(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1は、本実施の形態に係る路面状態推定装置10の機能ブロック図である。
路面状態推定装置10は、振動検出手段としての加速度センサー11と、車輪速検出手段としての車輪速センサー12と、振動波形検出手段13と、踏み蹴り位置推定手段14と、接地時間・回転時間算出手段15と、判定手段16と、記憶手段17と、路面状態推定手段18とを備える。
振動波形検出手段13〜判定手段16及び路面状態推定手段18の各手段は、例えば、コンピュータのソフトウェアにより構成され、記憶手段17は、RAM、ROMから構成され、車体側に設けられた車両制御装置に組み込まれる。
加速度センサー11は、
図2に示すように、タイヤ20のインナーライナー部21のタイヤ気室22側のほぼ中央部に配置されて、路面から当該タイヤ20のトレッド23に入力する振動を加速度として検出する。本例では、加速度センサー11の検出方向をタイヤ周方向になるように配置して、路面から入力するタイヤ周方向振動を検出する。以下、加速度センサー11の位置(厳密には、加速度センサー11の径方向外側にあるトレッド23表面の位置)を計測点という。なお、加速度センサー11の出力は、例えば、送信機11Fにより、車体側に設けられた車両制御装置に送られる。
車輪速センサー12は、車輪の回転速度(以下、車輪速という)を検出するもので、例えば、外周部に歯車が形成され車輪とともに回転するローターと、このローターと磁気回路を構成するヨークと、磁気回路の磁束変化を検出するコイルとを備え、車輪の回転角度を検出する周知の電磁誘導型の車輪速センサーなどを用いることができる。
【0013】
振動波形検出手段13は、加速度センサー11の出力である走行中のタイヤ20に入力する振動を時系列に配列した振動の時系列波形を検出する。
図3に示すように、振動の時系列波形には、タイヤ1回転毎に正・負2つの大きなピークが出現する。
振動の時系列波形において最初に出現するピーク(ここでは、正のピーク)は、計測点が路面に衝突するときに発生するピークで、このピークが踏み込み点P
fである。次に出現するピーク(ここでは、負のピーク)は、計測点が路面を離れるときに発生するピークで、このピークが蹴り出し点P
kである。
踏み蹴り位置推定手段14は、振動の時系列波形から、先に出現する正・負2つのピークを検出し、これらピークの出現する時刻を、それぞれ、踏み込み点P
fの位置t
11、及び、蹴り出し点P
kの位置t
12と推定するとともに、後に出現する正・負2つのピークの時刻を、それぞれ、次の踏み込み点P
fの位置t
21、及び、次の蹴り出し点P
kの位置t
22と推定する。
接地時間・回転時間算出手段15は、前記の踏み込み点P
fの位置t
11と蹴り出し点P
kの位置t
12との差から、計測点が路面と接している時間である接地時間T
aを算出するとともに、前記の蹴り出し点P
kの位置t
12と蹴り出し点P
kの位置t
22との差から、タイヤ20が1回転する時間である回転時間T
abを算出する。なお、前記の蹴り出し点P
kの位置t
12と踏み込み点P
fの位置t
21との差か接地外時間T
bである。
T
a=t
12−t
11、T
b=t
21−t
12、T
ab=t
22−t
12である。
また、回転時間T
abを、前記の踏み込み点P
fの位置t
11と踏み込み点P
fの位置t
21との差から算出してもよい。
【0014】
判定手段16は、接地時間比算出部161と、比較判定部162と、中止信号出力部163とを備える。
接地時間比算出部161は、接地時間・回転時間算出手段15で算出した接地時間T
aと回転時間T
abとの比である接地時間比Rを算出する。
比較判定部162は、踏み蹴り位置推定手段14で推定した踏み込み点P
fの位置t
11と、蹴り出し点P
kの位置t
12,t
22の位置が、全て、実際の踏み込み点の位置と蹴り出し点の位置であるか否かを判定する。
具体的には、接地時間比Rが予め設定された接地時間比範囲[R1,R2]内にあるか否かを判定し、接地時間比Rが接地時間比範囲内(R1≦R≦R2)にある場合には、踏み蹴り位置推定手段14で推定されたt
11,t
12,t
22が全て実際の踏み込み点の位置と蹴り出し点の位置(正常位置)であると判定する。
一方、接地時間比Rが接地時間比範囲外(R<R1またはR>R2)のときには、推定された踏み込み点P
fの位置t
11と蹴り出し点P
kの位置t
12,t
22の位置うちの、いずれか一つ、もしくは、2つ、もしくは全部が実際の踏み込み点の位置と蹴り出し点の位置ではない(誤推定)と判定する。
中止信号出力部163は、比較判定部162の判定が誤推定である場合、すなわち、踏み込み点P
fの位置と蹴り出し点P
kの位置の推定に失敗したと判定した場合には、路面状態推定手段18に路面推定操作を中止するための指令信号である中止信号を出力する。
【0015】
記憶手段17は、予め求めておいた路面状態と振動レベルの演算値との関係を示すマップ17Mを記憶する。
路面状態推定手段18は、波形領域分割部181と、領域信号抽出部182と、周波数分析部183と、振動レベル算出部184と、路面状態推定部185とを備え、踏み蹴り位置推定手段14で推定された踏み込み点の位置と蹴り出し点の位置が実際の踏み込み点の位置と蹴り出し点の位置であると判定された場合のみ路面状態の推定を行い、中止信号出力部163から中止信号が出力された場合には、路面状態の推定を中止する。
波形領域分割部181は、踏み蹴り位置推定手段14で推定した踏み込み点P
fもしくは蹴り出し点P
kの位置と、車輪速センサー12で検出したタイヤ20の回転速度とを用いて、タイヤ一回転分の振動波形を抽出するとともに、この振動波形を、
図4に示すような踏み込み領域と蹴り出し領域との2つの領域のデータに分割する。
領域信号抽出部182は、各領域の振動レベルの時系列波形をそれぞれ抽出する。
周波数分析部183は、FFTアナライザーなどの周波数分析手段から構成され、抽出された各振動レベルの時系列波形を周波数分析した周波数スペクトルを作成する。
振動レベル算出部184は、踏み込み領域の周波数スペクトルにおける所定周波数帯域における振動レベルである踏み込み振動レベルV
fと、蹴り出し領域の周波数スペクトルにおける所定周波数帯域における振動レベルである蹴り出し振動レベルV
kとを算出するとともに、これらの振動レベルを用いて振動レベルの演算値Sを算出する。演算値Sとしては、蹴り出し振動レベルV
kに対する踏み込み振動レベルV
fの比などを挙げることができる。
路面状態推定部185は、記憶手段17に記憶されている、予め求めておいた路面状態と振動レベルの演算値Sとの関係を示すマップ17Mと、振動レベル算出部184で算出された振動レベルの演算値Sのデータとから、車両の走行している路面の状態を推定する。
【0016】
次に、本実施の形態に係る路面状態の推定方法について、
図5のフローチャートを参照して説明する。
まず、加速度センサー11にて走行中のタイヤ20のタイヤ周方向振動を検出し(ステップS10)、その出力を振動波形検出手段13に送って、時系列に配列したタイヤ周方向の振動波形である振動の時系列波形を求める(ステップS11)。
次に、踏み蹴り位置推定手段14にて、
図3に示すような振動の時系列波形から、先に出現する踏み込み点P
fの位置t
11と、先に出現する蹴り出し点P
kの位置t
12と、後に出現する蹴り出し点P
kの位置t
22と推定する(ステップS12)。
そして、接地時間・回転時間算出手段15にて、ステップS12で検出したt
11,t
12,t
22とを用いて、接地時間T
aと回転時間T
abを算出する(ステップS13)。
次に、判定手段16にて、接地時間T
aと回転時間T
abとの比である接地時間比Rを算出(ステップS14)した後、この接地時間比Rが予め設定された接地時間比範囲[R1,R2]内にあるか否かを判定し、ステップS12で検出したt
11,t
12,t
22の全てが、実際の踏み込み点P
f及び蹴り出し点P
kの位置であるか否かを判定する踏み蹴り位置判定を行う(ステップS15)。
【0017】
ところで、突起や縁石を乗り越えたときのように、タイヤ20に過度な入力(以下、大入力という)があった場合には、
図6に示すように、時系列波形に大きなピークが発生するため、踏み込み点P
f及び蹴り出し点P
kの位置を誤推定してしまう場合がある。
例えば、同図に示すように、大入力の位置を後の蹴り出し点P
kの位置と推定してしまった場合には、算出された回転時間t
abが実際の回転時間T
abよりも短くなる。
また、大入力の位置を後の踏み込み点P
fと推定してしまった場合には、接地時間t
aが実際の接地時間T
aよりも短くなる。
そこで、接地時間比Rに対して接地時間比範囲[R1,R2]を設定して、Rと、接地時間比範囲の下限値R1及び接地時間比範囲の上限値R2とを比較し、接地時間比Rが接地時間比範囲にあるか否かを判定すれば、踏み蹴り位置推定手段14で推定された踏み込み点P
fの位置t
11と、蹴り出し点P
kの位置t
12,t
22の位置が、実際の踏み込み点の位置と蹴り出し点の位置であるか否かを判定する踏み蹴り位置判定を行うことができる。
ステップS15において、踏み蹴り位置判定の結果が「正常位置」だった場合には、ステップS16に進み、振動レベルの時系列波形を用いて路面状態の推定を行う。
一方、踏み蹴り位置判定の結果が「誤推定」だった場合には、路面状態推定手段18に中止信号を出力(ステップS17)してから、ステップS10に戻って、走行中のタイヤ20のタイヤ周方向振動の検出を継続する。
中止信号が出力されたときには、路面状態の推定を中止する。
なお、ステップS16が終了した場合には、路面状態の推定操作が終了したか否かを判定し(ステップS18)、推定操作を継続する場合には、ステップS10に戻って、走行中のタイヤ20のタイヤ周方向振動の検出を継続し、継続しない場合には本操作を終了する。
【0018】
ステップS16における路面状態の推定方法は、以下の通りである。
まず、加速度センサー11の出力である走行中のタイヤ20に入力する振動の時系列波形から、タイヤ一回転分の振動波形を抽出し、抽出された振動波形を、踏み込み領域と蹴り出し領域との2つの領域のデータに分割した後、各領域の振動レベルの時系列波形をそれぞれ抽出する。
次に、抽出された各振動レベルの時系列波形をそれぞれ周波数分析して得られた各領域の周波数スペクトルから、所定周波数帯域における振動レベルV
f及びV
kを算出した後、振動レベルV
f及びV
kの演算値Sを算出する。
そして、演算値Sと、予め求めておいた路面状態と振動レベルの演算値S
rとの関係を示すマップ17Mとから車両の走行している路面の状態を推定する。
具体的には、踏み込み領域の周波数スペクトルから、8〜10kHzの周波数帯域での振動レベルV
fを算出し、蹴り出し領域の周波数スペクトルから、1〜3kHzの周波数帯域での振動レベルV
kをし、演算値S=V
f/V
kがどの路面の演算値S
rに近いかを調べることで、路面の状態を推定する。
【0019】
このように、本実施の形態によれば、タイヤ20に加速度センサー11を配置して、走行中のタイヤ20のタイヤ周方向振動を検出し、タイヤ周方向振動の時間変化波形に出現するピーク位置から、タイヤの踏み込み点P
fの位置と蹴り出し点P
kの位置とを推定するとともに、推定された踏み込み点P
fの位置と蹴り出し点P
kの位置とから、タイヤ20の接地時間T
a、接地外時間T
b、及び、回転時間T
abのいずれかまたは複数を算出し、この
算出された接地時間T
a、接地外時間T
b、及び、回転時間T
abのいずれかまたは複数を用いて、推定された踏み込み点P
fの位置と蹴り出し点の位置P
kが実際の踏み込み点の位置と蹴り出し点の位置であるか否かを判定する踏み蹴り位置判定を行い、踏み蹴り位置判定の判定結果が誤推定である場合には、路面状態の推定を行わないようにしたので、センサーの数を増やすことなく、タイヤに過度な入力があったか否かを精度よく判定することができる。したがって、路面状態の推定精度を向上させることができる。
【0020】
[実験例]
図7は、本発明による踏み蹴り位置判定における誤推定の結果と、前記特許文献1に記載の監視用の加速度センサーによる大入力検出の結果とを比較した図で、同図からも明らかなように、本発明による踏み蹴り位置判定は、前記特許文献1に記載の大入力検出と同等以上の判定精度を有していることが分かる。
これにより、大入力があった場合でも、振動波形から推定された踏み込み点の位置と蹴り出し点の位置が実際の踏み込み点の位置と蹴り出し点の位置であるか否かを精度よく判定できることが確認された。
【0021】
以上、本発明を実施の形態及び実験例を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は前記実施の形態に記載の範囲には限定されない。前記実施の形態に、多様な変更または改良を加えることが可能であることが当業者にも明らかである。そのような変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲から明らかである。
【0022】
例えば、前記実施の形態では、タイヤ20のインナーライナー部21のタイヤ気室22側に加速度センサー11を設置してタイヤ周方向加速度を検出したが、ナックルに加速度センサーを取付けてタイヤ前後方向の加速度を検出する構成としてもよい。
また、前記実施の形態では、加速度センサー11で検出したタイヤ周方向加速度を用いて、踏み込み点P
fの位置、蹴り出し点P
kの位置、及び、路面状態を推定したが、タイヤ幅方向加速度、もしくは、タイヤ径方向加速度を用いてもよい。但し、タイヤ径方向加速度を用いる場合には、検出したタイヤ径方向加速度を微分した微分加速度を用いる方が、踏み込み点P
fの位置及び蹴り出し点P
kの位置をより正確に推定できるので、好ましい。
【0023】
また、前記実施の形態では、加速度センサー11で検出されたタイヤの振動の時系列波形から求めた踏み込み振動レベルV
fと蹴り出し振動レベルV
kの演算値Sと、予め求めておいた路面状態と振動レベルの演算値S
rとの関係を示すマップ17Mとから車両の走行している路面の状態を推定したが、本発明はこれに限るものではなく、例えば、前記特許文献1に開示されているような、振動検出手段により検出した走行中のタイヤの振動の時間変化波形を用いて路面状態を推定する装置であれば適応可能である。
また、前記実施の形態では、車輪速センサー12の出力を用いて、振動波形を蹴り出し領域と踏み込み領域とに分離したが、タイヤの動半径と回転時間とから振動波形の時系列波形をタイヤの所定の位置の振動波形に変換して蹴り出し領域と踏み込み領域とに分離するようにすれば、車輪速センサー12を省略することができる。
したがって、本願発明は、車輪速センサー12を構成要素としない路面状態推定装置にも適用可能である。
【0024】
また、前記実施の形態では、接地時間比Rにより踏み蹴り位置判定を行ったが、接地時間、接地外時間、回転時間のいずれか一つを用いて踏み蹴り位置判定を行ってもよい。
また、接地時間、回転時間に代えて、接地長、回転長さを用いれば、車輪速による影響をなくすことができるので、踏み蹴り位置判定の精度が更に向上する。
例えば、接地時間もしくは接地長を用いる場合には、接地時間もしくは接地長が予め設定された接地長範囲外であるときに誤推定であると判定する。また、回転時間もしくは回転長さを用いた場合には、回転時間もしくは回転長さが予め設定された回転長範囲外であるときに誤推定であると判定する。
なお、前記実施の形態では、接地時間T
aと回転時間T
abとから推定された踏み込み点の位置と蹴り出し点の位置の一方もしくは両方が実際の踏み込み点の位置と蹴り出し点の位置であるか否かを判定したが、接地外時間T
bは、回転時間T
abと接地時間T
aとの差であるので、接地時間T
aと接地外時間T
b、もしくは、接地外時間T
bと回転時間T
abとから、推定された踏み込み点の位置と蹴り出し点の位置の一方もしくは両方が実際の踏み込み点の位置と蹴り出し点の位置であるか否かを判定できることはいうまでもない。