特許第6382200号(P6382200)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6382200
(24)【登録日】2018年8月10日
(45)【発行日】2018年8月29日
(54)【発明の名称】血糖代謝改善用組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 36/44 20060101AFI20180820BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20180820BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20180820BHJP
   A23L 33/105 20160101ALI20180820BHJP
   A61K 127/00 20060101ALN20180820BHJP
【FI】
   A61K36/44
   A61P3/10
   A61P43/00 111
   A23L33/105
   A61K127:00
【請求項の数】4
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2015-535464(P2015-535464)
(86)(22)【出願日】2014年9月2日
(86)【国際出願番号】JP2014072977
(87)【国際公開番号】WO2015033898
(87)【国際公開日】20150312
【審査請求日】2017年6月26日
(31)【優先権主張番号】特願2013-182408(P2013-182408)
(32)【優先日】2013年9月3日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000106324
【氏名又は名称】サンスター株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】原田 佳代
(72)【発明者】
【氏名】曽野 陽子
(72)【発明者】
【氏名】草刈 剛
(72)【発明者】
【氏名】松本 元伸
【審査官】 鳥居 福代
(56)【参考文献】
【文献】 特開平09−227398(JP,A)
【文献】 特開2007−314475(JP,A)
【文献】 特開2014−198684(JP,A)
【文献】 特開2013−075874(JP,A)
【文献】 特開2009−215253(JP,A)
【文献】 特開2010−037323(JP,A)
【文献】 韓国公開特許第10−2010−0054653(KR,A)
【文献】 中国特許出願公開第102949435(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 36/00−36/9068
A23L 33/105
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
柿葉を40〜60%エチルアルコール−水混液により抽出する工程、及び
前記工程により得られた抽出物をオクタデシルシリル基結合シリカゲルを充填したカラムに吸着させ、5〜10%アセトニトリル−水混液により溶出する工程
を経て得られた柿葉抽出物を含む、血糖代謝改善用組成物。
【請求項2】
柿葉を40〜60%エチルアルコール−水混液により抽出する工程、及び
前記工程により得られた抽出物を修飾デキストランを充填したカラムに吸着させ、70〜100%メチルアルコール−水混液又は60〜80%アセトン−水混液により溶出する工程
を経て得られた柿葉抽出物を含む、血糖代謝改善用組成物。
【請求項3】
経口組成物又は飲食品組成物である、請求項1又は2に記載の血糖代謝改善用組成物。
【請求項4】
柿葉を40〜60%エチルアルコール−水混液により抽出する工程、及び
前記工程により得られた抽出物をオクタデシルシリル基結合シリカゲルを充填したカラムに吸着させ、5〜10%アセトニトリル−水混液により溶出する工程
を含むか、あるいは、
柿葉を40〜60%エチルアルコール−水混液により抽出する工程、及び
前記工程により得られた抽出物を修飾デキストランを充填したカラムに吸着させ、70〜100%メチルアルコール−水混液又は60〜80%アセトン−水混液により溶出する工程
を含む、
柿葉抽出物を製造する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血糖代謝改善用組成物に関する。より詳細には、本発明は、柿葉をエチルアルコールと水とを特定の割合で混合した溶液により抽出する工程を経て得られた柿葉抽出物を含む、血糖代謝改善用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
高カロリーの食事や飲料の摂取、日常的な運動量の低下や筋力低下に伴う基礎代謝量の低下などの要因により、生命活動に必要とされる以上の過剰なエネルギーを摂取する生活を送る人が増えるに伴い、中高年層だけでなく若年層においても糖尿病を発症する、又はインスリン抵抗性を示す人が増えている。また、脂肪細胞の老化がインスリン抵抗性を引き起こすことも知られており、基礎代謝量や運動量が低下する高齢者においても糖尿病発症のリスクが高い。
【0003】
このように、日常生活の変化や高齢化社会への移行に伴い、糖尿病患者が年々爆発的に増加する傾向にあり、糖尿病予備軍である血糖代謝の異常を有する人も糖尿病患者の数倍以上存在すると考えられている。実際、国民健康・栄養調査や糖尿病実態調査でも同様な傾向が明らかにされており、わが国の糖尿病患者の増加は深刻といえる。この状況において、糖尿病は根本的な治癒ができない疾病であることから、「糖尿病患者においては病態を悪化させない」、また、「インスリン抵抗性を示す人に対しては糖尿病を発症させない」ための取組みが重要となっている。
【0004】
このような取組みとして、「血糖値を正常範囲で推移させ、糖尿病の発症予防や治療を行う方法」がある。具体的には、食事療法、運動療法、及び薬物療法が存在しており、対象者の事情や状態にあわせて、これらの療法を単独又は組合せた方法が実際に行われている。しかしながら、摂取カロリーを制限する食事療法、及び一定時間以上実行することが必要な運動療法は、継続的に実行できない場合が多く、特に老齢者においては、基礎代謝量が大幅に低下しているだけでなく、運動能力の大幅な低下に伴い運動量が大幅に減少していることから、上記の療法だけで対処することが難しい場合が増加している。一方、薬物療法も医療費増大防止の観点から満足できる対処方法とはいえず、また、糖尿病の発症予防としては採用しにくい方法である。
【0005】
そこで、血糖の代謝に大きな影響を与えている骨格筋における糖代謝に着目し、従来処置される治療法や予防法と併用又は単独で、糖尿病発症予防効果や糖尿病病態改善効果を飛躍的に増強させる手段の開発が試みられている。
【0006】
血糖値を低下させる生理機能の一つとして、「血管(血液)から骨格筋へ血中の糖を取り込んで代謝する機能」が存在する。当該機能の機序の一つとして、「骨格筋の収縮が細胞内のAMPキナーゼのリン酸化(活性化)を促進し、結果的に細胞質内のグルコーストランスポーター4が細胞膜中に移動することにより骨格筋の細胞内に血中の糖が取り込まれる」作用が知られている。さらに、この骨格筋の細胞内への糖の取り込みは、骨格筋の収縮を必須の要素とするものではなく、AMPキナーゼが活性化することで生じることが判っている。したがって、運動により骨格筋を収縮させることができない状況においても、運動した場合と同様に血中の糖を骨格筋に取り込ませる機能の発現を実現できる可能性がある。近年、この点に着目した「AMPキナーゼを活性化させる物質を経口摂取することで、血中の糖濃度を低減させる試み」が幾つか提案されている(特許文献1及び2)。
【0007】
さらに、血管(血液)から骨格筋の細胞内に糖を取り込む別の機序として、「血中のインスリンが骨格筋間質を介して細胞膜表面にあるインスリン受容体に結合し、Aktのリン酸化による活性化などの情報伝達分子の活性化により、結果的には細胞質内のグルコーストランスポーター4が細胞膜中に移動し、骨格筋の細胞内へ血中の糖が取り込まれる」作用も知られている。この機序においては、インスリンが骨格筋に分布する毛細血管から骨格筋間質に移行するまでの経路も重要な役割を担っている。骨格筋毛細血管のe−NOS活性化等を介した拡張機能亢進や血管新生による毛細血管密度の増加により、毛細血管の表面積と血流量の増加が起こることで、細胞へのインスリン移行が亢進し、糖代謝が改善されることがわかっている(非特許文献1)。
【0008】
AMPキナーゼを介した前者の機序及びインスリンを介した後者の機序は互いに独立して作用し、かつ両者共に、高い糖の取り込み効果を発現させることが期待できる。健常者では、これら2つの機序が共に正常に発現しているが、糖尿病患者やインスリン抵抗性を有する人においては、後者の機序が低下している又は失われていることから、これら2つの機序を合わせて発現させる、又はこれらの機能を亢進させることにより、より健常者に近い状態を実現させることができる可能性がある。しかしながら、未だこれら2つの機序を併せて発現させる方法は知られておらず、具体的な解決方法の提案が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2010−37323号公報
【特許文献2】特開2011−37732号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Cell Metabolism, 13, 294−307,2011
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、骨格筋における糖代謝機能を改善及び/又は向上させる血糖代謝改善用組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、かかる事情に鑑み鋭意検討を重ねた結果、柿葉をエチルアルコールと水とを特定の割合で混合した溶液により抽出する工程を経て得られた柿葉抽出物が、AMPキナーゼを介した機序及びインスリンを介した機序の2つの機序から骨格筋における糖代謝機能を大きく改善及び/又は向上させ得ることを見出し、さらに研究を重ねて本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明は、代表的には、以下の項に記載の主題を包含する。
項1.
柿葉を40〜60%エチルアルコール−水混液により抽出する工程を経て得られた柿葉抽出物を含む血糖代謝改善用組成物。
項2.
柿葉を40〜60%エチルアルコール−水混液により抽出する工程、及び
前記工程により得られた抽出物をオクタデシルシリル基結合シリカゲルを充填したカラムに吸着させ、5〜10%アセトニトリル−水混液により溶出する工程
を経て得られた柿葉抽出物を含む、上記項1に記載の血糖代謝改善用組成物。
項3.
柿葉を40〜60%エチルアルコール−水混液により抽出する工程、及び
前記工程により得られた抽出物を修飾デキストランを充填したカラムに吸着させ、70〜100%メチルアルコール−水混液又は60〜80%アセトン−水混液により溶出する工程
を経て得られた柿葉抽出物を含む、上記項1に記載の血糖代謝改善用組成物。
項4.
経口組成物である、上記項1〜3のいずれかに記載の血糖代謝改善用組成物。
【0014】
項A−1.
柿葉を40〜60%エチルアルコール−水混液により抽出する工程を経て得られた柿葉抽出物を対象に投与する工程を含む、血糖代謝を改善及び/又は向上させる方法。
項A−2.
柿葉を40〜60%エチルアルコール−水混液により抽出する工程、及び
前記工程により得られた抽出物をオクタデシルシリル基結合シリカゲルを充填したカラムに吸着させ、5〜10%アセトニトリル−水混液により溶出する工程
を経て得られた柿葉抽出物を対象に投与する工程を含む、上記項A−1に記載の方法。
項A−3.
柿葉を40〜60%エチルアルコール−水混液により抽出する工程、及び
前記工程により得られた抽出物を修飾デキストランを充填したカラムに吸着させ、70〜100%メチルアルコール−水混液又は60〜80%アセトン−水混液により溶出する工程
を経て得られた柿葉抽出物を対象に投与する工程を含む、上記項A−1に記載の方法。
【0015】
項B−1.
柿葉を40〜60%エチルアルコール−水混液により抽出する工程を経て得られた柿葉抽出物を対象に投与する工程を含む、糖尿病、高血糖、耐糖能異常、インスリン抵抗性、動脈硬化、肥満、体脂肪蓄積、脂質代謝異常、生活習慣病及び脂肪肝からなる群から選択される少なくとも1種の予防、改善及び/又は治療方法。
項B−2.
柿葉を40〜60%エチルアルコール−水混液により抽出する工程、及び
前記工程により得られた抽出物をオクタデシルシリル基結合シリカゲルを充填したカラムに吸着させ、5〜10%アセトニトリル−水混液により溶出する工程
を経て得られた柿葉抽出物を対象に投与する工程を含む、上記項B−1に記載の方法。
項B−3.
柿葉を40〜60%エチルアルコール−水混液により抽出する工程、及び
前記工程により得られた抽出物を修飾デキストランを充填したカラムに吸着させ、70〜100%メチルアルコール−水混液又は60〜80%アセトン−水混液により溶出する工程
を経て得られた柿葉抽出物を対象に投与する工程を含む、上記項B−1に記載の方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、AMPキナーゼを活性化することができることから、運動による血糖値の低下作用を増強させるだけでなく、運動をせずとも運動をしたときと同等の血糖値の低下効果を得ることが可能である。さらに、本発明によれば、骨格筋毛細血管密度を高めることができることから、インスリン抵抗性の改善効果も得ることも可能である。
【0017】
以上のように、本発明の血糖代謝改善用組成物は、AMPキナーゼを介した機序及びインスリンを介した機序の両機序から骨格筋における糖代謝機能を改善及び/又は向上させることができる。したがって、糖尿病患者や糖尿病予備軍だけでなく、高齢者や寝たきりの人などの十分な運動量を確保できない人においても、血糖値を下げ、糖尿病の発症を予防したり、糖尿病の病態を改善することができる。
【0018】
さらに、本発明の血糖代謝改善用組成物は、運動前・中・後に摂取することにより運動の効果を高める運動効果促進剤としても有用である。また、本発明の血糖代謝改善用組成物は、AMPキナーゼを活性化することができるため、抗老化効果が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1は、試験例1−1の結果を示すグラフである。具体的には、図1は、製造例1において得られた各柿葉抽出物のマウス骨格筋管細胞株を用いた総AMPK(tAMPK)に対するリン酸化AMPK(pAMPK)の発現比の測定結果を示している。
図2図2は、試験例1−2の結果を示すグラフである。具体的には、図2は、製造例1において得られた柿葉抽出物A及びCのマウス骨格筋管細胞株を用いた糖取込み促進活性の測定結果を示している。
図3図3は、試験例2の結果を示すグラフである。具体的には、図3は、製造例2において得られた各分画物のマウス骨格筋管細胞株を用いた糖取込み促進活性の測定結果を示している。
図4図4は、試験例3の結果を示すグラフである。具体的には、図4は、抽出物C、及び柿葉に含まれる各種化合物のマウス骨格筋管細胞株を用いた糖取込み促進活性の測定結果を示す。
図5図5は、試験例4の結果を示すグラフである。具体的には、図5は、製造例3において得られた各分画物のマウス骨格筋管細胞株を用いた糖取込み促進活性の測定結果を示している。
図6図6は、参考試験例1の結果を示すグラフである。具体的には、図6は、参考製造例1において得られた各抽出物のマウス骨格筋管細胞株を用いた糖取込み促進活性の測定結果を示している
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0021】
本発明の血糖代謝改善用組成物は、柿葉をエチルアルコールと水とを特定の割合で混合した溶液により抽出する工程を経て得られた柿葉抽出物を含む。
【0022】
抽出に供する柿葉は特に限定されず、例えば、カキノキ科カキノキ属の落葉樹の葉を用いることができる。柿葉は落葉前又は落葉後のいずれの葉も用いることができるが、落葉前の葉を用いることが好ましい。また、抽出に供する柿葉は、常法に従って乾燥等の前処理を施したものであってもよい。柿葉の前処理方法としては、例えば、樹木から採取した柿葉を水洗し、必要に応じて適当な大きさ(例えば3mm幅程度)に切断し、蒸籠で蒸した後に乾燥する方法や、樹木から採取した柿葉を水洗し、必要に応じて適当な大きさに切断した後に乾燥する方法などが挙げられる。
【0023】
柿葉の抽出に用いる溶液は、エチルアルコールと水とを特定の割合で混合した溶液(以下、「エチルアルコール−水混液」と記載する。)であり、当該エチルアルコール−水混液におけるエチルアルコールの含有量は40〜60%(wt/wt)程度であり、45〜55%(wt/wt)程度であることが好ましく、50%(wt/wt)程度であることがより好ましい。なお、以下において、エチルアルコールの含有量がx%(wt/wt)であるエチルアルコール−水混液を、「x%エチルアルコール−水混液」と記載する。
【0024】
柿葉の抽出方法は、上記したエチルアルコール−水混液を用いる方法であれば公知の方法により行うことができる。例えば、乾燥させた柿葉に、柿葉の約20倍量の50%エチルアルコール−水混液を用いて、マントルヒーターを用いた沸騰還流条件下で1時間抽出する方法が好ましい。
【0025】
さらに、柿葉抽出物は、上記したエチルアルコール−水混液により抽出する工程を経た後、当該工程により得られた抽出物を濃縮する工程を経て得られるものであってもよい。濃縮方法は、特に限定されず、公知の方法を適宜選択して行うことができる。例えば、上記したエチルアルコール−水混液により抽出する工程を経た後、得られた抽出液から常法により固形分を除去し、ろ過処理により得られたろ液をエバポレーターを用いてエタノール分を除去した後に、凍結乾燥処理を行う方法が挙げられる。
【0026】
また、柿葉抽出物は、上記したエチルアルコール−水混液により抽出する工程を経た後、必要に応じて、当該工程により得られた抽出物に対してさらなる抽出処理を施す工程を経て得られるものであってもよい。さらなる抽出処理の具体的な方法としては、例えば、上記したエチルアルコール−水混液により抽出する工程を経た後、得られた抽出物を約9倍量の精製水に溶解させ、超音波処理を行った後に、約10000Gの遠心分離処理を行い、上澄を回収する方法が挙げられる。さらに、エチルアルコール−水混液により抽出する工程を経た後、上記した得られた抽出物を濃縮する工程を経て得られる抽出物を、さらなる抽出処理に供することもできる。
【0027】
さらに、柿葉抽出物は、上記したエチルアルコール−水混液により抽出する工程を経た後、カラムを用いて分画する工程を経て得られるものであってもよい。
【0028】
分画に用いるカラムとしては、公知のカラムを用いることができるが、オクタデシルシリル基結合シリカゲルを充填したカラム(例えば、Purif-Pack Size200 ODSカラム)、修飾デキストランを充填したカラム(例えば、Sephadex LH-20カラム)などが好ましい。
【0029】
分画に用いる溶出液は、用いるカラムに応じて適宜選択して使用することができるが、オクタデシルシリル基結合シリカゲルを充填したカラムを用いる場合には、アセトニトリルと水とを混合した溶液(以下、「アセトニトリル−水混液」と記載する。)を使用することが好ましく、修飾デキストランを充填したカラムを用いる場合には、メチルアルコールと水とを混合した溶液(以下、「メチルアルコール−水混液」と記載する。)やアセトンと水とを混合した溶液(以下、「アセトン−水混液」と記載する。)を使用することが好ましい。なお、以下において、アセトニトリル含有量がx%のアセトニトリル−水混液を「x%アセトニトリル−水混液」と、メチルアルコール含有量がx%のメチルアルコール−水混液を「x%メチルアルコール−水混液」と、アセトン含有量がx%のアセトン−水混液を「x%アセトン−水混液」と、それぞれ記載する。
【0030】
また、分画の条件(例えば、流量など)は特に制限されず、用いるカラムや溶出液に応じて適宜設定すればよい。
【0031】
好ましい分画方法としては、オクタデシルシリル基結合シリカゲルを充填したカラムを用いて分画を行う場合には、上記したエチルアルコール−水混液により抽出する工程を経て得られた抽出物を、オクタデシルシリル基結合シリカゲルを充填したカラムに吸着させ、アセトニトリル−水混液におけるアセトニトリルの含有量を0%から1〜10%程度ずつ上昇させつつ溶出するステップワイズグラジエントにて分画する方法が挙げられる。当該方法において、1〜10%アセトニトリル−水混液により溶出した分画物は、糖代謝機能の改善及び/又は向上効果が高いため好ましく、5〜10%アセトニトリル−水混液により溶出した分画物は、糖代謝機能の改善及び/又は向上効果が特に高いためより好ましい。特に、0%アセトニトリル−水混液(即ち、水)、5%アセトニトリル−水混液、及び10%アセトニトリル−水混液により順次溶出する工程を経て得られる、5%アセトニトリル−水混液により溶出した分画物及び10%アセトニトリル−水混液により溶出した分画物は、糖代謝機能の改善及び/又は向上効果が非常に高いためさらに好ましく、中でも5%アセトニトリル−水混液により溶出した分画物は、糖代謝機能の改善及び/又は向上効果が極めて高いため特に好ましい。
【0032】
また、修飾デキストランを充填したカラムを用いて分画を行う場合には、上記したエチルアルコール−水混液により抽出する工程を経て得られた抽出物を、修飾デキストランを充填したカラムに吸着させ、メチルアルコール−水混液におけるメチルアルコールの含有量を0%から10〜20%程度ずつ上昇させつつ溶出するステップワイズグラジエントにて分画する方法が挙げられる。さらに、100%メチルアルコール−水混液(即ち、メチルアルコール)による溶出が完了した後、60〜80%程度のアセトン−水混液により溶出する方法も好ましい。当該方法において、40〜100%程度のメチルアルコール−水混液及び60〜80%程度のアセトン−水混液により溶出した分画物は、糖代謝機能の改善及び/又は向上効果が高いため好ましく、80〜100%程度のメチルアルコール−水混液及び70%程度のアセトン−水混液により溶出した分画物は、糖代謝機能の改善及び/又は向上効果が特に高いためより好ましい。特に、0%メチルアルコール−水混液(即ち、水)、20%メチルアルコール−水混液、40%メチルアルコール−水混液、60%メチルアルコール−水混液、80%メチルアルコール−水混液、100%メチルアルコール−水混液(即ち、メチルアルコール)、及び70%アセトン−水混液により順次溶出する工程を経て得られる、100%メチルアルコール−水混液により溶出した分画物及び70%アセトン−水混液により溶出した分画物は、糖代謝機能の改善及び/又は向上効果が非常に高いためさらに好ましい。
【0033】
本発明の血糖代謝改善用組成物は、上記した柿葉抽出物そのものであってもよいし、当該柿葉抽出物に加え、その他の成分を含んでいてもよい。その他の成分としては、薬学的又は食品衛生学的に許容され得る担体などが挙げられる。
【0034】
また、本発明の血糖代謝改善用組成物は、経口組成物として利用することができる。経口組成物としては、医薬品、医薬部外品のほか、糖尿病、高血糖、耐糖能異常、インスリン抵抗性、動脈硬化、肥満、体脂肪蓄積、脂質代謝異常、生活習慣病、脂肪肝等の予防・改善や糖代謝亢進、抗老化の生理機能をコンセプトとした機能性飲食品、疾病者用食品、特定保健用食品、栄養機能食品、栄養補助食品、運動療法用食品、痩身用食品などとすることができる。
【0035】
本発明の血糖代謝改善用組成物の形態としては特に限定されないが、経口組成物として利用する場合には、例えば、ハードカプセル、ソフトカプセル、サプリメント、チュアブル錠、飲料、粉末飲料、顆粒、フィルムなどの形態とすることができる。また、飲食品として使用する場合には、例えば、茶系飲料、スポーツ飲料、美容飲料、果汁飲料、炭酸飲料、アルコール飲料、清涼飲料、ゼリー飲料、水や湯、炭酸水等で希釈する濃縮タイプの飲料等の飲料、水や湯等に溶解又は懸濁させて飲用する粉末や顆粒、タブレット等の乾燥固形物、タブレット菓子、ゼリー類、スナック類、焼き菓子、揚げ菓子、ケーキ類、チョコレート、ガム、飴、グミなどの菓子類、スープ類、めん類、米飯類、シリアル等などの食品形態にすることもできる。このうち通常の生活において利用する場合には、サプリメントタイプ、チュアブル錠、ワンショットドリンクタイプなどの形態が好ましく、運動効果を高める目的で摂取する場合には、スポーツ飲料などの飲料の形態が最も好ましい。さらに、これらの経口組成物は容器に充填された容器詰食品として消費者に提供することができる。容器は密封できるものであれば特に限定されない。
【0036】
錠剤、顆粒剤、カプセル剤等の経口用固形製剤、内服液剤、シロップ剤等の経口用液体製剤などの場合は、乾燥物換算で経口組成物全量に対して、血糖代謝改善用組成物を0.01 〜95質量%程度、好ましくは5〜90質量%程度、最も好ましくは10〜80質量%程度配合すればよい。上記以外の経口組成物の場合は、血糖代謝改善用組成物を0.001〜50質量%程度、好ましくは0.005〜30質量%程度、最も好ましくは0.01〜10質量%程度配合すればよい。
【0037】
また、本発明は、本発明の血糖代謝改善用組成物を対象に投与する工程を含む、血糖代謝を改善及び/又は向上させる方法も提供する。
【0038】
さらに、本発明は、本発明の血糖代謝改善用組成物を対象に投与する工程を含む、糖尿病、高血糖、耐糖能異常、インスリン抵抗性、動脈硬化、肥満、体脂肪蓄積、脂質代謝異常、生活習慣病、脂肪肝等の予防、改善及び/又は治療方法も提供する。
【実施例】
【0039】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は下記の例に限定されるものではない。なお、以下、特に断りのない限り「%」は「質量%」を示す。
【0040】
製造例1:エチルアルコール−水混液による柿葉抽出物の調製
乾燥し裁断した国産の柿葉約10gを、20倍質量の各種溶媒を用いて抽出した。抽出に用いた溶媒は、精製水、25%(wt/wt)エチルアルコール−水混液、50%(wt/wt)エチルアルコール−水混液、75%(wt/wt)エチルアルコール−水混液、及びエチルアルコールの5種である。柿葉の抽出は還流抽出装置を用い、1時間、沸騰還流の条件で実施した。抽出処理後、110メッシュのナイロンを用いて大きな不溶物を取り除いた後、定性ろ紙No.1(アドバンテック社製)を用いてろ過処理した。得られたろ液は、エチルアルコールを含有する溶媒で抽出した場合は、エバポレーターを用いてエチルアルコール分を除去した後に凍結乾燥し、精製水で抽出した場合は、ろ過処理にて得られた抽出物をそのまま凍結乾燥した。
【0041】
なお、以下において、各溶媒により得られた抽出物をそれぞれ、抽出物A(精製水で得られた抽出物)、抽出物B(25%(wt/wt)エチルアルコール−水混液で得られた抽出物)、抽出物C(50%(wt/wt)エチルアルコール−水混液で得られた抽出物)、抽出物D(75%(wt/wt)エチルアルコール−水混液で得られた抽出物)及び抽出物E(エチルアルコールで得られた抽出物)と記載する。
【0042】
試験例1:各柿葉抽出物(抽出物A〜E)の糖代謝改善作用の評価
上記製造例1で得られた柿葉抽出物の糖代謝改善作用を評価した。糖代謝改善作用の評価としては、マウス骨格筋管細胞株(C2C12細胞)におけるAMPキナーゼのリン酸化活性の測定を行い、さらに、抽出物AとCについて糖取込み促進活性の測定も行なった。
【0043】
試験例1−1:AMPキナーゼのリン酸化活性の測定
柿葉抽出物A〜E(粉末)をそれぞれ培地に対して最終濃度が0.02%となるように加えて溶解したものを試料として用いた(実施例1−1〜1−5)。また、ネガティブコントロールとして何も添加していない培地を用い(比較例1−1)、ポジティブコントロールとしてAICAR(最終濃度2mM)を用いた(比較例1−2)。次いで、マウス骨格筋管細胞株(C2C12細胞)を6穴細胞培養プレートに播種し、10%ウシ胎児血清および1%抗菌剤を添加したDMEM培地中で37℃、5%二酸化炭素存在下で3日間培養した。
【0044】
細胞がコンフルエントになった状態で1%ウシ胎児血清を含むDMEM培地に交換し、さらに培養して完全に分化させた。さらに、培地を新しいものに交換したうえで、実施例1−1〜1−5及び比較例1−1〜1−2の試料をそれぞれ添加し、37℃、5%二酸化炭素存在下で培養した。PBS(−)で二度細胞を洗浄後、フォスファターゼ阻害剤、プロテアーゼ阻害剤、及びPMSFを添加した細胞溶解バッファーを150μL加え、セルスクレイパーで細胞溶解液を回収した。
【0045】
細胞溶解液を超音波処理後、遠心分離にて上清を回収した。上清は測定に用いるまで−80℃で保存した。上清のタンパク質濃度を測定し、サンプル間のタンパク濃度を一定に調整した。上清のタンパク濃度を調整後、サンプルバッファ(サーモ)を加え、熱変性させたものを以下のウェスタンブロッティングに用いた。
【0046】
ウエスタンブロッティングは、以下の方法により行った。まず、7.5%の泳動ゲルを用いてSDS−PAGE後、iblotにてニトロセルロース膜に転写し、1次抗体としてリン酸化AMPK抗体(CST)および総AMPK(CST)を5%BSAまたはスキムミルクを含むTBSTにて1000倍に希釈し、4℃に保ちつつシェイカー上でオーバーナイト反応させた。次いで、ニトロセルロース膜をよく洗浄した後、5%スキムミルクTBSTでHRPラベルされた二次抗体(CST、1:5000またはサンタクルーズ、1:10000)を室温、1時間反応させた。さらに、ニトロセルロース膜をよく洗浄した後、SuperSignal West Dura Extended Duration Substrate(Thermo)またはECL Plus Western Blotting Detection System(GE)で発光させ、CCDカメラ画像解析装置(GE)を用いて化学発光を検出した。なお、活性の度合いはネガティブコントロール試料を1とした相対値で示した。測定結果を表1及び図1に示す。
【0047】
【表1】
【0048】
表1及び図1から明らかなように、実施例1−3(抽出物C)がAMPキナーゼのリン酸化活性が最も高く、次いで実施例1−2(抽出物B)が高いことがわかった。以上のことから、柿葉の抽出に用いるエチルアルコール−水混液におけるエチルアルコールの割合によって、得られる抽出物のAMPキナーゼのリン酸化活性が異なることが示唆された。
【0049】
試験例1−2:骨格筋管細胞を用いた糖取込み促進活性の測定
上記試験例1で最も高いAMPキナーゼのリン酸活性を示した抽出物C、及び低いAMPキナーゼのリン酸活性を示した抽出物Aについて、下記の方法により、マウス骨格筋管細胞(C2C12細胞)を用いて、糖取込み促進活性の測定を行った。
【0050】
マウス骨格筋芽細胞(C2C12細胞)を高グルコースDMEM (5790)中で培養し、ブラックマイクロタイタープレート(Falcon)に、細胞を5000 cells / 200μL / wellの濃度で播種し培養した後、筋管細胞に分化した細胞を実験に用いた。試料としては、上記製造例1において得られた抽出物A及びCの最終濃度をそれぞれ0.02%及び0.05%に調整したものを用い(実施例2−1〜2−4)、また、ネガティブコントロールとして何も添加していない培地(比較例2−1)、ポジティブコントロールとしてインスリン (10nM)(比較例2−2)をそれぞれ用いた。
【0051】
実験当日、培地を低グルコースDMEM (6047)に交換し、スタベーションを行った後、実施例2−1〜2−4及び比較例2−1〜2−2の試料をそれぞれ溶解した培地に交換し、60分間インキュベートした。処理後、培地を取り除き、100μMの光標識非加水分解性糖アナログ、6-(N-(7-Nitrobenz-2-oxa-1,3-diazol-4-yl)amino)-6-Deoxyglucose(6-NBDG;invitrogen社製)を溶解した低グルコースDMEM培地に交換し30分間反応させた後に培地を除去した。PBSで洗浄した後に、蛍光プレートリーダーを用いて444 nm/538 nm emissionで測定した。測定結果を表2及び図2に示す。
【0052】
【表2】
【0053】
表2及び図2から明らかなように、実施例2−4(抽出物C)が、極めて高い骨格筋管細胞の糖取込み促進活性を有することがわかった。また、実施例2−2及び2−4の結果から、糖取込み促進活性には濃度依存性があることが示唆された。
【0054】
以上の試験例1の結果から明らかなように、柿葉をエチルアルコールと水とを特定の割合で混合した溶液を用いて抽出した柿葉抽出物は、高いAMPキナーゼのリン酸化活性及び糖取込み促進活性を有することがわかった。
【0055】
製造例2:抽出物CのODSカラムによる分画
上記製造例1により得られた抽出物C(凍結乾燥品)を9倍質量の蒸留水に分散させ、超音波処理の後に10000Gの遠心分離を行い、上清を得た。得られた上清をPurif-Pack Size200 ODSカラムに吸着させた。溶出の移動相は、精製水、及びアセトニトリル−水混液を用い、流量は60ml/minとした。溶出は、まず、精製水で10分間溶出し、次いで5%アセトニトリル−水混液で10分間溶出し、以後5%ずつアセトニトリル含有量をステップワイズさせたアセトニトリル−水混液で各10分間溶出し、20%アセトニトリル−水混液により10分間溶出した時点で終了した。その後、各溶出液を、エバポレーターで濃縮後、凍結乾燥して分画物を得た。
【0056】
なお、以下において、各溶出液で溶出した分画物をそれぞれ、分画物A(精製水で溶出した分画物)、分画物B(5%アセトニトリル−水混合液で溶出した分画物)、分画物C(10%アセトニトリル−水混合液で溶出した分画物)、分画物D(15%アセトニトリル−水混合液で溶出した分画物)、及び分画物E(20%アセトニトリル−水混合液で溶出した分画物)と記載する。
【0057】
各分画物の収量は、アプライした抽出物Cの質量を100%とした場合、分画物Aは約58%、分画物Bは約17%、分画物Cは約15%、分画物DとEはほとんど回収できなかった。なお、遠心後の沈殿成分(不溶分)は約19%であった。
【0058】
試験例2:骨格筋管細胞を用いた糖取込促進活性の測定
上記製造例1で得られた抽出物C(実施例3−1)、並びに上記製造例2で得られた分画物A〜C(実施例3−2〜3−4)及び不溶分(実施例3−5)について試験例1−2と同様にして骨格筋管細胞の糖取込み促進活性を測定した。さらに、試験例1−2と同様にして、ネガティブコントロールとして何も添加していない培地(比較例3−1)、ポジティブコントロールとしてインスリン (10nM)(比較例3−2)をそれぞれ用いた。なお、実施例3−1〜3−5の試料は最終濃度が0.02質量%となるように調整した。測定結果を、表3及び図3に示す。
【0059】
【表3】
【0060】
表3及び図3から明らかなように、実施例3−3(分画物B)、及び実施例3−4(分画物C)は、実施例3−1(抽出物C)よりも高い糖取込み促進活性を有することが確認できた。特に、実施例3−3(分画物B)は、非常に高い糖取込み促進活性を有することが確認できた。
【0061】
試験例3:骨格筋管細胞を用いた糖取込み促進活性の測定
上記製造例1で得られた抽出物C(実施例4−1)、並びに柿葉に含まれることが知られている、ケンフェロール−3−O−グルコシド、ケルセチン−3−O−グルコシド、ケルセチン−3−O−ガラクトシド、(+)−カテキン、エピガロカテキンガレート、ルチン、及び没食子酸の7化合物(実施例4−2〜4−8)について、試験例1−2と同様にして骨格筋管細胞の糖取込み促進を測定した。さらに、試験例1−2と同様にして、ネガティブコントロールとして何も添加していない培地(比較例4−1)、ポジティブコントロールとしてインスリン (10nM)(比較例4−2)をそれぞれ用いた。なお、実施例4−1〜4−8の試料は、最終濃度が0.01質量%となるように調整した。測定結果を表4及び図4に示す。
【0062】
【表4】
【0063】
表4及び図4から明らかなように、実施例4−3(ケルセチン−3−O−グルコシド)、実施例4−6(エピガロカテキンガレート)、及び実施例4−8(没食子酸)は、実施例4−1(抽出物C)と同様に高い糖取込み促進活性を示したものの、それ以外の化合物は、実施例4−1よりも低い活性を示した。
【0064】
表4及び図4において高い活性を示したケルセチン−3−O−グルコシド、エピガロカテキンガレート、及び没食子酸の3化合物は、抽出物Cにおける含有量が高くないため、抽出物Cの作用に対してある程度の寄与は存在するものと考えられるが、抽出物Cにおける主たる有効成分はこれらの化合物以外であることが示唆された。
【0065】
製造例3:抽出物CのSephadex LH-20カラムによる分画
上記製造例1により得られた抽出物C(凍結乾燥品)を9倍質量の蒸留水に分散させ、超音波処理の後に10000Gの遠心分離を行い、上清を得た。得られた上清をSephadex LH-20カラム(GEヘルスケアジャパン(株)社製)に吸着させた。溶出の移動相は、精製水、メチルアルコール−水混液、及びメチルアルコールを用い、流量は20ml/minとした。溶出は、まず、精製水で10分間溶出し、次いで20%メチルアルコール−水混液で10分間溶出し、以後20%ずつメチルアルコール含有量をステップワイズさせたメチルアルコール−水混液で各10分間溶出した。メチルアルコールによる10分間の溶出が完了した時点で、移動相を70%アセトン−水混液600mLでさらに溶出した。その後、各溶出液を、エバポレーターで濃縮後、凍結乾燥して分画物を得た。
【0066】
なお、以下において、各溶出液で溶出することにより得られた分画物をそれぞれ、分画物F(精製水で溶出した分画物)、分画物G(20%メチルアルコール−水混液で溶出した分画物)、分画物H(40%メチルアルコール−水混液で溶出した分画物)、分画物I(60%メチルアルコール−水混液で溶出した分画物)、分画物J(80%メチルアルコール−水混液で溶出した分画物)、分画物K(メチルアルコールで溶出した分画物)、及び分画物L(70%アセトン−水混液で溶出した分画物)と記載する。
【0067】
各分画物の収量は、アプライした抽出物Cの質量を100%とした場合、分画物Fは約65%、分画物Gは約2%、分画物Hは約5%、分画物Iは約2%、分画物Jは約5%、分画物Kは約2%および分画物Lは約6%であった。なお、上記溶出では溶出しなかった成分(不溶分)は約13%であった。
【0068】
試験例4:骨格筋管細胞を用いた糖取込み促進活性の測定
上記製造例1で得られた抽出物C(実施例5−1)、上記製造例2で得られた分画物B(実施例5−2)、上記製造例3で得られた分画物F〜L(実施例5−3〜5−9)について、試験例2と同様にして骨格筋管細胞の糖取込み促進効果を測定した。さらに、ネガティブコントロールとして何も添加していない培地(比較例5−1)、並びにポジティブコントロールとして、インスリン (10nM)(比較例5−2)、インスリン(100nM)(比較例5−3)、及びAICAR(最終濃度3mM)(比較例5−4)をそれぞれ用いた。なお、実施例5−1〜5−9の試料は、最終濃度が0.02質量%となるように調整した。得られた結果を表5及び図5に示す。
【0069】
【表5】
【0070】
表5及び図5から明らかなように、実施例5−8(分画物K)及び実施例5−9(分画物L)は実施例5−2(分画物B)よりも高い糖取込み促進活性を有することが確認できた。
【0071】
参考製造例1:温度差二段階抽出法による柿葉抽出物の調製
エチルアルコール−水混液による抽出以外の方法として、以下の温度差二段階抽出法により、柿葉抽出物を調製した。
【0072】
乾燥し裁断した国産の柿葉約10gを、20倍質量の各設定温度の精製水と混合し、軽く攪拌した後、1時間静置した。次いで、110メッシュのナイロンを用いて残渣を回収した後、ろ液を凍結乾燥した。精製水の設定温度はそれぞれ、5℃、30℃、60℃、及び80℃とした。
【0073】
なお、以下において、各設定温度の精製水から得られた抽出物をそれぞれ、5C−1(5℃の精製水で得られた抽出物)、30C−1(30℃の精製水で得られた抽出物)、60C−1(60℃の精製水で得られた抽出物)、及び80C−1(80℃の精製水で得られた抽出物)と記載する。
【0074】
さらに、上記で回収した残渣を、還流抽出装置を用い、1時間、沸騰還流の条件で抽出を行った。抽出処理後、110メッシュのナイロンを用いて大きな不溶物を取り除いた後、定性ろ紙No.1(アドバンテック社製)を用いてろ過処理し、ろ液を凍結乾燥した。
【0075】
なお、以下において、各設定温度の精製水により得られた残渣から抽出した抽出物をそれぞれ、5C−2(5℃の精製水により得られた残渣から抽出した抽出物)、30C−2(30℃の精製水により得られた残渣から抽出した抽出物)、60C−2(60℃の精製水により得られた残渣から抽出した抽出物)、及び80C−2(80℃の精製水により得られた残渣から抽出した抽出物)と記載する。
【0076】
また、乾燥し裁断した国産の柿葉約10gを、20倍質量の100℃の精製水と混合し、還流抽出装置を用い、2時間、沸騰還流の条件で抽出を行った。抽出処理後、110メッシュのナイロンを用いて残渣を取り除いた後、定性ろ紙No.1(アドバンテック社製)を用いてろ過処理し、ろ液を凍結乾燥した。なお、以下において、当該操作により得られた抽出物を100Cと記載する。
【0077】
参考試験例1:骨格筋管細胞を用いた糖取込み促進活性の測定
上記参考製造例1で得られた30C−1〜80C−1(参考例3〜6)、100C(参考例7)、及び30C−2〜80C−2(参考例8〜11)、並びに上記製造例2で得られた分画物B(参考例2)について、試験例1−2と同様にして骨格筋管細胞の糖取込み促進活性を測定した。さらに、試験例5と同様にして、ネガティブコントロールとして何も添加していない培地(参考例1)を用いた。なお、参考例3〜11の試料は、最終濃度が0.02質量%となるように調整した。測定結果を、表6及び図6に示す。
【0078】
【表6】
【0079】
表6及び図6から明らかなように、精製水を用いた温度差二段階抽出法により得られた柿葉抽出物(参考例3〜11)は、参考例2(分画物B)よりも低い糖取込み活性を示した。これらの結果から、柿葉をエチルアルコール−水混液を用いて抽出を行うことによって初めて、良好な糖取込み促進活性を示す柿葉抽出物が得られることが示唆された。
図1
図2
図3
図4
図5
図6