(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、図面を参照しながら本実施形態に係わるX線高電圧装置、X線コンピュータ断層撮影装置、及びX線診断装置を説明する。
【0008】
図1は、本実施形態に係るX線コンピュータ断層撮影装置の構成を示す図である。
図1に示すように、本実施形態に係るX線コンピュータ断層撮影装置は、架台10とコンソール30とを備えている。架台10は、円筒形状を有する回転フレーム11を回転軸Z回りに回転可能に支持している。回転フレーム11には、回転軸Zを挟んで対向するようにX線発生部13とX線検出部15とが取り付けられている。回転フレーム11の開口(bore)にはFOV(field of view)が設定される。回転フレーム11の開口内には寝台17が挿入される。寝台17には被検体Sが載置される。回転フレーム11は、回転駆動部19からの動力を受けて回転軸Z回りに一定の角速度で回転する。回転駆動部19は、架台制御部21からの制御に従って回転フレーム11を回転させるための動力を発生する。寝台17は、被検体Sが載置される天板171と天板171を移動自在に支持する天板支持機構173とを有する。例えば、天板支持機構173は、天板171を回転軸Z方向や鉛直方向、水平方向に支持する。天板支持機構173は、寝台駆動部23からの動力を受けて天板171を任意の方向に移動する。寝台駆動部23は、架台制御部21からの制御に従って天板171を任意の方向に移動する。
【0009】
X線発生部13は、X線管131とX線高電圧装置133とを有する。X線管131は、X線高電圧装置133に接続されている。X線高電圧装置133は、架台制御部21による制御に従いX線管131に高電圧を印加し、フィラメント電流を供給する。X線高電圧装置133は、設定管電圧値と設定管電流値とを維持するようにX線管131に印加する高電圧とX線管131に供給するフィラメント電流とを調節する。
【0010】
X線検出部15は、X線検出器151とデータ収集回路153とを有する。X線検出器151は、X線管131から発生されたX線を検出する。具体的には、X線検出器151は、二次元湾曲面に配列された複数のX線検出素子を装備する。各X線検出素子は、X線を検出し、検出されたX線の強度に応じた波高値を有する電気信号に変換する。各X線検出素子は、シンチレータと光電変換器とから構成されX線を間接的に電気信号に変換するシンチレータ検出器であっても良いし、X線を直接的に電気信号に変換する半導体検出器であっても良い。
【0011】
データ収集回路153は、架台制御部21による制御に従い、X線検出器151から電気信号を読み出し、検出されたX線の強度に応じたデジタル値を有する生データをビュー毎に収集する。
【0012】
架台制御部21は、架台10に搭載された各種機器の制御を統括する。具体的には、架台制御部21は、X線高電圧装置133、データ収集回路153、及び回転駆動部19をビューの切替周期に同期して制御する。具体的には、回転駆動部19は、予め設定された一定の角速度で回転フレーム11を回転する。架台制御部21は、回転フレーム11が一定の微小角度回転する毎にビューを切り替える。架台制御部21は、ビューの切替タイミングに同期してX線高電圧装置133とデータ収集回路153とを制御する。X線高電圧装置133は、ビューの切替タイミングに同期した曝射タイミングでX線管131からX線を発生させる。また、データ収集回路153は、X線検出器151を介して生データをビュー毎に収集する。また、架台制御部21は、後述の入力部41を介したユーザからの入力に従って天板171を移動するように寝台駆動部23を制御する。例えば、架台制御部21による寝台駆動部23に対する制御により、被検体Sの撮像部位がFOV内に含まれるように天板171が位置決めされる。なお、X線高電圧装置133は、データ収集期間中において、X線を連続して発生させても良い。
【0013】
コンソール30は、データ記憶部31、再構成部33、画像処理部35、I/F部37、表示部39、入力部41、主記憶部43、及びシステム制御部45を備える。
【0014】
データ記憶部31は、架台10から伝送された生データを記憶するHDD(hard disk drive)やSSD(solid state drive)等の記憶装置である。生データは、由来するX線検出素子のチャンネル番号、列番号、及びビュー番号に関連づけて記憶される。
【0015】
再構成部33は、データ記憶部31に記憶された生データに基づいて被検体Sに関するCT値の空間分布を表現するCT画像を再構成する。CT画像としては2次元のスライス画像であっても良いし、3次元のボリューム画像であっても良い。画像再構成アルゴリズムとしては、FBP(filtered back projection)法やCBP(convolution back projection)法等に基づく解析学的画像再構成法や、ML−EM(maximum likelihood expectation maximization)法やOS−EM(ordered subset expectation maximization)法、OS−SART(ordered subset simultaneous algebraic reconstruction techniques)法等に基づく統計学的画像再構成法等の既存の画像再構成アルゴリズムが用いられれば良い。
【0016】
画像処理部35は、CT画像に種々の画像処理を施す。画像処理としては、例えば、ボリュームレンダリングやサーフェスレンダリング、多断面変換処理、画素値投影処理等が挙げられる。
【0017】
I/F部37は、コンソール30と架台10との間の通信のためのインタフェースである。例えば、I/F部37は、システム制御部45からのX線条件や撮像開始信号や撮像停止信号等を架台10に供給する。
【0018】
表示部39は、CT画像や撮影計画画面等の種々の情報を表示機器に表示する。表示機器としては、例えば、CRTディスプレイや液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ、プラズマディスプレイ等が適宜利用可能である。
【0019】
入力部41は、入力機器によるユーザからの各種指令や情報入力を受け付ける。入力機器としては、キーボードやマウス、各種スイッチ等が利用可能である。
【0020】
主記憶部43は、種々の情報を記憶する、HDD(hard disk drive)やSSD(solid state drive)等の記憶装置である。例えば、主記憶部43は、CT画像や撮影プログラム等を記憶する。
【0021】
システム制御部45は、本実施形態に係るX線コンピュータ断層撮影装置の中枢として機能する。システム制御部45は、本実施形態に係る撮影プログラムを主記憶部43から読み出し、当該撮影プログラムに従って各種構成要素を制御する。
【0023】
図10は、従来例に係るX線高電圧装置の回路ブロック図である。
図10に示すように、従来例に係るX線高電圧装置は、AC/DCコンバータ、インバータ、及び高圧トランス、第1の高圧整流平滑回路、及び第2の高圧整流平滑回路を有している。AC/DCコンバータは、商用電源からの交流電圧を直流電圧に変換する。インバータは、AC/DCコンバータからの直流電圧を交流電圧に変換する。高圧トランスは、インバータからの交流電圧を昇圧する。具体的には、高圧トランスは、一次コイルと分割された2つの二次コイルとを有する。第1の二次コイルには第1の高圧整流平滑回路が接続され、第2の二次コイルには第2の高圧整流平滑回路が接続される。各高圧整流平滑回路は、各二次コイルの出力を整流及び平滑することにより直流高電圧を発生する。
【0024】
図10に示すX線高電圧装置は、X線管の陽極にプラス極性の高電圧が印加され、X線管の陰極にマイナス極性の高電圧が印加する中性点接地型X線管用のX線高電圧装置である。中性点接地型X線管用のX線高電圧装置は、X線診断装置や出力の小さなX線コンピュータ断層撮影装置ではよく使用されている。中性点接地型X線管用のX線高電圧装置は、出力電圧が管電圧の半分で済む利点を有している。例えば、管電圧が140kVのとき、X線高電圧装置の出力電圧は+70kVと−70kVである。
【0025】
図11は、
図10に示す高圧トランスの巻線構造を示す図である。
図11に示すように、一次コイルの個数が1、二次コイルの個数が2であり、二次コイルを一次コイルの中心を挟んで対称の位置に配置した場合、2つの二次コイルに誘導される電圧の電圧値が等しくなる。そのため、2つの二次コイルに接続された2つの高圧整流平滑回路の出力電圧の電圧値も等しくなる。しかしながら、
図11のように、二次コイルが大きい場合、二次コイルの二次巻線間に生じる分布容量が大きくなる。そのため、X線高電圧装置を小型化するためにインバータの動作周波数を高めると、インバータに流れる無効電流が増加してしまう。
【0026】
出力の大きなX線コンピュータ断層撮影装置では、X線管の陽極側を接地し、陽極のターゲットの冷却効率を向上させた陽極接地型X線管用のX線高電圧装置が使用される。陽極接地型X線管用のX線高電圧装置は、管電圧の電圧値と同じで極性が異なる電圧を出力する必要がある。すなわち、陽極接地型X線管用のX線高電圧装置は、管電圧が140kVのときは、−140kVの電圧を発生させる。このように、接地電位に対して非常に高い電圧を発生させる場合、その極性がプラスでもマイナスでも二次コイルの二次巻線間に生じる分布容量が増大してしまう。
【0027】
図12は、
図11に示す高圧トランスよりも二次コイルの個数を増やした高圧トランスの巻線構造を示す図である。
図12に示すように、二次コイルの個数を増やし、各二次コイルの巻数を減らすことで、二次コイルの分布容量を減らすことができる。
図13は、
図12に示す高圧トランスの一次コイルが発生する磁束を模式的に示す図である。
図13に示すように、一次コイルで発生する磁束は、鉄心の中央部では収束し端部では広がる性質がある。そのため、中央部に隣接する二次コイルと両端部に隣接する二次コイルとでは、鎖交する磁束が異なる。その結果、複数の二次コイルに誘導される電圧がばらつき、高圧整流平滑回路の出力電圧もばらついてしまう。
【0028】
また、一次コイルの巻数に対して二次コイルの個数が多い場合、一次コイルの両端部以外の部分に隣接する二次コイルであっても、一次コイルとの位置関係に応じて二次コイルに誘導される電圧の電圧値がばらついてしまう虞がある。これにより、一部の二次コイルに誘導される電圧の電圧値が異常に上昇し耐圧不良となる虞がある。特に二次コイル毎に高圧整流平滑回路が配置された場合、高圧整流平滑回路に含まれる整流ダイオードや平滑コンデンサが損傷する虞がある。従ってX線高電圧装置の出力電圧に関する信頼性が損なわれてしまう。
【0029】
高圧整流平滑回路の損傷を防ぐため最も高い電圧を出力する高圧整流平滑回路に他の整流平滑回路を合わせた場合、高圧整流平滑回路に使用する高圧ダイオードや高圧コンデンサの定格を上げる必要があるため、小型化の要請に反してX線高電圧装置が大規模及び高価格になってしまう。X線コンピュータ断層撮影装置では回転部の限られた空間に高電圧発生器を搭載する必要があるため、X線コンピュータ断層撮影装置においては特に、X線高電圧装置が大規模になることを避けなければならない。
【0030】
以下、本実施形態に係るX線高電圧装置133について詳述する。
【0031】
図2は、本実施形態に係るX線高電圧装置133の回路ブロック図を示す。
図2のX線高電圧装置133は、一例として、陽極接地型のX線管131に印加する高電圧を発生するX線高電圧装置133を示している。
図2に示すように、X線高電圧装置133は、商用電源とX線管131とに接続されている。X線高電圧装置133は、AC/DCコンバータ51、インバータ53、及び高電圧変換部55を有する。AC/DCコンバータ51は、商用電源からの交流電圧を直流電圧に変換する。インバータ53は、AC/DCコンバータ51からの直流電圧を高周波の交流電圧に変換する。高電圧変換部55は、インバータ53からの交流電圧を、X線管131に印加するための直流高電圧に変換する。具体的には、高電圧変換部55は、高圧トランス57と複数の高圧整流平滑回路59を有している。高圧トランス57は、インバータ53からの交流電圧を昇圧する。具体的には、高圧トランス57は、1つの一次コイル61と複数の二次コイル63と鉄心65とを有する。一次コイル61は、インバータ53からの交流電圧(一次電圧)の印加を受けて電磁誘導の原理により鉄心65を介して複数の二次コイル63に交流電圧(二次電圧)を誘起する。複数の二次コイル63には複数の高圧整流平滑回路59がそれぞれ接続される。このように、1つの一次コイル61に対して複数の二次コイル63を設けることにより、各二次コイル63の分布容量を低減することができる。
【0032】
本実施形態において二次コイル63と高圧整流平滑回路59とはn個ずつ設けられているとする。二次コイル63と高圧整流平滑回路59との個数nは2以上であれば幾つでも構わない。X線管131の陽極側から第1の高圧整流平滑回路59−1、第2の高圧整流平滑回路59−2、…、第nの高圧整流平滑回路59−nと標記し、同様に、X線管131の陽極側から第1の二次コイル63−1、第2の二次コイル63−2、…、第nの二次コイル63−nと標記することにする。
【0033】
各高圧整流平滑回路59は、二次コイルからの交流電圧を整流平滑して直流電圧に変換する。具体的には、各高圧整流平滑回路59は、
図2に示すように、高圧整流ダイオードと高圧コンデンサを有している。複数の高圧整流平滑回路59は、カスケード接続、すなわち、直列的に接続されている。複数の高圧整流平滑回路59の一端の高圧整流平滑回路59−1のプラス端子は、接地され、X線管131の陽極に接続される。複数の高圧整流平滑回路59の他端の高圧整流平滑回路59−nのマイナス端子は、X線管131の陰極に接続される。
【0034】
図2に示すように、複数の高圧整流平滑回路59がカスケード接続されているため、X線管131の管電圧は、複数の高圧整流平滑回路59の各々が発生する直流電圧の総和に等しい。すなわち、X線管131の目標管電圧を高圧整流平滑回路59の数で除した値に相当する電圧(二次電圧)が各高圧整流平滑回路59又は各二次コイル63から発生されれば良い。例えば、高圧整流平滑回路59が16(すなわち、nが16)あり、X線管131の管電圧が140kVであるとすると、各高圧整流平滑回路59又は各二次コイル63は、−140kV/16=−8.75kVの電圧を発生する。なお、本実施形態において管電圧は、陰極の電位に対する陽極の電位の差分であるものとする。上記の例の場合、陽極は接地されているので陽極の電位は0kVであり、陰極の電位−8.75kV×16=−140kVであるので、陰極の電圧に対する陽極の電位の差分、すなわち、管電圧は、0kV−(−140kV)=140kVとなる。なお、目標管電圧は、例えば、入力部41を介してユーザにより入力される。
【0035】
X線高電圧装置133により陽極と陰極との間に高電圧が印加される。また、図示しない経路を介してX線高電圧装置133からフィラメント電流が陰極に供給される。フィラメント電流の供給を受けた陰極は発熱し、熱電子を放出する。陽極と陰極との間に印加された高電圧(管電圧)により熱電子が加速して陽極のターゲットに衝突しX線が発生される。
【0036】
図3は、
図2のX線高電圧装置133の高圧トランス57の構造を示す図である。
図4は、
図3の4−4’断面図である。
図3に示すように、高圧トランス57は、環形状を有する鉄心65を有している。鉄心65は、円環形状でも良いし、多角環形状でも良い。例えば、
図3に示すように、鉄心65は四角環形状を有していると良い。鉄心65としては、例えば、ケイ素鋼板を絶縁し層状に形成したものが用いられる。鉄心65のうちの一部範囲には一次コイル61が設けられる。以下、鉄心65のうちの一次コイル61が設けられる範囲をコイル設置範囲Rco1と呼ぶことにする。一次コイル61は、鉄心65に沿って巻かれ、絶縁体により被覆された銅線等の一次巻線67を有する。より詳細には、一次巻線67は鉄心65のうちのコイル設置範囲Rco1に限定して巻かれている。鉄心65が四角環形状を有する場合、一辺が複数の二次コイル63に隣接するように鉄心65が配置される。当該一辺のうちの複数の二次コイル63に隣接する部分がコイル設置範囲Rco1に規定される。コイル設置範囲Rco1は、鉄心65のうちの一次巻線67が巻かれる部分である。一次巻線67の鉄心65への巻き始めの位置Psと巻き終わりの位置Peとの間の範囲がコイル設置範囲Rco1に規定される。なお、巻き始めの位置Psと巻き終わりの位置Peとは、一次巻線67が鉄心65に接触する位置であり、巻き始めの位置Psから巻き終わりの位置Peに向けてインバータ53からの電流が流れる。複数の二次コイル63は、鉄心65の中心軸Axcに沿って並列して配列されている。換言すれば、複数の二次コイル63は、鉄心65のうちのコイル設置範囲Rco1に隣接して配列される。各二次コイル63は、円環形状を有し、当該円環の中心が鉄心65の中心軸Axcに略一致するように配置される。各二次コイル63は、円環形状に巻かれ、絶縁体により被覆された銅線等の二次巻線69を有する。
【0037】
一次コイル61はインバータ53により駆動され鉄心65に磁束を発生させる。より詳細には、一次コイル61にはインバータ53からの高周波の交流電圧(一次電圧)が印加され交流電流が流れ、この交流電流が電磁誘導作用により鉄心65に時間変化する磁束を発生させる。複数の二次コイル63は発生された磁束に鎖交するように配置されている。鉄心に発生された磁束の時間変化が電磁誘導作用により複数の二次コイル63の各々に交流電圧(二次電圧、誘導電圧)を発生させる。一次コイル61の一次電圧に対する各二次コイル63の二次電圧の増幅率は、一次コイル61の巻数に対する二次コイル63の巻数の比率に応じて決定される。
【0038】
高圧トランス57を小型化するためインバータ53の動作周波数を上げた場合、高圧トランス57の構造上、一次コイル61の巻数はインバータ53の出力電圧と動作周波数と鉄心65の特性によって決定されるが、約10ターンになる。上記の通り、一次コイル61で発生する磁束は、コイル設置範囲Rco1の中心軸Axcに関する中央部Rsでは収束し、コイル設置範囲Rco1の中心軸Axcに関する端部Rdでは広がる性質がある。中央部Rsとは、コイル設置範囲Rco1に含まれる部分範囲であって、中心軸Axcに関する巻き始めの位置Psと巻き終わりの位置Peとの間の中心を含む範囲である。端部Rdとはコイル設置範囲Rco1に含まれる部分範囲であって、巻き始めの位置Ps又は巻き終わりの位置Peを含む部分範囲である。そのため、中央部Rsに隣接する二次コイル63と両端部Rdに隣接する二次コイル63とでは鎖交する磁束が異なってしまう。中央部Rsに隣接する二次コイル63と両端部Rdに隣接する二次コイル63とでの鎖交する磁束のばらつきを低減するための一つの方法として、コイル設置範囲Rco1を、鉄心65のうちの複数の二次コイル63が隣接する範囲Rco2に比して十分に長くとることが考えられる。しかしながら、この場合、高圧トランス57の小型化の要請に応えることはできない。
【0039】
そこで、本実施形態に係る一次巻線67は、
図4に示すように、コイル設置範囲Rco1の中央部Rsに比して端部Rdにおいて間隔が密になるように、又は、端部Rdに比して中央部Rsにおいて間隔が疎になるように鉄心65に沿って巻かれる。ここで、間隔とは、中心軸Axcに沿う一次巻線67の間隔を指す。換言すれば、単位長さあたり(単位体積あたり)の巻数が中央部Rsに比して端部Rdにおいて多くなるように、又は端部Rdに比して中央部Rsにおいて少なくなるように一次巻線67が鉄心65に沿って巻かれる。なお、一次巻線67は、中央部Rsから端部Rdにかけて段階的に間隔を密から疎に変化させても良いし、連続的に密から疎に変化させても良い。中央部Rsから端部Rdにかけて一次巻線67の間隔を密から疎に変化させることにより、端部に行くにつれて徐々に減少する磁束を補償することができる。これにより、高圧トランス57の小型化を達成したうえで、端部Rdに隣接する二次コイル63と中央部Rsに隣接する二次コイル63との鎖交する磁束とを略一致させることができ、ひいては、端部Rdに隣接する二次コイル63と中央部Rsに隣接する二次コイル63との誘導電圧のばらつきを抑制することができる。すなわち、各二次コイル63の誘導電圧を、管電圧を二次コイル63(すなわち、高圧整流平滑回路59)の個数で除した値に略一致させることができる。
【0040】
なお、鉄心65に巻かれる一次巻線67の間隔は、端部Rdに隣接する二次コイル63と中央部Rsに隣接する二次コイル63との鎖交する磁束とが略一致するように、事前に設計されても良い。例えば、一次巻線67の様々な疎密間隔においてコイル設置範囲Rco1の各位置の磁束数をテスタ等の計器を使用して測定することにより、一次巻線67の好適な間隔が設計されると良い。
【0041】
以下、本実施形態の応用例1に係る高圧トランス57について説明する。
【0042】
図4に示す高圧トランス57では、一次巻線67の巻数の制約のため、一次巻線67の間隔が広い部分が生じ得る。この場合、一次巻線67の位置に対する二次巻線69の位置に応じて当該二次巻線69に発生する誘導電圧が異なる場合がある。
【0043】
図5は、応用例1に係る高圧トランス57の一次コイル61の外観を模式的に示す図である。
図5に示すように、応用例1に係る一次コイル61は複数の一次巻線67を含む。一次巻線の本数は2本以上であれば如何なる本数でも良い。例えば、
図5においては、4本の一次巻線67が例示されており、第1の一次巻線67−1、第2の一次巻線67−2、第3の一次巻線67−3、及び第4の一次巻線67−4が順番に繰り返し鉄心65に巻かれている。
【0044】
巻き始め部側の複数の一次巻線67の口出しはインバータ53に並列接続されている。複数の一次巻線67は、鉄心65に沿って並べて順番に巻き始め部から巻き終わり部まで巻かれ、巻き始め部まで折り返される。複数の一次巻線67の巻き終わり部側の口出しはインバータ53に並列接続される。
【0045】
このように、複数の一次巻線67を並列的に巻くことにより、一次巻線67の間隔が過剰に広がることを防止することができ、ひいては、一次巻線67の位置に対する二次巻線69の位置に応じた当該二次巻線69の誘導電圧が変化することを防止することができる。また、複数の一次巻線67は、コイル設置範囲Rco1の中央部Rsに比して端部Rdにおいて間隔が密になるように、又は、端部Rdに比して中央部Rsにおいて間隔が疎になるように巻かれる。これにより、一次巻線67の間隔が過剰に広がることを防止しつつ、端部Rdに隣接する二次コイル63と中央部Rsに隣接する二次コイル63との鎖交する磁束を略一致させることができる。
【0046】
なお、一次コイル61が発生する磁束は、一次コイル61を流れる電流と一次巻線67の巻数との積に依存する。このため、一本の一次巻線67を鉄心65に巻いた場合と複数の一次巻線67を鉄心65に巻いた場合とで、一次コイル61が発生する磁束に変化は無い。例えば、一次巻線67が一本、巻数が10ターン、インバータ53から100Aの電流が供給された場合、磁束は10ターン×100A=1,000AT(アンペア・ターン)に比例する。一方、一次巻線67が4本の場合、各一次巻線67の巻数が10ターンであれば、各一次巻線に供給される電流は、100A/4=25Aとなる。この場合、一次巻線67は4本あるので、各一次巻線が発生する磁束は10ターン×25A=250ATに比例する。従って、一次巻線全体で発生する磁束は、250AT×4=1,000ATに比例する。このように、一本の一次巻線67を鉄心65に巻いた場合と複数の一次巻線67を鉄心65に巻いた場合とで、一次コイル61が発生する磁束ひいては誘導電圧に変化は無い。よって、複数の一次巻線67を設けることにより高圧整流平滑回路59に過剰な負荷が掛かることはない。このように、複数の一次巻線67を鉄心65に巻いた場合には、同一の磁束を発生させるために一本の一次巻線67に対して供給される電流が減少されるので、一次巻線67の断面積を減少させることができる。これにより、高圧トランス57を小型化することができる。また、一本の一次巻線67を鉄心65に巻いた場合と複数の一次巻線67を鉄心65に巻いた場合とでインバータ53の出力を変更する必要もないので、簡便に一次巻線67の位置に対する二次巻線69の位置に応じた当該二次巻線69の誘導電圧の変化を防止することができる。
【0047】
複数の一次巻線67の口出しが、中心軸Axcを中心とした鉄心65の円周方向に関して同一位置に偏って配置された場合、鉄心65の表面における巻き始めの部分と巻き終わりの部分とにおいて一次巻線67が存在しない場所が生じてしまう。この場合、当該場所に隣接する二次コイル63と一次巻線67に隣接する二次コイル63とで誘導電圧にばらつきが生じてしまう。
【0048】
図6は、応用例1に係る一次巻線67の口出しの位置を模式的に示す図である。
図5及び
図6に示すように、複数の一次巻線67の口出しは、鉄心65の円周方向に関して異なる位置に配置される。例えば、複数の一次巻線67の口出しは、鉄心65の円周方向に関して等角度間隔に配置されると良い。一次巻線67が4本の場合、一次巻線67の口出しが360°/4=90°間隔で配置されると良い。これにより複数の一次巻線67が鉄心65の表面に均等に分布するので、鉄心65の表面において一次巻線67が存在しない範囲を低減することができる。よって、一次巻線67の位置に対する二次巻線69の位置に応じて二次コイル63が発生する誘導電圧がばらつくことを更に低減することができる。
【0049】
以下、本実施形態の応用例2に係るX線高電圧装置133について説明する。
【0050】
上記の実施形態においては一次巻線67の巻き方を工夫することにより中央部Rsに隣接する二次コイル63と端部Rdに隣接する二次コイル63との誘導電圧を略一致させるものとした。しかしながら、二次巻線69の巻き方を工夫することにより中央部Rsに隣接する二次コイル63と端部Rdに隣接する二次コイル63との誘導電圧を略一致させても良い。
【0051】
図7は、応用例2に係るX線高電圧装置133の二次コイル63の巻数の位置変化と、高圧トランス57の構造とを位置整合して並べて示す図である。
図7に示すように、鉄心65には複数の一次巻線67が並列して順番に巻かれている。また、鉄心65の中心軸Axcに沿って複数の二次コイル63が配列されている。複数の二次コイル63の各々には、コイル設置範囲Rco1の端部Rdに隣接する二次巻線69の巻数が中央部Rsに隣接する二次巻線69の巻数に比して多くなるように、又は中央部Rsに隣接する二次巻線69の巻数が端部Rdに隣接する二次巻線69の巻数に比して少なくなるように各二次コイル63の二次巻線69が設けられる。
【0052】
二次コイル63に誘導される電圧は当該二次コイル63に鎖交する磁束と当該二次コイル63に含まれる二次巻線69の巻数との積に依存する。従って、応用例2に係る二次コイル63のように、中央部Rsに隣接する二次コイル63と端部Rdに隣接する二次コイル63との二次巻線69の巻数を調節することにより、中央部Rsに隣接する二次コイル63と端部Rdに隣接する二次コイル63とに誘導される電圧を略均等にすることができる。
【0053】
なお、複数の二次コイル63に誘導される電圧は、一次コイル61に流れる電流とコイル設置範囲Rco1における二次コイル63の位置とに応じて変動する。
図8は、コイル設置範囲Rco1における二次コイル63の位置毎の二次コイル63に誘導される電圧(誘導電圧)と一次コイル61に流れる電流との関係を示すグラフである。二次コイル63に誘導される電圧は電流の増加に伴い減少する。一次コイル61に流れる電流の増加に伴う二次コイル63に誘導される電圧の減少の度合いは、コイル設置範囲Rco1における二次コイル63の位置に応じて異なる。具体的には、
図8に示すように、コイル設置範囲Rco1の端部Rdに隣接する二次コイル63は、中央部Rsに隣接する二次コイル63に比して、電流の増加に伴う電圧の減少が大きい。複数の高圧整流平滑回路59の出力電圧を略一致させるため、複数の二次コイル63の誘導電圧を略一致させることが望ましい。よって、インバータ53は、複数の二次コイル63の誘導電圧が一致する電流Ibを一次コイル61に供給すると良い。電流Ibは、予め実験や予測計算等により決定されると良い。電流Ibが一次コイル61に供給されることにより、コイル設置範囲Rco1における二次コイル63の位置に依らず、複数の二次コイル63の誘導電圧を一致させ、ひいては、複数の高圧整流平滑回路59の出力電圧を一致させることができる。
【0054】
なお、応用例2において一次巻線67は、コイル設置範囲Rco1内の位置に応じて間隔を変えて巻かれるとした。しかしながら、本実施形態はこれに限定されない。すなわち、中央部Rsに隣接する二次コイル63と端部Rdに隣接する二次コイル63との二次巻線69の巻数を調節することによってのみ、中央部Rsに隣接する二次コイルと端部Rdに隣接する二次コイル63との誘導電圧を略一致することができるのであれば、一次巻線67は等間隔に巻かれても良い。
【0055】
また、上記の実施形態に係るX線高電圧装置133は、陽極接地型のX線管131に印加する高電圧を発生するための装置であるとした。しかしながら、本実施形態はこれに限定されない。例えば、本実施形態に係るX線高電圧装置133は、中性点接地型あるいは陰極接地型のX線管131に印加する高電圧を発生するための装置であっても良い。
【0056】
また、上記の説明においてX線コンピュータ断層撮影装置は、いわゆる第3世代であるとした。すなわち、X線コンピュータ断層撮影装置は、X線管131とX線検出器151とが1体となって被検体Sの周囲を回転する回転/回転型(ROTATE/ROTATE―TYPE)であるとした。しかしながら、本実施形態に係るX線コンピュータ断層撮影装置は、それのみに限定されない。例えば、X線コンピュータ断層撮影装置は、リング状に配列された多数のX線検出素子が固定され、X線管131のみが被検体の周囲を回転する固定/回転型(STATIONARY/ROTATE―TYPE)でも良い。
【0057】
上記の実施形態においてX線高電圧装置133は、X線コンピュータ断層撮影装置に設けられるとした。しかしながら、本実施形態に係るX線高電圧装置133は、X線診断装置に設けられても良い。以下、本実施形態の変形例について説明する。なお以下の説明において上記実施形態と略同一の機能を有する構成要素については、同一符号を付し、必要な場合にのみ重複説明する。
【0058】
図9は、本実施形態の変形例に係るX線診断装置の構成を示す図である。
図9に示すように、変形例に係るX線診断装置は、撮影台100とコンソール300とを有している。撮影台100は、例えば、C形状を有するアーム110を有している。アーム110は、互いに向き合うように配置されたX線管131とX線検出器155とを回転軸Z回りに回転可能に支持している。アーム110は、回転駆動部190から動力を受けて回転軸Z回りに一定の角速度で回転する。回転駆動部190は、撮影台制御部210からの駆動信号に従ってアーム110を回転させるための動力を発生する。
【0059】
X線管131にはX線高電圧装置133が接続されている。X線高電圧装置133は、撮影台制御部210による制御に従いX線管131に高電圧を印加し、フィラメント電流を供給する。X線高電圧装置133は、設定管電圧値と設定管電流値とを維持するようにX線管131に印加する高電圧とX線管131に供給するフィラメント電流とを調節する。
【0060】
X線検出器155は、二次元平面に配列された複数のX線検出画素を有する。各X線検出画素は、X線を検出し、検出されたX線の強度に応じた波高値を有する電気信号に変換する。各X線検出素子としては、例えば、X線を直接的に電気信号に変換する半導体検出器が用いられると良い。
【0061】
X線検出器155にはデータ収集器157が接続されている。データ収集器157は、撮影台制御部210による制御に従い、X線検出器155から電気信号を読み出し、検出されたX線の強度に応じたデジタル値を有する画像データを撮影角度毎に収集する。なお、撮影角度とは、Cアーム110の回転軸Z回りの角度を意味する。
【0062】
撮影台制御部210は、コンソール300内のシステム制御部45による指示に従って、撮影台100に含まれる各種機器の制御を統括する。例えば、撮影台制御部210は、回転駆動部190、X線高電圧装置133、及びデータ収集器157を制御する。具体的には、撮影台制御部210は、入力部41を介したユーザからの指示等に従いCアーム110を所定の位置に移動するように回転駆動部190を制御する。撮影台制御部210は、既定のX線条件に応じたX線がX線管131から発生されるようにX線高電圧装置133を制御する。架台制御部21は、X線管131からのX線の曝射タイミングに同期して画像データを収集するようにデータ収集器157を制御する。
【0063】
コンソール300は、画像補正部47、画像処理部35、I/F部37、表示部39、入力部41、主記憶部43、及びシステム制御部45を有する。I/F部37は、コンソール300と撮影台100との間の通信のためのインタフェースである。画像補正部47は、データ収集器157からの画像データに座標変換やログ圧縮、散乱線補正等の各種補正処理を施す。画像処理部35は、画像データに各種の画像処理を施す。表示部39は画像データ等を表示機器に表示する。入力部41は、入力機器を介してユーザからの指示を入力する。主記憶部43は、各種データを記憶する記憶装置である。システム制御部45は、変形例に係るX線診断装置の中枢として機能する。
【0064】
よって、本実施形態に係るX線高電圧装置133は、X線コンピュータ断層撮影装置だけでなくX線診断装置にも適用可能である。また、上記の実施形態においてX線コンピュータ断層撮影装置とX線診断装置とはX線スペクトラムのエネルギー積分値のデータを収集する電流積分方式であるとした。しかしながら、本実施形態はこれに限定されない。すなわち、本実施形態に係るX線コンピュータ断層撮影装置とX線診断装置とはX線スペクトラムに含まれるエネルギー帯域毎のデータを収集するフォトンカウンティング方式であっても良い。
【0065】
上記の説明の通り、本実施形態に係るX線高電圧装置133は、AC/DCコンバータ51、インバータ53、及び高電圧変換部55を有する。AC/DCコンバータ51は、直流電圧を発生する。インバータ53は、AC/DCコンバータ51からの直流電圧を交流電圧に変換する。高電圧変換部55は、インバータ53からの交流電圧をX線管131に印加するための直流高電圧に変換する。高電圧変換部55は、具体的には、高圧トランス57と複数の高圧整流平滑回路59とを有する。高圧トランス57は、鉄心65と一次コイル61と複数の二次コイル63とを有する。一次コイル61は、鉄心65の中心軸Ascに沿って巻かれた一次巻線67を有する。複数の二次コイル63は、鉄心65に沿って配列されている。複数の高圧整流平滑回路59は、複数の二次巻線69にそれぞれ接続され互いに直列的に接続されている。一次巻線67は、鉄心65の中央部に比して端部において間隔が密になるように、又は端部に比して中央部において間隔が疎になるように、鉄心65に沿って巻かれる。
【0066】
上記の構成により、本実施形態に係るX線高電圧装置133は、一次巻線67の鉄心65への巻き付けの間隔を調節することにより、複数の二次コイル63の取付け位置に応じた誘導電圧のばらつきを低減することができる。よって、複数の二次コイル63にそれぞれ接続された複数の高圧整流平滑回路59の出力電圧を略一定にすることができる。これにより、複数の二次コイル63の取付け位置に応じて誘導電圧のばらつきが生じていた従来とは異なり、耐圧不良や損傷が生じる虞が減少する。これにより、X線高電圧装置133の信頼性が向上する。また、複数の二次コイル63の取付け位置に応じて誘導電圧のばらつきが生じていた従来とは異なり、本実施形態によれば、複数の二次コイル63のうちの一番高い誘導電圧に応じて各二次コイル63や高圧整流平滑回路59を設計する必要がなくなる。換言すれば、誘導電圧の変動を加味して一番高価な定格に合わせるのではなく、設定管電圧と二次コイル63の個数とに応じて一律に決まる各二次コイル63の誘導電圧に応じた仕様で、二次コイル63や高圧整流平滑回路59を一律に設計することができる。よって、本実施形態によれば、二次コイル63や高圧整流平滑回路59の製造コストを低く抑えることができる。
【0067】
かくして本実施形態によれば、X線高電圧装置133の小型化を達成しつつ高信頼性を実現することが可能となる。
【0068】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。