特許第6382578号(P6382578)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社東芝の特許一覧 ▶ 東芝エネルギーシステムズ株式会社の特許一覧

特許6382578安定性演算監視装置、原子炉出力安定性監視システムおよび原子炉出力安定性監視方法
<>
  • 特許6382578-安定性演算監視装置、原子炉出力安定性監視システムおよび原子炉出力安定性監視方法 図000002
  • 特許6382578-安定性演算監視装置、原子炉出力安定性監視システムおよび原子炉出力安定性監視方法 図000003
  • 特許6382578-安定性演算監視装置、原子炉出力安定性監視システムおよび原子炉出力安定性監視方法 図000004
  • 特許6382578-安定性演算監視装置、原子炉出力安定性監視システムおよび原子炉出力安定性監視方法 図000005
  • 特許6382578-安定性演算監視装置、原子炉出力安定性監視システムおよび原子炉出力安定性監視方法 図000006
  • 特許6382578-安定性演算監視装置、原子炉出力安定性監視システムおよび原子炉出力安定性監視方法 図000007
  • 特許6382578-安定性演算監視装置、原子炉出力安定性監視システムおよび原子炉出力安定性監視方法 図000008
  • 特許6382578-安定性演算監視装置、原子炉出力安定性監視システムおよび原子炉出力安定性監視方法 図000009
  • 特許6382578-安定性演算監視装置、原子炉出力安定性監視システムおよび原子炉出力安定性監視方法 図000010
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6382578
(24)【登録日】2018年8月10日
(45)【発行日】2018年8月29日
(54)【発明の名称】安定性演算監視装置、原子炉出力安定性監視システムおよび原子炉出力安定性監視方法
(51)【国際特許分類】
   G21C 17/00 20060101AFI20180820BHJP
【FI】
   G21C17/00 VGDB
   G21C17/00 C
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-109507(P2014-109507)
(22)【出願日】2014年5月27日
(65)【公開番号】特開2015-224945(P2015-224945A)
(43)【公開日】2015年12月14日
【審査請求日】2017年2月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001092
【氏名又は名称】特許業務法人サクラ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】河野 繁宏
(72)【発明者】
【氏名】富高 真
【審査官】 道祖土 新吾
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−231089(JP,A)
【文献】 特開2010−161919(JP,A)
【文献】 特開2011−247643(JP,A)
【文献】 特開2007−240464(JP,A)
【文献】 特開平05−312989(JP,A)
【文献】 特開2004−240817(JP,A)
【文献】 特開2013−181766(JP,A)
【文献】 特開2012−154631(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21C 17/00−17/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原子炉の炉心内の中性子を計測する複数の中性子検出器からの信号に基づいて前記原子炉の出力振動をリアルタイムで監視する安定性演算監視装置において、
前記複数の中性子検出器からの信号を共通の検出サンプリング周期でそれぞれサンプリングしてそれぞれの検出サンプリング信号を出力する検出サンプリング部と、
前記検出サンプリング信号のそれぞれを中性子束信号に換算する局部出力監視部と、
前記中性子束信号のそれぞれにローパスフィルタリングを施すローパスフィルタと、
前記ローパスフィルタを透過した前記中性子束信号のそれぞれを前記検出サンプリング周期より長い周期でダウンサンプリングを行うダウンサンプリング部と、
前記ダウンサンプリングされた前記中性子束信号のそれぞれに離散ウェーブレット変換を施してそれぞれについて離散ウェーブレット変換の各レベルのウェーブレット係数を算出するウェーブレット変換部と、
前記ウェーブレット変換部で算出された前記ウェーブレット係数の時間的変化を監視する監視部と、
を備えることを特徴とする安定性演算監視装置。
【請求項2】
前記局部出力監視部は、前記複数の中性子検出器を複数のグループにグルーピングしたそれぞれのグループごとに、それぞれのグループ内の中性子検出器からの信号の平均値について換算を行うことを特徴とする請求項1に記載の安定性演算監視装置。
【請求項3】
前記監視部は、前記各レベルのうちのいずれかのレベルにおける前記ウェ−ブレット係数の値の絶対値が所定のしきい値を超えた場合、ウェ−ブレット係数の値の絶対値の時間的変化率が所定のしきい値を超えた場合、または、あるレベルで1次モードの発振が出現した後、更に高次のレベルに発振が出現した場合は異常と判定することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の安定性演算監視装置。
【請求項4】
前記ウェーブレット係数の時間および周波数についての分布図を前記複数の中性子検出器からの中性子束信号のそれぞれごとに表示する表示部をさらに備えることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載の安定性演算監視装置。
【請求項5】
原子炉の炉心内に配列された複数の中性子検出器と、
前記中性子検出器からの信号に基づいて前記原子炉の出力の安定性を監視する安定性演算監視装置と、
を備える原子炉出力安定性監視システムであって、
前記安定性演算監視装置は、
前記複数の中性子検出器からの信号をそれぞれ共通の検出サンプリング周期でサンプリングしてそれぞれの検出サンプリング信号を出力する検出サンプリング部と、
前記検出サンプリング信号のそれぞれを中性子束信号に換算する局部出力監視部と、
前記中性子束信号のそれぞれにローパスフィルタリングを施すローパスフィルタと、
前記ローパスフィルタを透過した前記中性子束信号のそれぞれを前記検出サンプリング周期より長い周期でダウンサンプリングを行うダウンサンプリング部と、
前記ダウンサンプリングされた前記中性子束信号のそれぞれに離散ウェーブレット変換を施してそれぞれについて離散ウェーブレット変換の各レベルのウェーブレット係数を算出するウェーブレット変換部と、
前記ウェーブレット変換部で算出された前記ウェーブレット係数の時間的変化を監視する監視部と、
を有することを特徴とする原子炉出力安定性監視システム。
【請求項6】
原子炉の炉心内の中性子を計測する複数の中性子検出器からの信号に基づいて前記原子炉の出力振動をリアルタイムで監視する原子炉出力安定性監視方法において、
前記複数の中性子検出器からの信号をそれぞれ共通の検出サンプリング周期でサンプリングしてそれぞれの検出サンプリング信号を出力する検出サンプリングステップと、
前記検出サンプリング信号のそれぞれを中性子束信号に換算する換算ステップと、
前記中性子束信号のそれぞれにローパスフィルタリングを施すローパスフィルタリングステップと、
前記ローパスフィルタリングされた前記中性子束信号それぞれについて、前記検出サンプリング周期より長い周期でダウンサンプリングを行うダウンサンプリングステップと、
前記ダウンサンプリングされた前記中性子束信号のそれぞれに離散ウェーブレット変換を施して各レベルのウェーブレット係数を算出するウェーブレット変換ステップと、
前記ウェーブレット変換ステップで算出された前記ウェーブレット係数の時間的変化を監視する監視ステップと、
を有することを特徴とする原子炉出力安定性監視方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、沸騰水型原子炉の安定性演算監視装置、これを用いた原子炉出力安定性監視システム、およびにこれらを用いた原子炉出力安定性監視方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の沸騰水型原子炉の原子炉出力安定性監視装置においては、原子炉内の燃料集合体のうち一部を取り囲むように設置した中性子検出器の出力の平均値(局部的な原子炉出力の平均値)を監視している。このような原子炉出力安定性監視装置としては、出力振動範囲監視(OPRM)装置がある(例えば特許文献1参照)。
【0003】
沸騰水型原子炉の原子炉出力の安定性は、原子炉の燃料装荷領域全体の中性子束の揺らぎと、原子炉出力の局部的な振動の2面性がある(非特許文献1)。
【0004】
また、原子炉出力信号をフーリエ変換して得られるパワースペクトル密度において、高調波の有無を確認することにより、原子炉出力の不安定性を監視する技術が開示されている(特許文献2および特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3064084号公報
【特許文献2】特許第2838002号公報
【特許文献3】特許第3847988号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】IAEA―TECDOC−1474,IAEA,November 2005
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
沸騰水型原子炉の安定性については多くの研究が行われてきており、原子炉出力の局部的な振動は熱水力学的特性の不安定状態によって発生し、原子炉全体の振動は核的特性によって発生することが分かっている。
【0008】
熱水力学的特性の不安定状態とは、炉心下部と炉心上部における冷却材密度の差によって生じるものであり、この振動を検知するには同一燃料チャンネルの下部と上部の出力を別々に監視する必要がある。また、核的特性による振動は、局部的に熱水力学的特性の不安定領域が存在する場合に、炉心の対象位置を最大振幅点とした高次モードの出力分布が発生し、それが減衰せずに継続的に存在することによって生じると考えられている。
【0009】
炉心出力分布の高次モードの有無を判断するには、炉心中心と局部的な不安定領域を含む平面上に配置された中性子検出器の出力信号を用いて出力分布曲線を作成することで確認できる。しかしながら、局部的な不安定領域が炉心中心を挟んで水平な対称位置に存在するとは限らず、前記平面が水平面に対して傾きを持つ場合もあり得ると考えられる。
【0010】
しかし、非特許文献1でも指摘されているように、現行の出力振動範囲監視(OPRM)装置においては、原子炉の局部出力を鉛直方向に平均して監視するため、原子炉出力の軸方向の出力分布の振動が監視できないという課題があった。また、局部的な空間的平均出力のみを監視しているため、原子炉全体の出力振動を的確に検知することが難しかった。
【0011】
さらに、核的特性の不安定状態を特徴づける平面の傾きを事前に予測することは困難であるため、炉心軸方向に4つの高さ(レベルA,B,C,D)に設置されている既設の局部出力領域モニタ(LPRM)検出器を用いて、限られたレベル平面の原子炉出力の揺らぎを監視するだけでは、核的特性による原子炉出力の不安定の度合いを監視するには不十分であった。
【0012】
本発明の実施形態は、上述した課題を解決するためになされたものであり、従来の原子炉出力領域中性子監視装置の中性子検出器の信号を用いて、原子炉出力の振動をリアルタイムで監視することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上述の目的を達成するため、本実施形態は、原子炉の炉心内の中性子を計測する複数の中性子検出器からの信号に基づいて前記原子炉の出力振動をリアルタイムで監視する安定性演算監視装置において、前記複数の中性子検出器からの信号を共通の検出サンプリング周期でそれぞれサンプリングしてそれぞれの検出サンプリング信号を出力する検出サンプリング部と、前記検出サンプリング信号のそれぞれを中性子束信号に換算する局部出力監視部と、前記中性子束信号のそれぞれにローパスフィルタリングを施すローパスフィルタと、前記ローパスフィルタを透過した前記中性子束信号のそれぞれを前記検出サンプリング周期より長い周期でダウンサンプリングを行うダウンサンプリング部と、前記ダウンサンプリングされた前記中性子束信号のそれぞれに離散ウェーブレット変換を施してそれぞれについて離散ウェーブレット変換の各レベルのウェーブレット係数を算出するウェーブレット変換部と、前記ウェーブレット変換部で算出された前記ウェーブレット係数の時間的変化を監視する監視部と、を備えることを特徴とする。
【0014】
また、本実施形態は、原子炉の炉心内に配列された複数の中性子検出器と、前記中性子検出器からの信号に基づいて前記原子炉の出力の安定性を監視する安定性演算監視装置と、を備える原子炉出力安定性監視システムであって、前記安定性演算監視装置は、前記複数の中性子検出器からの信号をそれぞれ共通の検出サンプリング周期でサンプリングしてそれぞれの検出サンプリング信号を出力する検出サンプリング部と、前記検出サンプリング信号のそれぞれを中性子束信号に換算する局部出力監視部と、前記中性子束信号のそれぞれにローパスフィルタリングを施すローパスフィルタと、前記ローパスフィルタを透過した前記中性子束信号のそれぞれを前記検出サンプリング周期より長い周期でダウンサンプリングを行うダウンサンプリング部と、前記ダウンサンプリングされた前記中性子束信号のそれぞれに離散ウェーブレット変換を施してそれぞれについて離散ウェーブレット変換の各レベルのウェーブレット係数を算出するウェーブレット変換部と、前記ウェーブレット変換部で算出された前記ウェーブレット係数の時間的変化を監視する監視部と、を有することを特徴とする。
【0015】
また、本実施形態は、原子炉の炉心内の中性子を計測する複数の中性子検出器からの信号に基づいて前記原子炉の出力振動をリアルタイムで監視する原子炉出力安定性監視方法において、前記複数の中性子検出器からの信号をそれぞれ共通の検出サンプリング周期でサンプリングしてそれぞれの検出サンプリング信号を出力する検出サンプリングステップと、前記検出サンプリング信号のそれぞれを中性子束信号に換算する換算ステップと、前記中性子束信号のそれぞれにローパスフィルタリングを施すローパスフィルタリングステップと、前記ローパスフィルタリングされた前記中性子束信号を、前記検出サンプリング周期より長い周期でダウンサンプリングを行うダウンサンプリングステップと、前記ダウンサンプリングされた前記中性子束信号に離散ウェーブレット変換を施して各レベルのウェーブレット係数を算出するウェーブレット変換ステップと、前記ウェーブレット変換ステップで算出された前記ウェーブレット係数の時間的変化を監視する監視ステップと、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明の実施形態によれば、従来の原子炉出力領域中性子監視装置の中性子検出器の信号を用いて、原子炉出力の振動をリアルタイムで監視することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】第1の実施形態に係る原子炉出力安定性監視システムの構成を示すブロック図である。
図2】第1の実施形態に係る原子炉出力安定性監視方法における信号処理の流れを示すフロー図である。
図3】中性子検出器の検出サンプリング後の出力信号の時間チャートの例である。
図4】第1の実施形態に係る原子炉出力安定性監視方法におけるローパスフィルタの特性の例を示すグラフである。
図5】第1の実施形態に係る原子炉出力安定性監視方法におけるダウンサンプリング後の出力信号の時間チャートの例である。
図6】第1の実施形態に係る原子炉出力安定性監視方法における離散ウェーブレット変換の結果の例を示すグラフである。
図7】第1の実施形態に係る原子炉出力安定性監視方法における離散ウェーブレット変換による第2レベルのウェーブレット係数の時間的変化の例を示すグラフである。
図8】第1の実施形態に係る原子炉出力安定性監視方法における離散ウェーブレット変換による第1レベルのウェーブレット係数の時間的変化の例を示すグラフである。
図9】第2の実施形態に係る原子炉出力安定性監視システムの構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態に係る安定性演算監視装置、原子炉出力安定性監視システムおよび原子炉出力安定性監視方法について説明する。ここで、互いに同一または類似の部分には、共通の符号を付して、重複説明は省略する。
【0019】
[第1の実施形態]
図1は、実施形態に係る原子炉出力安定性監視システムの構成を示すブロック図である。原子炉出力安定性監視システム200は、複数の中性子検出器1および一つの安定性演算監視装置100を有する。中性子検出器1は、図示しない炉心内に挿入される局部出力領域監視(LPRM)用の検出器である。中性子検出器1には通常100Vの直流電圧が印加されており、照射される中性子束密度に比例した電流信号を発生する。
【0020】
安定性演算監視装置100は、複数の検出信号処理部10および一つの演算監視部20を有する。演算監視部20の後述するローパスフィルタ21とダウンサンプリング部22、および検出信号処理部10は、複数の中性子検出器1のそれぞれに対応して設けられている。
【0021】
なお、図示の都合上、中性子検出器1が3つの場合を図示し、以下、中性子検出器1が3つの場合で説明するが、通常は、一つの原子炉につき百本程度あるLPRMの全数に対応した数である。ただし、局所的な振動の監視の機能を損なわない範囲で、LPRMをグループに分けてもよい。この場合は、中性子検出器1の出力信号に代えて、それぞれのグループに属する中性子検出器1の信号の平均値を用いてもよい。あるいは、LPRMの全数から炉心内の各箇所で選択した中性子検出器1の出力信号を用いてもよい。
【0022】
検出信号処理部10は、I/V変換部11、検出サンプリング部12、および局部出力監視部13を有する。
【0023】
I/V変換部11は、中性子検出器1による電流出力信号を電圧信号に変換する。検出サンプリング部12は、電圧信号に変換された中性子検出器1の出力信号を、それぞれの中性子検出器1の出力信号に対して共通のサンプリング時間で、サンプリングする。通常中性子検出器1の信号の監視には、原子炉出力の異常な上昇時に迅速に原子炉を停止する目的のために速い応答性が要求されるため、高速のサンプリング(例えば1ミリ秒)が実施される。
【0024】
中性子検出器1は中性子照射により感度が変化するため、局部出力監視部13は、I/V変換部11の出力にLPRMゲインを乗じて中性子束(nv)に対応した局部原子炉出力密度(J/cm)信号を得る。電圧信号に変換された中性子検出器1の信号にLPRMゲインを乗算して、原子炉の局部出力(LPRM信号)に換算する。
【0025】
演算監視部20は、ローパスフィルタ21、ダウンサンプリング部22、第1の記録部23、ウェーブレット変換部24、第2の記録部25、レベル別監視部26、および出力分布監視部27を有する。レベル別監視部26は、図1に示すように、第1監視部26a、第2監視部26b、第3監視部26cを有する。ローパスフィルタ21およびダウンサンプリング部22は、前述のように中性子検出器1の数と同数設けられている。
【0026】
それぞれのローパスフィルタ21は、特定の周波数より高い周波数領域の信号を減衰することにより除去し特定の周波数より低い領域を残す処理を行う。ローパスフィルタ21で除去する周波数領域は2つの条件から決定する。
【0027】
第1は、中性子検出器1の通常の振動周波数または予測される不安定振動周波数の高い方の周波数(例えば、1.26Hz)より十分高い周波数(例えば、10Hz)以上の周波数成分の信号を除去するという条件である。第2は、後述するダウンサンプリング、すなわち再サンプリング時の周波数の1/2以上という条件である。たとえば再サンプリング周波数を20Hz、すなわち再サンプリング周期50mSとした場合、10Hz以上の周波数領域を除去する。
【0028】
それぞれのダウンサンプリング部22は、それぞれのローパスフィルタ21でフィルタリングされた信号を、局部出力監視部13で適用しているサンプリング周波数より低い周波数(例えば、20Hz)で再サンプリングする。第1の記録部23は、それぞれのダウンサンプリング部22によりダウンサンプリングされた各中性子検出器1の信号、すなわち中性子検出信号のデータを記録する。
【0029】
ウェーブレット変換部24は、第1の記録部23から、それぞれの中性子検出器1に対応する一定個数の中性子検出信号を時系列的に読み出して、nレベルの離散ウェーブレット変換(DWT)を行い、各レベルのウェーブレット係数を算出する。第2の記録部25は、DWTにより得られたそれぞれの中性子検出器1についての各レベルのウェーブレット係数を記録する。
【0030】
レベル別監視部26の第1監視部26a、第2監視部26b、および第3監視部26cは、第2の記録部25からそれぞれの中性子検出器1に対応するウェーブレット係数を読み出して監視する。出力分布監視部27は、レベル別監視部26の第1監視部26a、第2監視部26b、および第3監視部26cからそれぞれの監視結果を入力して、原子炉の局部出力の安定性が維持されているか否かを判定する。
【0031】
図2は、第1の実施形態に係る原子炉出力安定性監視方法における信号処理の流れを示すフロー図である。なお、ここでは、1つの中性子検出器1からの信号の演算、処理を行う場合について説明する。複数の中性子検出器1からの信号の処理については、後述する。
【0032】
まず、中性子検出器1により中性子を検出し、I/V変換部11が電流信号を電圧信号に変換し、検出サンプリング部12がサンプリングを実施する(ステップS01)。次に、局部出力監視部13は、電圧信号に変換されたI/V変換部11の出力にLPRMゲインを乗じて中性子束(nv)に対応した局部原子炉出力密度(J/cm)信号を得る(ステップS02)。
【0033】
次に、ローパスフィルタ21が、出力信号のローパスフィルタリングを行う(ステップS03)。次に、ダウンサンプリングを行う(ステップS04)。たとえば、再サンプリング後の中性子束信号を約51秒間収集するとデータ数は1025データとなる。中性子検出器1の出力信号には、冷却材の沸騰に伴う気泡が検出器近傍を通過することで発生する約0.25Hzの周波数(1周期=約4秒)の揺らぎ成分が2%出力程度含まれている。これらのデータは、第1の記録部23に記録される。
【0034】
図3は、中性子検出器の検出サンプリング後の出力信号の時間チャートの例である。図示されているサンプリング点数、すなわちデータ数は、51200個である。図4は、ローパスフィルタの特性の例を示すグラフである。除去する周波数範囲について、元のゲイン0に対して、−50dBないし−100dB程度に減衰させている。
【0035】
図5は、ダウンサンプリング後の出力信号の時間チャートの例である。図5の場合、図示されているサンプリング点数、すなわちデータ数は、1024個である。ローパスフィルタリングおよびダウンサンプリングを実施した後の信号の時間変化は、図3に示す実施前の信号の時間変化に比べ、有意な変化は見られない。したがって、ローパスフィルタリングおよびダウンサンプリング処理は、いずれも問題ないことが分かる。
【0036】
次に、ダウンサンプリングを行って得られたデータを用いてDWTを実施する(ステップS05)。たとえば、再サンプリング後の中性子束信号が1025個を用いて10レベルのDWTを実施して当該1分間の時間−周波数分布図を得る場合を例にとって説明する。図6は、DWTの結果の例を示すグラフである。この3次元グラフにおいて、水平方向の一方の軸は、DWTによって得られたレベルを示す。また、もう一方の軸は時間軸である。縦軸、すなわちこの2軸による面に垂直方向の軸は、それぞれのレベルのウェーブレット係数値である。
【0037】
この時間−周波数分布図において、各レベルに対応する周波数は、第1レベルが10Hz相当、第2レベル5Hz相当、第3レベルが26Hz相当、第4レベルが1.26Hz相当、第5レベルが0.626Hz相当、第6レベルが0.313Hz相当、第7レベルが0.156Hz相当、第8レベルが0.078Hz相当、第9レベルが0.039Hz相当、第10レベルが0.020Hz相当となる。すなわち、第1レベルの周波数f1に対して、第nレベルの周波数fnは、f1/2(n−1)の関係がある。
【0038】
DWTの結果では、第8レベルに大きなピークがあるという結果である。第8レベルは、中性子束信号の揺らぎの基本周波数に対応する成分である。図6では、ウェーブレット係数値が0〜c11の値を有する範囲に斜線を施して表示している。しかしながら、第8レベル以外の領域で斜線が施されている領域では第8レベルに比べてウェーブレット係数値が小さく、第1レベルないし第10レベルを同時に表示した場合、第8レベル以外のレベルのウェーブレット係数値の時間的な変化がどうなっているか判別がつかない。
【0039】
次に、ウェーブレット係数の監視を行う(ステップS06)。図7は、離散ウェーブレット変換による第2レベルのウェーブレット係数の時間的変化の例を示すグラフである。第2レベルのみを取り出して縦軸のスケールを変更している。この結果、第2レベルのウェーブレット係数が時間的に増大している、すなわち、5Hz相当の周波数成分が増大していることがわかる。
【0040】
また、図8は、離散ウェーブレット変換による第1レベルのウェーブレット係数の時間的変化の例を示すグラフである。第1レベルのみを取り出して縦軸のスケールを変更している。この結果、第1レベルのウェーブレット係数が時間的に増大している。すなわち、10Hz相当の周波数成分が増大していることがわかる。
【0041】
このように、DWTのレベルごとのウェーブレット係数の時間的変化を監視することによって、原子炉出力の安定性を監視することができる。具体的には、いずれかのレベルにおいて、ウェ−ブレット係数の値の絶対値が所定のしきい値を超えた場合に、出力分布監視部27は異常、すなわち原子炉出力の局部的な発信現象が発生したと判定する。
【0042】
あるいは、ウェ−ブレット係数の値の絶対値の時間的変化率が所定のしきい値を超えた場合、あるいは、これらの組み合わせでいずれかがしきい値を超えた場合に異常と判定することでもよい。あるいは、各レベルの信号を監視して、図7に示すようにあるレベルで1次モードの発振が出現した後、図8に示すようにその次のレベルに2次モードの発振が出現した場合、および更に高次の発振が高い周波数に相当するレベルに出現した場合に異常と判断することでもよい。
【0043】
なお、以上の図2以降についての説明は、中性子検出器1が一つの場合についてであったが、複数の中性子検出器1の信号に対しては、ダウンサンプリング部22でそれぞれダウンサンプリングされた信号が第1の記録部23に記憶されており、ステップS02からステップS04までの処理を順次、それぞれの中性子検出器1からの信号について行い、一巡した後、次のステップS05に進むことにより、可能である。すなわち、不安定現象の兆候は、この一巡時間よりも通常、十分長いためである。
【0044】
表示部28は、以上のようにして得られたそれぞれのウェーブレット係数の時間および周波数についての分布図を、中性子束信号ごとに表示する。また、表示画面の数を、監視上、適正化するために、複数の中性子束信号をグループ化し、それぞれのグループについて表示することでもよい。
【0045】
原子炉出力安定性監視システム200では、LPRM信号の通常の振動と不安定時の振動の両方を監視する。出力分布監視部27が原子炉出力の振動発生と判定した場合には、たとえば、原子炉出力を抑制するために、選択制御棒挿入信号を発生する。
【0046】
以上のように本実施形態によれば、従来の原子炉出力領域中性子監視装置の中性子検出器の信号を用いて、原子炉出力の振動をリアルタイムで監視することができる。
【0047】
[第2の実施形態]
図9は、第2の実施形態に係る原子炉出力安定性監視システムの構成を示すブロック図である。本実施形態は、第1の実施形態の変形である。
【0048】
本実施形態に係る原子炉出力安定性監視システム200は、中性子検出器1、および局部出力監視部30を有する。局部出力監視部30のそれぞれは、演算監視部20を有する。すなわち、第1の実施形態においては、演算監視部20の一部が各中性子検出器1に対応して設けられていたが、本第2の実施形態においては、各中性子検出器1のそれぞれに対応して演算監視部20が、局部出力監視部30内に設けられている。
【0049】
それぞれの局部出力監視部30においては、演算監視部20により局部出力の安定性判定が行われる。この判定結果は、局部出力監視部30から平均出力監視部(APRM)5に出力される。また、異常ありと判定した場合には、異常ありと判定がなされた局部出力監視部30から図示しない原子炉出力制御系に選択制御棒挿入信号が出力される。
【0050】
本実施形態によれば、局部出力監視部30の一部機能として、プログラマブルロジックデバイス等の集積回路によって実現した原子炉出力安定性監視を行う演算監視部20の機能を有することにより、炉心の局所的振動状態をLPRM検出器毎に監視し、選択制御棒挿入信号を発生することが可能となる。
【0051】
従って、各中性子検出器1に対応して演算監視部20を設けることによって、処理時間が短縮され、予想外に早い不安定現象を早期に把握することができる。
【0052】
また、原子炉出力安定性判定をLPRM検出器毎に多重化することができ、信頼性の高い原子炉出力安定性監視装置を供給することが可能となる。
【0053】
[その他の実施形態]
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。また、各実施形態の特徴を組み合わせてもよい。
【0054】
さらに、これらの実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。
【0055】
これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0056】
1…LPRM検出器(中性子検出器)、5…平均出力監視部、10…検出信号処理部、11…I/V変換部、12…検出サンプリング部、13…局部出力監視部、20…演算監視部、21…ローパスフィルタ、22…ダウンサンプリング部、23…第1の記録部、24…ウェーブレット変換部、25…第2の記録部、26…レベル別監視部、26a…第1監視部、26b…第2監視部、26c…第3監視部、27…出力分布監視部、28…表示部、30…局部出力監視部、100…安定性演算監視装置、200…原子炉出力安定性監視システム
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9