特許第6382275号(P6382275)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6382275高沸点留分含有炭化水素油用水素化分解触媒、高沸点留分含有炭化水素油用水素化分解触媒の製造方法、及び水素化分解触媒を用いた炭化水素油の水素化分解方法
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  • 特許6382275-高沸点留分含有炭化水素油用水素化分解触媒、高沸点留分含有炭化水素油用水素化分解触媒の製造方法、及び水素化分解触媒を用いた炭化水素油の水素化分解方法 図000009
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6382275
(24)【登録日】2018年8月10日
(45)【発行日】2018年8月29日
(54)【発明の名称】高沸点留分含有炭化水素油用水素化分解触媒、高沸点留分含有炭化水素油用水素化分解触媒の製造方法、及び水素化分解触媒を用いた炭化水素油の水素化分解方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 29/89 20060101AFI20180820BHJP
   B01J 37/04 20060101ALI20180820BHJP
   B01J 37/08 20060101ALI20180820BHJP
   B01J 35/10 20060101ALI20180820BHJP
   C10G 47/16 20060101ALI20180820BHJP
【FI】
   B01J29/89 M
   B01J37/04 102
   B01J37/08
   B01J35/10 301A
   C10G47/16
【請求項の数】20
【全頁数】36
(21)【出願番号】特願2016-197637(P2016-197637)
(22)【出願日】2016年10月5日
(62)【分割の表示】特願2013-523274(P2013-523274)の分割
【原出願日】2011年8月2日
(65)【公開番号】特開2017-6921(P2017-6921A)
(43)【公開日】2017年1月12日
【審査請求日】2016年11月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】511304464
【氏名又は名称】サウジ アラビアン オイル カンパニー
(73)【特許権者】
【識別番号】000190024
【氏名又は名称】日揮触媒化成株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】301041531
【氏名又は名称】一般財団法人JCCP国際石油・ガス協力機関
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】特許業務法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】コセオグル,オマール,レファ
(72)【発明者】
【氏名】アル−ハジ,アドナン
(72)【発明者】
【氏名】アル−ソマリ,アリ,マハムッド
(72)【発明者】
【氏名】アル−アブドラー,アリ,エイチ.
(72)【発明者】
【氏名】アル−ツカイール,ミシャール
(72)【発明者】
【氏名】牛尾 賢
(72)【発明者】
【氏名】黒田 隆三
(72)【発明者】
【氏名】亀岡 隆
(72)【発明者】
【氏名】中野 宏二
(72)【発明者】
【氏名】高森 裕一
【審査官】 森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】 特許第6022454(JP,B2)
【文献】 特開平07−308581(JP,A)
【文献】 特表2005−536343(JP,A)
【文献】 特開2011−042578(JP,A)
【文献】 特表2008−525174(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00 − 38/74
C10G 47/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
超安定Y型ゼオライトを含有する担体に担持された水素添加性金属成分を含む高沸点留分含有炭化水素油用水素化分解触媒であって、
前記超安定Y型ゼオライトは、ゼオライト骨格を構成するアルミニウム原子の一部がジルコニウム原子及び/又はハフニウム原子で置換されている骨格置換ゼオライト(以下、骨格置換ゼオライト−1と称する)であり、
前記ゼオライト−1の結晶化度は80%以上であり、ジルコニウム原子及び/又はハフニウム原子を酸化物基準の計算で0.1〜5質量%含み、
下記相対中間留分収率が95%以上である高沸点留分含有炭化水素油用水素化分解触媒:
(相対中間留分収率)
炭化水素油を原料油として用い、水素分圧13MPa、液空間速度0.26hr-1、水素対油比(水素/油比)1250Nm3/kL、反応温度370℃の条件で水素化分解し、下記式(3)により中間留分収率を求め、下記水素化分解触媒Aを用いて水素化分解を行ったときに得られた前記中間留分収率を100とした場合の前記中間留分収率の相対値を相対中間留分収率とする;
式(3):中間留分収率(%)={(生成油における、沸点が149℃〜375℃の留分の含有量(kg))/(全生成油量(kg))}×100
(水素化分解触媒A)
Al23基準で6.8質量%のアルミン酸ナトリウム水溶液40kgを、Al23基準で、2.4質量%の硫酸アルミニウム水溶液40kgと混合して得られた生成物に水を加えてAl23濃度を10質量%に調整した後、pHを、アンモニア水で10.5に調整し、ニーダーで混練して得られたアルミナ混合物と下記ジルコニウム置換型ゼオライト(USY(A))とを乾燥質量比で1:1となるように混合し、直径1.8mmの円柱状に成形し、550℃で3時間焼成して担体Aを調製し、前記担体Aを、水素化活性金属成分である三酸化モリブデン201.3g及び炭酸ニッケル90.4gに水700mlを加えて調製された水溶液に浸し、空気中550℃で1時間焼成し得られた触媒を水素化分解触媒Aとする;
(ジルコニウム置換型ゼオライト(USY(A)))
SiO2/Al23モル比が5.2、単位格子サイズが2.466nm、比表面積が720m2/g、Na2Oの含有量が13.0質量%であるNaYゼオライト50.0kgを、60℃の水500リットルに懸濁し、硫酸アンモニウム14.0kgを加えることにより、前記NaYゼオライトに含まれるナトリウムの65%がアンモニウムイオンにイオン交換されたY型ゼオライト(NH465Y)を調製し、
前記Y型ゼオライト(NH465Y)40kgを飽和水蒸気雰囲気中において670℃で1時間焼成して得られた水素−Y型ゼオライトを60℃の水に懸濁し、硫酸アンモニウム49.0kgを加え、前記NaYゼオライトに含まれるNaの95%がNH4にイオン交換されたY型ゼオライト(NH495Y)を調製し、
前記Y型ゼオライト(NH495Y)33.0kgを飽和水蒸気雰囲気中にて650℃で1時間焼成し、SiO2/Al23モル比が5.2、Na2Oの含有量が0.60質量%である超安定化Y型ゼオライト(USY(a))を調製し、
前記超安定化Y型ゼオライト(USY(a))26.0kgを60℃の水に懸濁し、25質量%の硫酸61.0kgを添加することにより超安定化Y型ゼオライト(USY(b))を調製し、
前記超安定化Y型ゼオライト(USY(b))を600℃で1時間焼成して超安定化Y型ゼオライト(USY(c))を調製し、
前記超安定化Y型ゼオライト(USY(c))1kgを、25℃の水に懸濁し、懸濁液のpHを、25質量%の硫酸を用いて1.6に調整し、18質量%の硫酸ジルコニウムを含む溶液86gを混合することにより得られたジルコニウム置換型ゼオライトをジルコニウム置換型ゼオライト(USY(A))とする。
【請求項2】
前記ゼオライト−1は、更にチタン原子を含む請求項1に記載の高沸点留分含有炭化水素油用水素化分解触媒。
【請求項3】
前記ゼオライト−1は、チタン原子を酸化物基準の計算で0.1〜5質量%含む請求項1または2に記載の高沸点留分含有炭化水素油用水素化分解触媒。
【請求項4】
超安定Y型ゼオライトを含有する担体に担持された水素添加性金属成分を含む高沸点留分含有炭化水素油用水素化分解触媒であって、
前記超安定Y型ゼオライトは、ゼオライト骨格を構成するアルミニウム原子の一部がジルコニウム原子及び/又はハフニウム原子で置換されている骨格置換ゼオライト(以下、骨格置換ゼオライト−1と称する)であり、
前記ゼオライト−1は、更にチタン原子を含み、
前記ゼオライト−1は、チタン原子を酸化物基準の計算で0.1〜5質量%含み、
請求項1に記載の相対中間留分収率が95%以上である高沸点留分含有炭化水素油用水素化分解触媒。
【請求項5】
前記ゼオライト−1は、ジルコニウム原子及び/又はハフニウム原子を酸化物基準の計算で0.1〜5質量%含む、請求項4に記載の高沸点留分含有炭化水素油用水素化分解触媒。
【請求項6】
前記ゼオライト−1において、ゼオライト骨格を構成するアルミニウム原子の一部が、チタン原子で更に置換されている、請求項2〜5のいずれかに記載の高沸点留分含有炭化水素油用水素化分解触媒。
【請求項7】
前記担体が、前記ゼオライト−1と、前記ゼオライト−1以外の無機酸化物を含む、請求項1〜6のいずれかに記載の高沸点留分含有炭化水素油用水素化分解触媒。
【請求項8】
前記無機酸化物が、アルミナ及び/又はシリカ−アルミナである、請求項7に記載の高沸点留分含有炭化水素油用水素化分解触媒。
【請求項9】
超安定Y型ゼオライトを含有する担体に担持された水素添加性金属成分を含む高沸点留分含有炭化水素油用水素化分解触媒であって、
前記超安定Y型ゼオライトは、ゼオライト骨格を構成するアルミニウム原子の一部がジルコニウム原子及び/又はハフニウム原子で置換されている骨格置換ゼオライト(以下、骨格置換ゼオライト−1と称する)であり、
前記担体は、前記超安定Y型ゼオライトの骨格を構成するアルミニウム原子の少なくとも一部が、チタン原子のみで置換されており、かつ、結晶化度が80%以上であるチタン置換ゼオライト(以下、骨格置換ゼオライト−2と称する)を更に含み、
請求項1に記載の相対中間留分収率が95%以上である高沸点留分含有炭化水素油用水素化分解触媒。
【請求項10】
前記骨格置換ゼオライト−2は、チタン原子を、酸化物基準の計算で0.1〜5質量%含む、請求項9に記載の高沸点留分含有炭化水素油用水素化分解触媒。
【請求項11】
前記担体が、前記骨格ゼオライト−1と、前記骨格置換ゼオライト−2と、前記骨格置換ゼオライト−1及び前記骨格置換ゼオライト−2以外の無機酸化物とを含む、請求項9又は10に記載の高沸点留分含有炭化水素油用水素化分解触媒。
【請求項12】
超安定Y型ゼオライトを含有する担体に担持された水素添加性金属成分を含む高沸点留分含有炭化水素油用水素化分解触媒であって、
前記超安定Y型ゼオライトは、ゼオライト骨格を構成するアルミニウム原子の一部がジルコニウム原子及び/又はハフニウム原子で置換されている骨格置換ゼオライト(以下、骨格置換ゼオライト−1と称する)であり、
前記骨格ゼオライト−1は、以下の特性(a)〜(c)を有し、請求項1に記載の相対中間留分収率が95%以上である高沸点留分含有炭化水素油用水素化分解触媒。
(a)結晶格子定数が2.430〜2.450nm
(b)比表面積が600〜900m/g
(c)Alに対するSiOのモル比が20〜100
【請求項13】
超安定Y型ゼオライトを含有する担体に担持された水素添加性金属成分を含む高沸点留分含有炭化水素油用水素化分解触媒であって、
前記超安定Y型ゼオライトは、ゼオライト骨格を構成するアルミニウム原子の一部がジルコニウム原子及び/又はハフニウム原子で置換されている骨格置換ゼオライト(以下、骨格置換ゼオライト−1と称する)であり、
前記触媒が200〜450m/gの比表面積を有し、直径600Å以下の細孔の容積が0.40〜0.75ml/gの範囲であり、前記水素添加性金属成分の量が0.01〜40質量%の範囲であり、請求項1に記載の相対中間留分収率が95%以上である高沸点留分含有炭化水素油用水素化分解触媒。
【請求項14】
請求項1〜13に記載の高沸点留分含有炭化水素油用水素化分解触媒の製造方法であって、
前記ゼオライト−1は、
結晶格子定数が2.430nm以上、2.450nm以下の範囲であり、比表面積が600〜900m/gであり、Alに対するSiOのモル比が20〜100である超安定Y型ゼオライトを500〜700℃で焼成し、
前記焼成超安定Y型ゼオライトを含み、液体/固体の質量比が5〜15である懸濁液を形成し、
前記懸濁液のpHが1.0〜2.0となるように無機酸又は有機酸を加え、
次いでジルコニウム化合物及び/又はハフニウム化合物を加え混合し、混合液を中和することにより得られる、高沸点留分含有炭化水素油用水素化分解触媒の製造方法。
【請求項15】
前記ゼオライト−1は、結晶格子定数が2.430nm以上、2.450nm以下の範囲であり、比表面積が600〜900m/gであり、Alに対するSiOのモル比が20〜100である超安定Y型ゼオライトを500〜700℃で焼成し、前記焼成超安定Y型ゼオライトから液体/固体の質量比が5〜15である懸濁液を調製し、前記懸濁液のpHが1.0〜2.0となるように無機酸又は有機酸を加え、次いでジルコニウム化合物及び/又はハフニウム化合物と、チタン化合物とを加え混合し、混合液を中和して得られる、請求項14に記載の高沸点留分含有炭化水素油用水素化分解触媒の製造方法。
【請求項16】
請求項1〜13のいずれかに記載の高沸点留分含有炭化水素油用水素化分解触媒を用いて、炭化水素油を水素化分解することを含む、炭化水素油の水素化分解方法であって、
流通反応装置である水素処理装置に前記水素化分解触媒を充填し、
水素の存在下、沸点が375℃〜833℃の炭化水素油を、反応容器温度300℃〜500℃、水素圧力4〜30MPa、液空間速度(LHSV)0.1〜10h−1、水素/油比500〜2500Nm/mで処理することを更に含み、
直列に接続された三つの触媒充填層を有し、かつ、少なくとも前記三つの触媒充填層のうちの第二触媒充填層に前記高沸点留分含有炭化水素油用水素化分解触媒が充填されている、前記炭化水素油を水素処理するための前記水素処理装置、を用いる炭化水素油の水素化分解方法。
【請求項17】
請求項1〜13のいずれかに記載の高沸点留分含有炭化水素油用水素化分解触媒を用いて、炭化水素油を水素化分解することを含む、炭化水素油の水素化分解方法であって、
流通反応装置である水素処理装置に前記水素化分解触媒を充填し、
水素の存在下、沸点が375℃〜650℃の炭化水素油を、反応容器温度330℃〜450℃、水素圧力7〜15MPa、液空間速度(LHSV)0.2〜1.5h−1、水素/油比1000〜2000Nm/mで処理し、灯軽油を産出することを更に含む炭化水素油の水素化分解方法。
【請求項18】
前記流通反応装置は、攪拌槽、沸騰床反応器、バッフル付きスラリー槽、固定床反応器、回転チューブ状反応器、及びスラリー床反応器からなる群から選択された流通反応装置である、請求項16又は17に記載の炭化水素油の水素化分解方法。
【請求項19】
前記炭化水素油は、(1)原油、(2)合成原油、(3)ビチューメン、(4)オイルサンド、(5)シェールオイル、又は(6)石炭液化油から得られた精製油を含む、請求項16〜18のいずれかに記載の炭化水素油の水素化分解方法。
【請求項20】
前記炭化水素油は、原油、合成原油、ビチューメン、オイルサンド、シェールオイル、又は石炭液化油から得られた精製油を含み、前記精製油が、a)減圧軽油(VGO)、b)溶媒脱アスファルトプロセスによって得られる脱アスファルト油(DAO)又は脱金属油、c)コーカープロセスによって得られる軽質コーカー軽油又は重質コーカー軽油、d)流動接触分解(FCC)プロセスによって得られるサイクルオイル、又はe)ビスブレーキングプロセスによって得られる軽油である、請求項16〜18のいずれかに記載の炭化水素油の水素化分解方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に、減圧軽油(以下、「VGO」とも称する)及び脱アスファルト油(「DAO」とも称する)等の重質炭化水素から中間留分(灯油及び軽油;灯軽油)を高収率で生産することができる、炭化水素油用水素化分解触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、チタン及び/又はジルコニウムをメソポアに担持(結合)させたゼオライトを含む水素化処理触媒が残油を処理するために使用されている(例えば、特開2000−334305、2002−255537、及び2003−226519号公報参照)。
【0003】
例えば、特開2000−334305号公報には、チタニア又はジルコニアのチタン族金属酸化物の超微粒子がメソポアの内表面に結合しているゼオライトから構成され、ゼオライト中のシリコンに対するアルミニウムの原子比[Al]/[Si]が0.01〜0.1(言い換えれば、Alに対するSiOのモル比(以下、「SiO/Alモル比」又は「シリカアルミナ比」と称する)が20〜200)である触媒担体に担持された水素添加性金属を含む水素化触媒が開示されている。この開示において、チタン族金属酸化物から構成された超微粒子が結合しているゼオライトは、メソポアを有する原料ゼオライトを、チタニア又はジルコニアのチタン族金属塩の水溶液にpH0.8〜2において接触させ、ゼオライトを水で洗浄し、洗浄したゼオライトを乾燥し、乾燥後のゼオライトを400℃〜600℃で焼成して調製することが記載されている。
【0004】
特開2002−255537号公報には、メソポアの量が多く、シリコンに対するアルミニウムの原子比、即ち、[Al]/[Si]が0.01〜0.2(即ちシリカアルミナ比が10〜200)であり、細孔直径が50〜1000Åのメソポアの容積比が30%〜50%であり、メソポアの容積が0.14cc/g以上であり、4配位アルミニウム原子の全アルミニウム原子に対する割合が25原子%以上であるゼオライトが開示されている。このゼオライトにおいては、難還元性のチタニア及び/又はジルコニアの金属酸化物の超微粒子がゼオライト中のメソポアの内表面に結合している。また、上記ゼオライトから構成された触媒担体に担持された水素添加性金属を含む水素処理触媒も開示されている。このメソポアの量が多いゼオライトは、原料ゼオライトを強酸性水溶液にpH0.8〜2で接触させ、50℃〜200℃で乾燥し、乾燥後のゼオライトを350℃〜600℃で焼成して調製される。この開示には、これにより金属酸化物超微粒子が細孔の内表面に結合(担持)されたゼオライトを調製できることが記載されている。
【0005】
特開2003−226519号公報には、炭化水素油用水素処理触媒が開示されている。この水素処理触媒は、結晶格子定数が24.28Å以上、24.46Å以下であるフォージャサイト型ゼオライトに周期表第4族金属元素(チタン、ジルコニウム、又はハフニウム)を含有させた修飾ゼオライトを含む。この修飾ゼオライトにおける金属元素の含有量が金属元素換算で0.1〜10重量%であり、Al/Si原子比が0.01〜0.1(即ち、シリカアルミナ比が20〜200)であり、水素処理触媒は更に水素添加性金属を含む。この開示において、修飾ゼオライトは、結晶格子定数が24.28Å〜24.46Åであるフォージャサイト型ゼオライトを、周期表第4族元素の水溶性化合物を含む水溶液に酸性条件下で接触させて調製されることが記載されている。
【0006】
しかしながら、これらの水素処理触媒においては、メソポアが担持金属で閉塞されてしまう。したがって、これらの触媒は、VGOやDAO等の重質炭化水素油の水素処理(又は水素化分解)には適さない場合があった。
【0007】
WO2007/032232に開示されているように、ゼオライト骨格内に挿入されたチタン原子を含むY型ゼオライト(即ち、骨格を構成するアルミニウム原子がチタン原子で置換されたY型ゼオライト)を担体として含む水素処理触媒が開発されている。このゼオライトは、Y型ゼオライトをチタン含有酸性水溶液でpH1.5以下において処理し、次いでろ過、洗浄、乾燥し調製することができる。これにより、このゼオライトは、メソポアを閉塞することなく、ゼオライト骨格構造に挿入されたチタン原子を含むことができる。また、上記ゼオライトを担体として含む水素処理触媒を重質炭化水素油の水素処理に適用した場合、重質炭化水素油が容易にメソポア内へ拡散するため、中間留分の収率が向上することが記載されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、ゼオライト骨格を構成するアルミニウム原子の一部がチタン原子で置換されたゼオライトを担体として含む水素処理触媒は、反応性(分解活性)が高過ぎ、灯軽油を過剰に分解してしまい、中間留分の収率が低下するという問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は上記の事情に鑑みてなされたものである。本発明の目的は、中間留分を高収率で得ることができる炭化水素油用水素化分解触媒、水素化分解触媒の製造方法、及び水素化分解触媒を用いた水素化分解法を提供することである。
【0010】
上記目的にかなう、本発明に係る炭化水素油用水素化分解触媒は、超安定Y型ゼオライトを含有する担体に担持された水素添加性金属成分を含む炭化水素油用水素化分解触媒であって、前記超安定Y型ゼオライトは、ゼオライト骨格を構成するアルミニウム原子の一部がジルコニウム原子及び/又はハフニウム原子で置換されている骨格置換ゼオライト(以下、骨格置換ゼオライト−1と称する)である。
【0011】
本発明に係る炭化水素油用水素化分解触媒において、前記骨格置換ゼオライト−1には、ジルコニウム原子及び/又はハフニウム原子が酸化物として0.1〜5質量%含まれていることが好ましい。
【0012】
本発明に係る炭化水素油用水素化分解触媒において、前記骨格置換ゼオライト−1は、更にチタン原子を含むことが好ましい。
【0013】
本発明に係る炭化水素油用水素化分解触媒において、前記骨格置換ゼオライト−1におけるゼオライト骨格を構成するアルミニウム原子の一部が、チタン原子で置換されていることが好ましい。
【0014】
本発明に係る炭化水素油用水素化分解触媒において、前記骨格置換ゼオライト−1には、チタン原子が酸化物として0.1〜5質量%含まれていることが好ましい。
【0015】
本発明に係る炭化水素油用水素化分解触媒において、前記担体は、前記骨格置換ゼオライト−1と、前記骨格置換ゼオライト−1以外の無機酸化物を含むことが好ましい。
【0016】
本発明に係る炭化水素油用水素化分解触媒において、前記無機酸化物が、アルミナ又はシリカ−アルミナであることが好ましい。
【0017】
本発明に係る炭化水素油用水素化分解触媒において、前記担体は、前記超安定Y型ゼオライトのゼオライト骨格を構成するアルミニウム原子の一部が、チタン原子のみで置換されている骨格置換ゼオライト(以下、骨格置換ゼオライト−2と称する)を更に含むことが好ましい。
【0018】
本発明に係る炭化水素油用水素化分解触媒において、前記担体が前記骨格置換ゼオライト−2を含む場合、該骨格置換ゼオライト−2は、チタン原子を酸化物として0.1〜5質量%含むことが好ましい。
【0019】
本発明に係る炭化水素油用水素化分解触媒において、前記担体が、前記骨格置換ゼオライト−1と、前記骨格置換ゼオライト−2と、前記骨格置換ゼオライト−1及び前記骨格置換ゼオライト−2以外の無機酸化物とを含むことが好ましい。
【0020】
本発明に係る炭化水素油用水素化分解触媒において、前記担体に含まれる前記骨格置換ゼオライト−1は、以下の特性(a)〜(c)を有することが好ましい。
(a)結晶格子定数が2.430〜2.450nm
(b)比表面積が600〜900m/g
(c)Alに対するSiOのモル比が20〜100
【0021】
本発明に係る炭化水素油用水素化分解触媒において、前記水素化分解触媒の比表面積が200〜450m/gの範囲であることが好ましく、直径600Å以下の細孔の容積が0.40〜0.75ml/gであることが好ましく、前記水素添加性金属成分の担持量が0.01〜40質量%の範囲であることが好ましい。
【0022】
本発明における炭化水素油用水素化分解触媒の製造方法は、超安定Y型ゼオライトの骨格を構成するアルミニウム原子の一部がジルコニウム原子及び/又はハフニウム原子によって置換された骨格置換ゼオライト−1を含む担体に担持された水素添加性金属成分を含む炭化水素油用水素化分解触媒製造の方法であって、前記骨格置換ゼオライト−1は、結晶格子定数が2.430nm以上、2.450nm以下の範囲であり、比表面積が600〜900m/gであり、Alに対するSiOのモル比が20〜100である超安定Y型ゼオライトを、500〜700℃で焼成し、前記焼成超安定Y型ゼオライトから液体/固体の質量比が5〜15である懸濁液を調製し、前記懸濁液のpHが1.0〜2.0となるように無機酸又は有機酸を加え、次いでジルコニウム化合物及び/又はハフニウム化合物を加え混合し、前記懸濁液を中和することにより得られる。
【0023】
本発明における炭化水素油用水素化分解触媒の別の製造方法は、前記骨格置換ゼオライト−1として、結晶格子定数が2.430nm以上、2.450nm以下の範囲であり、比表面積が600〜900m/gであり、Alに対するSiOのモル比が20〜100である超安定Y型ゼオライトを500〜700℃で焼成し、前記焼成超安定Y型ゼオライトから液体/固体の質量比が5〜15である懸濁液を調製し、前記懸濁液のpHが1.0〜2.0となるように無機酸又は有機酸を加え、次いでジルコニウム化合物及び/又はハフニウム化合物と、チタン化合物とを加え混合し、混合液を中和して得られたゼオライトを用いる。
【0024】
上記目的にかなう本発明の第3の局面において、炭化水素油の水素化分解方法は、前記水素化分解触媒を用いて炭化水素油を水素化分解することを含む。
【0025】
本発明の第3の局面に係る炭化水素油の水素化分解方法は、流通反応装置である水素化分解装置の反応容器に前記水素化分解触媒を充填し、水素の存在下、沸点が375℃〜816℃(707〜1500°F)の炭化水素油を、反応容器温度300℃〜500℃、水素圧力4〜30MPa、液空間速度(LHSV)0.1〜10h−1、水素/油比500〜2500Nm/mで処理することを更に含むのが好ましい。
【0026】
本発明の第3の局面に係る炭化水素油の水素化分解方法は、流通反応装置である水素化分解装置の反応容器に前記水素化分解触媒を充填し、水素の存在下、沸点が375℃〜650℃(707〜1200°F)の炭化水素油を、反応容器温度330℃〜450℃、水素圧力7〜15MPa、液空間速度(LHSV)0.2〜1.5h−1、水素/油比1000〜2000Nm/mで処理し、灯軽油を得ることを更に含むのが好ましい。
【0027】
本発明に係る炭化水素油の水素化分解方法において、前記流通反応装置は、攪拌槽型反応器、沸騰床型反応器、バッフル付きスラリー槽型反応器、固定床型反応器、回転チューブ型反応器、及びスラリー床型反応器から選択された流通反応装置であることが好ましい。
【0028】
本発明に係る炭化水素油の水素化分解方法において、前記炭化水素油は、(1)原油、(2)合成原油、(3)ビチューメン、(4)オイルサンド、(5)シェルオイル又は(6)石炭液化油から得られた精製油を含むことが好ましい。
【0029】
本発明に係る炭化水素油の水素化分解方法において、前記炭化水素油は、原油、合成原油、ビチューメン、オイルサンド、シェルオイル又は石炭液化油から得られた精製油を含み、前記精製油が、a)減圧軽油(VGO)、b)溶媒脱アスファルトプロセスによって得られる脱アスファルト油(DAO)又は脱金属油、c)コーカープロセスによって得られる軽質コーカー軽油又は重質コーカー軽油、d)流動接触分解(FCC)プロセスによって得られるサイクルオイル、e)ビスブレーキングプロセスによって得られる軽油の何れかであることが好ましい。
【0030】
本発明に係る炭化水素油用水素化分解触媒は、超安定Y型ゼオライトを含む担体に担持された水素添加性金属成分を含む炭化水素油用水素化分解触媒であって、前記超安定Y型ゼオライトは、その骨格を構成するアルミニウム原子の一部が、ジルコニウム原子及び/又はハフニウム原子で置換されている骨格置換ゼオライト−1であることを特徴とする。
【0031】
したがって、本発明の水素化分解触媒においては、チタン微粒子又はジルコニウム微粒子を担持したゼオライト担体を含む従来の水素化分解触媒に比べて、VGOやDAO等の重質炭化水素油のメソポアへの拡散が容易となり、炭化水素油の分解活性が向上し、中間留分を高収率で得ることが可能となる。
【0032】
更に、本発明の水素化分解触媒は、Y型ゼオライトの骨格を構成するアルミニウム原子の一部がチタン原子で置換されている骨格置換ゼオライトを含む担体に担持された水素添加性金属成分を含む従来の水素化分解触媒と比較すると、炭化水素油に対する分解活性が若干低い。しかしながら、灯油及び軽油の過剰な分解反応が抑制されるため、中間留分を高収率で得ることができる。また、本発明の炭化水素油用水素化分解触媒は、活性サイトの数が多いため、高い水素化分解活性を与える。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1】USY(A)、USY(c)、及びZrOのUV−vis−NIRスペクトル。
図2】USY(A)、USY(D)、及びZrOのUV−vis−NIRスペクトル。
図3】USY(A)及びUSY(H)のUV−vis−NIRスペクトル。USY(A)、USY(H)、及びUSY(D)の何れにおいても、ZrOの場合と同様に、波長208nm近傍にピークが観測される。USY(c)は、USY(A)、USY(G)及びUSY(E)の原料である超安定Y型ゼオライトのスペクトルである。
図4】USY(A)、USY(G)、USY(E)、及びUSY(c)のFT−IRスペクトル。USY(A):Si−O−Zrに基づくピークが960cm−1付近に観測される。これは、USY(A)は、そのゼオライト骨格を構成するAl原子の一部がZr原子で置換された骨格置換ゼオライトであることを示している。USY(G):Si−O−Tiに基づくピークが波長960cm−1近傍に観測される。これは、USY(G)は、USY(A)のゼオライト骨格を構成するAl原子の一部がTi原子で置換された骨格置換ゼオライトであることを示している。USY(E):Si−O−Zr及びSi−O−Tiに基づくピークが波長960cm−1近傍に観測される。これは、USY(E)は、USY(A)のゼオライト骨格を構成するAl原子の一部がZr原子及び/又はTi原子で置換された骨格置換ゼオライトであることを示している。USY(c):USY(c)は、USY(A)、USY(G)、及びUSY(E)の原料である超安定Y型ゼオライトである。
【発明を実施するための形態】
【0034】
炭化水素油用水素化分解触媒
【0035】
本発明に係る炭化水素油用水素化分解触媒は、超安定Y型ゼオライト(以下、「USY」とも称する)の骨格の一部を構成するものとしてジルコニウム原子及び/又はハフニウム原子を含有する骨格置換ゼオライト−1を含む担体に担持された水素化活性金属成分を含む。本明細書において、「本発明に係る炭化水素油用水素化分解触媒」を「本発明に係る水素化分解触媒」と称することもあり、「本発明に係る炭化水素油用水素化分解触媒の製造方法」を「本発明に係る水素化分解触媒の製造方法」と称することもある。
【0036】
以下に、本発明に係る水素化分解触媒を詳細に説明する。
(1)骨格置換ゼオライト−1(構成)
【0037】
本発明における骨格置換ゼオライト−1は、シリコン原子及びアルミニウム原子がゼオライト骨格を形成している超安定Y型ゼオライトであって、アルミニウム原子の一部がジルコニウム原子及び/又はハフニウム原子で置換されている(以下、ゼオライト骨格を構成するアルミニウム原子の一部がジルコニウム原子のみで置換された骨格置換ゼオライト−1を「ジルコニウム置換ゼオライト」又は「Zr−USY」と称する。ゼオライト骨格を構成するアルミニウム原子の一部がハフニウム原子のみで置換された骨格置換ゼオライト−1を「ハフニウム置換ゼオライト」又は「Hf−USY」と称する。同様に、ゼオライト骨格を構成するアルミニウム原子の一部がジルコニウム原子及びハフニウム原子のみで置換された骨格置換ゼオライト−1を「ジルコニウム・ハフニウム置換ゼオライト」又は「Zr・Hf−USY」と称する)。超安定Y型ゼオライトの骨格を構成するアルミニウム原子を置換するジルコニウム原子及び/又はハフニウム原子は、超安定Y型ゼオライトの骨格の構成要素となる。この点において、本発明における「置換」は、ジルコニウム原子及び/又はハフニウム原子又はそれらの粒子が超安定Y型ゼオライトの骨格の外側に付着する「担持」とは異なり、また、上述の特許文献2(特開2002−255537号公報)の請求項3に規定される「結合」とも異なる。本発明に係る骨格置換ゼオライト−1において、ジルコニウム原子及び/又はハフニウム原子は更に、例えば酸化物として、骨格置換ゼオライト−1上に「担持」されていてもよく、また骨格置換ゼオライト−1と、特許文献2の請求項3に規定されるように「結合」していてもよい。
【0038】
置換が生じていることは、例えば紫外可視近赤外分光分析(UV−Vis−NIR)、フーリエ変換赤外分光分析(FT−IR)、又は核磁気共鳴分析(NMR)によって確認することができる。ここで、βゼオライトの骨格がジルコニウム原子で置換されている骨格置換ゼオライトにおいて、ジルコニウム原子の存在を示すUVスペクトルは約200〜約220nmの範囲に現れることが知られている(例えば、「B. Rakshe et al., Journal of Catalysis 188, 252, 1999」の図3を参照)。
【0039】
本発明における骨格置換ゼオライト−1において、そのゼオライト骨格を構成するアルミニウム原子の一部は、(I)ジルコニウム原子、(II)ハフニウム原子、又は(III)ジルコニア及びハフニウム原子で置換されている必要がある。
【0040】
本発明における骨格置換ゼオライト−1は、ジルコニウム原子及び/又はハフニウム原子をその酸化物(即ち、「ZrO」及び「HfO」)として骨格置換ゼオライト−1に対して好ましくは0.1〜5質量%、更に好ましくは0.2〜4質量%含む。更に好ましくは、0.3〜3質量%の範囲が推奨される。
【0041】
ここで、ジルコニウム原子及び/又はハフニウム原子の含有量の範囲(酸化物基準)は、ゼオライト骨格を構成するアルミニウム原子を置換するジルコニウム原子及び/又はハフニウムの含有量、及び上記アルミニウム原子を置換しないジルコニウム原子及び/又はハフニウム原子の含有量の全てを含むものである。
【0042】
骨格置換ゼオライト−1におけるジルコニウム原子及び/又ハフニウム原子の酸化物としての含有量が骨格置換ゼオライト−1の質量基準で0.1質量%未満であると、上記骨格置換ゼオライト−1を担体として用い調製した水素化分解触媒を水素化分解反応器に適用した場合に、水素化分解反応器に対して有効な量の固体酸が得られないため、炭化水素油の水素化分解反応器の活性の低下が生じ易い。
【0043】
同様に、ジルコニウム原子及び/又ハフニウム原子の酸化物としての含有量が骨格置換ゼオライト−1の質量基準で5質量%を超えると、炭化水素油の水素化分解反応器に対して有効な細孔容積が得られないため、炭化水素油の水素化分解反応器の活性の低下が生じ易い。
【0044】
本発明における骨格置換ゼオライト−1が上記ジルコニウム原子及びハフニウム原子を含む場合、ジルコニウム原子のハフニウム原子に対する質量比(酸化物換算)は特に制限されない。
【0045】
骨格置換ゼオライト−1におけるジルコニウム原子及び/又はハフニウム原子の含有量は、例えば、蛍光X線分析装置、高周波プラズマ発光分光計、原子吸光分光計等で測定できる。
【0046】
上述の骨格置換ゼオライト−1において、ジルコニウム原子及び/又はハフニウム原子は更に、例えば酸化物として、骨格置換ゼオライト−1上に「担持」されていてもよく、また、骨格置換ゼオライト−1と、特許文献2の請求項3で規定されるように「結合」していてもよい。この場合、ジルコニウム原子は酸化ジルコニウム粒子として上述のように担持又は結合されていてもよい。同様に、ハフニウム原子は酸化ハフニウム粒子として上述のように担持又は結合されていてもよい。
【0047】
上述のような粒子が存在する場合、これらの粒子の直径は50nm以下であることが好ましい。上述のジルコニウム粒子及び/又はハフニウム粒子の粒子径が50nmを超えると、水素処理反応器に対して有効な細孔容積が得られないことがあり、細孔の閉塞が生じ易くなる。したがって、上述のゼオライトを含む水素化分解触媒を用いた水素化及び脱水素化における活性が低下する傾向がある。上述のジルコニウム粒子及びハフニウム粒子の粒子径は、走査型電子顕微鏡(SEM)で撮影した写真から測定できる。
【0048】
本発明における骨格置換ゼオライト−1は、ジルコニウム原子及び/又はハフニウム原子に加え、チタン原子を含んでもよく、このチタン原子は、ゼオライト骨格を構成するアルミニウム原子の一部を置換するように含まれているのがより好ましい。
【0049】
具体的には、チタン原子は、上述の骨格置換ゼオライト−1に、酸化物(即ち、TiO)として、骨格置換ゼオライト−1に対する質量比で0.1〜5質量%含まれていることが好ましく、0.5〜4質量%含まれていることがより好ましい。更に好ましくは、0.6〜3質量%が推奨される。
【0050】
ここで、骨格置換ゼオライト−1における上述のチタン原子の酸化物としての含有量が0.1質量%未満であると、該骨格置換ゼオライト−1を担体として用いて調製した水素化分解触媒を水素化分解反応器に適用した際に、水素化分解反応器に対する有効な量の固体酸が得られず、したがって、水素化分解反応器における炭化水素油の活性が低下する傾向がある。同様に、骨格置換ゼオライト−1におけるチタン原子の酸化物としての含有量が5質量%を超えると、該骨格置換ゼオライト−1を担体として用いて調製した水素化分解触媒を水素化分解反応器に適用した際に、水素化分解反応器に対して有効な細孔容積が得られず、水素化反応器及び水素化分解反応器における炭化水素油の活性が低下する傾向がある。骨格置換ゼオライト−1におけるチタン原子の含有量は、例えば、蛍光X線分析装置、高周波プラズマ発光分光計、原子吸光分光計等で測定できる。
(2)骨格置換ゼオライト−2(構成)
【0051】
本発明に係る水素化分解触媒は、上述の骨格置換ゼオライト−1の他に、超安定Y型ゼオライトを構成するアルミニウム原子の一部がチタン原子でのみ置換されている骨格置換ゼオライト(以下、「骨格置換ゼオライト−2」と称する)及び/又は無機酸(骨格置換ゼオライト−1に用いられていない無機酸に限る)を担体として含んでもよい。骨格置換ゼオライト−2には、上記アルミニウム原子を置換しないチタン原子が含まれていてもよい(「骨格置換ゼオライト−2」を、「チタン置換ゼオライト」又は「Ti−USY」と称する)。
【0052】
骨格置換ゼオライト−2は、例えばWO2007/032232(特許文献4)に記載の方法によって調製することができる。
【0053】
上記骨格置換ゼオライト−2は、チタン原子を酸化物(即ち、「TiO」)として、骨格置換ゼオライト−2基準で好ましくは0.1〜5質量%、より好ましくは0.5〜4質量%含む。更に好ましくは、0.6〜3質量%が推奨される。
【0054】
上述のチタン原子の含有量の範囲(酸化物基準)は、ゼオライト骨格を構成するアルミニウム原子を置換するチタン原子の含有量と、これらアルミニウム原子を置換しないチタン原子の含有量の全てを含むものである。
【0055】
ここで、各骨格置換ゼオライト−2におけるチタン原子の酸化物としての含有量が0.1質量%未満であると、水素化分解反応器に対する有効な量の固体酸が得られず、水素化分解反応器における炭化水素油の活性の低下を生じ易い。含有量が5質量%を超えると、水素化分解反応器に対する有効な細孔容積が得られず、水素化反応器及び水素化分解反応器における炭化水素油の活性の低下を生じ易い。
【0056】
骨格置換ゼオライト−2におけるチタンの含有量は、例えば、蛍光X線分析装置、高周波プラズマ発光分光計、原子吸光分光計等で測定できる。ここで、骨格置換ゼオライト−2の結晶格子定数、比表面積、シリカアルミナ比、結晶化度、細孔径が600Å以下の細孔の容積は、骨格置換ゼオライト−1におけるこれらの範囲内で選択されることが好ましい。
(3)骨格置換ゼオライト−1の特徴
【0057】
本発明における骨格置換ゼオライト−1の結晶格子定数、比表面積、Alに対するSiOのモル比(即ち、シリカアルミナ比)等は、所定の範囲にあることが好ましい。
(a)格子定数(UD)
【0058】
本発明における各骨格置換ゼオライト−1の結晶格子定数は、2.430〜2.450nmであることが好ましく、2.435〜2.445nmであることが更に好ましい。骨格置換ゼオライトの結晶格子定数が2.430nm未満であると、ゼオライトの骨格構造中におけるSiO/Alモル比が高くなり、炭化水素の分解活性サイトとしての固体酸サイトの数が少なくなるため、骨格置換ゼオライト−1を担体として用い調製した水素化分解触媒の活性の低下を生じ易い。
【0059】
骨格置換ゼオライト−1の結晶格子定数が2.450nmを超えると、骨格置換ゼオライト−1の耐熱性が低くなるため、水素化分解反応において骨格置換ゼオライト−1の結晶構造の破壊が生じ、骨格置換ゼオライト−1を担体として用い調製した水素化分解触媒の活性の低下を生じ易い。
【0060】
上記骨格置換ゼオライト−2の結晶格子定数も、2.430〜2.450nmであることが好ましく、2.435〜2.445nmであることが更に好ましい。上記の結晶格子定数範囲が好ましい理由は、骨格置換ゼオライト−1の場合と同じである。
【0061】
ここで、結晶格子定数は、ASTM法を参考にして測定することができる。酸化チタン(アナターゼ)の(111)面のKαの角度を、シリコン(Si)を一次標準物質として求める。Y型ゼオライトの(533)及び(642)面からのX線回折ピークを、酸化チタンを二次標準物質として用い測定する。
(b)比表面積(SA)
【0062】
本発明における骨格置換ゼオライト−1の比表面積は、600〜900m/gであることが好ましく、650〜800m/gであることが更に好ましい。この比表面積は、窒素吸着を用いたBET法で得られた値である。
【0063】
骨格置換ゼオライト−1の比表面積が600m/g未満であると、水素処理反応器に対して有効な固体酸サイトの数が少なくなる場合があり、上記骨格置換ゼオライトを担体として用いて調製した水素化分解触媒の触媒活性が不十分なものとなる。比表面積が900m/gを超える骨格置換ゼオライトは、製造するのが困難である。
【0064】
骨格置換ゼオライト−2の比表面積も600〜900m/gであることが好ましく、650〜800m/gであることが更に好ましい。上記のような比表面積範囲が好ましい理由は、骨格置換ゼオライト−1の場合と同じである。
(c)Alに対するSiOのモル比(シリカアルミナ比)
【0065】
本発明における骨格置換ゼオライト−1において、Alに対するSiOのモル比(シリカアルミナ比)は、20〜100であることが好ましく、25〜80であることが更に好ましい。
【0066】
骨格置換ゼオライト−1のシリカアルミナ比が20未満であると、水素処理反応器に対する有効な細孔容積が得られず、骨格置換ゼオライトを担体として用い調製した水素化分解触媒を用いた水素化反応及び水素化分解反応の活性の低下が生じ易い。
【0067】
骨格置換ゼオライト−1のシリカアルミナ比が100を超えると、水素処理反応器における有効な固体酸サイトが少なくなるため、骨格置換ゼオライトを用いて調製した水素化分解触媒を用いた分解反応器おける活性の低下を生じ易い。
【0068】
骨格置換ゼオライト−2のシリカアルミナ比も20〜100であることが好ましく、25〜80であることが更に好ましい。上記のようなシリカアルミナ比の範囲が好ましい理由は、骨格置換ゼオライト−1の場合と同じである。
(d)結晶化度
【0069】
骨格置換ゼオライト−1の結晶化度は80%以上であることが好ましい。結晶化度が80%未満であると、骨格置換ゼオライトを担体として含む水素化分解触媒の所望の効果を提供できない。望ましくは、骨格置換ゼオライト−1の結晶化度は100〜130%である。
【0070】
骨格置換ゼオライト−2の結晶化度は、骨格置換ゼオライト−1の場合と同様である傾向がある。
【0071】
ここで、結晶化度は以下のように求められる。X線回折によって測定される骨格置換ゼオライトの(331)、(511)、(440)、(533)、(642)、及び(555)面からの総ピーク高さ(H)を求める。市販のY型ゼオライト(SK−40、ユニオンカーバイト社製)の上記面からの総ピーク高さ(H)を、基準として求める。結晶化度は以下の式(1)を用い求められる。
結晶化度(%)=H/H×100 (1)
【0072】
骨格置換ゼオライト−2の結晶化度も80%以上であることが好ましい。このような結晶化度の範囲が好ましい理由は、骨格置換ゼオライト−1の場合と同じである。
(4)骨格置換ゼオライト−1の製造方法
【0073】
本発明における骨格置換ゼオライト−1は、例えば以下の方法によって製造できる。
【0074】
骨格置換ゼオライト−1は、結晶格子定数が2.430〜2.450nm、比表面積が600〜900m/g、Alに対するSiOのモル比が20〜100である超安定Y型ゼオライトを500℃〜700℃で焼成し、焼成された超安定Y型ゼオライトを含み、液体/固体質量比が5〜15である懸濁液を形成し、無機酸又は有機酸を該懸濁液のpHが1.0〜2.0となるよう加え、次いでジルコニウム化合物及び/又はハフニウム化合物を含む溶液を加え、これらを混合し、得られた溶液を、例えばアンモニア水で混合液のpHが約7になるように中和して、製造される。上記製造方法を以下に詳しく説明する。
a)超安定Y型ゼオライト
【0075】
超安定Y型ゼオライトは、本発明における骨格置換ゼオライト−1の原料の一つとして使用される。超安定Y型ゼオライトは公知であり、その製造方法も特に制限されない。本発明における超安定Y型ゼオライトとは、結晶格子定数(UD)が2.430nm以上、2.450nm以下の範囲であり、比表面積が600〜900m/gであり、Alに対するSiOのモル比(シリカアルミナ比)が20〜100の範囲にあるゼオライトを意味する。
【0076】
上記の超安定Y型ゼオライトの製造方法においては、通常の方法により合成されたY型ゼオライト(Na−Y)におけるナトリウムイオンを、従来の方法(例えば、Y型ゼオライトを水に分散して懸濁液を調製し、硫酸アンモニウムを加え、固形物を水で洗浄し、次いで固形物を温度40〜80℃の硫酸アンモニウム水溶液で洗浄し、次いで40〜95℃の水で洗浄した後、100〜180℃で30分乾燥する)によってアンモニウムイオンで交換し、Y型ゼオライトに含まれるNaの50〜70%がNHで置換されたアンモニウム交換Y型ゼオライト(NH50to70Y)を得る。
【0077】
次いで、上記アンモニウム交換Y型ゼオライト(NH50to70Y)を飽和水蒸気雰囲気中500〜800℃で10分〜10時間焼成し、水素型Y型ゼオライト(HY)を調製する。次いで、得られた水素型Y型ゼオライトを40〜95℃の水に分散し懸濁液を調製し、更に硫酸アンモニウムを懸濁液に加え、懸濁液を40〜95℃で10分〜3時間攪拌し、固形物を40〜95℃の水で洗浄し、次いで40〜95℃の硫酸アンモニウム水溶液で洗浄し、40〜80℃の水で洗浄した後、100〜180℃で30分〜30時間乾燥し,当初のY型ゼオライト(Na−Y)に含まれるNaの80〜97%がNHにイオン交換されたアンモニウム交換Y型ゼオライト(NH80to97Y)を得ることができる。ここで、最終的なアンモニウムイオン交換率は、90%以上であることが好ましい。
【0078】
得られたアンモニウム交換Y型ゼオライト(NH80to97Y)を、例えば、飽和水蒸気雰囲気中500〜700℃で10分〜10時間焼成することにより、結晶格子定数(UD)が2.430nm以上、2.450nm以下、比表面積が600〜900m/g、Alに対するSiOのモル比(シリカアルミナ比)が20〜100である超安定Y型ゼオライト(USY)を調製することができる。
【0079】
所望する骨格置換ゼオライト−1を得るためには、超安定Y型ゼオライトの結晶格子定数を2.430〜2.450nmに調整することが重要である。
【0080】
本発明に係る水素化分解触媒の製造方法において、結晶格子定数が2.430〜2.450nmである超安定Y型ゼオライトを得るためには、原料である上記超安定Y型ゼオライトから骨格外アルミニウム(ゼオライト骨格を形成しないアルミニウム原子)を除去してもよい。骨格外アルミニウムは、例えば、上記超安定Y型ゼオライトを40〜95℃の温水に分散して懸濁液を調製し、この懸濁液に硫酸を加え、温度を40〜95℃に保持しながら懸濁液を10分〜3時間攪拌し骨格外アルミニウムを溶解させる方法によって除去することができる。硫酸の添加量は、骨格外アルミニウムを所望のレベルまで溶解できる量であれば、特に制限されない。骨格外アルミニウムを溶解した後、懸濁液をろ過し、フィルター上の残渣を40〜95℃の純水で洗浄し、100〜180℃で3〜30時間乾燥させることにより、骨格外アルミニウムが除去された超安定Y型ゼオライトを得ることができる。
【0081】
本発明に係る水素化分解触媒の製造方法においては、原料である超安定Y型ゼオライトを500℃〜700℃、好ましくは550℃〜650℃で焼成する。焼成時間は、目的とする骨格置換ゼオライト−1が得られる限り、特に制限されないが、例えば、30分〜10時間の範囲で焼成される。超安定Y型ゼオライトの焼成温度が500℃未満であると、後工程においてジルコニウム原子、ハフニウム原子又はチタン原子による骨格置換処理をした際に、ジルコニウム原子、ハフニウム原子及びチタン原子による骨格置換量が、500℃〜700℃で焼成した場合に比べて、少なくなる傾向がある。焼成温度が700℃を超えると、超安定Y型ゼオライトの比表面積が減少し、後工程においてジルコニウム原子、ハフニウム原子又はチタン原子による骨格置換処理をした際に、ジルコニウム原子、ハフニウム原子及びチタン原子による骨格置換量が減少し、ジルコニウム原子、ハフニウム原子及びチタン原子が粒子として存在するようになる。超安定Y型ゼオライトの焼成雰囲気に関し、焼成は空気中で行うことが好ましい。
【0082】
焼成された超安定Y型ゼオライトを、約20℃〜30℃の温度の水に懸濁させ、懸濁液を得る。超安定Y型ゼオライトの懸濁液の濃度としては、液体/固体の質量比が、好ましくは5〜15の範囲であり、更に好ましくは8〜12が推奨される。
【0083】
次いで、上記懸濁液のpHが1.0〜2.0となるように無機酸又は有機酸を加えた後、ジルコニウム化合物及び/又はハフニウム化合物を含む溶液を加え混合する。混合液を中和し(pH7.0〜7.5)、望ましくは80〜180℃で乾燥することにより、上記骨格置換ゼオライト−1を得ることができる。
【0084】
上記使用する無機酸としては、硫酸、硝酸、塩酸等を挙げることができ、これらの中で、硫酸、塩酸等が特に好ましい。上記有機酸としては、カルボン酸類が好適に使用できる。有機酸又は無機酸の使用量は、懸濁液のpHを1.0〜2.0の範囲に調整できる限り限定されるものではなく、超安定Y型ゼオライト中のAlの量に対し、例えば0.5〜4.0モル倍量、好ましくは0.7〜3.5モル倍量が好ましいが、この範囲に限定されるものではない。
【0085】
上記ジルコニウム化合物の例としては、硫酸ジルコニウム、硝酸ジルコニウム、塩化ジルコニウム等を挙げることができる。これらの化合物の中で、硫酸ジルコニウム、硝酸ジルコニウム等が特に好ましい。ジルコニウム化合物の上記超安定Y型ゼオライトに対する添加量は、酸化ジルコニウム換算で0.1〜5質量%であることが好ましく、0.2〜4質量%であることが更に好ましい。ジルコニウム化合物の添加量が0.1質量%未満であると、ゼオライトの固体酸を改良できない。ジルコニウム化合物の添加量が5質量%を超えると、ゼオライトの細孔が閉塞される場合がある。通常、ジルコニウム化合物を水に溶解して調製されたジルコニウム化合物の水溶液が、ジルコニウム化合物として好適に使用される。
【0086】
上記ハフニウム化合物の例として、塩化ハフニウム、硝酸ハフニウム、フッ化ハフニウム、臭化ハフニウム、シュウ酸ハフニウム等が挙げられる。これらの化合物の中で、塩化ハフニウム、硝酸ハフニウム等が特に好ましい。ハフニウム化合物の超安定Y型ゼオライトに対する添加量は、酸化ハフニウム換算で0.1〜5質量%であることが好ましく、0.2〜4質量%であることが更に好ましい。ハフニウム化合物の添加量が0.1質量%未満であると、ゼオライトの固体酸の改良ができない。ハフニウム化合物の添加量が4質量%を超えると、得られる触媒が高価になる。通常、ハフニウム化合物を水に溶解して調製されたハフニウム化合物の水溶液が、ハフニウム化合物として好適に使用される。
【0087】
ここで、チタン化合物を上記混合液に添加しても良い。チタン化合物の例としては、硫酸チタン、酢酸チタン、塩化チタン、硝酸チタン、及び乳酸チタンが挙げられる。これらの化合物の中で、硫酸チタン、酢酸チタン等が特に好ましい。超安定Y型ゼオライトに対するチタン化合物の添加量は、酸化物換算で0.1〜5質量%であることが好ましく、0.2〜4質量%であることが更に好ましい。チタン化合物の添加量が0.1質量%未満であると、ゼオライトの固体酸サイトが不足する。チタン化合物の添加量が5質量%を超えると、ゼオライトの細孔が閉塞することがある。通常、チタン化合物を水に溶解して調製されたチタン化合物の水溶液が、チタン化合物として好適に使用される。
【0088】
ジルコニウム化合物、ハフニウム化合物、又はチタン化合物の水溶液と、上記超安定Y型ゼオライトの懸濁液とを混合する際に沈殿が生じることを防ぐため、上記懸濁液のpHは予め1.0〜2.0に調整しておくことが必要である。
【0089】
ジルコニウム化合物、ハフニウム化合物、又はチタン化合物の水溶液と超安定Y型ゼオライトの懸濁液とを混合する場合には、上記水溶液を懸濁液に徐々に加えるのが好ましい。上記水溶液の懸濁液への添加終了後、得られた溶液を、例えば室温(約25〜35℃)で3〜5時間攪拌、混合することが好ましい。
【0090】
更に、上述の混合が終了した後、アンモニア水等のアルカリを上記混合液に、pHが7.0〜7.5に調整されるように加え中和することにより、本発明における骨格置換ゼオライト−1を得ることができる。
【0091】
ここで、ジルコニウム化合物(又はその水溶液)のみを、上記懸濁液に添加される化合物(又はその水溶液)として用いた場合、超安定Y型ゼオライトの骨格を構成するアルミニウム原子の一部がジルコニウム原子で置換された骨格置換ゼオライト−1(Zr−USY)が形成される。ハフニウム化合物(又はその水溶液)のみ用いた場合、超安定Y型ゼオライトの骨格を構成するアルミニウム原子の一部がハフニウム原子で置換された骨格置換ゼオライト−1(Hf−USY)が形成される。ジルコニウム化合物及びハフニウム化合物(又はそれらの水溶液)を用いた場合、超安定Y型ゼオライトの骨格を構成するアルミニウム原子の一部がジルコニウム原子及びハフニウム原子で置換された骨格置換ゼオライト−1(Zr・Hf−USY)が形成される。
【0092】
上記懸濁液にジルコニウム化合物及び/又はハフニウム化合物(又はそれらの水溶液)を添加する際に、それらとチタン化合物(又はその水溶液)を組み合わせて添加した場合、ジルコニウム原子、ハフニウム原子、及びチタン原子が超安定Y型ゼオライトの骨格の一部を構成している骨格置換ゼオライト−1(Zr・Hf・Ti−USY)が形成される。
【0093】
得られた骨格置換ゼオライト−1をろ過し、所望により、水で洗浄し、約80〜180℃で乾燥することが好ましい。
(5)担体
【0094】
本発明に係る水素化分解触媒において、上記担体は、上記骨格置換ゼオライト−1を含む。上記担体は、上記骨格置換ゼオライト−1の他に、該骨格置換ゼオライト−1以外の無機酸化物及び/又は骨格置換ゼオライト−2を含むことができる。
【0095】
上記無機酸化物は、一般に、造粒材又はバインダーとして働く物質を含む。通常は、超安定Y型ゼオライトを含む担体に含有され、造粒材等として使用される公知の物質を使用することができる。無機酸化物としては、関連技術で用いられている水素化分解触媒及び水素化処理触媒に使用される多孔質無機酸化物を使用することができる。無機酸化物の例としては、アルミナ、シリカ、チタニア、シリカ−アルミナ、アルミナ−チタニア、アルミナ−ジルコニア、アルミナ−ボリア、リン−アルミナ、シリカ−アルミナ−ボリア、リン−アルミナ−ボリア、リン−アルミナ−シリカ、シリカ−アルミナ−チタニア、シリカ−アルミナ−ジルコニアが挙げられる。特に、本発明においては、アルミナ、シリカ−アルミナを主成分とする無機酸化物が好ましい。
【0096】
担体における骨格置換ゼオライト−1の含有量及び無機酸化物の含有量は、目的に応じて適宜決定することができる。担体における骨格置換ゼオライト−1の含有量は、2〜80質量%であり、好ましくは20〜70質量%であり、無機酸化物の含有量は、98〜20質量%であり、好ましくは80〜30質量%である。骨格置換ゼオライト−1と骨格置換ゼオライト−2とを併用する場合、これらは、骨格置換ゼオライト−1と骨格置換ゼオライト−2との合計の50%未満で使用することが好ましい。
(6)水素添加性金属成分
【0097】
水素添加性金属成分として、従来の水素化分解触媒に使用される公知の金属成分を使用することができる。水素添加性金属成分の例としては、長周期表における第8族金属成分(鉄、コバルト、ニッケル、ロジウム、パラジウム、銀、イリジウム、白金、及び金)及び/又は第6族金属成分(クロム、モリブデン、及びタングステン)を挙げることができる。好ましい金属成分の例として、第6族のモリブデン又はタングステンと第8族のコバルト又はニッケルとの組み合わせ、及び白金属(白金、ロジウム、パラジウムなど)の金属成分が挙げられる。
【0098】
水素添加性金属成分は、水素化分解触媒中に、関連技術において用いられる水素化分解触媒において通常使用される量(酸化物換算で0.01〜40質量%)含まれていればよい。モリブデン、タングステン、コバルト、又はニッケルの場合、その酸化物としての量は、触媒の質量基準で、3〜30質量%が特に好ましい。白金属(白金、ロジウム、パラジウム等)の場合、その金属としての量は、0.01〜2質量%が特に好ましい。
(7)炭化水素油用水素化分解触媒の特性
【0099】
本発明に係る水素化分解触媒の比表面積は、200〜450m/gの範囲であることが好ましい。より好適には、250〜400m/gの範囲が推奨される。上記比表面積が200m/g未満である場合、分解率が低下し、中間留分の収率も低下する。上記比表面積が450m/gを超える場合、分解率が高くなり、ガス留分が増える傾向がある。
【0100】
本発明に係る水素化分解触媒において、細孔直径が600Å以下の細孔の容積は、0.40〜0.75ml/gの範囲であることが好ましい。より好適には、0.45〜0.70mlの範囲が推奨される。上記細孔容積が0.40ml/g未満の場合、比表面積が低下する。したがって、分解率が低下し、中間留分の収率も低下する。上記細孔容積が0.75ml/gを超える場合、比表面積が高くなる。したがって、分解率が高くなり、ガス留分が増える傾向がある。ここで、細孔容積は、窒素の脱離データを計算解析して得られた細孔分布からBJH法により求められる。
【0101】
本発明に係る水素化分解触媒においては、上述のように、水素化活性金属成分が水素化分解触媒上に0.01〜40質量%の範囲で担持されていることが好ましい。
【0102】
本発明に係る水素化分解触媒に含まれるジルコニウム又はハフニウムの量は、それぞれ0.1〜5質量%(酸化物換算)が好ましい。また、好適には、0.5〜4%の範囲が推奨される。
【0103】
本発明に係る水素化分解触媒に任意に含まれるチタンの量は、0.1〜5質量%(酸化物換算)が好ましい。また、好適には、0.5〜4%の範囲が推奨される。
炭化水素油用水素化分解触媒の製造方法
【0104】
本発明に係る炭化水素油用水素化分解触媒は、以下のようにして製造することができる。例えば、骨格置換ゼオライト−1を上記無機酸化物(又はその前駆物質)と混合する。混合物を、一般的な方法で所望の形状の物品に形成する。この物品を、乾燥、焼成して担体を形成する。この担体に、一般的な方法で水素添加性金属成分を含浸させ、乾燥、焼成して水素化分解触媒を得る。
【0105】
別法として、骨格置換ゼオライト−1と無機酸化物(又はその前駆物質)を水素添加性金属成分と混合する。混合物を、所望の形状の物品に形成する。この物品を、乾燥、焼成して水素化分解触媒を得る。
【0106】
上記無機酸化物の前駆物質とは、他の触媒構成成分と混合し所定の処理を行うことにより、水素化分解触媒の担体を構成する無機酸化物を形成する物質である。
【0107】
関連技術においてこの種の触媒に使用されている焼成条件が、担体及び水素化分解触媒の焼成に適用される。焼成温度は、400℃〜650℃の範囲が好ましい。
【0108】
通常、本発明に係る水素化触媒は、上記担体に、水素化活性金属成分を含む水溶液を含浸させ、空気中、400〜650℃で、例えば、10分〜3時間焼成することにより調製することができる。
炭化水素油の水素化分解方法
【0109】
本発明に係る炭化水素油用水素化分解触媒は、水素化処理装置(流通反応装置)の反応容器に充填され、炭化水素油の水素化分解に好適に使用される。
【0110】
上記炭化水素油は、(1)原油、(2)合成原油、(3)ビチューメン、(4)オイルサンド、(5)シェルオイル、又は(6)石炭液化油から得られた精製油を含むことが好ましい。例えば、a)減圧軽油(VGO)、b)溶媒脱アスファルトプロセスによって得られる脱アスファルト油(DAO)又は脱金属油、c)コーカープロセスによって得られる軽質コーカー軽油又は重質コーカー軽油、d)流動接触分解(FCC)プロセスによって得られるサイクルオイル、及びe)ビスブレーキングプロセスによって得られる軽油から選択される油が、上記精製油として好適に用いられる。
【0111】
水素化分解は、公知の条件で行うことができる。
【0112】
例えば、上記水素化分解触媒を、流通反応装置である水素化処理装置に充填し、沸点が375℃〜833℃の炭化水素油を、水素の存在下、反応温度300℃〜500℃、水素圧力4〜30MPa、液空間速度(LHSV)0.1〜10h−1、水素/油比500〜2500Nm/mの条件で処理することができる。
【0113】
また、上記水素化分解触媒を、流通反応装置である水素処理に充填し、沸点が375〜650℃の炭化水素油を、水素の存在下、反応容器温度330℃〜450℃、水素圧力7〜15MPa、液空間速度(LHSV)0.2〜1.5h−1、水素/油比1000〜2000Nm/mの条件で処理し、灯油及び軽油を得ることができる。上述の流通反応装置としては、攪拌槽型反応器、沸騰床型反応器、バッフル付きスラリー床型反応器、固定床型反応器、回転チューブ型反応器、スラリー床型反応器から選択される流通反応装置が好適に使用できる。
【0114】
本発明に係る炭化水素油用水素化分解触媒は、高沸点留分含有炭化水素の水素化分解に特に好適に使用することができる。高沸点留分含有炭化水素とは、沸点が560℃以上である留分の量が30質量%以上の炭化水素を意味する。高沸点留分含有炭化水素としては、例えば、減圧軽油(VGO)、溶剤脱歴油(DAO)等を挙げることができる。
【0115】
炭化水素油、例えば高沸点留分含有炭化水素を、本発明に係る炭化水素油用水素化分解触媒を用いて水素化分解した場合、上述のように、灯軽油の過分解反応が抑制されるため、中間留分を高い収率で得ることができる。
炭化水素油の水素処理装置
【0116】
本発明における炭化水素油の水素処理装置は、上述の炭化水素油の水素化分解が行えるものである限り、特に限定されない。種々のタイプの装置を使用することができる。第一触媒充填槽、第二触媒充填槽、及び第三触媒充填槽が直列に接続された炭化水素油の水素処理装置が特に好適である。炭化水素油用水素化分解触媒は、各触媒充填槽に充填される。
【0117】
本発明に係る水素化分解触媒は、第二触媒充填槽に充填される。第二触媒充填槽内に使用される水素化分解触媒の充填率は、第一、第二、及び第三触媒充填槽に充填される水素化分解触媒の総体積に対して、例えば10〜60体積%である。しかしながら、充填率は、これ以外の範囲であってもよい。
実施例
【0118】
本発明で用いられる分析方法を、以下に説明する。
【0119】
1)組成分析
蛍光X線分析装置(「RIX3000」、リガク社製)を用い、試料(ゼオライト又は水素化分解触媒)の組成分析(Zr、Hf、Ti、Mo、又はNi)を行った。測定試料は、ガラスビード法により調製した。具体的には、試料5gを内径35mmの塩化ビニル製リングに入れ、加圧成形機を用いて20tの圧力を20秒間加え成形し、測定用試料を調製した。蛍光X線分析条件を以下に示す。ターゲット:Rh、分光結晶:LiF、検出器:シンチレーションカウンター、励起:4kWのRh管、測定電圧:55kV、電流:70mA。
【0120】
2)ゼオライト中のナトリウムの測定
原子吸光分光計(「Z−5300」、堀場製作所製)を用い、試料(ゼオライト)中のナトリウム量を測定した。測定波長範囲は、190〜900nmで制御した。
【0121】
3)結晶格子定数
X線回折装置(「RINT2100」、リガク社製)を用い、試料(ゼオライト)のX線回折ピークを測定し、その結果から結晶格子定数を計算した。結晶格子定数の計算方法は、本明細書で既に説明済みである。X線回折条件は、以下の通りである。管:Cu−K(α線)、2θ走査範囲:20〜50°、走査速度:0.01°/分、走査ステップ:0.01°。
【0122】
4)結晶化度
結晶化度は、試料(ゼオライト)のX線回折ピークから計算した。計算方法は、本明細書で既に説明済みである。
【0123】
5)SiO/Alモル比
試料(ゼオライト)のX線回折ピークからSi及びAlのピーク強度比を求め、これをSiO/Alモル比に換算した。
【0124】
6)比表面積及び細孔容積
吸着測定装置(全自動ガス吸着装置「AUTOSORB−1」、Quantachrome Instruments Corporate製)を用い、0.02〜0.05gの試料(ゼオライト又は水素化分解触媒)を室温で5時間脱気処理し、吸脱着等温線を液体窒素温度下で測定し、多点法のBETの式を用いて質量当たりの比表面積を計算した。更に、細孔分布及び細孔容積(細孔直径:600Å以下)を、BJH法により窒素吸着等温線から計算した。
【0125】
7)紫外可視近赤外分光分析(UV−vis−NIRスペクトル)
ゼオライトのUV−vis−NIRスペクトルは、紫外可視近赤外分光光度計(型番:JASCO V−570、JASCO社製)によって測定した。臭化カリウムと試料を99:1の割合で物理的に混合し調製したものを試料とし、混合物50mgを、500kg/cmの圧力でウエファー状に成形した。次いで成形物を、3.0℃/分の昇温速度で200℃まで加熱し、真空排気を3時間行い前処理した後、測定を、室温でスペクトルバンド幅10mm、走査速度400nm/分の条件にて行った。
【0126】
8)フーリエ変換赤外分光法(FT−IRスペクトル)
ゼオライトの水酸基及び骨格振動領域のFT−IRスペクトルは、透過型フーリエ変換赤外分光計(JIR−7000、JASCO社製)によって測定した。20mgの試料を、500kg/cmの圧力でウエファー状に成形し、試料とした。その後、成形物を6.7℃/分の昇温速度で400℃に加熱し、真空排気を3時間行い前処理した後、室温で分解能4cm−1、積算回数500回の条件にて測定を行った。
【0127】
表の説明
表1:原料として用いたUSY(a)〜(m)の特性を表1に示した。
表2:実施例1〜実施例6で用いた骨格置換ゼオライト−1(USY(A)〜USY(F)の特性を表2に示した。
表3:実施例1〜実施例6で調製した水素化分解触媒(触媒A〜触媒F)の特性を表3に示した。
表4:試験例で用いた原料油の特性を表4に示した。
表5:本発明に係る水素化分解触媒の試験結果(相対分解率と相対中間留分収率)を表5に示した。
【0128】
実施例1:水素化分解触媒A
【0129】
超安定Y型ゼオライト
【0130】
最初に、SiO/Alモル比が5.2、単位格子サイズ(UD)が2.466nm、比表面積(SA)が720m/g、NaOの含有量が13.0質量%であるNaYゼオライト(以下、「NaY」とも称す)50.0kgを、温度60℃の水500リットル(以下、「L」とも記す)に懸濁した。更に、硫酸アンモニウム14.0kgを懸濁液に加えた。得られた懸濁液を70℃で1時間攪拌し、ろ過した。得られた固体を水で洗浄した。次いで、この固体を、温度60℃の水500Lに硫酸アンモニウム14.0kgを溶解した硫酸アンモニウム溶液で洗浄し、温度60℃の水500Lで洗浄し、130℃で20時間乾燥し、NaYに含まれるナトリウム(Na)の65%がアンモニウムイオン(NH)でイオン交換されたY型ゼオライト(NH65Y)を約45kg得た。NH65YにおけるNaOの含有量は、4.5質量%であった。
【0131】
NH65Y40kgを、飽和水蒸気雰囲気中にて670℃で1時間焼成し、水素−Y型ゼオライト(HY)を形成した。HYを温度60℃の水400Lに懸濁した。次いで、硫酸アンモニウム49.0kgを懸濁液に加えた。得られた混合物を90℃で1時間攪拌し、温度60℃の水200Lで洗浄した。次いで、この混合物を130℃で20時間乾燥し、当初のNaYに含まれるNaの95%がNHでイオン交換されたY型ゼオライト(NH95Y)を約37kg得た。NH95Y33.0kgを、飽和水蒸気雰囲気中にて650℃で1時間焼成し、SiO/Alモル比が5.2、NaOの含有量が0.60質量%である超安定Y型ゼオライト(以下、「USY(a)」とも称す)を約15kg得た。表1にUSY(a)の物性を示す。
【0132】
次いで、このUSY(a)26.0kgを、温度60℃の水260Lに懸濁した。25質量%の硫酸61.0kgを懸濁液に徐々に加えた後、懸濁液を70℃で1時間攪拌した。懸濁液をろ過した。得られた固体を、温度60℃の脱イオン水260リットルで洗浄し、130℃で20時間乾燥し、超安定Y型ゼオライト(以下、「USY(b)」とも称す)を得た。表1にUSY(b)の物性を示す。
【0133】
USY(b)を600℃で1時間焼成し、超安定Y型ゼオライト(以下、「USY(c)」とも称す)を約17kg得た。表1にUSY(c)の物性を示す。
【0134】
ジルコニウム置換ゼオライト:USY(A)の調製
【0135】
最初に、USY(c)1kgを、温度25℃の水10Lに懸濁した。懸濁液のpHを、25質量%の硫酸を用いて1.6に調整した。次いで、18質量%の硫酸ジルコニウムを含む溶液86gを懸濁液に加えた。得られた混合物を室温で3時間攪拌した。次いで、pHを15質量%のアンモニア水で7.2に調整した。混合物を室温で1時間攪拌後、ろ過した。得られた固体を、水10Lで洗浄し、130℃で20時間乾燥し、ジルコニウム置換ゼオライト(以下、「USY(A)」とも称す)約1kgを得た。表2にUSY(A)の物性を示し、図1にUSY(A)のUVスペクトルを示す。
【0136】
図1は以下を示す。USY(A)の原料である硫酸ジルコニウム由来のZrOのUVスペクトルは、約230と280nmにピークを有するが、USY(A)のUVスペクトルは、約200〜220nmにピークを示す。従って、USY(A)の骨格はZrで置換されている。
【0137】
ここで、ゼオライトのUVスペクトルは、紫外可視近赤外分光光度計(JASCO V−570、JASCO社製)を用い、バンド幅10mm、走査速度400nm/分で測定した。また、臭化カリウムとUSY(A)との99:1混合物50mgを、500kg/cmの圧力でウエファー状UVスペクトル試料に形成した。試料を、紫外可視近赤外分光光度計に載置した。試料を3℃/分の昇温速度で200℃に加熱し、3時間排気して前処理した後、測定を室温で分解能4cm−1、積算回数500回にて行った。
【0138】
ゼオライトの組成分析は、蛍光X線分析装置(RIX3000、リガク社製)用いて行った。試料は、ガラスビード法で調製した。ゼオライト中のナトリウムは、原子吸光分光計(Z−5300、堀場製作所製)を用い測定した。結晶化度及び結晶格子定数は、X線回折装置(RINT2100、リガク社製)を用いて測定した。比表面積及び細孔容積は、細孔分布測定装置(Autosorb、Quantachrome Instruments製)を用いて測定した。
【0139】
水素化分解触媒A
【0140】
最初に、Al基準で6.8質量%のアルミン酸ナトリウム水溶液40kgを、Al基準で2.4質量%の硫酸アルミニウム水溶液40kgと混合した。混合物を60℃で1時間攪拌し、生成物を0.3質量%のアンモニア水溶液150Lで洗浄し、NaSOを除去した。次いで、NaSOが除去された生成物に水を加え、Al濃度を10質量%に調整した。pHを、15質量%のアンモニア水で10.5に調整した。混合物を、95℃で10時間攪拌し、脱水、洗浄し、ニーダーで混練し、アルミナ混合物を得た。
【0141】
得られたアルミナ混合物とUSY(A)とを、乾燥質量比で1:1となるように混合した。混合物をニーダーで混練し、直径1.8mmの円柱状に成形し、550℃で3時間焼成して担体Aを得た。
【0142】
担体Aを、水素化活性金属成分を含む水溶液に浸し、空気中550℃で1時間焼成し、水素化分解触媒Aを得た。ここで、水素化活性金属成分を含む水溶液は、三酸化モリブデン(水素化活性金属成分の一例)201.3g及び炭酸ニッケル(水素化活性金属成分の一例)90.4gに、水700mlを加え、混合物を95℃で5時間攪拌して調製した。水素化分解触媒Aは、ジルコニウムを酸化物として0.39質量%、モリブデンを酸化物として16.7質量%、ニッケルを酸化物として3.88質量%含んでいた。表3に、水素化分解触媒Aの物性を示す。
【0143】
実施例2:水素化分解触媒B
【0144】
実施例1で得られたUSY(c)1kgを、25℃の水10Lに懸濁し、溶液のpHを25質量%の硫酸で1.6に調整した。塩化ハフニウム8gを加え混合し、懸濁液を室温で3時間攪拌した。次いで、pHを15質量%のアンモニア水で7.0〜7.5に調整し、懸濁液を室温で1時間攪拌した後、ろ過した。得られた物質を水10Lで洗浄し、130℃で20時間乾燥し、ハフニウム置換型ゼオライト(以下、「USY(B)」と称する)約1kgを得た。ハフニウム置換型ゼオライトの特性を表2に示す。
【0145】
更に、実施例1と同様にして、USY(B)を含む水素化分解触媒Bを調製した。水素化分解触媒Bの特性を表3に示す。
【0146】
実施例3:水素化分解触媒C
【0147】
実施例1で得られたUSY(c)1kgを、25℃の水10Lに懸濁し、溶液のpHを25質量%の硫酸で1.5〜1.7に調整した。18質量%の硫酸ジルコニウム86gと塩化ハフニウム8gを加え混合し、懸濁液を室温で3時間攪拌した。次いで、pHを15質量%のアンモニア水で7.2に調整し、懸濁液を室温で1時間攪拌した後、ろ過した。得られた物質を水10Lで洗浄し、130℃で20時間乾燥し、ジルコニウム・ハフニウム置換型ゼオライト(以下、「USY(C)」と称する)約1kgを得た。ジルコニウム・ハフニウム型置換ゼオライトの特性を表2に示す。
【0148】
更に、実施例1と同様にして、USY(C)を含む水素化分解触媒Cを調製した。水素化分解触媒Cの特性を表3に示す。
【0149】
実施例4:水素化分解触媒D
【0150】
実施例1で得られたUSY(c)1kgを、25℃の水10Lに懸濁し、溶液のpHを25質量%の硫酸で1.6に調整した。18質量%の硫酸ジルコニウム86g、塩化ハフニウム8g、及び33質量%の硫酸チタニル60gを加え混合し、懸濁液を室温で3時間攪拌した。次いで、pHを15質量%のアンモニア水で7.2に調整し、懸濁液を室温で1時間攪拌した後、ろ過した。得られた物質を、水10Lで洗浄し、130℃で20時間乾燥し、ジルコニウム・ハフニウム・チタン置換型ゼオライト(以下、「USY(D)」と称する)約1kgを得た。USY(D)の特性を表2に示し、そのUVスペクトルを図2に示す。
【0151】
図2に示すように、原料である硫酸チタニルから得られたTiOのUVスペクトルは、220と320nm近傍にピークを有し、USY(D)は、ZrとTiの置換により、210〜320nm近傍にピークを有すことが確認された。
更に、実施例1と同様にして、USY(D)を含む水素化分解触媒Dを調製した。水素化分解触媒Dの特性を表3に示す。
【0152】
実施例5:水素化分解触媒E
【0153】
実施例1で得られたUSY(c)1kgを、25℃の水10Lに懸濁し、溶液のpHを25質量%の硫酸で1.6に調整した。18質量%の硫酸ジルコニウム86gと33質量%の硫酸チタニル60gを加え混合し、懸濁液を室温で3時間攪拌した。次いで、pHを15質量%のアンモニア水で7.2に調整し、懸濁液を室温で1時間攪拌した後、ろ過した。得られた物質を水10Lで洗浄し、130℃で20時間乾燥し、ジルコニウム・チタン置換型ゼオライト(以下、「USY(E)」と称する)約1kgを得た。USY(E)の特性を表2に示す。
【0154】
更に、実施例1と同様にして、USY(E)を含む水素化分解触媒Eを調製した。水素化分解触媒Eの特性を表3に示す。
【0155】
実施例6:水素化分解触媒F
【0156】
実施例1で得られたUSY(c)1kgを、25℃の水10Lに懸濁し、溶液のpHを25質量%の硫酸で1.6に調整した。塩化ハフニウム8gと33質量%の硫酸チタニル60gを加え混合し、懸濁液を室温で3時間攪拌した。次いで、pHを15質量%のアンモニア水で7.2に調整し、懸濁液を室温で1時間攪拌した後、ろ過した。得られた物質を水10Lで洗浄し、130℃で20時間乾燥し、ハフニウム・チタン置換型ゼオライト(以下、「USY(F)」と称する)約1kgを得た。USY(F)の特性を表2に示す。
更に、実施例1と同様にして、USY(F)を含む水素化分解触媒Fを調製した。水素化分解触媒Fの特性を表3に示す。
【0157】
比較例1:水素化分解触媒G
【0158】
実施例1で得られたUSY(c)1kgを、25℃の水10Lに懸濁し、溶液のpHを25質量%の硫酸で1.6に調整した。33質量%の硫酸チタニル60gを加え混合し、懸濁液を室温で3時間攪拌した。次いで、pHを15質量%のアンモニア水で7.2に調整し、懸濁液を室温で1時間攪拌した後、ろ過した。得られた物質を水10Lで洗浄し、130℃で20時間乾燥し、チタン置換型ゼオライト(以下、「USY(G)」と称する)約1kgを得た。USY(G)の特性を表2に示す。
【0159】
更に、実施例1と同様にして、USY(G)を含む水素化分解触媒Gを調製した。水素化分解触媒Gの特性を表3に示す。
【0160】
比較例2:水素化分解触媒H
【0161】
実施例1で得られた未焼成のUSY(b)1kgを、25℃の水10Lに懸濁し、溶液のpHを25質量%の硫酸で1.6に調整した。18質量%の硫酸ジルコニウム86gを加え混合し、懸濁液を室温で3時間攪拌した。次いで、pHを15質量%のアンモニア水で7.2に調整し、懸濁液を室温で1時間攪拌した後、ろ過した。得られた物質を水10Lで洗浄し、130℃で20時間乾燥し、ジルコニウム置換型ゼオライト(以下、「USY(H)」と称する)約1kgを得た。USY(H)の特性を表2に示し、USY(H)のUVスペクトルを図3に示す。図3において、USY(H)とUSY(A)のUVスペクトルを比較すると、焼成によって、ジルコニウムによる置換が促進されることが観察された。
【0162】
更に、実施例1と同様にして、USY(H)を含む水素化分解触媒Hを調製した。水素化分解触媒Hの特性を表3に示す。
【0163】
比較例3:水素化分解触媒I
【0164】
実施例1で得られたUSY(b)を400℃で1時間焼成して調製した超安定Y型ゼオライト(以下、「USY(d)」と称する)1kgを、25℃の水10Lに懸濁し、溶液のpHを25質量%の硫酸で1.6に調整した。18質量%の硫酸ジルコニウム86gを加え混合し、懸濁液を室温で3時間攪拌した。次いで、pHを15質量%のアンモニア水で7.2に調整し、懸濁液を室温で1時間攪拌した後、ろ過した。得られた物質を水10Lで洗浄し、130℃で20時間乾燥し、ジルコニウム置換型ゼオライト(以下、「USY(I)」と称する)約1kgを得た。ここで、USY(d)の特性を表1に示し、USY(I)の特性を表2に示し、図3にUSY(I)のUVスペクトルを示す。
【0165】
図3において、USY(I)とUSY(A)のUVスペクトルを比較すると、400℃での焼成では、ジルコニウムによる置換が促進されないことが分かった。
【0166】
更に、実施例1と同様にして、USY(I)を含む水素化分解触媒Iを調製した。水素化分解触媒Iの特性を表3に示す。
【0167】
比較例4:水素化分解触媒J
【0168】
実施例1で得られたUSY(b)を800℃で1時間焼成して調製した超安定Y型ゼオライト(以下、「USY(e)」と称する)1kgを、25℃の水10Lに懸濁し、溶液のpHを25質量%の硫酸で1.6に調整した。18質量%の硫酸ジルコニウム86gを加え混合し、懸濁液を室温で3時間攪拌した。次いで、pHを15質量%のアンモニア水で7.2に調整し、懸濁液を室温で1時間攪拌した後、ろ過した。得られた物質を水10Lで洗浄し、130℃で20時間乾燥し、ジルコニウム置換型ゼオライト(以下、「USY(J)」と称する)約1kgを得た。USY(e)の特性を表1に示し、USY(J)の特性を表2に示し、USY(J)のUVスペクトルを図3に示す。
【0169】
更に、実施例1と同様にして、USY(J)を含む水素化分解触媒Jを調製した。水素化分解触媒Jの特性を表3に示す。
【0170】
比較例5:水素化分解触媒K
【0171】
実施例1で得られたUSY(c)1kgを、25℃の水10Lに懸濁し、溶液のpHを25質量%の硫酸で0.6に調整した。18質量%の硫酸ジルコニウム86gを加え混合し、懸濁液を室温で3時間攪拌した。次いで、pHを15質量%のアンモニア水で7.2に調整し、溶液を室温で1時間攪拌した後、ろ過した。得られた物質を水10Lで洗浄し、130℃で20時間乾燥し、ジルコニウム置換型ゼオライト(以下、「USY(K)」と称する)約1kgを得た。USY(K)の特性を表2に示す。
【0172】
更に、実施例1と同様にして、USY(K)を含む水素化分解触媒Kを調製した。水素化分解触媒Kの特性を表3に示す。
【0173】
比較例6:水素化分解触媒L
【0174】
実施例1で得られたUSY(c)1kgを、25℃の水10Lに懸濁し、溶液のpHを25質量%の硫酸で2.4に調整した。18質量%の硫酸ジルコニウム86gを加え混合し、懸濁液を室温で3時間攪拌した。次いで、pHを15質量%のアンモニア水で7.2に調整し、懸濁液を室温で1時間攪拌した後、ろ過した。得られた物質を水10Lで洗浄し、130℃で20時間乾燥し、ジルコニウム置換型ゼオライト(以下、「USY(L)」と称する)約1kgを得た。USY(L)の特性を表2に示す。
【0175】
更に、実施例1と同様にして、USY(L)を含む水素化分解触媒Lを調製した。水素化分解触媒Lの特性を表3に示す。
【0176】
比較例7:水素化分解触媒M
【0177】
実施例1で得られたUSY(a)2kgを60℃の温水20Lに懸濁した。25質量%の硫酸3.7kgを上記懸濁液に徐々に添加し、70℃で1時間攪拌して骨格外アルミニウムを溶解した。次いで、懸濁液をろ過し、得られた物質を60℃の精製水20リットルで洗浄し、130℃で20時間乾燥し、超安定Y型ゼオライト(以下、「USY(f)」と称する)を得た。USY(f)の特性を表1に示す。
【0178】
得られたUSY(f)を600℃で1時間焼成し、超安定Y型ゼオライト(以下、「USY(g)」と称する)約1.5kgを得た。USY(g)の特性を表1に示す。
【0179】
得られたUSY(g)1kgを、25℃の水10Lに懸濁し、溶液のpHを25質量%の硫酸で1.6に調整した。18質量%の硫酸ジルコニウム86gを加え混合し、懸濁液を室温で3時間攪拌した。次いで、pHを15質量%のアンモニア水で7.2に調整し、懸濁液を室温で1時間攪拌した後、ろ過した。得られた物質を水10Lで洗浄し、130℃で20時間乾燥し、ジルコニウム置換型ゼオライト(以下、「USY(M)」と称する)約1kgを得た。USY(M)の特性を表2に示す。
【0180】
更に、実施例1と同様にして、USY(M)を含む水素化分解触媒Mを調製した。水素化分解触媒Mの特性を表3に示す。
【0181】
比較例8:水素化分解触媒N
【0182】
実施例1で得られたUSY(a)2kgを60℃の温水20Lに懸濁した。25質量%の硫酸13.6kgをこの懸濁液に徐々に添加し、70℃で1時間攪拌して骨格外アルミニウムを溶解した。次いで、懸濁液をろ過し、得られた物質を60℃の水20リットルで洗浄し、130℃で20時間乾燥し、超安定Y型ゼオライト(以下、「USY(h)」と称する)を得た。USY(h)の特性を表1に示す。
【0183】
得られたUSY(h)を600℃で1時間焼成して、超安定Y型ゼオライト(以下、「USY(i)」と称する)約11kgを得た。USY(i)の特性を表1に示す。
【0184】
得られたUSY(i)1kgを、25℃の水10Lに懸濁し、溶液のpHを25質量%の硫酸で1.6に調整した。18質量%の硫酸ジルコニウム86gを加え混合し、懸濁液を室温で3時間攪拌した。次いで、pHを15質量%のアンモニア水で7.2に調整し、懸濁液を室温で1時間攪拌した後、ろ過した。得られた物質を水10Lで洗浄し、130℃で20時間乾燥し、ジルコニウム置換型ゼオライト(以下、「USY(N)」と称する)約1kgを得た。USY(N)の特性を表2に示す。
【0185】
更に、実施例1と同様にして、USY(N)を含む水素化分解触媒Nを調製した。水素化分解触媒Nの特性を表3に示す。
【0186】
比較例9:水素化分解触媒O
【0187】
実施例1で得られたNH95Y2kgを、飽和水蒸気雰囲気中800℃で1時間焼成し、UDが2.425nmである超安定Y型ゼオライト(以下、「USY(j)」と称する)約15kgを得た。USY(j)の特性を表1に示す。
【0188】
得られたUSY(j)1kgを、600℃で1時間焼成し、超安定Y型ゼオライト(以下、「USY(k)」と称する)1.5kgを得た。USY(k)の特性を表1に示す。
【0189】
得られたUSY(k)1kgを25℃の水10Lに懸濁し、溶液のpHを25質量%の硫酸水溶液で1.6に調整した。18質量%の硫酸ジルコニウム86gを加え混合し、懸濁液を室温で3時間攪拌した。次いで、pHを15質量%のアンモニア水で7.2に調整し、懸濁液を室温で1時間攪拌した後、ろ過した。得られた物質を水10Lで洗浄し、130℃で20時間乾燥し、ジルコニウム置換型ゼオライト(以下、「USY(O)」と称する)約1kgを得た。USY(O)の特性を表2に示す。
【0190】
更に、実施例1と同様にして、USY(O)を含む水素化分解触媒Oを調製した。水素化分解触媒Oの特性を表3に示す。
【0191】
比較例10:水素化分解触媒P
【0192】
実施例1で得られたNH95Y2kgを、飽和水蒸気雰囲気中800℃で1時間焼成し、UDが2.455nmである超安定Y型ゼオライト(以下、「USY(l)」と称する)を得た。USY(l)の特性を表1に示す。
【0193】
得られたUSY(l)を600℃で1時間焼成して、超安定Y型ゼオライト(以下、「USY(m)」と称する)約1.5kgを得た。USY(m)の特性を表1に示す。
【0194】
得られたUSY(m)1kgを25℃の水10Lに懸濁し、溶液のpHを25質量%の硫酸水溶液で1.6に調整した。18質量%の硫酸ジルコニウム86gを加え混合し、懸濁液を室温で3時間攪拌した。次いで、pHを15質量%のアンモニア水で7.2に調整し、懸濁液を室温で1時間攪拌した後、ろ過した。得られた物質を水10Lで洗浄し、130℃で20時間乾燥し、ジルコニウム置換型ゼオライト(以下、「USY(P)」と称する)約1kgを得た。USY(P)の特性を表2に示す。
【0195】
更に、実施例1と同様にして、USY(P)を含む水素化分解触媒Pを調製した。水素化分解触媒Pの特性を表3に示す。
【0196】
比較例11:水素化分解触媒Q
【0197】
実施例1で得られたUSY(c)1kgを25℃の水10Lに懸濁し、溶液のpHを25質量%の硫酸水溶液で1.6に調整した。18質量%の硫酸ジルコニウム8.6gを加え混合し、懸濁液を室温で3時間攪拌した。次いで、pHを15質量%のアンモニア水で7.2に調整し、懸濁液を室温で1時間攪拌した後、ろ過した。得られた物質を水10Lで洗浄し、130℃で20時間乾燥し、ジルコニウム置換型ゼオライト(以下、「USY(Q)」と称する)約1kgを得た。USY(Q)の特性を表2に示す。
【0198】
更に、実施例1と同様にして、USY(Q)を含む水素化分解触媒Qを調製した。水素化分解触媒Qの特性を表3に示す。
【0199】
比較例12:水素化分解触媒R
【0200】
実施例1で得られたUSY(c)1kgを25℃の水10Lに懸濁し、溶液のpHを25質量%の硫酸水溶液で1.6に調整した。18質量%の硫酸ジルコニウム516gを加え混合し、懸濁液を室温で3時間攪拌した。次いで、pHを15質量%のアンモニア水で7.2に調整し、懸濁液を室温で1時間攪拌した後、ろ過した。得られた物質を水10Lで洗浄し、130℃で20時間乾燥し、ジルコニウム置換型ゼオライト(以下、「USY(Q)」と称する)約1kgを得た。USY(Q)の特性を表2に示す。
【0201】
更に、実施例1と同様にして、USY(Q)を含む水素化分解触媒Qを調製した。水素化分解触媒Qの特性を表3に示す。
【0202】
比較例13:水素化分解触媒S
【0203】
実施例1で得られたUSY(c)1kgを25℃の水10Lに懸濁し、溶液のpHを25質量%の硫酸水溶液で1.6に調整した。塩化ハフニウム1.6gを加え混合し、懸濁液を室温で3時間攪拌した。次いで、pHを15質量%のアンモニア水で7.2に調整し、懸濁液を室温で1時間攪拌した後、ろ過した。得られた物質を水10Lで洗浄し、130℃で20時間乾燥し、ハフニウム置換ゼオライト(以下、「USY(S)」と称する)約1kgを得た。USY(S)の特性を表2に示す。
【0204】
更に、実施例1と同様にして、USY(S)を含む水素化分解触媒Sを調製した。水素化分解触媒Sの特性を表3に示す。
【0205】
比較例14:水素化分解触媒T
【0206】
実施例1で得られたUSY(c)1kgを25℃の水10Lに懸濁し、溶液のpHを25質量%の硫酸水溶液で1.6に調整した。塩化ハフニウム96gを加え混合し、懸濁液を室温で3時間攪拌した。次いで、pHを15質量%のアンモニア水で7.2に調整し、懸濁液を室温で1時間攪拌した後、ろ過した。得られた物質を水10Lで洗浄し、130℃で20時間乾燥し、ハフニウム置換型ゼオライト(以下、「USY(T)」と称する)約1kgを得た。USY(T)の特性を表2に示す。
【0207】
更に、実施例1と同様にして、USY(T)を含む水素化分解触媒Tを調製した。水素化分解触媒Tの特性を表3に示す。
【0208】
比較例15:水素化分解触媒U
【0209】
実施例1で得られたUSY(c)1kgを25℃の水10Lに懸濁し、溶液のpHを25質量%の硫酸水溶液で1.6に調整した。18質量%の硫酸ジルコニウム86gと33質量%の硫酸チタニル6.0gを加え混合し、懸濁液を室温で3時間攪拌した。次いで、pHを15質量%のアンモニア水で7.2に調整し、懸濁液を室温で1時間攪拌した後、ろ過した。得られた物質を水10Lで洗浄し、130℃で20時間乾燥し、ジルコニウム・チタン置換型ゼオライト(以下、「USY(U)」と称する)約1kgを得た。USY(U)の特性を表2に示す。
【0210】
更に、実施例1と同様にして、USY(U)を含む水素化分解触媒Uを調製した。水素化分解触媒Uの特性を表3に示す。
【0211】
比較例16:水素化分解触媒V
【0212】
実施例1で得られたUSY(c)1kgを25℃の水10Lに懸濁し、溶液のpHを25質量%の硫酸水溶液で1.6に調整した。18質量%の硫酸ジルコニウム86gと33質量%の硫酸チタニル516gを加え混合し、懸濁液を室温で3時間攪拌した。次いで、pHを15質量%のアンモニア水で7.2に調整し、懸濁液を室温で1時間攪拌した後、ろ過した。得られた物質を水10Lで洗浄し、130℃で20時間乾燥し、ジルコニウム・チタン置換型ゼオライト(以下、「USY(V)」と称する)約1kgを得た。USY(V)の特性を表2に示す。
【0213】
更に、実施例1と同様にして、USY(V)を含む水素化分解触媒Vを調製した。水素化分解触媒Vの特性を表3に示す。
【表1】
【表2】

【表3】
【0214】
試験例:触媒活性の評価
【0215】
水素化分解反応を、水素分圧13MPa、液空間速度0.26hr−1、水素対油比(水素/油比)1250Nm/kL、反応器温度370℃の条件で、触媒A〜X及び表4に示す特性の炭化水素油を原料油として用い、固定床流通式反応装置(Xytel社製)によって行い、下記式(2)により分解率、下記式(3)により中間留分(灯油及び軽油)収率を求めた。触媒活性は、分解率及び中間留分収率の値に基づき、以下の1)及び2)の方法で評価した。
【0216】
1)触媒Aの分解率の値に対する他の触媒の分解率の値の比を求め、相対分解率として示した。なおここで、触媒Aの分解率を100とした。結果を表5に示す。
【0217】
2)触媒Aの中間留分収率に対する他の触媒の中間留分収率の比を求め、相対中間留分収率として示した。なおここで、触媒Aの中間留分収率を100とした。結果を表5に示す。
【0218】
分解率(%)={1−(生成油における、沸点が375℃より高い留分の含有量(kg))/(原料油における、沸点が375℃より高い留分の含有量(kg))}×100
中間留分収率(%)=(生成油における、沸点が149℃〜375℃の留分の含有量(kg))/(全生成油量(kg))×100
ここで、分解率及び中間留分収率の両者において、「%」は、「質量%」を意味する。
【0219】
表5に示した結果によると、本発明に係る触媒(触媒A〜F)における分解率及び中間留分収率の値のうち少なくとも一方は、比較例の触媒(触媒G〜V)に比べ高く、他方の値も少なくとも同等である。これは、本発明に係る触媒の優位性が示されていることを意味する。
【表4】
【表5】
【0220】
実施例7:水素化分解触媒W
【0221】
8.5質量%のシリカを含む水ガラスを25質量%の硫酸水溶液に加え、7質量%のシリカを含むシリカゲルを得た。また、6.8質量%のAlを含む二酸化ナトリウムアルミニウム水溶液40kgと、2.4質量%のAlを含む硫酸アルミニウム水溶液40kgとを混合しアルミナスラリーを得た。上記シリカゲルとアルミナスラリーとを、質量比70:30で混合し、60℃で1時間攪拌した。ろ過後、NaSOを除去するために、生成物を0.3質量%のアンモニアを含むアンモニウム水溶液150mLで洗浄した。更に、生成物を水で希釈して10質量%の水スラリーを製造し、15質量%のアンモニウム水溶液を加え、水スラリーのpHを10.5に調整した。次いで、水スラリーを95℃で10時間攪拌し、水を除去し、洗浄し、混練しシリカ−アルミナ生成物を得た。
【0222】
得られたシリカ−アルミナとUSY(A)とを、乾燥質量比でシリカ−アルミナ:USY=1.5:1となるよう混合し、混練し、直径1.8mmの円柱状に押し出し成型し、乾燥し、550℃で3時間焼成して担体Wを得た。
【0223】
更に、実施例1と同様にして水素化分解触媒Wを調製した。水素化分解触媒Wの組成及び物性を表6に示す。
【表6】
【0224】
実施例8:水素化分解触媒X
【0225】
8.5質量%のシリカを含む水ガラスを25質量%の硫酸水溶液に加え、7質量%のシリカを含むシリカゲルを得た。また、6.8質量%のAlを含む二酸化ナトリウムアルミニウム水溶液40kgと、2.4質量%のAlを含む硫酸アルミニウム水溶液40kgとを混合しアルミナスラリーを得た。上記シリカゲルとアルミナスラリーとを、質量比70:30で混合し、60℃で1時間攪拌した。ろ過後、NaSOを除去するために、生成物を0.3質量%のアンモニアを含むアンモニウム水溶液150mLで洗浄した。更に、生成物を水で希釈して10質量%の水スラリーを製造し、15質量%のアンモニウム水溶液を加え、水スラリーのpHを10.5に調整した。次いで、水スラリーを95℃で10時間攪拌し、水を除去し、洗浄し、混練しシリカ−アルミナ生成物を得た。
【0226】
得られたシリカ−アルミナとUSY(A)とを、乾燥質量比でシリカ−アルミナ:USY=2:1となるよう混合し、混練し、直径1.8mmの円柱状に押し出し成型し、乾燥し、550℃で3時間焼成して担体Xを得た。
【0227】
更に、実施例1と同じ方法で、水素化分解触媒Xを調製した。水素化分解触媒Xの組成及び物性を表6に示す。
【0228】
実施例9:水素化分解触媒Y
【0229】
8.5質量%のシリカを含む水ガラスを25質量%の硫酸水溶液に加え、7質量%のシリカを含むシリカゲルを得た。また、6.8質量%のAlを含む二酸化ナトリウムアルミニウム水溶液40kgと、2.4質量%のAlを含む硫酸アルミニウム水溶液40kgとを混合しアルミナスラリーを得た。上記シリカゲルとアルミナスラリーとを、質量比30:70で混合し、60℃で1時間攪拌した。ろ過後、NaSOを除去するために、生成物を0.3質量%のアンモニアを含むアンモニウム水溶液150mLで洗浄した。更に、生成物を水で希釈して10質量%の水スラリーを製造し、15質量%のアンモニウム水溶液を加え、水スラリーのpHを10.5に調整した。次いで、水スラリーを95℃で10時間攪拌し、水を除去し、洗浄し、混練しシリカ−アルミナ生成物を得た。
【0230】
得られたシリカ−アルミナとUSY(A)とを、乾燥質量比でシリカ−アルミナ:USY=2:1となるよう混合し、混練し、直径1.8mmの円柱状に押し出し成型し、乾燥し、550℃で3時間焼成して担体Yを得た。
【0231】
更に、実施例1と同じ方法で、水素化分解触媒Yを調製した。水素化分解触媒Yの組成及び物性を表6に示す。
【0232】
調製した触媒W、X、Yの活性を、上述の方法により評価した。結果を表7に示す。
【表7】
【0233】
表7から分かるように、アルミナ担体の場合と同様に、アルミナ−シリカを担体として有する触媒においても、高い分解活性及び中間留分選択性が得られる。
一般に、アルミナ−シリカはアルミナと比べて、比較的強い酸性サイトを有するため、USYゼオライトの含有量が少ないにもかかわらず高い分解活性を有する。その結果、アルミナ−シリカは、USYゼオライトを伴うアルミナに比べ、高い中間留分選択性を有する。
【0234】
本発明は、上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲が変更されない限り変更可能である。例えば、上述の実施形態や変形例のそれぞれの一部又は全部を組み合わせて、本発明の炭化水素油用水素化分解触媒及び該水素化分解触媒を用いた水素処理方法を構成することも、本発明の権利範囲に含まれる。
【0235】
例えば、上述の実施形態における炭化水素油用水素化分解触媒の場合、本発明に係る炭化水素油用水素化分解触媒と触媒(Y)とを予め混合し、各段の触媒充填槽に混合触媒を充填してもよい。
図1
図2
図3
図4