(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6382082
(24)【登録日】2018年8月10日
(45)【発行日】2018年8月29日
(54)【発明の名称】回転加工工具
(51)【国際特許分類】
B25F 5/00 20060101AFI20180820BHJP
B23B 45/00 20060101ALI20180820BHJP
B24B 23/02 20060101ALI20180820BHJP
【FI】
B25F5/00 Z
B23B45/00 Z
B24B23/02
【請求項の数】3
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-237643(P2014-237643)
(22)【出願日】2014年11月25日
(65)【公開番号】特開2016-97486(P2016-97486A)
(43)【公開日】2016年5月30日
【審査請求日】2017年3月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000227386
【氏名又は名称】日東工器株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083895
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100175983
【弁理士】
【氏名又は名称】海老 裕介
(72)【発明者】
【氏名】青木 良知
(72)【発明者】
【氏名】村上 慶一
【審査官】
小川 真
(56)【参考文献】
【文献】
特開2011−036972(JP,A)
【文献】
特開2003−191154(JP,A)
【文献】
特開2013−018098(JP,A)
【文献】
米国特許第03837121(US,A)
【文献】
韓国公開特許第2010−0117890(KR,A)
【文献】
英国特許出願公告第1329230(GB,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25F 5/00
B23B 45/00
B24B 23/02
B25B 21/00
DWPI(Derwent Innovation)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータを内蔵する工具本体と、該モータに駆動連結される回転駆動シャフトと、を備える回転加工工具であって、
該回転駆動シャフトが、
該モータに駆動連結された基端部、及び先端部を有する第1シャフトと、
該第1シャフトの該先端部に駆動連結された基端部、及び加工部材が取付けられる先端部を有する第2シャフトと、
該第1シャフト及び該第2シャフトの間に設定され、該第2シャフトが該第1シャフトの側へ向かう動きを弾性変形しながら許容する弾性部材と、を有し、
該第1シャフトの該先端部が、該回転駆動シャフトの長手軸線に平行に延在する第1摺動面を有し、該第2シャフトの該基端部が、該長手軸線に平行に延在し該第1摺動面と摺動係合する第2摺動面を有しており、該第1摺動面と該第2摺動面とが摺動係合することにより該第2シャフトが該第1シャフトに対して該長手軸線の方向では相対的に変位可能であるが該回転駆動シャフトの回転方向では相対的に固定されるようにされ、
該第1シャフトの該先端部が該長手軸線の方向に延在して相互に摺動係合する凸部と凹部とのうちの一方を有し、該第1摺動面が該凸部と凹部とのうちの該一方の側面に形成されており、該第2シャフトの該基端部が該凸部と凹部とのうちの他方を有し、該第2摺動面が該凸部と凹部とのうちの該他方の側面に形成され、
該凸部には、該長手軸線を横断する方向で該凸部を貫通し該長手軸線の方向に延びる長穴が設けられ、該凹部には、該長手軸線を横断する方向で延在して該凸部の該長穴に受け入れられる軸部が設けられている、回転加工工具。
【請求項2】
該第1シャフトと該第2シャフトとのうちの少なくとも一方が該長手軸線の方向に延在する弾性部材収容穴を有しており、該弾性部材が該弾性部材収容穴内に挿入されて保持され、該弾性部材の一端が該第1シャフトに当接し、他端が該第2シャフトに当接するようにされている、請求項1に記載の回転加工工具。
【請求項3】
該第1及び第2シャフトの外周面を覆うように該工具本体から該長手軸線の方向に延在する筒状のシャフト保持部材と、該シャフト保持部材の内周面に保持され、該第1シャフトを回転自在に支持する第1軸受部材と、該シャフト保持部材の内周面に保持され、該第2シャフトを回転自在に支持する第2軸受部材と、をさらに備える、請求項1又は2に記載の回転加工工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転加工工具に関する。より詳細には、加工作業時に加工対象物から受ける反力を緩和させる緩衝機能を備えた回転加工工具に関する。
【背景技術】
【0002】
空気圧式や電動式の手持ち型の回転加工工具は、研削や切削などの加工作業中に回転駆動されている研削材や切削刃などの加工部材が加工対象物に食い込むなどして不意に大きな反力を受けて弾き飛ばされることがある。そのような現象が発生すると、回転している加工部材が加工対象物の別の場所に接触して加工対象物に傷を付けてしまう虞があり、好ましくない。
【0003】
回転加工工具が弾き飛ばされる現象を防止するために、例えば特許文献1に示されているような、研削対象物からの反力を緩和させる緩衝機能を備えた研削工具が開発されている。当該研削工具においては、研削刃から延びる軸が工具本体の筒状の回転駆動部に対して長手軸線の方向で摺動可能となるように取付けられている。回転駆動部と研削刃との間には軸を覆うようにしてバネが取付けられており、このバネの付勢力によって研削刃が前方に向けて押圧されるようになっている。また、研削刃の軸の外周面には長手軸線の方向に延在する溝が形成されており、この溝の中に回転駆動部から内方に延びるピンが受け入れられるようになっている。このピンと溝との係合により、研削刃は回転駆動部に対して長手軸線の方向では変位可能であるが回転方向では固定されるようになっている。このような構成により、研削刃が研削対象物に食い込むなどして反力を受けたときにバネが撓んで研削刃が研削対象物から逃げるように後退するようになるので、その反力はバネによって緩和され作業者が把持している工具本体にはあまり伝わらなくなる。このようにして、研削刃が研削対象物から大きな反力を受けても工具本体が弾き飛ばされることがないようにされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平2−95561号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に示されている上述の従来の研削工具においては、工具本体の回転駆動部と研削刃の軸との間での回転駆動力の伝達がピンと溝との係合によって行われているため、研削作業中にピンには大きな力が集中してかかる。特に研削刃が不意に大きな反力を受けた際には、ピンには瞬間的に大きな力がかかり、それによってピンが破損してしまう虞がある。また、溝に対してもごく狭い領域に応力が集中することになるため、ピンによって溝の側面に傷が付いたりへこみが形成されたりする虞もある。そうすると、ピンと溝との間の摺動抵抗が大きくなり、研削刃が反力を受けた際に滑らかに後退できなくなって、適切に反力を緩和させることができなくなってしまう虞もある。
【0006】
上記従来技術の課題に鑑み、本発明は、研削や切削などの加工作業時に受ける反力を緩和させる緩衝機能を構成する部分の耐久性を向上させることが可能な回転加工工具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち本発明は、
モータを内蔵する工具本体と、該モータに駆動連結される回転駆動シャフトと、を備える回転加工工具であって、
該回転駆動シャフトが、
該モータに駆動連結された基端部、及び先端部を有する第1シャフトと、
該第1シャフトの該先端部に駆動連結された基端部、及び加工部材が取付けられる先端部を有する第2シャフトと、
該第1シャフト及び該第2シャフトの間に設定され、該第2シャフトが該第1シャフトの側へ向かう動きを弾性変形しながら許容する弾性部材と、を有し、
該第1シャフトの該先端部が、該回転駆動シャフトの長手軸線に平行に延在する第1摺動面を有し、該第2シャフトの該基端部が、該長手軸線に平行に延在し該第1摺動面と摺動係合する第2摺動面を有しており、該第1摺動面と該第2摺動面とが摺動係合することにより該第2シャフトが該第1シャフトに対して該長手軸線の方向では相対的に変位可能であるが該回転駆動シャフトの回転方向では相対的に固定されるようにされた、回転加工工具を提供する。
【0008】
当該回転加工工具においては、第1シャフトと第2シャフトとの間における回転方向での係合が第1摺動面と第2摺動面とによる面接触によりなされるので、加工作業時において特に加工対象物から反力を受けた際に、従来のようにピンと溝とによって摺動係合している場合に比べて局所的な応力の集中が起きにくくなり、第1シャフトと第2シャフトとの連結部分における破損が生じる可能性を低減させることが可能となる。
【0009】
好ましくは、該第1シャフトの該先端部が該長手軸線の方向に延在して相互に摺動係合する凸部と凹部とのうちの一方を有し、該第1摺動面が該凸部と凹部とのうちの該一方の側面に形成されており、該第2シャフトの該基端部が該凸部と凹部とのうちの他方を有し、該第2摺動面が該凸部と凹部とのうちの該他方の側面に形成されているようにすることができる。
【0010】
より好ましくは、該凸部には、該長手軸線を横断する方向で該凸部を貫通し該長手軸線の方向に延びる長穴が設けられ、該凹部には、該長手軸線を横断する方向で延在して該凸部の該長穴に受け入れられる軸部が設けられているようにすることができる。
【0011】
このような構成により、第2シャフトの第1シャフトに対する長手軸線の方向での移動範囲を、軸部が長穴の両端面に当接する範囲内に制限することが可能となる。なお、第2シャフトの第1シャフトに対する回転方向での相対的な固定は第1摺動面と第2摺動面との間の係合によってなされているので、軸部と長穴の側面とが直接的には係合しないようにすることで軸部には回転方向での力がかからないようにして軸部が破損することを防止することも可能となる。
【0012】
該第1シャフトと該第2シャフトとのうちの少なくとも一方が該長手軸線の方向に延在する弾性部材収容穴を有しており、該弾性部材が該弾性部材収容穴内に挿入されて保持され、該弾性部材の一端が該第1シャフトに当接し、他端が該第2シャフトに当接するようにすることができる。
【0013】
弾性部材を回転駆動シャフトの内部に収容する構造とすることで、従来のようにシャフトの外周面を覆うようにバネを配置した構造に比べて、回転駆動シャフトの全体としての外径を小さくすることが可能となる。
【0014】
該第1及び第2シャフトの外周面を覆うように該工具本体から該長手軸線の方向に延在する筒状のシャフト保持部材と、該シャフト保持部材の内周面に保持され、該第1シャフトを回転自在に支持する第1軸受部材と、該シャフト保持部材の内周面に保持され、該第2シャフトを回転自在に支持する第2軸受部材と、をさらに備えるようにすることができる。
【0015】
加工作業中に高速で回転する回転駆動シャフトの第1及び第2シャフトがシャフト保持部材によって覆われるので、誤って回転駆動シャフトに手を触れて怪我をする危険性を低減することが可能となる。また、第1及び第2シャフトが第1及び第2軸受部材によってそれぞれ支持されているので、各シャフトの回転中の軸ぶれを抑えてより安定した加工作業を行えるようにすることも可能となる。
【0016】
以下、本発明に係る回転加工工具の実施形態を添付図面に基づき説明する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図2】第1シャフトと第2シャフトとの連結部分の分解斜視図である。
【
図3】
図1のIII−III線における断面図であって、起動操作部材が停止位置にあるときの図である。
【
図4】
図1のIII−III線における断面図であって、起動操作部材が駆動位置にあり、切替操作部材が正転位置にあるときの図である。
【
図6】起動操作部材が駆動位置にあるときの研削工具の側面断面図の一部である。
【
図7】
図1のVII−VII線における断面図である。
【
図8】
図1のIII−III線における断面図であって、起動操作部材が駆動位置にあり、切替操作部材が逆転位置にあるときの図である。
【
図10】
図4のV−V線における断面図であって、切替操作部材によって圧縮空気の流量を制限している状態での図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の一実施形態に係る研削工具10は、
図1に示すように、エアモータ12を内蔵する工具本体14と、エアモータ12に駆動連結された回転駆動シャフト16と、作業者が把持してエアモータ12の起動とエアモータ12の回転方向とをそれぞれ操作するための操作部18と、を備えた空気式の研削工具10であり、回転駆動シャフト16の先端に取付けられた研削材20をエアモータ12によって回転させ、該回転している研削材20を研削対象物に接触させることで該研削対象物の研削作業を行うようにしたものである。
【0019】
エアモータ12に駆動連結された回転駆動シャフト16は、回転駆動シャフト16の長手軸線Lの方向で互いに整列した状態で連結されている第1シャフト22と第2シャフト24とを有する。第1シャフト22の基端部22aは、カップリング26によってエアモータ12の回転駆動軸12aと駆動連結されている。第1シャフト22の先端部22bと第2シャフト24の基端部24aとは、後述するように、第2シャフト24が第1シャフト22に対して長手軸線Lでは変位可能であるが回転駆動シャフト16の回転方向では相対的に固定されるように連結されている。
【0020】
図2に示すように、第1シャフト22の先端部22bには長手軸線Lの方向に突出する凸部28が設けられており、第2シャフト24の基端部24aには長手軸線Lの方向に延在する凹部30が設けられている。凸部28の幅は凹部30の幅よりも僅かに小さくなるように設計されており、凸部28が凹部30内に長手軸線Lの方向で摺動可能に受け入れられるようになっている。凹部30には、長手軸線Lを垂直に横断する方向に延在するピン嵌合穴32が設けられており、このピン嵌合穴32にピン34が圧入されて凹部30を横断する軸部が形成されるようになっている。また、凸部28には、長手軸線Lを垂直に横断する方向で貫通し、長手軸線Lの方向に延びる長穴36が形成されている。この長穴36は、ピン34がその中を通る大きさの幅を有している。第2シャフト24には、凹部30の底面30bからさらに長手軸線Lの方向に延在するスプリング収容穴38と、凹部30の両側面においてスプリング収容穴38から延長するように長手軸線Lの方向の延びる円弧状断面のスプリング挿通面43とが形成されている。第1及び第2のスプリング座41、42を端部に備えるコイルスプリング40が、スプリング挿通面43を通してスプリング収容穴38内に収容されるようになっている。第1シャフト22と第2シャフト24とは、コイルスプリング40をスプリング収容穴38内に収容し、また凸部28を凹部30内に挿入して凸部28の長穴36と凹部30のピン嵌合穴32とが整合した状態で、ピン34を長穴36の中を通るようにしてピン嵌合穴32に挿入固定することにより、互いに長手軸線Lの方向で変位可能に連結される。第1シャフト22と第2シャフト24とが連結された状態においては、コイルスプリング40の一端40aが第1のスプリング座41を介して第1シャフト22の凸部28の先端部28bに当接し、他端40bが第2のスプリング座42を介して第2シャフト24のスプリング収容穴38の底部38a(
図1)に当接して、コイルスプリング40が第2シャフト24を第1シャフト22に対して前方に押圧するようになっている。このとき、第1シャフト22の長穴36の前端面36aにピン34が当接して、第2シャフト24の前方への移動は制限される。また、第2シャフト24が第1シャフト22の側に押されると、コイルスプリング40が弾性変形して、ピン34が長穴36の後端面36bに当接するまでの範囲内において、第2シャフト24が第1シャフト22の側へ向かって後退する動きを許容するようになっている。凸部28の両側面と凹部30の両側面とは、それぞれ長手軸線Lの方向に平行に延びて相互に摺動係合する第1摺動面28aと第2摺動面30aとを構成している。これら第1摺動面28aと第2摺動面30aとが摺動係合することにより、第2シャフト24が第1シャフト22に対して長手軸線Lでは変位可能であるが回転駆動シャフト16の回転方向では相対的に固定されるようになっている。第1シャフト22から第2シャフト24への回転駆動力の伝達は、第1摺動面28aと第2摺動面30aとの間の面接触によりなされるため、基本的にはピン34には回転方向での力はかからないようになっている。
【0021】
回転駆動シャフト16が上述のような構成となっていることにより、研削作業中において、第2シャフト24の先端部24bに取付けられている研削材20が研削対象物に食い込むなどして不意に大きな反力を受けた場合でも、研削材20が弾かれる動きをコイルスプリング40が弾性変形して吸収してその反力緩和するため、工具本体14や操作部18には大きな反力が伝わらなくなる。従って、研削材20が弾かれても工具本体14や操作部18は弾き飛ばされなくなる。
【0022】
なお、当該実施形態においては、第1シャフト22が凸部28を有し、第2シャフト24が凹部30を有するようになっているが、第1シャフト22が凹部30を有し、第2シャフト24が凸部28を有するようにしてもよい。また、ピン34を凸部28に固定し、ピン34を受け入れる長穴36を凹部30に設けるようにしてもよい。さらには、スプリング収容穴38は、第1シャフト22に設けてもよいし、第1シャフト22と第2シャフト24にそれぞれ部分的に設けてコイルスプリング40が第1シャフト22と第2シャフト24の双方にそれぞれ部分的に収容されるようにしてもよい。
【0023】
図1に示すように、工具本体14は、エアモータ12と、エアモータ12を収容するモータハウジング44とを有する。モータハウジング44には、第1シャフト22の外周面22cと第2シャフト24の外周面24cとを覆うように長手軸線Lの方向に延在する筒状のシャフト保持部材46が取付けられている。このシャフト保持部材46は、モータハウジング44に固定された基端側部材46aと、基端側部材46aに螺合された先端側部材46bとによって構成されている。シャフト保持部材46の基端側部材46aの内周面46cには1つの第1軸受部材48が保持されていて、この第1軸受部材48によって第1シャフト22が回転自在に支持されている。また、シャフト保持部材46の先端側部材46bの内周面46dには2つの第2軸受部材50が保持されていて、この第2軸受部材50によって第2シャフト24が回転自在に支持されている。回転駆動シャフト16はエアモータ12によって高速で回転駆動されるが、シャフト保持部材46によってその外周が覆われているので、研削作業中に作業者が回転中の回転駆動シャフト16に誤って触れて怪我をすることを防止できる。また、長く伸びる回転駆動シャフト16を第1及び第2軸受部材48、50によってその径方向から支持するようになっているので、回転駆動シャフト16の第1シャフト22及び第2シャフト24の回転中の軸ぶれを抑えてより安定した状態で研削作業を行えるようにもなっている。
【0024】
図1及び
図3に示すように、エアモータ12への圧縮空気の供給を操作するための操作部18は、空気の流路が形成された操作部本体52と、この操作部本体52の外周面52a上において該操作部本体52の長手軸線Mの方向で摺動可能に配置された筒状の起動操作部材54と、操作部本体52の外周面52a上において該操作部本体52の長手軸線Mに対する周方向で回転可能に配置された筒状の切替操作部材56と、を有している。後述するように、起動操作部材54を長手軸線Mの上方に向かって
図3に示す停止位置から
図4に示す駆動位置に移動させることでエアモータ12への圧縮空気の供給が開始される。また、切替操作部材56を
図5に示す正転位置から
図9に示す逆転位置に回転させることでエアモータ12の回転方向が正転(
図4で見て時計回り)から逆転(
図8で見て反時計回り)に切り替わるようになっている。
【0025】
圧縮空気供給源(図示しない)からの圧縮空気は、操作部本体52の給気口58から導入されていくつかの流路を通ってエアモータ12に供給され、エアモータ12からの排気が別の流路を通って排気口60から排気されるようになっている。
図3の状態では、起動操作部材54が停止位置にあり、給気口58から延びる給気路A1に連通する給気路A2が他の何れの流路にも連通していないため、圧縮空気はエアモータ12にまで供給されず、エアモータ12は駆動しない。起動操作部材54を
図4に示す駆動位置に移動させると、給気路A2が給気路A3に連通した状態となり、圧縮空気が矢印I1で示す方向に流れる。圧縮空気はさらに、
図5の矢印I2で示すように、給気路A4、切替操作部材56に形成された給排気路B1、及び給排気路B2を流れ、さらに
図4の矢印I3で示すように、給排気路B3及びモータハウジング44の給排気路B4を通ってエアモータ12の第1開口部12bからエアモータ12に供給される。そうするとエアモータ12は、第1開口部12bから流入する圧縮空気によって、
図4で見て時計回りに回転駆動され、それに伴って回転駆動シャフト16及び研削材20が正転方向に回転駆動される。エアモータ12内を通過した圧縮空気は第2開口部12cを通ってエアモータ12から排気され、矢印O1で示すように給排気路B5及び給排気路B6を通って流れる。圧縮空気はさらに、
図5の矢印O2で示すように給排気路B7、切替操作部材56に形成された給排気路B8、及び排気路C1を通り、さらに
図6の矢印O3で示すように排気路C2を通って排気口60から排気される。エアモータ12には、
図7に示すように、排気専用の第3開口部12dが設けられており、この第3開口部12dから排気された圧縮空気が、矢印O4に沿ってモータハウジング44の排気路C3を通り、さらに
図6の矢印O5で示すように排気路C4を通って排気口60から排気されるようになっている。なお、モータハウジング44と操作部18の操作部本体52との間には、隙間62が空いており、この隙間62を介して排気路C3と排気路C4とが連通するようになっている。また、
図4に示すように、給排気路B3と給排気路B4とは接続管64によって密封接続され、給排気路B5と給排気路B6とは接続管66によって密封接続されており、エアモータ12に供給される圧縮空気が隙間62には漏れないようになっている。
【0026】
切替操作部材56を
図9に示す位置にまで回転させると、矢印I1(
図8)に沿って流れてきた圧縮空気は、今度は
図9の矢印I4で示すように、給気路A4、切替操作部材56に形成された給排気路B8、及び給排気路B7を流れ、さらに
図8の矢印I5で示すように、給排気路B6及びモータハウジング44の給排気路B5を通ってエアモータ12の第2開口部12cからエアモータ12に供給される。そうするとエアモータ12は、第2開口部12cから流入する圧縮空気によって、
図8で見て反時計回りに回転駆動され、それに伴って回転駆動シャフト16及び研削材20が逆転方向に回転駆動される。エアモータ12内を通過した圧縮空気は第1開口部12bを通ってエアモータ12から排気され、矢印O6で示すように給排気路B4及び給排気路B3を通って流れる。圧縮空気はさらに、
図9の矢印O7で示すように給排気路B2、切替操作部材56に形成された給排気路B1、及び排気路C1を通り、さらに
図6の矢印O3で示すように排気路C2を通って排気口60から排気される。なお、このときもエアモータ12の第3開口部12dからの排気は矢印O4(
図7)とO5(
図6)とで示す順路で排気される。
【0027】
このように切替操作部材56の位置を
図5に示す正転位置と
図9に示す逆転位置との間で切り替えることにより、エアモータ12の回転方向を切り替えて研削材20の回転方向を変更できるようになっている。また、切替操作部材56を例えば
図10に示すような位置として、給気路A4の開口部68が切替操作部材56によって部分的に塞がれた状態とすることにより、給気路A4と給排気路B1との間の流体抵抗を大きくしてエアモータ12に供給される圧縮空気の流量を減らし、エアモータ12の回転速度を低減させることもできる。すなわち、切替操作部材56の位置を調整することにより、エアモータ12の回転方向を切り替えることができるとともに、エアモータ12の回転速度を調整することもできるようになっている。
【0028】
当該実施形態においては、エアモータ12の回転方向および回転速度を調整するための切替操作部材56が、圧縮空気の供給の開始と停止とを操作するための起動操作部材54とは別の部材として構成されている。そのため、例えば、切替操作部材56によってエアモータ12の回転方向と回転速度とを調整した後に起動操作部材54によってエアモータ12を一旦停止しても、切替操作部材56の位置はそのまま保持できるので、再び起動操作部材54によってエアモータ12の駆動を開始すれば、エアモータ12は停止前と同じように回転駆動される。したがって、エアモータ12を起動するたびにエアモータ12の回転方向と回転速度とを調整する必要はない。
【0029】
本発明においては、第1シャフト22と第2シャフト24との間における回転方向での係合が第1摺動面28aと第2摺動面30aとによる面接触によりなされるので、従来のピンと溝とによる点接触又は線接触による場合に比べて局所的な応力の集中が起きにくくなり、第1シャフト22と第2シャフト24の連結部分における破損が生じる可能性を低減させることが可能となっている。また、第1シャフト22と第2シャフト24との回転方向での係合が面接触であることにより、各摺動面に凹凸が形成される可能性も大きく低減させることが可能となる。
【0030】
なお、上記実施形態においては、コイルスプリング40によって反力を吸収するようにしているが、コイルスプリング40に替えてゴム部材などの他の弾性部材を利用することもできる。また、エアモータ12を駆動源とする空気式の研削工具10について説明をしたが、エアモータ12に替えて電動モータを駆動源とする電動式の研削工具とすることもできるし、加工部材として研削材20に替えて切削刃などの他の加工部材を取付けるようにして他の回転加工工具とすることもできる。
【符号の説明】
【0031】
研削工具10;エアモータ12;回転駆動軸12a;第1開口部12b;第2開口部12c;第3開口部12d;工具本体14;回転駆動シャフト16;操作部18;研削材20;第1シャフト22;基端部22a;先端部22b;外周面22c;第2シャフト24;基端部24a;先端部24b;外周面24c;カップリング26;凸部28;第1摺動面28a;先端部28b;凹部30;第2摺動面30a;底面30b;ピン嵌合穴32;ピン34;長穴36;前端面36a;後端面36b;スプリング収容穴38;底部38a;コイルスプリング40;第1のスプリング座41;第2のスプリング座42;スプリング挿通面43;モータハウジング44;シャフト保持部材46;基端側部材46a;先端側部材46b;内周面46c;内周面46d;第1軸受部材48;第2軸受部材50;操作部本体52;外周面52a;起動操作部材54;切替操作部材56;給気口58;排気口60;隙間62;接続管64;接続管66;開口部68;給気路A1〜A4;給排気路B1〜B8;排気路C1〜C4;長手軸線L;長手軸線M;