(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
飲料水などの液体をPET(Polyethylene terephthalate)ボトルやガラス瓶、ボトル缶等の容器に充填するシステムとして、回転式の充填装置が知られている。この回転式の充填装置は、回転体の外周部に複数の充填バルブを備えており、回転体がほぼ1回転して容器が周方向に搬送される間に、充填バルブから容器内への充填を行う。そして、容器への充填が終了した後、キャッパや打栓機により容器への蓋の装着が行われる。
容器の中で、PETボトルは、プリフォームと呼ばれる試験管状の前駆体に空気を吹き込んで成形される。この成形には、主に二軸延伸ブロー成形法が用いられている。二軸延伸ブロー成形法とは、加熱したプリフォームを金型に挿入後、延伸ロッドと呼ばれる棒で垂直方向に引き伸ばしながら、加圧空気を吹き込んで円周方向に膨らませる成形法である。
PETボトルを対象とする飲料充填システムは、PETボトルの成形装置を上流側に備え、成形されたPETボトルを充填装置に供給する形態もあれば、すでに成形されたPETボトルを用意して充填装置に供給する形態もある。
【0003】
ところで、飲料水などの液体を充填する場合、雑菌が容器に混入するのを限りなく防ぐことが必要であり、このため、クリーンルーム内で、容器殺菌・すすぎ、キャップ殺菌、液体の充填及びキャップ装着といった一連の工程を行ういわゆる無菌充填方式が採用されている。PETボトルの成形装置を上流側に備える飲料充填システムの場合には、この成形装置で成形されたPETボトルを殺菌して充填装置に供給することも要求される場合がある。
無菌充填方式における殺菌としては、薬剤、例えば、過酢酸(PAA)、過酸化水素(H
2O
2)を含む水溶液からなる過酢酸系殺菌剤を用いるのが主流である(例えば、特許文献1,2)。
ところが、過酢酸を殺菌剤として用いる場合は、過酢酸に対する耐性菌が作り出されることが問題となっている。また、過酸化水素については、耐性菌の問題は少ないものの、PETボトルを対象とする場合には、PETに吸収されて、容器に残留してしまうという問題がある。
【0004】
耐性菌の問題がなく、かつ、殺菌対象物への残留の問題のない手法として、オゾン(O
3)を用いる殺菌が知られている(例えば、特許文献3,4)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
オゾンを用いる殺菌方法は、水溶液からなる過酢酸系殺菌剤を用いる殺菌方法が有する問題を抱えていない。ここで、大量生産を前提とする回転式充填装置への適用を想定すると、生産コストの観点からオゾンの供給量を抑えることが要求される。ところが、従来のオゾンを用いる殺菌方法は、所望する殺菌性能を得るために、比較的長い時間にわたってオゾンを供給することが必要であった。
そこで本発明は、殺菌対象物に向けてオゾンを供給する量を抑えても、所望する殺菌性能を得ることができる殺菌方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、殺菌対象物に向けて湿度を含むオゾンガス(以下「湿潤オゾンガス」)を同じ量だけ供給する場合に、連続的に供給するよりも、殺菌対象物に生成された湿潤オゾンガスに起因する結露水を途中で乾燥させた後に、湿潤オゾンガスの供給を再開する方が高い殺菌能力が得られることを知見した。このことは、結露水を除去することにより、所望する殺菌性能を得るのに必要な湿潤オゾンガスの供給量を抑えることかできることを意味している。
以上に基づく本発明の殺菌方法は、湿度を含むオゾンガスである湿潤オゾンガスを殺菌対象物
である飲料の容器の内部に向けて供給する殺菌方法であって、湿潤オゾンガスを供給する第1供給ステップと、湿潤オゾンガスの
容器の内部に向けた供給を停止するとともに、第1供給ステップにより供給された湿潤オゾンガスに基づく結露水を、
容器の内周面から取り除く処理を行う結露除去処理ステップと、結露除去処理ステップの後に、
容器の内部に向けた、湿潤オゾンガスの供給を再開する第2供給ステップと、を備えることを特徴とする殺菌方法である。
【0008】
本発明の殺菌方法において、
容器の内周面から結露水を取り除く処理として、乾燥状態の気体を
容器の内部に向けて供給することが好ましい。
【0009】
結露除去処理ステップの時間を短縮するために、供給する乾燥状態の気体の温度を容器
より高くすることで、結露水の蒸発を促進す
る。また、乾燥状態の気体を供給するのに加えて、例えば赤外線ランプによる放射加熱で、殺菌対象物の表面温度を上げ、結露水の蒸発を促進することもできる。
【0010】
本発明の殺菌方法において、
容器の内部に向けて供給される湿潤オゾンガスは、
容器よりも温度が高いことが好ましい。
また、本発明の殺菌方法において、
容器の内部に向けて供給される湿潤オゾンガスを、殺菌対象物の温度に応じて、その湿度が調整されることが好ましい。
また、本発明の殺菌方法において、容器は、供給される湿潤オゾンガスの湿度に応じて、その温度が調整されることが好ましい。
また、本発明の殺菌方法において、密閉空間を形成しうるチャンバの内部に収容されている容器の内部に、湿潤オゾンガスが供給されることが好ましい。このチャンバは、容器よりも高い温度に維持されることが好ましい。このチャンバに収容されている容器の内部に加えて容器の外部に向けて湿潤オゾンガスが供給されることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、オゾンを用いて殺菌する際に、殺菌対象物に向けた湿潤オゾンガスの供給量を抑えつつ所望する殺菌性能を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施形態に基づいて説明する。
[殺菌の機構]
本発明は、湿度を含むオゾンガスである湿潤オゾンガス(以下、ウェットオゾンガス)を殺菌対象物に向けて供給することを前提とする。例えば、殺菌対象物が飲料用の容器の場合には、ウェットオゾンガスを容器の内部に供給する。この殺菌は、
図1(a)に示すように、ウェットオゾンガスに含まれるオゾン(O
3)と水(H
2O)が反応することで生成されるヒドロキシルラジカル(hydroxyl radical,以下、OHラジカル)が、細菌Bにアタックし、その酸化作用によりなされる。OHラジカルは、いわゆる活性酸素と称される分子種のなかで最も酸化力が強い。この細菌BへのOHラジカルのアタックを促進させるために、本発明は、殺菌対象物Tにウェットオゾンガスが結露することを指向する。
ここで、細菌細胞は、中央のコア部に遺伝情報の機能を司る染色体があり、その外側にたんぱく質と脂質からなる柔らかい細胞膜があり、さらにその外側にたんぱく質、多糖、脂質からなる細胞壁が取り囲んでいる。細菌に対するOHラジカルによる殺菌機構は、強力な酸化力でこの細胞壁を酸化破壊することを起点としている。このように、オゾンを用いた殺菌は、例えば塩素が細胞壁、細胞膜を通過して酵素を破壊する機構とは異なるものと解されている。
【0014】
本発明者らの検討によると、殺菌対象物に対してウェットオゾンガスを連続的に供給しても、供給した量に見合うだけの所望する殺菌性能が得られない。これは、後述する実験例から明らかである。
図1(b)を参照してその理由を説明する。ウェットオゾンガスを供給すると、ウェットオゾンガスに含まれる水分は殺菌対象物Tの表面に結露する。これは本発明の効果を得る上で前提ではあるが、ウェットオゾンガスの供給を続けると、殺菌対象物の表面に次々に結露が堆積して、殺菌対象物の表面の相当の領域が結露水Wで覆われてしまい、その結果、殺菌対象物Tの表面に付着している細菌Bも結露水Eで覆われてしまう。結露水Wで覆われた殺菌Bについては、ウェットオゾンガスの供給により殺菌対象物Tの近傍でOHラジカルが生成されたとしても、OHラジカルがこの細菌Bと接触する機会が失われる。この結果、湿潤オゾンガスを供給し続けても、所望する殺菌性能が得られない。
そこで、本発明は、
図1(c)に示すように、殺菌対象物Tに付着した結露水Wを取り除く処理を行うことにより、細菌Bを露出させて、OHラジカルとの接触機会を生み出すのである。
【0015】
なお、本発明における結露除去処理は、殺菌対象物に付着した全ての結露水を除去することまで意図しているものでなく、結露水に覆われていた細菌Bの相当数が露出できればよい。つまり、特定の殺菌対象物について実験を行うことにより、所望する殺菌性能を得ることができる結露除去処理の条件を設定すればよい。
【0016】
本発明は、ウェットオゾンガスを供給する第1供給ステップと、ウェットオゾンガスに基づく結露水を、殺菌対象物から取り除く結露除去処理ステップと、殺菌対象物に向けたウェットオゾンガスの供給を再開する第2供給ステップと、を備えている。第1供給ステップ、結露除去処理ステップ及び第2供給ステップの設定は、本発明の目的を達成できる限り任意である。以下、
図2を参照していくつかの例を説明する。なお、
図2において、横軸がウェットオゾンガスを供給する時間を意図し、縦軸がウェットオゾンガスを供給する単位時間当たりの流量(以下、単に流量)を意図している。
【0017】
図2(a)に示すように、第1供給ステップと第2供給ステップのそれぞれにおけるウェットオゾンガスの供給時間及び供給流量を同じにすることができる。この場合には、第1供給ステップと第2供給ステップのそれぞれで供給されるウェットオゾンガスの総量(以下、供給量)は同じになる。
また、
図2(b)に示すように、第1供給ステップと第2供給ステップのそれぞれにおける流量は同じとするが、第1供給ステップの供給時間を第2供給ステップより短くすることができる。図示は省略するが、この逆に、第1供給ステップの供給時間を第2供給ステップより長くすることもできる。
また、
図2(c)に示すように、第1供給ステップと第2供給ステップのそれぞれにおける供給時間は同じとするが、第1供給ステップの流量を第2供給ステップより少なくすることができる。図示は省略するが、この逆に、第1供給ステップの流量を第2供給ステップより多くすることもできる。
さらに、
図2(d)に示すように、ウェットオゾンガスの供給を、第1供給ステップ、第2供給ステップ及び第3供給ステップに区分して、第1供給ステップと第2供給ステップの間、第2供給ステップと第3供給ステップの間に結露除去処理ステップを行うことができる。つまり、本発明において規定する第1供給ステップと第2供給ステップという二つのステップは、ウェットオゾンガスの供給を区分する最小の単位であり、本発明は第3供給ステップ以降を設けることができる。
殺菌対象物の実施形態、供給する湿潤オゾンガスの仕様(オゾンの濃度、供給流量,温度等)などに応じて上記のいずれを選択するか、又は、上記以外のパターンを選択することができる。例えば、殺菌工程に費やせる時間が定まっている場合に、第1供給ステップにより生成された結露水が、結露除去処理ステップにおいて十分に除去することを前提として、第1供給ステップ及び結露除去ステップのそれぞれに要する時間を設定することができる。
図2(b),(c)は、結露除去処理ステップの前のウェットオゾンガスの供給量を結露除去処理ステップの後よりも少なくしており、結露除去処理ステップに要する時間を短くしつつ、結露水を十分に除去できる利点がある。
【0018】
[ウェットオゾンガス]
次に、本発明に用いるウェットオゾンガスについて説明する。
ウェットオゾンガスは、乾燥状態のオゾンガス(以下、ドライオゾンガス)を生成し、かつ、生成したドライオゾンガスに湿度を付与することで得ることができる。ドライオゾンガスは、典型的には、酸素(O
2)ガスを原料としてオゾン(O
3)と酸素(O
2)の混合ガスとして生成される。本発明において、ドライオゾンガスにおけるオゾン濃度は、5〜20体積%の範囲から選択され、好ましくは10〜15体積%とされる。なお、ドライオゾンガスを生成する原料としては、純粋な酸素に限らず、原料として酸素を含むガス、例えば空気を用いることもできる。この場合も、ドライオゾンガスはオゾン(O
3)と酸素(O
2)の混合ガスであることに変わりはない。なお、乾燥状態とは、湿潤状態に対する相対的な表現であって、一切の湿度を持たないことを意味するものではなく、意図的に湿度を持たせていないという程度の意味である。
【0019】
ドライオゾンガスの生成方式としては、無声放電方式、電気分解方式、紫外線ランプ方式等がある。工業的用途には無声放電方式が用いられており、本発明においても無声放電方式を適用することが好ましいが、他の方式を採用することを妨げない。ここで、無声放電(Silent discharge)とは、平行電極間に誘電体(dielectric)を設け、この間に酸素ガスを供給し、両極間に交流高電圧を印加する際に観察される放電現象である。この無声放電により気体中に電子eが放出される。この電子eを安定な酸素分子O
2に衝突させて、酸素分子O
2を酸素原子Oに解離させる第1ステップと、酸素原子Oと酸素分子O
2と第三の物質M(例えば、窒素分子)を含めた三体衝突が生ずる第2ステップにより、オゾンが生成する。したがって、本発明におけるオゾンガスは、この第三の物質Mを含みうる。
第1ステップ:O
2+e→2O+e
第2ステップ:O+O
2+M→O
3+M
【0020】
ウェットオゾンガスを得るには、ドライオゾンガスに湿度を付与する。本発明において、湿度を付与する方法は任意であり、気泡式溶解法、それぞれ生成された湿潤酸素等の湿潤ガスとオゾンガスとを混合する混合法、シャワー状に散布される水にドライオゾンガスを供給するシャワー法等を採用することができる。また、任意の方法でオゾン水を生成した後に、これを気化してウェットオゾンガスを生成することもできるし、任意の方法で水蒸気を生成し、これにドライオゾンガスを接触させることもできる。
【0021】
ウェットオゾンガスは、殺菌対象物の温度における相対湿度が、45〜100%の範囲であることが好ましい。これは、ウェットオゾンガスの相対湿度が45%以上で十分な殺菌能力が得られるからである。より好ましい相対湿度は80〜100%、さらに好ましい相対湿度は95〜100%である。
ここでいう相対湿度は、殺菌対象物の温度における相対湿度であり、ウェットオゾンガスが生成された時点の相対湿度とは異なる。換言すると、生成されるウェットオゾンガスは、殺菌対象物の温度を考慮して、その相対湿度が調整されるのが好ましい。
【0022】
[結露除去処理]
本発明における結露除去処理は、以下の(a)〜(d)の中から一つの手法を選択することができるし、(a)〜(d)の中の少なくとも二つの手法を組み合わせることもできる。
(a)乾燥した気体を供給
結露水が付着した殺菌対象物に向けて、乾燥状態にあるエア(air,ドライエア)を連続的に供給することにより、エアで吸湿して結露水を蒸発させることができる。供給する気体は、エアに限るものでなく、酸素(O
2)、不活性ガス(例えば、窒素ガス)、ドライオゾンガスなどの各種の気体を用いることができる。
乾燥した気体を供給する形態は、当該気体の供給源と、供給源から当該気体を送る配管系統とが必要であるが、他の手法に比べて設備的な負担が少ない点で有利である。特に、ウェットオゾンガスを供給するための配管系統を、乾燥用の気体を供給する配管系統と兼用にすれば、設備的な負担の軽減が顕著になる。
(b)密閉空間における減圧(真空乾燥)
殺菌対象物を密閉空間に収容し、この密閉空間を減圧することにより、密閉空間と殺菌対象物の表面との水蒸気分圧差を大きくして結露水を蒸発させる真空乾燥と称される手法を採用することができる。減圧するには真空ポンプを用いればよく、この場合、蒸発した水分は排気とともに密閉空間の外部に排出される。
この手法を採用する場合には、密閉空間を形成しうるチャンバの内部で殺菌を行い、このチャンバを密閉してから真空乾燥に供することができる。
(c)加熱
殺菌対象物を加熱することにより、結露水を蒸発させる。上述した乾燥した気体を加熱して、結露水を蒸発させることもできる。
加熱は、殺菌対象物を直接的に加熱することができるし、間接的に加熱することもできる。直接的な加熱としては、例えば殺菌対象物にヒータを接触させて加熱することが掲げられ、間接的な加熱としては、加熱されたドライな気体を殺菌対象物に供給することが掲げられる。
(d)加速度を与える
(a)〜(c)は、蒸発により結露水を除去するものであるのに対して、殺菌対象物に物理力、具体的には加速度を与えることで、結露水を殺菌対象物から分離することができる。加速度を付与する例としては、高い周波数で殺菌対象物を振動させることが掲げられる。また、殺菌対象物がPETボトルなどの容器の場合には、口部分を外周に向けるとともに容器の底を回転中心にして容器を回転させることにより、結露水を容器外に放出することもできる。
【0023】
[飲料容器への適用例]
以下、本発明を飲料容器、例えばPETボトル1に対する具体的な適用例を、
図3を参照して説明する。
この例は、上流工程から連続的に搬送されるPETボトル1の内周面及び外周面を殺菌して、下流工程にPETボトル1を受け渡すことを前提としている。ここで説明する工程は、殺菌自体を行う殺菌工程と、殺菌されたPETボトル1をすすぐリンス工程と、からなる。殺菌工程は、第1供給ステップと、結露除去処理ステップと、第2供給ステップに区分される。なお、殺菌工程及びリンス工程を通じて、PETボトル1をチャンバ10の中に収容することが好ましい。
【0024】
第1供給ステップとして、正立しているPETボトル1の口部2の開口から、ウェットオゾンガスを胴部3の内部空間に向けて供給するとともに、チャンバ10の内部であって、PETボトル1よりも外側に供給する。
ウェットオゾンガスを供給することにより、PETボトル1の内部において生成されたOHラジカルが、PETボトル1の内周面及び外周面を殺菌する。
所定時間だけウェットオゾンガスを供給したならば、ウェットオゾンガスの供給を停止して第1供給ステップを終了するとともに、結露除去処理ステップに移行する。
結露除去処理ステップにおいては、ドライエアをPETボトル1の内部空間及びPETボトル1の外部に供給する。このドライエアの供給により、PETボトル1の内周面及び外周面に生成された結露水を乾燥して除去する。ドライエアは、常温でもよいし、加熱されていてもよい。リンス工程で用いられるドライエアも同様である。
所定時間だけドライエアを供給したならば、ドライエアの供給を停止して結露除去処理ステップを終了するとともに、第2供給ステップに移行する。第2供給ステップにおいては、第1供給ステップと同様にして、PETボトル1の内外にウェットオゾンガスを供給する。所庭時間だけウェットオゾンガスを供給したならば、ウェットオゾンガスの供給を停止して、殺菌工程を終了する。
【0025】
殺菌工程が終了すると、リンス工程に移行する。
リンス工程は、PETボトル1の内部に残留するウェットオゾンガスを外部に排出させるため、PETボトル1の内外に付着する残渣を除去するために、PETボトル1の内部及び外部にドライエアを供給する。リンス工程は、ドライエアに代えて水を用いてもよく、また、ドライエアと水を併用することもできる。また、PETボトル1に充填される製品液の種類によっては、リンス工程を省略することもできる。
【0026】
本実施形態は、供給した湿潤オゾンガスをPETボトル1の内周面及び外周面に結露させることを前提とする。したがって、この結露を確保するために、湿潤オゾンガスは殺菌対象物であるPETボトルよりも温度が高いことが好ましい。
【0027】
また、前述したように、ウェットオゾンガスによる殺菌性能は、殺菌対象物に対するウェットオゾンガスの相対湿度に左右される。したがって、殺菌対象物であるPETボトル1の温度に対して、ウェットオゾンガスの相対湿度が好ましい範囲になるように調整することが好ましい。この調整は、ウェットオゾンガスの相対湿度を調整するか、又は、PETボトル1の温度を調整すればよい。
前者の場合には、PETボトル1の温度を計測し、計測された温度に応じて生成するウェットオゾンガスの湿度を変動させる。
後者の場合には、殺菌がなされる領域に供給されるPETボトル1の温度を予め計測しておき、必要な相対湿度が得られるように、PETボトル1を冷却又は加熱すればよい。
【0028】
飲料充填システムにおいて本発明が適用される例として、例えば、PETボトル1の成形装置の下流工程に置かれ、成形されたばかりのPETボトル1を殺菌する場合がある。このPETボトル1の成形はプリフォームへの加熱を伴い、成形されたPETボトル1は例えば70℃程度の温度を有しており、ウェットオゾンガスの温度、相対湿度によっては、PETボトル1を冷却する必要がある。
また、飲料充填システムにおいて本発明が適用される他の例として、すでに成形され、保管されていたPETボトル1を殺菌する場合がある。この場合には、PETボトル1の温度は、室温(例えば25℃)程度であるが、ウェットオゾンガスの温度、相対湿度によっては、PETボトル1を加熱する必要がある。
PETボトル1の冷却又は加熱を行うには、殺菌工程の前に、例えば、冷風又は温風をPETボトル1の内部に吹き込むか、外部に吹き付ければよい。
【0029】
また、チャンバ10の内部に収容されたPETボトル1を殺菌する場合には、PETボトル1の殺菌にウェットオゾンガスが有効に消費せるためには、チャンバ10にウェットオゾンガスが結露することを避けることが好ましい。そこで、PETボトル1の温度を計測し、搬送されてくるPETボトル1よりもチャンバ10が高い温度に維持されるように、ヒータを設けるなどして温度を調整することが好ましい。
【0030】
[実験例]
菌種としてBacillus atrophaeusを用い、500mLのペットボトル(供試体)について殺菌性能を評価する実験を以下に従って行った。評価結果を
図5に示す。
殺菌工程としては、第1供給ステップと第2供給ステップの間に結露除去処理ステップを行う本発明例と、結露除去処理ステップを行わずに、連続的にウェットオゾンガスを供給する比較例1〜3を行った。
【0031】
殺菌に使用したウェットオゾンガス、ドライエアの仕様は以下の通りである。
ウェットオゾンガス:温度;80℃,オゾン濃度;10vol.%,
流量;20mL/min.(No.1,2)
30mL/min.(No.3,4)
ドライエア:室温,流量;20mL/min.
【0032】
図5において、本発明例(No.1)と比較例1(No.2)を比較すれば、ウェットオゾンガスの供給量が同じでも、結露除去処理ステップを行うことにより、殺菌性能が格段に向上することがわかる。
また、本発明例(No.1)と比較例2,3(No.3,4)を比較すれば、結露除去処理ステップを行うことにより、湿潤オゾンガスの供給量が少なくても、高い殺菌性能が得られることがわかる。
【0033】
[効 果]
以上説明したように、本発明によれば、結露除去処理ステップを行うことにより、殺菌対象物に向けてオゾンを供給する量を抑えても、所望する殺菌性能を得ることができる。
【0034】
以上、本発明の好適な実施形態を説明したが、本発明の主旨を逸脱しない限り、上記実施の形態で挙げた構成を取捨選択したり、他の構成に適宜変更したりすることが可能である。
例えば、実施形態では殺菌対象物としてPETボトル1を示したが、本発明における殺菌対象は任意であり、飲料を含む食品分野の容器及び製造機器、医療分野における器具、機器などに広く適用することができる。
【0035】
また、
図3を参照した説明では、PETボトル1にウェットオゾンガスを吹き込んでいるが、本発明はこれに限定されない。つまり、本発明は、
図4に示すように、PETボトル1の内部を減圧することにより、PETボトル1の周囲に供給されたウェットオゾンガスをPETボトル1の内部に吸引して、ウェットオゾンガスを内周面及び外周面に作用させることができる。吸引による殺菌処理は、PETボトル1の内部の空気が排出されてから、ウェットオゾンガスがPETボトル1の内部に引き込まれるので、ウェットオゾンガスを効率よくPETボトル1に作用させることができる。