特許第6382597号(P6382597)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6382597
(24)【登録日】2018年8月10日
(45)【発行日】2018年8月29日
(54)【発明の名称】車両
(51)【国際特許分類】
   B60G 3/20 20060101AFI20180820BHJP
   B62D 3/12 20060101ALI20180820BHJP
【FI】
   B60G3/20
   B62D3/12 503Z
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-132429(P2014-132429)
(22)【出願日】2014年6月27日
(65)【公開番号】特開2016-10996(P2016-10996A)
(43)【公開日】2016年1月21日
【審査請求日】2017年5月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100112575
【弁理士】
【氏名又は名称】田川 孝由
(74)【代理人】
【識別番号】100167380
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100187827
【弁理士】
【氏名又は名称】赤塚 雅則
(72)【発明者】
【氏名】大場 浩量
(72)【発明者】
【氏名】井木 泰介
【審査官】 三宅 龍平
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−184577(JP,A)
【文献】 特許第3076541(JP,B2)
【文献】 特開平07−257412(JP,A)
【文献】 特開2011−173563(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60G 3/20
B62D 3/12
B62D 7/15
B60K 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪(w)を左右同方向又は逆方向に転舵する転舵モジュール(6)を備えた車両において、キングピン角(θ)に対し、キャスター角(Φ)を±3度の範囲に設定し
前記転舵モジュール(6)が、左右の前記車輪(w)を左右に転舵する対のラックバー(10、11)と、前記対のラックバー(10、11)を同一方向又は逆方向に同距離移動させるラックバー動作手段(12)と、
を備え、前記ラックバー動作手段(12)が、前記対のラックバー(10、11)にそれぞれ噛み合い、一方のラックバー(10)のラックの歯の並列方向に対する一方向への動きを他方のラックバー(11)の他方向への動きに変換する同期ギア(22、23)と、前記一方のラックバー(10)に噛合う第一ピニオンギア(13)と、前記他方のラックバー(11)に噛合う第二ピニオンギア(14)と、前記第一ピニオンギア(13)と前記第二ピニオンギア(14)との間を結合又は分離する連結機構(18)と、
を備えたことを特徴とする車両。
【請求項2】
前後車輪(w)のうち少なくとも一方の左右車輪(w)を、この車輪(w)内に設けられたインホイールモータ(1)で駆動することを特徴とする請求項1に記載の車両。
【請求項3】
前記キングピン角(θ)を4度以上10度以下の範囲内としたことを特徴とする請求項1又は2に記載の車両。
【請求項4】
前記転舵モジュール(6)が直進方向に対し、前記車輪(w)を90度転舵可能としたことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車輪を駆動及び転舵する駆動転舵モジュールを備えた車両に関し、特に転舵に伴ってキャンバー角が発生するのを抑制した構成のものに関する。
【背景技術】
【0002】
一般的な車両においては、キングピン軸にキングピン角(車両前方からキングピン軸を見たときの鉛直方向との傾き)、及びキャスター角(車両側方からキングピン軸を見たときの鉛直方向との傾き)を設定し、車輪を転舵した際に生じるキャンバー角(車両前方から車輪を見たときに、車輪縦方向の中心線が垂直線となす角度)により、車両の直進安定性を高めている。しかし、キングピン角を設定することにより生じるキャンバー角δにより、図13に示すように、転舵時に車輪wがその幅方向の一方側に傾いた状態(ネガティブキャンバー(本図(a))又は、ポジティブキャンバー(本図(b))の状態)となって、車両のボディやスタビライザ等の部材に干渉しやすくなることがある。
【0003】
このキャンバー角δは、車輪wの転舵角が大きくなるほど大きくなる傾向があるため、車輪wとボディ等との間の干渉を防ぐために、この転舵角を所定範囲内に制限したり、タイヤハウスを大きくしたりする必要性が生じる。その結果、最小回転半径が大きくなって小回り性が損なわれるとともに、車両の小型化が難しくなるという問題が生じる。
【0004】
また、車輪wがその幅方向の一方側に傾くことによって、車輪wに偏摩耗が生じたり、車輪wと路面の接地面が変化して車両の高さが上下動することに起因して車輪wの操舵力が大きくなり、転舵操作性が低下したりする問題も生じる。
【0005】
そこで、例えば特許文献1においては、キングピン角(本願図面の図1中の符号θ参照)又はキャスタートレール(車両側方から見たキングピン軸地上交接点とタイヤの接地中心の距離(本願図面の図3中の符号c参照))の少なくとも一方をほぼ0度(キングピン角)又は0mm(キャスタートレール)とし、車輪転舵時のキャンバー角δの発生を抑制している。さらに、車両挙動検出手段と電動操舵装置を備え、操舵トルクを付加し得るようにすることにより、車両の運動性能及び操舵性能を高めている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3076541号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載の構成においては、キャンバー角の発生を抑制することができる反面、キングピン角を0度等とすることにより、車両の走行安定性が損なわれる可能性がある。また、操舵トルクを付加する際には遅延が生じやすく、高速走行時等のように高い応答性が要求される運転状況には適していない問題がある。
【0008】
そこで、この発明は、車輪の転舵に伴ってキャンバー角が発生して転舵角が制限されたり、転舵操作性が低下したりするのを防止することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために、この発明においては、車輪を左右同方向又は逆方向に転舵する転舵モジュールを備えた車両において、キングピン角に対し、キャスター角を±3度の範囲に設定したことを特徴とする車両を構成した。
【0010】
例えばキングピン角が5度の場合、車輪をキングピン軸周りに直進状態から90度転舵すると、このキングピン角と同じ大きさ(5度)のキャンバー角が生じる。このように転舵によって生じたキャンバー角は、この車輪に予めキャスター角を設定しておくと、キャンバー角とキャスター角との間で相殺されるため、転舵後にキャンバー角が生じるのを極力防止することができる。理想的には、キングピン角とキャスター角を同一にすることにより、転舵後に発生するキャンバー角をほぼ0度とするのが好ましいが、キングピン角に対し、キャスター角を±3度の範囲に設定することにより、車輪とボディ等との接触を防止しつつ、転舵に伴って車両の高さが上下動するのを防止できる程度にキャンバー角の発生を抑制することができる。このため、車輪を大きく転舵する場合においても、良好な転舵操作性を確保することができる。
【0011】
上記の角度範囲を外れると、キャスター角でキャンバー角を相殺することができず、このキャンバー角を許容範囲に抑えることができないため好ましくない。
【0012】
転舵モジュールで左右の車輪を左右逆方向に転舵すると、左右の車輪は、車体の中央側が末広がり状のハの字形となるが、前後それぞれの左右車輪を同様に転舵した場合、車両の前後を等分に切断する垂直平面と、車両の左右を等分に切断する垂直平面の両方について、車両のサスペンション構造(アッパーアーム、ロアアーム、キングピン角、キングピンオフセット量、キャスター角等)が全て対称な配置となる。このような対称性を有することにより、特殊走行モードに切り替えた際に、各車輪の位置や傾きが全て同じとなり、車体が傾くことなく安定した状態を確保することができる。また、車両の前後及び左右で各アームの形状を同一の設計とすることができ、構造の単純化を図ることもできる。
【0013】
しかも、良好な転舵操作性を確保して小さな転舵力で転舵し得るようにしたことにより、転舵を行うためのモータや、動力伝達用の歯車類に大きな駆動力が要求されない。このため、この転舵モジュールの小型軽量化を図ることができる。
【0014】
前記構成においては、前後車輪のうち少なくとも一方の左右車輪を、この車輪内に設けられたインホイールモータで駆動する構成とするのが好ましい。
【0015】
車輪の駆動モジュールとしてインホイールモータを採用することにより、一般的な車両に設けられるエンジンが不要となる。エンジンが不要となることにより、本来エンジンを搭載する空間にタイヤハウスを拡張することができ、車輪の最大転舵角を大きくすることができる。
【0016】
前記構成においては、前記キングピン角を4度以上10度以下の範囲内とするのが好ましい。
【0017】
キングピン角をこの角度範囲とすることで、車両の通常走行時における走行安定性を確保しつつ、転舵時の車両の高さの上下動を抑制することができる。キングピン角が4度よりも小さいときは通常走行時の直進性が低下し、10度よりも大きいときはキャスター角を設定しても、転舵時の車両の上下動が大きくなり転舵操作性が損なわれるので好ましくない。
【0018】
前記各構成においては、前記転舵モジュールが直進方向に対し、前記車輪を90度転舵可能とした構成とするのが好ましい。
【0019】
このように、車輪の転舵可能角度を90度と、一般の車両と比べて大きくしたことにより、車両の走行モードを、通常走行モードのみならず、通常の転舵よりも車輪の転舵角が大きいその場回転モードや、車輪を90度回転する横方向移動モード等の特殊走行モードに切り替えることが可能となる。
【0020】
前記各構成においては、前記転舵モジュールが、左右の前記車輪を転舵する対のラックバーと、前記対のラックバーを同一方向又は逆方向に同距離移動させるラックバー動作手段と、を備え、前記ラックバー動作手段が、前記対のラックバーにそれぞれ噛み合い、一方のラックバーのラックの歯の並列方向に対する一方向への動きを他方のラックバーの他方向への動きに変換する同期ギアと、前記一方のラックバーに噛合う第一ピニオンギアと、前記他方のラックバーに噛合う第二ピニオンギアと、前記第一ピニオンギアと前記第二ピニオンギアとの間を結合又は分離する連結機構と、を備えた構成とするのが好ましい。
【0021】
通常走行モードにおいては、前記連結機構を結合することにより対のラックバーを一体固定させ、従来のステアリング操作と同様に左右車輪を同位相に転舵することができる。その一方で、横方向移動モードやその場回転モード等の特殊走行モードにおいては、前記連結機構を分離して対のラックバーを別方向に移動することで、左右車輪を逆位相に転舵することができる。
【発明の効果】
【0022】
この発明では、車輪を左右同方向又は逆方向に転舵する転舵モジュールを備えた車両において、キングピン角に対し、キャスター角を±3度の範囲に設定したことを特徴とする車両を構成した。このように、予めキャスター角を設定しておくと、キャンバー角とキャスター角との間で相殺されるため、車輪の転舵に伴って発生するキャンバー角によって転舵角が制限されたり、転舵操作性が低下したりするのを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】この発明に係る車輪のサスペンション構造を示す縦断面図
図2】この発明に係る車輪のサスペンション構造の他例を示す縦断面図
図3】左側前輪の側面図
図4】車輪を90度転舵したときの側面図(実施例)
図5】車輪を90度転舵したときの側面図(比較例)
図6】前輪に転舵モジュールを搭載した構成を示す斜視図
図7図6に示す転舵モジュールの縦断面図
図8】連結機構を示す正面図であって、(a)は結合状態、(b)は分離状態
図9図6に示す構成において、横方向移動モードに切り替えたときの斜視図
図10】キングピン軸周りの転舵角の大きさと地面へのタイヤ食い込み量との関係についての計算結果を示す図(キングピン角が6度の場合)
図11】キングピン軸周りの転舵角の大きさと地面へのタイヤ食い込み量との関係についての計算結果を示す図(キングピン角が8度の場合)
図12】キングピン軸周りの転舵角の大きさと地面へのタイヤ食い込み量との関係についての計算結果を示す図(キャスター角が0度の場合)
図13】車輪に発生したキャンバー角を示す側面図であって、(a)はネガティブキャンバー、(b)はポジティブキャンバー
【発明を実施するための形態】
【0024】
この発明の実施形態について、図面に基づいて説明する。ホイール内に駆動モジュール1(インホイールモータ)を内蔵した車輪wのサスペンション構造を車両の前方から見た縦断面図を図1に示す。この車輪wは、ダブルウィッシュボーン構造を採用している。アッパーアーム2と車輪wを結合するアッパーアームボールジョイント3、及びロアアーム4と車輪wを結合するロアアームボールジョイント5を結んだ直線と、鉛直方向に延びる垂線とのなす角がキングピン角(本図中の符号θを参照)となる。車輪wには、後述する転舵モジュール6に取り付けられ、この車輪wを左右に転舵するタイロッド7が接続されている。
【0025】
駆動モジュール1(インホイールモータ)は、駆動力を発生する駆動モータMと、駆動モータMからの回転を減速する減速機Rと、減速機Rからの回転を車輪wに伝える車輪用軸受Bからなる。駆動モータMは、ラジアルギャップ方式の同期型又は誘導型の交流モータであり、車両に搭載した自動車全般の制御を行う電子制御ユニットであるメインのECUの指令に従って、図示しないインバータ装置により制御される。減速機Rは、遊星歯車減速機構を採用している。車輪用軸受Bは、複列のアンギュラ玉軸受ユニットを採用している。本図では、遊星歯車機構を用いた減速機Rを備えたインホイールモータ1を採用した例を示しているが、他の形態の減速機、あるいはダイレクト駆動式のインホイールモータを採用することもできる。
【0026】
図2に駆動モジュール1を内蔵せず、通常のナックルを採用した車輪wのサスペンション構造を、車両の前方から見た縦断面図を示す。この車輪wも図1に係る構成と同様にダブルウィッシュボーン構造を採用している。アッパーアーム2、ロアアーム4、キングピン角θ等のジオメトリーを図1に係る構成と同じにすれば、例えば前輪に図1に係る構成、後輪に図2に係る構成を採用する、というように前後輪で異なる構成とすることもできる。
【0027】
この発明に係る車両のサスペンション構造には、左側の前輪を車両の側面から見た図3に記載されているように、キャスター角(本図中の符号Φ参照)が設定されている。このキャスター角Φは、車両側方からキングピン軸を見たときに、鉛直方向からのキングピン軸の傾きによって決まる角である。以下、本図において、車輪wの時計回りに測ったキャスター角Φを正とする。なお、本図においては、キャスター角Φがホイールの中心を通るように設定しているが、キャスター角Φの中心がホイールの中心からずれた位置となるように設計することも許容される。
【0028】
キングピン角θを6度、キャスター角Φを6度に設定し、車輪wを90度転舵した(通常走行モードから横方向移動モードに切り替えた)ときの車輪wの側面図を図4に示す。つまり、図4は車両の側方から見た図である。このように車輪wを90度転舵することにより、キングピン角θに起因するキャンバー角δが発生するが、キングピン角θと同じ角度に設定したキャスター角Φによって相殺されて、キャンバー角δの発生を抑制することができる。このため、車輪wはほぼ真っ直ぐに地面に接地し、転舵に伴う車両の上下動はほとんど生じず、転舵操作をスムーズに行うことができる。
【0029】
次に、キングピン角θを6度、キャスター角Φを0度に設定し、車輪wを90度転舵したときの車輪wの側面図を図5に示す。このように車輪wを90度転舵すると、図4に示した場合と異なり、キングピン角θに起因するキャンバー角δ(ポジティブキャンバー)が発生する。本図では車輪wが地面に食い込んだように記載されているが、実際には車輪wは地面には食い込まず、車輪wのキングピン軸周りの旋回に伴って、その食い込み相当分だけ車両が持ち上げられた状態となる。キャンバー角δ(ポジティブキャンバー)は4輪全てにおいて発生し、しかも、このキャンバー角δは通常走行時のキャンバー角δとは異なるため、横方向移動モード等の特殊走行モードでの走行が不安定となりやすい。
【0030】
左右の車輪wを転舵するための転舵モジュール6を前輪に取り付けた状態を図6に示す。左右車輪wの中央部には、左右の車輪を転舵する転舵モジュール6が設けられている。この転舵モジュール6には、左右それぞれタイロッド7が接続され、このタイロッド7はタイロッドボールジョイント8に接続されている。この転舵モジュール6を作動させることにより、後で詳述するように、左右の車輪wを左右同方向又は逆方向に転舵することができる。ホイール内には、駆動モジュール1(インホイールモータ)が設けられている。前輪には駆動モジュール1を設けず、後輪のみ駆動モジュール1を設ける構成とすることもできる。
【0031】
図6に示す転舵モジュール6の縦断面図を図7に示す。この転舵モジュール6は、左右の車輪wを左右に転舵する対のラックバー10、11と、対のラックバー10、11を同一方向又は逆方向に同距離移動させるラックバー動作手段12とを備えている。このラックバー動作手段12は対のラックバー10、11にそれぞれ噛合い、一方のラックバー10のラックの歯の並列方向に対する一方向への動きを他方のラックバー11の他方向への動きに変換する同期ギアと、一方のラックバー10に形成した転舵用ラックギア10bに噛合う第一ピニオンギア13と、他方のラックバー11に形成した転舵用ラックギア11bに噛合う第二ピニオンギア14と、第一ピニオンギア13と第二ピニオンギア14との間を結合又は分離する連結機構18を備えている。第一ピニオンギア13は第一回転軸16と、第二ピニオンギア14は第二回転軸17とそれぞれ一体に軸周りに回転するようになっている。
【0032】
左右の車輪wを左右に転舵する対のラックバー10、11には、それぞれタイロッド7が連結され、タイロッド7がタイロッドボールジョイント8を介して、駆動モジュール1であるインホイールモータもしくは駆動モジュール1が無い場合にはナックルに接続されている。このため、対のラックバー10、11の左右への移動に伴って、車輪wを左右に転舵することができる。
【0033】
連結機構18は、図8に示すように、第二回転軸17側の固定部18bと、第一回転軸16側の移動部18aを備える。移動部18aは、図示しないバネ等の弾性部材によって固定部18b側へ押し付けられ、連結機構18の固定部18b側の凹部18dに、移動部18a側の凸部18cが結合することで(本図(a)参照)、両回転軸16、17が一体で回転可能となっている。なお、凹凸の形成部位を反対にして、固定部18b側に凸部18cを、移動部18a側に凹部18dを設けてもよい。
【0034】
一方、移動部18aは、図示しないアクチュエータによって固定部18b側から引き離されて、連結機構18の固定部18b側の凹部18dと移動部18a側の凸部18cが分離することで(本図(b)参照)、両回転軸16、17が別々に回転可能となる。これによって、後述するように第二ラックバー11が第一ラックバー10の移動方向とは逆の他方向に移動できるようになり、タイロッド7に連結された左右の車輪wを左右逆方向に転舵することができる。
【0035】
第一回転軸16は、図6に示すように、ステアリングシャフト20を介してステアリング21に接続されている。同期ギアは、図7に示すように、第一同期ギア22と第二同期ギア23から構成される。第一同期ギア22は、ラックバー10、11のラックの歯の並列方向に沿って一定の間隔で並列する三つのギア22a、22b、22cからなる。第一同期ギア22の隣り合うギア22a、22b間、ギア22b、22c間には、それぞれ、第二同期ギア23を構成するギア23a、23bが配置されている。
【0036】
第二同期ギア23は、第一ラックバー10の同期用ラックギア10aや第二ラックバー11の同期用ラックギア11aには噛み合わず、第一同期ギア22にのみ噛み合っている。第二同期ギア23は、第一同期ギア22の3つのギア22a、22b、22cを、同方向に同角度だけ動かすためのものである。この第二同期ギア23によって、第一ラックバー10と第二ラックバー11は、スムーズに相対移動することが可能となる。
【0037】
図8で示した連結機構18によって、第一ピニオンギア13を備える第一回転軸16及び第二ピニオンギア14を備える第二回転軸17を結合状態とすると(本図(a)参照)、第一回転軸16及び第二回転軸17が軸周りに同方向に一体に回転し、第一ピニオンギア13又は第二ピニオンギア14と噛合う第一ラックバー10及び第二ラックバー11が左右同方向に同距離だけ移動する。この両ラックバー10、11の移動により、タイロッド7に連結された左右の車輪wを左右同方向に転舵することができる。
【0038】
その一方で、連結機構18によって、第一ピニオンギア13を備える第一回転軸16及び第二ピニオンギア14を備える第二回転軸17を分離状態とすると(本図(b)参照)、第一回転軸16の回転に伴って第一ピニオンギア13が第一ラックバー10を一方向に移動する。この移動に伴って、同期ギア(第一同期ギア22及び第二同期ギア23)の作用によって、第二ラックバー11が第一ラックバー10の移動方向とは逆の他方向に移動する。この両ラックバー10、11の移動により、タイロッド7に連結された左右の車輪wを左右逆方向に転舵することができる。
【0039】
図6に示す通常走行モードから、横方向移動モードに走行モードを切り替えたときの状態を図9に示す。図7に示した転舵モジュール6の作用によって、左右の車輪wが左右逆方向に90度転舵した状態となっている。このように左右の車輪wを左右逆方向に転舵したときの、キングピン軸周りの転舵角の大きさと地面へのタイヤ食い込み量との関係についての計算結果を図10及び図11に示す。図10はキングピン角を6度とした場合、図11はキングピン角を8度とした場合の結果である。なお、この計算においては、アッパーアーム2及びロアアーム4の長さやタイヤの変形量は考慮していない。このため、タイヤ食い込み量と、車両の上下方向の移動量が全く同じとはならないが、両者はほぼ対応関係にあると考えてよい。
【0040】
図10に示すように、キングピン角6度に対し、キャスター角を0度から12度の範囲で変化させた場合、キャスター角が12度の場合に、転舵角を0度から90度としたときの地面へのタイヤの食い込みの変化量が最も大きくなることが確認できた。これに対し、キャスター角が3度、6度、又は9度(キングピン角に対し±3度の範囲内)の場合は、食い込みの変化量を大幅に小さくできることが確認できた。キャスター角が12度の場合は、地面へのタイヤの食い込み量がなく、この食い込みの変化量を小さくすることにより、車輪wの転舵に伴って発生するキャンバー角によって転舵角が制限されたり、転舵時における車両の上下動によって転舵操作性が低下したりするのを防止することができる。
【0041】
また、図11に示すように、キングピン角8度に対し、キャスター角を0度から14度の範囲で変化させた場合、図10の場合と同様に、キャスター角が14度の場合に、転舵角を0度から90度としたときの地面へのタイヤの食い込みの変化量が最も大きくなることが確認できた。これに対し、キャスター角が5度、8度、又は11度(キングピン角に対し±3度の範囲内)の場合は、食い込みの変化量を大幅に小さくできることが確認できた。
【0042】
キャスター角を0度とした上で、キングピン角を変化させたときの、キングピン軸周りの転舵角の大きさと地面へのタイヤの食い込み量との関係についての計算結果を図12に示す。キングピン角を大きくすると、転舵時において食い込み量が大きくなってしまい、転舵操作性が損なわれる。その一方で、キングピン角が小さすぎると、通常走行時における車両の走行安定性が損なわれる。この転舵操作性と走行安定性の両立を図るために、このキングピン角は、4度以上10度以下の角度範囲内とするのが好ましい。
【0043】
上記の実施形態はあくまでも一例であって、車輪の転舵に伴ってキャンバー角が発生して転舵角が制限されたり、転舵操作性が低下したりするのを防止する、という本願発明の課題を解決し得る限りにおいて、転舵モジュールの構成等について適宜変更を加えることも許容される。
【符号の説明】
【0044】
1 駆動モジュール(インホイールモータ)
6 転舵モジュール
10、11 ラックバー
12 ラックバー動作手段
13 第一ピニオンギア
14 第二ピニオンギア
18 連結機構
22 第一同期ギア(同期ギア)
23 第二同期ギア(同期ギア)
w 車輪
θ キングピン角
Φ キャスター角
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13