(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、検知対象物の表面温度を正確に計測できるという検知感度を担保しつつ、小型化に対応できる赤外線温度センサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の赤外線温度センサは、検知対象物の温度を非接触で検知するセンサであって、検知対象物から放射された赤外線を吸収して熱に変換するフィルムと、フィルムに配置される赤外線検知素子と、フィルムに赤外線検知素子から所定の間隔をおいて配置される温度補償素子と、フィルムの一面側に対向して配置されるセンサケースと、フィルムを介してセンサケースに対向して配置されるセンサカバーと、を備え、センサケースは、ケース基部と、ケース基部に形成され、フィルムの赤外線検知素子が配置された領域へ赤外線を導く導光域と、ケース基部に形成され、フィルムの温度補償素子が配置された領域を赤外線から遮る遮光域と、を備え、センサケース
のケース基部には、ケース基部を貫通する開口からなり、フィルムの赤外線検知素子が配置された領域へ赤外線を導く導光域と、フィルムの温度補償素子が配置された領域を赤外線から遮る遮光域が内側に形成された錐台状の遮光部と、が設けられ
、ケース基部の平面視において遮光域と導光域とは同一の形状に形成されていることを特徴とする。
遮光部は、四角錐台状に形成されていると好ましい
。
本発明の赤外線温度センサにおいては、赤外線検知素子と温度補償素子とが、導光域と、導光域に隣接した遮光域との境界部を軸として略対称に、あるいは、センサを赤外線検知素子と温度補償素子とを結ぶ方向において二等分する中心線に対して略対称に、配置されていることが好ましい。
さらに、本発明の赤外線温度センサにおいて、導光域は、導光域が貫通したケース基部の板厚の範囲にのみ設けられることが好ましい。
そして、本発明の赤外線温度センサは、導光域の容積と遮光域の容積とが略同一であることが好ましい。
本発明の赤外線温度センサは、遮光域を除けば、検知対象物から照射される赤外線が赤外線入射窓を介して導光域に入射されるのを遮る部位がない。したがって、本発明の赤外線温度センサによれば、小型化しても導光域に取り込む赤外線量を確保できるので、検知感度を担保できる。
本発明の赤外線温度センサにおいて、この効果を得る上で好ましくは、ケース基部は、少なくともおもて面が平坦な面からなり、導光域は、おもて面からうら面までのケース基部の板厚の範囲に設けられる。
【0007】
本発明の赤外線温度センサにおいて、センサカバーは、側壁と、側壁の先端を繋ぐ底床とからなる錐台状の素子収容部を備えることが好ましい。
【0008】
本発明の赤外線温度センサにおいて、素子収容部は、矩形状の底床と、赤外線検知素子及び温度補償素子を受け入れる矩形状の開口とを有し、四角錐台状に形成されていることが好ましい。
【0009】
本発明の赤外線温度センサにおいて、センサカバーは、カバー基部の一部をプレス加工することにより形成されることが好ましい。
【0010】
本発明の赤外線温度センサにおいて、
遮光部と導光域とは、ケース基部において隣接して形成され、遮光部は、少なくとも導光域に隣接する領域が傾斜していることが好ましい。
そうすることにより、検知対象物から放射される赤外線が赤外線入射窓に入射されるのを遮る程度を抑えることができる。
また、上記の遮光部は、中空のドームであることが好ましい。
【0011】
本発明の赤外線温度センサにおいて、導光域は、ケース基部の所定範囲を打ち抜くことにより形成され、
遮光域が内在する遮光
部は、ケース基部の一部をプレス加工することにより形成することができる。このようにして、センサケースを打抜き加工及びプレス加工により作製すれば、例えば鋳造により作製するのに比べて、低コストで赤外線温度センサを製造することができる。
【0012】
本発明の赤外線温度センサにおいて、導光域と遮光域が略対称の形態をなしている
と、赤外線の照射を除いて赤外線検知素子と温度補償素子が受ける熱エネルギーを同等にできる。
この具体的な形態として、導光域は、入射窓を含めて、平面視した形状が矩形をなし、遮光ドームは、四角錐台からなる外観形状をなしており、遮光域は、うら面の側から先細りの空隙からなることが好ましい。
さらに、上記同様、赤外線の照射を除いて赤外線検知素子と温度補償素子が受ける熱エネルギーを同等にする観点より、本発明の赤外線温度センサにおいて、赤外線検知素子と温度補償素子とは、導光域及び遮光域の境界部を軸として略対称に配置されていることが好ましい。
【0013】
本発明の赤外線温度センサにおいて、センサカバーは、
ケース基部に対向するカバー基部の後端から前方の所定範囲に切欠きを備え、カバー基部の切欠きと切欠きに対向する領域のケース基部とにより、赤外線検知素子と温度補償素子に接続される電線を収容し、かつ固定する電線固定域が形成され、カバー基部は、ケース基部より厚肉であり、かつ、電線の太さ以上の厚さを有することが好ましい。
この赤外線温度センサによれば、厚さ方向において、電線がカバー基部よりはみ出さないように電線固定域に収めることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の赤外線温度センサによれば、導光域が、ケース基部のおもて面及びうら面を貫通して形成されるものであり、遮光ドームを除けば、検知対象物から照射される赤外線が赤外線入射窓を介して導光域に入射されるのを遮る部位がない。したがって、本発明の赤外線温度センサによれば、小型化しても導光域に取り込む赤外線量を確保できるので、検知感度を担保できる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付図面に示す実施形態に基づいて本発明の赤外線温度センサ10を詳細に説明する。
赤外線温度センサ10は、例えば
図4(a),(b)に示されるように、コピー機やプリンタ等の画像形成装置に用いられるトナー定着器1の定着手段としてのローラ2の温度を非接触で検知するセンサである。トナー定着器1は、定着手段としてのローラ2と、加圧手段としてのローラ3と、を備えている。
【0017】
赤外線温度センサ10は、
図1に示すように、センサケース20と、センサケース20のうら面212(
図1(b)、
図2(b)参照)の側に組み付けられるセンサカバー30(
図1(b))と、センサケース20とセンサカバー30の間に保持される熱変換フィルム40(
図1(d))と、熱変換フィルム40の一部に保持されて、ローラ2から放射される赤外線を検知する赤外線検知素子43と、熱変換フィルム40の一部に保持されて、雰囲気温度を検知する温度補償素子45と、から構成されている。なお、本実施形態の赤外線温度センサ10において、
図1に示すように、電線60が引き出される側を後Rと定義し、また、その逆側を前Fと定義する。また、前Fと後Rを結ぶ方向を長手方向L(前後方向)と定義し、長手方向Lとは直交する方向を幅方向Wと定義する。上記の定義は、センサケース20及びセンサカバー30についても適用される。なお、
図1(b)等において、長手方向Lおよび幅方向Wと直交する厚さ方向Tを示している。
以下、赤外線温度センサ10の構成要素を説明する。
【0018】
[センサケース20]
センサケース20は、
図2(a)に示すように、平面視した形状が矩形のケース基部21と、ケース基部21のおもて面211から突出する遮光ドーム22と、遮光ドーム22と幅方向Wに隣接して設けられ、平面視した開口形状が矩形の赤外線入射窓26と、を備えている。トナー定着器1に対して所定の位置に赤外線温度センサ10が設置されると、
図4(a),(b)に示すように、センサケース20のおもて面211がローラ2に臨むように配置される。
【0019】
ケース基部21は、
図2(a),(b)に示すように、おもて面211と、おもて面211の反対側に位置するうら面212と、を有している。本実施形態におけるおもて面211とうら面212は、遮光ドーム22と赤外線入射窓26の部分を除いて、平坦な面から構成される。
【0020】
遮光ドーム22は、
図2(a),(b)に示すように、外殻が四角錐台状に形成されている。遮光ドーム22は、ケース基部21から傾斜して立ち上る側壁23と、側壁23の先端を繋ぐ上壁24と、を備えている。遮光ドーム22は、おもて面211からの高さがH1とされる。側壁23が傾斜する角度は任意であり、また、検知感度の校正等のため事後的に、傾斜角度を変更することもできる。傾斜角度を調整することにより、個々の赤外線温度センサ10の特性を調整できる。
【0021】
遮光ドーム22は、
図2(b)に示すように、その内部の四角錐台状の空隙が遮光域25をなしている。この遮光域25は、おもて面211の側が側壁23及び上壁24により外部に対して閉じられているが、うら面212の側は外部に対して開放されている。ただし、センサケース20にセンサカバー30が組み付けられた状態では、
図1(d)に示すように、この開放されている部分も、センサケース20とセンサカバー30との間に介在する熱変換フィルム40によって閉じられる。
遮光域25は、四角錐台状の空隙からなるので、平面視した形状は矩形をなしている。この矩形の寸法は、上壁24からうら面212に向けて連続的に大きくなり、遮光ドーム22がうら面212と連なる周縁213の部分で最大となる。このように、遮光域25は、うら面212の側から上壁24、つまり先端に向けて先細りの空隙からなる。
【0022】
次に、赤外線入射窓26は、
図2(a),(c)に示すように、ケース基部21のおもて面211に位置している。
ケース基部21には、おもて面211の開口である赤外線入射窓26からうら面212までが貫通することにより、赤外線入射窓26に連なる導光域28が備えられている。そして、
図2(c)に示すように、導光域28は、ケース基部21のおもて面211とうら面212を繋ぐ側壁27に取り囲まれる。導光域28の導光長T2は、ケース基部21の厚さT1と等しい。
【0023】
赤外線入射窓26及び導光域28は、平面視した形状が矩形をなしているが、遮光ドーム22の遮光域25を平面視した形状と相似形をなしており、遮光域25の周縁213における矩形と略合同をなしている。
赤外線入射窓26及び導光域28と遮光ドーム22は、
図2(a)に示すように、互いの一つの辺同士が対向するように、かつ、互いの長手方向Lの中央部が一致するように、幅方向Wに微小間隔をおいて並んで配列されている。
図1(d)に示すように、導光域28と遮光域25の境界部分に位置する側壁23の裾の部分が、導光域28と遮光域25を区画する区画壁29として機能している。ローラ2から放射された赤外線は、導光域28のみを介して熱変換フィルム40に入射する。導光域28から、区画壁29よりも内側、つまり遮光域25には赤外線が漏れない。
【0024】
センサケース20には、赤外線入射窓26及び導光域28がケース基部21の前方に偏って設けられ、赤外線入射窓26及び導光域28よりも後方側のケース基部21はスペースが空いている。このスペースが空いている領域は、後述するセンサカバー30の切欠き36に対応する。
【0025】
センサケース20は、例えばアルミニウム、銅のように熱伝導率の高い金属材料により、ケース基部21と遮光ドーム22及び赤外線入射窓26を含む導光域28とが一体的に形成される。本実施形態では、例えばアルミニウム合金からなる板材に機械加工を施すことにより、センサケース20を一体成形する。具体的には、ケース基部21の所定範囲を打ち抜くことにより赤外線入射窓26及び導光域28を形成し、かつ、ケース基部21の所定範囲をプレス加工により塑性変形することにより遮光ドーム22を形成することで、センサケース20が作製される。したがって、センサケース20は、ケース基部21及び遮光ドーム22の肉厚がT1で一定である。
後述するセンサカバー30も、熱伝導率の高い金属材料からなる板材を、打抜加工、プレス加工を施すことで、一体的に形成される。このように、センサケース20及びセンサカバー30を高熱伝導率の金属により形成することで、周囲の温度変化に追従して赤外線温度センサ10が全体として迅速に均一な温度になるのに寄与する。
【0026】
センサケース20において、遮光ドーム22の高さH1は、ケース基部21の厚さT1と同等〜数倍程度であり、ケース基部21の厚さT1が例えば0.5mmだとすれば、高さH1を0.5〜2.0mm程度に抑えることができる。上壁24の厚さがケース基部21の厚さT1と同等のため、遮光域25の高さは、高さH1と同等である。
このように、センサケース20は、ケース基部21の厚さT1の数倍程度しか有さない、非常に薄い部材である。また、赤外線入射窓26の周囲は、背の低い遮光ドーム22が一つの辺に隣接して設けられているだけである。
また、本実施形態において、遮光域25と導光域28は、うら面212側における平面形状が略合同であるため、容積が同等に形成されている。ここでいう同等とは、遮光域25と導光域28の容積が一致するのに加えて、遮光域25と導光域28の容積の差が30%程度までを含む。この差は、20%以下であることが好ましく、10%以下であることが好ましい。
【0027】
[センサカバー30]
次に、センサカバー30について説明する。
センサカバー30は、
図3に示すように、平面視した形状が矩形のカバー基部31と、カバー基部31のうら面312から突出する素子収容ドーム32(素子収容部)と、を備えている。
【0028】
カバー基部31は、
図3(a),(b)に示すように、おもて面311と、おもて面311の反対側に位置するうら面312と、を有している。なお、センサカバー30がセンサケース20に組み付けられると、センサケース20のうら面212とセンサカバー30のおもて面311が突き合わされる。カバー基部31は、
図1(a),(c)に示すように、平面視した外形の寸法が、センサケース20のケース基部21の外形と一致するように形成されている。
カバー基部31には、
図3(a)〜(c)に示すように、切欠き36が形成されている。切欠き36は、幅方向Wの両端の所定範囲を除いて、カバー基部31の後端から前方の所定範囲を略U字状に打ち抜くことで形成される。
【0029】
素子収容ドーム32は、
図3(c),(d)に示すように、外殻が四角錐台状に形成されている。素子収容ドーム32は、カバー基部31から傾斜して立ち上る側壁35と、側壁35の先端を繋ぐ矩形状の底床34と、赤外線検知素子43及び前記温度補償素子45を受け入れる矩形状の開口38とを備えている。素子収容ドーム32は、
図3(c)に示すように、うら面312からの高さがH2とされる。
素子収容ドーム32は、幅方向Wの寸法が、センサケース20の遮光ドーム22と赤外線入射窓26を合わせた幅方向Wの寸法とほぼ一致するように形成され、また、長手方向Lの寸法が遮光ドーム22や赤外線入射窓26の長手方向Lの寸法とほぼ一致するように形成されている。そして、センサカバー30にセンサケース20が組み付けられると、素子収容ドーム32の投影面に遮光ドーム22と赤外線入射窓26の全体が含まれる。
【0030】
素子収容ドーム32は、
図3(c),(d)に示すように、その内部の四角錐台状の空隙が素子収容室33をなしている。素子収容室33は、おもて面311の側が外部に対して開放されているが、うら面312の側は側壁35及び底床34により外部に対して閉じられている。ただし、センサカバー30にセンサケース20が組み付けられた状態では、
図1(d)に示すように、この開放されている部分も、センサカバー30とセンサケース20との間に介在する熱変換フィルム40によって閉じられる。
【0031】
素子収容ドーム32およびセンサケース20の遮光ドーム22は、平面視で矩形状に形成されている本実施形態には限定されず、円形、楕円、長円等の適宜な平面形状に形成することができる。平面視の形状に応じて、素子収容ドーム32および遮光ドーム22のそれぞれの側壁23,35の形態も変わる。例えば、素子収容ドーム32が、円形状の底床34と、赤外線検知素子43及び温度補償素子45を受け入れる円形状の開口38とを有し、円錐台状に形成されていてもよい。素子収容ドーム32と遮光ドーム22とを対称に形成する場合は、遮光ドーム22も円錐台状に形成すればよい。
【0032】
素子収容ドーム32の内部(素子収容室33)には、
図1(d)に示すように、赤外線検知素子43及び温度補償素子45が配置される。素子収容室33において、赤外線検知素子43及び温度補償素子45は、素子収容ドーム32の底床34と直接的に接触していない。素子収容室33内に含まれる空気は、断熱層の役割を果たし、赤外線検知素子43及び温度補償素子45への外部、特に赤外線温度センサ10の後方からの熱影響を最小限に抑える。ただし、空気による断熱層を設けることは望ましい形態ではあるが、本発明は赤外線検知素子43及び温度補償素子45がセンサカバー30と直接接触する形態を排除するものではない。なお、素子収容室33が外部と連通していると外部から異物が進入して赤外線検知素子43及び温度補償素子45の特性に悪影響を及ぼすおそれがあるので、素子収容室33は異物の進入を防げる程度の外部との密閉性を有していることが望ましい。
【0033】
図3に戻り、センサカバー30において、カバー基部31、側壁35及び底床34の厚さT3は任意であるが、電線60を切欠き36に引き回した際に、電線60がカバー基部31の板厚の範囲に納まるようにするために、電線60の太さ以上の厚さT3に設定されることが好ましい。例えば、電線60の直径が1mmだとすれば、カバー基部31の厚さT3を1mm以上とする。通常、センサケース20の厚さT1を電線60の太さよりも薄くしても必要な剛性を備えることができるので、センサカバー30よりセンサケース20を薄くできる。なお、切欠き36をセンサケース20の側に設ければ、この板厚の関係は逆になる。
【0034】
センサカバー30において、素子収容ドーム32の高さH2は、カバー基部31の厚さT3と同等であり、カバー基部31の厚さT3が例えば1mm〜2mm程度だとすれば、高さH2を1mm〜4mm程度に抑えることができる。
このように、センサカバー30は、カバー基部31の厚さT3の2倍程度しか有さない、非常に薄い部材である。
【0035】
[熱変換フィルム40]
熱変換フィルム40(
図1(d))は、赤外線が照射されると赤外線が持つエネルギーを熱に変換し、変換された熱が赤外線検知素子43に伝達されることにより、赤外線検知素子43により温度が検知される。
【0036】
熱変換フィルム40は、赤外線検知素子43と温度補償素子45を保持する。なお、赤外線検知素子43と温度補償素子45は、熱変換フィルム40上の図示を省略する配線パターンに電気的に接続されている。配線パターンの端末には、
図1(c)に示すように、電線60が繋がれている。電線60は、電線固定域37(
図1(c))から、長手方向Lに沿って外部へと引き出される。
熱変換フィルム40は、センサケース20およびセンサカバー30の外形にほぼ一致する形状に形成されている。熱変換フィルム40は、赤外線検知素子43および温度補償素子45を支持することに加え、赤外線検知素子43および温度補償素子45への熱影響(赤外線の直接輻射によるものを除く)を同等にするため、赤外線が入射しない遮光域25も含め、導光域28および遮光域25の両方に亘り配置されている。
熱変換フィルム40がセンサケース20とセンサカバー30の間に保持されると、赤外線検知素子43と温度補償素子45は、
図1(d)に示すように、センサカバー30の素子収容室33の内部に配置される。特に、本実施形態においては、赤外線検知素子43と温度補償素子45が、赤外線温度センサ10の幅方向Wの中心を基準に線対称の位置に配置される。より具体的に、赤外線検知素子43と温度補償素子45は、赤外線温度センサ10を幅方向Wに二等分する中心線C1(
図1(a))に対して線対称に配置される。中心線C1は、導光域28と遮光域25との境界部に位置する。
【0037】
熱変換フィルム40は、高分子材料からなる樹脂により形成される。赤外線を吸収する材料であれば樹脂の材質は問われず、PPS(ポリフェニレンスルフィド),ポリイミド、ポリエステル、ポリエチレン等の公知の樹脂を用いることができる。また、赤外線を吸収する材料であれば、樹脂以外の材料を用いることもできる。
また、熱変換フィルム40は、その厚さは任意であるが、赤外線吸収率を向上できること、及び、センサケース20とセンサカバー30の間に保持させる作業の際にしわが形成されるのを防ぐこと、を考慮すると、5〜50μm程度の厚さにすることが好ましい。
【0038】
[赤外線検知素子43及び温度補償素子45]
赤外線検知素子43は、検知対象物であるローラ2の表面から放射された赤外線が熱変換フィルム40に吸収されて生ずる熱により上昇した温度を検知し、温度補償素子45は雰囲気温度を検知する。
赤外線検知素子43及び温度補償素子45としては、例えば、小型の薄膜サーミスタ、白金温度センサ等の温度係数を持つ抵抗体を広く使用できるのであって、特定の材質、形態に限定されない。
【0039】
赤外線検知素子43は、ローラ2から放射される赤外線に加えて雰囲気温度(センサケース20、センサカバー30を含む)による熱影響下で温度を検知し、温度補償素子45は、雰囲気温度による熱影響下で温度を検知するので、各素子の熱影響としては、概念的に、下記のようになるのが理想的である。
赤外線検知素子−温度補償素子=
(「直接輻射」+「熱伝導」+「対流」+「再輻射」)−(「熱伝導」+「対流」+「再輻射」)
この時、検知対象物からの熱影響の内、赤外線検知素子43と温度補償素子45への影響の差は、赤外線の「直接輻射」のみとなるため、赤外線検知素子43による検知温度と温度補償素子45による検知温度との差に基づいて、検知対象物から発せられる赤外線を正確に検知できる。ただし、赤外線検知素子43における「熱伝導」+「対流」+「再輻射」による熱影響と、温度補償素子45による「熱伝導」+「対流」+「再輻射」における熱影響が同じであることが前提となる。
したがって、この赤外線検知素子43と温度補償素子45における熱伝導、対流及び再輻射による熱影響を同じにすることが望まれる。
【0040】
[赤外線温度センサ10]
赤外線温度センサ10においては、
図1に示すように、センサケース20とセンサカバー30が、各々の基部21,31の互いの周縁が一致するように位置決めされ、熱変換フィルム40を介して接合される。
熱変換フィルム40がセンサケース20とセンサカバー30により保持されると、平面視で、赤外線検知素子43は導光域28の略中央に配置され、温度補償素子45は遮光域25の略中央に配置される。本実施形態によれば、後述するように、赤外線検知素子43及び温度補償素子45が受ける熱影響を、ローラ2からの赤外線の照射を除けば、略同等にすることができる。
【0041】
また、センサケース20とセンサカバー30が組み付けられると、カバー基部31の切欠き36と切欠き36に対向する領域のケース基部21とにより、外部に引き出される電線60を固定する電線固定域37が形成される。つまり、
図1(c)に示すように、前述した熱変換フィルム40上の配線パターンに接続される電線60は、ケース基部21のうら面212と切欠き36に取り囲まれる空間に配置され、かつ、この電線60の上からモールド用の樹脂を塗布することで、赤外線温度センサ10に固定される。電線60を固定するために用いる樹脂としては、エポキシ等の公知の樹脂を用いることができる。
なお、本実施形態では、カバー基部31の厚さT3が電線60の太さと同等以上であるため、
図1(b)に示すように、電線60は、カバー基部31のうら面312からその外周面がはみ出すことがない。
【0042】
赤外線温度センサ10は、
図4に示すように、センサケース20のおもて面211の側が検知対象物であるローラ2に対向するように配置される。したがって、電線固定域37は、ローラ2との間にケース基部21が配置されるので、ローラ2から放射される赤外線が固定用の樹脂に照射されるのを防ぐことができる。また、モールド樹脂が電線固定域37から剥離した場合に、ローラ2に飛散するのを防ぐこともできる。
【0043】
赤外線温度センサ10は、図示を省略するが、温度検知用の回路を備えている。この検知回路は任意であり、例えば特許文献1に記載されている公知の検知回路を用いることができる。また、温度検知の手順についても同様である。
【0044】
[赤外線温度センサ10の動作]
次に、赤外線温度センサ10の動作について説明する。
赤外線温度センサ10は、熱源であるローラ2に対して赤外線検知素子43と温度補償素子45の温度勾配が同じになるように、
図4(b)に示すように、ローラ2の回転軸線Cに対して平行に配置される(赤外線検知素子43と温度補償素子45とが並ぶ幅方向Wと回転軸線Cが平行)。なお、赤外線温度センサ10が回転軸線Cに対して厳密に平行である必要はなく、若干のずれは許容される。ローラ2の表面から赤外線検知素子43までの距離と、ローラ2の表面から温度補償素子45までの距離とが一致する、あるいはほぼ一致することが好ましい。
【0045】
そして、トナー定着器1の定着手段としてのローラ2の発熱等により対流が発生する。
ローラ2から赤外線温度センサ10に向けて照射される赤外線は、赤外線入射窓26(
図1(d))から取り込まれ、導光域28を通過して熱変換フィルム40に照射される。このようにローラ2の表面から放射される赤外線が導光域28を経て熱変換フィルム40に達すると、熱変換フィルム40に吸収されて赤外線が持つエネルギーは熱に変換され、赤外線検知素子43に伝達され、赤外線検知素子43の温度が上昇する。
【0046】
また、ローラ2から赤外線温度センサ10に向けて照射される赤外線は、遮光ドーム22の側壁23、上壁24及びケース基部21にも照射される。また、これら各要素はローラ2の発熱等により発生する対流の影響も受ける。
赤外線検知素子43に通じる導光域28と温度補償素子45が位置する遮光域25を略対称の形態とする。ここでいう略対称の形態とは、平面視して、導光域28と遮光域25の形状と寸法が同等であることをいう。
また、本実施形態は、赤外線検知素子43及び温度補償素子45の配置が対称をなしている。ここでいう位置の対称とは、
図1(d)において、区画壁29の下端部分を対称の軸(
図1(a)の中心線C1上にある)として、赤外線検知素子43と温度補償素子45が線対称の位置に配置されていることをいう。この線対称の位置の例としては、本実施形態の如く、平面視で、赤外線検知素子43が導光域28の中央に配置され、温度補償素子45が遮光域25の中央に配置されるのに加え、赤外線検知素子43と温度補償素子45が、この中央から区画壁29に近寄る又は離れる場合が挙げられる。また、他の例として、赤外線検知素子43と温度補償素子45の双方が、この中央から長手方向Lのいずれか一方の同じ向きに変位する場合が掲げられる。
本実施形態においては、センサケース20およびセンサカバー30を熱伝導率の高い金属材料で形成することにより、赤外線温度センサ10の均熱化が図られる。それに加えて、赤外線検知素子43の位置する導光域28と温度補償素子45の位置する遮光域25が略対称の形態をなし、かつ、赤外線検知素子43と温度補償素子45が位置の対称をなしていることにより、ローラ2からの「熱伝導」+「対流」+「再輻射」を赤外線温度センサ10全体として均一に受け、温度を検知する赤外線検知素子43および温度補償素子45に同等に熱影響を与えることができる。
本実施形態のように、赤外線検知素子43と温度補償素子45が略対称の形態をなし、かつ、赤外線検知素子43と温度補償素子45が位置の対称をなしていると、ローラ2からの「熱伝導」+「対流」+「再輻射」を赤外線検知素子43と温度補償素子45のいずれも同等に受けることができる。
そのため、赤外線検知素子43と温度補償素子45への熱影響の差は、赤外線の「直接輻射」のみとなり、ローラ2から発せられる赤外線を正確に検知できる。つまり、「直接輻射」の影響が、抵抗値の変化の差として出力される。
【0047】
[赤外線温度センサ10の効果]
赤外線温度センサ10が奏する効果について説明する。
赤外線温度センサ10は、導光域28と遮光域25が、略対称の形態をなしており、加えて、赤外線検知素子43と温度補償素子45は、幅方向Wについて、対称の位置に配置されているので、赤外線の照射を除いて赤外線検知素子43と温度補償素子45が受ける熱エネルギーを同等にできる。したがって、赤外線温度センサ10は、赤外線検知素子43による検知温度と温度補償素子45による検知温度との差分を取ることにより、赤外線の照射による熱エネルギーのみを正確に検知することができる。
【0048】
次に、赤外線温度センサ10の赤外線入射窓26の周囲は、遮光ドーム22を除けば平坦な面からなり、遮光ドーム22を除けば、ローラ2から赤外線温度センサ10に向けて照射される赤外線が赤外線入射窓26を介して導光域28に入射されるのを遮る部位がない。したがって、赤外線入射窓26が小さくても、導光域28に取り込まれる赤外線量を確保できる。
例えば、
図5(c)の破線で示すように、側壁127がおもて面211から突出して形成されており、その先端に赤外線入射窓126が開口されているものとする。これは特許文献1に開示される赤外線温度センサを想定している。この形態によれば、
図5(c)の一点鎖線で示す境界Bよりも下方において、赤外線入射窓126に入射しようとする赤外線Iの一部が側壁127に遮られてしまう。これに対して、本実施形態の赤外線入射窓26は、おもて面211に開口しているので、
図5(c)に示すように、ローラ2から放射される赤外線Iが遮られずに赤外線入射窓26に入射される。
【0049】
遮光ドーム22は、赤外線入射窓26に入射される赤外線を遮る要素にはなるが、上壁24に向けて先細りになっており、側壁23が傾斜している。したがって、
図5(b)に示すように、側壁23の角度に応じて、ローラ2から赤外線温度センサ10に向けて照射される赤外線を極力遮ることなく赤外線入射窓26に入射させることができる。
これに対して、
図5(a)に示すように、おもて面211から側壁23が垂直に立ち上がると、
図5(a)の一点鎖線で示す境界Bよりも下方において、赤外線Iが遮られる。ただし、遮光ドーム22は、高さH1がケース基部21の厚さT1の数倍程度に留まるので、側壁23が垂直に立ち上がったとしても、そもそも赤外線を遮る程度が小さい。
【0050】
赤外線温度センサ10は、遮光ドーム22の高さH1がケース基部21の厚さT1の数倍程度と低いことにより、以下の効果も奏する。
赤外線温度センサ10は、ローラ2から放射された赤外線を熱変換フィルム40で熱へ変換して温度を計測するので、ローラ2から赤外線温度センサ10までの距離は、ローラ2と赤外線を直接受ける熱変換フィルム40との間の距離となる。そのため、遮光ドーム22の高さH1をより低く形成できれば、ローラ2から遮光ドーム22の上壁24までの距離をより長くして、遮光ドーム22から熱変換フィルム40への熱影響を抑えることができる。つまり、高さH1が低いことにより、赤外線温度センサ10がローラ2から受ける熱影響が小さいので、センサケース20、センサカバー30を耐熱性の高い高価な金属材料で構成しなくてすむ。
【0051】
次に、熱変換フィルム40が設けられる開放部分を除いて、遮光域25及び導光域28は、センサケース20を構成する金属材料に直接的に臨む。導光域28を区画するケース基部21の壁面や、遮光域25を区画する遮光ドーム22の内壁面には、部材が何ら配置されていない。これは、本実施形態の赤外線温度センサ10では、特許文献1が必要としている赤外線吸収成形体(50)が排除されていることを意味する。したがって、赤外線温度センサ10によれば、従来の赤外線温度センサに比べて部品点数を削減できるので、赤外線温度センサ10の低コスト化に寄与できる。
赤外線吸収成形体(50)は、胴部(22)の内壁面から反射する赤外線、及び、加熱された胴部(22)から発せられる赤外線による影響が赤外線検知素子43及び温度補償素子45に及ぶのを回避又は抑制するために設けられる。しかし、本実施形態による赤外線温度センサ10は、遮光ドーム22の側壁23及び導光域28を取り囲む側壁27の高さが低く、壁の面積が小さいので、上記赤外線の反射や放射による影響が微小であることから、赤外線吸収成形体(50)を省くことができる。
【0052】
次に、センサカバー30については、赤外線検知素子43及び温度補償素子45を囲む側壁35がカバー基部31に対して傾斜していることにより、次のような効果が得られる。
素子43,45から、素子43,45に対向する底床34までの距離が一定とした場合に、側壁35が傾斜していると、カバー基部31に対して側壁35が垂直に形成されている場合と比べ、素子収容ドーム32の内側(素子収容室33)の容積を小さく抑えることができる。
ここで、素子43,45と、素子43,45に対向するセンサカバー30の部位との間の距離は、素子43,45とセンサカバー30との間にショート(短絡)を発生させない耐電圧と、若干のマージンとによって決められる。そして、素子収容ドーム32内の容積が小さいほど、素子収容ドーム32の内部温度が、素子収容ドーム32の周囲の温度変化に迅速に追従し、その内部温度が素子43,45により検知されることとなる。
したがって、センサカバー30の側壁35が傾斜していることにより、素子43,45とセンサカバー30との間に耐電圧確保に必要な距離を取りつつ、赤外線温度センサ10の応答性を向上させることができる。
【0053】
以上に加えて、センサカバー30が、カバー基部31から傾斜して立ち上がる側壁35を備えることは、センサカバー30の製造上の利点も有する。カバー基部31から側壁35が傾斜して立ち上がっていると、センサカバー30をプレス加工や射出成形により形成する際に、センサカバー30を金型から取り外し易い。そのため、金型から取り外されたセンサカバー30の変形を抑え、センサカバー30の変形が検知精度に影響するのを避けることができる。この傾斜した側壁35により、例えば熱源が発生した熱風がセンサカバー30に当たることにより素子43,45に直接的に影響が及んで計測値が変化してしまうことなどを防ぐことができる。
【0054】
次に、赤外線温度センサ10は、センサケース20及びセンサカバー30を、打抜き加工及びプレス加工により作製できるので、例えば鋳造により作製するのに比べて、低コストで赤外線温度センサ10を製造することができる。
また、遮光ドーム22が突出する高さH1及び素子収容ドーム32が突出する高さH2は、ケース基部21やカバー基部31の板厚の数倍程度と低いので、赤外線温度センサ10の全体としての厚さを抑えることができる。
【0055】
以上、本発明を好適な実施形態に基づいて説明したが、本発明の主旨を逸脱しない限り、上記実施形態で挙げた構成を取捨選択したり、他の構成に適宜変更したりすることが可能である。
【0056】
例えば、本実施形態では、導光域28と遮光域25は側壁23の裾の部分の区画壁29により区画されるが、さらに、導光域28と遮光域25の間隔を長くすることで、ケース基部21も区画壁に含めることができる。
【0057】
また、本実施形態における側壁23は、その全周が傾斜してケース基部21から立ち上るが、少なくとも導光域28に隣接する領域が傾斜していればよい。この形態においても、赤外線が赤外線入射窓26に入射されるのを遮る程度を小さくできる。
【0058】
本発明の赤外線温度センサの用途は限定されず、検知対象物、例えばローラ2の温度が過度に上昇したときに、トナー定着器1の運転を緊急停止させるための、いわゆるハイカット用のセンサとして用いることもできるし、それ以外の検知対象物の温度制御に用いることもできる。
【0059】
また、本発明において、センサケース20とセンサカバー30の素材は、高熱伝導率の金属は望ましい形態であるが、本発明はこれに限定されるものではなく、必要とされる熱伝導率を備えていれば、樹脂、その他の素材により形成できる。
【0060】
赤外線検知素子43と温度補償素子45は、必ずしも、上記実施形態のように導光域28と遮光域25との境界部を軸として厳密に線対称である必要はない。本発明の目的を達成できる限りにおいて、導光域28と遮光域25の境界部を軸として線対称をなす位置から赤外線検知素子43と温度補償素子45が少しずれている構成をも本発明は包含する。
同様に、導光域28と遮光域25は、厳密に対称の形態である必要はない。本発明の目的を達成できる限りにおいて、導光域28と遮光域25の形状や寸法が少し異なる構成をも本発明は包含する。