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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6382699
(24)【登録日】2018年8月10日
(45)【発行日】2018年8月29日
(54)【発明の名称】マイクロ分析チップ
(51)【国際特許分類】
   G01N 35/08 20060101AFI20180820BHJP
   G01N 37/00 20060101ALI20180820BHJP
【FI】
   G01N35/08 A
   G01N37/00 101
【請求項の数】11
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2014-241519(P2014-241519)
(22)【出願日】2014年11月28日
(65)【公開番号】特開2016-102728(P2016-102728A)
(43)【公開日】2016年6月2日
【審査請求日】2017年2月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】317011920
【氏名又は名称】東芝デバイス&ストレージ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001737
【氏名又は名称】特許業務法人スズエ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西垣 亨彦
(72)【発明者】
【氏名】小野塚 豊
(72)【発明者】
【氏名】小林 賢太郎
(72)【発明者】
【氏名】濱崎 浩史
(72)【発明者】
【氏名】中村 直文
【審査官】 福田 裕司
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−173935(JP,A)
【文献】 特開平11−337521(JP,A)
【文献】 特開2008−005749(JP,A)
【文献】 特開2011−208985(JP,A)
【文献】 特表2013−542445(JP,A)
【文献】 特開2010−237050(JP,A)
【文献】 特表2013−515599(JP,A)
【文献】 米国特許第06867049(US,B1)
【文献】 国際公開第2007/069586(WO,A1)
【文献】 特表2003−503715(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 35/00〜37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板の主面側に検体液を流入可能に設けられた流路と、
前記基板の主面上に周回状のバンクを有し、且つ該バンク内の前記基板の主面に前記流路の一端に接続するための液導入口を有し、前記検体液を収容可能なリザーバと、
前記液導入口から前記流路の一端までの間に設けられ、前記検体液中の微粒子を通過させるための第1の微細孔を有するフィルタと、
前記バンクの内側に形成され、前記液導入口に接続された線状の溝を有する液体導入構造と、
を具備したことを特徴とするマイクロ分析チップ。
【請求項2】
前記流路は、前記基板の主面を掘り込んで設けられた流路であり、該流路の一端は前記液導入口に接続され、
前記フィルタの前記第1の微細孔は、前記液導入口の上面を覆う絶縁膜に形成されていることを特徴とする請求項1に記載のマイクロ分析チップ。
【請求項3】
前記流路は、前記基板の主面上に絶縁膜によってトンネル状に設けられた流路であり、該流路の一端は前記基板を掘り込んで設けられた連絡通路を介して前記液導入口に接続され、
前記フィルタは、前記連絡通路と前記流路との接続部又は前記液導入口に形成されていることを特徴とする請求項1に記載のマイクロ分析チップ。
【請求項4】
前記流路の一部に設けられ、前記検体液中の前記微粒子を通過させるための第2の微細孔を有し、
前記第1の微細孔と前記第2の微細孔は、前記流路の延在方向に対して直列的に接続されていることを特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載のマイクロ分析チップ。
【請求項5】
前記第1の微細孔の径は前記第2の微細孔の径よりも小さいことを特徴とする請求項4に記載のマイクロ分析チップ。
【請求項6】
前記リザーバ内に電極を有し、前記電極が前記バンクの下を通り前記リザーバ外に引き出されていることを特徴とする請求項1乃至の何れかに記載のマイクロ分析チップ。
【請求項7】
前記液体導入構造の幅は、前記液導入口の幅より狭いことを特徴とする請求項1乃至の何れかに記載のマイクロ分析チップ。
【請求項8】
前記液体導入構造は、前記流路と同じ深さに形成されていることを特徴とする請求項1乃至の何れかに記載のマイクロ分析チップ。
【請求項9】
前記流路が2つ以上隣接しており、各々の流路の隣接壁に微小スリット又は微細孔が形成されていることを特徴とする請求項1乃至8の何れかに記載のマイクロ分析チップ。
【請求項10】
前記溝は、前記バンクで囲まれていることを特徴とする請求項1乃至9の何れかに記載のマイクロ分析チップ。
【請求項11】
前記リザーバの幅は、前記流路の幅よりも広いことを特徴とする請求項1乃至10の何れかに記載のマイクロ分析チップ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、検体液中の微粒子を検出可能なマイクロ分析チップに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、バイオ技術やヘルスケアなどの分野において、マイクロ流路や検出機構などの微小な流体要素を用いて、検体液に含まれる微粒子やバイオポリマの電気的な分離や検出を行う半導体マイクロ分析チップが注目されている。この中でも、リザーバからマイクロ流路に検体液を導入し、マイクロ流路に形成した微細孔に微粒子を通過させる構造が有効である。
【0003】
この種の装置においては、検体液が滴下されるリザーバからマイクロ流路に速やかに、且つ連続して検体液を導入する必要がある。さらに、検査対象外の微粒子などの不純物の影響が懸念されるため、これら検査対象外の微粒子などの不純物はリザーバから検出孔の間で除外するのが望ましい。しかし、種々の要因により、これらを満足できていないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−337521号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
発明が解決しようとする課題は、検体液中の微粒子を検出できると共に、リザーバに滴下された検体液中から、検査対象外の微粒子を効率良く除外できるのは勿論のこと、リザーバに滴下された検体液を流路に速やかに導入可能とするマイクロ分析チップを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
実施形態のマイクロ分析チップは、基板と、前記基板の主面側に検体液を流入可能に設けられた流路と、前記基板の主面上に周回状のバンクを有し、且つ該バンク内の前記基板の主面に前記流路の一端に接続するための液導入口を有し、前記検体液を収容可能なリザーバと、前記液導入口から前記流路の一端までの間に設けられ、前記検体液中の微粒子を通過させるための第1の微細孔を有するフィルタと、前記バンクの内側に形成され、前記液導入口に接続された線状の溝を有する液体導入構造と、を具備している。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】第1の実施形態に係わる半導体マイクロ分析チップの要部構成を示す斜視図である。
図2図1のA−A’断面図である。
図3図1の半導体マイクロ分析チップに用いたフィルタのパターン例を示す平面図である。
図4】第2の実施形態に係わる半導体マイクロ分析チップの全体構成を示す平面図である。
図5】第3の実施形態に係わる半導体マイクロ分析チップの全体構成を示す斜視図である。
図6図5のB−B’断面図である。
図7】第4の実施形態に係わる半導体マイクロ分析チップの要部構成を示す斜視図である。
図8図7のC−C’断面図である。
図9】第5の実施形態に係わる半導体マイクロ分析チップの要部構成を示す平面図である。
図10】第6の実施形態係わる半導体マイクロ分析チップの要部構成を示す平面図である。
図11】第7の実施形態に係わる半導体マイクロ分析チップの全体構成を示す斜視図である。
図12】第8の実施形態に係わる半導体マイクロ分析チップの全体構成を示す斜視図である。
図13図12の半導体マイクロ分析チップの要部構成を示す断面図である。
図14図12の半導体マイクロ分析チップの変形例を示す斜視図である。
図15】比較例としての半導体マイクロ分析チップの全体構成を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、実施形態の半導体マイクロ分析チップを、図面を参照して説明する。
【0011】
(第1の実施形態)
図1及び図2は、第1の実施形態に係わる半導体マイクロ分析チップの概略構成を説明するためのもので、図1はリザーバ部分の構成を示す斜視図、図2図1の矢視A−A’断面図である。
【0012】
本実施形態の半導体マイクロ分析チップは、半導体基板10と、検体液を流入可能なマイクロ流路20と、検体液を収容可能なリザーバ30と、検体液をマイクロ流路20に導入するための液導入口40と、検体液中の微粒子を通過させるためのフィルタ50と、検体液に電気信号を与えるための電極60と、を備えている。
【0013】
より具体的には、Si等の半導体基板10の主面を掘り込むことにより、基板掘り込み型のマイクロ流路20が形成されている。マイクロ流路20の底面と側面及び基板10上には、シリコン酸化膜等の絶縁膜11が形成されている。さらに、マイクロ流路20以外の部分では絶縁膜11上に絶縁膜12が形成され、マイクロ流路20の部分では中空構造を形成するように絶縁膜12が形成されている。即ち、絶縁膜12の一部は、マイクロ流路20の上部を覆うキャップ層となっている。
【0014】
マイクロ流路20の一端側には、基板10上に周回状のバンク14を形成することにより、矩形状のリザーバ30が構成されている。リザーバ30内に、マイクロ流路20の一端と接続された液導入口40が形成されている。この液導入口40は、マイクロ流路20よりも幅広に形成されている。即ち、マイクロ流路20の一端は、バンク14の下を通りリザーバ30内に導入され、マイクロ流路20よりも幅の広い液導入口40に接続されている。
【0015】
液導入口40の上面は、マイクロ流路20と同様にキャップ層12で覆われている。そして、このキャップ層12に複数の微細孔13を形成することにより、フィルタ50が構成されている。フィルタ50の微細孔13の形状は、マイクロ流路20のキャップ層12に平面的にパターニングできるものであり、自由に設計が可能である。
【0016】
バンク30内の絶縁膜12上に、液導入口40を除く領域に、電極60が形成されている。この電極60の一部はバンク14と絶縁膜12との間を通りリザーバ30の外に導出されている。
【0017】
なお、マイクロ流路20内での検体液の移動をスムーズにするために、マイクロ流路20内に複数のピラーを形成しても良い。
【0018】
このように構成された半導体マイクロ分析チップにおいて、リザーバ30に検体液等の液体を滴下すると、滴下された液体はリザーバ30内に広がり液導入口40に到達する。液導入口40に到達した液体はその後、フィルタ50を通ってマイクロ流路20へ導入され、図示しないマイクロ流路に接続された液体を分析するブロックへと流動する。このとき、リザーバ30を形成するバンク14により滴下した液体は堰き止められるため、リザーバ30の外側へ液体が流出することは防ぐことができる。
【0019】
リザーバ30内に形成された電極60は、リザーバ30内に滴下された液体に電気信号を印加することができる。また、マイクロ流路20に接続された液体を分析するブロック(図示せず)での分析結果を取得することができる。
【0020】
これに加えて本実施形態では、リザーバ30とマイクロ流路20との間の液導入口40に、微細孔13を複数形成したフィルタ50が設けられている。このフィルタ50は、微細孔13のサイズ及び形状を、検査対象外の微粒子が通過不能で、且つ検査対象の微粒子が通過可能とすることで、検査対象の微粒子又はその集合体のみを通過させることができる。
【0021】
ここで、フィルタ50の微細孔13のパターン例を、図3(a)〜(c)に示す。図3(a)では円形状、図3(b)では長方形、図3(c)では十字形状となっている。図3(a)では、微細孔13の径を、検査対象の微粒子よりも大きく、且つ検査対象外の微粒子サイズよりも小さくすることで、検査対象外の微粒子を除外することができる。図3(b)は、微細孔13の長径と短径の組み合わせを最適化することで、検査対象外の微粒子を除外することができる。図3(c)は、図3(b)の長方形を組み合わせたものであるから、同様に長径と短径の組み合わせを最適化することで、検査対象外の微粒子を除外することができる。
【0022】
フィルタ50用の微細孔13の径を微粒子検出用の微細孔の径よりも小さくしておけば、微粒子検出用の微細孔に検査対象外の微粒子が詰まることを未然に防止でき、確実な検査が可能となる。また、フィルタ50用の微細孔13の径を微粒子検出用の微細孔の径よりも大きくしておけば、マイクロ流路20への検査液の導入を速やかに行うことができ、検査時間の短縮をはかることが可能となる。
【0023】
このように、本実施形態の半導体マイクロ分析チップは、リザーバ30内にフィルタ50を形成することで、リザーバ30に滴下された検体液等の液体から検査対象外の微粒子を除外してマイクロ流路20に導入することが可能となる。しかも、フィルタ50はキャップ層12に複数の微細孔13を設けることで形成することができる。従って本実施形態では、基板を掘り込む流路構造である点は従来と同様であるが、平面上にフィルタを形成できるため、フィルタ面積を容易に増加でき、フィルタ断面積を増加させることができる。また、検査対象の粒子径以上の掘り込み深さは必要ではあるものの、流量増加に伴う更なる深堀は不要である。さらに、フィルタ50は、平面的なキャップ層12に微細孔13を設けるのみで形成できるため、微細孔13のパターンの自由度が高く、検査対象外の微粒子を効率良く除外することができる。
【0024】
第1の実施形態に係わる半導体マイクロ分析チップは、以下の半導体プロセスを用いた工程にて作製される。まず、シリコン基板10上にマイクロ流路20及び液導入口40となる掘り込み構造を反応性イオンエッチング装置を用いて形成する。その後、滴下する液体と基板10との電気的な導通を防止するため、熱酸化により基板表面に絶縁膜11である酸化シリコンを形成する。
【0025】
次いで、マイクロ流路20及び液導入口40の内部を図示しない犠牲層として樹脂系の材料にて埋め込み、その上に酸化シリコンを積層し、絶縁膜(キャップ層)12を形成する。キャップ層12の形成後、Pt電極をフォトレジストを用いたリフトオフプロセスにより絶縁膜12上に積層し、更にエポキシ樹脂をパターニングしてバンク14を形成する。さらに、次工程の犠牲層除去においてバンク14がエッチングされないように、エポキシ樹脂の表面を酸化シリコンでカバーする。最後に、酸素プラズマアッシングによりマイクロ流路20内の犠牲層をエッチング除去する。
【0026】
このとき、液導入口40の基板主面に対して垂直方向の短辺側、即ち液導入口40の幅をマイクロ流路20の幅と比較して広くすることで、リザーバ30内に滴下する液体をマイクロ流路20の液導入口40に効率良く到達させることができる。さらに、液導入口40はマイクロ流路20をカバーするキャップ層12で覆い、この部分に微細孔13を形成することで、フィルタ50を形成することができる。このフィルタ50により、検査対象外の微粒子を除外することが可能となる。
【0027】
ここで、基板10の種類としてはシリコンの他に、石英、ガリウムヒ素、インジウム燐、サファイア、セラミック、弗素樹脂を母体とするものを用いることもできる。さらに、基板の掘り込み加工は、反応性イオンエッチング以外の手法を用いて行っても構わない。また、基板10の主面の絶縁膜11の形成は、熱酸化の他に、化学気相成長、スパッタ等の方法を用いて積層することも可能である。絶縁膜11は、基板10が絶縁体であれば必ずしも必要ない。
【0028】
犠牲層の種類としては樹脂系の他に、シリコン、ガリウムヒ素等の半導体材料、アルミニウム、モリブデン等の金属材料、石英、窒化シリコン等の絶縁材料を用いることができる。犠牲層としては、その上に積層するキャップの材料とのエッチング選択比の高いものを選択すればよい。
【0029】
キャップ層12の種類としては酸化シリコンの他に、窒化シリコン、サファイア、樹脂等の絶縁材料が望ましく、犠牲層とのエッチング選択比の高いものを選択すればよい。
【0030】
電極60の種類としてはPtの他に、Ir、Pd、Au、Hg,Sn、Cu、Zn、Fe、Mg、Co、Ni、V、水銀カロメル、及びそれらの様々な組み合わせが含まれる。また、Ag/AgCl、又はHg/HgOのような電気化学電極を利用することもできるが、安価に大量生産可能な半導体プロセスにて取り扱うことのできる材質を選択するのが尚よい。
【0031】
また、電極60のパターニングは、リフトオフの他にドライエッチング、或いはウェットエッチングによるエッチオフによって行うこともできる。
【0032】
バンク14の種類としては樹脂系の材料の他に、シリコン、ガリウムヒ素等の半導体材料、アルミニウム、モリブデン等の金属材料、石英、窒化シリコン等の絶縁材料を用いることができ、バンクをカバーする材料は酸化シリコンの他に石英、窒化シリコン等の絶縁材料を用いることができる。或いはバンクをカバーする材料がマイクロ流路の犠牲層をエッチング除去する際に除去されないならカバーを積層する必要はない。また、バンクのサイズはリザーバに滴下する液体の容量に応じて適切に設定すればよい。
【0033】
犠牲層のエッチングは酸素プラズマアッシングの他に、犠牲層を除去できるガスを用いたドライエッチング、或いはエッチャントを用いたウェットエッチングで行うことができ、犠牲層の材質に応じて選択することができる。
【0034】
ここで、比較例として、基板を掘り込んだリザーバを有する半導体マイクロ分析チップの問題点を説明しておく。
【0035】
比較例としての半導体マイクロ分析チップは、図15に示すように、半導体基板1の主面に周回状のバンク2により形成されるリザーバ3と、基板主面の一部を掘り込んで形成されるピラー4と、同じく基板1の主面の一部を掘り込み且つ上部をキャップで覆われ、リザーバ3の内側から外側へと延在するマイクロ流路5と、リザーバ内形成された電極(図示せず)により構成される。
【0036】
この種のマイクロ分析チップのように、基板1を掘り込むと同時にピラー4を形成したリザーバ3の場合は、ピラー4による毛細管現象によりリザーバ3に滴下された検体液を、基板1を掘り込むことで形成されたマイクロ流路5の液導入口に導入することが可能である。また、この導入された検体液中の検査対象の微粒子はマイクロ流路5の検出孔6を通過する際の電気信号の変化を検出することが検出される。しかし、検査対象外の微粒子などの不純物の影響が懸念されるため、これら検査対象外の微粒子などの不純物はリザーバ2から検出孔の間でフィルタにより除外する必要がある。
【0037】
比較例の構成では、このフィルタもピラー4により形成されていたが、このピラー4によるフィルタには幾つかの課題があった。まず、基板1を掘り込む流路構造では、流路内を通過する検体液の流量増加、検査対象の粒子径の増加に伴い、流路断面積を増加させるためには、基板掘り込み深さを深くする必要があった。このため、ピラー形状はより高アスペクトとなり、ピラー加工時及び後プロセスにおけるピラーの破壊不良が多く発生するという構造的な問題があった。また、ピラーを用いたフィルタの場合は、ピラー形状が柱状に限定されるため、フィルタの通過孔の形状は直方体等に限定され、例えば、円形状や十字形状などの設計は不可能であるなど、設計の側面でも問題があった。さらに、この基板を掘り込む流路構造では、掘り込み深さに限界があるためフィルタ面積を増加することができないという性能的な問題があった。
【0038】
これに対し本実施形態では、平面上に形成されたキャップ層12に微細孔13を設けることによりフィルタ50を構成できるため、構造的に安定であり設計の自由度を向上させることができる。
【0039】
(第2の実施形態)
図4は、第2の実施形態に係わる半導体マイクロ分析チップの全体構成を示す平面図である。なお、図1と同一部分には同一符号を付して、その詳しい説明は省略する。
【0040】
本実施形態は、第1の実施形態で説明したリザーバの構成を、2つのマイクロ流路を有する半導体マイクロ分析チップに適用した例である。
【0041】
図4に示すように、本実施形態の半導体マイクロ分析チップは、半導体基板10と、第1〜第4のリザーバ31〜34と、液導入口41〜44と、フィルタ51〜54と、第1及び第2のマイクロ流路21,22と、リザーバ31,32内に形成された第1及び第2の電極61,62と、微粒子検出用の微小スリット70と、から構成されている。なお、図示しないが、第1の実施形態と同様に、少なくとも基板の主面には絶縁膜が形成され、更にマイクロ流路21,22の上面を覆うキャップ層が形成されている。
【0042】
より具体的には、基板10の主面の一部を掘り込んで基板掘り込み型の第1及び第2のマイクロ流路21,22が形成されている。これらのマイクロ流路21,22は、一部が隣接しており、該隣接部の隔壁に微粒子検出用の微小スリット70が設けられている。
【0043】
第1のマイクロ流路21の一端側には、基板上に周回状のバンク14を形成することにより、第1のリザーバ31が構成されている。第1のマイクロ流路21の一端は、第1のリザーバ31内に導かれ、幅が広くなっている。即ち、第1のマイクロ流路21は第1のリザーバ31内に液導入口41を有するものとなっている。液導入口41には、キャップ層に微細孔を設けたフィルタ51が形成されている。また、第1のリザーバ31内の基板10の表面には、第1の電極61が形成されている。この電極61は、一部がバンク14の底部を通してリザーバ31の外側に導出されている。
【0044】
第2のマイクロ流路22の一端側には、基板10上に周回状のバンク14を形成することにより第2のリザーバ32が構成されている。第2のリザーバ32は、第1のリザーバ31と実質的に同様の構成であり、液導入口42、フイルタ52、第2の電極62、を有する。そして、液導入口42が第2のマイクロ流路22に接続されている。
【0045】
第1のマイクロ流路21の他端側には、基板10上に周回状のバンク14を形成することにより、第3のリザーバ33が構成されている。第3のリザーバ33の構成は、電極61が無いだけで、第1のリザーバ31と同様である。第2のマイクロ流路22の他端側には、基板上に周回状のバンク14を形成することにより、第4のリザーバ34が構成されている。第4のリザーバ34の構成は、電極62が無いだけで、リザーバ32と同様である。
【0046】
上記のように、第1のマイクロ流路21は、第1のリザーバ31内の液導入口41と第3のリザーバ33内の液導入口43を結び、上面をキャップ層で覆われている。第2のマイクロ流路22は、第2のリザーバ32内の液導入口42と第4のリザーバ34内の液導入口44を結び、上面をキャップ層で覆われている。
【0047】
なお、検体液の流れが第1のリザーバ31から第3のリザーバ33への一方向のみの場合、第3のリザーバ33内のフィルタ53は省略することも可能である。同様に、検体液の流れが第2のリザーバ32から第4のリザーバ34への一方向のみの場合、第4のリザーバ34内のフィルタ54は省略することも可能である。
【0048】
このような半導体マイクロ分析チップの第1のリザーバ31に検体液等の液体を滴下すると、第1の実施形態と同様に、滴下された液体は第1のリザーバ31内に広がり液導入口41に到達する、液導入口41に到達した液体は、フィルタ51を介して第1のマイクロ流路21へ導入される。第1のマイクロ流路21に導入された液体は更に第3のリザーバ33内のフィルタ53を介してリザーバ33内へと到達する。同様に、第2のリザーバ32に検体液等の液体を滴下すると、滴下された液体は第2のリザーバ32内に広がり液導入口42に到達する、液導入口42に到達した液体は、フィルタ52を介して第2のマイクロ流路22へ導入される。第2のマイクロ流路22に導入された液体は更に第4のリザーバ34内のフイルタ54を介して第4のリザーバ34内へと到達する。
【0049】
このとき、第1のマイクロ流路21内の液体は、第1のリザーバ31内の液導入口41及びフィルタ51を介して第1の電極61と電気的に接続されている。同様に、第2のマイクロ流路22内の液体は、第2のリザーバ32内の液導入口42及びフィルタ52を介して第2の電極62と電気的に接続されている。さらに、第1のマイクロ流路21内の液体と第2のマイクロ流路22内の液体は微小スリット70を介して接触することになる。従って、第1の電極61と第2の電極62は、滴下した液体を介して電気的に接続されることになる。
【0050】
第1のリザーバ31と第2のリザーバ32に微粒子等の被検査物を含む導電性の検体液を滴下した状態で、第1の電極61と第2の電極62との間に電圧を印加すると、電極61,62間にはイオン電流が流れる。即ち、検体液の導電率、第1及び第2の電極61,62のサイズと材質、第1及び第2のマイクロ流路21,22のサイズ、微小スリット70のサイズ等に依存したイオン電流が流れる。また、第1及び第2のマイクロ流路21,22と微小スリット70にはイオン電流の電流密度に応じた電界が発生し、特に第1及び第2のマイクロ流路21,22よりサイズの小さな微小スリット70の近傍では最も電界強度が大きくなる。検体液中の微粒子等の被検査物は通常表面が帯電するため、この表面電荷と前述の電界により電気泳動する。
【0051】
高い電界強度の微小スリット70の近傍では、微粒子の電気泳動による運動は大きくなり、場合によっては第1のマイクロ流路21から第2のマイクロ流路22へ微小スリット70を介して微粒子が移動する、或いはその逆の移動が発生する場合がある。このとき、微小スリット70の検体液を微粒子が排除することになるので、微小スリット70の電気抵抗が上昇し、結果としてイオン電流の大きさが減少することになる。このイオン電流の変化する量と変化する時間は、微小スリット70を通過する微粒子のサイズに対応している。このため、第1の電極61と第2の電極62の間を流れるイオン電流の大きさを計測することにより、検体液中の微粒子のサイズを電気的に分析することが可能となる。
【0052】
このとき、第1のマイクロ流路21と第2のマイクロ流路22には第1の実施形態にて詳述したフィルタ50(51,52)が形成されているため、検体液中の検査対象外の微粒子を予め除外することができ、微小スリット70を用いた微粒子の検出を効率良く行うことができる。
【0053】
なお、微小スリット70を通しての微粒子の移動が第1の流路21から第2の流路22への一方向の場合、第2の流路内22には必ずしも検体液を導入する必要はなく、電極61,62間での電気的検出が可能となる電解液を導入するようにしても良い。
【0054】
(第3の実施形態)
図5は、第3の実施形態に係わる半導体マイクロ分析チップの全体構成を示す平面図である。図6(a)(b)は、図5の矢視C−C’断面図である。なお、図2及び図4と同一部分には同一符号を付して、その詳しい説明は省略する。また、電極61,62は示していない。
【0055】
本実施形態が先に説明した第2の実施形態と異なる点は、マイクロ流路の一方を絶縁膜トンネル型に形成したことにある。
【0056】
即ち、第1のマイクロ流路21は先の第2の実施形態と同様に基板掘り込み型であり、第2のマイクロ流路23は、基板掘り込み型ではなく、基板10上に絶縁膜の中空構造を形成した絶縁膜トンネル型の流路となっている。この第2のマイクロ流路23は、基板10内ではなく基板10上に形成されるため、第1のマイクロ流路21の上方に位置することになる。そして、第2のマイクロ流路23は、基板10の中央部で第1のマイクロ流路21と交差しており、この交差部分に検出用の微細孔80が形成されている。
【0057】
なお、第2のマイクロ流路23を形成するには、基板10上に犠牲層のパターンを形成した後、犠牲層を覆うように絶縁膜15を形成する。その後、犠牲層を除去することにより、絶縁膜トンネル型の流路が形成される。また、第2のマイクロ流路23は、図6(a)に示すように、基板10を掘り込んで形成された連絡通路18を介して第2のリザーバ32内の液導入口42に接続されている。そして、液導入口42には、フィルタ52が形成されている。
【0058】
本実施形態の構成では、第1のリザーバ31に検体液等の液体を滴下すると、先の第2の実施形態と同様に、滴下された液体は液導入口41に到達し、フィルタ51を介して第1のマイクロ流路21へ導入され、更にフィルタ52を介して第3のリザーバ33内へと到達する。一方、第2のリザーバ32に検体液等の液体を滴下すると、滴下された液体は第2のリザーバ32内に広がり液導入口42に到達する。液導入口42に到達した液体は、フィルタ52を介して連絡通路18へ導入され、更に第2のマイクロ流路23へ導入される。第2のマイクロ流路23に導入された液体は、第4のリザーバ34内のフイルタ54を介して第4のリザーバ34内へと到達する。従って、第2の実施形態と同様に微粒子の検査を行うことができる。
【0059】
従って本実施形態では、先の第2の実施形態と同様の効果が得られる。これに加えて本実施形態では、微粒子検査のための微細孔80が、キャップ層12に平面的に形成できるため、孔形状の設計自由度が高い。このため、検出すべき微粒子の形状に応じて微細孔80を最適に設定することができ、検査精度の向上をはかることが可能となる。
【0060】
また、本実施形態では、図6(a)に示す構成において、連絡通路18と流路23との接続部にフィルタを設けるようにしても良い。このとき、図6(b)に示すように、液導入口のフィルタ52aを粗く、接続部側のフィルタ52bを細かく設計することにより、検査対象外の微粒子の除外をより効率良く行うことも可能となる。
【0061】
(第4の実施形態)
図7及び図8は、第4の実施形態に係わる半導体マイクロ分析チップの概略構成を説明するためのもので、図7はリザーバ部分の構成を示す斜視図、図8図7の矢視C−C’断面図である。なお、図1及び図2と同一部分には同一符号を付して、その詳しい説明は省略する。
【0062】
本実施形態の半導体マイクロ分析チップは、半導体基板10と、検体液を流入可能なマイクロ流路20と、検体液を収容可能なリザーバ30と、検体液をマイクロ流路20に導入するための液導入口40と、検体液に電気信号を与えるための電極60と、検体液を液導入口40に導くための液体導入構造90と、を備えている。
【0063】
より具体的には、Si等の半導体基板10の主面を掘り込むことにより、基板掘り込み型のマイクロ流路20が形成されている。マイクロ流路20の底面と側面及び基板10上には、シリコン酸化膜等の絶縁膜11が形成されている。さらに、マイクロ流路20以外の部分では絶縁膜11上に絶縁膜12が形成され、マイクロ流路20の部分では中空構造を形成するように絶縁膜12が形成されている。即ち、絶縁膜12の一部は、マイクロ流路20の上部を覆うキャップ層となっている。
【0064】
マイクロ流路20の一端側には、基板10上に周回状のバンク14を形成することにより、矩形状のリザーバ30が構成されている。リザーバ30内に、マイクロ流路20の一端と接続された液導入口40が形成されている。この液導入口40はマイクロ流路20よりも幅が広くなっている。即ち、マイクロ流路20の一端は、バンク14の下を通りリザーバ30内に導入され、マイクロ流路20の幅よりも広い液導入口40に接続されている。
【0065】
リザーバ30内には、基板10を線状に掘り込んだ溝を有する液体導入構造90が形成されている。ここでは、液体導入構造90は直線状の溝を有している。この液体導入構造90の一端は、液導入口40に接続されている。
【0066】
リザーバ30内の絶縁膜11上に、電極60が形成されている。この電極60の一部はバンク14と絶縁膜11との間を通りリザーバ30の外に導出されている。なお、電極60は液体導入構造90内に形成しても良いし、液体導入構造90を除く領域に形成しても良い。
【0067】
このような半導体マイクロ分析チップのリザーバ30に検体液等の液体を滴下すると、滴下された液体はリザーバ30内に広がり液体導入構造90に捕獲され、液導入口40に到達する。液導入口40に到達した液体はその後、マイクロ流路20へ導入され、図示しないマイクロ流路20に接続された液体を分析するブロックへと流動する。このとき、液体導入構造90を数〜数百マイクロメートル程度の幅にしておくことで、液体導入構造90に捕獲された液体は、毛細管現象により速やかに液導入口40へ到達することが可能となる。さらに、液体導入構造90の流速がマイクロ流路20と比較して大きくなるため、検体液を絶やすことなくマイクロ流路20に導入することが可能となる。また、リザーバ30を形成するバンク14により滴下した液体は堰き止められるため、リザーバ30の外側への液体が流出することは防ぐことができる。
【0068】
リザーバ30内の絶縁膜11上に形成される電極60は、リザーバ30内に滴下された液体に電気信号を印加することができる。また、マイクロ流路20に接続された液体を分析するブロック(図示せず)での分析結果を滴下された液体を介して取得することができる。このとき、電極60の大部分は液体導入構造90以外の絶縁膜11の上に積層される。即ち、電極60の大部分は基板10の主面上に位置する平坦な絶縁膜11の上に積層されるため、電極配置の制約や絶縁膜側面への電極形成による電極断線等の大部分の問題を回避することが可能となる。
【0069】
第4の実施形態に係わる半導体マイクロ分析チップは、以下の半導体プロセスを用いた工程にて作製される。まず、シリコン基板10上に液体導入構造90とマイクロ流路20となる掘り込み構造を反応性イオンエッチング装置を用いて形成する。その後、滴下する液体と基板10との電気的な導通を防止するため、熱酸化により基板表面に絶縁膜11である酸化シリコンを形成する。
【0070】
次いで、マイクロ流路20の内部を図示しない犠牲層として樹脂系の材料にて埋め込み、その上に酸化シリコンを積層しキャップ層12を形成する。キャップ層12の形成後、Pt電極をフォトレジストを用いたリフトオフプロセスにより絶縁膜11上に積層し、更にエポキシ樹脂をパターニングしてバンク14を形成する。さらに、次工程の犠牲層除去においてバンク14がエッチングされないように、エポキシ樹脂の表面を酸化シリコンでカバーする。最後に、酸素プラズマアッシングによりマイクロ流路20内の犠牲層をエッチング除去する。
【0071】
このとき、液体導入構造90とマイクロ流路20の掘り込み構造は同時に形成することもできるし、別々に形成することもできる。同時に形成する場合は、半導体マイクロ分析チップの作製プロセスの工程数を減少でき、作製コストが低減できる。このときの液体導入構造90とマイクロ流路20の掘り込み量は略一致することになる。
【0072】
また、液体導入構造90の基板主面に対して垂直方向の短辺側、即ち液体導入構造の幅をマイクロ流路20の幅と比較して狭くすることで、毛細管力の増加により、リザーバ30内に滴下する液体を短時間でマイクロ流路20の液導入口40に到達させることができる。さらに、液体導入構造90はマイクロ流路20をカバーするキャップ層12で一部を覆うことで、特定の場所からのみ滴下した液体を液体導入構造90に導入することが可能となり、液体中の夾雑物の濾過を可能とすることができる。
【0073】
このように本実施形態では、リザーバ30内に液体導入構造90を形成することで、リザーバ30に滴下された検体液等の液体を迅速にマイクロ流路20の液導入口40へ誘導し、液体をマイクロ流路20に導入することが可能となる。このとき、リザーバ30の内部の大部分を掘り込んでピラーを形成する必要がなく、基板主面上に位置する平坦な絶縁膜11の上に電極60が形成されるため、電極60の引き回しや電極サイズの制約を抑制できるようになる。
【0074】
従って、比較例のようにリザーバを掘り込んで形成したマイクロ分析チップとリザーバを掘り込まずに形成したマイクロ分析チップの課題の両方を抑制することが可能となる。即ち、検体液を速やかにマイクロ流路20に導入でき、電極60の断線不良を抑制し、更に電極面積の制約が抑制された半導体マイクロ分析チップを、製造コストを抑制して実現することが可能となる。
【0075】
なお、基板10、絶縁膜11、キャップ層12、電極60、バンク14、及び犠牲層の材料としては、第1の実施形態で説明した各種の材料を用いることができる。さらに、電極60のパターニング、犠牲層のエッチングに関しても、第1の実施形態で説明した各種の変形が可能である。
【0076】
また、本実施形態の半導体分析チップでは液体導入構造90の底面及び側面に電極60を積層している。しかし、底面及び側面の電極とこれら以外の電極との断線が生じる、或いはこれらの領域への電極積層が困難な場合には、液体導入構造90以外の基板主面の絶縁膜11の上のみに電極60を形成することも可能である。
【0077】
また、液体導入構造90を通らずに液体導入口40へ検体液が導入される場合に備えて、第1の実施形態と同様に、液導入口40の上面をマイクロ流路と同様にキャップ層で覆い、そのキャップ層に微細孔を形成してフィルタを形成してもかまわない。
【0078】
(第5の実施形態)
図9は、第5の実施形態に係わる半導体マイクロ分析チップの要部構成を示す平面図である。なお、図7と同一部分には同一符号を付して、その詳しい説明は省略する。
【0079】
図9に示すように、液体導入構造90を除いて第4の実施形態と同様の構成となっている。本実施形態の液体導入構造90(90a,90b)は、線状の溝となっており、複数の液体導入構造90が液導入口40に接続されていることに加え、液体導入構造90aの途中に複数の液体導入構造90bが結合されている。ここでは、液体導入構造90は、直線状の溝となっている。即ち、液体導入構造90は矢羽根状に形成されている。
【0080】
このような構造に検体液等の液体を滴下することにより、第4の実施形態と同様に、液体導入構造90に捕獲された液体は途中の液体導入構造90と結合しながら、最終的には液導入口40に到達する。このとき、液体導入構造90はリザーバ30内の各所に配置されているため、第4の実施形態と比較して、滴下した検体液はより短時間で液体導入構造90に達し、液導入口40を経由してマイクロ流路20へと導入される。また、第4の実施形態と比較して検体液を滴下する場所の自由度が増す効果がある。
【0081】
本実施形態の半導体マイクロ分析チップの作製方法は、液体導入構造90のパターンが異なるのみで、第4の実施形態で説明したプロセスと同様である。
【0082】
(第6の実施形態)
図10は、第6の実施形態に係わる半導体マイクロ分析チップの要部構成を示す平面図である。なお、図7と同一部分には同一符号を付して、その詳しい説明は省略する。
【0083】
図10に示すように、液体導入構造90を除いて第4の実施形態と同様の構成となっている。本実施形態の液体導入構造90は、線状の溝となっており、リザーバ30と略同心状に、バンク14の内壁付近に沿って形成されている。即ち、液体導入構造90は、直線状及び曲線状の溝を有している。
【0084】
リザーバ30に滴下された液体のうちバンク14と接触した液体は、リザーバ30の内部に広がるよりも早く毛細管現象によりバンク14の周囲に広がっていく。そのため、本実施形態に記載の構造にすることにより、バンク14の周囲の液体を液体導入構造90に捕獲できる。結果として、第4の実施形態に記載の半導体マイクロ分析チップと比較して、リザーバ30内に滴下した液体を、短時間で液導入口40を経由してマイクロ流路20へと導入することが可能となる。また、また、第4の実施形態と比較して、検体液を滴下する場所がバンク30の内壁にすることができ、バンク30を支えにして検体液等を導入する治具等を設置することも可能となる。
【0085】
本実施形態の半導体マイクロ分析チップの作製方法は、液体導入構造90のパターンが異なるのみで、第4の実施形態に記載の半導体マイクロ分析チップと同様である。また、第5の実施形態に記載の半導体マイクロ分析チップの液体導入構造と組み合わせて液体導入構造を形成することも可能である。
【0086】
(第7の実施形態)
図11は、第7の実施形態に係わる半導体マイクロ分析チップの全体構成を示す斜視図である。なお、図7と同一部分には同一符号を付してその詳しい説明は省略する。
【0087】
本実施形態は、第4の実施形態で説明したリザーバの構成を、2つのマイクロ流路を有する半導体マイクロ分析チップに適用した例である。
【0088】
図11に示すように、本実施形態の半導体マイクロ分析チップは、半導体基板10と、第1〜第4のリザーバ31〜34と、液体導入構造91〜94と、液導入口41〜44と、第1及び第2のマイクロ流路21,22と、リザーバ31,32内に形成された第1及び第2の電極61,62と、微粒子検出用の微小スリット70と、から構成されている。なお、図示しないが、第1の実施形態と同様に、少なくとも基板の主面には絶縁膜が形成され、更にマイクロ流路21,22の上面を覆うキャップ層が形成されている。
【0089】
より具体的には、基板10の主面の一部を掘り込んで基板掘り込み型の第1及び第2のマイクロ流路21,22が形成されている。これらのマイクロ流路21,22は、一部が隣接しており、該隣接部の隔壁に微粒子検出用の微小スリット70が設けられている。
【0090】
第1のマイクロ流路21の一端側には、基板上に周回状のバンク14を形成することにより、第1のリザーバ31が構成されている。リザーバ31内には、基板10の表面を直線状に掘り込むことにより、液体導入構造91が形成されている。
【0091】
第1のマイクロ流路21の一端は、第1のリザーバ31内に導かれ、幅が広くなっている。即ち、第1のマイクロ流路21は第1のリザーバ31内に液導入口41を有するものとなっている。そして、液体導入構造91が液導入口41に接続されている。また、第1のリザーバ31内の基板10の表面には、第1の電極61が形成されている。この電極60は、一部がバンク14の底部を通してリザーバ31の外側に導出されている。
【0092】
第2のマイクロ流路22の一端側には、基板上に周回状のバンク14を形成することにより第2のリザーバ32が構成されている。第2のリザーバ32の構成は第1のリザーバ31と実質的に同様であり、液導入口42、電極62、及び液体導入構造92を有する。そして、液導入口42が第2のマイクロ流路22に接続されている。
【0093】
第1のマイクロ流路21の他端側には、基板上に周回状のバンク14を形成することにより、第3のリザーバ33が構成されている。第3のリザーバ33の構成は、電極61が無いだけで、第1のリザーバ31と同様である。但し、43は41と同じ構造であり、93は91と同じ構造であるが、リザーバ31側からリザーバ33側へ液体を移動させる場合、43は液排出口として機能し、93は液体排出構造として機能するものとなっている。
【0094】
第2のマイクロ流路22の他端側には、基板上に周回状のバンク14を形成することにより、第4のリザーバ34が構成されている。第4のリザーバ34の構成は、電極62が無いだけで、第2のリザーバ32と同様である。ここで、44が液排出口として機能し、94が液体排出構造として機能するのは、第3のリザーバ33の場合と同様である。また、液体排出側には電極を設ける必要がないことから、93,94のような液体排出構造を設ける代わりに、複数のピラーを設けるようにしても良い。
【0095】
上記のように、第1のマイクロ流路21は、第1のリザーバ31内の液導入口41と第3のリザーバ33内の液導入口43を結び、上面をキャップ層で覆われている。第2のマイクロ流路22は、第2のリザーバ32内の液導入口42と第4のリザーバ34内の液導入口44を結び、上面をキャップ層で覆われている。
【0096】
このような半導体マイクロ分析チップの第1のリザーバ31に検体液等の液体を滴下すると、第1の実施形態と同様に、滴下された液体は第1のリザーバ31内に広がり液体導入構造91に捕獲され、液導入口41に到達する。液導入口41に到達した液体はその後、第1のマイクロ流路21へ素早く導入される。第1のマイクロ流路21に導入された液体は更に第3のリザーバ33内の液導入口43を介して素早く液体導入構造93へと到達する。
【0097】
同様に、第2のリザーバ32に検体液等の液体を滴下すると、滴下された液体は第2のリザーバ32内に広がり液体導入構造92に捕獲され、液導入口42に到達する、液導入口42に到達した液体はその後、第2のマイクロ流路22へ素早く導入される。第2のマイクロ流路22に導入された液体は更に第4のリザーバ34内の液導入口44を介して素早く液体導入構造94へと到達する。
【0098】
このとき、第1のマイクロ流路21内の液体は、第1のリザーバ31内の液体導入構造91及び液導入口41を介して第1の電極61と電気的に接続されている。同様に、第2のマイクロ流路22内の液体は、第2のリザーバ32内の液体導入構造92及び液導入口42を介して第2の電極62と電気的に接続されている。さらに、第1のマイクロ流路21内の液体と第2のマイクロ流路22内の液体は微小スリット70を介して接触することになる。従って、第1の電極61と第2の電極62は滴下した液体を介して電気的に接続されることになる。
【0099】
第1のリザーバ31と第2のリザーバ32に微粒子等の被検査物を含む導電性の検体液を滴下した状態で、第1の電極61と第2の電極62との間に電圧を印加すると、先の第2の実施形態と同様に、電極61,62間にはイオン電流が流れる。また、第1及び第2のマイクロ流路21,22と微小スリット70にはイオン電流の電流密度に応じた電界が発生する。このため、検体液中の微粒子等の被検査物は、上記の電界によって電気泳動する。従って、先の第2の実施形態と同様に、第1の電極61と第2の電極62との間を流れるイオン電流の大きさを計測することにより、検体液中の微粒子のサイズを電気的に分析することが可能となる。
【0100】
このとき、第1のマイクロ流路21と第2のマイクロ流路22には、第4の実施形態にて詳述した液体導入構造90が液導入口40を介してリザーバ30内に形成されている。このため、検体液を速やかにマイクロ流路20に導入でき、電極の断線不良を抑制し、更に電極面積の制約が抑制された半導体マイクロ分析チップを、製造コストを抑制して実現することができる。
【0101】
(第8の実施形態)
図12は、第8の実施形態に係わる半導体マイクロ分析チップの全体構成を示す平面図である。図13は、図12のマイクロ分析チップの要部構成を示す断面図である。なお、図8及び図11と同一部分には同一符号を付して、その詳しい説明は省略する。
【0102】
本実施形態が先に説明した第7の実施形態と異なる点は、マイクロ流路の一方を絶縁膜トンネル型に形成したことにある。
【0103】
即ち、第1のマイクロ流路21は先の第7の実施形態と同様に基板掘り込み型であり、第2のマイクロ流路23は、基板掘り込み型ではなく、基板10上に絶縁膜の中空構造を形成した絶縁膜トンネル型のマイクロ流路となっている。この第2のマイクロ流路23は、基板10内ではなく基板10上に形成されるため、第1のマイクロ流路21の上方に位置することになる。そして、第2のマイクロ流路23は、基板10の中央部で第1のマイクロ流路21と交差しており、この交差部分に検出用の微細孔80が形成されている。
【0104】
なお、第2のマイクロ流路23を形成するには、基板10上に犠牲層のパターンを形成した後、犠牲層を覆うように絶縁膜を形成する。その後、犠牲層を除去することにより、絶縁膜トンネル型の流路が形成される。また、第2のマイクロ流路23は、図13に示すように、基板10を掘り込んで形成された連絡通路18を介して第2のリザーバ32内の液導入口42に接続されている。ここで、連絡通路18と第2のマイクロ流路23との接続部に、フィルタ50を形成しても良い。また、上記と同様に、第2のマイクロ流路22と第3のリザーバ33との接続も、連絡通路を設ける構成にすれば良い。
【0105】
このように本実施形態では、先の第3の実施形態と同様に第2のマイクロ流路23を絶縁膜トンネル型に形成しているため、第1及び第2のマイクロ流路21,23の交差部に円形の微細孔80を形成することができる。従って、先の第3の実施形態と同様に、微粒子検査のための微細孔80の設計自由度が高くでき、検査精度の向上をはかることが可能となる。
【0106】
また、連絡通路18と第2のマイクロ流路23との接続部にフィルタ50を形成することにより、先の第1の実施形態と同様の効果も得られる。
【0107】
また、第7の実施形態でも説明したように、液体排出側には電極を設ける必要がないことから、図14に示すように、排出側に複数のピラーを設けるようにしても良い。即ち、第3及び第4のリザーバ33,34に、基板10の表面を掘り込んで形成されるピラー95を設けるようにしても良い。これにより、より多量の液体を吸い取って排出することができ、分析時間を短縮することが可能となる。
【0108】
(変形例)
なお、本発明は上述した各実施形態に限定されるものではない。液導入口に配置するフィルタを形成するための微細孔の形状や数などは、図3に示した構成に限らず、仕様に応じて適宜変更可能である。液体導入構造のパターンも、図7,9,10に示した構成に限らず、適宜変更可能である。また、2つの流路を形成する場合のレイアウトは、図4又は図5に示した構成に限られるものではなく、仕様に応じて適宜変更可能である。
【0109】
また、基板は必ずしも半導体基板に限るものではなく、実施形態に示したような流路や液体導入構造等を、反応性エッチング等の掘り込み加工で形成できるものであれば良い。
【0110】
本発明の幾つかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0111】
10…半導体基板(基板)
11…絶縁膜
12…絶縁膜(キャップ層)
13…フィルタ用微細孔
14…バンク
18…連絡通路
20,21,22,23…マイクロ流路
30,31〜34…リザーバ
40,41〜44…液導入口
50,51〜54…フィルタ
60,61,62…電極
70…検出用微小スリット
80…検出用微細孔
90…液体導入構造
94…ピラー
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15