が好ましく、10μm以下がより好ましく、7μm以下が更に好ましい。また、最大粒径/平均粒径の比率は、50以下が好ましく、30以下がより好ましく、20以下が更に好ましい。無機充填材(b−2)の粒度分布を上記範囲に調整することは、高温での熱収縮を抑制する観点から好ましい。また、最大粒径と最小粒径の間に複数の粒径ピークを有してもよい。なお、無機充填材(b−2)の粒度分布を調整する方法としては、例えば、ボールミル・ビーズミル・ジェットミル等を用いて無機充填材(b−2)を粉砕し、所望の粒度分布に調整する方法、複数の粒径分布の無機充填材(b−2)を調整後ブレンドする方法等を挙げることができる。
【0051】
無機充填材(b−2)の形状としては、板状、鱗片状、多面体、針状、柱状、球状、紡錘状、塊状等が挙げられ、上記形状を有する無機充填材(b−2)を複数種組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、透過性向上の観点からは、板状、鱗片状、多面体が好ましい。
【0052】
前記無機充填材(b−2)が前記多孔層(B)中に占める割合としては、セパレータの透過性及び耐熱性、並びに多孔層(B)中に無機充填材(b−2)を結着させる樹脂バインダー(b−1)の必要量等の観点から、適宜決定することができる。上記無機充填材(b−2)の割合は、セパレータの透過性及び耐熱性の観点から、70質量%以上であることが好ましく、より好ましくは80質量%以上、更に好ましくは90質量%以上、特に好ましくは93質量%以上、最も好ましくは96質量%以上である。また、また多孔層(B)中に無機充填材(b−2)を結着させる樹脂バインダー(b−1)の必要量の観点から、無機充填材(b−2)の割合は、100質量%未満であることが好ましく、より好ましくは99.5質量%以下、更に好ましくは99質量%以下、特に好ましくは98質量%以下である。
【0053】
樹脂バインダー(b−1)は、前述した無機充填材(b−2)を相互に結着する役割を果たす樹脂である。また、無機充填材(b−2)と多孔基材層(A)とを相互に結着する役割を果たす樹脂であることが好ましい。
樹脂バインダー(b−1)の種類としては、セパレータとしたときにリチウムイオン二次電池の電解液に対して不溶であり、かつリチウムイオン二次電池の使用範囲で電気化学的に安定なものを用いることが好ましい。
【0054】
樹脂バインダー(b−1)の具体例としては、以下の1)〜6)が挙げられる。
1)ポリオレフィン:例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレンプロピレンラバー、及びこれらの変性体;
2)共役ジエン系重合体:例えば、スチレン−ブタジエン共重合体及びその水素化物、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体及びその水素化物、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体及びその水素化物;
3)アクリル系重合体:例えば、メタクリル酸エステル−アクリル酸エステル共重合体、スチレン−アクリル酸エステル共重合体、アクリロニトリル−アクリル酸エステル共重合体;
4)ポリビニルアルコール系樹脂:例えば、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル;
5)含フッ素樹脂:例えば、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン共重合体、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体;
6)融点及び/又はガラス転移温度が180℃以上の樹脂あるいは融点を有しないが分解温度が200℃以上のポリマー:例えば、ポリフェニレンエーテル、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミド、ポリアミド、ポリエステル。特に、耐久性の観点から全芳香族ポリアミド、中でもポリメタフェニレンイソフタルアミドが好適である。
中でも、電極とのなじみやすさの観点からは上記2)共役ジエン系重合体が好ましく、耐電圧性の観点からは上記3)アクリル系重合体及び5)含フッ素樹脂が好ましい。
【0055】
上記2)共役ジエン系重合体は、共役ジエン化合物を単量体単位として含む重合体である。
上記共役ジエン化合物としては、例えば、1,3−ブタジエン、2−メチル−1,3−ブタジエン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、2−クロル−1,3−ブタジエン、置換直鎖共役ペンタジエン類、置換及び側鎖共役ヘキサジエン類等が挙げられ、これらは1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。中でも、特に1,3−ブタジエンが好ましい。
【0056】
上記3)アクリル系重合体は、(メタ)アクリル系化合物を単量体単位として含む重合体である。上記(メタ)アクリル系化合物とは、(メタ)アクリル酸及び(メタ)アクリル酸エステルからなる群から選ばれる少なくとも一つを示す。
上記3)アクリル系重合体に用いられる(メタ)アクリル酸としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸を挙げることができる。
上記3)アクリル系重合体に用いられる(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、
(メタ)アクリル酸アルキルエステルとして、例えば、メチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、エチルメタクリレート、ブチルアクリレート、ブチルメタクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、2−エチルヘキシルアメタクリレート、フェニルアクリレート、フェニルメタクリレート、シクロヘキシルアクリレート、シクロヘキシルメタクリレート等が;
エポキシ基含有(メタ)アクリル酸エステルとして、例えば、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート等が
それぞれ、挙げられる。これらは1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0057】
上記2)共役ジエン系重合体及び3)アクリル系重合体は、これらと共重合可能な他の単量体をも共重合させて得られるものであってもよい。用いられる共重合可能な他の単量体としては、例えば、不飽和カルボン酸アルキルエステル、芳香族ビニル系単量体、シアン化ビニル系単量体、ヒドロキシアルキル基を含有する不飽和単量体、不飽和カルボン酸アミド単量体、クロトン酸、マレイン酸、マレイン酸無水物、フマル酸、イタコン酸等が挙げられ、これらは1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。上記の中でも、特に不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体が好ましい。不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体としては、ジメチルフマレート、ジエチルフマレート、ジメチルマレエート、ジエチルマレエート、ジメチルイタコネート、モノメチルフマレート、モノエチルフマレート等が挙げられ、これらは1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0058】
なお、上記2)共役ジエン系重合体は、他の単量体として上記(メタ)アクリル系化合物を共重合させて得られるものであってもよい。
【0059】
本実施形態のセパレータにおける多孔層(B)中に含有される樹脂バインダー(b−1)は、
フッ素系結晶性樹脂バインダー(b−1−1)と、
非晶性樹脂バインダー(b−1−2)と、
を含んでいる。
【0060】
このような複数種の樹脂バインダー(b−1)を用いることにより、これらの樹脂バインダー(b−1)及び無機充填材(b−2)を含有する塗工液を、多孔基材層(A)上に塗工して、乾燥により不動化・固化して多孔層(B)が形成される際に、樹脂バインダー(b−1)のマイグレーションが起こる。そのため、形成される多孔層(B)において、多孔基材層(A)側と多孔層(B)表面側とで樹脂バインダー(b−1)の機能を異ならせることが可能となるため、好ましい。
【0061】
ここで、マイグレーションとは、多孔基材層(A)上への塗工液の塗工・不動化・乾
燥過程によって多孔層(B)を形成する工程において、溶剤(例えば水)の蒸発・多孔層(B)の乾燥により、塗膜中の樹脂バインダー(b−1)が多孔層(B)中の外表面側へ移動する現象である。
【0062】
本実施形態においては、前記マイグレーションによって、水接触角が大きいフッ素系結晶性樹脂バインダー(b−1−1)は水を撥水しやすいため、塗工膜の外表面方向へとマイグレーションし易く、水接触角が小さい非晶性樹脂バインダー(b−1−2)は、水を撥水し難いため、マイグレーションし難い。従って、本実施形態の好ましい態様においては、多孔層(B)の外表面近傍の領域ではフッ素系結晶性樹脂バインダー(b−1−1)の特性が色濃く現れ、逆に多孔基材層(A)との界面近傍の領域では非晶性樹脂性バインダー(b−1−2)の特性が色濃く現れることとなる。
【0063】
前記フッ素系結晶性樹脂バインダー(b−1−1)は、示差走査熱量計(DSC)によって測定される溶融温度が、100℃以上であることが好ましく、120〜330℃であることがより好ましく、150℃〜250℃であることがさらに好ましい。この溶融温度は、DSCにおける溶融吸熱ピークのピークトップ温度を意味する。溶融吸熱ピークが複数ある場合には、そのうちの最大の吸熱量を示すピークのピークトップが溶融温度である。
【0064】
一方の前記非晶性樹脂バインダー(b−1−2)は、DSCによって測定されるガラス転移温度(Tg)が、好ましくは30℃未満であり、より好ましくは5℃以下であり、更に好ましくは−10℃以下である。樹脂バインダー(b−1−2)のガラス転移温度が30℃未満の場合、無機充填材(b−2)との結着性、及び多孔基材層(A)との接着強度、電極との密着性の観点から好ましい。
【0065】
フッ素系結晶性樹脂バインダー(b−1−1)と非晶性樹脂バインダー(b−1−2)とは、完全相溶性を有しないことが好ましい。これら2種の樹脂バインダーが完全相溶性を示さないことにより、性質の異なるバインダーが分離して存在し、それぞれの特性を示すこととなる。そのため、電極との密着性と、セパレータ最表面のべたつき性及びハンドリング性とを、高いレベルで両立することができる。ここで、2種類の樹脂が完全相溶性を有すると、性質の異なるバインダーが1種類のポリマーであるかのような挙動をすることとなる。その結果、相溶後に示す、混合物の総体としての水接触角及びガラス転移温度に依存して、電極との密着性、並びにセパレータ最表面のべたつき性及びハンドリング性において、平均化された性能を示すに留まることとなるため、好ましくない。
【0066】
前記フッ素系結晶性樹脂バインダー(b−1−1)と前記非晶性樹脂バインダー(b−1−2)とは、水接触角においても相違することが好ましい。フッ素系結晶性樹脂バインダー(b−1−1)と非晶性樹脂バインダー(b−1−2)との水接触角差は、10度以上であることが好ましく、10〜40度であることがより好ましい。
ここで、逐電デバイスとした時に、多孔層(B)の外表面は、電解液と直接接し、導電性イオンのやり取りに伴う酸化還元環境にさらされる。従って、該領域は高度の耐酸化性を有すべき要請から、高い撥水性を示す必要があるから、水接触角が高い方が好ましい。一方、多孔層(B)のうちの多孔基材層(A)との界面近傍の領域では、多孔基材層(A)との接着性を高くして粉落ち防止性能を高めるべき要請から、水接触角が低い方が好ましい。
【0067】
そして前記したとおり、
多孔層(B)の外表面近傍の領域ではフッ素系結晶性樹脂バインダー(b−1−1)の特性が色濃く現れ、
多孔基材層(A)との界面近傍の領域では非晶性樹脂バインダー(b−1−2)の特性が色濃く現れる。
【0068】
従って、より具体的には、
前記フッ素系結晶性樹脂バインダー(b−1−1)の水接触角が80度以上であり、そして前記非晶性樹脂バインダー(b−1−2)の水接触角が70度以下であることが好ましい。フッ素系結晶性樹脂バインダー(b−1−1)の水接触角は、75〜115度であることが;
非晶性樹脂バインダー(b−1−2)の水接触角は30〜75度であることが、
それぞれより好ましい。
ここで、フッ素系結晶性樹脂バインダー(b−1−1)及び非晶性樹脂バインダー(b−1−2)の水接触角とは、それぞれの樹脂バインダーを個別に成膜した時の水接触角をいう。このときの測定膜厚は、測定精度の確保と成膜の容易性との兼ね合いから、0.1〜5mmとすることが好ましく、例えば1mm程度とすることができる。
【0069】
上記のようなフッ素系結晶性樹脂バインダー(b−1−1)及び非晶性樹脂バインダー(b−1−2)として具体的には、例えば、以下のような例を、それぞれ好ましい態様として挙げることができる。
フッ素系結晶性樹脂バインダー(b−1−1):前記の5)含フッ素樹脂
非晶性樹脂バインダー(b−1−2):前記の2)共役ジエン系重合体及び3)アクリル系重合体から成る群より選択される1種以上である。
【0070】
フッ素系結晶性樹脂バインダー(b−1−1)として、好ましくは、フッ素原子含有モノマーの重合体又は共重合体である。前記フッ素原子含有モノマーとしては、例えばフッ化ビニリデン、フッ化ビニル、テトラフルオ口エチレン、卜リフルオ口ク口口エチレン、ヘキサフルオ口プ口ピレン、ヘキサフルオ口イソブチレン、パーフルオ口アクリル酸、パーフルオ口メタクリル酸、アクリル酸又はメタクリル酸のフルオ口アルキルエステル等を挙げることができ、特に好ましくはフッ化ビニリデン及びテトラフルオロエチレンから成る群より選択される1種以上である。
フッ素系結晶性樹脂バインダー(b−1−1)が、フッ素原子含有モノマーの共重合体である場合、共重合モノマーとしては、例えばメタクリル酸メチル、アクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸2−エチルへキシル、アクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸フェニル、アクリル酸フェニル、メタクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸、メタクリル酸、シクロヘキシルビニルエーテル、ヒドロキシエチルビニルエーテル、ブタジエン、イソプレン、クロロプレン、等を挙げることができる。
フッ素系結晶性樹脂バインダー(b−1−1)のフッ素原子含有モノマーの共重合体割合は、好ましくは30質量%以上であり、より好ましくは50質量%以上であり、さらに好ましくは80質量%以上であり、特に好ましくは100質量%である。
【0071】
非晶性樹脂バインダー(b−1−2)として、好ましくは官能基含有モノマー、官能基非含有かつ非架橋性モノマー、及び架橋性モノマー、から成る共重合体である。
これらの具体例としては、
官能基含有モノマーとして、例えばアクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、フタル酸、フマル酸、マレイン酸等のカルボキシル基含有モノマー;
グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、アリルグリシジルエーテル、メチルグリシジルアクリレート、メチルグリシジルメタクリレート等のエポキシ基含有モノマー;
アクリルアミド、メタクリル酸アミド等のアミド基含有モノマー
等が、
【0072】
官能基非含有かつ非架橋性モノマーとして、例えばメチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、イソプロピルアクリレート、ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、t−ブチルアクリレート、n−ヘキシルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、ラウリルアクリレート、ベンジルアクリレート、フェニルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、イソプロピルアクリレート、ブチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、t−ブチルメタクリレート、n−ヘキシルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、ラウリルメタクリレート、ベンジルメタクリレート、フェニルメタクリレート等の(メタ)アクリル酸エステルモノマー;
アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン化ビニルモノマー;
スチレン、メチルスチレン等の芳香族ビニルモノマー;
ジメチルフマレート、ジエチルフマレート、ジメチルマレエート、ジエチルマレエート、ジメチルイタコネート、モノメチルフマレート、モノエチルフマレート等の不飽和カルボン酸アルキルエステルモノマー;
ビニルシラン、γ−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン等の加水分解性シリル基を有するビニルモノマー
等が、それぞれ挙げられる。これらの官能基含有モノマー、及び官能基非含有かつ非架橋性モノマーとしては、それぞれ、上記の例示のうちから選択される1種以上を使用することが好ましい。
架橋性モノマーとしては、ラジカル重合性の二重結合を2個以上有しているモノマー等が挙げられる。
【0073】
ラジカル重合性の二重結合を2個以上有しているモノマーの具体例としては、
ラジカル重合性の二重結合を2個有するモノマーとして、例えば、ジビニルベンゼン、ポリオキシエチレンジアクリレート、ポリオキシエチレンジメタクリレート、ポリオキシプロピレンジアクリレート、ポリオキシプロピレンジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、ブタンジオールジアクリレート、ブタンジオールジメタクリレート、1,3−ブタジエン、2−メチル−1,3−ブタジエン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、2−クロル−1,3−ブタジエン等を;
ラジカル重合性の二重結合を3個有するモノマーとして、例えば、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート等を;
ラジカル重合性の二重結合を4個有するモノマーとして、例えば、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ペンタエリスリトールテトラメタクリレート等を、
それぞれ挙げることができ、これらのうちから選択される1種以上を使用することが好ましい。
【0074】
非晶性樹脂バインダー(b−1−2)について、
官能基含有モノマーの、全モノマーに対する使用割合が、好ましくは0.5〜15質量%、より好ましくは1〜10質量%、更に好ましくは3〜7質量%であり;
官能基非含有かつ非架橋性モノマーの、全モノマーに対する使用割合が、好ましくは75〜99.4質量%、より好ましくは85〜98.7質量%、更に好ましくは90〜96.5質量%であり;そして
架橋性モノマーの、全モノマーに対する使用割合が、好ましくは0.1〜10質量%、より好ましくは0.3〜5質量%、更に好ましくは0.5〜3質量%である。
【0075】
樹脂バインダー(b−1)が前記多孔層(B)中に占める割合は、1〜30質量%であることが好ましく、1.5〜20質量%であることがより好ましく、更に好ましくは2〜10質量%である。
フッ素系結晶性樹脂バインダー(b−1−1)が樹脂バインダー(b−1)中に占める割合{(b−1−1)/(b−1)}は、5〜95質量%であることが好ましく、15〜75質量%であることがより好ましく、更に好ましくは25〜50質量%である。
【0076】
多孔層(B)中のフッ素系結晶性樹脂バインダー(b−1−1)の存在位置は、外表面から0〜50%の厚み範囲に存在するフッ素系結晶性樹脂バインダー(b−1−1)がフッ素系結晶性樹脂バインダー(b−1−1)の全量に対して占める割合として、好ましくは60質量%以上、より好ましくは65質量%以上、更に好ましくは70質量%以上、最も好ましくは75質量%以上である。外表面から0〜50%の厚み範囲に60質量%以上のフッ素系結晶性樹脂バインダー(b−1−1)が存在することは、セパレータ最表面のべたつき性及びハンドリング性の観点から好ましい。
【0077】
多孔層(B)中の非晶性樹脂バインダー(b−1−2)の存在位置は、外表面から50%〜100%の厚み範囲に存在する非晶性樹脂バインダー(b−1−2)が非晶性樹脂バインダー(b−1−2)の全量に対して占める割合として、好ましくは55質量%以上100質量%未満、より好ましくは65質量%以上98質量%未満、更に好ましくは70質量%以上95質量%以下、最も好ましくは75質量%以上90質量%以下である。表面から50%〜100%の厚み範囲に存在する非晶性樹脂バインダー(b−1−2)が55質量%以上100%未満であることが、電極との密着性と多孔基材層との接着性の観点から好ましい。
【0078】
多孔層(B)の層厚は、耐熱性、絶縁性を向上させる観点から1μm以上であることが好ましく、より好ましくは1.0μm以上、更に好ましくは1.2μm以上、特に好ましくは1.5μm以上、とりわけ好ましくは1.8μm以上、最も好ましくは2.0μm以上である。また、電池の高容量化と透過性を向上させる観点から50μm以下であることが好ましく、より好ましくは20μm以下、更に好ましくは10μm以下、特に好ましくは7μm以下である。
【0079】
多孔層(B)における無機充填材(b−2)の充填率としては、軽量性及び高透過性の観点から、95体積%以下が好ましく、80体積%以下がより好ましく、70体積%以下が更に好ましく、60体積%以下が特に好ましい。熱収縮抑制及びデンドライト抑制の観点から、下限は20体積%以上が好ましく、30体積%以上がより好ましく、40体積%以上が更に好ましい。無機充填材(b−2)の充填率は、多孔層(B)の層厚、並びに無機充填材(b−2)の質量及び比重から算出することができる。
【0080】
多孔層(B)の表面軟化温度は、30〜60℃であり、好ましくは30〜50℃であり、より好ましくは30〜45℃であり、さらに好ましくは35〜45℃である。表面軟化温度が30℃以上の場合、製造時にセパレータをロール状に巻いた後、電極との圧着時にセパレータを巻出そうとした時に、セパレータ同志の密着がなく、シワなくセパレータの巻き出すことができる点で好ましく、60℃以下の場合、電極とセパレータとを高温プレス機を用いて圧着させる際に、セパレータを構成する多孔基材層(A)が一般的に使用されるポリオレフィン樹脂のガラス転移温度は高くないが、圧着後に得られる積層体にはシワが発生しない点で好ましい。
【0081】
多孔層(B)は、多孔基材層(A)の片面にのみ形成しても、両面に形成してもよい。
【0082】
多孔層(B)の形成方法としては、例えば、多孔基材層(A)の少なくとも片面に、無機充填材(b−2)と樹脂バインダー(b−1)とを、所定量で含む塗工液を塗工して多孔層(B)を形成する方法を挙げることができる。
【0083】
塗工液中の樹脂バインダー(b−1)の形態としては、水に溶解又は分散した水系溶液であっても、一般的な有機媒体に溶解又は分散した有機媒体系溶液であってもよいが、樹脂ラテックスが好ましい。「樹脂ラテックス」とは樹脂が媒体に分散した状態のものを示す。樹脂ラテックスを樹脂バインダー(b−1)として用いた場合、無機充填材(b−2)と樹脂バインダー(b−1)とを含む多孔層(B)を多孔基材層(A)の少なくとも片面に積層した際、イオン透過性が低下しにくく高出力特性が得られやすい。加えて異常発熱時の温度上昇が速い場合においても、円滑なシャットダウン特性を示し、高い安全性が得られやすい。
【0084】
樹脂バインダー(b−1)ラテックスの平均粒径は、50〜1,000nmであることが好ましく、より好ましくは60〜500nm、更に好ましくは80〜250nmである。平均粒径が50nm以上である場合、無機充填材(b−2)と樹脂バインダー(b−1)とを含む多孔層(B)を多孔基材層(A)膜の少なくとも片面に積層した際、良好な結着性を発現し、セパレータとした場合に熱収縮が良好となり安全性に優れる傾向にある。平均粒径が1,000nm以下である場合、イオン透過性が低下しにくく高出力特性が得られやすい。加えて異常発熱時の温度上昇が速い場合においても、円滑なシャットダウン特性を示し、高い安全性が得られやすい。平均粒径は、樹脂ラテックスバインダーを製造する際の重合時間、重合温度、原料組成比、原料投入順序、pH、撹拌速度等を調整することで制御することが可能である。
【0085】
塗工液の媒体としては、前記無機充填材(b−2)、及び前記樹脂バインダー(b−1)を均一かつ安定に分散又は溶解できるものが好ましく、例えば、N−メチルピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、水、エタノール、トルエン、熱キシレン、塩化メチレン、ヘキサン等が挙げられる。
【0086】
塗工液には、分散安定化や塗工性の向上のために、界面活性剤等の分散剤;増粘剤;湿潤剤;消泡剤;酸、アルカリを含むpH調整剤等の各種添加剤を加えてもよい。これら添加剤の総添加量は、無機充填材(b−2)100質量部に対して、その有効成分(添加剤が溶媒に溶解している場合は溶解している添加剤成分の質量)として20質量部以下が好ましく、より好ましくは10質量部以下、更に好ましくは5質量部以下である。
【0087】
無機充填材(b−2)と樹脂バインダー(b−1)とを、塗工液の媒体に分散又は溶解させる方法については、塗工工程に必要な塗工液の分散特性を実現できる方法であれば特に限定はない。例えば、ボールミル、ビーズミル、遊星ボールミル、振動ボールミル、サンドミル、コロイドミル、アトライター、ロールミル、高速インペラー分散、ディスパーザー、ホモジナイザー、高速衝撃ミル、超音波分散、撹拌羽根等による機械撹拌等が挙げられる。
【0088】
塗工液を多孔基材層(A)に塗工する方法については、必要とする層厚や塗工面積を実現できる方法であれば特に限定はなく、例えば、グラビアコーター法、小径グラビアコーター法、リバースロールコーター法、トランスファロールコーター法、キスコーター法、ディップコーター法、ナイフコーター法、エアドクタコーター法、ブレードコーター法、ロッドコーター法、スクイズコーター法、キャストコーター法、ダイコーター法、スクリーン印刷法、スプレー塗工法等が挙げられる。
【0089】
更に、塗工液の塗工に先立ち、多孔基材層(A)表面に表面処理を施すと、塗工液を塗工し易くなると共に、塗工後の多孔層(B)と多孔基材層(A)表面との接着性が向上するため好ましい。表面処理の方法は、多孔基材層(A)の多孔質構造を著しく損なわない方法であれば特に限定はなく、例えば、コロナ放電処理法、プラズマ放電処理法、機械的粗面化法、溶剤処理法、酸処理法、紫外線酸化法等が挙げられる。
【0090】
塗工後に塗工膜から媒体を除去する方法については、多孔基材層(A)に悪影響を及ぼさない方法であれば特に限定はなく、例えば、多孔基材層(A)を固定しながらその融点以下の温度にて乾燥する方法、低温で減圧乾燥する方法、抽出乾燥等が挙げられる。また電池特性に著しく影響を及ぼさない範囲においては溶媒を一部残存させても構わない。多孔基材層(A)及び多孔層(B)を積層した積層体のMD方向の収縮応力を制御する観点から、乾燥温度、巻取り張力等は適宜調整することが好ましい。
【0091】
塗工膜から媒体を除去する温度は、樹脂バインダー(b−1)のマイグレーションを適切にコントロールする観点から、20〜100℃とすることが好ましく、30〜80℃とすることがより好ましく、特に40〜70℃とすることが好ましい。除去時間は、好ましくは10秒〜30分であり、より好ましくは30秒〜20分であり、更に好ましくは40秒〜10分であり、特に1〜3分とすることが好ましい。
【0092】
多孔層(B)中の無機充填材(b−2)は、多孔層(B)中に均一に存在していることが好ましい。その指標として、多孔層(B)の{外表面から0〜50%の厚み範囲にある無機充填材量(b−2U)}/{50%を超えて100%までの厚み範囲に存在する無機充填材量(b−2D)}の比率が0.8〜1.2であることが好ましく、0.85〜1.15であることがより好ましく、0.9〜1.1であることが更に好ましい。該比率が0.8〜1.2であることにより、多孔層(B)中の孔径分布が均一になり、電池のサイクル特性の再現性が向上する。
【0093】
多孔層(B)中の無機充填材(b−2)の存在位置は、多孔層(B)の断面写真と元素マッピングとを組み合わせる手法を用いて知ることができる。前記断面写真としては、例えばSEM(走査型電子顕微鏡)像を;
前記元素マッピング法としては、例えばEDX(エネルギー分散型X線分光法)を、それぞれ採用することができる。これらの分析において、無機充填材(b−2)の主成分を構成する金属元素に着目して断面方向にマッピングすることにより、当該無機充填材(b−2)の存在位置を知ることができる。無機充填材(b−2)が例えばベーマイト又はカオリンである場合、その主成分を構成するAl(アルミニウム)元素の断面方向のマッピングにより、その存在位置を知ることができる。
【0094】
上記のようにして形成された多孔層(B)は、
水接触角が好ましくは80度以上のフッ素系結晶性樹脂バインダー(b−1−1)、及び水接触角が好ましくは70度以下の非晶性樹脂バインダー(b−1−2)の双方を含有する。そして、多孔層(B)を形成する際の樹脂バインダー(b−1)のマイグレーションにより、
多孔層(B)の外表面側(多孔基材層(A)との接触面の反対側)には、フッ素系結晶性樹脂バインダー(b−1−1)が多く存在し、
多孔層(B)の多孔基材層(A)との接触面側には、非晶性樹脂バインダー(b−1−1)が多く存在することとなる。従って、多孔層(B)の外表面における樹脂バインダー(b−1)の水接触角は、多孔層(B)の水接触角の全層領域平均値よりも大きいこととなる。
【0095】
本実施形態において、多孔層(B)表面の水接触角は、75度以上であり、75〜100度であることが好ましく、75〜90度であることがより好ましい。
一方、多孔層(B)の水接触角の全層領域平均は、60〜80度であり、62〜78度であることが好ましく、65〜75度であることがより好ましい。
【0096】
「多孔層(B)表面における水接触角」とは、形成された多孔層(B)の外表面について、現実に測定した水接触角の値をいう。
また、「多孔層(B)の水接触角の全層領域平均値」とは、形成された多孔層(B)について、厚み方向に全部の領域を掻き取り、よく混合したうえで熱プレスにより成膜して得た膜表面について測定した値である。このような手法によって成膜すると、樹脂バインダー(b−1)がマイグレーションする余地がないから、領域内の樹脂バインダー(b−1)の平均的な水接触角を知ることができる。
【0097】
次に、本発明のセパレータについて説明する。
多孔基材層(A)と、無機充填材(b−2)及び樹脂バインダー(b−1)を含む多孔層(B)とを有する上記セパレータは、耐熱性に優れ、シャットダウン機能を有しているので電池の中で正極と負極を隔離する電池用セパレータに適している。
特に、上記セパレータは高温においても短絡し難いため、高起電力電池用のセパレータとしても安全に使用できる。
本実施形態におけるセパレータは、耐酸化性が高い。
セパレータの耐酸化性は、セパレータの黒色化の程度で判断できる。黒色化は、正極における還元反応に伴うバインダーポリマーのラジカル的酸化反応に起因するポリエン化が原因とされている。そして、黒色化が生じると、多孔基材層(A)の強度劣化が引き起こされる。本実施形態におけるセパレータは、樹脂バインダー(b−1)の一部に耐酸化性の高いフッ素系結晶性樹脂バインダー(b−1−1)と使用しているため、耐酸化性が極めて高く、セパレータの黒色化が極めて抑制されている。
【0098】
上記セパレータの透気度は、10秒/100cc以上650秒/100cc以下であることが好ましく、より好ましくは20秒/100cc以上500秒/100cc以下、更に好ましくは30秒/100cc以上450秒/100cc以下、特に好ましくは50秒/100cc以上400秒/100cc以下である。透気度が10秒/100cc以上であると電池用セパレータとして使用した際の自己放電が少なくなる傾向にあり、650秒/100cc以下であると良好な充放電特性が得られる傾向にある。
【0099】
セパレータの最終的な膜厚は、2μm以上200μm以下であることが好ましく、より好ましくは5μm以上100μm以下、更に好ましくは7μm以上30μm以下である。膜厚が2μm以上であると機械強度が十分となる傾向にあり、また、200μm以下であるとセパレータの占有体積が減るため、電池の高容量化の点において有利となる傾向にある。
【0100】
以下、蓄電デバイスについて説明する。上記蓄電デバイスは、上記セパレータを備えるものであり、それ以外の構成は、従来知られているものと同様であってもよい。蓄電デバイスは、特に限定されないが、例えば、非水電解液電池等の電池、コンデンサ及びキャパシタが挙げられる。それらの中でも、本発明による作用効果による利益がより有効に得られる観点から、非水電解液電池が好ましく、非水電解液二次電池がより好ましく、リチウムイオン二次電池が更に好ましい。以下、蓄電デバイスが非水電解液電池である場合についての好適な態様について説明する。
【0101】
正極、負極、非水電解液に限定はなく、公知のものを用いることができる。
正極材料としては、例えば、LiCoO
2、LiNiO
2、スピネル型LiMnO
4、オリビン型LiFePO
4等のリチウム含有複合酸化物等が、負極材料としては、例えば、黒鉛質、難黒鉛化炭素質、易黒鉛化炭素質、複合炭素体等の炭素材料;シリコン、スズ、金属リチウム、各種合金材料等が挙げられる。
【0102】
また、非水電解液としては、電解質を有機溶媒に溶解した電解液を用いることができ、有機溶媒としては、例えば、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート等が、電解質としては、例えば、LiClO
4、LiBF
4、LiPF
6等のリチウム塩が挙げられる。
【0103】
上記蓄電デバイスは、特に限定されないが、例えば、下記のようにして製造される。すなわち、上記セパレータを幅10〜2,000mm(好ましくは80〜1,000mm)、長さ200〜4000m(好ましくは1000〜4000m)の縦長形状のセパレータとして作製する。次に、必要に応じて上記セパレータを幅10〜500mmにスリットする。得られたセパレータを、正極及び負極と共に、正極−セパレータ−負極−セパレータ、又は負極−セパレータ−正極−セパレータの順で重ねて積層物を得る。次いで、その積層物を、円筒形の又は扁平な渦巻状に巻回して巻回体を得る。そして、当該巻回体を外装体内に収納し、更に電解液を注入する等の工程を経ることにより、蓄電デバイスが得られる。
【0104】
また、上記蓄電デバイスは、セパレータ、正極、及び負極を平板状に形成した後、正極−セパレータ−負極−セパレータ−正極、又は負極−セパレータ−正極−セパレータ−負極の順に積層して積層体を得た後、外装体内に収容し、そこに電解液を注入する等の工程を経て製造することもできる。
なお、上記外装体としては、電池缶や袋状のフィルムを用いることができる。
【実施例】
【0105】
以下、本発明を実施例及び比較例に基づいて詳細に説明をするが、本発明は実施例に限定されるものではない。以下の製造例、実施例、及び比較例における各種物性の測定方法及び評価方法は、以下のとおりである。特に記載のない限り、各種の測定及び評価は、室温23℃、1気圧、相対湿度50%の条件下で行った。
【0106】
<測定方法>
(1)多孔基材層(A)の気孔率(体積%)
多孔基材層(A)から10cm×10cm角の試料を切り取り、その体積(cm
3)と質量(g)を測定し、膜密度を0.95(g/cm
3)として、下記数式を用いて計算した。
気孔率(%)=(体積−質量/膜密度)/体積×100
【0107】
(2)セパレータの透気度(sec/100cc)
JIS P−8117に準拠し、(株)東洋精機製作所製のガーレー式デンソメータG−B2(商標)により測定した透気抵抗度を透気度とした。
【0108】
(3)多孔基材層(A)の突刺強度(g)
カトーテック製のハンディー圧縮試験器KES−G5(商標)を用いて、開口部の直径が11.3mmの試料ホルダーにて多孔基材層(A)を固定した。25℃雰囲気下で、前記固定された多孔基材層(A)の中央部を、先端の曲率半径が0.5mmの針を用いて、突刺速度2mm/secにて突刺試験を行った。この時の最大突刺荷重を突刺強度(g)とした。
【0109】
(4)多孔基材層(A)の平均孔径(μm)、曲路率、及び孔数
キャピラリー内部の流体は、流体の平均自由工程がキャピラリーの孔径より大きいときはクヌーセンの流れに、小さい時はポアズイユの流れに従うことが知られている。そこで、多孔基材層(A)の透気度測定における空気の流れはクヌーセンの流れに、多孔基材層(A)の透水度測定における水の流れはポアズイユの流れに、それぞれ従うと仮定する。
平均孔径d(μm)及び曲路率τa(無次元)は、空気の透過速度定数R
gas(m
3/(m
2・sec・Pa))、水の透過速度定数R
liq(m
3/(m
2・sec・Pa))、空気の分子速度ν(m/sec)、水の粘度η(Pa・sec)、標準圧力Ps(=101,325Pa)気孔率ε(%)、及び膜厚L(μm)から、下記数式を用いて求めた。
d=2ν×(R
liq/R
gas)×(16η/3Ps)×10
6
τa= (d×(ε/100)×ν/(3L×Ps×P
gas))
1/2
【0110】
ここで、R
gas及びR
liqは、それぞれ、下記数式を用いて求められる。
R
gas=0.0001/(透気度×(6.424×10
−4)×(0.01276×101,325))
R
liq=透水度/100
透気度及び透水度は、それぞれ、次のように求められる。
[透気度]
ここでいう透気度は、多孔基材層(A)について前記「(2)セパレータの透気度」の記載に準拠して測定することにより、透気抵抗度として得ることができる。
[透水度]
直径41mmのステンレス製の透液セルに、予めエタノールに浸しておいたポリオレフィン微多孔膜をセットし、該膜のエタノールを水で洗浄した。その後、約50,000Paの差圧で水を透過させ、120sec経過した際の透水量(cm
3)より、単位時間・単位圧力・単位面積当たりの透水量を計算し、これを透水度とした。
また、空気の分子速度νは、気体定数R(=8.314)、絶対温度T(K)、円周率π、及び空気の平均分子量M(=2.896×10
−2kg/mol)から、下記数式を用いて求められる。
ν={(8R×T)/(π×M)}
1/2
孔数B (個/μm
2) は、下記数式より求めることができる。
B=4×(ε/100)/(π×d
2×τa)
【0111】
(5)厚み(膜厚、μm)
(5)−1 多孔基材層(A)及び蓄電デバイス用セパレータの厚み(μm)
多孔基材層(A)及び蓄電デバイス用セパレータから、それぞれ、10cm×10cm角のサンプルを切り出し、格子状に選んだ9箇所(3点×3点)の膜厚を、微小測厚器(東洋精機製作所(株)、タイプKBM)を用いて室温23±2℃において測定した。9箇所の測定値の平均値を、多孔基材層(A)又は蓄電デバイス用セパレータの厚み(μm)とした。
(5)−2 多孔層(B)の厚み(μm)
多孔層(B)の厚さは、走査型電子顕微鏡(SEM)「型式S−4800、HITACHI社製」を用い、セパレータの断面観察により測定した。サンプルのセパレータを1.5mm×2.0mm程度に切り取り、ルテニウム染色した。ゼラチンカプセル内に染色サンプル及びエタノールを入れて液体窒素により凍結させた後、ハンマーでサンプルを割断した。サンプルをオスミウム蒸着し、加速電圧1.0kV、30,000倍にて観察し、多孔層の厚さを算出した。この時、SEM画像において、ポリオレフィン微多孔膜断面の多孔構造が見えない最表面領域を、多孔層(B)の領域とした。
【0112】
(6)樹脂バインダー(b−1)のガラス転移温度(Tg)
樹脂バインダー(b−1)含有ラテックスをアルミ皿に適量とり、130℃の熱風乾燥機中で30分間乾燥して、乾燥皮膜を得た。得られた乾燥皮膜約17mgを測定用アルミ容器に詰め、DSC測定装置(島津製作所社製、DSC6220)を用いて、窒素雰囲気下におけるDSC曲線及びDDSC(DSCの微分)曲線を得た。測定条件は下記の通りとした。
(1段目昇温プログラム)
70℃スタート、毎分15℃の割合で昇温。110℃に到達後5分間維持。
(2段目降温プログラム)
110℃から毎分40℃の割合で降温。−70℃に到達後5分間維持。
(3段目昇温プログラム)
−70℃から毎分15℃の割合で300℃まで昇温。この3段目の昇温時にDSC及びDDSCのデータを取得。DDSC曲線のピークトップ温度をガラス転移温度とした。
【0113】
(7)多孔層(B)の表面軟化温度
セパレータの表面と黒ラシャ紙を合わせて、カレンダーを用い、ロール温度20℃、カレンダーロール間線圧10kgf/cmの条件下で圧着させた後、両者引き離して、黒ラシャ紙のセパレータへの転写有無を確認した。転写が確認されなかった場合、カレンダーのロール温度を5℃上昇させ、同様の試験を実施した。以降、5℃刻みでロール温度を上昇させつつ同様の試験を繰り返し、黒ラシャ紙のセパレータへの転写が見られた時の温度を、多孔層(B)の表面軟化温度とした。
【0114】
(8)水接触角
(8)−1 多孔層(B)表面及び樹脂バインダー(b−1)の水接触角
多孔層(B)表面の水接触角は、得られた多孔層(B)の表面に脱イオン水の滴を乗せ、23℃において1分間放置した後、日本国協和界面科学製、CA−X150型接触角計を用いて測定した。
樹脂バインダー(b−1)の水接触角は、ガラス表面上に樹脂バインダー(b−1)を含有するラテックスをクリアランス1mmのアプリケーターにより塗工、乾燥して得られたフィルムについて、前記多孔層(B)の場合と同様の装置及び方法を用いて測定した。
(8)−2 多孔層(B)の水接触角の全層領域平均
マニピュレータを用いて、セパレータより、多孔層(B)を掻き取った。得られた粉体試料をよく混合した後、第1の樹脂バインダー(b−1−1)の融点((6)と同様の方法によって検出された高温側の融点)+30℃の温度において100kgf/cm
2の圧力で熱プレスすることにより、厚み約100μmのフィルム状に成膜した。このフィルムについて、上記(8)−1と同様の方法によって水接触角を測定し、得られた値を多孔層(B)の水接触角の全層領域平均とした。
【0115】
(9)フッ素系結晶性樹脂バインダー(b−1−1)と非晶性樹脂バインダー(b−1−2)との比率
上記(8)で得られた多孔層(B)表面及び樹脂バインダー(b−1)の水接触角、並びに多孔層(B)の水接触角の全層領域平均の値を用いて、多孔層(B)外表面から0〜50%の厚み範囲におけるフッ素系結晶性樹脂バインダー(b−1−1)の存在比率、及び多孔層(B)外表面から50〜100%の厚み範囲における非晶性樹脂バインダー(b−1−1)の存在比率を、以下の仮定のもとに計算により求めた。
仮定1:2種の樹脂バインダー(b−1)の混合物の水接触角は、該2種の樹脂バインダー(b−1)それぞれの水接触角の算術平均と一致する。
仮定2:無機充填材(b−2)及びその他の添加剤は、水接触角に影響しない。
仮定3:フッ素系結晶性樹脂バインダー(b−1−1)及び非晶性樹脂バインダー(b−1−2)それぞれの存在比率は、多孔層(B)の厚み方向に直線的に変化する。
【0116】
(10)セパレータと電極との密着性
セパレータと電極(負極)との密着性は、以下の手順で評価した。
(負極の作製)
負極活物質として人造グラファイト96.9質量%、バインダーとしてカルボキシメチルセルロースのアンモニウム塩1.4質量%(固形分換算)、及びスチレン−ブタジエンコポリマーラテックス(粒径80nm、ガラス転移温度−40℃)1.7質量%(固形分換算)を精製水中に分散させてスラリーを調製した。このスラリーを負極集電体となる厚み12μmの銅箔の片面にダイコーターで塗工し、120℃において3分間乾燥した後、ロールプレス機で圧縮成形することにより、負極を得た。この時、負極の活物質塗工量は106g/m
2、活物質嵩密度は1.35g/cm
3になるようにした。
【0117】
(密着性試験)
上記方法により得られた負極を、幅20mm、長さ40mmにカットした。この負極上に、エチレンカーボネート及びジエチルカーボネートを2:3の比率(体積比)にて混合した電解液(富山薬品工業製)を負極が浸る程度にたらした上にセパレータを重ね、積層体を得た。この積層体をアルミジップに入れ、80℃、10MPaの条件で、2分間プレスを行った。
その後、積層体を取り出し、セパレータを電極から剥がして目視による観察を行い、以下の基準により評価した。
【0118】
(評価基準)
○(良好):セパレータ面積の30%以上に負極活物質が付着した場合
△(可):セパレータ面積の10%以上30%未満に負極活物質が付着した場合
×(不良):セパレータ面積の10%未満に負極活物質が付着した場合
【0119】
(11)べたつき性及び塗工層剥離強度
被着体として正極集電体(冨士加工紙(株)アルミ箔20μm)を30mm×150mmに切り取ったものを、セパレータと重ね合わせて積層体を得た。得られた積層体を、2枚のテフロン(登録商標)シート(ニチアス(株)ナフロンPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)シート TOMBO−No.9000)により挟み、プレス条件を下記のように変量してそれぞれプレスを行うことにより、プレス条件の異なる2種の試験用サンプルを得た。
条件1)温度25℃、圧力5MPaで3分間加圧
条件2)温度80℃、圧力10MPaで3分間加圧
【0120】
得られた各試験用サンプルの剥離強度を、JIS K6854−2に準じて引張速度200mm/分で測定した。測定装置としては、島津製作所製のオートグラフAG−IS型(商標)を用いた。
得られた結果に基づいて、下記の評価基準でセパレータの剥離強度を評価した。
【0121】
[ベタツキ性]
条件1)のプレス後のサンプルについて、
○(良好):剥離強度が6gf/cm以下であった場合
△(可):剥離強度が6gf/cmを超えて8gf/cm以下であった場合
×(不良):剥離強度が8gf/cmを超得た場合
とし、ベタつき性及びハンドリング性の指標とした。
【0122】
[塗工層剥離強度]
条件2)のプレス後のサンプルについて、
○(良好):剥離強度が15gf/cm以上であった場合
△(可):剥離強度が10gf/cm以上15gf/cm未満であった場合
×(不良):剥離強度が10gf/cm未満であった場合
とし、電極との密着性、多孔基材層(A)との接着強度、及び無機充填材(b−2)の結着強度の指標とした。
【0123】
(11)電池のサイクル特性、及びセパレータの耐酸化性
(11−1)評価用サンプルの作製
[電極の作製]
負極を前記「(9)セパレータと電極との密着性」における「(負極の作製)」と同様にして作製した。
正極は、以下のようにして作製した。
(正極の作製)
正極活物質としてリチウムコバルト複合酸化物(LiCoO
2)を92.2質量%、導電材としてリン片状グラファイト及びアセチレンブラックをそれぞれ2.3質量%ずつ、並びにバインダーとしてポリフッ化ビニリデン3.2質量%(固形分換算)をN−メチルピロリドン(NMP)中に分散させてスラリーを調製した。このスラリーを、正極集電体となる厚み20μmのアルミニウム箔の片面にダイコーターで塗工し、130℃において3分間乾燥した後、ロールプレス機で圧縮成形することにより、正極を得た。この時、正極の活物質塗工量は250g/m
2、活物質嵩密度は3.00g/cm
3になるようにした。
【0124】
正極は幅約57mmに、負極は幅約58mmに、それぞれ切断して帯状にすることにより、評価用電極を作製した。
[非水電解液の調整]
非水電解液は、エチレンカーボネート/ジエチルカーボネート=2/3(体積比)からなる混合溶媒に、溶質としてLiPF
6を濃度1.0mol/Lとなるように溶解させることにより調製した。
[セパレータの作製]
実施例及び比較例で得られた各セパレータを60mmに切断して帯状にすることにより、評価用セパレータを作製した。
【0125】
(11−2)電池のサイクル特性の評価
[電池の組立て]
(11−1)で得られた、電極及びセパレータを、負極、セパレータ、正極、セパレータの順に重ね、巻取張力を250gf、捲回速度を45mm/秒として、渦巻状に複数回捲回して、電極積層体を作製した。ここで、セパレータは、多孔層を形成した面を負極側として積層した。この電極積層体を、外径18mm、高さ65mmのステンレス製容器に収納し、正極集電体から導出したアルミニウム製タブを容器蓋端子部に、負極集電体から導出したニッケル製タブを容器壁に溶接した。その後、真空下、80℃で12時間の乾燥を行った。アルゴンボックス内において、組立てた電池容器内に前記の非水電解液を注入し、封口することにより、評価用電池を作製した。
【0126】
[前処理]
前記のように組立てた電池につき、1/3Cの電流値で電圧4.2Vまで定電流充電した後、4.2Vの定電圧充電を8時間行い、その後1/3Cの電流で3.0Vの終止電圧まで放電を行った。次に、1Cの電流値で電圧4.2Vまで定電流充電した後、4.2Vの定電圧充電を3時間行い、その後1Cの電流で3.0Vの終止電圧まで放電を行った。最後に1Cの電流値で4.2Vまで定電流充電をした後、4.2Vの定電圧充電を3時間行って、前処理を終了した。
なお、1Cとは電池の基準容量を1時間で放電する電流値を表す。
【0127】
[サイクル試験]
上記前処理を行った電池につき、温度25℃の条件下で、放電電流1Aで放電終止電圧3Vまで放電を行った後、充電電流1Aで充電終止電圧4.2Vまで充電を行った。これを1サイクルとして充放電を繰り返し、初期容量に対する200サイクル後の容量保持率を調べ、以下の基準でサイクル特性を評価した。
(評価基準)
○(良好):容量保持率が95%以上100%以下であった場合
△(可):容量保持率が90%以上95%未満であった場合
×(不良):容量保持率90%未満であった場合
【0128】
[セパレータの耐酸化性]
上記と同様の前処理を行った電池につき、電圧4.2Vまで1Cの電流にて定電流充電した後、70℃の環境温度下で4.2Vの定電圧充電を100時間行った。この電池からセパレータを取り出して、ジメトキシエタン、エタノール、及び濃度1Nの塩酸中で各15分間超音波洗浄を行った後、空気中で乾燥した。そして、乾燥後のセパレータについて、正極接触面側表面の黒色変化の面積割合を調べ、耐酸化性の度合いを以下の基準で評価した。
黒色変化した面積割合が10%未満であった場合:○(耐酸化性「良好」)
黒色変化した面積割合が10%以上であった場合:○(耐酸化性「不良」)
【0129】
<樹脂バインダー(b−1)の製造>
(製造例1a)アクリル系ポリマーラテックスの製造
撹拌機、還流冷却器、滴下槽、及び温度計を取り付けた反応容器に、イオン交換水70.4質量部と、「アクアロンKH1025」(商品名、第一工業製薬株式会社製、25質量%水溶液)0.085質量部(固形分換算)と、「アデカリアソープSR1025」(商品名、株式会社ADEKA製、25質量%水溶液)0.085質量部(固形分換算)と、を投入し、反応容器内部温度を80℃に昇温し、80℃の温度を保ったまま、過硫酸アンモニウム(2質量%水溶液)を0.15質量部(固形分換算)添加した。
過硫酸アンモニウム水溶液を添加した5分後に、メタクリル酸メチル85質量部、アクリル酸n−ブチル5.4質量部、アクリル酸2−エチルヘキシル2質量部、メタクリル酸0.1質量部、アクリル酸0.1質量部、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル2質量部、アクリルアミド5質量部、メタクリル酸グリシジル0.4質量部、トリメチロールプロパントリアクリレート(A−TMPT、新中村化学工業株式会社製)0.7質量部、「アクアロンKH1025」(商品名、第一工業製薬株式会社製、25質量%水溶液)0.75質量部(固形分換算)、「アデカリアソープSR1025」(商品名、株式会社ADEKA製、25質量%水溶液)0.75質量部(固形分換算)、p−スチレンスルホン酸ナトリウム0.05質量部、過硫酸アンモニウム(2質量%水溶液)0.15質量部(固形分換算)、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン0.3質量部、及びイオン交換水52質量部の混合物を、ホモミキサーにより5分間混合させて、乳化液を作製した。得られた乳化液を、滴下槽から反応容器に150分かけて滴下した。
乳化液の滴下終了後、反応容器内部温度を80℃に保ったまま90分間維持し、その後室温まで冷却し、エマルジョンを得た。得られたエマルジョンに水酸化アンモニウム水溶液(25質量%水溶液)を加えて、pH=9.0に調整することにより、濃度40質量%のアクリル系ポリマー(1a)を含有するラテックスを得た。
透過型電子顕微鏡(TEM)による観察の結果、アクリル系ポリマー(1a)は、粒子径161nmの球形、単分散であることがわかった。また、得られたアクリル系ポリマー(1a)の水接触角は57度、ガラス転移温度は90℃であった。
【0130】
(製造例1b)アクリル系ポリマーラテックスの製造
以下の成分の使用量を以下に記載したとおりに変更した他は、前記製造例1aと同様に操作することにより、固形分濃度40質量%のアクリル系ポリマー(1b)を含有するラテックスを得た。
[初期仕込み]
アクアロンKH1025(25質量%水溶液):0.45質量部(固形分換算)
アデカリアソープSR1025(25質量%水溶液):0.45質量部(固形分換算)
過硫酸アンモニウム(2質量%水溶液):0.15質量部(固形分換算)
[乳化液中のモノマー]
メタクリル酸メチル:30.5質量部
アクリル酸n−ブチル:60.8質量部
アクリル酸2−エチルヘキシル:2質量部
メタクリル酸:1質量部
アクリル酸:1.5質量部
メタクリル酸2−ヒドロキシエチル:2質量部
アクリルアミド:0.2質量部
メタクリル酸グリシジル:2質量部
トリメチロールプロパントリアクリレート:0.7質量部
透過型電子顕微鏡(TEM)による観察の結果、アクリル系ポリマー(1b)は、粒子径121nmの球形、単分散であった。また、得られたアクリル系ポリマー(1b)の水接触角は58度、ガラス転移温度は−20℃あった。
【0131】
(製造例1c)ポリフッ化ビニリデンラテックスの製造
特許第3824331号明細書の実施例記載に参考に、低分子量ポリフッ化ビニリデン(PVDF)ラテックス(1c)を、以下のとおりに製造した。
パドル攪拌器を備えた7.5リットルのステンレス鋼製の水平反応器内に、4,375gの脱塩水、及び50℃〜60℃で溶融する炭化水素ワックス4gを導入した。反応器を密閉し、窒素気流で脱気し、排出した。その後、2.99gのパーフルオロオクタン酸アンモニウムを含む脱塩脱気水1,000gを添加した。次いで、反応器を120℃まで加熱し、気体のフッ化ビニリデン(VDF)によって、650psigの圧力とした。更に、連鎖移動剤として、8.0mlのメチル−tert−ブチル−エーテルを添加した。そしてここに、19.1mlのジ−tert−ブチル−ペルオキシドを導入して、反応を開始した。約15分間の導入期間の後、系圧力が低下し始め、反応の開始が確認示された。その後、VDFを連続的に供給し、圧力を650psig、温度を120℃に保持した。3時間後、モノマーの供給を停止した。ここまでで、合計1,898gのVDFが供給された。
反応器の圧力が150psigに減少するまで待ってから反応器を冷却し、未反応のVDFを排出することにより。ポリフッ化ビニリデン(1c)を25質量%含有するラテックスを得た。
得られたポリフッ化ビニリデン(1c)の水接触角は82度、融点は170℃であった。
【0132】
(製造例1d)フッ化アクリルポリマーラテックスの製造方法
特許第5348444号明細書の実施例を参考に、フッ化アクリルポリマーラテックス(1d)を、以下のとおりに製造した。
電磁式撹拌機を備えた内容積約6Lのオートクレーブの内部を十分に窒素置換した後、脱酸素した純水2.5L及び乳化剤としてパーフルオロデカン酸アンモニウム25gを仕込み、350rpmで撹拌しながら60℃まで昇温した。次いで、単量体であるフッ化ビニリデン(VDF)70質量%及び六フッ化プロピレン(HFP)30質量%からなる混合ガスを、内圧が20kg/cm
2に達するまで導入した。
その後、重合開始剤としてジイソプロピルパーオキシジカーボネートを50質量%含有する1,3−ジクロロ−1,1,2,2,3−ペンタフルオロプロパン(HCFC−225cb)溶液10.0gを、窒素ガスを使用して圧入して重合を開始した。
重合中は内圧が20kg/cm
2に維持されるように、VDF60.2質量%及びHFP39.8質量%からなる混合ガスを逐次圧入した。また、重合が進行するに従って重合速度が低下するため、3時間経過後に、前記と同じ重合開始剤溶液同量を窒素ガスを使用して圧入し、更に3時間反応を継続した。
その後、反応液にメタクリル酸グリシジル5質量部を添加し、更に3時間反応を継続した後、反応液を冷却すると同時に撹拌を停止し、未反応の単量体を放出した後に反応を停止して、重合体粒子を40質量%含有するラテックスを得た。
【0133】
次いで、容量7Lのセパラブルフラスコに、3,5,5−トリメチルヘキサノイルパーオキシサイド(商品名「パーロイル355」、日油株式会社製、水溶解度:0.01%)2質量部、ラウリル硫酸ナトリウム0.1質量部、及び水20質量部を仕込み、撹拌して乳化させた。ここに、上記で作製したラテックスを、重合体粒子に換算して50質量部に相当する量を添加し、16時間撹拌した。
次いで、セパラブルフラスコの内部を十分に窒素置換した後、メタクリル酸メチル20質量部、アクリル酸2−エチルヘキシル25質量部、及びメタクリル酸5質量部を加え、40℃において3時間ゆっくり撹拌して、これらのモノマー成分を重合体粒子に吸収させた。その後、反応系の温度を75℃に昇温して3 時間反応を行った後、更に85℃において2時間反応を行った。その後、冷却した後に反応を停止し、2.5N水酸化ナトリウム水溶液でpH7に調節することにより、フッ化アクリルポリマー(1d)の粒子を40質量%含有するラテックスを得た。得られたフッ化アクリルポリマー(1d)の水接触角は68度、ガラス転移温度は−5℃あった。であった。
【0134】
実施例1
体積平均分子量70万のホモポリマーのポリエチレン47.5質量部と体積平均分子量25万のホモポリマーのポリエチレン47.5質量部と体積平均分子量40万のホモポリマーのポリプ口ピレン5質量部とを、タンブラーブレンダーを用いてドライブレンドした。得られたポリマー混合物99質量部に対して、酸化防止剤としてペンタエリスリチルーテトラキス−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)フロピオネー卜]を1質量部添加し、再度タンブラーブレンダーを用いてドライブレンドすることにより、ポリマ一等混合物を得た。
得られたポリマ一等混合物は、窒素置換した後に、窒素雰囲気下でフィーダーにより、二軸押出機へ供給した。また流動パラフィン(37.78℃における動粘度7.59×10
−5m
2/s)を、プランジャーポンプにより押出機シリンダーに注入した。溶融混練して押し出される全混合物中に占める流動パラフィンの量比が67質量%(ポリマー等混合物濃度が33質量%)となるように、フィーダー及びポンプを調整した。溶融混練条件は、設定温度200℃、スクリユ一回転数100rpm、及び吐出量12kg/hとして、混練を行った。
【0135】
得られた溶融混練物を、表面温度25℃に制御された冷却ロール上にT−ダイ経由で押出しキャス卜することにより、厚み1,600μmのゲルシートを得た。次に、このゲルシートを同時二軸テンター延伸機に導き、二軸延伸を行った。設定延伸条件は、MD倍率7.0倍、TD倍率6.1倍、設定温度121℃とした。延伸後のゲルシートをメチルエチルケトン槽に導き、メチルエチルケトン中に充分に浸漬して流動パラフィンを抽出除去した後、メチルエチルケトンを乾燥除去した。次に、前記処理後のシートをTDテンターに導き、熱固定を行った。熱固定温度は120℃、TD最大倍率は2.0倍、緩和率は0.90とした。
これら一連の処理の結果、膜厚17μm、気孔率60%、透気度84秒/100cc、平均孔径d=0.057μm、曲路率τa=1.45、孔数B=165個/μm
2、突刺強度が25μm換算で5,679fのポリオレフィン樹脂多孔膜(A1)を得た。
【0136】
[塗工液の調製]
次に、無機充填材(b−2)として、焼成カオリン(カオリナイト(Al
2Si
2O
5(OH)
4)を主成分とする湿式カオリンを高温焼成処理したもの、平均粒径1.8μm)を92.5質量部と、
樹脂バインダー(b−1)として、
前記製造例1cで得たポリフッ化ビニリデン(1c)ラテックスを固形分換算で2質量部、及び前記製造例1bで得たアクリル系ポリマー(1b)ラテックスを固形分換算で5質量部
と、
ポリカルボン酸アンモニウム水溶液(サンノプコ社製、SNディスパーサント5468、40質量%水溶液)0.5質量部(固形分換算)と
を180質量部の水に均一に分散させることにより、塗工液を調製した。
【0137】
[多孔層(B)の形成(セパレータの製造)]
前記[多孔基材層(A)膜の製造]で得たポリオレフィン微多孔膜(A1)の片面に、前記[塗工液の調製]で得た塗工液を、マイクログラビアコーターにより塗工した。得られた塗膜を、60℃において乾燥して水を除去し、多孔基材層(A)の片面に厚み7μmの多孔層(B)をそれぞれ形成することにより、セパレータを得た。
得られたセパレータについて、上記方法により評価した。得られた結果を表1に示した。
【0138】
実施例2及び比較例1〜5
前記実施例1において、樹脂バインダー(b−1)として、表1に記載のものを、固形分換算値としてそれぞれ表1に記載の量にて使用した他は、実施例1と同様にして塗工液を調製し、セパレータを製造した。
なお、比較例1については、非晶性バインダー(b−1−2)を2種類併用した。
得られたセパレータについて、上記方法により評価した。得られた結果を表1に示した。
表1の表面軟化温度欄における「100<」及び「<20」とは、それぞれ、表面軟化温度が100℃を超え、或いは20℃未満であったことを示す。
【0139】
【表1】