(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6382738
(24)【登録日】2018年8月10日
(45)【発行日】2018年8月29日
(54)【発明の名称】建築物の天井構造
(51)【国際特許分類】
E04B 9/00 20060101AFI20180820BHJP
E04B 1/98 20060101ALI20180820BHJP
【FI】
E04B9/00 A
E04B1/98 K
【請求項の数】10
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-25565(P2015-25565)
(22)【出願日】2015年2月12日
(65)【公開番号】特開2016-148192(P2016-148192A)
(43)【公開日】2016年8月18日
【審査請求日】2017年9月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000174943
【氏名又は名称】三井住友建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001379
【氏名又は名称】特許業務法人 大島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岩本 毅
(72)【発明者】
【氏名】嶋田 泰
(72)【発明者】
【氏名】小林 秀彰
【審査官】
土屋 保光
(56)【参考文献】
【文献】
特開平09−317075(JP,A)
【文献】
特開2006−077517(JP,A)
【文献】
特開2013−147871(JP,A)
【文献】
特開平09−317145(JP,A)
【文献】
特開2013−238306(JP,A)
【文献】
米国特許第06178705(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 9/00
E04B 9/18
E04B 1/62 − 1/99
E04F 15/20
F16F 15/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上層階の床構造の下方にて、水平にかつ互いに平行に延在する複数の野縁と、
前記複数の野縁の下面に取り付けられた天井ボードと、
前記複数の野縁の内の互いに隣接する1対の野縁間に架け渡されたばね部材と、
前記ばね部材の中間部に取り付けられた錘部材とを有し、
前記ばね部材および前記錘部材が、前記床構造の振動によって生じる前記1対の野縁および前記天井ボードの振動を制御するTMDをなすように設けられていることを特徴とする建築物の天井構造。
【請求項2】
前記ばね部材は、前記1対の野縁に両持ち支持された板ばねを含むことを特徴とする請求項1に記載の建築物の天井構造。
【請求項3】
前記板ばねが、そのばね本体の両端部から下向きに垂下する1対の脚片と、前記1対の脚片の各々の上端近傍にて、対応する前記1対の野縁の上面に当接する当接面を画定する肩部とを有することを特徴とする請求項2に記載の建築物の天井構造。
【請求項4】
前記1対の脚片が、前記ばね本体および前記1対の脚片の一方または双方の弾性力により、前記1対の野縁の互いに対向する側面に弾発的に当接することを特徴とする請求項3に記載の建築物の天井構造。
【請求項5】
前記1対の脚片が、前記ばね本体の前記両端部を下向きに折り返して、さらに下向きに折り曲げて形成され、前記肩部が、前記両端部を折り返した部分により形成されていることを特徴とする請求項3または4に記載の建築物の天井構造。
【請求項6】
前記1対の脚片の下端部の各々が、対応する前記1対の野縁の下面に沿うように折り曲げられていることを特徴とする請求項3乃至5のいずれかに記載の建築物の天井構造。
【請求項7】
複数の前記TMDが、前記複数の野縁の延在方向に直交する方向に整列して、かつ前記複数の野縁によって画定される野縁間スペースの1つおきに配置されていることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の建築物の天井構造。
【請求項8】
複数の前記TMDの各々が、近接する他のTMDに対して、前記複数の野縁の延在方向に直交する方向にずれて配置されていることを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載の建築物の天井構造。
【請求項9】
複数の前記TMDが、前記複数の野縁の延在方向に直交する方向に整列して、かつ前記複数の野縁によって画定される野縁間スペースに連続して配置されていることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の建築物の天井構造。
【請求項10】
前記ばね部材は、前記1対の野縁間に張設されたワイヤーを含むことを特徴とする請求項1に記載の建築物の天井構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築物の床衝撃音を低減する天井構造に関する。
【背景技術】
【0002】
集合住宅等の建築構造物における天井構造として、天井下地材に内装材である天井ボードを結合したものが用いられることがある。天井下地材は、コンクリートや鉄骨等からなる上層階の床構造に吊ボルト等によって吊り下げられた複数の野縁受けと、野縁受けに対して直交するように野縁受けの下面に結合された複数の野縁とから形成される。また、天井下地材は、互いに対向する一対の壁の上端近傍に設置された一対のランナーと、一対のランナー間に架け渡された野縁とから形成されることもある。いずれの天井下地材においても、天井ボードは、野縁の下面に固定される。
【0003】
このような天井構造では、上層階の床が衝撃を受けると、床が振動して、その振動が天井下地材を介して下層階の天井ボードに伝わり、天井ボードの振動が空気を振動させて音として下層階に伝わる。特に、集合住宅等においては、このような床衝撃音を低減することが望まれる。床衝撃音は、スプーンなどの硬くて軽いものを床に落としたときに生じる軽量床衝撃音と、人が飛び跳ねたときなどに生じる鈍くて低い重量床衝撃音とに分類される。
【0004】
軽量床衝撃音対策として、柔軟な素材からなる緩衝材を床等に設置することがあるが、これには、重量床衝撃音対策としての効果は期待できない。床スラブを厚くすれば、重量床衝撃音の低減が期待できるが、その荷重を支えるために柱および梁等に高い強度が要求される。そこで、TMD(チューンドマスダンパー、Tuned Mass Damper)を天井構造に設置する手段が提案されている。TMDとは、錘(Mass)をダンパー(Damper)およびばねを介して対象物に取り付けたものであって、錘の重量やばねのばね定数によって固有振動数が調整されており(Tuned)、対象物の振動を錘の揺れによって吸収するものである。この固有振動数を低減したい音の周波数に合わせることによって、重量床衝撃音が低減される。
【0005】
例えば、特許文献1では、天井ボードに接着される熱可塑性エラストマーからなるシート状の粘弾性体と、その粘弾性体上に配置された錘部材とから構成されるTMDが開示されている。特許文献1のTMDは、衝撃を受けた上層階の床の振動によって天井ボードが振動することを抑制し、天井ボードから下層階に放射される音を低減する。
【0006】
また、特許文献2では、野縁に取り付けられる補強金具と、補強金具の両側面に片持ち支持状に取り付けられた合成ゴム製の弾性体と、弾性体の遊端に取り付けられた金属製の錘とによって構成されるTMDが開示されている。特許文献2のTMDは、衝撃を受けた上層階の床の振動によって野縁および野縁に結合した天井ボードが振動することを抑制し、天井ボードから下層階に放射される音を低減する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−174120号公報
【特許文献2】特開2012−241464号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載のTMDは、天井ボードに取り付けられるため、その重さによって、天井ボードが落下するおそれがあった。また、特許文献2に記載のTMDは、片持ち支持された弾性体の遊端に錘が配置されているため、大型化・重量化が困難であった。そのため、十分な効果を得るためには、多数の弾性体および錘が必要であり、施工に手間がかかった。
【0009】
本発明は、このような背景に鑑みなされたものであり、重量床衝撃音を低減させる天井構造であって、天井ボードの落下のリスクを増大させず、さらに、効率良く施工できる天井構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のある側面は、建築物の天井構造(2,32,44,62)であって、上層階の床構造(4)の下方にて、水平にかつ互いに平行に延在する複数の野縁(12,38)と、前記複数の野縁の下面に取り付けられた天井ボード(14)と、前記複数の野縁の内の互いに隣接する1対の野縁間に架け渡されたばね部材(18,48,68)と、前記ばね部材の中間部に取り付けられた錘部材(20)とを有し、前記ばね部材および前記錘部材が、前記床構造の振動によって生じる前記1対の野縁および前記天井ボードの振動を制御するTMD(16,46,64)をなすように設けられていることを特徴とする。ここで、錘部材とは、ばね部材と別体である場合と一体である場合とを含む。
【0011】
この構成によれば、重量床衝撃音をTMDの振動によって低減できるとともに、TMDが野縁に取り付けられているため、天井ボードの落下のリスクを増大させず、隣接する1対の野縁間にTMDを架け渡す構造であるため、施工性がよい。
【0012】
本発明の他の側面は、上記構成において、前記ばね部材(18,48)は、前記1対の野縁に両持ち支持された板ばねを含むことを特徴とする。
【0013】
この構成によれば、1つのTMDあたりの錘部材の重量を大きくとることができるため、TMDの設置数を減少させることができる。そのため、施工時間を短縮することができる。また、板ばねによってもたらされる天井構造の質量増加による遮音効果も期待できる。
【0014】
本発明の他の側面は、上記構成において、前記板ばねが、そのばね本体(22,50)の両端部から下向きに垂下する1対の脚片(24,52)と、前記1対の脚片の各々の上端近傍にて、対応する前記1対の野縁の上面に当接する当接面を画定する肩部(26,58)とを有することを特徴とする。
【0015】
この構成によれば、肩部が野縁の上面に載置され、脚片が横方向へのずれを抑制するため、TMDの仮設置が容易になり、施工性がよい。
【0016】
本発明の他の側面は、上記構成において、前記1対の脚片が、前記ばね本体および前記1対の脚片の一方または双方の弾性力により、前記1対の野縁の互いに対向する側面に弾発的に当接することを特徴とする。
【0017】
この構成によれば、脚片が野縁に弾発的に当接しているため、TMDを設置位置で安定させることができる。
【0018】
本発明の他の側面は、上記構成において、前記1対の脚片(24)が、前記ばね本体(22)の前記両端部を下向きに折り返して、さらに下向きに折り曲げて形成され、前記肩部(26)が、前記両端部を折り返した部分により形成されていることを特徴とする。
【0019】
この構成によれば、ばね部材が、1つの部材から構成できるため、製造が容易となる。
【0020】
本発明の他の側面は、上記構成において、前記1対の脚片(24,52)の下端部(28,56)の各々が、対応する前記1対の野縁の下面に沿うように折り曲げられていることを特徴とする。
【0021】
この構成によれば、下端部が野縁と天井ボードとに挟持されるため、ねじ等の固定具を用いなくともTMDを野縁に固定することができる。また、ねじを用いてTMDを固定する場合であっても、天井ボードを野縁に固定するためのねじを利用できる。よって、施工効率がよい。
【0022】
本発明の他の側面は、上記構成において、複数の前記TMD(16,46)が、前記複数の野縁の延在方向に直交する方向に整列して、かつ前記複数の野縁によって画定される野縁間スペースの1つおきに配置されていることを特徴とする。
【0023】
この構成によれば、複数の野縁の各々には、少なくとも1つのTMDが係合しているため、天井全体の振動を抑えることができるとともに、TMDの設置数を少なくして施工の手間を減らすことができる。
【0024】
本発明の他の側面は、上記構成において、複数の前記TMD(16,46)の各々が、近接する他のTMD(16,46)に対して、前記複数の野縁の延在方向に直交する方向にずれて配置されていることを特徴とする。
【0025】
この構成によれば、TMDが分散して配置されるため、野縁および天井ボードの振動を均等に抑えることができる。
【0026】
本発明の他の側面は、上記構成において、複数の前記TMD(16,46)が、前記複数の野縁の延在方向に直交する方向に整列して、かつ前記複数の野縁によって画定される野縁間スペースに連続して配置されていることを特徴とする。
【0027】
この構成によれば、複数の野縁の各々には、少なくとも2つのTMDが係合しているため、振動の抑制量を高めることができる。
【0028】
本発明の他の側面は、上記構成において、前記ばね部材(68)は、前記1対の野縁間に張設されたワイヤー(66)を含むことを特徴とする。
【0029】
この構成によれば、TMDにおいて振動を抑えるために必要な錘部材以外の部分の重量を小さくすることができ、天井下地材にかかる負荷を軽減することができる。また、1組のワイヤーをばね部材とするため、ワイヤーを複数の野縁に渡って設置すれば、複数のTMDで1つのばね部材を共用でき、施工の手間を減らすことができる。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、重量床衝撃音を低減させる天井構造であって、天井ボードの落下のリスクを増大させず、効率良く施工できる天井構造を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図3】第1実施形態に係る野縁に固定されたTMDの正面図
【
図4】第1実施形態の変形例に係る天井構造の平面図
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明に係る天井構造の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0033】
図1〜
図3は、本発明の第1実施形態を示す。天井構造2は、集合住宅等の建築物に設けられるものであって、上層階の床スラブ4の下方に設置される。床スラブ4は鉄筋コンクリートによって形成されている。上層階の床構造は、床スラブ4に代えて、H形鋼等からなる床梁上に、デッキプレート床、現場打ちコンクリート床またはパネル床等を設置したものであってもよい。
【0034】
天井下地材6は、床スラブ4に対して、その下方の近接した位置に配置される。天井下地材6は、下層階の互いに対向する壁8の上端近傍に固定された1対のランナー10と、1対のランナー間に架け渡された複数の野縁12とを備える。
【0035】
1対のランナー10は、壁8の上端近傍、すなわち上層階の床スラブ4から離間した位置に配置される。1対のランナー10は、断面コ字形状の軽量形鋼からなり、互いに平行かつ水平に、断面コ字形状の開放面が互いに対向するように配置される。野縁12は、角スタッド等の軽量形鋼からなり、1対のランナー10に直交するようにその間に架け渡されている。1対のランナー10の両端部は、それぞれ、1対のランナー10の断面コ字形状の開放面に突入することによって、1対のランナー10に支持されている。複数の野縁12が設置されており、その各々は、水平かつ互いに平行に、隣接する他の野縁12との間隔が等しくなるように配置される。野縁12の中間部は、床スラブ4に固定された吊ボルト(図示せず)等によって支持されていてもよい。
【0036】
天井ボード14は、石膏板等から形成され、複数の野縁12の下面に固定される。天井ボード14は、内装材であって、その下面にはクロスなどが貼られ、下層階の居室等の天井表面を形成する。
【0037】
TMD16は、互いに隣接する1対の野縁12間に架け渡されたばね部材18と、ばね部材18の中間部に取り付けられた錘部材20とを備える。
【0038】
ばね部材18は、1枚の帯状の金属板を幅方向に沿って折り曲げて形成された板ばねからなる。ばね部材18は、長手方向の中央部に弾性変形するばね本体22が形成され、ばね本体22の両端部からは、下向きに垂下する1対の脚片24が形成されている。ばね本体22は、上が凸になるように全体的に緩やかに湾曲している。1対の脚片24は、ばね本体22の両端部を下向きに折り返して、さらにその折り返し線よりも端側を下向きに折り曲げて形成される。ばね本体22の両端部を折り返した部分によって、肩部26が形成される。1対の脚片24の下端部28の各々は、外側に向かって直角に折り曲げられている。肩部26の下面は、野縁12の上面に当接し、脚片24の下向きに垂下している主部30の外側面は、野縁12の対向側面に、すなわち、対をなす野縁12に対向している側の側面に当接し、脚片24の下端部28は、上面において野縁12の下面に当接するとともに下面において天井ボード14の上面に当接している。負荷がかかっていない状態において、1対の脚片24間の距離は、隣接する野縁12間の距離よりもわずかに長い。そのため、1対の脚片24の野縁12への当接は、ばね本体22および1対の脚片24の弾性力により弾発的になされる。また、ばね部材18は、野縁12への肩部26の当接、野縁12への脚片24の主部30の弾発的な当接、並びに、野縁12および天井ボード14による脚片24の下端部28の挟持によって、1対の野縁12に両持ち支持されるように固定される。さらにねじ等(図示せず)によって、脚片24の主部30と野縁12の側面を固定してもよく、天井ボード14、脚片24の下端部28および野縁12の下面を固定してもよい。なお、肩部26および脚片24の下端部28の一方または双方を省略してもよい。
【0039】
錘部材20は、金属等からなる直方体形状の錘であって、ばね部材18のばね本体22上の長手方向中央に取り付けられる。錘部材20の形状は、他の部材に接触しない範囲で変更してもよい。
【0040】
ばね部材18のばね定数および錘部材20の質量を調整することにより、TMD16の固有振動数は、目的とする重量床衝撃音が低減されるように設定される。
【0041】
野縁12の延在方向を縦方向、野縁12の延在方向に直交する方向を横方向とすると、TMD16は、横方向に整列して、かつ複数の野縁12によって画定される野縁間スペースに連続して配置されている。なお、TMDの配列は、これに限定されるものではないが、複数の野縁12の各々には、TMDの一端側が、少なくとも1つ取り付けられていることが望ましい。
【0042】
TMD16は、野縁12をランナー10に取り付けた後に、野縁12に取り付けられる。ばね本体22を湾曲させることにより、ばね部材18の両端部を1対の野縁12にあてがうことができる。また、野縁12の両端部がランナー10を摺動するように野縁12を横方向にスライドさせて、野縁12をばね部材18の端部にはめ込んでもよい。その後、天井ボード14を取り付けると、脚片24の下端部28は、野縁12と天井ボード14とに挟持される。
【0043】
床スラブ4に衝撃が加わると床スラブ4が振動し、その振動が、壁8および空気を介して、さらに吊ボルト(図示せず)を設けている場合には吊ボルトをも介して伝わり、野縁12および野縁12に固定された天井ボード14を励振させる。TMD16は、野縁12および天井ボード14の振動、とくに、TMD16の固有振動数に相当する周波数の振動を低減する。これにより、野縁12および天井ボード14の振動が低減し、天井ボード14から放射される音が小さくなる。
【0044】
TMD16は、野縁12に取り付けられるため、天井ボード14に負荷をかけない。そのため、TMD16の設置によって、天井ボード14が落下するおそれを増大させることはない。また、TMD16の好ましい質量は、振動を抑える対象の質量、すなわち、野縁12および天井ボード14の質量の約5%以上であり、さらに好ましくは15%以上であるが、金属製の板ばねからなるばね部材18自体に比較的大きな質量があるとともに、ばね本体22に大きな質量の錘部材20を載せることができる。そのため、設置すべきTMDの数を減らし、施工の手間を減らすことができる。また、金属製の板ばねからなるばね部材18自体が、大きな質量を有し、それによってもたらされる天井構造の質量増加による遮音効果も期待できる。
【0045】
次に、
図4を参照して、第1実施形態の変形例を説明する。説明に当たって、上記実施形態と共通する構成は、その説明を省略し同一の符号を付す。変形例に係る天井構造32において、TMD16の構造は上記実施形態と同一であるが、天井下地材34の構造およびTMD16の配置が、上記実施形態と異なる。
【0046】
天井下地材34は、床スラブ4(
図2参照)に吊り下げられた複数の野縁受け36と、野縁受け36に対して直交するように取り付けられた野縁38とを備える。
【0047】
床スラブ4の下面には吊ボルト40の上端側が固定されており、吊ボルト40の下端側には接続金物42が取り付けられ、接続金物42が野縁受け36を保持している。野縁受け36は、断面コ字形状の軽量形鋼であって、水平かつ互いに平行に、隣接する野縁受け36との間隔が等しくなるように配置される。野縁38は、クリップ等の接続具(図示せず)によって、野縁受け36の下側に取り付けられる。野縁38は、断面コ字形状の軽量形鋼であって、水平かつ互いに平行に、隣接する野縁38との間隔が等しくなるように配置される。なお、ねじ等によりばね部材18の脚片24の主部30(
図3参照)を野縁38の側面に固定する場合は、野縁38の部材には、断面コ字形状の軽量形鋼に代えて、角スタッドが用いられる。
【0048】
野縁38の延在方向を縦方向、野縁38の延在方向に直交する方向を横方向とすると、TMD16は、横方向に整列して、各列において複数の野縁38によって画定される野縁38間スペースの1つおきに配置される。さらに、各列に配置されたTMD16は、縦方向には互いにずれるように、互い違いに配置される。
【0049】
このように、TMD16は、野縁受け36および野縁38によって形成された天井下地材34に対しても使用できる。また、TMD16は、上記以外の配置、例えばランダムに配置することもできる。
【0050】
次に、本発明の第2実施形態について説明する。説明に当たって、第1実施形態と共通する構成は、その説明を省略し同一の符号を付す。第2実施形態の天井構造44では、TMD46のばね部材48の形状が、第1実施形態と異なる。このTMD46を第1実施形態の天井下地材6に取り付ける場合を例に説明するが、第1実施形態の変形例の天井下地材34に取り付けることもでき、その配置も、上記形態のいずれのものやその他のものに適宜変更できる。
【0051】
図5は、天井構造44における1つのTMD46の周囲を拡大して示した正面図である。TMD46は、互いに隣接する1対の野縁12間に架け渡されたばね部材48と、ばね部材48の中間部に取り付けられた錘部材20とを備える。
【0052】
ばね部材48は、1枚の平面視で長方形形状の金属板からなるばね本体50と、ばね本体50の両端部から下向きに垂下する1対の脚片52とを備える。1対の脚片52の各々は、1枚の金属板からなり、野縁12の側面に平行にばね本体50から下向きに垂下した主部54と、主部54に対して外側に向かって直角に折り曲げられた下端部56とを有する。主部54の上端は、ばね本体50の端部近傍の下面に溶接等により固定されている。ばね本体50における1対の脚片52が取り付けられた位置より外側の両端部は、肩部58を形成している。肩部58の下面は、野縁12の上面に当接し、脚片52の主部54の外側面は、野縁12の対向側面に当接し、脚片52の下端部56は、野縁12および天井ボード14に挟持されるように、上面において野縁12の下面に当接するとともに下面において天井ボード14の上面に当接している。1対の脚片52間の距離は、隣接する野縁12間の距離に略等しい。なお、負荷のかかっていない状態における1対の脚片52間の距離を、隣接する野縁12間の距離よりもわずかに長くして、1対の脚片52が、野縁12の対向側面に弾発的に当接するようにしてもよい。肩部58は、ばね部材48を野縁12に仮固定するために有用であるが、省略も可能である。脚片52の下端部56が野縁12および天井ボード14に挟持されるため、ばね部材48は野縁12に固定される。さらに、ねじ60によって、脚片52の主部54を野縁12の対向側面に固定してもよい。ねじ60を、天井ボード14、脚片52の下端部56および野縁12の下面に対して締結してもよい。ねじ60を、脚片52の主部54および野縁12の対向側面に対して締結する場合は、脚片52の下端部56を省略してもよい。
【0053】
TMD46を1対の野縁12間に設置するときは、ばね部材48を撓ませて1対の野縁12間に挿入する。また、ばね部材48を野縁12に対して斜めになる水平な姿勢にした状態で、TMD46を1対の野縁12間に挿入し、TMD46を回転させてばね部材48の両端部を1対の野縁12に係合させてもよい。脚片52の下端部56は省略した場合は、ばね部材48を撓ませたり、斜めにする必要がなく、1対の野縁12間に上方からまっすぐ挿入できる。
【0054】
TMD46は、第1実施形態のTMD16と同様に、重量床衝撃音を低減し、天井ボード14を落下させるおそれを増大させず、施工性がよく、遮音効果も期待できる。
【0055】
次に、
図6を参照して、本発明の第3実施形態について説明する。説明に当たって、第1実施形態と共通する構成は、その説明を省略し同一の符号を付す。第3実施形態に係る天井構造62は、TMD64の構造が、第1実施形態と異なる。このTMD64を第1実施形態の主形態の天井下地材6に取り付ける場合を例に説明するが、第1実施形態の変形例の天井下地材34に取り付けることもでき、その配置も適宜変更できる。
【0056】
TMD64は、2本のワイヤー66からなるばね部材68と、錘部材20とを備える。
【0057】
ワイヤー66は、野縁12の延在方向に直交し、かつ野縁12の上面に当接するように配置される。複数の野縁12は並列に配置されているが、ワイヤー66の両端は、それぞれ両端に配置された野縁12に、ねじ(図示せず)等により固定され、ワイヤー66は、張力が付与された状態で固定される。ワイヤー66が野縁12の上面で摺動して異音が発生することを防止するため、ワイヤー66は、中間に配置された野縁12の上面でもねじ(図示せず)等により固定されることが望ましい。2本のワイヤー66は、互いに近接しかつ平行に配置される。
図6では、2本のワイヤー66によって構成されたばね部材68が、2組示されているが、1組でもよく、3組以上設置してもよい。また、1組のばね部材68は、平行に配置された3本以上のワイヤー66によって構成されてもよく、1本でもよい。
【0058】
錘部材20は、隣接する1対の野縁12によって画定されたそれぞれの空間に張設されたばね部材68上に取り付けられる。なお、錘部材20は、ばね部材68に吊り下げられるように取り付けてもよい。
【0059】
ワイヤー66に負荷された張力、すなわち、ばね部材68のばね定数と、錘部材20の質量とを調整することにより、TMD64の固有振動数が設定される。
【0060】
TMD64は、第1実施形態のTMD16と同様に、重量床衝撃音を低減し、天井ボード14を落下させるおそれを増大させない。また、野縁12の延在方向を縦方向、野縁12の延在方向に直交する方向を横方向とすると、横方向に同列に整列した複数のTMD64が、ばね部材68としての1組のワイヤー66を共有するため、部材が少なく、施工の手間が軽減される。
【0061】
以上で具体的実施形態の説明を終えるが、本発明は上記実施形態に限定されることなく幅広く変形実施することができる。例えば、ばね本体が錘部材を兼ね、ばね部材とは別体の部品としての錘がなくともよい。また、ばね部材を、金属以外の素材、例えば樹脂等でも形成してもよい。また、TMDを野縁に固定するために接続金具を用いてもよい。また、ばね部材の脚片は、1対の野縁の互いに対向する側面ではなく、相反する方向を向いた外側の側面に当接してもよい。第2実施形態のTMDは、1対の野縁間にばね部材を配置したとき、ばね本体が撓み、脚片が弾発的に野縁に当接するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0062】
2,32,44,62...天井構造、6,34...天井下地材、12,38...野縁、14...天井ボード、16,46,64...TMD、18,48,68...ばね部材、20...錘部材、22,50...ばね本体、24,52...脚片、26,58...肩部、28,56...下端部、66...ワイヤー