特許第6382094号(P6382094)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6382094
(24)【登録日】2018年8月10日
(45)【発行日】2018年8月29日
(54)【発明の名称】陸上型浮体式フラップゲート
(51)【国際特許分類】
   E02B 7/44 20060101AFI20180820BHJP
   E02B 7/50 20060101ALI20180820BHJP
【FI】
   E02B7/44
   E02B7/50
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-255032(P2014-255032)
(22)【出願日】2014年12月17日
(65)【公開番号】特開2016-113847(P2016-113847A)
(43)【公開日】2016年6月23日
【審査請求日】2017年6月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005119
【氏名又は名称】日立造船株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089462
【弁理士】
【氏名又は名称】溝上 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100129827
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 進
(72)【発明者】
【氏名】木村 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】平野 瑞樹
(72)【発明者】
【氏名】森井 俊明
(72)【発明者】
【氏名】山川 善人
(72)【発明者】
【氏名】宮本 訓兄
(72)【発明者】
【氏名】仲保 京一
【審査官】 亀谷 英樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−203275(JP,A)
【文献】 特開2012−241449(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2014/0140770(US,A1)
【文献】 特開2014−118774(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/097712(WO,A1)
【文献】 特許第181722(JP,C1)
【文献】 実開昭53−043727(JP,U)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0148346(US,A1)
【文献】 実開平04−108616(JP,U)
【文献】 特開平11−093148(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02B 7/40、7/42、7/44
E02B 7/46、7/50、7/20
E02B 3/04−3/14
E04H 9/00−9/16
F16H 55/32−55/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
後端側を支点として先端側が起立搖動する扉体を、扉体の起立揺動の支点軸方向に複数の連続配置した陸上型浮体式フラップゲートであって、
ぞれぞれの扉体に対応するカウンタウエイトと、
一端が前記それぞれの扉体の後端部に取り付けられ、他端が前記カウンタウエイトに取り付けられたワイヤロープと、
前記それぞれの扉体の後端側の前記支点よりも下方に隣接し、前記それぞれの扉体が起立又は倒伏の途中で前記ウエイトが最下限位置となるように前記ワイヤロープを案内するべく配置された固定滑車とを備え、
前記固定滑車の高さ位置変更可能であることを特徴とする陸上型浮体式フラップゲート。
【請求項2】
それぞれの扉体の後端部と隣接する位置に配置した固定滑車の高さ位置の変更は、当該固定滑車を回転自在に支持する固定座にねじ嵌合させたねじ軸の正逆回転により行うものであることを特徴とする請求項1に記載の陸上型浮体式フラップゲート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、高潮や津波対策として、防潮堤の堤体天端面などの径間の広い開口部に設置される陸上型の浮体式フラップゲートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、防潮堤の開口部に設置され、増水時、増水した水が生活空間に流れ込まないように、流入しようとする水の浮力を利用して扉体を起立させ、前記開口部を遮断する浮体式フラップゲートがある(例えば特許文献1)。
【0003】
前記浮体式フラップゲートでは、例えば図4に示すように、軸1を支点として起立搖動する扉体2の先端にワイヤロープ3の一端を取付け、当該ワイヤロープ3を固定滑車4a,4bを介して案内し、その他端にウエイト5を取付けている。
【0004】
前記固定滑車4a,4bは、扉体2が起立途中又は倒伏途中(図4(b)参照)でウエイト5が最下限位置となり、起立の開始時又は倒伏の完了前(図4(a)参照)には起立の補助又は倒伏の抵抗として作用する。一方、起立の完了前又は倒伏の開始時(図4(c)参照)には起立の抵抗又は倒伏の補助として作用する位置に設置する。
【0005】
このような浮体式フラップゲートを、防潮堤の堤体天端面に設置した場合、非常時のみ必要な高さが得られ、非常時以外は堤体の高さを低くできるので、陸側から海側の見晴らしがよくなって景観を阻害することがなくなる。
【0006】
この防潮堤の堤体天端面に設置する陸上型浮体式フラップゲートは、複数の扉体を連続して配置し、全ての扉体をほぼ同時に起立させることで、連続した防潮壁を構成する。
【0007】
この陸上型浮体式フラップゲートにおいて、隣接する扉体間はゴム膜により水密性を確保する一方、それぞれの扉体の先端を例えばワイヤロープで緩やかに連結することで、動作時における位相差を制限して動作時の各扉体の連動性を実現している。
【0008】
ところで、前記陸上型浮体式フラップゲートにおいて、ウエイトからの補助力を除いて、各扉体への作用が想定される外力は、主として、津波による波力や両端の扉体に生じる側部戸当りとの摺動抵抗が考えられる。
【0009】
前記陸上型浮体式フラップゲートに対して、図5に示すように、正面から津波が作用する場合、全ての扉体には、ほぼ同時に浮上力LFが作用するため、浮上動作は均一に行われる。しかしながら、両端の扉体2aについては、側部戸当り6との摺動抵抗FRによって、浮上動作が中央の扉体2bに比べてやや遅れる可能性がある。この場合、両端の扉体2aと、これら扉体2aに隣接する扉体2bを連結するワイヤロープに負荷が生じる。
【0010】
また、図6に示すように、斜めから津波が作用する場合、浸水の影響を先行して受ける扉体(図6では紙面上側の扉体2a)から順に浮上を開始するため、隣接する扉体に生じる動作開始時間の差によってワイヤロープに負荷が生じることが考えられる。
なお、図5,6中の21は防潮堤である。
【0011】
すなわち、前記陸上型浮体式フラップゲートでは、隣接する扉体に作用する外力に大きな差が生じた場合であっても、隣接する扉体はワイヤロープの張力によって連動することになるため、ワイヤロープには過剰な負荷が生じる可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2012−241449号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明が解決しようとする問題点は、陸上型浮体式フラップゲートでは、隣接する扉体に作用する外力に大きな差が生じた場合、隣接する扉体の先端を連結するワイヤロープには過剰な負荷が生じる可能性があるという点である。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、上記問題を解決するために、隣接する扉体に作用する外力に大きな差が生じた場合であっても、隣接する扉体の先端を連結するワイヤロープには過剰な負荷が生じないようにすることを目的としてなされたものである。
【0015】
ウエイトによる補助力が、主として、起立開始時の浮上に寄与するか、或いは起立完了時の制動に寄与するかは、扉体の後端部と隣接する位置に配置した固定滑車の高さ位置に依存する。
【0016】
具体的には、図1に示すように、扉体2の後端部と隣接する位置に配置した固定滑車4aの高さ位置を高くした場合は、浮上力LFと比較して制動力BFが作用する角度の範囲が増加する(図1(b)参照)。
【0017】
一方、図2に示すように、扉体2の後端部と隣接する位置に配置した固定滑車4aの高さ位置を低くした場合は、制動力BFと比較して浮上力LFが作用する角度の範囲が増加する(図2(b)参照)。
【0018】
従って、扉体の後端部と隣接する位置に配置した固定滑車の高さ位置を変更することで、側部戸当りとの摺動抵抗の影響や津波作用時の起立時間差に対応し、扉体の先端を連結するワイヤロープに過剰な負荷が生じないようにすることができる。
【0019】
本発明は、
上記考えに基づいて成されたものであり、
後端側を支点として先端側が起立搖動する扉体を、扉体の起立揺動の支点軸方向に複数の連続配置した陸上型浮体式フラップゲートであって、
ぞれぞれの扉体に対応するカウンタウエイトと、
一端が前記それぞれの扉体の後端部に取り付けられ、他端が前記カウンタウエイトに取り付けられたワイヤロープと、
前記それぞれの扉体の後端側の前記支点よりも下方に隣接し、前記それぞれの扉体が起立又は倒伏の途中で前記ウエイトが最下限位置となるように前記ワイヤロープを案内するべく配置された固定滑車とを備え、
前記固定滑車の高さ位置変更可能であることを最も主要な特徴としている。
【0020】
上記の本発明では、扉体ごとに扉体の後端部と隣接する位置に配置した固定滑車の高さ位置を調整することで、側部戸当りとの摺動抵抗の影響や、津波作用時の起立時間差に対応することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明では、それぞれの扉体の後端部と隣接する位置に配置した固定滑車の高さ位置を調整可能に構成するだけで、ウエイトの重量を扉体ごとに変更する等の設計変更を個別に行うことなく、側部戸当りとの摺動抵抗の影響や、津波作用時の起立時間差に対応して、扉体の先端を連結するワイヤロープへの負荷を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の陸上型浮体式フラップゲートの扉体の後端部と隣接する位置に配置した固定滑車の高さ位置を高くした場合の、起立途中の浮上力LFと制動力BFが作用する角度の範囲を説明する図であり、(a)は扉体の倒伏時、(b)は扉体の起立途中時、(c)は扉体の起立完了時である。
図2】本発明の陸上型浮体式フラップゲートの扉体の後端部と隣接する位置に配置した固定滑車の高さ位置を低くした場合の、図1と同様の図である。
図3】本発明の陸上型浮体式フラップゲートを示す概略構成図である。
図4】特許文献1で開示された一般的な浮体式フラップゲートにおける、扉体の起立又は倒伏動作の補助、起立又は倒伏完了前の制動を行う構成を説明する図であり、(a)は扉体の倒伏時、(b)は扉体の起立又は倒伏途中時、(c)は扉体の起立完了時である。
図5】陸上型浮体式フラップゲートの正面から津波が作用する場合の扉体に作用する浮上力と両端の扉体に作用する側部戸当りとの摺動抵抗について説明する図である。
図6】陸上型浮体式フラップゲートの斜めから津波が作用する場合の図5と同様の図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明は、陸上型浮体式フラップゲートでは、隣接する扉体に作用する外力に大きな差が生じた場合、隣接する扉体の先端を連結する例えばワイヤロープには過剰な負荷が生じる可能性があるという課題を解決するものである。
【0024】
そして、前記課題を、それぞれの扉体の後端側に配置した固定滑車のうち、扉体の後端部と隣接する位置に配置した固定滑車の高さ位置を変更可能に構成することで実現した。
【実施例】
【0025】
以下、本発明の実施例を、図3を用いて詳細に説明する。
図3は本発明の陸上型浮体式フラップゲートを示す概略構成図である。
【0026】
図3において、11は例えば防潮堤12の堤体天端面12aに設置する本発明の陸上型浮体式フラップゲートである。この陸上型浮体式フラップゲート11は、高潮や津波の発生時、防潮堤12を越えて押し寄せてきた海水により、陸側に位置する後端側に設けた軸1を支点として、海側に位置する先端側が起立して、防潮堤12より陸側に海水が流れ込まないようにする。なお、図3では、紙面右側が海側、紙面左側が陸側である。
【0027】
この陸上型浮体式フラップゲート11は、一列に並べた複数の扉体間の水密性をゴム膜により確保する一方、それぞれの扉体2a,2bの先端をワイヤロープ(図示せず)で緩やかに連結することで、扉体2a,2bが起立搖動する時の各扉体2a,2bの連動性を実現している。
【0028】
ここで、2aは図5,6に示す両端の扉体を、また、2bは中央の扉体を指している。また、前記軸1はこれら扉体2a,2bの両側面に設けられ、防潮堤12の陸側の側面にボルト8で固定したコ字状金物7の上側フランジ部に回転自在に支持されている。なお、軸1を回転可能に支持できるものであれば、図3に示したコ字状金物7に限らず、どのような金物であってもよい。
【0029】
前記それぞれの扉体2a,2bの後端面の中央部にワイヤロープ3の一端を取付け、このワイヤロープ3の他端に、それぞれの扉体2a,2bの後端部の陸側に配置した、例えば2個の固定滑車4a,4bを介してウエイト5を取付けている。
【0030】
前記2個の固定滑車4a,4bのうち、一方の固定滑車4aはそれぞれの扉体2a,2bの後端部と隣接する位置に配置し、他方の固定滑車4bはウエイト5の直上で、かつ固定滑車4aよりも高い位置に配置している。
【0031】
このように固定滑車4a,4bを配置することで、それぞれの扉体2a,2bが起立又は倒伏の途中で、その上端部に他方の固定滑車4bを回転自在に設けたガイド13に沿って昇降動するウエイト5が最下点となり、起立又は倒伏の開始時には起立又は倒伏を補助する一方、起立又は倒伏の完了前には起立又は倒伏の抵抗として作用する。
【0032】
本発明は、固定滑車4a,4bのうち、それぞれの扉体2の後端部と隣接する位置に配置する一方の固定滑車4aを、例えば図3に示すように、その高さ位置を変更可能なように構成している。
【0033】
14は前記ガイド13の扉体側に隣接して設けたガイドであり、一方の固定滑車4aを回転自在に支持する固定座15を昇降動自在に設けている。16は正逆回転が自在なように前記ガイド14に取付けたねじ軸であり、このねじ軸16を前記固定座15にねじ嵌合することで、ねじ軸16の正逆回転により固定座15が前記ガイド14に沿って昇降動して一方の固定滑車4aの高さ位置を変更する。
【0034】
上記構成の本発明の陸上型浮体式フラップゲート11は、正面から津波が作用すると考えられる場合は、摺動抵抗FRを受ける両端の扉体2aのみ、一方の固定滑車4aの高さ位置を低くして、浮上動作時の補助力を向上させ、起立完了前の制動力を減少させる。このようにすることで、中央の扉体4bとの連動性が向上する。
【0035】
また、斜め方向から津波が作用すると考えられる場合は、先行して浮上する扉体の一方の固定滑車4aの高さ位置を高くして、浮上補助力を減少させ、起立完了前の制動力を増加させる。一方、遅れて浮上する扉体の一方の固定滑車4aの高さ位置を低くして、浮上補助力を向上させ、起立完了前の制動力を減少させる。このようにすることで、全体としての連動性が向上する。この場合、隣接する扉体の一方の固定滑車4aの高さ位置を僅かずつ異ならせることで、隣接する扉体の補助力の効き方に急激な差が出ないようにする。
【0036】
なお、津波の入射方向の予測は、数値シミュレーションによって行われる津波の伝搬の予測計算を基に推定すればよい。また、津波が斜め方向から来襲した場合であっても、津波が引く際は斜め方向ではなく扉体と平行と考えられるが、津波が引く水位低下時と比較して水位が増加する津波来襲時の方が扉体の応答が急激となる。従って、扉体の一方の固定滑車4aの高さ位置は、水位が上昇する津波の来襲時を優先して決定する。
【0037】
上記本発明の陸上型浮体式フラップゲート11では、ウエイト5の重量を扉体ごとに変更するなどの個別に設計を変更することなく、津波の進入角度に応じた調整を容易に行うことができ、扉体2a,2bの先端を連結するワイヤロープへの負荷を軽減することができる。
【0038】
本発明は、前記の例に限るものではなく、各請求項に記載の技術的思想の範疇であれば、適宜実施の形態を変更しても良いことは言うまでもない。
【0039】
例えば、一方の固定滑車4aの高さ位置を変更する構成は、水没した際の影響がないものであれば、図3に示した構成に限らない。
また、以上に示した実施例は、
後端側を支点として先端側が起立搖動する複数の連続配置した扉体2a,2bを有する陸上型浮体式フラップゲート11であって、
前記それぞれの扉体2a,2bの後端部に一端を取付けたワイヤロープ3の他端にウエイト5を取付ける一方、前記それぞれの扉体2a,2bが起立又は倒伏の途中で前記ウエイト5が最下限位置となり、起立又は倒伏の開始時には起立又は倒伏を補助する一方、起立又は倒伏の完了前には起立又は倒伏の抵抗として作用するように、前記それぞれの扉体2a,2bの後端側に前記ワイヤロープ3を案内する固定滑車4a,4bを配置した構成であり、
前記それぞれの扉体2a,2bの後端側に配置した固定滑車4a,4bのうち、扉体の後端部と隣接する位置に配置した固定滑車4aの高さ位置を変更可能に構成した陸上型浮体式フラップゲート11について説明している。
【符号の説明】
【0040】
1 軸
2a 両端の扉体
2b 中央の扉体
3 ワイヤロープ
4a 一方の固定滑車
4b 他方の固定滑車
5 ウエイト
6 側部戸当り
11 陸上型浮体式フラップゲート
14 ガイド
15 固定座
16 ねじ軸
図1
図2
図3
図4
図5
図6