(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
低温液化ガスなど、流体を移送するためのポンプ装置には、軸受が使用されている。上記軸受は、インペラなどを回転させるモーター部でシャフトの荷重を支え、そのブレを抑える。このような軸受には、すべり軸受と転がり軸受の2種類があり、いずれもポンプ用の軸受として用いられている。一般に、ラジアル荷重とスラスト荷重が同時に負荷される用途には、転がり軸受が採用される(例えば、NTN株式会社、転がり軸受総合カタログ、CAT.No.2202/J、A−8)。
【0003】
転がり軸受の潤滑方法には、グリース潤滑と油潤滑の2種類がある。ポンプ装置に用いられる転がり軸受には、グリース潤滑を採用することが多い。グリースの取り扱いが容易で、密封装置の設計を簡素化できるからである(例えば、NTN株式会社、転がり軸受総合カタログ、CAT.No.2202/J、A−72,A−73)。
【0004】
転がり軸受に使用されるグリースとして、例えばENSグリース(JX日鉱日石エネルギー株式会社)がある。このグリースは、ちょう度267、滴点250℃以上、使用可能温度範囲(目安)は−40℃〜175℃の性状を示し、転がり軸受の用途に適している(同社商品紹介、http://www.noe.jx-group.co.jp/business/lubricants_e/pdf/guidesheet/grs-7021-0206.pdf)。
【0005】
取り扱いが容易なグリース潤滑の転がり軸受を用いたポンプ装置として、例えば非特許文献1に示すポンプ装置がある(CRYOSTAR webカタログ、http://www.cryostar.com/pdf/data-sheet/en/cbs-185.pdf)。
【0006】
グリース潤滑の転がり軸受には、グリース漏れをオイルシールによって防ぐ開放形軸受と、グリース漏れを起こさない密封形軸受が存在する。これらの開放形軸受のオイルシールや密封形軸受は、ポンプ装置の使用を重ねる過程で損傷することがある。これらが損傷すると、軸受からグリースが漏出し、シャフトを伝ってポンプ部へ流入する。ポンプ部にグリースが流入すると、移送する対象流体に混入してしまう。したがって、これを未然に防ぐ必要がある。
【0007】
図5は、非特許文献1に記載されたポンプ装置を示す図である。
このポンプ装置は、軸受105から漏出したグリースがポンプ部102に流入するのを防ぐため、保護板106を使用している。つまり、上記ポンプ装置は、ポンプ部102のインペラ103とモータ部101が一本のシャフト104でつながっている。上記シャフト104は、モータ部101に配置された軸受105で軸支されている。インペラ103とモータ部101をつなぐシャフト104は、モータ部101とポンプ部102の間で外部に露出している。そして、上記シャフト104の露出部に、フランジ状の保護板106が装着されている。
【0008】
上記ポンプ装置の運転中に、モータ部101の軸受105からグリースが漏出すると、グリースはシャフト104を伝ってポンプ部102に向かって流れる。グリースはやがてシャフト104の保護板106に到達する。保護板106に到達したグリースは、シャフト104とともに回転している保護板106の遠心力により、周囲に飛散する。このような作用により、モータ部101の軸受105からシャフト104を伝ってきたグリースが、保護板106を越えてポンプ部102に流入するのを防ぐことが出来る。
【0009】
一方、特許文献1(特開2012−92813号公報)には、モータ(1)、インペラ(2)およびシャフト(3)が密閉空間(14)内に存在する低温液化ガス用ポンプが開示されている。括弧内の符号は公報に掲載されたものである。この低温液化ガス用ポンプは、モータ(1)を気相内で稼動することにより、グリース潤滑の軸受け(16)を使用できる〔段落0059〕。
【0010】
上記特許文献1の構造は、シャフト(3)が熱調整ハウジング(12)内に収容されている。したがって、シャフト(3)に上述したような保護板106を設け、シャフト(3)を伝ってきたグリースを周囲に飛散させることができない。たとえシャフト(3)に保護板106を設けたとしても、遠心力で飛散したグリースは熱調整ハウジング(12)の内面に付着し、熱調整ハウジング(12)の内面を伝ってポンプ部(19)に侵入してしまうからである。上記軸受け(16)として密封形軸受を採用したとしても、密封形軸受が損傷を受けると、軸受け(16)からグリースが漏れ出してポンプ部(19)に侵入することになる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
このようなシャフトがハウジング内に収容されたポンプ装置では、上述したように、密封形軸受に損傷が生じてグリースが漏出すると、グリースがシャフトを伝ってポンプ部へ流入してしまう。たとえ、シャフトに保護板を設けたとしても、保護板から飛散したグリースは、シャフトを覆うカバー筒(インクーメディエイトハウジング)の内壁に付着し、そこを伝ってポンプ部へと流入することになる。そうすると、移送対象流体に異性流体であるグリースが混入し、移送対象流体を汚染してしまう。
【0014】
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、つぎの目的を有する。
シャフトがハウジングに収容されたポンプ装置においてポンプ部への異性流体の流入を防止するポンプ装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0015】
請求項1記載のポンプ装置は、上記目的を達成するため、つぎの構成を採用した。
インペラの回転により対象流体を移送するためのポンプ部と、
上記ポンプ部よりも上側に配置されて上記インペラを回転させるためのモータ部と、
上記モータ部側に配置された軸受に軸支され、上記モータ部の回転を上記インペラに伝達するためのシャフトと、
上記インペラよりもモータ部側において上記シャフトの外周に固定されてシャフトとともに回転する回転板と、
上記モータ部とポンプ部の間でシャフトを覆うシャフトカバーと、
上記シャフトカバーの内側
における上記回転板よりも上記インペラ側において、上記軸受から流出したグリースが上記ポンプ部に対
して流入
するのを防止するトラップ部とを備え、
上記回転板の外径寸法が、上記トラップ部の内径寸法よりも大きくなるよう設定され、
上記シャフトカバーが、拡径部を有する外筒部材と、狭径部を有する内筒部材を組み合わせて構成され、
上記トラップ部は、
上記モータ部側に開放部を有する溝状部であり、上記内筒部材のモータ部側に設けられて
上記グリースが上記ポンプ部に流入するのを捕捉する。
【発明の効果】
【0022】
請求項1記載のポンプ装置は、
ポンプ部よりも上側になるよう配置された上記モータ部の回転が
、上記シャフトにより上記ポンプ部の上記インペラに伝達され、上記インペラの回転により対象流体を移送する。上記シャフトは
モータ部側に配置された軸受に軸支され、モータ部とポンプ部の間でシャフトカバーに覆われている。
上記シャフトの外周には、上記インペラよりもモータ部側に、シャフトとともに回転する回転板が固定されている。上記シャフトカバーの内側には、上記
軸受から流出したグリースがポンプ部に
流入するのを防止するトラップ部が設けられている。
上記回転板の外径寸法は上記トラップ部の内径寸法よりも大きい。上記シャフトカバーは、拡径部を有する外筒部材と、狭径部を有する内筒部材を組み合わせて構成されている。上記トラップ部は、上記回転板よりもインペラ側に設けられ、上記モータ部側に開放部を有する溝状部が、上記内筒部材のモータ部側に設けられている。上記溝状部は、上記グリースが上記ポンプ部に流入するのを捕捉する。
軸受から流出したグリースが、上記シャフトカバーの内側を伝って
上側のモータ部から
重力でポンプ部に流入しよう
としても、
上記グリースは回転板の遠心力により飛散して上記シャフトカバーの内側に付着する。シャフトカバーの内側に付着したグリースは、上記トラップ部によってポンプ部への流入が防止される。
上記回転板の外周縁に滴として溜まったグリースが自然落下したとしても、上記トラップ部によってポンプ部への流入が防止される。したがって、対象流体に
グリースが混入して汚染することが防止される。
また、
上記ポンプ装置は、上記シャフトカバーが、拡径部を有する外筒部材と、狭径部を有する内筒部材を組み合わせて構成され、上記トラップ部は、上記内筒部材のモータ部側に設けられている。このようなポンプ装置は通常、水平な地面や土台の上に設置するため、ポンプ装置の運転時にポンプ装置が傾くことはない。したがって、トラップ部内に溜まったグリースがポンプ部に流入することはない。また、トラップ部内に溜まったグリースについては、ポンプ装置の定期点検や修理を行う際に、ポンプ装置を分解して排出することができる。
【発明を実施するための形態】
【0030】
つぎに、本発明を実施するための形態を説明する。
【0031】
〔第1実施形態〕
図1は、本発明のポンプ装置の第1実施形態を示す概略図である。
【0032】
〔基本構造〕
本実施形態のポンプ装置は、インペラ2の回転により対象流体を移送するためのポンプ部19と、上記インペラ2を回転させるためのモータ部20と、上記モータ部20の回転を上記インペラ2に伝達するためのシャフト3とを備えている。
【0033】
上記モータ部20は、耐圧壁4A,4Bによってモータ1が囲まれて構成されている。上記ポンプ部19は、上記インペラ2がハウジング7に収容されて構成されている。この例では、上記モータ部20が上記ポンプ部19よりも上側になるよう配置されている。上記シャフト3は長手方向が上下になるよう配置され、上記モータ部20とポンプ部19を連結している。
【0034】
上記モータ部20の回転をシャフト3でインペラ2に伝達する。インペラ2が回転することにより、下部に形成された導入部6からポンプ部19内に対象流体が導入される。導入された対象流体は、インペラ2の回転で圧力が上昇し、ポンプ部19の上部側面に形成された吐出部8から吐出される。
【0035】
〔対象流体〕
上記対象流体としては、主として水、油、液化ガスなどの液体が適用される。以下の説明では、上記対象流体が低温液化ガスである例を説明する。低温液化ガスは、図示した系内においてポンプ移送される液体の一部が気化し、気体となって存在する場合がある。本発明はこのようなポンプを含む趣旨である。液化ガスとしては、例えば液化窒素、液化酸素、液化炭酸ガス等、各種の低温液化ガスを含む趣旨である。また、上記液化ガスとしては、液化天然ガス、液化石油ガス等、各種の液化した可燃性ガスを含む趣旨である。
【0036】
〔モータ部〕
上記モータ1が耐圧壁4A,4Bに囲まれてモータ部20を構成している。
【0037】
上記モータ1は、例えば、直流モータ、三相誘導モータなど一般的な構造のモータをベースとして製作することができる。その他にPMモータ(永久磁石モータ)を使用することによりエネルギー効率のよいポンプとすることができる。
【0038】
この例では、上記モータ1は、耐圧壁4A,4Bで外側が囲われた空間内に収容されている。耐圧壁4A,4Bの内側の空間が、上記モータ1が収容されるモータ用空間5である。上記耐圧壁4A,4Bおよびモータ1を含んでモータ部20が形成される。
【0039】
また、上記シャフト3が、上記モータ部20側に配置された軸受16に軸支されている。具体的には、モータ部20の上側と下側に2個1組となった軸受16が配置され、上記一対の軸受16により、上記シャフト3が軸支されている。
【0040】
〔ポンプ部〕
上記インペラ2がハウジング7に収容されてポンプ部19を構成している。
【0041】
上記インペラ2は、ハウジング7内に配置されて回転駆動される。上記ハウジング7は、低温液化ガスを導入する導入部6に連通する。インペラ2がハウジング7内で回転することにより、導入部6から導入された低温液化ガスに遠心力によって圧力を上昇させる。圧力の上がった低温液化ガスが、ハウジング7の外周部に設けられた吐出部8から吐出される。上記ハウジング7内の空間が、上記インペラ2が収容されるインペラ用空間9である。
【0042】
図において符号10は、低温液化ガスの流動を助けるインデューサ10である。上記インデューサ10は、上記シャフト3における導入部6側の端部に取り付けられている。上記インペラ2、ハウジング7、インデューサ10を含んでポンプ部19が形成されている。
〔シャフト〕
【0043】
上記モータ1とインペラ2は、それらの間で回転駆動を伝達するシャフト3によって連結されている。また、上記モータ部20とポンプ部19の間では、上記シャフト3がシャフトカバー12によって覆われている。
【0044】
上記シャフト3は、この例では、モータ1の回転軸とインペラ2の回転軸の双方に共通した1本のシャフトが使用されている。つまり、上記シャフト3は、モータ1の回転軸とインペラ2の回転軸の双方に同軸である。
【0045】
〔空間〕
上記インペラ2と上記シャフト3と上記モータ1は、それぞれ上記低温液化ガスとともに空間14内に存在する。上記空間14は、モータ用空間5、インペラ用空間9およびシャフト用空間13とが互いに連通して形成されている。つまり、モータ用空間5、インペラ用空間9およびシャフト用空間13は、それぞれ上記空間14の一部をなしている。すなわち、ハウジング7、シャフトカバー12およびモータ1の耐圧壁4A,4Bにより、互いに連通した1つの耐圧性の空間14を作っている。
【0046】
上記空間14のうち、モータ部20よりも下側の一次側に存在するシャフト用空間13とインペラ用空間9は、互いに連通し、上記インペラ2と上記シャフト3を共通の空間14内に存在させる。つまり、上記インペラ2を収容するハウジング7と上記シャフト3を収容するシャフトカバー12は、上記インペラ2と上記シャフト3を共通の空間14内に存在させている。
【0047】
上記空間14のうち、ポンプ部19よりも上側の二次側に存在するシャフト用空間13とモータ用空間5は、低温液化ガスの出口がない耐圧性の密閉空間である。具体的には、モータ部20の耐圧壁4A,4B、ハウジング7、シャフトカバー12のそれぞれの接合部には、ガスケット、O−リングなどのシール材を使用し、フランジなどをボルトで締め込むか、またはねじ構造として締め込むことにより密閉構造としている。
【0048】
上記モータ部20とポンプ部19の間は、ある程度の間隙が確保され、上記シャフト3の上記間隙を通過する部分は、シャフトカバー12で覆われている。上記シャフトカバー12の内側がシャフト3の一部が収容されるシャフト用空間13である。
【0049】
そして、上記モータ部20とポンプ部19の間は、熱調整部として機能する。この熱調整部は、低温液化ガスの液相内にインペラ2を存在させるよう保つとともに、低温液化ガスの気相内にモータ1を存在させるよう保つ。上記熱調整部として機能するのは、上記シャフト用空間13と、その内部に存在するシャフト3の一部と、シャフトカバー12とを含んで構成される部分である。
【0050】
上記熱調整部の存在により、下部のポンプ部19を低温部とし、中間の熱調整部を低温ないし常温とし、上部のモータ部20を常温とする。つまり、冷気は下がり暖気は上がる性質により、温度範囲が分けられる。したがって、液相で満たされる部分は、一次側の導入部6からポンプ部19までである。二次側のモータ用空間5は気相で満たされている。
【0051】
上記シャフト3は、上記モータ部20側に配置された軸受16で軸支される。本実施形態は、ポンプシャフトとモータシャフトを1本のシャフト3で共用している。また、上記軸受16は、モータ1の軸受16をポンプ軸受と共用している。上記軸受16が空間14の気相に存在することから、固体潤滑剤によらず、グリース等の潤滑剤を使用することができる。
【0052】
〔ポンプ機能〕
このような構造により、低温液化ガスは、上記インデューサ10によって導入部6からポンプ部19の内部に引き込まれる。引きこまれた低温液化ガスは、インペラ2によって圧力が上昇して動力が与えられ、吐出部8から吐出される。
【0053】
このとき、上記シャフト3を軸支する軸受16からグリース等の潤滑剤が漏れ出すことがある。漏れ出したグリースは、このポンプ装置が移送する対象流体(低温液化ガス)とは異質の流体である。このような対象流体(低温液化ガス)と異質の流体が、本発明における異性流体である。つまり、本実施形態では、上記異性流体が、上記軸受16から流出したグリースである。
【0054】
モータ部20にある軸受16から流出したグリースは、シャフト3を伝ってポンプ部19に向かって流れ落ちる。そこで、上記グリースがポンプ部19に流入するのを防止するために、本実施形態では、トラップ部15と回転板11を設けている。
【0055】
〔トラップ部および回転板〕
本実施形態のポンプ装置は、シャフトカバー12の内側で上記ポンプ部19に対する異性流体であるグリースの流入を防止するトラップ部15を備えている。
また、上記トラップ部15に対応して、上記インペラ2よりもモータ部20側に、上記シャフト3の外周に固定されてシャフト3とともに回転する回転板15を備えている。
【0056】
図2は、上記回転板11と上記トラップ部15の周辺を拡大した図である。
【0057】
上記回転板11は、この例ではシャフト3の外周にフランジ状に固定された円形の板である。図示した例では、上記シャフト3は、モータ部20において軸受16に軸支される側の直径が太く、ポンプ部19においてインペラ2が取り付けられる側の直径が細くなっている。上記シャフト3の太径部3Aと細径部3Bの境にある段差の部分に回転板11が固定されている。つまり、上記シャフト3は、回転板11よりモータ部20側が太径部3A、回転板11よりポンプ部19側が細径部3Bである。
【0058】
上記トラップ部15は、上記シャフトカバー12の内周面に設けられている。上記トラップ部15は、図示した例では、モータ部20側に開放部を有する溝状に形成されている。上記シャフトカバー12の内径は、トラップ部15よりもモータ部20側が拡く、トラップ部15よりもポンプ部19側が狭くなっている。上記シャフトカバー12の拡径部12Aと狭径部12Bの境にある段差の部分に、モータ部20側に開放部を有する溝が全周にわたって形成され、これによりトラップ部15が形成されている。
【0059】
上記トラップ部15は、上記回転板11よりもインペラ2側に設けられている。
上記回転板11の外径寸法R1が、上記トラップ部15の内径寸法R2よりも大きくなるよう設定されている。
【0060】
このような構造であれば、軸受16から異性流体(グリース)が漏れ出したときに、それはトラップ部15に捕捉される。漏れ出した異性流体(グリース)の挙動を矢印で示している。つまり、上記シャフト3を伝ってポンプ部19に流入しようとする異性流体(グリース)は、回転板11が回転するときの遠心力により飛散して上記シャフトカバー12の内側に付着する。シャフトカバー12の内側に付着した異性流体(グリース)が、ポンプ部19に流入しようとしても、上記トラップ部15に捕捉されてポンプ部19への流入が防止される。また、上記回転板11の外周縁に滴として溜まった異性流体(グリース)が自然落下したとしても、上記トラップ部15に捕捉されてポンプ部19への流入が防止される。したがって、対象流体(低温液化ガス)に異性流体(グリース)が混入して汚染することが防止される。
【0061】
このように、開放形軸受のオイルシールが破損したり密封形軸受が破損したときに、軸受16より漏出したグリースがポンプ部19へ流入することを防ぐことができる。ポンプ装置で汲み上げる対象流体(例えば低温液化ガス)が、グリースにより汚染されなくなる。
【0062】
上記トラップ部15の容量は、使用する軸受16内に充填されているグリースの体積より計算し、軸受16内のグリースが全量漏出したとしても、それを収容できる容量とするのが好ましい。
【0063】
軸受16内に充填するグリースの量は、一例として、「NTN株式会社、転がり軸受総合カタログ、CAT.No.2202/J、A−8」に示されているように、軸受16の内部の空間容積の30%〜40%程度である。つまり軸受16の内部の空間容積は、軸受16の形式と質量から算出することが出来る。軸受16の形式と質量が決まれば、軸受16内のグリースの量が下記の式1より決まる。
V=K・W(式1)
V:開放形軸受の空間容積(概略値)(cm
3)
K:軸受空間係数(NTN株式会社、転がり軸受総合カタログ、CAT.No.2202/J、A−8参照)
W:軸受の質量(kg)
【0064】
〔具体例〕
ここでひとつの具体例を示す。
空間容積の40%がグリースで充填された質量0.2kgの深溝玉軸受を使用するときのトラップ部15を検討する。
軸受16内に充填されているグリース量をVとする。上記式1と深溝玉軸受の軸受空間係数K=61より、Vg=4880mm
3となる。
ここで、トラップ部15の容積をVpとする。トラップ部15の寸法は、Vp>Vgとなるように決定する必要がある。
図2において、R2=53mm、R3=77mm、H=2mmとすると、Vp=4901mm
3となる。このVp>Vgの条件を満たす。つまり、軸受から漏れるグリースをすべて捕捉できる。
【0065】
このようなポンプ装置は通常、水平な地面や土台の上に設置するため、ポンプ装置の運転時にポンプ装置が傾くことはない。したがって、トラップ部15内に溜まったグリースがポンプ部19に流入することはない。また、トラップ部15内に溜まったグリースについては、ポンプ装置の定期点検や修理を行う際に、ポンプ装置を分解して排出することができる。
【0066】
〔トラップ部の態様例〕
図3は、
本実施形態における上記トラップ部15の各種の態様例を示す。
(A)は、シャフトカバー12が、拡径部12Aを有する外筒部材12Cと、狭径部12Bを有する内筒部材12Dを組み合わせることにより構成されている。トラップ部15は、内筒部材12Dのモータ部20側に段差を設けることにより形成している。
(B)は、シャフトカバー12が、拡径部12Aと狭径部12Bを有するカバー部材12Eと、リング部材12Fを組み合わせることにより構成されている。トラップ部15は、カバー部材12Eの段差部にリング部材12Fを取り付けて形成している。
(C)は、シャフトカバー12が、拡径部12Aを有する外筒部材12Gと、狭径部12Bを有する内筒部材12Hを組み合わせることにより構成されている。トラップ部15は、内筒部材12Hのモータ部20側に凹溝を設けることにより形成している。
【0067】
〔第2実施形態〕
図4は、本発明の第2実施形態を示す。
この例は、モータ部20として、耐圧壁4A,4Bを有しないものとした例である。すなわち、モータ1は、耐圧構造でない外壁21A,21Bに覆われてモータ部20が構成され、モータ部20の外側を、別の耐圧壁22で覆ったものである。それ以外は、上記第1実施形態と同様であり、同様の部分には同じ符号を付している。この例でも、上記第1実施形態と同様の作用効果を奏する。
【0068】
〔各実施形態の効果〕
上記各実施形態は、つぎの効果を奏する。
【0069】
上記シャフトカバー12の内側を伝ってモータ部20からポンプ部19に流入しようとする異性流体(グリース)があったとしても、上記トラップ部15によってポンプ部19への流入が防止される。したがって、対象流体(低温液化ガス)に異性流体(グリース)が混入して汚染することが防止される。
【0070】
上記シャフト3を伝ってモータ部20からポンプ部19に流入しようとする異性流体(グリース)があったとしても、上記異性流体(グリース)は回転板11の遠心力により飛散して上記シャフトカバー12の内側に付着する。シャフトカバー12の内側に付着した異性流体(グリース)は、上記トラップ部15によってポンプ部19への流入が防止される。
【0071】
上記シャフトカバー12の内側を伝ってモータ部20からポンプ部19に流入しようとする異性流体(グリース)は、回転板11の遠心力により飛散して上記シャフトカバー12の内側に付着する。シャフトカバー12の内側に付着した異性流体(グリース)は、上記トラップ部15によってポンプ部19への流入が防止される。
【0072】
上記回転板11の外周縁に滴として溜まった異性流体(グリース)が自然落下したとしても、上記トラップ部15によってポンプ部19への流入が防止される。特に、上記モータ部20が上記ポンプ部19よりも上側になるよう配置されている場合に有効である。
【0073】
上記ポンプ部19よりも上側のモータ部20の方に異性流体(グリース)が存在すると、重力によりポンプ部19に流入しようとする。上記異性流体(グリース)がシャフトカバー12の内側を伝って上記ポンプ部19に流入しようとするとき、上記トラップ部15によってポンプ部19への流入が防止される。また、上記異性流体(グリース)がシャフト3を伝ってポンプ部19に流入しようとするとき、上記回転板11と上記トラップ部15によって上記ポンプ部19への流入が防止される。また、上記回転板11の外周縁に滴として溜まった異性流体(グリース)が自然落下したとしても、上記トラップ部15によってポンプ部19への流入が防止される。
【0074】
上記軸受16から異性流体(グリース)が流出したとしても、上記回転板11と上記トラップ部15によって上記ポンプ部19への流入が防止される。
【0075】
上記軸受から流出したグリースは、上記回転板11と上記トラップ部15によって上記ポンプ部19への流入が防止される。
【0076】
〔変形例〕
上記各実施形態では、太径部3Aと細径部3Bのあるシャフト3を例示したが、シャフト3は一定の直径のものとしてもよい。
【0077】
また、以上は本発明の特に好ましい実施形態について説明したが、本発明は図示した実施形態に限定する趣旨ではなく、各種の態様に変形して実施することができ、本発明は各種の変形例を包含する趣旨である。