特許第6382662号(P6382662)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6382662
(24)【登録日】2018年8月10日
(45)【発行日】2018年8月29日
(54)【発明の名称】電池温度推定方法及び電池温度推定装置
(51)【国際特許分類】
   G01R 31/36 20060101AFI20180820BHJP
   H01M 10/48 20060101ALI20180820BHJP
   H01M 10/44 20060101ALI20180820BHJP
【FI】
   G01R31/36 AZHV
   H01M10/48 301
   H01M10/48 P
   H01M10/44 P
【請求項の数】9
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2014-195828(P2014-195828)
(22)【出願日】2014年9月25日
(65)【公開番号】特開2016-65831(P2016-65831A)
(43)【公開日】2016年4月28日
【審査請求日】2017年2月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】399107063
【氏名又は名称】プライムアースEVエナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】西 弘貴
(72)【発明者】
【氏名】木庭 大輔
(72)【発明者】
【氏名】松田 悠介
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 雄太
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 均
(72)【発明者】
【氏名】逢坂 哲彌
【審査官】 永井 皓喜
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2013/0314049(US,A1)
【文献】 特開平10−232273(JP,A)
【文献】 特開2014−102111(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/054813(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0076705(US,A1)
【文献】 特開2011−18532(JP,A)
【文献】 特開2001−85071(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 31/36
G01R 27/02
H01M 10/44
H01M 10/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
負極の容量に正極の容量を放電側に超える容量である放電リザーブを有するニッケル水素二次電池で構成される電池の温度を推定する電池温度推定方法であって、
負極の充電量を取得するとともに、電池の交流インピーダンスの周波数変化に含まれる反応抵抗に起因する交流インピーダンスの虚数成分の絶対値の極大値に対応する特徴値を求め、前記取得した負極の充電量及び前記求めた特徴値を、予め定められている特徴値と負極の充電量と電池の温度との相関関係を示す温度情報と照合することに基づいて電池の温度を推定し、
前記電池の温度を、照合により得られる負極の充電量であって、前記放電リザーブを含んでいる前記負極の充電量に基づいて算出する
ことを特徴とする電池温度推定方法。
【請求項2】
前記反応抵抗に起因する交流インピーダンスは、ナイキスト線図において前記反応抵抗に起因する領域に1つの円弧として示される
請求項1に記載の電池温度推定方法。
【請求項3】
前記照合する温度情報を、負極の充電量の変化に対する特徴値の変化量と電池の温度との相関関係を示す情報として定めておき、
前記求めた特徴値の前記負極の充電量の変化に対する変化量を前記温度情報と照合することに基づいて電池の温度を推定する
請求項1又は2に記載の電池温度推定方法。
【請求項4】
前記照合する温度情報を、各異なる負極の充電量における特徴値と電池の温度との相関関係を示す情報として定めておき、
前記求めた特徴値をその都度の負極の充電量に対応する温度情報と照合することに基づいて電池の温度を推定する
請求項1又は2に記載の電池温度推定方法。
【請求項5】
前記特徴値を交流インピーダンスの実数成分のうち反応抵抗に起因する交流インピーダ
ンスを含むように予め定められた範囲から取得する
請求項1〜のいずれか一項に記載の電池温度推定方法。
【請求項6】
前記電池の交流インピーダンスの周波数変化に、回路抵抗と溶液抵抗と反応抵抗と拡散抵抗とにそれぞれ対応する構成を有する等価回路を対応させ、該対応させた等価回路のうち、反応抵抗に対応する等価回路の値から前記特徴値を取得する
請求項1〜のいずれか一項に記載の電池温度推定方法。
【請求項7】
負極の容量に正極の容量を放電側に超える容量である放電リザーブを有するニッケル水素二次電池で構成される電池の温度を推定する電池温度推定装置であって、
前記負極の充電量に関する情報を取得する充電量取得部と、
前記電池の交流インピーダンスを測定するインピーダンス測定部と、
前記インピーダンス測定部により測定された交流インピーダンスの周波数変化に含まれる反応抵抗に起因する交流インピーダンスの虚数成分の絶対値の極大値に対応する特徴値を取得する特徴値取得部と、
前記取得した負極の充電量に関する情報及び特徴値を、予め設定されている特徴値と負極の充電量と電池の温度との相関関係を示す温度情報と照合することによって電池の温度を推定する推定部と、を備え、
前記推定部は、前記電池の温度を、照合により得られる負極の充電量であって、前記放電リザーブを含んでいる前記負極の充電量に基づいて算出する
ことを特徴とする電池温度推定装置。
【請求項8】
前記特徴値取得部は、負極の充電量が変化する前後の特徴値をそれぞれ取得し、
前記充電量取得部は、前記変化する負極の充電量を取得し、
前記推定部は、前記温度情報として負極の充電量の変化に対する特徴値の変化量と電池の温度との相関関係を示す情報を用い、前記負極の充電量が変化する前後の特徴値から得られる前記負極の充電量の変化に対する変化量と前記温度情報とを照合することによって電池の温度を推定する
請求項に記載の電池温度推定装置。
【請求項9】
前記推定部は、前記温度情報として各異なる負極の充電量における特徴値と電池の温度との相関関係を示す情報を用い、前記特徴値と前記充電量取得部より取得された負極の充電量に対応する温度情報とを照合することによって電池の温度を推定する
請求項に記載の電池温度推定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池の状態として電池の温度を推定する電池温度推定方法、及び、電池温度推定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電池を収容する電槽外部に設置されたサーミスタや熱電対などの温度センサを用いて電池の温度を測定する技術が知られている。そして、温度センサで温度を測る技術としては、電池内部の実際の温度と温度センサによる測定温度との誤差を少なくするために、温度センサの電槽に向かい合わない面を断熱性クッションで梱包する技術(特許文献1)なども知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実開平4−129470号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の技術によれば、測定する温度の精度が高められるようになるが、温度センサを設けるための構造が複雑になるおそれがある。また、温度センサは、電池の外側の温度を測定することになるため、その測定する温度に電池内部の温度が正確に反映されないおそれもある。
【0005】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであって、その目的は、温度センサを用いることなく、電池の温度をより高い精度で推定することが可能な電池温度推定方法及び電池温度推定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決する電池温度推定方法は、電池の温度を推定する電池温度推定方法であって、電池の充電量を取得するとともに、電池の交流インピーダンスの周波数変化に含まれる反応抵抗に起因する交流インピーダンスの虚数成分の絶対値の極大値に対応する特徴値を求め、前記取得した充電量及び前記求めた特徴値を、予め定められている特徴値と電池の充電量と電池の温度との相関関係を示す温度情報と照合することに基づいて電池の温度を推定することを要旨とする。
【0007】
上記課題を解決する電池温度推定装置は、電池の温度を推定する電池温度推定装置であって、前記電池の充電量に関する情報を取得する充電量取得部と、前記電池の交流インピーダンスを測定するインピーダンス測定部と、前記インピーダンス測定部により測定された交流インピーダンスの周波数変化に含まれる反応抵抗に起因する交流インピーダンスの虚数成分の絶対値の極大値に対応する特徴値を取得する特徴値取得部と、前記取得した充電量に関する情報及び特徴値を、予め設定されている特徴値と電池の充電量と電池の温度との相関関係を示す温度情報と照合することによって電池の温度を推定する推定部と、を備えることを要旨とする。
【0008】
このような方法又は構成によれば、電池の温度を特徴値と電池の充電量との相関関係から推定することができる。これにより、温度センサを用いることなく電池の温度を推定することができるようになる。また、電池の交流インピーダンスに基づくものであることから非破壊で電池の温度を推定することができる。さらに、特徴値と電池の充電量との相関関係に基づき推定されることで電池の温度がより高い精度で推定されるようになる。
【0009】
好ましい方法として、前記照合する温度情報を、電池の充電量の変化に対する特徴値の変化量と電池の温度との相関関係を示す情報として定めておき、前記求めた特徴値の前記電池の充電量の変化に対する変化量を前記温度情報と照合することに基づいて電池の温度を推定する。
【0010】
好ましい構成として、前記特徴値取得部は、電池の充電量が変化する前後の特徴値をそれぞれ取得し、前記充電量取得部は、前記変化する充電量を取得し、前記推定部は、前記温度情報として電池の充電量の変化に対する特徴値の変化量と電池の温度との相関関係を示す情報を用い、前記電池の充電量が変化する前後の特徴値から得られる前記電池の充電量の変化に対する変化量と前記温度情報とを照合することによって電池の温度を推定する。
【0011】
このような方法又は構成によれば、電池の温度が、電池の充電量の変化に対する特徴値の変化量、例えば、単位電気量あたりの特徴量の変化量に基づいて推定されるようになる。つまり電池の充電量が不明な場合であれ、そのときの特徴値と、そこから所定の電気量を充放電したときの特徴値との2つの特徴値の変化量に基づいて電池の温度が推定される。
【0012】
好ましい方法として、前記照合する温度情報を、各異なる充電量における特徴値と電池の温度との相関関係を示す情報として定めておき、前記求めた特徴値をその都度の充電量に対応する温度情報と照合することに基づいて電池の温度を推定する。
【0013】
好ましい構成として、電池の充電量を取得する充電量取得部を更に備え、前記推定部は、前記温度情報として各異なる充電量における電池の特徴値と電池の温度との相関関係を示す情報を用い、前記特徴値と前記充電量取得部より取得された電池の充電量に対応する温度情報とを照合することによって電池の温度を推定する。
【0014】
このような方法又は構成によれば、その都度の電池の充電量と特徴値とに基づいて電池温度を推定することができる。つまり、充電量が得られる場合、1つの特徴値からであれ電池の温度が推定される。
【0015】
好ましい方法として、前記特徴値を交流インピーダンスの実数成分のうち反応抵抗に起因する交流インピーダンスを含むように予め定められた範囲から取得する。
このような方法によれば、特徴値が交流インピーダンスの反応抵抗に起因する交流インピーダンスから得られる実数成分により予め定められた範囲から適切に得られる。
【0016】
好ましい方法として、前記電池の交流インピーダンスの周波数変化に、回路抵抗と溶液抵抗と反応抵抗と拡散抵抗とにそれぞれ対応する構成を有する等価回路を対応させ、該対応させた等価回路のうち、反応抵抗に対応する等価回路の値から前記特徴値を取得する。
【0017】
このような方法によれば、電池の交流インピーダンスの周波数変化の反応抵抗に対応する等価回路の部分の値に基づいて特徴値が得られるようになる。よって、反応抵抗に起因する交流インピーダンスに対して他の抵抗(例えば、拡散抵抗)の交流インピーダンスが及ぼす影響が排除される。これにより、反応抵抗に起因する交流インピーダンスが好適に得られるようになるため特徴値をより高い精度で得ることができ、電池の温度をより高い精度で推定することができる。また、等価回路へのフィッティングにより、少ない実測値からであれ、特徴値を正確に得ることができる。
【発明の効果】
【0018】
この電池温度推定方法及び電池温度推定装置によれば、温度センサを用いることなく、電池の温度をより高い精度で推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】電池温度推定装置を具体化した第1の実施形態において、その概略構成を示すブロック図。
図2】同実施形態において、電池の温度を算出する算出手順を示すフローチャート。
図3】同実施形態において、電池の交流インピーダンスから作成されるナイキスト線図の一例をグラフにて示す図。
図4】同実施形態において、電池の各温度毎に予め設定される特徴値(fmax)と負極充電電気量との相関関係を示す相関データの一例をグラフにて示す図。
図5】同実施形態において、充電電気量の変化に対する特徴量の変化量と電池の温度との相関関係の一例をグラフにて示す図。
図6】電池温度推定装置を具体化した第2の実施形態において、その概略構成を示すブロック図。
図7】同実施形態において、電池の温度を算出する算出手順を示すフローチャート。
図8】電池温度推定装置を具体化した第3の実施形態において、電池の温度算出に用いる特徴値を取得する手順を示すフローチャート。
図9】同実施形態において、電池の交流インピーダンスに対応付けられる等価回路の一例を示す回路図。
図10】電池の交流インピーダンスに基づいて作成されるナイキスト線図の一例と、等価回路との関係性について一般的な説明の参考となるグラフを示す図。
図11】電池温度推定装置を具体化した第4の実施形態において、電池の交流インピーダンスから作成されるナイキスト線図の一例をグラフにて示す図。
図12】同実施形態において、電池の交流インピーダンスに対応付けられる等価回路の一例を示す回路図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
(第1の実施形態)
図1図5に従って、電池温度推定方法及び電池温度推定装置を具体化した第1の実施形態について、説明する。この電池温度推定方法及び電池温度推定装置は、例えば、車両に搭載される二次電池などの電池10の温度の推定に用いられる。本実施形態では、電池10はニッケル水素二次電池である。
【0021】
本実施形態では、請求項における電池10の充電量を電池10の負極に充電されている電気量(以下、負極電気量と記す。)とする例について説明する。電池10は、その通常の使用範囲において充電される電気量を電池電気量で示される。電池電気量は、電池10の正極及び負極が同時に充電されるときの電気量である。そして、電池電気量、負極電気量、及び電池10の正極に充電されている電気量(以下、正極電気量と記す。)の間には相互に相関関係があり、それらの電気量を相互に算出可能である。また、一般に、ニッケル水素二次電池は、負極に充電可能な電気量である電気容量を、正極に充電可能な電気量である電気容量よりも多くして、いわゆる正極規制になるように調整されており、容量ずれが生じていなければ、通常、電池に充電可能な電気量である電池電気容量は正極電気容量に等しくなる。また、通常、電池の充放電に対する、電池電気量の変化量と、正極電気量の変化量と、負極電気量の変化量とは等しい。これらのことから、電池10の充電量を負極電気量とすることが可能である。なお、これに限らず、請求項における電池10の充電量を電池電気量とすることや、正極電気量とすることも可能である。
【0022】
図1に示すように、電池10は図示しない開閉器などを介して負荷や充電器等に接続されている。電池10は、その温度が推定される際、開閉器が開かれて負荷等から切り離され、一方、電池電気量が変更される際、開閉器が閉じられて負荷等に接続される。また、この装置は、電池10に交流電流を供給する交流供給部20と、電池10の電極間の電圧を測定する電圧測定器21と、交流供給部20と電池10との間に流れる電流を測定する電流測定器22とを備えている。さらに、この装置は、電池10の温度を推定する電池温度推定装置としての推定装置30を備えている。
【0023】
交流供給部20は、所定の周波数の交流電流を生成し、この生成した交流電流を電池10の電極間に出力する。また、交流供給部20は、交流電流の周波数を変化させることが可能である。交流供給部20は、電流と周波数範囲とが設定されており、この設定された電流の交流電流を、同設定された周波数の範囲で順次変化させた周波数で出力させることができる。設定される周波数の範囲としては、例えば、100kHz(高周波数)から1mHz(低周波数)までが挙げられるが、これに限られるものではなく、高周波数の値や低周波数の値はこれよりも高くなったり低くなったりしてもよい。
【0024】
交流供給部20は、出力している交流電流の設定電流及び設定周波数に関する各信号を推定装置30に出力する。また、交流供給部20は、推定装置30から入力される出力の開始及び停止の信号に応じて交流電流を出力させる。
【0025】
電圧測定器21は、測定した電池10の電極間の電圧に対応する電圧信号を推定装置30に出力する。
電流測定器22は、測定した交流供給部20と電池10との間に流れる電流に対応する電流信号を推定装置30に出力する。
【0026】
推定装置30は、取得された各情報に基づいて、電池10の温度を推定する。推定装置30は、推定した電池10の温度を表示させたり、外部に出力させたりすることができてもよい。これにより、電池10に温度センサを取り付けなくても電池10の温度を取得することができるようになる。また、外部に出力された電池10の温度が電池10の電池制御装置(図示略)にて利用されることによって、電池制御装置は電池10の温度に応じての充放電制御などを行うことができるようになる。
【0027】
推定装置30は、電圧測定器21から入力される電圧信号から電圧を取得し、電流測定器22から入力される電流信号から電流を取得する。推定装置30は、交流供給部20から入力される信号から交流電流の設定電流及び設定周波数を取得してもよい。
【0028】
また、推定装置30は、電池10の温度を推定する処理を行う処理部40と、電池10の温度の推定に用いられるデータを保持する記憶部50とを備える。処理部40は、コンピュータを含み構成されており、演算装置、揮発性メモリ、不揮発性メモリなどを備える。また処理部40は、記憶部50との間でデータの授受が可能である。記憶部50は、ハードディスクやフラッシュメモリなどの不揮発性の記憶装置であり、各種データを保持する。
【0029】
記憶部50には、電池の反応抵抗に起因する交流インピーダンスから取得される特徴値(fmax)と電池の温度との相関関係を示す温度情報としての相関データ51が予め設定されている。後に述べるように、特徴値(fmax)は、電池の交流インピーダンスに対応するナイキスト線図において電池の反応抵抗に対応する領域(反応抵抗に起因する交流インピーダンス)に対応するものとして得られる電池の交流インピーダンスの虚数成分の絶対値の極大値である。相関データ51は、上記相関関係を、負極電気量の変化に対する特徴値の変化量と電池の温度との相関関係により示すものとして設定されている。また記憶部50には、算出用パラメータ52が記憶されている。
【0030】
電池の温度を算出する処理の作用について説明する。
図2に示すように、処理部40では、電池10の交流インピーダンスZを測定する処理(図2のステップS10)と、交流インピーダンスZからナイキスト線図を作成する処理(図2のステップS20)と、ナイキスト線図から特徴値を取得する処理(図2のステップS30)とが行われる。そして、処理部40は、取得した特徴値が1つだけの場合(図2のステップS40でNO)、負極電気量を変化させる処理を行い(図2のステップS41)、もう1つの特徴値を取得する(ステップS10,S20,S30)。なお通常、負極電気量は、電池10が充放電されることで変化する。一方、処理部40は、取得された特徴値が2つの場合(図2のステップS40でYES)、取得した2つの特徴値に基づいて特徴値の傾きを算出する処理(図2のステップS50)と、この特徴値の傾きを、予め記憶部50に記憶してある相関データ51と照合して電池の温度を推定する処理(図2のステップS60)とが行われる。
【0031】
上記各処理について詳述する。
処理部40は、交流インピーダンスZを測定するインピーダンス測定部41と、ナイキスト線図を作成するナイキスト線図作成部43と、特徴値を取得する特徴値取得部44とを備える。また処理部40は、負極電気量の変化に対する特徴値の傾きを算出する特徴値の傾き算出部45と、電池10の温度を推定する電池温度推定部46とを備える。
【0032】
インピーダンス測定部41では、電池10の交流インピーダンスZを測定する処理(図2のステップS10)が行われる。インピーダンス測定部41は、取得した電圧及び電流に基づいて電池10の交流インピーダンスZを測定する。交流インピーダンスZの単位は[Ω](オーム)であり、ベクトル成分である実数成分Zr[Ω]及び虚数成分Zi[Ω]によって下記式(1)のように表される。なお、「j」は虚数単位である。以下、単位[Ω]は省略する。
【0033】
【数1】
【0034】
ナイキスト線図作成部43は、複数の周波数において測定された交流インピーダンスZに含まれるベクトル成分である実数成分Zrの値と虚数成分Ziの値とに基づいて、ナイキスト線図を作成する。よって、ナイキスト線図として複素平面にインピーダンス曲線N1が作成される。
【0035】
図3に示すように、インピーダンス曲線N1は、交流インピーダンスZの実数成分Zr及び虚数成分Ziの大きさを複素平面にプロットしたものを模式化して示している。このインピーダンス曲線N1は、交流供給部20から電池10に供給される交流電流の周波数を変化させて測定されている。横軸は実数成分Zr、縦軸は虚数成分Ziである。インピーダンス曲線N1は、負極電気量、電池温度によって変化する。また、ニッケル水素二次電池、リチウムイオン二次電池といった電池種別によって変化する。さらに同じ電池種別でもセル数や容量等が異なる場合には変化する。
【0036】
電池10のインピーダンス曲線N1は、複数の領域に区分することができ、高周波数側から回路抵抗に対応する領域a、溶液抵抗に対応する領域b、反応抵抗に起因する交流インピーダンスに対応するものとしての反応抵抗に対応する領域c、及び略直線状の拡散抵抗に対応する領域dに分けられる。回路抵抗は、活物質や集電体内の接触抵抗などからなる配線等のインピーダンス等である。溶液抵抗は、セパレータ内の電解液内のイオンが移動する際の抵抗等の電子の移動抵抗である。反応抵抗は、電極反応における電荷移動の抵抗等である。拡散抵抗は、物質拡散が関与したインピーダンスである。
【0037】
なお、各抵抗は相互に影響を及ぼし合うため、各領域a,b,c,dを各抵抗のみの影響を受ける部分のみに区分することは困難であるが、少なくともインピーダンス曲線N1の各領域a,b,c,dは、それぞれが最も大きな影響を受ける抵抗によってその曲線の挙動が対応付けられる。
【0038】
特徴値取得部44は、インピーダンス曲線N1から特徴値を取得する。特徴値取得部44は、インピーダンス曲線N1において反応抵抗に対応する領域cを特定する。反応抵抗に対応する領域cは、インピーダンス曲線N1において上に凸の円弧が描かれる範囲に対応する。換言すると、インピーダンス曲線N1において上に凸の円弧が描かれる範囲は、反応抵抗に対応する領域cに対応する。インピーダンス曲線N1において特徴値は、反応抵抗に対応する領域cの交流インピーダンスZのうちの虚数成分Ziの絶対値|Zi|が極大値となるときの交流電流の周波数fmax1[Hz]として取得される。ここでは、インピーダンス曲線N1の反応抵抗に対応する領域cには円弧が1つであることから、虚数成分Ziの絶対値|Zi|の極大値は、反応抵抗に対応する領域cにおける絶対値|Zi|の最大値に等しい。
【0039】
特徴値である周波数fmax1[Hz]は、数百[Hz]よりも小さい値として得られるため、電池10に接続される電圧測定器21や電流測定器22などの配線等の影響が抑制される。なお以下、単位[Hz]は省略する。こうして取得される特徴値は、処理部40又は記憶部50に記憶される。
【0040】
特徴値の傾き算出部45は、まず、現時点における特徴値を第1の周波数として取得し、続いて、負極電気量が変化されたときの特徴値を第2の周波数として取得する。特徴値の傾き算出部45は、取得している特徴値が1つであれば、負極電気量を所定の電気量だけ変化させるとともに電気量が変更された電池10について再度の上記処理を通じて特徴値を取得する。特徴値の傾き算出部45は、所定の電気量の充放電の指示を電池10の電池制御装置に出力することで、負極電気量を変化させることができる。特徴値の傾き算出部45により充放電指示が出力されると、電池10は、負荷又は充電器を通じて所定量の電気が充放電される。特徴値の傾き算出部45では、電池10に対する充放電電気量を把握し、この把握した充放電電気量を負極電気量の変化量として得る。
【0041】
特徴値の傾き算出部45は、第1の周波数と第2の周波数との差を、変化した電気量で割ることにより、単位電気量に対する特徴値の傾きを取得する。つまり、特徴値の傾き算出部45は、負極電気量の変化に対する特徴値の変化量に対応するものとして特徴値の傾きを算出する。
【0042】
電池温度推定部46は、特徴値取得部44にて取得した特徴値の傾きを、記憶部50に予め記憶されている負極電気量の変化に対する特徴値の変化量と電池の温度との相関関係を示す相関データ51と照合して電池10の温度を取得する。つまり、予め記憶されている負極電気量の変化に対する特徴値の変化量と電池の温度との相関関係は、予め定められている特徴値と負極電気量と電池の温度との相関関係とに対応する。
【0043】
図4に示すように、相関データ51は、所定の温度において負極電気量が特定されている電池10について、上述のようにして特徴値を取得してなるデータであり、特徴値と負極電気量と電池の温度との相関関係を示す。相関データ51は、電池の温度毎に取得されている。本実施形態では、相関データ51には、負極電気量が5〜9[Ah]の間であって、電池の温度が−30℃(摂氏零下30度)から15℃(摂氏15度)の間にあるデータが含まれている。なお、この相関データ51は一例であり、相関データ51に含まれる負極電気量の範囲、電池の温度の範囲は上記に限られない。なお、相関データ51は、実験によって得られるが、経験や理論などに基づいてそのデータの全部や一部が補正、補完及び補充されてもよい。
【0044】
図4に示すように、相関データ51は、電池温度が−30℃のとき、特徴値と負極電気量との相関関係を示すデータとしてグラフL1が得られる。同様に、電池温度が−10℃のとき、同相関関係を示すデータに基づきグラフL2が得られ、電池温度が0℃のとき、同相関関係を示すデータに基づきグラフL3が得られ、電池温度が15℃のとき、同相関関係を示すデータに基づきグラフL4が得られる。
【0045】
つまり、発明者らは、電池の交流インピーダンスと電池の温度とに相関を見出した。詳述すると、図4に示すように、相関データ51における各グラフL1〜L4は、下記式(2)で示す関数で近似できることを見出すとともに、この関数によれば、同じ温度の下では、負極電気量の変化に対して特徴値の傾きが略一定であることを見出した。このような関数により、所定の温度における特徴値の傾きと負極電気量との相関関係が明らかにされた。なお、下記式における(T)は任意の温度を示し、同(T)の単位は摂氏[℃]である。
【0046】
【数2】
【0047】
上記式(2)において、特徴値の「傾き(T)」は、単位電気量当たりの特徴値の変化量を示す。相関データ51には、各異なる温度毎に特徴値の「傾き(T)」が記憶される。
【0048】
また、図5に示すように、特徴値の傾き(T)と電池の温度とは図示されるような相関を有している。なお、図5における横軸の温度の単位は絶対温度[K]である。そして、特徴値の傾き(T)と電池の温度との関係は、下記式(3)で示されることが明らかにされた。
【0049】
【数3】
【0050】
上記式(3)によれば、任意の温度に対応する特徴値の傾きを得ることができるようになる。相関データ51には、温度毎に上記式(3)により算出された特徴値の傾き(T)が記憶されてもよいし、上記式(3)が記憶されて都度算出できるようにしてもよい。また、算出用パラメータ52には、上記式(3)の定数や電池充電量と正極充電量と負極充電量とを変換するためのパラメータなどが含まれている。
【0051】
よって、電池温度推定部46は、特徴値の傾き算出部45により算出された特徴値の傾きを、相関データ51に記憶されている特徴値の傾きと照合することにより、前記算出された特徴値の傾きから、その傾きに対応する電池10の温度を得る。こうして得られた温度が電池10の温度として推定される。
【0052】
本実施形態では、反応抵抗に起因する交流インピーダンスに対応するとした反応抵抗に対応する領域cにおける絶対値|Zi|の最大値を特徴値とした。但し、反応抵抗に対応する領域cの曲線の挙動は、その他の領域の影響を受けているため、その他の領域の影響が除かれた反応抵抗に起因する交流インピーダンスから得られる絶対値|Zi|の最大値とは異なることがある。しかし、それら最大値は、互いに近似する値であるとともに、負極電気量と電池の温度とに同様に相関関係を有する。よって、本実施形態における特徴値であれ、請求項における「反応抵抗に起因する交流インピーダンスの虚数成分の絶対値の最大値」に相当する。
【0053】
以上説明したように、本実施形態の電池温度推定方法及び電池温度推定装置によれば、以下に列記するような効果が得られるようになる。
(1)電池10の温度を特徴値と負極電気量との相関関係から推定することができる。これにより、温度センサを用いることなく電池10の温度を推定することができるようになる。また、電池の交流インピーダンスに基づくものであることから非破壊で電池10の温度を推定することができる。さらに、特徴値と負極電気量との相関関係に基づき推定されることで電池10の温度がより高い精度で推定されるようになる。
【0054】
(2)電池10の温度が、負極電気量の変化に対する特徴値の変化量、例えば、単位電気量あたりの特徴量の変化量に基づいて推定されるようになる。つまり負極電気量や電池電気量が不明な場合であれ、そのときの特徴値と、そこから所定の電気量を充放電したときの特徴値との2つの特徴値の変化量に基づいて電池10の温度が推定される。
【0055】
(第2の実施形態)
図6及び図7に従って、電池温度推定方法及び電池温度推定装置を具体化した第2の実施形態について説明する。本実施形態では、負極電気量が取得される構成であることが第1の実施形態の構成と相違するものの、それ以外の点については同様である。そこで、以下では、第1の実施形態と相違する構成について詳細に説明することとし、同様の構成については同じ符号を付し詳細な説明を割愛する。
【0056】
電池の温度を算出する処理の作用について説明する。
図7に示すように、処理部40では、負極電気量を取得する処理(図7のステップS5)、電池10の交流インピーダンスZを測定する処理(図7のステップS10)、交流インピーダンスZからナイキスト線図を作成する処理(図7のステップS20)、ナイキスト線図から特徴値を取得する処理(図7のステップS30)が行われる。そして、処理部40では、取得した負極電気量と取得した特徴値とを、予め記憶部50に記憶しておいた相関データ51と照合して電池温度を推定する処理(図7のステップS61)が行われる。
【0057】
処理部40は、電池10の使用範囲とする電池電気量における負極電気量を取得する充電量取得部としての負極電気量取得部42を備える。また、処理部40は、第1の実施形態の電池温度推定部46に代えて、取得した負極電気量と取得した特徴値とに基づいて電池10の温度を推定する電池温度推定部48を備える。一方、処理部40は、第1の実施形態に備えられる、傾き算出部45を備えていなくてもよい。
【0058】
負極電気量取得部42は、負極電気量を取得する処理(図7のステップS5)では、電池制御装置(図示略)からその都度の負極電気量を取得する。なお、負極電気量取得部42は、その都度の電池電気量を取得するものでもよい。電池電気量から負極電気量を算出することは可能である。
【0059】
負極電気量取得部42は、例えば、電池電気量から負極電気量を算出する。通常、ニッケル水素二次電池は、正極規制されており、容量ずれがなければ、電池電気量と正極電気量とは等しい。また、ニッケル水素二次電池は、負極の電気容量が正極の電気容量に対して大きいため、負極は、その電気容量に、正極の電気容量を放電側に外れた容量として放電リザーブを備える。そこで負極電気量取得部42は、電池電気量に負極の放電リザーブを加えることで負極電気量を得ることができる。
【0060】
電池温度推定部48は、電池温度を推定する処理(図7のステップS61)を行う。電池温度推定部48は、負極電気量取得部42にて取得した負極電気量と特徴値取得部44にて取得した特徴値を、記憶部50に予め記憶されている電池10の負極の各異なる負極電気量における特徴値と電池10の温度との相関関係を示す相関データ51(図4参照)と照合して電池10の温度を取得する。
【0061】
つまり、図4に示されるグラフにおいて、負極電気量と特徴値とにより特定される点が対応するグラフL1〜L4が特定され、特定されたグラフに対応する温度が電池10の温度として推定される。
【0062】
以上説明したように、本実施形態に係る電池温度推定方法及び電池温度推定装置は、上記第1の実施形態にて記載した(1)の効果に加えて、以下に記す効果を有する。
(3)その都度の負極電気量と特徴値とに基づいて電池10の温度を推定することができる。つまり、負極電気量が得られる場合、1つの特徴値からであれ電池10の温度が推定される。
【0063】
(第3の実施形態)
図8図10に従って、電池温度推定方法及び電池温度推定装置を具体化した第3の実施形態について説明する。本実施形態では、電池の交流インピーダンスの周波数変化を等価回路にフィッティングさせて特徴値の周波数を取得する構成であることが第1又は第2の実施形態の構成と相違するものの、それ以外の点については同様である。そこで、以下では、第1又は第2の実施形態と相違する構成について詳細に説明することとし、同様の構成については同じ符号を付し詳細な説明を割愛する。
【0064】
なお、第1及び第2の実施形態では、特徴値は、反応抵抗に対応する領域cにおいて円弧の虚数成分Ziの絶対値|Zi|の極大値になる周波数である場合について説明している。また、本実施形態でも、説明の便宜上、特徴値の周波数が反応抵抗に対応する領域cにおいて円弧の虚数成分Ziの絶対値|Zi|の極大値になると説明しているが、フィッティングにより得られる特徴値の周波数は、インピーダンス曲線N1の円弧の極大値からずれる場合もある。これは、インピーダンス曲線N1における反応抵抗に対応する領域cは、その他の抵抗に対応する領域の影響を受けているためである。しかし、フィッティングにより得られた特徴値は、上記その他の抵抗に対応する領域の影響が除かれた反応抵抗に起因する交流インピーダンスにおける円弧の極大値となることから、請求項における「反応抵抗に起因する交流インピーダンスの虚数成分の絶対値の極大値」に相当する。そして、フィッティングにより得られた特徴値は、電池10の温度と負極電気量とに相関関係を有する。
【0065】
図8に示すように、処理部40は、ナイキスト線図から特徴値を取得する処理(図2のステップS30)に際し、電池の交流インピーダンスの周波数変化を示すインピーダンス曲線N1を等価回路にフィッティングさせた結果に基づいて特徴値を取得する。詳述すると、処理部40は、特徴値の取得処理が開始されると、等価回路を設定する処理(図8のステップS31)、等価回路に初期値を設定する処理(図8のステップS32)、等価回路の交流インピーダンスZmの理論値を算出する処理(図8のステップS33)を行う。続いて、処理部40は、測定された交流インピーダンスZと理論値の交流インピーダンスZmとの誤差を算出する処理(図8のステップS34)、等価回路のパラメータの最適化分析を行い等価回路をフィッティングさせる処理(図8のステップS35)、特徴値を算出する処理(図8のステップS36)を行う。
【0066】
図9に示すように、等価回路は、インピーダンス曲線N1の回路抵抗に対応する領域a、溶液抵抗に対応する領域b、反応抵抗に対応する領域c、及び拡散抵抗に対応する領域dのそれぞれに対応する回路を有する。すなわち、等価回路は、回路抵抗に対応する領域aに対応する回路としての抵抗R0とインダクタンスL0の並列回路と、溶液抵抗に対応する領域bに対応する回路としての抵抗Rsの回路と、反応抵抗に対応する領域cに対応する回路としての抵抗R1と容量CPE1との並列回路とを有するとともに、各回路を直列接続させてなる。また、等価回路は、拡散抵抗に対応する領域dに対応する回路としての拡散抵抗Wo1を前記抵抗R1に直列接続させるとともに、前記容量CPE1に並列接続させてなる。なお、容量CPE1は、T成分とp成分とを含み、拡散抵抗Wo1は、T成分とp成分とR成分とを含む。
【0067】
つまり、処理部40は、等価回路を設定する処理(図8のステップS31)では、図9に示す等価回路を設定する。
また、処理部40は、等価回路に初期値を設定する処理(図8のステップS32)では、設定された等価回路に初期値を設定する。初期値は、記憶部50の算出用パラメータ52及び測定されたインピーダンス曲線N1から取得されたものが設定される。なお、こうして設定される初期値は、この後の等価回路のフィッティングにて最適な値に変更される可能性を有する値である。
【0068】
記憶部50は、算出用パラメータ52に等価回路に設定される初期値を含んでいる。この初期値は、実験や経験、理論などにより取得された値が設定されている。算出用パラメータ52には、抵抗R0の初期値、インダクタンスL0の初期値、容量CPE1のp成分の初期値、拡散抵抗Wo1のT成分とp成分とR成分のそれぞれの初期値が含まれている。
【0069】
一方、抵抗Rs、抵抗R1及び容量CPE1のT成分の初期値はインピーダンス曲線N1から求められる。
ここで、図10の参考用のグラフを参照して、一般に、インピーダンス曲線N2から抵抗Rs,R1,R2の初期値を得る方法について説明する。図10に示すインピーダンス曲線N2は、虚数成分Ziの値が「0」の位置が実軸の位置ではなく、実軸に平行かつ「Rs」と示される点の位置を通る直線(図10において直線状の破線)上にあるものとする。
【0070】
図10において、抵抗Rsは、インピーダンス曲線N2の虚数成分Ziが「0」のときの実数成分Zrの値として求められる。抵抗R1は、反応抵抗に対応する領域においてインピーダンス曲線N2が形成する第1の円弧の直径の値として求められる。抵抗R2は、反応抵抗に対応する領域においてインピーダンス曲線N2が形成する第2の円弧の直径の値として求められる。そして第1の円弧の虚数成分Ziの絶対値|Zi|の極大値に対応する周波数fmax21と、第2の円弧の虚数成分Ziの絶対値|Zi|の極大値に対応する周波数fmax22とが求められる。
【0071】
上述と同様の方法により、インピーダンス曲線N1から抵抗Rs,抵抗R1の初期値、及び特徴値の周波数fmax1が得られる。詳述すると、抵抗Rsは、インピーダンス曲線N1の虚数成分Ziが「0」のときの実数成分Zrの値として求められる。抵抗R1は、反応抵抗に対応する領域cにおいてインピーダンス曲線N1が形成する円弧の直径として求められる。また、特徴値は、インピーダンス曲線N1において反応抵抗に対応する領域cに形成される円弧の虚数成分Ziの絶対値|Zi|の極大値に対応する周波数fmax1として求められる。なお、インピーダンス曲線N1の反応抵抗に対応する領域cには円弧は1つであることから、円弧の虚数成分Ziの絶対値|Zi|の極大値は領域cにおける絶対値|Zi|の最大値に等しい。
【0072】
容量CPE1のT成分CPE1_Tは、電気二重層に起因する容量成分である。そして、容量CPE1のT成分CPE1_Tは、インピーダンス曲線N1より求められた抵抗R1と特徴値の周波数fmax1とから下記式(4)に基づいて求められる。
【0073】
【数4】
【0074】
処理部40は、等価回路の交流インピーダンスZmの理論値を算出する処理(図8のステップS33)では、等価回路に交流電流を印可したときの交流インピーダンスZmを理論値として算出する。理論値の交流インピーダンスZmは、交流電流の周波数が変化されて取得される。例えば、交流インピーダンスZmは、等価回路の周波数応答のシミュレーションにより算出される。算出される交流インピーダンスZmは、ベクトル成分として実数成分Zmrと虚数成分Zmiとを含んでいる。
【0075】
処理部40は、測定された交流インピーダンスZと理論値の交流インピーダンスZmとの誤差を算出する処理(図8のステップS34)では、誤差Δ|Z|を各異なる周波数f毎に求める。各周波数fにおける誤差Δ|Z|(f)は、下記式(5)により算出される。なお、「(f)」は各周波数を示す。
【0076】
【数5】
【0077】
処理部40は、等価回路のパラメータを最適化分析する処理(図8のステップS35)では、各周波数の誤差Δ|Z|(f)の和ΣΔ|Z|(f)が最小になるように等価回路の各素子の値を変化させる。例えば、最小二乗法などの公知の最適化分析の手法を用いて、誤差の和が小さくなるような値を得る。こうして求められた値の設定される等価回路は、測定されたインピーダンス曲線N1を近似する等価回路として得られる。こうしてフィッティングされた等価回路において、反応抵抗に対応する領域cに対応する回路の交流インピーダンスが、電池10の交流インピーダンスZの周波数変化に含まれる反応抵抗に起因する交流インピーダンスに相当する。
【0078】
処理部40は、特徴値を算出する処理(図8のステップS36)では、近似された等価回路のうちの反応抵抗に対応する領域cに対応する回路としての抵抗R1と容量CPE1との値から特徴値の周波数を算出する。等価回路に設定された、抵抗R1と容量CPE1のT成分とp成分とに基づいて下記式(6)により特徴値の周波数fmax1が算出される。
【0079】
【数6】
【0080】
そして、処理部40により取得された特徴値に基づいて、電池10の温度が算出される。
以上説明したように、本実施形態に係る電池温度推定方法及び電池温度推定装置は、上記第1及び第2の実施形態にて記載した(1)〜(3)の効果に加えて、以下に記す効果を有する。
【0081】
(4)電池の交流インピーダンスの周波数変化(ナイキスト線図に描かれるインピーダンス曲線N1)の反応抵抗に対応する等価回路の部分の値に基づいて特徴値が得られるようになる。よって、反応抵抗に対応する領域cの交流インピーダンスZに対する他の抵抗(例えば、拡散抵抗)の交流インピーダンスZが及ぼす影響が排除される。これにより、反応抵抗に起因する交流インピーダンスが好適に得られるようになるため特徴値をより高い精度で得ることができ、電池10の温度をより高い精度で推定することができる。また、等価回路へのフィッティングにより、少ない実測値からであれ、特徴値を正確に得ることができる。
【0082】
(第4の実施形態)
図11及び図12に従って、電池温度推定方法及び電池温度推定装置を具体化した第4の実施形態について説明する。本実施形態では、電池の交流インピーダンスの周波数変化の反応抵抗に対応する領域に2つの円弧が生じる点が第3の実施形態の構成と相違するものの、それ以外の点については同様である。そこで、以下では、第3の実施形態と相違する構成について詳細に説明することとし、同様の構成については同じ符号を付し詳細な説明を割愛する。なお、2つの円弧を有する電池の交流インピーダンスの周波数変化を示すインピーダンス曲線N3が測定される特性を有する電池としては、リチウムイオン二次電池が挙げられる。そして、2つの円弧を有するインピーダンス曲線N3について等価回路へのフィッティングが行われる。
【0083】
図11に示すように、本実施形態では、処理部40は、上記電池について周波数を変化させた交流電流を印可して交流インピーダンスZを測定し、この測定結果からインピーダンス曲線N3を作成する。横軸は実数成分Zr、縦軸は虚数成分Ziである。
【0084】
電池のインピーダンス曲線N3は、高周波数側から回路抵抗に対応する領域a、溶液抵抗に対応する領域b、反応抵抗に対応する2つの領域c,d及び略直線状の拡散抵抗に対応する領域eに分けられる。電池のインピーダンス曲線N3は、反応抵抗に対応する各領域c、dにそれぞれ円弧を有し、各円弧はそれぞれ直径と特徴値とを有する。高周波数側の領域cにある第1の円弧の特徴値は周波数fmax31として求められ、低周波数側の領域dにある第2の円弧の特徴値は周波数fmax32として求められる。よって、第1の円弧の特徴値である周波数fmax31よりも第2の円弧の特徴値である周波数fmax32の方が低い周波数として得られる。
【0085】
処理部40は、ナイキスト線図から特徴値を取得する処理(図2のステップS30)に際し、この電池の交流インピーダンスの周波数変化を示すインピーダンス曲線N3を等価回路にフィッティングさせて適切なパラメータの設定された等価回路を取得する。そして等価回路のうちインピーダンス曲線N3の反応抵抗に対応する領域の各領域c、dに対応する回路から2つの円弧についてそれぞれ特徴値を取得する。
【0086】
図12に示すように、等価回路は、インピーダンス曲線N3の回路抵抗に対応する領域aに対応する回路としての抵抗R0と誘導性のインダクタンスL0の並列回路と、同溶液抵抗に対応する領域bに対応する回路としての抵抗Rsとが直列接続された回路を備える。また、等価回路は、前記回路にインピーダンス曲線N3の反応抵抗に対応する領域cに対応する回路としての抵抗R1と容量CPE1との並列回路と、インピーダンス曲線N3の反応抵抗に対応する領域dに対応する回路としての抵抗R2と容量CPE2との並列回路とが直列接続されてなる。また、等価回路は、インピーダンス曲線N3の拡散抵抗に対応する領域eに対応する回路としての拡散抵抗Wo1が前記抵抗R2に直列かつ前記容量CPE2に並行に接続される。なお、容量CPE2は、容量CPE1と同様に、T成分とp成分とを含む。
【0087】
つまり、処理部40は、図12に示す等価回路を設定し、この等価回路に初期値を設定する。初期値は、記憶部50の算出用パラメータ52及び測定されたインピーダンス曲線N3から取得されて設定される。なお、こうして設定される初期値は、この後の等価回路のフィッティングにて最適な値に変更される可能性を有する値である。算出用パラメータ52には、抵抗R0の初期値、インダクタンスL0の初期値、容量CPE1,CPE2の各p成分の初期値、拡散抵抗Wo1のT成分、p成分及びR成分のそれぞれの初期値が含まれている。
【0088】
一方、抵抗Rs,R1,R2、及び、特徴値の各周波数fmax31,fmax32はインピーダンス曲線N3から求められる。インピーダンス曲線N3は、図10のインピーダンス曲線N2と同様に2つの円弧を有している。つまり、インピーダンス曲線N3からは、図10のインピーダンス曲線N2と同様にして、抵抗Rs,R1,R2、及び、特徴値の各周波数fmax31,fmax32が得られる。詳述すると、インピーダンス曲線N3の溶液抵抗に対応する領域bから抵抗Rsの初期値が得られる。また、インピーダンス曲線N3の領域cに対応する円弧の直径から抵抗R1が得られ、領域dに対応する円弧の直径から抵抗R2が得られる。ここでは、領域cに対応する円弧よりも領域dに対応する円弧の方が大きいことから、抵抗R1よりも抵抗R2の方が大きい値として得られる。そして領域cの円弧から虚数成分Ziの絶対値|Zi|の極大値に対応する周波数fmax31が求められ、領域dの円弧から虚数成分Ziの絶対値|Zi|の極大値に対応する周波数fmax32が求められる。
【0089】
そして、電気二重層に起因する容量成分である容量CPE1のT成分、及び、容量CPE2のT成分は、第3の実施形態に記載の式(4)を適用して算出される。
以上により、この等価回路の初期値が設定される。
【0090】
そして、第3の実施形態に示すように、処理部40は、等価回路の交流インピーダンスの理論値を算出する処理(図8のステップS33)と、測定された交流インピーダンスZと理論値の交流インピーダンスZmとの誤差を算出する処理(図8のステップS34)とを行う。また、処理部40は、等価回路のパラメータの最適化分析を行い等価回路をフィッティングさせる処理(図8のステップS35)と、2つの特徴値を算出する処理(図8のステップS36)とを行う。
【0091】
そして、本実施形態では、処理部40は、2つの特徴値の周波数fmax31,fmax32のうち、低周波数側の領域dに対応する特徴値である周波数fmax32に基づいて、電池の温度を算出する。低周波数側の特徴値は、高周波数側の特徴値よりも配線インピーダンスの影響が低減されている。なお、リチウムイオン二次電池の場合、正極と負極の電気容量が同じであるとともに、容量ずれもない場合がある。その場合、負極電気量は、電池電気量と正極電気量とにそれぞれ一致する。
【0092】
以上説明したように、本実施形態に係る電池温度推定方法及び電池温度推定装置は、上記第1〜3の実施形態にて記載した(1)〜(4)の効果に加えて、以下に記す効果を有する。
【0093】
(5)電池の交流インピーダンスの周波数変化(ナイキスト線図に描かれるインピーダンス曲線N3)の反応抵抗に対応する領域に複数の特徴値が含まれる場合であれ、低周波数側の特徴値の周波数fmax32に基づいて電池の温度を算出することができる。
【0094】
(その他の実施形態)
なお上記各実施形態は、以下の態様で実施することもできる。
・上記各構成において、電池10は組電池であっても、単電池であってもよい。
【0095】
・上記各構成において、測定する電池の温度は、組電池の温度でも、単電池の温度でもよい。電圧測定器21及び電流測定器22の接続を変更することで測定対象を1又は複数の単電池に変更することができる。
【0096】
・上記各実施形態では、交流供給部20は所定の交流電流を所定の周波数範囲で変化させる場合について例示した。しかしこれに限らず、交流供給部は、推定装置から入力される電流値や周波数範囲に応じた交流電流を出力してもよい。
【0097】
・上記各実施形態では、交流供給部20が交流電流を出力する場合について例示した。しかしこれに限らず、交流供給部は交流電圧を出力してもよい。この場合、交流供給部は推定装置との間で電圧に関する信号を授受すればよい。
【0098】
・上記構成において、負荷としてはモータや電装品が挙げられ、充電器としては電源や回生装置などが挙げられる。例えば、車載された電池に電池温度推定装置を設けるような構成とすることもできる。負荷は電池電気量を減少させるときに用いることができ、充電器は電池電気量を増加させるときに用いることができる。また、電池からの回路の途中に開閉器を設けることで、必要に応じて電池と電池温度推定装置、負荷や充電器等との接続を開閉することもできる。これにより、電池の温度の推定を適切に行えるようにすることができるようにもなる。
【0099】
・上記第4の実施形態では、低周波数側の円弧に対応する周波数fmax32に基づいて、電池の温度を算出する場合について例示した。しかしこれに限らず、高周波数側の円弧に対応する周波数fmax31に基づいて、電池の温度を算出してもよい。また、特徴値が3つ以上取得されるとき、最も低周波数側の円弧の特徴値に基づいて電池の温度を算出することが好ましいが、それ以外の円弧の特徴値に基づいて電池の温度を算出してもよい。
【0100】
・上記各実施形態では、インピーダンス曲線から反応抵抗に対応する領域を定める例などを例示した。しかしこれらの例に限らず、反応抵抗に対応する領域となる範囲を、ナイキスト線図における交流インピーダンスZの実数成分Zrの範囲で定めてもよい。例えば、実数成分Zrの範囲を事前実験などにより反応抵抗に対応する交流インピーダンスを含むように定めればよい。これにより、予め定められた実数成分Zrの範囲から反応抵抗に対応する領域が定められ、この反応抵抗に対応する領域として実数成分により予め定められたナイキスト線図の領域から適切に特徴値が得られるようになる。このように、実数成分Zrの範囲から反応抵抗に対応する領域を定めるとしても、その範囲に円弧の極大値が含まれることで特徴値の周波数を取得することができる。
【0101】
・上記第2の実施形態では、処理部40は、電池制御装置から得た電池電気量を介して負極電気量を取得する場合について例示したが、これに限らず、処理部は、電池電気量を電池制御装置などから得るのではなく、電池電気量や負極電気量を推定してもよい。例えば、処理部は、電池の充放電電流量の情報に基づいて負極電気量を推定することができる。
【0102】
・上記各実施形態では、電池の充電量を負極電気量とする場合について例示した。しかしこれに限らず、電池の充電量を、正極電気量としてもよいし、電池電気量としてもよい。一般的に、正極電気量、負極電気量及び電池電気量は相互に算出可能な関係にある。これにより、電池温度推定方法の適用可能な電池の種類が拡大されるようになる。
【0103】
・上記各実施形態では、電池の充電量を負極電気量とする場合について例示した。しかしこれに限らず、電池の充電量を、負極の電気容量に対する実際に充電されている電気量の割合を示す負極SOC(SOC:State Of Charge)としてもよい。この場合、負極SOCを負極電気量に変換することもできるし、特徴値と負極SOCと電池の温度との相関関係を相関データとして保持してもよい。また、同様に、電池の電気量を、正極SOCとしてもよいし、電池SOCとしてもよい。正極SOCは正極の電気容量に対する実際に充電されている電気量の割合であり、電池SOCは電池の電気容量に対する実際に充電されている電気量の割合である。
【0104】
・上記各実施形態では、特徴値と電池の温度と負極電気量との相関関係が各異なる電気量毎に相関データ51に設定されている場合について例示した。しかしこれに限らず、特定の負極電気量のときのみに温度を推定する場合、同特定の負極電気量のみに対する特徴値と負極電気量との相関データが設定されていてもよい。
【0105】
・上記各実施形態では、電池10はニッケル水素二次電池又はリチウムイオン二次電池である場合について例示した。しかしこれに限らず、電池は、ニッケルカドミウム二次電池などの二次電池(蓄電池)であってもよいし、マンガン電池などの一次電池であってもよい。
【0106】
・上記各実施形態では、電池10が車両に搭載される場合について例示した。この車両としては、電気自動車やハイブリッド自動車の他、バッテリーを搭載するガソリン自動車やディーゼル自動車なども含まれる。また、電池は、電源として必要とされるのであれば、自動車以外の移動体や、固定設置される電源として用いられてもよいし、モータ以外の電源として用いられてもよい。例えば、自動車以外の電源としては、鉄道、船舶、航空機やロボットなどの移動体や、情報処理装置などの電気製品の電源などが挙げられる。
【符号の説明】
【0107】
10…電池、20…交流供給部、21…電圧測定器、22…電流測定器、30…推定装置、40…処理部、41…インピーダンス測定部、42…負極電気量取得部、44…特徴値取得部、45…算出部、46…電池温度推定部、48…電池温度推定部、50…記憶部、51…相関データ、52…算出用パラメータ、L0…インダクタンス、R0,R1,R2,Rs…抵抗、Wo1…拡散抵抗、CPE1,CPE2…容量。
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