(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
この特許文献1に記載の製造方法では、上記したように厚み関数の極大点を抽出して、当該極大点における厚み履歴から巻こぶに発展するか否かを判定している。
しかしながら、実際の厚みの極大点は、移動方向の測定位置ごとに変化する場合がある。すなわち、厚み関数の極大点の位置が経時的に変化すると、凸部が重なって巻こぶになりうる場所があっても見逃し、巻こぶの予測が遅れるおそれがある。
具体的には、
図12に示されるような厚みデータa〜eが時系列ごとに厚み関数が変化する場合、特許文献1に記載の製造方法では、現在の測定点でのデータである厚みデータeにおける極大点100で発生する巻こぶは予測可能である。
しかしながら、過去の厚みデータaで極大点101であった位置は、現在の測定点(厚みデータe)では極大点ではないので、極大点101に対応する位置での巻こぶの発生の兆候を捉えることができない。そのため、極大点101による巻こぶの発生を見逃すおそれがあった。
【0007】
そこで、本発明は、フィルム状物をロール状に巻き取った際に外観不良を誘因する外観不良誘因部を精度よく検知する外観不良判定装置及び外観不良判定方法を提供することを目的とする。また、外観不良誘因部による外観不良の発生を防止可能なフィルム状物の製造装置及びフィルム状物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記した課題を解決するための請求項1に記載の発明は、フィルム状物を送り出す送出手段と、前記フィルム状物を回収する回収手段
と、測定手段と、演算手段を有し、前記測定手段は、前記送出手段と回収手段の間に位置するものであって、かつ、移動中のフィルム状物に対して、フィルム状物の移動方向に対して交差する方向に走査して前記フィルム状物の厚みを測定するものであり、前記測定手段によって、フィルム状物の前記走査方向における特定の測定位置での測定点における厚みの経時変化を測定し、前記演算手段によって、前記走査方向における各測定点でのフィルム状物の厚みと、前記走査方向におけるフィルム状物の厚みの平均値から、各測定点における偏差を経時変化ごとに求め、各測定点において、フィルム状物の幅方向における同一測定点の経時変化での偏差の平均値を、所定の偏差閾値と比較して、前記偏差の平均値が偏差閾値を超えた測定点を外観不良候補として抽出
する動作を実行可能であることを特徴とする外観不良
候補抽出装置である。
請求項2に記載の発明は、フィルム状物を送り出す送出手段と、前記フィルム状物を回収する回収手段を有した外観不良判定装置において、測定手段と、演算手段を有し、前記測定手段は、前記送出手段と回収手段の間に位置するものであって、かつ、移動中のフィルム状物に対して、フィルム状物の移動方向に対して交差する方向に走査して前記フィルム状物の厚みを測定するものであり、前記測定手段によって、フィルム状物の前記走査方向における特定の測定位置での測定点における厚みの経時変化を測定し、前記演算手段によって、前記走査方向における各測定点でのフィルム状物の厚みと、前記走査方向におけるフィルム状物の厚みの平均値から、各測定点における偏差を経時変化ごとに求め、各測定点において、フィルム状物の幅方向における同一測定点の経時変化での偏差の平均値を、所定の偏差閾値と比較して、前記偏差の平均値が偏差閾値を超えた測定点を外観不良候補として抽出し、前記外観不良候補が、前記走査方向において、所定の範囲を超えて連続した場合に、当該連続した測定点を外観不良誘因部と判定する不良判定動作を実行可能であることを特徴とする外観不良判定装置である。
すなわち、本発明は、フィルム状物を送り出す送出手段と、前記フィルム状物を回収する回収手段を有したフィルム状物の外観不良判定装置において、測定手段と、演算手段を有し、前記測定手段は、前記送出手段と回収手段の間に位置するものであって、かつ、移動中のフィルム状物に対して、フィルム状物の移動方向に対して交差する方向に走査して前記フィルム状物の厚みを測定するものであり、前記測定手段によって、フィルム状物の前記走査方向の特定の測定点における厚みの経時変化を測定し、前記演算手段によって、前記走査方向における各測定点でのフィルム状物の厚みと、前記走査方向におけるフィルム状物の厚みの平均値から、各測定点における偏差を経時変化ごとに求め、各測定点において、フィルム状物の幅方向における同一測定点の経時変化での偏差の平均値を、所定の偏差閾値と比較して、前記偏差の平均値が偏差閾値を超えた測定点を外観不良候補として抽出し、前記外観不良候補が、前記走査方向において、所定の範囲を超えて連続した場合に、当該連続した測定点を外観不良誘因部と判定する不良判定動作を実行可能であるフィルム状物の外観不良判定装置に関連する。
【0009】
ここでいう「フィルム状物」とは、軸等に対してロール状に巻きつけることができる程度の厚み及び剛性を持ったものである。すなわち、「フィルム状物」には、薄膜状のものだけではなく、シートのようにある程度厚みをもったものも含む。
【0010】
本発明の構成によれば、演算手段によって、走査方向における各測定点でのフィルム状物の厚みと、前記走査方向におけるフィルム状物の厚みの平均値から、各測定点における偏差を経時変化ごとに求め、各測定点において、フィルム状物の幅方向における同一測定点の経時変化での偏差の平均値を、所定の偏差閾値と比較して、前記偏差の平均値が偏差閾値を超えた測定点を外観不良候補として抽出し、前記外観不良候補が、前記走査方向において、所定の範囲を超えて連続した場合に、当該連続した測定点を外観不良誘因部と判定するので、現在及び過去において発生した外観不良誘因部の存在による巻こぶ等の外観不良の発生の兆候を捉えることができる。すなわち、本発明の構成によれば、外観不良誘因部を精度よく検知でき、巻こぶ等の外観不良の発生を防止することができる。
【0011】
ところで、上記した従来技術のように、フィルム状物の管理は、一般的にフィルム状物をリール等の軸部に巻き取ることで行うことが多い。
この場合、フィルム状物に外観不良誘因部が形成されると、巻き取り回数が増えるにつれて、外観不良誘因部の外側にフィルム状物が重なっていき、巻こぶ等の外観不良が形成される。
このとき、外観不良誘因部が発生しても、外観不良誘因部が軸部上でのどの積層位置にくるかによって、巻こぶ等の外観不良の生じやすさが異なる。
例えば、所定の長さのフィルム状物を巻き取る場合において、巻き取りの初期であって、軸部でのフィルム状物の巻き取り回数が少ない場合には、ロール外径が小さい。そのため、外観不良誘因部が生じた際に、外観不良誘因部が同一箇所で重なる頻度が多い。
また、それ以後の軸部での巻き取り回数も多く残っているので、巻き取り回数が増加するにつれて、外観不良誘因部の外側にフィルム状物が被覆していき、大きな巻こぶ等が形成されやすくなる。
さらに、一の外観不良誘因部の外側に他の外観不良誘因部が被覆されるまでの間隔が狭い。すなわち、一の外観不良誘因部から他の外観不良誘因部までの間隔が狭い。そのため、周方向の狭い範囲で不良判定動作を行い、外観不良誘因部の発生を特定しなければならない。
一方、上記したフィルム状物を巻き取る際に、フィルム状物の巻き取り終盤であって、軸部でのフィルム状物の巻き取り回数が多い場合には、ロール外径が大きい。そのため、外観不良誘因部が生じた際に、外観不良誘因部が同一箇所で重なる頻度が少ない。
また、それ以後の巻き取り回数も少ないので、巻き取り回数が増加しても、外観不良誘因部の外側にフィルム状物が被覆する回数が少なく、大きな巻こぶ等が形成されにくい。
さらに、一の外観不良誘因部の外側に他の外観不良誘因部が被覆されるまでの間隔が広い。そのため、周方向の広い範囲で不良判定動作を行い、外観不良誘因部の発生を特定しなければならない。
【0012】
そこで、請求項3に記載の発明は、前記回収手段は、軸部の外周にフィルム状物を巻き取る巻取装置を備えており、前記偏差の平均値は、標本平均であって、前記不良判定動作時における前記フィルム状物の巻き取り回数に応じて、偏差の母集団から抽出する標本を調整されることを特徴とする請求
項2に記載の外観不良判定装置である。
【0013】
本発明の構成によれば、偏差の平均値は、標本平均である。すなわち、複数の偏差のデータを有した母集団から、特定の偏差のデータ(標本)を抽出し、抽出した偏差のデータに基づいて平均値を算出している。また、本発明の構成によれば、不良判定動作時におけるフィルム状物の巻き取り回数に応じて、偏差の母集団から抽出する標本を調整される。
すなわち、本発明の構成によれば、フィルム状物の巻き取り回数に応じて、抽出する偏差のデータ(標本)が調整されるので、例えば、外観不良の発生しやすさ等に合わせて、抽出する偏差のデータを調整することができる。
例えば、巻き取り初期であって、フィルム状物の巻き取り回数が少ない場合には、時系列において、抽出する偏差データの間隔を狭める。こうすることによって、フィルム状物の移動方向において、狭い範囲での厚み変化を特定することができる。そのため、外観不良誘因部の存在を緻密に検知することができる。また、検知した外観不良誘因部が巻取装置で重なるかどうかを検知することができる。
また、例えば、巻き取り終盤であって、フィルム状物の巻き取り回数が多い場合には、時系列において、抽出する偏差データの間隔を広げる。こうすることによって、フィルム状物の移動方向において、広い範囲での厚み変化を特定することができる。そのため、巻取装置で検知した外観不良誘因部が重なるかどうかを検知することができる。
【0014】
請求項4に記載の発明は、前記巻取装置は、軸部を回転させることによってフィルム状物を巻き取るものであり、前記演算手段は、前記巻取装置の軸部の回転数、及び前記測定手段の厚み測定部位から前記巻取装置までのフィルム状物の長さによってフィルム状物の積層回数を算出することを特徴とする請求項3に記載の外観不良判定装置である。
【0015】
本発明の構成によれば、容易に積層回数を算出することができ、測定手段の厚み測定部位が、軸部の巻き取られたフィルム状物の周方向のどの部位に径方向で重なるかを特定することができる。そのため、巻こぶ等の外観不良の発生を正確に予測できる。
【0016】
請求項5に記載の発明は、前記フィルム状物の厚みを調整する厚み調整手段を有し、前記回収手段は、軸部の外周にフィルム状物を巻き取る巻取装置を備えており、前記不良判定動作において、外観不良誘因部と判定された位置の厚みを調整することを特徴とする請求項
2〜4のいずれかに記載の外観不良判定装置である。
【0017】
本発明の構成によれば、前記不良判定動作において、外観不良誘因部と判定された位置の厚みを調整するので、外観不良誘因部が軸部の径方向に連続して重なりにくく、巻こぶ等の外観不良が発生しにくい。
【0018】
ところで、特許文献1に記載の製造方法は、厚み関数の極大値を抽出して極大値に対応する部位の樹脂フィルムの厚みを調整する方法である。
しかしながら、巻こぶの発生箇所の幅が厚み調整手段の幅方向の厚み調整ピッチよりも十分に大きい場合は、一度の厚み調整では巻こぶ部分が解消されず、対処が遅れて巻こぶが発生するおそれがある。
【0019】
そこで、請求項6に記載の発明は、前記厚み調整手段は、前記走査方向において、複数に並設された調整部を有し、各調整部は、フィルム状物の対応する部位のそれぞれの厚みを独立して調整可能であることを特徴とする請求項5に記載の外観不良判定装置である。
【0020】
上記したように本発明の構成によれば、外観不良候補が、走査方向において、所定の範囲を超えて連続した場合に、当該連続した測定点を外観不良誘因部と判定する不良判定動作を実行可能である。そのため、外観不良誘因部の幅及び幅方向における各部位での各厚みを判断できる。
さらに、本発明の構成によれば、複数の調整部を有しており、各調整部は、フィルム状物の対応する部位のそれぞれの厚みを独立して調整可能であるので、幅方向において緻密にフィルム状物の厚みを調整できる。そのため、上記した不良検知動作において判断された外観不良誘因部の幅や厚みに合わせて、フィルム状物の厚みを調整することで、迅速に巻こぶ等の外観不良の発生を防止できる。
【0021】
請求項7に記載の発明は、前記偏差閾値は、上側閾値と、下側閾値を有し、各測定点において、フィルム状物の幅方向における同一測定点の経時変化での偏差の平均値を、前記上側閾値及び下側閾値と比較して、前記偏差の平均値が上側閾値を上回る測定点を外観不良候補として抽出し、前記偏差の平均値が下側閾値を下回る測定点も外観不良候補として抽出し、前記抽出された外観不良候補が、前記走査方向において、所定の範囲を超えて連続した場合に、当該連続した測定点を外観不良誘因部と判定する不良判定動作を実行可能であることを特徴とする請求項
2〜6のいずれかに記載の外観不良判定装置である。
【0022】
本発明の構成によれば、凹状の外観不良及び凸状の外観不良の双方の発生に対応することができる。
【0023】
上記した発明は、前記偏差閾値は、上側閾値と、下側閾値を有し、各測定点において、フィルム状物の幅方向における同一測定点の経時変化での偏差の平均値を、前記上側閾値及び下側閾値と比較して、前記偏差の平均値が上側閾値を上回る測定点を第一外観不良候補として抽出し、前記偏差の平均値が下側閾値を下回る測定点を第二外観不良候補として抽出し、第一外観不良候補が、前記走査方向において、所定の範囲を超えて連続した場合に、当該連続した測定点を凸状の外観不良を誘因する外観不良誘因部と判定し、第二外観不良候補が、前記走査方向において、所定の範囲を超えて連続した場合に、当該連続した測定点を凹状の外観不良を誘因する外観不良誘因部と判定してもよい。
【0024】
この発明によれば、誘因される外観不良の凹凸形状が予測できるので、外観不良の対策を講じやすい。
【0025】
請求項8に記載の発明は、請求項
2〜7のいずれかに記載の外観不良判定装置を備えたフィルム状物の製造装置であって、前記回収手段は、軸部の外周にフィルム状物を巻き取る巻取装置を備えており、前記フィルム状物は、樹脂フィルムであり、樹脂材料又は樹脂原料から樹脂フィルムに成形する成形手段と、前記成形手段に樹脂材料又は樹脂原料を供給する供給手段と、樹脂フィルムの厚みを調整する厚み調整手段を有し、前記送出手段は、前記成形手段で形成された樹脂フィルムを回収手段側に送り出し、前記厚み調整手段は、移動方向において外観不良誘因部と対応する部位の厚みを調整することを特徴とするフィルム状物の製造装置である。
【0026】
本発明の構成によれば、厚み調整手段によって、移動方向において外観不良誘因部と対応する部位の厚みを調整された樹脂フィルムが回収手段によって回収されるため、巻こぶ等の外観不良が生じにくい。
【0027】
請求項9に記載の発明は、フィルム状物の外観不良誘因部と判定する外観不良判定方法であって、測定手段と、演算手段を使用する外観不良判定方法において、前記測定手段は、移動中のフィルム状物に対して、フィルム状物の移動方向に対して交差する方向に走査して前記フィルム状物の厚みを測定するものであり、前記測定手段によって、フィルム状物の前記走査方向における特定の測定位置での測定点における厚みの経時変化を測定し、前記演算手段によって、前記走査方向における各測定点でのフィルム状物の厚みと、前記走査方向におけるフィルム状物の厚みの平均値から、各測定点における偏差を経時変化ごとに求め、各測定点において、フィルム状物の幅方向における同一測定点の経時変化での偏差の平均値を、所定の偏差閾値と比較して、前記偏差の平均値が偏差閾値を超えた測定点を外観不良候補として抽出し、前記外観不良候補が、前記走査方向において、所定の範囲を超えて連続した場合に、当該連続した測定点を外観不良誘因部と判定することを特徴とする外観不良判定方法である。
すなわち、本発明は、フィルム状物の外観不良誘因部と判定する外観不良判定方法であって、測定手段と、演算手段を使用する外観不良判定方法において、前記測定手段は、移動中のフィルム状物に対して、フィルム状物の移動方向に対して交差する方向に走査して前記フィルム状物の厚みを測定するものであり、前記測定手段によって、フィルム状物の前記走査方向の特定の測定点における厚みの経時変化を測定し、前記演算手段によって、前記走査方向における各測定点でのフィルム状物の厚みと、前記走査方向におけるフィルム状物の厚みの平均値から、各測定点における偏差を経時変化ごとに求め、各測定点において、フィルム状物の幅方向における同一測定点の経時変化での偏差の平均値を、所定の偏差閾値と比較して、前記偏差の平均値が偏差閾値を超えた測定点を外観不良候補として抽出し、前記外観不良候補が、前記走査方向において、所定の範囲を超えて連続した場合に、当該連続した測定点を外観不良誘因部と判定する外観不良判定方法に関連する。
【0028】
本発明の方法によれば、現在及び過去において発生した外観不良誘因部の存在による巻こぶ等の外観不良の発生の兆候を捉えることができる。すなわち、本発明の構成によれば、外観不良誘因部を精度よく検知でき、巻こぶ等の外観不良の発生を防止することができる。
【0029】
請求項10に記載の発明は、請求項8に記載のフィルム状物の製造装置を用いるフィルム状物の製造方法であって、前記フィルム状物は、樹脂フィルムであり、成形型を有した成形手段を使用し、供給手段から樹脂原料又は樹脂材料を成形手段に供給する供給工程と、前記供給された樹脂原料又は樹脂材料を溶融、混練して樹脂混合物を形成し、当該樹脂混合物を成形型まで押し出す押出工程と、前記成形型から樹脂混合物をフィルム状に吐出する吐出工程と、前記樹脂混合物を引き取る引取工程と、前記樹脂フィルムの厚みを樹脂フィルムの幅方向に走査して測定する厚み計測工程と、前記樹脂フィルムをロール状に巻き取る巻取工程を有し、前記計測工程中に、樹脂フィルムの外観不良誘因部の有無を判定する不良判定工程を備え、当該不良判定工程において、前記不良判定動作を行うことを特徴とするフィルム状物の製造方法である。
【0030】
本発明の方法によれば、巻こぶ等の外観不良が生じにくいフィルム状物を形成することができる。
【発明の効果】
【0031】
本発明の外観不良判定装置及び外観不良判定方法によれば、フィルム状物をロール状に巻き取った際に外観不良を誘因する外観不良誘因部を精度よく検知することができる。
本発明のフィルム状物の製造装置及びフィルム状物の製造方法によれば、外観不良誘因部による外観不良の発生を防止できる。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明は、樹脂フィルム30(フィルム状物)の製造装置1に関するものであり、第1実施形態の製造装置1は、Tダイ成形法によって、樹脂フィルム30を成形するものである。
【0034】
第1実施形態の製造装置1は、
図3に示されるような巻こぶや窪み等の外観不良50の発生を防止する不良判定動作を実施可能であることを特徴の一つとしている。
【0035】
本発明の第1実施形態の製造装置1は、
図1のように、成形装置2(成形手段)と、外観不良判定装置3と、搬送装置5(送出手段)と、巻取ロール6(回収手段,巻取装置)を有している。
【0036】
成形装置2は、樹脂フィルム30を成形する装置であり、
図1に示されるように、供給装置10(供給手段)と、押出装置11と、金型12(成形型)と、冷却ロール13と、厚み調整手段14を有している。
供給装置10(供給手段)は、樹脂フィルム30の樹脂原料又は樹脂材料を押出装置11に導入する装置であり、具体的にはホッパーである。
【0037】
押出装置11は、供給装置10から供給された樹脂原料又は樹脂材料を溶融、混練して、流動性を有した樹脂混合物を形成し、当該樹脂混合物を金型12に押し出す装置である。
本実施形態の押出装置11は、その内部にスクリュー等が内蔵されており、スクリュー等が回転することによって、樹脂原料又は樹脂材料をかき混ぜながら金型12に押し出すことが可能となっている。
【0038】
金型12は、樹脂混合物を所望の形状に整える成形型であり、具体的には、Tダイ成形型である。金型12は、冷却ロール13に形状を整えた樹脂混合物を吐出する吐出口25を有している。
【0039】
冷却ロール13は、金型12から吐出した樹脂混合物を引き取りながら冷却し、固化させるものである。本実施形態の冷却ロール13は、円柱状又は棒状であり、周方向に回転しながら樹脂混合物を引き取り可能となっている。
【0040】
厚み調整手段14は、樹脂フィルム30の厚みを調整する部位であり、金型12の吐出口25からの単位時間当たりの樹脂混合物の吐出量を調整可能となっている。
厚み調整手段14での樹脂フィルム30の厚み調整方法としては、例えば、作業者がボルトを回すことで金型12の出口の隙間を開閉して厚み調整する方法や、ヒーターを内蔵したボルトのヒーター出力を制御しボルトの熱膨張を利用して金型12の吐出口25の隙間を開閉して厚み調整する方法などが挙げられる。
本実施形態では、厚み調整手段14は、金型12を締め付ける複数の締付ボルト(調整部)が所定の間隔を空けて幅方向Wに並設されている。また、各締付ボルトは、それぞれヒーターを内蔵しており、自身の熱膨張を利用して金型12の吐出口25の隙間を独立して調整可能となっている。
【0041】
外観不良判定装置3は、巻取ロール6で巻こぶや窪み等の外観不良50を誘因する虞がある外観不良誘因部51の判定を行う装置であり、本実施形態の特徴の一つである不良判定動作を実行可能な装置である。
外観不良判定装置3は、
図2に示されるように、厚み測定手段15(測定手段)と、判定手段16と、報知手段19を有している。
厚み測定手段15は、通過する樹脂フィルム30の厚みを計測する機器であり、
図4に示されるように厚み計測部26を有している。
厚み計測部26は、樹脂フィルム30の厚みを測定する厚みセンサーであり、
図4のように、樹脂フィルム30の移動方向Rに対して直交する方向(幅方向W)において、所定の範囲を走査可能となっている。すなわち、厚み計測部26は、移動中の樹脂フィルム30に対して、樹脂フィルム30の移動方向Rに対して交差する方向(走査方向)に交互に走査しながら、樹脂フィルム30の幅方向Wの各位置における厚みを測定することが可能となっている。
【0042】
判定手段16は、
図2のように、演算手段17と、記憶手段18と、通信手段20を有している。
【0043】
演算手段17は、記憶手段18に記憶された所定のプログラム等に基づいて演算処理を行う部位である。
演算手段17は、厚み測定手段15で検知した走査方向の各測定点32(
図4参照)での樹脂フィルム30の厚みに基づいて、樹脂フィルム30の外観不良判定を行うことが可能となっている。
また、演算手段17は、
図1に示される巻取ロール6において回転数検知手段28により検知された軸部27の回転数や回転速度等から、巻取ロール6で巻き取られた樹脂フィルム30の積層回数(軸部27の径方向の積層数)を算出することが可能となっている。
【0044】
記憶手段18は、あらかじめ設定された所定のプログラムや、厚み測定手段15で測定した樹脂フィルム30の厚み情報、演算手段17によって演算された情報を記憶する部位であり、具体的には、ハードディスク等の記憶媒体である。
【0045】
通信手段20は、通信用のインターフェイスであり、厚み調整手段14や、厚み測定手段15、巻取ロール6の回転数検知手段28等と無線又は有線によって接続されている。
【0046】
報知手段19は、外観不良誘因部51(
図3参照)が連続的に所定の閾値以上、巻取ロール6に至ったときに作業員に報知する報知装置である。
報知手段19の報知方法は、特に限定されるものではなく、例えば、音、色、映像、言語等により報知することができる。
本実施形態の報知手段19では、画面表示によって報知することが可能となっている。
【0047】
搬送装置5は、
図1に示されるように、成形装置2で形成された樹脂フィルム30を冷却ロール13から厚み測定手段15を通過するように搬送し、巻取ロール6まで送り出す装置である。
搬送装置5は、複数の搬送ローラー40a〜40fによって構成されており、各搬送ローラー40a〜40fが回転することによって、樹脂フィルム30を伸張した状態で測定点32を通過させることが可能となっている。
【0048】
巻取ロール6(回収手段)は、成形装置2によって成形された樹脂フィルム30を回収する部位である。
巻取ロール6は、
図1のように、軸部27と、回転数検知手段28(計測装置)を有している。
軸部27は、周方向に回転することで樹脂フィルム30を外周に巻き取る部位であり、モーター等の動力によって回転可能となっている。すなわち、軸部27は、図示しないリール等を介して、その外周に樹脂フィルム30をロール状に巻き取ることが可能となっている。
【0049】
回転数検知手段28は、軸部27の回転数を検知するセンサーであり、具体的には、ロータリーエンコーダーなどの回転センサーである。
【0050】
樹脂フィルム30は、長尺状の延びたフィルムであり、引き延ばした状態において、所定の方向に帯状に延びるフィルムである。
樹脂フィルム30は、樹脂混合物を固化して形成されるものであり、具体的には、熱可塑性樹脂によって形成された樹脂である。
樹脂混合物は、樹脂原料又は樹脂材料を溶融させて混合したものである。
樹脂フィルム30は、平均厚みが10μm以上100μm以下であることが好ましい。
樹脂フィルム30は、平均幅が200cm以上2m以下であることが好ましい。
これらの範囲であれば、Tダイ成形によって容易に成形することができる。
【0051】
続いて、第1実施形態の製造装置1の各部位の位置関係について説明する。
【0052】
厚み測定手段15は、樹脂フィルム30の移動方向Rにおいて、冷却ロール13と巻取ロール6の間に配されている。すなわち、厚み測定手段15の樹脂フィルム30の流れ方向Rの上流側に冷却ロール13が位置しており、下流側に巻取ロール6が位置している。
また、冷却ロール13と巻取ロール6の間には、厚み測定手段15を通過するように、搬送装置5が配されている。具体的には、冷却ロール13と厚み測定手段15の間には、搬送ローラー40aが配されており、厚み測定手段15と巻取ロール6の間には、搬送ローラー40b〜40fが配されている。
搬送ローラー40aは、天地方向において、冷却ロール13の下端部よりも高い位置に配されており、搬送ローラー40bは、搬送ローラー40aと同一の高さに配されている。また、搬送ローラー40a,40bは、樹脂フィルム30が搬送ローラー40a,40bの上側の外周面を通過する位置関係となっている。そのため、厚み測定手段15は、一定の姿勢に維持され、一定の張力を持ったまま、樹脂フィルム30を測定することが可能となっている。
【0053】
続いて、厚み測定手段15の樹脂フィルム30の測定点32について説明する。なお、測定点32は、実際には多数存在するが、説明を容易にするために、図面には、測定点32を測定点32a〜32kの計11箇所のみ描写している。
【0054】
厚み測定手段15の厚み計測部26は、
図4のように、移動中の樹脂フィルム30に対して幅方向Wに一定の間隔で樹脂フィルム30の厚みを測定していき、上記したように樹脂フィルム30の移動方向Rに対して交差する方向(走査方向)に往復移動する。そのため、移動する樹脂フィルム30での測定点32a〜32kは、
図5のように、ジグザグ状に測定され、各測定点32a〜32kは走査方向に直線状に間隔を空けて並んでいる。
【0055】
各測定点32a〜32kは、
図4,
図5に示されるように、往路側測定群35と、復路側測定群36を構成している。
往路側測定群35は、一走査測定分の測定点32k〜32aが樹脂フィルム30の移動方向において、幅方向Wの一方側の端部(
図5では右側端部)から他方側の端部(
図5では左側端部)に向かって並んだものである。
復路側測定群36は、一走査測定分の測定点32a〜32kが樹脂フィルム30の移動方向において、幅方向Wの他方側の端部(
図5では左側端部)から一方側の端部(
図5では右側端部)に向かって並んだものである。
往路側測定群35の各測定点32k〜32aは、移動方向に対して交差する方向(往路側走査方向S1)に所定の間隔を空けて直線状に並んでいる。復路側測定群36の各測定点32a〜32kは、移動方向に対して交差する方向であって、往路側走査方向S1と異なる方向に所定の間隔を空けて並んでいる。
また、各往路側測定群35の並列方向は、同一方向を向いており、互いに平行となっている。各復路側測定群36の並列方向は、同一方向を向いており、互いに平行となっている。往路側測定群35の並列方向(往路側走査方向S1)と、復路側測定群36の並列方向(復路側走査方向S2)は、互いに交差する関係となっている。
【0056】
続いて、本実施形態の製造装置1による樹脂フィルム30の製造方法について説明する。
【0057】
本実施形態の樹脂フィルム30の製造方法では、まず、成形装置2において、樹脂フィルム30を成形する成形工程を行う。
【0058】
この成形工程では、供給装置10によって、樹脂原料又は樹脂材料を押出装置11に供給し(供給工程)、押出装置11で樹脂原料又は樹脂材料を溶融、混練して樹脂混合物を金型12に押し出す(押出工程)。そして、金型12から樹脂混合物を冷却ロール13に向かってフィルム状に吐出する(吐出工程)。
【0059】
このとき、樹脂混合物の幅方向Wの吐出量の分布は、厚み調整手段14によって調節されており、演算手段17によって一定となるように制御されている。
【0060】
その後、吐出されたフィルム状の樹脂混合物は、冷却ロール13によって引き取られ(引取工程)、延伸されながら冷却されて固化し、樹脂フィルム30が形成される。
【0061】
その後、形成された樹脂フィルム30は、搬送装置5によって、厚み測定手段15を通過するように搬送され、厚み測定手段15によって厚みを測定されながら(計測工程)、巻取ロール6によってロール状に巻き取られる(巻取工程)。
【0062】
このとき、各測定群35,36において、厚み測定手段15によって測定された厚み測定値は、その測定時間とともに外観不良判定装置3の記憶手段18で記憶される。
【0063】
またこのとき、計測工程を実施中に、樹脂フィルム30に対して、樹脂フィルム30の外観不良誘因部51の有無を判定する不良判定工程が行われる。そして、この不良判定工程において、外観不良判定装置3が厚み測定値を用いて不良判定動作を行う。
具体的には、不良判定動作のおける外観不良判定方法では、まず現在の測定点32k(32)と巻取ロール6の巻取開始点33間の樹脂フィルム30の長さであるフィルムパスライン長さを設定する。
【0064】
そして、
図4,
図6のように、現在の測定点32k(厚み測定手段15で測定した点)が属する1走査分の測定群36において、当該測定群36内での各測定点32a〜32kでの実測値に基づく測定値と、1走査分の測定群36での各測定点32の測定値の平均値から偏差を算出した偏差データを算出する(第1演算)(ステップ1)。
すなわち、測定群35,36において、走査方向に並んだ各測定点32a〜32kでの厚み(測定値)と、当該各測定点32a〜32kの測定値の平均値から、各測定点32a〜32kでの厚み偏差を演算する。
このとき、
図9のグラフのような平均値に対する凹凸が数値となって表れる。
ここで、第1演算に使用する各測定点32の測定値は、
図8のように、対象となる測定点32での実測値と、対象となる測定点32の近傍の測定点32での実測値を使用して、移動平均により求めた計算値である。
具体例を挙げると、対象となる測定点32fでの実測値と、当該測定点32fを幅方向に挟んだ所定の範囲の測定点32の各実測値を用いて移動平均を取り、その平均値を測定点32fの測定値としている。
本実施形態では、対象となる測定点32と、当該測定点32に幅方向に隣接する測定点32,32の3点の測定値から移動平均を取って、その値を測定点32の測定値としている。
具体的には、測定点32fの測定値は、測定点32fの実測値と、それに隣接する測定点32e,32gの実測値の平均値を使用している。
また、本実施形態では、樹脂フィルム30の幅方向の中央に位置する測定点32fでの測定時刻を基準として、測定群35(測定群36)の属する全ての測定点32a〜32kが同時刻に測定したと仮定して計算を行っている。例えば、一の測定群35に属する測定点32a〜32kでの測定値は、一の測定群35の中央に位置する測定点32fで検知した時刻に測定したと近似して計算を行っている。
【0065】
続いて、巻取ロール6の軸部27での樹脂フィルム30の巻取回数(積層数)を算出する(ステップ2)。
【0066】
このとき、巻取回数は、まず、回転数検知手段28によって検知される軸部27の回転数と、現在のフィルムパスライン長さをもとに、現在の測定点32kが巻取ロール6で巻き取られたときの樹脂フィルム30の巻取回数(軸部27の径方向の積層数)を算出する。
【0067】
その後、巻取ロール6の軸部27での樹脂フィルム30の巻取回数(積層数)に合わせて、
図7のように、現在の測定点32kが属する測定群36の現在の偏差データと、それよりも過去の各測定群35,36の偏差データ(母集団)の中から所定のデータ数Nの偏差データ(標本)を抽出する(ステップ3)。
【0068】
ここで、抽出する偏差データのデータ数Nは、巻取ロール6の軸部27によってロール状に巻き取られた樹脂フィルム30のロール外径によって、調整する。
具体的には、現在の測定点32kが巻取ロール6に巻き取られたときの軸部27の径方向の積層数と、あらかじめ設定された樹脂フィルム30の積層数の積層閾値と比較して算出される。すなわち、積層閾値に対する現在の測定点32kの積層回数によって、今後において巻こぶの発生しやすさからデータ数Nを判断する。
そのため、抽出する偏差データのデータ数Nは、樹脂フィルム30の材質や厚みなどによってそれぞれ異なる値をとる。
なお、本実施形態では、Nは固定値をとり、Nは40である。すなわち、本実施形態では、多数の偏差データの中から現在の偏差データを含めた40個の偏差データを抽出する。
また、本実施形態で標本として抽出する偏差データは、
図7に示されるように時系列において、一の測定群の偏差データの測定時刻と、それに隣接する測定群(前記一の測定群に近い時刻に検知した測定群)の偏差データの測定時刻の間隔Tは一定となっている。
すなわち、標本として抽出する偏差データにおいて、現在の偏差データから過去の時分において、抽出する偏差データの時刻と、それに隣接する偏差データ(近い時刻にある偏差データ)の時刻の間隔Tは、一定間隔となっている。
【0069】
また、本実施形態の不良判定動作では、時系列における抽出する測定群35,36の偏差データの時間間隔も積層閾値に対する現在の測定点32kの積層回数によって変更している。すなわち、抽出する測定群35,36は、その時系列において、現在の測定点32kの積層回数によって、時系列において抽出する偏差データ間の間隔を変える。言い換えると、標本として抽出する偏差データにおいて、時系列における一の測定群の測定時刻と、それに隣接する測定群(近い時間にある測定群)の測定時刻との間隔Tを変更する。
【0070】
この点について詳細に説明する。
一般に、巻取ロール6の軸部27での樹脂フィルム30の積層回数が少ないときは、積層閾値に到達するまでの残りの積層回数が多く、またロール外径も小さい。
例えば、積層閾値が100回であって、現在の樹脂フィルム30の積層回数が10回の場合、積層閾値(100回)に到達するまでの残りの積層回数(90回)が多い。また、10回しか積層していないので、当然現在のロール外径も小さい。
そのため、
図3(a)に示されるような外観不良誘因部51が生じた場合に、
図3(b)に示されるように外観不良誘因部51が軸部27の径方向に重なりやすく、巻こぶ等の外観不良50が発生しやすいと考えられる。また軸部27での樹脂フィルム30の積層回数が少ない場合には、軸部27の径方向において、重なる部位間の間隔が狭くなる。
そのため、本実施形態では、巻取ロール6の軸部27での樹脂フィルム30の積層回数が少ないときは、時系列において、
図7に示される標本として抽出する偏差データ間の間隔Tを狭める。
一方、巻取ロール6の軸部27での樹脂フィルム30の積層回数が多いときは、積層閾値に到達するまでの残りの積層回数が少なく、ロール外径も大きくなっている。そのため、外観不良誘因部51が生じた場合に外観不良誘因部51が軸部27の径方向に重なりにくく、巻こぶ等の外観不良50が発生しにくいと考えられる。
また、巻取ロール6の軸部27での樹脂フィルム30の積層回数が多い場合には、軸部27の径方向において、重なる部位間の間隔が広くなる。そのため、本実施形態では、巻取ロール6の軸部27での樹脂フィルム30の積層回数が多いときは、時系列において、
図7に示される標本として抽出するデータ間の間隔Tを広げる。
【0071】
フローチャートの説明に戻ると、ステップ3の後、ステップ3にて抽出した偏差データ(標本)において、各測定点32における時系列ごとの偏差データの値をそれぞれ積算していき、抽出した偏差データの数で割る。すなわち、抽出した偏差データの各測定点32a〜32kにおいて、同一測定点32(例えば、測定点32a
1,32a
2,・・・,32a
N:Nはデータ数)間の平均値を各部位について算出する(第2演算)(ステップ4)。
言い換えると、樹脂フィルム30の幅方向の同一測定点32間の厚み偏差の積算値を抽出したデータ数Nで割ることで各測定点32での厚み偏差の平均値を求めて偏差データを算出する。
すなわち、本実施形態では、40個の偏差データにおいて、樹脂フィルム30の幅方向の同一測定点32の厚み偏差の積算値を算出し、データ数40で割って、厚み偏差の平均値を算出する。
【0072】
そして、第2演算により求めた各部位における平均値が、
図10で示される、あらかじめ設定された所定の閾値(以下、偏差閾値ともいう)を超えるかどうかを判定し(ステップ5)、偏差閾値を超える測定点32がある場合には(ステップ5でYes)、当該偏差閾値を超える測定点32を外観不良候補箇所として抽出する(ステップ6)。
【0073】
このときの偏差閾値は、過去のデータから経験的に算出した値であり、あらかじめ設定した値である。偏差閾値は、複数の閾値を有しており、凸部を判別する上側閾値と、凹部を識別する下側閾値がある。
すなわち、測定点32における平均値が上側閾値を上回ると、巻こぶ等の凸状の外観不良を誘因するおそれがある第一外観不良候補箇所として抽出し、測定点32における平均値が下側閾値を下回ると、窪み部等の凹状の外観不良を誘因するおそれがある第二外観不良候補箇所として抽出する。
上側閾値としては、目標厚みの平均値の0.1パーセント以上1パーセント以下の値であることが好ましい。
下側閾値としては、目標厚みの平均値の−1パーセント以上−0.1パーセント以下の値であることが好ましい。
【0074】
具体的な数値を挙げると、上側閾値は、より正確に抽出する観点から0.2μm以上1μm以下の値であることが好ましく、0.2μm以上0.8μm以下の値であることがより好ましい。
下側閾値は、より正確に抽出する観点から−1μm以上−0.2μm以下の値であることが好ましく、−0.8μm以上−0.2μm以下の値であることがより好ましい。
【0075】
抽出した外観不良候補箇所が幅方向において所定の範囲(幅方向閾値)を超えて連続するかどうか比較し(ステップ7)、抽出した外観不良候補箇所が幅方向閾値を超えて連続する場合には(ステップ7でYes)、その外観不良候補箇所を外観不良誘因部51であると判定する(ステップ8)。すなわち、外観不良候補箇所の連続幅が、幅方向閾値を超える場合には外観不良誘因部51と判定する。
【0076】
このときの幅方向閾値は、樹脂フィルム30のフィルム幅の0.5パーセント以上30パーセント以下の範囲であることが好ましい。
0.5パーセント未満になると、幅方向閾値が小さすぎて大部分が幅方向閾値を超えてしまい、正確に判定できないおそれがある。
30パーセント超過になると、幅方向閾値が大きすぎて、大部分が幅方向閾値を下回り、正確に判定できないおそれがある。
具体的な数値を挙げると、幅方向閾値は、正確に測定する観点から、20mm以上300mm以下の値であることが好ましく、50mm以上150mm以下の値であることがより好ましい。
【0077】
また、本実施形態では、抽出した外観不良候補箇所が第一外観不良候補箇所であり、当該第一外観不良候補箇所が幅方向において幅方向閾値を超えて連続する場合には、その第一外観不良候補箇所が凸状の外観不良を誘因する外観不良誘因部であると判定する。一方、抽出した外観不良候補箇所が第二外観不良候補箇所であり、当該第二外観不良候補箇所が幅方向において幅方向閾値を超えて連続する場合には、その第二外観不良候補箇所が凹状の外観不良を誘因する外観不良誘因部であると判定する。
【0078】
一方、ステップ5にて、偏差閾値を超える測定点32がない場合には(ステップ5でNo)、外観不良誘因部51がないと判定し(ステップ9)、ステップ1に戻る。
ステップ7にて、抽出した外観不良候補箇所が幅方向閾値を超えて連続しない場合には(ステップ7でNo)、外観不良誘因部51がないと判定し(ステップ9)、ステップ1に戻る。
以上が不良判定動作の説明である。
【0079】
上記した不良判定動作によって導き出された外観不良誘因部51の幅と厚み偏差から、厚み調整手段14による調整箇所と厚みの調整量を算出する。その後、演算し、算出した調整箇所と調整量の情報を厚み調整手段14に送信する。そして、厚み調整手段14の各締付ボルト(調整部)によって、自動的に金型12の吐出口25からの吐出量を最適量に調整し、冷却ロール13で固化される樹脂フィルム30の厚みを調整する。
【0080】
第1実施形態の外観不良判定装置3によれば、巻こぶ等の外観不良50の発生を精度よく抑制することができる。
【0081】
また、第1実施形態の外観不良判定方法によれば、誘因される外観不良の形状を予想できるので、厚みの調整を行いやすい。
【0082】
さらに、第1実施形態の製造装置1及び樹脂フィルムの製造方法によれば、巻こぶ等の外観不良50の発生を精度よく抑制でき、高品質の樹脂フィルム30を製造できる。
【0083】
上記した実施形態では、模式的に測定点32が11点の場合について例示して説明したが、上記したように、実際には多数の測定点32を取っている。
測定点32の数は、樹脂フィルム30の幅によって適宜設定されるが、例えば、1000mmの樹脂フィルム30の場合には、測定点32の数は、250点〜1000点であることが好ましい。この範囲であれば、本発明の不良判定動作を行うにあたって十分なデータを抽出することができる。
また、測定点32の間隔は、過去の実施結果から推測される樹脂フィルムの起伏のできやすさやその大きさ等によって適宜設定されるが、1mm〜3mmであることが好ましい。この範囲であれば、測定点32の間隔が詰まりすぎず、開きすぎないので、測定の無駄が少ない。
【0084】
上記した実施形態では、測定値は、算出対象の測定点32の実測値と、それに隣接する測定点32,32の実測値の3点の実測値を用いて移動平均を求めて算出したが、測定値の算出に用いる測定点32の数は特に限定されない。
例えば、算出対象の測定点32と、算出対象の測定点32を基準として走査方向におけるその前後の1点〜50点の測定点と、を測定値の算出に用いてもよい。
すなわち、算出対象の測定点32を含めて、3点〜101点の測定点32の実測値を用いて算出対象の測定点32の測定値を算出してもよい。
特に、測定点32の間隔が1mm〜3mmである場合には、算出対象の測定点32と、走査方向における当該測定点32の前後の20点〜40点の測定点と、を測定値の算出に用いることが好ましい。この範囲であれば、移動平均により測定値を算出するにあたって、十分なデータ数を確保できる。
【0085】
上記した実施形態では、複数の測定群35,36の偏差データの中から所定数の偏差データを抽出して、抽出した偏差データから外観不良候補箇所を判定したが、本発明はこれに限定されるものではなく、全偏差データから外観不良候補箇所を判定してもよい。
【0086】
上記した実施形態では、巻取ロール6での樹脂フィルム30の積層回数に基づいて、演算に用いる走査データを抽出し、抽出した走査データ間での偏差の平均を算出していたが、本発明はこれに限定されるものではなく、巻取ロール6での樹脂フィルム30の積層回数にかかわらず、連続する走査データで偏差の平均値を求めてもよい。
【0087】
上記した実施形態では、偏差閾値を一定の値にしていたが、本発明はこれに限定されるものではなく、偏差閾値を可変値にしてもよい。例えば、巻取ロール6での樹脂フィルム30の積層回数に応じて、偏差閾値を変更してもよい。具体的には、巻き取りが最終段階で、巻取ロール6での樹脂フィルム30の積層回数が多い場合には、後に大きな巻こぶになりにくいため、
図11のように偏差閾値の絶対値を高く設定してもよい。こうすることによって、余分な判定を減らすことができる。
【0088】
上記した実施形態では、Tダイ成形により樹脂フィルム30を成形する場合について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、インフレーション成形等の他の押出成形で樹脂フィルムを成形してもよい。またカレンダー成形で樹脂フィルムを成形してもよい。
【0089】
上記した実施形態では、不良判定動作において、測定点の測定値として移動平均による計算値を用いたが、本発明はこれに限定されるものではなく、測定点の測定値として、測定点の実測値(生データ)を直接用いてもよい。
【0090】
上記した実施形態では、本発明のフィルム状物の一例として樹脂製の樹脂フィルム30の場合について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、本発明のフィルム状物は、金属製等の他の材質のフィルムであってもよい。
【0091】
上記した実施形態では、不良判定動作によって、外観不良誘因部51が検出されると、自動的に厚みを調整する自動偏肉の成形装置2を備えていたが、本発明はこれに限定されるものではなく、作業者が手動で厚みを調整する手動偏肉の成形装置を備えていてもよい。
この場合、外観不良誘因部51が存在することを検出すると、報知手段19によって、作業者に外観不良誘因部51の存在を報知する構成であることが好ましい。
この構成により、作業者が外観不良誘因部51の存在を確認でき、厚み調整手段によって厚みを調整できるので、外観不良50の発生を防止できる。
【0092】
上記した実施形態の外観不良判定装置3は、外観不良誘因部51が測定点32から巻取ロール6の巻取開始点33に至る前に、報知手段19によって、作業者に外観不良誘因部51が至ったことを報知する構成であってもよい。
この構成によって、作業者は、報知手段19によって外観不良誘因部51が巻取開始点33に至ることを知得できるので、外観不良50を注意して監視することができ、外観不良50に適宜対処することができる。そのため、外観不良50が発生することを防止でき、歩留まりを向上させることができる。
また、過剰に大きな外観不良誘因部51が検出された場合には、巻き取りを中止することによって、外観不良誘因部51の直前の正常部位まで樹脂フィルム30を巻き取ることができる。
【0093】
上記した実施形態の外観不良判定装置3は、外観不良誘因部51が測定点32から巻取ロール6の巻取開始点33に至る直前に、自動的に巻取ロール6での巻き取りを停止する構成であってもよい。こうすることによって、外観不良誘因部51の直前まで樹脂フィルム30を巻き取ることができる。
【0094】
上記した実施形態では、各測定点32における測定時刻を、樹脂フィルム30の幅方向の中央に対応する測定点32fの測定時刻を基準としたが、本発明はこれに限定されるものではなく、他の測定点の測定時刻を基準としてもよい。
【0095】
以下に、実施例をもって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0096】
(実施例1)
アクリル系樹脂の原料を溶融し、さらに厚み調整ボルト(調整部)が25mm間隔に並んだTダイ(金型12)から押し出して、製品幅1000mm、目標厚み70μm、全長1000mのアクリル系樹脂製のフィルム(樹脂フィルム30)を製膜した。そして、製膜した樹脂フィルム30を軸部27によってロール状に巻き取った。
製膜時は厚み計(厚み測定手段15)で樹脂フィルム30の幅方向に1850mmを1走査24秒で測定を行った。
また、厚み計による測定点32の間隔は、2mmであり、不良判定部に判定閾値として厚み偏差の閾値0.5μm、幅方向閾値を90mm、樹脂フィルム30の積層回数の閾値を95回に設定して、1分毎に厚みを自動調整しながら6時間製膜した。
各測定点32の測定値は、算出対象の測定点と、当該測定点の前後の30点の測定点の計61点の測定点の実測値から移動平均を計算し、その算出値を用いた。
実施例1においてフィルムの巻き取りを行った結果、ロール状のフィルムの表面に外観不良が発生しなかった。
【0097】
(比較例1)
比較例1として不良判定部を作動させず同様の条件で6時間製膜を行い、ロール状にフィルム状物を巻き取った。
比較例1においてフィルムの巻き取りを行った結果、ロール状のフィルムの表面に外観不良が発生した。
【0098】
以上の結果から、本発明の外観不良判定方法によれば、巻こぶ等の外観不良を防止できることがわかった。