【実施例】
【0039】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は下記の例に限定されるものではない。なお、以下、特に断りのない限り「%」は「質量%」を示す。
【0040】
製造例1:エチルアルコール−水混液による柿葉抽出物の調製
乾燥し裁断した国産の柿葉約10gを、20倍質量の各種溶媒を用いて抽出した。抽出に用いた溶媒は、精製水、25%(wt/wt)エチルアルコール−水混液、50%(wt/wt)エチルアルコール−水混液、75%(wt/wt)エチルアルコール−水混液、及びエチルアルコールの5種である。柿葉の抽出は還流抽出装置を用い、1時間、沸騰還流の条件で実施した。抽出処理後、110メッシュのナイロンを用いて大きな不溶物を取り除いた後、定性ろ紙No.1(アドバンテック社製)を用いてろ過処理した。得られたろ液は、エチルアルコールを含有する溶媒で抽出した場合は、エバポレーターを用いてエチルアルコール分を除去した後に凍結乾燥し、精製水で抽出した場合は、ろ過処理にて得られた抽出物をそのまま凍結乾燥した。
【0041】
なお、以下において、各溶媒により得られた抽出物をそれぞれ、抽出物A(精製水で得られた抽出物)、抽出物B(25%(wt/wt)エチルアルコール−水混液で得られた抽出物)、抽出物C(50%(wt/wt)エチルアルコール−水混液で得られた抽出物)、抽出物D(75%(wt/wt)エチルアルコール−水混液で得られた抽出物)及び抽出物E(エチルアルコールで得られた抽出物)と記載する。
【0042】
試験例1:各柿葉抽出物(抽出物A〜E)の糖代謝改善作用の評価
上記製造例1で得られた柿葉抽出物の糖代謝改善作用を評価した。糖代謝改善作用の評価としては、マウス骨格筋管細胞株(C2C12細胞)におけるAMPキナーゼのリン酸化活性の測定を行い、さらに、抽出物AとCについて糖取込み促進活性の測定も行なった。
【0043】
試験例1−1:AMPキナーゼのリン酸化活性の測定
柿葉抽出物A〜E(粉末)をそれぞれ培地に対して最終濃度が0.02%となるように加えて溶解したものを試料として用いた(実施例1−1〜1−5)。また、ネガティブコントロールとして何も添加していない培地を用い(比較例1−1)、ポジティブコントロールとしてAICAR(最終濃度2mM)を用いた(比較例1−2)。次いで、マウス骨格筋管細胞株(C2C12細胞)を6穴細胞培養プレートに播種し、10%ウシ胎児血清および1%抗菌剤を添加したDMEM培地中で37℃、5%二酸化炭素存在下で3日間培養した。
【0044】
細胞がコンフルエントになった状態で1%ウシ胎児血清を含むDMEM培地に交換し、さらに培養して完全に分化させた。さらに、培地を新しいものに交換したうえで、実施例1−1〜1−5及び比較例1−1〜1−2の試料をそれぞれ添加し、37℃、5%二酸化炭素存在下で培養した。PBS(−)で二度細胞を洗浄後、フォスファターゼ阻害剤、プロテアーゼ阻害剤、及びPMSFを添加した細胞溶解バッファーを150μL加え、セルスクレイパーで細胞溶解液を回収した。
【0045】
細胞溶解液を超音波処理後、遠心分離にて上清を回収した。上清は測定に用いるまで−80℃で保存した。上清のタンパク質濃度を測定し、サンプル間のタンパク濃度を一定に調整した。上清のタンパク濃度を調整後、サンプルバッファ(サーモ)を加え、熱変性させたものを以下のウェスタンブロッティングに用いた。
【0046】
ウエスタンブロッティングは、以下の方法により行った。まず、7.5%の泳動ゲルを用いてSDS−PAGE後、iblotにてニトロセルロース膜に転写し、1次抗体としてリン酸化AMPK抗体(CST)および総AMPK(CST)を5%BSAまたはスキムミルクを含むTBSTにて1000倍に希釈し、4℃に保ちつつシェイカー上でオーバーナイト反応させた。次いで、ニトロセルロース膜をよく洗浄した後、5%スキムミルクTBSTでHRPラベルされた二次抗体(CST、1:5000またはサンタクルーズ、1:10000)を室温、1時間反応させた。さらに、ニトロセルロース膜をよく洗浄した後、SuperSignal West Dura Extended Duration Substrate(Thermo)またはECL Plus Western Blotting Detection System(GE)で発光させ、CCDカメラ画像解析装置(GE)を用いて化学発光を検出した。なお、活性の度合いはネガティブコントロール試料を1とした相対値で示した。測定結果を表1及び
図1に示す。
【0047】
【表1】
【0048】
表1及び
図1から明らかなように、実施例1−3(抽出物C)がAMPキナーゼのリン酸化活性が最も高く、次いで実施例1−2(抽出物B)が高いことがわかった。以上のことから、柿葉の抽出に用いるエチルアルコール−水混液におけるエチルアルコールの割合によって、得られる抽出物のAMPキナーゼのリン酸化活性が異なることが示唆された。
【0049】
試験例1−2:骨格筋管細胞を用いた糖取込み促進活性の測定
上記試験例1で最も高いAMPキナーゼのリン酸活性を示した抽出物C、及び低いAMPキナーゼのリン酸活性を示した抽出物Aについて、下記の方法により、マウス骨格筋管細胞(C2C12細胞)を用いて、糖取込み促進活性の測定を行った。
【0050】
マウス骨格筋芽細胞(C2C12細胞)を高グルコースDMEM (5790)中で培養し、ブラックマイクロタイタープレート(Falcon)に、細胞を5000 cells / 200μL / wellの濃度で播種し培養した後、筋管細胞に分化した細胞を実験に用いた。試料としては、上記製造例1において得られた抽出物A及びCの最終濃度をそれぞれ0.02%及び0.05%に調整したものを用い(実施例2−1〜2−4)、また、ネガティブコントロールとして何も添加していない培地(比較例2−1)、ポジティブコントロールとしてインスリン (10nM)(比較例2−2)をそれぞれ用いた。
【0051】
実験当日、培地を低グルコースDMEM (6047)に交換し、スタベーションを行った後、実施例2−1〜2−4及び比較例2−1〜2−2の試料をそれぞれ溶解した培地に交換し、60分間インキュベートした。処理後、培地を取り除き、100μMの光標識非加水分解性糖アナログ、6-(N-(7-Nitrobenz-2-oxa-1,3-diazol-4-yl)amino)-6-Deoxyglucose(6-NBDG;invitrogen社製)を溶解した低グルコースDMEM培地に交換し30分間反応させた後に培地を除去した。PBSで洗浄した後に、蛍光プレートリーダーを用いて444 nm/538 nm emissionで測定した。測定結果を表2及び
図2に示す。
【0052】
【表2】
【0053】
表2及び
図2から明らかなように、実施例2−4(抽出物C)が、極めて高い骨格筋管細胞の糖取込み促進活性を有することがわかった。また、実施例2−2及び2−4の結果から、糖取込み促進活性には濃度依存性があることが示唆された。
【0054】
以上の試験例1の結果から明らかなように、柿葉をエチルアルコールと水とを特定の割合で混合した溶液を用いて抽出した柿葉抽出物は、高いAMPキナーゼのリン酸化活性及び糖取込み促進活性を有することがわかった。
【0055】
製造例2:抽出物CのODSカラムによる分画
上記製造例1により得られた抽出物C(凍結乾燥品)を9倍質量の蒸留水に分散させ、超音波処理の後に10000Gの遠心分離を行い、上清を得た。得られた上清をPurif-Pack Size200 ODSカラムに吸着させた。溶出の移動相は、精製水、及びアセトニトリル−水混液を用い、流量は60ml/minとした。溶出は、まず、精製水で10分間溶出し、次いで5%アセトニトリル−水混液で10分間溶出し、以後5%ずつアセトニトリル含有量をステップワイズさせたアセトニトリル−水混液で各10分間溶出し、20%アセトニトリル−水混液により10分間溶出した時点で終了した。その後、各溶出液を、エバポレーターで濃縮後、凍結乾燥して分画物を得た。
【0056】
なお、以下において、各溶出液で溶出した分画物をそれぞれ、分画物A(精製水で溶出した分画物)、分画物B(5%アセトニトリル−水混合液で溶出した分画物)、分画物C(10%アセトニトリル−水混合液で溶出した分画物)、分画物D(15%アセトニトリル−水混合液で溶出した分画物)、及び分画物E(20%アセトニトリル−水混合液で溶出した分画物)と記載する。
【0057】
各分画物の収量は、アプライした抽出物Cの質量を100%とした場合、分画物Aは約58%、分画物Bは約17%、分画物Cは約15%、分画物DとEはほとんど回収できなかった。なお、遠心後の沈殿成分(不溶分)は約19%であった。
【0058】
試験例2:骨格筋管細胞を用いた糖取込促進活性の測定
上記製造例1で得られた抽出物C(実施例3−1)、並びに上記製造例2で得られた分画物A〜C(実施例3−2〜3−4)及び不溶分(実施例3−5)について試験例1−2と同様にして骨格筋管細胞の糖取込み促進活性を測定した。さらに、試験例1−2と同様にして、ネガティブコントロールとして何も添加していない培地(比較例3−1)、ポジティブコントロールとしてインスリン (10nM)(比較例3−2)をそれぞれ用いた。なお、実施例3−1〜3−5の試料は最終濃度が0.02質量%となるように調整した。測定結果を、表3及び
図3に示す。
【0059】
【表3】
【0060】
表3及び
図3から明らかなように、実施例3−3(分画物B)、及び実施例3−4(分画物C)は、実施例3−1(抽出物C)よりも高い糖取込み促進活性を有することが確認できた。特に、実施例3−3(分画物B)は、非常に高い糖取込み促進活性を有することが確認できた。
【0061】
試験例3:骨格筋管細胞を用いた糖取込み促進活性の測定
上記製造例1で得られた抽出物C(実施例4−1)、並びに柿葉に含まれることが知られている、ケンフェロール−3−O−グルコシド、ケルセチン−3−O−グルコシド、ケルセチン−3−O−ガラクトシド、(+)−カテキン、エピガロカテキンガレート、ルチン、及び没食子酸の7化合物(実施例4−2〜4−8)について、試験例1−2と同様にして骨格筋管細胞の糖取込み促進を測定した。さらに、試験例1−2と同様にして、ネガティブコントロールとして何も添加していない培地(比較例4−1)、ポジティブコントロールとしてインスリン (10nM)(比較例4−2)をそれぞれ用いた。なお、実施例4−1〜4−8の試料は、最終濃度が0.01質量%となるように調整した。測定結果を表4及び
図4に示す。
【0062】
【表4】
【0063】
表4及び
図4から明らかなように、実施例4−3(ケルセチン−3−O−グルコシド)、実施例4−6(エピガロカテキンガレート)、及び実施例4−8(没食子酸)は、実施例4−1(抽出物C)と同様に高い糖取込み促進活性を示したものの、それ以外の化合物は、実施例4−1よりも低い活性を示した。
【0064】
表4及び
図4において高い活性を示したケルセチン−3−O−グルコシド、エピガロカテキンガレート、及び没食子酸の3化合物は、抽出物Cにおける含有量が高くないため、抽出物Cの作用に対してある程度の寄与は存在するものと考えられるが、抽出物Cにおける主たる有効成分はこれらの化合物以外であることが示唆された。
【0065】
製造例3:抽出物CのSephadex LH-20カラムによる分画
上記製造例1により得られた抽出物C(凍結乾燥品)を9倍質量の蒸留水に分散させ、超音波処理の後に10000Gの遠心分離を行い、上清を得た。得られた上清をSephadex LH-20カラム(GEヘルスケアジャパン(株)社製)に吸着させた。溶出の移動相は、精製水、メチルアルコール−水混液、及びメチルアルコールを用い、流量は20ml/minとした。溶出は、まず、精製水で10分間溶出し、次いで20%メチルアルコール−水混液で10分間溶出し、以後20%ずつメチルアルコール含有量をステップワイズさせたメチルアルコール−水混液で各10分間溶出した。メチルアルコールによる10分間の溶出が完了した時点で、移動相を70%アセトン−水混液600mLでさらに溶出した。その後、各溶出液を、エバポレーターで濃縮後、凍結乾燥して分画物を得た。
【0066】
なお、以下において、各溶出液で溶出することにより得られた分画物をそれぞれ、分画物F(精製水で溶出した分画物)、分画物G(20%メチルアルコール−水混液で溶出した分画物)、分画物H(40%メチルアルコール−水混液で溶出した分画物)、分画物I(60%メチルアルコール−水混液で溶出した分画物)、分画物J(80%メチルアルコール−水混液で溶出した分画物)、分画物K(メチルアルコールで溶出した分画物)、及び分画物L(70%アセトン−水混液で溶出した分画物)と記載する。
【0067】
各分画物の収量は、アプライした抽出物Cの質量を100%とした場合、分画物Fは約65%、分画物Gは約2%、分画物Hは約5%、分画物Iは約2%、分画物Jは約5%、分画物Kは約2%および分画物Lは約6%であった。なお、上記溶出では溶出しなかった成分(不溶分)は約13%であった。
【0068】
試験例4:骨格筋管細胞を用いた糖取込み促進活性の測定
上記製造例1で得られた抽出物C(実施例5−1)、上記製造例2で得られた分画物B(実施例5−2)、上記製造例3で得られた分画物F〜L(実施例5−3〜5−9)について、試験例2と同様にして骨格筋管細胞の糖取込み促進効果を測定した。さらに、ネガティブコントロールとして何も添加していない培地(比較例5−1)、並びにポジティブコントロールとして、インスリン (10nM)(比較例5−2)、インスリン(100nM)(比較例5−3)、及びAICAR(最終濃度3mM)(比較例5−4)をそれぞれ用いた。なお、実施例5−1〜5−9の試料は、最終濃度が0.02質量%となるように調整した。得られた結果を表5及び
図5に示す。
【0069】
【表5】
【0070】
表5及び
図5から明らかなように、実施例5−8(分画物K)及び実施例5−9(分画物L)は実施例5−2(分画物B)よりも高い糖取込み促進活性を有することが確認できた。
【0071】
参考製造例1:温度差二段階抽出法による柿葉抽出物の調製
エチルアルコール−水混液による抽出以外の方法として、以下の温度差二段階抽出法により、柿葉抽出物を調製した。
【0072】
乾燥し裁断した国産の柿葉約10gを、20倍質量の各設定温度の精製水と混合し、軽く攪拌した後、1時間静置した。次いで、110メッシュのナイロンを用いて残渣を回収した後、ろ液を凍結乾燥した。精製水の設定温度はそれぞれ、5℃、30℃、60℃、及び80℃とした。
【0073】
なお、以下において、各設定温度の精製水から得られた抽出物をそれぞれ、5C−1(5℃の精製水で得られた抽出物)、30C−1(30℃の精製水で得られた抽出物)、60C−1(60℃の精製水で得られた抽出物)、及び80C−1(80℃の精製水で得られた抽出物)と記載する。
【0074】
さらに、上記で回収した残渣を、還流抽出装置を用い、1時間、沸騰還流の条件で抽出を行った。抽出処理後、110メッシュのナイロンを用いて大きな不溶物を取り除いた後、定性ろ紙No.1(アドバンテック社製)を用いてろ過処理し、ろ液を凍結乾燥した。
【0075】
なお、以下において、各設定温度の精製水により得られた残渣から抽出した抽出物をそれぞれ、5C−2(5℃の精製水により得られた残渣から抽出した抽出物)、30C−2(30℃の精製水により得られた残渣から抽出した抽出物)、60C−2(60℃の精製水により得られた残渣から抽出した抽出物)、及び80C−2(80℃の精製水により得られた残渣から抽出した抽出物)と記載する。
【0076】
また、乾燥し裁断した国産の柿葉約10gを、20倍質量の100℃の精製水と混合し、還流抽出装置を用い、2時間、沸騰還流の条件で抽出を行った。抽出処理後、110メッシュのナイロンを用いて残渣を取り除いた後、定性ろ紙No.1(アドバンテック社製)を用いてろ過処理し、ろ液を凍結乾燥した。なお、以下において、当該操作により得られた抽出物を100Cと記載する。
【0077】
参考試験例1:骨格筋管細胞を用いた糖取込み促進活性の測定
上記参考製造例1で得られた30C−1〜80C−1(参考例3〜6)、100C(参考例7)、及び30C−2〜80C−2(参考例8〜11)、並びに上記製造例2で得られた分画物B(参考例2)について、試験例1−2と同様にして骨格筋管細胞の糖取込み促進活性を測定した。さらに、試験例5と同様にして、ネガティブコントロールとして何も添加していない培地(参考例1)を用いた。なお、参考例3〜11の試料は、最終濃度が0.02質量%となるように調整した。測定結果を、表6及び
図6に示す。
【0078】
【表6】
【0079】
表6及び
図6から明らかなように、精製水を用いた温度差二段階抽出法により得られた柿葉抽出物(参考例3〜11)は、参考例2(分画物B)よりも低い糖取込み活性を示した。これらの結果から、柿葉をエチルアルコール−水混液を用いて抽出を行うことによって初めて、良好な糖取込み促進活性を示す柿葉抽出物が得られることが示唆された。