(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
第一の高透磁率材料から離れて配置されて該第一の高透磁率材料との間にギャップを形成する第二の高透磁率材料をさらに含み、該ギャップが低透磁率材料で満たされている、請求項1記載のマイクロ流体デバイス。
高透磁率材料が、ニッケル、コバルト、ニッケル・鉄合金、SiFe合金、FeAlN合金、CoFe合金、CoFeNi、鋼、磁性粒子を含むポリマー複合材、磁性粒子を含むガラス複合材、および磁性粒子を含むセラミック複合材からなる群より選択される、請求項1〜10のいずれか1項記載のマイクロ流体デバイス。
2つ以上の磁石のアレイを含み、該アレイ中の各磁石の磁場が該アレイ中の隣接磁石まで延びるように、各磁石が、該アレイ中の隣接磁石の磁極配向とは反対である磁極配向を有している、請求項1〜15のいずれか1項記載のマイクロ流体デバイス。
マイクロ流体チャネルの中心縦軸が、低透磁率材料と高透磁率材料との間の境界面に対して角度をなして配置されているかまたは該境界面から横方向にオフセットされている、請求項31記載のマイクロ流体カートリッジ。
高透磁率材料の第一の表面および低透磁率材料の第一の表面がパッシベーション層と直接接触しており、該パッシベーション層から計測される該低透磁率材料の厚さが該高透磁率材料の厚さを上回る、請求項31〜33のいずれか1項記載のマイクロ流体カートリッジ。
高透磁率材料の第一の表面および低透磁率材料の第一の表面が磁化可能層の表面を形成し、該磁化可能層の表面から計測される該低透磁率材料の厚さが該高透磁率材料の厚さを上回る、請求項35〜37のいずれか1項記載のマイクロ流体機器。
【発明の概要】
【0003】
概要
概して、本開示の1つの局面は、デバイスのマイクロ流体チャネル内を流れる粒子を選別するために高い磁場勾配を用いるマイクロ流体デバイスとして具現化することができる。デバイスは、1つまたは複数の磁石と、低透磁率領域を包囲する高透磁率領域を有する層とを含むことができる。高透磁率領域は、磁場線が低透磁率領域上に延びて高い磁場勾配のフリンジング磁束場を確立するような、1つまたは複数の磁石から出る磁束線のための好ましい経路を提供する。次に、チャネルフロアから少なくとも20μmの距離で少なくとも約10
3T/mである高い磁場勾配を使用して、隣接マイクロ流体チャネル内を流れる磁性粒子上に磁力を確立して選別することができる。
【0004】
本開示の一般的局面1にしたがって、各磁石が磁場を放出するように作動可能である1つまたは複数の磁石と、1つまたは複数の磁石に隣接する磁化可能層であって、少なくとも1つの磁石の磁場中に、磁化可能層の表面から少なくとも20μm離れた位置で少なくとも10
3T/mである勾配を誘導するように構成されており、第一の高透磁率材料、および高透磁率材料に隣接して配置された低透磁率材料を含む、磁化可能層と、磁化可能層の表面に配置されたマイクロ流体チャネルであって、マイクロ流体チャネルの中心縦軸が高透磁率材料と低透磁率材料との間の境界面に対して角度をなして配置されているかまたは該境界面から横方向にオフセットされている、マイクロ流体チャネルとを含む、マイクロ流体デバイスが提供される。
【0005】
前記および他の態様それぞれは、場合によって、以下の特徴の1つまたは複数を単独で、または組み合わせて含むことができる。たとえば、局面2において、局面1にしたがって、高透磁率材料および低透磁率材料は細長い。局面3において、局面2〜3のいずれか1つにしたがって、デバイスはさらに、第一の高透磁率材料から離れて配置されて第一の高透磁率材料との間にギャップ(たとえば均一なギャップ)を形成する第二の高透磁率材料を含み、ギャップは低透磁率材料で満たされている。局面4において、局面3にしたがって、ギャップ中の低透磁率材料は磁化可能層の残りの部分中の低透磁率材料と同じである。
【0006】
局面5において、局面1〜4のいずれか1つにしたがって、勾配は、磁化可能層の表面から少なくとも20μm離れた位置で少なくとも10
4T/m、たとえば磁化可能層の表面から少なくとも50μm離れた位置で少なくとも10
4T/mであることができる。
【0007】
局面6において、局面1〜5のいずれか1つにしたがって、高透磁率材料の厚さは約10μm以上、たとえば約100μm以上または約1mm以上である。
【0008】
局面7において、局面1〜6のいずれか1つにしたがって、高透磁率材料の飽和磁束密度は1Tを上回り、たとえば1.5Tを上回る。局面8において、局面1〜6のいずれか1つにしたがって、飽和磁束密度は約1.8Tであることができる。
【0009】
局面9において、局面1〜8のいずれか1つにしたがって、マイクロ流体デバイスは、1つまたは複数の磁石と磁化可能層との間に低透磁率スペーサ層を含む。
【0010】
局面10において、局面3〜9のいずれか1つにしたがって、ギャップの厚さは第一の高透磁率材料および第二の高透磁率材料のそれぞれの厚さ以下である。
【0011】
局面11において、局面1〜10のいずれか1つにしたがって、角度は斜角、たとえば鋭角、たとえばデバイスのマイクロ流体チャネルの縦軸から計測して約0.5°〜約30°、たとえば1°、2°、3°、5°、10°、15°、20°または25°の角度である。
【0012】
局面12において、局面1〜11のいずれか1つにしたがって、高透磁率材料は鉄を含む。局面13において、局面1〜12のいずれか1つにしたがって、高透磁率材料は、鉄、ニッケル、コバルト、ニッケル・鉄合金、SiFe合金、FeAlN合金、CoFe合金、CoFeNi、鋼、磁性粒子を含むポリマー複合材、磁性粒子を含むガラス複合材、および磁性粒子を含むセラミック複合材を含む群またはそれらからなる群より選択される。
【0013】
局面14において、局面1〜13のいずれか1つにしたがって、マイクロ流体デバイスは、マイクロ流体チャネルの上面および側面を画定する細長いカバーを含む。
【0014】
局面15において、局面1〜14のいずれか1つにしたがって、低透磁率材料は非磁性材料、たとえばポリマーまたは空気であることができる。
【0015】
局面16において、局面1〜15のいずれか1つにしたがって、マイクロ流体デバイスは、磁化可能層の表面に配置されかつマイクロ流体チャネルの底面を形成する、パッシベーション層を含む。
【0016】
局面17において、局面1〜16のいずれか1つにしたがって、低透磁率材料の幅は、磁化可能層の第一の側から磁化可能層の第二の反対側に向けて狭まっていることができる。
【0017】
局面18において、局面1〜17のいずれか1つにしたがって、マイクロ流体デバイスは、2つ以上の磁石のアレイを含み、アレイ中の各磁石の磁場がアレイ中の隣接磁石まで延びるように、各磁石が、アレイ中の隣接磁石の磁極配向とは反対である磁極配向を有している。局面19において、局面18にしたがって、細長い低透磁率材料は、アレイの2つの隣接磁石の間の境界面と実質的に整列していることができる。
【0018】
局面20において、局面1〜19にしたがって、マイクロ流体デバイスは、偏向チャネルと、偏向チャネルから分かれた出力チャネルとを含み、出力チャネルおよび偏向チャネルの両方はマイクロ流体チャネルの出口に流体連結されている。
【0019】
局面21において、局面1〜20にしたがって、磁化可能層は、細長い低透磁率材料の複数のピースを含むことができ、低透磁率材料の各ピースが高透磁率材料中の対応する細長いギャップ内に配置されている。局面22において、局面21にしたがって、複数の細長いギャップは平行に配置されることができる。局面23において、局面21〜22のいずれか1つにしたがって、少なくとも1つのギャップの厚さは高透磁率材料の厚さを完全に通過して延びることができる。局面24において、局面21〜23のいずれか1つにしたがって、低透磁率材料のピースの1つまたは複数に関して、1つまたは複数のピースそれぞれの幅は、対応するピースと関連する中心縦軸に沿って狭まっている。
【0020】
本開示のもう1つの一般的局面25にしたがって、各磁石が磁場を放出するように作動可能である1つまたは複数の磁石と、1つまたは複数の磁石の表面に配置された磁化可能層であって、高透磁率材料および高透磁率材料に隣接するかまたは少なくとも部分的に接する低透磁率材料を含み、高透磁率材料の厚さが10μmを上回り、高透磁率材料の飽和磁束密度が0.2Tを上回り、該磁化可能層が、少なくとも1つの磁石の磁場中に勾配を誘導するように構成されている、磁化可能層と、磁化可能層の表面に配置されたマイクロ流体チャネルであって、マイクロ流体チャネルの中心縦軸が低透磁率材料と高透磁率材料との間の境界面に対して角度をなして配置されているかまたは該境界面から横方向にオフセットされている、マイクロ流体チャネルとを含む、マイクロ流体デバイスが提供される。
【0021】
局面26において、局面25にしたがって、デバイスはさらに、偏向チャネルと、偏向チャネルから分かれた出力チャネルとを含み、出力チャネルおよび偏向チャネルの両方はマイクロ流体チャネルの出口に流体連結されている。
【0022】
本開示のもう1つの一般的局面27にしたがって、局面20〜24および26のいずれか1つのマイクロ流体デバイスを使用して標的分析物を選別する方法であって、標的分析物および標的分析物に結合した1つまたは複数の磁性粒子を含む流体サンプルをマイクロ流体チャネルに通して流す工程と、マイクロ流体デバイスの作動中、流体サンプルを磁場中の勾配に曝露する工程であって、磁場中の勾配が標的分析物を流体サンプルの当初の流体流軌道から離れてチャネルに向かって偏向させる、工程と、偏向チャネルの出口で標的分析物を捕集する工程とを含む、方法が提供される。
【0023】
前記および他の態様それぞれは、場合によって、以下の特徴の1つまたは複数を単独で、または組み合わせて含むことができる。たとえば、局面28において、局面27にしたがって、1つまたは複数の磁性粒子は、超常磁性ビーズ、反磁性ビーズ、強磁性ビーズおよびそれらの組み合わせからなる群を含む、またはそれから選択されることができる。局面29において、局面27〜28のいずれか1つにしたがって、標的分析物に結合した磁性粒子の数に対する標的分析物のサイズの比は、約10μmを上回るか、または約15μmを上回るか、または約20μmを上回るか、または約25μmを上回ることができる。局面30において、局面27〜29のいずれか1つにしたがって、1つまたは複数の磁性粒子は、約0.5μm以下または約0.1μm以下の直径を有することができる。局面31において、局面27〜30のいずれか1つにしたがって、1つまたは複数の磁性粒子は約35kA/m以下の磁気モーメントを有する。
【0024】
局面32において、局面27〜31のいずれか1つにしたがって、方法はさらに、磁場を周期的にオンおよびオフにする工程を含む。
【0025】
本開示のもう1つの一般的局面33にしたがって、マイクロ流体デバイスを製造する方法であって、各磁石が磁場を放出するように作動可能である1つまたは複数の磁石を提供する工程と、1つまたは複数の磁石に隣接する磁化可能層を形成する工程であって、磁化可能層が、少なくとも1つの磁石の磁場中に勾配を誘導するように構成されており、勾配が、磁化可能層の表面から少なくとも20μm離れた位置で少なくとも10
3T/mである、工程と、磁化可能層の表面にマイクロ流体チャネルを形成する工程とを含む、方法が提供される。
【0026】
前記および他の態様それぞれは、場合によって、以下の特徴の1つまたは複数を単独で、または組み合わせて含むことができる。たとえば、局面34において、局面33にしたがって、磁化可能層を形成する工程は、高透磁率材料の層を提供する工程、および高透磁率材料中に1つまたは複数の細長いギャップを形成する工程を含む。局面35において、局面34にしたがって、高透磁率材料の層を提供する工程は、高透磁率材料の層を鋳造する工程、高透磁率材料の層を成形する工程、高透磁率材料の層を熱成形する工程、またはスパッタリング、熱付着、プラズマ付着、電気めっき、もしくは電子ビーム付着を使用して高透磁率材料の層を付着させる工程を含むことができる。局面36において、局面34にしたがって、高透磁率材料の層を提供する工程は、1つまたは複数の磁石の表面に磁気テープを配置する工程を含むことができる。局面37において、局面34〜36のいずれか1つにしたがって、1つまたは複数の細長いギャップを形成する工程は、高透磁率材料の層を機械加工する工程を含むことができる。局面38において、局面37にしたがって、方法は、高透磁率材料の層の厚さ全体を通して機械加工する工程をさらに含む。
【0027】
局面39において、局面34〜38のいずれか1つにしたがって、方法は、1つまたは複数の細長いギャップを低透磁率材料、たとえば非磁性材料で満たす工程をさらに含み、たとえば、1つまたは複数の細長いギャップを満たす工程は、低透磁率材料の射出成形または低透磁率材料の熱エンボス加工を使用する工程を含む。
【0028】
局面40において、局面34〜39のいずれか1つにしたがって、方法は、マイクロ流体チャネルの中心縦軸を細長いギャップの少なくとも1つに対して角度をなして配置する工程を含む。
【0029】
局面41において、局面34〜40のいずれか1つにしたがって、方法はさらに、低透磁率基材、たとえば非磁性基材を1つまたは複数の磁石の表面に配置する工程と、低透磁率基材、たとえば非磁性基材の表面に磁化可能層を形成する工程とを含む。
【0030】
本開示のもう1つの一般的局面42にしたがって、各磁石が磁場を放出するように作動可能である1つまたは複数の磁石と、1つまたは複数の磁石に隣接する磁化可能層であって、第一の高透磁率部分および少なくとも1つの低透磁率部分を含む、磁化可能層と、磁化可能層に隣接するマイクロ流体チャネルであって、第一の分析物単離領域、および第一の分析物単離領域に流体連結された第二の分析物単離領域を含み、磁化可能層が、少なくとも1つの磁石の磁場中に勾配を誘導するように構成されており、第一の分析物単離領域中に誘導される磁場勾配が、第二の分析物単離領域中に誘導される磁場勾配とは異なり、第一の分析物単離領域および第二の分析物単離領域の少なくとも1つ中に誘導される磁場勾配が、磁化可能層の表面から少なくとも20μm離れた位置で少なくとも10
3T/mである、マイクロ流体チャネルとを含む、マイクロ流体デバイスが提供される。
【0031】
本開示のもう1つの一般的局面43にしたがって、高透磁率材料および高透磁率材料に隣接するかまたは少なくとも部分的に接する低透磁率材料を含む、磁化可能層と、磁化可能層の表面に配置されたマイクロ流体チャネルであって、該マイクロ流体チャネルの中心縦軸が高透磁率材料と低透磁率材料との間の境界面に対して角度をなして配置されているかまたは該境界面から横方向にオフセットされている、マイクロ流体チャネルと、磁化可能層の表面に配置されかつマイクロ流体チャネルの底面を形成するパッシベーション層とを含み、磁化可能層の表面が1つまたは複数の磁石に取り外し可能に固定されるように構成されている、マイクロ流体カートリッジが提供される。
【0032】
局面44において、局面43にしたがって、磁化可能層の表面は、1つまたは複数の磁石の対応する区域の中に取り外し可能にロックされるように構成された突起構造を含む。
【0033】
局面45において、局面43〜44のいずれか1つにしたがって、マイクロ流体チャネルの中心縦軸は、低透磁率材料と高透磁率材料との間の境界面に対して角度をなして配置されているか、または該境界面から横方向にオフセットされている。
【0034】
局面46において、局面43〜45のいずれか1つにしたがって、低透磁率材料は、高透磁率材料中のギャップ内にまたは高透磁率材料の別々のピースの間に配置されている。
【0035】
局面47において、局面43〜46のいずれか1つにしたがって、高透磁率材料の第一の表面および低透磁率材料の第一の表面はパッシベーション層と直接接触しており、パッシベーション層から計測される低透磁率材料の厚さは高透磁率材料の厚さを上回る。
【0036】
本開示のもう1つの一般的局面48にしたがって、各磁石が磁場を放出するように作動可能である1つまたは複数の磁石と、1つまたは複数の磁石に隣接して配置された磁化可能層であって、少なくとも1つの磁石の磁場中に勾配を誘導するように構成されており、高透磁率材料および高透磁率材料に隣接するかまたは少なくとも部分的に接する低透磁率材料を含む、磁化可能層とを含み、磁化可能層の表面が、マイクロ流体カートリッジに取り外し可能に固定されるように構成されている、マイクロ流体機器が提供される。
【0037】
局面49において、局面48にしたがって、磁化可能層の表面は、マイクロ流体カートリッジの対応する区域の中に取り外し可能にロックされるように構成された突起構造を含む。
【0038】
局面50において、局面48〜49のいずれか1つにしたがって、低透磁率材料は、高透磁率材料中のギャップ内にまたは高透磁率材料の別々のピースの間に配置されている。
【0039】
局面51において、局面48〜50のいずれか1つにしたがって、高透磁率材料の第一の表面および低透磁率材料の第一の表面が磁化可能層の表面を形成し、磁化可能層の表面から計測される低透磁率材料の厚さは高透磁率材料の厚さを上回る。
【0040】
本開示のもう1つの一般的局面52にしたがって、局面1〜26および42〜47のいずれか1つのマイクロ流体デバイスまたはマイクロ流体カートリッジを使用して標的分析物を選別する方法が提供される。方法は、標的分析物および標的分析物に結合した1つまたは複数の磁性粒子を含む流体サンプルをマイクロ流体チャネルに通して流す工程と、マイクロ流体デバイスまたはマイクロ流体カートリッジの作動中、流体サンプルを磁場中の勾配に曝露する工程であって、磁場中の勾配が標的分析物の軌道を流体サンプルの当初の流体流軌道から離れる方向に偏向させる、工程とを含む。
【0041】
局面53において、局面52にしたがって、磁場中の勾配は、標的分析物に対し、磁化可能層に向かう第一の方向に力を及ぼす。局面54において、局面53にしたがって、磁場中の勾配はまた、標的分析物に対し、第一の方向とは異なる第二の方向にも力を及ぼす。局面55において、局面3にしたがって、ギャップの幅は、約100nm以上、たとえば約500nm以上、約1μm以上、約10μm以上、約50μm以上、約75μm以上、または約100μm以上である。
【0042】
局面56において、局面1〜26および42〜51のいずれか1つにしたがって、マイクロ流体チャネルはカーブしている。局面57において、局面1〜26、42〜51および56のいずれか1つにしたがって、高透磁率材料と低透磁率材料との間の境界はカーブしている。局面58において、局面48〜51のいずれか1つにしたがって、機器は、マイクロ流体カートリッジに対する複数の異なる向きのいずれか1つで該マイクロ流体カートリッジに取り外し可能に固定されるように構成されている。
【0043】
局面59において、局面1〜58のいずれか1つにしたがって、高透磁率材料は、低透磁率材料の比透磁率よりも少なくとも約4大きい比透磁率を有する。局面60において、局面1〜59のいずれか1つにしたがって、高透磁率材料は、少なくとも約5である比透磁率を有する。
【0044】
本明細書において使用される「リンクされた」とは、共有結合、非共有結合または他の結合、たとえばファンデルワールス力によって付着または結合していることをいう。
【0045】
本明細書において使用される「特異的に結合する」とは、1つの分子、たとえば結合成分、たとえばオリゴヌクレオチドまたは抗体が、サンプル中の他の分子の存在において、別の分子、たとえば標的分子、たとえば核酸またはタンパク質、たとえば細胞表面マーカに優先的に結合することをいう。
【0046】
本明細書において使用される「磁気モーメント」とは、磁性材料が磁場と整列する傾向である。
【0047】
本明細書において使用される「飽和磁束密度」とは、材料が完全に磁化しているとき、すなわち、磁場をさらに増強しても磁束密度の増加がほとんどないときの材料の磁束密度である。
【0048】
本明細書において使用される「磁化可能」とは、磁化されることができることをいうものと理解される。
【0049】
別段定義されない限り、本明細書において使用されるすべての専門用語および科学技術用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって一般に理解されるものと同じ意味を有する。本明細書に記載されるものに類似する、またはそれらと均等である方法、材料および装置を使用して本発明を実施または試験することができるが、適当な方法、材料および装置を以下に記す。本明細書において挙げられるすべての刊行物、特許出願、特許および他の参考文献は参照により全体として本明細書に組み入れられる。矛盾する場合、本明細書が、定義を含め、優先する。加えて、材料、方法および例は例示にすぎず、限定的であることを意図しない。
【0050】
以下に、本発明の基本的な諸特徴および種々の態様を列挙する。
[1]
各磁石が磁場を放出するように作動可能である1つまたは複数の磁石と、
該1つまたは複数の磁石に隣接して配置された磁化可能層であって、少なくとも1つの磁石の磁場中に、該磁化可能層の表面から少なくとも20μm離れた位置で少なくとも103T/mである勾配を誘導するように構成されており、
第一の高透磁率材料、および
該高透磁率材料に隣接して配置されたかまたは少なくとも部分的に接する、低透磁率材料
を含む、磁化可能層と、
該磁化可能層の表面に配置されたマイクロ流体チャネルであって、該マイクロ流体チャネルの中心縦軸が該高透磁率材料と該低透磁率材料との間の境界面に対して角度をなして配置されているかまたは該境界面から横方向にオフセットされている、マイクロ流体チャネルと
を含む、マイクロ流体デバイス。
[2]
高透磁率材料および低透磁率材料が細長い、[1]記載のマイクロ流体デバイス。
[3]
第一の高透磁率材料から離れて配置されて該第一の高透磁率材料との間にギャップを形成する第二の高透磁率材料をさらに含み、該ギャップが低透磁率材料で満たされている、[1]および[2]のいずれか一項記載のマイクロ流体デバイス。
[4]
ギャップ中の低透磁率材料が磁化可能層の残りの部分中の低透磁率材料と同じである、[3]記載のマイクロ流体デバイス。
[5]
勾配が、磁化可能層の表面から少なくとも20μm離れた位置で、たとえば該磁化可能層の表面から少なくとも50μm離れた位置で、少なくとも104T/mである、[1]〜[4]のいずれか一項記載のマイクロ流体デバイス。
[6]
磁化可能層の厚さが約10μm以上、たとえば約100μm以上または約1mm以上である、[1]〜[5]のいずれか一項記載のマイクロ流体デバイス。
[7]
第一の高透磁率材料の飽和磁束密度が約1Tを上回り、たとえば約1.5Tを上回る、[1]〜[6]のいずれか一項記載のマイクロ流体デバイス。
[8]
第一の高透磁率材料の飽和磁束密度が約1.8Tである、[1]〜[6]のいずれか一項記載のマイクロ流体デバイス。
[9]
1つまたは複数の磁石と磁化可能層との間に低透磁率スペーサ層をさらに含む、[1]〜[8]のいずれか一項記載のマイクロ流体デバイス。
[10]
ギャップの厚さが第一の高透磁率材料および第二の高透磁率材料のそれぞれの厚さ以下であり、該ギャップの幅が、約100nm以上、たとえば約500nm以上、約1μm以上、約10μm以上、約50μm以上、約75μm以上または約100μm以上である、[3]〜[9]のいずれか一項記載のマイクロ流体デバイス。
[11]
角度が斜角である、[1]〜[10]のいずれか一項記載のマイクロ流体デバイス。
[12]
高透磁率材料が鉄を含む、[1]〜[11]のいずれか一項記載のマイクロ流体デバイス。
[13]
高透磁率材料が、ニッケル、コバルト、ニッケル・鉄合金、SiFe合金、FeAlN合金、CoFe合金、CoFeNi、鋼、磁性粒子を含むポリマー複合材、磁性粒子を含むガラス複合材、および磁性粒子を含むセラミック複合材からなる群より選択される、[1]〜[12]のいずれか一項記載のマイクロ流体デバイス。
[14]
マイクロ流体チャネルの上面および側面を画定する細長いカバーをさらに含む、[1]〜[13]のいずれか一項記載のマイクロ流体デバイス。
[15]
低透磁率材料がポリマーまたは空気を含む、[1]〜[14]のいずれか一項記載のマイクロ流体デバイス。
[16]
磁化可能層の表面に配置されかつマイクロ流体チャネルの底面を形成するパッシベーション層を含む、[1]〜[15]のいずれか一項記載のマイクロ流体デバイス。
[17]
低透磁率材料の幅が磁化可能層の第一の側から該磁化可能層の第二の反対側に向けて狭まっている、[1]〜[16]のいずれか一項記載のマイクロ流体デバイス。
[18]
2つ以上の磁石のアレイを含み、該アレイ中の各磁石の磁場が該アレイ中の隣接磁石まで延びるように、各磁石が、該アレイ中の隣接磁石の磁極配向とは反対である磁極配向を有している、[1]〜[17]のいずれか一項記載のマイクロ流体デバイス。
[19]
低透磁率材料がアレイの2つの隣接磁石の間の境界面と実質的に整列している、[18]記載のマイクロ流体デバイス。
[20]
偏向チャネルと、
該偏向チャネルから分かれた出力チャネルと
をさらに含み、該出力チャネルおよび該偏向チャネルの両方がマイクロ流体チャネルの出口に流体連結されている、[1]〜[19]のいずれか一項記載のマイクロ流体デバイス。
[21]
磁化可能層が、低透磁率材料の複数のピースを含み、該低透磁率材料の各ピースが、第一の高透磁率材料中の対応する細長いギャップ内にまたは高透磁率材料の別々のピースの間に配置されている、[1]〜[20]のいずれか一項記載のマイクロ流体デバイス。
[22]
複数の細長いギャップが平行に配置されている、[21]記載のマイクロ流体デバイス。
[23]
少なくとも1つのギャップの厚さが高透磁率材料の厚さを完全に通過して延びている、[21]〜[22]のいずれか一項記載のマイクロ流体デバイス。
[24]
低透磁率材料のピースの1つまたは複数に関して、該1つまたは複数のピースそれぞれの幅が、対応するピースと関連する中心縦軸に沿って狭まっている、[21]〜[23]のいずれか一項記載のマイクロ流体デバイス。
[25]
各磁石が磁場を放出するように作動可能である1つまたは複数の磁石と、
該1つまたは複数の磁石の表面に配置された磁化可能層であって、高透磁率材料および該高透磁率材料に隣接するかまたは少なくとも部分的に接する低透磁率材料を含み、該高透磁率材料の厚さが10μmを上回り、該高透磁率材料の飽和磁束密度が0.2Tを上回り、該磁化可能層が、少なくとも1つの該磁石の磁場中に勾配を誘導するように構成されている、磁化可能層と、
該磁化可能層の表面に配置されたマイクロ流体チャネルであって、該マイクロ流体チャネルの中心縦軸が該低透磁率材料と該高透磁率材料との間の境界面に対して角度をなして配置されているかまたは該境界面から横方向にオフセットされている、マイクロ流体チャネルと
を含む、マイクロ流体デバイス。
[26]
偏向チャネルと、
該偏向チャネルから分かれた出力チャネルと
をさらに含み、該出力チャネルおよび該偏向チャネルの両方がマイクロ流体チャネルの出口に流体連結されている、[25]記載のマイクロ流体デバイス。
[27]
[20]〜[24]および[26]のいずれか一項記載のマイクロ流体デバイスを使用して標的分析物を選別する方法であって、
標的分析物および該標的分析物に結合した1つまたは複数の磁性粒子を含む流体サンプルをマイクロ流体チャネルに通して流す工程と、
該マイクロ流体デバイスの作動中、該流体サンプルを磁場中の勾配に曝露する工程であって、該磁場中の該勾配が該標的分析物を該流体サンプルの当初の流体流軌道から離れて該チャネルに向かって偏向させる、工程と、
偏向チャネルの出口で該標的分析物を捕集する工程と
を含む、方法。
[28]
1つまたは複数の磁性粒子が、超常磁性ビーズ、反磁性ビーズ、強磁性ビーズおよびそれらの組み合わせからなる群より選択される、[27]記載の標的分析物を選別する方法。
[29]
標的分析物に結合した磁性粒子の数に対する該標的分析物のサイズの比が、約10μmを上回り、たとえば約15μm、20μmまたは25μmを上回る、[27]〜[28]記載のいずれか一項記載の標的分析物を選別する方法。
[30]
1つまたは複数の磁性粒子が、約0.5μm以下、たとえば約0.1μm以下の直径を有する、[27]〜[29]のいずれか一項記載の標的分析物を選別する方法。
[31]
1つまたは複数の磁性粒子が約35kA/m以下の磁気モーメントを有する、[27]〜[30]のいずれか一項記載の標的分析物を選別する方法。
[32]
磁場を周期的にオンおよびオフにする工程をさらに含む、[27]〜[31]のいずれか一項記載の標的分析物を選別する方法。
[33]
マイクロ流体デバイスを製造する方法であって、
各磁石が磁場を放出するように作動可能である1つまたは複数の磁石を提供する工程と、
該1つまたは複数の磁石に隣接する磁化可能層を形成する工程であって、該磁化可能層が、少なくとも1つの該磁石の磁場中に勾配を誘導するように構成されており、該勾配が、該磁化可能層の表面から少なくとも20μm離れた位置で少なくとも103T/mである、工程と、
該磁化可能層の表面にマイクロ流体チャネルを形成する工程と
を含む、方法。
[34]
磁化可能層を形成する工程が、
高透磁率材料の層を提供する工程、および
該高透磁率材料中に1つまたは複数の細長いギャップを形成する工程
を含む、[33]記載の方法。
[35]
高透磁率材料の層を提供する工程が、該高透磁率材料の層を鋳造する工程、該高透磁率材料の層を成形する工程、該高透磁率材料の層を熱成形する工程、またはスパッタリング、熱付着、プラズマ付着、電気めっき、もしくは電子ビーム付着を使用して該高透磁率材料の層を付着させる工程を含む、[34]記載の方法。
[36]
高透磁率材料の層を提供する工程が、1つまたは複数の磁石の表面に磁気テープを配置する工程を含む、[34]記載の方法。
[37]
1つまたは複数の細長いギャップを形成する工程が、高透磁率材料の層を機械加工する工程を含む、[34]〜[36]のいずれか一項記載の方法。
[38]
高透磁率材料の層の厚さ全体を通して機械加工する工程をさらに含む、[37]記載の方法。
[39]
1つまたは複数の細長いギャップを低透磁率材料で満たす工程をさらに含み、該1つまたは複数の細長いギャップを満たす工程が、該低透磁率材料の射出成形または該低透磁率材料の熱エンボス加工を使用する工程を含む、[34]〜[38]のいずれか一項記載の方法。
[40]
マイクロ流体チャネルの中心縦軸を細長いギャップの少なくとも1つに対して角度をなして配置する工程をさらに含む、[34]〜[39]のいずれか一項記載の方法。
[41]
低透磁率基材を1つまたは複数の磁石の表面に配置する工程と、
該低透磁率基材の表面に磁化可能層を形成する工程と
をさらに含む、[34]〜[40]のいずれか一項記載の方法。
[42]
各磁石が磁場を放出するように作動可能である1つまたは複数の磁石と、
該1つまたは複数の磁石に隣接する磁化可能層であって、第一の高透磁率部分および少なくとも1つの低透磁率部分を含む、磁化可能層と、
該磁化可能層に隣接するマイクロ流体チャネルであって、
第一の分析物単離領域、および
該第一の分析物単離領域に流体連結された第二の分析物単離領域
を含み、該磁化可能層が、少なくとも1つの該磁石の磁場中に勾配を誘導するように構成されており、該第一の分析物単離領域中に誘導される磁場勾配が、該第二の分析物単離領域中に誘導される磁場勾配とは異なり、かつ、該第一の分析物単離領域および該第二の分析物単離領域の少なくとも一方中に誘導される該磁場勾配が、該磁化可能層の表面から少なくとも20μm離れた位置で少なくとも103T/mである、マイクロ流体チャネルと
を含む、マイクロ流体デバイス。
[43]
高透磁率材料および該高透磁率材料に隣接するかまたは少なくとも部分的に接する低透磁率材料を含む、磁化可能層と、
該磁化可能層の表面に配置されたマイクロ流体チャネルであって、該マイクロ流体チャネルの中心縦軸が該高透磁率材料と該低透磁率材料との間の境界面に対して角度をなして配置されているかまたは該境界面から横方向にオフセットされている、マイクロ流体チャネルと、
該磁化可能層の表面に配置されかつ該マイクロ流体チャネルの底面を形成するパッシベーション層と
を含み、該磁化可能層の表面が1つまたは複数の磁石に取り外し可能に固定されるように構成されている、マイクロ流体カートリッジ。
[44]
磁化可能層の表面が、1つまたは複数の磁石の対応する区域の中に取り外し可能にロックされるように構成された突起構造を含む、[43]記載のマイクロ流体カートリッジ。
[45]
マイクロ流体チャネルの中心縦軸が、低透磁率材料と高透磁率材料との間の境界面に対して角度をなして配置されているかまたは該境界面から横方向にオフセットされている、[43]〜[44]のいずれか一項記載のマイクロ流体カートリッジ。
[46]
低透磁率材料が、高透磁率材料中のギャップ内にまたは該高透磁率材料の別々のピースの間に配置されている、[43]〜[45]のいずれか一項記載のマイクロ流体カートリッジ。
[47]
高透磁率材料の第一の表面および低透磁率材料の第一の表面がパッシベーション層と直接接触しており、該パッシベーション層から計測される該低透磁率材料の厚さが該高透磁率材料の厚さを上回る、[43]〜[46]のいずれか一項記載のマイクロ流体カートリッジ。
[48]
各磁石が磁場を放出するように作動可能である1つまたは複数の磁石と、
該1つまたは複数の磁石に隣接して配置された磁化可能層であって、少なくとも1つの該磁石の磁場中に勾配を誘導するように構成されており、高透磁率材料および該高透磁率材料に隣接するかまたは少なくとも部分的に接する低透磁率材料を含む、磁化可能層と
を含み、該磁化可能層の表面が、1つまたは複数のマイクロ流体チャネルを含むマイクロ流体カートリッジに取り外し可能に固定されるように構成されている、マイクロ流体機器。
[49]
磁化可能層の表面が、マイクロ流体カートリッジの対応する区域の中に取り外し可能にロックされるように構成された突起構造を含む、[48]記載のマイクロ流体機器。
[50]
低透磁率材料が、高透磁率材料中のギャップ内にまたは該高透磁率材料の別々のピースの間に配置されている、[48]〜[49]のいずれか一項記載のマイクロ流体機器。
[51]
高透磁率材料の第一の表面および低透磁率材料の第一の表面が磁化可能層の表面を形成し、該磁化可能層の表面から計測される該低透磁率材料の厚さが該高透磁率材料の厚さを上回る、[48]〜[50]のいずれか一項記載のマイクロ流体機器。
[52]
[1]〜[26]および[42]〜[51]のいずれか一項記載のマイクロ流体デバイス、マイクロ流体カートリッジ、またはマイクロ流体機器を使用して標的分析物を選別する方法であって、
標的分析物および該標的分析物に結合した1つまたは複数の磁性粒子を含む流体サンプルを該マイクロ流体チャネルに通して流す工程と、
該マイクロ流体デバイスまたは該マイクロ流体カートリッジの作動中、該流体サンプルを磁場中の勾配に曝露する工程であって、該磁場中の勾配が該標的分析物の軌道を該流体サンプルの当初の流体流軌道から離れる方向に偏向させる、工程と
を含む、方法。
[53]
磁場中の勾配が、標的分析物に対し、磁化可能層に向かう第一の方向に力を及ぼす、[52]記載の方法。
[54]
磁場中の勾配がまた、標的分析物に対し、第一の方向とは異なる第二の方向にも力を及ぼす、[53]記載の方法。
[55]
ギャップの幅が、約100nm以上、たとえば約500nm以上、約1μm以上、約10μm以上、約50μm以上、約75μm以上、または約100μm以上である、[3]記載のマイクロ流体デバイス。
[56]
マイクロ流体チャネルがカーブしている、[1]〜[26]および[42]〜[51]のいずれか一項記載のマイクロ流体デバイス、マイクロ流体カートリッジ、またはマイクロ流体機器。
[57]
高透磁率材料と低透磁率材料との間の境界がカーブしている、[1]〜[26]、[42]〜[51]および[56]のいずれか一項記載のマイクロ流体デバイス、マイクロ流体カートリッジ、またはマイクロ流体機器。
[58]
マイクロ流体カートリッジに対する複数の異なる向きのいずれか1つで該マイクロ流体カートリッジに取り外し可能に固定されるように構成されている、[48]〜[51]のいずれか一項記載のマイクロ流体機器。
以下、本発明の1つまたは複数の態様の詳細を添付の図面および詳細な説明に述べる。詳細な説明および添付の図面ならびに特許請求の範囲から本発明の他の特徴、目的および利点が明らかになろう。
【発明を実施するための形態】
【0052】
詳細な説明
本開示は、高勾配磁場を使用して粒子を選別する方法およびシステムに関する。概して、本開示の1つの局面は、デバイスのマイクロ流体チャネル内を流れる標的物質または分析物(たとえば核酸、ポリペプチド、細菌、細胞)を選別するために高い磁場勾配を用いるマイクロ流体デバイスとして具現化することができる。デバイスは、1つまたは複数の磁石と、低透磁率領域に隣接するかまたは少なくとも部分的に接する1つまたは複数の高透磁率領域を有する層とを含むことができる。高透磁率領域は、磁場線が低透磁率領域上に延びて高い磁場勾配のフリンジング磁束場を確立するような、1つまたは複数の磁石から出る磁束線のための好ましい経路を提供する。高い磁場勾配は、隣接マイクロ流体チャネル内をギャップの方向に流れる磁性粒子(およびその磁性粒子が付着した分析物)を「引き寄せ」て選別する磁力を生じさせる。
【0053】
図1Aは、標的分析物を単離するために高い磁気勾配を生成することができるマイクロ流体デバイス100の例の断面図である。参照のために、デカルト座標系が提供されている(座標系中、プラスのz方向が紙面の中に向かう)。デバイス100は、1つまたは複数の磁石102と、磁化可能層104と、サンプル流体が中を流れ得るマイクロ流体チャネル領域112を画定するマイクロ流体チャネルカバー110とを含む。デバイスは、場合によっては、1つまたは複数の磁石102の間にスペーサ層114を含み得る。磁化可能層104は、別々の部分:細長い低透磁率部分108よりも高い透磁率を有する高透磁率部分106で構成され得る。高透磁率部分は、好ましくは、低透磁率材料の比透磁率よりも少なくとも約4大きい比透磁率(自由空間透磁率に対する媒質の透磁率の比)を有する。高透磁率材料は、好ましくは、少なくとも5の比透磁率を有する。デバイス100の動作中、流体サンプルがチャネル領域112中をたとえばz方向に流れ得る。
【0054】
図1Bは、カバー110を取り外した状態の磁化可能層104の平面図である。
図1Bに示すように、細長い低透磁率部分108はz方向にも延びている。
【0055】
デバイス100の動作の背後にある原理の1つは、磁化可能層104が大きな磁束を小さな空間領域の中に駆動し、それによってチャネル領域112内に高い磁束密度、ひいては強い磁力を生じさせるように構成されていることである。特に、層104の高透磁率部分106は、磁束が1つまたは複数の磁石102から出るための好ましい(低磁気抵抗)経路を提供する。対照的に、磁束は、高透磁率領域106の間に位置する低透磁率部分108を避ける傾向を示す。加えて、磁化可能層104の上の領域(たとえば、チャネル領域112を含むマイクロ流体カバー110)もまた、好ましくは、部分106に対して低い透磁率を有する。磁束が高透磁率領域を好む傾向の結果として、磁束の一部が、低透磁率領域108の第一の側で高透磁率部分106の表面を通過し、マイクロ流体チャネル112中を通過したのち、低透磁率領域108の第二の反対側で高透磁率部分106の中に戻る。マイクロ流体チャネル112の中に延びる磁束の一部が「フリンジング」または「漏れ」磁束(磁場)である。
【0056】
チャネル112の中に延びるフリンジング磁束の大きさは、磁化可能層104の表面の近くでは非常に大きいが、磁化可能層表面からの距離が増すにつれ急速に減少して、大きな磁束勾配を生じさせる。チャネル中を通過する磁性粒子にかかる力は▽Bの大きさに比例する(▽はベクトル微分演算子に対応し、Bは磁束である)。磁束の勾配は、高透磁率部分106と低透磁率部分108との間のエッジで最大になり得る。したがって、低透磁率部分108の上の領域でチャネル112中を流れる磁性粒子(および磁性粒子に付着した分析物)は強い磁力によって磁化可能層104の表面へと引き寄せられる。均一な磁場が流体チャネル全体に延びるデバイスとは対照的に、磁場勾配は、特定の態様おいて、磁性粒子に対するより大きな「引力」を可能にし、それにより、磁気標識された分析物を流体サンプル中の他の分析物からより速やかに単離することを可能にする。その結果、標的分析物を分離するために、より高いサンプル流体速度および/またはより短い流体チャネル長を使用することができる。
【0057】
図2は、
図1のA−A線から見たデバイス100の例の側面図である。
図2は、高い磁場勾配を使用して流体サンプル200から磁性粒子を選別することができる方法を示す。ここでもまた、座標系が参照のために示されている。流体サンプル200は左からデバイス100に入る(矢印によって示すように)。サンプル200は、流体、たとえば水、緩衝液、食塩水、血液(たとえば希釈血液または全血)または他の適用可能な流体中に磁性粒子202および非磁性粒子204の両方を含む。本例の場合、流体サンプル200は、放物線状の速度プロフィールを示す圧力駆動層流をたどり、最高の流体速度がチャネル112の中央に見られ、低い流体速度がチャネル112の境界壁の近くに見られる。しかし、異なる速度プロフィールを有する他の流体駆動機構、たとえば動電学的技術を使用することもできる。
【0058】
流体サンプル200が磁化可能領域104の上を通過するとき、デバイスによって生成される高い磁気勾配が、磁性粒子204をサンプル200から領域104の表面に引き寄せる磁力を生じさせる。非磁性粒子202は磁力による影響を受けず、サンプル200とともにチャネル112中をほぼ同じ高さで流れ続ける。非磁性粒子202からの磁性粒子204の分離が、磁性粒子および/または磁性粒子204に付着した分析物の独立した捕集を可能にする。
【0059】
再び
図1Aを参照すると、高透磁率領域106に通して駆動される磁束が大きければ大きいほど、低透磁率領域108の上の領域中の磁力が強くなり、ひいては、低透磁率領域108の近くを移動する磁性粒子が受ける力が強くなる。磁束の大きさは、マイクロ流体デバイス100の1つまたは複数のパラメータ、たとえば磁場を放出する磁石の強さに基づいて影響を受けることができる。使用される磁石が強ければ強いほど、達成することができる磁束は大きくなる。磁石から生じさせることができる最大磁場の強さは、記号Br、すなわち磁石の残留磁化を使用して指定される。使用され得る磁石のタイプは、たとえば、永久磁石または電磁石を含む。磁石は、たとえばNdFeB、SmCo、AlNiCoの合金またはフェライトを含む材料で構成され得る。1つまたは複数の磁石102によって提供される磁場は約0.001T〜約1.5Tの範囲であり得る。たとえば、1つまたは複数の磁石102によって放出される磁場は、約0.1T、約0.3T、約0.5T、約1Tまたは約1.3Tであり得る。磁場の他の値もまた可能である。
【0060】
磁束の大きさ、ひいては達成することができる磁束勾配に影響するもう1つのパラメータが、領域106の最大透磁率、すなわち飽和磁束密度Bsである。飽和磁束密度が高ければ高いほど、領域106を通過することができる磁束の量は大きくなり、磁束勾配の増加につながる。したがって、高比透磁率領域106を通過する磁束の量は、少なくとも、領域106を形成する材料の飽和磁束密度Bs以上であることが好ましい。高透磁率領域106のために使用することができる材料は、鉄、ニッケル、コバルトおよびニッケル・鉄合金、たとえばNi
80Fe
20もしくはNi
45Fe
55、鋼、CoFeNi、FeAlN合金、SiFe合金またはCoFe合金を含むが、これらに限定されない。高透磁率材料は、約1T以上である飽和透磁率を有し得る。たとえば、高透磁率材料は、約1.2T以上、約1.4T以上、約1.6T以上、約1.8T以上または約2.0T以上である飽和磁束密度を有し得る。
【0061】
パラメータBrおよびBsはまた、低透磁率領域108の上で高い磁束勾配を達成することを可能にするマイクロ流体デバイス100の他の性質を測定するために使用されてもよい。たとえば、一次近似に対し、高透磁率領域の残留磁化と飽和磁束密度との関係は(Br)w
m≧(Bs)(hs)に従うはずである(w
mは1つまたは複数の磁石102の断面幅であり、hsは磁化可能層104の高さである)。したがって、特定の磁石/高透磁率材料の組み合わせに関して最大磁束勾配を得るために使用すべきである最小断面幅はw
m≧(Bs/Br)hsと表し得る。断面幅w
mの例は、約1μm〜約50mmの範囲、たとえば約50μm、約500μm、約1mm、約2mm、約5mmまたは約10mmであることができる。同様に、断面幅にほぼ等しい磁石厚さhmが、最大磁束勾配を得るのに十分すぎるはずである。磁石厚さの例は、約500μm、約1mm、約2mm、約4mm、約5mmまたは約10mmである。
【0062】
磁化可能層104の厚さhsは約1μm〜約10mmの範囲に入り得る。たとえば、厚さhsは、約10μm、約100μm、約250μm、約500μm、約1mmまたは約5mmであり得る。他の厚さもまた可能である。高透磁率材料106の厚さは磁化可能層104の厚さ以下であり得る。たとえば、高透磁率材料106の厚さは、約1μm、10μm、約100μm、約250μm、約500μm、約1mm、約5mmまたは約10mmであり得る。高透磁率領域の他の厚さもまた可能である。好ましくは、磁化可能層104の幅wsは、層104の下の1つまたは複数の磁石102の幅および層104の上のチャネル112の幅を受け入れるのに十分であり、約500μm〜約100mmの範囲に入り得る。たとえば、幅wsは、約1mm、約5mm、約10mm、約25mm、約50mmまたは約75mmであり得る。他の幅もまた可能である。いくつかの態様において、幅wsは、複数のチャネル112がたとえば並列または直列にデバイス100内に形成される多重化を受け入れる場合には100mmを超え得る。
【0063】
標的分析物を単離するために磁化可能層104に適切な長さls(および、場合によっては、チャネル領域112および磁石102の長さ)は、様々な要因、とりわけ、チャネル領域112中の磁力の強さ、チャネル112内の分析物の滞留時間、流体サンプルがチャネル112内を通過するときの流体サンプルの速度または流速およびチャネル112中の磁力に対する磁性粒子の応答性に依存する。磁化可能層の長さlsは約1mm〜約500mmの範囲内であり得る。たとえば、長さlsは、約5mm、約10mm、約50mm、約100mm、約250mm、約500mmまたは約750mmであり得る。他の長さもまた可能である。高透磁率材料106の長さは磁化可能層104の長さ以下であり得る。たとえば、高透磁率材料106の長さは、約1mm、5mm、約10mm、約50mm、約100mm、約250mm、約500mmまたは約750mmであり得る。高透磁率領域の他の長さもまた可能である。
【0064】
高透磁率領域108は、
図1Aには長方形断面を有するものとして示されているが、領域108のための他の形状もまた可能である。たとえば、領域は、任意の数の様々な断面、たとえば正方形、円形、三角形、六角形、カーブ状、たとえば凹状もしくは凸状または楕円形の断面を有することができる。他の断面が可能である。重要な局面は、高透磁率材料と低透磁率材料との間の境界面を創造することである。
【0065】
好ましくは、低透磁率領域108は、高透磁率領域106の比透磁率よりも実質的に小さい比透磁率を有する。たとえば、低透磁率材料は、高透磁率材料の比透磁率よりも少なくとも約4低い比透磁率を有する。様々な材料を低透磁率領域108として使用することができる。たとえば、低透磁率部分108は、ポリマー(たとえばポリエチレン、ポリイミド、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリスチレン、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、エポキシ)、ガラス、セラミクス、金属(たとえば黄銅)またはシリコンを含むことができるが、これらに限定されない。低透磁率材料は非磁性材料を含むことができる。低透磁率部分108に含まれる材料は固形材料に限定されず、水のような流体をも含む。いくつかの態様において、部分108は、空気、ガス(たとえば不活性ガス)または真空を含むギャップに対応し得る。部分108の比透磁率は約1〜約1000の範囲であり得る。上述したように、部分108の飽和磁束は部分106の飽和磁束未満であるべきである。好ましくは、飽和磁束の差は約1Tであるが、差は1Tよりも大または小であることもできる。
【0066】
好ましくは、磁束勾配はチャネル112の幅全体に広く分布して、磁化可能層104の表面から相対的に遠く離れた(たとえばチャネル112の上の)磁性粒子でさえ磁力を受け、層104の方向に、より具体的には、磁束勾配が最大である細長い低透磁率部分108の方向に「引き」下げられるようになっている。好ましくは、低透磁率部分108の幅は標的分析物の幅とほぼ同じサイズである、またはそれを上回る。たとえば、約20μmの一般的細胞の場合、部分108の幅もまた約20μmである。部分108の幅は約100nm〜約500μmの範囲内であり得る。たとえば、部分108の幅は、約500nm、約1μm、約10μm、約50μmまたは約75μmであり得る。同様に、チャネル領域112の幅は、所望の標的分析物を通過させるために、好ましくは、低透磁率部分108の幅とちょうど同じである、またはそれを上回る。加えて、チャネル領域112の幅は、細長い部分108の幅よりも広くてもよいし、狭くてもよい。
【0067】
いくつかの態様において、低透磁率部分108の幅は磁化可能層104の長さlsにかけて変化し得る。たとえば、いくつかの場合、部分108の幅は、磁化可能層104の第一の側からz方向に磁化可能層104の第二の反対側に向けてテーパ状であり得る。代替的または追加的に、低透磁率部分108の幅は磁化可能層104の厚さhsにかけて変化し得る。たとえば、いくつかの場合、部分108の幅は、チャネル領域112に近い磁化可能層104の上面から任意選択のスペーサ層114に近い磁化可能層104の底面に向けて、またはその反対にテーパ状であり得る。いくつかの態様において、磁化可能層104のベースからチャネル領域112に近い磁化可能層の上面までの部分108の幅のテーパは、チャネル112中により空間的に分布した磁束勾配の利点を提供する。
【0068】
いくつかの態様において、磁化可能層104はストリップまたはフォイルの形態の可撓性磁気テープで構成され得、その場合、テープ材料が高透磁率材料として使用される。可撓性磁気テープは、いくつかの場合、1つまたは複数の磁石102またはスペーサ層114に貼り付けやすいという利点を提供する。1つまたは複数の磁石102またはスペーサ層114に接着するために、磁気テープの片側に接着剤が形成されてもよい。可撓性磁気テープに使用され得る材料の例は、Master Magnetics磁気テープ(Master Magnetics, Inc.)またはMagna Card磁気テープ(Magna Card, Inc.)を含むが、これらに限定されない。磁気テープの所定の領域をエッチングまたは切抜きすることによって磁気テープ中に低透磁率部分108が形成されてもよい。
【0069】
マイクロ流体カバー110は、マイクロ流体チャネルに通して送られる流体サンプルと適合性である任意の適用可能な材料から形成することができる。たとえば、マイクロ流体カバー110は、ガラス、シリコン、PDMS、PMMA、シクロオレフィンポリマー(COP)、ポリカーボネート、ポリイミドまたは他の適当な材料で形成されることができる。スペーサ層114は任意選択であり、磁化可能層104が上に形成され得る支持層として働き得る。スペーサ層114は、低透磁率材料、たとえば非磁性材料、たとえばガラスまたは多種多様なプラスチックのいずれかで形成され得る。
【0070】
いくつかの態様において、磁化可能層104の表面にさらなる材料層が形成されてもよい。たとえば、磁化可能層104を損傷および/または流体サンプルによる腐食から保護する、標的分析物が結合し得る表面を提供するため、マイクロ流体カバー110を接着することができる表面を提供するため、および/または低透磁率領域108を流体サンプルから単離するための材料層が磁化可能層104の表面に形成されてもよい。
図1Cは、磁化可能層104とマイクロ流体カバー110との間に薄膜層152を含む例示的なマイクロ流体デバイス150の断面図である。薄膜層152は、シリコン材料、たとえば二酸化ケイ素、ガラスまたは多種多様な不活性プラスチックのいずれかをはじめとする1つまたは複数の様々な材料で形成され得る。薄膜層152は、およそ数ナノメートル〜数十ミクロンの範囲の厚さを有し得る。たとえば、薄膜層152は、厚さ約10nm、厚さ約100nm、厚さ約500nm、厚さ約1μmまたは厚さ約5μmであり得る。他の厚さが使用されてもよい。
【0071】
図1Aに示す例において、低透磁率部分108はマイクロ流体チャネル112の中心縦軸と実質的に整列している。チャネル112の中心縦軸はz軸に沿って紙面の中へと延び、チャネル112の壁から等距離である。同様に、細長い低透磁率部分108の中心縦軸もまたz方向に延びる。チャネル112および低透磁率部分108の他の構成もまた可能であり、いくつかの態様において、流体サンプルからの磁性粒子または磁気標識された粒子の単離を増強し得る。
【0072】
たとえば、いくつかの態様において、低透磁率領域108は、マイクロ流体チャネル112の中心縦方向から横方向にオフセットされていてもよい。
図3Aは、高透磁率領域106と境界を接する低透磁率領域108がマイクロ流体チャネル112の中心縦軸から横方向にオフセットされているマイクロ流体デバイス300の断面図である。
図3Bは、カバー110を取り外した状態のマイクロ流体デバイス300の磁化可能層104の平面図である。
図3Bの破線113はチャネル112の中心縦軸を表す。これらの例に示すように、低透磁率領域108は、中心縦軸113に一致するチャネルの中心よりもチャネル112の側壁115の近くに位置している。それでも、領域106および108によって確立される磁束勾配は、チャネル中を流れる磁性粒子を磁化可能層104の表面に向けて引き下げる磁力を生じさせる。しかし、部分108とチャネル112との間の横方向オフセットのせいで、流体チャネル112中を流れる磁性粒子はまた、低透磁率領域108に向けて横方向に引かれる。チャネル112の流れ方向に十分な距離があるため、磁性粒子は、サンプル中の他の粒子および/または分析物から実質的に単離されることができる。いくつかの場合において、チャネル112は一端に分岐を含み得、実質的に単離された粒子がその分岐の一方の経路をたどり、サンプルの残り部分がその分岐の他方の経路をたどるようになっている。
【0073】
いくつかの態様において、細長い低透磁率領域は、マイクロ流体チャネルの中心縦軸に対して斜角に配置されることができる。
図4は、高透磁率領域106と境界を接する低透磁率領域108がマイクロ流体チャネル112の流れ方向またはマイクロ流体チャネル112の中心縦軸113に対して角度θで、たとえば斜角または鋭角で延びる、カバー110を取り外した状態のマイクロ流体デバイス400の平面図である。ここでもまた、領域106および108は、磁性粒子を部分108に向けて引き、かつサンプル内を流れる他の分析物から引き離す磁力として働く磁束勾配を誘導する。角度θは、たとえば0°〜30°の間のいずれか、たとえば約0.25°、約0.5°、約1.5°、約5°または約15°であることができる。
【0074】
磁化可能層104は、1つの細長い低透磁率領域を有することに限定されない。それどころか、いくつかの態様において、磁化可能層104は、平行に配置された複数の細長い低透磁率領域108を含むことができ、各領域108は、高透磁率部分106によって隣接領域108から切り離されている。このようにして、磁束勾配の幅を実質的に延ばすことができる。その結果、磁束勾配がチャネルの幅にかけて延びる、より幅広のマイクロ流体チャネル112を使用することができる。
【0075】
図5Aは、複数の低透磁率領域108が形成され、平行に配置されている磁化可能層104を有するマイクロ流体デバイス500の例の断面図である。他の例におけるように、マイクロ流体カバー110が磁化可能層104の上に形成され、マイクロ流体チャネル112を含む。部分108間の距離(すなわち、部分108間の高透磁率部分106の幅)は、部分108の幅に近く、約100nm〜約100μmの範囲であり得る。たとえば、低透磁率領域108の間に位置する部分106の幅は、約500nm、約1μm、約10μm、約50μmまたは約75μmであり得る。他の幅もまた可能である。
【0076】
いくつかの態様においては、複数の低透磁率部分108が平行かつマイクロ流体チャネル112の中心縦軸に対して斜角に配置されてもよい。
図5Bは、磁化可能層104の表面を示す、カバー110を取り外した状態のマイクロ流体デバイス550の例の平面図である。この態様において、磁化可能層104は、平行かつマイクロ流体チャネルの中心縦軸113に対して斜角に配置された複数の細長い低透磁率部分108を含む。単一低透磁率領域設計と同様に、低透磁率領域108の平行なセットは、磁性粒子を磁化可能層104に向けて引き、かつマイクロ流体チャネル112の中心縦軸から引き離す磁力として働く磁束勾配を誘導する。
【0077】
図5C〜5Dは、複数の平行な低透磁率領域(「ストライプ」)を含むマイクロ流体設計および1つの低透磁率領域(「ギャップ」)を含むマイクロ流体設計における標識細胞および非標識細胞の指向性流を示す模式図である。これらの模式図は偏向チャネル領域の平面図を示す。標識細胞は、流体流の方向に対してわずかな角度、たとえば約0.25°、約0.5°、約1.5°、約10°または約15°で磁化可能構造に沿って移動するが、非標識細胞はチャネル中を流体流の方向に移動する。
【0078】
代替的または追加的に、複数のマイクロ流体チャネル112が磁化可能層104上に形成されることができる。複数のチャネル領域112は、より多数の流体サンプルおよび/またはより多量の流体サンプルを同時に検査することを可能にし、それにより、マイクロ流体デバイスの効率を高める。いくつかの態様において、複数のチャネル領域112は、それぞれが磁化可能層104の1つまたは複数の低透磁率領域の一部を横切るように平行に配置され得る。
【0079】
図6Aは、マイクロ流体カバー110が複数のマイクロ流体チャネル領域112a、112b、112cを含むマイクロ流体デバイス600の例の断面図である。
図6Bはマイクロ流体デバイス600の平面図である。チャネル112a、112b、112cは
図6Bに示されていないが、各チャネル112a、112b、112cの中心縦軸113a、113b、113cが破線によって示されている。これらの例に示すように、1つの細長い低透磁率領域108が磁化可能層中に使用されている。しかし、低透磁率領域108は、各マイクロ流体チャネルの中心縦軸に対して斜角に配置されて、低透磁率領域108が、マイクロ流体デバイスの第一の側からマイクロ流体デバイスの第二の側まで移動するとき、各チャネル112の上を横切るようになっている。
図6Aおよび6Bには1つの低透磁率領域108が示されているが、複数の低透磁率領域を磁化可能層104中でたとえば平行に使用することができる。
【0080】
図1Aに示すように、低透磁率領域108は、磁化可能層104の厚さに等しい厚さを有する。すなわち、低透磁率領域108は磁化可能層104の上面から層104の底面まで延びる。いくつかの態様において、低透磁率領域108は、磁化可能層104の厚さよりも薄い、磁化可能層104の一部だけに延びてもよい。たとえば、
図7は、低透磁率領域108が磁化可能層の底面までの全範囲には延びないマイクロ流体デバイス700の断面図である。その代わり、部分108は、その底面が高透磁率材料106に曝露されている。
図7に示す例示的デバイスにおいては、低透磁率領域108の下の高透磁率領域106aが磁石102からの磁束で飽和していることが好ましい。理由は、高透磁率材料が飽和するとき、材料の比透磁率が1に近づくからである。したがって、部分108の下の領域106aを飽和させることにより、部分108および領域106aは、磁化可能層104の上面から磁化可能層104の底面まで完全に延びる低透磁率部分108と同様にふるまう。領域106aを飽和させることができないと、チャネル領域112中で達成することができる磁束勾配が実質的に低下するおそれがある。
【0081】
磁化可能層の様々な構成はまた、流体チャネル中に生じる磁場勾配に影響することもできる。たとえば、
図19A〜19Cは、磁化可能層の3つの異なる可能な構成の断面を示す一連の模式図である。
図19Aは、磁化可能層1904が、低透磁率材料1908を含むギャップ領域を除き、主として高透磁率材料1906で構成されている流体デバイスの断面を示す。
【0082】
図19Bは、ギャップがなおも存在するが、高透磁率材料1906を含む磁化可能層1904の一部が流体チャネルに対して縮小されて、磁化可能層1904中で低透磁率材料1908が高透磁率材料1906を包囲するようになっている流体デバイスの断面を示す。さらに、マイクロ流体チャネル間の距離が増して、第一の単離ステージ(「S1」)はもはや高透磁率材料1906の真上には配置されていない。加えて、第一の単離ステージおよび第二の単離ステージ(「S2」)を画定する流体チャネルカバー1910は、ギャップ材料と同じ低透磁率材料(または、類似した低い透磁率を有する材料)で形成されることができる。たとえば、マイクロ流体カバーおよび低透磁率材料はいずれもプラスチック、たとえば同じタイプのプラスチックから形成されることができる。
【0083】
図19Cは、高透磁率材料1906を含む領域が1つしかなく、したがって「ギャップ」がデバイスの全範囲に広がっていることを除き、
図19Bに示すものに類似した流体デバイスの断面を示す。換言するならば、これは、本明細書においては「エッジ」構成と呼ばれる片側「ギャップ」である。たとえば、高透磁率領域1906は、エッジ1907を有する単一ピースの磁性合金であってもよい。図示しないが、
図19A〜19Cそれぞれにおける低および高透磁率材料は、紙面の中かつ紙面から外に延びるものとみなされる。
【0084】
再び
図1Aを参照すると、この図は、各磁石102が隣接磁石102の磁極向きとは反対の磁極向きを有するように配置された2個の磁石102のアレイを示す。この配置において、アレイ中の各永久磁石の磁場はアレイ中の隣接永久磁石にまで延びる。しかし、アレイ中に使用される磁石の数は2に限定されず、マイクロ流体デバイスの設計要件に基づいて増やしてもよい。または、1つの磁石を使用して、磁束勾配を創造するのに必要な磁束を提供することもできる。いくつかの態様において、磁石は、隣接磁石の磁極が反対向きではなく同じ向きになるように配置されることもできる。いくつかの態様において、磁石は磁化可能層104の上または横に配置される。
【0085】
図8A〜8Hは、マイクロ流体デバイスの磁化可能層104の周囲の磁石102の様々な配置の断面図であり、各磁石102が、「N」と印された「北」磁極および「S」と印された「南」磁極を有している。
図8A〜8Hに示す態様それぞれは、マイクロ流体デバイスのチャネル領域112中に磁束勾配を創造するために磁化可能層によって使用されることができる磁束を生成することができる。
【0086】
第一および第二ステージ中でマイクロ流体チャネルを分ける距離を増すとき、磁束の勾配は、チャネル中、ギャップまたはエッジから遠く離れた位置ででも、そのチャネル中の磁性粒子のいくらかの偏向を誘導するのに十分な大きさであるべきである。十分な磁束を保証するために、さらなる磁石を、ギャップまたはエッジから相対的に遠く配置されるチャネルの近くに配置することができる。たとえば、
図21Aに示すデバイス構成(
図19Aに示す構成に類似)の場合、ギャップ領域の下に2つの磁石2150を用いるだけで十分な磁束勾配を提供することができる。対照的に、
図21Bに示すギャップ構成(
図19Bに示す構成に類似)の場合、さらなる磁石2152を使用して、第一の単離ステージS1に対応する領域中に磁束を生成することができる。いくつかの態様においては、
図21Bに示すように、さらなる磁石を、たとえば流体デバイスの下だけでなく流体デバイスの上にも加えることができる。
図21Cに示すようなエッジおよび他の構成の場合にも類似した磁石配置が適当であろう。
【0087】
本明細書に記載されるマイクロ流体デバイスの様々な配置は、マイクロ流体チャネルに最も近い磁化可能層の表面から相対的に遠く離れたところできわめて高い磁束勾配を生成することができる。たとえば、いくつかの態様において、磁化可能層104は、磁化可能層104の表面から少なくとも10、20、30、40または少なくとも50μm離れた位置で少なくとも10
3T/mである磁束勾配を創造することができる。いくつかの態様において、磁化可能層104は、磁化可能層104の表面から少なくとも20、30、40または少なくとも50μm離れた位置で少なくとも10
4T/mである磁束勾配を創造することができる。
【0088】
マイクロ流体チャネルの底面と磁化可能層の上面との間の任意の中間層の厚さに依存して、デバイスはまた、マイクロ流体チャネルの底面から相対的に遠く離れたところで高い磁束勾配を生成することができる。たとえば、いくつかの態様において、磁化可能層104は、マイクロ流体チャネル底面から少なくとも10、20、30、40または少なくとも50μm離れた位置で少なくとも10
3T/mである磁束勾配を創造することができる。いくつかの態様において、磁化可能層104は、マイクロ流体チャネル底面の表面から少なくとも20、30、40または少なくとも50μm離れた位置で少なくとも10
4T/mである磁束勾配を創造することができる。
【0089】
本明細書に記載されるデバイスによって得ることができる高い磁束勾配はいくつかの利点を有する。たとえば、いくつかの態様において、高い磁束勾配は、非常に低い磁気モーメントを有する磁性粒子に結合した標的分析物の単離を可能にする。マイクロ流体チャネル中の高い磁力は、低い磁気モーメントを有する磁性粒子により大きな「引力」を及ぼす。代替的または追加的に、高い磁束勾配は、より小数の磁性粒子に結合した分析物の単離を可能にする。磁力が高いため、特定の磁気モーメントを有する、より少ない磁性粒子が標的分析物に結合することを求められる。
【0090】
いくつかの態様において、高い磁束勾配は、磁気標識された分析物を高い流速(たとえば、少なくとも約50μL/分、少なくとも約100μL/分、少なくとも約150μL/分、少なくとも約300μL/分、少なくとも約500μL/分または少なくとも約1000μL/分)で分離/単離することを可能にし、したがって、標的分析物の検出および分離にデバイスを使用することができるときの効率を増す。
【0091】
いくつかの態様において、高い磁束勾配は、磁気標識された分析物をずっと短い距離で分離することができるため、より短いマイクロ流体チャネル/単離領域(たとえば、約150mm未満、約100mm未満、約50mm未満、約10mm未満またはほぼ約1mm)の使用を可能にする。
【0092】
いくつかの態様において、高い磁束勾配は、低透磁率領域をマイクロ流体チャネルの中心縦軸に対してより浅い角度で配置することを可能にする。低透磁率領域をより浅い角度で配置することにより、流体は、マイクロ流体チャネル中をより高速で流れながらも、サンプル流体中の望まれない粒子からの所望の粒子の分離を達成することができる。より高速の流れの利点は、特定の態様において、マイクロ流体チャネル中の目詰まりを減らすことができることである。しかし、より浅い角度(および増大した速度)の場合、サンプル流体中の望まれない粒子からの所望の粒子の指定された横方向移動を達成するためには、マイクロ流体チャネルの長さを増さなければならない。理由は、分離される粒子の横方向速度が低透磁率領域の角度にかかわらず本質的に一定のままであるからである。したがって、所与の横方向分離を達成するために必要な時間もまた一定のままである。
【0093】
サンプル流体の流速vはサイン(θ)に概ね反比例する(θは、マイクロ流体チャネルの中心縦軸に対する低透磁率領域の角度である)。
【0094】
磁力の使用を通して標的分析物を単離するマイクロ流体デバイスを特徴づける1つの方法は、標的分析物を単離するために求められるであろう、標的分析物に結合した磁性粒子の最小数Pに対する標的分析物のサイズAの比R
a/pを指定することである。この比を計算するために、サイズは、標的分析物の平均直径または平均長さに対応すると理解される。本明細書に記載されるマイクロ流体デバイスの態様は、たとえば、約1μm以上、約5μm以上、約10μm以上、約50μm以上または100μm以上の、分析物サイズ/粒子数の比を得ることができる。
【0095】
図9Aは、高い磁束勾配に基づいて標的分析物を単離および/または選別するためのマイクロ流体デバイスを含むシステム900の例の模式図である。システムは、入口902から慣性集束ステージ904および偏向チャネル906を通って出口908まで延びるマイクロ流体チャネルを含む。慣性集束ステージ904は、細胞をマイクロ流体チャネルの中央に集束させる。慣性集束の例およびさらなる説明は、たとえば、参照により全体として本明細書に組み入れられる米国特許第8,186,913号に見いだすことができる。磁化可能層が偏向チャネル906の下に位置し、平行に配置され、かつ高透磁率材料中に埋め込まれた複数の細長い低透磁率部分108を含む。マイクロ流体チャネルの流路に対する低透磁率領域108の角度は、約0°〜約30°、たとえば約0.25°、約0.5°、約1°、約1.5°、約10°、約15°または約25°である。出口908は廃棄物チャネル910と標的チャネル912とに分かれる。1つまたは複数の磁石(図示せず)がシステム100に隣接して配置され、磁場を提供する。
【0096】
図9B、9Cおよび9Dに示す3つの挿入図は、それぞれ偏向チャネル906の始端、中間部および終端の領域108の拡大図である。1つまたは複数の磁性粒子に結合した標的分析物を含む流体サンプルが偏向チャネル906に導入されると、磁化可能層によって創造される磁力が磁性粒子(および付着した分析物)を低透磁率領域108に向けて引く。磁性粒子は領域108の近くに蓄積し、チャネル906の長さにかけて領域108をたどり、流体サンプルが出口908に達すると、磁性粒子(および付着した分析物)がサンプル中の他の非標識分析物から単離されるようになっている。非標識分析物を含む流体サンプルの一部は廃棄物チャネル910に流れ込み、磁性粒子は標的チャネル912に流れ込む。
図9に示す例においては、領域108は、幅が約40μmであり、間隔が約40μmであると推定される。
【0097】
図10Aは、高い磁束勾配に基づいて標的分析物を単離および/または選別するためのマイクロ流体デバイスを含むもう1つのシステム1000の例の模式図である。システム1000は、磁化可能層が、磁化可能層中に複数の細長い低透磁率領域ではなく1つの低透磁率領域108を含むことを除き、システム900に類似している。
図10Aの例において、偏向チャネル1006は、低透磁率領域108に対して約0.5°で斜行し、領域108と偏向チャネル1006の壁との間の距離が偏向チャネル1006の長さに沿って増大(または減少)するようになっている。
図10B、10Cおよび10Dに示す3つの挿入図は、それぞれ偏向チャネル1006の始端、中間部および終端の領域108の拡大図である。
【0098】
低透磁率材料と高透磁率材料との間のギャップ(2つの境界面を提供する)または境界面(1つの境界面)の位置は、マイクロ流体チャネル幅の中央である必要はない。その代わり、いくつかの態様において、ギャップ(すなわち、高透磁率材料の間の低透磁率領域)または境界面(すなわち、高透磁率材料と低透磁率材料との間の境界面)は様々な構成を有し得る。たとえば、
図27A〜27Cは、高い勾配を誘導するために使用される様々な流体チャネルおよび構造の例の平面図を示す模式図である。各図は、
図1Aの「ギャップ」構造において形成されるような流体チャネル2700および低透磁率領域2702の外形を示す。または、領域2702は、マイクロ流体デバイスの「エッジ」構成における高透磁率材料と低透磁率材料との間の境界面に対応することもできる。
図27Aに示すように、ギャップまたはエッジ境界面の位置は、チャネル2700の壁から横方向にオフセットされていてもよく、上から見るとギャップまたはエッジがチャネルの外側にあるように見えるようになっている。または、ギャップまたはエッジの位置はチャネル2700の真下に位置してもよい(たとえば
図27Bを参照)。または、ギャップまたはエッジは、チャネル2700の中心縦軸に対して斜角に配置されることもできる(たとえば
図27Cを参照)。
【0099】
いくつかの態様において、チャネル2700そのものがいくらかのカーブを含むことができる。磁場中に高い勾配を誘導する磁化可能層のギャップまたはエッジもまた、チャネル2700のカーブを実質的にたどるようにカーブしていることができる。たとえば、
図27Dは、磁化可能層のギャップ/エッジ領域2702が同じくカーブしているが、チャネル2700から横方向にオフセットされている、カーブしたチャネル2700の平面図の模式図である。
図27Eは、ギャップ/エッジ領域2702がチャネル2700のカーブをたどり、かつチャネル2700の真下に位置する、カーブしたチャネル2700の平面図の模式図である。
図27Fは、ギャップ/エッジ領域2702がカーブしており、かつチャネル2700の真下に位置するが、流体チャネルの中心軸をたどらない、カーブしたチャネル2700の平面図の模式図である。代わりに、
図27Fに示すように、カーブしたギャップ/エッジ領域2702は、流体チャネル2700の中心軸に対して斜めに向いている。
【0100】
マイクロチャネル内に大きな磁束勾配を生成する磁化可能構成を使用する潜在的危険は、非常に強く磁化可能層へと引き寄せられる磁性粒子または磁性粒子が多大に付着した分析物による目詰まりである。この目詰まりのマイナスの効果は、分析物の集束流の質の低下および/または標的分析物の損失(たとえば標的細胞の溶解による)を含む。目詰まりの危険は、異なるレベルの磁気モーメントを発現する標的分析物を単離するために複数の領域を使用するマルチステージマイクロ流体デバイスの使用によって軽減することができる。いくつかの態様において、目詰まりは、磁化可能層中の高透磁率材料および低透磁率材料の異なる構成を使用することによって最小化することができる。
【0101】
たとえば、磁化可能層は、「ギャップ」構成ではなく、高透磁率材料と低透磁率材料との間に1つの境界面しかない、
図19Cに示すような「エッジ」構成を含むように構成されることができる。磁性粒子(または磁性粒子に結合した標的分析物)が低透磁率材料と高透磁率材料との間の2つの境界面の真上のチャネルの領域に向けて引き寄せられるギャップ構成とは対照的に、エッジ構成においては、磁性粒子(または磁性粒子に結合した標的分析物)は、低透磁率領域と高透磁率材料との間の1つの境界面の上の1つの領域に向けて引き寄せられる。したがって、エッジ構成は、標的分析物が、マイクロ流体チャネルの別々の領域、たとえばマイクロ流体チャネルの壁に向けて引き寄せられるのではなく、1つの線の方向に、たとえばマイクロ流体チャネルの中央またはその方向に偏向され、それにより、標的分析物の捕集および単離が改善されるという利点を有する。
【0102】
図11は、標的分析物を単離するために高い磁束勾配を利用するマルチステージデバイスの構成の例の模式図である。マルチステージデバイスは、高い磁気モーメントを示す、または高い磁気モーメントを示す粒子に結合している分析物を単離するための第一ステージ1102と、相対的に低い磁気モーメントを示す、または相対的に低い磁気モーメントを示す粒子に結合している分析物を単離するための第二ステージ1104と、廃棄物または他の所望の分析物を除去するための第三ステージ1106とを含む。
図11の模式図に示すように、第一ステージ1102は、高い磁気モーメントを示す粒子を第一の出口1103へと偏向させることによってそれらの粒子を単離する。第二ステージ1104は、相対的に低い磁気モーメントを示す粒子を第二の出口1105へと偏向させることによってそれらの粒子を単離する。
【0103】
2ステージデバイス1100のようなマルチステージデバイスは、様々な分析物を単離するための高いダイナミックレンジを可能にする。たとえば、第一ステージ1102は、ここでなければ第二ステージ1104で捕らえられるであろう、大きな磁気モーメントを有し得る分析物を捕獲する。大きな磁気モーメントは、流体サンプル中の分析物に結合した磁性粒子の数の多さのせいであることもあるし、流体サンプル中の磁性粒子それぞれが高い磁気モーメントを有するせいであることもある。第二ステージ1104はより高感度であり、したがって、より小さな磁気モーメントを有する分析物を捕獲することができる。たとえば、第二ステージで捕獲される分析物は、それぞれが第一のタイプの磁性粒子に比べて低い磁気モーメントを有する第二のタイプの磁性粒子に結合していてもよいし、第二ステージ1104で捕獲される分析物は、第一ステージ1102で捕獲される分析物よりも少ない磁性粒子に結合していてもよい。たとえば、分析物が細胞であるならば、第一ステージは、特定の表面マーカ分子を高レベルで発現する(多くの磁性粒子が多くの表面マーカに結合するように)細胞を捕獲することができ、第二ステージは、その同じ表面マーカをより低いレベルで発現する(より少ない磁性粒子がそれらの細胞の表面に結合するように)細胞を捕獲することができる。
図11の例においては、残りの分析物、たとえば白血球(WBC)は第三ステージ1106に送られる。
【0104】
図11に示すマルチステージデバイスは、非結合磁性粒子および磁性粒子凝集塊を第一ステージ1102で除去することにより、目詰まりに対処する。目詰まりの減少により、いくつかの態様において、マルチステージデバイスは、より大きな磁性粒子およびより高い磁性粒子濃度の使用を可能にする。加えて、いわゆる「エッジ」構成はまた、所望の分析物をチャネル壁とは反対にマイクロ流体チャネルの中央に送ることによって目詰まりを回避するために使用されることもできる。
【0105】
図12Aは、磁束勾配による偏向に基づく分析物単離のための2つの別々のステージを含むシステム1200の例の略平面図である。第一および第二ステージは、2つのほぼ同心的なループを有する1つの連続チャネルを形成する。システム1200は、入口1206、第一の集束ステージ1208、第一の偏向チャネル/単離ステージ1202および第一の偏向チャネル1202中で単離された1つまたは複数の第一の標的分析物のための出口1210を含む。偏向チャネル1202は、高透磁率材料中に配置された1つまたは複数の低透磁率領域を含む磁化可能層に依存して、1つまたは複数の第一の標的分析物を偏向させる。1つまたは複数の第一の標的分析物の偏向は、それらの分析物およびサンプル流体のいくらかを出口1210へと流れさせ、そこでそれらが捕集される。
【0106】
システム1200はまた、第一の偏向チャネル1202から残りの流体サンプルの一部を受ける第二の入口1212を含む。入口1212に流れ込む部分は、出口1210に流れ込まなかった残りの流体サンプルすべてを含み得る。または、第一のチャネル1202からの残りの流体サンプルのいくらかは「廃棄物」流体であり、出口1203に流れ込んでもよく、第二の標的分析物を含む残りの流体サンプルの異なる部分が入口1212に流れ込んでもよい。第二の入口1212を通過したならば、残りの流体部分は第二の集束ステージ1214、次いで第二の偏向チャネル/単離ステージ1204に入るが、第二の標的分析物は磁束勾配によって偏向されて出口1216に送られて捕集される。第二の偏向チャネル1204中の任意の廃棄物流体(すなわち、流体サンプルから第一および第二の標的分析物を差し引いた部分)は出口1218に流れ込む。
【0107】
低透磁率材料を含む細長いギャップ領域1201が実質的に第二ステージ1204の下でデバイスの長さにかけて延びている。
図12Bは、第一の単離ステージ1202および第二の単離ステージ1204の様々な区分の拡大図を示す模式図である。
図12Bに示すように、細長いギャップ領域1201が第二の単離ステージ1204の中心縦軸に対して斜角で配置されている。対照的に、低透磁率材料1201のどの部分も、隣接する第一の単離ステージ1202の下には延びない。この構成の結果として、第二ステージ1204の磁場勾配は第一ステージ1202の磁場勾配よりもずっと高く、第一の単離ステージ1202中の磁性粒子よりも第二の単離ステージ1204中の磁性粒子に対してずっと強い力が及ぼされ得る。
【0108】
したがって、第二の単離ステージ1204は、低い全体磁気モーメントを有する標的分析物(たとえば、小さな磁性粒子および/または低い磁気モーメントを有する粒子に付着した分析物)を偏向させるのにより適し得、第一の単離ステージ1202は、偏向を誘導するために磁力があまり高くなくてもよい、高い磁気モーメントを発現する標的分析物(たとえば、大きな磁性粒子および/または高い磁気モーメントを有する粒子に付着した分析物)を偏向させるのにより適切であり得る。
【0109】
いくつかの態様において、たとえば
図12に示すようなデバイスにおける目詰まりは、磁場を周期的にオンおよびオフにすることによって最小化することができる。磁束ソースを除去する、またはオフにすることにより、低透磁率領域に近い磁束が除かれ、磁化可能層の近くでチャネル壁に付着した非結合磁性粒子および磁気標識された粒子は自らを解放することができる。永久磁石を用いるシステムの場合、磁場を周期的に作動させることは、磁場がマイクロ流体チャネルの中に延びないように永久磁石をデバイスから物理的に分離することを含み得る。電磁石を用いるシステムの場合、磁場を周期的に作動させることは、電磁石に供給される電流の周期的作動を必然的に要し得る。磁性粒子蓄積を最小化することにより、デバイスを再利用し得、それにより廃棄物が減る。
【0110】
マイクロ流体デバイスの製造
概して、高い磁束勾配を使用して標的分析物を単離および/または分離するためのマイクロ流体デバイスは以下のように製造することができる。
図13を参照すると、まず、1つまたは複数の磁石を提供する(1302)。磁石は、高い磁場を放出することができる任意の適当な磁性材料(たとえば、NdFeB、SmCo、AlNiCoの合金またはフェライト)でできていることができる。次いで、1つまたは複数の磁石の表面に任意選択のスペーサ層を提供してもよい(1304)。任意選択のスペーサ層は、任意の適当な低透磁率材料、たとえば非磁性材料、たとえばガラス、プラスチックまたはシリコンを含むことができる。
【0111】
次いで、1つまたは複数の磁石に隣接して磁化可能層を形成する(1306)。たとえば、磁化可能層は、1つまたは複数の磁石の表面または任意選択のスペーサ層の表面に形成され得る。磁化可能層は、たとえば、1本の接着性磁気テープを含み得る。または、磁化可能層は、任意の適当な付着技術、たとえば熱付着、プラズマ付着、電気めっきまたは電子ビーム付着を使用して、磁性材料の薄いまたは厚い膜として付着され得る。好ましくは、磁化可能層は、高い飽和磁束密度を有する高透磁率材料を含む。上述したように、飽和磁束密度が高ければ高いほど、高透磁率材料を通過して磁束勾配の増加を招くことができる磁束の量は多くなる。高透磁率材料に使用することができる材料は、鉄、ニッケル、コバルトまたはニッケル・鉄合金、たとえばNi
80Fe
20もしくはNi
45Fe
55、鋼、CoFeNi、FeAlN合金、SiFe合金またはCoFe合金を含むが、これらに限定されない。いくつかの態様において、高透磁率材料は、高透磁率粒子(たとえば鉄、ニッケル、コバルトまたはニッケル・鉄合金、たとえばNi
80Fe
20もしくはNi
45Fe
55、鋼、CoFeNi、CoFe合金、FeAlN合金またはSiFe合金粒子)を含有する複合材料、たとえばポリマー、ガラスまたはセラミクスであることができる。
【0112】
磁化可能層の形成は、磁化可能層の磁性材料中に低透磁率領域を形成することを含むことができる。たとえば、接着性磁気テープを磁性材料として使用するとき、磁気テープの1つまたは複数の細長い部分を切り抜いたのち、磁気テープを磁石またはスペーサ層の表面に配置することができる。場合によっては、細長い領域は、接着性磁気テープを機械加工して磁性材料を除去することによって形成されてもよい。機械加工は、任意の標準的機械加工技術、たとえば旋削、中ぐり、穴あけ、フライス削り、ブローチ削り、のこ引き、成形、平削り、リーマ仕上げ、タップ立て、研削、放電加工、電解加工、電子ビーム加工、光化学加工、レーザミリングまたは超音波加工を含み得る。切抜き部分は、空のまま残してもよいし、低透磁率材料、たとえば非磁性材料で満たして、磁化可能層中に低透磁率領域を形成することもできる。磁性材料が、接着剤であるのではなく、付着される場合、細長い領域は、適用可能なエッチング技術、たとえばウェットエッチングまたはドライエッチング(たとえばプラズマエッチング)を使用して形成することができる。いずれの場合(機械加工、切抜きまたはエッチング)でも、磁性材料から除去される部分の厚さは磁性材料の厚さ以下であり得る。
【0113】
切抜き部分は、熱付着、プラズマ付着、電気めっきもしくは電子ビーム付着のような技術を使用して、低透磁率材料、たとえば非磁性材料で満たされ得る。任意選択の薄膜層(たとえばSiO
2)を、たとえば熱または電子ビーム付着を使用して、その薄膜が磁化可能層の一部として保存されるように磁化可能層の表面に形成することができる。
【0114】
いくつかの態様において、高透磁率材料は、成形法または熱成形法を使用して形成することができる。たとえば、複合材料、たとえば磁性粒子を含有するプラスチック、ガラスまたはセラミクスは成形法または熱成形法を受け入れやすい。
【0115】
磁化可能層を形成したのち、磁化可能層の上にマイクロ流体チャネルおよびカバーを形成する(1308)。いくつかの態様において、マイクロ流体チャネルおよびカバーは、流体チャネル領域を画定する型の中にポリマー(たとえばPDMS、PMMAまたはポリカーボネート(PC))を入れることによって形成される。次いで、硬化したならば、ポリマーを磁化可能層の表面に移し、接着する。たとえば、まず、PDMSを、チャネルのマイクロ流体ネットワークを画定する型(たとえば、2ステップフォトリソグラフィー(MicroChem)で製造されるSU-8型)に注加することができる。次いで、PDMSを硬化させる(たとえば65℃で約3時間加熱する)。固形PDMS構造710をデバイスに移す前に、酸化物層の表面をO
2プラズマで処理して接着性を高める。
【0116】
いくつかの態様において、マイクロ流体デバイスは、取り外し可能および/または交換可能な部分を含むように製造することができる。交換可能な部分は、たとえば、デバイスを一回または複数回使用したのち(たとえばサンプル流体をマイクロ流体チャネルに通したのち)、汚れたチャネルを捨てることができるようなマイクロ流体チャネルを含むことができる。その場合、チャネルを新たな未使用のチャネルと交換し、それによって洗浄工程を除き、いくつかの態様においては、処理時間の短縮をもたらすことができる。いくつかの場合、取り外し可能な部分を含むようにデバイスを設計することはまた、製造コストを減らし得る。
【0117】
図14Aは、取り外し可能および/または交換可能な部分を含むマイクロ流体デバイスの第一の構成1500の模式図である。構成1500はカートリッジ部分1502および機器部分1504を含む。機器部分は、磁場を生成するための磁石1506を含む。カートリッジ部分1502は、機器部分1504に取り外し可能に固定されることができ、マイクロ流体チャネルカバー1508、マイクロ流体チャネル1510(たとえば、マイクロ流体チャネルカバー1508によって画定される)、マイクロ流体チャネル1510のフロアとして働くパッシベーション層1512、低透磁率領域1514(たとえば、真空または空気もしくは他の低透磁率材料を含むギャップ)および高透磁率領域1516(たとえば磁化可能合金)を含む。
【0118】
図14Bは、取り外し可能および/または交換可能な部分を含むマイクロ流体デバイスの第二の構成1550の模式図である。構成1550はカートリッジ部分1552および機器部分1554を含む。機器部分1554は、磁場を生成するための磁石1506、低透磁率領域1514(たとえば、真空または空気もしくは他の低透磁率材料を含むギャップ)および高透磁率領域1516(たとえば磁化可能合金)を含む。カートリッジ部分1552は、機器部分1504に取り外し可能に固定されることができ、マイクロ流体チャネルカバー1508、マイクロ流体チャネル1510(たとえば、マイクロ流体チャネルカバー1508によって画定される)およびマイクロ流体チャネル1510のフロアとして働くパッシベーション層1512を含む。
【0119】
いずれの設計においても、パッシベーション層1512は、好ましくは磁化不可能であり、磁化可能合金1516の上面とマイクロ流体チャネル1510のフロアとの間の距離を最小化するのに十分な薄さである。たとえば、パッシベーション層の厚さは約5μm未満であることもできる。パッシベーション層1512は、プラズマを使用して、またはエポキシのような接着剤を使用して、マイクロ流体カバー1508に接着することができる。正しい整列を保証するためには、ベース層が有意に伸びないことが好ましい。パッシベーション層の材料の例は、同時押出し金属およびポリマー(たとえば、ポリマー層の間に挟まれたアルミニウム層)を含む。
【0120】
カートリッジ部分1502(1552)を機器部分1504(1554)に結合するのを支援するために、機器部分1504(1554)およびカートリッジ部分1502(1552)は、2つの部分を互いに整列させるために使用することができる、十字線または他の形状のような整列マーカを含むことができる。たとえば、構成1500の場合、整列マーカは、公知のエッチングまたは付着技術を使用して、磁石1506の上およびカートリッジ部分1502(たとえばマイクロ流体チャネルカバー1508)の層の1つの上に形成されることができる。いくつかの態様においては、低透磁率領域1514そのものを整列マーカとして使用することができる。整列は、手作業で、または自動整列システムを使用して実施することができる。いくつかの場合、整列マークを使用して5μm以内の精度で整列を可能にすることができる。
【0121】
整列したならば、カートリッジ部分1502(1552)を機器部分1504(1554)に固定することができる。カートリッジ部分1502(1552)を機器部分1504(1554)に取り外し可能に固定することを可能にするために、カートリッジ部分1502(1552)および機器部分1504(1554)は、互いに嵌合し、定位置にパチンと嵌まる溝または隆起を含むことができる。または、いくつかの態様において、カートリッジ部分1502(1552)が、機器部分1504(1554)上に形成された溝の中に滑り込み、定位置に固定する隆起部分をその底面に含み得るか、またはその逆であるたとえば、隆起は、機器部分に形成された溝穴に滑り込むT字形(たとえば広い上部および狭い下部)を有するように形成され得、溝穴は、カートリッジを定位置に固定するために、広い開口をその下部に有し、狭い開口をその上部に有する。
【0122】
いくつかの態様において、高透磁率材料および低透磁率材料を含む層は、カートリッジ部分1552の一部として含められることができるが、再使用可能であることもできる。しかし、マイクロ流体チャネルカバー1508およびパッシベーション層1512は使い捨てであろう。この例において、パッシベーション層は、高透磁率材料および低透磁率材料を含む層に可逆的に結合または機械的に保持されるであろう。デバイス使用後、流体層を、高透磁率材料および低透磁率材料を含む層から取り外し/解放することができる。いくつかの場合、その後、合金/ギャップ部品をたとえば調達先工場に戻して、新たな流体層とで再使用することもできる。この手法の利点は、高透磁率材料および低透磁率材料を含む層との流体層の整列が、エンドユーザによってではなく、中央施設において実施することができることであろう。
【0123】
いくつかの態様において、マイクロ流体チャネルの向きは、磁化可能層に対して手作業で変更することができる。たとえば、いくつかの場合、マイクロ流体チャネルは、磁化可能層および1つまたは複数の磁石を含む機器部分に取り外し可能に結合するカートリッジの一部として形成される。カートリッジは、磁気勾配によって誘導される力の向きがマイクロ流体チャネルの流れ方向に対して変化するように、機器部分の磁化可能層に対して回転可能に固定されてもよいし、それに対して平行移動してもよい。すなわち、カートリッジは、磁化可能層に対していくつかの異なる位置の1つに回転または平行移動したのち、ロック機構、たとえば互い嵌合するように構成された隆起と溝穴との組み合わせを使用して、異なる位置のいずれか1つで定位置に固定され得る。
【0124】
図28A〜28Fは、高磁束勾配誘導構造に対するマイクロ流体チャネルの様々な配置の例の平面図を示す模式図である。各図は、
図1Aの「ギャップ」構造において形成されるような流体チャネル2800および低透磁率領域2802の外形を示す。または、領域2802は、マイクロ流体デバイスの「エッジ」構成における高透磁率材料と低透磁率材料との間の境界面に対応することもできる。各流体チャネルは、3つの可能な出口(「出力1」、「出力2」および「出力3」)を含む。流体チャネルを含むカートリッジが低透磁率領域2803に対して回転するとき(
図28A〜28Cを参照)、磁性粒子2804が受ける力により、該粒子2804は、カートリッジの回転量に依存して、3つの出口の1つへの軌道をたどり得る。たとえば、
図28Aにおいて、粒子2804は低透磁率領域2802を出力1の方向にたどる。
【0125】
図28Bおよび28Cにおいて、流体チャネルが回転するとき、粒子2804は低透磁率領域2802をそれぞれ出力2および3の方向にたどる。代替的または追加的に、カートリッジは低透磁率領域2802に対して平行移動してもよく(
図28D〜28Fを参照)、流体チャネル2800中を流れる粒子2804は、ここでもまた、移動量に依存して、異なる出力の1つの方向に該粒子を流れさせる力を受け得る。たとえば、
図28Dにおいて、流体チャネルは、領域2802に対して下に移動して、粒子2804は低透磁率領域2802を出力1の方向にたどるが、
図28Eおよび28Fにおいては、粒子2804は低透磁率領域2802をそれぞれ出力2および3の方向にたどる。
【0126】
マイクロ流体技術
いくつかの態様において、本明細書に記載されるマイクロ流体デバイスのマイクロ流体チャネル112は、より大きな任意選択のマイクロ流体チャネルネットワークの一部であることができる。そのようなマイクロ流体ネットワークは、小さな量の液体の管理および操作(たとえば分離、隔離)を容易にし、標的分析物を複雑な親標本から単離しやすくするために使用することができる。単離工程中、マイクロ流体要素が、重要な機能、たとえば生物学的流体の取り扱い、サンプルとの磁性粒子の再現可能な混合、同時並行感知のための異なるコイルへのアリコットの分配および所与のマイクロコイルの最も高感度の領域へのサンプルの閉じ込めを提供する。マイクロ流体チャネルネットワークおよびそれらの製造に関するさらなる情報は、米国特許出願公開公報第2011/0091987号の、たとえば81〜88段落に見いだすことができる。
【0127】
磁性粒子の使用
上記のように、標的分析物に特異的に結合するように設計されている多数の粒子を含む液体と混合している標的分析物を含み得る流体サンプル。粒子は、溶液中で標的・粒子複合体を形成する磁性粒子(たとえばナノ粒子)を含むことができる。
【0128】
粒子
磁性粒子は、1つまたは複数の内側磁心および外側被覆材、たとえばキャップ形成ポリマーを含むことができる。磁心は、一金属性(たとえばFe、Ni、Co)であることもできるし、二金属性(たとえばFePt、SmCo、FePd、FeAu)であることもできるし、フェライト(たとえばFe
20
3、Fe
30
4、MnFe
20
4、NiFe
20
4、CoFe
20
4)でできていることもできる。磁性粒子は、ナノメートルまたはマイクロメートル単位のサイズであることができ、反磁性、強磁性、常磁性または超常磁性であることができる(サイズは平均直径または平均長さに対応する)。たとえば、磁性粒子は、約1μm、約600nm、約500nm、約300nm、約280nm、約160nmまたは約100nmのサイズを有することができる。他の粒子サイズもまた可能である。粒子の外側コーティングはその水溶性および安定性を増すことができ、また、結合成分によるさらなる表面処理のための部位を提供することができる。
【0129】
結合成分
概して、結合成分とは、標的分子または別の結合成分(または、特定の態様においては、凝集誘発分子)に特異的に結合または他のやり方でリンクする、たとえば共有結合または非共有結合的に結合する、またはそれとハイブリダイズする合成または天然の分子である。たとえば、結合成分は、特定の相補的核酸標的にハイブリダイズする合成オリゴヌクレオチドであることができる。結合成分はまた、抗原または任意のタンパク質・タンパク質相互作用に対する抗体であることができる。また、結合成分は、対応する標的に結合する多糖類であることができる。特定の態様において、結合成分は、別の結合成分に結合しているとき、溶液中の酵素のような標的分子のための基質として働くように設計または選択されることができる。結合成分は、たとえば、オリゴヌクレオチド、ポリペプチド、抗体および多糖類を含む。一例として、ストレプトアビジンは、1分子あたり、ビオチンによって認識される4つの部位(結合成分)を有する。任意の所与の分析物、たとえば特定の表面マーカを有する特定のタイプの細胞の場合、一般に、当業者に公知である数多くの公知の結合成分がある。
【0130】
たとえば、特定の標識法および結合成分技術が、1999年5月21日出願の「Microfabricated Cell Sorter for Chemical and Biological Materials」と題する米国特許第6,540,896号、1997年2月26日出願の「Method for Magnetically Separating Cells into Fractionated Flow Streams」と題する米国特許第5,968,82050号および2001年6月5日出願の「Integrated Active Flux Microfluidic Devices and Methods」と題する米国特許第6,767,706号で詳述されている。
【0131】
コンジュゲート調製
磁性粒子の表面は、後で磁性粒子を細胞他の標的分子(たとえば抗体、薬物)に付着させるためのリンカーとして使用することができる官能基(たとえば−NH
2、−COOH、−HS、−C
nH
2n-2)を提示するように処理される。いくつかの場合、表面処理は磁性粒子を本質的に親水性または疎水性にする。表面処理は、合成ポリマー、たとえばポリエチレングリコールまたはシラン、天然ポリマー、合成または天然ポリマーいずれかの誘導体およびそれらの組み合わせをはじめとするポリマーで形成されることができる。
【0132】
いくつかの態様において、表面処理は、磁性粒子の周囲の連続膜ではなく、磁性粒子に付着した、または磁性粒子を包囲する延長したポリマー鎖の「網状物」または「雲状物」である。例示的なポリマーは、多糖類および誘導体、たとえばデキストラン、プラナン、カルボキシデキストラン、カルボキシメチルデキストランおよび/または還元型カルボキシメチルデキストラン、PMMAポリマーおよびポリビニルアルコールポリマーを含むが、これらに限定されない。いくつかの態様において、これらのポリマーコーティングは、標的成分および/または結合基がシェル材料よりもずっと容易に結合することができる表面を提供する。たとえば、いくつかの態様において、磁性粒子(たとえば酸化鉄ナノ粒子)が、10kDaデキストランの層で被覆されたのち、エピクロロヒドリンと架橋して、コーティングを安定化し、架橋磁性粒子を形成する。
【0133】
磁性粒子の製造、修飾および使用に関するさらなる情報は、たとえば、PCT公開公報第WO/2000/061191号、米国特許出願公開公報第20030124194号、米国特許出願公開公報第20030092029号および米国特許出願公開公報第20060269965号に見いだすことができる。
【0134】
用途
本明細書に記載される新規なマイクロ流体デバイスは、様々な用途に、たとえば、分析物(たとえばタンパク質、細胞(たとえば循環腫瘍細胞(CTC)またはたとえば母体血中の胎児細胞)、細菌、病原体およびDNA)を研究するための研究プラットフォームの一部として、または患者における潜在的疾病状態もしくは感染物質を診断するための診断アッセイの一部として使用することができる。検出標的の例は、以下および実施例部分においてさらに詳細に説明する。
【0135】
感染物質検出
磁性粒子上の官能性配位子(たとえば結合成分)を修飾することにより、本明細書に記載されるマイクロ流体デバイスは、小分子、タンパク質、核酸、病原体および細胞、たとえば癌細胞のような希少細胞を含む多くの様々な生物学的分析物を検出、単離および/または計測するために使用することができる。
【0136】
希少細胞検出
本明細書に記載されるマイクロ流体デバイスおよび方法は、希少細胞、たとえば血液サンプル中の循環腫瘍細胞(CTC)または妊婦の血液サンプル中の胎児細胞を検出するために使用することができる。たとえば、原発腫瘍細胞またはCTCを標的化し、磁性粒子にリンクさせることができ、迅速かつ包括的な癌のプロファイリングのために新規なマイクロ流体デバイスを使用して検出することができる。磁性粒子表面上の結合分子を変更することにより、様々なタイプの細胞(たとえば、心臓病の場合の循環内皮細胞)を検出することができる。したがって、マイクロ流体デバイスは、強力な診断および予後判定ツールとして使用され得る。標的化され、検出される細胞は、癌細胞、幹細胞、免疫細胞、白血球または他の細胞、たとえば循環内皮細胞(上皮細胞表面マーカ、たとえば上皮細胞接着分子(EpCAM)に対する抗体を使用)もしくは循環腫瘍細胞(癌細胞表面マーカ、たとえばメラノーマ細胞接着分子(CD146)に対する抗体を使用)であることができる。いくつかの態様において、システム感度は、検出量1ミリリットルあたり数個またはより少ない細胞を検出することができ、すなわち、デバイスそのものは単一細胞検出の能力を有する。システムおよび方法はまた、小分子、タンパク質、核酸または病原体を検出するために使用することができる。
【0137】
多重化検出
1つの親サンプル中の複数のバイオマーカを検出することは、複雑な疾病の診断および予後判定のための重要かつ非常に望ましい作業である。たとえば、癌のための偏在的なバイオマーカは存在せず、腫瘍タイプを正しく識別するためにはマルチチャネル式スクリーニングが必要である。本明細書に記載される新規なマイクロ流体デバイスは、たとえば癌または代謝障害の患者において、1つの親サンプルのアリコットから様々な関連のあるバイオマーカを検出するための方法を提供する。マルチステージマイクロ流体デバイスがこの用途に十分に適している。マルチステージデバイスにおいては、様々な標的分析物(たとえば、赤血球に対する白血球)が様々な磁性粒子または様々な量の磁性粒子に結合し得、マイクロ流体チャネル中で様々な標的分析物が磁束勾配に対して異なる応答を示すようになる。高い応答性を有する磁性粒子に結合した標的分析物は、より低い応答性を有する磁性粒子に結合した標的分析物よりも容易に偏向され得る。
【0138】
したがって、マイクロ流体デバイスの第一ステージにおいて、より高い応答性を発現する分析物をサンプルから濾別して、より低い応答性を発現する分析物を単離し得る(またはその反対)。次いで、マイクロ流体デバイスの第二ステージにおいて、磁束勾配に対してより低い応答性を発現する分析物をサンプルから濾別することができる。検出することができる腫瘍細胞バイオマーカの例は、MUC-1、EGFR、B7-H3、Her2、Ki-67、EpCam、VimおよびCK18を含む。
【実施例】
【0139】
添付の特許請求の範囲に記載される発明の範囲を限定しない以下の実施例において本発明をさらに説明する。
【0140】
実施例1−血中癌細胞単離
この実施例の目的は、細胞株癌細胞(CTC)を健康なドナー血液サンプル中に加え、これらの癌細胞を磁性ビーズで効率的にタグ付けし、検出および/またはさらなる計測のための癌細胞を単離することにより、癌患者の血液をシミュレートすることであった。また、白血球を分析した。
【0141】
デバイス製造
いくつかの異なるタイプのマイクロ流体デバイスを製造し、評価して性能を測定した。デバイスを製造するために、
図13を参照して上記に概説した製造工程を踏襲した。特に、厚さ1mmのガラス基材を各デバイスのために提供した。スパッタリングを使用して約1μmのFeAlNをガラス基材の表面に付着させた。FeAlNの飽和磁束密度は約1.8Tである。次いで、FeAlN層を複数の平行なストライプ配置にパターン化した。FeAlNをガラス基板上にスパッタリングしたのち、ストライプの外側の区域からFeAlNをエッチング除去することによってパターン化を達成した。各サンプルは、異なるストライプ幅および/またはストライプ間の分離距離(ギャップ)を有した。
【0142】
以下の表1は、様々なサンプルデバイスM5.1〜M5.5の寸法を提供する。「ギャップ」デバイスの場合の低透磁率領域の幅は20μmであった。
【0143】
(表1)
【0144】
次いで、ストライプの表面を薄いSiO
2層(厚さ約0.2μm)でパッシベーション処理した。標準的なソフトリソグラフィーを使用してマイクロ流体チャネルを製造した。フォトリソグラフィーを使用してSU-8(MicroChem)型を製造した。型の形状がマイクロ流体チャネル領域を画定した。ポリジメチルシロキサン(PDMS)を型に注加し、65℃で約8時間硬化させた。デバイスごとに、PDMSマイクロ流体カバーをO
2プラズマで処理し、マスクアライナを使用してデバイス基材と整列させ、基材に永久的に接着した。ストライプがマイクロ流体チャネルの中心縦軸から約1°傾くようにPDMSカバーをストライプと整列させた。マイクロ流体チャネルの中心縦軸から約0.5°の角度で「ギャップ」デバイスを構成した。
【0145】
磁性ビーズ調製
全血中でCTCを標識するための使用のために約1.0μmの直径を有する磁性ビーズを調製した。
【0146】
特に、ストレプトアビジンでコートされた磁性ビーズ(InvitrogenのDynabeads MyOneストレプトアビジンT1磁性ビーズ)をビオチン化抗hEpCAM抗体(R&D Biosystems)とともにインキュベートした。抗hEpCAMでコートされたビーズは、表面にEpCAM分子を発現するCTCに特異的に結合する。この手順に使用された1μm磁性ビーズを、1×PBS中に希釈した0.01% TWEEN(登録商標)20(Fisher Scientific)で洗浄した。次いで、EpCAM抗体をビーズに加え、そのビーズを、1×PBS中に希釈した0.01% TWEEN 20を使用することによって再び洗浄した。抗体インキュベーション中、抗体濃度は約100μg/mlであり、ビーズ濃度は約2mg/mlであった。その後、血液サンプル中に加える直前に、量を減らすことによって濃度を約5mg/mlに高めた。160nm磁性ビーズ(Veridex Ferrofluid)をVeridexから受け取り使用する準備をした(すなわち、我々自身でビーズをEpCAMで事前に官能化する)。
【0147】
サンプル調製
EpCAMを健康な全血流体サンプル中に加えたのち、EpCAM抗体でコートされた1.0μm磁性ビーズまたはEpCAM抗体でコートされた160nm磁性ビーズを流体サンプルに加えた。サンプルをサンプル管に加え、3極磁石(Veridex)を使用してアクティブに混合して、磁性ビーズをCTCに結合させた。アクティブな混合は、サンプル管を磁石に隣接させて配置し、数分の期間をかけて管の向きを変えることを含むものであった。アクティブな磁気混合は、ビーズと標的細胞との間の衝突の回数を増し、相互作用の可能性を高める。
【0148】
デバイス作動
まず、1% Pluronic F68(BASF)を調製し、シリンジポンプ(New Era Pump System)を使用して約15分間、マイクロ流体デバイスのマイクロ流体チャネルに導入してマイクロ流体デバイスをプライミングした。緩衝液をマイクロ流体デバイスの出口で捕集したのち、磁性ビーズに結合したCTCの混合物を含む血液サンプル流体(約7mL)をマイクロ流体デバイスに導入した。血液サンプルをマイクロ流体デバイスに導入する前に、血液をデバルキングした(すなわち、RBC、遊離ビーズ、血小板を除去した)。マイクロ流体デバイスは、サンプル内の磁気標識された細胞を非標識細胞から単離した。磁気標識された細胞を含む流体サンプルの一部を産物管中に捕集し、残りの血液サンプルを廃棄物管中に捕集した。血液サンプルがマイクロ流体デバイスを通過したのち、チャネルをもう一度緩衝液でフラッシュした。
【0149】
産物管中に捕集された血液サンプルおよび廃棄物サンプルを分析して、それらの中の加えられた細胞およびWBC含量の正確な計数を得た。IFD産物および廃棄物サンプルからの手作業の計数を可能にするために、加えられた細胞をCELLTRACKER(登録商標)Redで事前に染色した。また、血液サンプルをカルセイン−AMで染色し、それによってWBCおよび特定の細胞の両方を染色し、WBC濃度の計数をも可能にした。
【0150】
血液サンプルおよび廃棄物中の加えられた細胞およびWBC濃度を手作業の計数によって計測または実測したのち、それぞれの中の総細胞数を補間して、回収率および産物純度を推定した。
【0151】
結果
デバイス性能の指標は、(1)相対収率、(2)絶対収率、および(3)白血球キャリーオーバ(または純度)である。相対収率は、産物中に見られる計数された出力(産物+廃棄物)細胞の割合と定義される。絶対収率は、産物中に見られる(想定の)入力(加えられた)細胞の割合と定義される。
【0152】
表2、3および4は、磁気設計比較実験の結果をまとめたものである。表2は相対収率を示し、表3は絶対収率を示し、表4は白血球キャリーオーバを示す。ビーズタイプの縦欄中、「DB」はDynal Dynabeads(直径1μm)を指し、「FF」はVeridex Ferrofluid(直径160nm)を指す。
【0153】
(表2)比較実験における相対収率
【0154】
(表3)比較実験における絶対収率
【0155】
(表4)比較実験におけるWBCキャリーオーバ
【0156】
表2から見てとれるように、様々なデバイスそれぞれが、様々なビーズ濃度およびビーズタイプの大部分に関して非常に高い相対収率を示した。概して、相対収率および絶対収率に関して、「ギャップ」デバイスは性能的に「ストライプ」デバイスと同等であった、またはそれを実質的に上回った。表4に示すように、「ギャップ」デバイスはまた、「ストライプ」デバイスよりも高い白血球キャリーオーバを達成することができ、したがって、ギャップ設計が、流体サンプル中の磁気標識された分析物を単離する場合に最高の感度を提供し得ることを示した。
【0157】
図15Aおよび15Bは、表1のM5.2にしたがって製造されたストライプデバイスにおける捕獲に必要とされるビーズ添加量を示す棒グラフである。ここでは、ビーズ添加量は、実験中に捕集された血液サンプルおよび廃棄物中のMB321細胞上で計数されるDynal MyOne Dynabeads(直径1μm)の数として数量化されている。捕獲のためのしきいビーズ添加量が、標的細胞の50%が捕獲されるビーズ添加量と定義されるならば、ストライプデバイスのためのしきいビーズ添加量は低3ビーズ(low 3 beads)である。したがって、ストライプ設計は、低レベルの磁気モーメントに対してきわめて高感度であり、流体サンプル中の分析物を単離するための効果的な手法を提供する。
【0158】
実施例2−2ステージデバイスにおける磁場勾配のシミュレーション
また、本開示にしたがって構成された統合型マイクロ流体デバイスの動作を分析するために様々なシミュレーションを実施した。たとえば、
図16は、磁場勾配のシミュレーションにおいて使用される統合型マイクロ流体デバイス1600の略断面図を含む。デバイス1600は、2つの標的単離ステージを有する流体層1610が、高透磁率部分1606および低透磁率部分1608を含む磁化可能層1604(図では「合金(ベース)層」)の上に配置されている、
図12に示す構成に基づく。2つの磁石1602が磁化可能層1604の下に配置されて磁場を提供する。第二の単離ステージは、低透磁率領域を含む細長いギャップ領域の真上に配置された流体チャネルである。第一の単離ステージもまた、流体チャネルであるが、第二の単離ステージおよび低透磁率領域から横方向にオフセットされている。
図16はまた、磁石1602の一部、磁化可能層1604および2つの単離ステージを含む統合型マイクロ流体デバイス1600の区分に対応するシミュレーション磁場勾配を示すヒートマップを含む。2つの単離ステージを含むヒートマップの領域は、磁場勾配を見やすくするために拡大されている。
【0159】
シミュレーションは、COMSOL有限要素解析ソフトウェアを使用して実施した。永久磁石1602は、5mm×5mmであり、1.3Tの残留磁化を有し、
図16に示すような極性を有するものとみなした。高透磁率材料は、厚さ500μmであり、1.8Tの飽和磁束密度を有するものであった。高透磁率材料は、ギャップ中の低透磁率材料の左に6mmかつギャップの右に20mm延びていた。ギャップ幅は40μmであった。システム境界はデバイスから遠く、全体寸法が約100mm×100mmであった。高透磁率材料の比透磁率(自由空間透磁率に対する媒質の透磁率の比)を10,000と仮定し、低透磁率材料の比透磁率を1と仮定した。
【0160】
ヒートマップに示すように、磁場勾配中には局所極小1620および局所極大1630の両方がある。低透磁率材料が高透磁率材料の間に配置されるこの「ギャップ」構造の場合、第二の単離ステージ(「ステージ2」)そのもの内で2つの局所極大1630が発生する。対照的に、ギャップ領域からの第一の単離ステージ(「ステージ1」)の横方向移動を考慮すると、磁場勾配は、第二の単離ステージ中の極大よりも低い大きさで、第一の単離ステージ全体でかなり均一である。その結果、第二の単離ステージ中の磁性粒子は、第一の単離ステージ中の同じ粒子よりも大きな偏向力を受ける。低い全透磁率を示す標的分析物(たとえば低い磁性ビーズ添加量および/または小さな磁性ビーズサイズ)を単離するのにはさらなる力が有用であり得る。対照的に、第一の単離ステージは、より高い相対全透磁率を発現する標的分析物(たとえば高い磁性ビーズ添加量および/または大きな磁性ビーズサイズ)を単離するために使用され得る。
【0161】
たとえば、
図17は、第一の単離ステージ中の磁場勾配の図を示すヒートマップである。ヒートマップの様々な断面(1〜5)は、x−y面における勾配の断面図であり、ヒートマップの左側の第一の単離ステージの平面図に示すような流体流方向に沿う様々な位置に対応する。様々な断面における流体サンプル中の分析物の平面画像がヒートマップに重ねられている。流体チャネルの終端で、第一の単離ステージは3つの別々の経路:所望の産物のための経路、廃棄物のための経路および他の標的分析物を含有する残りの流体サンプルのための経路(「ステージ2」)に分かれる。図示しないが、磁化可能層の低透磁率領域は第一の単離ステージの左に(すなわちx方向に)位置している。
【0162】
したがって、磁場勾配によって生成される磁力の強さは、
図17に示すチャネルの右よりも左の方向にわずかに大きい。わずかに高い磁力のせいで、高い全透磁率を示す標的分析物は、チャネルの左かつ産物経路の方向に偏向される。たとえば、
図17のヒートマップ上には、3つの異なる分析物:多数の磁性ビーズに結合した第一の循環腫瘍細胞(CTC)(高発現標的分析物)、ずっと小数の磁性ビーズに結合した第二のCTC(低発現標的分析物)および白血球(WBC)が重ねて示されている。流体流の下、高発現標的は、わずかに大きい磁力に対してより高感度であり、チャネルの左に偏向されるが、低発現分析物およびWBC残留分析物の両方は感度がより低く、チャネルに沿って流体流とともにステージ2の方向に移動を続ける。
【0163】
図18は、第二の単離ステージ中の磁場勾配の図を示すヒートマップである。ここでもまた、ヒートマップの様々な断面(1〜5)は、x−y面における勾配の断面図であり、ヒートマップの左側の第二の単離ステージの平面図に示すような流体流方向に沿う様々な位置に対応する。しかし、第二の単離ステージの場合、低透磁率材料を含むギャップ領域は、チャネルの下に、チャネルの中心縦軸に対して斜角に配置されている。ヒートマップに示すように、断面(1)から断面(5)へと移動するにつれ、磁場勾配の極大はチャネルの右へと移動する。高い磁力を加えると、透磁率を発現する標的分析物はチャネルの右に偏向される。たとえば、低発現CTCは産物経路の方向に偏向されるが、WBCは廃棄物経路の方向に流体流をたどる。
【0164】
また、第一ステージおよび第二ステージがいかにうまく細胞を単離するかを観察するために、2ステージ統合型マイクロ流体デバイスを使用する実験を実施した。これらの実験においては、DYNABEADS(登録商標)(直径約1μm)およびFerrofluidビーズ(直径約160nm)の両方を様々な細胞株(たとえばMB231、PC3-9およびSKBR3)に結合させ、流体サンプルに入れて2ステージデバイスに導入した。ビーズ添加量が大きいとき(すなわち、大きなビーズおよび/または細胞株が高い磁気モーメントを発現したとき)、大部分の細胞は、より感度が低いステージ1によって捕獲された(たとえば少なくとも約80%の細胞捕獲率)。しかし、ビーズ添加量が小さいとき(すなわち、小さなビーズおよび/または細胞株が低い磁気モーメントを発現したとき)、大部分の細胞は、より高感度のステージ2によって捕獲された。
【0165】
実施例3−様々なデバイスパラメータの場合の磁場勾配のシミュレーション
図20Aおよび20Bは、それぞれ
図19Bおよび19Cに示すギャップ構成および「エッジ」構成の両方の場合の第一および第二の単離ステージにおけるシミュレーション磁場勾配のヒートマッププロットを含む。
図19Cのエッジ構成において、ギャップ設計の第二の単離ステージ中の2つの局所極大(
図20Aを参照)とは異なり、第二の単離ステージに対応するチャネル中には磁場勾配の1つの局所極大(
図20Bを参照)が生成されている。したがって、
図19Aのギャップ構成の場合、磁性粒子(または磁性粒子に結合した標的分析物)は、低透磁率材料と高透磁率材料との間の2つの境界面に対応する2つのエッジの真上のチャネルの領域へと引き寄せられる傾向を示す。対照的に、エッジ構成においては、磁性粒子(または磁性粒子に結合した標的分析物)は、低透磁率材料と高透磁率材料との間の1つの境界面の上の区域に対応する1つの領域へと引き寄せられる。したがって、エッジ構成は、標的分析物が、流体チャネルの別々の領域に引き寄せられるのではなく、1つの線の方向に偏向され、標的分析物の捕集および単離が改善するという利点を有する。
【0166】
統合型マイクロ流体デバイスの様々なパラメータを変更して、磁束の勾配を変化させ、デバイス性能を改善することができる。
図22は、マイクロ流体チャネルおよび磁石を除くマイクロ流体デバイスの一部の断面の模式図である。
図22から見てとれるように、変更することができるパラメータのいくつかは、マイクロ流体チャネルの下のパッシベーション/フロア層2202の厚さ2202a、パッシベーション層および磁化可能層(
図22に示す高透磁率層2206および低透磁率ギャップ2208を含む)の全厚さ2204、高透磁率材料2206の下の低透磁率材料2210(すなわち「プラスチック層」)の厚さ2210aおよび高透磁率材料の飽和磁束密度を含む。
【0167】
これらのパラメータのいくつかを評価するために、
図21Aに示すギャップ構成および
図21Bに示すギャップ構成に関していくつかのシミュレーションを実施した。上述したように、シミュレーションは、COMSOL有限要素解析ソフトウェアを使用して実施した。永久磁石は、5mm×5mmであり、1.3Tの残留磁化を有し、
図21Aに示すような極性を有するものであった。高透磁率材料は、低透磁率ギャップの左に6mmかつギャップの右に20mm延びていた。ギャップ幅は40μmであった。システム境界はデバイスから遠く、全体寸法が約100mm×100mmであった。高透磁率材料の比透磁率(自由空間透磁率に対する媒質の透磁率の比)を10,000と仮定し、低透磁率材料の比透磁率を1と仮定した。シミュレーションごとに一度に1つのパラメータのみを変更した。
【0168】
図23Aは、2つの流体チャネルが離間している構成(すなわち、
図21Bに示す構成)に対応する。
図23Bは、流体チャネルが互いに近い構成(すなわち、
図21Aに示す構成)に対応する。両構成における各チャネルは、幅500μmであると仮定した。加えて、低透磁率ギャップ領域2308は、第二の単離ステージ「S2」の中心縦軸に対し、斜角ではなく、平行に延びると仮定した。
図23Aに示す構成の場合、第一の単離ステージ「S1」の第一のエッジは、低透磁率ギャップ2308領域から横方向に1000μmオフセットされていると仮定した。しかし、
図23Bに示す構成の場合、低透磁率ギャップ2308からの第一の単離ステージのエッジの横方向オフセットは550μmであった。
図24〜26に示すプロットに関して、
図23Aに示す構成は「IFD v.9.6/v.9.8」と呼ばれ、
図23Bに示す構成は「IFD v.9.7/v.9.9」と呼ばれる。
【0169】
図24Aは、第一の単離ステージ(S1)中の流体チャネル幅にかかるシミュレーション磁束の勾配の大きさを、ギャップ領域を包囲する高透磁率材料の飽和磁束密度の関数として示すプロットである。プロットに示すように、高透磁率材料の飽和磁束密度が高ければ高いほど、両デバイス構成において加えることができる磁力は大きくなる。同様に、
図24Bに示すように、第二の単離ステージ(S2)中の平均磁力もまた、高透磁率材料の飽和磁束密度に比例して増大する。したがって、本開示にしたがって製造されたマイクロ流体デバイスは、好ましくは、高透磁率材料に可能な最大飽和磁束密度を使用すべきである。
図24Aおよび24Bに示すシミュレーションの場合、全ベース厚さ(フロア厚さおよび磁化可能層厚さを含む)は500μmであると仮定した(すなわち、高透磁率材料厚さを500μmで固定し、フロア厚さを0μmで固定し、低透磁率材料厚さ(すなわちプラスチック層)を0μmで固定した。
【0170】
図25Aは、第一の単離ステージ(S1)中の流体チャネル幅にかかるシミュレーション磁束の勾配の大きさをパッシベーション層フロア厚さの関数として示すプロットである。プロットに見てとれるように、両デバイスとも、約100μmのフロア厚さに達するまで、チャネルにかかる磁力は本質的に一定である。その地点から、高透磁率材料からのチャネルの距離が磁場勾配のサイズを減らし始める。フロア厚さを増す効果は、磁場勾配が0.1ミクロンでの約14kT/mから200ミクロンでの約1kT/m未満まで減少する
図25Bに示すように、第二の単離ステージにおいてさらにより顕著である。したがって、好ましいパッシベーション層厚さは、約10μm未満または製造工程が許す限りの薄さであるべきである。
図25の各プロットの場合、全ベース厚さ(フロア厚さおよび磁化可能層厚さを含む)は500μmであると仮定した。高透磁率材料の場合、飽和磁束は1.8Tで固定した。高透磁率材料厚さは500μmで固定した。高透磁率材料の下に位置する低透磁率材料(すなわちプラスチック層)は、0μmで固定された厚さを有した。
【0171】
図26Aは、第一の単離ステージ(S1)中の流体チャネル幅にかかるシミュレーション磁束の勾配の大きさを、様々な全ベース厚さ(すなわち、高透磁率材料の下のパッシベーション層、高透磁率材料およびあるならば低透磁率材料の組み合わせ厚さ)の場合の高透磁率材料厚さの関数として示すプロットである。
図26Aに示すように、磁場勾配によって誘導される磁力は概して高透磁率材料(すなわち磁性合金)の厚さの増大とともに増大する。
図26Aはまた、特定のベース厚さの場合で2つの単離ステージが互いに近いギャップ構成が、概して、その同じ厚さの場合で単離ステージがさらに離間しているギャップ構成よりも良好な性能を示すことを確認させる。
【0172】
図26Bは、第二の単離ステージ中のシミュレーション磁束の勾配の平均大きさ(ギャップ中央の100μm×50μm領域の平均)を合金厚さに対して示すプロットである。
図26Bに示すように、第一の単離ステージと同様、磁力は合金厚さとともに増大するが、磁力は100〜200μmあたりで横ばいになる。したがって、一般的なデバイスは、マイクロ流体デバイスの少なくとも第二の単離ステージ中の磁力を最大化するためには、少なくとも約200μmの厚さを有するべきである。
図26Aおよび26Bに生成されたプロットの両方に関して、高透磁率材料飽和磁束は1.8Tで固定し、パッシベーションフロア厚さは0μmで固定し、ベース厚さは、凡例によって示すように、500μmまたは1000μmのいずれかで固定した。低透磁率厚さ(すなわちプラスチック層厚さ)は、ベース厚さ500μm(または1000μm)−高透磁率材料厚さの差に等しいものであった。
【0173】
概して、全ベース厚さの増大は、一定の高透磁率材料厚さの場合、第一の単離ステージ中で与えられる磁力をベース厚さ1μm増あたり0.1〜0.25T/mのオーダで減らす。第二の単離ステージの場合、磁力は、ベース厚さの増大とともに最小限の増大を受け得る。したがって、ベース厚さは、チャネル内の磁力を最大化するのに決定的なパラメータではないとは思われる。
【0174】
他の態様
本発明をその詳細な説明に関連して説明したが、前記詳細な説明は、例を示すことを意図したものであり、添付の特許請求の範囲によって決定される本発明の範囲を限定することを意図したものではないことが理解されよう。