(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して本発明の好ましい実施形態について説明する。まず、本発明の一実施形態に係るドラムブレーキの全体構成について
図1〜
図7を用いて説明する。
【0013】
ドラムブレーキBは、
図1に示すように、車軸1に設けられて該車軸1とともに回転可能なブレーキドラム31を設けてなるドラムユニット3と、車体に固定されるアンカーブラケット2に揺動可能に設けられてブレーキドラム31の内周面に沿って配設される一対のブレーキシュー40,40を備えたブレーキシューユニット4と、ブレーキ操作に応じてブレーキシュー40,40を揺動させてブレーキドラム31の内周面に押しつけるエキスパンダ5とを主体として構成される。
【0014】
アンカーブラケット2は、中央に円孔状の開口2aを有し、この開口2aの周囲に設けたボルト孔2bに挿入されるボルト(図示せず)を介して車体のアクスルハウジング(図示せず)に固定される。また、アンカーブラケット2の下部に、その厚さ方向(
図1紙面直交方向)に二股に分かれた支持アーム部2cを有し、この支持アーム部2cの厚さ方向手前側および厚さ方向奥側のそれぞれに円孔状のピン挿入口2d,2dが正面視左右に並んで開設されている。
【0015】
ドラムユニット3は、アンカーブラケット2の開口2aから外方へ突出する車軸1上にベアリングを介して回転可能に取り付けられたホイールハブ(図示せず)に、ホイールリム(図示せず)が取り付けられるともに、ブレーキドラム31が結合されて構成されている。なお、ホイールリムには車輪が取り付けられ、ブレーキドラム31と車輪とがホイールハブを介して一体回転するようになっている。
【0016】
ブレーキシューユニット4は、アンカーブラケット2を挟んで正面視左右に配設された二つのブレーキシュー40を有して構成される。ブレーキシュー40は、弧状に延びるウェブ部41と、ウェブ部41の外周端に取り付けられるリム部42と、リム部42にリベット等により固着されるライニング43とを有してなる。ブレーキシュー40は、ブレーキドラム31の内周面に沿って配設されており、ライニング43をブレーキドラム31の内周面に対向させている。
【0017】
ブレーキシュー40は、基端部が支持アーム部2cのピン挿入口2dに挿入されたアンカーピン44を介してアンカーブラケット2に枢止されており、アンカーピン44を揺動中心として
図1における左右方向に揺動可能とされる。一対のブレーキシュー40,40の先端部同士の間には、これらを相互に接続するリターンスプリング45が跨設されている。そして、ブレーキ操作がなされていないとき(ブレーキの非作動時)は、ブレーキシュー40,40はリターンスプリング45の付勢力を受けて内方に揺動した位置(すなわち、ブレーキドラム31と離間した位置)に保持される。
【0018】
また、ブレーキシュー40,40の先端部同士の間には、アンカーブラケット2に固定されたエキスパンダ5が配設されている。後に詳述するが、エキスパンダ5は、ブレーキ操作がなされたとき(ブレーキの作動時)に、スクリュウ57,57の張出作動によりブレーキシュー40,40の先端部をリターンスプリング45の付勢力に抗して外方へ押圧する。ブレーキシュー40,40はアンカーピン44,44を中心にそれぞれ外方へ揺動し、ライニング43,43が対向するブレーキドラム31の内周面に押し付けられ、両者の間の摩擦力により、ブレーキドラム31の回転が制動される。これにより、ブレーキドラム31と一体回転する車輪に対して所定のブレーキ作用が得られることになる。
【0019】
エキスパンダ5は、
図2および
図3に示すように、中央にウェッジ収容部51aを空間形成するとともに両側部からウェッジ収容部51aに連通した一対のシリンダ部51b,51bを形成するハウジング51と、ウェッジ収容部51aに挿抜可能に取り付けられるウェッジ52と、シリンダ部51b,51b内に嵌挿されて軸線Xの方向(以下「軸線方向」とも称する)に摺動可能に配設されるスリーブアッシー53,53と、スリーブアッシー53と軸線方向に螺合してハウジング51の側部外方へ向けて延出するスクリュウ57とを備えて構成される。エキスパンダ5におけるシリンダ部51bの開口端には、該シリンダ部51b内への粉塵の混入を防止するブーツ59が取り付けられている。
【0020】
エキスパンダ5は、左右対称に構成されており、以下では、説明の便宜上、
図2および
図3に示すエキスパンダ5の配設姿勢を基準として、軸線方向におけるハウジング51の内方側(ウェッジ収容部51a側)を「一端側」、軸線方向におけるハウジング51の外方側(ブレーキシュー40側)を「他端側」と称して説明する。なお、
図2はブレーキの非作動時におけるエキスパンダ5の状態を、
図3はブレーキの作動時におけるエキスパンダ5の状態を示している。
【0021】
ウェッジ52は、シャフト状に形成されて、不図示のチャンバのダイヤフラムの作動によりハウジング51に対して軸線方向と直交する方向(以下「軸線直交方向」とも称する)に挿抜可能に取り付けられている。このウェッジ52は、ブレーキの非作動時(ブレーキの解除時)には、
図2に示すように、ウェッジスプリング52aの付勢力によりウェッジ収容部51aに対して外方へ抜出された状態とされる。一方、ウェッジ52は、ブレーキの作動時には、
図3に示すように、ウェッジスプリング52aの付勢力に抗してウェッジ収容部51a内を軸線直交方向(
図3では下方)に移動してウェッジ収容部51aに対して挿入された状態とされる。ウェッジ収容部51aに挿入される側の端部である挿入端部52bは、先端に向かって尖る楔状に形成されており、軸線方向の両側に傾斜面52c,52cを有している。また、ウェッジ52には、一対のローラ52fを支持するローラ保持体52eが設けられている。一対のローラ52fは、ローラ保持体52eに対して回転自在且つ互いに近接および離間する方向(軸線方向)に移動可能に設けられている。また、ローラ保持体52eは、軸線直交方向に沿って往復動自在に設けられており、常にはウェッジスプリング52aによってウェッジ52とともにハウジング51の外方側(
図2では上方)に付勢されている。このローラ保持体52eは、ウェッジ52と協働して、ウェッジ52の軸線直交方向の直線運動を、スリーブアッシー53の軸線方向の直線運動に変換する。
【0022】
スリーブアッシー53は、
図4および
図5に示すように、軸線方向の一端側に外径がシリンダ部51bの内径より幾分小さく形成された本体部54aを有して軸線方向の他端側に本体部54aよりも外径の小さい円筒部54bを有するタペット54と、タペット54の本体部54aと外径の等しい円筒状に形成されて軸線方向の一端側でタペット54の円筒部54bに対して外側に嵌合されるスリーブ55と、タペット54およびスリーブ55の嵌合面に設けられて両者を接続し、互いの軸線方向への相対移動を規制するC字形のサークリップ56と、タペット54およびスリーブ55の間に水平姿勢で支持されたラップスプリング61とを有して構成される。
【0023】
タペット54は、互いに外径の異なる本体部54aおよび円筒部54bから段付き円筒状に形成されて、本体部54aにはウェッジ52の傾斜面52aと略平行となる傾斜面54cを有し、円筒部54bには他端側に開口した円筒状のスプリング取付孔54sを有する。また、円筒部54bには、外周面の全周に亘ってリング取付溝54rが刻設されている。タペット54は、ウェッジ収容部51aに連通するシリンダ部51bの最内方に嵌挿されて傾斜面54cをローラ52fの周面に当接させており、ウェッジ52の挿抜作動によりローラ52fを介してシリンダ部51b内を軸線方向に摺動する。
【0024】
スリーブ55は、軸線方向に沿って延びる貫通孔55aを有した中空の略円筒状に形成されている。貫通孔55aは、軸線方向の一端側から順に、一端側に開口してタペット54の円筒部54bが嵌合される円筒孔55bと、タペット54のスプリング取付孔54sと同一の孔径に形成されたスプリング取付孔55sと、他端側に開口してスクリュウ57が螺合される雌ねじ部55cとが同軸的に連通されて形成されている。スリーブ55の円筒孔55bには、内周面の全周に亘って第2リング取付溝55rが刻設されている。
【0025】
タペット54の円筒部54bとスリーブ55の円筒孔55bとを嵌合させると、円筒部54bの外周面に沿って刻設されるリング取付溝54rと、円筒孔55bの内周面に沿って刻設されるリング取付溝55rとが整合して、タペット54とスリーブ55との嵌合面間に、サークリップ56を装着するための一体の隙間が形成される。また、タペット54の円筒部54bとスリーブ55の円筒孔55bとを嵌合させると、円筒部54bの他端側に開口されるスプリング取付孔54sと、スリーブ55の一端側に開口されるスプリング取付孔55sとが整合して、タペット54とスリーブ55との内部に、ラップスプリング61を配設するための一体の空間が形成される。
【0026】
サークリップ56は、例えば焼入れ・焼戻しあるいはオーステンパ等の熱処理を施した鋼線材で成形されて、円環の一部を切り欠いたC形状(正円リング状)をなして縮径方向に弾性変形可能に形成される。サークリップ56は、タペット54とスリーブ55との嵌合面間において互いに整合して一体となったリング取付溝54r,55r内に配設されることで、タペット54とスリーブ55とを軸線方向に離脱不能に連結する。
【0027】
ラップスプリング61は、例えば円断面の素線を巻回してコイル状に加工されたばね素材を所定長さに切断して得られた圧縮コイルスプリングである。このラップスプリング61の両端は、切断後に研削・研磨等の端部加工が施された平坦面となっている。ラップスプリング61は、一端側の外周面がタペット54のスプリング取付孔54sの内周面に係合され、他端側の外周面がスプリング取付溝55sの内周面に係合されて、軸線方向に弾性的に圧縮変形された状態で取り付けられている。
【0028】
ラップスプリング61は、ワンウェイクラッチ機能を有し、コイルの外径が縮小する縮径方向(例えばコイルの巻回方向が右巻きの場合には右回転)にはスリーブ55のタペット54に対する軸線回りの相対回転を許容し、コイル外径が拡大する拡径方向(同左回転)には、外周面がタペット54およびスリーブ55に食い付いてこれらを一体化し、この相対回転を阻止する。
【0029】
また、ラップスプリング61は、互いに整合して一体となったスプリング取付孔54s,55s内で圧縮変形されて、所定の荷重(セット荷重)を発生させた状態で弾装されている。これにより、ラップスプリング61が、タペット54とスリーブ55とを軸線方向に離反させるよう付勢することで、タペット54に対するスリーブ55の軸線方向の抜け止めとして装着されたサークリップ56がタペット54とスリーブ55とに軸線方向における相反する方向にて当接する。すなわち、ラップスプリング61によるセット荷重の作用下で、サークリップ56は、
図6に示すように、一端側の外側面56aがスリーブ55のリング取付溝55rの一端側の内側面55r1に押圧状態で当接し、他端側の外側面56bがタペット54のリング取付溝54rの他端側の内側面54r1に押圧状態で当接する。そのため、タペット54に対してスリーブ55を軸線回りに相対回転させるには、サークリップ56とタペット54およびスリーブ55との間の摩擦抵抗に抗する回転力(回転トルク)が必要となる。なお、該摩擦抵抗は、ラップスプリング61のセット荷重に応じてその値を任意に設定することができる。また、このセット荷重は、ラップスプリング61のバネ定数やセット長(縮み量)を変更することで任意に設定することができる。
【0030】
スクリュウ57は、軸線方向に延びるロッド状に形成されて外周面に雄ねじ部57aを有し、その雄ねじ部57aをスリーブ55の雌ねじ部55cに螺合させてハウジング51の側部外方へ延出するように設けられている。スクリュウ57の軸線方向の他端側には、調整ダイヤル部57bが設けられている。調整ダイヤル部57bには、スクリュウ57の螺合軸回りに回動可能にクリップ58が係止されている。クリップ58は、ブレーキシュー40のウェブ部41と係合している。スクリュウ57は、調整ダイヤル部57bを挟持して設けられるクリップ58を介してブレーキシュー40に接続される。
【0031】
図7に示すように、スリーブ55の他端側の外周面には、螺旋状のヘリカルスプライン55dが形成されており、このヘリカルスプライン55dに対して所定のガタ(例えば約3mm)を有してドライブリング62が噛合している。ドライブリング62は、シリンダ部51bの外端に形成された傾斜面51cと当接する円錐面62aを有し、このドライブリング62を軸線方向の一端側へ付勢するドライブスプリング63により傾斜面51cおよび円錐面62aの間に所定の摩擦抵抗を付与するように構成されている。
【0032】
かかる構成のエキスパンダ5は、ライニング43に摩耗が生じたときに、ライニング43とブレーキドラム31との間隙(シュークリアランス)を自動的に詰めて所定の間隙に調整する間隙調整機構6を備えている。この間隙調整機構6は、タペット54、スリーブ55、サークリップ56、スクリュウ57、クリップ58、ラップスプリング61、ドライブリング62、およびドライブスプリング63等を有して構成される。
【0033】
次に、上記構成のドラムブレーキBのブレーキ作動時、非作動時における作用、および上記構成のエキスパンダ5が有する間隙調整機構6の作用について説明する。
【0034】
まず、ブレーキ操作がなされると、不図示のダイヤフラム(サービスチャンバ)の作動により、ウェッジ52がウェッジスプリング52aの付勢力に抗してウェッジ収容部51aへの挿入方向(
図2および
図3の下方向)に押圧される。この押圧力は、平行に延びるウェッジ52の傾斜面52c,52cとタペット54の傾斜面54c,54cとの楔作用によりローラ52f,52fを介して軸線方向への押圧力に変換され、スリーブアッシー53に伝達される。この押圧力を受けて、タペット54およびスリーブ55は一体化された状態でシリンダ部51b内を軸線方向の一端側から他端側へ向かって移動する。
【0035】
スリーブ55のヘリカルスプライン55dおよびドライブリング62は軸線方向に所定のガタを有して噛合されている。上記ブレーキ作動によるスリーブ55の移動量がガタの範囲内であれば、スリーブ55はドライブリング62を回転させることなくシリンダ部51b内を軸線方向に沿って直動する。このとき、ドライブリング62は、ドライブスプリング63の付勢力によって、円錐面62aをハウジング51の傾斜面51cに当接させた状態で保持される。
【0036】
スリーブ55と螺合されたスクリュウ57は、クリップ58によりブレーキシュー40に係止されており、クリップ58の摩擦抵抗およびネジ面での摩擦抵抗によりスリーブ55に対して相対回転することなくスリーブ55と協働して軸線方向に直動する。そして、スクリュウ57,57の軸線方向への張出により、一対のブレーキシュー40,40はアンカーピン44,44を中心に外方へ揺動し、ライニング43がブレーキドラム31の内周面に押圧され、これら両者間の摩擦によりブレーキドラム31の回転が制動される。
【0037】
ブレーキ操作が解除されると、ウェッジ52がウェッジスプリング52aの付勢力によりウェッジ収容部51aからの抜脱方向(
図3および
図4の上方向)へ移動する。スクリュウ57およびスリーブアッシー53は、両ブレーキシュー40,40間に跨設されたリターンスプリング45の作用により、シリンダ部51b内を軸線方向の他端側から一端側へ移動し、軸線方向内方へ格納される。スリーブ55の移動量がガタの範囲内であれば、スリーブ55は張出時と同様に回転することなくシリンダ部51b内を軸線方向に沿って直動する。
【0038】
一方、ライニング43が摩耗してくると、ブレーキ作動時に同一の制動効果を得るため、スクリュウ57およびスリーブアッシー53の軸線方向の移動量が大きくなってくる。このとき、ブレーキ作動時のスリーブ55の移動量がガタ分相当量を越えると、ヘリカルスプライン55dの噛合面がドライブリング62の噛合面に当接し、ドライブリング62が軸線方向の他端側へ向けて押圧力を受ける。この押圧力により傾斜面51cおよび円錐面62aの間の摩擦力が低減し、ドライブリング62がヘリカルスプリング55bの噛合面に沿って回転する。なお、スリーブ55は、ラップスプリング61のワンウェイクラッチ機能によりタペット54に対する相対回転を阻止され、シリンダ部51b内を軸線方向に沿って直動する。
【0039】
ブレーキ操作が解除されると、スクリュウ57およびスリーブアッシー53がリターンスプリング45の付勢力により軸線方向の一端側へ向けて戻されることで、ドライブリング62とヘリカルスプライン55dとの当接が解かれる。すると、ドライブリング62がドライブスプリング63の付勢力により軸線方向の一端側へ押圧され、円錐面62aをハウジング51の傾斜面51cに当接させる。これにより、ドライブリング62は当接面での摩擦抵抗により回転が規制される。これに対して、スリーブ56は、ヘリカルスプライン55dとドライブリング62とのガタ分相当量については、抵抗を受けることなくシリンダ部51b内を軸線方向の一端側へ向けて移動する。一方、スリーブ56の移動量がガタ分相当量を越えると、ヘリカルスプライン55dがドライブリング62の他端側の噛合面と当接して軸線方向の移動が阻止される。
【0040】
このとき、ドライブリング62は前述のように回転が規制されており、自由に回転することができない。これに対して、スリーブアッシー53に内蔵されたラップスプリング61は、スリーブ55がドライブリング62の一端側の噛合面に沿って回転される方向(例えば左回転)に対しては回転を規制させ、スリーブ55がドライブリング62の他端側の噛合面に沿って回転される方向(例えば右回転)に対しては回転を許容させるよう形成されている。そのため、今度はスリーブ55がドライブリング62の他端側の噛合面に沿って回転される。なお、このとき、タペット54に対するスリーブ55の相対回転に対してサークリップ56によって摩擦抵抗が付与されるが、リターンスプリング45はこの摩擦抵抗に抗してスリーブ55を回転させるだけの付勢力を発揮する。
【0041】
ここで、スクリュウ57は、ブレーキシュー40に係止されて回転規制されたクリップ58からの摩擦抵抗を受けている。この摩擦抵抗は、スクリュウ57とスリーブ55とのネジ面での摩擦抵抗よりも大きいため、スクリュウ57はスリーブ55とともに一体回転しない。そのため、スリーブ55はタペット54およびスクリュウ57に対して単独で回転する。そして、このスリーブ55の回転により、スクリュウ57が回転角に応じた繰出量だけ軸線方向外方へ繰り出される。
【0042】
このように、間隙調整機構6では、ライニング43が摩耗すると、ブレーキ作動時には、スリーブ55が所定量(ガタ分相当量)を超過して移動する一方で、ブレーキ解除時には、スリーブ55がこの超過量に応じた回転角度だけ回転してスクリュウ57を繰り出させることにより、ライニング43とブレーキドラム31との間隙が一定となるように自動調整する。そして、このような間隙調整機構6では、ラップスプリング61がタペット54に対してスリーブ55を軸線方向(両者が離反する方向)に付勢することで、両者のリング取付溝54r,55r内に装着されたサークリップ56がタペット54とスリーブ55とに軸線方向の相反する方向にて押圧状態で当接するため、タペット54に対するスリーブ55の相対回転に対して摩擦抵抗を付与することになる。但し、この摩擦抵抗は、通常行われるブレーキ作動でアジャスト機能を作用させるにあたり、上記のように、スリーブ55を支障なく回転させ得る程度に設定されている。
【0043】
ドラムブレーキBには、例えば凹凸のある路面上の走行中など車輪から受ける振動が伝達されて、ブレーキ作動に関わりない外力が作用することがある。このような外力が加わると、スリーブ55に、タペット54に対する相対回転が許容される方向への回転力が本来のブレーキ作動に関わりなく作用することがある。しかしながら、この振動等による回転力は、通常ではリターンスプリング45の付勢力による回転力と比較して小さいものであり、さらに本実施形態では、ラップスプリング61の付勢力を受けてサークリップ56とタペット54およびスリーブ55とが当接することにより、スリーブ55の相対回転に対して所定の摩擦抵抗を付与するように構成されているため、この摩擦抵抗が振動等による不意な回転力に対抗し、スリーブ55の相対回転が阻止される。なお、タペット54およびスリーブ55にはラップスプリング61からの押圧力が作用しているため、この押圧力自体もスリーブ55の相対回転に対する抵抗として作用する。
【0044】
このように、ドラムブレーキBは、本来のアジャスト機能を有効に働かせることができる一方で、スリーブ55に対して不意な回転力が作用しても、スリーブ55に適度な抵抗を与えることで、該スリーブ55の回転を規制できる。そのため、ブレーキ作動とは関係なくスリーブ55が回転してシュークリアランスが詰まるといった間隙調整機構6の誤作動を防止することができる。そして、間隙調整機構6の誤作動の防止により、ライニング43とブレーキドラム31との間隙を適切なシュークリアラスに保持でき、ブレーキシューの引き摺りの発生を防止できる。
【0045】
以上、本実施形態に係るドラムブレーキBによれば、ラップスプリング61を圧縮コイルスプリングにより形成して、スリーブ55の一方向への相対回転のみを許容するワンウェイクラッチとして作用させる他に、スリーブ55を軸線方向に付勢作用させて、サークリップ56の両側面をタペット54とスリーブ55とに弾性的に挟み込まれた状態で当接させることで、スリーブ55の相対回転に対して付与する摩擦抵抗を長期に亘り安定させることができるとともに、ラップスプリング61のバネ定数とセット長(縮み量)とで決まるセット荷重に応じて、スリーブ55の相対回転に対して付与する摩擦抵抗値を任意且つ容易に設定することができるため、ドラムブレーキBの設計の自由度を向上させることができ、更には、従来のドラムブレーキに対して部品点数を増加させずに、振動等により生じるスリーブ55の相対回転を規制して、間隙調整機構6の誤作動を確実に防止することが可能である。
【0046】
また、本実施形態のドラムブレーキBでは、間隙調整機構6の誤作動を防止するため、従来のように、切り口を有した楕円リング状に形成されて長径方向および短径方向に張力を作用させるサークリップや、周方向に山部と谷部を所定ピッチで交互に設けた帯板リング状に形成されて軸線方向へ付勢力を発揮するウェイブスプリング(
図8を参照)などを使用した場合と比べて、圧縮コイルスプリングは低コストで製造ができ、且つ、ハウジングへの組み付け工数も低減されるため(自動機での組み付けも可能であるため)、ドラムブレーキの生産性の向上および生産コストの低減を図ることが可能になる。
【0047】
なお、これまで説明したように、本実施形態のラップスプリング61は、圧縮コイルスプリング(ピッチばね)として形成されて、一方向の回転を規制するワンウェイクラッチとして作用する他に、軸線方向に付勢作用するものである。これに対して、従来のラップスプリング161は、
図8に示すように、捻りコイルスプリング(密着ばね)として形成され、一方向の回転を規制するワンウェイクラッチとしてのみ作用するものであり、軸線方向に付勢作用するものではなく、本実施形態のラップスプリング61とは機能的にも全く異なるものである。そのため、従来のラップスプリング161を用いた間隙調整機構では、ラップスプリング161の他に、軸線方向に付勢力を発揮させるためのウェイブスプリング171を別途配置する必要がある点で本実施形態とは異なるものである。
【0048】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲であれば適宜改良可能である。
【0049】
上述の実施形態では、ドラムブレーキBをリーディングトレーリング式のドラムブレーキとして構成した場合を例示したが、ユニサーボ式、デュオサーボ式、あるいは2リーディング式のドラムブレーキとして構成してもよい。
【0050】
また、本実施形態のラップスプリング61の構成はあくまで一例であり、コイルの材質、断面形状、バネ定数、巻き数、ピッチ、コイル径などは適宜に設定が可能である。