特許第6382607号(P6382607)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6382607
(24)【登録日】2018年8月10日
(45)【発行日】2018年8月29日
(54)【発明の名称】車両の制御装置及び車両の制御方法
(51)【国際特許分類】
   B60K 23/00 20060101AFI20180820BHJP
【FI】
   B60K23/00 D
【請求項の数】7
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2014-143153(P2014-143153)
(22)【出願日】2014年7月11日
(65)【公開番号】特開2016-16845(P2016-16845A)
(43)【公開日】2016年2月1日
【審査請求日】2017年4月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】100095957
【弁理士】
【氏名又は名称】亀谷 美明
(74)【代理人】
【識別番号】100096389
【弁理士】
【氏名又は名称】金本 哲男
(74)【代理人】
【識別番号】100101557
【弁理士】
【氏名又は名称】萩原 康司
(74)【代理人】
【識別番号】100128587
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 一騎
(72)【発明者】
【氏名】土屋 英明
【審査官】 瀬川 裕
(56)【参考文献】
【文献】 特開平06−115370(JP,A)
【文献】 特開2013−132938(JP,A)
【文献】 特開2009−126281(JP,A)
【文献】 特開2005−184995(JP,A)
【文献】 実開平01−069032(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 23/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
前輪駆動車両の左右の後輪を連結可能なクラッチと、
ステアリングホイールの操作に応じた舵角を検出する舵角センサと、
車両のヨーレートを検出するヨーレートセンサと、
前記クラッチにより左右の後輪を連結していない状態で前記舵角が旋回から直進へ遷移する際に、前記舵角に対して前記ヨーレートが遅れて発生しているか否かを判定し、前記舵角に対して前記ヨーレートが遅れて発生していると判定した場合は、前記クラッチにより左右の後輪を連結する制御部と、
を備えることを特徴とする、車両の制御装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記舵角が旋回から直進へ遷移する際に、前記舵角が直進へ遷移した時点で前記ヨーレートが発生している場合は、前記クラッチにより左右の後輪を連結することを特徴とする、請求項1に記載の車両の制御装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記舵角が旋回から直進へ遷移しておらず、前記舵角が増加している場合は、前記クラッチによる左右の後輪の連結を解除することを特徴とする、請求項1に記載の車両の制御装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記舵角が旋回から直進へ遷移する際に、前記舵角が直進位置に達していない場合は、前記クラッチによる左右の後輪の連結を解除することを特徴とする、請求項1に記載の車両の制御装置。
【請求項5】
前記制御部は、前記舵角が旋回から直進へ遷移する際に、前記ヨーレートが発生していない場合は、前記クラッチによる左右の後輪の連結を解除することを特徴とする、請求項1に記載の車両の制御装置。
【請求項6】
ステアリングホイールの操作に応じた舵角を検出するステップと、
車両のヨーレートを検出するステップと、
前輪駆動車両の左右の後輪を連結可能なクラッチにより左右の後輪を連結していない状態で前記舵角が旋回から直進へ遷移する際に、前記舵角に対して前記ヨーレートが遅れて発生しているか否かを判定し、前記舵角に対して前記ヨーレートが遅れて発生していると判定した場合は、前輪駆動車両の左右の後輪を連結可能な前記クラッチにより左右の後輪を連結するステップと、
を備えることを特徴とする、車両の制御方法。
【請求項7】
前記制御部は、前記舵角に対して前記ヨーレートが遅れて発生していないと判定した場合は、前記クラッチにより左右の後輪を連結しないことを特徴とする、請求項1に記載の車両の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の制御装置及び車両の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、左右独立な従輪である前輪駆動車の後輪を車軸やクラッチ等で締結することにより操縦安定性を高めることが知られている。例えば、下記の特許文献1には、前輪駆動車の後輪をつなぐ車軸・クラッチを備え、操縦安定性向上のため、センサから得られた車速と舵角に基づいて、クラッチの締結力をマップから参照して左右車輪の差動制限力を算出し、クラッチによる左右後輪の締結制御を行うことが記載されている。
【0003】
また、下記の特許文献2には、前輪駆動車の一対の後輪が連結軸および左右輪連結装置にて連結され、左右輪連結装置が変速機構と油圧機構の伝達量可変型の第1クラッチからなり、油圧による圧着を強めると第1クラッチが完全結合状態となって左右軸輪を同調することが記載されている。
【0004】
また、下記の特許文献3には、従動輪である左後輪及び右後輪を連結する伝達クラッチを設け、車両の低中速走行時には、旋回性能を向上させるべく左右後輪の旋回内輪に制動力を作用させるとともに旋回外輪に駆動力を作用させ、車両の高速走行時には、高速安定性能を向上させるべく左右後輪の旋回内輪に駆動力を作用させるとともに旋回外輪に制動力を作用させることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平6−115370号公報
【特許文献2】特開平8−128515号公報
【特許文献3】特開平8−121571号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、操縦時の不安定感は、ドライバーの操舵によるハンドル舵角と車体ヨーレートの間に生じる時間的遅れを要因として発生し、ドライバーの操舵によるハンドル舵角に対して車体ヨーレートが遅れて反映されると、ドライバーは操縦時に不安定感を感じてしまう。特に車両が旋回から直進に遷移する際には、ドライバーが舵角を0とした後、当て舵によって車体ヨーレートの0への収束を早める操作を行い、この操作が少ないほど操縦安定性が高いと感じられる。
【0007】
上記特許文献1に記載された技術は、高速走行時の直進安定性を向上させるために、舵角の増大に応じて差動制限力が小さくなるように設定し、車速の増大に応じて差動制限力が大きくなるように設定するものであり、ハンドル舵角と車体ヨーレートの間に生じる時間的遅れを要因として発生する操縦時の不安定感を何ら想定していなかった。
【0008】
また、上記特許文献1に記載された技術では、舵角が直進とみなせる微小舵角では差動制限力を大きくしているが、舵角の現在値のみに着目して左右後輪の差動制限力を算出している。このため、舵角が直進とみなせる微小舵角では、旋回から直進への遷移と直進から旋回への遷移を区別することなく左右後輪を締結することになる。従って、直進状態では常に左右後輪が締結されているため、直進から旋回へ遷移する際には、左右の車輪の引き摺りが生じる。そして、このような車輪の引き摺りを抑えるためには、直進から旋回へ遷移する際に、左右後輪を締結した状態から差動制限力を低下させる制御が必要となり、制御の応答性が悪化する問題がある。
【0009】
また、特許文献2に記載された技術は、車速、横G、縦Gを制御パラメータとしてクラッチ制御を行うものであり、ドライバーの操舵によるハンドル舵角と車体ヨーレートの間に生じる時間的遅れを要因として発生する操縦時の不安定感を何ら想定していなかった。
【0010】
また、特許文献3に記載された技術は、車両の低中速走行時には、左右後輪の旋回内輪に制動力を作用させるとともに旋回外輪に駆動力を作用させて旋回性能を向上させ、車両の高速走行時には、左右後輪の旋回内輪に駆動力を作用させるとともに旋回外輪に制動力を作用させて高速安定性能を向上させるものである。従って、特許文献3に記載された技術においても、ハンドル舵角と車体ヨーレートの間に生じる時間的遅れを要因として発生する操縦時の不安定感を何ら想定していなかった。
【0011】
また、特許文献2,3に記載された技術では、特許文献1と同様に旋回から直進への遷移と直進から旋回への遷移を区別することなく制御を行っており、旋回から直進への遷移時における、ハンドル舵角と車体ヨーレートの間に生じる時間的遅れを要因とする操縦時の不安定感を何ら想定していなかった。
【0012】
また、上記特許文献1〜3に記載された技術に基づいて、小舵角の場合に左右後輪の締結力を最大に高めることで、ハンドル舵角と車体ヨーレートの間に生じる時間的遅れを小さくしようとすると、小舵角の緩やかなカーブを定常的に走行する場合でも左右後輪の締結力が最大になってしまう。この結果、左右の車輪の引き摺りが生じ、燃費が悪化したり、ハンドル操作の取り回しが重くなるなどの問題が生じてしまう。
【0013】
そこで、本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、舵角と車体ヨーレートの間に生じる時間的遅れが要因となって発生する操縦時の不安定感を確実に抑止することが可能な、新規かつ改良された車両の制御装置及び車両の制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するために、本発明のある観点によれば、前輪駆動車両の左右の後輪を連結可能なクラッチと、ステアリングホイールの操作に応じた舵角を検出する舵角センサと、車両のヨーレートを検出するヨーレートセンサと、前記クラッチにより左右の後輪を連結していない状態で前記舵角が旋回から直進へ遷移する際に、前記舵角に対して前記ヨーレートが遅れて発生しているか否かを判定し、前記舵角に対して前記ヨーレートが遅れて発生していると判定した場合は、前記クラッチにより左右の後輪を連結する制御部と、を備える車両の制御装置が提供される。
【0015】
前記制御部は、前記舵角が旋回から直進へ遷移する際に、前記舵角が直進へ遷移した時点で前記ヨーレートが発生している場合は、前記クラッチにより左右の後輪を連結するものであっても良い。
【0016】
また、前記制御部は、前記舵角が旋回から直進へ遷移しておらず、前記舵角が増加している場合は、前記クラッチによる左右の後輪の連結を解除するものであっても良い。
【0017】
また、前記制御部は、前記舵角が旋回から直進へ遷移する際に、前記舵角が直進位置に達していない場合は、前記クラッチによる左右の後輪の連結を解除するものであっても良い。
【0018】
また、前記制御部は、前記舵角が旋回から直進へ遷移する際に、前記ヨーレートが発生していない場合は、前記クラッチによる左右の後輪の連結を解除するものであっても良い。
また、前記制御部は、前記舵角に対して前記ヨーレートが遅れて発生していないと判定した場合は、前記クラッチにより左右の後輪を連結しないものであっても良い。
【0019】
また、上記課題を解決するために、本発明の別の観点によれば、ステアリングホイールの操作に応じた舵角を検出するステップと、車両のヨーレートを検出するステップと、前輪駆動車両の左右の後輪を連結可能なクラッチにより左右の後輪を連結していない状態で前記舵角が旋回から直進へ遷移する際に、前記舵角に対して前記ヨーレートが遅れて発生しているか否かを判定し、前記舵角に対して前記ヨーレートが遅れて発生していると判定した場合は、前輪駆動車両の左右の後輪を連結可能な前記クラッチにより左右の後輪を連結するステップと、を備える車両の制御方法が提供される。
【発明の効果】
【0020】
以上説明したように本発明によれば、舵角と車体ヨーレートの間に生じる時間的遅れが要因となって発生する操縦時の不安定感を確実に抑止することができ、操縦安定性を大幅に高めることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の一実施形態に係る車両を示す模式図である。
図2】ドライバーによるステアリングホイールの操作によって車両が旋回から直進へ遷移する場合に、舵角と車体ヨーレートの変化を示す特性図である。
図3図2と同様にドライバーがステアリングの舵角を0に戻した後、ステアリングホイールをマイナス側の舵角へ操作して当て舵を行った場合に、舵角と車体ヨーレートの変化を示す特性図である。
図4】本実施形態における舵角と車体ヨーレートの変化を示す模式図である。
図5】本実施形態の処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0023】
まず、図1を参照して、本発明の一実施形態に係る車両の制御装置の構成について説明する。図1は、本実施形態に係る車両1000を示す模式図である。図1に示すように、車両1000は、前輪100,102、後輪104,106、前輪100,102を駆動するエンジン110、エンジン110の駆動力をドライブシャフト112を介して前輪100,102へ伝達するトランスミッション(T/M)114、車速センサ116、パワーステアリング機構(P/S)120、舵角センサ130、ステアリングホイール132、ヨーレートセンサ140、加速度センサ150、左右の後輪104,106の車軸108を連結するクラッチ160、制御部(C/U)200を有して構成されている。
【0024】
本実施形態に係る車両1000は、前輪100,102をエンジン110で駆動する前輪駆動(FF:Front-engine Front-drive)車として構成されている。なお、前輪100,102は、モータなど他の駆動源によって駆動されるものであっても良い。
【0025】
パワーステアリング機構120は、ドライバー(運転者)によるステアリングホイール132の操作に応じて、トルク制御又は角度制御により前輪100,102の舵角を制御する。舵角センサ130は、ドライバーがステアリングホイール132を操作して入力した舵角を検出する。ヨーレートセンサ140は、車両1000の車体ヨーレートを検出する。加速度センサ150は、車両1000の前後方向、及び左右方向の加速度を検出する。
【0026】
また、本実施形態において、後輪104,106は左右独立の従動輪であるが、各後輪104,106は、クラッチ160を締結することで各車軸108が連結可能に構成されている。
【0027】
制御部200は、中央演算処理装置(CPU)等から構成され、車両1000を制御する。制御部200は、舵角センサ130、ヨーレートセンサ140等の検出値に基づいて、クラッチ160の締結による左右の後輪104,106の車軸108の連結を行い、またクラッチ160の締結を解除することによって、後輪104,106の車軸108の連結を解除する。
【0028】
前述したように、ドライバーによるステアリングホイール132の操作の際に、舵角に対する車体ヨーレートの時間的な遅れが要因となってドライバーが操縦時に不安定感を感じる。図2は、ステアリングホイール132の操作による舵角と車体ヨーレートとの関係を示す特性図である。図2において、縦軸は舵角又はヨーレートを、横軸は時間を示している。舵角は舵角センサ130によって検出され、車体ヨーレートはヨーレートセンサ140によって検出される。
【0029】
図2は、ドライバーによるステアリングホイール132の操作によって車両1000が旋回から直進へ遷移する場合に、舵角と車体ヨーレートの変化を示す特性図である。舵角及び車体ヨーレートは車両1000が旋回から直進に遷移するに従って減少し、車両1000が直進している状態では、舵角及び車体ヨーレートはほぼ0となる。
【0030】
図2に示すように、ドライバーのステアリングホイール132の操作により設定される舵角に対して車体ヨーレートは遅れて応答する。例えば、時刻t1でドライバーが旋回から直進(舵角=0)の方向へステアリングホイール132の操作を開始すると、車体ヨーレートは時刻t2で減少し始める。そして、時刻t3でドライバーが舵角を0に戻しても、時刻t3では車体ヨーレートは0とはならず、車体ヨーレートは時刻t4以降に0へ収束していく。このような舵角に対する車体ヨーレートの遅れにより、ドライバーは不安定感を感じてしまう。
【0031】
このため、ドライバーは、時刻t3でステアリングホイール132の舵角を0に戻した後、同じ方向に更にステアリングホイール132を操作することで、いわゆる当て舵を行い、車体ヨーレートの0への収束を早める操作を行う。図3は、図2と同様にドライバーが旋回から直進方向へステアリングホイール132を操作し、時刻t3でステアリングホイール132の舵角を0に戻した後、ステアリングホイール132をマイナス側の舵角へ操作して当て舵を行った場合を示している。このような当て舵の操作により、時刻t5の時点で車体ヨーレートを0にすることができ、図2と比較すると、車体ヨーレートをより早い段階で0に収束させることができる。しかしながら、当て舵の量が大きいほど余計なステアリング操作が大きくなるため、ドライバーは操縦安定性に不安を感じてしまう。
【0032】
そこで、本実施形態では、舵角の検出値により旋回から直進へ遷移中と判定され、且つ舵角及びヨーレートの検出値により舵角に対して車体ヨーレートに遅れが生じていると判定された場合には、クラッチ160を締結して左右の後輪104,106を連結し、車体ヨーレートを減少させる。これにより、旋回から直進へ遷移する場合の舵角に対する車体ヨーレートの遅れを抑制することができ、当て舵等の操作も不要になるため、操縦安定性を向上させることができる。
【0033】
また、舵角に対して車体ヨーレートに遅れが生じていない場合は、左右の後輪104,106を締結するクラッチ160を作動させずに、左右の後輪104,106の連結を解除する。これにより、左右の後輪104,106の引き摺りを解消し、燃費悪化を抑止できるとともに、ステアリング操作を容易に行うことが可能である。
【0034】
具体的には、図3の時刻t3でドライバーがステアリングホイール132の舵角を0に戻すと、クラッチ160を締結して左右の後輪104,106を連結し、左右の後輪104,106の回転数差を抑えることで、車体ヨーレートを0に収束させる。
【0035】
図4は、本実施形態における舵角と車体ヨーレートの変化を示す模式図であって、図2及び図3と同様にドライバーが旋回から直進方向へステアリングホイール132を操作した場合を示している。
【0036】
図4では、図2及び図3と同様に、時刻t1でドライバーが旋回から直進方向へのステアリングホイール132の操作を開始する。通常状態では、クラッチ160の締結が解除されており、時刻t1では、左の後輪104と右の後輪106は連結されていない。時刻t3でドライバーがステアリングホイール132の舵角を0に戻すと、クラッチ160を作動させて左右の後輪104,106の連結が開始される。左右の後輪104,106が連結されると、左右の後輪104,106の回転数差が無くなるため、旋回の外側に位置する後輪が路面から後ろ向きの力を受け、旋回の内側に位置する後輪が路面から前向きの力を受ける。これにより、車両1000が旋回する方向とは逆のモーメントが発生し、車両1000の動きを直進方向に戻すことができる。これにより、時刻t3でクラッチ160による後輪104,106の連結を開始した後、時刻t6でクラッチ160による後輪104,106の連結が完了するまでの間に車体ヨーレートを0に収束させることができる。図3と比較すると、ドライバーが時刻t3でステアリングホイール132の舵角を0に戻した後、当て舵を行うことなく車体ヨーレートが0に収束するため、ドライバーは操縦に不安定感を感じることなく旋回から直進への遷移を完了することができる。
【0037】
なお、図4の例では、時刻t3でクラッチ160の締結を開始し、時刻t6でクラッチ160の締結を完了させているが、クラッチ160の締結開始から締結完了までの時間は、車体ヨーレートを0に収束させる時間に応じて適宜設定することができる。クラッチ160の締結開始から締結完了までの時間を短くする程、より短時間で車体ヨーレートを0に収束させることが可能である。
【0038】
図5は、本実施形態の処理を示すフローチャートである。図5に示す処理は、主に制御部200において行われる。先ず、ステップS10では、舵角センサ130、ヨーレートセンサ140等の各センサの検出値を読み込む。次のステップS12では、舵角センサ130の検出値に基づき、舵角が増加しているか否かを判定し、舵角が増加していない場合はステップS14へ進む。一方、舵角が増加している場合は、ステップS20へ進み、クラッチ160の締結を解除する。
【0039】
ステップS14では、舵角センサ130の検出値に基づき、舵角が0付近であるか否かを判定する。すなわち、ステップS14では、舵角が直進位置の近辺であるか否かを判定する。そして、舵角が0付近の場合はステップS16へ進む。一方、ステップS14で舵角が0付近ではない場合は、ステップS20へ進み、クラッチ160の締結を解除する。なお、舵角が0付近であるか否かは、舵角の絶対値が所定のしきい値以下であるか否かによって判断することができる。
【0040】
ステップS16では、ヨーレートセンサ140の検出値に基づき、ヨーレートが0であるか否かを判定し、ヨーレートが0でない場合はステップS18へ進み、クラッチ160を締結する。これにより、左右の後輪104,106が車軸108を介して連結される。一方、ステップS16でヨーレートが0の場合はステップS20へ進み、クラッチ160の締結を解除する。
【0041】
図5の処理によれば、舵角センサ130の検出値の入力の履歴から舵角が増加していないことを判定する(ステップS12)。そして、舵角センサ130およびヨーレートセンサ140の検出値の入力の履歴から、舵角が0あるいは微小であり、かつ車体ヨーレートが0でない場合は(ステップS14,S16)、左右の後輪104,106の間にあるクラッチ160を締結する。
【0042】
ここで、ステップS12からステップS16へ進んだ場合は、舵角が増加しておらず、且つ舵角が0付近であるため、ドライバーが車両1000を直進させようとしている状態である。また、この場合、車体ヨーレートが0でないため、舵角が0付近に戻っているにも関わらず、車体ヨーレートが舵角に対して遅れて発生している状態(図4の時刻t3の状態)と判断できる。従って、ステップS18でクラッチ160を締結して左右の後輪104,106を連結することで、図4で説明したように、車体ヨーレートを直ちに0に収束させることが可能となる。
【0043】
また、図5に示す処理は、車両1000の走行中は常時行われるため、舵角が0付近の直進時において、車体ヨーレートが0でない場合はクラッチ160が締結されることになる。従って、横風を受けて走行する場合や道路が傾斜している場合など、舵角が0付近であり且つ車体ヨーレートが0でない場合はクラッチ160によって後輪103,104が連結されることになり、直進安定性を大幅に向上させることができる。
【0044】
また、舵角が0付近であっても、車体ヨーレートが0のときはクラッチ160の締結が解除されるため、左右の後輪104,106が連結されることによる後輪104,106の引き摺りの発生を回避することができる。従って、燃費の悪化を抑止するとともに、ステアリング操作による車両1000の取り回しを容易に行うことが可能である。
【0045】
以上説明したように本実施形態によれば、舵角が旋回から直進へ遷移しており、舵角に対して車体ヨーレートに遅れが生じている場合は、クラッチ160を締結して左右の後輪104,106を連結する。これにより、車両1000が旋回する方向とは逆のモーメントが発生し、車両1000の動きを直進方向に戻すことができる。従って、舵角が直進位置に戻った際に車体ヨーレートを0に収束させることができ、操縦に伴う不安定感、違和感を抑止することができるため、操縦安定性を大幅に高めることが可能となる。
【0046】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0047】
1000 車両
130 舵角センサ
140 ヨーレートセンサ
160 クラッチ
200 制御部
図1
図2
図3
図4
図5