(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を図面に示す実施形態に基づき説明する。
【0016】
磁芯
本発明に係る磁芯の形状は、
図1に示したドラム型のほか、FT型、ET型、EI型、UU型、EE型、EER型、UI型、トロイダル型、ポット型、カップ型等を例示することができる。本実施形態では、
図1に示すように、磁芯1はドラムコア形状を有しており、コア部2の表面全体に被覆層10が形成された構成を有している。
【0017】
コア部
コア部2は、円柱または角柱状の巻芯部4と、その巻芯部4の軸方向に沿って両側に一体的に形成してある一対の鍔部5とを有する。鍔部5の外径は、巻芯部4の外径よりも大きく、巻芯部4の外周には、鍔部5にて囲まれた凹部6が形成してある。そして、その凹部6にワイヤ30を巻回することでコイル部品とされる。
【0018】
コア部2の寸法は、特に制限されないが、本実施形態では、巻芯部4の外径は0.6〜1.2mmであり、巻芯部4の軸方向幅は0.3〜1.0mm、鍔部5の外径は2.0〜3.0mmであり、鍔部5の厚みは0.2〜0.3mm、鍔部5の外周表面から巻芯部4の外周表面までの深さは、0.5〜1.0mmである。なお、鍔部5の形状は、円形の他、四角形、八角形などでもよい。
【0019】
コア部2は、本実施形態に係る軟磁性体組成物で構成してある。
【0020】
本実施形態に係る軟磁性体組成物は、複数の軟磁性合金粒子と、前記軟磁性合金粒子間に存在する粒界と、を有し、
前記軟磁性合金粒子は、Fe−Si−Al系合金粒子またはFe−Si−Cr系合金粒子であり、
前記粒界には、Siを含有する層が存在することを特徴とする。
【0021】
本実施形態に係る軟磁性体組成物は、上記構成を満足することにより、優れた磁気特性が得られると共に、比較的低い成形圧で成形された場合であっても、磁芯として十分な強度を得ることができる。また、加圧成形に際して、比較的低い成形圧により成形できることから、金型への負担のさらなる低減を図ることができ、生産性を向上することができる。
【0022】
本実施形態に係る軟磁性体組成物は、
図4に示すように、複数の軟磁性合金粒子21と、軟磁性合金粒子間に存在する粒界30と、を有する。
【0023】
本実施形態に係るSiを含有する層は、2つの粒子間に形成される粒界30または3つ以上の粒子の間に存在する粒界31(3重点など)に存在している。このようなSiを含有する層の存在により、本実施形態に係る磁芯は、比較的低い成形圧で成形された場合であっても、磁芯として十分な強度を得ることができる。さらに、このようなSiを含有する層は、粒界に存在することで絶縁体の役割を果たす。
【0024】
本実施形態に係るSiを含有する層は、好ましくは、Si酸化物層あるいはSi複合酸化物層である。
【0025】
なお、本発明において、酸化物層および複合酸化物層とは、アモルファス層、結晶層、およびこれらの混合層を含む広い概念である。
【0026】
本実施形態に係るSi酸化物層およびSi複合酸化物層としては、特に限定されるものではないが、例えばSiを含有するアモルファス層、アモルファスシリコン、シリカ、Si−Cr複合酸化物等が挙げられる。
【0027】
本実施形態に係るSiを含有する層は、好ましくは、さらに軟磁性合金粒子の表面に存在する。該軟磁性合金粒子の表面に存在するSiを含有する層は、好ましくはSi―Cr複合酸化物層である。Si―Cr複合酸化物層は、特に限定されるものではないが、SiおよびCrを含有するアモルファス層等が挙げられる。
【0028】
本実施形態に係るSiを含有する層は、好ましくは、アモルファス質で構成されている。なお、一部が結晶質で構成されていてもよい。
【0029】
本実施形態に係るSiを含有する層の厚みは、好ましくは、0.01〜0.2μm、より好ましくは、0.01〜0.1μmである。
なお、Siを含有する層は、必ずしも軟磁性合金粒子の表面の全体を覆うように形成されている必要はなく、軟磁性合金粒子の表面の一部に形成されていてもよい。また、Siを含有する層の厚みは均一でなくてもよく、該組成も均質でなくてもよい。
【0030】
本実施形態に係るSiを含有する層の有無やその厚みは、後述する磁芯の製造方法における、結合材の種類やその添加量、その他の添加成分、成形体の熱処理温度および雰囲気等により制御することができる。
【0031】
本実施形態において、Siを含有する層が軟磁性合金粒子の表面および粒界に存在しているか否かを判断する方法としては、特に制限されず、たとえば、Siのマッピング画像を解析することで判断してもよい。以下に具体的な方法を示す。
【0032】
まず、走査透過型電子顕微鏡(STEM)を用いて磁芯を観察することにより、軟磁性合金粒子と粒界とを判別する。具体的には、誘電体層の断面をSTEMにより撮影し、明視野(BF)像を得る。この明視野像において軟磁性合金粒子と軟磁性合金粒子との間に存在し、該軟磁性合金粒子とは異なるコントラストを有する領域を粒界とする。異なるコントラストを有するか否かの判断は、目視により行ってもよいし、画像処理を行うソフトウェア等により判断してもよい。
【0033】
なお、Cr等の他の元素についても同様の方法でマッピング画像を作成、観察することができる。
【0034】
本実施形態に係る軟磁性合金粒子の平均結晶粒子径は、好ましくは30〜60μmである。平均結晶粒子径を上記の範囲とすることで、磁芯の薄層化を容易に実現することができる。
【0035】
本実施形態に係る軟磁性合金粒子は、Fe−Si−Al系合金粒子またはFe−Si−Cr系合金粒子である。
【0036】
軟磁性合金粒子が上記組成を満足することにより、本実施形態に係る軟磁性体組成物は、優れた磁気特性が得られると共に、比較的低い成形圧で成形された場合であっても、磁芯として十分な強度を得ることができる。また、加圧成形に際して、比較的低い成形圧により成形できることから、金型への負担のさらなる低減を図ることができ、生産性を向上することができる。また、軟磁性合金粒子が上記組成を満足することにより、界面30にSiを含有する層が形成されやすくなる。
【0037】
Fe−Si−Al系合金粒子の組成は、特に限定されるものではないが、好ましくは、アルミニウム(Al)をAl換算で0.5〜10.5質量%、ケイ素(Si)をSi換算で4.5〜14.5質量%含有し、残部が鉄(Fe)で構成される。
【0038】
軟磁性合金粒子において残部は、鉄(Fe)のみから構成されていてもよい。
【0039】
Fe−Si−Cr系合金粒子の組成は、特に限定されるものではないが、好ましくは、クロム(Cr)をCr換算で1.5〜8質量%、ケイ素(Si)をSi換算で1.4〜9質量%含有し、残部が鉄(Fe)で構成される。
【0040】
軟磁性合金粒子におけるクロム(Cr)の含有量は、Cr換算で、好ましくは1.5〜8質量%、より好ましくは3〜7質量%である。Crの含有量が少なすぎると、強度および磁気特性が低下する傾向にあり、多すぎると、強度が低下する傾向にある。
【0041】
軟磁性合金粒子におけるケイ素(Si)の含有量は、Si換算で、好ましくは1.4〜9質量%、より好ましくは4.5〜8.5質量%である。Siの含有量が少なすぎても多すぎても、強度および磁気特性が低下する傾向にある。
【0042】
軟磁性合金粒子において残部は、鉄(Fe)のみから構成されていてもよい。
【0043】
本実施形態に係る軟磁性体組成物は、上記軟磁性体合金粒子の構成成分以外にも、炭素(C)および亜鉛(Zn)等の成分が含まれることがある。
なお、Cは、軟磁性体組成物の製造過程で用いられる有機化合物成分に由来すると考えられる。また、Znは、軟磁性体組成物を圧粉成形により得る際に、装置の抜き圧を低減させるために金型に添加するステアリン酸亜鉛に由来すると考えられる。
【0044】
本実施形態に係る軟磁性体組成物における、炭素(C)の含有量は、好ましくは0.05質量%未満であり、より好ましくは0.01〜0.04質量%である。Cの含有量が多すぎると、磁芯としての十分な強度が得られない傾向にある。
【0045】
本実施形態に係る軟磁性体組成物における、亜鉛(Zn)の含有量は、好ましくは0.004〜0.2質量%であり、より好ましくは0.01〜0.2質量%である。Znの含有量が多すぎても、また逆に少なすぎても磁芯としての十分な強度が得られない傾向がある。
【0046】
なお、本実施形態に係る軟磁性体組成物には、上記成分以外にも、不可避的不純物が含まれていてもよい。
【0047】
また、コア部2の熱膨張係数は、軟磁性体組成物の組成により変化するが、おおむね9×10
−6/℃〜10×10
−6/℃程度である。
【0048】
被覆層
被覆層10の材質としては、コア部2の熱膨張係数以下である熱膨張係数を有するものであれば、特に制限されず、たとえば、ガラス組成物、SiO
2、B
2O
3、ZrO
2等が例示される。なお、被覆層10は複数の材質から構成されていてもよいし、複数の層からなる積層構造を有していてもよい。
【0049】
本実施形態では、被覆層10はガラス組成物から構成されることが好ましい。ガラス組成物としては、コア部2の表面に非晶質の状態で形成されるもの、あるいは結晶化ガラスとして形成されるものであれば特に制限されず、たとえば、Si−B系ガラス(ホウケイ酸ガラス)、無アルカリガラス、鉛系ガラス等が例示される。
【0050】
ガラス組成物の熱膨張係数は、ガラス組成物に含有される成分の組成や、各成分の含有量等により変化する。したがって、ガラス組成物の熱膨張係数が、コア部2の熱膨張係数以下となるように、成分の組成や含有量を適切に設定する必要がある。
【0051】
被覆層10は、電力損失の改善効果が得られる程度に被覆されていれば特に限定されないが、コア部2の表面の少なくとも一部に形成されていればよく、コア部2の表面積に対して、被覆層が形成される割合(被覆率)を、好ましくは50〜100%、より好ましくは90〜100%とする。被覆率が高くなるほど、コア部2の欠け等を防止する保護層としての役割も大きくなる。
【0052】
なお、
図1では、被覆率が100%の場合を示している。また、コア部2において、ワイヤ等が巻回される部分(本実施形態では凹部6)付近に被覆層10が形成されていると、より高い効果が得られやすい。
【0053】
被覆層10の厚みは、電力損失の改善効果が得られる程度の厚みであれば特に限定されないが、好ましくは0μm超50μm以下、より好ましくは5μm以上25μm以下である。被覆層10が形成されていれば、電力損失が改善されるが、被覆層が厚くなりすぎると、電力損失の改善効果に対する寄与が少なく、製造コストが増加するため好ましくない。また、被覆層がある程度の厚みを有していると、コア部の保護層としての機能を果たすこともできる。そのため、被覆層10の厚みは上記の範囲内であることが好ましい。
【0054】
さらに、被覆層10が絶縁性を有していれば、コア部2が導電性であっても、巻回されるワイヤとの絶縁を確保することができる。
【0055】
次に、本実施形態に係る磁芯として、被覆層10がガラス組成物で構成されている磁芯の製造方法の一例を説明する。
【0056】
本実施形態に係る製造方法は、好ましくは、
軟磁性体合金粉末と、結合材とを混合し、混合物を得る工程と、
混合物を乾燥させて塊状の乾燥体を得た後、この乾燥体を粉砕することにより、造粒粉を形成する工程と、
混合物または造粒粉を、作製すべき圧粉磁心の形状に成形し、成形体を得る工程と、
得られた成形体を加熱することにより、結合材を硬化させ、コア部2を得る工程と、
得られたコア部2に焼成前被覆層を形成する工程と、
焼成前被覆層が形成されたコア部2を熱処理して被覆層10を形成し、磁心を得る工程と、を有する。
【0057】
本実施形態に係る製造方法により得られた磁芯は、上記本実施形態に係る軟磁性体組成物によって構成されている。
【0058】
軟磁性体合金粉末としては、Fe−Si−Al系合金粒子またはFe−Si−Cr系合金粒子を用いることができる。
【0059】
軟磁性合金粉末の形状は特に制限はないが、高い磁界域までインダクタンスを維持する観点から、球状又は楕円体状とすることが好ましい。これらの中では、圧粉磁芯の強度をより大きくする観点から、楕円体状が望ましい。また、軟磁性合金粉末の平均粒径は、好ましくは10〜80μm、より好ましくは30〜60μmである。平均粒径が小さすぎると透磁率が低くなり、軟磁性材料としての磁気特性が低下する傾向にあり、また、取り扱いが難しくなる。一方、平均粒径が大きすぎると、渦電流損失が大きくなると共に、異常損失が増大する傾向にある。
【0060】
軟磁性合金粉末は、公知の軟磁性合金粉末の調製方法と同様の方法により得ることができる。この際、ガスアトマイズ法、水アトマイズ法、回転ディスク法等を用いて調製することができる。これらの中では、所望の磁気特性を有する軟磁性合金粉末を作製しやすくするため、水アトマイズ法が好ましい。
【0061】
結合材としては、シリコン樹脂を含むものを用いる。結合剤としてシリコン樹脂を用いることにより、軟磁性組成物の粒界に、Siを含有する層が効果的に形成される。このような軟磁性体組成物により構成された磁芯は、比較的低い成形圧で成形した場合であっても、十分な強度を有する。
【0062】
なお、本発明の効果を妨げない範囲でその他の結合材が含まれていてもよい。その他の結合材としては、例えば各種有機高分子樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂及び水ガラス等が挙げられる。
【0063】
結合材は、シリコン樹脂を単独で、又はその他の結合材とで組み合わせて用いることができる。なお、軟磁性体組成物中の炭素(C)の含有量を0.05質量%未満に制限することが好ましい観点から、結合材は、主としてシリコン樹脂を用いることが好ましい。軟磁性体組成物中のCの含有量が多すぎると、得られる磁芯の強度が低下する傾向にある。
【0064】
結合材の添加量は、必要とされる磁芯の特性に応じては異なるが、好ましくは軟磁性体合金粉末100重量部に対して、1〜10重量部添加することができ、より好ましくは軟磁性体合金粉末100重量部に対して、3〜9重量部である。結合材の添加量が多すぎると、透磁率が低下し、損失が大きくなる傾向にある。一方、結合材の添加量が少なすぎると、絶縁を確保し難くなる傾向にある。
【0065】
シリコン樹脂の添加量は、好ましくは軟磁性体合金粉末100重量部に対して、3〜9重量部である。シリコン樹脂の添加量が少なすぎると、軟磁性組成物の粒界にSiを含有する層が形成されにくくなり、成形品としての強度が低下する傾向にある。
【0066】
また、前記混合物または造粒粉には、本発明の効果を妨げない範囲で、必要に応じて有機溶媒を添加してもよい。
有機溶媒としては、結合材を溶解し得るものであれば特に限定されないが、例えば、トルエン、イソプロピルアルコール、アセトン、メチルエチルケトン、クロロホルム、酢酸エチル等の各種溶媒が挙げられる。
【0067】
また、前記混合物または造粒粉には、本発明の効果を妨げない範囲で、必要に応じて各種添加剤、潤滑剤、可塑剤、チキソ剤等を添加してもよい。
【0068】
潤滑剤としては、例えば、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸バリウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛及びステアリン酸ストロンチウム等が挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。これらの中では、いわゆるスプリングバックが小さいという観点から、潤滑剤としてステアリン酸亜鉛を用いることが好ましい。
【0069】
潤滑剤を用いる場合には、その添加量は、好ましくは軟磁性体合金粉末100重量部に対して、0.1〜0.9重量部であり、より好ましくは軟磁性体合金粉末100重量部に対して、0.3〜0.7重量部である。潤滑剤が少なすぎると、成形後の脱型が困難となり、成形クラックが生じやすい傾向にある。一方、潤滑剤が多すぎると、成形密度の低下を招き、透磁率が減少してしまう。
【0070】
特に、潤滑剤としてステアリン酸亜鉛を用いる場合には、得られる軟磁性体組成物中の、亜鉛(Zn)の含有量が、0.004〜0.2質量%の範囲内となる、添加量を調整することが好ましい。Znの含有量が多すぎると、磁芯としての十分な強度が得られない傾向にある傾向がある。
【0071】
混合物を得る方法としては、特に限定されるものではないが、従来公知の方法により、軟磁性体合金粉末と結合材と有機溶媒とを混合して得られる。なお、必要に応じて各種添加材を添加してもよい。
混合に際しては、例えば、加圧ニーダ、アタライタ、振動ミル、ボールミル、Vミキサー等の混合機や、流動造粒機、転動造粒機等の造粒機を用いることができる。
また、混合処理の温度および時間としては、好ましくは室温で1〜30分間程度である。
【0072】
造粒粉を得る方法としては、特に限定されるものではないが、従来公知の方法により、混合物を乾燥した後、乾燥した混合物を解砕して得られる。
乾燥処理の温度および時間としては、好ましくは室温〜200℃程度で、5〜60分間である。
【0073】
必要に応じて、造粒粉には、潤滑剤を添加することができる。造粒粉に潤滑剤を添加した後、5〜60分間混合することが望ましい。
【0074】
成形体を得る方法としては、特に限定されるものではないが、従来公知の方法により、所望する形状のキャビティを有する成形金型を用い、そのキャビティ内に混合物または造粒粉を充填し、所定の成形温度及び所定の成形圧力でその混合物を圧縮成形することが好ましい。
【0075】
圧縮成形における成形条件は特に限定されず、軟磁性合金粉末の形状及び寸法や、圧粉磁芯の形状、寸法及び密度などに応じて適宜決定すればよい。例えば、通常、最大圧力は100〜1000MPa程度、好ましくは400〜800MPa程度とし、最大圧力に保持する時間は0.5秒間〜1分間程度とする。
【0076】
本実施形態に係る製造方法では、結合材がシリコン系樹脂を含むことにより、上記最大圧力まで、成形圧力を低減させることができる。さらに、このように成形圧力を低減した場合であっても、磁芯を構成する軟磁性体組成物の粒界にはSiを含有する層が形成されることから、磁芯は十分な強度を有するものとなる。その結果、製造コストを低減でき、生産性及び経済性を向上することができる。
【0077】
なお、成形圧力が低すぎると、成形による高密度化及び高透磁率化を図り難くなる共に、十分な機械的強度が得られにくい傾向にある。一方、成形時の成形圧が高すぎると、圧力印加効果が飽和する傾向にあるとともに、製造コストが増加して生産性及び経済性が損なわれ得る傾向にあり、また、成形金型が劣化し易くなり耐久性が低下する傾向にある。
【0078】
成形温度は、特に限定されないが、通常、室温〜200℃程度が好ましい。なお、成形時の成形温度を上げるほど成形体の密度は上がる傾向にあるが、高すぎると軟磁性合金粒子の酸化が促進されて、得られる磁芯の性能が劣化する傾向にあり、また、製造コストが増加して生産性及び経済性が損なわれ得る。
【0079】
成形後に得られる成形体を熱処理する方法は、公知の方法により行えばよく、特に限定されないが、一般的には、成形により任意の形状に成形された成形体を、アニール炉を用いて所定の温度で熱処理することにより行うことが好ましい。
【0080】
熱処理時の処理温度は、特に限定されないが、通常、600〜900℃程度が好ましく、より好ましくは700〜850℃である。熱処理時の処理温度が高すぎても、また低すぎても磁芯としての十分な強度が得られない傾向にある
【0081】
熱処理工程は、酸素含有雰囲気下にて行うことが好ましい。ここで、酸素含有雰囲気とは、特に限定されるものではないが、大気雰囲気(通常、20.95%の酸素を含む)、または、アルゴンや窒素等の不活性ガスとの混合雰囲気等が挙げられる。好ましくは大気雰囲気下である。酸素含有雰囲気下で熱処理することで軟磁性体組成物の粒界にSiを含有する層を効果的に形成することができる。
【0082】
また、このようにして得られたコア部は、成形密度が5.50g/cm
3以上であることが好ましい。成形密度が5.50g/cm
3以上に、高密度化された圧粉磁芯は、高透磁率、高強度、高コア抵抗、低コアロスといった各種性能においても優れる傾向にある。
【0083】
次に得られたコア部2に対して、
図2に示すバレル装置を用いて、コア部2の表面に、ガラス組成物、バインダ樹脂等から構成される熱処理前の被覆層10aを形成する。
【0084】
図2に示すバレル装置20は、円柱状または角柱状のシリンダケーシング20aを有し、その中空の内部に、バレル容器22が、その軸芯回りに矢印A方向(またはその逆方向)に回転自在に収容してある。
【0085】
ケーシング20aには、入口管23と出口管24とがそれぞれ形成してある。入口管23からは乾燥用気体がケーシング20aの内部に入り込み、出口管24からケーシング内部の空気を排出可能になっている。
【0086】
バレル容器22の内部における軸芯位置には、スプレーノズル25が軸方向に沿って配置してあり、ノズル25から、バレル容器22の内部に貯留してある多数のコア部2に向けてスラリー26を吹き付け可能になっている。バレル容器22は、矢印A方向に回転するために、コア部2は、
図2に示すような状態で存在し、バレル容器22の回転により撹拌される。
【0087】
ノズル25は、コア部2の集合に向けてスラリー26を噴霧することができるようになっている。なお、ノズル25からのスラリーの噴霧方向を自由に変えられるようにしても良い。また、ケーシング20aには、図示省略してある排出パイプが接続してあり、余分なスラリー26を排出可能になっている。
【0088】
バレル容器22の壁には、外部と内部とを連通する多数の孔が形成してあり、ケーシング20aの下方に貯留してあるスラリー26は、バレル容器22の内部にも侵入し、そのスラリー26にコア部2を浸漬することができる。また、乾燥用気体が入口管23からケーシング20aを通り出口管24へと流通する際には、バレル容器22の内部にも流通するようになっている。
【0089】
熱処理前の被覆層10aを形成するために、まず、コア部2を、
図2に示すバレル容器22の内部に多数収容する。そして、バレル容器22を回転させ、コア部2の集合を撹拌しながら、ノズル25からスラリー26を吹き付けて、熱処理前の被覆層10aを形成する。
【0090】
スラリー26は、上述したガラス組成物を粉砕して得られるガラス粉末と、バインダ樹脂と、溶剤とを含む。さらにその他の添加物を含んでいてもよい。ガラス組成物は、該組成物を構成する酸化物、ハロゲン化物等の非酸化物等の原料を混合、溶融し、急冷して非晶質とすればよい。また、ガラス組成物として、結晶化ガラスを用いてもよい。本実施形態では、ガラス粉末としてSi−B系ガラスを用いる。ガラス粉末の平均粒径(メジアン径)は、特に限定されないが、好ましくは、0.1μm以上10μm以下の範囲である。
【0091】
スラリー26に含まれるバインダ樹脂はポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルアルコール樹脂変性体、またはこれらの混合物であることが好ましい。このようにすることで、形成される熱処理前の被覆層10aは、コア部2との密着性に優れる。
【0092】
溶剤は、水を含むことが好ましい。溶剤は水のみでもよいが、ガラス粉末の表面と水との接触角が大きいときは、エタノール、イソプロピルアルコール(IPA)、イソブチルアルコール(IBA)等の水溶性のアルコールを一定の割合で混ぜることにより、ガラス粉末の凝集や沈降を抑制することが好ましい。
【0093】
コア部2に吹き付けられたスラリー26は、各コア部2の表面を覆い焼成前被覆層10aを形成する。この時、余分なスラリー26は、図示省略してある排出パイプを通して排出される。ノズル25からスラリー26を吹き付ける処理時間は、特に限定されないが、たとえば30〜180分程度である。また、スプレー時のスラリー26の温度は、溶剤の組成にもよるが40℃以上100℃以下が好ましい。沸点の低い溶剤を使用する場合は、上記温度範囲内で温度を下げることが好ましい。
【0094】
次に、スラリー26をスプレーしながら同時に熱処理前の被覆層10aの乾燥処理を行う。乾燥処理では、入口管23から乾燥用気体をケーシング20aの内部に流し込み、出口管24から排出させる。この乾燥処理に用いる乾燥用気体は、たとえば温度50〜100℃の空気である。スプレー処理後、さらに乾燥処理を、たとえば5〜30分行ってもよい。
【0095】
乾燥処理後、熱処理前の被覆層10aが形成されたコア部2は、バレル容器22から取り出され、熱軟化処理される。熱処理条件は、熱処理前の被覆層10aに含まれるガラス粉末の軟化点などに応じて決定される。具体的には、熱処理温度は、好ましくは600〜800℃であり、熱処理時間は、5〜120分である。
【0096】
熱処理工程は、酸素含有雰囲気下にて行うことが好ましい。ここで、酸素含有雰囲気とは、特に限定されるものではないが、大気雰囲気(通常、20.95%の酸素を含む)、または、アルゴンや窒素等の不活性ガスとの混合雰囲気等が挙げられる。好ましくは大気雰囲気下である。
【0097】
熱処理後、コア部2の表面には、ガラス化した被覆層10が形成され、
図1に示すフェライトコア1が得られる。なお、本実施形態では、ガラス化とは、連続された非晶質な個体膜で、結晶と同程度の剛性を持つ状態になることと定義される。
【0098】
その後に、
図3に示すように、各コア部2における一方の鍔部5の端面に、銀、チタン、ニッケル、クロム、銅などで構成された一対の端子電極32を、印刷、転写、浸漬、スパッタ、メッキ法などで形成する。端子電極32は、コア部2が導電性であっても、被覆層10が存在しているために絶縁されている。
【0099】
その後に、巻芯部4の周囲にワイヤ30を巻回し、そのワイヤの両端を、それぞれ端子電極32に熱圧着、超音波やレーザなどによる溶接、はんだ法などで接続し、本発明の一実施形態に係るコイル部品が完成する。
【0100】
本実施形態に係る磁芯では、磁芯として優れた強度を発揮することができる。また、特に被覆層をガラス組成物で構成することで、被覆層をコア部の表面に容易に形成することができる。また、コアの表面にガラス組成で構成された被覆層が形成されていることにより、磁芯としての強度を向上することができる。また、ガラス組成物が絶縁性である場合には、コア部が導電性であっても、巻回されるワイヤ等との絶縁性を確保することができる。
【0101】
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、本発明はこうした実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々なる態様で実施し得ることは勿論である。
【0102】
例えば、上述した実施形態では、混合物または造粒粉を圧粉成形することで磁芯(圧粉磁芯)を製造しているが、上記混合物をシート状成形して積層することにより磁芯を製造してもよい。また、乾式成形の他、湿式成形、押出成形などにより成形体を得てもよい。
【0103】
上述した実施形態では、軟磁性体組成物の粒界にSiを含有する層を形成するため、結合材としてシリコン樹脂を用いているが、シリコン樹脂に代えて、添加剤としてシリカゲルやシリカ粒子等のSi含有成分を用いてもよい。
【0104】
また、上述の実施形態においては、焼成されたコア部に対して、熱処理前の被覆層を形成し、これを熱処理して被覆層を形成したが、コア部の焼成と被覆層の熱処理とを同時に行ってもよい。このようにすることで、工程を簡略化できる。
【0105】
なお、コア部の焼成と被覆層の熱処理とを同時に行う際の熱処理条件は、コア部単独の焼成条件と同じであってもよいし、被覆層の熱処理条件と同じであってもよい。
【0106】
その他、必要に応じて、成形体を樹脂含浸することも可能である。これにより、磁芯の強度をさらに向上させることができる。
【0107】
また、上述した実施形態では、本実施形態に係る磁芯を、コイル型電子部品として用いるが、特に制限されることはなく、モーター、スイッチング電源、DC−DCコンバーター、トランス、チョークコイル等の各種電子部品の磁心としても好適に用いることができる。
【実施例】
【0108】
以下、実施例により発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0109】
(実施例1)
試料1について
[軟磁性合金粉末の調製]
まず、Fe単体、Cr単体及びSi単体のインゴット、チャンク(塊)、又はショット(粒子)を準備した。次にそれらをFe88.5質量%、Cr5質量%およびSi6.5質量%の組成となるように混合して、水アトマイズ装置内に配置されたルツボに収容した。次いで、不活性雰囲気中、ルツボ外部に設けたワークコイルを用いて、ルツボを高周波誘導により1600℃以上まで加熱し、ルツボ中のインゴット、チャンク又はショットを溶融、混合して融液を得た。
【0110】
次いで、ルツボに設けられたノズルから、ルツボ内の融液を噴出すると同時に、噴出した融液に高圧(50MPa)水流を衝突させて急冷することにより、Fe−Si−Cr系粒子からなる軟磁性合金粉末(平均粒径;50μm)を作製した。
【0111】
得られた軟磁性合金粉末を、蛍光X線分析法により組成分析した結果、仕込み組成と一致していることが確認できた。
【0112】
[コア部の作製]
得られた軟磁性合金粉末100重量部に対し、シリコン樹脂(東レダウコーニングシリコン(株)製:SR2414LV)6重量部を添加し、これらを加圧ニーダにより室温で30分間混合した。次いで、混合物を空気中において150℃で20分間乾燥した。乾燥後の磁性粉末に、潤滑剤としてステアリン酸亜鉛(日東化成製:ジンクステアレート)それらの軟磁性合金粉末100重量部に対して0.5重量部を添加し、Vミキサーにより10分間混合した。
【0113】
続いて、得られた混合物を、5mm×5mm×10mmの角形サンプルに成形し、成形体を作製した。なお、成形圧は600MPaとした。加圧後の成形体を750℃で60分間、大気中で熱処理することにより、シリコン樹脂を硬化させて、磁芯サンプルを得た。
【0114】
[各種評価]
【0115】
<粒界におけるSi含有層の確認>
まず、圧粉磁芯を切断した。この切断面について、走査透過型電子顕微鏡(STEM)により観察し、軟磁性体合金粒子と粒界との判別を行った。
次いで、
図5に示すように、任意に選択した観測点において、STEMに付属のEDS装置を用いて、EDS分析を行った。EDS解析の結果を、
図6に概略図として示す。なお、
図6の縦軸は、測定により得られた特性X線の強度比である。
【0116】
<3点曲げ強さ試験(強度)>
圧粉磁芯サンプルに対し、JIS R1601の規定に従い、3点曲げ強さ試験を行った。
3点曲げ強さは、試験片を一定距離に配置された2支点上に置き、支点間の中央の1点に荷重を加えて折れた時の最大曲げ応力(kg/mm
2)である。
さらに、得られた最大曲げ応力の結果から、被覆層形成による強度の向上率を下記式により算出した。
強度の向上率(%)
=100×(被覆層ありの試料 − 被覆層なしの試料)/(被覆層なしの試料)
本実施例では、向上率24%以上を良好とした。結果を表1に示す。
【0117】
試料2について
試料2は、試料1と同様にして得られた成形体に、以下の方法により熱処理前の被覆層を形成した以外は、試料1と同様の方法で磁芯サンプルを作製し、同様の評価を行った。表1および
図6に結果を示す。
【0118】
まず、被覆層を形成するためのガラス組成物の粉末を準備した。ガラス組成物としてはSi−B系ガラスを用いた。Si−B系ガラスは、ガラス成分を構成する酸化物等の原料を混合・溶融し、その後急冷して作製した。
【0119】
なお、被覆層として用いたSi−B系ガラス組成物の熱膨張係数は6×10
−6/℃であった。コア部およびガラス組成物の熱膨張係数は、TMAにより測定した。
【0120】
次に、被覆層を形成するために用いられるスラリーを作製した。まず、得られたガラス組成物の粉末とPVAとを所定の重量比で混合した。さらに、得られた固形成分(ガラス粉末およびPVAの混合物)と溶剤とを所定の重量比で混合し、ボールミルで混合してスラリーを準備した。溶剤としては、水とエタノールを8:2で混合したものを用いた。スラリー中のガラス粉末に対するバインダ樹脂の含有量は10重量%であった。
【0121】
次に、バレル装置のバレル容器内に成形体を投入し、成形体の表面全体に、上述したスラリーを用いたスプレー処理により、熱処理前の被覆層を形成した。また、スプレーと同時に、温風温度70℃で乾燥処理した。
【0122】
その後に、バレル容器から、熱処理前の被覆層が形成された成形体を取り出し、この成形体を750℃で1時間熱処理して、ガラス化した被覆層が成形体の表面全体に形成された磁芯サンプルを得た。
【0123】
被覆層の厚みは、3〜25μm程度であった。なお、被覆層の厚みは、被覆層形成前後の寸法より算出した。
【0124】
また、被覆率は、98〜100%程度であった。なお、被覆率は、20個の試料について目視により観察し、被覆層の形成が不完全であった試料について、被覆面積を測定することにより算出した。
【0125】
試料3について
試料3は、バインダ樹脂として、非シリコン系樹脂である(ナガセケムテックス(株)製造:DENATITE XNR 4338)を用いた以外は、試料1と同様の方法で磁芯サンプルを作成し、同様の評価を行った。表1および
図6に結果を示す。
試料4について
試料4は、バインダ樹脂として、非シリコン系樹脂である(ナガセケムテックス(株)製造:DENATITE XNR 4338)を用いた以外は、試料2と同様の方法で磁芯サンプルを作成し、同様の評価を行った。表1および
図6に結果を示す。
【0126】
【表1】
【0127】
試料1および2では、STEM観察およびEDS解析の結果、コア部を構成する軟磁性体組成物の粒界に、Siを含有する層が形成されていることが確認できた。
【0128】
このような試料1と2との大きな違いは、コア部の表面にガラスからなる被覆層が形成されているか否かであるところ、被覆層が形成されている試料2では、被覆層が形成されていない試料1に比べて、強度の向上率24%を超えることが確認された。
【0129】
一方、STEM観察およびEDS解析の結果、コア部を構成する軟磁性体組成物の粒界にSiを含有する層が形成されていない試料3および4では、試料1および2に比べていずれも強度が低いことが確認された。
【0130】
さらに、コア部の表面に被覆層が形成された場合(試料4)であっても、試料2のような急激な強度の向上は確認されなかった。
【0131】
これらの結果から、本発明に係る磁芯では、コア部を構成する軟磁性体組成物の粒界にSiを有する層が存在することにより、コア部の表面に被覆層を形成した際の強度の向上率が増すことが確認された。
【0132】
特に、EDS解析の結果、試料1および2では、軟磁性体組成物の粒界にSiを含むアモルファス層が確認された。さらに、粒子表面には、SiおよびCrを含むアモルファス層が確認された(
図6(a)参照)。一方、試料3および4では、軟磁性体組成物の粒界にSiを含有する層は観察されなかった(
図6(b)参照)。このような違いが、コア部の表面に被覆層を形成した際の強度の向上率の違いに影響していると考えられる。
【0133】
なお、試料1および2の観測点におけるSiを含有する層の厚みは、それぞれ約0.1μm程度であった。
【0134】
(実施例2)
試料5〜8について
試料5は、軟磁性合金粉末として、Fe85質量%、Al5.5質量%およびSi9.5質量%の組成で構成された軟磁性合金粉末を用いた以外は、試料1と同様の方法で磁芯サンプルを作成し、同様の評価を行った。表1に結果を示す。
【0135】
試料6は、軟磁性合金粉末として、Fe85質量%、Al5.5質量%およびSi9.5質量%の組成で構成された軟磁性合金粉末を用いた以外は、試料2と同様の方法で磁芯サンプルを作成し、同様の評価を行った。表1に結果を示す。
【0136】
また試料7は、軟磁性合金粉末として、Fe85質量%、Al5.5質量%およびSi9.5質量%の組成で構成された軟磁性合金粉末を用いた以外は、試料3と同様の方法で磁芯サンプルを作成し、同様の評価を行った。表1に結果を示す。
【0137】
また試料8は、軟磁性合金粉末として、Fe85質量%、Al5.5質量%およびSi9.5質量%の組成で構成された軟磁性合金粉末を用いた以外は、試料4と同様の方法で磁芯サンプルを作成し、同様の評価を行った。表1に結果を示す。
【0138】
表1に示されるように、試料5および6では、粒界にSiを含有する層が形成されていることが確認された。そのため、コア部の表面に被覆層が形成されている試料6では、被覆層が形成されていない試料5に比べて、24%を超える強度の向上が確認された。
【0139】
一方、試料7および8では、粒界にSiを含有する層は形成されておらず、コア部の表面に被覆層が形成された場合(試料8)であっても、試料6のような急激な強度の向上は確認されなかった。