特許第6382698号(P6382698)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6382698
(24)【登録日】2018年8月10日
(45)【発行日】2018年8月29日
(54)【発明の名称】三相回転電機
(51)【国際特許分類】
   H02K 15/12 20060101AFI20180820BHJP
   H02K 1/18 20060101ALI20180820BHJP
   H02K 5/08 20060101ALI20180820BHJP
【FI】
   H02K15/12 E
   H02K1/18 E
   H02K5/08 A
【請求項の数】7
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-239025(P2014-239025)
(22)【出願日】2014年11月26日
(65)【公開番号】特開2016-101072(P2016-101072A)
(43)【公開日】2016年5月30日
【審査請求日】2017年3月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000100768
【氏名又は名称】アイシン・エィ・ダブリュ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000017
【氏名又は名称】特許業務法人アイテック国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】春野 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】浅田 和樹
【審査官】 三澤 哲也
(56)【参考文献】
【文献】 実開昭59−103554(JP,U)
【文献】 実開平03−048344(JP,U)
【文献】 特開平10−191611(JP,A)
【文献】 特開2013−215025(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2013/0257183(US,A1)
【文献】 特開2013−176183(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 15/12
H02K 1/18
H02K 5/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステータコアに巻回された三相コイルからの三相端子を前記ステータコアにおける軸方向の一端部に固定する三相端子固定部材が前記三相コイルと共に樹脂モールドされたステータを備える三相回転電機において、
前記三相端子固定部材は、前記ステータコアと接触する固定部材接触部に、樹脂を注入する際に内部の空気を外部に排出するための前記ステータコアの内周側と外周側とを連絡する少なくとも1つの連絡溝が形成されており、
前記連絡溝には、樹脂の外部への流出を阻害するための阻害構造が形成されている、
ことを特徴とする三相回転電機。
【請求項2】
請求項1記載の三相回転電機であって、
前記阻害構造は、前記連絡溝の一部を拡幅して樹脂を貯留する貯留部として形成されている、
三相回転電機。
【請求項3】
請求項2記載の三相回転電機であって、
前記貯留部は、前記連絡溝の幅方向に拡幅するように形成されている、
三相回転電機。
【請求項4】
請求項3記載の三相回転電機であって、
前記固定部材接触部には2つ以上の連絡溝が形成されており、
前記貯留部は、少なくとも2つの連絡溝が連通するように形成されている、
三相回転電機。
【請求項5】
請求項2ないし4のうちのいずれか1つの請求項に記載の三相回転電機であって、
前記貯留部は、前記連絡溝の深さ方向に拡幅するように形成されている、
三相回転電機。
【請求項6】
請求項1記載の三相回転電機であって、
前記阻害構造は、前記連絡溝の内側の少なくとも1箇所に内側に凸の突起として形成されている、
三相回転電機。
【請求項7】
請求項1記載の三相回転電機であって、
前記阻害構造は、前記連絡溝の内側の両側面の位置をずらした箇所に内側に凸の2つの突起として形成されている、
三相回転電機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、三相回転電機に関し、詳しくは、ステータコアに巻回された三相コイルを樹脂モールドしてなる三相回転電機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の三相回転電機としては、ステータコアのコイルエンドより外周側にステータコアを軸方向に貫通する複数の貫通孔を備えるものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。この三相回転電機では、複数の貫通孔にリペットピンを嵌挿してカシメることによりステータコアを一体としており、モールド注型時には、残留空気をリペットピンの貫通孔から外部に排出することにより、残留空気により形成されるボイドの形成を抑制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013−176183号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
モールド注型は、一般にボイドの形成を少なくするためにステータコアの下部側から樹脂を注入する。このため、上述の三相回転電機では、ステータコアの下部に樹脂が充填されているときには、リペットピンの貫通孔を介して残留空気は外部に排出される。しかし、ステータコアの上部に樹脂が充填されているときには、リペットピンの貫通孔は閉塞しているため、残留空気は外部に排出されにくくなり、ボイドが形成されてしまう。こうした課題に対して残留空気を外部に排出するように空気孔や溝を形成することも考えられるが、その場合、樹脂が外部にまで流出して異物を形成してしまう。
【0005】
本発明の三相回転電機は、樹脂注入時に空気を外部に排出してボイドの形成を抑制すると共に樹脂の外部への流出を抑制することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の三相回転電機は、上述の主目的を達成するために以下の手段を採った。
【0007】
本発明の三相回転電機は、
ステータコアに巻回された三相コイルからの三相端子を前記ステータコアにおける軸方向の一端部に固定する三相端子固定部材が前記三相コイルと共に樹脂モールドされたステータを備える三相回転電機において、
前記三相端子固定部材は、前記ステータコアと接触する固定部材接触部に、前記ステータコアの内周側と外周側とを連絡する少なくとも1つの連絡溝が形成されており、
前記連絡溝には、樹脂の外部への流出を阻害するための阻害構造が形成されている、
ことを特徴とする。
【0008】
この本発明の三相回転電機では、三相端子固定部材のステータコアと接触する固定部材接触部に、ステータコアの内周側と外周側とを連絡する少なくとも1つの連絡溝を形成する。この連絡溝を形成することにより、樹脂注入時に残留空気を外部に排出してボイドの形成を抑制することができる。また、本発明の三相回転電機では、連絡溝には、樹脂の外部への流出を阻害するための阻害構造が形成されている。このため、樹脂が連絡溝を通って外部に流出するのを抑制することができる。
【0009】
こうした本発明の三相回転電機において、前記阻害構造は、前記連絡溝の一部を拡幅して樹脂を貯留する貯留部として形成されているものとすることもできる。樹脂は圧力が解放されると膨らむ傾向があるため、樹脂は貯留部に至ったときにある程度の圧力が解放されて膨らんで貯留し、外部側に流出するのが抑制される。
【0010】
この阻害構造を貯留部として形成する態様の本発明の三相回転電機において、前記貯留部は、前記連絡溝の幅方向に拡幅するように形成されているものとすることもできる。こうすれば、幅方向により大きな貯留部を形成することができ、樹脂が外部に流出するのを抑制することができる。この場合、前記固定部材接触部には2つ以上の連絡溝が形成されており、前記貯留部は、少なくとも2つの連絡溝が連通するように形成されているものとすることもできる。こうすれば、さらに大きな貯留部を形成することができ、樹脂が外部に流出するのを抑制することができる。
【0011】
また、阻害構造を貯留部として形成する態様の本発明の三相回転電機において、前記貯留部は、前記連絡溝の深さ方向に拡幅するように形成されているものとすることもできる。こうすれば、深さ方向により大きな貯留部を形成することができ、樹脂が外部に流出するのを抑制することができる。
【0012】
本発明の三相回転電機において、前記阻害構造は、前記連絡溝の内側の少なくとも1箇所に内側に凸の突起として形成されているものとすることもできるし、前記阻害構造は、前記連絡溝の内側の両側面の位置をずらした箇所に内側に凸の2つの突起として形成されているものとすることもできる。こうした突起により樹脂が外部に流出するのを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の一実施例としての三相回転電機のステータコア30に樹脂注入する際の様子を模式的に説明する説明図である。
図2】三相端子固定部材40のステータコア30との接触面側(図1においてA−A面)の形状を説明する説明図である。
図3】変形例の連絡溝144a,144bを説明する説明図である。
図4】変形例の連絡溝244a,244bを説明する説明図である。
図5】変形例の連絡溝344a,344bを説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
次に、本発明を実施するための形態を実施例を用いて説明する。
【実施例】
【0015】
図1は、本発明の一実施例としての三相回転電機のステータコア30に樹脂注入する際の様子を説明する説明図であり、図2は、三相端子固定部材40のステータコア30との接触面側(図1においてA−A面)の形状を説明する説明図である。なお、図2中、2点鎖線は、ステータコア30の外周を示している。
【0016】
実施例のステータコア30は、電磁鋼板を打ち抜き加工などにより環状に形成したステータ部材31を複数積層して構成されており、図示しないスロットにより形成された図示しないティースには、集中巻きまたは分布巻きにより図示しない三相コイルが巻回されている。ステータコア30の上部には、三相コイルからのU相、V相、W相の3つのリード端子50u,50v,50wを外部に引き出すための三相端子固定部材40が取り付けられている。
【0017】
三相端子固定部材40は、図1および図2に示すように、ステータコア30との接触面(底面)42にステータコア30の外周側と内周側とを連絡する5つの連絡溝44a〜44eが形成されている。接触面42には、2つの連絡溝44a,44bを連絡すると共に2つの連絡溝44a,44bより深い貯留部45aが形成されている。また、接触面42には、3つの連絡溝44c〜44eを連絡すると共に3つの連絡溝44c〜44eより深い貯留部45bが形成されている。さらに、接触面42には、5つの連絡溝44a〜44eから離れた位置に、三相端子固定部材40をステータコア30に取り付ける際の位置決めを行なう2つの突起46a,46bが形成されている。なお、三相端子固定部材40の位置決めは、突起46a,46bがステータコア30に形成された図示しない位置決め用の凹部に嵌合することにより行なわれる。
【0018】
樹脂注入は、固定型12にステータコア30を載置し、可動型14を取り付け、最下部の固定型12と可動型14との隙間に形成される樹脂注入口13から樹脂を注入することにより行なわれる。このとき、樹脂は、まず、ステータコア30とその下側の固定型12との間に注入される。ステータコア30と固定型12との間の空気は、注入された樹脂に押されてステータコア30と可動型14との隙間を通ってステータコア30の上側の可動型14との間の空間に至る。そして、5つの連絡溝44a〜44e介してステータコア30の外周側の外部に排出される(図1中の矢印参照)。ステータコア30と固定型12との間への樹脂の注入が完了すると、樹脂はステータコア30と可動型14との隙間を通ってステータコア30の上側の可動型14との間に注入される。このときにも、ステータコア30と可動型14との間の空気は、注入された樹脂に押されて5つの連絡溝44a〜44eを介してステータコア30の外周側の外部に排出される。このように、三相端子固定部材40の接触面42にステータコア30の外周側と内周側とを連絡する5つの連絡溝44a〜44eを形成することにより、ステータコア30と可動型14との間の空気をこれらの5つの連絡溝44a〜44eを介してステータコア30の外周側の外部に排出することができる。この結果、ステータコア30と可動型14との間に空気が残留することにより生じるボイドの形成を抑制することができる。
【0019】
ステータコア30と可動型14との間への樹脂の注入がほぼ完了すると、樹脂は5つの連絡溝44a〜44eにも注入される。2つの連絡溝44a,44bに注入された樹脂は、2つの連絡溝44a,44bを連絡するように形成された貯留部45aに至ると、その圧力が解放されて膨らみ、外部への流出が抑制される。同様に、3つの連絡溝44c〜44eに注入された樹脂は、3つの連絡溝44c〜44eを連絡するように形成された貯留部45bに至ると、その圧力が解放されて膨らみ、外部への流出が抑制される。
【0020】
以上説明した実施例の三相回転電機では、三相端子固定部材40の接触面42に、ステータコア30の外周側と内周側とを連絡する5つの連絡溝44a〜44eを形成する。そして、2つの連絡溝44a,44bや3つの連絡溝44c〜44eをそれぞれ連絡すると共に5つの連絡溝44a〜44eより深い貯留部45aを形成する。これにより、固定型12と可動型14とを取り付けて樹脂を注入したときに、樹脂が5つの連絡溝44a〜44eから外部へ流出するのを抑制することができる。また、樹脂が5つの連絡溝44a〜44eから外部へ流出したときでも、ステータコア30の外部の異物量を低減することができる。もとより、ステータコア30と固定型12や可動型14との間に空気が残留することにより生じるボイドの形成を抑制することができる。
【0021】
実施例の三相回転電機では、2つの連絡溝44a,44bや3つの連絡溝44c〜44eをそれぞれ連絡すると共に5つの連絡溝44a〜44eより深い貯留部45aを形成するものとした。しかし、貯留部は、2つの連絡溝44a,44bや3つの連絡溝44c〜44eをそれぞれ連絡しないように形成してもよいし、5つの連絡溝44a〜44eより深くなるように形成しなくてもよい。例えば、図3の変形例のようにしてもよい。図3は、図2中の一点鎖線の円で示す2つの連絡溝44a,44bと同様の部分を示している。この変形例では、2つの連絡溝144a,144bに同じ深さで拡幅するように、且つ、2つの連絡溝144a,144bを連絡しないように2つの貯留部145a,145bが形成されている。この場合でも、実施例と同様の効果を奏する。また、図4の変形例のようにしてもよい。図4も、図3と同様に、図2中の一点鎖線の円で示す2つの連絡溝44a,44bと同様の部分を示している。この変形例では、2つの連絡溝244a,244bと同じ幅であるが連絡溝より深くなるように2つの貯留部245a,245bが形成されている。この場合でも、実施例と同様の効果を奏する。
【0022】
実施例の三相回転電機では、2つの連絡溝44a,44bや3つの連絡溝44c〜44eをそれぞれ連絡すると共に5つの連絡溝44a〜44eより深い貯留部45aを形成するものとした。しかし、樹脂が5つの連絡溝44a〜44eから外部へ流出するのを抑制することができればよいから、5つの連絡溝44a〜44eに樹脂が外部に流出するのを阻害する構造を形成するものとしてもよい。例えば、図5の変形例のようにしてもよい。図5は、図2中の一点鎖線の円で示す2つの連絡溝44a,44bと同様の部分を示している。この変形例では、2つの連絡溝344a,344bには、それぞれ内側の両側面の位置をずらした箇所に内側に凸の突起345a〜345dが形成されている。この突起345a〜345dは、樹脂の流通を阻害する。このため、樹脂が2つの連絡溝344a,344bから外部へ流出するのを抑制することができる。なお、この変形例では、1つの連絡溝の内側の両側面の位置をずらした箇所に内側に凸の2つの突起を形成するものとした。しかし、突起は、1つの連絡溝に1つだけ形成するものとしてもよいし、1つの連絡溝に3つ以上形成するものとしてもよい。また、突起は、側面ではなく連絡溝の底面(あるいは頂面)に形成するものとしても構わない。
【0023】
実施例の三相回転電機では、三相端子固定部材40の接触面42に5つの連絡溝44a〜44eを形成するものとした。しかし、三相端子固定部材40の接触面42に4つ以下の連絡溝を形成するものとしてもよいし、6つ以上の連絡溝を形成するものとしてもよい。また、全ての連絡溝に貯留部を形成するものとしてもよいし、一部の連絡溝にだけ貯留部を形成するものとしても構わない。
【0024】
以上、本発明を実施するための形態について実施例を用いて説明したが、本発明はこうした実施例に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施し得ることは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明は、三相回転電機の製造産業などに利用可能である。
【符号の説明】
【0026】
12 固定型、13 樹脂注入口、14 可動型、30 ステータコア、31、ステータ部材、40 三相端子固定部材、42 接触面、44a〜44e,144a,144b,244a,244b,344a,344b 連絡溝、45a,45b,145a,145b,245a,245b 貯留部、46a,46b 突起、50u,50v,50w リード端子、345a〜345d 突起。
図1
図2
図3
図4
図5