(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記ディンプルの深さは、前記ディンプルの平面形状が多角形である場合の当該ディンプルの内接円の直径、または前記ディンプルの平面形状が円形である場合の当該ディンプルの直径の0.05倍以上かつ0.15倍以下であることを特徴とする請求項2に記載の水車。
互いに隣り合う前記ディンプルの間隔は、前記ディンプルの平面形状が多角形である場合の当該ディンプルの内接円の直径、または前記ディンプルの平面形状が円形である場合の当該ディンプルの直径の0.8倍以上かつ1.2倍以下であることを特徴とする請求項2に記載の水車。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態における水車について説明する。ここでは、水車の一例として、フランシス形水車を例にとって説明する。
【0015】
(第1の実施の形態)
まず、
図1乃至
図4を用いて第1の実施の形態における水車について説明する。
【0016】
図1に示すように、フランシス形水車1は、水車本体2と、水車本体に設けられた流水面20(
図2参照)と、を備えている。
【0017】
水車本体2は、水車運転時に上池201(
図15参照)から水圧鉄管200を通って水が流入する渦巻き状のケーシング3と、複数のステーベーン4と、複数のガイドベーン5と、ランナ8と、を有している。このうちステーベーン4は、ケーシング3に流入した水をガイドベーン5およびランナ8に導くためのものであり、周方向に所定の間隔をあけて配置され、ステーベーン4の間に水が流れる流路21が形成されている。ガイドベーン5は、流入した水をランナ8に導くためのものであり、周方向に所定の間隔をあけて配置され、ガイドベーン5の間に水が流れる流路21が形成されている。
【0018】
ガイドベーン5の上方および下方には、互いに対向する上カバー6および下カバー7がそれぞれ設けられている。これら上カバー6および下カバー7は、ガイドベーン5を回動自在に支持している。ガイドベーン5が回動して開度を変えることにより、ランナ8に流入する水の流量が調整可能になっている。このようにして、後述する発電電動機11の発電量が調整可能になっている。
【0019】
ランナ8は、ケーシング3に対して回転軸線Xを中心に回転自在に構成され、水車運転時にケーシング3から流入する水によって回転駆動される。また、ランナ5は、周方向に所定の間隔をあけて配置された複数のランナ羽根9を有しており、ランナ羽根9の間に、水が流れる流路21が形成されている。
【0020】
ランナ8には、主軸10を介して発電電動機11が連結されている。この発電電動機11は、水車運転時にはランナ8の回転によって発電を行い、ポンプ運転時(揚水運転時)には、ランナ8を回転駆動するように構成されている。ランナ8の水車運転時の下流側には、ランナ8を流出した水流の圧力を回復させるための吸出し管12が設けられている。
この吸出し管12は、下池202(
図15参照)に連結されており、ランナ8を回転駆動させた水は下池202に放出されるようになっている。
【0021】
流水面20(
図2参照)は、上述した水車本体2のケーシング3、ステーベーン4、ガイドベーン5、上カバー6、下カバー7、ランナ8および吸出し管12にそれぞれ設けられている。各流水面20が流水の流路21を画定し、この流路21を水が流れるようになっている。
【0022】
図2(a)に示すように、流水面20には、撥水性塗料により形成されたコーティング層30が設けられている。コーティング層30は、流水面20に撥水性塗料をコーティングすることにより形成することができる。撥水性塗料としては、撥水性を有する塗料であれば、特に限られることはなく、例えば、フッ素樹脂若しくはシリコン樹脂を含む塗料や、船底塗料などを用いることができる。また、撥水性塗料は、例えば、75度以上、好ましくは90度以上の接触角(固体表面であるコーティング層30の表面と、この表面に接している水の縁の接線とがなす角)を有していることが好適である。
【0023】
コーティング層30には、流路21の側に開口する多数(複数)のディンプル31が設けられていることが好適である。ディンプル31は、小さな窪みのように、コーティング層30に凹状に形成されている。ディンプル31の深さは、ディンプル31の平面形状が多角形である場合のディンプル31の内接円の直径、またはディンプル31の平面形状が円形である場合のディンプル31の直径の0.05倍以上かつ0.15倍以下であることが好適である。ここで、ディンプル31の深さを直径の0.05倍以上とすることにより、ディンプル31を精度良く形成することができ、ディンプル31の深さを直径の0.15倍以下とすることにより、ディンプル31の存在自体を原因とする摩擦損失が増大することを抑制できる。一方、ディンプル31の平面形状は、特に限られることはないが、例えば
図2(b)に示すような円形や、あるいは六角形とすることが好適である。例えば、多角形状のディンプル31の内接円の直径または円形状のディンプル31の直径(
図2(a)に示すDd)が1mmである場合には、ディンプル31の深さ(
図2(a)に示すHd)は、50μm以上かつ150μm以下であることが好適となる。なお、コーティング層30の深さは、ディンプル31を形成することが可能であり、ディンプル31の底面に流水面20が露出されることなくコーティング層30の材料が残存可能であれば、特に限られることはない。
【0024】
また、互いに隣り合うディンプル31の間隔は、ディンプル31の平面形状が多角形である場合のディンプル31の内接円の直径、またはディンプル31の平面形状が円形である場合のディンプル31の直径の0.8倍以上かつ0.12倍以下であることが好適である。このことによってディンプル31による水流の粘性抵抗の低減効果を効果的に発揮できることは、本発明者らによって実験により確認されている。なお、例えば、多角形状のディンプル31の内接円の直径または円形状のディンプル31の直径(
図2(a)に示すDd)が1mmである場合には、ディンプル31の間隔(
図2(a)に示すG)は、0.8mm以上かつ1.2mm以下であることが好適となる。
【0025】
コーティング層30は、例えば、
図3に示すように、コーティング層30のディンプル31に対応する凸部41を有する型40を用いて形成することができる。この場合、まず、
図3(a)に示すように、流水面20に撥水性塗料が所定の厚さで膜状に塗布され、塗膜30aが形成される。続いて、
図3(b)に示すように、撥水性塗料の塗膜30aに、型40が押し当てられる。この際、型40の凸部41と流水面20との間に塗膜30aが残存するように、型40が押し当てられる。次に、型40が押し当てられた状態で、塗膜30aを乾燥させて硬化させる。塗膜30aが硬化した後、
図3(c)に示すように、型40が取り外される。このようにして、本実施の形態におけるコーティング層30を得ることができる。なお、コーティング層30の形成方法は、上述した方法に限られることはない。例えば、撥水性塗料の塗膜を硬化させた後に、硬化した塗膜上に型40を載せ、型40の凸部41の周囲に撥水性塗料を塗布して硬化させることにより、本実施の形態におけるコーティング層30を得ることもできる。
【0026】
このようなコーティング層30は、ケーシング3の流水面20、ステーベーン4の流水面20、ガイドベーン5の流水面20、上カバー6の流水面20、下カバー7の流水面20、ランナ8の流水面20および吸出し管12の流水面20にそれぞれ設けられている。すなわち、他の制約等がなければ、フランシス形水車1の各部材の流水面20に設けられていることが好ましい。
【0027】
次に、このような構成からなる本実施の形態の作用について説明する。
【0028】
本実施の形態によるフランシス形水車において水車運転を行う場合、
図1に示すように、上池201(
図15参照)から水圧鉄管200を通ってケーシング3に水が流入する。ケーシング3に流入した水は、ケーシング3からステーベーン4およびガイドベーン5を通ってランナ8に流入する。このランナ8へ流入した水によって、ランナ8が回転駆動される。このことにより、ランナ8に主軸10を介して連結された発電電動機11が駆動され、発電が行われる。ランナ8に流入した水は、ランナ8から吸出し管12を通って、下池202へ放出される。水車運転を行っている間、ガイドベーン5を回動させることによりガイドベーン5の開度が調整され、発電電動機11の発電量が調整される。
【0029】
ポンプ運転時には、発電電動機11がランナ8を回転駆動することにより、吸出し管12内の水を吸い上げて揚水する。ランナ8に吸い上げられた水は、ガイドベーン5およびステーベーン4を通って、ケーシング3に流入し、ケーシング3から水圧鉄管200を通って上池201に放出される。ステーベーン4は、ランナ8から流入する水をケーシング3に導く。この際、ガイドベーン5の開度が、ポンプ揚程に応じて適切な揚水量になるように変えられる。
【0030】
水車運転およびポンプ運転の間、ケーシング3の流水面20、ステーベーン4の流水面20、ガイドベーン5の流水面20、上カバー6の流水面20、下カバー7の流水面20、ランナ8の流水面20および吸出し管12の流水面20によって画定された流路21内に、流水面20に沿った水の流れが形成される。流水面20には、撥水性塗料により形成されたコーティング層30(
図2参照)が設けられている。このことにより、コーティング層30の近傍を流れる水は、コーティング層30からはじかれるように流れることができ、コーティング層30の近傍の水流の粘性抵抗を低減することができる。このため、主流の流水面20に対する摩擦損失を低減することができる。
【0031】
また、上述したように、コーティング層30には、多数のディンプル31が設けられている。ディンプル31内に、一部の水が出入りしながら、流水方向の流れの影響を受けて、
図4に示すようにディンプル31内を循環するように流れる。この際、ディンプル31内の水は、撥水性塗料により形成されたディンプル31の壁面からはじかれるように流れることができ、ディンプル31内においてスムーズに循環する。このため、ディンプル31内を循環する水流が、一般的な搬送装置等で使用されるコロやローラと同様な機能を発揮して、ディンプル31上を流れる水流の粘性抵抗をより一層低減し、流水面20に対して主流をスムーズに流すことが可能となる。
【0032】
ところで、フランシス形水車1に流入する水の持つ落差エネルギPhは、水の密度をρ、流量をQ、落差をH、重力加速度をgとすると、
Ph=ρ×g×Q×H
で表される。
【0033】
流水面20で発生する水の摩擦損失をLfとすると、落差エネルギPhのうちLfが摩擦エネルギとして使用されることとなる。また、上述した2次流れ損失や剥離損失、渦損失など水車の形状により発生する損失をLsとすると、ランナ8を回転させるために使用可能なエネルギPtは、
Pt=Ph−Lf−Ls
となる。
【0034】
しかしながら、上述したように、流水面20に撥水性塗料により形成されたコーティング層30が設けられていることにより、コーティング層30の近傍の水流の粘性抵抗を低減することができる。このため、摩擦損失Lfを低減することができ、ランナ8を回転させるために使用可能なエネルギPtを増大させることができる。
【0035】
このように本実施の形態によれば、流水面20に、撥水性塗料により形成されたコーティング層30が設けられている。このことにより、コーティング層30の近傍における水流の粘性抵抗を低減することができ、流水面20により画定される流路21を流れる水流の摩擦損失を低減することができる。このため、ケーシング3に流入する水のエネルギを有効に使用して、水車効率を向上させることができる。
【0036】
また、本実施の形態によれば、コーティング層30に複数のディンプル31が設けられている。このことにより、コーティング層30の近傍における水流の粘性抵抗をより一層低減することができ、水流の摩擦損失をより一層低減することができる。
【0037】
(第2の実施の形態)
次に、
図5を用いて、本発明の第2の実施の形態における水車について説明する。
【0038】
図5に示す第2の実施の形態においては、上カバーおよび下カバーに、非コーティング領域が設けられている点が主に異なり、他の構成は、
図1乃至
図4に示す第1の実施の形態と略同一である。なお、
図5において、
図1乃至
図4に示す第1の実施の形態と同一部分には同一符号を付して詳細な説明は省略する。
【0039】
図5に示すように、上カバー6の流水面20は、コーティング層30が設けられたコーティング領域50と、コーティング層30が設けられていないカバー非コーティング領域51と、を有している。このうち、カバー非コーティング領域51においては、上カバー6の流水面20が露出されている。カバー非コーティング領域51は、ガイドベーン5の回動軸線Y(
図1参照)に沿った方向からみたときに(
図5の状態で)、ガイドベーン5の回動領域を含むように形成されている。本実施の形態においては、カバー非コーティング領域51は、ガイドベーン5の回動軸線を中心として円形状に形成されており、カバー非コーティング領域51の半径は、ガイドベーン5の最大回転半径と略同一または当該最大回転半径より大きくすることが好適である。このようにして、当該回動軸線に沿った方向からみたときに、ガイドベーン5の回動領域が、コーティング領域50に重ならないようになっている。
【0040】
下カバー7についても、上カバー6と同様に、コーティング領域50とカバー非コーティング領域51とを有しており、カバー非コーティング領域51は、ガイドベーン5の回動軸線に沿った方向からみたときに、ガイドベーン5の回動領域を含むように形成されている。
【0041】
このように本実施の形態によれば、上カバー6のカバー非コーティング領域51および下カバー7のカバー非コーティング領域51が、ガイドベーン5の回動軸線に沿った方向からみたときに、ガイドベーン5の回動領域を含むように形成されている。このことにより、回動するガイドベーン5がコーティング層30に接触してコーティング層30が剥離されることを防止できる。また、カバー非コーティング領域51において、ガイドベーン5と上カバー6との間およびガイドベーン5と下カバー7との間にコーティング層30が介在されないため、ガイドベーン5と上カバー6との間の隙間およびガイドベーン5と下カバー7との間の隙間が小さくなることを防止できる。このことにより、これらの隙間に、ゴミなどの異物や砂などが挟まれて、コーティング層30に傷を付けたりコーティング層30が剥離されたりすることを防止できる。このため、コーティング層30が損傷することを防止し、コーティング層30の寿命を長くして、コーティング層30による摩擦損失低減の効果を長く享受することができる。
【0042】
(第3の実施の形態)
次に、
図6および
図7を用いて、本発明の第3の実施の形態における水車について説明する。
【0043】
図6および
図7に示す第3の実施の形態においては、ランナのランナ羽根に、非コーティング領域が設けられている点が主に異なり、他の構成は、
図1乃至
図4に示す第1の実施の形態と略同一である。なお、
図6および
図7において、
図1乃至
図4に示す第1の実施の形態と同一部分には同一符号を付して詳細な説明は省略する。
【0044】
図6および
図7に示すように、ランナ8のランナ羽根9の流水面20は、正圧面9a(圧力面)と負圧面9bとを有している。また、ランナ羽根9の流水面20は、コーティング層30が設けられたコーティング領域50と、コーティング層30が設けられていない上流側非コーティング領域52を有している。上流側非コーティング領域52は、水車運転時におけるランナ羽根9の正圧面9aおよび負圧面9bのうち上流側端部(入口側端部、ガイドベーン側端部)に形成されている。
【0045】
上流側非コーティング領域52は、
図6にLiで示される主流方向に沿った長さを有し、クラウン8aからバンド8bに向って延びるように形成されている。この上流側非コーティング領域52の主流方向に沿った長さLiは、水車運転時におけるランナ8の出口径(吸出し管側端部の径)をDeとしたとき、
Li/De≦0.8
であることが好適である。上記式で規定される長さLiは、一般的に水車運転時に流れの剥離55が発生し得る領域となる。このことにより、流れの剥離55が発生し得る領域に、コーティング層30が設けられることを防止している。
【0046】
すなわち、水車運転時にランナ8に流入する水の流水方向がランナ羽根9と一致しない場合、ランナ羽根9の上流側端部における正圧面9aまたは負圧面9bに、
図7に示すように、流れの剥離55が生じ得る。しかしながら、上述したように、ランナ羽根9の上流側端部における正圧面9aおよび負圧面9bに上流側非コーティング領域52が形成されている。このことにより、水車運転時に流れの剥離55が発生し得る領域に、コーティング層30が設けられることを防止できる。
【0047】
また、
図6および
図7に示すように、ランナ羽根9の流水面20は、コーティング層30が設けられていない下流側非コーティング領域53を更に有している。下流側非コーティング領域53は、水車運転時におけるランナ羽根9の負圧面9bのうち下流側端部(出口側端部、吸出し管側端部)に形成されている。
【0048】
下流側非コーティング領域53は、
図6にLoで示される主流方向に沿った長さを有し、クラウン8aからバンド8bに向って延びるように形成されている。この下流側非コーティング領域53の主流方向に沿った長さLoは、水車運転時におけるランナ8の出口径(吸出し管側端部の径)をDeとしたとき、
Lo/De≦0.8
であることが好適である。上記式で規定される長さLoは、一般的に水車運転時にキャビテーション56が発生し得る領域となる。このことにより、キャビテーション56が発生し得る領域に、コーティング層30が設けられることを防止している。
【0049】
すなわち、ランナ8に流入する水の流量が設計点より多い場合(出力が大きい場合)、ランナ羽根9の下流側端部における負圧面9bの近傍に、
図7に示すように、キャビテーション56が発生し得る。しかしながら、上述したように、ランナ羽根9の下流側端部における負圧面9bに下流側非コーティング領域53が形成されている。このことにより、水車運転時にキャビテーション56が発生し得る領域に、コーティング層30が設けられることを防止できる。
【0050】
このように本実施の形態によれば、上流側非コーティング領域52が、水車運転時におけるランナ羽根9の正圧面9aおよび負圧面9bのうち上流側端部に形成されている。このことにより、流れの剥離55が発生し得る領域に、コーティング層30が設けられることを防止できる。また、下流側非コーティング領域53が、水車運転時におけるランナ羽根9の負圧面9bのうち下流側端部に形成されている。このことにより、キャビテーション56が発生し得る領域に、コーティング層30が設けられることを防止できる。このため、流れの剥離55やキャビテーション56によってコーティング層30が損傷することを防止し、コーティング層30の寿命を長くして、コーティング層30による摩擦損失低減の効果を長く享受することができる。
【0051】
なお、上述した本実施の形態において、
図8に示すように、下流側非コーティング領域53が、ランナ羽根9の正圧面9aの下流側端部(出口側端部、吸出し管側端部)にも設けられていてもよい。すなわち、水車運転時におけるランナ羽根9の下流側端部において正圧面9aおよび負圧面9bのいずれにも下流側非コーティング領域53が形成されていてもよい。
【0052】
ポンプ運転時には、吸出し管12からケーシング3に向って水車運転時とは逆向きに水が流れるため、ランナ8に流入する水の流水方向がランナ羽根9の形状と一致しない場合、ランナ羽根9の吸出し管側端部(ポンプ運転時の入口側端部、水車運転時の下流側端部)における正圧面9aまたは負圧面9bに、流れの剥離55が生じ得る。しかしながら、上述したように、下流側非コーティング領域53が、水車運転時におけるランナ羽根9の正圧面9aおよび負圧面9bの吸出し管側端部に形成されている場合、流れの剥離55が生じ得る領域にコーティング層30が設けられることを防止できる。このことにより、フランシス形水車1をポンプ運転する場合においても、コーティング層30の損傷を防止することができる。言い換えると、フランシス形水車1のポンプ運転が予定されている場合には、下流側非コーティング領域53は、水車運転時におけるランナ羽根9の下流側端部において正圧面9aおよび負圧面9bのいずれにも形成されていることが好ましい。
【0053】
(第4の実施の形態)
次に、
図9を用いて、本発明の第4の実施の形態における水車について説明する。
【0054】
図9に示す第4の実施の形態においては、コーティング層が親水性塗料により形成されている点が主に異なり、他の構成は、
図1乃至
図4に示す第1の実施の形態と略同一である。なお、
図9において、
図1乃至
図4に示す第1の実施の形態と同一部分には同一符号を付して詳細な説明は省略する。
【0055】
図9に示すように、流水面20には、親水性塗料により形成されたコーティング層60が設けられている。このコーティング層60は、流水面20に親水性塗料をコーティングすることにより形成することができる。親水性塗料としては、親水性を有する塗料であれば、特に限られることはなく、例えば、親水基(−OH)を有する材料を含む塗料を好適に用いることができる。また、親水性塗料の接触角は、例えば40度以下であることが好適である。
【0056】
コーティング層60には、
図2に示すコーティング層30およびディンプル31と同様に、流路21の側に開口する多数(複数)のディンプル61が設けられていることが好適である。ディンプル61の深さは、ディンプル61の平面形状が多角形である場合のディンプル61の内接円の直径、またはディンプル61の平面形状が円形である場合のディンプル61の直径の 0.05倍以上かつ0.15倍以下であることが好適である。一方、ディンプル61の平面形状は、特に限られることはないが、例えば、円形や、あるいは六角形とすることが好適である。例えば、多角形状のディンプル61の内接円の直径または円形状のディンプル61の直径(例えば、
図9に示すDd)が1mmである場合には、ディンプル61の深さ(例えば、
図9に示すHd)は、50μm以上かつ150μm以下であることが好適となる。
【0057】
また、互いに隣り合うディンプル61の間隔は、ディンプル61の平面形状が多角形である場合のディンプル61の内接円の直径、またはディンプル61の平面形状が円形である場合のディンプル61の直径の0.8倍以上かつ0.12倍以下であることが好適である。このことによってディンプル61による水流の粘性抵抗の低減効果を効果的に発揮できることは、本発明者らによって実験により確認されている。なお、例えば、多角形状のディンプル61の内接円の直径または円形状のディンプル61の直径(
図9に示すDd)が1mmである場合には、ディンプル61の間隔(
図9に示すG)は、0.8mm以上かつ1.2mm以下であることが好適となる。
【0058】
また、
図9に示すコーティング層60は、
図2に示すコーティング層30と同様にして形成することができ、ケーシング3等の各部材に設けられた流水面20に形成されていることが好適である。
【0059】
水車運転およびポンプ運転の間、ケーシング3の流水面20によって画定された流路21内に、流水面20に沿った水の流れが形成される。流水面20には、親水性塗料により形成されたコーティング層60が設けられている。このことにより、コーティング層60の表面60aに、水が付着するようにして水の薄い付着層62が形成される。この水付着層62は、主流とコーティング層60との間に介在される。また、水付着層62を形成する水は、コーティング層60に対して静止しているのではないが、流速は極めて小さくなっている。以上のことから、コーティング層60の近傍の水流の粘性抵抗を低減することができ、主流の流水面20に対する摩擦損失を低減することができる。
【0060】
また、コーティング層60には、多数のディンプル61が設けられている。この場合、ディンプル61内の水は、親水性塗料により形成されたディンプル61の壁面に付着するようになり、ディンプル61内の水の流速は極めて小さくなっている。このことにより、流水面20のうちディンプル61が設けられた領域において、上述した水付着層62の厚さを厚くする効果が得られる。このため、ディンプル61上を流れる水流の粘性抵抗をより一層低減することができ、流水面20に対して主流をスムーズに流すことが可能となる。
【0061】
このように本実施の形態によれば、流水面20に、親水性塗料により形成されたコーティング層60が設けられている。このことにより、コーティング層60の表面60aに、流速が極めて小さい水の付着層62を形成することができ、流水面20により画定される流路21を流れる水流の摩擦損失を低減することができる。このため、ケーシング3に流入する水のエネルギを有効に利用して、水車効率を向上させることができる。
【0062】
また、本実施の形態によれば、コーティング層60に複数のディンプル61が設けられている。このことにより、コーティング層60の近傍における水流の粘性抵抗をより一層低減することができ、水流の摩擦損失をより一層低減することができる。
【0063】
(第5の実施の形態)
次に、
図10乃至
図14を用いて、本発明の第5の実施の形態における水車について説明する。
【0064】
図10乃至
図14に示す第5の実施の形態においては、クラウンのランナ背圧室側の面に、親水性を有する背圧室コーティング層が設けられるとともに、バンドのランナ側圧室側の面に、親水性を有する側圧室コーティング層が設けられている点が主に異なり、他の構成は、
図1乃至
図4に示す第1の実施の形態と略同一である。なお、
図10乃至
図14において、
図1乃至
図4に示す第1の実施の形態と同一部分には同一符号を付して詳細な説明は省略する。
【0065】
ここでは、水車の一例として、フランシス形水車を例にとって説明する。
【0066】
図10に示すように、フランシス形水車101は、上池201(
図15参照)から水圧鉄管200を通って水が流入する渦巻き状のケーシング103と、複数のステーベーン104と、複数のガイドベーン105と、ランナ106と、を備えている。このうちステーベーン104は、ケーシング103に流入した水をガイドベーン105およびランナ106に導くためのものであり、周方向に所定の間隔をあけて配置されている。
【0067】
ガイドベーン105は、流入した水をランナ106に導くためのものであり、周方向に所定の間隔をあけて配置されている。また、各ガイドベーン105は、回動自在に設けられており、回動して開度を変えることにより、ランナ106に流入する水の流量が調整可能に構成されている。このようにして、後述する発電機111の発電量が調整可能になっている。
【0068】
ランナ106は、ケーシング103に対して回転軸線Xを中心に回転自在に構成され、ケーシング103から流入する水によって回転駆動される。また、ランナ106は、
図11に示すように、クラウン107と、バンド108と、クラウン107とバンド108との間に設けられた複数のランナ羽根109と、を有している。このうちランナ羽根109は、周方向に所定の間隔をあけて配置されている。
【0069】
ランナ106には、
図10に示すように、主軸110を介して発電機111が連結されている。この発電機111は、ランナ106の回転によって発電を行うように構成されている。ランナ106の下流側には、ランナ106を流出した水流の圧力を回復させるための吸出し管112が設けられている。この吸出し管112は、下池202に連結されており、ランナ106を回転駆動させた水は下池202に放出されるようになっている。
【0070】
図11に示すように、ランナ106のクラウン107の外側(
図11における上側)には、ランナ背圧室113が形成されている。より具体的には、クラウン107の外側に上カバー114が設けられており、クラウン107と上カバー114との間に上述したランナ背圧室113が形成されている。一方、ランナ106のバンド108の外側(
図11における右側、半径方向外側)には、ランナ側圧室115が形成されている。より具体的には、バンド108の外側に下カバー116が設けられており、バンド108と下カバー116との間に上述したランナ側圧室115が形成されている。
【0071】
これらのランナ背圧室113およびランナ側圧室115には、ガイドベーン105を通った水の一部が漏れ流れとして流入する。すなわち、クラウン107の半径方向外側(上流側)には、背圧室側間隙部117が設けられており、この背圧室側間隙部117を通ってランナ背圧室113に水が流入する。ランナ背圧室113内の流水は、
図11に示すようなランナ106のクラウン107に貫通孔118が設けられている場合には、この貫通孔118を通って、吸出し管112内に向って流れる。なお、ランナ背圧室113の半径方向内側(より具体的にはランナ背圧室113と貫通孔118との間)には背圧室側シール部119(中間シール部)が設けられている。この背圧室側シール部119は、回転側部分であるクラウン107と、静止側部分である上カバー114との間の隙間が最も狭くなって水が流れ難くなるように形成されている。このことにより、ガイドベーン105からランナ背圧室113への水の流入量を抑制している。この背圧室側シール部119は、ラビリンスシールによって構成され得る。
【0072】
一方、バンド108の半径方向外側(上流側)には、側圧室側間隙部120が設けられており、この側圧室側間隙部120を通ってランナ側圧室115に水が流入する。ランナ側圧室115内の流水は、バンド108の半径方向内側(下流側)に設けられた下流側間隙部121を通って、吸出し管112内に向って流れる。なお、ランナ側圧室115の半径方向内側(より具体的にはランナ側圧室115と下流側間隙部121との間)には側圧室側シール部122が設けられている。この側圧室側シール部122は、回転側部分であるバンド108と、静止側部分である下カバー116との間の隙間が最も狭くなって水が流れ難くなるように形成されている。このことにより、ガイドベーン105からランナ側圧室115への水の流入量を抑制している。この側圧室側シール部122は、ラビリンスシールによって構成され得る。
【0073】
上述したように、ランナ背圧室113およびランナ側圧室115は、比較的狭い流路を形成しているため、ランナ背圧室113やランナ側圧室115に水が流入してランナ106が回転している間、円板摩擦損失が発生し得る。
【0074】
一般に、ランナ背圧室113およびランナ側圧室115内の流路は、比較的狭いため、ランナ背圧室113およびランナ側圧室115を通る水流の速度勾配が、回転側部分(クラウン107、バンド108)から静止側部分(上カバー114、下カバー116)に亘って複雑になり得る。このことにより、粘性抵抗が増大して円板摩擦損失が増大し得る。円板摩擦は、ランナ106が回転するエネルギを遮る方向に作用することから、円板摩擦損失が増大する場合には水車の効率向上が困難になる。
【0075】
円板摩擦損失を低減させる対策として、ランナ106の外径を小さくすることが考えられる。これは、円板摩擦損失が回転する円板の半径の5乗に比例することによる。しかしながら、ランナ106の外径を小さくする場合には、水車が小形化されて水車の出力が低減し、所望の性能を得ることが困難になる。
【0076】
また、他の対策として、ランナ背圧室113やランナ側圧室115の流路面積を適正化することが考えられる。これは、ランナ背圧室113やランナ側圧室115の流路面積を小さくすることで円板摩擦損失の低減が可能となることによる。しかしながら、流路面積を小さくしすぎると、ランナ背圧室113やランナ側圧室115自体の摩擦損失が増大するため、流路面積の適正化は困難である。
【0077】
このため、本実施の形態では、この円板摩擦損失を低減するために、ランナ背圧室113の流水面(流水の流路を画定する面)およびランナ側圧室115の流水面に、親水性を有するコーティング層130、131が設けられている。
【0078】
より具体的には、
図11および
図12(a)、(b)に示すように、クラウン107のランナ背圧室113の側の面107a(外面)に、親水性を有する背圧室コーティング層130が設けられている。この背圧室コーティング層130は、上述した上カバー114のランナ背圧室113の側の面114a(内面)にも設けられていてもよい。ここで、クラウン107のランナ背圧室113の側の面107aと、上カバー114のランナ背圧室113の側の面114aは、ランナ背圧室113の流水面を構成している。そして、背圧室コーティング層130は、上述した背圧室側シール部119より半径方向外側(上流側)に配置されていることが好適である。すなわち、背圧室側シール部119には、背圧室コーティング層130が形成されていないことが好適である。
【0079】
また、バンド108のランナ側圧室115の側の面108a(外面)に、親水性を有する側圧室コーティング層131が設けられている。この側圧室コーティング層131は、上述した下カバー116のランナ側圧室115の側の面116a(内面)にも設けられていてもよい。ここで、バンド108のランナ側圧室115の側の面108aと、下カバー116のランナ側圧室115の側の面116aは、ランナ側圧室115の流水面を構成している。そして、側圧室コーティング層131は、上述した側圧室側シール部122より半径方向外側(上流側)に配置されていることが好適である。すなわち、側圧室側シール部122には、側圧室コーティング層131が形成されていないことが好適である。
【0080】
本実施の形態においては、上述した背圧室コーティング層130および側圧室コーティング層131は、親水性塗料により形成されている。このような親水性塗料としては、親水性を有する塗料であれば、特に限られることはなく、例えば、親水性のフッ素材や親水性の船底塗料など、親水基(−OH)を有する材料を含む塗料を好適に用いることができる。また、親水性塗料は、例えば40度以下の接触角(固体表面であるコーティング層130、131の表面と、この表面に接している水の縁の接線とがなす角)を有していることが好適である。
【0081】
背圧室コーティング層130には、ランナ背圧室113の側に開口する複数の背圧室ディンプル(ディンプル)132が設けられていることが好適である。背圧室ディンプル132は、背圧室コーティング層130のうちクラウン107の側の部分と上カバー114の側の部分とに形成される。同様に、側圧室コーティング層131には、ランナ側圧室115の側に開口する複数の側圧室ディンプル(ディンプル)133が設けられていることが好適である。側圧室ディンプル133は、側圧室コーティング層131のうちバンド108の側の部分と下カバー116の側の部分とに形成される。
【0082】
ディンプル132、133は、小さな窪みのように、対応するコーティング層130、131に凹状に形成されている。ディンプル132、133の深さは、ディンプル132、133の平面形状が多角形である場合のディンプル132、133の内接円の直径、またはディンプル132、133の平面形状が円形である場合のディンプル132、133の直径の0.05倍以上かつ0.15倍以下であることが好適である。ここで、ディンプル132、133の深さを直径の0.05倍以上とすることにより、ディンプル132、133を精度良く形成することができ、ディンプル132、133の深さを直径の0.15倍以下とすることにより、ディンプル132、133の存在自体を原因とする摩擦損失が増大することを抑制できる。一方、ディンプル132、133の平面形状は、特に限られることはないが、例えば、円形や、あるいは六角形とすることが好適である。例えば、多角形状のディンプル132、133の内接円の直径または円形状のディンプル132、133の直径(
図12(a)に示すDd)が1mmである場合には、ディンプル132、133の深さ(
図12(a)に示すHd)は、50μm以上かつ150μm以下であることが好適となる。なお、コーティング層130、131の深さは、ディンプル132、133を形成することが可能であるとともに、ディンプル132、133の底面に流水面(ランナ背圧室側の面107a、114a、ランナ側圧室側の面108a、116a)が露出されることなくコーティング層130、131の材料が残存可能であれば、特に限られることはない。
【0083】
また、互いに隣り合うディンプル132、133の間隔は、ディンプル132、133の平面形状が多角形である場合のディンプル132、133の内接円の直径、またはディンプル132、133の平面形状が円形である場合のディンプル132、133の直径の0.8倍以上かつ0.12倍以下であることが好適である。このことによってディンプル132、133による水流の粘性抵抗の低減効果を効果的に発揮できることは、本発明者らによって実験により確認されている。なお、例えば、多角形状のディンプル132、133の内接円の直径または円形状のディンプル132、133の直径(
図12(a)に示すDd)が1mmである場合には、ディンプル132、133の間隔(
図12(a)に示すG)は、0.8mm以上かつ1.2mm以下であることが好適となる。
【0084】
このようなコーティング層130、131は、例えば、
図13に示すように、コーティング層130、131のディンプル132、133に対応する凸部141を有する型140を用いて形成することができる。この場合、まず、
図13(a)に示すように、流水面に親水性塗料が所定の厚さで膜状に塗布され、塗膜134が形成される。続いて、
図13(b)に示すように、親水性塗料の塗膜134に、型140が押し当てられる。この際、型140の凸部141と流水面との間に塗膜134が残存するように、型140が押し当てられる。次に、型140が押し当てられた状態で、塗膜134を乾燥させて硬化させる。塗膜134が硬化した後、
図13(c)に示すように、型140が取り外される。このようにして、本実施の形態におけるコーティング層130、131を得ることができる。なお、コーティング層130、131の形成方法は、上述した方法に限られることはない。例えば、親水性塗料の塗膜を硬化させた後に、硬化した塗膜上に型140を載せ、型140の凸部141の周囲に親水性塗料を塗布して硬化させることにより、本実施の形態におけるコーティング層130、131を得ることもできる。
【0085】
次に、このような構成からなる本実施の形態の作用について説明する。
【0086】
本実施の形態によるフランシス形水車101において水車運転を行う場合、
図10に示すように、上池201(
図15参照)から水圧鉄管200を通ってケーシング103に水が流入する。ケーシング103に流入した水は、ケーシング103からステーベーン104およびガイドベーン105を通ってランナ106に流入する。このランナ106へ流入した水によって、ランナ106が回転駆動される。このことにより、ランナ106に主軸110を介して連結された発電機111が駆動され、発電が行われる。ランナ106に流入した水は、ランナ106から吸出し管112を通って、下池202へ放出される。この間、ガイドベーン105を回動させることによりガイドベーン105の開度が調整され、発電機111の発電量が調整される。
【0087】
水車が運転している間、ランナ背圧室113にガイドベーン105を通った水の一部が流入する。すなわち、クラウン107の半径方向外側に設けられた背圧室側間隙部117を通ってランナ背圧室113に流入する水の流れが形成される。このことにより、
図14に示すように、背圧室コーティング層130の表面135に、水が付着するようにして水の薄い付着層136が形成される。この水付着層136は、ランナ背圧室113の中心側の流水によって形成される主流と背圧室コーティング層130との間に介在される。また、水付着層136を形成する水は、背圧室コーティング層130に対して静止しているのではないが、流速は極めて小さくなっている。以上のことから、背圧室コーティング層130の近傍の水流の粘性抵抗を低減することができ、流水面(ランナ背圧室側の面107a、114a)に対するランナ背圧室113内の流水の摩擦損失を低減することができる。
【0088】
また、水車が運転している間、ランナ側圧室115にガイドベーン105を通った水の一部が流入する。すなわち、バンド108の半径方向外側に設けられた側圧室側間隙部120を通ってランナ側圧室115に流入する水の流れが形成される。この場合においても、ランナ背圧室113と同様にして水付着層136が形成されるため、側圧室コーティング層131の近傍の水流の粘性抵抗を低減することができ、流水面(ランナ側圧室側の面108a、116a)に対するランナ側圧室115内の流水の摩擦損失を低減することができる。
【0089】
背圧室コーティング層130に多数の背圧室ディンプル132が設けられるとともに、側圧室コーティング層131に多数の側圧室ディンプル133が設けられていることにより、ディンプル132、133内の水は、親水性塗料により形成されたディンプル132、133の壁面に付着するようになり、ディンプル132、133内の水の流速は極めて小さくなっている。このことにより、流水面のうちディンプル132、133が設けられた領域において、上述した水付着層136の厚さを厚くする効果が得られる。このため、ディンプル132、133上を流れる水流の粘性抵抗をより一層低減することができ、流水面に対して流水をスムーズに流すことが可能となる。
【0090】
このように本実施の形態によれば、クラウン107のランナ背圧室113の側の面107aに、親水性塗料により形成された背圧室コーティング層130が設けられている。また、バンド108のランナ側圧室115の側の面108aに、親水性塗料により形成された側圧室コーティング層131が設けられている。このことにより、コーティング層130、131の表面に、流速が極めて小さい水の付着層136を形成することができ、ランナ背圧室113およびランナ側圧室115を流れる水流の摩擦損失を低減することができる。このため、ランナ106の回転による円板摩擦損失を低減することができる。また、この場合、ランナ106の外径は制限されないため、フランシス形水車101の所望の出力に応じてランナ106の外径を決定することが可能となるとともに、ランナ背圧室113やランナ側圧室115の流路面積や形状に関わることなく、円板摩擦損失を低減することが可能となる。
【0091】
また本実施の形態によれば、上述したように、ランナ背圧室113の流水面のうち、クラウン107のランナ背圧室113の側の面107aに背圧室コーティング層130が設けられる。このため、ランナ背圧室113のうち比較的速度勾配が大きくなり得るクラウン107の側の領域における水流の粘性抵抗を効果的に低減させることができる。同様に、ランナ側圧室115の流水面のうち、バンド108のランナ側圧室115の側の面108aに側圧室コーティング層131が設けられる。このため、ランナ側圧室115のうち比較的速度勾配が大きくなり得るバンド108の側の領域における水流の粘性抵抗を効果的に低減させることができる。
【0092】
また本実施の形態によれば、背圧室コーティング層130は、背圧室側シール部119より半径方向外側に配置され、側圧室コーティング層131は、側圧室側シール部122より半径方向外側に配置されている。このことにより、背圧室側シール部119に背圧室コーティング層130が形成されることを防止できるとともに、側圧室側シール部122に側圧室コーティング層131が形成されることを防止できる。このため、ガイドベーン105からランナ背圧室113への水の流入量を抑制する背圧室側シール部119において、水流の摩擦損失が低減することによってランナ背圧室113への水の流入量が増大することを抑制できる。同様に、ガイドベーン105からランナ側圧室115への水の流入量を抑制する側圧室側シール部122において、ランナ側圧室115への水の流入量が増大することを抑制できる。
【0093】
また本実施の形態によれば、背圧室コーティング層130が上カバー114のランナ背圧室113の側の面114aにも設けられ、側圧室コーティング層131が下カバー116のランナ側圧室115の側の面116aに設けられていることにより、ランナ背圧室113およびランナ側圧室115を流れる水流の摩擦損失をより一層低減することができる。このため、ランナ106の回転による円板摩擦損失をより一層低減することができる。
【0094】
さらに本実施の形態によれば、背圧室コーティング層130に複数の背圧室ディンプル132が設けられ、側圧室コーティング層131に複数の側圧室ディンプル133が設けられている。このことにより、コーティング層130、131の近傍における水流の粘性抵抗をより一層低減することができ、水流の摩擦損失をより一層低減することができる。
【0095】
以上述べた実施の形態によれば、円板摩擦損失を低減して水車効率を向上させることができる。
【0096】
例えば、上述した実施の形態では、本発明による水車をフランシス形水車に適用した例について説明したが、このことに限られることはなく、フランシス形水車以外の水車にも本発明を適用することもできる。また、上述した実施の形態におけるフランシス形水車は、下池202の水を吸い上げて上池201へ揚水するポンプ運転機能を有していてもよい。
【0097】
また、上述した実施の形態においては、ランナ背圧室113の流水面に背圧室コーティング層130が設けられると共に、ランナ側圧室115の流水面に側圧室コーティング層131が設けられている例について説明した。しかしながら、このことに限られることはなく、背圧室コーティング層130と側圧室コーティング層131は、いずれか一方が設けられて他方が設けられていなくてもよく、この場合においても、ランナ106の回転による円板摩擦損失を低減することができる。
【0098】
さらに、上述した実施の形態においては、コーティング層130、131が親水性塗料により形成されている例について説明した。しかしながら、このことに限られることはなく、ランナ106のクラウン107やバンド108、上カバー114、下カバー116などの母材がアルミニウムにより形成されている場合には、コーティング層130、131は、例えば、ベーマイト処理により形成されていてもよい。この場合、母材の流水面(表面)にアルミニウム水和酸化皮膜を形成することができ、コーティング層130、131に親水性を持たせることができる。
【0099】
(第6の実施の形態)
次に、
図15および
図16を用いて、本発明の第6の実施の形態における配管について説明する。
【0100】
図15および
図16に示す第6の実施の形態においては、配管の流水面に、親水性塗料により形成されたコーティング層が設けられている点が主に異なり、他の構成は、
図1乃至
図4に示す第1の実施の形態と略同一である。なお、
図15および
図16において、
図1乃至
図4に示す第1の実施の形態と同一部分には同一符号を付して詳細な説明は省略する。
【0101】
本実施の形態においては、水車の一例としてフランシス形水車1を例にとり、配管の一例として、上池201からの水をフランシス形水車1のケーシング3(
図1、
図10参照)に導く水圧鉄管200を例にとって説明する。
【0102】
図15に示すように、本実施の形態における水圧鉄管(配管)200は、フランシス形水車1のケーシング3に連結されて、水車運転時に上池201からの水をフランシス形水車1のケーシング3に導くように構成されている。フランシス形水車1から流出する水は、下池202に導かれるようになっている。
【0103】
図16に示すように、水圧鉄管200は、配管本体210と、配管本体210に設けられ、水の流路211を画定する流水面212と、を備えている。このうち流水面212に、親水性塗料により形成されたコーティング層213が設けられており、コーティング層213には、流路211の側に開口する多数(複数)のディンプル214が設けられている。これらのコーティング層213、ディンプル214は、上述した第4の実施の形態において説明したコーティング層60、ディンプル61や、第5の実施の形態において説明したコーティング層130、131、ディンプル132、133と同様な構成を有し、同様に形成することができる。また、配管本体210がアルミニウムにより形成されている場合には、コーティング層213は、例えば、ベーマイト処理により形成されていてもよい。
【0104】
このように本実施の形態によれば、流水面212に、親水性塗料により形成されたコーティング層213が設けられている。このことにより、コーティング層213の表面に、流速が極めて小さい水の付着層62(
図9参照)を形成することができ、流水面212により画定される流路211を流れる水流の摩擦損失を低減することができる。このため、フランシス形水車1のケーシング3に流入する水のエネルギが損失することを防止し、水のエネルギを有効に使用して水車効率を向上させることができる。
【0105】
また、本実施の形態によれば、コーティング層213に複数のディンプル214が設けられている。このことにより、コーティング層213の近傍における水流の粘性抵抗をより一層低減することができ、水流の摩擦損失をより一層低減することができる。
【0106】
なお、上述した本実施の形態においては、配管がフランシス形水車1に連結される水圧鉄管200である例について説明した。しかしながら、水車に連結される配管としては、フランシス形水車1に連結される水圧鉄管200に限られることはなく、任意の水車に連結される任意の配管に本発明を適用することができる。
【0107】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。また、当然のことながら、本発明の要旨の範囲内で、これらの実施の形態を、少なくとも部分的に適宜組み合わせることも可能である。さらに、上述した実施の形態では、本発明による水車をフランシス形水車に適用した例について説明したが、このことに限られることはなく、フランシス形水車以外の水車等に本発明を適用することもできる。