(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
少なくとも前記シャフトが挿入された部位に位置するゴム層は、シャフトが挿入されていない部位に位置するゴム層の厚みより厚く形成されている請求項2に記載の防振装置。
【背景技術】
【0002】
載置物を衝撃や振動から保護する防振パレット等に使用される防振装置は、通常、スプリング機能と、ダンパー機能とを併用したものである(例えば特許文献1を参照)。
【0003】
このような防振装置の解析モデルを
図4に示す。
図4において、mは振動体100の質量、kはコイルスプリング200のばね定数、Cはオイルダンパー300の粘性減衰係数、Fcosωtは振動体100に作用する周期的外力(式中、Fは加振力の振幅、ωは周期的外力の角振動数)である。
【0004】
図4に示す解析モデルの減衰比ζは、下記式で表すことができる。各減衰比ζにおける振動数比(ω/ω
n)と振幅倍率(χ
0/χ
st)との関係を
図5に示す。
【0005】
【数1】
【0006】
ここで、オイルダンパーの粘性減衰係数(C)は材料固有値であり、さらにコイルスプリング200のばね定数(k)は一定値であるため、振動体100で表される積載物の質量(m)が変わると減衰比(ζ)が変わり、
図5に示すように防振性能が変動するという問題がある。
【0007】
特に、防振パレットは、積載物の質量(載荷重)がいろいろと変わるため、その都度防振性能が変動するので、載荷重が変わるたびに減衰要素を選択する必要がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、減衰比が載荷重に依存しない防振装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は前記課題を解決するためになされたものであり、以下の構成からなる。
(1)ベース台と、このベース台の上面に設置され鉛直方向にシャフト挿入穴を有するゴム支承体と、このゴム支承体の前記シャフト挿入穴の内面に設けられ繊維とエラストマーとを一体化した摺動膜と、前記ゴム支承体の上面に設置された戴荷台と、前記ベース台上面または戴荷台の下面に設けられ前記シャフト挿入穴内に摺動可能に嵌入されると共に長さが前記シャフト挿入穴の鉛直方向の長さより短いシャフトとを備えることを特徴とする防振装置。
(2)前記ゴム支承体は、ゴム層と剛性板とが交互に鉛直方向に複数積層された積層ゴム支承体である(1)に記載の防振装置。
(3)少なくとも前記シャフトが挿入された部位に位置するゴム層は、シャフトが挿入されていない部位に位置するゴム層の厚みより厚く形成されている(2)に記載の防振装置。
【発明の効果】
【0011】
ゴム支承体が荷重を受けて圧縮されると、弧を描くようにゴムが外側にせり出す、いわゆる「はらみ出し」状態となる。本発明は、このはらみ出す力で、シャフト挿入穴内に嵌入されたシャフトを加圧するので、ゴム支承体によって上下方向の振動の低減効果が得られ、従って防振機能が達成される。特に、はらみ出しの力は、積載物の質量(載荷重)が大きいほど、大きくなり、防振機能も高くなる。
一方、シャフト挿入穴の内面に設けた摺動膜は、シャフト挿入穴内に嵌入されたシャフトと摺動することで摩擦力が発生する。この摩擦力を抵抗力として利用することによりダンパー機能が達成される。特に、載荷重が大きくなると、シャフトのシャフト挿入穴内への嵌入長さが大きくなるので、摩擦力も大きくなり、ダンパー機能が高くなる。
従って、本発明の防振装置は、減衰比が載荷重に依存しないという効果がある。そのため、載荷重(荷物)が変わるたびに防振装置を選択する必要がなく、防振装置を標準化しやすくなる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0014】
〔本発明の一実施形態〕
図1は、本発明の一実施形態に係る防振装置1の断面図を示している。防振装置1は、ベース台10の上面に積層ゴム支承体20を介して戴荷台40を設置した構造を有する。積層ゴム支承体20は、シャフト挿入穴21を有し、このシャフト挿入穴21の内面には、繊維とエラストマーとを一体化した摺動膜30が設けられている。戴荷台40はシャフト41を下面に有し、シャフト41はシャフト挿入穴21内に摺動可能に嵌入される。
【0015】
ベース台10および戴荷台40としては、例えば防振パレットの場合、防振パレットを構成する下枠および上枠を使用することができるが、これらの下枠および上枠への取り付け板であってもよい。ベース台10および戴荷台40の下枠および上枠への取り付けは、例えばボルト、ナットにより行うことができる。
【0016】
(積層ゴム支承体20)
積層ゴム支承体20は、ゴム層22と剛性板23とが、保持板24,25の間に交互に複数積層され、加熱プレスによって一体成形されている。
【0017】
ゴム層22は、主成分であるゴム成分に、加硫剤、加硫促進剤、加硫促進助剤、老化防止剤、補強剤、遅延剤、可塑剤、必要に応じて着色剤などの配合剤を配合したものである。
ゴム成分としては、例えばジエン系ゴムが挙げられる。ジエン系ゴムとしては、天然ゴムの他;クロロプレンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、アクリロニトリル−ブタジエンゴム、ブタジエンゴム、イソプレンゴム、ブチルゴム、ハロゲン化ブチルゴムなどの合成ゴムが挙げられる。加硫剤、加硫促進剤、加硫促進助剤、老化防止剤、補強剤、遅延剤、可塑剤、着色剤などの配合剤は、公知のものを使用することができる。
【0018】
剛性板23としては、例えば、鋼板などの金属板、セラミックス板、硬質プラスチック板などが挙げられる。剛性板23の厚みは、防振装置1の使用用途などに応じて適宜調整すればよい。
【0019】
保持板24,25は、積層ゴム支承体20と、ベース台10,戴荷台40とを接着などによって固定することができるものであれば、特に限定されない。
【0020】
図1に示すように、シャフト41が挿入される積層ゴム支承体20の上面側に位置するゴム層22(シャフト挿入部20Aにおけるゴム層22)は、その下側に位置するゴム層22(シャフト非挿入部20Bにおけるゴム層22)の厚みより厚く形成されている。シャフト挿入部20Aにおけるゴム層22の長さは、後述するシャフト41の長さと略同じであるのがよい。
【0021】
挿入部20Aおよび非挿入部20Bにおけるゴム層22の厚みおよび積層数は、戴荷台40に加わる戴荷重等を考慮して決定される。
【0022】
積層ゴム支承体20は、鉛直方向に貫通するシャフト挿入穴21を有する筒体である。シャフト挿入穴21の水平断面形状は、これに嵌入するシャフト40の水平断面形状に対応して決定される。高い防振効果をえるうえで、シャフト挿入穴21の水平断面形状は、円形であるのが好ましいが、これに限定されず、矩形、多角形等などであってもよい。
【0023】
シャフト挿入穴21は、1つの積層ゴム支承体20に対して、その中央部に1つとは限らず、シャフト40の数に応じて、2つまたはそれ以上設けてもよい。
なお、
図1に示す積層ゴム支承体20は、シャフト挿入穴21が鉛直方向に貫通した筒体で構成されているが、必ずしもシャフト挿入穴が積層ゴム支承体を貫通していなくてもよい。
【0024】
(摺動膜30)
摺動膜30は、繊維とエラストマーとが一体化されてなり、積層ゴム支承体20の内周面に配置される。摺動膜30は、シャフト41の摺動時にシャフト41との摩擦力を抵抗力として利用するダンパー機能を発現する。
【0025】
摺動膜30を構成するエラストマーは、主に、繊維の耐久性を向上させるものである。摺動膜30を構成するエラストマーの材質としては、例えば、天然ゴム、ニトリルゴム、クロロプレンゴム、ハイパロン、ポリブタジエンゴム、エチレン−プロピレンゴム(EPM)、エチレン−プロピレン−ジエン三元共重合体(EPDM)、水素添加アクリロニトリルブタジエンゴム(H−NBR)、シリコンゴム、フッ素ゴム、アクリルゴム、スチレンブタジエンゴム、塩素化ポリエチレンゴム、ミラブルウレタン、熱硬化性ポリウレタン、熱可塑性ポリウレタンまたは熱可塑性ポリエステルなどのエラストマーが挙げられ、これら一種以上が使用される。摺動膜30を構成するエラストマーには、加硫剤、加硫促進助剤および補強剤が配合されてもよい。
【0026】
加硫剤としては、例えば、ジクミルパーオキサイドなどの有機過酸化物、有機硫黄化合物、金属酸化物などが挙げられる。加硫促進助剤としては、例えば、ステアリン酸などの脂肪酸、金属酸化物などが挙げられる。補強剤としては、例えば、カーボンブラック、ホワイトカーボンなどが挙げられる。さらに、例えば、老化防止剤、充填剤、可塑剤、粘着剤などもまた配合され得る。これら以外に、シャフト41との摺動抵抗を小さくするために、グラファイト、シリコンオイル、フッ素パウダー、又は二硫化モリブデンなどの固体潤滑剤がエラストマーに含まれても良い。
【0027】
摺動膜30を構成する繊維としては、例えば、ナイロン繊維、アラミド繊維、ポリエステル繊維、炭素繊維、テフロン(登録商標)繊維、液晶ポリマー繊維、ガラス繊維、綿糸などが挙げられる。摺動膜30を構成する繊維は、布材の形態であってもよく、短繊維の形態でエラストマーに混合してもよい。
布材としては、織物布、編物布または不織布が挙げられる。布材の目付け量は、通常20〜200g/m
2であるが、特に限定されない。
【0028】
繊維の形態が布材である場合、布材がシャフト41の外周面と接触摺動するように布材とエラストマーとを一体化させ、一方、短繊維の形態である場合、エラストマーの中に短繊維を混ぜ込んで一体成形することにより、摺動膜30が得られる。
【0029】
繊維とエラストマーとの割合は、摺動膜30とシャフト41との間に適度な摩擦力を発生させることができるように適宜決定することができる。
【0030】
摺動膜30の厚み(シャフト挿入穴21の半径方向の厚み)は、積層ゴム支承体20のはらみ出しによる防振機能を損なわない厚みであるのが好ましい。
また、摺動膜30は、シャフト挿入穴21の内面全体に配置されているが、例えばシャフト挿入部のみであってもよい。
【0031】
(シャフト41)
戴荷台40は、載置部42と、この載置部42の下面に形成されたシャフト41とからなる。シャフト41の長さは、シャフト挿入穴21の鉛直方向の長さより短い。具体的には、載荷重や、鉛直方向の振動の大きさ(変動幅)に応じて決定される。具体的には、シャフト41は、想定される最大の振動が加わったときの大きさ(変動幅)において、シャフト41の底部がシャフト挿入穴21の底面(本実施形態ではベース台10の上面)に到達しない長さである。
シャフト41は、載置部42の略中央部に設けられているが、これに限定されるものではなく、シャフト挿入穴21に対応して、戴荷部42に適宜な間隔で複数のシャフト41を設けてもよい。
【0032】
〔製造方法〕
防振装置1は、例えば、内面に摺動膜30設けた積層ゴム支承体20をベース台10の上面に設置した後、戴荷台40の下面に形成されたシャフト41をシャフト挿入穴21内に嵌入することにより製造される。
その際、保持板24はベース台10に螺子止め、接着などを用いて取り付けられ、積層ゴム支承体20とベース台10とが固定される。また、保持板25も同様にして戴荷台40に取り付けられる。なお、保持板24、25は必ずしも必要なものではないので、これらを省略してもよい。
【0033】
内面に摺動膜30を設けた積層ゴム支承体20は、以下の手順で製造することができる。まず、未加硫ゴムを圧延してシート状に成形し、所定の形状(本実施形態ではドーナツ状)に打ち抜いた後、図示しない金型内に剛性板23と交互に積層する。一方、エラストマーが含浸処理された布材を前記のようにして積層した積層体の内周面に配置する。しかる後、加硫プレス機で加圧成形し、摺動膜30を設けた積層ゴム支承体20を得ることができる。
【0034】
エラストマーによる布材への含浸処理は、エラストマーを溶剤等で溶解し液状とした後、布材を含浸処理する方法が好適に使用される。エラストマーにより布材を含浸処理することで、布材を構成する繊維材の間にエラストマーが入り込み、布材を構成する繊維材同士を接着させてまとめあげ、布材を補強することができる。
【0035】
戴荷台40は、例えば、載置部42の下面に雌ねじ部を形成し、この雌ねじ部に、シャフト41の上端に形成された雄ねじ部を螺入して一体化する方法、戴荷台40を構成する材料の塊を削り出し加工する方法などによって製造することができる。
【0036】
〔作用〕
防振装置1は、下記の(a)ないし(d)の動作をする。
(a)積載物を載置台40上に載せると、防振装置1には鉛直下向きの戴荷重が加わり、ゴム層22は、その非圧縮性により積層ゴム支承体20の外面およびシャフト挿入穴21の内面へ膨らもうとする。
図2は、鉛直下向きの戴荷重Wが加わった状態を示す模式図であり、積層ゴム支承体20は厚みの大きいゴム層22(すなわち、シャフト挿入部位のゴム層)は、厚みの小さいゴム層22(すなわち、シャフト非挿入部位のゴム層)に比べて、積層ゴム支承体20の外面および内面に大きくはらみ出している状態を示している(膨らみの差をdで示す)。
(b)積層ゴム支承体20の外面は、ゴム層22の膨らみを制御するものがないため、ゴム層22は自由にはらみ出す。一方、シャフト挿入穴21内への膨らみは、シャフト41があるため、摺動膜30を介してシャフト41を押し付けた状態となっている。シャフト挿入部20Aにおけるゴム層22がこのような挙動を顕著に示す。
(c)このとき、載荷重Wが大きくなると、シャフト41への押しつけ力Pは大きくなる。この押しつけ力Pによって、
図1に示す上下方向の振動Vが低減される。
(d)また、上下方向に振動Vがあると、積層ゴム支承体20は上下に振動し、それにしたがって摺動膜30とシャフト41との間で摩擦力が発生する。この摩擦力を抵抗力として利用することにより、ダンパー機能が発揮される。
このように、ゴム層22の内面にはらみ出す力と摺動膜30の摩擦力を利用することにより、減衰比が載荷重に依存しない防振が可能となる。このことから、例えば防振パレットに適用した場合、載荷重に対しある程度の使用可能な幅をもつことができる。
【0037】
〔他の実施形態〕
図3は、本発明の他の実施形態に係る防振装置2の断面図を示している。防振装置2は、積層ゴム支承体26を構成するゴム層22の厚みがすべて均等である他は、
図1に示す防振装置1と同じである。
【0038】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、例えば、積層ゴム支承体20、26に代えて、剛性板23を使用しない、ゴム材からなるゴム支承体を用いてもよい。この場合もゴム支承体の内面にはらみ出す力と摺動膜30の摩擦力を利用することにより、減衰比が載荷重に依存しない防振が可能となる。
また、上記実施形態では、シャフト41は、戴荷台40の下面に設けたが、ベース台10の上面に設けて、これをシャフト挿入穴21内に摺動可能に嵌入しても、同様の効果が得られる。