(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
固定保持された着磁ヨークの空隙部に正、逆方向の磁界を交番に発生させながら、所定の長さを有する磁性部材を、該空隙部を貫通して設定された経路上で移動させることによって、該磁性部材に正、逆方向の着磁領域を交番に形成していく磁気式エンコーダ用磁石の着磁装置において、
前記着磁ヨークに巻設されたコイルに電源を供給する電源部と、
前記磁性部材に対して、正、逆方向の複数の着磁領域の広さが各々自由に配置指定された着磁パターン情報を受け付ける領域設定部と、
前記経路上で移動させている磁性部材の位置情報を出力する位置情報生成部と、
前記位置情報生成部の出力している位置情報に基づいて、前記着磁パターン情報中に配置指定されている着磁領域に対応する磁性部材の部位の各々が、それぞれ対応する正又は逆方向の磁界を受けるように、前記電源部を制御する制御部とを備え、
前記着磁パターン情報では、正、逆方向の着磁領域の広さに加えて、非着磁領域の広さが自由に配置指定されていることを特徴とする、磁気式エンコーダ用磁石の着磁装置。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明に係る着磁装置は、固定保持された着磁ヨークの空隙部に正、逆方向の磁界を交番に発生させながら、所定の長さを有する磁性部材を、その空隙部を貫通して設定された経路上で移動させることによって、磁性部材に正、逆方向の着磁領域を交番に逐次形成していく磁気式エンコーダ用磁石の着磁装置である。ここに磁性部材の長さは、磁性部材が移動される経路方向についてのものである。
【0019】
そして本発明による主たる改良点として、着磁装置は、所望の着磁領域が配置指定された着磁パターン情報を受け付けて、その情報に基づいて磁性部材を着磁する構成としている。すなわち本発明による着磁装置は、磁気部材に対する着磁パターンがプログラマブルになっている。以下に、その基本的な実施形態の例として、磁気式ロータリーエンコーダ用の磁石の着磁装置について説明する。
【0020】
図1はそのような着磁装置の概略平面図であり、
図2(a)はその着磁装置の部分的な側面図、
図2(b)はその着磁装置を構成する着磁ヨークの端部斜視図である。なお
図2(a)は見易さのために
図1とは寸法比率を異ならせている。
【0021】
ここに着磁対象とされる磁性部材2は、所定の周長を有する円環状であって、軟質磁性金属で形成された筒状芯金2aの一端から外側に張り出したフランジ面の一面に、硬質磁性リング2bを固着させてなる。
【0022】
筒状芯金2aは、例えばSUS430、SPCC等の軟質磁性金属で形成されている。しかし着磁ヨーク11の形状等を工夫すれば、アルミニウム合金、真鍮、SUS304等の非磁性金属を用いたものでもよい。
【0023】
一方磁性リング2bは、例えばアルニコ、ネオジウム、サマリウム、フェライト等の硬質磁性粉末を含有させた樹脂成形物、あるいは硬質磁性体の焼結物である。磁気式エンコーダが車載用途であれば、高キュリー温度かつ耐衝撃性を有するものを採用するとよい。なお筒状芯金2aと磁性リング2bとの固着方法は特に限定されない。
【0024】
着磁装置1は、図示しているように、磁性部材2を回動移動させるスピンドル装置10と磁界を生じさせる着磁ヨーク11とで構成される機械部分と、電源部14と制御部15とで構成される回路部分とを有する。
【0025】
スピンドル装置10は、例えばステッピングモータ10a等を駆動源とし、その動力を装置内に設けられた動力伝達機構(図示なし)によって伝達して基台10bを回動させる。なお、ステッピングモータ10aには、速度を示すパルス及び原点信号となるパルスを出力する図示しないエンコーダが内蔵されている。基台10bには磁性部材2を保持するチャック10cが設けられている。チャック10cは円柱を4等分割したような形状とされた複葉の可動片からなり、それらの可動片を拡径又は縮径方向に移動することで、磁性部材2を内側から保持又は解放するようになっている。なお駆動源はステッピングモータ10aに限定されず、回転速度が正確に制御、測定できるものであればよい。
【0026】
着磁ヨーク11は、その途中に空隙部Sを有する概ねC字形状とされ、例えば鉄、パーマロイ、パーメンジュール、SS400等の軟質磁性金属からなる。あるいはセンダスト等の軟質磁性粉末を圧粉成形したものを用いてもよい。
【0027】
着磁ヨーク11の空隙部Sの形状や寸法は、磁性部材2の断面形状に応じて適宜設定されるが、基本的には磁性部材2の各部位が少なくともその間隙部Sを非接触で貫通して通過できればよい。
【0028】
着磁ヨーク11は、空隙部Sとは反対側の部分が位置決め手段12に連結されており、スピンドル装置10に保持された磁性部材2に対して着磁ヨーク11が位置決めできるようになっている。位置決め手段12の仕組みや構成は特に制限されない。つまり少なくとも1軸の自由度を有して磁性部材2の径方向に位置調整できればよいのであるが、2軸又は3軸の自由度を有して各方向に位置調整できると尚よい。このように着磁ヨーク11を自由に位置決めできる構成とすれば、サイズが異なる磁性部材でも問題なく着磁することが可能になる。
【0029】
着磁ヨーク11には、空隙部S、位置決め手段12との連結部を避けて、銅線等からなるコイル13が巻設されている。コイル13の巻数、個数は特に制限されない。
【0030】
なお、
図2(b)に示すように、着磁ヨーク11の端面11a及び端面11bの形状は、要求に応じて適宜変更してもよい。例えば、磁性部材2に対向する側の端面11aは磁性部材2の移動方向に沿う側の寸法が短い矩形状となるように形成し、もう一方の端面11bは、端面11aの長辺よりも短く、かつ短辺よりも長い寸法からなる正方形状に形成してもよい。また、着磁ヨーク11が磁性部材2に対向する側の端面11aは、磁性部材2の移動方向に沿う側の寸法を短くしておき、もう一方の端面11bは端面11aの長辺よりも長い寸法を有する矩形状となるように形成してもよい。
【0031】
電源部14は、着磁ヨーク11に巻設されているコイル13に電源を供給するものである。着磁ヨーク11の空隙部Sに正、逆方向の磁界を生成させるため、少なくとも正方向の電流、逆方向の電流を選択的に供給する構成とされる。
【0032】
電源部14はコイル13に大電流を供給する必要があるが、そのような電源を一般的な直流電源タイプで構成すると非常にコストを要するため、多くの場合、コンデンサ式電源が用いられる。
【0033】
図示のコンデンサ式電源では、選択スイッチ14aによってコイル13への接続を遮断した状態で電源回路14bからコンデンサ14cを充電し、コンデンサ14cが十分に充電されたときに、充電スイッチ14dによってコンデンサ14bを電源回路14bから遮断してから、選択スイッチ14aを切り換えることによって、コンデンサ14cからコイル13に一気に大電流(電流パルス)を放出する構成になっている。電源部14は、プラス、マイナスの2系統を有しており、正、逆方向の電流パルスを選択的に供給する。ただし、単位時間に供給可能な電流パルスの数は、コンデンサ14cの充電時間が必要なために、上限がある。
【0034】
制御部15は、電源部14を制御する主制御部15aと、スピンドル装置10の駆動源を制御するモータ制御部15bとからなる。
【0035】
主制御部15aは、磁性部材2に対して所望の着磁領域が配置指定された着磁パターン情報を受け付ける領域設定部15cと、経路上を一定速度で移動させている磁性部材2の位置情報を判別し出力する位置情報生成部15dとを有している。主制御部15aは、基本的な動作として、位置情報生成部15dの出力している位置情報に基づいて、着磁パターン情報中に配置指定されている着磁領域に対応する磁性部材2の部位の各々がそれぞれ対応する正又は逆方向の磁界を受けるように、電源部14を制御する。つまり、主制御部15aは、位置情報と着磁パターン情報とを比較して、位置情報に対応する着磁領域に基づいた正又は逆方向の磁界となるように、電源部14を制御する。
【0036】
着磁パターン情報は、正方向又は順方向の着磁領域、すなわち磁性部材2を表面側から見たとき(裏面側から見たときでもよい)のN極、S極の配置を特定するための情報である。磁性部材2は磁気式エンコーダ用の磁石を想定しているから、磁性部材2の表面にはN極とS極とが交番に並べられる。ただし本発明では、N極、S極の等ピッチの配列だけでなく、任意の不等ピッチの配列も許容するようにしている。そのため着磁パターン情報のフォーマットは特に限定されないが、着磁領域の各々の正方向又は逆方向の着磁区分、開始点、終了点を特定するに足る情報が必要である。
【0037】
領域設定部15cは、着磁パターン情報を何らか媒体を介して受け付ける機能を有すればよい。その構成は特に制限されない。例えばワークステーション等の情報端末で作成された着磁パターン情報をシリアルケーブル等で受信するようにしてもよい。あるいはネットワーク通信装置として構成して遠隔地から着磁パターン情報を受信するようにしてもよい。あるいは記憶媒体読取装置として構成して、CDディスク、メモリカード、USBメモリ等に格納されている着磁パターン情報を読み取るようにしてもよい。
【0038】
領域設定部15cは、受け付けた着磁パターン情報をメモリ(図示なし)に登録するが、望ましくは、複数の着磁パターン情報を登録可能として所定操作によって、そのいずれか1つを選択できるようにするとよい。
【0039】
位置情報生成部15dは、経路上での磁性部材2の位置情報を出力する機能を有する。位置情報としては、各時点で磁性部材2のどの部位が着磁ヨーク11の間隙部Sにあるかを特定できれば充分である。
【0040】
本実施形態の場合、磁性部材2の移動速度のパルス及び原点信号のパルスに基づいて、位置情報を生成する。つまり、位置情報生成部15dは、原点信号を得てから現在までの時間と、磁性部材2の移動速度履歴とに基づいて、磁性部材2のどの部位が着磁ヨーク11の間隙部Sを通過しているのかをリアルタイムに算出できる。
【0041】
この実施形態では、磁性部材2は環状体としており、その場合、磁性部材2のどの部位も同等であると考えられるから、どの部位を磁性部材2の先頭として扱っても構わないことになる。よって、例えば、原点信号のパルスを位置情報生成部15dが受信した時点、若しくは原点信号のパルスを受信してから所定時間経過した時点を見計らって、計時を開始すればよい。このとき位置情報は、計時開始した時点で着磁ヨーク11の間隙部Sを通過していた磁性部材2の部位を基準位置として、その基準位置から、現時点で着磁ヨーク11の間隙部Sを通過している磁性部材2の部位までの回転角によって示してもよい。
【0042】
モータ制御部15bは、スピンドル装置10の駆動源の制御回路であるが、基本的に、主制御部1
5aがモータ制御部15bを介して駆動源を制御する構成と、モータ制御部15bが独自に駆動源を制御する構成が考えられる。
【0043】
前者の場合、主制御部15aがステッピングモータ10aを一定の回転速度で回動させるための制御パルスを生成し、モータ制御部15bはその制御パルスを受ける毎にステッピングモータ10aを1ステップずつ回動させるようにしてもよい。このとき位置情報生成部15dは、その制御パルスを計数することで計時し、その計時に基づいて位置情報を算出すればよい。
【0044】
後者の場合、モータ制御部15bは予め設定された回転速度となるようにステッピングモータ10aを独自に制御するとともに、ステッピングモータ10aを所定ステップ回動させる毎に主制御部15aに通知するようにしてもよい。位置情報生成部15dは、その通知信号を計数することで計時し、その計時に基づいて位置情報を算出すればよい。
【0045】
着磁装置1の基本動作としては、まず、人手作業又は図示しない自動搬送装置等によって磁性部材2がチャック10cに固定される。その後、主制御部15a又はモータ制御部15bは、スピンドル装置10の駆動源を制御して磁性部材2を一定の回転速度まで加速回動させる。
【0046】
そして磁性部材2が一定の回転速度になれば、主制御部15aは、コイル13への電源供給を制御して着磁処理を実行する。このとき、主制御部15aは、位置情報生成部15dから刻々と出力される位置情報より、現時点で着磁ヨーク11の間隙部Sを通過している磁性部材の部位が、着磁パターン情報におけるどの着磁領域に含まれているかを判断して、電源部14を制御する。この着磁処理は、磁性部材2が少なくとも1回転させて終了させるが、それを超えて、つまり磁性部材2を1回転以上回動させてから終了させてもよい。このような着磁処理によって、磁性部材2は、磁気式エンコーダ用の多極磁石とされる。
【0047】
なお、磁性部材2の一定速度での移動を前提として、不等ピッチの着磁を許容するには、着磁パターン情報中に配置指定されている着磁領域毎に、磁界の発生時間を制御すればよい。つまり、主制御部15aは、着磁パターン情報中に配置指定されている着磁領域が大きい程、磁界の発生時間を長く制御し、着磁パターン情報中に配置指定されている着磁領域が小さい程、磁界の発生時間を短く制御する。例えば電源部14が供給する電流パルスが一定の大きさであると想定すれば、着磁パターン情報中に配置指定されている着磁領域毎に、電流パルスの供給回数を可変するとよい。
【0048】
同様の考え方から、電源部14が一般的な直流電源タイプとして構成され、かつ定電流を供給するものであれば、着磁パターン情報中に配置指定されている着磁領域毎に、電流の供給時間を制御すればよい。
【0049】
また電源部14が電流を動的に制御できるものであれば、着磁パターン情報中に配置指定されている着磁領域毎に、電流の大きさを制御してもよい。これにより磁界の強度が変化するが、磁界の強度が高い場合は、着磁ヨーク11の間隙部Sにおける磁界の広がりも大きくなる。よって、磁界の発生時間は一定とし、磁界の強度を可変することによって領域の広さをコントロールするアプローチも可能であると考えられる。
【0050】
この実施形態では、着磁装置が前記のように構成されているので、着磁パターンがプログラマブルであり、各サイズの磁性部材に対して、部品交換等による装置構成の変更をすることなしに、ピッチを自由に指定した等ピッチの着磁や、着磁領域の各々の広さを自由に指定した不等ピッチの着磁が可能である。そのため同一の装置で、種別の異なる磁石に対応できる。
【0051】
以下に、前記着磁装置による着磁処理の基本例を示す。
図3(a)は着磁パターン情報の一例を示す表、
図3(b)はその情報に基づいて形成された着磁領域を示す平面図である。
【0052】
この着磁パターン情報Aでは、着磁領域の配置指定として、着磁領域の各々について、その領域の領域番号、その領域の着磁区分(正方向はN極、逆方向はS極)、その領域の中心角(領域の広さ)を指定し関連付けている。本実施形態では、領域番号及び着磁区分は予め指定されており、各領域番号に任意の着磁領域を指定可能となっている。例えば、番号1の領域は、N極の区分、67.5°の中心角が指定され、番号2の領域は、S極の区分、22.5°の中心角が指定されている。この着磁パターンは、不等ピッチの一例であり、番号1の領域は、他の領域よりも広くなるように指定されている。もちろん不等ピッチはこのような態様に限定されず、領域の個数や各々の中心角は任意である。
【0053】
このような着磁パターン情報Aに基づいて着磁された磁石3では、着磁処理の開始時に着磁ヨーク11の空隙部Sにあった部位を基準点として、そこから番号1の領域、番号2の領域等が順番に形成されている。例えば、番号1の領域は、N極に着磁され、その中心角は67.5°になっており、番号2の領域は、S極に着磁され、その中心角は22.5°になっている(以下、表面側がN極に着磁された領域を単にN極、S極に着磁された領域を単にS極と呼ぶ)。
【0054】
図3A(a)−(c)はいずれも、前記と同様な手順で着磁処理された磁石の他例を示している。
【0055】
図3A(a)の磁石3では、N極、S極が交互に同一幅で配列するように着磁されている。
図3A(b)の磁石3では、N極、S極が交互に不等幅で配列するように着磁されている。また
図3A(c)の磁石3では、広いN極、狭いS極が交互に配列するように着磁されている。これらの磁石3は、着磁パターン情報Aにおける着磁領域の配置指定が異なるだけで、着磁処理自体は共通している。すなわち本発明では、着磁パターン情報Aに所望の着磁領域を配置指定するだけで、その配置指定に対応した磁石3が得られる。
【0056】
次いで前記のように着磁された磁石を用いた磁気式エンコーダの作用原理を説明する。
図4(a)は不等ピッチに着磁された磁石と磁気センサとからなる磁気式エンコーダの部分側面図、
図4(b)は磁気センサの検知信号の時間変化を示すグラフ、
図4(c)は磁気センサの検知信号をデジタル化したグラフである。
【0057】
前記のように磁性部材2、すなわちここでの磁石3は円環状であるが、図では簡単のため円環状とせずに、直線的に記載している。磁気センサ4は、磁石3の表面から所定の距離になるように、磁石3の中心軸に対して固定配置されており、磁石3は中心軸を固定した状態で任意に回動される。図で云えば磁石3は矢印の方向に平行移動する。磁気センサ4は、ホール素子やMR素子等が採用できるが、ここでは、磁界の強度の鉛直成分(図で上方向)を検知するものを想定する。つまり磁気センサ4は、磁界の鉛直成分を正値、逆方向成分を負値とする検知信号を出力する。
【0058】
磁石3によって生じる磁界は、図中に磁力線として示している。
【0059】
N極の各々を上向きに貫く磁力線は、そのN極の両側にS極が隣接しているため、磁石3の表面側では、磁石3の表面近傍で左右に分岐して下向きに反転し、両隣のS極を下向きに貫く磁力線となっている。なおN極、S極の境界付近では、磁力線は磁石3の表面と平行になっている。また中央部分のN極は広く、かつその両側にS極が隣接しているため、磁力線が左右に分岐している場所の上方では磁力線の密度が低くなっている。磁石3の裏面側では、磁力線は、軟質磁性金属で形成された筒状芯金2aの中を通過している。
【0060】
そのような磁界を伴った磁石3が磁気センサ4に対して移動したとき、磁気センサ4は、
図4(b)に示すグラフG1のような検知信号を出力する。グラフG1の横軸は時間であるが、グラフG1の水平位置と尺度は、
図4(a)の磁性部材2の側面図と対照できるように調整してある。例えばグラフG1の左端のピークは、
図4(a)で磁気センサ4の直下にあるS極の着磁領域を下向きに貫く磁力線によるものになっており、その他のピークも同様である。
【0061】
グラフG1がゼロクロスする点は、
図4(a)で磁力線が水平になっている場所、つまりN極とS極の境界近傍である。中央部分の広いN極では、その中心の上方で磁力線の密度が低いため、グラフG1の対応するピークの中心にディップが生じている。
【0062】
磁気エンコーダの検知信号をデジタル処理して回転速度等を算出する一般的な利用形態では、コンピュータが、
図4(b)のようなアナログ信号を直接扱えないため、前もってデジタル化する必要がある。ただし通常は2値のデジタル化で充分である。2値のデジタル化の簡易な方法として、例えば、一連のアナログ値にプラス側、マイナス側の閾値を適用し、閾値を超えた部分を1、超えない部分を0とする処理としてもよい。これらの閾値は図中に破線として示している。
【0063】
図4(c)は、
図4(b)に示した検知信号にそのような2値デジタル化を施した場合のグラフである。このグラフG2の水平位置と尺度も、
図4(b)の場合と同様に調整してある。デジタル化された後の検知信号は1、0のパルスであって、プラス、マイナスの情報を失っているが、それでも
図4(b)のグラフG1におけるピークの位置と広がり具合は知ることができる。
【0064】
特にこの磁性部材2では、中央部分のN極が他のN極、S極よりも広いものとされており、コンピュータは、グラフG2において、その広いN極に対応した長パルスと、他のN極、S極に対応した短パルスとを識別できる。よって、その長パルスを位置の起点として、それに続く短パルスを計数していけば、磁石3の回転速度と、絶対的な回転角とを算出できる。もちろん、この磁石3では特異なN極を1つ形成しているだけであるから、回転方向は判別できない。しかし、広さが他とは異なる等、特異なN極又はS極を複数形成しておけば、回転方向の判別も可能になる。
【0065】
ところで一般的に、磁石は高温になると磁力が低下する傾向がある。例えばフェライト磁石であれば、その磁力は20℃を100としたとき、50℃では約94%、100℃では約84%に低下してしまう。そして、特にネオジウム系磁石では、磁力が一旦低下してしまうと、温度が戻っても、磁力は完全には回復しないことがある。よって、前記のような磁気式エンコーダを特に高温環境で長期間使用する場合、磁石3の磁力が低下して、次のような不具合が生じる可能性があることを考慮すべきである。
【0066】
すなわち
図4(b)のグラフG2に示しているように、位置の起点とされる検知信号のピークの中心にディップがある場合、磁石3の磁力が低下すると、検知信号の全体的なレベルも下がることから、そのピークは、2値デジタル化によって1つの長パルスではなく2つの短パルスに変換されてしまうおそれがある。その場合、コンピュータの正常な処理が困難になる。
【0067】
そこで以下に、そのような不具合を生じるおそれがない磁石を提供できる、より望ましい実施形態を図に従って説明する。
【0068】
図5は、そのより望ましい実施形態として例示する着磁装置の概略平面図である。図中、
図1のものと共通する要素には同一の参照符号を付けて説明を省略する。
【0069】
この着磁装置1は、前記問題に対処すべく、正、逆方向の着磁領域に加えて非着磁領域が更に配置指定された着磁パターン情報を受け付けて、その情報に基づいて磁性部材2を着磁する構成とする。非着磁領域は基本的に、隣接した着磁領域の境界部に配置指定する。
【0070】
具体的には、着磁パターン情報で、正、逆方向の着磁領域と同様な形式で、非着磁領域も配置指定できるようにするとよい。この場合、正方向の着磁領域、非着磁領域、逆方向の着磁領域、非着磁領域というような順序で全ての領域が配置指定される。あるいは、その各々に非着磁領域を含ませた正、逆方向の着磁領域の配置と、該着磁領域の各々における非着磁領域の比率とが指定できるようにしてもよい。その際、非着磁領域の比率に下限を設定して、正、逆方向の着磁領域の境界部分に、非着磁領域が必ず形成されるようにしてもよい。なおいずれの場合でも、着磁パターン情報には、着磁領域の各々の着磁区分、開始点、終了点と、非着磁領域の各々の開始点、終了点を特定するに足る情報を含ませる。
【0071】
非着磁領域は、正、逆方向の着磁領域を形成するため、磁性部材2の対応部位にそれぞれ正方向、逆方向の磁界を受けさせる合間に、磁界を発生さ
せない期間を設けることで形成できる。磁界を発生させない期間に応じて、非着磁領域の広さが決定される。このようにして非着磁領域を形成する場合、磁性部材2は、キュリー温度以上まで加熱する等して事前に消磁しておくとよい。
【0072】
電源部14は、前記のような磁界を発生させない期間を設けることができるよう、選択スイッチ14aに未配線接点14dが追加されている。これにより電源部14は、正、逆方向の電流、無電流を選択的に出力できるようになる。電源部14をコンデンサ式電源とした場合は、正方向の電流パルスから逆方向の電流パルスに切り換える合間に、いわば歯抜けの櫛のように、無電流を挟むような動作態様とすればよい。
【0073】
領域設定部15cは、正、逆方向の着磁領域の境界部分に非着磁領域が配置指定されていない着磁パターン情報に対してエラー警告を発して、その着磁パターン情報を受け付けないようにしてもよい。
【0074】
主制御部15aは、領域設定部15cが受け付けた着磁パターン情報が非着磁領域の配置指定を含むか否かを判断する。主制御部15aは、その情報に非着磁領域の配置指定が含まれている場合は、位置情報生成部15dの出力している位置情報に基づいて、着磁パターン情報中に配置指定されている着磁領域に対応する磁性部材2の部位の各々が、それぞれ対応する正又は逆方向の磁界を受けるように電源部14を制御する。そして、主制御部15aは、非着磁領域に対応する磁性部材2の部位の各々が磁界を受けないように、電源部14を制御する。なお、着磁パターン情報に非着磁領域の配置指定が含まれていない場合については、前記基本的な実施形態の場合と同様である。
【0075】
以下に、この着磁装置1による着磁処理の一例を示す。
図6(a)は着磁パターン情報の一例を示す表、
図6(b)はその情報に基づいて磁性部材に形成された着磁領域を示す平面図である。
【0076】
この着磁パターン情報Aでは、領域の配置指定として、着磁領域、非着磁領域の各々について、その領域の領域番号、その領域の着磁区分(正方向はN極、逆方向はS極、非着磁はZ)、その領域の中心角を指定している。例えば、番号1の領域は、N極の区分、60°の中心角が指定され、番号2の領域は、非着磁の区分、7.5°の中心角が指定され、領域番号3の領域は、S極の区分、20°の中心角が指定されている。
【0077】
このような着磁パターン情報Aに基づいて着磁された磁石3では、着磁処理の開始時に着磁ヨーク11の空隙部Sにあった部位を基準点として、そこから番号1の領域、番号2、番号3の領域等が形成されている。例えば、番号1の領域は、N極に着磁され、その中心角は60°になっており、領域番号2の領域は、非着磁とされ、その中心角は7.5°になっており、番号3の領域は、S極に着磁され、その中心角は20°になっている。
【0078】
以下に、前記着磁装置による着磁処理の他例を示す。
図7(a)は着磁パターン情報の他例を示す表、
図7(b)、(c)はその情報に基づいてそれぞれ異なる態様で形成された着磁領域を示す平面図である。
【0079】
この着磁パターン情報Aでは、領域の配置指定として、着磁領域の各々について、その領域の領域番号、その領域の着磁区分(正方向はN極、逆方向はS極)、その領域の中心角、着磁率を指定している。ここに着磁率は、その領域中の実際に着磁される部分の割合であり、その残り部分が非着磁領域とされる。例えば、番号1の領域は、N極の区分、67.5°の中心角、90%の着磁率が指定され、番号2の領域は、S極の区分、22.5°の中心角、90%の着磁率が指定されている。
【0080】
図7(b)に示す磁石3は、前記着磁パターン情報に基づいて着磁されたものであり、着磁処理の開始時に着磁ヨーク11の空隙部Sにあった部位を基準点として、そこから番号1の領域、番号2、番号3の領域等が形成されている。例えば、番号1の領域は、その中心角が67.5°になっており、先頭側の90%がN極に着磁され、残りの10%が非着磁領域になっている。番号2の領域は、その中心角が22.5°になっており、先頭側の90%がS極に着磁され、残りの10%が非着磁領域になっている。このように非着磁領域を比率によって設定すれば、着磁領域に対する非着磁領域の割合を容易に設定することができる。
【0081】
図7(c)に示す磁石3は、前記着磁パターン情報に基づいて着磁されたものであるが、非着磁領域の形成態様を異ならせている。すなわち、番号1の領域は、その中心角が67.5°になっており、中間部の90%がN極に着磁され、先頭側及び末尾側の5%がそれぞれ非着磁領域になっている。番号2の領域は、その中心角が22.5°になっており、中間部の90%がS極に着磁され、先頭側及び末尾側の5%がそれぞれ非着磁領域になっている。他の番号の領域も同様である。
【0082】
図7(a)に示す着磁パターンに対して、
図7(b)に示すような着磁領域の形成態様、
図7(c)に示すような着磁領域の形成態様のいずれを採用してもよい。要は、N極、S極の境界部に非着磁領域が形成されるようにすればよい。
【0083】
次いで前記のように着磁された磁石3を用いた磁気式エンコーダの作用原理を簡単に説明する。
図8(a)は、そのような非着磁領域が形成された磁石と磁気センサとからなる磁気式エンコーダの部分側面図、
図8(b)は磁気センサの検知信号の時間変化を示すグラフ、
図8(c)は磁気センサの検知信号をデジタル化したグラフである。
【0084】
この磁石3は円環状であるが、簡単のため円環状とせずに直線的に記載している。磁気センサ4は、
図4(a)に示したものと同様である。
【0085】
図8(a)に示すように、この磁石3では、N極とS極との境界部分に非着磁領域があるため、磁石3のN極の各々を上向きに貫く磁力線は、
図4(a)と比較して、磁石3の表面から高く上昇してから左右に分離している。これはS極の各々を下向きに貫く磁力線も同様である。
【0086】
そのような磁界を伴った磁石3が磁気センサ4に対して移動したとき、磁気センサ4は、
図8(b)のグラフG1に示すような検知信号を出力する。
図4(b)の場合との大きな違いは、磁石3の中央部分に形成されているN極に対応するピークにあったディップがここでは消失している点である。これは、非着磁領域を形成したことによる効果であり、磁気式エンコーダを高温環境で長期間使用する場合でも前記のような不具合が生じるおそれがない。また磁力線が余り左右に広がらずに高く上昇するということは、それだけ磁気センサ4を磁石3から離して配置できるということでもあり、磁気センサ4と磁石3との間への異物の噛み込みによる磁気式エンコーダの破損等を防ぐ上でも有利である。
【0087】
このように、このより望ましい実施形態では、磁気センサの検知信号として良好な波形が得られる磁石を提供することが可能になる。
【0088】
以上の説明全体を通じて、磁性部材がC字形状の着磁ヨークの間隙部を貫通して通過する構成(
図1、
図2、
図5)について説明したが、所望の着磁領域が配置指定された着磁パターン情報に基づいて磁性部材を着磁するという思想は、着磁ヨークの形状及び着磁ヨークと磁性部材との位置関係が異なる着磁装置についても適用可能である。以下にその一例を説明する。
【0089】
図9(a)は、着磁ヨークの両端がいずれも磁性部材の表面側に配置された着磁装置の部分側面図、
図9(b)はその着磁装置を構成する着磁ヨークの端部斜視図である。
図9(a)において着磁ヨークの形状を除く他の要素は、
図1、
図2に示したものに対応している。この着磁装置1においても、所望の着磁領域が配置指定された着磁パターン情報に基づいて磁性部材2を着磁することができる。
【0090】
磁性部材2は、軟質磁性金属よりなる筒状芯金2aに、硬質磁性リング2bを固着させたものを使用するとよい。つまりこの磁性部材2は、硬質磁性体と軟質磁性体との二層構造になっている。この場合、筒状芯金2aとされる軟質磁性金属は高透磁率のものを選択することが望ましい。そうすれば筒状芯金2aが、磁界の通路として有効に機能でき、目的の着磁領域以外への余計な着磁が防止できる。
【0091】
なお
図9(b)に示すように、着磁ヨーク11の磁性リング2bに対向する側の端面11aは、磁性部材2の移動方向に沿う側の寸法を短くしておき、芯金に対向する側の端面11bは端面11aの長辺よりも長い寸法を有する矩形状となるように形成してもよい。
【0092】
なお、本発明の着磁装置によって着磁する磁性部材は、環状のものに限らず、長方体のものでもよい。そして、磁性部材2が長方体の場合、磁性部材2を直線移動可能なリニアアクチュエータ等を備える着磁装置を用い、着磁ヨーク11の間隙部Sを直線移動させつつ着磁処理を実行する。このような着磁装置であれば、リニアエンコーダ用磁石を製造することができる。なお、長方体の磁性部材2を着磁する際には、リニアアクチュエータに内蔵されたエンコーダから出力された磁性部材2の移動速度のパルス及び原点信号のパルスに基づいて位置情報を生成し、その位置情報に基づいて着磁処理を行う。位置情報は、現時点で着磁ヨーク11の間隙部Sを通過している磁性部材2の部位を、磁性部材2の先頭からの距離によって示してもよい。
【0093】
なお、位置情報を生成する方法は、着磁処理時に着磁ヨーク11の間隙部Sを通過している磁性部材2の部位を特定できるのであれば、適宜変更してもよい。例えば、経路上での磁性部材2が一定速度に到達する点以降に着目点を設定してそこにセンサ等を配置し、磁性部材2が着目点を通過したことを検知した時点で計時を開始することによって、着磁ヨーク11の間隙部Sを通過する磁性部材2の部位を特定してもよい。このとき位置情報は、計時開始した時点で着磁ヨーク11の間隙部Sを通過していた磁性部材2の部位を基準位置として、その基準位置から現時点で着磁ヨーク11の間隙部Sを通過している磁性部材2の部位までの回転角又は距離によって示してもよい。
【0094】
電源部14は、コンデンサ式電源に限らない。すなわち、電源部14は、コイル13に正方向の電流及び逆方向の電流を選択的に供給できるものであればよく、コンデンサ14c及び充電スイッチ14dを省略して、電源回路14bが選択スイッチ14aに直接的に接続される構成としてもよい。
【0095】
また、チャック10cを構成する複葉の可動片は、4等分割したものに限らず、例えば、3等分割したものでもよいし、5等分割以上したものでもよい。