(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記非水電解質は非水溶媒を含み、前記非水溶媒はプロピレンカーボネートを含み、前記非水溶媒中の前記プロピレンカーボネートの含有量は、前記非水溶媒の体積に対して5体積%以上50体積%以下の範囲内にある請求項1に記載の非水電解質電池。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、各実施形態について図面を参照しながら説明する。なお、実施の形態を通して共通の構成には同一の符号を付すものとし、重複する説明は省略する。また、各図は実施形態の説明とその理解を促すための模式図であり、その形状や寸法、比などは実際の装置と異なる個所があるが、これらは以下の説明と公知の技術を参酌して適宜、設計変更することができる。
【0018】
(第1の実施形態)
第1の実施形態によると、非水電解質電池が提供される。この非水電解質電池は、正極と、負極と、非水電解質とを具備する。負極は、負極集電体と、この負極集電体上に形成された負極材料層とを備える。負極材料層は、0.78V(vs.Li/Li
+)以上の電位でリチウムの吸蔵及び放出が可能な負極活物質を含む。負極材料層の少なくとも一部の表面上に、下記式(1)で表されるプロピレングリコール骨格を有する化合物を含有する被膜が形成されている。被膜中のプロピレングリコール骨格を有する化合物の含有量は、負極材料層の重量1g当たり2μmol以上40μmol以下の量である。
【化2】
【0019】
プロピレングリコール骨格を有する化合物は、例えば、以下のような一般式(2)で表すことができる。
【化3】
【0020】
ここで、R
1及びR
2は、同じでもよいし又は異なっていてもよく、例えば、アルキル基、カルボニル基、ヒドロキシル基、アルキルリチウム基、リン酸エステル化合物及びリチウムからなる群より選択される。R
1及びR
2は、非水電解質電池内の微量水分、活物質の表面官能基、及び非水電解質成分の分解副生物などに由来し得る。
【0021】
この被膜は、水や非水電解質において用いられる非水溶媒に不溶である。そのため、この被膜は、非水電解質電池において、安定に存在することができる。
【0022】
第1の実施形態に係る非水電解質電池は、上記被膜中の上記プロピレングリコール骨格を有する化合物の含有量が負極材料層の重量1g当たり2μmol以上40μmol以下であるおかげにより、電池抵抗の上昇を抑えながら、負極活物質と非水電解質との間の反応を抑制することができ、その結果、この反応に起因する自己放電やガス発生を抑えることができる。第1の実施形態に係る非水電解質電池が電池抵抗の上昇を抑えることができる理由は、理論により縛られることを望まないが、負極活物質と非水電解質との間の反応を抑制することができるのに加え、上記被膜量であれば十分なLiイオンパスを提供できることに起因すると考えられる。
【0023】
一方、上記被膜中の上記プロピレングリコール骨格を有する化合物の含有量が負極材料層の重量1gあたり2μmol未満である非水電解質電池は、負極活物質と非水電解質との間の反応を十分に抑制することができない。また、上記被膜中の上記プロピレングリコール骨格を有する化合物の含有量が負極材料層の重量1gあたり40μmolを超える非水電解質電池は、被膜の抵抗が上昇してしまい、電池抵抗の上昇を抑えることが困難である。
【0024】
上記被膜中の上記プロピレングリコール骨格を有する化合物の含有量は、負極材料層の重量1gあたり5μmol以上20μmol以下であることがより好ましい。上記被膜中の上記プロピレングリコール骨格を有する化合物の含有量がこの範囲内にある非水電解質電池は、電池抵抗を低く保ったまま、負極活物質と非水電解質との間の反応を更に抑制することができる。上記被膜中の上記プロピレングリコール骨格を有する化合物の含有量は、負極材料層の重量1gあたり7μmol以上14μmol以下であることが更に好ましい。
【0025】
負極の表面上に形成された被膜は、アルコキシ基、例えばエトキシ基を有する化合物を更に含むことができる。負極の表面上に形成された被膜がアルコキシ基を有する化合物を更に含む第1の実施形態に係る非水電解質電池は、負極活物質と非水電解質との間の反応を更に抑制することができる。
【0026】
非水電解質電池の負極材料層上に被膜が形成していることは、例えば、XPS(X線光電子分光法:X-ray Photoelectron spectroscopy)測定により確認することができる。XPS測定は、X線による表面組成分析であり、表面上の各元素の結合状態を調査するほか、各元素の割合を算出することが可能である。XPSでは、エッチングをしながら、深さ方向に対して表面組成変動を測定することができるため、有機成分を含む被膜が電極上に形成している場合、カーボン(C)とその他元素(例えば、Li、O、F、Pなど)との相対存在量によって、被膜の形成を確認することができる。
【0027】
負極の表面上に形成された被膜中の上記プロピレングリコール骨格を有する化合物の負極材料層の重量1g当たりの含有量は、例えば、以下の方法によって定量することができる。
【0028】
まず、検査対象の非水電解質電池を用意する。対象の非水電解質電池は、定格容量の80%以上の容量を有する電池とする。電池の容量維持率は、以下の方法により判断する。まず、電池を作動上限電圧まで充電する。この時の電流値は定格容量から求めた0.2Cレートに相当する電流値である。作動上限電圧に達した後、3時間電圧を保持する。充電及び電圧保持後、0.2Cのレートで作動電圧下限値まで放電を行い、放電容量を計測する。得られた容量の定格容量に対する比率を容量維持率と定義する。電池の充電状態はいずれの状態であっても構わない。
【0029】
次に、不活性ガス雰囲気内で、電池を解体し、負極の一部を採取する。例えば、アルゴンガス雰囲気のグローブボックス内で、電池を解体し、電解液を抜き取り、電極群中の負極を切り取る。
【0030】
次いで、切り取った負極を溶媒で洗浄する。溶媒としては、鎖状カーボネート(ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネートなど)やアセトニトリルを用いることができる。洗浄後、不活性ガス雰囲気を保ったまま真空状態にし、負極を乾燥させる。負極の乾燥は、例えば、50℃の真空下で10時間行うことができる。
【0031】
次いで、乾燥させた負極から、被覆層を含めた負極材料層の一部を剥ぎ取る。この際、負極集電体の表面が露出するように、負極材料層を負極集電体から剥ぎ取る。次に、剥離した負極材料層の重量を測定する。
【0032】
続いて、剥ぎ取った負極材料層を重水中に浸漬し、負極材料層上に形成された被膜を抽出する。次に、この抽出液に、内部標準物質として例えばマレイン酸などを濃度が一定となるように添加して、測定サンプルを調製する。測定サンプル調製後、このサンプルを例えば常温で24時間放置する。この測定サンプルをNMR装置内に導入し、
1H−NMR測定を行うことにより、標準物質とのピークの比率から、各成分量の定量を行うことができる。このようにして
1H−NMR測定を行うことにより、剥離した負極材料層上に形成された被膜に含まれているプロピレングリコール骨格を有する化合物の物質量を測定することができる。
【0033】
かくして測定したプロピレングリコール骨格を有する化合物の物質量を、剥ぎ取った負極材料層の重量(先に測定した重量)で除することにより、負極材料層の重量1g当たりの上記プロピレングリコール骨格を有する化合物の含有量を算出することができる。
【0034】
被膜中の上記アルコキシ基を有する化合物の含有量も、例えば先に説明した
1H−NMR測定により、プロピレングリコール骨格を有する化合物の含有量と同時に定量することができる。
【0035】
次に、第1の実施形態に係る非水電解質電池を詳細に説明する。
【0036】
第1の実施形態に係る非水電解質電池は、正極と、負極と、非水電解質とを具備する。
【0037】
正極は、正極集電体と、この正極集電体上に形成された正極材料層とを備えることができる。正極材料層は、正極集電体の主面の両面に形成されていてもよいし、又は片面に形成されていてもよい。
【0038】
正極材料層は、正極活物質並びに任意に導電剤及び結着剤を含むことができる。
【0039】
正極集電体は、表面に正極材料層が形成されていない正極材料層無担持部分を含むことができる。正極材料層無担持部分は、正極集電タブとして働くことができる。
【0040】
負極は、負極集電体と、この負極集電体上に形成された負極材料層とを備える。負極材料層は、負極集電体の主面の両面に形成されていても良いし、又は片面に形成されていても良い。
【0041】
負極材料層は、0.78V(vs.Li/Li
+)以上の電位でリチウムの吸蔵及び放出が可能な負極活物質を含む。負極材料層は、1種類のこのような負極活物質を含んでも良いし、又は複数種のこのような負極活物質を含んでも良い。負極材料層は、任意に、導電剤及び結着剤を更に含むことができる。
【0042】
負極材料層の少なくとも一部の表面上に、先に説明したプロピレングリコール骨格を有する化合物を含有する被膜が形成されている。
【0043】
負極集電体は、表面に負極材料層が形成されていない負極材料層無担持部分を含むことができる。負極材料層無担持部分は、負極集電タブとして働くことができる。
【0044】
正極及び負極は、正極材料層と負極材料層とが対向するように配置されて、電極群を構成することができる。正極材料層と負極材料層との間には、リチウムイオンは透過させるが電気を通さない部材、例えばセパレータを配置することができる。
【0045】
電極群は、様々な構造を有することができる。電極群は、スタック型構造を有していても良いし、又は捲回型構造を有していても良い。スタック型構造は、例えば、複数の負極及び複数の正極を、負極と正極との間にセパレータを挟んで積層させた構造を有する。捲回型構造の電極群は、例えば、負極及び正極をこれらの間にセパレータを挟んで積層させたものを捲回した缶型構造体でも良いし、又はこの缶型構造体をプレスすることによって得られる扁平型構造体でも良い。
【0046】
正極集電タブは、正極端子に電気的に接続することができる。同様に、負極集電タブは、負極端子に電気的に接続することができる。正極端子及び負極端子は、電極群から延出することができる。
【0047】
電極群は、外装部材に収納され得る。外装部材は、正極端子及び負極端子をその外側に延出させることができるような構造を有していてもよい。或いは、外装部材は、2つの外部端子を具備し、これらのそれぞれが正極端子及び負極端子のそれぞれに電気的に接続されるように構成されていてもよい。
【0048】
非水電解質は、外装部材内に収納され、電極群に含浸され得る。
【0049】
以下、第1の実施形態に係る非水電解質電池において用いることができる各部材の材料について、説明する。
【0050】
1.負極
0.78V(vs.Li/Li
+)以上の電位でリチウムの吸蔵及び放出が可能な負極活物質は、例えば、0.78V(vs.Li/Li
+)以上3.0V(vs.Li/Li
+)以下の電位でリチウムの吸蔵及び放出が可能な負極活物質である。このような負極活物質の例としては、金属酸化物、金属硫化物、金属窒化物、及び合金が挙げられる。1.0V(vs.Li/Li
+)以上2.5V(vs.Li/Li
+)以下の電位でリチウムの吸蔵及び放出が可能な負極活物質が好ましい。
【0051】
上記金属酸化物の例としては、チタン含有金属複合酸化物、ニオブ複合酸化物、SnB
0.4P
0.6O
3.1又はSnSiO
3などのスズ系酸化物が挙げられる。中でも、チタン含有金属複合酸化物及びニオブ複合酸化物が好ましい。
【0052】
チタン含有金属複合酸化物の例としては、リチウムチタン酸化物、チタン系酸化物、リチウムチタン酸化物の構成元素の一部を異種元素で置換したリチウムチタン複合酸化物が挙げられる。
【0053】
リチウムチタン酸化物の例には、スピネル構造のチタン酸リチウム(例えば、Li
4+xTi
5O
12)(以降、「LTO」と称する)及びラムスデライド構造のチタン酸リチウム(例えば、Li
2+yTi
3O
7)が含まれる。なお、上記の式においてxおよびyは電池を充放電することにより変化する値であり、それぞれ、不等式−1≦x≦3及び0≦y≦3により表される関係を満たす。
【0054】
チタン系酸化物としては、TiO
2、単斜晶系β型チタン複合酸化物、TiとV、Sn、Cu、Ni、CoおよびFeからなる群より選択される少なくとも一種の元素とを含有する金属複合酸化物が挙げられる。中でも単斜晶系β型チタン複合酸化物が好適に用いられる。
【0055】
TiO
2としては、例えば、アナターゼ型又はルチル型構造を有するチタン複合酸化物(α−TiO2、γ−TiO
2)が挙げられる。
【0056】
単斜晶系β型チタン複合酸化物は、単斜晶系二酸化チタンの結晶構造を有するチタン複合酸化物を指す。単斜晶系二酸化チタンの結晶構造は、主に空間群C2/mに属するものである。以降は、単斜晶系β型チタン複合酸化物を「TiO
2(B)」と称する。なお、TiO
2(B)には、構成元素の一部をLiなどの異種元素で置換したものも包含される。
【0057】
Tiと、V、Sn、Cu、Ni、CoおよびFeからなる群より選択される少なくとも一種の元素とを含有する金属複合酸化物としては、TiO
2−V
2O
5、TiO
2−P
2O
5−SnO
2、及びTiO
2−P
2O
5−MeO(ここで、MeはCu、Ni、CoおよびFeからなる群より選択される少なくとも一種の元素である)が挙げられる。この金属複合酸化物は、結晶相とアモルファス相とが共存した構造を有するか、または、アモルファス相が単独で存在した構造を有することが好ましい。
【0058】
ニオブ複合酸化物の例としては、Nb
2O
5及びNb
2TiO
7が挙げられる。
【0059】
金属硫化物の例としては、TiS
2などのチタン系硫化物、MoS
2などのモリブデン系硫化物、及びFeS、FeS
2、Li
xFeS
2(ここで、0≦x≦4)などの鉄系硫化物が挙げられる。
【0060】
金属窒化物の例としては、(Li、Me)
3N(ここで、Meは遷移金属元素である)などのリチウム系窒化物が挙げられる。
【0061】
0.78V(vs.Li/Li
+)以上の電位でリチウムの吸蔵及び放出が可能な負極活物質は、スピネル構造を有するチタン酸リチウム化合物であることが好ましい。
【0062】
負極活物質は、平均粒子径が1μm以下で、N
2ガス吸着によるBET法での比表面積が5〜50m
2/gの範囲にあることが好ましい。このような平均粒子径および比表面積を有する負極活物質は、その利用率が高く、実質的な容量が大きい。なお、上記の比表面積は、例えば島津製作所株式会社のマイクロメリテックスASPA−2010を使用し、吸着ガスとしてN
2を使用して測定することができる。
【0063】
導電剤は、集電性能を高め、且つ活物質と負極集電体との接触抵抗を抑えるために必要に応じて用いられる。導電剤の例には、アセチレンブラック、カーボンブラック又は黒鉛などの炭素材料が含まれる。
【0064】
結着剤は、負極材料層中の活物質及び任意の導電剤と、負極集電体とを結着させるために必要に応じて用いられる。結着剤の例には、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、フッ素系ゴム及びスチレンブタジエンゴムが含まれる。
【0065】
負極集電体は、負極活物質においてリチウムイオンの吸蔵及び放出が生じる電位範囲で電気化学的に安定である材料から形成されることが好ましい。そのような材料の例には、銅、ニッケル、ステンレス、アルミニウム、及びアルミニウム合金が含まれる。アルミニウム合金は、Mg、Ti、Zn、Mn、Fe、Cu、及びSiから選択される一以上の元素を含むことが好ましい。
【0066】
負極集電体の厚さは5μm以上20μm以下であることが好ましい。これにより、負極の強度を保ちながら軽量化することができる。
【0067】
負極は、例えば、負極活物質、結着剤及び導電剤を適切な溶媒に懸濁して負極作製用スラリーを調製し、このスラリーを負極集電体の表面に塗布し、乾燥して負極活物質層を形成した後、プレスを施すことにより作製される。また、負極は、負極活物質、結着剤及び必要に応じて配合される導電剤をペレット状に形成して負極材料層とし、これを負極集電体上に配置することにより作製することができる。
【0068】
負極作製用スラリーを調製する際、負極活物質、導電剤及び結着剤は、それぞれ、70重量%以上96重量%以下、2重量%以上28重量%以下、2重量%以上28重量%以下の割合で配合することが好ましい。導電剤の含有量が2重量%以上であると、負極材料層の集電性能を向上させることができる。また、結着剤の含有量が2重量%以上であると、負極材料層と集電体との間の結着性を十分に得ることができる。そのため、上記配合によると、サイクル特性を更に向上させることができる。一方、容量を大きくする観点から、導電剤及び結着剤はそれぞれ28重量%以下にすることが好ましい。
【0069】
2.正極
正極活物質としては、例えば、酸化物、硫化物、又はポリマーを用いることができる。酸化物及び硫化物の例には、リチウムを吸蔵する二酸化マンガン(MnO
2)、酸化鉄、酸化銅、酸化ニッケル、リチウムマンガン複合酸化物(例えば、Li
xMn
2O
4またはLi
xMnO
2)、リチウムニッケル複合酸化物(例えば、Li
xNiO
2)、リチウムコバルト複合酸化物(例えば、Li
xCoO
2)、リチウムニッケルコバルト複合酸化物(例えば、LiNi
1-yCo
yO
2)、リチウムマンガンコバルト複合酸化物(例えば、Li
xMn
yCo
1-yO
2)、スピネル構造を有するリチウムマンガンニッケル複合酸化物(例えば、Li
xMn
2-yNi
yO
4)、オリビン構造を有するリチウムリン酸化物(例えば、Li
xFePO
4、Li
xFe
1-yMn
yPO
4、Li
xCoPO
4)、硫酸鉄[Fe
2(SO
4)
3]、バナジウム酸化物(例えば、V
2O
5)、及び、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物が含まれる。ここで、0<x≦1であり、0<y≦1である。活物質として、これらの化合物を単独で用いてもよく、或いは、複数の化合物を組合せて用いてもよい。
【0070】
ポリマーの例としては、ポリアニリン及びポリピロールのような導電性ポリマー材料、又はジスルフィド系ポリマー材料が挙げられる。
【0071】
また、イオウ(S)又はフッ化カーボンも正極活物質として使用できる。
【0072】
より好ましい正極活物質の例としては、正極電圧が高いリチウムマンガン複合酸化物(Li
xMn
2O
4)、リチウムニッケル複合酸化物(Li
xNiO
2)、リチウムコバルト複合酸化物(Li
xCoO
2)、リチウムニッケルコバルト複合酸化物(LiNi
1-yCo
yO
2)、スピネル構造を有するリチウムマンガンニッケル複合酸化物(Li
xMn
2-yNi
yO
4)、リチウムマンガンコバルト複合酸化物(Li
xMn
yCo
1-yO
2)、リチウムリン酸鉄(Li
xFePO
4)、及び、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物が含まれる。ここで、0<x≦1であり、0<y≦1である。
【0073】
非水電解質電池の非水電解質として常温溶融塩を用いる場合に好ましい正極活物質の例としては、リチウムリン酸鉄、Li
xVPO
4F(0≦x≦1)、リチウムマンガン複合酸化物、リチウムニッケル複合酸化物、及び、リチウムニッケルコバルト複合酸化物が挙げられる。これらの化合物は常温溶融塩との反応性が低いため、非水電解質電池のサイクル特性を向上させることができる。
【0074】
正極活物質の比表面積は、0.1m
2/g以上10m
2/g以下の範囲内にあることが好ましい。0.1m
2/g以上の比表面積を有する正極活物質は、リチウムイオンの吸蔵及び放出サイトを十分に確保できる。10m
2/g以下の比表面積を有する正極活物質は、工業生産の上で取り扱い易く、かつ良好な充放電サイクル性能を確保できる。
【0075】
導電剤は、集電性能を高め、且つ正極活物質と正極集電体との接触抵抗を抑えるために必要に応じて配合される。導電剤の例には、アセチレンブラック、カーボンブラック、黒鉛のような炭素質物が含まれる。
【0076】
結着剤は、正極活物質と正極集電体とを結着させる働きを有する。結着剤の例には、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、フッ素系ゴムが含まれる。
【0077】
正極集電体は、アルミニウム箔、又は、Mg、Ti、Zn、Ni、Cr、Mn、Fe、Cu及びSiから選択される一以上の元素を含むアルミニウム合金箔であることが好ましい。
【0078】
アルミニウム箔またはアルミニウム合金箔の厚さは、5μm以上20μm以下、より好ましくは15μm以下にすることが望ましい。アルミニウム箔の純度は99重量%以上が好ましい。アルミニウム箔またはアルミニウム合金箔に含まれる鉄、銅、ニッケル、クロムなどの遷移金属の含有量は、1重量%以下にすることが好ましい。
【0079】
正極は、例えば正極活物質、結着剤及び必要に応じて配合される導電剤を適当な溶媒に懸濁して正極作製用スラリーを調製し、このスラリーを正極集電体に塗布し、乾燥して正極材料層を形成した後、プレスを施すことにより作製される。また、正極は、活物質、結着剤及び必要に応じて配合される導電剤をペレット状に形成して正極材料層とし、これを集電体上に形成することにより作製することもできる。
【0080】
正極作製用スラリーの調製に際し、正極活物質及び結着剤はそれぞれ80重量%以上98重量%以下、2重量%以上20重量%以下の割合で配合することが好ましい。結着剤は、2重量%以上の量にすることにより十分な電極強度が得られる。また、20重量%以下にすることにより電極の絶縁体の配合量を減少させ、それにより、非水電解質電池の内部抵抗を減少させることができる。
【0081】
導電剤を加える場合には、正極活物質、結着剤及び導電剤はそれぞれ77重量%以上95重量%以下、2重量%以上20重量%以下、及び3重量%以上15重量%以下の割合で配合することが好ましい。導電剤は、3重量%以上の量にすることにより上述した効果を発揮することができる。また、15重量%以下にすることにより、高温保存下での正極導電剤表面での非水電解質の分解を低減することができる。
【0082】
3.セパレータ
セパレータは、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、セルロース、またはポリフッ化ビニリデン(PVdF)を含む多孔質フィルム、または、合成樹脂製不織布から形成されてよい。ポリエチレン又はポリプロピレンから形成された多孔質フィルムは、一定温度において溶融して、電流を遮断することが可能である。よって、それらのフィルムを用いる非水電解質電池は、安全性を更に向上できる。
【0083】
4.外装部材
外装部材として、ラミネートフィルム製容器又は金属製容器を用いることができる。外装部材の形状は、扁平型(薄型)、角型、円筒型、コイン型、ボタン型、シート型、又は積層型であってよい。外装部材の形状及び大きさは電池寸法に応じて任意に設計できる。例えば、携帯用電子機器等に積載される小型電池用外装部材、又は、二輪乃至四輪の自動車等に積載される大型電池用外装部材が使用される。
【0084】
ラミネートフィルムは、金属層と該金属層を被覆する樹脂層とからなる多層フィルムである。金属層は、アルミニウム箔若しくはアルミニウム合金箔であることが好ましい。これにより、電池の重量を減少させることができる。樹脂層は金属層を補強することができる。樹脂層は、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ナイロン、又はポリエチレンテレフタレート(PET)などの高分子から形成されてよい。外装部材を形成するラミネートフィルムの厚さは、0.5mm以下であることが好ましく、0.2mm以下であることがより好ましい。ラミネートフィルムは、熱融着することにより所望の形状に成形することができる。
【0085】
金属製容器は、アルミニウムまたはアルミニウム合金などから形成されてよい。アルミニウム合金は、Mg、Zn又はSiなどの元素を含むことが好ましい。合金中にFe、Cu、Ni又はCrなどの遷移金属が含有される場合、その含有量は1重量%以下であることが好ましい。これにより、高温環境下での長期信頼性、放熱性を飛躍的に向上させることができる。金属製容器を形成する金属板の厚さは1mm以下であることが好ましく、0.5mm以下であることがより好ましく、0.2mm以下であることがさらに好ましい。
【0086】
5.負極端子
負極端子は、アルミニウム、又は、Mg、Ti、Zn、Mn、Fe、Cu、又はSiから選択される少なくとも一つの元素を含有するアルミニウム合金から形成することができる。負極集電体との接触抵抗を低減するために、負極端子は負極集電体と同様の材料から形成されることが好ましい。
【0087】
6.正極端子
正極端子は、アルミニウム、又は、Mg、Ti、Zn、Ni、Cr、Mn、Fe、Cu、又はSiから選択される少なくとも一つの元素を含有するアルミニウム合金から形成されることが好ましい。正極集電体との接触抵抗を低減するために、正極端子は正極集電体と同様の材料から形成されることが好ましい。
【0088】
7.非水電解質
非水電解質としては、液状非水電解質又はゲル状非水電解質を用いることができる。液状非水電解質は、電解質を非水溶媒中に溶解させることにより調製される。ゲル状非水電解質は、液状電解質と高分子材料とを複合化することにより調製される。
【0089】
非水溶媒は、プロピレンカーボネートを含んでいることが好ましい。非水溶媒中のプロピレンカーボネートの含有量は、当該非水溶媒の体積に対して、5体積%以上50体積%以下の範囲内にあることが好ましい。この範囲の含有量でプロピレンカーボネートを含有する非水溶媒を含む第1の実施形態に係る非水電解質電池は、自己放電及び抵抗上昇の両方を更に抑えることができる被膜を負極の表面上に備えることができる。
【0090】
非水溶媒は、プロピレンカーボネート以外の有機溶媒を含むこともできる。プロピレンカーボネート以外の有機溶媒の例には、エチレンカーボネート(EC)、ビニレンカーボネートなどの環状カーボネート;ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、メチルエチルカーボネート(MEC)などの鎖状カーボネート;テトラヒドロフラン(THF)、2メチルテトラヒドロフラン(2MeTHF)、ジオキソラン(DOX)などの環状エーテル;ジメトキシエタン(DME)、ジエトキシエタン(DEE)などの鎖状エーテル;γ-ブチロラクトン(GBL)、アセトニトリル(AN)、及びスルホラン(SL)が含まれる。非水溶媒は、これらの有機溶媒を単独又は組み合わせて含むことができる。
【0091】
液状非水電解質中の電解質の濃度は、0.5mol/L以上2.5mol/L以下であることが好ましい。
【0092】
電解質としては、六フッ化リン酸リチウムLiPF
6を含むことが好ましい。電解質は、LiPF
6以外の電解質を含むこともできる。この場合、LiPF
6は、電解質の70mol%以上を構成していることが好ましい。電解質の70mol%以上がLiPF
6である非水電解質を具備した第1の実施形態に係る非水電解質電池は、プロピレングリコール骨格を有する被膜が過剰に生成することを防ぐことができ、ひいては抵抗の上昇をさらに抑えることができる。さらに、LiPF
6以外の電解質を含むことで、被膜の過剰生成の抑制効果がより促進される。
【0093】
LiPF
6以外の電解質の例には、過塩素酸リチウム(LiClO
4)、四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF
4)、六フッ化ヒ酸リチウム(LiAsF
6)、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム(LiCF
3SO
3)、及びビストリフルオロメチルスルホニルイミドリチウム[LiN(CF
3SO
2)
2]、リチウム N,N−ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)、リチウムN、N−ビスペンタフルオロエタンスルホニルアミド(LiBETI)、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)、ジフルオロリン酸リチウム(LiPF
2O
2)、モノフルオロリン酸リチウム(LiPFO
3H)、リチウムビスオキサラトホウ酸リチウム(LiB(C
2O
4)
2)、リチウムジフルオロ(オキサラト)ホウ酸(LiF
2BC
2O
4)、リチウムジフルオロ(トリフルオロ−2−オキシド−2−トリフルオロ−メチルプロピオナト(2−)−0,0)ホウ酸(LiBF
2(OCOOC(CF
3)
2)などのリチウム塩及び、これらの混合物が含まれる。
高分子材料の例には、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリアクリロニトリル(PAN)及びポリエチレンオキサイド(PEO)が含まれる。
【0094】
次に、第1の実施形態に係る非水電解質電池の例を、図面を参照しながらより詳細に説明する。
【0095】
図1は、第1の実施形態に係る一例の非水電解質電池の断面図である。
図2は、
図1のA部の拡大断面図である。
【0096】
図1に示すように、電池1は、外装部材2と、外装部材2に収容された電極群3とを含む。ここでは、電極群3として捲回電極群を用いている。外装部材2は、袋状の形状を有する。外装部材2の内部には、さらに非水電解質(図示せず)が含まれている。非水電解質は、電極群3に含浸されている。
【0097】
電極群3は、
図2に示すように、正極4と、負極5と、複数枚のセパレータ6とを含む。電極群3は積層体が渦巻き状に捲回された構成を有する。この積層体は、セパレータ6、正極4、セパレータ6、及び負極5をこの順で重ねた構成を有する。扁平状の捲回電極群は、このような積層体を負極が最外周に位置するように渦巻き状に捲回し、次いで加熱しながらプレスすることにより作製される。
【0098】
正極4は、正極集電体4aと、正極集電体4aの両面に形成された正極材料層4bとを含む。正極材料層4bは、正極活物質と、結着剤と、導電剤とを含んでいる。
【0099】
負極5は、負極集電体5aと、負極集電体5aの両面に形成された負極材料層5bとを含む。但し、電極群3の最外周に位置する部分においては、
図2に示すように、負極集電体5aの内面側のみに負極材料層5bが形成されている。
【0100】
負極材料層5bは、0.78V(vs.Li/Li
+)以上の電位でリチウムの吸蔵及び放出が可能な負極活物質を含んでいる。
【0101】
負極材料層5bの表面には、下記式(1)で表されるプロピレングリコール骨格を有する化合物を含有する被膜が形成されている。なお、この被膜は、負極材料層5bに比して非常に小さいため、
図2においては図示していない。
【化4】
【0102】
図1に示すように、電極群3の外周端近傍において、正極端子7が正極集電体4aに接続されている。また、電極群3の最外周において、負極端子8が負極集電体5aに接続されている。正極端子7及び負極端子8はそれぞれ、外装部材2の開口部から外部に延出されている。
【0103】
以上に説明した第1の実施形態に係る非水電解質電池は、0.78V(vs.Li/Li
+)以上の電位でリチウムの吸蔵及び放出が可能な負極活物質を含む負極材料層と、負極材料層の重量1g当たり2μmol以上40μmolの量でプロピレングリコール骨格を有する化合物を含有する被膜とを有する。このような非水電解質電池は、自己放電と電池抵抗の上昇とを抑制することができる。すなわち、第1の実施形態によると、自己放電と電池抵抗の上昇とを抑制できる、0.78V(vs.Li/Li
+)以上の電位でリチウムの吸蔵及び放出が可能な負極活物質を用いた非水電解質電池を提供することができる。
【0104】
(第2の実施形態)
第2の実施形態によると、非水電解質電池の製造方法が提供される。この製造方法は、負極を含んだ電極群及び非水電解質を用意することと、外装部材内に電極群及び非水電解質を封入して、電池ユニットを作製することと、この電池ユニットに対して初回充放電を行うことと、初回充放電を行った電池ユニットを再充電して、充電率を20%以上80%以下にすることと、再充電した電池ユニットを50℃以上80℃以下の温度に保持することとを含む。負極は、負極集電体と、この負極集電体上に形成された負極材料層とを備える。負極材料層は、0.78V(vs.Li/Li
+)以上の電位でリチウムの吸蔵及び放出が可能な負極活物質を含む。非水電解質は、非水溶媒と、この非水溶媒中に溶解した電解質とを含む。非水溶媒は、プロピレンカーボネートを5体積%以上50体積%以下の含有量で含有する。電解質は、LiPF
6を70mol%以上の含有量で含む。
【0105】
以下に、第2の実施形態に係る非水電解質電池の製造方法を詳細に説明する。
【0106】
まず、負極を備える電極群を用意する。
【0107】
負極は、負極集電体及びこの負極集電体上に形成された負極材料層を備える。負極材料層は、0.78V(vs.Li/Li
+)以上の電位でリチウムの吸蔵及び放出が可能な負極活物質を含む。負極は、例えば、第1の実施形態の説明において述べた方法によって製造することができる。
【0108】
続いて、この負極を含む電極群を作製する。電極群は、正極及びセパレータを更に備えることができる。電極群は、例えば、第1の実施形態の説明において述べた方法によって作製することができる。
【0109】
一方で、非水電解質を用意する。非水電解質は、非水溶媒中に電解質を溶解させることによって調製する。
【0110】
非水電解質の調製に用いる非水溶媒は、プロピレンカーボネートを含有している。プロピレンカーボネートは、非水溶媒の体積に対し、5%以上50%以下となるように、他の溶媒と混合させる。プロピレンカーボネートの含有量が5%未満である場合、プロピレングリコール骨格を有する被膜を適切な量形成できない。一方、プロピレンカーボネートの含有量が50%を超える場合、プロピレングリコール骨格を有する被膜の形成量が増大して抵抗成分となると共に、非水電解質の粘度が増大し、イオン伝導性が低下し電池の抵抗上昇をもたらすため、好ましくない。プロピレンカーボネートに混合させる他の溶媒は、例えば、エチレンカーボネート(EC)、ビニレンカーボネートなどの環状カーボネート;ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、メチルエチルカーボネート(MEC)などの鎖状カーボネート;テトラヒドロフラン(THF)、2メチルテトラヒドロフラン(2MeTHF)、ジオキソラン(DOX)などの環状エーテル;ジメトキシエタン(DME)、ジエトキシエタン(DEE)などの鎖状エーテル;γ-ブチロラクトン(GBL)、アセトニトリル(AN)、及びスルホラン(SL)からなる群より選択される少なくとも1種であり得る。
【0111】
続いて、かくして調製した非水溶媒中に、電解質としてLiPF
6を溶解させて、非水電解質を調製する。電解質中のLiPF
6の比率は100%であっても構わないが、その他のLi塩を支持塩として混合しても良い。追加のLi塩としては、先に説明した追加の電解質を用いることができる。しかしながら、LiPF
6が電解質の70mol%以上を構成していることが好ましい。LiPF
6以外の塩が30mol%よりも多い比率で混合していると、塩自体又はその他の非水電解質成分の分解を促進し、被膜の成長を過度に起こす可能性があるため、好ましくない。
【0112】
次に、以上のようにして作製した電極群及び以上のようにして調製した非水電解質を外装部材中に封入して、電池ユニットを作製する。
【0113】
次に、作製した電池ユニットに対して、初回充放電を行う。初回充放電を行った電池ユニットに対して、1回以上の更なる充放電を行うこともできる。
【0114】
続けて、1回以上の充放電を行った電池ユニットを再充電する。この再充電では、電池ユニットの充電率を20%以上80%以下に調整する。これにより、電解液中のプロピレンカーボネートとLiPF
6と不純物類とが反応し、式(1)で表されるプロピレングリコール骨格を含む被膜が負極材料層上に形成され得る。一方、再充電で電池ユニットの充電率を80%よりも高くすると、負極材料の電位が低下し、式(1)で表されるプロピレングリコール骨格を有する化合物を含む被膜の形成が過剰に起こる。また、再充電で電池ユニットの充電率を20%未満にすると、負極材料の電位が高くなり、式(1)で表されるプロピレングリコール骨格を有する化合物を含む被膜の形成が起きにくくなる。再充電により、電池ユニットの充電率を25%以上50%以下に調整することが好ましい。
【0115】
ここで、電池ユニットの「充電率」とは、作動電圧範囲で電池を作動させた時の充電可能容量に対する、電池の充電容量の比率を意味する。充電可能容量は、電池ユニットを、予め設定したレートで、電圧が予め設定した上限電圧に達するまで充電し、このようにして充電した電池ユニットを、予め設定したレートで、電圧が予め設定した下限電圧まで達するまで放電したときの放電容量である。電池ユニットの充電率は、電池ユニットを電圧があらかじめ設定した下限電圧まで達する放電した後に充電した容量を先の充電可能容量で除することによって算出することができる。
【0116】
以上のようにして再充電した電池ユニットを、50℃以上80℃以下の温度に保持する。保持温度が50℃より低いと、負極材料層上での被膜の形成が十分に進行できず、その後の非水電解質の分解を抑制することができない。一方、保持温度が80℃より高いと、非水電解質の分解が促進され過ぎ、被膜の過剰な成長と共にガス発生などを生じるため、好ましくない。また、50℃以上80℃以下の温度に保持することは、24時間以上120時間以下の時間に亘って行うことが好ましい。保持時間が24時間より短いと、負極材料層上での被膜の形成が十分に進行できず、その後の非水電解質の分解を抑制することができない。一方、保持時間が120時間より長いと、長時間の保存により被膜の形成が過剰に進行する。50℃以上80℃以下の温度での電池ユニットの保持は、例えば、恒温槽中で行うことができる。また、このような処理は、例えば、エージングと呼ぶことができる。
【0117】
以上に説明した第2の実施形態に係る非水電解質電池の製造方法によると、第1の実施形態に係る非水電解質電池を製造できる。
【0118】
式(1)で表されるプロピレングリコール骨格を有する化合物は、先に説明したように、非水電解質中のプロピレンカーボネートとLiPF
6と不純物等とが反応することによって生成し得ると考えられる。
【0119】
また、非水電解質の非水溶媒にジエチルカーボネート(DEC)を含ませる場合、以上に説明した第2の実施形態に係る非水電解質電池の製造方法によると、上記プロピレングリコール骨格を有する化合物に加え、アルコキシ基、具体的にはエトキシ基を有する化合物を更に含んだ被膜が形成し得る。
【0120】
このようにして形成し得る被膜中の上記プロピレングリコール骨格を有する化合物の含有量は、例えばプロピレンカーボネートなどの非水電解質成分の含有量だけで決まるものではなく、様々なファクターの影響を受ける。第2の実施形態に係る非水電解質電池の製造方法は、先に説明した条件を満たすおかげで、第1の実施形態に係る非水電解質電池を製造することができる。
【0121】
以下に、
図3を参照しながら、第2の実施形態に係る非水電解質電池の製造方法の一例によって製造した非水電解質電池と、参考例の製造方法によって製造した非水電解質電池とにおける、負極材料層の表面に形成された被膜中のプロピレングリコール骨格を有する化合物の含有量について説明する。
【0122】
図3は、第2の実施形態に係る非水電解質電池の製造方法の一例によって製造した非水電解質電池(実線)と参考例の製造方法によって製造した非水電解質電池(一点鎖線)とについての、負極材料層上に形成した被膜中のプロピレングリコール骨格を有する化合物の含有量と放電容量との関係を概略的に示したグラフである。
【0123】
第2の実施形態に係る非水電解質電池の製造方法の一例と、参考例の製造方法とは、電解質中のLiPF
6比率を除き同じである。なお、第2の実施形態に係る非水電解質電池の製造方法の一例及び参考例の製造方法では、負極活物質として、1.55V(vs.Li/Li
+)の電位でリチウムの吸蔵及び放出が可能なスピネル構造のリチウムチタン酸化物(Li
4Ti
5O
12)の粉末を用いた。
【0124】
図3から明らからなように、第2の実施形態に係る非水電解質電池の製造方法の一例によって製造した非水電解質電池は、上記プロピレングリコール骨格を有する化合物を、負極材料層1g当たり2μmol以上40μmol以下の量で含む被膜が形成していた。当該非水電解質電池の放電容量が初回放電容量の80%以上である場合、この被膜中の上記プロピレングリコール骨格を有する化合物の含有量は、負極材料層1g当たり40μmolを超えなかった。
【0125】
一方、
図3から明らかなように、参考例の製造方法によって製造した非水電解質電池では、非水電解質電池製造直後に、負極材料層1g当たり40μmolを超える含有量で上記プロピレングリコール骨格を有する化合物を含む被膜が生じた。そして、
図3から明らかなように、参考例の製造方法によって製造した非水電解質電池における被膜中の上記プロピレングリコール骨格を有する化合物の含有量は、第1の実施形態に係る一例の非水電解質電池よりも高い速度で増加した。
【0126】
このように、第1の実施形態に係る非水電解質電池は、例えば、第2の実施形態に係る非水電解質電池の製造方法によって製造できる。
【0127】
また、炭素質物のようなリチウムの吸蔵放出電位が0.78V(vs.Li/Li
+)未満である負極活物質を用い、非水電解質がプロピレンカーボネートを含む非水電解質電池では、負極活物質の還元性が高いために、電池ユニットの初充電により、プロピレンカーボネートの分解が激しく進行し、大量のSEIが生じる。そのため、このような非水電解質電池では、SEIが負極材料層の重量1gあたり40μmolを遥かに超えてしまい、プロピレングリコール骨格を有する化合物の含有量は上記範囲内に入り得ない。このように大量のSEIが生じた非水電解質電池は、抵抗上昇が起こり得る。また、炭素質物を負極活物質として用いると、プロピレンカーボネートの分解反応時に炭素質物を含有する負極自体の構造が崩壊し得る。その結果、容量の劣化や余分な抵抗上昇が起こり得る。
【0128】
第2の実施形態の非水電解質電池の製造方法は、第1の実施形態に係る非水電解質電池を製造することができる。先に説明したように、第1の実施形態に係る非水電解質電池は、自己放電と電池抵抗の上昇とを抑制することができる。つまり、第2の実施形態によると、自己放電と電池抵抗の上昇とを抑制することができる非水電解質電池を製造することができる。
【0129】
[実施例]
以下、実施例に基づいて上記実施形態をさらに詳細に説明する。
【0130】
(実施例1)
実施例1では、
図1及び
図2に示す非水電解質電池1を以下のようにして製造した。
【0131】
<負極5の作製>
負極活物質として、1.55V(vs.Li/Li
+)の電位でリチウムの吸蔵及び放出が可能なスピネル構造のリチウムチタン酸化物(Li
4Ti
5O
12)の粉末を用いた。この負極活物質を85重量部の割合で含み、導電剤としてグラファイトを5重量部及びアセチレンブラックを5重量部の割合で含み、且つ結着剤としてPVdFを5重量部の割合で含む負極合剤を調製した。この負極合剤をN−メチルピロリドン(NMP)に加えて、負極作製用スラリーを調製した。負極作製用スラリーは、露点が−20℃である雰囲気下で、ジルコニアビーズを用いたスラリー分散を2時間行うことにより調製した。
【0132】
このようにして調製した負極作製用スラリーを厚さ15μmのアルミ箔(負極集電体5a)に塗布した。この際、負極集電体5aに、表面に負極作製用スラリーが塗布されていない部分を残した。次に、負極作製用スラリーを塗布した負極集電体5aを乾燥させ、次いでプレス処理に供した。かくして、負極集電体5aと、負極集電体5a上に形成された負極材料層5bとを含む負極5が得られた。
【0133】
次に、このようにして得られた負極5のうち負極材料層5bが形成されていない部分に負極端子8を接続した。
【0134】
<正極4の作製>
正極活物質としてリチウムニッケルコバルト酸化物(LiNi
0.8Co
0.2O
2)の粉末を用いた。この正極活物質を91重量%の割合で含み、アセチレンブラックを2.5重量%及びグラファイトを3重量%の割合で含み且つポリフッ化ビニリデン(PVdF)を3.5重量%の割合で含む正極合剤を調製した。この正極合剤をNMPに加えて、正極作製用スラリーを調製した。
【0135】
この正極作製用スラリーを厚さ15μmのアルミ箔(正極集電体4a)に塗布した。この際、正極集電体4aに、表面に正極作製用スラリーが塗布されていない部分を残した。次に、正極作製用スラリーを塗布した正極集電体4aを乾燥させ、次いでこれをプレス処理に供した。かくして、正極集電体4aと、正極集電体4a上に形成された正極材料層4bとを含む正極4が得られた。
【0136】
次に、このようにして得られた正極4のうち表面に正極材料層4bが形成されていない部分に正極端子7を接続した。
【0137】
<電極群3の作製>
上記のように作製した正極4と、厚さ20μmのポリエチレン製多孔質フィルムからなるセパレータ6と、上記のように作製した負極5と、もう一枚のセパレータ6とをこの順序で積層させて、積層体を得た。この際、
図2に示すように、正極4の正極材料層4aと負極5の負極材料層5aとが、セパレータ6を介して対向するように積層させた。この積層体を、負極5が最外周に位置するように渦巻き状に捲回して電極群アセンブリを作製した。これを90℃で加熱プレスすることにより、
図1に示すような、幅58mm、高さ95mm、厚さ3.0mmの偏平状電極群3を作製した。
【0138】
<外装部材2への収容>
次に、ラミネートフィルムからなる外装部材2を用意した。ラミネートフィルムは、厚さが40μmのアルミニウム箔とその両面に形成されたポリプロピレン層とで構成され、厚さは0.1mmであった。
【0139】
この外装部材2内に、上記のようにして得られた電極群3を収容した。この際、正極端子7及び負極端子8を外装部材2の開口部から外部に延出させた。収容後、外装部材2内を、80℃で24時間真空乾燥した
<非水電解質の調製>
エチレンカーボネート(EC)と、メチルエチルカーボネート溶媒(EMC)とを1:4の体積比となるよう混合し、混合溶媒を調製した。
【0140】
この混合溶媒に対して、プロピレンカーボネート(PC)を1:4の体積比となるよう混合し、非水溶媒を調製した。すなわち、この非水溶媒においてプロピレンカーボネートが占める体積の比率は20%であった。
【0141】
このようにして調製した非水溶媒に六フッ化リン酸リチウム(LiPF
6)を1.0mol/Lの濃度で溶解させて、非水電解質を得た。すなわち、この非水電解質が含む電解質においてLiPF
6が占める物質量の比率は100%であった。
【0142】
<非水電解質の注入>
電極群3を収容した外装部材2に、上記のように調製した非水電解液を注入し、封入した。かくして、電池ユニット1を作製した。
【0143】
<初充電及び再充電>
電池ユニット1を、0.2Cレートで電池電圧が3Vになるまで充電し、そのまま3Vで3時間放置した。この電池ユニットを0.2Cのレートで電池電圧が1.2Vになるまで放電した際の電気量を充電可能容量とした。放電した電池ユニットを、再び、0.2Cレートで電池電圧が3Vになるまで充電し、そのまま3Vで3時間放置した。このときの状態の非水電解質電池1の充電率を100%、すなわち満充電とした。その後、電池ユニット1を0.2Cレートで電池電圧が1.2Vになるまで放電した。次いで、この電池ユニット1を、充電率が45%となるよう再充電した。
【0144】
<エージング>
再充電した電池ユニット1を60℃の恒温槽内に48時間保持して、エージングを行った。かくして、非水電解質電池1が完成した。
【0145】
<初回放電容量の測定>
続いて、完成した非水電解質電池1を、30℃環境で0.2Cレートで1サイクル充放電し、その後、再度充電して充電率を50%に調整した。このときの放電容量を測定し、初回放電容量とした。
【0146】
<寿命試験>
初回放電容量を測定後、非水電解質電池1を充電率が100%になるよう調整し、50℃環境下で保存した。5日毎に30℃環境下に戻し、再度充放電を行うことで容量確認を行った。確認された容量が初回充放電容量の80%になるまで、充電と貯蔵を繰り返し行った。非水電解質電池1の放電容量が初回放電容量の80%になったら、貯蔵を中止した。
【0147】
放電容量が初回放電容量の80%である非水電解質電池1に対し、充電率が100%になるよう充電を行い、次いで1Cレートで電池電圧が1.2Vになるまで放電を行った。続いて、この非水電解質電池1に対し、再度充電率が100%になるよう充電を行い、次いで10Cレートで同様に放電を行った。10Cレートでの放電容量の1Cレートの放電容量に対する比を、レート特性とした。
【0148】
実施例1の非水電解質電池1のレート特性は、0.75であった。
【0149】
<被膜の形成の確認>
エージング後に得られた非水電解質電池1及びレート特性取得後の非水電解質電池1を用いて、先に説明した方法に従い、XPS測定を行った。レート特性取得後の非水電解質電池1に対しては、充電率が50%になるよう充電を行った後に測定を行った。エッチングを行いながら深さ方向に分析を行い、Li、C、O、F及びPのそれぞれの元素についてのデプスプロファイルを得た。
【0150】
放電容量が初回放電容量の80%である非水電解質電池1は、エージング後の非水電解質電池1に比べて、負極材料層5bの表面近傍におけるC元素の相対値が増加していた。この結果から、初回放電容量の80%以上の放電容量を有する非水電解質電池1が、エージング後の非水電解質電池1よりも成長した有機被膜を負極5上に有していることが確認できた。
【0151】
<被膜成分の定量>
エージング後に得られた非水電解質電池1及びレート特性取得後の非水電解質電池1を用いて、先に説明した方法に従い、被膜中の負極材料層5bの重量1g当たりのプロピレングリコール骨格を有する化合物の含有量を測定した。レート特性取得後の非水電解質電池1については、充電率が50%になるよう充電を行った後に測定を行った。内部標準物質としては、マレイン酸を用いた。その結果、エージング後に得られた非水電解質電池1では、被膜中のプロピレングリコール(PG)骨格を有する化合物の含有量が、負極材料層5bの重量1g当たり、10μmolであったことが分かった。一方、レート特性取得後の非水電解質電池1では、被膜中のプロピレングリコール(PG)骨格を有する化合物の含有量は、負極材料層5bの重量1g当たり、24μmolであったことが分かった。
【0152】
(実施例2)
非水溶媒の調製の際、非水溶媒においてプロピレンカーボネートが占める体積の比率が10%となるようにした以外は実施例1と同様にして、非水電解質電池1を作製した。
【0153】
(実施例3)
非水溶媒に、電解質として、六フッ化リン酸リチウム(LiPF
6)及び四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF
4)を、それぞれ、0.9mol/L及び0.1mol/Lの濃度で溶解させて非水電解質を得た以外は実施例1と同様にして、非水電解質電池1を作製した。すなわち、この非水電解質電池1が具備する非水電解質においてLiPF
6が占める物質量の比率は90%であった。
【0154】
(実施例4)
非水溶媒に、電解質として、六フッ化リン酸リチウム(LiPF
6)及び六フッ化ヒ酸リチウム(LiAsF
6)を、それぞれ、0.9mol/L及び0.1mol/Lの濃度で溶解させて非水電解質を得た以外は実施例1と同様にして、非水電解質電池1を作製した。すなわち、この非水電解質電池1が具備する非水電解質においてLiPF
6が占める物質量の比率は90%であった。
【0155】
(実施例5)
エージングを70℃で48時間行った以外は実施例1と同様にして、非水電解質電池1を作製した。
【0156】
(実施例6)
エージングを60℃で96時間行った以外は実施例1と同様にして、非水電解質電池1を作製した。
【0157】
(比較例1及び2)
非水溶媒の調製の際、非水溶媒においてプロピレンカーボネート(PC)が占める体積の比率がそれぞれ0%及び60%となるようにした以外は実施例1と同様にして、非水電解質電池を作製した。
【0158】
(比較例3)
非水溶媒に、電解質として、六フッ化リン酸リチウム(LiPF
6)及び四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF
4)を、それぞれ、0.5mol/L及び0.5mol/Lの濃度で溶解させて非水電解質を得た以外は実施例1と同様にして、非水電解質電池を作製した。すなわち、この非水電解質電池1が具備する非水電解質においてLiPF
6が占める物質量の比率は50%であった。
【0159】
(比較例4)
非水溶媒に、電解質として、六フッ化リン酸リチウム(LiPF
6)及び六フッ化ヒ酸リチウム(LiAsF
6)を、それぞれ、0.5mol/L及び0.5mol/Lの濃度で溶解させて非水電解質を得た以外は実施例1と同様にして、非水電解質電池を作製した。すなわち、この非水電解質電池1が具備する非水電解質においてLiPF
6が占める物質量の比率は50%であった。
【0160】
(比較例5)
エージングを90℃で48時間に亘って行った以外は実施例1と同様にして、非水電解質電池を作製した。
【0161】
(比較例6)
エージングを60℃で200時間に亘って行った以外は実施例1と同様にして、非水電解質電池を作製した。
【0162】
(比較例7)
負極活物質としてグラファイトを用い、初回充放電における充電上限電圧を4.2V、放電下限電圧を3.0Vに変更した以外は実施例1と同様にして、非水電解質電池を作製した。
【0163】
<結果>
実施例2〜6の非水電解質電池1及び比較例1〜7の非水電解質電池に対して、実施例1と同様にして、負極材料層5bの重量1g当たりのプロピレングリコール骨格を有する化合物の含有量(PG骨格量)及びレート特性(出力特性)を測定した。これらの結果を、各実施例及び比較例における非水電解質電池1の作製条件と併せて、以下の表1に示す。
【表1】
【0164】
表1に示した結果から、実施例1〜6の非水電解質電池1は、比較例1〜7の非水電解質電池よりも、レート特性に優れていたことが分かった。
【0165】
これは、実施例1〜7の非水電解質電池1は、負極材料層5b上に形成した被膜がプロピレングリコール骨格を有する化合物を負極材料層5bの重量1g当たり2μmol〜40μmolの量で含有していたおかげにより、電池抵抗の上昇を抑制しながら、自己放電を抑制できたからである。
【0166】
一方、比較例1の非水電解質電池では、形成したプロピレングリコール骨格を有する化合物の含有量が低く過ぎたため自己放電を十分に抑制できず、その結果、10Cレートでの放電容量が1Cレートでの放電容量よりも著しく低くなったからであると考えられる。
【0167】
また、比較例2〜6では、プロピレングリコール骨格を有する化合物が過剰に形成したために電池抵抗の上昇を十分に抑制できず、その結果、レート特性が低かったと考えられる。
【0168】
そして、比較例7では、負極活物質として炭素質物であるグラファイトを用いたため、プロピレンカーボネートの分解に伴う大量の被膜がカーボン負極上に形成してしまい、レート特性の測定が実質できなくなるほど抵抗が増加してしまったと考えられる。
【0169】
実施例1及び2と比較例1との比較から、非水電解質の調製の際の非水溶媒におけるプロピレンカーボネートの比率が低過ぎると、プロピレングリコール骨格を有する化合物を有する被膜が十分に形成されないことが分かる。また、実施例1及び2と比較例2との比較から、非水電解質の調製の際の非水溶媒におけるプロピレンカーボネートの比率が高過ぎると、プロピレングリコール骨格を有する化合物を有する被膜が過剰に形成されることが分かる。
【0170】
実施例1、3及び4の結果の比較から、複数種類の電解質を用いた場合でも、非水溶媒に溶解させる電解質においてLiPF
6が占める割合が70mol%以上であれば、負極材料層5b上に形成した被膜が、負極材料層5bの重量1g当たり2〜40μmolの量でプロピレングリコール骨格を有する化合物を含むことができることが分かる。また、実施例3及び4の結果の比較から、LiPF
6に混合させる電解質が変わっても、同様の効果が得られることが分かる。
【0171】
一方、比較例3及び4の結果から、非水溶媒に溶解させる電解質においてLiPF
6が占める割合が70mol%未満である場合、負極材料層上に過剰な被膜が形成し、その結果、レート特性が低下することが分かる。
【0172】
比較例5の結果から、エージングの温度が高過ぎると、プロピレングリコール骨格を有する化合物を含む被膜が過剰に形成され、レート特性が悪化することが分かる。これは、初期の被膜が形成し得るエージングの際の温度が高過ぎて、非水電解質が分解し過ぎたためであると考えられる。同様に、比較例6の結果から、エージング時間が長すぎると、被膜の成長を過剰に促して、レート特性が悪化することが分かる。
【0173】
(実施例7〜実施例12)
実施例7〜12では、非水溶媒に、電解質として、六フッ化リン酸リチウム(LiPF
6)及び以下の表2に示す電解質を、それぞれ、0.9mol/L及び0.1mol/Lの濃度で溶解させて非水電解質を得た以外は実施例1と同様にして、非水電解質電池1を作製した。すなわち、実施例7〜12の非水電解質電池1が具備する非水電解質においてLiPF
6が占める物質量の比率は90%であった。
【0174】
<結果>
実施例7〜12の非水電解質電池1に対して、実施例1と同様にして、負極材料層5bの重量1g当たりのプロピレングリコール骨格を有する化合物の含有量(PG骨格量)及びレート特性(出力特性)を測定した。これらの結果を、各実施例における非水電解質電池1の作製条件と併せて、以下の表2に示す。
【表2】
【0175】
表1及び表2の結果を比較すると、実施例7〜12の非水電解質電池1も、実施例1〜6の非水電解質電池1と同様に、比較例1〜7の非水電解質電池よりも、レート特性に優れていたことが分かった。この理由は、実施例1〜6の非水電解質電池1がレート特性に優れていた理由と同様である。
【0176】
また、実施例1、3、4、7〜12の結果の比較から、複数種類の電解質を用いた場合でも、非水溶媒に溶解させる電解質においてLiPF
6が占める割合が70mol%以上であれば、負極材料層5b上に形成した被膜が、負極材料層5bの重量1g当たり2〜40μmolの量でプロピレングリコール骨格を有する化合物を含むことができることが分かる。また、特に、実施例3、7及び8の非水電解質電池1のレート特性が著しく優れていることが分かる。この結果から、LiPF
6に混合させる電解質中にホウ素を含むことで更に被膜量をより好ましい範囲に調整することができ、レート特性が改善できることが分かる。すなわち、負極材料層5b上に形成した被膜が、負極材料層5bの重量1g当たり10〜14μmolの量でプロピレングリコール骨格を有する化合物を含むことがより好ましいことが分かる。
【0177】
以上に説明した少なくとも1つの実施形態及び実施例によると、0.78V(vs.Li/Li
+)以上の電位でリチウムの吸蔵及び放出が可能な負極活物質を含む負極材料層と、負極材料層の重量1g当たり2μmol以上40μmol以下の量でプロピレングリコール骨格を有する化合物を含有する被膜とを含むおかげで、自己放電と電池抵抗の上昇とを抑制することができる非水電解質電池を提供することができる。
【0178】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
以下に、本願の出願当初の特許請求の範囲に記載していた発明を付記する。
[1]正極と、負極集電体、及び前記負極集電体上に形成され、0.78V(vs.Li/Li+)以上の電位でリチウムの吸蔵及び放出が可能な負極活物質を含む負極材料層を備え、前記負極材料層の少なくとも一部の表面上に、下記(1)式で表されるプロピレングリコール骨格を有する化合物を含有する被膜が形成されている負極と、非水電解質とを具備し、前記被膜中の前記プロピレングリコール骨格を有する化合物の含有量は、前記負極材料層の重量1g当たり2μmol以上40μmol以下の量であることを特徴とする非水電解質電池。
【化1】
[2]前記負極活物質はスピネル型のチタン酸リチウムを含むことを特徴とする[1]に記載の非水電解質電池。
[3]前記非水電解質は非水溶媒を含み、前記非水溶媒はプロピレンカーボネートを含み、前記非水溶媒中の前記プロピレンカーボネートの含有量は、前記非水溶媒の体積に対して5体積%以上50体積%以下の範囲内にあることを特徴とする[2]に記載の非水電解質電池。
[4]前記被膜はアルコキシ基を有する化合物を更に含むことを特徴とする[2]に記載の非水電解質電池。
[5]前記非水電解質は、非水溶媒と、前記非水溶媒中に溶解した電解質とを含み、前記電解質はLiPF6を含み、LiPF6は前記電解質の70mol%以上を構成していることを特徴とする[2]に記載の非水電解質電池。
[6]前記非水電解質は、LiPF6に加えて、追加の電解質を含み、前記追加の電解質は、過塩素酸リチウム(LiClO4)、四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF4)、六フッ化ヒ酸リチウム(LiAsF6)、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム(LiCF3SO3)、ビストリフルオロメチルスルホニルイミドリチウム[LiN(CF3SO2)2]、N,N−ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウム(LiTFSI)、N、N−ビスペンタフルオロエタンスルホニルアミドリチウム(LiBETI)、ビス(フルオロスルホニル)イミドリチウム(LiFSI)、ジフルオロリン酸リチウム(LiPF2O2)、モノフルオロリン酸リチウム(LiPFO3H)、ビスオキサラトホウ酸リチウム(LiB(C2O4)2)、ジフルオロ(オキサラト)ホウ酸リチウム(LiF2BC2O4)、ジフルオロ(トリフルオロ−2−オキシド−2−トリフルオロ−メチルプロピオナト(2−)−0,0)ホウ酸リチウム(LiBF2(OCOOC(CF3)2)、及びこれらの混合物からなる群より選択されることを特徴とする[5]に記載の非水電解質二次電池。
[7]前記追加の電解質は、ホウ素を含むことを特徴とする[6]に記載の非水電解質二次電池。
[8]負極集電体と、前記負極集電体上に形成され、0.78V(vs.Li/Li+)以上の電位でリチウムの吸蔵及び放出が可能な負極活物質を含む負極材料層とを備える負極を含んだ電極群、及び、プロピレンカーボネートを5体積%以上50体積%以下の含有量で含有した非水溶媒と、LiPF6を70mol%以上の含有量で含有し、前記非水溶媒中に溶解した電解質とを含む非水電解質を用意することと、外装部材内に前記電極群及び前記非水電解質を封入して、電池ユニットを作製することと、前記電池ユニットに対し、初回充放電を行うことと、前記初回充放電を行った前記電池ユニットを再充電して、充電率を20%以上80%以下にすることと、前記再充電した前記電池ユニットを、50℃以上80℃以下の温度に保持することとを含むことを特徴とする[1]に記載の非水電解質電池の製造方法。
[9]前記再充電した前記電池ユニットを50℃以上80℃以下の温度に保持することは、24時間以上120時間以下の時間に亘って行うことを特徴とする[8]に記載の非水電解質電池の製造方法。