(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0015】
〔実施形態1〕
本発明の一実施形態について、
図1〜5に基づいて説明すれば、以下のとおりである。なお、以下の記載は発明の趣旨をより良く理解させるためのものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。また、本明細書において、「A〜B」とは、A以上B以下であることを示している。
【0016】
以下の説明においては、本発明の一態様における演算装置についての理解を容易にするために、先ず、前記演算装置が算出する補正値を用いて、中間ロールシフト機構を含む形状制御機構の制御が行われる多段圧延機の一例としての6段圧延機の概要を、
図1に基づいて説明する。その後、本発明の知見について概略的な説明を行い、本実施形態の演算装置の構成について詳細に説明する。なお、前記多段圧延機は、少なくとも1種類の形状制御機構(すなわち、中間ロールシフト機構)を備えていればよい。
【0017】
(6段圧延機の概略的構成)
図1は、本実施の形態における演算装置を備える多段圧延機の一例としての6段圧延機1の構成を示す概略図である。6段圧延機1は、圧延材8を冷間圧延する冷間圧延機である。この6段圧延機1は、複数の圧延機が連続的に配置された圧延システムにおける最終パスの圧延機であってもよいし、最終パスを含む複数パスを実行する単一の圧延機であってもよい。圧延材8としては、例えば鋼帯等の金属帯である。圧延材8は樹脂材であってもよい。
【0018】
図1に示すように、6段圧延機1は、圧延材8をその厚さ方向に挟み込む一対のワークロール9、一対のワークロール9をその対向方向に各々押圧する一対のバックアップロール11、および、ワークロール9とバックアップロール11との間に配され、ワークロール9を支持する一対の中間ロール10、を備えている。
図1において、これらのロールは、紙面に対して垂直方向が長手方向となっており、圧延材8は紙面上を右方向から左方向へと流れて圧延されるようになっている。
【0019】
また、6段圧延機1は、中間ロールシフト機構2、ロールベンダー3、差荷重発生装置4、形状検出器7、およびプロセスコンピュータ6を備えている。本実施の形態におけるロールベンダー3は、中間ロールベンダーまたはワークロールベンダーである。ここで、中間ロールシフト機構2およびロールベンダー3は、圧延後の薄板の圧延形状の対称成分を制御する形状制御機構である。また、差荷重発生装置4は、圧延後の薄板の圧延形状の非対称成分を制御する形状制御機構である。
【0020】
中間ロールシフト機構2は、片側端部に1段あるいは多段のテーパ部を設けた中間ロール10をその軸方向に移動させることにより、該テーパ部を移動させ、これにより、中間ロール10と、ワークロール9およびバックアップロール11との接触荷重分布を変化させ、圧延後の薄板の圧延形状を制御する。なお、中間ロール10はテーパ部が設けられていなくてもよい。
【0021】
ロールベンダー3としての中間ロールベンダーは、中間ロール10が圧延材8の厚さ方向に曲がる力を、中間ロール10に付与する。また、ロールベンダー3としてのワークロールベンダーは、ワークロール9が圧延材8の厚さ方向に曲がる力を、ワークロール9に付与する。
【0022】
差荷重発生装置4は、バックアップロール11の長手方向における荷重の非対称性を制御するための差荷重を発生させる。ここで、バックアップロール11には、その両端の軸受部(チョック)を介して、油圧により荷重がかかるようになっていてもよい。この場合、荷重がかかるのは、ドライブサイドのチョックと、ワークサイドのチョックとの2箇所である。ドライブサイドとは、6段圧延機1において、前記ワークロール9を回転させるためのモータ(図示せず)が設けられている側のことを意味し、ワークサイドとは、6段圧延機1を挟んでドライブサイドの反対側のことを意味している。
【0023】
形状検出器7は、圧延後の圧延材8の形状を検出する装置であり、検出結果を示す信号をプロセスコンピュータ6に出力する。
【0024】
プロセスコンピュータ6は、形状検出器7の出力信号に基づいて、中間ロールシフト機構2、ロールベンダー3、および差荷重発生装置4を制御する。
【0025】
さらに6段圧延機1は、プロセスコンピュータ6を制御する上位コンピュータ5を備えている。上位コンピュータ5は、制御パラメータ等を表示する表示部5a(例えば、液晶ディスプレイなどの表示装置)、および制御パラメータを変更するための入力を受け付ける入力部5b(例えば、マウス、キーボード)を備えている。
【0026】
詳しくは後述するが、本発明の一態様における演算装置は、前記プロセスコンピュータ6に含まれる装置として実現することができる。プロセスコンピュータ6では、該演算装置が算出する補正値を用いて形状制御機構の制御が行われる。
【0027】
(発明の知見の概略的な説明)
以下、前記6段圧延機1を例にして、本発明の一態様における演算装置の技術的思想について説明する。なお、ここでは6段圧延機1を例にするが、12段圧延機、および20段圧延機等の、6段圧延機以外の多段圧延機に対しても同様に本発明が適用されることは勿論である。
【0028】
一般的な圧延機において、冷間圧延後の薄板には、耳伸び、中伸び等の単純な形状不良だけでなく、クオータ伸び、および各種伸びが複雑に組合わさった複合伸びが発生し得る。クオータ伸びとは、圧延方向において、薄板の中央部よりも後述するクオータ部の伸び率が大きいことを意味する。これらの形状不良を防止するためには、圧延形状を複数の指標により評価して制御することが要求される。そこで、圧延形状を、板幅方向(幅方向ともいう)の板端部(圧延材の幅方向の端部)からの距離が異なる複数の箇所における伸び率と、板幅中央(圧延材の幅方向の中央)における伸び率との差によって評価することとする。具体的には、板端部における伸び率と板幅中央における伸び率との差を伸び率差εeとし、クオータ部における伸び率と板幅中央における伸び率との差を伸び率差εqとして、圧延形状を評価することとする。
【0029】
なお、評価位置としての板端部及びクオータ部については、圧延形状を適切に表すことができ、且つ精度の良い数式モデルが得られるように、経験的に定めてよい。例えば、板端部とは、圧延材8の板幅方向における、圧延材8の板面の端から50mmの位置であってよい。また、クオータ部(中間部)とは、圧延材8の板幅方向において、板幅中央部と板端部との間に位置する部分であり、クオータ部の位置は、板幅中央部と板端部との間において特に限定されないが、例えば、板幅中央部から板端部までの距離の70%の位置とすることができる。
【0030】
圧延形状に影響する変動要因としては、板厚、材質、潤滑状態、圧延荷重等の外乱、並びに、中間ロールベンダー、ワークロールベンダー、中間ロールシフト、および差荷重発生装置等の形状制御機構の制御量が挙げられる。板厚は、重要な品質項目であり、通常は自動板厚制御によってほぼ一定値となるように制御されている。材質及び潤滑状態は圧延形状に影響するが、その影響の大半は圧延荷重の変動に応じてロール撓みが変化することにより生じる。したがって、圧延中に形状変化をもたらす主要因は、圧延荷重および形状制御機構の制御量である。
【0031】
本発明者らは、中間ロールシフト機構を含む形状制御機構を有する多段圧延機を用いて圧延を行うにあたって、圧延後の薄板をより一層良好な圧延形状にすることができる形状制御方法を検討した。より詳しくは、板幅方向の複数箇所における伸び率と板幅中央の伸び率との差(伸び率差)に及ぼす各形状制御機構の影響を表す数式モデルを用いて圧延形状を制御する際に、良好な圧延形状が得られるような形状制御方法を検討した。具体的には、伸び率差と中間ロールシフト機構2の制御量(シフト量)との関係における非線形性を考慮した形状制御方法を種々調査検討した。なお、前記シフト量はシフト位置とも表現できる。
【0032】
その結果、各形状制御機構の影響を表す前記数式モデルにおける中間ロールシフト機構2の制御量の影響項を、該制御量の平方根の関数で表すことによって、数式モデルの精度が向上するということを見出して本願発明を想到した。この新たな知見について、
図1に示す6段圧延機1を参照して順に説明する。
【0033】
先ず、本発明者らは、ロールベンダー3としての中間ロールベンダー、および中間ロールシフト機構2のそれぞれの制御量が、伸び率差εeおよびεqに及ぼす影響について検討した。このことについて、
図2および
図3を用いて説明する。以下の説明において、中間ロールベンダーの制御量を中間ロールベンダー力Fi、および中間ロールシフト機構2の制御量を中間ロールシフト位置δによって表す。
【0034】
図2は、板端部における伸び率と板幅中央における伸び率との差εe、およびクオータ部における伸び率と板幅中央における伸び率との差εq、に及ぼす中間ロールベンダー力Fiの影響を示すグラフである。なお、前記伸び率差は10
−5を単位とし、この単位をIunitと表示した(以下の記載においても同様に、Iunitとは10
−5を表す単位である)。
【0035】
中間ロールベンダー力Fiの変化は、バックアップロール11、中間ロール10およびワークロール9の撓みの変化となって現れ、圧延材の形状を変化させる。中間ロールベンダー力Fiとロール撓み量との関係は弾性領域における変形を対象としていることからほぼ線形な関係にある。したがって、
図2に示すように、伸び率差εeおよびεqは、それぞれ中間ロールベンダー力Fiと線形関係にある。
【0036】
図3は、板端部における伸び率と板幅中央における伸び率との差εe、およびクオータ部における伸び率と板幅中央における伸び率との差εq、に及ぼす中間ロールシフト位置δの影響を示すグラフである。ここで、本実施の形態の中間ロールシフト機構2において、中間ロールシフト位置δは、以下のように規定される。
【0037】
中間ロールシフト機構2において、中間ロール10の基準位置をδ=0mmとする。中間ロールシフト機構2は、中間ロール10を、基準位置から所定の方向に移動(シフト)させる。換言すれば、中間ロールシフト機構2は、中間ロール10を、該所定の方向の反対側に基準位置を超えて移動(シフト)させない。つまり、δは負の値となることがなく、常に中間ロールシフト位置δ≧0mmである。
【0038】
例えば、中間ロール10の端部がワークロール9の端部と揃う位置をδ=0mmとし、中間ロール10の端部がワークロール9の端部よりも外側に出る場合をプラスとする。中間ロール10の端部は、ワークロール9の端部よりも内側には移動しないことを前提とする。
【0039】
図3に示すように、伸び率差εeおよびεqは、中間ロールシフト位置δの増加とともに増加する。その一方で、中間ロールシフト位置δの増加とともに伸び率差εeおよびεqの増加の傾きは小さくなることが示された。つまり、伸び率差εeおよびεqと、中間ロールシフト位置δとの関係は、線形関係から外れ得る。これは、中間ロール10をシフトさせると、中間ロール10と、ワークロール9およびバックアップロール11との間の接触領域が変化するためである。
【0040】
ここで、
図2および
図3に示す各プロットは、形状予測の解析プログラムを用いて算出される。一般に、形状予測の解析プログラムは、圧延後の圧延材の形状を予測するために用いられている。例えば、非特許文献2には、圧延材の板クラウン・平坦度の計算に関する既存の形状解析方法の例が記載されている。非特許文献2に記載のように、フローチャートにて説明されているような収束計算を行い、圧延材の板クラウン・平坦度を計算することができる。
【0041】
同様の考え方(手法)にて、板クラウン・平坦度以外の板形状(板プロファイル)についても形状解析を行うことができる。通常、当業者は、解析の対象とする板プロファイルに応じて、既存の形状解析技術を応用して、操業条件に対応した板プロファイルを計算により求め、圧延条件の調整を行っている。
【0042】
本発明者らは、既存の形状解析技術を応用した解析プログラムを用いている。この解析プログラムを用いて、板プロファイルのうち板幅中央部、クオータ部、および板端部の点の伸び率を計算により求め、伸び率差εeおよび伸び率差εqを評価することができる。そして、
図2および
図3に示すような各プロットを算出することができる。
【0043】
本発明者らは、
図3に示すような、伸び率差εeおよびεqと、中間ロールシフト位置δとの関係について鋭意検討した。その結果、この関係は√曲線でほぼ近似できることが判明した。この近似によれば、伸び率差と中間ロールシフト機構2の制御量(シフト位置)との関係における非線形性を考慮して、シンプルな制御式によって圧延形状の制御を行うことができる。
【0044】
この知見に基づけば、伸び率差εeおよびεqに関する数式モデル(圧延形状予測式)を、下記式(1)および(2)にて表すことができる。
【0045】
εe=ae・Fi+be・√δ+ce (1)
εq=aq・Fi+bq・√δ+cq (2)
上記式において、
εe:板端部における伸び率と板幅中央における伸び率との差(ワークサイドおよびドライブサイドの平均)
εq:クオータ部における伸び率と板幅中央における伸び率との差(ワークサイドおよびドライブサイドの平均)
Fi:中間ロールベンダー力
δ:中間ロールシフト位置
ae、be、ce、aq、bq、cq:影響係数
である。
【0046】
これらの影響係数は、6段圧延機1が圧延対象とする圧延材8の板幅、板厚、および材質等の区分毎にテーブル設定されていてよく、または、種々の圧延条件の関数として数式化されていてもよい。前述のように、一般に、形状制御機構の制御量は、圧延形状を予測する制御式に基づいて設定される(特許文献1参照)。該制御式には、伸び率差に及ぼす形状制御機構の影響度を示す影響係数が用いられる。
【0047】
例えば、上記影響係数ae、be、ce、aq、bq、cqは以下のように予めテーブル設定し得る。すなわち、上記影響係数は、(i)圧延対象とする圧延材8の板幅、板厚、および材質等の圧延材8の特性、(ii)当該特性に基づいて決定される圧延荷重、(iii)圧延材8の圧延に用いる圧延機1の装置構成によって定まる定数であってよい。この場合、上記影響係数はそれぞれ、ロールの弾性変形解析と素材の塑性変形解析とを連成させた解析モデルによるシミュレーション、または実験により、圧延材8の品種に応じて予め求められてよい。
【0048】
より具体的には、例えば以下の(A)〜(D)の手順により予めテーブル設定して影響係数を求めることができる。
(A)圧延機が圧延対象とする圧延条件(板幅、板厚、変形抵抗等)の所定の範囲内において、前記圧延条件を種々に変化させて圧延条件を設定する。
(B)設定した圧延条件のそれぞれについて、形状制御機構の制御量を圧延機の所定の範囲内で変化させた場合について実験またはシミュレーションを行う。これにより、それぞれの場合における板端部、クオータ部、板幅中央部の伸び率を算出する。
(C)各圧延条件および種々の形状制御機構の制御量の場合について得られた伸び率差εeおよびεqに基づいて、該伸び率差に及ぼす形状制御機構の制御量の影響について調べることができる(例えば
図2および
図3に示すようなグラフが得られる)。その結果、例えば重回帰分析を用いて予め影響係数を求めることができる。
(D)圧延条件ごとに、それぞれの圧延条件に対応する影響係数を予め求めることにより、影響係数のテーブルを作成することができる。該テーブルを用いて、或る圧延条件に用いるべき影響係数を求めることができる。
【0049】
なお、影響係数ce、cqは、例えば、中間ロールベンダー力Fiおよび中間ロールシフト位置δ(形状制御機構の制御量)をいずれも0として、形状予測の解析プログラムを用いることにより、求めることができる。或いは、前記(A)〜(D)の手順を行う中でae,aq,be,bqと合わせて求めることもできる。ここで、式(1)および(2)に含まれるce、cqは、定数項であるが、他の影響係数ae、be、aq、bqと共に各種条件に応じて設定される数であるため、説明の便宜上、本明細書では影響係数と称することとする。
【0050】
なお、影響係数を設定するための具体的な方法は、上記例示した方法に限定されない。公知の手法を部分的に変更して、または応用して用いてよい。
【0051】
伸び率差εe,εq、中間ロールシフト位置δ、および中間ロールベンダー力Fiが前記式(1),(2)で示される関係にあるとして、影響係数ae、be、ce、aq、bq、cqを算出する方法の一例について説明すれば以下のとおりである。
【0052】
中間ロールシフト位置δを3条件(0mm,25mm,100mm)とし、中間ロールベンダー力Fiを3条件(−100kN,0kN,100kN)として、それぞれ設定値を選んだ。そして、圧延条件として、板幅1000mm、圧延荷重5000kNと仮定する。圧延条件(板幅とそれに応じた圧延荷重)ごとに実験またはシミュレーションを行い、その結果得られた伸び率差εe,εqを用いて影響係数ae〜cqを算出する。このときの設定値と得られた伸び率差とを一覧する表を
図20に示す。
【0053】
図20に示す結果に対して重回帰分析(最小自乗法)を行いae,be,ceを求めることができる。(−114+100・ae―0・be−ce)^2+(−94+100・ae―5・be−ce)^2+(−74+100・ae―10・be−ce)^2+(−14−0・ae―0・be−ce)^2+(6−0・ae―5・be−ce)^2+(26−0・ae―10・be−ce)^2+(86−100・ae―0・be−ce)^2+(106−100・ae―5・be−ce)^2+(126−100・ae―10・be−ce)^2は、ae=1,be=4,ce=−14のときに最小値0となる。よって、この場合の影響係数はae=1,be=4,ce=−14と求まる。
【0054】
同様に、aq,bq,cqを求めることができる。(−101+100・aq―0・bq−cq)^2+(−86+100・aq―5・bq−cq)^2+(−71+100・aq―10・bq−cq)^2+(−1−0・aq―0・bq−cq)^2+(14−0・aq―5・bq−cq)^2+(29−0・aq―10・bq−cq)^2+(99−100・aq―0・bq−cq)^2+(114−100・aq―5・bq−cq)^2+(129−100・aq―10・bq−cq)^2は、aq=1,bq=3,cq=−1のときに最小値0となる。よって、この場合の影響係数はaq=1,bq=3,cq=−1と求まる。
【0055】
前記式(1)における「be・√δ」は、伸び率差εeに及ぼす中間ロール10のシフト量の影響度を示す影響係数を有する影響項である。また、前記式(2)における「bq・√δ」は、同様に、伸び率差εqに及ぼす中間ロール10のシフト量の影響度を示す影響係数を有する影響項である。
【0056】
前記式(1)および(2)で表される数式モデル(圧延形状予測式)を用いることにより、中間ロールベンダーおよび中間ロールシフト機構2を形状制御機構とする6段圧延機1(多段圧延機)において、良好な圧延形状が得られるように、圧延開始前(形状制御機構の制御量の初期設定時)に、前記形状制御機構をそれぞれ制御するための値を算出することができる。
【0057】
ここで、一般に、圧延を行う工場等の現場においては、圧延機をそれぞれ含む複数の圧延ラインが設けられ得る。そして、それぞれの圧延ラインには、所望の製品のロットに応じて、様々な品種(板幅、板厚、変形抵抗)の圧延材が流され得る。しかし、或る1つの圧延ラインにおいて、全ての品種の圧延材に対応することは現実的でない。そのため、或る圧延ラインにおいて対応可能な圧延材の品種(板幅、板厚、変形抵抗)の範囲が、予め設定される。
【0058】
上記影響係数は、或る圧延ラインにおける、圧延機が対応可能な圧延材の品種(板幅、板厚、変形抵抗)の範囲に対応して、予めテーブル設定する、または、数式を用いて算出することにより設定することができる。
【0059】
上記影響係数は、本発明者らが新たに見出した関数(近似式)を用いて算出されることが好ましい。この新規な関数については実施形態5にて後述する。
【0060】
(本発明の一態様における演算装置の構成)
前記式(1)および(2)を用いて、中間ロールベンダー(ロールベンダー3)および中間ロールシフト機構2を制御するための値を算出する、本発明の一態様における演算装置について、
図4および
図5に基づいて以下に説明する。
【0061】
本発明の一態様における演算装置は、例えば前記6段圧延機1が含むプロセスコンピュータ6の一機能として実現することができる。なお、本発明の一態様における演算装置は、プロセスコンピュータ6とは異なるコンピュータ(例えば、上位コンピュータ5)を用いて実現されてよく、ハードウェアは特に限定されない。
【0062】
図4に示すように、プロセスコンピュータ6は、制御部20および記憶部30を備えている。この制御部20には、プロセスコンピュータ6の外部に設けられた上位コンピュータ5、形状検出器7、および形状制御機構40が接続されている。
【0063】
上位コンピュータ5は荷重算出部5cを備えている。本実施の形態における形状制御機構40は、ロールベンダー3としての中間ロールベンダー、および中間ロールシフト機構2である。
【0064】
制御部20は、影響係数設定部21、伸び率差算出部22(第2算出部)、主演算部23(第1算出部)、および機構制御部24を備えている。記憶部30は、所定係数データ31および制御パラメータ32を格納している。
【0065】
制御部20は、プロセスコンピュータ6全体の動作を制御する、例えばCPU(Central Processing Unit)である。制御部20が備える各部は、例えばCPUによって動作するソフトウェアとして実現されてよい。
【0066】
制御部20における、影響係数設定部21、伸び率差算出部22、主演算部23、および機構制御部24の詳細な説明は、プロセスコンピュータ6が実行する、形状制御機構の制御量を補正するための補正値を算出する処理の流れの一例の説明と合わせて後述する。
【0067】
記憶部30は、制御部20において用いられる各種データを記憶する不揮発性の記憶装置(例えばハードディスク、フラッシュメモリ等)である。
【0068】
所定係数データ31は、前記式(1)および(2)が含む影響係数を、各種圧延条件に対応付けてテーブル設定したデータである。または、所定係数データ31は、影響係数を所定の関数を用いて算出するために用いられる係数を格納したデータである。後者の場合、所定係数データ31は、以下のようなデータであってよい。すなわち、該所定係数データ31に格納された係数に基づいて、影響係数設定部21が、上位コンピュータ5に入力された圧延条件に対応する影響係数を設定(算出)することができるようなデータであればよい。所定係数データ31に格納された係数は、圧延機が対応可能な圧延材の品種の範囲に応じて予め設定されてよい。
【0069】
制御パラメータ32は、各種の圧延条件(ワークロール9の回転速度、ワークロール9の径、摩擦係数、板幅、入出側板厚、平均入出側張力、圧延材8の変形抵抗等)を含む。また、制御パラメータ32は、6段圧延機1による圧延後に目標とする圧延材8の圧延形状を規定する圧延形状目標値を含む。例えば、圧延後の圧延形状が平坦(板幅方向の各場所で伸び率差が0)であることを目標とすれば、圧延形状目標値としての伸び率差の目標値εe
0およびεq
0はいずれも0である。
【0070】
ここで、前記目標値εe
0およびεq
0としては、理想的にはεe
0=0およびεq
0=0であるが、圧延材8の所望の圧延形状に応じて、種々設定されてよい。例えば、圧延材8の圧延形状として、中伸び不可または耳伸び不可といった要求がある場合がある。例えば、中伸び不可の場合には、目標とする圧延形状が少し耳伸びとなるように、目標値εe
0、εq
0を設定してよい。このことは、以降の説明においても同様である。
【0071】
この制御パラメータ32は、上位コンピュータ5の入力部5bを介してユーザによって入力され、荷重算出部5cによる圧延荷重の算出にも用いられる。
【0072】
(処理の流れ)
上記のような本発明の一態様における演算装置としてのプロセスコンピュータ6が実行する、プリセット制御における処理の流れの一例を、
図5を用いて説明する。
図5は、プリセット制御における、本実施の形態のプロセスコンピュータ6が実行する処理の流れの一例を示すフローチャートである。プリセット制御とは、圧延開始前における形状制御機構の制御量の初期設定を意味する。ここでは、説明の理解を容易にするために、6段圧延機1は、中間ロールシフト機構2、およびロールベンダー3としての中間ロールベンダーを用いて圧延形状を制御することとする。なお、6段圧延機1は、その他の形状制御機構40を備えていてもよいが、その他の形状制御機構40については、機構制御部24が制御の対象としない、または制御量が所定値に固定されているものとする。
【0073】
ここで、上位コンピュータ5には予め圧延条件(ワークロールの回転速度、ワークロール径、摩擦係数、板幅、入出側板厚、平均入出側張力、圧延材の変形抵抗等)が入力されている。
【0074】
先ず、荷重算出部5cが、圧延荷重式に従って圧延荷重Pを算出し、下記式(A)に板幅Wを代入して単位幅荷重pを算出する。
【0076】
なお、圧延荷重Pは、予め入力された圧延条件から、公知の圧延荷重式を用いて予測される荷重であり、ドライプサイドの荷重とワークサイドとの荷重の和である。
【0077】
圧延荷重Pは、圧延前後における板厚の変動、圧延材に与えられる張力、および材料の変形抵抗(鋼種)等に応じて定まる。例えば、鋼種NCH780の鋼板について、公知の圧延荷重式を用いて、6パスの圧延を行う場合の圧延荷重を算出した一例を表1に示す。なお、圧延荷重式については、公知の技術であるので、詳細な説明を省略する。
【0079】
このように、公知の圧延荷重式を用いて、所定の板厚、板幅、および材料の変形抵抗の条件における圧延荷重Pを算出することができる。
【0080】
なお、単位幅荷重pを算出する上位コンピュータ5も本発明の演算装置であると見なしてもよい。また、上位コンピュータ5の代わりにプロセスコンピュータ6が単位幅荷重pを算出してもよい。
【0081】
図5に示すように、圧延開始前において、影響係数設定部21が、前記式(1)および(2)に用いられる各種の影響係数を、制御パラメータ32(圧延条件)および所定係数データ31に基づいて設定する(ステップ11;以下S11のように略記する)(影響係数設定工程)。
【0082】
εe=ae・Fi+be・√δ+ce (1)
εq=aq・Fi+bq・√δ+cq (2)
具体的には、(i)影響係数設定部21は、所定係数データ31に格納された、種々の圧延条件に対応付けられた各種の影響係数から、制御パラメータ32(圧延条件)に対応する影響係数(ae、be、ce、aq、bq、cq)を取得する、または、(ii)影響係数が種々の圧延条件の関数として数式化されており、影響係数設定部21は、この数式に、所定係数データ31に格納された係数を代入して影響係数(ae、be、ce、aq、bq、cq)を算出する。
【0083】
影響係数の設定がなされると、主演算部23が、設定された影響係数を前記式(1)および(2)に代入する。そして、主演算部23は、前記式(1)の伸び率差εeおよび式(2)の伸び率差εqとして、圧延形状目標値としての伸び率差の目標値εe
0およびεq
0をそれぞれ設定する。目標値εe
0およびεq
0は予め定められており、記憶部30に格納されている。目標値εe
0およびεq
0は、制御パラメータ32に含まれてよい。
【0084】
続いて、主演算部23は、形状制御機構40のプリセットする制御量を以下のように算出する。すなわち、中間ロールベンダー力Fiおよび中間ロールシフト位置の平方根√δを算出する。そして、この中間ロールシフト位置の平方根√δから、中間ロールシフト位置δを算出する(S12)(制御量算出工程)。
その後、機構制御部24は、ロールベンダー3としての中間ロールベンダーが発生させるベンダー力(ベンディング力)が、S12にて算出された中間ロールベンダー力Fiと一致するように前記中間ロールベンダーを制御する。また、機構制御部24は、中間ロールシフト機構2を、中間ロール10が、S12にて算出された中間ロールシフト位置δに位置するように中間ロールシフト機構2を制御する(S13)。
【0085】
上記の演算方法により、中間ロールベンダーおよび中間ロールシフト機構2を形状制御機構40とする6段圧延機1(多段圧延機)において、良好な圧延形状が得られるように、圧延開始前に、形状制御機構40をそれぞれ制御するための値を算出することができる。そして算出した制御量に基づいて形状制御機構40を制御することにより、6段圧延機1による圧延後の圧延材8を、良好な圧延形状とすることができる。
【0086】
(変形例)
本実施の形態の演算装置の変形例について、以下に説明する。本変形例では、形状制御機構40は、ロールベンダー3としてのワークロールベンダー、および中間ロールシフト機構2である。
【0087】
発明者らは、ロールベンダー3としてのワークロールベンダーの制御量が、伸び率差εeおよびεqに及ぼす影響について検討した。このことについて、
図6を用いて説明する。以下の説明において、ワークロールベンダーの制御量をワークロールベンダー力Fwによって表す。
【0088】
図6は、板端部における伸び率と板幅中央における伸び率との差εe、およびクオータ部における伸び率と板幅中央における伸び率との差εq、に及ぼすワークロールベンダー力Fwの影響を示すグラフである。ワークロールベンダー力Fwの変化は、ワークロール9の撓みの変化となって現れ、圧延材の形状を変化させる。ワークロールベンダー力Fwとロールの撓み量との関係は、弾性領域における変形を対象としていることからほぼ線形な関係にある。したがって、
図6に示すように、伸び率差εeおよびεqは、それぞれワークロールベンダー力Fwと線形関係にある。これは、前述した中間ロールベンダーと同様の結果であった。
【0089】
そのため、中間ロールベンダーの代わりにワークロールベンダーを用いる場合には、伸び率差εeおよびεqに関する数式モデル(圧延形状予測式)を、下記式(3)および(4)にて表すことができる。
【0090】
εe=ae・Fw+be・√δ+ce (3)
εq=aq・Fw+bq・√δ+cq (4)
上記式において、
Fw:ワークロールベンダー力
である。
【0091】
影響係数設定部21により影響係数の設定がなされると、主演算部23は、設定された影響係数と、圧延形状目標値としての伸び率差の目標値εe
0およびεq
0と、前記式(3)および(4)とを用いて、或る圧延条件において、ワークロールベンダーおよび中間ロールシフト機構2を制御するための値(ワークロールベンダー力Fwおよび中間ロールシフト位置δ)を算出する。
【0092】
これにより、ワークロールベンダーおよび中間ロールシフト機構2を形状制御機構40とする6段圧延機1(多段圧延機)において、良好な圧延形状が得られるように、圧延開始前に、形状制御機構40をそれぞれ制御するための値を算出することができる。そして算出した制御量に基づいて形状制御機構40を制御することにより、6段圧延機1による圧延後の圧延材8を、良好な圧延形状とすることができる。
【0093】
〔実施形態2〕
以下、本発明の他の実施形態について説明する。なお、本実施の形態において説明すること以外の構成は、前記実施形態1と同じである。また、説明の便宜上、前記実施形態1の図面に示した部材と同一の機能を有する部材については、同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0094】
前記実施の形態1の演算装置では、圧延開始前における形状制御機構の制御量の初期設定(プリセット制御)において、中間ロールシフト機構2を含む形状制御機構40を制御するための値を算出していた。これに対して、本実施の形態の演算装置では、圧延中(稼働中の圧延ライン)において、圧延後の圧延材8の圧延形状を、形状検出器7を用いて測定した測定結果に基づいて、中間ロールシフト機構2を含む形状制御機構40の制御量の補正を行うための補正値を算出する点が異なっている。
【0095】
6段圧延機1が備える形状制御機構40は、ロールベンダー3としての中間ロールベンダー、および中間ロールシフト機構2であるとする。
【0096】
圧延中における圧延形状の制御に関しては、伸び率差εeおよびεqに関する数式モデル(圧延形状予測式)を、下記式(5)および(6)にて表すことができる。
【0097】
εe=εe
1+ae・ΔFi+be・Δ(√δ) (5)
εq=εq
1+aq・ΔFi+bq・Δ(√δ) (6)
上記式において、
εe:板端部における伸び率と板幅中央における伸び率との差
εq:クオータ部における伸び率と板幅中央における伸び率との差
εe
1:形状検出器で測定された、板端部における伸び率と板幅中央における伸び率との差
εq
1:形状検出器で測定された、クオータ部における伸び率と板幅中央における伸び率との差
ΔFi:中間ロールベンダー力Fiの変化量
Δ(√δ):中間ロールシフト位置δの平方根の変化量
ae、be、aq、bq:影響係数
である。
【0098】
このように、前記式(5)および(6)は、中間ロール10のシフト量(シフト位置)の補正値(変化量)を変数として含むとともに、実際の伸び率差を示す項としてのεe
1およびεq
1を含んでいる。
【0099】
以下に、前記式(5)および(6)に基づく、本実施の形態の演算装置が実行する処理および圧延形状の制御について概略的に説明する。
【0100】
本実施の形態における演算装置としてのプロセスコンピュータ6が実行する、圧延中における処理の流れの一例を、
図7を用いて説明する。
図7は、圧延中に本実施の形態のプロセスコンピュータ6が実行する処理の流れの一例を示すフローチャートである。なお、6段圧延機1の装置構成は
図4と同様である。
【0101】
図7に示すように、圧延中において、先ず、前記S11と同様に、影響係数設定部21が、前記式(5)および(6)に用いられる各種の影響係数(ae、aq、be、bq)を、制御パラメータ32(圧延条件)および所定係数データ31に基づいて設定する(S21)(影響係数設定工程)。このとき、影響係数を算出するために単位幅荷重pを用いる場合には、上位コンピュータ5において、圧延開始前に算出された単位幅荷重pを用いればよい。予め入力された圧延条件の一部(ワークロールの回転速度、平均入出側張力など)は、圧延中に変動することがあり、それに伴って圧延荷重Pおよび単位幅荷重pも変動し得るが、その変動の影響は小さいため考慮しないこととしている。
【0102】
εe=εe
1+ae・ΔFi+be・Δ(√δ) (5)
εq=εq
1+aq・ΔFi+bq・Δ(√δ) (6)。
【0103】
圧延中に、形状検出器7は、圧延材8の形状を検出して、当該形状を示す検出信号を伸び率差算出部22に送信する。伸び率差算出部22は、形状検出器7の検出結果に基づいて、圧延材8の複数箇所間の実際の伸び率差を算出する。具体的には、伸び率差算出部22は、形状検出器7から出力された検出信号を用いて、板端部における伸び率と板幅中央における伸び率との差(測定値εe
1)、およびクオータ部における伸び率と板幅中央における伸び率との差(測定値εq
1)を算出する。
【0104】
一方、主演算部23は、S21にて設定した影響係数を前記式(5)および(6)に代入するとともに、前記式(5)の伸び率差εeおよび式(6)の伸び率差εqとして、圧延形状目標値としての伸び率差の目標値εe
0およびεq
0をそれぞれ設定する。なお、目標値εe
0およびεq
0は予め定められており、記憶部30に格納されている。
【0105】
そして、主演算部23は、伸び率差算出部22が算出した測定値εe
1およびεq
1を、前記式(5)および(6)に代入して、中間ロールベンダー力の変化量ΔFiおよび中間ロールシフト位置の平方根の変化量Δ(√δ)を算出する(S22)(制御量算出工程)。つまり、主演算部23は、伸び率差算出部22が算出した実際の伸び率差と目標値との差が減少するように、中間ロールベンダー力の変化量ΔFiおよび中間ロールシフト位置の平方根の変化量Δ(√δ)を算出する。
【0106】
前記変化量ΔFiは、中間ロールベンダーの補正前後のベンディング力の差に相当する。また、前記変化量Δδは、中間ロールシフト機構2の補正前後の中間ロール10の位置の差に相当する。
【0107】
続いて、機構制御部24が、中間ロールベンダー力FiをΔFi、および中間ロールシフト位置δをΔδ変化させる(S23)。
【0108】
上記のような演算方法により、中間ロールベンダーおよび中間ロールシフト機構2を形状制御機構40とする6段圧延機1(多段圧延機)において、良好な圧延形状が得られるように、圧延中に、形状制御機構40の制御量をそれぞれ補正するための補正値を算出することができる。そして算出した補正値に基づいて形状制御機構40を制御することにより、6段圧延機1による圧延後の圧延材8を、良好な圧延形状とすることができる。
【0109】
(変形例)
本実施の形態の演算装置の変形例について、以下に説明する。本変形例では、形状制御機構40は、ロールベンダー3としてのワークロールベンダー、および中間ロールシフト機構2である。
【0110】
中間ロールベンダーの代わりにワークロールベンダーを用いる場合には、圧延中における圧延形状の制御に関して、伸び率差εeおよびεqに関する数式モデル(圧延形状予測式)を、下記式(7)および(8)にて表すことができる。
【0111】
εe=εe
1+ae・ΔFw+be・Δ(√δ) (7)
εq=εq
1+aq・ΔFw+bq・Δ(√δ) (8)
上記式において、
ΔFw:ワークロールベンダー力Fwの変化量
である。
【0112】
主演算部23は、影響係数設定部21により設定された影響係数と、圧延形状目標値としての伸び率差の目標値εe
0およびεq
0と、形状検出器7からの信号に基づいて算出した測定値εe
1およびεq
1と、前記式(7)および(8)とを用いて、或る圧延条件において、ワークロールベンダーおよび中間ロールシフト機構2の制御量の補正を行うための補正値(ワークロールベンダー力の変化量ΔFwおよび中間ロールシフト位置の変化量Δδ)を算出する。
【0113】
これにより、ワークロールベンダーおよび中間ロールシフト機構2を形状制御機構40とする6段圧延機1(多段圧延機)において、良好な圧延形状が得られるように、圧延中に、形状制御機構40の制御量をそれぞれ補正するための補正値を算出することができる。そして算出した補正値に基づいて形状制御機構40を制御することにより、6段圧延機1による圧延後の圧延材8を、良好な圧延形状とすることができる。
【0114】
〔実施形態3〕
以下、本発明のさらに他の実施形態について説明する。なお、本実施の形態において説明すること以外の構成は、前記実施形態1と同じである。また、説明の便宜上、前記実施形態1の図面に示した部材と同一の機能を有する部材については、同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0115】
前記実施の形態1の演算装置では、圧延開始前における形状制御機構の制御量の初期設定(プリセット制御)において、形状制御機構40としての中間ロールベンダーおよび中間ロールシフト機構2を制御するための値を算出していた。これに対して、本実施の形態の演算装置では、プリセット制御において、形状制御機構40としてのワークロールベンダー、中間ロールベンダー、および中間ロールシフト機構2を制御するための値を算出する点が異なっている。
【0116】
本実施の形態の6段圧延機1は、形状制御機構40としてワークロールベンダー、中間ロールベンダー、および中間ロールシフト機構2を備え、機構制御部24がこれらを制御する。
【0117】
形状制御機構40としてワークロールベンダー、中間ロールベンダー、および中間ロールシフト機構2を用いる場合は、伸び率差εeおよびεqに関する数式モデル(圧延形状予測式)を、下記式(9)および(10)にて表すことができる。
【0118】
εe=ae・Fw+be・Fi+ce・√δ+de (9)
εq=aq・Fw+bq・Fi+cq・√δ+dq (10)
上記式において、
εe:板端部における伸び率と板幅中央における伸び率との差
εq:クオータ部における伸び率と板幅中央における伸び率との差
Fw:ワークロールベンダー力
Fi:中間ロールベンダー力
δ:中間ロールシフト位置
ae、be、ce、de、aq、bq、cq、dq:影響係数
である。
【0119】
影響係数設定部21により影響係数の設定がなされると、主演算部23は、設定された影響係数と、前記式(9)および(10)とを用いて、或る圧延条件において、伸び率差εeおよびεqがそれぞれの目標値εe
0およびεq
0に一致するように、ワークロールベンダー力Fw、中間ロールベンダー力Fi、および中間ロールシフト位置δを算出し、設定する。主演算部23が前記式(9)および(10)を解く計算手法は、特に限定されない。例えば、ワークロールベンダー力Fw、中間ロールベンダー力Fi、および中間ロールシフト位置δの何れか1つの制御値を固定して、他の制御値を算出してもよい。
【0120】
これにより、ワークロールベンダー、中間ロールベンダー、および中間ロールシフト機構2を形状制御機構40とする6段圧延機1(多段圧延機)において、良好な圧延形状が得られるように、圧延開始前に、形状制御機構40をそれぞれ制御するための値を算出することができる。そして算出した制御量に基づいて形状制御機構40を制御することにより、6段圧延機1による圧延後の圧延材8を、良好な圧延形状とすることができる。
【0121】
〔実施形態4〕
以下、本発明のさらに他の実施形態について説明する。なお、本実施の形態において説明すること以外の構成は、前記実施形態2と同じである。また、説明の便宜上、前記実施形態2の図面に示した部材と同一の機能を有する部材については、同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0122】
前記実施の形態2の演算装置では、圧延中(稼働中の圧延ライン)に、圧延材8の圧延形状を、形状検出器7を用いて測定した測定結果に基づいて、形状制御機構40としての中間ロールベンダーおよび中間ロールシフト機構2の制御量の補正を行うための補正値を算出していた。これに対して、本実施の形態の演算装置では、圧延中に、形状制御機構40としてのワークロールベンダー、中間ロールベンダー、および中間ロールシフト機構2の制御量の補正を行うための補正値を算出する点が異なっている。
【0123】
本実施の形態の6段圧延機1は、形状制御機構40としてワークロールベンダー、中間ロールベンダー、および中間ロールシフト機構2を備え、機構制御部24がこれらを制御する。
【0124】
形状制御機構40としてワークロールベンダー、中間ロールベンダー、および中間ロールシフト機構2を用いる場合は、圧延中における圧延形状の制御に関して、伸び率差εeおよびεqに関する数式モデル(圧延形状予測式)を、下記式(11)および(12)にて表すことができる。
【0125】
εe=εe
1+ae・ΔFw+be・ΔFi+ce・Δ(√δ) (11)
εq=εq
1+aq・ΔFw+bq・ΔFi+cq・Δ(√δ) (12)
上記式において、
εe:板端部における伸び率と板幅中央における伸び率との差
εq:クオータ部における伸び率と板幅中央における伸び率との差
εe
1:形状検出器で測定された、板端部における伸び率と板幅中央における伸び率との差
εq
1:形状検出器で測定された、クオータ部における伸び率と板幅中央における伸び率との差
ΔFw:ワークロールベンダー力Fwの変化量
ΔFi:中間ロールベンダー力Fiの変化量
Δ(√δ):中間ロールシフト位置δの平方根の変化量
ae、be、ce、aq、bq、cq:影響係数
である。
【0126】
主演算部23は、前記式(11)および(12)を用いて、或る圧延条件において、ワークロールベンダー、中間ロールベンダー、および中間ロールシフト機構2の制御量の補正を行うための補正値(ワークロールベンダー力の変化量ΔFw、中間ロールベンダー力の変化量ΔFi、および中間ロールシフト位置の変化量Δδ)を算出する。
【0127】
これにより、ワークロールベンダー、中間ロールベンダー、および中間ロールシフト機構2を形状制御機構40とする6段圧延機1(多段圧延機)において、良好な圧延形状が得られるように、圧延中に、形状制御機構40制御量をそれぞれ補正するための補正値を算出することができる。そして算出した補正値に基づいて形状制御機構40を制御することにより、6段圧延機1による圧延後の圧延材8を、良好な圧延形状とすることができる。
【0128】
〔実施形態5〕
以下、本発明のさらに他の実施形態について説明する。
【0129】
前記実施の形態1〜4の演算装置では、伸び率差εeおよびεqに関する数式モデル(圧延形状予測式)における影響係数を、例えば予め設定しておいたテーブルから圧延条件に応じて選択することにより設定していた。これに対して、本実施の形態の演算装置では、本発明者らが新規に見出した、高精度に影響係数を近似することができる影響係数の近似式を用いて影響係数を設定する。
【0130】
本発明者らは、伸び率差εeおよびεqに関する数式モデルを用いて圧延形状を制御する場合に、良好な圧延形状が得られるように影響係数を高精度に近似する方法を種々調査検討した。その結果、影響係数を単位幅荷重(圧延材の単位幅に加えられる荷重)および板幅の関数で表すと、高精度に影響係数を近似できることを見出した。この新たな知見について順に説明する。
【0131】
ここでは、前記実施形態1にて示した式(1)および(2)にて表される数式モデル(圧延形状予測式)を例として説明する。
【0132】
εe=ae・Fi+be・√δ+ce (1)
εq=aq・Fi+bq・√δ+cq (2)。
【0133】
なお、以下では、式(1)を板端部に関する制御式、式(2)をクオータ部に関する制御式と称することがある。
【0134】
前記実施形態1において
図2に示したように、中間ロールシフト位置δを固定したときの伸び率差εeおよびεqは、それぞれ中間ロールベンダー力Fiと線形関係にある。この
図2の線形関係における傾きが中間ロールベンダー力Fiの影響係数aeおよび影響係数aqである。
【0135】
また、前記実施形態1において
図3に示したように、中間ロールベンダー力Fiを固定したときの伸び率差εeおよびεqと、中間ロールシフト位置δとの関係は、√曲線でほぼ近似できる。この
図3の関係における係数が、中間ロールシフト位置δの影響係数beおよび影響係数bqである。
【0136】
ここで、
図2および
図3に示す各プロットは、形状予測の解析プログラムを用いて算出される。形状予測の解析プログラムを用いて、
図2および
図3の各プロットを算出することにより、或る圧延条件下での影響係数ae、aq、be、bqを求めることができる。
なお、影響係数の算出に用いられるプロットの数は4個以上とすることが好ましい。これは、各プロットを通過するように描いた(或いは、各プロットについて最小二乗近似した)直線または曲線に基づいて、影響係数の値をより正確に求めるためである。
【0137】
また、前記式(1)および(2)において、中間ロールベンダー力Fiおよび中間ロールシフト位置δをいずれも0として、形状予測の解析プログラムを用いることにより、所定の圧延条件における影響係数ce、cqを求めることができる。
【0138】
上記の演算は、演算の前提となる所定の圧延条件の下で行うことになる。例えば、圧延荷重(単位幅荷重)が変化すれば、それに応じて影響係数ae、aq、be、bq、ce、cqも変化することになる。
【0139】
従来、前記式(1)および(2)の数式モデルに用いられる、影響係数ae、aq、be、bq、ce、cqを高精度に近似する方法は知られていなかった。そこで、本発明者らは、影響係数ae、aq、be、bq、ce、cqを高精度に近似する方法を種々調査検討した結果、以下のような知見を得た。
【0140】
例えば、板厚0.8mm〜4.0mm、板幅850mm〜1050mm、材料の変形抵抗700N/mm
2〜1200N/mm
2の範囲において、板端部に関する制御式(1)における中間ロールベンダー力Fiの影響係数aeを形状予測の数値解析により求めた結果を
図8に示す。
図8は、中間ロールベンダー力Fiの影響係数aeに及ぼす、単位幅荷重pおよび板幅Wの影響を示すグラフである。
【0141】
具体的には、
図8に示すプロットは、以下のようにして求める。先ず、板厚、板幅、および材料の変形抵抗の上記範囲内における或る条件に基づいて、公知の圧延荷重式を用いて、圧延荷重を求める。算出した圧延荷重を板幅(例えば1050mm)で除算することにより、単位幅荷重を算出する。
【0142】
そして、或る板幅および単位幅荷重の条件において、形状予測の数値解析プログラムを用いて、
図2における伸び率差εeとして示したようなプロットを算出することができる。その結果、直線の傾きとしての影響係数aeを求めることができる。これらの手順を、或る圧延ラインの圧延機が対応可能な範囲の圧延材の品種(板幅、板厚、変形抵抗)について行うことにより、
図8に示す各プロットを算出することができる。
【0143】
すなわち、形状予測の解析プログラムを用いて、板厚、板幅、および材料の変形抵抗を上記の範囲で変化させて解析を行い、それぞれの条件で影響係数ae(中間ロールベンダー力Fiを変化させて解析したときの、中間ロールベンダー力Fiの制御量と伸び率差εeとの線形関係における傾き)を算出する。これにより、
図8に示すように、板幅Wおよび単位幅荷重pが、影響係数aeに及ぼす影響について整理できる。例えば、所定の前提条件のもとで、板幅が1050mm、単位幅荷重が約6300N/mmの条件にて求めた影響係数A1は約−0.3Iunit/kNであった。これは
図8に示す18個のプロットのうち、右端下段の四角形のプロットに対応する。
【0144】
ここで、板厚、板幅、および材料の変形抵抗は圧延材の形状に影響するが、その影響のほとんどは圧延荷重分布を介したロール撓みの変化によって生じる。また、圧延荷重のワークロール9への作用領域は、板幅に依存して変化する。
【0145】
したがって、本発明者らは、板端部に関する制御式(1)における中間ロールベンダー力Fiの影響係数aeは、単位幅荷重pと板幅Wで整理できるのではないかと考えた。また、
図8に示すように、同じ板幅の場合、単位幅荷重pの増加とともに、中間ロールベンダー力Fiの影響係数aeの絶対値は減少し、単位幅荷重pの大きいところでは単位幅荷重pが影響係数aeに及ぼす影響が小さいことがわかった。そして、板幅Wが増加するにつれて中間ロールベンダー力Fiの影響係数aeは減少する。このことから、板幅Wの影響度に単位幅荷重pが影響するという新たな知見も得た。
【0146】
そこで、本発明者らは、中間ロールベンダー力Fiの影響係数aeを高精度に近似する式を探索し、下記の式(13)を用いることによって、影響係数aeを高精度に近似することができることを見出した。
【0147】
ae=ae
1・(1/p)+ae
2・(W/p)+ae
3 (13)
上記式において、
ae:板端部に関する制御式における中間ロールベンダー力Fiの影響係数
p:単位幅荷重
W:板幅
ae
1、ae
2、ae
3:影響係数aeの近似式における係数
である。
【0148】
図8に示すデータについて、前記式(13)を用いて重回帰分析を行った結果、近似式における各係数は表2に示すようになり、高い相関関係が得られた。この重回帰分析については、数値解析における一般的な手法であるので、ここでは説明を省略する。
【0150】
同様に、板厚0.8mm〜4.0mm、板幅850mm〜1050mm、材料の変形抵抗700N/mm
2〜1200N/mm
2の範囲において、板端部に関する制御式(1)における中間ロールシフト位置δの平方根の影響係数beを形状予測の数値解析により求めた結果を
図9に示す。この形状予測の数値解析も、形状予測の解析プログラムを用いて行うことができる。ここで、板厚、板幅、および材料の変形抵抗は圧延材の形状に影響するが、その影響のほとんどは圧延荷重分布を介したロール撓みの変化によって生じる。また、圧延荷重のワークロール9への作用領域は、板幅に依存して変化する。
【0151】
したがって、本発明者らは、板端部に関する制御式(1)における中間ロールシフト位置δの平方根の影響係数beについても同様に、単位幅荷重pと板幅Wで整理できると考えた。また、
図9に示すように、同じ板幅の場合、単位幅荷重pの増加とともに、影響係数beの絶対値は減少する傾向にあり、単位幅荷重pの大きいところでは単位幅荷重pが影響係数beに及ぼす影響が小さいことがわかった。そして、板幅Wが増加するにつれて影響係数beは減少し、板幅Wの影響度に単位幅荷重pが影響する。
【0152】
このことから、上記した中間ロールベンダー力Fiの影響係数aeと同様に、中間ロールシフト位置δの平方根の影響係数beについても、下記の式(14)を用いることによって高精度に近似することができることを見出した。
【0153】
be=be
1・(1/p)+be
2・(W/p)+be
3 (14)
上記式において、
be:板端部に関する制御式における中間ロールシフト位置δの影響係数
p:単位幅荷重
W:板幅
be
1、be
2、be
3:影響係数beの近似式における係数
である。
【0154】
図9に示すデータについて、前記式(14)を用いて重回帰分析を行った結果、近似式における各係数は表3に示すようになり、高い相関関係が得られた。なお、影響係数の単位は、前記式(1)における中間ロールシフト位置δの平方根の影響項として適切なものとなるように設定されている。
【0156】
そして、板厚0.8mm〜4.0mm、板幅850mm〜1050mm、材料の変形抵抗700N/mm
2〜1200N/mm
2の範囲において、板端部に関する制御式(1)における中間ロールベンダー力Fiおよび中間ロールシフト位置δに0を代入した結果を
図10に示す。具体的には、板幅条件を3水準(850mm、950mm、1050mm)変更するとともに、それぞれの板幅条件において6つの単位幅荷重条件について影響係数ceを算出した。
【0157】
本発明者らは、影響係数ceについても前記影響係数aeおよび影響係数beと同様に、単位幅荷重pと板幅Wで整理できるのではないかと考えた。そして、影響係数ceについても、下記の式(15)を用いることによって高精度に近似することができることを見出した。
【0158】
ce=ce
1・(1/p)+ce
2・(W/p)+ce
3 (15)
上記式において、
ce:板端部に関する制御式における影響係数
p:単位幅荷重
W:板幅
ce
1、ce
2、ce
3:影響係数ceの近似式における係数
である。
【0159】
図10に示すデータについて、前記式(15)を用いて重回帰分析を行った結果、近似式における各係数は表4に示すようになり、高い相関関係が得られた。
【0161】
以上に説明したことと同様に、板厚0.8mm〜4.0mm、板幅850mm〜1050mm、材料の変形抵抗700N/mm
2〜1200N/mm
2の範囲において、クオータ部に関する制御式(2)における影響係数aq、bq、cqを形状予測の数値解析により求めた結果を
図11の(a)〜(c)に示す。
【0162】
そして、本発明者らは、下記の式(16)〜(18)を用いることによって、影響係数aq、bq、cqを高精度に近似することができることを見出した。
【0163】
aq=aq
1・(1/p)+aq
2・(W/p)+aq
3 (16)
bq=bq
1・(1/p)+bq
2・(W/p)+bq
3 (17)
cq=cq
1・(1/p)+cq
2・(W/p)+cq
3 (18)
上記式において、
aq:クオータ部に関する制御式における中間ロールベンダー力Fiの影響係数
bq:クオータ部に関する制御式における中間ロールシフト位置δの影響係数
cq:クオータ部に関する制御式における影響係数
p:単位幅荷重
W:板幅
aq
1、aq
2、aq
3:影響係数aqの近似式における係数
bq
1、bq
2、bq
3:影響係数bqの近似式における係数
cq
1、cq
2、cq
3:影響係数cqの近似式における係数
である。
【0164】
図11の(a)に示すデータについて、前記式(16)を用いて重回帰分析を行った結果、近似式における各係数は表5に示すようになり、高い相関関係が得られた。
【0166】
図11の(b)に示すデータについて、前記式(17)を用いて重回帰分析を行った結果、近似式における各係数は表6に示すようになり、高い相関関係が得られた。
【0168】
図11の(c)に示すデータについて、前記式(18)を用いて重回帰分析を行った結果、近似式における各係数は表7に示すようになり、高い相関関係が得られた。
【0170】
以上のように、式(13)〜式(18)を用いて、高精度に影響係数ae、aq、be、bq、ce、cqを近似することができ、近似した影響係数を用いて高精度な形状制御を行うことができる。具体的には、形状解析モデルを用いて、板厚、板幅、および材料の変形抵抗を広範囲に変化させて解析を行い、それぞれの条件で影響係数ae、aq、be、bq、ce、cqを算出する。これにより、
図8〜
図11に示すように、板幅Wと単位幅荷重pが、影響係数ae、aq、be、bq、ce、cqに及ぼす影響について整理できる。そして、影響係数をそれぞれ式(13)〜式(18)で表したときの係数を、それぞれ重回帰分析により求める。
【0171】
この近似式係数は、或る圧延ラインにおける、対応可能な圧延材の品種(板幅、板厚、変形抵抗)の範囲に対応して、予め求めることができる。この範囲(操業条件)は、様々な条件に応じて設定され得るが、例えば、重回帰分析を行った結果として高い相関係数が得られるような範囲に操業条件を区分して設定されてもよい。この相関係数の値としては、0.9以上であればよく、好ましくは0.95以上である。相関係数が0.9以上であれば、該近似式係数を含む影響係数の近似式は、実用に供することが充分に可能である。
【0172】
或る圧延ラインにおいて、圧延材の品種が変化すれば、それに対応して圧延機における圧延条件も変化する。また、圧延材に与えられる単位幅荷重は適宜変動し得る。圧延機が対応可能な圧延材の品種(板幅、板厚、変形抵抗)の範囲に対応して、影響係数ae、aq、be、bq、ce、cqを算出することができればよい。
【0173】
予め求めた近似式の係数を代入して、式(13)〜(16)で表される近似式を用いることにより、或る単位幅荷重pおよび板幅Wにおける影響係数ae、aq、be、bq、ce、cqを算出することができる。
【0174】
これにより、例えば、
図8〜
図11に示すような複数のプロットの間の単位幅荷重pおよび板幅Wの条件における影響係数ae、aq、be、bq、ce、cqを高精度に近似して求めることができる。
【0175】
そして、求めた影響係数ae、aq、be、bq、ce、cqを用いて、式(1)および(2)に基づいて、中間ロールベンダー力Fiおよび中間ロールシフト位置δの制御量を制御することにより、形状制御を高精度に行うことができ、良好な圧延形状が得られる。
【0176】
(変形例)
6段圧延機が対象とする板幅の範囲が、前記実施形態5とは異なる変形例について、以下に説明する。具体的には、本変形例の6段圧延機では、対象とする圧延材の板幅の範囲が、板幅1050mm〜1250mmまたは板幅650mm〜850mmの範囲である。板厚および材料の変形抵抗の範囲はそのままであるとする。
【0177】
以下では、板幅の範囲が、板幅1050mm〜1250mmである場合を条件A、板幅650mm〜850mmである場合を条件Bとして説明する。
【0178】
前記実施形態5にて説明したことと同様にして、形状予測の解析プログラムを用いて、条件Aおよび条件Bのそれぞれについて、板厚、板幅、および材料の変形抵抗を上記の範囲で変化させて解析を行い、影響係数aeを算出した。
【0179】
図12は、板端部に関する制御式(1)の中間ロールベンダー力Fiの影響係数aeに及ぼす、単位幅荷重pおよび板幅Wの影響を示すグラフであり、(a)は条件Aの場合、(b)は条件Bの場合について示している。
【0180】
図12の(a)、(b)に示すデータについて、前記式(13)を用いて重回帰分析を行った結果、近似式における各近似式係数は表8に示すようになり、高い相関関係が得られた。
【0182】
以下、同様にして、形状予測の解析プログラムを用いて、板厚、板幅、および材料の変形抵抗を上記の範囲で変化させて解析を行い、それぞれの条件で影響係数be、ce、aq、bq、cqを算出した。結果を順に示す。
【0183】
図13は、板端部に関する制御式(1)の中間ロールシフト位置δの平方根の影響係数beに及ぼす、単位幅荷重pおよび板幅Wの影響を示すグラフであり、(a)は条件Aの場合、(b)は条件Bの場合について示している。
【0184】
図13の(a)、(b)に示すデータについて、前記式(14)を用いて重回帰分析を行った結果、近似式における各近似式係数は表9に示すようになり、高い相関関係が得られた。
【0186】
図14は、板端部に関する制御式(1)の影響係数ceに及ぼす、単位幅荷重pおよび板幅Wの影響を示すグラフであり、(a)は条件Aの場合、(b)は条件Bの場合について示している。
【0187】
図14の(a)、(b)に示すデータについて、前記式(15)を用いて重回帰分析を行った結果、近似式における各近似式係数は表10に示すようになり、高い相関関係が得られた。
【0189】
図15は、クオータ部に関する制御式(2)の影響係数aqに及ぼす、単位幅荷重pおよび板幅Wの影響を示すグラフであり、(a)は条件Aの場合、(b)は条件Bの場合について示している。
【0190】
図15の(a)、(b)に示すデータについて、前記式(16)を用いて重回帰分析を行った結果、近似式における各近似式係数は表11に示すようになり、高い相関関係が得られた。
【0192】
図16は、クオータ部に関する制御式(2)の影響係数bqに及ぼす、単位幅荷重pおよび板幅Wの影響を示すグラフであり、(a)は条件Aの場合、(b)は条件Bの場合について示している。
【0193】
図16に示すデータについて、前記式(17)を用いて重回帰分析を行った結果、近似式における各近似式係数は表12に示すようになり、高い相関関係が得られた。
【0195】
図17は、クオータ部に関する制御式(2)の影響係数cqに及ぼす、単位幅荷重pおよび板幅Wの影響を示すグラフであり、(a)は条件Aの場合、(b)は条件Bの場合について示している。
【0196】
図17に示すデータについて、前記式(18)を用いて重回帰分析を行った結果、近似式における各近似式係数は表13に示すようになり、高い相関関係が得られた。
【0198】
本変形例の6段圧延機の操業条件である条件A、条件Bにおいて、表8〜表13に示す近似式係数を代入して、前記式(13)〜式(18)で表される近似式を用いることにより、或る単位幅荷重pおよび板幅Wにおける影響係数ae、aq、be、bq、ce、cqを高精度に近似して求めることができる。
【0199】
そして、求めた影響係数ae、aq、be、bq、ce、cqを用いて、前記式(1)および(2)に基づいて、中間ロールベンダー力Fiおよび中間ロールシフト位置δの制御量を制御することにより、形状制御を高精度に行うことができ、良好な圧延形状を得ることができる。
【0200】
〔実施例〕
中間ロールシフト機構2、およびロールベンダー3としての中間ロールベンダーを用いて圧延形状の制御を行う際に、本発明を適用した例を説明する。なお、板端部を板端から50mmの位置、クオータ部を板幅中央から板端部までの距離の70%の位置とした。
【0201】
影響係数設定部21は、前記式(1)、(2)、(5)、および(6)に用いられる影響係数(ae、be、ce、aq、bq、cq)を、それぞれ下記式(13)〜(18)を用いて算出した。影響係数は、単位幅荷重と板幅との関数として近似することができる。
【0202】
ae=ae
1・(1/p)+ae
2・(W/p)+ae
3 (13)
be=be
1・(1/p)+be
2・(W/p)+be
3 (14)
ce=ce
1・(1/p)+ce
2・(W/p)+ce
3 (15)
aq=aq
1・(1/p)+aq
2・(W/p)+aq
3 (16)
bq=bq
1・(1/p)+bq
2・(W/p)+bq
3 (17)
cq=cq
1・(1/p)+cq
2・(W/p)+cq
3 (18)
上記式において、係数ae
1、ae
2、ae
3、be
1、be
2、be
3、ce
1、ce
2、ce
3、aq
1、aq
2、aq
3、bq
1、bq
2、bq
3、cq
1、cq
2、cq
3は、所定係数データ31に含まれている係数である。
【0203】
圧延開始前における中間ロールベンダーおよび中間ロールシフト機構2の初期設定においては、前記式(1)および(2)に示した圧延形状予測式を用い、伸び率差εeおよびεqがそれぞれの目標値εe
0およびεq
0に一致するように中間ロールベンダー力Fiと中間ロールシフト位置δを算出し、設定する。
【0204】
また、圧延中では、形状検出器7で圧延材8の圧延形状を連続的に測定し、得られた測定値εe
1、εq
1を式(5)および(6)に示した圧延形状予測式に代入し、伸び率差εeおよびεqがそれぞれの目標値εe
0、εq
0に一致するように中間ロールベンダー力の補正量ΔFiと中間ロールシフト位置の平方根の補正量Δ(√δ)を算出し、中間ロールベンダー力および中間ロールシフト位置を補正する。なお、圧延形状の非対称成分については、差荷重発生装置4により補正する。
【0205】
このような制御を行うプロセスコンピュータ6を備える6段圧延機1を用いて、板厚0.8mm〜4.0mm、板幅850mm〜1050mm、材料の変形抵抗700N/mm
2〜1200N/mm
2の範囲で条件を変えて、50個の条件にて圧延を行った。
【0206】
また、比較のため、伸び率差εeおよびεqと、中間ロールシフト位置δとの関係を線形関係で表した圧延形状予測式を用いて、上記と同様の範囲で条件を変えて、50個の条件にて圧延を行った。
【0207】
本発明の一態様により、圧延形状予測式として前記式(1)、(2)、(5)、および(6)を用いて圧延形状を制御して圧延した場合の結果を、
図18に示す。圧延された各鋼帯の板幅方向の各位置において算出した伸び率と、板幅中央における伸び率との差(ワークサイドとドライブサイドの平均値)について、目標値と実績値との差を算出した。
図8には、この各位置のうち、絶対値が最大となる位置における目標値と実績値との差をプロットした。その結果、50個の条件にて圧延を行った全ての鋼帯について、目標値と実績値との差(絶対値)は25Iunit以内に収まっていた。
【0208】
これに対して、従来法により、中間ロールシフト位置δとの関係を線形関係で表した圧延形状予測式を用いて圧延形状を制御して圧延した場合の結果を、
図19に示す。圧延された各鋼帯の板幅方向の各位置において算出した伸び率と、板幅中央における伸び率との差(ワークサイドとドライブサイドの平均値)について、目標値と実績値との差を算出した。
図19には、この各位置のうち、絶対値が最大となる位置における目標値と実績値との差をプロットした。その結果、50個の条件にて圧延を行った鋼帯の中には、目標値と実績値との差(絶対値)が35Iunit以上になるものもあった。
【0209】
〔ソフトウェアによる実現例〕
上位コンピュータ5およびプロセスコンピュータ6の制御ブロック(特に、荷重算出部5c、影響係数設定部21、伸び率差算出部22、主演算部23、および機構制御部24)は、集積回路(ICチップ)等に形成された論理回路(ハードウェア)によって実現してもよいし、CPU(Central Processing Unit)を用いてソフトウェアによって実現してもよい。
【0210】
後者の場合、上位コンピュータ5およびプロセスコンピュータ6は、各機能を実現するソフトウェアである情報処理プログラムの命令を実行するCPU、前記プログラムおよび各種データがコンピュータ(またはCPU)で読み取り可能に記録されたROM(Read Only Memory)または記憶装置(これらを「記録媒体」と称する)、前記プログラムを展開するRAM(Random Access Memory)などを備えている。そして、コンピュータ(またはCPU)が前記プログラムを前記記録媒体から読み取って実行することにより、本発明の目的が達成される。前記記録媒体としては、「一時的でない有形の媒体」、例えば、テープ、ディスク、カード、半導体メモリ、プログラマブルな論理回路などを用いることができる。また、前記プログラムは、該プログラムを伝送可能な任意の伝送媒体(通信ネットワークや放送波等)を介して前記コンピュータに供給されてもよい。なお、本発明は、前記プログラムが電子的な伝送によって具現化された、搬送波に埋め込まれたデータ信号の形態でも実現され得る。
【0211】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【0212】
〔まとめ〕
本発明の態様1における演算装置(プロセスコンピュータ6、または、上位コンピュータ5およびプロセスコンピュータ6)は、圧延材8の圧延形状を制御する形状制御機構を少なくとも1種類備える多段圧延機(6段圧延機1)の前記形状制御機構を制御するための値を算出する演算装置であって、前記形状制御機構には、中間ロール10をシフトさせる中間ロールシフト機構2が含まれており、前記中間ロールシフト機構2による前記中間ロール10のシフト量またはその補正値を、前記圧延材8における複数箇所間の伸び率差を示す数式を用いて算出する第1算出部(主演算部23)を備え、前記数式は、前記伸び率差に及ぼす前記中間ロール10のシフトの影響度を示す影響係数を有する影響項を含み、前記影響項は、前記シフト量の平方根の関数で表されている。
【0213】
本発明者らは、形状制御機構として中間ロールシフト機構を用いる場合、伸び率差と中間ロールシフト機構の制御量との関係を線形関係で表す制御式を用いて形状制御を行うと、圧延後の薄板の圧延形状が悪化する場合があるという課題を見出し、本発明を想到するに至った。すなわち、伸び率差と中間ロールシフト機構2の制御量(シフト位置)との関係における非線形性を考慮し、この関係は√曲線でほぼ近似できるという新たな知見を得た。
【0214】
この知見に基づき、本発明の一態様における演算装置では、圧延材における複数箇所間の伸び率差を示す数式において、中間ロールのシフトの影響項を、該シフト量の平方根の関数で表している。これにより、良好な形状の圧延材が得られるように、中間ロールシフト機構を含む形状制御機構を制御するための値を算出することができる。
【0215】
本発明の態様2における演算装置は、態様1における演算装置において、前記形状制御機構として、ワークロールベンダーをさらに含み、前記数式は、前記ワークロールベンダーが発生させるベンディング力の前記伸び率差に及ぼす影響を表す影響項をさらに含む。
【0216】
上記の構成によれば、形状制御機構としてワークロールベンダーを含む場合であっても、良好な形状の圧延材が得られるように、中間ロールシフト機構を含む形状制御機構を制御するための値を算出することができる。
【0217】
本発明の態様3における演算装置は、態様1における演算装置において、前記形状制御機構として、中間ロールベンダーをさらに含み、前記数式は、前記中間ロールベンダーが発生させるベンディング力の前記伸び率差に及ぼす影響を表す影響項をさらに含む。
【0218】
上記の構成によれば、形状制御機構として中間ロールベンダーを含む場合であっても、良好な形状の圧延材が得られるように、中間ロールシフト機構を含む形状制御機構を制御するための値を算出することができる。
【0219】
本発明の態様4における演算装置は、態様1〜3のいずれか1における演算装置において、前記数式は、前記圧延材8の幅方向の端部における伸び率と幅方向の中央における伸び率との差を示す第1式、および前記端部よりも前記中央に寄った中間部における伸び率と前記中央における伸び率との差を表す第2式を含み、前記第1算出部(主演算部23)は、前記第1式が示す伸び率の差および前記第2式が示す伸び率の差が、それぞれの目標値に近づくように前記シフト量またはその補正値を算出する。
【0220】
前記第1式とは、例えば、本明細書に記載の前記式(1)、(3)、(5)、(7)、または(9)であり、前記第2式とは、例えば、本明細書に記載の前記式(2)、(4)、(6)、(8)、または(10)である。上記の構成によれば、圧延材の幅方向の複数箇所の伸び率と、幅方向の中央における伸び率との差に基づいて圧延形状を評価することができる。そのため、幅方向の中央における伸び率を基準として、圧延材の幅方向の複数箇所の伸び率との差を評価できるため、圧延形状の評価を比較的簡便に行うことができる。
【0221】
本発明の態様5における演算装置は、態様1〜4のいずれか1における演算装置において、前記圧延材8の形状を検出する形状検出器7の検出結果に基づいて、前記複数箇所間の実際の伸び率差を算出する第2算出部(伸び率差算出部22)をさらに備え、前記数式は、前記中間ロール10のシフト量の補正値を変数として含むとともに、前記実際の伸び率差を示す項を含み、前記第1算出部(主演算部23)は、前記第2算出部(伸び率差算出部22)が算出した実際の伸び率差が減少するように前記シフト量の補正値を算出する。
【0222】
上記の構成によれば、圧延中に、形状検出器の検出結果に基づいて、良好な形状の圧延材が得られるように、中間ロールのシフト量を補正するための補正値を算出することができる。
【0223】
本発明の態様6における演算方法は、圧延材の圧延形状を制御する形状制御機構を少なくとも1種類備える多段圧延機の前記形状制御機構を制御するための値を算出する演算方法であって、前記形状制御機構には、中間ロールをシフトさせる中間ロールシフト機構が含まれており、前記圧延材における複数箇所間の伸び率差を示す数式であって、前記伸び率差に及ぼす前記中間ロールのシフトの影響度を示す影響係数を有する影響項を含む数式に含まれる前記影響係数を設定する影響係数設定工程と、前記中間ロールシフト機構による前記中間ロールのシフト量またはその補正値を、設定された前記影響係数を含む前記数式を用いて算出する制御量算出工程とを含み、前記影響項は、前記シフト量の平方根の関数で表されている。
【0224】
上記の構成によれば、上記態様1と同様の効果を奏する。
【解決手段】演算装置は、中間ロールシフト機構(2)による中間ロール(10)のシフト量またはその補正値を、圧延材(8)における複数箇所間の伸び率差を示す数式を用いて算出する主演算部(23)を備え、数式は、伸び率差に及ぼす中間ロール(10)のシフトの影響度を示す影響係数を有する影響項を含み、影響項は、シフト量の平方根の関数で表されている。