(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、実施の形態を図面に基づき説明する。後述する第1〜第4の実施形態の溶接方法は、次の条件を満たす配置工程及び溶接工程をそれぞれ有している。配置工程では、溶接の対象となる第1の母材と第2の母材とをギャップ(隙間)を空けて配置する。溶接工程では、前記配置された第1及び第2の母材どうしを、25kJ/cm以下の入熱により埋れアークの状態で、マグ溶接法(消耗電極式のアーク溶接技術のうちで、シールドガスに不活性ガスと炭酸ガスとを混合して使う溶接技術)を用いて完全溶け込み溶接する。
【0012】
第1及び第2の母材は、例えばステンレス鋼などの合金鋼や、炭素鋼といった鋼材である。溶接工程では、溶接姿勢を下向姿勢又は横向姿勢とする。なお、その他の溶接姿勢として、立向姿勢、上向姿勢などが挙げられるが、溶接時にビードが垂れて健全な溶け込み深さが得られなくなる可能性があるため好ましくない。
【0013】
前述した第1及び第2の母材の厚さは、4mm以上、24mm以下の範囲内にある。また、ギャップは、第1及び第2の母材の厚さの0.05倍以上、0.4倍以下の範囲内にある。なお、埋れアークの状態とは、溶接ワイヤを、アークで掘られた溶融池(アークなどの熱によって形成された溶融金属のたまり)の中まで突っ込んだ状態である。
【0014】
ここで、第1及び第2の母材の厚さ(板厚)が4mmより薄いと、溶け込み深さを所定深さに止めることが難しく、溶融金属がギャップの裏側から溶け落ちてしまう可能性があるので好ましくない。一方、第1及び第2の母材の厚さが24mmより厚いと、溶け込み深さの不足により、完全溶け込み溶接が得られなくなる可能性があるので好ましくない。
【0015】
また、母材どうしの間のギャップは、母材の厚さに応じた適正な値に設定されることで、健全な完全溶け込み溶接を得ることが可能となる。このギャップが母材の厚さの0.05倍未満になると、溶接時のアークがギャップに入り込むことが困難となり、溶け込み深さが減少する。一方、ギャップが母材の厚さの0.4倍よりも大きくなると、溶着に必要な金属の量の増加を招き、また、片方の側からの溶接操作に複数回のパスが必要となる可能性があるうえ、溶融金属がギャップの裏側から溶け落ちる可能性があり好ましくない。
【0016】
<第1の実施の形態>
第1の実施形態の溶接方法は、配置工程及び溶接工程をそれぞれ行う際に前述した条件を満たすことに加え、さらに、配置工程では、
図1Aに示すように、母材(第1の母材)1と母材(第2の母材)2とをI型継手(突合せ継手)8として配置する。ここで、本実施形態のようなI型継手8を溶接する場合には、母材1、2の厚さ(第1の面1a、2aと第2の面1b、2bとの間の厚さ)T1は、6mm以上、24mm以下(6mm≦T1≦24mm)の範囲内にあることがより好ましい。さらに、本実施形態のようなI型継手8を溶接する場合には、ギャップG1は、母材1、2の厚さT1の0.05倍以上、0.1倍以下(0.05×T1mm≦G1≦0.1×T1mm)の範囲内にあることがより好ましい。
【0017】
また、溶接工程では、前述したように、25kJ/cm以下の入熱により埋れアークの状態で、
図1B、
図1Cに示すように、I型継手8における第1の面1a、2a側とその背面側に位置する第2の面1b、2b側とからそれぞれ1パスずつ溶接操作を行う。つまり、
図1Bに示すように、まず、I型継手8における第1の面1a、2a側から、1パスで溶け込み深さH1まで、マグ溶接してビード(1回のパスによって作られる溶融凝固した溶接金属)3を形成する。
【0018】
さらに、
図1Cに示すように、I型継手8における第2の面1b、2b側から、1パスで溶け込み深さH2までマグ溶接して、ビード4を形成する。詳述すると、
図1Cに示すように、I型継手8の第1の面1a、2a及び第2の面1b、2b側からの1パスずつの溶接操作によってそれぞれ得られる溶け込み深さH1、H2は、母材1、2の厚さT1の0.5倍以上、0.9倍以下の範囲内にある。さらに、I型継手8の第1の面1a、2a側及び第2の面1b、2b側からの溶け込みによって形成されるビード3及びビード4は、母材1、2の厚さ方向の中央部分又はその近傍で、互いに重なり合っている。これによって、完全溶け込み溶接された溶接構造物10(溶接されたI型継手8)を得る。
【0019】
上述した溶け込み深さH1や溶け込み深さH2が、母材1、2の厚さT1の0.5倍未満であると、母材1、2の第1及び第2の面のそれぞれの側から1パスずつ溶接操作を行ったとしても、母材1、2の厚さ方向の中央まで材料が溶けていないことになるから、溶接不足が発生する可能性があり好ましくない。一方、溶け込み深さH1、H2が、厚さT1の0.9倍より大きいと、溶融金属がギャップの裏側(パスしている面とは逆側の面)まで溶け落ちる可能性があるので好ましくない。
【0020】
また、本実施形態のようなI型継手8を溶接する場合、母材1、2の厚さT1が6mmより薄いと、溶け込み深さを所定深さに止めることが難しく、溶融金属がギャップの裏側から溶け落ちてしまう可能性がある。一方、厚さT1が24mmより厚いと、溶け込み深さの不足により、完全溶け込み溶接が得られなくなる可能性がある。
【0021】
さらに、ギャップG1が、厚さT1の0.05倍未満であると、前述したように、溶接時のアークがギャップ内に入り込むことが困難となり、溶け込み深さが減少する。また、本実施形態のようなI型継手8の場合、ギャップG1が厚さT1の0.1倍よりも大きくなると、溶着に必要な金属の量が増加し、しかも、第1の面1a、2a側及び第2の面1b、2b側からのそれぞれの溶接操作に複数回ずつのパスが必要となる可能性があるうえ、溶融金属がギャップの裏側から溶け落ちる可能性もある。
【0022】
ここで、比較例1の溶接方法を
図2に基づき説明する。比較例1の溶接方法は、
図2に示すように、マグ溶接を用いて、例えば厚さT1aが、20mmの母材1c、2cを突合せ溶接する場合を例示している。このような母材1c、2cを突合せ溶接する際には、例えば45°程度の開先角度を持たせたレ型開先、V型開先、X型開先などを設けたうえでマグ溶接する必要がある。さらに、これらの開先を完全溶け込み溶接するためには、
図2に示すように、例えば10パス程度の溶接パス(多数回にわたってビート3aを形成すること)が必要となる。このため、比較例1の溶接方法は、多くの溶接施工時間を要する結果となる。
【0023】
また、一般に、溶接時の入熱と溶け込み深さには相関関係があり、入熱を増加させることで溶け込み深さが増加することが知られている。したがって、入熱の増加には、定格出力電流の大きい溶接電源を準備する必要があるうえ、溶接ワイヤが自動で送給されかつ溶接時の電流が400Aを超える半自動マグ溶接の場合、市販されている汎用の溶接電源では、溶接欠陥を誘発し、健全な溶接部を得ることが難しい。さらに、溶接時の電流が400Aを超えるこのような半自動マグ溶接では、溶融金属の溶着量の増加に伴いビードの余盛が増加する一方で、溶け込み深さは増加せず、このため、例えば24mm程度の厚さの母材を、少ないパス数で完全溶け込み溶接させることは極めて困難となる。
【0024】
このような実情を踏まえたうえで、本実施形態の溶接方法は、
図1A〜
図1Cに示すように、I型継手8となる母材1、2の厚さT1及びギャップG1を適宜設定し、さらに25kJ/cm以下の比較的低い入熱により、埋れアークの状態で、I型継手8の第1の面1a、2a側と第2の面1b、2b側との片側1パスずつのマグ溶接によって、完全溶け込み溶接を実現するものである。つまり、本実施形態の溶接方法では、開先加工が不要であると共にパス数を低減できることから、溶接施工時間の短縮化を図ることができる。なお、埋れアークの状態でマグ溶接を実施する場合、アーク長の変動に対する電流変化の応答性が良好なマグ溶接電源を用いることが好ましい。
【0025】
既述したように、第1の実施形態によれば、例えば市販されている汎用の溶接材料(母材)を適用し、25kJ/cm以下の比較的低い入熱で、深い溶け込みが得られる溶接方法、及びこの溶接方法を用いて溶接された溶接構造物10を提供するができる。
【0026】
<第2の実施の形態>
次に、第2の実施の形態を
図3A、
図3Bに基づき説明する。第2の実施形態の溶接方法は、配置工程及び溶接工程をそれぞれ行う際に、第1〜第4の実施形態共通の前述した条件を満たすことに加え、さらに、配置工程では、
図3Aに示すように、母材(第1の母材)21と母材(第2の母材)22とを、裏当て金25と共にI型継手28として配置する。
【0027】
ここで、本実施形態のようなI型継手28を溶接する場合には、母材21、22の厚さ(第1の面21a、22aと第2の面21b、22bとの間の厚さ)T2は、4mm以上、12mm以下(4mm≦T2≦12mm)の範囲内にあることがより好ましい。さらに、本実施形態のようなI型継手28を溶接する場合には、ギャップG2は、母材21、22における厚さT2の0.2倍以上、0.4倍以下(0.2×T2mm≦G2≦0.4×T2mm)の範囲内にあることがより好ましい。
【0028】
また、溶接工程では、25kJ/cm以下の入熱により埋れアークの状態で、
図3Bに示すように、I型継手28として配置された母材21、22についての裏当て金25をあてがう第2の面(裏当て金25の被接触面)21b、22bの背面側に位置する第1の面21a、22a側から、1パスの溶接操作にてマグ溶接し、母材21と母材22と裏当て金25とを互いに溶着するビード23を形成する。これにより、完全溶け込み溶接された溶接構造物20(溶接されたI型継手28)を得る。
【0029】
ここで、本実施形態のようなI型継手28を溶接する場合、母材21、22の厚さT2が4mmより薄いときには、消耗電極方式のアーク溶接の一つである例えばティグ溶接などによって、当該I型継手28を溶接することが可能となる。さらに、1パスでI型継手28を溶接する本実施形態のような溶接方法の場合、厚さT2が12mmより厚いと、溶け込み深さの不足により、完全溶け込み溶接が得られなくなる可能性がある。
【0030】
また、本実施形態のようなI型継手28の場合、ギャップG2が母材21、22の厚さT2の0.2倍未満であると、溶接時のアークがギャップ内に入り込むことが困難となり、溶け込み深さが減少する場合がある。さらに、本実施形態のようなI型継手28の場合、ギャップG2が厚さT2の0.4倍よりも大きくなると、溶着に必要な金属の量が増加し、さらに、第1の面21a、22a側からの溶接操作が多数回必要になる可能性がある。
【0031】
つまり、本実施形態の溶接方法は、
図3A、
図3Bに示すように、I型継手28となる母材21、22の厚さT2及びギャップG2を適宜設定し、さらに25kJ/cm以下の比較的低い入熱により、埋れアークの状態で、I型継手28における第1の面21a、22a側から1パスのマグ溶接によって、完全溶け込み溶接を実現するものである。したがって、第2の実施形態に係る溶接方法においても、比較的低い入熱で深い溶け込みを得ることができる。
【0032】
<第3の実施の形態>
次に、第3の実施の形態を
図4A〜
図4Cに基づき説明する。第3の実施形態の溶接方法は、配置工程及び溶接工程をそれぞれ行う際に、第1〜第4の実施形態共通の前述した条件を満たすことに加え、さらに、配置工程では、
図4Aに示すように、母材(第1の母材)31と母材(第2の母材)32とをT型継手38として配置する。
【0033】
ここで、本実施形態のようなT型継手38を溶接する場合には、少なくとも母材31の厚さ(第1の面31aと第2の面31bとの間の厚さ)T3は、6mm以上、20mm以下(6mm≦T3≦20mm)の範囲内にあることがより好ましい。さらに、本実施形態のようなT型継手38を溶接する場合には、ギャップG3は、母材31の厚さT3の0.1倍以上、0.2倍以下(0.1×T3mm≦G3≦0.2×T3mm)の範囲内にあることがより好ましい。なお、本実施形態では、母材31の厚さと母材32の厚さは、同じ厚さである。
【0034】
また、溶接工程では、25kJ/cm以下の入熱により埋れアークの状態で、
図4B、
図4Cに示すように、T型継手38として母材32と共に配置された母材31の第1の面31a側とその背面側に位置する第2の面31b側とからそれぞれ1パスずつ溶接操作を行う。つまり、
図4Bに示すように、まず、T型継手38における母材31の第1の面31a側から、1パスで溶け込み深さH31まで、マグ溶接して、母材31の第1の面31aと母材32との間の境界部分にビード33を形成する。
【0035】
さらに、
図4Cに示すように、母材31の第2の面31b側から、1パスで溶け込み深さH32までマグ溶接して、ビード34を形成する。より具体的には、
図4B、
図4Cに示すように、T型継手38の第1の面31a及び第2の面31b側からの1パスずつの溶接操作によってそれぞれ得られる溶け込み深さH31、H32は、母材31、32の厚さT3の0.5倍以上、0.9倍以下の範囲内にある。さらに、T型継手38の第1の面31a側及び第2の面31b側からの溶け込みによって形成されたビード33及びビード34は、母材31の厚さ方向の中央部分又はその近傍で、互いに重なり合っている。これにより、完全溶け込み溶接された溶接構造物30(溶接されたT型継手38)を得る。
【0036】
上述した溶け込み深さH31や溶け込み深さH32が、例えば厚さT3の0.5倍未満であると、母材31の第1及び第2の面のそれぞれの側から1パスずつ溶接操作を行ったとしても、母材31の厚さ方向の中央まで材料が溶けていないことになり、溶接不足が懸念される。一方、溶け込み深さH31、H32が、厚さT3の0.9倍より大きいと、溶融金属がギャップの裏側(パスしている面とは逆側の面)まで溶け落ちる可能性があるので好ましくない。
【0037】
また、本実施形態のようなT型継手38を溶接する場合、母材31の厚さT3が6mmより薄いと、溶け込み深さを所定深さに止めることが難しく、溶融金属がギャップの裏側(パスしている面とは逆側の面)から溶け落ちてしまう可能性がある。さらに、本実施形態のようなT型継手38を溶接する場合、厚さT3が20mmより厚いと、溶け込み深さの不足により、完全溶け込み溶接が得られなくなる可能性がある。
【0038】
また、本実施形態のようなT型継手38の場合、ギャップG3が厚さT3の0.1倍未満であると、溶接時のアークがギャップ内に入り込むことが困難となり、溶け込み深さが減少する場合がある。さらに、本実施形態のようなT型継手38の場合、ギャップG3が厚さT3の0.2倍よりも大きくなると、溶着に必要な金属の量が増加し、しかも、第1の面31a側及び第2の面31b側からのそれぞれの溶接操作に複数回ずつのパスが必要となる可能性があるうえ、溶融金属がギャップの裏側から溶け落ちる可能性もある。
【0039】
ここで、比較例2の溶接方法を
図5に基づき説明する。比較例2の溶接方法は、
図5に示すように、マグ溶接を用いて、例えば厚さT3aが、20mmの母材31c、32cをT型継手として溶接する場合を例示している。これらの母材31c、32cをすみ肉溶接して所望の強度を得るために、一般に、母材31c、32cの厚さT3aの0.7倍程度の脚長(この場合、14mm程度の脚長)H3aを設ける必要がある。つまり、例えば、14mmの脚長H3aを形成するには、母材31cの第1の面31e側と第2の面31f側とで例えば6パスずつの合計12パスの溶接操作(合計12回のビード33a、34aの形成)が必要となる。このため、比較例2の溶接方法は、多くの溶接施工時間を要する結果となる。
【0040】
これに対して、本実施形態の溶接方法は、
図4A〜
図4Cに示すように、母材32と共にT型継手38となる母材31の厚さT3と、ギャップG3とを適宜設定し、さらに25kJ/cm以下の比較的低い入熱により、埋れアークの状態で、母材31の第1の面31a側からと第2の面31b側からとの片側1パスずつのマグ溶接によって、完全溶け込み溶接を達成するものである。つまり、本実施形態の溶接方法では、パス数の低減により溶接施工時間を短縮でき、しかも低入熱にて深い溶け込みの得られる溶接が可能となる。
【0041】
<第4の実施の形態>
次に、第4の実施の形態を
図6A、
図6Bに基づき説明する。第4の実施形態の溶接方法は、配置工程及び溶接工程をそれぞれ行う際に、第1〜第4の実施形態共通の前述した条件を満たすことに加え、さらに、配置工程では、
図6Aに示すように、母材(第1の母材)41と母材(第2の母材)42とをT型継手48として配置する。
【0042】
ここで、本実施形態のようなT型継手48を溶接する場合には、少なくとも母材41の厚さ(第1の面41aと第2の面41bとの間の厚さ)T4は、4mm以上、12mm以下(4mm≦T4≦12mm)の範囲内にあることがより好ましい。さらに、本実施形態のようなT型継手48を溶接する場合には、ギャップG4は、母材41の厚さT4の0.2倍以上、0.3倍以下(0.2×T4mm≦G4≦0.3×T4mm)の範囲内にあることがより好ましい。
【0043】
また、溶接工程では、25kJ/cm以下の入熱により埋れアークの状態で、
図6A、
図6Bに示すように、T型継手48として母材42と共に配置された母材41における第2の面41bの背面側に位置する第1の面41a側から、1パスの溶接操作を行う。つまり、
図6Bに示すように、母材41の第1の面41a側から1パスでマグ溶接して、母材41の溶接対象の端面全体と母材42との間の境界部分にビード43を形成する。これにより、完全溶け込み溶接された溶接構造物40(溶接されたT型継手48)を得る。
【0044】
ここで、本実施形態のようなT型継手48を溶接する場合、母材41の厚さT4が4mmより薄いと、溶け込み深さを所定深さに止めることが難しく、溶融金属がギャップの裏側(パスしている第1の面41aとは逆側の第2の面41b側)から溶け落ちてしまう可能性がある。さらに、1パスでT型継手48を溶接する本実施形態のような溶接方法の場合、厚さT4が12mmより厚いと、溶け込み深さの不足により、完全溶け込み溶接が得られなくなる可能性がある。
【0045】
また、本実施形態のようなT型継手48の場合、ギャップG4が厚さT4の0.2倍未満であると、溶接時のアークがギャップ内に入り込むことが困難となり、溶け込み深さが減少する場合がある。さらに、本実施形態のようなT型継手48の場合、ギャップG4が厚さT4の0.3倍よりも大きくなると、溶着に必要な金属の量が増加し、さらに、母材41の第1の面41a側からのパスが多数回必要になる可能性がある。
【0046】
本実施形態の溶接方法は、
図6A、
図6Bに示すように、母材42と共にT型継手48として配置される母材41の厚さT4と、ギャップG4とを適宜設定し、さらに25kJ/cm以下の比較的低い入熱により、埋れアークの状態で、T型継手48における第1の面41a側から1パスのマグ溶接によって、完全溶け込み溶接を実現するものである。したがって、第4の実施形態に係る溶接方法においても、比較的低い入熱で深い溶け込みを得ることができる。
【0047】
例えば第1〜第4の実施形態の溶接方法に適用されるギャップG1〜G4は、I型継手8、28及びT型継手38、48の構成部品となるそれぞれ一対の母材のうちの少なくとも一方に設けられた突起部によって構成されてもよい。つまり、
図7A、
図7Bに示すように、例えば、母材(第2の母材)52と共にT型継手58として配置される母材(第1の母材)51は、その端部(底部)に複数の突起部57を備えている。
【0048】
複数の突起部57は、
図7Bに示すように、それぞれ直方体状に構成されており、例えば5mmの幅W1を有している。また、複数の突起部57は、幅L5(例えば300mm)で構成された母材51の幅方向に沿って所定の間隔(ピッチP1)をおいて配置されている。母材51における各突起部57の先端面(底面)は、母材52の平面部分(上面)と接触する位置に配置される。したがって、各突起部57の突出量は、母材51と母材52との間に確保されるギャップの量となる。このような構成によって、T型継手58には、ギャップG5が形成されている。
【0049】
また、
図8に示すように、複数の突起部67を備えたT型継手68を構成してもよい。T型継手68において、複数の突起部67は、母材(第2の母材)62の平面部分(上面)と接触する母材(第1の母材)61の端部(底部)に設けられている。各突起部67は、母材61の厚さ方向からみて、基端部側から先端部側へ向けて例えば90°の角度をなし、先端部分が先鋭となっている。複数の突起部67は、幅L6(例えば300mm)で構成された母材61の幅方向に沿って所定の間隔(ピッチP1)をおいて配置されている。このような構成によって、T型継手68には、ギャップG6が形成されている。
【0050】
さらに、
図9A、
図9Bに示すように、複数の突起部77を備えたI型継手78を構成してもよい。I型継手78において、複数の突起部77は、母材(第2の母材)72の端部と接触する母材(第1の母材)71の端部に設けられている。複数の突起部77は、
図9Bに示すように、それぞれ直方体状に構成されており、例えば5mmの幅W1を有している。また、複数の突起部77は、幅L7(例えば300mm)で構成された母材71の幅方向に沿って所定の間隔(ピッチP1)をおいて配置されている。このような構成によって、I型継手78には、ギャップG7が形成されている。
【0051】
また、
図10に示すように、複数の突起部87を備えたT型継手88を構成してもよい。T型継手88において、複数の突起部87は、母材(第2の母材)82の端部と接触する母材(第1の母材)81の端部に設けられている。各突起部87は、母材81の厚さ方向からみて、基端部側から先端部側へ向けて90°の角度をなし、先端部分が先鋭となっている。複数の突起部87は、幅L8(例えば300mm)で構成された母材81の幅方向に沿って所定の間隔(ピッチP1)をおいて配置されている。このような構成によって、I型継手88には、ギャップG8が形成されている。
【0052】
例えば母材自体を切断加工して溶接材料とする際などに、
図7A、
図7B、
図8、
図9A、
図9B、
図10に示したように、少なくとも一方の母材に突起部を形成しておくことで、比較的大型の溶接継手に対しても、所定量のギャップを容易に確保することが可能となる。
【0053】
次に実施例について説明する。
<実施例1>
実施例1では、
図1A〜
図1Cに示した第1の実施形態に係るI型継手8の溶接方法を適用し、さらに次の詳細な条件を追加して配置工程及び溶接工程を実施した。
【0054】
≪実施例1の溶接条件≫
・溶接方法:半自動マグ溶接,両側各1パス溶接
・母材1、2:炭素鋼鋼材(JIS G3101 SS400,縦300mm×横300mm×厚さ20mm)
・溶接ワイヤ:AWS A5.18 ER70S-G,直径1.2mm
・溶接電流:300A
・溶接電圧:27V
・溶接速度:300mm/min
・入熱:16.2kJ/cm
・母材1、2の厚さT1:20mm
・ギャップG1:1.5mm
【0055】
図11は、実施例1に係るI型継手8の溶接結果を示している。
図1C及び
図11に示すように、母材1、2の第1の面1a、2a側から形成されたビード3の深さ(溶け込み深さH1)は、12〜13mmであった。一方、母材1、2の第2の面1b、2b側から形成されたビード4の深さ(溶け込み深さH2)も、12〜13mmであった。つまり、実施例1は、
図11に示すように、一方の側のビードと他方の側のビードとが互いに重なっており、完全溶け込み溶接が達成されている。なお、上記した16.2kJ/cmの入熱を、25kJ/cm以下の範囲内で適宜変更することで、厚さT1が例えば24mmの母材に対しても完全溶け込み溶接が可能である。
【0056】
一方、
図12、
図13は、比較例3、4によるI型継手の溶接結果を示している。
図12、
図13に示すように、比較例3、4は、母材の厚さが、第1の実施形態(実施例1)の条件の範囲外となる厚さ25mmの母材を適用して、I型継手を溶接したものである。なお、比較例3は、母材の厚さ以外の溶接条件は実施例1と同じである。また、比較例4は、溶接条件のうちの上記した母材の厚さ、溶接電圧及び入熱が実施例1とは異なる。比較例4は、溶接電圧が32Vであり、入熱が19.2kJ/cmである。比較例4のその他の溶接条件は、実施例1と同じである。ここで、比較例3、4は、
図12、
図13に示すように、いずれも、一方の側のビードが他方の側のビードと重なっておらず、溶接不足を確認することができる。
【0057】
<実施例2>
実施例2では、
図2A、
図2Bに示した第2の実施形態に係るI型継手28の溶接方法を適用し、さらに次の詳細な条件を追加して配置工程及び溶接工程を実施した。
【0058】
≪実施例2の溶接条件≫
・溶接方法:半自動マグ溶接,片側1パス溶接
・母材21,22:炭素鋼鋼材(JIS G3101 SS400,縦300mm×横300mm×厚さ10mm)
・溶接ワイヤ:AWS A5.18 ER70S-G,直径1.2mm
・溶接電流:300A
・溶接電圧:27V
・溶接速度:300mm/min
・入熱:16.2kJ/cm
・母材21,22の厚さT2:10mm
・ギャップG2:2.5mm
【0059】
実施例2は、16.2kJ/cmの入熱により埋れアークの状態で、
図3Bに示すように、母材21、22の裏当て金25をあてがった第2の面21b、22bとは逆側の第1の面21a、22a側から1パスでマグ溶接を行うことにより、母材21と母材22と裏当て金25とを互いに溶着するビード23を介して完全溶け込み溶接を実現した。なお、上記した16.2kJ/cmの入熱を、25kJ/cm以下の範囲内で適宜変更することで、例えば厚さT2が12mmの母材に対しても完全溶け込み溶接が可能となる。
【0060】
<実施例3>
実施例3では、
図4A〜
図4Cに示した第3の実施形態に係るT型継手38の溶接方法を適用し、さらに次の詳細な条件を追加して配置工程及び溶接工程を実施した。
【0061】
≪実施例3の溶接条件≫
・溶接方法:半自動マグ溶接,両側各1パス溶接
・母材31,32:炭素鋼鋼材(JIS G3101 SS400,縦300mm×横300mm×厚さ16mm)
・溶接ワイヤ:AWS A5.18 ER70S-G,直径1.2mm
・溶接電流:320A
・溶接電圧:29V
・溶接速度:300mm/min
・入熱:18.56kJ/cm
・母材31(及び母材32)の厚さT3:16mm
・ギャップG3:2.5mm
【0062】
図14は、実施例3に係るT型継手38の溶接結果を示している。
図4C及び
図14に示すように、母材31、32の第1の面31a、32a側から形成されたビード33の深さ(溶け込み深さH31)は、9〜10mmであった。一方、母材31、32の第2の面31b、32b側から形成されたビード34の深さ(溶け込み深さH32)も、9〜10mmであった。つまり、
図14に示すように、実施例3は、一方の側のビードと他方の側のビードとが互いに重なっており、完全溶け込み溶接が達成されている。なお、上記した18.56kJ/cmの入熱を、25kJ/cm以下の範囲内で適宜変更することで、厚さT3が例えば20mmの母材に対しても完全溶け込み溶接が可能となる。
【0063】
<実施例4>
実施例4では、
図6A〜
図6Bに示した第4の実施形態に係るT型継手48の溶接方法を適用し、さらに次の詳細な条件を追加して配置工程及び溶接工程を実施した。
【0064】
≪実施例4の溶接条件≫
・溶接方法:半自動マグ溶接,片側1パス溶接
・母材41、42:炭素鋼鋼材(JIS G3101 SS400,縦300mm×横300mm×厚さ10mm)
・溶接ワイヤ:AWS A5.18 ER70S-G,直径1.2mm
・溶接電流:320A
・溶接電圧:29V
・溶接速度:300mm/min
・入熱:18.56kJ/cm
・母材41(及び母材42)の厚さT4:10mm
・ギャップG4:2.5mm
【0065】
図15は、実施例4に係るT型継手48の溶接結果を示している。
図6B及び
図15に示すように、母材41の厚さ方向(溶け込みの深さ方向)の全領域(母材41の端面全体)にわたって、ビード(ビード43)が形成されていた。つまり、
図15に示すように、実施例4では、完全溶け込み溶接の達成を確認できた。なお、上記した18.56kJ/cmの入熱を、25kJ/cm以下の範囲内で適宜変更することで、厚さT4が例えば12mmの母材に対しても完全溶け込み溶接が可能となる。
【0066】
以上説明した少なくとも一つの実施形態によれば、比較的低い入熱で深い溶け込みが得られる。
【0067】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施することが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これらの実施形態やその変形例は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。