(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6382443
(24)【登録日】2018年8月10日
(45)【発行日】2018年8月29日
(54)【発明の名称】超薄板化学強化ガラス物品およびそのようなガラス物品の製造方法
(51)【国際特許分類】
C03C 15/02 20060101AFI20180820BHJP
C03C 19/00 20060101ALI20180820BHJP
C03C 23/00 20060101ALI20180820BHJP
C03C 21/00 20060101ALI20180820BHJP
【FI】
C03C15/02
C03C19/00 Z
C03C23/00 D
C03C21/00 101
【請求項の数】24
【全頁数】34
(21)【出願番号】特願2017-513712(P2017-513712)
(86)(22)【出願日】2015年9月11日
(65)【公表番号】特表2017-529304(P2017-529304A)
(43)【公表日】2017年10月5日
(86)【国際出願番号】CN2015089411
(87)【国際公開番号】WO2016037589
(87)【国際公開日】20160317
【審査請求日】2017年5月10日
(31)【優先権主張番号】PCT/CN2014/086359
(32)【優先日】2014年9月12日
(33)【優先権主張国】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】512139847
【氏名又は名称】ショット グラス テクノロジーズ (スゾウ) カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】SCHOTT GLASS TECHNOLOGIES (SUZHOU) CO., LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ニン ダー
(72)【発明者】
【氏名】フオン ホー
(72)【発明者】
【氏名】プオンシアン チエン
【審査官】
山田 貴之
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2014/013996(WO,A1)
【文献】
特開2002−150546(JP,A)
【文献】
国際公開第2014/045809(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 15/00−23/00
C03B 7/00
C03B 9/00−17/06
C03B 19/00
C03B 21/00
C03B 40/00
B24B 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
超薄板化学強化ガラス物品の製造方法であって、
− 第一の表面および第二の表面を有し、それらの表面が少なくとも1つの端面によって接続されている、第一の表面と第二の表面との間に厚み(t)を有する超薄板ガラスシートを準備するステップ、
− 該超薄板ガラスシートを化学強化することで、超薄板化学強化ガラス物品を製造するステップ、
を含む、製造方法において、
端面前処理を、化学強化の前に超薄板ガラスシートの少なくとも1つの端面に適用することで、端面欠陥が減少され、および/または丸められ、そして化学強化の間の超薄板ガラスシートの破断への耐久性が高められることを特徴とし、端面前処理は、化学的処理であり、超薄板ガラスシートの厚み(t)は、0.2mmと等しいまたはそれ未満である、製造方法。
【請求項2】
後処理を、化学強化の後に超薄板化学強化ガラス物品の少なくとも1つの端面に少なくとも適用することで、欠陥が更に減少され、および/または丸められ、そして強化された超薄板ガラス物品が増強される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
端面前処理の後の、および/または該当する場合は後処理の後の表面粗さは、10μm未満にまで低減される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
端面前処理により、および/または該当する場合は後処理により除去される材料量は、25.0μm未満である、請求項1から3までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
後処理は、化学的処理、機械的処理および/または高温処理を含む、請求項1から4までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
化学的処理は、酸性溶液でのエッチングを含む、請求項1又は5に記載の方法。
【請求項7】
酸性溶液は、以下のHF、H2SO4、HCl、NH4HF2の1種以上の水溶液を含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
酸性溶液中での水素イオンの濃度は、25mol/L未満である、請求項6または7に記載の方法。
【請求項9】
高温処理は、レーザー処理を含む、請求項5に記載の方法。
【請求項10】
機械的処理は、研磨処理を含む、請求項5に記載の方法。
【請求項11】
研磨処理は、数枚の超薄板ガラスシートの積層物を形成し、その超薄板ガラスシートの積層物の積み重ねた方向に対して側面側に研磨処理を適用することを含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
超薄板ガラスシートの厚み(t)は、0.1mmと等しいまたはそれ未満である、請求項1から11までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
超薄板ガラスシートが、20mmと等しいまたはそれ未満のコーナー半径(A)を有する丸い角を有する本質的に矩形の形で提供される、請求項1から12までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
超薄板ガラスシートに、少なくとも1つの穴が設けられる、請求項1から13までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
端面前処理を、丸い角に隣接する1つ以上の端面および/または該当する場合には少なくとも1つの穴に隣接する1つ以上の端面に適用する、請求項13または14に記載の方法。
【請求項16】
化学強化の間にイオン交換速度を遅く制御することで、
− 30μm未満のイオン交換層の深さDoL(L
DoL)、
− 100MPaから700MPaの間の表面圧縮応力CS(σ
CS)、および
− 120MPa未満の内部引張応力CT(σ
CT)
が達成され、ここで、該超薄板強化ガラス物品の厚みt、DoL、CSおよびCTは、関係
【数1】
を満たす、請求項1から15までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
化学強化は、350℃から700℃の間の塩浴中での15分間〜48時間にわたる遅いイオン交換を含む、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
超薄板ガラスシートは、それをガラスリボンから分離することによって提供され、ここで、
− 該ガラスリボンは、少なくとも10メートルの長
さを有し、
− 該ガラスリボンは、コイル状に巻き上げられてコイル材とされ、
− 前記コイル材の内径は、該コイル材の最内層にかかる引張応力σ
appが
【数2】
より小さくなるように選択され、
前記式中、
− L
refは、辺長であり、かつ
− A
refは、ガラスリボン試片の側面の表面積であり、
− σ ̄
aは、ガラスリボン試片の側面内で生ずる該試片の破断時の引張応力の中央値であり、かつ
− σ ̄
eは、ガラスリボン試片の端面から広がる該試片の破断時の引張応力の中央値であり、
− Δ
eおよびΔ
aは、それぞれ、該試片の端面でのまたは側面内での該試片の破断時の引張応力の標準偏差であり、
− A
appは、ガラスリボンの1つの側面の表面積であり、かつ
− L
appは、ガラスリボンの長辺の合計辺長であり、かつ
− Φは、少なくとも半年の時間間隔内で規定される破断の最大速度である、請求項1から17までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
コイル材の内径は、該コイル材の最内層にかかる引張応力σ
appが
【数3】
より小さくなるように選択される、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
0.1を下回る最大破断速度Φを選択するステップを更に含む、請求項18または19に記載の方法。
【請求項21】
コイル材の内径は、該コイル材の最内層にかかる引張応力σappが少なくとも22MPaであるように選択される、請求項18から20までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項22】
ガラスリボンの長手方向端面を、コイル材の形成前にエッチングするステップを更に含む、請求項18から21までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項23】
請求項1から22までのいずれか1項に記載の方法であって、
− 巻き付けられてガラスコイルとなったガラスリボンを準備するステップと、
− 該ガラスコイルから連続的に巻き出すステップと、
− 巻き出しながら、該ガラスコイルから巻き出された区間においてガラスリボンを化学強化するステップと、
− 化学強化されたガラスリボンを再びコイル状に巻くことで、ガラスコイルを得るステップと、
を含む、方法。
【請求項24】
カリウム塩水溶液をガラスシート上に吹き付けるステップ、該ガラスシートを予熱することで水溶液の水を蒸発させて、ガラス表面上にカリウム塩を残留させるステップ、引き続き該ガラスシートを強化炉を通して移動させるステップを含み、その炉が更に該ガラスを加熱することで、化学強化のためのイオン交換が促進される、請求項1から23までのいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超薄板化学強化ガラス物品の製造方法であって、第一の表面および第二の表面を有し、それらの表面が少なくとも1つの端面によって接続されている、第一の表面と第二の表面との間に厚みを有する超薄板ガラスシートを準備するステップ、ならびに前記超薄板ガラスシートを化学強化することで、超薄板化学強化ガラス物品を製造するステップを含む製造方法に関する。更に本発明は、超薄板化学強化ガラス物品および超薄板化学強化ガラス物品の製造方法で使用するための半完成品としての超薄板ガラスシートに関する。
【0002】
発明の背景
消費者向け電気機器の市場では、しばしば最終製品の体積と重さを最小限に保つために、ますます薄型のガラス物品が必要とされている。これ以降、用語「ガラス(複数を含む)」は、ガラスとガラスセラミックの両方を含む。
【0003】
薄板ガラスは、より厚いガラス、例えばホウケイ酸塩ガラスを所望の厚さまで研削することによって得ることができる。しかしながら、0.5mmを下回るシート厚さは、より厚いガラスシートの研削および研磨によっては実現が難しい。0.3mmより薄いガラス、それどころか0.1mmの薄さを有するガラス、例えばSCHOTT(登録商標)社から入手できるD263(登録商標)、MEMpax(登録商標)は、ダウンドロー法によって製造することができる。また0.1mmの厚みを有するソーダ石灰ガラスは、特別なフロート法によって製造することができる。より厚いガラスとは異なって、超薄板ガラスシートの取り扱いおよび加工は困難である。それというのも、厚みが減少するにつれ、ガラスの強度はますます低くなり、その結果、破断の確率が高まるからである。
【0004】
従って、電子機器において超薄板ガラス基板を利用するための主要な難題は、製造および加工の間の超薄板ガラスシートの取り扱いの難しさにある。薄板ガラスに関して、これらの難題を克服するために幾つかの方法が提案されている。米国特許第6,815,070号明細書(US6,815,070)は、ガラスシートの耐破断性を改善するために、薄板ガラスを有機薄膜またはポリマー薄膜でコーティングすることを提案している。しかしながら、この方法には欠点が存在する。それというのも、例えば強度の改善が不十分であり、かつコーティングされたガラスシートの割断に、特別な方法を採用する必要があるからである。それに加えて、そのポリマーコーティングは、耐熱性およびガラスの光学特性の点で欠点を有する。
【0005】
ガラスの強化のために良く知られた方法は、特にイオン交換を介してより大きなイオンを導入することによって表面圧縮応力を確立する、ガラスの化学強化である。例えば、米国特許出願公開第2010/0009154号明細書(US2010/0009154)は、表面層におけるイオン交換によって達成された外側圧縮応力領域深さが少なくとも50μmである、0.5mm以上の厚みを有する厚いガラスを記載している。その圧縮応力は、少なくとも200MPaである。内部引張応力(CT)および表面領域の圧縮応力を形成するステップは、ガラスの少なくとも一部分を複数のイオン交換浴中に逐次浸漬させるステップを含む。厚いガラスと同様に、薄板ガラスおよび超薄板ガラスも、化学的イオン交換を介して強化させられることが実証されている(例えば米国特許出願公開第2014/050911号明細書(US2014/050911)またはPCT/CN2013/072695)。
【0006】
しかしながら、より厚いガラスとは異なって、超薄板ガラスの化学強化の歩留まりは比較的不十分である。これは、ガラスの厚みが減るにつれて、化学強化の間にガラスシートの破断の確率が高まることが直接的な原因である。一方で、表面圧縮応力は、超薄板ガラスが、例えば外側から叩くまたは打つことによる機械的な衝撃に耐えることを補助することができる。他方で、超薄板ガラスにおける外表面圧縮応力は、自己破壊を引き起こすことがあり、または取り扱いもしくは化学強化の間にガラスを破断しやすくすることがある。強化の間に固定具とガラスシートの熱膨張率が異なることによる締付力の変化は、例えば破断を容易に引き起こしうる。ガラスシートが薄くなればなるほど、これらの問題はより一層深刻になる。
【0007】
同時に、例えば消費者向け電気機器の市場において、特にウエアラブルデバイス、例えばスマートフォンまたはタブレットに関して、日常の使用の間の機械的応力および機械的衝撃に耐えることができる非常に高い屈曲強さおよび耐久性を有するガラス物品を得ることが常に求められている。体積および重さの削減が望まれることを考慮して、例えば下にある構成部品を十分に保護するために必要とされる強度および柔軟性を有する超薄板ガラス物品が求められている。
【0008】
従って、本発明の課題は、上述の欠点を克服する超薄板強化ガラス物品およびそのようなガラス物品の製造方法を提供することである。特に、本発明の課題は、改善された耐用年数を有し、かつ簡単かつコスト効率良く製造できる超薄板強化ガラス物品およびそのようなガラス物品の製造方法を提供することである。
【0009】
従って、本発明のもう一つの課題は、特に化学強化の間に高い歩留まりを可能にする超薄板強化ガラス物品およびそのようなガラス物品の製造方法を提供することである。本発明の更なる課題は、特に機械的応力下に高い耐久性を有する超薄板強化ガラス物品およびそのようなガラス物品の製造方法を提供することである。
【0010】
発明の説明
本明細書においては、以下の用語および略語を採用する。
【0011】
− 用語「ガラス物品」は、ガラスおよび/またはガラスセラミックでできたあらゆる物体を含む、その最も広い意味で使用される。本明細書で使用される場合に、超薄板ガラスとは、特に記載がない限り、0.4mmと等しいかまたはそれを下回る厚みを有するガラスおよびガラス物品を指す。本発明に適したガラスは、イオン交換可能であるか、またはその他に当該技術分野で公知の手段によって化学強化することができる。ガラス組成は、例えばSCHOTT(登録商標)によってPCT/CN2013/072695に記載されるように、超薄板成形および超薄板ガラスを必要とする用途のために最適化される。
【0012】
− 圧縮応力(CS):ガラス中に変形が生じずにイオン交換の後にガラス網目のガラス表面近くでの追い出し効果により生ずる応力。CSは、光学的原理を基礎とする市販の応力測定装置FSM6000によって測定することができる。
【0013】
− イオン交換層の深さ(DoL):イオン交換が行われて圧縮応力が発生したガラス表面層の厚み。DoLは、光学的原理を基礎とする市販の応力測定装置FSM6000によって測定することができる。
【0014】
− 内部引張応力(CT):イオン交換の後にガラスの外表面の間に生ずる圧縮応力を相殺する、ガラスの内層に発生する引張応力。CTは、測定されたCSおよびDoLから計算することができる。
【0015】
− 平均表面粗さ(R
a):本明細書においては、平均表面粗さ、または簡単に表面粗さと呼ぶ。R
aは、サンプリング長さの範囲内での表面偏差の算術平均である。R
aは、例えば原子間力顕微鏡によって測定することができる。
【0016】
− 材料の強度(σ):材料が破断までに耐えうる最大応力。σは、3点曲げ試験または4点曲げ試験によって測定することができる。
【0017】
本発明の前記課題は、独立形式請求項に記載される、超薄板化学強化ガラス物品、超薄板化学強化ガラス物品の製造方法で半完成品として使用するための超薄板ガラスシート、および超薄板化学強化ガラス物品の製造方法によって解決される。
【0018】
前記超薄板化学強化ガラス物品の製造方法は、
− 第一の表面および第二の表面を有し、それらの表面が少なくとも1つの端面によって接続されている、第一の表面と第二の表面との間に厚みtを有する超薄板ガラスシートを準備するステップ、
− 前記超薄板ガラスシートを化学強化することで、強化された超薄板ガラス物品を製造するステップ
を含む。
【0019】
該方法は、化学強化の前に超薄板ガラスの少なくとも1つの端面に端面前処理を適用し、こうして端面欠陥を減らし、そして化学強化の間における超薄板ガラスシートの破断への耐久性を高めることを特徴とする。その前処理は、好ましくは超薄板ガラスシートの全ての端面に適用される。
【0020】
本発明は、0.4mmまたはそれを下回る厚みを有する超薄板ガラスの化学強化の間の比較的不十分な歩留まりが、ほとんどが強化処置の前またはその間のガラスシートの限られた機械的強度によるものであるという洞察を基礎としている。その限られた機械的強度は、ほとんどが端面にある欠陥によるものであり、その欠陥は、化学強化により誘発される外表面圧縮応力の影響で更に伝播することがある。前記強度は、
【数1】
によって記載され、ここでEは、ヤング率であり、かつξは、表面エネルギーであり、r
0は、内部欠陥サイズと解釈される。外部強度が臨界破壊強度σ
fよりも高いと、破局的破壊が起こる、すなわちガラスは割れる。ガラスの強化処理は、本来、物理強化と化学強化のどちらであってもよいが、その処理によって、ガラス上に表面圧縮応力を引き起こすことができ、それがガラスの強度増大を助ける。その時、強度は、
【数2】
となり、ここでξ
0は、付加的応力である。しかしながら、物理強化は、3.0mmより大きな厚みを有するガラスのために適しているにすぎない。化学強化は、イオン交換によって達成することができ、そのイオン交換は、ガラスの厚みにかかわらず、例えばアルカリ金属含有ガラスのために適しており、かつ2.0mmを下回る厚みを有するような薄板ガラスのために最も有効である。前記式は、内部欠陥サイズが同じとき、強化によって臨界破壊強度σ
fが大幅に高められることを示している。換言すると、内部欠陥は、ガラスの破断を引き起こすことなく、より大きくなりうる。本来、ガラスの強化は、臨界破壊強度および欠陥サイズの閾値を制限するために1つの外力を付け加えることを目的としている。化学強化の後に、ガラスの強度は大幅に高まり、強化前の10倍よりも高くなることがある。
【0021】
そのような欠陥は、通常、超薄板ガラスシートを、例えばより大きなガラスシートまたはガラスリボンから、例えばPenettダイアモンド製スクライビングホイールによってスクライブまたは割断することにより発生し、スクライブを行うためには、高浸透多結晶ダイアモンド製スクライビングホイール、無歯式ダイアモンド製スクライビングホイールおよびダイアモンド製の刃先が使用される。歯の数、歯の深さ、およびホイールの角度のようなパラメーターは、超薄板ガラスの種類および厚みに関して調整する必要がある。
【0022】
強化の間に、超薄板ガラスシートは、強化処理用ホルダーが通常届く場所で保持する必要がある。強化処理用ホルダーと超薄板ガラスシートとの間の締付力は、サンプルホルダーと該シートの熱膨張率が異なる結果として増大することがある。結果として、切りっぱなしの超薄板ガラスシートの端面のクラックおよびチッピングは、強化の間に伝播して、該シートの破断を引き起こすことがある。従って、端面前処理、例えば本発明による端面研磨または酸によるエッチングは、超薄板ガラスの割断端面におけるクラックまたはチッピングを減らすために使用される。またガラスの強度は、欠陥のサイズ以外に、その形状にも関連している。応力は欠陥の最小曲率の点に集中する。曲率が小さいほど、応力は高くなる。従って、その前処理は、一方で欠陥のサイズを減少させ、他方で欠陥を滑らかにするかまたは丸めることで、鋭縁部を取り除く処理を含むことが好ましい。端面前処理は、有利には、表面が本質的に未処理のままの超薄板ガラスシートの少なくとも1つの端面にのみ適用することができる。1つ以上の端面にのみ前処理を適用することによって、特に強化の歩留まりを大幅に高めることができることが判明した。それによって、該前処理は、1つ以上の端面に直接的に境をなす表面上の限られた領域にまで拡張することができ、こうして該前処理は、1つ以上の端面を全てカバーできるが、それらの表面自体は、本質的に未処理のままとなる。
【0023】
本発明による端面前処理は、超薄板ガラスシートの強化の歩留まりを、シートの形、ガラスの種類および適用される前処理の方法に応じて、通常せいぜい85%のところから、95%またはそれより高い値にまで高められることを示している。驚くべきことに、穴および丸い角を有する超薄板ガラスシートに関して、強化の歩留まりは、通常たった約15%のところ、そこから75%を上回るまで高められる。従って一般的に、化学強化の間の歩留まりは、有利には、75%より高く、好ましくは80%より高く、より好ましくは85%より高く、更により好ましくは90%より高く、最も好ましくは95%より高い。
【0024】
有利には、前記方法は、化学強化の後に強化された超薄板ガラス物品の少なくとも1つの端面に、好ましくは全ての端面に少なくとも適用することで、端面欠陥を更に減らし、そして強化された超薄板ガラス物品を強化する後処理をも含む。
【0025】
化学強化の間に、ガラスシートの前処理された端面に新たなキズおよび欠陥が生じうることが判明した。そのようなキズは、超薄板強化ガラス物品の強度を低下させる。強化の後に後処理を適用することによって、新たなキズだけでなく、潜在的に残っている以前のクラックまたはチッピングも滑らかにできるか、または丸めることができ、および/またはサイズを小さくすることができる。そうすることで、超薄板強化ガラス物品は、強度の大幅な増大を獲得する。従って、その後処理は、有利には、強化ガラス物品の表面または表面領域に適用することもできる。それというのも、強化の間/その後に、ナノスケールのキズが該超薄板ガラスの表面に生じることがあるからである。必要とあらば、強化ガラス物品の表面領域にのみ後処理を適用して、強化ガラス物品の端面には後処理を適用しないことも可能である。しかしながら、この場合に、強度の改善はむしろ制限される。
【0026】
後処理が表面領域に適用されるのであれば、材料の除去される量は、慎重に考慮せねばならない。それというのも、強化された超薄板ガラスは、ある一定の深さの表面圧縮応力層およびイオン交換層を有するからである。除去される量が多すぎると、圧縮応力はかなり大幅に低下し、こうして強度は低下することとなる。一般的に、DoLの約10%の除去が、強化された超薄板ガラスにとって最適な量であることが分かっている。しかしながら、ガラス物品の特定の要求に応じて、この値からずれることが好ましいこともある。
【0027】
超薄板化学強化ガラス物品の追加の後処理は、完成したガラス物品の強度を、驚くべきほど大きな倍率で大幅に高めうることが判明した。以下の表は、本明細書に記載される端面(前)処理されて強化されて(後)処理された(ETE)ガラス物品の強度が、後処理を行っていない同じ形および寸法を有するガラスと比較して高まることを概略的に示している。
【0028】
【表1】
【0029】
それにより強度の増加は、ガラスの種類に依存する。従って、前記後処理を含む本発明による方法は、そのままの未処理の超薄板ガラスシートと比較して3倍から8倍までの大きさの化学強化ガラス物品の強度をもたらす。
【0030】
好ましくは、端面前処理の間の、および/または該当する場合は後処理の間の平均表面粗さは、処理された領域において、10μm未満、好ましくは5μm未満、より好ましくは2μm未満、更により好ましくは1μm未満、最も好ましくは0.5μm未満にまで低減される。
【0031】
端面前処理により、および/または該当する場合は後処理により除去される材料量は、それにより、25.0μm未満、好ましくは10.0μm未満、より好ましくは4.0μm未満、更により好ましくは1μm未満、最も好ましくは0.5μm未満であってよい。先に示したように、除去される量は、特に後処理が圧縮応力層およびイオン交換層を有する表面または表面領域にも適用される場合には慎重に考慮せねばならない。
【0032】
超薄板ガラスのための端面前処理は、化学的処理、特に超薄板ガラスシートまたは物品の酸性溶液によるエッチングが最も好ましいことが判明した。化学的エッチング法は、必要な装置が単純であるため、実施するのが安く簡単である。更に、エッチング領域は、エッチングを受ける必要がないこれらの領域を酸から保護することによって簡単に制御することができる。超薄板ガラスシートの化学強化の前の端面前処理のために、エッチングされる必要がある端面および超薄板ガラスシートの内部領域だけは、該シートの特性の何らかの変化を避けるために保護することができる。後処理の間に、ガラス物品の端面および/または1つ以上の表面または表面領域をエッチングすることができる。
【0033】
エッチングのもう一つの利点は、切りっぱなしの超薄板ガラスの鋭いキズが丸められることである。従って、その応力はかなり低下することとなり、それは、超薄板ガラス、特に穴または丸い角を有するガラス(以下も参照)に関して強化の歩留まりに有益である。キズのサイズおよびキズの曲率に関連した応力を考慮すると、エッチングは、キズのサイズをそれを丸めることによってある程度は大きくするので、ある一定のバランスが存在する。
【0034】
エッチング処理は、種々の組成を有する様々な種類のガラスの強度を高める明らかな効果を有する。従って、所定の酸とガラスとの間の反応により、例えば種々の塩が生じうる。該塩の溶解度は、エッチングされるガラスの表面品質または表面化学に影響を及ぼす。従って、様々な種類のガラスに関する強度の改善は、所定のエッチング設定に異なる依存性を有しうる。従って、事前エッチング過程を種々のイオン交換可能なガラスに適用するには、エッチング溶液およびエッチングパラメーターを調整/最適化することが必要となることがある。
【0035】
好ましくは、前記酸性溶液は、以下のHF、H
2SO
4、HCl、NH
4HF
2の1種以上の水溶液を含む。これらの酸性溶液を、更なるpH<7の溶液と合してよい。該酸性溶液中での水素イオンの濃度は、25mol/L未満、好ましくは5mol/L未満、より好ましくは1mol/L未満、最も好ましくは0.1mol/L未満であってよい。これらのエッチング条件は、更に以下で述べられるガラス組成物では特に有利であることが分かった。これらのエッチング条件を他の種類のガラスにも適用できること、または他のエッチング条件も、特定の要求に応じて好ましいことがあることは、直ちに明確になる。
【0036】
特定の環境に応じて、高温処理を含む端面前処理が好ましいことがあり、特にレーザー処理を含む高温処理が好ましいことがある。連続発信(CW)レーザー、例えばCO
2レーザーおよび一般的な緑色光レーザーによる慣用のレーザー割断は、レーザーによる急速加熱に引き続き素早く急冷することで、ガラスを割って分離することで達成される。高エネルギーレーザーでの直接レーザー蒸発も可能である。しかしながら、それらの方法は両方とも、通常は、望ましくないマイクロクラックおよび粗面仕上げをもたらす。しかしながら、慣例でないレーザー割断が好ましく、それは、ナノ秒以下の時間、すなわちピコ秒、フェムト秒またはそれどころかアト秒の時間の超短レーザーパルスのフィラメントを基礎とするものである。そのようなレーザーは、脆い材料を、パルス化レーザーのフィラメンテーションまたは自己収束によって誘発されるプラズマ解離によって割断することができる。慣例でないレーザー割断法は、表面粗さの低い高品質の割断端面をもたらし、従って、例えば端面前処理のために使用することができる。この場合に、端面前処理は、例えばガラスシートまたはコイル状に巻かれたガラスリボンから超薄板ガラス物品を割断するまさにその間に達成することができる。
【0037】
選択的に、端面前処理は、特に研磨処理を含む機械的処理を含んでよい。その研磨は、化学強化の前に超薄板ガラスシートの端面に適用される。端面の研磨は、単一枚の超薄板ガラスでは達成困難であるので、その端面処理は、例えば数枚の超薄板ガラスシートを表面を接して積み重ねることによって行うことができる。従って、該方法は、好ましくは数枚の超薄板ガラスシートの積層物を形成し、その超薄板ガラスシートの積層物の積み重ねた方向に対して側面側に研磨処理を適用することを含む。
【0038】
好ましくは、研磨後の平均表面粗さは、5μm未満、好ましくは2μm未満、より好ましくは1μm未満、更により好ましくは0.5μm未満、最も好ましくは0.2μm未満である。
【0039】
本発明による方法は、超薄板ガラスまたはガラス物品のために特に有利である。従って、超薄板ガラスシート、ひいては超薄板強化ガラス物品は、0.4mmと等しいもしくはそれ未満の、または好ましくは0.3mmと等しいもしくはそれ未満の厚みを有してよい。該方法は、0.2mmと等しいもしくはそれ未満の、またはそれどころか0.1mmと等しいもしくはそれ未満の厚みに関して特に有用であることが分かった。該方法は、0.01mmの薄さまたはそれどころかそれより薄くても有利に適用された。
【0040】
本発明による方法によって製造された超薄板強化ガラス物品は、保護フィルムとしての用途において、例えば携帯電話、タブレットコンピュータ、ラップトップ、抵抗膜式スクリーン、TV、鏡、窓、航空機窓、家具および白物家電のために特に有用である。前記超薄板強化ガラス物品は、特にタッチパネル、有機発光ダイオード(OLED)、有機光起電装置(OPV)および指紋センサとしても有用である。従って、本発明の方法は、該超薄板ガラスシートが、本質的に矩形の形で、好ましくは20mmと等しいまたはそれ未満、好ましくは10mmと等しいまたはそれ未満、より好ましくは8mmと等しいまたはそれ未満、最も好ましくは6mmと等しいまたはそれ未満のコーナー半径を有する丸い角を有する矩形の形で提供される場合に特に好ましい。そのような形は、しばしば上述の用途で使用される。特定の用途が必要であれば、超薄板ガラスシートを、例えば丸形または楕円形のような他の形で提供できることも自明である。
【0041】
超薄板ガラス、特にスマートフォンおよびタブレットのために設計された超薄板ガラスは、しばしばカメラ穴またはスピーカ用の開口部を必要とし、それらは丸い角またはその同等物を必要とする。そのような人為的な穴および角は、超薄板ガラスの強化に顕著な影響を及ぼす。それらの人為的な穴および角は、より多くのキズまたはチッピングを発生するので、表面圧縮応力は、未処理の超薄板ガラスと比較して大幅に変更される。従って、必要以上のキズを含む変更された圧縮応力は、強化の間に超薄板ガラスの破断を引き起こすことがある。先に既に示したように、穴および丸い角を有する超薄板ガラスのための強化の歩留まりは、本発明による端面前処理によって顕著に高められることが判明した。従って、該方法は、有利には超薄板ガラスシートに少なくとも1つの穴を設けることを含む。前記穴は、超薄板ガラスシートの第一の表面および第二の表面を貫通していると理解され、通常は、ガラス物品の端面からある間隔を有する。それによって前記穴は、円形、矩形または本質的に矩形であってよく、かつ正方形または本質的に正方形であってよく、またはその他のより不規則な形を有してもよい。円形の穴は、一般的には、20mm、15mm、12mm、10mm、8mmまたは5mmの半径を有する。該穴が、特定の用途に応じて、その他の半径、例えば前記値より大きいまたはより小さい半径を有することもできることは自明である。前記の「本質的に矩形の」または「本質的に正方形の」とは、特に丸い角を有する矩形もしくは正方形の穴、または純然たる矩形もしくは正方形とのそれ以外の僅かなずれを有する矩形もしくは正方形の穴を指す。角の半径は、一般に4mm、3mm、2mm、1mm、0.5mmの値を有する。特定の用途に応じて、本質的に矩形の穴、本質的に正方形の穴、またはその他の本質的に多角形の穴の丸い角が、他の半径を有することは自明であってよい。
【0042】
相応の組成を有する以下のガラスが好ましく、それらのガラスは、本発明による方法で処理した場合に、高い強化の歩留まりを示しただけでなく、後処理を適用すると強度の著しい増大を示した。
【0043】
しかしながら、本発明は、他の組成のためにも適しており、かつ多くのその他のガラスおよびガラスセラミックのために有利であることが分かった。
【0044】
本発明による方法で使用される好ましい一つのガラスは、以下の組成(質量%)を有するリチウムアルミノケイ酸塩ガラスである。
【0045】
【表2】
【0046】
本発明による方法で使用される好ましいもう一つのガラスは、以下の組成(質量%)を有するソーダ石灰ガラスである。
【0047】
【表3】
【0048】
本発明による方法で使用される好ましいもう一つのガラスは、以下の組成(質量%)を有するホウケイ酸塩ガラスである。
【0049】
【表4】
【0050】
本発明による方法で使用される好ましいもう一つのガラスは、以下の組成(質量%)を有するアルカリ金属アルミノケイ酸塩ガラスである。
【0051】
【表5】
【0052】
本発明による方法で使用される好ましいもう一つのガラスは、以下の組成(質量%)を有する低アルカリ金属アルミノケイ酸塩ガラスである。
【0053】
【表6】
【0054】
本発明で使用されるガラス、特に上述のガラスは、変性されていてもよい。例えば、ガラスの色は、遷移金属イオン、希土類イオン、例えばNd
2O
3、Fe
2O
3、CoO、NiO、V
2O
5、MnO
2、TiO
2、CuO、CeO
2、Cr
2O
3および0質量%〜2質量%のAs
2O
3、Sb
2O
3、SnO
2、SO
3、Cl、Fおよび/またはCeO
2をガラス組成物中に添加することによって変更することができる。そのような色の変更は、消費者向け電子機器のデザイン、例えば背面を隠すための必要色を豊かにするか、または超薄板ガラス物品のために追加の機能を、例えばカラーフィルタとしての機能を与えることができる。更に、発光性イオン、例えば遷移金属イオンおよび希土類イオンを、光学的機能を与えるために、例えば光増幅体、LED、チップ型レーザー等のために添加することができる。特に、0質量%〜5質量%の希土類酸化物を、磁気的機能、光子機能または光学的機能を導入するために添加することができる。
【0055】
ガラス物品には、ガラス物品のイオン交換をAg
+含有塩浴またはCu
2+含有塩浴中で適用することによって、抗微生物機能を与えることもできる。イオン交換後に、Ag
+またはCu
2+の濃度は、1ppmより高く、好ましくは100ppmより高く、より好ましくは1000ppmより高い。抗微生物機能を有する超薄板ガラスは、病院で使用されるコンピュータまたはスクリーンのような医療機器および抗微生物機能を有する消費者向け電子機器のために利用できるかもしれない。
【0056】
そのようなガラスの更なる好ましい別形は、PCT/CN2013/072695に見られ、その参照により本明細書に援用される。
【0057】
そのようなガラスまたは他のガラスからできた超薄板ガラス物品の強化処理は、有利には、化学強化の間にイオン交換速度を遅く制御することによって達成され、こうして30μm未満のイオン交換層の深さDoL(L
DoL)、100MPaから700MPaの間の表面圧縮応力CS(σ
CS)、および120MPa未満の内部引張応力CT(σ
CT)が実現され、ここで、該強化された超薄板ガラス物品の厚みt、DoL、CSおよびCTは、関係
【数3】
を満たしている。
【0058】
好ましくは、該化学強化は、350℃から700℃の間の塩浴中での15分間〜48時間にわたる緩慢なイオン交換を含む。
【0059】
本発明による方法で超薄板ガラスシートを準備するためには、超薄板ガラス物品は、例えばより大きな超薄板ガラスシートから割断されうる。好ましくは、超薄板ガラスシートは、ガラスリボンから割断される。このガラスリボンは、加熱されたガラスプリフォームのリドロー成形により、または溶融物から引き出すことによって製造することができる。溶融物からリボンを引き出すために使用可能な方法は、ダウンドロー法またはオーバーフローフュージョン法である。
【0060】
該ガラスリボンは、幾らかの時間にわたり貯蔵することができ、または本発明によるガラス物品のためにガラスシートを割断する前に別の設備に移送することもできる。上述のドロー法は、長尺のリボンを製造する場合には特に有効である。しかしながら、破断の確率は、ガラス物品のサイズに伴って一般的に高まる。これは、機械的応力がガラス物品に作用される場合に特に決定的である。他方で、所要貯蔵空間を減らし、貯蔵および輸送の間のリボンの取り扱いを簡単にするために、リボンをコイル状に巻くことが有用である。リボンはコイル材内で曲がるので、ガラスには機械的応力がかかる。
【0061】
更に、リボンがコイル状に巻かれる過程に耐えても、応力腐食割れのため、より後の時点で貯蔵または輸送の間に破断が生ずることもある。しかしながら、単独のクラックでさえも、後続の加工に問題を引き起こすこととなる。それというのも、コイル材からの巻き出しを、そのクラックのところで中断する必要があるからである。しばしば、1つのクラックが、事実上ガラスリボン全体を役に立たないものにすることがある。
【0062】
このように、本発明の更なる課題は、超薄板ガラスの化学強化のための全体の歩留まりを、超薄板ガラスシートの端面前処理と化学強化の前の加工ステップの歩留まりを最適化することによって更に改善することである。
【0063】
これらの加工ステップは、一般的に、ガラスリボンを準備するステップと、そのガラスリボンをコイル状に巻くことでコイル材とするステップとを含む。コイル状に巻いた後に、ガラスリボンはコイル材から巻き出され、割断されることで、ガラスシートが得られる。これらのガラスシートは、本発明によればエッチングおよび化学強化によって更に加工される。中間生成物としてのコイル材は、割断ステップの前のクラックを避けるために特定の様式で巻き付けられる。特に、該コイル材の曲げ半径は、リボンの長さに依存して選択される。これは、例えば応力腐食割れによるガラスリボンの遅延破壊の確率は、長さに伴って、特にその辺長に伴って高まることが分かっているからである。
【0064】
具体的には、本発明の一実施形態によれば、該方法は、
− 少なくとも10メートルの長さを有する、好ましくは10メートルから1000メートルまでの範囲の長さを有するガラスリボンを準備するステップ、
− 該ガラスリボンをコイル状に巻き上げることでコイル材を形成するステップ
を含み、ここで、前記コイル材のコア半径または内径は、最内層にかかる引張応力が
【数4】
より小さくなるように選択され、
前記式中、
L
refは、辺長であり、かつ
A
refは、ガラスリボン試片の側面の表面積であり、
σ ̄
aは、ガラスリボン試片の側面内で生ずる該試片の破断時の引張応力の中央値であり、かつ
σ ̄
eは、ガラスリボン試片の端面から広がる該試片の破断時の引張応力の中央値であり、
Δ
eおよびΔ
aは、それぞれ、該試片の端面でのまたは側面内での該試片の破断時の引張応力の標準偏差(すなわち、中央値σ ̄
e、σ ̄
aの標準偏差)であり、
A
appは、ガラスリボンの1つの側面の表面積であり、かつ
L
appは、ガラスリボンの長辺の合計辺長であり、かつ
Φは、少なくとも半年の時間間隔内で規定される破断の最大速度である。
【0065】
前記のコア径を有するガラスリボンは、コイル状に巻いた後に貯蔵され、引き続きコイル材から巻き出され、複数のガラスシートへと割断される。次いで該ガラスシートは、本明細書で更に記載されるように、端面前処理、化学強化、および場合に応じて後処理によって更に加工される。
【0066】
好ましくは、規定される破断の最大速度Φは、0.1またはそれ未満である。その破断の最大速度が更に0.05未満であることが特に好ましい。
【0067】
しかしながら、コイル材の取り扱いを容易にし、該コイル材の省スペースの寸法を得るためには、該ガラスリボンの最内層には少なくとも22MPaの引張応力が作用されることが更に好ましい。こうすることで、該コイル材の内径および全寸法は縮小される。
【0068】
最大引張応力σ
appおよびコイル材のコアでの曲げ半径の確実な値を取得するためには、試片の端面が、ガラスリボンの端面と同じ品質および特性を有することが重要である。特に、これは、試片をリボンの端面から、該試片の1つの端面が該リボンの端面区間であるように割断することによって達成される。値σ ̄
eおよびΔ
eを得るために、ガラスリボンの当初の端面区間ではない別の端面から広がる破断は無視される。
【0069】
もちろん、全てのガラスリボンを試験する必要はない。一般に、1つのガラスリボンを使用して、試片を割断し、パラメーターσ ̄
e、Δ
e、σ ̄
a、Δ
aを測定し、次いで先に示した関係(1)によって定義される値を下回る引張応力しか引き起こさないコア径で1つ以上の更なるガラスリボンを巻き上げることができる。
【0070】
適切な破断試験は、2点曲げ試験である。この試験は、2つのフランジの間に試片を固定することによって行われる。それらのフランジは、試片がより一層曲がって、最後には破断するような向きに互いに移動する。破断時の引張応力は、試片の曲げ半径から決定でき、または該フランジの距離から間接的に決定できる。
【0071】
最小コア径または内径を関係(1)から決定するためには、以下の関係式:
【数5】
を用いることができる。
【0072】
この等式においては、Eは、ガラスのヤング率を示し、νは、ポアソン比を示し、かつRは、コイル材の内径を示す。
【0073】
しばしば、より一層長期の貯蔵が検討されることがある。より長期にわたる、例えば10年にわたる破断の速度が低くなることを保証するために、コイル材の最内層での引張応力が
【数6】
を下回ることが好ましい。
【0074】
一例として、100mの長さ、0.2mの幅、および50μmの厚みを有するガラスリボンは、中間貯蔵のために巻き付けられてコイル材とされ、引き続き該リボンからガラスシートを割断することによって加工され、該ガラスシートは端面前処理および化学強化によって加工される。ガラスのヤング率はE=74.8GPaであり、かつポアソン比は、ν=0.238である。破断の最大速度は、1%を超過しないものとする。すなわちΦ=0.01である。
【0075】
一例として、内径は、関係(3)に従って選択される。破断試験は、表面積A
Ref=121mm
2を有する試片で実施した。この例で使用される2点曲げ試験に関連する辺長は、L
Ref=2mmである。その破断試験により、表面強度に関するパラメーターとしてσ ̄
a=421MPa(中央値)およびΔ
a=35MPa(標準偏差)が得られ、端面強度に関するパラメーターとしてσ ̄
e=171MPa(中央値)およびΔ
e=16.9MPa(標準偏差)が得られた。
【0076】
A
app=0.2m×100m=20m
2およびL
app=2×200m=200mを関係(3)において使用することで、
【数7】
が得られる。
【0077】
それに応じて、端面の強度(等式4)は、表面強度(等式5)よりも低く、従って端面の強度が、ガラスコイルの寿命を決定づけるものである。
【0078】
関係(3)に従って、最大引張応力は、
【数8】
である。
【0079】
【数9】
およびt=0.05mmを等式(2)に代入することで、コイル材の内側の最小半径が得られる。
【0080】
【数10】
【0081】
従って、コイル内径は、少なくとも2×39mm=78mmであるべきである。この条件を満たすために、例えば前記リボンを巻き付けることで、80mmの内径を有するコイル材とすることができる。またこの直径は、22MPaを超過する引張応力をもたらすため、小型のコイルサイズと長期破断の低い確率が達成される。
【0082】
その例から明らかなように、端面強度は、化学強化の歩留まりに影響を及ぼすだけでなく、ガラスリボンのような大きな寸法のガラスシートが基礎材料として使用される場合に全体の歩留まりにも影響を及ぼす。このように、出発材料としてガラスリボンを用いる方法全体の全歩留まりは、リボンの端面が処理されることで更に改善することができる。本発明の更なる改善点によれば、従って、リボンの端面をエッチングすることで、表面品質が改善され、ひいてはリボンの長期安定性が改善されると予想される。具体的には、本発明による方法は、ガラスリボンの長手方向端面を、好ましくはコイル材形成のために該ガラスリボンをコイル状に巻き上げる前にエッチングするステップを更に含んでよい。
【0083】
また本発明は、本明細書に記載される方法で半完成品として使用するための、第一の表面および第二の表面を有し、それらの表面が少なくとも1つの端面によって接続されている、第一の表面と第二の表面との間に厚み(t)を有する超薄板ガラスシートであって、少なくとも1つの端面で、好ましくは全ての端面で端面欠陥が減少され、および/または丸められ、こうして該超薄板ガラスシートの後続の化学強化の間での破断への耐久性が高められた超薄板ガラスシートを提供する。そのような半完成品は、本明細書に記載されるように化学強化処理にかける準備ができており、こうして先に記載されるように高い歩留まりが保証される。少なくとも1つの端面の平均表面粗さは、有利には、10μm未満、好ましくは5μm未満、より好ましくは2μm未満、更により好ましくは1μm未満、最も好ましくは0.5μm未満である。半完成品の厚み(t)は、好ましくは、0.4mmと等しいまたはそれ未満であり、有利には0.3mmと等しいまたはそれ未満であり、より好ましくは0.2mmと等しいまたはそれ未満であり、最も好ましくは0.1mmと等しいまたはそれ未満である。半完成品の更なる特徴および利点は、本明細書における本発明による方法の説明から判断することができる。
【0084】
また本発明は、第一の表面および第二の表面を有し、それらの表面が少なくとも1つの端面によって接続されている、第一の表面と第二の表面との間に厚み(t)を有する超薄板化学強化ガラス物品、好ましくは本明細書に記載される方法によって製造された超薄板化学強化ガラス物品であって、少なくとも1つの端面で、好ましくは全ての端面でガラス欠陥が減少され、および/または丸められた超薄板化学強化ガラス物品を提供する。該ガラス物品の厚み(t)は、好ましくは、0.4mmと等しいまたはそれ未満であり、有利には0.3mmと等しいまたはそれ未満であり、より好ましくは0.2mmと等しいまたはそれ未満であり、最も好ましくは0.1mmと等しいまたはそれ未満である。それによって、超薄板化学強化ガラス物品の1つ以上の端面の平均表面粗さは、有利には、10μm未満、好ましくは5μm未満、より好ましくは2μm未満、更により好ましくは1μm未満、最も好ましくは0.5μm未満である。
【0085】
好ましくは、超薄板化学強化ガラス物品の、有利には本明細書に記載される後処理を適用することによって製造される超薄板化学強化ガラス物品のガラス欠陥は、少なくとも1つの表面の少なくとも1つの領域において減少され、および/または丸められており、こうして、好ましくは、少なくとも1つの領域における平均表面粗さは、10μm未満、好ましくは5μm未満、より好ましくは2μm未満、更により好ましくは1μm未満、最も好ましくは0.5μm未満である。好ましい一実施形態においては、欠陥が減少された、および/または丸められた欠陥を有する端面および/または表面領域は、酸性溶液、特にHF、H
2SO
4、HCl、NH
4HF
2の水溶液の1種以上でエッチングされる。もう一つの好ましい実施形態においては、超薄板化学強化ガラス物品は、本質的に矩形の形を有し、好ましくは20mmと等しいまたはそれ未満の、好ましくは10mmと等しいまたはそれ未満の、より好ましくは8mmと等しいまたはそれ未満の、最も好ましくは6mmと等しいまたはそれ未満のコーナー半径(A)を有する丸い角を有する矩形の形を有し、好ましくは少なくとも1つの穴、好ましくは円形または丸い角を有する本質的に矩形の形の穴を有する。有利には、丸い角に隣接する1つ以上の端面および/または該当する場合は少なくとも1つの穴に隣接する1つ以上の端面は、前記少なくとも1つの端面と同様に、欠陥が減少され、および/または丸められている。
【0086】
更なる好ましい一実施形態においては、超薄板化学強化ガラス物品は、イオン交換層により表面圧縮応力層を有し、ここで、イオン交換層の深さDoL(L
DoL)は、30μm未満であり、表面圧縮応力CS(σ
CS)は、100MPaから700MPaの間であり、かつ内部引張応力CT(σ
CT)は、120MPa未満であり、ここで、該強化された超薄板ガラス物品の厚みt、DoL、CSおよびCTは、関係
【数11】
を満たしている。
【0087】
本発明による超薄板化学強化ガラス物品は、150mmまたはそれ未満の、好ましくは100mmまたはそれ未満の、より好ましくは50mmまたはそれ未満の、更により好ましくは30mmまたはそれ未満の、最も好ましくは15mmまたはそれ未満の曲げ半径を有してよい。超薄板化学強化ガラス物品は、200MPaまたはそれより大きい、好ましくは500MPaまたはそれより大きい、より好ましくは1000MPaまたはそれより大きい、最も好ましくは1500MPaまたはそれより大きい曲げ強度を有しうる。曲げ強度は、それにより3点曲げ試験によって測定される。
【0088】
本発明の一実施形態によれば、化学強化は、ロール・ツー・ロール法で実施してよい。具体的には、該方法は、
− 巻き付けられてガラスコイルとなったガラスリボンを準備するステップと、
− 該ガラスコイルから連続的に巻き出すステップと、
− 巻き出しながら、該ガラスコイルから巻き出された区間においてガラスリボンを化学強化するステップと、
− 化学強化されたガラスリボンを再びコイル状に巻くことで、ガラスコイルを得るステップと、
を含んでよい。
【0089】
従って、該方法は、ガラスリボンの連続的な処理を含む。ガラスコイルの間の中間区間において、本発明による端面処理を化学強化に加えて実施してよい。こうすることで、化学強化と端面処理が、単独のロール・ツー・ロール法の間に行われる。
【0090】
超薄板ガラスの直結式のロール・ツー・ロール強化を実現するために、幾つかのパラメーター、例えば予熱温度および温度勾配分布、強化温度および強化時間、ガラスリボンの供給速度、後加熱温度および温度勾配分布を検討することが有用である。本発明の改善点によれば、該ガラスリボンは、強化炉に直接入れるのであれば突然の熱衝撃下での破断を避けるために、まず最初に予熱温度区間に入れる。予熱炉は、室温から強化温度までの勾配温度分布が得られるように設計することができる。ガラスリボンは、温度が好ましくは室温から150℃までで設定されている冷却器側から入れる。予熱炉の出力側は、強化炉に近接しており、その出力側の温度は、強化温度付近(350℃〜550℃)である。強化時間も必要とされるCSおよびDoLに依存するので、該ガラスリボンの炉内への供給速度は、塩浴中に浸漬しているリボン区分の長さを強化時間で割ることによって計算することができる。強化された超薄板ガラスを冷却するための後加熱炉を設けてもよい。この炉は、前記予熱炉と同様の設計であってよい。
【0091】
一実施形態によれば、ガラスリボンはカリウムイオンを含有する溶融塩浴に浸漬され、該浴を通じて移動されることで、化学強化が行われる。
【0092】
更なる一実施形態によれば、該化学強化は、カリウム塩水溶液をガラスシート、特にガラスリボン上に吹き付けるステップ、該ガラスシートを加熱することで水溶液の水を蒸発させて、ガラス表面上にカリウム塩を残留させるステップ、引き続き該ガラスシートを強化炉を通して移動させるステップを含み、その炉が更に該ガラスを加熱することで、化学強化のためのイオン交換が促進される。水の蒸発のための加熱は、後続の化学強化のための温度までもガラスを加熱する予熱炉中で達成することができる。その水溶液のために適切なカリウム含有塩は、特にKNO
3、K
3PO
4、KCl、KOH、K
2CO
3である。
【0093】
予熱炉は、好ましくは温度勾配を有する。該炉内への超薄板ガラスの供給速度は、強化路の長さを強化時間で割ることによって計算することができる。再び、強化ガラスリボンの制御された冷却のための後加熱処理を行ってよい。
【0094】
水溶液を乾燥させて、カリウム含有塩の被膜をガラス表面上に生ずることを伴う化学強化のこの実施形態は、ロール・ツー・ロールに制限されない。このように、その化学強化は、熱間成形後に、例えばダウンドロー成形ステップまたはリドロー成形ステップに引き続きガラスリボンに適用することができる。
【0095】
考えられる改善点によれば、予熱および冷却は、同じ炉内で行うことができる。こうするためには、例えばガラスリボンを、移動方向が反転するようにループにおいて案内することができる。こうすることで、化学強化ガラスとリボンのまだ加熱および強化されるべき区分は、炉内で反対方向に移動する。
【0096】
超薄板化学強化ガラス物品の更なる特徴および利点は、本明細書における本発明による方法の説明から判断することができる。
【0097】
本発明を図説するために使用される図面は、以下を示している。
【図面の簡単な説明】
【0098】
【
図2】強化された0.1mmガラスシートにおいて締付力により引き起こされたクラック。
【
図3】切りっぱなしのガラスシートの端面の概略的切断図(a)および化学強化前にエッチングされたガラスシートの概略的切断図(b)。
【
図4】実施例1〜4でガラス試片として使用される本発明による超薄板ガラス物品の形および寸法。
【
図5】XensationCover(登録商標)および実施例2によるガラス試片の2つの異なる種類のガラスを4種類の異なる様式で処理した場合の強度の比較。
【
図6a】XensationCover(登録商標)のガラス型の3点曲げ強度についての累積確率。
【
図6b】実施例2によるガラス試片のガラス型の3点曲げ強度についての累積確率。
【
図7】コイル状に巻き上げることでコイル材を形成したガラスリボンの概略図。
【
図8】ロール・ツー・ロール法の一実施形態の概略図。
【
図9】ガラスリボンの連続的製造のための装置の概略図。
【
図10】化学強化前にガラスリボン上にカリウム塩水溶液を析出させる一実施形態。
【
図11】単一の炉内でガラスリボンを加熱した後に化学強化し、そして化学強化した後に冷却する一実施形態。
【0099】
図面の詳細な説明
図1は、切りっぱなしの、すなわち割断後に端面(2)に更なる処理をしていない超薄板ガラスシート(1)の端面品質の画像を示している。その端面は、ガラスの割断の直接の結果としての、例えばダイアモンド製ホイールまたはダイアモンド製の刃先によりスクライブし割った後の多くの鋭いクラック(3)およびチッピング(4)を明らかに示している。
【0100】
図2は、幾つかのガラスシート(6.1)〜(6.5)が中に保持されている強化用ホルダー(5)を示している。強化の間に、ガラスシート(6.1)〜(6.5)は、強化用ホルダー(5)に垂直に配置される。垂直配置されたガラスシート(6.1)〜(6.5)の2つの切断縁部は、2つのジグザグ型鋼棒(7)によって固定されている。サンプルホルダー(5)上にある超薄板ガラスを一般的に400℃を上回る溶融塩浴中に入れた後に、鋼棒(7)とガラスシート(6.1)〜(6.5)の熱膨張率が異なることにより、締付力が引き起こされる。その締付力のもと、前記クラックおよびチッピングが伝播し、それが、
図2の幾つかのガラスシート(6.2)および(6.4)に見ることができるように、強化の間に超薄板ガラスの破断(8)を引き起こすことがある。従って、薄板および超薄板ガラスシート(6.1)〜(6.5)についての強化の歩留まりは、一般的にかなり不十分である。
【0101】
図3aおよび
図3bは、切りっぱなしの超薄板ガラスシート(
図3a)および本発明による端面エッチングを含む端面前処理を行った後の超薄板ガラスシート(
図3b)の端面(10)の概略的切断図を示す。切りっぱなしの超薄板ガラスの鋭いキズ(11)は、
図3bに示されるようにエッチングによって丸められる(12)。このようにガラス中の応力は大きく低下し、それは超薄板ガラスに関する強化の歩留まりに有益である。この方法は、驚くべきことに、穴または丸い角を有するガラスについて有効であることが分かった。しかしながら、欠陥のサイズおよび欠陥の曲率に関連した応力を考慮すると、一方でエッチングは、キズを丸めるが、他方ではエッチングは欠陥のサイズをある程度まで大きくするので、エッチングのバランスが存在する。エッチングの具体的な最適量は、様々なパラメーターに依存してよく、例えばガラスの種類、ガラスの厚み、エッチング溶液等に依存して決定されるべきである。
【0102】
図4は、実施例1〜4で試片として使用される本発明による超薄板ガラスシートまたは超薄板化学強化ガラス物品(15)の一例の形の概略図を示す。該ガラス物品(15)は、幅B、長さLおよび半径Aを有する丸い角を有する本質的に矩形の形を有する。該ガラス物品(15)は、その角の1つの近接した縁(17)からDだけ離れたところを中心とした円形の穴(16)を有する。以下の実施例1〜4においては、D=10mmであり、a=5mmであり、一方でA=10mmである。
図4に示されるガラス物品(15)のLおよびBの比率は、実施例1〜4に示される値に相当せず、むしろ基本形の説明のために用いられる。
【0103】
図5は、以下に記載される実施例2に従って4つの異なる様式で処理されたSCHOTT(登録商標)による2つの異なる種類のガラスD263(登録商標)およびAS87の強度についての比較値を示している。両方の種類のガラスに関する、切りっぱなしの試片(RAW)、事前エッチングだけされた試片(E)、強化だけされた試片(T)および(事前)エッチングされ強化され(事後)エッチングされた試片についての相応の強度を示している。
図5は、実施例2との関連で更に説明される。
【0104】
図6aおよび
図6bは、
図5との関連で記載される4つの異なる処理に関する実施例2によるガラス試片の得られた強度についての累積確率(%)の二重対数プロットを示している。
図6aおよび
図6bは、実施例2との関連で更に説明される。
【0105】
図7は、前記のコイル材(33)の一例を示している。ガラスリボン(31)はコイル状に巻き上げられて、中空円筒形を有するコイル材(33)が形成される。ガラスリボン(1)の長手方向端面(322,323)は、コイル材(33)の隣接面を形成する。示される実施形態においては、該コイル材の内側面(331)は露出されている。
図7の実施形態とは異なって、ガラスリボン(1)は、内側面(331)が心棒の外表面と接触するように心棒の周りに巻き付けられていてもよい。
【0106】
ガラスリボン(31)の表面を保護するために、シート材料(37)が重ねられていてもよい。該シート材料(37)は、ガラスリボン(33)の多層を半径方向で隔離する。シート材料(37)としては紙のリボンまたはプラスチックフォイルが適切に使用されうる。
【0107】
図8は、本発明による方法を実施するための装置を図示している。この実施形態によれば、ガラスリボン(31)は、ロール・ツー・ロール法において処理される。こうして、処理は、
− 巻き付けられてコイル材(30)となったガラスリボン(31)を準備するステップ、
− 該コイル材(30)から連続的に巻き出すステップ、
− 巻き出しながら、該コイル材(30)から巻き出された区間においてガラスリボン(31)を化学強化するステップ、
− 化学強化されたガラスリボン(31)をコイル状に巻き上げることで、更なるコイル材(33)を得るステップ、
の方法ステップを基礎としている。
【0108】
該装置は、ガラスリボン(31)を搬送するためのロール(130,131,132,133,134)を含む。矢印は移動方向を示している。ロール(130)〜(134)の回転速度は、ガラスリボン(31)の供給速度を決定する。しかしながら、全てのロールが動かされている必要はない。例えば、ロール(134)が、ガラスリボンの移動のために動かされていてよい。他のロール(130)〜(133)は、そのガラスリボン(31)を案内し、かつ支持しており、その移動しているリボンによって回転される。
【0109】
ガラスリボンのコイル材から解かれた区間は、まず最初に前処理ユニット(140)を通過する。このユニット(140)において、本発明による端面前処理が行われる。場合により、ガラス表面の清浄化のような更なるステップを行うことができる。
【0110】
その後に、ガラスリボン(31)は、後続の化学強化のための温度にまでガラスを徐々に加熱する予熱炉(150)を通り抜ける。予熱は、ガラス中の温度差による機械的応力を回避または最小化する。予熱炉(150)は、遅く均一で連続的な加熱を達成するために移動経路に沿った温度勾配が与えられるように設計されていてよい。
【0111】
予熱炉(150)または化学強化の前の加熱ステップは、それぞれガラス物品を出発温度から後続の化学強化に適した温度にまで加熱することを含むが、ロール・ツー・ロール処理を伴う特定の一実施形態に制限されるものではない。一般的に、予熱は、個別のガラスシートの回分的加工において、またはリボンの熱間成形の後のインライン化学強化処理において使用することもできる。一般的に、そのガラス物品は、300℃から550℃の間の温度に加熱される。
【0112】
予熱後に、ガラスリボンは、化学強化ユニット(160)を通り抜ける。このユニット内で、リボン(31)は、溶融塩浴(170)中に浸漬される。該塩浴は、ナトリウムイオンまたはリチウムイオンと交換されるカリウムイオンを含む。
【0113】
ガラスリボンの進行速度は、塩浴(170)内で強化するために望ましい時間が満たされるように定められる。強化のための時間は、塩浴(170)の温度だけでなく、達成されるべきDoLにも依存している。例えば、3μm〜5μmの範囲のDoLは、10分〜15分の強化時間で簡単に得ることができる。
【0114】
強化の後に、ガラスリボン(31)は、好ましくは後処理ユニット(180)において後処理にかけられる。後処理ユニット(180)は、特にそれぞれ徐冷窯または冷却炉を含んでよい。徐冷窯内でのリボンの緩慢な冷却のため、機械的応力は取り除かれる。予熱炉(150)の場合と同様に、徐冷窯は、温度勾配を有してよいが、この場合にはその入口で最も高い温度を有し、その出口で最も低い温度を有する。好ましくは、ガラスリボン(31)は、該リボンが更なるロール(33)へと再びコイル状に巻かれる前に、150℃未満の温度に冷却される。
【0115】
図9は、前記の実施形態の一つの別形を示している。この別形は、
図8の実施形態とは、本発明による端面処理と化学強化が、ガラスリボンの熱間成形過程に組み込まれている点で異なっている。この実施形態によれば、一般的にガラスリボン(31)は、熱間成形装置(190)中で成形され、そして巻取られることで、コイル材(33)が形成される。端面処理、特にエッチングおよび化学強化は、熱間成形と巻取りステップの間に行われる。従って、前処理ユニット(140)および化学強化ユニット(160)は、熱間成形ユニット(190)と、リボンを巻取ることでコイル材(33)を形成するロール(134)との間に配置されている。
【0116】
あらゆる適切な熱間成形過程を用いることができる。示される実施形態においては、ガラスリボンは、溶融物(200)から、例えばダウンドロー法またはオーバーフローフュージョン法によって成形される。しかしながら、該リボンは、加熱されたプリフォームからリドロー法によって成形することもできる。
【0117】
図10は、
図8の実施形態のもう一つの別形を示している。この別形は、どのように超薄板ガラスシートが供給されるかとは無関係である。例示されているように、
図8と同様のロール・ツー・ロール処理で使用することができる。しかしながら、この実施形態は、直列処理として、ガラスリボンの熱間成形過程の中に組み込まれていてもよい。更に、個別の超薄板ガラスシートの回分的加工も同様に可能である。
【0118】
前処理ユニット(140)内で端面処理された後に、リボン(31)のコイル材から巻き出された区間は、吹き付けユニット(210)を通過する。このユニット内で、少なくとも1種のカリウム塩の水溶液が、そのガラスリボン(31)の表面上に吹き付けられる。予熱炉(150)内で、ガラスリボン(31)は加熱される。それによって、水溶液から水が蒸発され、リボン(31)の両方の逆側の表面上に塩の被膜が残る。次いで、該ガラスは、化学強化のための炉(160)内を通過する。その中で、塩が溶融し、化学強化のためのイオン交換が促進される。次いで該ガラスは、後処理ユニット(180)を通過し、その中で該ガラスは前記のように処理される。後処理は、ガラス表面から塩を除去するための清浄化ステップを含んでよい。最後に、リボン(31)は巻取られることで、更なるコイル材(33)が形成される。
【0119】
図10の例示的実施形態とは異なって、予熱および/またはイオン交換後の冷却は、化学強化のために使用されるのと同じ炉内で行うことができる。
【0120】
図11は、予熱炉および徐冷窯または冷却炉の両方として用いられる連続炉(230)に関する一実施形態を示している。この目的のために、リボン(31)は、炉(230)を逆方向で2回通過する。リボン(31)は、その移動方向から逸らせるためにロール(131)を介して曲げられてよい。
【0121】
炉(230)は、炉の開口部(231)での温度T
lから開口部(232)でのより高い温度T
hまでの範囲の温度勾配(220)が与えられるように設定されてよい。リボン(31)は、初めて通過することにより、温度T
lから温度T
hにまで徐々に加熱され、その後に化学強化のための炉(160)に入る。温度T
hは、炉(160)内の温度と等しいか、またはそれに近い温度であってよい。リボン(31)は逸らされて、再び炉(230)中に案内される。しかしながら、このときに、そのリボンは温度勾配を逆方向で通り抜けるため、徐々に冷却される。
【0122】
発明の有利な実施形態
一般性を失うことなく、以下の実施例のためには、アルカリ金属含有ガラスが使用される。あらゆる他のイオン交換可能なガラス、例えばケイ酸塩ガラスもしくはホウケイ酸塩ガラスまたは他の手段によって化学強化することができる他のガラスも、本発明から恩恵を受けるであろうことは直ちに明らかである。アルカリ金属含有ガラス、例えばSCHOTT(登録商標)によるPCT/CN2013/072695によるガラスが特に適している。
【0123】
以下の表は、以下に記載される実施例1〜4の組成(第1表)および選択された特性(第2表)に関する概要を示している。
【0124】
第1表: アルカリ金属含有のホウケイ酸塩ガラスの例示的実施形態
【表7】
【0125】
第2表: 前記例示的実施形態の特性
【表8】
【0126】
実施例1
第1表/第2表の実施例1による組成を有するガラスは、ダウンドロー法によって製造され、440mm×360mm×0.1mmのガラスシートに割断される。その際、これらのシートを、360番の歯を有する100°のPenettダイアモンド製カッティングホイールで割断した。50mm×50mm(
図4を参照、L=50mm、B=50mm)、142mm×75mm(
図4を参照、L=142mm、B=75mm)および300mm×200mm(
図4を参照、L=300mm、B=200mm)の寸法を有する40枚の試片を割断した。それらの試片に、CO
2レーザーによって、
図4に示されるように、a=5mmの半径を有する1つの円形の穴(
図4の16)とA=10mmの半径の4つの丸い角を設けた。該試片に、
図4に示されるように4つのR5角(コーナーの半径は5mmである)も設けた。更に、60片の20mm×50mm×0.1mmを切り取った。切りっぱなしの試片の半分の量の端面を、NH
4HF
2溶液によってエッチングした(端面前処理)。エッチングの量は、約1μmであった。全ての試片を、100%KNO
3中で430℃で15時間にわたり化学強化した。事前エッチングされて強化された試片を、また強化後に事後エッチングした(後処理)。残りの30枚の試片は、参照試片として、一切前処理または後処理をせずに化学強化のみを行った。イオン交換の後に、強化された試片を清浄化し、FSM6000で測定した。その結果は、平均CSが122MPaであり、DoLが13.2μmである。穴および丸い角を有する参照試片の強化の歩留まりは非常に低い。しかしながら、驚くべきことに、事前エッチングされた試片の強化の歩留まりは、かなり高められる。歩留まりの増大の詳細は、表3(a)および表3(b)に示されており、その際、参照試片が、事前エッチングされた試片と比較される。追加の事後エッチングは、化学強化によって引き起こされるキズまたはマイクロクラックを除去または丸めることによって強度を高める。事後エッチングの後に、CSは、97MPaであり、かつDoLは11.8μmである。
【0127】
表3(a) 事前エッチングされていない場合の穴および丸い角を有する実施例1の強化の歩留まり
【表9】
【0128】
表3(b) 事前エッチングされた場合の穴および丸い角を有する実施例1の強化の歩留まり
【表10】
【0129】
3点曲げ試験は、万能機械試験機において20mm×50mmの試片について実施した。それらの結果により、参照試片の強化されたガラスが、147MPaの曲げ強度および破断することなく45mmの曲げ半径を有することが示された。強化された試片の事前と事後にエッチングされた場合の強度は、約200MPaであり、曲げ半径はほぼ30mmである。柔軟性は、本発明による前処理および後処理によって著しく高められる。
【0130】
実施例2
第1表/第2表の実施例2による組成を有するガラスは、ダウンドロー法によって製造され、440mm×360mm×0.1mmのガラスシートに割断される。その際、該ガラスシートを、360番の歯を有する100°のPenettダイアモンド製カッティングホイールで割断した。50mm×50mm(
図4を参照、L=50mm、B=50mm)、142mm×75mm(
図4を参照、L=142mm、B=75mm)および300mm×200mm(
図4を参照、L=300mm、B=200mm)の寸法を有する40枚の試片を割断した。それらの試片に、
図4に示されるように、a=5mmの半径を有する1つの円形の穴(
図4の16)とA=10mmの半径の4つの丸い角を設けた。
【0131】
更に、90片の20mm×50mm×0.1mmを切り取った。60片の切りっぱなしの試片の端面を、NH
4HF
2溶液によって5分間にわたりエッチングした(端面前処理)。エッチングの量は、約1μmである。次いで、30枚の試片を、100%KNO
3中で400℃で3時間にわたり化学強化した。事前エッチングされて強化された試片を、また強化後に事後エッチングした(後処理)。30枚の試片は、参照試片として、一切前処理または後処理をせずに化学強化のみを行った。
【0132】
イオン交換の後に、強化された試片を清浄化し、FSM6000で測定した。その結果は、平均CSが304MPaであり、DoLが14.0μmである。穴および丸い角を有する参照試片の強化の歩留まりは非常に低い。しかしながら、驚くべきことに、事前エッチングされた試片の強化の歩留まりは、かなり高められる。歩留まりの増大の詳細は、表4(a)および表4(b)に示されており、その際、参照試片が、事前エッチングされた試片と比較される。追加の事後エッチングは、化学強化によって引き起こされるキズおよび/またはマイクロクラックを除去または丸めることによって強度を高める。事後エッチングの後に、CSは、280MPaであり、かつDoLは13.4μmである。
【0133】
表4(a) 事前エッチングがされていない穴および丸い角を有する実施例2の強化の歩留まり
【表11】
【0134】
表4(b) 事前エッチングがされた穴および丸い角を有する実施例2の強化の歩留まり
【表12】
【0135】
3点曲げ試験は、万能機械試験機において、事前エッチングされた試片、強化された試片、および(事前)エッチングされ強化され(事後)エッチングされた試片について実施した(それぞれ30片)。以下の表は、異なる処理がなされた試片について得られた平均曲げ強度を示している。
【0136】
表5(a): 異なる処理がなされた実施例2の試片の強度比較
【表13】
【0137】
680MPaの曲げ強度を有する参照試片の強化されたガラスは、破断することなく30mmの曲げ半径を有する。1520MPaの強度を有する事前および事後にエッチングされた強化された試片は、ほぼ10mmの曲げ半径を有する。このように、柔軟性は、本発明による前処理および後処理によって著しく高められる。
【0138】
SCHOTT(登録商標)製の市販のアルミノケイ酸塩ガラス試片XensationCover(登録商標)も、比較のために準備した。その未処理のガラスは0.55mm厚であり、それを、360番の歯を有する100°のPenettダイアモンド製カッティングホイールで10mm×10mm×0.55mmに割断し、次いで厚み0.1mmにまで研磨する。その後、該ガラスを390℃で1時間にわたり化学強化した。得られたCSは、約808MPaであり、かつDoLは、約12.6μmである。切りっぱなしの試片、強化だけされた試片、および事前エッチングされ強化され事後エッチングされた試片を、比較のために準備した。NH
4HF
2による5分間にわたる追加の事後エッチングは、化学強化によって引き起こされるキズまたはマイクロクラックを除去または丸めることによって強度をかなり高める。事後エッチングの後に、CSは、758MPaであり、かつDoLは11.7μmである。異なる処理がなされた試片について得られた平均曲げ強度は、以下の通りである。
【0139】
表5(b): 異なる処理がなされたXensationCover(登録商標)の試片の強度比較
【表14】
【0140】
図5および
図6a/bは、実施例2のガラス試片およびSCHOTT(登録商標)によるXensationCover(登録商標)についての幾つかの比較値を示している。
図5から直ちに理解できるように、異なる種類のガラスは、(事前)エッチング−強化−(事後)エッチング(ETE)によって達成された種々の強度の増加を示している。本発明による方法は、実施例2のガラスにおいて、XensationCover(登録商標)と比べてより有効であるが、それにもかかわらず、両方の種類のガラスに関して、切りっぱなしの試片(RAW)、(事前)エッチングだけされた試片(E)または強化だけされた試片(T)と比較してかなりの増加を示している。
【0141】
図6aおよび
図6bから理解できるように、強度の一貫性は、両方のガラスについて、切りっぱなしの試片(RAW、実線で黒丸)、(事前)エッチングだけされた試片(E、長点線と正方形)、強化だけされた試片(T、短点線と菱形)、および(事前)エッチング−強化−(事後)エッチングされた試片(ETE、短長点線と三角形)についての累積確率を比較すると著しく高められている。
【0142】
また
図5および
図6a/bから、事前エッチングだけされた試片が、未処理の切りっぱなしの試片よりもかなり高い強度を有し、最終的に本発明により、強化の高い歩留まりがもたらされることも明らかになる。
【0143】
実施例3
第1表/第2表の実施例3による組成を有するガラスは、ダウンドロー法によって製造され、440mm×360mm×0.1mmのガラスシートに割断される。その際、これらのシートを、360番の歯を有する100°のPenettダイアモンド製カッティングホイールで割断した。50mm×50mm(
図4を参照、L=50mm、B=50mm)、142mm×75mm(
図4を参照、L=142mm、B=75mm)および200mm×300mm(
図4を参照、L=300mm、B=200mm)の寸法を有する40枚の試片を割断した。それらの試片に、
図4に示されるように、a=5mmの半径を有する1つの円形の穴(
図4の16)と4つのR5角(A=10mm)を設けた。更に、20mm×50mm×0.1mmの寸法を有する60片を切り取った。切りっぱなしの試片の半分の量の端面を、NH
4HF
2溶液によってエッチングした(端面前処理)。エッチングの量は、約1μmである。全ての試片を、100%KNO
3中で420℃で2時間にわたり化学強化した。事前エッチングされた試片を、また強化後に事後エッチングした(後処理)。残りの30枚の試片は、参照試片として、一切端面前処理または端面後処理をせずに化学強化のみを行った。イオン交換の後に、強化された試片を清浄化し、FSM6000で測定した。その結果は、平均CSが340MPaであり、DoLが10.8μmである。穴および丸い角を有する参照試片の強化の歩留まりは非常に低い。しかしながら、驚くべきことに、事前エッチングされた試片の強化の歩留まりは、かなり高められる。歩留まり増大の詳細は、表5(a)および表5(b)に示されており、その際、参照試片が、事前および事後にエッチングされた試片と比較される。追加の事後エッチングは、化学強化によって引き起こされるキズまたはマイクロクラックを除去または丸めることによって強度を高める。事後エッチングの後に、CSは、319MPaであり、かつDoLは9.6μmである。
【0144】
表6(a) 事前エッチングされていない穴および丸い角を有する実施例3の強化の歩留まり
【表15】
【0145】
表6(b) 事前エッチングされた穴および丸い角を有する実施例3の強化の歩留まり
【表16】
【0146】
3点曲げ試験は、万能機械試験機において20mm×50mmの試片について実施した。それらの結果により、参照試片の強化されたガラスが、473MPaの曲げ強度および破断することなく40mmの曲げ半径を有することが示された。強化された試片の事前と事後にエッチングされた場合の強度は、約545MPaであり、曲げ半径は約35mmである。
【0147】
実施例4
第1表/第2表における実施例4による組成を有するガラスは、0.55mmの厚さを有し、そのガラスを360番の歯を有する100°のPenettダイアモンド製カッティングホイールによって割断する。次いで、その試片を厚さ0.1mmまで研磨する。30片の切りっぱなしの試片の端面を、NH
4HF
2溶液によってエッチングした。エッチングの量は、約1μmである。全ての試片を、100%KNO
3中で420℃で4時間にわたり化学強化した。事前エッチングされて強化された試片を、また強化後に事後エッチングした(後処理)。残りの30枚の試片は、参照試片として、一切端面前処理または端面後処理をせずに化学強化のみを行った。得られたCSは、約814MPaであり、かつDoLは、約8.6μmである。曲げ強度は、参照試片に関して約580MPaであり、かつ事前および事後にエッチングされた強化した試片に関して約750MPaである。追加の事後エッチングは、化学強化によって引き起こされるキズおよびマイクロクラックを除去または丸めることによって強度を高める。事後エッチングの後に、CSは、456MPaであり、かつDoLは7.1μmである。
なお、本発明は以下のとおりである。
[1]本発明は、超薄板化学強化ガラス物品の製造方法であって、
− 第一の表面および第二の表面を有し、それらの表面が少なくとも1つの端面によって接続されている、第一の表面と第二の表面との間に厚み(t)を有する超薄板ガラスシートを準備するステップ、
− 該超薄板ガラスシートを化学強化することで、超薄板化学強化ガラス物品を製造するステップ、
を含む、製造方法において、
端面前処理を、化学強化の前に超薄板ガラスシートの少なくとも1つの端面に、好ましくは全ての端面に適用することで、端面欠陥が減少され、および/または丸められ、そして化学強化の間の超薄板ガラスシートの破断への耐久性が高められることを特徴とする、製造方法である。
[2]また、本発明では、後処理を、化学強化の後に超薄板化学強化ガラス物品の少なくとも1つの端面に、好ましくは全ての端面に少なくとも適用し、有利にはまたその表面または表面領域にも適用することで、欠陥が更に減少され、および/または丸められ、そして強化された超薄板ガラス物品が増強されることが好ましい。
[3]また、本発明では、端面前処理の間の、および/または該当する場合は後処理の間の表面粗さは、10μm未満、好ましくは5μm未満、より好ましくは2μm未満、更により好ましくは1μm未満、最も好ましくは0.5μm未満にまで低減されることが好ましい。
[4]また、本発明では、端面前処理により、および/または該当する場合は後処理により除去される材料量は、25.0μm未満、好ましくは10.0μm未満、より好ましくは4.0μm未満、更により好ましくは1μm未満、最も好ましくは0.5μm未満であることが好ましい。
[5]また、本発明では、端面前処理および/または該当する場合は後処理は、化学的処理、機械的処理および/または高温処理を含むことが好ましい。
[6]また、本発明では、化学的処理は、酸性溶液でのエッチングを含むことが好ましい。
[7]また、本発明では、酸性溶液は、以下のHF、H2SO4、HCl、NH4HF2の1種以上の水溶液を含むことが好ましい。
[8]また、本発明では、酸性溶液中での水素イオンの濃度は、25mol/L未満、好ましくは5mol/L未満、より好ましくは1mol/L未満、最も好ましくは0.1mol/L未満であることが好ましい。
[9]また、本発明では、高温処理は、レーザー処理、特にナノ秒またはそれより短い時間の超短レーザーパルスのフィラメントを基礎とするレーザー処理を含むことが好ましい。
[10]また、本発明では、機械的処理は、研磨処理を含むことが好ましい。
[11]また、本発明では、研磨処理は、数枚の超薄板ガラスシートの積層物を形成し、その超薄板ガラスシートの積層物の積み重ねた方向に対して側面側に研磨処理を適用することを含むことが好ましい。
[12]また、本発明では、超薄板ガラスシートの厚み(t)は、0.4mmと等しいまたはそれ未満であり、好ましくは0.3mmと等しいまたはそれ未満であり、より好ましくは0.2mmと等しいまたはそれ未満であり、最も好ましくは0.1mmと等しいまたはそれ未満であることが好ましい。
[13]また、本発明では、超薄板ガラスシートが、本質的に矩形の形で、好ましくは20mmと等しいまたはそれ未満の、好ましくは10mmと等しいまたはそれ未満の、より好ましくは8mmと等しいまたはそれ未満の、最も好ましくは6mmと等しいまたはそれ未満のコーナー半径(A)を有する丸い角を有する本質的に矩形の形で提供されることが好ましい。
[14]また、本発明では、超薄板ガラスシートに、少なくとも1つの穴、好ましくは円形または丸い角を有する本質的に矩形の形を有する少なくとも1つの穴が設けられることが好ましい。
[15]また、本発明では、端面前処理を、丸い角に隣接する1つ以上の端面および/または該当する場合には少なくとも1つの穴に隣接する1つ以上の端面に適用することが好ましい。
[16]また、本発明では、化学強化の間にイオン交換速度を遅く制御することで、
− 30μm未満のイオン交換層の深さDoL(LDoL)、
− 100MPaから700MPaの間の表面圧縮応力CS(σCS)、および
− 120MPa未満の内部引張応力CT(σCT)
が達成され、ここで、該超薄板強化ガラス物品の厚みt、DoL、CSおよびCTは、関係
【数12】
を満たすことが好ましい。
[17]また、本発明では、化学強化は、350℃から700℃の間の塩浴中での15分間〜48時間にわたる遅いイオン交換を含むことが好ましい。
[18]また、本発明では、超薄板ガラスシートは、それをガラスリボンから分離することによって提供され、ここで、
− 該ガラスリボンは、少なくとも10メートルの長さ、好ましくは10メートルから1000メートルまでの範囲の長さを有し、
− 該ガラスリボンは、コイル状に巻き上げられてコイル材とされ、
− 前記コイル材の内径は、該コイル材の最内層にかかる引張応力σappが
【数13】
より小さくなるように選択され、
前記式中、
− Lrefは、辺長であり、かつ
− Arefは、ガラスリボン試片の側面の表面積であり、
− σ ̄aは、ガラスリボン試片の側面内で生ずる該試片の破断時の引張応力の中央値であり、かつ
− σ ̄eは、ガラスリボン試片の端面から広がる該試片の破断時の引張応力の中央値であり、
− ΔeおよびΔaは、それぞれ、該試片の端面でのまたは側面内での該試片の破断時の引張応力の標準偏差であり、
− Aappは、ガラスリボンの1つの側面の表面積であり、かつ
− Lappは、ガラスリボンの長辺の合計辺長であり、かつ
− Φは、少なくとも半年の時間間隔内で規定される破断の最大速度であることが好ましい。
[19]また、本発明では、コイル材の内径は、該コイル材の最内層にかかる引張応力σappが
【数14】
より小さくなるように選択されることが好ましい。
[20]また、本発明では、0.1を下回る、好ましくは0.05を下回る最大破断速度Φを選択するステップを更に含むことが好ましい。
[21]また、本発明では、コイル材の内径は、該コイル材の最内層にかかる引張応力σappが少なくとも22MPaであるように選択されることが好ましい。
[22]また、本発明では、ガラスリボンの長手方向端面を、コイル材の形成前にエッチングするステップを更に含むことが好ましい。
[23]また、本発明では、前記方法であって、
− 巻き付けられてガラスコイルとなったガラスリボンを準備するステップと、
− 該ガラスコイルから連続的に巻き出すステップと、
− 巻き出しながら、該ガラスコイルから巻き出された区間においてガラスリボンを化学強化するステップと、
− 化学強化されたガラスリボンを再びコイル状に巻くことで、ガラスコイルを得るステップと、
を含む、方法であることが好ましい。
[24]また、本発明では、カリウム塩水溶液をガラスシート上に吹き付けるステップ、該ガラスシートを予熱することで水溶液の水を蒸発させて、ガラス表面上にカリウム塩を残留させるステップ、引き続き該ガラスシートを強化炉を通して移動させるステップを含み、その炉が更に該ガラスを加熱することで、化学強化のためのイオン交換が促進されることが好ましい。
[25]また、本発明は、第一の表面および第二の表面を有し、それらの表面が少なくとも1つの端面によって接続されている、第一の表面と第二の表面との間に厚み(t)を有する、上述に記載の方法において半完成品として使用するための超薄板ガラスシートであって、少なくとも1つの端面で、好ましくは全ての端面で端面欠陥が減少され、および/または丸められ、好ましくは、該少なくとも1つの端面の平均表面粗さが、10μm未満、好ましくは5μm未満、より好ましくは2μm未満、更により好ましくは1μm未満、最も好ましくは0.5μm未満であるように減少され、および/または丸められ、こうして、該超薄板ガラスシートの後続の化学強化の間での破断への耐久性が高められており、かつ厚み(t)は、好ましくは0.4mmと等しいまたはそれ未満の、有利には0.3mmと等しいまたはそれ未満の、より好ましくは0.2mmと等しいまたはそれ未満の、最も好ましくは0.1mmと等しいまたはそれ未満である、超薄板ガラスシートであることが好ましい。
[26]また、本発明では、第一の表面および第二の表面を有し、それらの表面が少なくとも1つの端面によって接続されている、第一の表面と第二の表面との間に厚み(t)を有する、好ましくは上述に記載の方法によって製造される超薄板化学強化ガラス物品であって、少なくとも1つの端面で、好ましくは全ての端面でガラス欠陥が減少され、および/または丸められ、ここで厚み(t)は、好ましくは0.4mmと等しいまたはそれ未満の、有利には0.3mmと等しいまたはそれ未満の、より好ましくは0.2mmと等しいまたはそれ未満の、最も好ましくは0.1mmと等しいまたはそれ未満である、超薄板化学強化ガラス物品であることが好ましい。
[27]また、本発明は、欠陥が減少された、および/または丸められた少なくとも1つの端面の平均表面粗さは、10μm未満、好ましくは5μm未満、より好ましくは2μm未満、更により好ましくは1μm未満、最も好ましくは0.5μm未満であることが好ましい。
[28]また、本発明では、[26]または[27]に記載の、好ましくは[3]から[24]までのいずれかに記載の方法と[2]に記載の方法とを組み合わせて製造される超薄板化学強化ガラス物品であって、ガラス欠陥は、少なくとも1つの表面の少なくとも1つの領域において減少され、および/または丸められ、好ましくは、該少なくとも1つの領域における平均表面粗さが、10μm未満、好ましくは5μm未満、より好ましくは2μm未満、更により好ましくは1μm未満、最も好ましくは0.5μm未満であるように減少され、および/または丸められる、超薄板化学強化ガラス物品であることが好ましい。
[29]また、本発明では、欠陥が減少された、および/または丸められた端面および/または表面領域は、酸性溶液、特にHF、H2SO4、HCl、NH4HF2の1種以上の水溶液でエッチングされることが好ましい。
[30]また、本発明では、本質的に矩形の形を有し、好ましくは、20mmと等しいまたはそれ未満の、好ましくは10mmと等しいまたはそれ未満の、より好ましくは8mmと等しいまたはそれ未満の、最も好ましくは6mmと等しいまたはそれ未満のコーナー半径(A)を有する丸い角を有する本質的に矩形の形を有し、好ましくは、少なくとも1つの穴、好ましくは円形または丸い角を有する本質的に矩形の形の穴を有することが好ましい。
[31]また、本発明では、丸い角に隣接する1つ以上の端面および/または該当する場合は少なくとも1つの穴に隣接する1つ以上の端面は、前記少なくとも1つの端面と同様に欠陥が減少され、および/または丸められることが好ましい。
[32]また、本発明では、イオン交換層により表面圧縮応力層を有し、ここで、イオン交換層の深さDoL(LDoL)は、30μm未満であり、表面圧縮応力CS(σCS)は、100MPaから700MPaの間であり、かつ内部引張応力CT(σCT)は、120MPa未満である超薄板化学強化ガラス物品であって、該強化された超薄板ガラス物品の厚みt、DoL、CSおよびCTは、関係
【数15】
を満たしていることが好ましい。
[33]また、本発明では、150mmまたはそれ未満の、好ましくは100mmまたはそれ未満の、より好ましくは50mmまたはそれ未満の、更により好ましくは30mmまたはそれ未満の、最も好ましくは15mmまたはそれ未満の曲げ半径を有することが好ましい。
[34]また、本発明では、200MPaまたはそれより大きい、好ましくは500MPaまたはそれより大きい、より好ましくは1000MPaまたはそれより大きい、最も好ましくは1500MPaまたはそれより大きい曲げ強度を有することが好ましい。
【符号の説明】
【0148】
1 超薄板ガラスシート、 2 端面、 3 クラック、 4 チッピング、 5 強化用ホルダー、 6.1,6.2,6.3,6.4,6.5 ガラスシート、 7 ジグザグ型鋼棒、 8 破断、 10 端面、 11 キズ、 12 丸められたキズ、 15 ガラス物品、 16 穴、 17 縁、 30 コイル材、 31 ガラスリボン、 33 コイル材、 37 シート材料、 130,131,132,133,134 ロール、 140 前処理ユニット、 150 予熱炉、 160 化学強化ユニット、 170 溶融塩浴、 180 後処理ユニット、 190 熱間成形装置、 200 溶融物、 210 吹き付けユニット、 220 温度勾配、 230 炉、 231,232 開口部、 331 内側面、 322,323 長手方向端面