(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
絶縁性セラミックを含み、厚み方向に貫通する貫通孔が形成された板状の絶縁部、及び、固体電解質セラミックを含み、前記貫通孔内に配置された板状の電解質部、を有する複合セラミック層と、
前記絶縁部の一方の面である第1絶縁面と、前記電解質部の前記一方側の面である第1電解質面とに跨がって形成された第1導体層と、
を備えるガスセンサ素子であって、
前記第1絶縁面と前記第1電解質面とは、同一平面をなし、
前記電解質部は、前記第1電解質面側に、前記絶縁部に重なって、前記貫通孔の外側に向けて広がる延出部を有し、
前記延出部の厚みは前記延出部の外周に向かうほど薄い
ことを特徴とするガスセンサ素子。
絶縁性セラミックを含み、厚み方向に貫通する貫通孔が形成された板状の絶縁部、及び、固体電解質セラミックを含み、前記貫通孔内に配置された板状の電解質部、を有する複合セラミック層と、
前記絶縁部の一方の面である第1絶縁面と、前記電解質部の前記一方側の面である第1電解質面とに跨がって形成された第1導体層と、
を備え、
前記第1絶縁面と前記第1電解質面とは、同一平面をなし、
前記電解質部は、前記第1電解質面側に、前記絶縁部に重なって、前記貫通孔の外側に向けて広がる延出部を有し、
前記延出部の厚みは前記延出部の外周に向かうほど薄い
ガスセンサ素子の製造方法であって、
(A)前記絶縁性セラミックを含み、厚み方向に貫通する貫通孔が形成された板状の未焼成絶縁部の前記貫通孔内に、前記固体電解質セラミックを含み、前記未焼成絶縁部よりも厚い未焼成電解質部を挿入する工程と、
(B)前記未焼成絶縁部の一方の面である第1未焼成絶縁面と、前記未焼成電解質部の前記一方側の面である第1未焼成電解質面と、が同一平面となるように、前記未焼成絶縁部と前記未焼成電解質部とを、前記厚み方向に同時に圧縮する工程と、
(C)前記第1未焼成絶縁面と、前記第1未焼成電解質面とを跨ぐ未焼成第1導体層を形成する工程と、
(D)前記未焼成絶縁部、前記未焼成電解質部、及び、前記未焼成第1導体層を焼成して、前記絶縁部及び前記電解質部を有する前記複合セラミック層及び前記第1導体層を形成する工程と、を備え、
前記工程(A)において、前記未焼成絶縁部に形成された前記貫通孔の前記第1未焼成絶縁面側における側端部には、面取りが施されており、
前記工程(B)では、前記未焼成電解質部の前記第1未焼成電解質面側に、前記未焼成絶縁部に重なって前記貫通孔の外側に向けて広がる未焼成延出部を、前記未焼成延出部の厚みが前記未焼成延出部の外周に向かうほど薄く形成する、
ことを特徴とするガスセンサ素子の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0010】
A.第1実施形態:
図1は、本発明の第1実施形態におけるガスセンサ1を軸線AXに沿って切断した縦断面図である。ガスセンサ1は、例えば、内燃機関の排気管に装着され、酸素センサとして使用される。以下では、
図1に示すガスセンサ1の下側を先端側DL1、上側を後端側DL2として説明する。
【0011】
ガスセンサ1は、ガスセンサ素子10と主体金具20とを主に備える。ガスセンサ素子10は、長手方向DLに延びる板状の素子であり、被測定ガスである排ガス中の酸素濃度を検出可能に構成されている。ガスセンサ素子10は、自身の長手方向DLに沿った中心線が軸線AXに一致する形態でガスセンサ1内に配置されている。
【0012】
主体金具20は、ガスセンサ素子10を内部に保持する筒状の金具である。主体金具20は、ガスセンサ素子10の先端部10sを自身よりも先端側に突出させると共に、ガスセンサ素子10の後端部10kを自身よりも後端側に突出させた状態で、ガスセンサ素子10を保持している。主体金具20の先端側には、金属製の外部プロテクタ31及び内部プロテクタ32が配置され、ガスセンサ素子10の先端部10sを覆っている。外部プロテクタ31及び内部プロテクタ32は複数のガス導入孔31h、32hを有している。このガス導入孔31h、32hを通じて、外部プロテクタ31の外部の被測定ガスが、内部プロテクタ32の内側に配置されたガスセンサ素子10の先端部10sの周囲に導入される。
【0013】
主体金具20の内部には、センサ素子10の外周を取り囲むように環状のセラミックホルダ21と、粉末充填層22,23(以下、滑石リング22,23ともいう。)と、セラミックスリーブ24とが、この順に先端側DL1から後端側DL2にかけて配置されている。セラミックホルダ21や滑石リング22の外周には金属ホルダ25が配置されている。また、セラミックスリーブ24の後端側には加締パッキン26が配置されている。主体金具20の後端部27は、加締パッキン26を介してセラミックスリーブ24を先端側に押し付けるようにして加締められている。
【0014】
主体金具20の後端側には、ガスセンサ素子10の後端部10kを取り囲むように筒状の外筒51が配置されている。さらに、外筒51の内側には、セパレータ60が配置されている。セパレータ60は、ガスセンサ素子10の後端部10kの周囲を取り囲むと共に、5本のリード線78,79(
図1では2本のみ図示)の先端に取り付けられた5つの端子部材75,76(
図1では2つのみ図示)を互いに離間して保持する。セパレータ60は、軸線AX方向に貫通する挿入孔62を有している。この挿入孔62には、ガスセンサ素子10の後端部10kが挿入される。また、挿入孔62内には、5個の端子部材75,76が互いに離間して配置されており、それぞれガスセンサ素子10の後述するパッド部14〜18に弾性的に当接し電気的に接続している。外筒51の後端側には、外筒51の後端開口部を閉塞するグロメット73がはめ込まれている。5本のリード線78,79は、このグロメット73を貫通している。
【0015】
図2は、ガスセンサ素子10の分解斜視図である。また、
図3は、ガスセンサ素子10の各部材の積層状態を模式的に示す断面図である。
図2および
図3では、左側がガスセンサ1の先端側DL1となり、右側が後端側DL2になる。
【0016】
ガスセンサ素子10は、厚み方向DTに積層された複数のセラミック層及び導体層からなる。具体的には、被測定ガス中の酸素濃度の検出に用いる検出用複合セラミック層111と、これよりも厚み方向一方側DT1に位置し、測定室SP(
図3参照)における被測定ガス中の酸素濃度の調整に用いるポンプ用複合セラミック層211と、を有している。また、これら検出用複合セラミック層111及びポンプ用複合セラミック層211の間には、絶縁層170が配置されている。検出用複合セラミック層111の厚み方向他方側DT2には第1導体層150が、検出用複合セラミック層111の一方側DT1には第2導体層155がそれぞれ形成されている。また、ポンプ用複合セラミック層211の一方側DT1には第1導体層250が、ポンプ用複合セラミック層211の他方側DT2には第2導体層255がそれぞれ形成されている。さらに、検出用複合セラミック層111及び第1導体層150の他方側DT2にはヒータ層180が積層され、ポンプ用複合セラミック層211及び第1導体層250の一方側DT1には保護層160が積層されている。
【0017】
検出用複合セラミック層111は、絶縁性セラミック(アルミナ)からなる矩形板状で、自身を厚み方向DTに貫通する平面視矩形状の貫通孔112hを有する検出用絶縁部112と、固体電解質(ジルコニア)セラミックからなる板状で、検出用絶縁部112の貫通孔112h内に配置された板状の検出用電解質部131とを備える。検出用絶縁部112は、他方側DT2を向く第1絶縁面113、及び、一方側DT1を向く第2絶縁面114を有している。また、検出用電解質部131は、他方側DT2を向く第1電解質面133、及び、一方側DT1を向く第2電解質面134を有している。
【0018】
第1導体層150は、検出用電解質部131の第1電解質面133上に、貫通孔112hの開口面積よりも小さく形成された矩形状の第1電極層151と、この第1電極層551から長手方向後端側DL2に延びる帯状の第1リード層152とからなる。第1リード層152は、第1電解質面133と第1絶縁面113とに跨がって、第1電解質面133上から第1絶縁面113上まで延びている。また、第2導体層155は、第1導体層150と同様、検出用電解質部131の第2電解質面134上に、貫通孔112hの開口面積よりも小さく形成された矩形状の第2電極層156と、この第2電極層156から後端側DL2に延びる帯状の第2リード層157とからなる。第2リード層157は、第2電解質面134と第2絶縁面114とに跨がって、第2電解質面134上から第2絶縁面114上まで延びている。
【0019】
ポンプ用複合セラミック層211は、絶縁性セラミック(アルミナ)からなる矩形板状で、自身を厚み方向DTに貫通する平面視矩形状の貫通孔212hを有するポンプ用絶縁部212と、固体電解質(ジルコニア)セラミックからなる板状で、ポンプ用絶縁部212の貫通孔212h内に配置された板状のポンプ用電解質部231とを備える。ポンプ用絶縁部212は、厚み方向一方側DT1を向く第1絶縁面213、及び、厚み方向他方側DT2を向く第2絶縁面214を有している。また、ポンプ用電解質部231は、一方側DT1を向く第1電解質面233、及び、他方側DT2を向く第2電解質面234を有している。
【0020】
第1導体層250は、ポンプ用電解質部231の第1電解質面233上に、貫通孔212hの開口面積よりも小さく形成された矩形状の第1電極層251と、この第1電極層251から後端側DL2に延びる帯状の第1リード層252とからなる。第1リード層252は、第1電解質面233と第1絶縁面213とに跨がって、第1電解質面233上から第1絶縁面213上まで延びている。第2導体層255は、第1導体層250と同様、ポンプ用電解質部231の第2電解質面234上に、貫通孔212hの開口面積よりも小さく形成された矩形状の第2電極層256と、この第2電極層256から後端側DL2に延びる帯状の第2リード層257とからなる。第2リード層257は、第2電解質面234と第2絶縁面214とに跨がって、第2電解質面234上から第2絶縁面214上まで延びている。
【0021】
絶縁層170は、貫通孔112h,212hと重なるように、自身を貫通する矩形状の貫通孔170hを有している。この貫通孔170hは、絶縁層170のほか、検出用複合セラミック層111(検出用電解質部131)及びポンプ用複合セラミック層211(ポンプ用電解質部231)に囲まれて、中空の測定室SPを構成する。この絶縁層170は、緻密なアルミナからなる本体部171と、2つの多孔質部172とからなる。2つの多孔質部172は、多孔質セラミックからなり、貫通孔170hのうち長手方向DLに沿って延びる2辺の一部をそれぞれ構成し、側方(長手方向DL及び厚み方向DTに直交する方向)に露出する。多孔質部172は、ガスセンサ素子10の外部から測定室SP内に、被測定ガスを所定の律速条件で導入する拡散律速層である。
【0022】
ポンプ用複合セラミック層211の厚み方向一方側DT1には、第1導体層250を覆って、保護層160が積層されている。この保護層160は、第1電極層251及びポンプ用電解質部231を覆う多孔質部162と、保護部161とからなる。保護部161は、多孔質部162を囲んで収容する貫通孔161hが穿孔され、ポンプ用絶縁部212に重なってこれを保護する緻密質セラミックである。
【0023】
保護部161上には、3つの端子部材75(
図1参照)が接触する3つのセンサパッド部16,17,18が形成されている。センサパッド部16は、スルーホール161m,212m,171m,112mを通じて、第1導体層150(第1リード層152)の後端側DL2の端部152eに導通している。センサパッド部17は、スルーホール161nを通じて、第1導体層250(第1リード層252)の後端側DL2の端部252eに導通している。さらに、センサパッド部18は、スルーホール161p,212p,171pを通じて、第2導体層155(第2リード層157)の端部157eと、第2導体層255(第2リード層257)の端部257eとに導通している。
【0024】
ヒータ層180は、アルミナからなる2枚の板状の絶縁層182,183と、これらの間に埋設された、ヒータパターン181とを備える。ヒータパターン181は、蛇行状の発熱部181d、及び、この発熱部181dの両端にそれぞれ接続され、直線状に延びる第1リード部181b及び第2リード部181cからなる。絶縁層183の他方側DT2には、2つの端子部材76(
図1参照)が接触する2つのヒータパッド14,15が形成されている。ヒータパッド部14は、第1リード部181bの後端側DL2の端部181eに、スルーホール183mを通じて電気的に導通している。また、ヒータパッド部15は、第2リード部181cの後端側DL2の端部181fに、スルーホール183nを通じて電気的に導通している。
【0025】
本実施形態に係るガスセンサ素子10では、多孔質の第1電極層151内に予め酸素を供給して基準ガスを形成しておく。その上で、検出用電解質部131を挟む第1電極層151と第2電極層156との間に生じる電位差が所定の値(測定室SP内の酸素濃度が一定)となるように、ポンプ用電解質部231で測定室SPから多孔質部162に酸素を汲み出しあるいは逆に汲み入れるべく、ポンプ用電解質部231を挟む第1電極層251と第2電極層256との間に流れる電流の方向及び大きさをセンサパッド部16〜18に導通した3本のリード線78を用いて調整する。第1電極層251と第2電極層256との間に流れる電流の大きさは、多孔質部172を通じて測定室SP内に流入する被測定ガス中の酸素濃度に応じた値となるため、この電流の大きさから被測定ガス中の酸素濃度を検知することができる。なお、酸素濃度測定時には、ヒータパッド部14,15に導通する2本のリード線79を通じてヒータパターン181に電流を供給し発熱させることで、検出用電解質部131およびポンプ用電解質部231を加熱し活性化させる。
【0026】
図4は、
図3に示した断面部分AR1付近を拡大して示す図である。
図4には、本実施形態に係るガスセンサ素子10の検出用複合セラミック層111のうち、検出用電解質部131と検出用絶縁部112との境界付近の構造が示されている。
図4に示されているように、本実施形態では、検出用電解質部131の厚みT1と、検出用絶縁部112の厚みT2とは、略同じである。また、第1絶縁面113と第1電解質面133とは、同一平面をなす。検出用電解質部131は、検出用複合セラミック層111を厚み方向DTに沿って切断した断面で見たときに、第1電解質面133側に、検出用絶縁部112に厚み方向DTに重なって、貫通孔112hの外側に向けて広がる延出部135を有している。延出部135の厚みは、延出部135の外周に向かうほど薄い。また、延出部135の外周は第1絶縁面113と連続的に接続している。更に、延出部135の他方側DT2の面である第1延出面136は、第1電解質面133に含まれ、第1絶縁面113と第1電解質面133とを連続的に接続している。そのため、第1絶縁面113と第1延出面136と第1電解質面133とは、段差なく一つの平面を構成するように接続されている。また、検出用絶縁部112に形成された貫通孔112hの第1絶縁面113側における側端部137は、検出用絶縁部112の厚み方向内側から外側に向かって凸となる円弧状である。つまり、貫通孔112hの第1絶縁面113側の開口面積は、厚み方向内側から外側に向かうほど大きくなっている。
図4に示した構造は、検出用電解質部131の外周全体にわたって同様である。
【0027】
図5は、ガスセンサ素子10の製造方法を示す工程図である。以下では、焼成後の部材とこれに対応する焼成前の部材とは、便宜上、同一符号を用いて説明する。本実施形態における製造方法では、まず、ガスセンサ素子10を構成する部材ごとに未焼成部材を準備する(ステップS10)。具体的には、未焼成保護層160、未焼成ポンプ用複合セラミック層211、未焼成絶縁層170、未焼成検出用複合セラミック層111、未焼成絶縁層182,183を準備する。ポンプ用複合セラミック層211および検出用複合セラミック層111の作製方法については後述する。
【0028】
未焼成部材を準備すると、続いて、準備した各未焼成部材を、
図2に示した順序で積層して未焼成ガスセンサ素子10を作製する(ステップS20)。このステップS20に先立ち、未焼成絶縁層183の一方側DT1、または、未焼成絶縁層182の他方側DT2には、スクリーン印刷によって未焼成ヒータパターン181が形成される。
【0029】
上記ステップS20において、未焼成ガスセンサ素子10が作製された後、公知の手法により、未焼成ガスセンサ素子10が焼成される(ステップS30)。以上の工程により、ガスセンサ素子10が完成する。
【0030】
図6は、
図5のステップS10において準備される未焼成検出用複合セラミック層111およびポンプ用複合セラミック層211の作製方法を示す工程図である。
図7は、
図6に示した作製方法を説明するための図である。ポンプ用複合セラミック層211および未焼成検出用複合セラミック層111の作製方法は同一であるため、以下では、未焼成検出用複合セラミック層111の作製方法について説明し、未焼成ポンプ用複合セラミック層211の作製方法については省略する。
【0031】
まず、ドクタブレード法で形成した厚さ155±20μmの未焼成絶縁部用シート(絶縁グリーンシート)112sと、これよりも厚い、厚さ200±20μmの未焼成電解質部用シート(電解質グリーンシート)とを予め用意する。そして、未焼成絶縁部用シート112sに対して貫通孔112hを形成する(ステップS100)。なお、未焼成絶縁部用シート112sの厚みを155±20μmとし、未焼成電解質部用シートの厚みを200±20μmとすれば、未焼成電解質部用シートの厚みを、未焼成絶縁部用シート112sの厚みよりも、少なくとも5μm、厚くすることができる。
【0032】
図7(a)および
図7(b)には、未焼成絶縁部用シート112sに貫通孔112hを形成する様子を示している。本実施形態では、パンチ305を用いて、未焼成絶縁部用シート112sに対して貫通孔112hを形成する。パンチ305は、未焼成絶縁部用シート112s側に平面視矩形状の先端部306を備え、その反対側に傾斜部307を備えている。傾斜部307は、先端部306から厚み方向DTに遠ざかるほど、厚み方向DTに垂直な断面積が先端部306の断面積よりも大きくなるように構成されている。パンチ305によって未焼成絶縁部用シート112sに貫通孔112hが形成されると、貫通孔112hの第1未焼成絶縁面113側における未焼成側端部137は、パンチ305の傾斜部307によって、面取りが施された形状となる。こうすることによって、未焼成絶縁部112が形成される。なお、貫通孔112hの形成方法は、上述した方法に限られない。例えば、平面視矩形状のパンチによって未焼成絶縁部用シート112sに貫通孔を形成した後で、他の治具を用いて未焼成側端部137に面取りを施してもよい。また、面取りされた側端部137の形状は、
図7に示したように角面であってもよいし、丸面であってもよい。
【0033】
続いて、
図7(c)に示すように、未焼成絶縁部112に形成された貫通孔112hに対して、未焼成電解質部用シートから打ち抜かれた未焼成電解質部131を挿入する(
図6のステップS110)。上記のとおり、未焼成電解質部用シートは、未焼成絶縁部用シート112sよりも厚いため、未焼成絶縁部112の貫通孔112hに未焼成電解質部131が挿入されると、未焼成電解質部131の一部が、貫通孔112hから突き出ることになる。
【0034】
未焼成電解質部131を貫通孔112hに挿入した後、未焼成絶縁部112と未焼成電解質部131とを、第1未焼成絶縁面113と第1未焼成電解質面131とが同一平面になるように、厚み方向DTに同時に圧縮する(
図6のステップS120)。すると、未焼成電解質部131の貫通孔112hから突き出た部分が、面取りされた未焼成側端部137に沿って面方向に広がる。すると、
図7(d)に示すように、未焼成電解質部131の第1未焼成電解質面133側に、未焼成絶縁部112に重なって貫通孔112hの外側に向けて広がり、外周に向かうほど厚みが薄くなる未焼成延出部135が形成される。そして、上記圧縮により、未焼成延出部135の外周と第1未焼成絶縁面113とは連続的に接続され、また、未焼成延出部135の他方側DT2の面である第1未焼成延出面136が、第1未焼成絶縁面113と第1未焼成電解質面131とを連続的に接続する。そして、貫通孔112hの第1未焼成絶縁面113側における未焼成側端部137は円弧状になる。以上で示した工程によって、未焼成電解質部131と未焼成絶縁部112とを備える未焼成検出用複合セラミック層111は完成する。なお、
図7(d)に示した未焼成検出用複合セラミック層111は、上下方向が逆にされた上で、
図4に示した順で積層される。
【0035】
上述した
図6のステップS120における圧縮工程は、60℃以上、好ましくは、80℃以上100℃以下の温度環境下において行うことが好ましい。このような温度環境において圧縮を行えば、未焼成絶縁部112と未焼成電解質部131とがそれぞれ軟化するため、未焼成電解質部131の第1未焼成電解質面133と未焼成絶縁部112の第1未焼成絶縁面113とが滑らかに接続され、また、未焼成延出部135を容易に形成することが可能になる。
【0036】
圧縮行程が終了すると、続いて、導体層の形成が行われる(
図6のステップS130)。具体的には、スクリーン印刷法により、未焼成電解質部131の第1未焼成電解質面133(
図4参照)、及び、未焼成絶縁部112の第1未焼成絶縁面113に跨がるように、未焼成第1導体層150(未焼成第1電極部151及び未焼成第1リード部152)を形成する。そして、更に、スクリーン印刷法により、未焼成絶縁部112の第2未焼成絶縁面114、及び、未焼成電解質部131の第2未焼成電解質面134に跨がるように、未焼成第2導体層155(未焼成第2電極部156及び未焼成第2リード部157)を形成する。以上で説明した工程によって、未焼成検出用複合セラミック層111は完成する。また、未焼成ポンプ用複合セラミック層211についても、同様の工程によって完成する。
【0037】
以上で説明した本実施形態のガスセンサ素子10には、
図4に示したように、検出用絶縁部112の貫通孔112h内に配置された検出用電解質部131に、検出用絶縁部112に重なって貫通孔112hの外側に向けて広がる延出部135が設けられている。しかし、本実施形態では、この延出部135の他方側DT2の面である第1延出面136を含む第1電解質面133は、第1絶縁面113と同一面をなすため、第1絶縁面113と第1電解質面133とに跨がって形成された第1導体層150に亀裂や断線が生じることを抑制することができる。
【0038】
また、本実施形態では、延出部135が形成されることにより、貫通孔112hの第1絶縁面113側の開口面積が、厚み方向内側から外側に向かうほど大きくなっているので、貫通孔112h内に配置された検出用電解質部131が、ガスセンサ素子10の製造時において貫通孔112hから容易に脱落することを抑制することができる。
【0039】
また、本実施形態では、検出用絶縁部112に形成された貫通孔112hの第1絶縁面113側における側端部137(
図4参照)が、検出用絶縁部112の厚み方向内側から外側に向かって凸となる円弧状であるので、第1絶縁面113側において検出用電解質部131と検出用絶縁部112とが重なる部分に角張った角部が形成されない。そのため、第1絶縁面113側における検出用電解質部131と検出用絶縁部112との境界部に応力が集中することを緩和することができる。そのため、検出用電解質部131と検出用絶縁部112との境界のいずれかの部分を起点として延出部135に亀裂が生じることを抑制することができるので、ガスセンサ素子10の耐久性を高めることができる。
【0040】
また、本実施形態では、検出用電解質部131に、外側に向けて広がる延出部135が形成されるものの、検出用絶縁部112に形成される貫通孔112hについては、その有効面積はほとんど変動しない。そのため、ガスセンサ素子10のガス検知性能が、製造環境等によって変動してしまうことを抑制することができる。
【0041】
なお、本実施形態では、ポンプ用複合セラミック層211を検出用複合セラミック層111と同じ作製方法によって作成するため、
図4に示した構造は、ポンプ用複合セラミック層211の一方側DT1の面についても同様の構造となる。そのため、ポンプ用複合セラミック層211の第1絶縁面213と第1電解質面233とも同一平面をなすので、ポンプ用複合セラミック層211の一方側DT1に配置される第1導体層250に亀裂や断線が生じることを抑制することができる。なお、
図4に示した構造は、検出用複合セラミック層111とポンプ用複合セラミック層211とのいずれか一方のみに適用してもよい。つまり、検出用複合セラミック層111とポンプ用複合セラミック層211とのいずれか一方は、電解質部と絶縁部との厚みが同じであり、延出部が形成されない構造であってもよい。
【0042】
また、本実施形態では、検出用複合セラミック層111の他方側DT2の面に延出部135が形成されているが、一方側DT1の面に延出部435が形成されていても良い。また、検出用複合セラミック層111の一方側DT1と他方側DT2の両方の面に延出部135が形成されても良い。
【0043】
B.第2実施形態:
上述した第1実施形態では、2つの複合セラミック層(検出用複合セラミック層111およびポンプ用複合セラミック層211)を有するいわゆる2セルタイプのガスセンサ素子10について説明した。しかし、
図4に示したガスセンサ素子10の構造は、複合セラミック層を1つ備えるいわゆる1セルタイプのガスセンサ素子に対しても同様に適用可能である。
【0044】
図8は、1セルタイプのガスセンサ素子410の分解斜視図である。また、
図9は、ガスセンサ素子410の各部材の積層状態を模式的に示す断面図である。以下では、ガスセンサ素子410の構造について、第1実施形態のガスセンサ素子10と異なる点を中心に説明する。なお、
図8および
図9において、第1実施形態のガスセンサ素子10と同じ部材および部位には、第1実施形態と同じ符号を付している。
【0045】
ガスセンサ素子410は、複合セラミック層411を有している。この複合セラミック層411の厚み方向一方側DT1には、第2導体層455、保護層460が、この順に積層されている。また、複合セラミック層411の厚み方向他方側DT2には、第1導体層450、導入路形成層470、ヒータ層180が、この順に積層されている。
【0046】
複合セラミック層411は、貫通孔412hを有する絶縁部412と、電解質部431とを備える。電解質部431は、貫通孔412h内に埋め込まれている。絶縁部412は、厚み方向他方側DT2を向く第1絶縁面413、及び、これとは逆に厚み方向一方側DT1を向く第2絶縁面414を有している。電解質部431は、厚み方向他方側DT2を向く第1電解質面433、及び、これとは逆に厚み方向一方側DT1を向く第2電解質面434を有している。
【0047】
第1導体層450は、電解質部431の第1電解質面433上に、貫通孔412hの開口面積よりも小さく形成された矩形状の第1電極部451と、この第1電極部451から長手方向後端側DL2に延びる帯状の第1リード部452とからなる。第1導体層450は、第1電解質面433と第1絶縁面413とに跨がって形成されている。
【0048】
第2導体層455は、電解質部431の第2電解質面434上に、貫通孔412hの開口面積よりも小さく形成された略矩形状の第2電極部456と、この第2電極部456から長手方向後端側DL2に延びる帯状の第2リード部457とからなる。第2導体層455は、第2電解質面434と第2絶縁面414とに跨がって形成されている。
【0049】
複合セラミック層411の厚み方向一方側DT1には、第2導体層455を覆って、保護層460が積層されている。この保護層460は、多孔質部462と保護部461とを備える。多孔質部462は、第2電極部456及び複合セラミック層411の電解質部431上に配置された多孔質セラミックからなる。保護部461は、多孔質部462を囲んで収容する貫通孔461hが穿孔され、複合セラミック層411の絶縁部412に重なってこれを保護する緻密質セラミックからなる。貫通孔461hは、第2電極部456に外部の被測定ガスを導くガス導入路GDとなっている。
【0050】
保護部461上には、センサパッド部416,417が設けられている。センサパッド部416は、スルーホール461m,412mを通じて、第1導体層450の後端側DL2の端部452eに電気的に導通している。センサパッド部417は、スルーホール461nを通じて、第2導体層455の後端側DL2の端部457eに電気的に導通している。
【0051】
導入路形成層470は、緻密質のセラミックからなり、この導入路形成層470をその厚さ方向DTに貫通する導入溝475が形成されている。導入溝475は、導入路形成層470のほか、複合セラミック層411及びヒータ層180(絶縁層182)に囲まれて、第1電極部451に大気を導入する大気導入路ADを構成する。さらに詳細には、導入溝475は、平面視矩形状の基準室溝476と、この基準室溝476よりも幅細で基準室溝476から後端側DL2に延び、導入路形成層470の後端(
図10において右端)に開口する通気溝477とからなる。このうち、基準室溝476は、導入路形成層470のほか、複合セラミック層411の電解質部431及びヒータ層180に囲まれて、基準室KSを構成する。また、通気溝477は、導入路形成層470のほか、複合セラミック層411の絶縁部412及びヒータ層180に囲まれて、通気路TRを構成する。なお、基準室KSには、電解質部431上に形成された第1電極部451が露出している。
【0052】
本実施形態のガスセンサ素子410は、第1実施形態のガスセンサ素子10と同様に、
図1に示したガスセンサ1内に配置される。ただし、第2実施形態では、ガスセンサ1の後端部に設けられたグロメット73に、大気に連通するフィルタが備えられる。導入路形成層470の通気溝477には、このフィルタを通じて大気が導入される。また、本実施形態では、ヒータパッド部14,15の数は第1実施形態と同じであるものの、センサパッド部416,417は、第1実施形態よりも1つ少ない2つであるため、
図1に示した端子部材75,76は、第1実施形態よりも1つ少ない4つとなり、また、リード線78,79も第1実施形態よりも1本少ない4本となる。
【0053】
本実施形態におけるガスセンサ素子410では、ガスセンサ素子410の後端部の周囲の大気が、前述した大気導入路ADを通じて、第1電極部451に到達する。一方、ガスセンサ素子410の先端部の周囲の被測定ガスは、保護層460の貫通孔461hに配置された多孔質部462を通じて、第2電極部456に到達する。第1電極部451と第2電極部456との間には、電解質部431が配置されているので、第1電極部451に接触する大気の酸素濃度に対し、第2電極部456に接触する被測定ガスの酸素濃度が異なる場合、第1電極部451と電解質部431と第2電極部456とで酸素濃淡電池が構成され、第1電極部451と第2電極部456との間に電位差が生じる。そのため、この電位差を表す信号を、センサパッド部416,417に導通する2本のリード線78を通じて取得することにより、被測定ガス中の酸素濃度を検知することができる。なお、酸素濃度測定時には、ヒータパッド部14,15に導通する2本のリード線79を通じてヒータパターン181に電流を供給し発熱させることで、電解質部431を加熱し活性化させる。
【0054】
図10は、
図9に示した断面部分AR2付近を拡大して示す図である。
図10に示すように、複合セラミック層411の電解質部431と絶縁部412の境界付近の構造は、
図4に示した第1実施形態と同様の構造である。つまり、電解質部431の厚みT1と、絶縁部412の厚みT2とは、略同じである。また、第1絶縁面413と第1電解質面433とは、同一平面をなす。電解質部431は、複合セラミック層411を厚み方向DTに沿って切断した断面で見たときに、第1電解質面433側に、絶縁部412に厚み方向DTに重なって、貫通孔412hの外側に向けて広がる延出部435を有している。延出部435の厚みは、延出部435の外周に向かうほど薄い。また、延出部435の外周は第1絶縁面413と連続的に接続している。更に、延出部435の他方側DT2の面である第1延出面436は、第1電解質面433に含まれ、第1絶縁面413と第1電解質面433とを連続的に接続している。そのため、第1絶縁面413と第1延出面436と第1電解質面433とは、段差なく一つの平面を構成するように接続されている。また、絶縁部412に形成された貫通孔412hの第1絶縁面413側における側端部437は、絶縁部412の厚み方向内側から外側に向かって凸となる円弧状である。つまり、貫通孔412hの第1絶縁面413側の開口面積は、厚み方向内側から外側に向かうほど大きくなっている。
図12に示した構造は、電解質部431の外周全体にわたって同様である。
【0055】
以上で説明した第2実施形態においても、第1絶縁面413と第1電解質面433とに跨がって形成された第1導体層450に亀裂や断線が生じることを抑制することができる。また、その他にも、第1実施形態と同様の作用効果を奏する。なお、第2実施形態では、複合セラミック層411の他方側DT2の面に延出部435が形成されているが、一方側DT1側の面に延出部435が形成されていても良い。また、複合セラミック層411の一方側DT1と他方側DT2の両方の面に延出部435が形成されても良い。
【0056】
C.変形例:
<変形例1>
上述した実施形態では、複合セラミック層の電解質部の全周にわたって延出部が形成されている。これに対して、延出部は、電解質部の外周のうち、導体層が接触する部分だけに形成されていてもよい。このような構成であっても、導体層に亀裂や切断が生じることを抑制することができる。
【0057】
<変形例2>
上述した実施形態では、絶縁部に形成された貫通孔の第1絶縁面側における側端部が円弧状であるものとしたが、傾斜状であってもよい。
【0058】
本発明は、上述の実施形態や変形例に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現することができる。例えば、発明の概要の欄に記載した各形態中の技術的特徴に対応する実施形態や変形例の技術的特徴は、上述の課題の一部又は全部を解決するために、あるいは、上述の効果の一部又は全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。