特許第6382428号(P6382428)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6382428化成処理剤、化成皮膜の製造方法、化成皮膜を有する金属材料、および塗装金属材料
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6382428
(24)【登録日】2018年8月10日
(45)【発行日】2018年8月29日
(54)【発明の名称】化成処理剤、化成皮膜の製造方法、化成皮膜を有する金属材料、および塗装金属材料
(51)【国際特許分類】
   C23C 22/34 20060101AFI20180820BHJP
   C23C 22/68 20060101ALI20180820BHJP
   C23C 22/83 20060101ALI20180820BHJP
   C23C 28/00 20060101ALI20180820BHJP
【FI】
   C23C22/34
   C23C22/68
   C23C22/83
   C23C28/00 C
【請求項の数】6
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2017-211415(P2017-211415)
(22)【出願日】2017年10月31日
【審査請求日】2017年10月31日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000229597
【氏名又は名称】日本パーカライジング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126505
【弁理士】
【氏名又は名称】佐貫 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100131392
【弁理士】
【氏名又は名称】丹羽 武司
(74)【代理人】
【識別番号】100151596
【弁理士】
【氏名又は名称】下田 俊明
(74)【代理人】
【識別番号】100160945
【弁理士】
【氏名又は名称】菅家 博英
(72)【発明者】
【氏名】三浦 敦
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 普之
(72)【発明者】
【氏名】小崎 匠
【審査官】 越本 秀幸
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−237065(JP,A)
【文献】 特開2010−163640(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 22/00−22/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属材料の表面又は表面上に化成皮膜を製造する化成処理剤であって、
チタン、ジルコニウムおよびハフニウムから選ばれる金属を含有するイオンの供給源と、
フッ素イオンの供給源と、
アミノ基を含有するシランカップリング剤(I)と、
グリシジル基を含有するシランカップリング剤(II)と、
下式(i)で表される構成単位を有する水溶性又は水分散性の高分子と、
を配合し、
前記高分子が単重合体であり、
前記シランカップリング剤(I)とシランカップリング剤(II)の配合量が、質量比〔(I)/(II)〕で0.10〜9.00の範囲内である、化成処理剤(但し、銅、スズおよびコバルトからなる群から選択される少なくとも1種の金属を含有する化成処理剤を除く)
【化1】
【請求項2】
アルミニウム、マグネシウムおよび亜鉛から選ばれる金属を含有するイオンの供給源をさらに配合する、請求項1に記載の化成処理剤。
【請求項3】
硝酸イオンの供給源をさらに配合する、請求項1又は2に記載の化成処理剤。
【請求項4】
金属材料の表面又は表面上に化成皮膜を製造する方法であって、請求項1〜3のいずかに記載の化成処理剤を金属材料の表面又は表面上に接触させる接触工程、を含む方法。
【請求項5】
請求項4に記載の方法により得られる、化成皮膜を有する金属材料。
【請求項6】
請求項5に記載の、化成皮膜を有する金属材料の表面上に塗膜を有する塗装金属材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属材料の表面又は表面上に化成皮膜を製造する化成処理剤、該化成処理剤を用いた化成皮膜の製造方法、該製造方法により製造された化成皮膜を有する金属材料、および該化成皮膜と塗膜とを有する塗装金属材料に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、耐食性に優れ、電着塗装付き廻り性も良好な表面処理を施すことを可能とする金属表面処理用処理液が開発されている。例えば、特許文献1には、銅、スズおよびコバルトからなる群から選択される少なくとも1種の金属(A)と、ジルコニウムおよびチタンからなる群から選択される少なくとも1種の金属(B)と、所定の水溶性高分子(C)とを所定量有する金属表面処理用処理液が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−163640号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、耐食性に優れた化成皮膜を金属材料の表面又は表面上に製造可能な化成処理剤等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、チタン、ジルコニウムおよびハフニウムから選ばれる金属を含有するイオンの供給源と、フッ素イオンの供給源と、アミノ基を含有するシランカップリング剤(I)と、グリシジル基を含有するシランカップリング剤(II)と、特定の、水溶性又は水分散性の高分子と、を所定量で配合した化成処理剤が、耐食性に優れた化成皮膜を製造できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
本発明は、以下のものを含む。
[1]金属材料の表面又は表面上に化成皮膜を製造する化成処理剤であって、
チタン、ジルコニウムおよびハフニウムから選ばれる金属を含有するイオンの供給源と、フッ素イオンの供給源と、アミノ基を含有するシランカップリング剤(I)と、グリシジル基を含有するシランカップリング剤(II)と、下式(i)で表される構成単位を有する水溶性又は水分散性の高分子と、を配合し、
前記高分子が単重合体であり、
前記シランカップリング剤(I)とシランカップリング剤(II)の配合量が、質量比〔(I)/(II)〕で0.10〜9.00の範囲内である、化成処理剤。
【化1】
[2]アルミニウム、マグネシウムおよび亜鉛から選ばれる金属を含有するイオンの供給源をさらに配合する、上記[1]に記載の化成処理剤。
[3]硝酸イオンの供給源をさらに配合する、上記[1]又は[2]に記載の化成処理剤。
[4]金属材料の表面又は表面上に化成皮膜を製造する方法であって、上記[1]〜[3]のいずかに記載の化成処理剤を金属材料の表面又は表面上に接触させる接触工程、を含む方法。
[5]上記[4]に記載の方法により得られる、化成皮膜を有する金属材料。
[6]上記[5]に記載の、化成皮膜を有する金属材料の表面上に塗膜を有する塗装金属材料。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、耐食性に優れた化成皮膜を金属材料の表面又は表面上に形成することができる化成処理剤を提供することができる。また、該化成処理剤を用いて金属材料の表面又は表面上に化成皮膜を製造する方法、該製造方法により製造された化成皮膜を有する金属材料、および該化成皮膜と塗膜とを有する塗装金属材料も提供することができる。
また、本発明で提供される化成処理剤は、対象の金属材料の種類を問わず、従来化成皮膜の形成が難しいと考えられてきた金属材料であっても、良好な化成皮膜を形成することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の実施形態に係る化成処理剤は、チタン、ジルコニウムおよびハフニウムから選ばれる金属を含有するイオンの供給源Aと、フッ素イオンの供給源Bと、アミノ基を含有するシランカップリング剤(I)と、グリシジル基を含有するシランカップリング剤(II)と、下式(i)で表される構成単位を有する水溶性又は水分散性の高分子(単重合体)と、を所定量で配合してなる。このような化成処理剤を用いることにより、金属材料の表面又は表面上に、耐食性に優れた化成皮膜を製造することができる。なお、本実施形態に係る化成処理剤は、水性媒体、供給源A、供給源B、シランカップリング剤(I)、シランカップリング剤(II)及び所定の高分子のみが配合されたものであってもよいし、その他の成分がさらに配合されたものであってもよい。
【化2】
【0009】
(供給源A)
本実施形態に係る化成処理剤には、供給源Aが配合されている。供給源Aとしては、水性媒体に混合した際に、チタン、ジルコニウムおよびハフニウムから選ばれる金属を含有するイオン(以下、単に「イオンA」と称する。)を提供できる化合物であれば特に制限されるものではない。それゆえ、本実施形態に係る化成処理剤は、イオンAを含む。イオンAとしては、例えば、チタンイオン、ジルコニウムイオン、ハフニウムイオン等の金属イオン;チタン、ジルコニウム又はハフニウムを含む錯体イオン;チタン、ジルコニウム又はハフニウムの酸化物イオン;等を挙げることができる。
イオンAを提供できる供給源Aの具体例としては、ヘキサフルオロチタン酸、硝酸チタン、硝酸チタニル、水酸化チタン、酸化チタン、ヘキサフルオロジルコニウム酸、硝酸ジルコニウム、硝酸ジルコニル、炭酸ジルコニウム、水酸化ジルコニウム、酸化ジルコニウ
ム、ヘキサフルオロハフニウム酸、硝酸ハフニウム、酸化ハフニウム等が挙げられ、これらが塩の形態をとり得る場合にはその塩であってもよい。これら供給源は、1種のみを配合させてもよいが、2種以上を配合させてもよい。
化成処理剤中のイオンA濃度は特に限定されないが、金属換算質量濃度(2種以上の供給源を配合させた場合には、合計金属換算質量濃度を意味する。)として、通常5mg/L以上、好ましくは10mg/L以上であり、また、通常10000mg/L以下、好ましくは5000mg/L以下である。イオンA濃度が上記範囲内である化成処理剤を用いて化成皮膜を形成した後、塗膜を形成することで、より良好な耐食性を有する皮膜を形成し得る。
【0010】
(供給源B)
本実施形態に係る化成処理剤には、供給源Bが配合されている。供給源Bとしては、水性媒体に混合した際に、フッ素イオンを提供できる化合物(以下、「フッ素含有化合物」と称する。)であれば特に制限されるものではない。それゆえ、本実施形態に係る化成処理剤は、フッ素イオンを含む。フッ素イオンは、ヘキサフルオロジルコニウム酸、ヘキサフルオロチタン酸、ヘキサフルオロハフニウム酸等の、イオンAの供給源(フッ素含有化合物にも該当する。)を配合することによって供給してもよいし、これらイオンAの供給源以外のフッ素含有化合物を配合することによって供給してもよいし、イオンAの供給源及びそれ以外のフッ素含有化合物を配合することによって供給してもよい。
フッ素含有化合物としては、ヘキサフルオロジルコニウム酸、ヘキサフルオロチタン酸、ヘキサフルオロハフニウム酸等以外に、例えば、フッ化水素酸、フッ化アンモニウム、フッ化水素アンモニウム、フッ化ゲルマニウム、フッ化カリウム、フッ化水素カリウム、フッ化鉄、フッ化ナトリウム、フッ化水素ナトリウム等が挙げられるがこれらに制限されるものではない。なお、ヘキサフルオロジルコニウム酸、ヘキサフルオロチタン酸、ヘキサフルオロハフニウム酸等の、ジルコニウム、チタンまたはハフニウムと、フッ素を含有する化合物を用いて化成処理剤を調製する場合には、ジルコニウム、チタンおよびハフニウムから選択される金属を含有するイオンと、フッ素イオンを提供することができる。また、各種フッ素含有化合物は1種のみを配合させてよく、2種以上を配合させてもよい。
化成処理剤中のフッ素イオン濃度は特に限定されないが、フッ素換算モル濃度が、チタン、ジルコニウム及びハフニウムの金属換算モル濃度の合計に対して4倍超であることが好ましく、6倍超であることがより好ましい。
【0011】
(シランカップリング剤)
本実施形態に係る化成処理剤には、アミノ基を含有するシランカップリング剤(I)と、グリシジル基を含有するシランカップリング剤(II)と、が配合されている。化成処理剤中における各シランカップリング剤は、そのままの形態であってもよいし、シランカップリング剤が加水分解した加水分解物の形態であってもよいし、該加水分解物が縮重合した縮重合物の形態であってもよいし、それぞれの加水分解物が共重合した共重合物(交互共重合体、ランダム共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体等)の形態であってもよいし、複数の形態が混在していてもよい。
アミノ基を含有するシランカップリング剤(I)としては、例えば、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルジメチルメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルジエチルエトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルエチルジエトキシシラン、3−アミノプロピルジメチルメトキシシラン、3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3−アミノプロピルジエチルエトキシシラン、3−アミノプロピルエチルジエトキシシラン等のアミノシラン化合物が挙げられる。
また、グリシジル基を含有するシランカップリング剤(II)としては、例えば、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルジメチルメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルエチルジエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルジエチルエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシランなどのエポキシシラン化合物が挙げられる。
【0012】
化成処理剤におけるシランカップリング剤(I)及びシランカップリング剤(II)の配合量は特に限定されないが、これらの合計質量濃度で、通常100mg/L以上であり、好ましくは200mg/L以上であり、また通常2000mg/L以下であり、好ましくは1000mg/L以下である。これらのシランカップリング剤の合計配合量を上記範囲とした化成処理剤を用いて化成皮膜を形成した後、塗膜を形成することで、より良好な耐食性を有する皮膜を形成し得る。
また、シランカップリング剤(I)とシランカップリング剤(II)の配合量は、質量比〔(I)/(II)〕で通常0.10〜9.00の範囲内であり、0.25〜4.00の範囲内であることが好ましく、0.54〜1.86の範囲内であることがより好ましい。
【0013】
(水溶性又は水分散性の高分子)
本実施形態に係る化成処理剤は、水溶性又は水分散性の高分子(以下、単に「高分子」と称する)を含む。高分子としては、上式(i)で表される構成単位を有する単重合体であれば特に制限されるものではなく、具体的には、ジアリルアミン重合体;ジアリルアミン塩酸塩重合体、ジアリルアミン硫酸塩重合体、ジアリルアミン酢酸塩重合体などのジアリルアミン重合体の塩;等のポリジアリルアミン類が挙げられる。
【0014】
高分子の重合度は特に限定されるものではないが、重量平均分子量が通常200以上、好ましくは500以上であり、また通常10万以下、好ましくは5万以下である。なお、重量平均分子量は、GPC(ゲル浸透カラムクロマトグラフィー)により測定し、ポリスチレンで換算した値である。
化成処理剤における高分子の含有量(配合量)は特に限定されないが、固形分質量濃度として通常1mg/L以上、好ましくは5mg/L以上であり、また、通常500mg/L以下、好ましくは200mg/L以下である。
【0015】
(水性媒体)
水性媒体としては、水又は水と水混和性有機溶媒との混合物(水性媒体の体積を基準として50体積%以上の水を含有するもの)であれば特に限定されるものではない。水混和性有機溶媒としては、水と混和するものであれば特に限定されるものではなく、例えば、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン系溶媒;N,N’−ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド系溶媒;メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール系溶媒;エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノへキシルエーテル等のエーテル系溶媒;1−メチル−2−ピロリドン、1−エチル−2−ピロリドン等のピロリドン系溶媒等が挙げられる。これらの水混和性有機溶媒は1種を水と混合させてもよいし、2種以上を水に混合させてもよい。
【0016】
(その他の成分)
その他の成分としては、例えば、アルミニウム、マグネシウムおよび亜鉛から選ばれる金属を含有するイオンの供給源C、硝酸イオンの供給源D、pH調整剤等の、化成処理剤に用いられる公知の添加剤を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。なお、これらの他の成分は、本発明の効果を阻害しない範囲で含んでいてもよい。
【0017】
(供給源C)
本実施形態に係る化成処理剤には、供給源Cが配合されていてもよい。供給源Cとしては、水性媒体に混合した際に、アルミニウム、マグネシウムおよび亜鉛から選ばれる金属を含有するイオン(以下、単に「イオンC」と称する。)を提供できる化合物であれば特に制限されるものではない。それゆえ、本実施形態に係る化成処理剤は、イオンCをさらに含有してもよい。イオンCとしては、例えば、アルミニウム、マグネシウム、亜鉛等の金属イオン;アルミニウム、マグネシウム、亜鉛等を含む錯体イオン;等を挙げることができる。供給源Cの具体例としては、水酸化アルミニウム、硝酸アルミニウム、硫酸アルミニウム、酸化亜鉛、水酸化亜鉛、硫酸亜鉛、硝酸亜鉛、硝酸マグネシウム、水酸化マグネシウム、酸化マグネシウム、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム等が挙げられる。これらの供給源は、1種のみを配合させてもよいが、2種以上を配合させてよい。2種以上の組み合わせとしては、特に限定されるものではないが、例えば、アルミニウムイオンとマグネシウムイオンとの組み合わせ、アルミニウムイオンと亜鉛イオンとの組み合わせ、マグネシウムと亜鉛イオンとの組み合わせ、アルミニウムイオンとマグネシウムイオンと亜鉛イオンとの組み合わせ等を挙げることができる。
化成処理剤中のイオンC濃度は特に限定されないが、金属換算質量濃度(2種以上の供給源を配合させた場合には、合計金属換算質量濃度を意味する。)として、通常1mg/L以上、好ましくは5mg/L以上であり、また、通常50000mg/L以下、好ましくは10000mg/L以下である。イオンC濃度が上記範囲内である化成処理剤を用いて化成皮膜を形成した後、塗膜を形成することで、より良好な耐食性を有する皮膜を形成し得る。
【0018】
(供給源D)
本実施形態に係る化成処理剤には、供給源Dが配合されていてもよい。供給源Dとしては、水性媒体に混合した際に、硝酸イオンを提供できる化合物であれば特に制限されるものではない。それゆえ、本実施形態に係る化成処理剤は、硝酸イオンを含有していてもよい。
硝酸イオンは、硝酸アルミニウム、硝酸亜鉛、硝酸マグネシウム等の、イオンCの供給源を配合することによって供給してもよいし、該イオンCの供給源以外の硝酸塩、または硝酸を配合することによって供給してもよいし、上記イオンCの供給源と、それ以外の硝酸塩、硝酸等とを配合することによって供給してもよい。これらの供給源は、1種のみを配合させてよく、2種以上を配合させてもよい。
化成処理剤中の硝酸イオン濃度は特に限定されないが、硝酸換算質量濃度(2種以上の供給源を配合させた場合には、合計硝酸換算質量濃度を意味する。)として、通常500mg/L以上、好ましくは1000mg/L以上であり、また、通常50000mg/L以下、好ましくは30000mg/L以下である。
【0019】
(化成処理剤のpH)
本実施形態に係る化成処理剤のpHは特段限定されないが、通常酸性〜中性の領域であり、具体的にはpHが2.0〜8.0の範囲内であることが好ましく、3.0〜6.0の範囲内であることがより好ましく、3.5〜4.5の範囲内であることが特に好ましい。ここで、本明細書でのpH値は、pHメーターを用いて40℃で測定した値を意味する。
化成処理剤のpHは、例えば、塩酸、硫酸、硝酸、フッ化水素酸、ホウ酸、有機酸等の酸成分;水酸化リチウム、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化バリウム、アルカリ金属塩、アンモニア、アンモニウム塩、アミン類等のアルカリ成分等のpH調整剤を用いて調整することができるが、これらの成分に制限されるものではない。なお、pH調整剤は、1種又は2種以上を用いてもよい。
【0020】
(化成処理剤の製造方法)
本実施形態に係る化成処理剤は、供給源Aと、供給源Bと、シランカップリング剤(I
)と、シランカップリング剤(II)と、所定の高分子と、を原料として、水性媒体に所定量配合することにより製造可能である。なお、シランカップリング剤(I)及び(II)の配合は、それらを水(5〜35℃)に混合して反応させた後、純水を加えて固形分濃度を調整したものを用いて行うことが好ましい。
【0021】
(化成皮膜の製造方法)
本実施形態に係る化成皮膜の製造方法は、金属材料の表面又は表面上に本実施形態に係る化成処理剤を接触させる接触工程を含む。これにより、金属材料の表面又は表面上に化成皮膜が形成される。化成処理剤の金属材料への接触方法としては、従来からある接触方法、例えば、浸漬処理法、あるいは、スプレー処理法、流しかけ処理法等の処理法、又はこれらの組み合わせ等の方法が挙げられるがこれらに限定されるものではない。
【0022】
上記接触は、所定の温度範囲で一定時間行うことが好ましい。接触温度は10℃以上60℃以下の範囲内であることが好ましく、20℃以上50℃以下の範囲内であることがより好ましいが、これらの温度範囲に制限されるものではない。また、接触時間は30〜300秒間の範囲内であることが好ましく、60〜180秒間の範囲内であることがより好ましいが、これらの時間に制限されるものではない。
【0023】
また、接触工程前に、前処理工程を行ってもよい。前処理工程としては、例えば、酸洗工程;脱脂工程;アルカリ洗浄工程;クロメート化成処理工程;リン酸亜鉛、リン酸鉄等のリン酸塩を用いたリン酸塩化成処理工程;ビスマス置換めっき工程、ジルコニウム化成処理工程、チタン化成処理工程、ハフニウム化成処理工程、バナジウム化成処理工程等が挙げられる。なお、これらの前処理工程は、1の工程を行ってもよいが、2以上の工程を組み合わせて順次行ってもよい。2以上の工程の組み合わせとしては、リン酸塩化成処理工程と、クロメート化成処理工程、ビスマス置換めっき工程、ジルコニウム化成処理工程、チタン化成処理工程、ハフニウム化成処理工程又はバナジウム化成処理工程との組み合わせを挙げることができる。前処理工程として実施されるジルコニウム化成処理工程は、本実施形態に係る化成処理剤を用いてもよいし、本実施形態に係る化成処理剤とは異なる化成処理剤を用いてもよい。なお、上記各種前処理工程を行う場合は、各種前処理工程後に水洗処理工程を行ってもよい。各種前処理工程を複数行う場合には、それぞれの工程後、あるいは、一部の工程後に水洗処理工程を行ってもよい。また、水洗処理工程を行った場合には、その後に金属材料の表面を乾燥させる乾燥工程を行ってもよい。
【0024】
また、本実施形態に係る化成皮膜の製造方法において、接触工程後に、例えば、アルカリ洗工程、水洗工程、クロメート化成処理、リン酸亜鉛化成処理工程、ビスマス置換めっき工程、リン鉄化成処理工程、ジルコニウム化成処理工程、チタン化成処理工程、ハフニウム化成処理工程、乾燥工程などの後処理工程を行ってもよい。これら後処理工程としては、1の工程を単独で行ってもよいし、2以上の工程を組み合わせて順次行ってもよい。後処理工程として実施されるジルコニウム化成処理工程は、本実施形態に係る化成処理剤を用いてもよいし、本実施形態に係る化成処理剤とは異なる化成処理剤を用いてもよい。なお、上記各種後処理工程を行う場合は、各種後処理工程後に水洗処理工程を行ってもよい。各種後処理工程を複数行う場合には、それぞれの工程後、あるいは、一部の工程後に水洗処理工程を行ってもよい。また、水洗処理工程を行った場合には、その後に金属材料の表面を乾燥させる乾燥工程を行ってもよい。
【0025】
また、本実施形態に係る化成皮膜の製造方法により製造した化成皮膜上に塗膜を形成させた、化成皮膜及び塗膜を有する塗装金属材料を製造する場合には、該化成皮膜の製造後に、塗膜を形成させるための、塗装工程及び塗装した金属材料の表面上における塗料を乾燥させる乾燥工程(焼付工程や硬化工程を含む)などの塗膜形成処理を実施してもよい。なお、塗装工程前に、本実施形態に係る化成処理剤を接触させた金属材料の表面上を水洗
する水洗処理工程を行ってもよい。また、化成処理剤を接触させた金属材料の表面上、あるいは、水洗処理工程を行った金属材料の表面上を乾燥する乾燥工程を行ってもよい。さらに、上記接触工程後であって、塗装工程前に、1又は2以上の上記後処理工程を行ってもよい。なお、上記各種後処理工程を行う場合は、各種後処理工程後に水洗処理工程を行ってもよい。各種後処理工程を複数行う場合には、それぞれの工程後、あるいは、一部の工程後に水洗処理工程を行ってもよい。また、水洗処理工程を行った場合には、その後に金属材料の表面を乾燥させる乾燥工程を行ってもよい。
【0026】
上記塗装工程は、塗料を用いて上記化成皮膜を有する金属材料の表面上に対して行われる。塗装方法は特に限定されず、従来公知の方法、例えば、転がし塗り、電着塗装(例えば、カチオン電着塗装、アニオン電着塗装等)、スプレー塗装、ホットスプレー塗装、エアレススプレー塗装、静電(粉体)塗装、ローラーコーティング、カーテンフローコーティング、ハケ塗り、バーコーティング、流動浸漬法等の方法を適用することができる。
【0027】
上記塗料としては、例えば、油性塗料、繊維素誘導体塗料、フェノール樹脂塗料、アルキド樹脂塗料、アミノアルキド樹脂塗料、尿素樹脂塗料、不飽和樹脂塗料、ビニル樹脂塗料、アクリル樹脂塗料、エポキシ樹脂塗料、ポリウレタン樹脂塗料、シリコン樹脂塗料、フッ素樹脂塗料、さび止めペイント、防汚塗料、粉体塗料、カチオン電着塗料、アニオン電着塗料、水系塗料、溶剤塗料等の、公知の塗料が挙げられる。なお、塗装工程は、同一又は異なる各種塗料を用いて、1の塗装を行っても、2以上の塗装を行ってもよい。なお、乾燥工程は、塗装した塗料を乾燥して硬化させる処理である。乾燥方法としては、例えば、自然乾燥、減圧乾燥、対流型熱乾燥(例えば、自然対流型熱乾燥、強制対流型熱乾燥)、輻射型乾燥(例えば、近赤外線乾燥、遠赤外線乾燥)、紫外線硬化乾燥、電子線硬化乾燥、ベーポキュア、焼付乾燥等の乾燥方法が挙げられる。なお、これらの乾燥方法は、1つ実施してもよいし、2以上を組み合わせて実施してもよい。
【0028】
上記カチオン電着塗装としては、公知の方法を適用できる。例えば、塗料として、アミン付加エポキシ樹脂と、硬化成分としてブロック化ポリイソシアネート硬化剤とを含有するカチオン電着塗料を用い、この塗料に化成皮膜を有する金属材料を浸漬する方法等が挙げられる。カチオン電着塗装は、例えば、塗料の温度を所定の温度に保持し、塗料を攪拌した状態で、整流器を用いて化成皮膜を有する金属材料に電圧を陰極方向に印加することにより行われる。このようにカチオン電着塗装を行った上記金属材料に対して、水洗及び焼き付けを実施することにより化成皮膜上に塗膜を形成させることができる。焼き付けは、所定の温度範囲で一定時間行われる。具体的には、170℃で20分間行われる。尚、カチオン電着塗料を用いたカチオン電着塗装方法を適用する場合には、その前処理工程である、脱脂工程、或いは、本実施形態の接触工程を含む各種化成処理工程で用いる処理剤中のナトリウムイオン濃度を質量基準で500ppm未満に制御することが好ましい。
【0029】
粉体塗料を用いた、スプレー塗装、静電粉体塗装、流動浸漬法等の塗装方法としては、公知の方法が適用できる。粉体塗料としては、例えば、ポリエステル樹脂と、硬化剤として、ブロックイソシアネート硬化剤、β−ヒドロキシアルキルアミド硬化剤(例えば、特開2011−88083号公報参照)又はトリグリシジルイソシアヌレートとを含有するものを挙げることができる。焼き付けは、所定の温度範囲で一定時間行われる。具体的には、150〜250℃で20分間行われる。
【0030】
上記溶剤塗料を用いた、スプレー塗装、静電塗装、バーコーティング等の塗装方法としては、公知の方法が適用できる。溶剤塗料としては、例えば、メラミン樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂等の樹脂と、シンナー等の有機溶剤とを含有するものを挙げることができる。焼き付けは、所定の温度範囲で一定時間行われる。具体的には、130℃で20分間行われる。
【0031】
塗装した塗料を硬化させるための乾燥方法としては、例えば、自然乾燥、減圧乾燥、対流型熱乾燥(例えば、自然対流型熱乾燥、強制対流型熱乾燥)、輻射型乾燥(例えば、近赤外線乾燥、遠赤外線乾燥)、紫外線硬化乾燥、電子線硬化乾燥、ベーポキュア等の乾燥方法が挙げられる。これらの乾燥方法は、1つ実施してもよいし、2以上を組み合わせて実施してもよい。
【0032】
塗装工程により得られる塗膜は、単層であっても複層であってもよい。複層である場合、各種塗膜を形成するための塗料、該塗料を用いた塗装方法、塗装した金属材料の乾燥方法等は、それぞれ同じであっても異なっていてもよい。
【0033】
金属材料としては、例えば、鉄(例えば、冷間圧延鋼板、熱間圧延鋼板、高張力鋼板、工具鋼、合金工具鋼、球状化黒鉛鋳鉄、ねずみ鋳鉄等);めっき材料、例えば、亜鉛めっき材(例えば、電気亜鉛めっき、溶融亜鉛めっき、合金化溶解亜鉛めっき、電気亜鉛合金めっき等);アルミニウム材(例えば、1000系、2000系、3000系、4000系、5000系、6000系、アルミニウム鋳物、アルミニウム合金鋳物、ダイキャスト材等);マグネシウム材;等が挙げられる。
特に、本実施形態の化成処理剤は、耐食性能が付与されにくい金属材料であっても、耐食性が良好な皮膜を得ることができるため好ましい。具体的には、熱間圧延鋼板、高張力鋼板のような金属材料であっても、良好な耐食性を有する皮膜を形成できる。
【0034】
本実施形態に係る、化成皮膜を有する金属材料は、金属材料の表面又は表面上に、本実施形態に係る化成処理剤を接触させて、金属材料の表面又は表面上に化成皮膜を製造することで得られる。製造された化成皮膜は、該化成皮膜に含有される、チタン、ジルコニウムおよびハフニウムの合計質量が、単位面積あたり5mg/m以上であることが好ましく、10mg/m以上であることがより好ましく、20mg/m以上であることが更に好ましい。なお、上限値としては、特に制限はないが、800mg/m以下であることが好ましい。なお、この化成皮膜における、チタン、ジルコニウムおよびハフニウムの質量は、例えば、蛍光X線分析装置を用いることにより測定することができる。
【0035】
本実施形態に係る、化成皮膜を有する金属材料は、本実施形態に係る化成処理剤を接触させることにより得られた化成皮膜の上あるいは下に、1又は2以上の上記各種皮膜(例えば、クロメート化成皮膜、リン酸塩化成皮膜、ビスマス置換めっき皮膜等)を有していてもよい。
【0036】
本実施形態に係る、化成皮膜を有する金属材料の表面上に、塗料を用いて塗装することにより塗膜を形成させることで、化成皮膜及び塗膜を有する塗装金属材料を製造することができる。塗装金属材料は、本実施形態に係る、化成皮膜を有する金属材料の表面上に塗膜を有するものであってもよいし、該化成皮膜上に更に形成された、1又は2以上の上記各種皮膜(例えば、クロメート化成皮膜、リン酸塩化成皮膜、ビスマス置換めっき皮膜、バナジウム化成皮膜等)の表面上に塗膜を有するものであってもよい。なお、塗膜は1層からなるものであっても、2層以上からなるものであってもよい。塗膜の厚さは、特に制限されるものではなく、塗装金属材料の使用用途に応じて適宜設定される。
【実施例】
【0037】
以下、実施例により本発明の効果を詳細に説明するが、本発明は以下の実施例によって制限されるものではない。
<金属材料>
金属材料として、JIS G3141:2011で規格された冷延圧延軟鋼板(SPCC:厚さ0.8mm)、JIS G3302:2012で規格された溶融亜鉛めっき鋼板
(SGCC:厚さ0.8mm)、JIS G3302:2012で規格された合金化溶融亜鉛めっき鋼板(GA:厚さ0.8mm)、JIS G3313:2010で規格された電気亜鉛めっき鋼板(SECC:厚さ0.8mm)、JIS G3131:2011で規格された熱間圧延軟鋼板(SPHC:厚さ1.8mm)、及びJIS H4000:2014で規格されたアルミニウム合金板(A6061:厚さ0.8mm)を、それぞれ縦70mm×横150mmのサイズに切断し、切断の際に生じたバリが存在する面を評価面とした。なお、バリの高さは凡そ100μmであった。
【0038】
<化成処理剤の調製に用いた各成分>
化成処理剤の調製においては、供給源Aとしてヘキサフルオロジルコニウム酸を;供給源Bとしてフッ化水素酸を;シランカップリング剤(I)としてN−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン(KBM−603;信越化学工業株式会社)又は3−アミノプロピルトリエトキシシラン(KBE−903;信越化学工業株式会社)を;シランカップリング剤(II)として3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(KBM−403;信越化学工業株式会社)又は3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン(KBE−403;信越化学工業株式会社)を;高分子として、アリルアミン塩酸塩重合体(PAA−HCl−01;ニットーボーメディカル株式会社)、ジアリルアミン重合体(PAS−21;ニットーボーメディカル株式会社)又はジアリルアミン塩酸塩重合体(PAS21−HCL;ニットーボーメディカル株式会社)を;供給源Cとして硝酸アルミニウム9水和物又は硫酸アルミニウム16水和物を;供給源Dとして硝酸を;それぞれ用いた。なお、上記硝酸アルミニウム9水和物は、供給源Cとしてだけでなく、供給源Dとしても用いた。
【0039】
<化成処理剤の調製>
表1に示すとおり、各成分を所定量配合した後、水酸化ナトリウムで所定のpHに調整することにより、実施例1〜25及び比較例1〜5の化成処理剤を調製した。なお、化成処理剤の調製においてシランカップリング剤を配合する場合には、水(5〜35℃)に1種又は2種のシランカップリング剤を表1に示す質量比で配合して反応させ、その後、純水を加えて固形分10%になるように調整した反応液を用いた。
【0040】
【表1】
【0041】
<化成皮膜を有する金属材料の製造>
各種金属材料(SPCC、SGCC、GA、SECC、SPHC及びA6061)の表面に、脱脂剤(FC−E2086;日本パーカライジング株式会社;20g/Lの濃度となるように水に溶解した水溶液を使用)を43℃で120秒間スプレーすることにより脱
脂した。その後、30秒間スプレー水洗した。続いて、各種化成処理剤(実施例1〜25及び比較例1〜5の化成処理剤)を金属材料の表面上に38℃で120秒間スプレーし、金属材料の表面上に化成皮膜を製造した。得られた化成皮膜を有する金属材料の表面上を水道水、脱イオン水の順で洗浄し、40℃で乾燥した。
【0042】
<化成皮膜におけるジルコニウム量(Zr付着量)の測定>
蛍光X線(株式会社リガク製の走査型蛍光X線分析装置:ZSX PrimusII)を用いて、金属材料の表面上に製造した化成皮膜におけるジルコニウムの量をZr付着量として求めた。その結果を表2に示す。
【0043】
<塗膜を有する金属材料(試験片)の製造>
表2に示すように、各種金属材料の表面上に製造した化成皮膜上に対して各種塗装方法により塗装を行った後、焼き付けを行い、塗膜を有する金属材料(試験片)を作製した。以下に各種塗装方法の詳細及び焼付けの条件を示す。
【0044】
(カチオン電着塗装)
各種化成皮膜を有する金属材料を陰極とし、カチオン電着塗料(GT−100V;関西ペイント株式会社製)を用いて陰極電解することで塗膜を形成させた。なお、陰極電解は、180Vの印加電圧および30.0±0.5℃の塗料温度で行った。また、陰極電解は、塗膜厚が15.0±1.0μmとなるように、電気量を調整して行った。カチオン電着後、塗膜の表面を脱イオン水で洗浄し、170℃で26分間焼付けを行うことにより、塗膜を有する金属材料(各試験片)を作製した。
【0045】
(粉体塗装I)
化成皮膜を有する金属材料の表面上に、粉体塗料(神東塗料株式会社製イノバックスPシリーズ標準タイプ)を用いて静電粉体塗装を行った。上記静電粉体塗装後、180℃で20分間焼付けを行うことにより、塗膜を有する金属材料(試験片)を作製した。なお、塗膜厚は60±5μmとなるように調整した。
(粉体塗装II)
粉体塗料として、神東塗料株式会社製イノバックスPシリーズ低温タイプを用い、焼付けを165℃で20分間行う他は、粉体塗装Iと同様に塗装を行い、塗膜を有する金属材料(試験片)を作製した。
(粉体塗装III)
粉体塗料として、関西ペイント株式会社製エバクラッド ハーベスト(標準品)を用い、焼付けを150℃で20分間行う他は、粉体塗装Iと同様に塗装を行い、塗膜を有する金属材料(試験片)を作製した。
【0046】
(溶剤塗装)
化成皮膜を有する金属材料の表面上に、溶剤塗料(関西ペイント製アミラック1000)をバーコート法にて塗装した。塗装後、130℃で20分間焼付けを行うことにより、塗膜を有する金属材料(試験片)を作製した。なお、塗膜厚は30±5μmとなるように調整した。
【0047】
【表2】
【0048】
<耐食性試験(SST)>
カッターナイフを用いて、各種試験片(No.1〜30の試験片)の塗膜面に、×状に金属素地に達する傷をつけ、塩水噴霧試験法(JIS−Z2371:2015)に基づき、中性塩水噴霧を行った。カチオン電着塗装を行った試験片に対しては1000時間中性塩水噴霧を行った。粉体塗装を行った試験片に対しては500時間中性塩水噴霧を行った。溶剤塗装を行った試験片に対しては72時間中性塩水噴霧を行った。中性塩水噴霧後、試験片の傷部(クロスカット部)からの塗膜膨れ幅(片側最大膨れ幅)を測定し、以下の評価基準に従って耐食性を評価した。また、カチオン電着塗装を行った試験片(No.1〜10及びNo.15〜30の試験片)のエッジ部からの塗膜膨れ幅(最大膨れ幅)を測定し、以下の評価基準に従って耐食性を評価した。その結果を表3に示す。
<評価基準−クロスカット部>
AA:片側膨れ幅が1.0mm未満
A :片側膨れ幅が1.0mm以上1.5mm未満
B :片側膨れ幅が1.5mm以上2.5mm未満
C :片側膨れ幅が2.5mm以上3.5mm未満
D :片側膨れ幅が3.5mm以上
<評価基準−エッジ部>
A :最大膨れ幅が1.5mm未満
B :最大膨れ幅が1.5mm以上2.5mm未満
C :最大膨れ幅が2.5mm以上5.0mm未満
D :最大膨れ幅が5.0mm以上
【0049】
<電着塗装付き廻り性試験>
上記試験片No.1〜5及びNo.15〜30におけるカチオン電着塗装の代わりに、以下の電着塗装付き廻り性を実施して塗膜を形成させ、得られた試験片を用いて電着塗装付き廻り性を評価した。
各種化成皮膜を有する金属材料を4枚用いて、4枚ボックスによる電着塗装付き廻り性試験方法(例えば、特開2010−90409号公報の段落0085〜0090等を参照)に従い、電着塗装付き廻り性試験を実施した。実施に際し、対極としては、片面(4枚ボックスと対向する面の逆面)を絶縁テープでシールした70×150×0.5mmのステンレス板(SUS304)を用いた。また、カチオン電着塗料の液面は、4枚ボックスの、化成皮膜を有する金属材料の評価面及び対極の通電面が浸漬する位置となるように調整した。カチオン電着塗料の温度は30℃に保持し、カチオン電着塗料をスターラーにて攪拌した。
このような状態で、対極を陽極とした陰極電解法により、4枚ボックスの、化成処理皮膜を有する金属材料の表面上に塗膜を電解析出させた。具体的な電解条件は、整流器を用い、所定の電圧にて180秒間陰極電解した。電圧は、4枚ボックスの対極と最も近い、化成皮膜を有する金属材料の、対極と対向する面の塗膜厚さ15μmになるように調整した。続いて、それぞれの試験片を水洗した後、170℃で26分間焼き付け塗膜を形成させ、試験片を製造した。
そして、対極から最も離れた、化成皮膜を有する金属材料の対極面側に形成された塗膜の膜厚を、電磁式膜厚計を用いて測定した。塗膜の厚さの測定は、試験片において無作為に選んだ10箇所の膜厚を測定し、その平均値を算出することにより求めた。その後、電着塗装付き廻り性は、対極に最も近い、化成皮膜を有する金属材料の対局面側に形成された塗膜の厚さ(T)に対する、対極から最も離れた、化成皮膜を有する金属材料の対極面側に形成された塗膜の厚さ(T)の割合(T/T)を算出し、以下の評価基準に基づいて電着塗装付き廻り性を評価した。その結果を表3に示す。
<評価基準>
A:0.65以上
B:0.50以上0.65未満
C:0.50未満
【0050】
なお、全ての評価結果において、B以上を合格レベルとした。
【0051】
【表3】
【要約】      (修正有)
【課題】耐食性に優れた化成皮膜を金属材料の表面又は表面上に形成可能な化成処理剤の提供。
【解決手段】金属材料の表面又は表面上に化成皮膜を製造する化成処理剤であって、チタン、ジルコニウムおよびハフニウムから選ばれる金属を含有するイオンの供給源と、フッ素イオンの供給源と、アミノ基を含有するシランカップリング剤(I)と、グリシジル基を含有するシランカップリング剤(II)と、式(i)で表される構成単位を有する水溶性又は水分散性の高分子と、を配合し、高分子が単重合体であり、シランカップリング剤(I)とシランカップリング剤(II)の配合量が、質量比〔(I)/(II)〕で0.10〜9.00の範囲内である、化成処理剤。

【選択図】なし