(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6382372
(24)【登録日】2018年8月10日
(45)【発行日】2018年8月29日
(54)【発明の名称】溶解保持炉及び溶解保持炉用の蓋体
(51)【国際特許分類】
F27B 3/24 20060101AFI20180820BHJP
F27B 3/20 20060101ALI20180820BHJP
F27D 1/18 20060101ALI20180820BHJP
B22D 17/28 20060101ALI20180820BHJP
B22D 45/00 20060101ALI20180820BHJP
B22D 18/04 20060101ALI20180820BHJP
F23D 14/66 20060101ALI20180820BHJP
F23L 15/00 20060101ALI20180820BHJP
【FI】
F27B3/24
F27B3/20
F27D1/18 A
B22D17/28 Z
B22D45/00 B
B22D18/04 U
F23D14/66 C
F23L15/00 Z
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2017-27048(P2017-27048)
(22)【出願日】2017年2月16日
(65)【公開番号】特開2018-132262(P2018-132262A)
(43)【公開日】2018年8月23日
【審査請求日】2017年6月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】592134871
【氏名又は名称】日本坩堝株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西川 直久
【審査官】
守安 太郎
(56)【参考文献】
【文献】
特開2000−274958(JP,A)
【文献】
実開昭58−184194(JP,U)
【文献】
実開昭49−005735(JP,U)
【文献】
特開昭48−051333(JP,A)
【文献】
特開2001−165578(JP,A)
【文献】
特開2001−324271(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F27B 3/20
F27B 3/24
F27D 1/18
F27D 17/00
B22D 18/00
B22D 45/00
F23D 14/66
F23L 15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被溶解金属を加熱して溶融金属とする溶解室と、前記溶解室から供給される溶融金属を保持する保持室と、を有する溶解保持炉であって、
前記保持室に貯留される溶融金属を加熱する保持用バーナーと、
前記保持室の一部を構成しかつ前記保持用バーナーが取り付けられる取付孔を有する蓋体と、を備え、
前記蓋体は、空気供給源から供給される燃焼空気が流れる第1空間と、前記保持室の内部空間に面しかつ前記第1空間から供給される燃焼空気を用いて前記保持室の内部空間を冷却する第2空間と、を内部に有し、
前記保持用バーナーは、前記第2空間を流れる燃焼空気を取り込んで燃料ガスと混合させるための吸気口を有する、溶解保持炉。
【請求項2】
前記第1空間及び前記第2空間は、燃焼空気を連通可能な連通孔を有する仕切板により仕切られている、請求項1に記載の溶解保持炉。
【請求項3】
前記第1空間は、燃焼空気を連通可能な連通孔を有する区画板により、2つの空間に区切られている、請求項2に記載の溶解保持炉。
【請求項4】
前記空気供給源から前記第1空間に燃焼空気を送る燃焼空気供給パイプは、前記保持用バーナーの燃焼に必要な量の燃焼空気を送り出す本流路と、前記保持用バーナーの燃焼に必要な量よりも少量の燃焼空気を送り出すバイパス流路と、を有する、請求項1〜3のいずれかに記載の溶解保持炉。
【請求項5】
被溶解金属を加熱して溶融金属とする溶解室と、前記溶解室から供給される溶融金属を保持する保持室と、を有する溶解保持炉の前記保持室の一部を構成する蓋体であって、
前記保持室に貯留される溶融金属を加熱するための保持用バーナーが取り付けられる取付口を有し、さらに、
空気供給源から供給される燃焼空気が流れる第1空間と、前記保持室の内部空間に面しかつ前記第1空間から供給される燃焼空気を用いて前記保持室の内部空間を冷却する第2空間と、を内部に有する、蓋体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム、アルミニウム合金等の金属を溶解し、溶解した金属を保持する溶解保持炉及び当該溶解保持炉に用いられる蓋体に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の溶解保持炉は、一般的に、
図10に示すように、被溶解金属(例えばアルミニウム、アルミニウム合金等)Mの投入口102を上部に有するタワー101と、タワー101内を降下する被溶解金属Mを溶解する溶解用バーナー104を有する溶解室103と、溶解した被溶解金属(溶湯)Lを保温する保持用バーナー106を有する保持室105と、溶湯Lを汲みだす汲出室107とを備えている。
【0003】
被溶解金属Mは、タワー101の投入口102より投入された後、溶解室103の床部上に堆積し、溶解室103内において、溶解用バーナー104から噴射する火炎によって加熱されて溶解する。生成された溶湯Lは、溶解室103の床部の傾斜面に沿って流下し、保持室105に流入する。保持室105において溶湯Lは、さらに保持用バーナー106から噴射する火炎Fで直火加熱され、汲み出しまでの過程における溶湯Lの温度低下を補うため、汲み出し時の温度より高温に保持される(例えば特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−108557号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した溶解保持炉では、溶解室103及び保持室105の床部、側壁部、天井等の内張り材がシリカ質やアルミナ質等の耐火物で形成されている。ここで、アルミニウムやアルミニウム合金等の溶湯は、耐火物中に容易に浸透する性質とともに強い還元力を有しているため、耐火物を構成するシリカと反応して硬質な金属酸化物(Al
2O
3)を生成させる。この金属酸化物(Al
2O
3)は、炉内の空間が非常に高温になると生成されやすいが、特に保持室3は、被溶解金属Mの溶解温度よりも高い温度で溶湯Lを保持する必要があるうえ、保持用バーナー106からの火炎Fで直接溶湯Lを加熱すると、保持室105内の上部空間の温度が非常に高くなるため、金属酸化物(Al
2O
3)が側壁部や天井の内面に生成しやすい。このような金属酸化物(Al
2O
3)が保持室105の側壁部等に生成すると、金属酸化物(Al
2O
3)は熱伝導率が高いため、側壁部等の蓄熱量が大きくなって省エネが困難となる。さらに、金属酸化物(Al
2O
3)が生成し続けて成長すると、金属酸化物(Al
2O
3)が保持室105の内部空間に大きく侵出することで内部空間が狭くなり、その結果、内部空間の温度が異常に上昇する等、温度制御が困難となる。一方で、側壁部等に生成した金属酸化物(Al
2O
3)は、硬質でありかつ耐火物に熔着して生成されるので、これを除去するには多大な労力及びコストを要する。そのため、保持室105は、金属酸化物(Al
2O
3)が生成されにくい構造が求められている。
【0006】
本発明は、上記課題に着目してなされたものであり、保持室の側壁部等に金属酸化物が生成することを抑制できる溶解保持炉及び溶解保持炉用の蓋体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の前記目的は、被溶解金属を加熱して溶融金属とする溶解室と、前記溶解室から供給される溶融金属を保持する保持室と、を有する溶解保持炉であって、前記保持室に貯留される溶融金属を加熱する保持用バーナーと、前記保持室の一部を構成しかつ前記保持用バーナーが取り付けられる取付孔を有する蓋体と、を備え、前記蓋体は、空気供給源から供給される燃焼空気が流れる第1空間と、前記保持室の内部空間に面しかつ前記第1空間から供給される燃焼空気を用いて前記保持室の内部空間を冷却する第2空間と、を内部に有し、前記保持用バーナーは、前記第2空間を流れる燃焼空気を取り込んで燃料ガスと混合させるための吸気口を有する、溶解保持炉により達成される。
【0008】
上記構成の溶解保持炉において、前記第1空間及び前記第2空間は、燃焼空気を連通可能な連通孔を有する仕切板により仕切られていることが好ましい。
【0009】
また、前記第1空間は、燃焼空気を連通可能な連通孔を有する区画板により、2つの空間に区切られていることが好ましい。
【0010】
また、前記空気供給源から前記第1空間に燃焼空気を送る燃焼空気供給パイプは、前記保持用バーナーの燃焼に必要な量の燃焼空気を送り出す本流路と、前記保持用バーナーの燃焼に必要な量よりも少量の燃焼空気を送り出すバイパス流路と、を有することが好ましい。
【0011】
また、本発明の上記目的は、被溶解金属を加熱して溶融金属とする溶解室と、前記溶解室から供給される溶融金属を保持する保持室と、を有する溶解保持炉の前記保持室の一部を構成する蓋体であって、前記保持室に貯留される溶融金属を加熱するための保持用バーナーが取り付けられる取付口を有し、さらに、空気供給源から供給される燃焼空気が流れる第1空間と、前記保持室の内部空間に面しかつ前記第1空間から供給される燃焼空気を用いて前記保持室の内部空間を冷却する第2空間と、を内部に有する、蓋体によっても達成される。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、保持室において、保持用バーナーから噴射する火炎により溶融金属が加熱される。このとき、空気供給源から供給される燃焼空気は、燃料ガスと混合される前に、蓋体内の第1空間に供給され、第1空間を流れた後、第2空間に供給される。そして、第2空間を流れた燃焼空気が吸気口より保持用バーナーに供給され、燃料ガスと混合することで燃焼し、噴射口より火炎が噴射される。そのため、低温の燃焼空気が第2空間を流れることで、蓋体の表面が低温に保たれ、保持室の内部空間の空気が低温に保たれた蓋体の表面と接することにより、保持室の内部空間が冷却される。よって、保持用バーナーからの火炎で直接溶融金属を加熱しても、保持室の内部空間の温度が過度に高くなることが防止されるので、金属酸化物の生成が抑制される。このように、本発明によれば、保持室が金属酸化物が生成されにくい構造となるので、従来技術における課題を解決できる。
【0013】
また、本発明によれば、蓋体内の第2空間にて、保持室の内部空間の高温雰囲気と熱交換した後の高温の燃焼空気が吸気口より保持用バーナーに取り込まれて、燃料ガスとの混合・燃焼に用いられるので、保持用バーナーの燃焼効率を向上させることができる。さらに、保持用バーナーに取り込まれる高温の燃焼空気は、保持用バーナーから出る排気ガスとは異なり、溶融金属の加熱処理に用いられる前のクリーンなガスであるため、保持用バーナーに取り込んでも何ら問題はなく、保持用バーナーが故障等することも防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の一実施形態に係る溶解保持炉の概略構成を示す断面図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る蓋体の概略構成を示す断面図である。
【
図6】本発明の他の実施形態に係る蓋体の概略構成を示す断面図である。
【
図7】本発明の他の実施形態に係る蓋体の第2空間を示す概略構成図である。
【
図8】本発明の他の実施形態に係る蓋体の第2空間を示す概略構成図である。
【
図9】本発明の他の実施形態に係る溶解保持炉の概略構成を示す断面図である。
【
図10】従来例に係る溶解保持炉の概略構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について添付図面を参照して説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る溶解保持炉の概略構成を示す。
図2は、本発明の一実施形態に係る蓋体に保持用バーナーが取り付けられた状態の概略構成を示す。なお、以下の説明では、蓋体が保持室の天井を構成する実施形態を例にしている。
【0016】
溶解保持炉1は、アルミニウム、アルミニウム合金等の被溶解金属Mを溶解して保持するものであり、被溶解金属Mを溶解する溶解室2と、溶解室2から供給される溶融金属(溶湯)Lを貯留する保持室3とを備える。さらに、溶解保持炉1は、タワー4及び汲出室5を備えている。
【0017】
タワー4は、上部に被溶解金属Mの投入口40を有する筒状を呈しており、底部も開口している。タワー4は、被溶解金属Mを下方の溶解室2に案内するとともに、後述する溶解用バーナー6及び保持用バーナー7から出る排気ガスの煙道としても機能する。タワー4の上部には投入蓋41が設けられており、投入蓋41により投入口40を開閉可能である。投入蓋41にはガス排気口42が設けられている。
【0018】
溶解室2は、タワー4の下方に位置しており、タワー4の投入口40から投入されてタワー4内を降下する被溶解金属Mを床部20で受け止める。溶解室2の側壁部21には、被溶解金属Mを加熱するための溶解用バーナー6が設置されている。溶解用バーナー6は、燃料ガスに燃焼空気を適宜混合させて燃焼させる従来から公知の燃焼バーナーを用いることができる。溶解用バーナー6から噴射される火炎が被溶解金属Mに直接当たって被溶解金属Mを加熱することにより、被溶解金属Mは溶解して溶湯Lとなる。溶湯Lは、保持室3に向かって低く傾斜した床部20の傾斜面に沿って流下して保持室3に供給される。なお、溶解用バーナー6は、溶解室2の広さ、当該バーナー6の溶解能力等に応じて、適当な数を設置することができる。
【0019】
保持室3は、溶解室2の側方に位置しており、上部に開口を有する容体である。保持室3は、溶解室2から連通部22を介して供給される溶湯Lを床部30上の側壁部31で囲まれた貯留空間に貯留する。保持室3の上部には天井蓋(蓋体)8が着脱可能に設けられており、天井蓋8により保持室3の上部開口を開閉可能である。天井蓋8には、保持用バーナー7が取り付けられている。保持室3内の溶湯Lは、保持用バーナー7から噴射される火炎Fによる加熱を受けて、被溶解金属Mの溶解温度よりも高い温度で保持される。なお、一般に、アルミニウムの溶解温度は660℃程度であるが、汲み出し時の溶湯Lの温度は620℃〜850℃が要求される。そのために、保持室3内においては、保持用バーナー7を用いて貯留された溶湯Lを汲み出しに適した温度に昇温、調整される。
【0020】
保持室3には汲出室5が連設されている。保持室3の床部30は、側壁部31を越えて延びており、仕切壁32によって仕切られることで保持室3と汲出室5とが分離されている。保持室3と汲出室5との間は、仕切壁32の下方の連通部33を介して溶湯Lが移動可能である。汲出室5に移動した溶湯Lは、鋳造に使用される。
【0021】
上述した溶解室2、保持室3及び汲出室5は、図示は省略するが、鋼鉄等の金属により形成されたケーシングに耐火物を内張りして形成されている。なお、ケーシングと耐火物との間に、必要に応じて断熱材を介在させてもよい。ここで、耐火物としては、通常汎用される耐火物によって構成することができ、例えば、耐火レンガ、耐火ボード、キャスタブル耐火物等を用いることができ、その材料としては、シリカ質、アルミナ質の他、窒化珪素、炭化珪素等の耐熱性、耐食性に優れるものを好ましく例示することができる。断熱材としては、例えば、断熱ファイバ等を用いることができる。
【0022】
天井蓋8は、保持室3の上部開口を覆う蓋体であり、保持室3の一部である天井を構成している。天井蓋8は、
図2及び
図3〜
図5に示すように、箱型を呈する本体部80と、本体部80の下部の開口を塞ぐ蓋板81とにより構成されており、天井蓋8は、内部に密閉された空間を有している。
【0023】
本体部80は、鋼鉄等の金属により形成されたケーシング82の内面に断熱材83を内張りして形成されている。断熱材83は、約1200℃までの耐熱性と通気性と断熱性とを有する材料であれば利用可能であり、例えば、板状又はブロック状に成形された多孔質成形体、ファイバ(短繊維)がボード状又はシート状に成形されたファイバ成形体を利用することができる。蓋板81は、鋼鉄等の金属により形成することができる。
【0024】
天井蓋8の内部空間は、仕切板9により仕切られている。本実施形態では、1枚の仕切板9により、第1空間84A及び第2空間84Bの2つの空間に仕切られており、第2空間84Bが保持室3の内部空間34と蓋板81を挟んだ状態で面している。仕切板9には、1又は複数の連通孔90が形成されており、第1空間84A及び第2空間84Bは連通孔90を介して連通している。仕切板9は、空気の流れを制御できる材料であれば利用可能であり、例えば、金属板及び断熱ボード等を利用することができる。
【0025】
天井蓋8の中央付近には、天井蓋8を貫通する取付孔85が形成されている。この取付孔85に、保持室3に貯留される溶湯Lを加熱する保持用バーナー7が取り付けられている。なお、取付孔85は、本体部80、蓋板81及び仕切板9に保持用バーナー7を挿通するためにそれぞれ形成された貫通孔と、天井蓋8の内部空間84A,84Bとにより構成される。
【0026】
天井蓋8には、ボルト締結用のボルト孔が形成された固定部86が外周面から突き出るようにして複数形成されている。この固定部86を保持室3の上面に設けられた取付部35に合わせて、両者をボルトで締結することで、天井蓋8が保持室3に固定される。
【0027】
保持用バーナー7は、保持室3に貯留される溶湯Lの湯面に直接火炎Fを当てて溶湯Lを加熱するものであり、天井蓋8の取付孔85にボルト等を介して着脱自在に取り付けられる。保持用バーナー7は、燃料ガスに燃焼空気を適宜混合させて燃焼させる従来から公知の燃焼バーナーを用いることができ、図示しない燃料ガス供給装置から延びる燃料ガス供給パイプ71と、燃焼空気を送り出す空気供給源(本実施形態ではブロワ)72から延びる燃焼空気供給パイプ73とが接続されている。
【0028】
保持用バーナー7の外筒70には、空気供給源72から保持用バーナー7に供給された燃焼空気を、図示しない内筒内を通過する燃料ガスと混合させる前に、天井蓋8内の第1空間84Aに導出するための導出口70Aが形成されている。これにより、空気供給源72から供給される燃焼空気は、天井蓋8内の第1空間84Aを通過し、その後、仕切板9の連通孔90を通って、第2空間84Bに供給される。また、保持用バーナー7の外筒70には、第2空間84Bを通過した燃焼空気を外筒70内に取り込むための吸気口70Bが形成されている。これにより、保持用バーナー7の先端の噴射口近傍において、内筒からの燃料ガスに燃焼空気が混合されて燃焼し、噴射口より火炎Fが保持室3内の溶湯Lに向けて噴射される。
【0029】
このように、保持用バーナー7は、空気供給源72から供給された燃焼空気を、天井蓋8の第1空間84Aに導出するとともに、第2空間84Bより取り込んで、燃料ガスと混合させるように構成されており、そのため、導出口70Aは外筒70の基端側に形成され、吸気口70Bは外筒70の先端側に形成され、その間に、仕切板9が配置されている。
【0030】
燃焼空気供給パイプ73は、保持用バーナー7における燃料ガスの燃焼に必要な量の燃焼空気を送り出す本流路73Aと、保持用バーナー7の上記燃焼に必要な量よりも少量の燃焼空気を送り出すバイパス流路73Bとを有している。各流路73A,73Bには、電磁弁等の開閉制御弁74A,74Bが接続されており、開閉制御弁74A,74Bの開閉により、各流路73A,73Bの燃焼空気の流れが制御される。
【0031】
上述した構成の溶解保持炉1では、保持室3において、保持用バーナー7から噴射する火炎Fにより溶湯Lが加熱される。このとき、空気供給源72から保持用バーナー7に供給された燃焼空気は、燃料ガスと混合される前に、導出口70Aから天井蓋8内の第1空間84Aに導出し、第1空間84Aを通過した後、仕切板9の連通孔90を通って、第2空間84Bに供給される。そして、第2空間84Bを通過した燃焼空気が吸気口70Bより再び保持用バーナー7に供給され、燃料ガスと混合することで燃焼し、噴射口より火炎Fが噴射される。そのため、低温の燃焼空気が第2空間84Bを通過することで、蓋板81が低温に保たれ、保持室3の内部空間34の空気が低温に保たれた蓋板81と接することにより、保持室3の内部空間34が冷却される。よって、保持用バーナー7からの火炎Fで直接溶湯Lを加熱しても、保持室3の内部空間34の温度が過度に高くなることが防止されるので、アルミニウムの酸化に伴う金属酸化物(Al
2O
3)の生成が抑制される。このように、本実施形態の溶解保持炉1では、保持室3が金属酸化物(Al
2O
3)が生成されにくい構造となるので、従来技術における課題を解決できる。
【0032】
また、本実施形態の溶解保持炉1では、天井蓋8内の第2空間84Bにて、保持室3の内部空間の高温雰囲気と熱交換した後の高温の燃焼空気が吸気口70Bより保持用バーナー7に取り込まれて、燃料ガスとの混合・燃焼に用いられるので、保持用バーナー7の燃焼効率を向上させることができる。さらに、保持用バーナー7に取り込まれる高温の燃焼空気は、保持用バーナー7から出る排気ガスとは異なり、溶湯Lの加熱処理に用いられる前のクリーンなガスであるため、保持用バーナー7に取り込んでも何ら問題はなく、保持用バーナー7が故障等することも防止できる。
【0033】
また、本実施形態の溶解保持炉1では、保持用バーナー7を作動させない場合には、燃焼空気供給パイプ73の本流路73Aの開閉制御弁74Aを閉じ、バイパス流路73Bの開閉制御弁74Bを開くことで、天井蓋8の内部空間(第1空間84A,84B)に少量の低温の燃焼空気が供給される。これにより、保持室3の内部空間34が比較的高温となっていても、天井蓋8や天井蓋8上の各種機器の熱による損傷を防止することができる。
【0034】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて、種々の変更が可能である。例えば、
図6に示すように、第1空間84Aについて、燃焼空気を連通可能な連通孔100を有する区画板10により、2つの空間84A1,84A2に区切ってもよい。これにより、高温の燃焼空気が流通する第2空間84Bと、天井蓋8上の各種機器との間に、低温の燃焼空気が流通する空間(断熱層)が2層存在するので、各種機器の熱に対する保護をより効果的なものとすることができる。
【0035】
また、第2空間84Bについて、
図7に示すように邪魔板11を複数設けたり、
図8に示すように渦巻き状のガイド板12を設ける等して、燃焼空気が第2空間84Bに供給された後、吸気口70Bより保持用バーナー7に取り込まれるまでの時間を長くして、第2空間84Bに滞留する時間を長くしてもよい。これにより、保持室3の内部空間34の冷却効率が向上するので、金属酸化物生成の抑制及び保持用バーナー7の燃焼効率の向上をより効果的なものとすることができる。
【0036】
また、上記実施形態では、燃焼空気供給パイプ73に、保持用バーナー7における燃料ガスの燃焼に必要な量の燃焼空気を送り出す本流路73Aと、保持用バーナー7の上記燃焼に必要な量よりも少量の燃焼空気を送り出すバイパス流路73Bとを設けている。しかしながら、バイパス流路73Bを省略し、その代わりに、本流路73Aの開閉制御弁74Aを、本流路73Aを流れる燃焼空気の量を調整可能な流量制御弁とし、保持用バーナー7を作動する場合と作動させない場合とで流量制御弁を制御することで、天井蓋8に供給する燃焼空気の量を調整してもよい。
【0037】
また、上記実施形態では、空気供給源72から供給される燃焼空気が、一旦、保持用バーナー7に供給されてから、天井蓋8内の第1空間84Aに供給されているが、保持用バーナー7を介さずに、直接、天井蓋8内の第1空間84Aに供給してもよい。
【0038】
また、上記実施形態では、保持用バーナー7が保持室3の天井に設けられるタイプの溶解保持炉1を説明したため、天井を蓋体(天井蓋8)としているが、保持用バーナー7が保持室3の側壁部31に設けられるタイプの溶解保持炉では、側壁部31の一部を側壁部31に着脱可能な蓋体とし、当該蓋体に上記実施形態と同様に保持用バーナー7と取り付けるとともに、蓋体内部に第1空間84A及び第2空間84Bを設けるように構成してもよい。
【0039】
また、上記実施形態では、汲出室5が保持室3に連設され、保持室3から汲出室5に溶湯Lが移動して、汲出室5から溶湯Lが汲み出される「汲み出しタイプ」の溶解保持炉1に、本発明に係る蓋体を適用した例を説明している。しかしながら、
図9に示すように、汲出室5を備えずに、保持室3の側壁部31に設けられた出湯口36により保持室3から溶湯Lを抜き取る「抜き取りタイプ」の溶解保持炉1´についても、本発明に係る蓋体(図示例では天井蓋8)を適用することができる。なお、
図9中、符号37は、出湯口36を塞ぐ抜き差し可能な栓を示している。また、
図9に示す溶解保持炉1´の基本的な構成は、
図1に示す上記実施形態の溶解保持炉1の構成と同様であり、ここでは対応する構成には同一の符号を付することで説明を省略する。
【符号の説明】
【0040】
1 溶解保持炉
1´ 溶解保持炉
2 溶解室
3 保持室
7 保持用バーナー
8 天井蓋(蓋体)
9 仕切板
10 区画板
34 内部空間
70B 吸気口
72 空気供給源
73 燃焼空気供給パイプ
73A 本流路
73B バイパス流路
84A 第1空間
84B 第2空間
85 取付孔
90 連通孔
100 連通孔