(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6382722
(24)【登録日】2018年8月10日
(45)【発行日】2018年8月29日
(54)【発明の名称】光電池のバックシートのための放射線硬化性接着剤組成物
(51)【国際特許分類】
B32B 27/30 20060101AFI20180820BHJP
B32B 27/00 20060101ALI20180820BHJP
H01L 31/049 20140101ALI20180820BHJP
C09J 4/02 20060101ALI20180820BHJP
C09J 201/00 20060101ALI20180820BHJP
【FI】
B32B27/30 D
B32B27/00 D
H01L31/04 562
C09J4/02
C09J201/00
【請求項の数】16
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2014-557751(P2014-557751)
(86)(22)【出願日】2013年2月14日
(65)【公表番号】特表2015-516309(P2015-516309A)
(43)【公表日】2015年6月11日
(86)【国際出願番号】US2013026018
(87)【国際公開番号】WO2013123107
(87)【国際公開日】20130822
【審査請求日】2016年1月22日
(31)【優先権主張番号】61/599,656
(32)【優先日】2012年2月16日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】500307340
【氏名又は名称】アーケマ・インコーポレイテッド
(73)【特許権者】
【識別番号】505005522
【氏名又は名称】アルケマ フランス
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】ロバート・エル・ケンシキー
(72)【発明者】
【氏名】ジョシュア・エム・オリバー
(72)【発明者】
【氏名】エイミー・エイ・ルフェーブル
(72)【発明者】
【氏名】グレゴリー・エス・オブライエン
【審査官】
赤澤 高之
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2010/122936(WO,A1)
【文献】
特開2011−021173(JP,A)
【文献】
特開2011−020433(JP,A)
【文献】
特開2011−140622(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00− 43/00
C08L 1/00−101/14
C08K 3/00− 13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)高熱変形温度層;
b)UV、LED、またはe−ビーム放射線によって、全面的または部分的に硬化された、接着剤組成物層;
c)UV不透過性フルオロポリマーフィルム層;
をこの順で含む多層構造物であって、
前記高熱変形温度層が、10μm〜375μmの範囲の薄層であり、ポリアミド6(PA6)、PA6,6、PA11、PA12、ポリアミドアロイ、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフチレート(PEN)、およびポリブチレンテレフタレート(PBT)からなる群より選択されるポリマーを含み、
前記UV不透過性フルオロポリマーフィルム層が、前記ポリマーを基準にして、2.0重量パーセント〜30重量パーセントの少なくとも1種の白色顔料を含む、前記多層構造物。
【請求項2】
前記高熱変形温度層が、ポリエチレンテレフタレートまたはポリブチレンテレフタレートである、請求項1に記載の多層構造。
【請求項3】
前記フルオロポリマーが、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、エチレンテトラフルオロエチレン(ETFE)、エチレンとテトラフルオロエチレンおよびヘキサフルオロプロピレンとのターポリマー(EFEP)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン−フッ化ビニルのターポリマー(THV)、PVDFと、ポリメチルメタクリレートのポリマーおよびコポリマーとのブレンド物、エチレンクロロトリフルオロエチレン(ECTFE)、およびポリフッ化ビニル(PVF)からなる群より選択される、請求項1に記載の多層構造。
【請求項4】
前記フルオロポリマーが、PVDFのホモポリマーまたはコポリマーを含む、請求項3に記載の多層構造。
【請求項5】
前記フルオロポリマーフィルムが、多層フルオロポリマーフィルムである、請求項1に記載の多層構造。
【請求項6】
前記白色顔料が、二酸化チタンを含む、請求項1に記載の多層構造。
【請求項7】
前記UV不透過性フルオロポリマーフィルムが、0.05〜5重量パーセントのUV吸収剤、ナノ顔料、またはそれらの混合物を含む、請求項1に記載の多層構造。
【請求項8】
前記構造物が、5層構造であって、順に、第一のUV不透過性フルオロポリマーフィルム層、前記接着剤組成物層、前記高熱変形温度層、前記接着剤組成物層、および第二のUV不透過性フルオロポリマーフィルム層からなり、前記第一および第二のUV不透過性フルオロポリマーフィルム層が、同一であってもあるいは異なっていてもよい、請求項1に記載の多層構造。
【請求項9】
前記接着剤組成物が、
a)5〜80重量パーセントの、脂肪族ウレタンアクリレートオリゴマーと随意としてのポリエステルおよび/またはエポキシ主鎖を有する単官能もしくは多官能の(メタ)アクリレートオリゴマーおよび/または芳香族オリゴマーから選択される他のオリゴマーとから形成される、1種または複数の脂肪族ウレタンアクリレート;
b)95〜20重量パーセントの、単官能もしくは多官能の(メタ)アクリレートモノマー;ポリエステルおよび/またはエポキシ主鎖を有する単官能もしくは多官能の(メタ)アクリレートオリゴマー;または芳香族オリゴマー、並びに
c)光開始剤
を含む、請求項1に記載の多層構造。
【請求項10】
前記脂肪族ウレタンアクリレートが、ポリエステルおよび/またはポリカーボネートポリオールをベースとしている、請求項9に記載の多層構造。
【請求項11】
前記接着剤組成物が、ビスアシルホスフィンオキシド(BAPO)、およびトリメチル−ジフェニル−ホスフィンオキシド(TPO)、およびそれらの混合物、からなる群より選択される少なくとも1種の光開始剤を含む、請求項1に記載の多層構造。
【請求項12】
UV不透過性フルオロポリマーフィルムを高熱変形温度基材に接着させる方法であって、
a)以下のもの:
1)脂肪族ウレタンアクリレートオリゴマー、および1種または複数の(メタ)アクリレートモノマーを含む接着剤、および
2)光開始剤
を含む放射線硬化性接着剤組成物を形成させる工程;
b)高熱変形温度層と少なくとも1層のUV不透過性フルオロポリマー層との間に前記接着剤組成物を適用する工程;
c)前記高熱変形温度層、少なくとも1層のUV不透過性フルオロポリマー層、および前記接着剤組成物を共に積層させて、多層構造物を形成させる工程;
d)前記の形成された多層構造物を波長400nm超の長波長UV線またはe−ビーム放射線に曝露させて、前記高熱変形温度層を前記フルオロポリマーフィルムに直に接着させる、硬化された接着剤層を形成させる工程、
を含み、
前記高熱変形温度層が、10μm〜375μmの範囲の薄層であり、ポリアミド6(PA6)、PA6,6、PA11、PA12、ポリアミドアロイ、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフチレート(PEN)、およびポリブチレンテレフタレート(PBT)からなる群より選択されるポリマーを含み、
前記UV不透過性フルオロポリマー層が、前記ポリマーを基準にして、2.0重量パーセント〜30重量パーセントの少なくとも1種の白色顔料を含む、前記方法。
【請求項13】
前記フルオロポリマーフィルムが、ポリフッ化ビニリデンのホモポリマーまたはコポリマーを含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記白色顔料が、二酸化チタンを含む、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
前記放射線硬化性接着剤組成物において、前記接着剤が、脂肪族ウレタンアクリレートオリゴマーを、単官能(メタ)アクリレートモノマー、多官能(メタ)アクリレートモノマー、ポリエステルおよび/またはエポキシ主鎖を有する単官能(メタ)アクリレートオリゴマー、ポリエステルおよび/またはエポキシ主鎖を有する多官能(メタ)アクリレートオリゴマー、からなる群より選択される1種または複数の残基と組み合わせることにより形成される脂肪族ウレタンアクリレートからなる群より選択され;前記光開始剤が、ビスアシルホスフィンオキシド(BAPO)、およびトリメチル−ジフェニル−ホスフィンオキシド(TPO)から選択される、請求項12に記載の方法。
【請求項16】
光電池モジュールであって、そのバックサイドに、請求項1に記載の多層構造を含む、直接的には太陽の輻射光に面していない、バックシートを含む、光電池モジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高熱変形温度層を、UV不透過性(UV opaque)で、顔料添加もしくは顔料非添加のフルオロポリマーフィルムに接着させるのに使用するための放射線硬化性接着剤系に関する。放射線硬化性接着剤系では、長波長UVエネルギーを使用する硬化に最適化させた接着剤組成物を使用する。接着剤系は、LEDまたはe−ビーム放射線によって硬化させるのに最適化されていてもよい。系は、UV不透過性フルオロポリマーフィルム(特に顔料として二酸化チタンが使用されている場合)を通過して硬化させるように設計されている。好ましい多層フィルム構造は、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)/硬化性接着剤/ポリエステルテレフタレート(PET)構造である。このフィルム構造は、光電池モジュールのためのバックシートとして特に有用である。
【背景技術】
【0002】
光電池(PV)モジュールは、典型的には、透明なガラスまたはポリマーのフロントシート、封止によって保護された太陽電池、およびバックシートからなっている。太陽電池は、この用途で当業者には公知の材料で作製することができるが、そのような材料としては以下のものが挙げられる(これらに限定される訳ではない):結晶質ケイ素、非晶質ケイ素、カドミウムインジウムガリウムセレニド(CIGS)、もしくはカドミウムインジウムセレニド(CIS)、有機ポリマー分子、低分子量有機分子、またはその他類似の材料。そのバックシートは、モジュールの背面で環境に暴露される。バックシートの主な機能は、封止されているセルを、水、酸素、および/またはUV放射線との反応によって誘起される劣化から保護することである。バックシートはさらに、モジュールに対して電気的絶縁も与える。太陽電池は一般的には、エチレン酢酸ビニル(EVA)の中に封止されるので、そのバックシートの材料は、熱成形プロセスにおいてPVの構成要素を相互に積層させた場合に、EVAに対して充分に接着しなければならない。その他の有用な封止材としては、以下のものが挙げられる(これらに限定される訳ではない):エチルビニルアセテート、ポリオレフィン、機能性ポリオレフィン、アイオノマー、シリコーン、グラフト化したポリオレフィン−ポリアミドコポリマー、およびポリビニルブツリル(polyvinyl butryl)。
【0003】
PVバックシートは、典型的には、多層フィルム構造物であって、直接的には太陽の輻射光に面していないPVモジュールの側で外部環境に曝露されるその外側にフルオロポリマーの1層または複数の薄層を有する、高熱変形温度層、たとえばポリエステルもしくは類似のフィルム層からなっている。一般的には、少なくとも1層のフルオロポリマー外側層には顔料が添加されているか、またはUV不透過性であり、通常1種または複数の白色顔料が含まれている。高熱変形温度層は、典型的には、モジュールの内側に面する側に、別のフルオロポリマーフィルムかまたはポリオレフィン層のいずれかを有している。フルオロポリマーフィルムが、接着剤を用いて高熱変形温度層に接着される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
接着剤は、典型的には、二成分型のコポリエステル、ウレタン、またはアクリリック溶媒ベースの接着剤である。これらの接着剤は、フルオロポリマーフィルムとポリエステルフィルムとの両方に対して良好な接着強度を与えなければならず、さらには、高い耐熱性および耐薬品性を有し、そして外部環境への曝露で黄変するようなことがあってはならない。それらの接着剤系は、PVモジュールの構成において有用ではあるが、いくつかの欠点も有している。具体的には、これらの接着剤系は、室温で完全に硬化させるには1〜2週間が必要である可能性がある。したがって、バックシートの製造者は、充分な硬化を確保するためには、彼らの製造サイクルにおいて、この長い硬化時間を考慮に入れておかねばならない。さらに、これらの溶媒ベースの接着剤系には、揮発性の有機化合物が含まれていて、バックシートの製造業者は、適切な方法で取り扱わなければならない。
【0005】
UV硬化性接着剤が標準的な二成分型の溶媒ベースの接着剤よりもかなり早い速度で硬化することは知られており、したがって、PVバックシートを製造するために適したUV硬化性接着剤系を見いだせれば有利となるであろう。残念なことには、顔料添加フルオロポリマーフィルムにおいて一般的に使用される二酸化チタン(TiO
2)白色顔料は、400nm未満では光子の100%を、400〜500nmの間では光子の80%超を吸収することが知られている。このことから、硬化方法としてUV開始フリーラジカル重合を使用しようとすると、コーティング中またはフィルムの中に分散された二酸化チタンでは、大きな問題が生じる。
【0006】
驚くべきことには、UV遮断性(UV blocking)のフルオロポリマーフィルムをポリエステルフィルムに接着させるのに使用することが可能な放射線硬化性接着剤系が開発された。この接着剤系は、UV遮断性のフルオロポリマーフィルムまたは高熱変形温度層のいずれを通しても急速に硬化し、フルオロポリマーフィルムとポリエステルフィルムの両方に対して極めて良好な接着強度を有することが実証された。その接着剤組成物はさらに、優れた耐熱性および耐湿性を有している。接着された多層フィルムは、光電池モジュールにおけるバックシート構造物として有用である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、多層フィルム構造物であって、順に、
以下の層、
a)高熱変形温度層;
b)UV、LED、またはe−ビーム放射線によって、全面的または部分的に硬化された、接着剤組成物層;
c)UV不透過性フルオロポリマーフィルム層;
を順に含み、これらの層が相互に隣接している、多層構造を有する、多層フィルム構造物に関する。
【0008】
本発明はさらに、以下の工程を組み合わせた、多層フィルム構造物を成形するための方法にも関する:
a)以下のものを含む放射線硬化性接着剤組成物を形成させる工程:
1)脂肪族ウレタンアクリレートオリゴマー、
並びに随意としての1種または複数の(メタ)アクリレートモノマ
ーおよび芳香族オリゴマーを含む接着剤、および
2)光開始剤;
b)高熱変形温度層と少なくとも1層の顔料添加フルオロポリマー層との間に前記接着剤組成物を適用する工程;
c)前記高熱変形温度層、少なくとも1層の顔料添加フルオロポリマー層、および前記接着剤を共に組み合わせて多層構造物を形成させる工程;
d)前記コーティングし、積層した多層構造物を長波長UV(>400nm)線に曝露させて、前記高熱変形温度層を前記フルオロポリマーフィルムに直に接着させる硬化された接着剤層を形成させる工程。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本明細書において使用されるパーセントは、特に断らない限り、すべて重量パーセントであり、そして分子量はすべて、特に断らない限り、重量平均分子量である。引用文献はすべて、参考として引用し本明細書に組み入れたものとする。
【0010】
本発明の多層構造物は、1層または複数の放射線硬化させた接着剤層によって、1層または複数のUV不透過性のフルオロポリマーフィルム層に接着させた高熱変形温度層で形成されている。
【0011】
フルオロポリマーフィルム
本発明のフルオロポリマーフィルムは、多層構造の最も外側のバック面にあって、直接的に太陽の輻射光に面していない構造物の側面で外部環境に曝露されている。そのフルオロポリマーフィルムは、単一層であっても、多層構造物であってもよい。多層フルオロポリマーフィルムにおいては、その最外層がフルオロポリマーを含むが、その内側層には、フルオロポリマーを含んでいても、含んでいなくてもよい。本発明において有用なフルオロポリマーとしては以下のものが挙げられるが、これらに限定される訳ではない:ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、エチレンテトラフルオロエチレン(ETFE)、エチレンとテトラフルオロエチレンおよびヘキサフルオロプロピレンのターポリマー(EFEP)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン−フッ化ビニル(THV)のターポリマー、ならびにPVDFと、ポリメチルメタクリレートのポリマーおよびコポリマーとのブレンド物。そのフルオロポリマーは、官能化されていても、官能化されていなくてもよく、ホモポリマーまたはコポリマー、およびそれらのブレンド物であってもよい。その他の有用なフルオロポリマーとしては、エチレンクロロトリフルオロエチレン(ECTFE)およびポリフッ化ビニル(PVF)が挙げられるが、これらに限定される訳ではない。
【0012】
好ましい実施形態においては、そのフルオロポリマーが、ポリビニリデンのホモポリマー、コポリマー、ターポリマー、またはPVDFホモポリマー、またはPVDF(コ)ポリマーと相溶性のある1種または複数の他のポリマーとのコポリマーのブレンド物である。本発明のPVDFコポリマーおよびターポリマーは、その中でフッ化ビニリデン単位が、そのポリマーの全部のモノマー単位の全重量の70パーセントを超えて含まれ得ているもの、より好ましくは、それらの単位の全重量の75パーセントを超えて含むものである。フッ化ビニリデンのコポリマー、ターポリマー、およびさらに高級なポリマーは、フッ化ビニリデンを、以下のものからなる群よりの1種または複数のモノマーと反応させることによって作製することができる:フッ化ビニル、トリフルオロエテン、テトラフルオロエテン、部分的または全面的にフッ素化されたアルファ−オレフィンたとえば、3,3,3−トリフルオロ−1−プロペン、1,2,3,3,3−ペンタフルオロプロペン、3,3,3,4,4−ペンタフルオロ−1−ブテン、およびヘキサフルオロプロペンの1種または複数、部分的にフッ素化されたオレフィン、ヘキサフルオロイソブチレン、ペルフルオロ化ビニルエーテルたとえば、ペルフルオロメチルビニルエーテル、ペルフルオロエチルビニルエーテル、ペルフルオロ−n−プロピルビニルエーテル、およびペルフルオロ−2−プロポキシプロピルビニルエーテル、フッ素化ジオキソールたとえば、ペルフルオロ(1,3−ジオキソール)およびペルフルオロ(2,2−ジメチル−1,3−ジオキソール)、アリル型、部分フッ素化アリル型、もしくはフッ素化アリル型モノマーたとえば、2−ヒドロキシエチルアリルエーテルもしくは3−アリルオキシプロパンジオール、ならびにエテンまたはプロペン。フッ化ビニル、トリフルオロエテン、テトラフルオロエテン(TFE)、およびヘキサフルオロプロペン(HFP)と共に形成させたコポリマーまたはターポリマーが好ましい。
【0013】
特に好ましいコポリマーには、約71〜約99重量パーセントのVDF、およびそれに対応する約1〜29パーセントのHFPパーセントのVDF、およびそれに対応する約1〜約29パーセントのTFEを含むVDF(たとえば米国特許第3,178,399号明細書に開示されているもの);ならびに約71〜99重量パーセントのVDFと、それに対応する約1〜29重量パーセントのトリフルオロエチレンが含まれる。
【0014】
特に好ましい熱可塑性ターポリマーは、VDFとHFPとTFEとのターポリマー、VDFとトリフルオロエテンとTFEとのターポリマーである。特に好ましいターポリマーは、少なくとも71重量パーセントのVDFを含み、他のコモノマーは、いろいろな割合で含まれていてよいが、ただし、それらを合わせて、ターポリマーの最高29重量パーセントまでを構成している。一つの好ましい実施形態においては、フルオロポリマーはフルオロ界面活性剤フリーである、これはすなわち、フルオロポリマーの合成およびその後の加工においてフルオロポリマーが一切使用されていないということを意味している。
【0015】
さらに、PVDF層は、PVDFポリマーと、相溶性があるポリマー、たとえばポリメチルメタクリレート(PMMA)ならびにMMAモノマー単位および35重量%までのC
1〜4アルキルアクリレートコモノマー単位を含むPMMAコポリマーとのブレンド物であってもよいが、ここでPVDFは、30重量パーセントを超える、好ましくは40重量パーセントを超える割合を占めている。PVDFとPMMAとをメルトブレンドして、均質なブレンド物を形成させることができる。一つの実施形態においては、少なくとも1層のフルオロポリマー層が、60〜80重量パーセントのPVDFと、20〜40重量パーセントのポリメチルメタクリレートもしくはポリメチルメタクリレートコポリマーとのブレンド物である。
【0016】
フルオロポリマーフィルムの少なくとも1層がUV不透過性であるのが好ましい。本明細書で使用するとき、「UV不透過性(UV opaque)」または「UV遮断性(UV blocking)」という用語は、そのフルオロポリマーが、300〜380nmの範囲の光子の少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%、さらにより好ましくは少なくとも95%を遮断する添加剤を含んでいるということを意味している。この高い光子遮断性は、フィルムの厚み、UV遮断剤の担持量、またはそれら両方を変化させることによって、調節することが可能である。300〜400nmの範囲における光子を遮断するものの、本発明のフルオロポリマーフィルムは、430〜500nmの範囲の光子の少なくとも10%、好ましくは少なくとも15%がそのフィルムを通過することを許す。e−ビーム放射線を使用して本発明における硬化を実施するときは、すべての波長で、フルオロポリマーフィルムにおける光子の遮断量には何の制限もない。
【0017】
一つの実施形態においては、そのUV遮断剤が、1種または複数の顔料、一般的には白色顔料(それらは、光の反射を促進する)からなっている。顔料は一般的には、ポリマーを基準にして、2.0パーセント〜30重量パーセント、好ましくは2.0〜20重量パーセントのレベルで存在させる。有用な顔料としては、二酸化チタン、酸化亜鉛、ナノ酸化亜鉛、硫酸バリウム、および酸化ストロンチウムなどが挙げられるが、これらに限定される訳ではない。本発明はさらに、他のUV吸収性顔料たとえば、酸化鉄、カーボンブラックを含む他の材料でも有用である。これらの顔料のほとんどのものは、二酸化チタンと同じレベルで全UVスペクトル領域にわたって放射線を吸収するものではなく、したがって、光開始剤パッケージおよびUV放射線源を調節して、それらの顔料を含む材料で、最大限の硬化が得られるようにすることができる。
【0018】
二酸化チタン(ルチルであってもアナターゼであってもよい)の場合においては、約410nmまでは、UV範囲のほとんど全部の光子を吸収する。したがって、UV不透過性層を通過させて適切な硬化をさせるためには、特別な接着剤組成物および光子源が必要となる。
【0019】
本発明の接着剤系は、UV吸収剤または無機ナノ顔料を含む顔料非添加フルオロポリマーフィルムにも適用することができる。有用なUV吸収剤としては以下のものが挙げられるが、これらに限定される訳ではない:ヒンダードアミン光安定剤(HALS)、2−(o−ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール、ニッケルキレート、o−ヒドロキシベンゾフェノン、およびサリチル酸フェニル。UV吸収剤は、そのUV不透過性層の中の全ポリマー重量を基準にして、0.05〜5重量パーセントの量で存在させる。そのHALSは、モノマー性であっても、ポリマー性であってもよい。ナノ顔料、たとえばナノ酸化亜鉛およびナノ二酸化セリウムは、ナノメートルのサイズ範囲の顔料であって、UV遮断性である、視覚的に透明なフィルムが得られる。
【0020】
フルオロポリマーフィルムの表面を、接着剤に対する接着性を改良する目的で、表面処理または化学的なプライマー処理をしてもよい。たとえば、コロナ処理、プラズマ処理または火炎処理をする、および/またはシラン、ウレタン、アクリリック、アミン、またはエチレンベースのプライマーで化学的処理をフィルムに適用することもできる。
【0021】
PVDFフィルム層組成物には、PVDFおよびUV遮断剤に加えて、その他の添加剤、たとえば、耐衝撃性改良剤、UV安定剤、つや消し剤、可塑剤、充填剤、着色剤、抗酸化剤、帯電防止剤、界面活性剤、トナー、および分散助剤などを含んでいてもよいが、これらに限定される訳ではない。
【0022】
フルオロポリマー層を合計して、1ミクロンを超えて125ミクロンまで、好ましくは5〜75ミクロン、最も好ましくは5〜50ミクロンの厚みを有している。
【0023】
高熱変形層
高熱変形層は、多層フィルム構造物のための構造的な支持体を与える。本明細書で使用するとき、「高熱変形層(high thermal deformation layer)」という用語は、多層フィルムを含む、下流での製造プロセスにおいて使用される温度よりも高い熱変形温度を有する、10ミクロン〜375ミクロンの間、好ましくは12.5〜250ミクロンの間、最も好ましくは12.5〜125ミクロンの間の薄層を意味している。その熱変形温度は、いかなる製造温度よりも好ましくは少なくとも10℃、より好ましくは少なくとも15℃上である。熱変形温度は、DSCまたはDMAによって測定することができる。ガラス状態のポリマーでは、その変形温度は、その材料のTgとすることができる。結晶質ポリマーの場合には、その変形温度は、アロイまたはグラフトコポリマーにおける最高のTmとすることができる。DMAによって試験する場合には、変形温度は、DMAによって測定した弾性率によって定義されるであろう。たとえば、下流側の最高の製造温度が150℃であるようなプロセスでは、その高熱変形層のDMAは、DMAの貯蔵弾性率によって測定して、150℃で75MPaよりも高いものとなるであろう。
【0024】
高変形温度層において有用な材料の例としては、ポリエステル、ポリアミド、ポリエチレンナフタレート(PEN)、およびポリカーボネートなどが挙げられるが、これらに限定される訳ではない。有用なポリアミドとしては、ポリアミド6(PA6)、PA6,6、PA11、PA12、およびポリアミドアロイたとえばORAGOLLOY製品(Arkema Inc.製)などが挙げられるが、これらに限定される訳ではない。有用なポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレート(PET)およびポリブチレンテレフタレート(PBT)などが挙げられるが、これらに限定される訳ではない。特に好ましい高熱変形層はPETである。
【0025】
高変形温度層は、処理していてもあるいは未処理でもよい。その処理は、化学的処理たとえばプライマーの適用および/または、高エネルギー表面前処理、たとえばコロナ処理、プラズマ処理、もしくは火炎処理とすることができる。たとえば、シラン、ウレタン、アクリリック、ポリエチレンイミン、またはエチレンアクリル酸コポリマーをベースとしたプライマーのような化学的処理を、基材に適用することもできる。表面処理もしくは化学的プライマー処理は、それらの接着剤に対する良好な接着性を達成するのに必要な化学作用に応じて、基材の両面で同一であっても、異なっていてもよい。
【0026】
UV硬化性接着剤
放射線硬化性接着剤組成物を用いて、UV不透過性のフルオロポリマーフィルムを高熱変形温度層に接着させる。その接着剤組成物には、反応性オリゴマー、官能性モノマーおよび光開始剤(光子放射線源と使用する場合)が含まれる。
【0027】
好ましい実施形態においては、その接着剤組成物には、1種または複数のポリエステルおよびポリカーボネートポリオールをベースとする脂肪族ウレタン(メタ)アクリレートが、単官能もしくは多官能の(メタ)アクリレートモノマーと組み合わせて、含まれている。別な方法として、そのオリゴマーに、ポリエステルおよび/またはエポキシ主鎖を有する単官能もしくは多官能の(メタ)アクリレートオリゴマー、または単独もしくは他のオリゴマーと組み合わせた芳香族オリゴマーを含むこともできる。
【0028】
(メタ)アクリレート官能性モノマーおよび/またはオリゴマーと組み合わせて、非反応性のオリゴマーまたはポリマーが含まれていてもよい。その液状の接着剤組成物の粘度は、その組成物の中のオリゴマーおよびモノマーの選択、ならびにオリゴマー対モノマーの比率によって調節することができる。
【0029】
好ましい実施形態においては、その接着剤組成物には、オリゴマーとモノマーだけが含まれている。
【0030】
本発明において有用なモノマーとしては以下のものとの(メタ)アクリレートエステルが挙げられるが、これらに限定される訳ではない:アルコールたとえば、イソ−オクタノール;n−オクタノール;2−エチルヘキサノール、イソ−デカノール;n−デカノール;ラウリルアルコール;トリデシルアルコール;テトラデシルアルコール;セチルアルコール;ステアリルアルコール;ベヘニルアルコール;シクロヘキシルアルコール;3,3,5−トリメチルシクロヘキシルアルコール;環状トリメチロールプロパンホルマール;2−フェノキシエタノール;ノニルフェノール、イソボルノールの(メタ)アクリレートエステル、ならびに、ジオールおよびポリオールたとえば、エチレングリコール;プロピレングリコール;1,3 プロパンジオール;1,3 ブタンジオール;1,4 ブタンジオール;1,6 ヘキサンジオール;3−メチル−1,5−ペンタンジオール;1,9−ノナンジオール;1,10−デカンジオール、1,12−ドデカンジオール;1,4−シクロヘキサンジメタノール;トリシクロデカンジメタノール;ネオペンチルグリコール;トリメチロールプロパン;グリセロール;トリス(ヒドロキシエチル)イソシアヌレート;ペンタエリスリトール;ジ−トリメチロールプロパン;ジ−ペンタエリスリトール;およびそのようなアルコール、ジオールおよびポリオールのアルコキシル化もしくはカプロラクトン変性誘導体;ジプロピレングリコール;トリプロピレングリコールおよびより高級なポリプロピレングリコール;ジエチレングリコール;トリエチレングリコール;テトラエチレングリコールおよびより高級なポリエチレングリコール;混合エチレン/プロピレングリコール。二重官能性モノマーたとえばヒドロキシルモノマー、たとえばヒドロキシエチルアクリレート、またはヒドロキシルカプロラクトンアクリレートもまた、系の接着特性を調節するのに有用となり得る。カルボキシル官能性アクリレートモノマーである、ベータ−カルボキシエチルアクリレートもまた、ある種の系では有用である。
【0031】
接着剤組成物の全量を基準にして1〜15%の範囲で2−(2−エトキシエトキシ)エチルアクリレートを使用すると、アクリレートオリゴマー接着剤化学物質を用いたPVDFフィルムを含む積層物における剥離強度が向上する。それに加えて、B−CEA(ベータ−カルボキシエチルアクリレート)を使用すると、それらの積層構造物における剥離強度にプラスの効果があることもわかった。
【0032】
本発明において有用な脂肪族ウレタンアクリレートオリゴマーとしては以下のものが挙げられるが、これらに限定される訳ではない:脂肪族イソシアネートたとえば;水素化メチレンジフェニルジイソシアネート;イソホロンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、およびそのようなイソシアネートのアロファネートおよびビウレットを、各種のポリジオールまたはポリオールたとえば;ジ−もしくはポリ−ヒドロキシ化合物およびジ−もしくはポリ−カルボン酸官能性化合物から誘導されるポリエステルポリオール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリ−1,3−プロパンジオール、ポリブタンジオールまたはそれらの混合物から誘導されるポリエーテルジオール;各種のジオールたとえば1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール,1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、メチルペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、2−エチルヘキシルジオールおよび類似のアルキルジオールから調製されるポリカーボネートジオール;ヒドロキシル官能性(メタ)アクリレートキャッピング剤たとえばヒドロキシルエチル(メタ)アクリルレート、ヒドロキシルプロピル(メタ)アクリルレート、ポリカプロラクトン(メタ)アクリレートで両端もしくは一端を末端キャップしたもの、と組み合わせて調製されるもの。
【0033】
ポリエステルおよびポリカーボネートポリオールをベースとする脂肪族ウレタンアクリレートが好ましい。
【0034】
その脂肪族ウレタンアクリレートは、一般的には500〜20,000ダルトン;より好ましくは1,000〜10,000ダルトンの間、最も好ましくは1,000〜5,000ダルトンの分子量を有している。オリゴマーのMWが高すぎると、その系の架橋密度が極めて低くなり、低い引張強度を有する接着剤が生成する。引張強度が低すぎると、接着剤としての剥離強度の試験が早々に不合格となる問題が生じる。
【0035】
また別な実施形態においては、その接着剤を、UV硬化可能なカチオン性接着剤とすることもできる。
【0036】
オリゴマー/モノマーブレンド物中における脂肪族ウレタンオリゴマーの含量は、5%〜80重量%;より好ましくは10%〜60重量%、最も好ましくは20%〜50重量%とするべきである。
【0037】
硬化させた接着剤層の厚みは、0.5〜1.5ミル、好ましくは0.75〜1.25ミルの範囲である。もっと厚い層では、UV源を用いた場合に完全に硬化しない可能性があるが、ただし、これはe−ビームの場合には制約にならない。もっと薄い層では、充分な接着性が得られない可能性がある。
【0038】
光開始剤
UV不透過性フルオロポリマーフィルムを通過する、特に白色顔料添加(TiO
2)フィルムを通過する、光子を使用して接着剤組成物を重合または硬化させるためには、適切な長波長UVまたは近可視光吸光性光開始剤が、マッチングした放射線源と組み合わせて必要とされる。その光開始剤は、光子を吸収して重合反応を開始させるであろうフリーラジカルを発生するものである。本発明の有用な光開始剤としては、ビスアシルホスフィンオキシド(BAPO)、およびトリメチル−ジフェニル−ホスフィンオキシド(TPO)、ならびにそれらのブレンド物が挙げられるが、これらに限定される訳ではない。
【0039】
その光開始剤は、接着剤組成物の中に、接着剤組成物の全量を基準にして、0.2〜2.0重量パーセント、好ましくは0.5〜1.0重量パーセントの量で存在させる。それに代わる方法において、硬化のために電子ビーム放射線を使用する場合、光開始剤は必要ない。
【0040】
硬化方法
UV不透過性フルオロポリマーフィルムを通して硬化させるために、接着剤組成物と放射線源とを最適化させる。
【0041】
PETの両側に積層させたPVDFフィルムを含む多層構造の場合には、PVDFを通過させて硬化させることが、加工のための最適な方法である。長波長の(400nmより長い波長を意味する)UVのエネルギーが、光開始剤を分解させて、開始剤のフリーラジカル化学種とするには決定的に重要である。必要とされるスペクトルの出力を達成するための一つの有用なエネルギー源が、Fusion UV Systemsによって製造されている。より一般的には、「V」ランプとして知られているFusionの600ワット/インチのガリウム添加ランプ(gallium additive lamp)。そのVランプは、約410nmで、高強度のスペクトル出力を生み出す。同等の接着性能および硬化度は、また別のランプ供給業者、たとえばNordson UVからの高出力(600ワット/インチ)ガリウム添加ランプを使用しても達成することができるであろう。
【0042】
一つの実施形態の、顔料添加PVDF/PET/PVDF(両方のPVDFフィルムが顔料添加)においては、剥離強度対(PETサイドを通過させての硬化速度)を評価した初期の検討から、Fusion 600ワット/インチ「V」ランプを用いると、最大硬化速度が25フィート/分であり、それを過ぎると、剥離強度が劇的に低下するということが見いだされた。PVDFサイドを通しての硬化を用いると、剥離強度が全体的に低く、最適な硬化速度がたったの20フィート/分であることがわかった。
【0043】
本発明の接着剤系を硬化させるためのUV放射線のまた別な出力源は、発光ダイオード(LED)、たとえばPhoseon 415nmLEDである。LEDは、幅広いエネルギースペクトルを放出する従来からのUV硬化ランプに比較して、それらがほぼ単色光であるという点で、従来からのUV硬化ランプとは異なっている。今日のLEDは、360〜420nmの範囲の波長になるように製造されている。たとえば415nmまたは420nmより長波長のLEDも本発明において使用できるであろう。
【0044】
本発明のUV硬化は、UV硬化と加熱硬化の両方を含む二重硬化系の一部として使用することもできる。積層して光電池モジュールとするときに、その積層構造物は、150℃で15分間のベーキングを受けるであろう。同じ基本配合を用いるが、アクリレートモノマーの一部をそれらのメタクリレート類似体に変え、加熱分解性のペルオキシドを添加すると、より高い硬化度を達成することができる。UVフリーラジカル重合では、メタクリレートのモノマーおよびオリゴマーは、メチル基の立体障害が理由で、それらのアクリレート相当物よりも硬化が約8倍も遅い。この理由から、メタクリレートは、より典型的には、ペルオキシドを用いた加熱硬化用途において用いられる。さらに、潜在的に光活性を有する(photo−latent)一級および二級アミンを使用し、UVフリーラジカル重合開始剤または加熱フリーラジカル重合開始剤のいずれかと組み合わせて、重合を起こさせることも可能である。
【0045】
本発明においてフリーラジカルを発生させるためのまた別な方法は、電子ビーム(e−ビーム)放射線を使用する方法である。e−ビーム硬化を用いると、接着剤組成物の中に光開始剤を使用する必要はない。e−ビーム硬化を使用すれば、高変形温度層に対するUV放射線のマイナスの影響も排除される。
【0046】
接着剤の粘度は、接着剤組成物におけるオリゴマー対モノマーのレベルを調節することによって制御される。フルオロポリマーおよび高熱変形層に対して接着剤を、インライン操作で適用するのが好ましい。接着剤は当業者に公知の手段によって適用すればよいが、そのような手段を非限定的に挙げれば、たとえばスプレーコーティング法、ロールコーティング法、ブラシコーティング法、グラビア印刷法、フレキソ印刷法、またはインクジェット塗布法などがある。
【0047】
本発明の一つの実施形態においては、その放射線硬化性接着剤を、PET層の上に液体として適用し、それに続けてロールの中でPVDF層と積層させて、ロール加工する。別な方法としては、接着剤をPVDF層に適用してから、PET層の上に積層する。適用された接着剤を有する層を次いで、一般的に幾分かの加圧と場合によっては少し加熱して相互に接触する状態におくが、ただし、このプロセスは室温で作業するように設計されている。次いでその積層物を1種または複数の放射線源(それらは、先に説明したように、同一であっても異なっていてもよい)に、好ましくはインラインで、そして好ましくはUV放射線、LED放射線、または電子ビーム放射線の1種または複数の線源を用いて曝露させる。3層の積層フィルム、たとえばPVDF/PET/PVDFフィルムを作製する場合、それぞれの界面に接着剤を適用して、フィルムの両面で放射線硬化が起きるようにするのが好ましい。一つの実施形態においては、そのプロセスをロール・トゥ・ロール(roll−to−roll)システムで実施するが、そこでは、それぞれのフィルムの個々の層がそれらのロールから排出され、完全に硬化された積層物が、プロセスの最後に巻き上げられる。
【0048】
一つの実施形態においては、20/フィート/分のライン速度が、PVDF/PET/PVDF接着積層物を製造するのに効果的であることが見いだされた。そのライン速度は、当業者には公知の手段によって、たとえば放射線源(たとえばUVランプ)の数を増やす、または、光開始剤の濃度を高くすることによって、上げることも可能である。
【0049】
本発明の一つの実施形態においては、前記多層構造におけるそのフルオロポリマー層がUV透過性であって、300〜400nmの光子を20パーセントを超えて透過する。同じUV、LED、またはe−ビーム硬化を使用する。この場合においては、光開始剤のレベルを下げて使用することが可能で、また高いライン速度が期待できるが、その理由は、架橋を開始させるのに追加のUV放射線が利用できるであろうからである。
【0050】
本発明のさらなる実施形態においては、そのフルオロポリマーがUV放射線に対して透過性であり、UV吸収剤(顔料、ナノ顔料、有機UV吸収剤)を、接着剤の中または高熱変形温度層の中に組み入れて、UV不透過性の多層構造物を得る。
【実施例】
【0051】
実施例1:
ラジオメーターのデータはEIT Power Puck IIを使用して取得した。EIT Power Puck IIが、電磁スペクトルのUV領域の中の四つの異なったバンド幅で、全エネルギーをジュール/cm
2の単位で、そしてピーク放射度をワット/cm
2で読み取る。EITは、それらの領域を、UVV(395〜445nm)、UVA(320〜390nm)、UVB(280〜320nm)、UVC(250〜260nm)と定義している。50フィート/分のライン速度でのFusion 600ワット/インチ「V」ランプの全エネルギーは、1.252J/cm
2(EIT Power Puck IIラジオメーター)であった。ラジオメーターレンズの上で、同一のFusion 600ワット/インチ「V」ランプを用い同一のライン速度50フィート/分で、KYNAR顔料添加PVDFフィルム(Arkema Inc.製)の層について、同一の測定を実施すると、その全エネルギーは0.232J/cm
2に低下した。この結果は、KYNAR PVDFフィルムを通過させて材料を硬化させようとすると、80%超えるエネルギー損失があることを示している。より詳しくは、KYNAR フィルムを通過させて測定すると、UVV領域が、空気中で、0.699J/cm
2から0.115J/cm
2にまで低下している。
【0052】
実施例2:
およそ高さ18インチ、幅12インチ(サイズは、積層で目的としているサイズに応じて変化させることができる)のガラス片をベースとして使用し、2片のSCOTCH 232テープを、そのガラスの一つの表面の右側と左側それぞれに、垂直に貼り付けた。貼り付けたテープの幅が、目的とする薄層のサイズを支配する。そのSCOTCH 232テープの厚みは、約5ミルである。SCOTCH 232テープのそれぞれの片の上に、SCOTCH 232テープの第二の層を貼り付けて、ガラスから約10ミル離れるような厚みとした。そのテープが、積層構造物と共に接着剤の厚みを支配する。厚さ2ミルの剥離ライナーの2片(または、1片の4ミル層)をガラスの表面上のテープ片の間の空間に順に重ねて貼り付け、最上部にテープ止めした。剥離ライナーの上に、その積層構造物に使用するPET(厚み5ミル、DuPont XST−6578)の層を接着剤処理した面を上に向けて置き、最上部にテープ止めした。次いで、表面処理した面を下に向けたPVDF層を、ガラスの最上部にテープ止めした。そのPVDFフィルムの表面は、Enerconコロナ処理機を用いて処理して、50ダイン・cmより高い表面エネルギーを有していた。すべての層が、SCOTCH 232テープの間にあり、テープとは重なりあっていなかったが、その理由は、いずれかのフィルム層がSCOTCHテープと重なりあっているとすると、そのフィルムの厚みが違ってくるからである。次いで、PVDF層を剥がして、PET層を露出させた。以下のものを含むUV接着剤を、上または上に近いところからPETに水平に塗布した:46.00%のCN966H90(脂肪族ウレタンアクリレートオリゴマー、Sartomer製)、11.00%のSR484(アクリレートモノマー、Sartomer製)、21.00%のSR506(アクリレートモノマー、Sartomer製)、16.75%のCD9055(アクリレートモノマー、Sartomer製)、4.5%のSR256(アクリレートモノマー、Sartomer製)、0.50%のTPO(光開始剤)および0.25%のIRGACUR 819(ビスホスフィンオキシド光開始剤)。接着剤の量は、積層サイズに関連させた。接着剤をPETに適用したら、PVDFを引き戻して、PETの上に置いた。この手順において、積層構造物のサイズに制限を与える唯一の因子は、ローラーのサイズおよびランプのサイズである。幅10インチの大理石のローラーを、2片のSCOTCH 232テープの上に置き、SCOTCHテープを一定速度で底に達するまでロールがけした。フィルムの厚みを一定にするために、ロールがけを2回または3回繰り返した。次いでその積層の底部をガラスにテープで貼り付けて、硬化ユニットを通すときにそれが動くことがないようにした(prevent it from blowing around)。Fusion 600W/in「V」ランプを使用し、20F/Mで、PVDFフィルムを介してその積層物を硬化させた。硬化させてから、試験のための幅1インチの試験片にその積層構造物を切断した。試験に含まれているのは、Instronで実施される180度剥離強度と、85C/85%RHチャンバー内で実施される湿熱試験である。数本のサンプルについての初期剥離強度の平均値は2.09ポンドであった。それらのサンプルは、12週間を超える湿熱試験でも、接着力の減少もトンネリングも全く無く、持ちこたえた。
【0053】
実施例3:
アクリレートおよびメタクリレートのモノマーおよびオリゴマーを使用するフリーラジカル重合を開始させるためのまた別な方法は、電子ビーム放射線によるものであって、一般に(e−ビーム硬化)と呼ばれている。電子ビーム硬化は、真空室の中においたタングステンフィラメントに高電圧を印加することによって実施する。タングステンフィラメントが電気的に超過熱されて、電子雲を生成する。それらの電子が加速され、フォイルウィンドウを通過して、接着剤に貫入して、重合を開始させる。e−ビーム硬化では、エネルギーを吸収し、崩壊して重合のためのフリーラジカルを発生する光開始剤は必要とせず、ビスアシルホスフィンオキシド(BAPO)、およびトリメチル−ジフェニル−ホスフィンオキシド(TPO)ならびにそれらのブレンド物は使用しなかった。
【0054】
およそ高さ18インチ、幅12インチ(サイズは、積層で目的としているサイズに応じて変化させることができる)のガラス片をベースとして使用し、2片のSCOTCH 232テープを、そのガラスの一つの表面の右側と左側それぞれに、垂直に貼り付けた。貼り付けたテープの幅が、目的とする薄層のサイズを支配する。そのSCOTCH 232テープの厚みは、約5ミルである。SCOTCH 232テープのそれぞれの片の上に、SCOTCH 232テープの第二の層を貼り付けて、ガラスから約10ミル離れるような厚みとした。そのテープが、積層構造物と共に接着剤の厚みを支配する。厚さ2ミルの剥離ライナーの2片(または、1片の4ミル層)をガラスの表面上のテープ片の間の空間に順に重ねて貼り付け、最上部にテープ止めした。剥離ライナーの上に、その積層構造物に使用されるPET(厚み5ミル、DuPont XST−6578)の層を接着剤処理した面を上に向けて置き、最上部にテープ止めした。次いで、表面処理した面を下に向けたPVDF層を、ガラスの最上部にテープ止めした。そのPVDFフィルムの表面は、Enerconコロナ処理機を用いて処理して、50ダイン・cmより高い表面エネルギーを有していた。すべての層が、SCOTCH 232テープの間にあり、テープとは重なりあっていなかったが、その理由は、いずれかのフィルム層がSCOTCHテープと重なりあっているとすると、そのフィルムの厚みが違ってくるからである。次いで、PVDF層を剥がして、PET層を露出させた。47.00%のPRO12546(脂肪族ウレタンアクリレートオリゴマー、Sartomer製)、15.00%のSR506、17.00%のCD9055、11.00%のSR256、および10.00%のSR420(アクリレートモノマー、Sartomer製)を含むアクリレートベースの接着剤を、上または上に近いところからPETに水平に塗布した。接着剤の量は、積層サイズに関連させた。接着剤をPETに適用したら、PVDFを引き戻して、PETの上に置いた。幅10インチの大理石のローラーを、2片のSCOTCH 232テープの上に置き、SCOTCHテープを一定速度で底に達するまでロールがけした。フィルムの厚みを一定にするために、ロールがけを2回または3回繰り返した。この時点で、未硬化の積層物をガラスから慎重に外し、積層物の上下で、ウェブにテープで貼り付けて、硬化ユニットを通過させるときの固定をした。Energy Science’s,Inc.(ESI)により製造された高電圧電子ビーム硬化ユニットを使用してサンプルを硬化させた。PVDFのトップ層フィルム密度から、接着剤に貫入させるには150KVの電子ボルトが必要であるということがわかった。150KVの電子ボルトと5メガラド(Mrad)の線量を与えるのに等価のライン速度とを使用すると、PVDF層を通してサンプルが硬化された。
【0055】
その硬化させた積層構造物を切断して幅1インチの試験片とし、Instronでの180度剥離強度と、85C/85%RHのチャンバー内での湿熱試験の試験をした。サンプルは、剥離強度の試験をしてから、湿熱チャンバーに入れ、1、3、および6週間の期間で湿熱曝露させた。初期剥離強度の平均値は3ポンドであった。サンプルは、6週間の曝露でもこの剥離強度レベルを維持し、何の低下もなかった。
【0056】
実施例4:
PVDFフィルムを通して接着剤を硬化させるために発光ダイオードまたはLEDを使用することは、フリーラジカル重合を開始させるためのまた別な方法である。およそ高さ6インチ、幅5インチ(サイズは、LEDの幅に応じて変化させることができる)のガラス片をベースとして使用し、2片のSCOTCH 232テープを、そのガラスの一つの表面の右側と左側それぞれに、垂直に貼り付けた。貼り付けたテープの幅が、目的とする薄層のサイズを支配する。そのSCOTCH 232テープの厚みは、約5ミルである。SCOTCH 232テープのそれぞれの片の上に、SCOTCH 232テープの第二の層を貼り付けて、ガラスから約10ミル離れるような厚みとした。そのテープが、積層構造物と共に接着剤の厚みを支配する。厚さ2ミルの剥離ライナーの2片(または、1片の4ミル層)をガラスの表面上のテープ片の間の空間に順に重ねて貼り付け、最上部にテープ止めした。剥離ライナーの上に、その積層構造物に使用されるPET(厚み5ミル、DuPont XST−6578)の層を接着剤処理した面を上に向けて置き、最上部にテープ止めした。次いで、表面処理した面を下に向けたPVDF層を、ガラスの最上部にテープ止めした。そのPVDFフィルムの表面は、Enerconコロナ処理機を用いて処理して、50ダイン・cmより高い表面エネルギーを有していた。すべての層が、SCOTCH 232テープの間にあり、テープとは重なりあっていなかったが、その理由は、いずれかのフィルム層がSCOTCHテープと重なりあっているとすると、そのフィルムの厚みが違ってくるだろうからである。次いで、PVDF層を剥がして、PET層を露出させた。46.00%のCN9021、11.00%のSR484、21.00%のSR506、16.75%のCD9055、4.5%のSR256、0.50%のTPO、および0.25%のIRGACUR 819を含むUV接着剤を、上または上に近いところからPETに水平に塗布する。接着剤の量は、積層サイズに関連させた。接着剤をPETに適用したら、PVDFを引き戻して、PETの上に置いた。幅10インチの大理石のローラーを、2片のSCOTCH 232テープの上に置き、SCOTCHテープを一定速度で底に達するまでロールがけした。フィルムの厚みを一定にするために、ロールがけを2回または3回繰り返した。この時点で、未硬化の積層物をガラスから慎重に外し、積層物の上下で、ウェブにテープで貼り付けて、硬化ユニットを通過させるときの固定をした。その積層物を、水冷したPhoseon Fireline(商標)LEDモデル125×20WC415−8Wを使用し、17F/Mのライン速度で、PVDFフィルムを通して硬化させた。その積層サンプルは、LED硬化ユニットに合計して3回は通すべきである。その積層物の高さは、LED硬化ユニットに可能な限り近くなるように調節するべきであったということに注目されたい。その理由は、LED上の半導体から硬化させる材料までの距離が大きくなるほど、硬化させるためのエネルギーが劇的に低下するからである。硬化させたら、その積層構造物を切断して幅1インチの試験片とし、Instronでの180度剥離強度と、85C/85%RHチャンバー内での湿熱試験の試験をした。初期剥離強度は平均して2.98ポンドであった。剥離強度の値は、1000時間の湿熱(85C/85%RH)曝露の後でも、初期強度より高く保たれていた。
【0057】
実施例5:
およそ高さ18インチ、幅12インチ(サイズは、積層で目的としているサイズに応じて変化させることができる)のガラス片をベースとして使用し、2片のSCOTCH 232テープを、そのガラスの一つの表面の右側と左側それぞれに、垂直に貼り付けた。貼り付けたテープの幅が、目的とする薄層のサイズを支配する。そのSCOTCH 232テープの厚みは、約5ミルである。SCOTCH 232テープのそれぞれの片の上に、SCOTCH 232テープの第二の層を貼り付けて、ガラスから約10ミル離れるような厚みとした。そのテープが、積層構造物と共に接着剤の厚みを支配する。厚み2ミルの剥離ライナーの1片を、ガラスの上のテープの小片の間に貼り付け、最上部にテープ止めした。次いで、上側を表面処理した厚み2ミルの透明なPVDF層を、ガラスの最上部にテープ止めした。その透明なPVDFの上に、その積層構造物において使用されるPET(厚み5ミル、DuPont XST−6578)を、接着剤処理した面を下にして置き、最上部にテープ止めしたすべての層がSCOTCH 232テープの間に入っていて、重なっていないことを確認することが重要である。すべての層がSCOTCH 232テープの間に入っており、テープには重なっていなかった。この時点で、PET層を剥がして、PVDF層を露出させた。47.00%のPRO12546、15.00%のSR506、16.75%のCD9055、10.50%のSR256、10.00%のCD420、0.50%のTPO、および0.25%のIRGACUR 819を含むUV接着剤を、上または上に近いところからPVDFに水平に塗布する。接着剤をPVDFに適用したら、PETを引き戻して、PVDFの上に置いた。接着剤の量は、積層サイズに関連させた。接着剤をPETに適用したら、PVDFを引き戻して、PETの上に置いた。幅10インチの大理石のローラーを、2片のSCOTCH 232テープの上に置き、SCOTCHテープを一定速度で底に達するまでロールがけした。フィルムの厚みを一定にするために、ロールがけを2回または3回繰り返した。この時点で、未硬化の積層物をガラスから慎重に外し、積層物の上下で、ウェブにテープで貼り付けて、硬化ユニットを通過させるときの固定をした。Fusion 600W/in「V」ランプを使用し、20F/Mで、PETフィルムを介してその積層物を硬化させた。硬化させたら、Instronで実施する180度剥離強度と、85C/85%RHチャンバー内で実施する湿熱試験で試験するために、その積層構造物を切断して幅1インチの試験片とした。このサンプルの初期剥離強度の平均値は、6.00ポンドであった。3週間の湿熱曝露をさせた後でも、その積層物の180度剥離強度は、4ポンドよりも高かった。このサンプルは、39週間を超える湿熱試験でも、接着力の減少やトンネリングも全く無く、持ちこたえた。