(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明を、添付図面に示す実施形態に基づいて説明する。
【0016】
図1には、本発明の一実施形態の弾塑性エネルギー吸収体Aを示している。本実施形態の弾塑性エネルギー吸収体Aは、
図2に示す平坦な平板材1を、ロール成形やプレス成形で折り曲げ加工したものである。換言すると、
図2に示す平板材1の平面図は、
図1に示す弾塑性エネルギー吸収体Aの展開図に相当する。
【0017】
まず、折り曲げ加工前の平板材1について説明する。
【0018】
平板材1は、弾塑性変形を生じ得る鋼材から成り、幅方向Xと長さ方向Yに沿ってそれぞれ二辺が位置する略矩形状の外形を有する。幅方向Xと長さ方向Yは、互いに直交する方向である。幅方向Xと長さ方向Yに直交する方向を、厚み方向Zとする(
図1参照)。
【0019】
平板材1は、その長さ方向Yの寸法(以下、単に「長さ寸法」という。)に基づいて、最短領域15、中間領域16及び最長領域17に区分される。
【0020】
最短領域15は、平板材1のうち長さ寸法が最小となる領域であって、平板材1の幅方向Xの中央に位置する。最長領域17は、平板材1のうち長さ寸法が最大となる領域であって、平板材1の幅方向Xの両端に位置する。
【0021】
平板材1の最短領域15と最長領域17の間には、中間領域16が位置する。中間領域16は、隣接する最短領域15よりも長さ寸法が大きく、且つ、隣接する最長領域17よりも長さ寸法が小さな領域である。
【0022】
平板材1の最短領域15は、長さ方向Yの両端に、互いに平行な一直線状の端縁150,151を有する。両端の端縁150,151間の距離が、平板材1の最短領域15の長さ寸法であり、最短領域15全体を通じて長さ寸法は一定である。なお、最短領域15の長さ寸法は、全体を通じて厳密に一定である必要はなく、多少の寸法差は許容される。
【0023】
平板材1の最長領域17は、長さ方向Yの両端に、互いに平行な一直線状の端縁170,171を有する。両端の端縁170,171は、互いに平行である。両端の端縁170,171間の距離が、平板材1の最長領域17の長さ寸法であり、最長領域17全体を通じて長さ寸法は一定である。なお、最長領域17の長さ寸法は、全体を通じて厳密に一定である必要はなく、多少の寸法差は許容される。最長領域17には、複数の固定孔172,172,…を、長さ方向Yに等間隔を隔てて貫通形成している。
【0024】
平板材1の中間領域16は、長さ方向Yの両端に、互いに非平行な一直線状の端縁160,161を有する。両端の端縁160,161間の距離が、平板材1の中間領域16の長さ寸法である。中間領域16の長さ寸法は、中間領域16の幅方向Xの位置によって変化し、最短領域15から最長領域17に近づくほど大きくなる。
【0025】
中間領域16の一方の端縁160は、隣接する最短領域15の一方の端縁150と、隣接する最長領域17の一方の端縁170に対して、クランク状をなすように一連に形成される。中間領域16の端縁160は、互いに平行である最短領域15の端縁150と最長領域17の端縁170に対して、角度αだけ傾いて位置する。
【0026】
同様に、中間領域16の他方の端縁161は、隣接する最短領域15の他方の端縁151と、隣接する最長領域17の他方の端縁171に対して、クランク状をなすように一連に形成される。中間領域16の端縁161は、互いに平行である最短領域15の端縁151と最長領域17の端縁171に対して、角度βだけ傾いて位置する。本実施形態では、角度αと角度βは共に45°であるが、角度αと角度βを相違させることも可能である。
【0027】
換言すると、本実施形態の平板材1は、長さ方向Yの両端に位置する端縁18,19に、それぞれ台形状の切り欠き180,190を形成することで、平板材1全体を最短領域15、中間領域16及び最長領域17に区分している。
【0028】
平板材1の端縁18のうち切り欠き180が形成された部分は、最短領域15の端縁150と中間領域16の端縁160を構成する。端縁18のうち切り欠き180が形成されていない部分は、最長領域17の端縁170を構成する。
【0029】
同様に、平板材1の端縁19のうち切り欠き190が形成された部分は、最短領域15の端縁151と中間領域16の端縁161を構成する。端縁19のうち切り欠き190が形成されていない部分は、最長領域17の端縁171を構成する。
【0030】
前記した構成の平板材1を、
図2に破線で示す二本の谷折筋11で90°だけ谷折りし、且つ、
図2に一点鎖線で示す二本の山折筋10で90°だけ山折りすることによって、
図1に示す断面ハット形状の弾塑性エネルギー吸収体Aが形成される。
【0031】
本実施形態では、
図2に示すような各領域15,16,17を有する形状に平板材1を成形した後に、この平板材1を折り曲げ加工しているが、折り曲げ加工後に各領域15,16,17を成形することも可能である。即ち、例えば、平板材1をまずは平面視矩形状に成形し、その後に、平板材1を山折線10と谷折線11に沿って折り曲げ加工し、折り曲げ加工後の平板材1の端縁部を切除することで、
図1に示すような形状の弾塑性エネルギー吸収体Aを形成することも可能である。いずれの手順で形成した弾塑性エネルギー吸収体Aであっても、本発明の技術的範囲に含まれる。
【0032】
折り曲げ加工した平板材1で構成される弾塑性エネルギー吸収体Aは、上フランジ12と下フランジ14が、ウエブ13を介して幅方向Xに交互に位置する構造となる。弾塑性エネルギー吸収体Aは、上フランジ12とその両側のウエブ13,13とが山部を構成し、下フランジ14とその片側のウエブ13とが谷部を構成し、この山部と谷部が幅方向Xに沿って交互に位置する凹凸形状である。
【0033】
なお、
図12に示す実施形態のように、弾塑性エネルギー吸収体Aが山部を複数有する構造である場合には、下フランジ14とその片側のウエブ13とで構成される谷部(弾塑性エネルギー吸収体Aの両端に位置する谷部)と、下フランジ14とその両側のウエブ13,13とで構成される谷部(弾塑性エネルギー吸収体Aの両端以外に位置する谷部)とが、共に存在する。
【0034】
弾塑性エネルギー吸収体Aのうち、幅方向Xの両端に位置する下フランジ14が、柱等の建築構造体に固定される固定フランジとなる。下フランジ14には、厚み方向Zに貫通した複数の固定孔172,172,…が、長さ方向Yに距離を隔てて一列に並設される。
【0035】
弾塑性エネルギー吸収体Aは、谷部をなす両端の下フランジ14が建築構造体に固定され、山部をなす上フランジ12と両側のウエブ13,13は、建築構造体に対して非固定となる。
【0036】
本実施形態の弾塑性エネルギー吸収体Aでは、山折筋10と谷折筋11を二本ずつ設けることで、山部を中央に一つ形成し、その両側に谷部を二つ形成しているが、山折筋10と谷折筋11を更に多く設定することで、山部を複数形成することも可能である(
図12参照)。この場合においても、折り曲げ加工された弾塑性エネルギー吸収体Aは、山部と谷部が幅方向Xに交互に位置し、幅方向Xの両端に谷部が位置する。
【0037】
谷折筋11と山折筋10の間に形成されるウエブ13は、平板材1の中間領域16を含む。そのため、ウエブ13と上フランジ12の境界にある山折筋10の長さ方向Yの寸法は、該ウエブ13と下フランジ14の境界にある谷折筋11の長さ寸法よりも小さく設定される。
【0038】
図3には、平板材1の各領域15,16,17の区分と、山折筋10及び谷折筋11との関係を、概略的に示している。
図3では、各領域15,16,17の区分を明確化するために、最短領域15と最長領域17には互いに異なるトーンを付している。
【0039】
本実施形態においては、平板材1の最長領域17と中間領域16とを区分けするように一直線状の境界線L2をひいたとき、谷折筋11は、この境界線L2に対して幅方向Xに所定距離だけずれた位置にある。谷折筋11は、境界線L2よりも所定距離だけ最長領域17側に位置し、即ち、最長領域17内に位置する。
【0040】
また、平板材1の最短領域15と中間領域16とを区分けするように一直線状の境界線L1をひいたときに、山折筋10は、この境界線L1に対して幅方向Xに所定距離だけずれた位置にある。山折筋10は、境界線L1よりも所定距離だけ最長領域17と近い側に位置し、即ち、中間領域16内に位置する。
【0041】
そのため、弾塑性エネルギー吸収体Aの上フランジ12は、平板材1の最短領域15と、その両側の中間領域16の一部で構成される。弾塑性エネルギー吸収体Aの両側のウエブ13は、両側の中間領域16の他部と最長領域17の一部によってそれぞれ構成される。弾塑性エネルギー吸収体Aの両端の下フランジ14は、両端の最長領域17の他部によってそれぞれ構成される。
【0042】
換言すると、平板材1の最短領域15が、弾塑性エネルギー吸収体Aの上フランジ12の幅方向Xの中央部を構成する。平板材1の中間領域16が、弾塑性エネルギー吸収体Aの上フランジ12の幅方向Xの端部と、これに連続するウエブ13の一部を構成する。平板材1の最長領域17が、ウエブ13の他部と、弾塑性エネルギー吸収体Aの下フランジ14の全部を構成する。
【0043】
図4には、比較例の弾塑性エネルギー吸収体A1を示している。この弾塑性エネルギー吸収体A1は、幅方向Xの位置によって長さ寸法が変化しないように構成した点でのみ、
図1に示す弾塑性エネルギー吸収体Aと相違する。即ち、
図4に示す弾塑性エネルギー吸収体A1は、本実施形態の弾塑性エネルギー吸収体Aのような切り欠き180,190を有さず、本実施形態のように最短領域15、中間領域16及び最長領域17に区分されない。比較例の弾塑性エネルギー吸収体A1の加工条件は、本実施形態の弾塑性エネルギー吸収体Aと同一である。
【0044】
図5〜
図7には、本実施形態と比較例の弾塑性エネルギー吸収体A,A1に対して行った多サイクル面内せん断実験について示している。
【0045】
図5には、この実験に用いた実験装置5を示している。実験装置5は、弾塑性エネルギー吸収体A,A1の幅方向Xの一端部を固定する第一柱治具50と、弾塑性エネルギー吸収体A,A1の幅方向Xの他端部を固定する第二柱治具51と、第一柱治具50と第二柱治具51の頭部をボルト接合する柱頭つなぎ梁52とを具備し、第一柱治具50と第二柱治具51の底部をベース53に対してボルト接合し、柱頭つなぎ梁52を油圧ジャッキ54で水平方向に往復駆動させる。柱頭つなぎ梁52の水平方向(幅方向X)の往復動により、弾塑性エネルギー吸収体A,A1には、図中に矢印で示す方向(長さ方向Y)に沿った剪断変形が生じる。
【0046】
図6には、多サイクル面内せん断実験の実験結果を示している。
図6(a)は、比較例の弾塑性エネルギー吸収体A1の実験結果を示し、
図6(b)は、本実施形態の弾塑性エネルギー吸収体Aの実験結果を示す。
図6(a)と
図6(b)のグラフでは、横軸が、長さ方向Yに生じるせん断変形量[mm]、縦軸が、長さ方向Yに生じるせん断荷重[kN]である。
【0047】
比較例の弾塑性エネルギー吸収体A1は、
図6(a)に示す変形履歴のP点において、谷折筋の端部近傍で表面に若干の亀裂が生じ、変形履歴のQ点において、谷折筋の端部に割れが発生した。これに対して、本実施形態の弾塑性エネルギー吸収体Aでは、
図6(b)に示す変形履歴のR点において、谷折筋の端部近傍で表面に若干の亀裂が生じた程度であり、高い繰り返し耐力性能を有することが確認された。
【0048】
図7(a)には、比較例の弾塑性エネルギー吸収体A1において最大変形時(せん断変形量が20mm超)に生じた割れの様子を示している。
図6(a)に基づいて説明したように、最大変形時においては、弾塑性エネルギー吸収体A1の谷折筋の端部に、割れが発生している。
【0049】
これに対して、
図7(b)には、本実施形態の弾塑性エネルギー吸収体Aにおける最大変形時(せん断変形量が20mm超)の様子を示している。
図6(b)に基づいて説明したように、本実施形態の弾塑性エネルギー吸収体Aでは、最大変形時においても割れが発生しない。
【0050】
本実施形態の弾塑性エネルギー吸収体Aでは、山折筋10の長さ寸法を谷折筋11の長さ寸法よりも小さく設けることで、山折筋10と谷折筋11の長さ寸法が同一である場合(即ち、比較例のような場合)に比べて、上フランジ12と両側のウエブ13で構成される山部の長さ方向Yの端部において、折筋方向と直交する方向(即ち、平面視における幅方向X)に倒れ込む変形への抵抗力を低下させている。山部の長さ方向Yの端部が、折筋方向と直交する方向に倒れ込む際には、曲げモーメントによる引張応力(曲げ戻し部分の表層の応力)が生じるが、前記抵抗力を低下させた結果として、曲げモーメントによる引張応力の集中箇所を、谷折筋11の端部近傍からウエブ13の領域側に移動させることが可能となっている。
【0051】
また、山部の端部において、折筋方向と直交する方向に倒れ込む変形が進行するに伴って、谷折筋11の端部近傍では、局所的な張力(引張応力)が増大する。これに対して、本実施形態の弾塑性エネルギー吸収体Aでは、谷折筋11の長さ寸法を山折筋10よりも大きく設け、局所的な張力(引張応力)に対して抵抗する谷部範囲を、大きく設けている。そのため、本実施形態の弾塑性エネルギー吸収体Aでは、谷折筋11の端部近傍に生じるひずみの集中が、折筋方向に分散される。本実施形態の弾塑性エネルギー吸収体Aにおいては、谷折筋11の端部が、切断や成形による残存ダメージが大きい部分となるが、谷折筋11のうち比較的ダメージの小さな折筋方向内側に向けて、ひずみの集中を分散させることで、谷折筋11の端部近傍での割れの発生を抑制することが可能となっている。
【0052】
これらの効果により、本実施形態の弾塑性エネルギー吸収体Aでは、谷折筋11の端部近傍で割れを生じることが抑えられ、結果として、弾塑性エネルギー吸収体Aのエネルギー吸収性能を高水準で発揮することが可能となる。
【0053】
加えて、本実施形態の弾塑性エネルギー吸収体Aでは、前記したように、山折筋10の位置を、最短領域15と中間領域16の境界線L1に対して、幅方向Xに所定距離だけずらし、且つ、谷折筋11の位置を、最長領域17と中間領域16の境界線L2に対して、幅方向Xに所定距離だけずらしている。このように、山折筋10と境界線L1をずらし、且つ、谷折筋11と境界線L2をずらして設定することで、山部で生じる応力の集中を、山折筋10で曲げられる箇所と境界線L1の箇所に分散させることができ、且つ、谷部で生じる応力の集中を、谷折筋11で曲げられる箇所と境界線L2の箇所に分散させることができるため、弾塑性エネルギー吸収体Aの一部に塑性ひずみが集中し難くなり、早期破壊が抑えられる。その結果として、弾塑性エネルギー吸収体Aのエネルギー吸収性能が、更に高水準で発揮される。
【0054】
これらの作用効果は、前記した実験結果に加えて、FEMモデルでの解析によっても確認されている。即ち、本実施形態の弾塑性エネルギー吸収体Aの仕様によれば、比較例の弾塑性エネルギー吸収体A1の仕様に比べて、山部の端部が倒れ込むように変形する際の曲げモーメントによる引張応力の集中箇所が、谷折筋11の端部近傍からウエブ13の領域側に移動することや、谷折筋11の端部近傍に生じるひずみの集中が、折筋方向内側に分散することが、FEMモデルでの解析によっても確認されている。また、山折筋10と境界線L2をずらすこと、及び、谷折筋11と境界線L1をずらすことで、当該部分での応力集中が緩和されることも、確認されている。
【0055】
ところで、本発明の弾塑性エネルギー吸収体Aは、
図1や
図3に示す構造に限定されず、
図8に示す他の実施形態のような構造を備えることも可能である。
【0056】
図8(a)の実施形態では、中間領域16の端縁160が一直線状ではなく、湾曲した波状やS字状となっている。また、この実施形態では、谷折筋11が境界線L2と一致し、山折筋10が境界線L1と一致している。そのため、最短領域15と上フランジ12が一対一に対応し、中間領域16とウエブ13が一対一に対応し、最長領域17と下フランジ14が一対一に対応する。
【0057】
図8(b)の実施形態では、
図8(a)と同様に、中間領域16の端縁160が湾曲した波状やS字状となっている。この実施形態では、二つの谷折筋11のうち一方は対応する境界線L2と一致し、他方の谷折筋11は、対応する境界性L2に対して最長領域17側にずれて位置している。二つの山折筋10のうち一方は対応する境界線L1と一致し、他方の山折筋10は、対応する境界性L1に対して中間領域16側にずれて位置している。
【0058】
図8(c)の実施形態では、中間領域16の端縁160が一直線状である。この実施形態では、谷折筋11が対応する境界線L2と一致して位置し、且つ、山折筋10が対応する境界線L1に対して中間領域16側にずれて位置している。
【0059】
図8(d)の実施形態では、中間領域16の端縁160が外側に膨らんだ円弧状である。この実施形態では、谷折筋11が対応する境界線L2に対して中間領域16側にずれて位置し、且つ、山折筋10が対応する境界線L1に対して中間領域16側にずれて位置している。
【0060】
図8(e)の実施形態では、中間領域16の端縁160が内側にへこんだ円弧状である。この実施形態では、谷折筋11が対応する境界線L2に対して最長領域17側にずれて位置し、且つ、山折筋10が対応する境界線L1に対して最短領域15側にずれて位置している。
【0061】
これら他の実施形態にも示すように、中間領域16の端縁160は、傾斜した一直線状の形状に限定されず、波状、S字状、円弧状等の他形状が採用可能である。同様に、中間領域16の他方の端縁161も、傾斜した一直線状の形状に限定されず、波状、S字状、円弧状等の他形状が採用可能である。
【0062】
また、谷折筋11は境界線L2に一致させてもよいし、境界線L2に対して最長領域17側又は中間領域16側にずらすことも可能である。更に、山折筋10を境界線L1に一致させてもよいし、境界線L1に対して最短領域15側又は中間領域16側にずらすことも可能である。
【0063】
図9〜
図11には、
図1に示す本実施形態の弾塑性エネルギー吸収体Aを用いて構成した耐力壁構造Bを示している。
【0064】
耐力壁構造Bは、鉄骨軸組工法建築物で用いる耐力壁構造Bであって、角形鋼管を用いて形成した第一柱体2と、同じく角形鋼管を用いて形成した第二柱体3とを、共に鉛直方向に立設し、第一柱体2と第二柱体3を上下の梁体4,4に固定している。上下の梁体4,4の代わりにスラブを用い、第一柱体2と第二柱体3をスラブに固定させてもよいし、下の梁体4の代わりに基礎を用い、第一柱体2と第二柱体3を基礎に固定させてもよい。
【0065】
第一柱体2には、第二柱体3を向く側の面上に、第二柱体3に向けて突出するように第一連結板20を固定させている。第二柱体3には、第一柱体2を向く側の面上に、第一柱体2に向けて突出するように第二連結板30を固定させている。この第一連結板20と第二連結板30との間に、弾塑性エネルギー吸収体Aと連結プレート8を結合させる。
【0066】
連結プレート8は、
図10や
図11に示すように、長い板状の鋼材である。連結プレート8は、長手方向の一方に第一端部80を有し、長手方向の他方に第二端部81を有する。第一端部80には貫通孔800を形成し、第二端部81には貫通孔810を形成している。
【0067】
弾塑性エネルギー吸収体Aの一端側の下フランジ14と連結プレート8とは、第一ボルト60とこれに螺合する第一ナット61を介して、第一柱体2が有する第一連結板20に結合される。同様に、弾塑性エネルギー吸収体Aが有する他端側の下フランジ14と連結プレート8とは、第二ボルト70とこれに螺合する第二ナット71を介して、第二柱体3が有する第二連結板30に結合される。
【0068】
弾塑性エネルギー吸収体Aと連結プレート8とは、第一連結板20と第二連結板30を挟んだ表裏の位置で、第一ボルト60や第二ボルト70を介して、互いに結合される。
【0069】
第一柱体2と第二柱体3との間には、弾塑性エネルギー吸収体Aを、鉛直方向に距離をあけて複数配置している。そして、各弾塑性エネルギー吸収体Aの裏側にあたる箇所に、連結プレート8を複数ずつ配置している。
【0070】
具体的には、同一寸法形状の弾塑性エネルギー吸収体Aを、鉛直方向に距離をあけて上下に二つ配置し、各弾塑性エネルギー吸収体Aの裏側の上端部にあたる箇所と下端部にあたる箇所に、それぞれ同一寸法形状の連結プレート8を配置している。このとき、弾塑性エネルギー吸収体Aの長さ方向Yが、鉛直方向となる。
【0071】
前記したように、連結プレート8は、その第一端部80を第一連結板20に対して一箇所でボルト接合させ、第二端部81を第二連結板30に対して一箇所でボルト接合させたものである。そのため、地震のような往復振動を与えると、連結プレート8は両側のボルト接合箇所で回転しながら、第一柱体2と第二柱体3の間の距離を略一定に保持する。これにより、弾塑性エネルギー吸収体Aが不要な水平方向の変形を生じることが抑えられる。
【0072】
他方、この構造によれば、弾塑性エネルギー吸収体Aには鉛直方向の変形が作用しやすくなる。これに対して、弾塑性エネルギー吸収体Aは鉛直方向に山折筋10や谷折筋11を有する鋼材であり、且つ、前記の如くエネルギー吸収性能を高水準で発揮するものであるから、鉛直方向の変形に対して高い剛性や耐力性能を発揮する。
【0073】
本実施形態の耐力壁構造Bによれば、上階からの荷重は第一柱体2と第二柱体3がほぼ全て負担し、弾塑性エネルギー吸収体Aや連結プレート8に作用することは抑えられる。そして、地震のような往復振動を与えたときには、面内方向の変形に対して、弾塑性エネルギー吸収体Aがエネルギー吸収性能を高水準で発揮する。
【0074】
本発明の弾塑性エネルギー吸収体Aを用いる耐力構造は、前記した耐力壁構造Bに限定されず、枠体等の他の建築構造体に弾塑性エネルギー吸収体Aを固定することも可能である。
【0075】
図12に示す例は、矩形状をなす枠体9に対して、山部を複数有する弾塑性エネルギー吸収体Aを固定した例である。
【0076】
図12に示す弾塑性エネルギー吸収体Aは、本発明の更に他の実施形態の弾塑性エネルギー吸収体Aであり、幅方向Xに長い平板材1を、多数の山折筋10と谷折筋11で折り曲げることによって、三つの山部と四つの谷部を、幅方向Xに交互に形成している。谷部を構成する下フランジ14は、それぞれ枠体9に対してボルト接合され、変形が拘束される。弾塑性エネルギー吸収体Aの谷部と枠体9との接合部分を、弾塑性エネルギー吸収体Aよりも先に降伏させることなく、山部の端部において折筋方向と直交する方向に倒れ込むような弾塑性変形を生じさせることで、弾塑性エネルギー吸収体Aは高いエネルギー吸収性能を発揮する。
【0077】
以上、添付図面に基づいて説明したように、本実施形態の弾塑性エネルギー吸収体Aは、幅方向Xと長さ方向Yを有する平板材1を、長さ方向Yに沿う山折筋10と谷折筋11で折り曲げることによって、上フランジ12と下フランジ14を、ウエブ13を介して幅方向Xに交互に形成したものである。下フランジ14が、建築構造体に固定される固定フランジである。ウエブ13と上フランジ12の境界にある山折筋10の長さ方向Yの寸法を、該ウエブ13と下フランジ14の境界にある谷折筋11の長さ方向Yの寸法よりも、小さく設けている。
【0078】
前記構成を具備する弾塑性エネルギー吸収体Aでは、下フランジ14を建築構造体に固定して変形を拘束しつつ、上フランジ12とウエブ13から成る山部の端部において、折筋方向と直交する方向に倒れ込むような弾塑性変形を生じさせることで、地震等で面内せん断力を生じたときにはそのエネルギーを効率的に吸収することができる。加えて、本実施形態の弾塑性エネルギー吸収体Aでは、山折筋10の長さ方向Yの寸法を谷折筋11よりも小さく設定しているので、上フランジ12と両側のウエブ13で構成される山部の端部が倒れ込むように変形する際の曲げモーメントによる引張応力の集中箇所を、谷折筋11の端部近傍からウエブ13の領域側に移動させることができ、且つ、谷折筋11の端部近傍に生じるひずみの集中を、折筋方向内側に分散させることができる。これにより、谷折筋11の端部近傍に割れが生じることを抑制し、弾塑性エネルギー吸収体Aのエネルギー吸収性能を高水準で発揮することが可能となる。
【0079】
また、弾塑性エネルギー吸収体Aにおいて、折り曲げた平板材1は、長さ方向Yの寸法が最小の領域である最短領域15と、長さ方向Yの寸法が最大の領域である最長領域17と、最長領域17と最短領域15との間に位置する中間領域16とを有する。上フランジ12の全部又は一部が、平板材1の最短領域15で構成され、下フランジ14の全部又は一部が、平板材1の最長領域17で構成される。そして、平板材1の最短領域15と中間領域16とを区分けするように一直線状の境界線L1をひいたときに、この境界線L1に対して幅方向Xにずれた位置に山折筋10を形成することが好ましい。
【0080】
これにより、山折筋10に応力が集中することや、最短領域15と中間領域16の境界部分に応力が集中することを緩和することができ、弾塑性エネルギー吸収体Aのエネルギー吸収性能を更に発揮させることが可能となる。
【0081】
また、弾塑性エネルギー吸収体Aにおいて、平板材1の最長領域17と中間領域16とを区分けするように一直線状の境界線L2をひいたときに、この境界線L2に対して幅方向Xにずれた位置に谷折筋11を形成することも好ましい。
【0082】
これにより、谷折筋11に応力が集中することを更に緩和することができ、弾塑性エネルギー吸収体Aのエネルギー吸収性能を更に発揮させることが可能となる。
【0083】
また、本実施形態の弾塑性エネルギー吸収体Aを用いた耐力壁構造Bは、弾塑性エネルギー吸収体Aに加えて、弾塑性エネルギー吸収体Aが幅方向Xの両端に有する下フランジ14のうち、一端側の下フランジ14に固定される第一柱体2と、他端側の下フランジ14に固定される第二柱体3とを具備する。弾塑性エネルギー吸収体Aは、幅方向Xの中央に上フランジ12を一つ形成した断面ハット形の部材である。
【0084】
前記構成を具備する耐力壁構造Bによれば、上階からの荷重は第一柱体2と第二柱体3が負担し、地震のような振動が与えられたときには、弾塑性エネルギー吸収体Aが、第一柱体2と第二柱体3の鉛直方向の相対変位に対して抵抗力を発揮しながら、そのエネルギーを効率的に吸収する。そのため、少ない鋼材量で高い剛性や耐力性能を発揮させることができ、弾塑性エネルギー吸収体Aの加工も容易である。
【0085】
以上、本発明を添付図面に示す実施形態に基づいて説明したが、本発明は前記各例の実施形態に限定されるものではない。本発明の意図する範囲内であれば、各例において適宜の設計変更を行うことや、各例の構成を適宜組み合わせて適用することが可能である。