(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
コレステロール30%(w/w)以上及びスフィンゴミエリンを含み、場合によりホスファチジルコリンを含み、非脂質表面を覆う、脂質二重層又は脂質単分子層であって、細菌感染症の処置又は予防に使用するための脂質二重層又は脂質単分子層(但し、薬物を封入する態様を除く)。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】コレステロールとスフィンゴミエリンから構成されるリポソームは、コレステロール依存性細胞溶解毒素、α−ヘモリシンおよびホスホリパーゼCから単球を防御する。A〜D)コレステロールを、PC(3)、Sm(4)またはPS(5)と組み合わせて含むがPE(6)とは組み合わせなかったリポソーム(1:1w/w混合物)は、コレステロール依存性細胞溶解毒素:ニューモリシンO(A)、ストレプトリジンO(B)、テタノリジン(C)から並びにホスホリパーゼC(D)からTHP−1細胞を防御した。E)コレステロールを、Sm(4)と組み合わせて含むがPC(3)、PS(5)またはPE(6)とは組み合わせなかったリポソーム(1:1w/w)は、α−ヘモリシンからTHP−1細胞を防御した。F)コレステロールを含まないリポソーム(7〜9)は無効であった。c(r.u.)=毒素(2)の非存在下で維持された細胞数に対する、毒素(1、3〜9)の存在下で維持された細胞数は、相対単位(r.u.)で示される。PLY=ニューモリシンO;SLO=ストレプトリジンO;TL=テタノリジン;PLC=ホスホリパーゼC;HML=α−ヘモリシン;1=対照(リポソームを含まない);2=対照(毒素を含まない);3=Ch:PC(1:1w/w)リポソーム;4=Ch:Sm(1:1w/w)リポソーム;5=Ch:PS(1:1w/w)リポソーム;6=Ch:PE(1:1w/w)リポソーム;7=PC:Sm(1:1w/w)リポソーム;8=Smリポソーム;9=PCリポソーム。Ch=コレステロール;PC=ホスファチジルコリン:PS=ホスファチジルセリン;Sm=スフィンゴミエリン;PE=ホスファチジルエタノールアミン。
【
図2】コレステロールとスフィンゴミエリン(1:1w/w)から構成されるリポソームは、コレステロール依存性細胞溶解毒素からμgの量で単球を防御し、25〜100μgのリポソームが、黄色ブドウ球菌のα−ヘモリシンおよびClostridium perfringensのホスホリパーゼCに対する防御に必要とされる。A)0.2μgのPLYに対する防御。B)0.4μgのSLOに対する防御。C)0.2μgのTLに対する防御。D)1.2μgのHMLに対する防御。E)4.5μgのPLCに対する防御。c(r.u.)=相対単位で示される、毒素の非存在下で維持された細胞数に対する、毒素の存在下で維持された細胞数。X軸:LP(mkg)=リポソームの量(μg)。PLY=ニューモリシンO;SLO=ストレプトリジンO;TL=テタノリジン;HML=α−ヘモリシン;PLC=ホスホリパーゼC。
【
図3】ニューモリシン、テタノリジンまたはα−ヘモリシンから単球を防御するために、30%(w/w)を超える濃度のコレステロールが、コレステロールとスフィンゴミエリンから構成されるリポソームに必要とされる。A)0.2μgのPLYに対する防御。B)0.2μgのTLに対する防御。C)1.2μgのHMLに対する防御。c(r.u.)=相対単位で示される、毒素の非存在下で維持された細胞数に対する、毒素の存在下で維持された細胞数。Ch(%)=コレステロールとスフィンゴミエリンから構成されるリポソーム中のコレステロール%(w/w)。PLY=ニューモリシン;TL=テタノリジン;HML=α−ヘモリシン。
【
図4】コレステロールとスフィンゴミエリンから構成されるリポソームは、コレステロール依存性細胞溶解毒素と黄色ブドウ球菌のα−ヘモリシンの組合せから単球を防御する。A)Ch:Sm(1:1 w/w)リポソーム(6)は、α−ヘモリシン(HML;1.2μg)、ストレプトリジンO(SLO;0.4μg)およびテタノリジン(TL;0.2μg)の組合せ作用に対して完全な防御的効果を発揮し、一方、Ch:PC(1:1 w/w)リポソームは無効であった(7)。c(r.u.)=相対単位での、毒素(1)の非存在下で維持された対照細胞数に対する、毒素(2〜7)の存在下で維持された細胞数。1=対照(毒素を含まない);2=SLO、リポソームを含まない;3=TL、リポソームを含まない;4=HML、リポソームを含まない;5=SLO+TL+HML、リポソームを含まない;6=SLO+TL+HML、Ch:Smリポソーム;7=SLO+TL+HML、Ch:PCリポソーム。Ch=コレステロール;PC=ホスファチジルコリン;Sm=スフィンゴミエリン。B)HML(1.2μg)、SLO(0.4μg)およびTL(0.2μg)の組合せ作用に対する完全な防御的効果は、Ch:Sm(1:1 w/w)から構成される25μgのリポソームで観察された。LP(mkg)=リポソームの量(μg)。C)遠心分離実験により、3つ全ての毒素がCh:Sm(1:1 w/w)リポソームに直接結合することが確認された。毒素を、Ch:Smリポソームと共に(6)またはその非存在下で(2〜5)プレインキュベーションした。遠心分離後、上清を細胞に加えた。1=対照(毒素を含まない);2=SLO、リポソームを含まない;3=TL、リポソームを含まない;4=HML、リポソームを含まない;5=SLO+TL+HML、リポソームを含まない;6=SLO+TL+HML、Ch:Smリポソーム。
【
図5】コレステロールとスフィンゴミエリン(1:1 w/w)から構成されるリポソームは、化膿性連鎖球菌の毒素から単球を防御する。A、B)THP−1細胞をBHIブロスの存在下で増殖させる((A)の四角形;点線)。5つの化膿性連鎖球菌株(GAS1〜5=臨床単離株;全てBHIブロス中で増殖)の培養上清はTHP−1細胞を効果的に死滅させたが(三角形)、前記細胞は、連鎖球菌の毒素の作用から、コレステロールとスフィンゴミエリンから構成されるリポソームによって防御された(円形)。10
5c=細胞数×10
5。t(d)=処置後の時間(日数)。C)コレステロールとスフィンゴミエリンから構成されるリポソームは、化膿性連鎖球菌の培養上清からμgの量で単球を防御する。c(%)=細菌培養上清の非存在下で維持された細胞(100%)に対する、細菌培養上清の存在下で維持された細胞%。LP(mkg)=リポソームの量(μg)。
【
図6】スフィンゴミエリンのみのリポソームと組み合わせた、コレステロールとスフィンゴミエリン(1:1 w/w)から構成されるリポソームは、肺炎連鎖球菌の毒素から単球を防御する。A、B)THP−1細胞をBHIブロスの存在下で増殖させる(四角形)。2つの肺炎連鎖球菌株(Pneumo1=臨床単離株、Pneumo2=D39株;どちらもBHIブロス中で増殖)の培養上清は、THP−1細胞を効果的に死滅させたが(三角形)、前記細胞は、肺炎連鎖球菌の毒素の作用から、コレステロールとスフィンゴミエリン(1:1 w/w)から構成されるリポソームによって一部防御された(円形)。10
5c=細胞数×10
5。t(d)=処置後の時間(日数)。C)コレステロール含有リポソームとコレステロール非含有でスフィンゴミエリンのみのリポソームとの混合物は、肺炎連鎖球菌の毒素に対して完全に防御した。グラフは、一定(400μg)量のコレステロール:スフィンゴミエリン(1:1 w/w)リポソームと可変量(0〜400μg)のスフィンゴミエリンのみのリポソームから構成されるリポソーム混合物の防御効果を示す。c(r.u.)=上清の非存在下で維持された細胞数に対する、細菌培養上清の存在下で維持された細胞数は、相対単位(r.u.)で示される。Sm LP(mkg)=スフィンゴミエリンのみのリポソームの量(μg)。
【
図7】コレステロール:ホスファチジルコリンリポソーム(1:1 w/w)、およびコレステロール:ホスファチジルコリン(1:1 w/w)リポソームとスフィンゴミエリンリポソームの混合物は、黄色ブドウ球菌MRSA2040株によって分泌された毒素から単球を防御する。THP−1細胞をBHIブロスの存在下で増殖させる(四角形)。黄色ブドウ球菌の培養上清(BHIブロス中で増殖)は、リポソームの非存在下でTHP−1細胞を効果的に死滅させる(三角形)。(A)900μg(菱形)のコレステロール:ホスファチジルコリン(1:1 w/w)リポソームは細菌毒素に対して有意な防御をもたらすが、600μgではほんの僅かな防御しか観察されなかった(円形)。(B)完全な防御が、600μgのコレステロール:ホスファチジルコリン(1:1 w/w)リポソームと75μgのSmリポソームとの混合物で観察された(菱形)。単独で使用された900μgのSmリポソームは無効であった(円形)。10
5c=細胞数×10
5。t(d)=処置後の時間(日数)。
【
図8】コレステロール非含有スフィンゴミエリン含有リポソーム、およびコレステロール:ホスファチジルコリン(1:1 w/w)リポソームとスフィンゴミエリンのみのリポソームとの混合物は、黄色ブドウ球菌Doppelhof株によって分泌される毒素から単球を防御する。A、B)THP−1細胞をBHIブロスの存在下で増殖させる(四角形)。黄色ブドウ球菌の培養上清(BHIブロス中で増殖)は、リポソームの非存在下でTHP−1細胞を効果的に死滅させる(三角形)。(A)1200μg(菱形)のスフィンゴミエリンリポソームは、細菌毒素に対して有意な防御をもたらした。(B)600μgで使用した場合に、最も強力な防御が、スフィンゴミエリンとスフィンゴミエリン:ホスファチジルコリン(1:1 w/w)の混合物で観察され(菱形)、一方、スフィンゴミエリンリポソームのみ(円形)およびスフィンゴミエリン:ホスファチジルコリン(1:1 w/w)リポソームのみ(アステリスク形)は、より効果が低かった。C)コレステロール含有リポソームとコレステロール非含有でスフィンゴミエリンのみのリポソームとの混合物は、黄色ブドウ球菌Doppelhof株によって分泌される毒素から完全に防御した。グラフは、一定(600μg)量のコレステロール:ホスファチジルコリン(1:1 w/w)リポソームと可変量(0〜1200μg)のスフィンゴミエリンのみのリポソームから構成されるリポソーム混合物の防御効果を示す。10
5c=細胞数×10
5。t(d)=処置後の時間(日数)。c(r.u.)=上清の非存在下で維持された細胞数に対する、細菌培養上清の存在下で維持された細胞数は、相対単位(r.u.)で示される。Sm LP(mkg)=スフィンゴミエリンのみのリポソームの量(μg)。
【
図9】コレステロール:スフィンゴミエリン(1:1 w/w)リポソームと、スフィンゴミエリンのみのリポソームと、スフィンゴミエリン:ホスファチジルコリン(1:1 w/w)リポソームと、コレステロール:ホスファチジルコリン(1:1 wt/wt)リポソームの4成分の混合物は、黄色ブドウ球菌のDoppelhof株およびMRSA2040株の両方によって分泌される毒素から単球を防御する。THP−1細胞をBHIブロスの存在下で増殖させる(四角形)。黄色ブドウ球菌のMRSA2040株(A)またはDoppelhof株(B)の培養上清(BHIブロス中で増殖)は、リポソームの非存在下でTHP−1細胞を効果的に死滅させるが(三角形)、前記細胞は、1200μgの4成分のリポソーム混合物(1:1:1:1)によって、MRSA2040毒素(A)またはDoppelhof毒素(B)のいずれかから完全に防御される。10
5c=細胞数×10
5。t(d)=処置後の時間(日数)。
【
図10】リポソームは、黄色ブドウ球菌による菌血症から、肺炎連鎖球菌による肺炎から、および肺炎連鎖球菌による菌血症からマウスを防御する。A)実験マウスに、致死量の黄色ブドウ球菌のDoppelhof株を静脈内注射した。細菌の注射から1、5および24時間後、マウスに、25〜50μlの通常の食塩水(菱形)、または25μl(1mg)のコレステロール:スフィンゴミエリン(1:1 w/w)リポソーム(四角形)、または50μl(2mg)のコレステロール:スフィンゴミエリン(1:1 w/w)リポソーム+スフィンゴミエリンのみのリポソーム+スフィンゴミエリン:ホスファチジルコリン(3:1 w/w)リポソームの1:2:2混合物(三角形)のいずれかを注射した。B)マウスに、肺炎連鎖球菌D39株を鼻腔内に感染させた。細菌の注射から30分後、マウスは、50μlの通常の食塩水の注射(菱形)、または50μl(2mg)のコレステロール:スフィンゴミエリン(1:1 w/w)リポソーム+コレステロール:ホスファチジルコリン(1:1 w/w)リポソーム+スフィンゴミエリンのみのリポソーム+スフィンゴミエリン:ホスファチジルコリン(3:1 w/w)リポソームの1:1:1:1混合物の1回の鼻腔内注射(三角形)のいずれかを受けた。C)マウスに、致死量の肺炎連鎖球菌D39株を静脈内に注射した。細菌の注射から8および12時間後、マウスは、75μl/注射(3mg)の以下のリポソームを受けた:1)コレステロール:スフィンゴミエリン(1:1 w/w)リポソーム+スフィンゴミエリンのみのリポソームの1:1混合物(三角形);2)コレステロール:スフィンゴミエリン(1:1 w/w)リポソーム(四角形);3)スフィンゴミエリンのみのリポソーム(円形)または4)通常の食塩水(菱形)。S(%)=生存マウスの比率。t(d)=感染後の時間(日数)。
【0010】
発明の詳細な説明
膜標的化毒素に対するインビボの親和性よりも高い親和性を有するように工学操作されているので、吸入または静注または点滴された空リポソームおよびリポソーム混合物は、感染患者の血中または気道に存在している細菌毒素に対する檻として作用して、新規な抗細菌毒素捕捉療法への道を開拓する。
【0011】
本発明は、細菌感染症、特に菌血症、髄膜炎、細菌皮膚感染、呼吸器感染、例えば肺炎、および腹部感染症、例えば腹膜炎の処置および予防のための、規定の脂質組成の空リポソームまたは規定の脂質組成の空リポソームの混合物の使用に関する。
【0012】
本発明のリポソームは、空リポソーム、すなわち抗生物質または他の薬物を封入していないリポソームである。それらは、所望であれば、薬物を運ぶ公知または新規のリポソームと組み合わせて使用され得る。
【0013】
本研究は、正確に規定された脂質組成の人工リポソームまたは正確に規定された脂質組成のリポソーム混合物が、精製された膜孔形成毒素およびホスホリパーゼCを効率的に捕捉し、それにより、標的細胞へのその結合を妨げることを示す。結果として、リポソームまたはその混合物の適用は、肺炎連鎖球菌、化膿性連鎖球菌および黄色ブドウ球菌の精製された毒素または培養上清の適用によって誘発される培養上皮細胞および単球の溶解を防ぎ、実験的に誘発された菌血症または肺炎に起因する死亡から実験マウスを防御する。
【0014】
本発明は、細菌感染症の処置および予防のための、規定された脂質組成の空リポソームか、規定された脂質組成の空リポソームの混合物かの使用に関する。
【0015】
本発明はさらに、細菌感染症の処置および予防に使用するための、非脂質表面を覆う、規定された脂質組成の脂質二重層または脂質単分子層に関する。考えられる非脂質表面は、例えば、医療器具、生分解性ビーズおよびナノ粒子である。
【0016】
考えられるリポソームは、ステロール、スフィンゴ脂質およびグリセロ脂質の群から選択された、特
にコレステロール、スフィンゴミエリン、セラミド、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、ジアシルグリセロール、および
、4個以上の炭素原子かつ28個以下の炭素原子の1個(リゾ−)または2個(ジアシル−)の飽和または不飽和脂肪酸を含むホスファチジン酸からなる群より選択された、脂質またはリン脂質を含む20nm〜10μm、好ましくは20〜500nmの人工リポソームである。
【0017】
考えられる脂質二重層または脂質単分子層の組成は、リポソームについて示されているのと同じである。
【0018】
4〜28個の炭素原子を含む脂肪酸は、例えば、飽和鎖状アルカンカルボン酸、好ましくは12〜26個の炭素原子のような偶数の炭素原子を有するもの、例えばラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキドン酸もしくはベヘン酸、あるいは不飽和鎖状アルケンカルボン酸、好ましくは偶数の12〜26個の炭素原子およびトランスまたは好ましくはシスの立体配置で1個、2個またはそれ以上、好ましくは6個以下の二重結合を有するもの、例えばオレイン酸、リノール酸、α−リノール酸、アラキドン酸、またはエルカ酸である。
【0019】
空リポソームは、本発明に考えられるリポソームが、抗生物質または他の薬物を組み入れていないことを意味する。本明細書において使用される「組み入れられた」は、リポソームの内腔中に、リポソームの潜在的な二重層内に、またはリポソームの膜層の一部として封入されていることを意味する。本明細書において使用されるリポソームはまた、抗体および単糖またはオリゴ糖などの結合剤で修飾されたリポソーム、例えば糖脂質のリポソームなどは除外する。しかしながら、ポリエチレングリコール(PEG)で修飾されたリポソームは、本発明の一部と考えられる。PEGは、リポソームの循環時間を改変させることが知られている。
【0020】
特に、本発明は、細菌感染症の処置および予防のための、コレステロールとスフィンゴミエリンを含む空リポソーム、並びに、コレステロールとスフィンゴミエリンまたはホスファチジルコリンとスフィンゴミエリンを含む空リポソームと、規定の脂質の組成の他の空リポソーム、例えばステロール、スフィンゴ脂質およびグリセロ脂質からなる群より選択された、特に
、コレステロール、スフィンゴミエリン、セラミド、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、ジアシルグリセロール、および
、4個以上の炭素原子かつ28個以下の炭素原子の1個または2個の飽和または不飽和脂肪酸を含むホスファチジン酸からなる群より選択された
、脂質またはリン脂質を含むリポソームとの混合物の使用に関する。
【0021】
1つの態様において、本発明は、細菌感染症の処置および予防のための、スフィンゴミエリンと30%(w/w)以上のコレステロールを含む空リポソーム、並びに、スフィンゴミエリンと30%(w/w)以上のコレステロールを含む空リポソームと、本明細書において定義された他の空リポソームとの混合物の使用に関する。特に、本発明は、細菌感染症の処置および予防のための、スフィンゴミエリンと30%(w/w)以上のコレステロールからなる空リポソーム、並びに、スフィンゴミエリンと30%(w/w)以上のコレステロールからなる空リポソームと、本明細書において定義された他の空リポソームとの混合物の使用に関する。より特定すると、本発明は、細菌感染症の処置および予防のための、スフィンゴミエリンと、35%〜65%(w/w)のコレステロール、好ましくは40%〜60%55%(w/w)のコレステロール、特に45%〜55%(w/w)のコレステロール、例えば約50%(w/w)のコレステロールとからなる空リポソーム、並びに、スフィンゴミエリンと、35%〜65%、または40%〜60%55%、または45%〜55%、例えば約50%(w/w)のコレステロールとからなる空リポソームと、本明細書において定義された他の空リポソームとの混合物の使用に関する。
【0022】
特定の態様において、本発明は、細菌感染症の処置および予防のための、コレステロールとスフィンゴミエリンを含む、または、からなる、空リポソームと、スフィンゴミエリンを含む、または、からなる、他の空リポソームとのリポソーム混合物の使用に関する。
【0023】
別の態様において、本発明は、細菌感染症の処置および予防のための、ホスファチジルコリンおよびスフィンゴミエリンを含む、または、からなる、空リポソームと、本明細書において定義された他の空リポソームとのリポソーム混合物の使用に関する。特に、本発明は、細菌感染症の処置および予防のための、ホスファチジルコリンおよびスフィンゴミエリンを含む、または、からなる、空リポソームと、スフィンゴミエリンを含む、または、からなる他の空リポソームとのリポソーム混合物の使用に関する。
【0024】
特定の態様において、本発明は、細菌感染症の処置および予防のための、コレステロールおよびスフィンゴミエリンを含む、または、からなる、空リポソームと、ホスファチジルコリンおよびスフィンゴミエリンを含む、または、からなる、他の空リポソームと、スフィンゴミエリンからなる空リポソームとの3成分のリポソーム混合物の使用に関する。
【0025】
さらに別の特定の態様において、本発明は、細菌感染症の処置および予防のための、コレステロールおよびスフィンゴミエリンを含む、または、からなる、空リポソームと、ホスファチジルコリンおよびスフィンゴミエリンを含む、または、からなる、他の空リポソームと、スフィンゴミエリンからなる空リポソームと、コレステロールおよびホスファチジルコリンを含む、または、からなる、空リポソームとの4成分のリポソーム混合物の使用に関する。
【0026】
考えられる脂質二重層または脂質単分子層の特定の組成は、好ましくはコレステロールおよびスフィンゴミエリンと、場合により、ホスファチジルコリンとを含むリポソームについて示されているのと同じである。
【0027】
上記で定義された空リポソームと、上記で定義された空リポソームの混合物と、脂質二重層または脂質単分子層とは、さらに他の化合物と一緒に使用され得ることが理解される。例えば、標準的な薬学的組成物を調製するための成分を加えることが可能である。また、薬物または薬物様化合物を加えること、あるいは薬物または薬物様化合物をリポソーム内部に組み入れたさらなるリポソームを加えることが考えられる。
【0028】
考えられる薬物は、特に、抗生物質である。このような抗生物質は、例えば、カルバペネム系抗生物質、例えばイミペネム/シラスタチン、メロペネム、エルタペネムおよびドリペネム;第一世代セファロスポリン系抗生物質、例えばセファドロキシルおよびセファレキシン;第二世代セファロスポリン系抗生物質、例えばセフロキシム、セファクロルおよびセフプロジル;第三世代セファロスポリン系抗生物質、例えばセフタジジム、セフトリアキソン、セフィキシム、セフジニル、セフジトレン、セフォタキシム、セフポドキシムおよびセフチブテン;第四世代セファロスポリン系抗生物質、例えばセフェピム;第五世代セファロスポリン系抗生物質、例えばセフタロリンフォサミルおよびセフトビプロール;グリコペプチド系抗生物質、例えばバンコマイシン、テイコプラニンおよびテラバンシン;マクロライド系抗生物質、例えばクラリスロマイシン、アジスロマイシン、ジリスロマイシン、エリスロマイシン、ロキシスロマイシン、トロレアンドマイシン、テリスロマイシン、スペクチノマイシンおよびスピラマイシン;ペニシリン系抗生物質、例えばアモキシシリン、フルクロキサシリン、オキサシリン、カルベニシリンおよびピペラシリン;ペニシリン合剤、例えばアモキシシリン/クラブラン酸、ピペラシリン/タゾバクタム、アンピシリン/スルバクタム、およびチカルシリン/クラブラン酸;キノロン系抗生物質、例えばシプロフロキサシン(例えばAradigm社のリポソーム化シプロフロキサシン)およびモキシフロキサシン;マイコバクテリアに対する薬物、例えばリファンピシン(米国ではリファンピン)、クロファジミン、ダプソン、カプレオマイシン、サイクロセリン、エサンブトール、エチオナミド、イソニアジド、ピラジナミド、リファブチン、リファペンチンおよびストレプトマイシン;他の抗生物質、例えばメトロニダゾール、アルスフェナミン、クロラムフェニコール、ホスホマイシン、フシジン酸、リネゾリド、ムピロシン、プラテンシマイシン、キヌプリスチン/ダルホプリスチン、リファキシミン、チアムフェニコール、チゲサイクリンおよびチニダゾール;アミノグリコシド系抗生物質、例えばアミカシン、ゲンタマイシン、カナマイシン、ネオマイシン、ネチルマイシン、トブラマイシン(例えばAxentis社のfluidosomes(登録商標)トブラマイシン)およびパロモマイシン;スルホンアミド系抗生物質、例えばマフェニド、スルホンアミドクリソイジン、スルファセタミド、スルファジアジン、スルファジアジン銀、スルファメチゾール、スルファメトキサゾール、スルファニルアミド、スルファサラジン、スルフィソキサゾール、トリメトプリム、およびトリメトプリム−スルファメトキサゾール(コトリモキサゾール、TMP−SMX);テトラサイクリン系抗生物質、例えばデメクロサイクリン、ドキシサイクリン、ミノサイクリン、オキシテトラサイクリンおよびテトラサイクリン;リンコサミド系抗生物質、例えばクリンダマイシンおよびリンコマイシン;並びにリポペプチド系抗生物質、例えばダプトマイシンである。
【0029】
考えられるさらに他の薬物は、抗癌剤、例えば硫酸ビンクリスチン、ビンクリスチン、シタラビン、ダウノルビシンおよびドキソルビシンである。
【0030】
考えられるさらに他の薬物は、抗炎症薬、例えば副腎皮質ステロイド(糖質コルチコイド)、例えばヒドロコルチゾン(コルチゾール)、コルチゾン、プレドニゾン、プレドニゾロン、メチルプレドニゾロン、デキサメタゾン、ベタメタゾン、トリアムシノロン、ベクロメタゾン、酢酸フルドロコルチゾン、酢酸デオキシコルチコステロン(DOCA)、アルドステロン、ブデソニド、デソニドおよびフルオシノニド;非ステロイド系抗炎症薬、例えばサリチル酸、例えばアスピリン(アセチルサリチル酸)、ジフルニサルおよびサルサレート;プロピオン酸誘導体、例えばイブプロフェン、デキシブプロフェン、ナプロキセン、フェノプロフェン、ケトプロフェン、デクスケトプロフェン、フルルビプロフェン、オキサプロジンおよびロキソプロフェン;酢酸誘導体、例えばインドメタシン、トルメチン、スリンダク、エトドラク、ケトロラック、ジクロフェナクおよびナブメトン;エノール酸(オキシカム)誘導体、例えばピロキシカム、メロキシカム、テノキシカム、ドロキシカム、ロルノキシカムおよびイソキシカム;フェナム酸誘導体(フェナム酸)、例えばメフェナム酸、メクロフェナム酸、フルフェナム酸およびトルフェナム酸;選択的COX−2阻害剤(コキシブ)、例えばセレコキシブ;並びにその他、例えばリコフェロンである。
【0031】
考えられるさらに他の薬物は、昇圧剤および血管収縮剤、例えばバソプレシン、オキシメタゾリン、フェニレフリン、プロピルヘキセドリン、プソイドエフェドリン、エピネフリン、ノルエピネフリン、ドーパミンおよび抗ヒスタミン剤である。
【0032】
また考えられるのは、他の種類の薬物、例えばパラセタモール(鎮痛剤)、アムホテリシンB(真菌感染に対する)、ブピバカイン(術後の疼痛制御)、A型肝炎、インフルエンザ、破傷風、侵襲的なMRSA、百日咳、ジフテリア、髄膜炎菌、コレラ、チフス、炭疽菌、肺炎球菌(例えばプレブナー13(登録商標))に対するワクチン、および他の抗菌ワクチン、モルヒネ(鎮痛剤)、ベルテポルフィン(眼科疾患)、エストラジオール(更年期障害)、aganocide(登録商標)化合物、例えばauriclosene(NVC−422、N,N−ジクロロ−2,2−ジメチルタウリン(抗菌剤))、ワクチンとして特異的な脂質細菌性抗原、例えば細菌模倣粒子を含むM Bio Technology社のリポソーム粒子(肺炎を含むマイコプラズマ感染)およびバクテリオファージである。
【0033】
考えられるさらに他の薬物は、抗毒素、例えば破傷風抗毒素、例えば破傷風免疫グロブリン、ナノスポンジ、ポリマー性ナノ粒子、宿主細胞膜(例えば赤血球膜)によって囲まれた生物模倣型ポリマー性ナノ粒子コア、毒素を標的化するモノクローナル抗体および抗体フラグメント、特定の毒素産物を阻害する天然化合物、細菌毒素分泌系の阻害剤、例えばT3SS阻害剤、毒素結合ムチン型融合タンパク質、毒素を中和するためのデコイとして作用する可溶性T細胞レセプター、並びに毒素の処理を阻害するペプチドである。
【0034】
さらに、本発明は、規定の脂質組成の空リポソームの新規混合物に関する。特に、本発明は、細菌感染症の処置および予防のための、コレステロールおよびスフィンゴミエリンか、ホスファチジルコリンおよびスフィンゴミエリンかを含む空リポソームと、規定の脂質組成の他の空リポソーム、例えば、ステロール、スフィンゴ脂質およびグリセロ脂質の群から選択された、特に
、コレステロール、スフィンゴミエリン、セラミド、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、ジアシルグリセロール、および
、4個以上の炭素原子かつ28個以下の炭素原子の1個または2個の飽和または不飽和脂肪酸を含むホスファチジン酸からなる群より選択された
、脂質またはリン脂質を含むリポソームとの混合物に関する。
【0035】
考えられる特定の混合物は、スフィンゴミエリンおよびコレステロールを含む、または、からなる、空リポソームと、本明細書において定義された他の空リポソームとの混合物、例えば、コレステロールとスフィンゴミエリンを含むまたはからなる空リポソームと、スフィンゴミエリンを含むまたはからなる他の空リポソームとの混合物である。
【0036】
考えられる他の特定の混合物は、ホスファチジルコリンおよびスフィンゴミエリンを含む、または、からなる、空リポソームと、本明細書において定義された他の空リポソームとの混合物、例えば、ホスファチジルコリンおよびスフィンゴミエリンを含む、または、からなる、空リポソームと、スフィンゴミエリンを含む、または、からなる、他の空リポソームとの混合物である。
【0037】
考えられる他の特定の混合物は、コレステロールおよびスフィンゴミエリンを含む、または、からなる、空リポソームと、ホスファチジルコリンおよびスフィンゴミエリンを含む、または、からなる、他の空リポソームと、スフィンゴミエリンからなる空リポソームとの3成分のリポソーム混合物である。
【0038】
考えられるさらに特定の混合物は、コレステロールおよびスフィンゴミエリンを含む、または、からなる、空リポソームと、ホスファチジルコリンおよびスフィンゴミエリンを含む、または、からなる、他の空リポソームと、スフィンゴミエリンからなる空リポソームと、コレステロールおよびホスファチジルコリンを含む、または、からなる、空リポソームとの4成分のリポソーム混合物である。
【0039】
リポソーム内の成分は、リポソームを形成する傾向、組成の異なるリポソームの安定性、および目的の用途に依存して、異なる量で存在し得る。例は、およそ1:1、2:1、3:1、4:1または5:1(重量基準)の組成の2成分からなるリポソームである。さらなる成分は、約10、20または25%(w/w)の量で混合され得る。
【0040】
本発明の好ましいリポソームにおいて、コレステロールは、30〜70%、好ましくは40〜60%、例えば45〜55%、特に約50%(w/w)の量で存在し、ホスファチジルコリンは、10〜60%、好ましくは20〜60%、好ましくは40〜60%、例えば45〜55%、より好ましくは約50%(w/w)の量で存在し;スフィンゴミエリンは、10〜100%、好ましくは20〜60%または100%、好ましくは40〜60%、例えば45〜55%、より好ましくは約50%(w/w)または100%の量で存在し、コレステロール:スフィンゴミエリンの比は、5:1から1:2、好ましくは2:1から1:2、特におよそ1:1(w/w)であり、コレステロール:ホスファチジルコリンまたはホスファチジルコリン:スフィンゴミエリンの比は、5:1から1:5、好ましくは2:1から1:2、特におよそ1:1(w/w)である。
【0041】
リポソーム混合物中の、異なる組成を有する個々のリポソーム成分は、処置の必要性によって規定される比率で混合される。例は、2成分混合物については、およそ1:1、2:1、または3:1(w/w)であり;3成分混合物についてはおよそ1:1:1、2:1:1、または2:2:1(w/w)であり;4成分混合物についてはおよそ1:1:1:1、2:1:1:1、2:2:1:1、または2:2:2:1(w/w)である。
【0042】
考えられるリポソームは、1つ以上のリン脂質二重層からなる。好ましいのは、大型ユニラメラ小胞(LUV)および多重ラメラ小胞(MLV)である。最も好ましいのは、小型ユニラメラ小胞(SUV)である。
【0043】
リポソームは、当技術分野において公知である押し出し法または超音波法または顕微溶液化法(例えば高圧のホモジナイゼーション)に従って製造される。例えば、脂質を、クロロホルムなどの有機溶媒中で混合する。クロロホルムを蒸発させ、乾燥脂質フィルムを、通常の食塩水(0.9%NaCl)、クレブス液またはタイロード液などの水溶液中で水和させ、さらに超音波にかけてリポソームを産生する。必要であれば、リポソームのサイズを、一定の孔径の膜フィルターを通して押し出すことによって制御することができる。異なる脂質組成を有する個々に産生されたリポソームを、適用直前に必要とされる比率で混合する。
【0044】
上皮細胞は、病原体に対する物理的障壁を構成する。人工リポソームは、ストレプトリジンO(SLO)によって誘発される溶解から、ヒト胚腎(HEK293)上皮細胞を防御することができる。形質膜内に形成されたSLO膜孔は、100kDaまでの分子量を有する細胞質タンパク質の流出を引き起こすのに十分な大きさである。SLOがコレステロール含有リポソームに直接結合することが、リポソームを毒素と共にプレインキュベーションし、その後、遠心分離にかけることによって確認された。遠心分離後、ペレット中に回収されたリポソームを廃棄し、リポソームを含まない上清を細胞に加えた。上清は、曝された細胞に全く傷害を与えず、このことは、前記毒素が、リポソームに結合することに因り、溶液から効果的に除去されたことを示唆する。
【0045】
リポソームは、多種多様な膜孔形成毒素(PFT)から、上皮細胞を防御しただけでなく、自然免疫系の細胞も防御した。THP−1ヒト単球細胞系の増殖に対するPFTの作用を、種々の脂質組成のリポソームの存在下または非存在下で評価した。THP−1細胞の増殖は、200ngのニューモリシン(PLY)、400ngのストレプトリジンO(SLO)、200ngのテタノリジン(TL)、1.2μgの黄色ブドウ球菌のα−ヘモリシン(HML)、または4.5μgのClostridium perfringensホスホリパーゼCの存在下で完全に阻害された。
図1A〜Dに示されているように、コレステロールをホスファチジルコリン(PC)、スフィンゴミエリン(Sm)またはホスファチジルセリン(PS)のいずれかと組み合わせて含むが(1:1 w/w)、ホスファチジルエタノールアミン(PE)とは組み合わせていないリポソームは、コレステロール依存性細胞溶解毒素(PLY、SLO、TL)またはホスホリパーゼC(PLC)からTHP−1細胞を防御し、一方、コレステロールを全く含まないリポソームは無効であった(
図1F)。
【0046】
これに対し、Ch:PCリポソーム(1:1 w/w)およびCh:PSリポソーム(1:1 w/w)は、小型膜孔形成毒素の群に属する、黄色ブドウ球菌のα−ヘモリシンに対して全く防御的な効果を示さなかった(
図1E)。コレステロールを全く含まないリポソームもまた無効であった(
図1F)。しかしながら、Ch:Sm(1:1 w/w)を含むリポソームは、α−ヘモリシンに対して完全に防御的な効果を発揮することができた(
図1E)。従って、コレステロールとスフィンゴミエリンから構成されたリポソームのみが、あらゆる試験された毒素から、THP−1細胞を防御することができた。
【0047】
図2は、Ch:Sm(1:1 w/w)リポソームの完全な防御的効果は、200ngのPLYに対しては3μgで;400ngのSLOに対しては1.5μgで;200ngのTLに対しては3μgで;1.2μgのHMLに対しては25〜50μgで、4.5μgのPLCに対しては100μgで観察されたことを示す。
【0048】
図3は、Ch:Smリポソームには、30%(w/w)以上の濃度のコレステロールが、PLY、TLまたはHMLから単球を防御するために必要とされたことを実証する。最大の防御は、50%(w/w)のコレステロールで観察され、これは、66mol%のコレステロールに相当する。
【0049】
コレステロールとスフィンゴミエリンから構成されたリポソームは、コレステロール依存性細胞溶解毒素またはα−ヘモリシンのいずれかから細胞を防御することができたので、これらのリポソームが、両方の毒素のクラスの組合せに対しても効果的であるかどうかが調べられた。実際に、25μgのCh:Sm(1:1 w/w)リポソームは、α−ヘモリシン(1.2μg)とSLO(400ng)とTL(200ng)の組合せ作用に対して完全に防御的な効果を発揮したが、Ch:PC(1:1 w/w)から構成されたリポソームは、効果を全く及ぼさなかった(
図4A、B)。遠心分離実験は、3つ全ての毒素が、Ch:Smリポソームに直接結合することを確認する(
図4C)。
【0050】
Ch:Smリポソームは、細菌病原体の臨床関連株によって分泌される全種類の毒素から、培養細胞を防御することができる。THP−1細胞の増殖を、溶解濃度の細菌培養上清の存在下およびリポソームの存在下または非存在下で評価した。
【0051】
図5A、Bにおいて示されているように、Ch:Sm(1:1 w/w)リポソームは、化膿性連鎖球菌によって分泌された毒素の作用から、細胞を防御した。化膿性連鎖球菌毒素(群)に対する完全な防御的効果は、μgの量のリポソームで観察された(
図5C)。これらの量は、溶解濃度の精製されたコレステロール依存性細胞溶解毒素の中和に必要とされる量に類似しているが、精製α−ヘモリシンまたは精製ホスホリパーゼCのいずれかの中和に必要とされる量よりもはるかに少なく(
図2)、このことは、コレステロール依存性細胞溶解毒素のみが、化膿性連鎖球菌の細胞溶解作用に関与していることを示唆する。
【0052】
Ch:Smリポソームはまた、肺炎連鎖球菌によって分泌された毒素の作用から細胞を防御した(
図6A〜C)。一方、コレステロール含有(1:1 w/w)リポソームではほんの僅かな防御しか達成されず(
図6A〜C)、コレステロール含有リポソーム(400μg)とコレステロール非含有でSmのみのリポソーム(400μg)との混合物は、この病原体に対して完全に防御的であった(
図6C)。
【0053】
黄色ブドウ球菌は、最も強力な抗生物質に対するその耐性から悪名高い。リポソームによる毒素捕捉は、この病原体に対してさえも防御を与える。Ch:Sm(1:1 w/w)リポソームは、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌株(MRSA2040)によって分泌された毒素に対してほんの僅かな防御しか示さなかった。類似の結果が、Ch:PC(1:1 w/w)リポソームについても得られ、900μgという多量のCh:PCリポソームが有意な防御を達成するのに必要とされ、一方、600μgのこれらのリポソームは、ほんの僅かな効果しか示さなかった(
図7A)。しかしながら、種々のリポソーム混合物の詳細な分析は、75μgという少量のスフィンゴミエリンのみのリポソームを、600μgのCh:PC(1:1 w/w)リポソームに添加することにより、この病原体に対する完全な防御が達成されることを実証した(
図7B)。Smリポソームは単独ではまたはPCリポソームは単独では、900μgという多量でも防御的な効果を全く有さなかった(
図7B)。
【0054】
リポソームによる処置はまた、敗血症患者から単離された黄色ブドウ球菌の臨床関連株「Doppelhof」に対しても効果的であった。Ch:Sm(1:1 w/w)リポソームもCh:PC(1:1 w/w)リポソームも、Smのみのリポソームとのその組合せも、MRSA2040株に対して防御的であった濃度で使用された場合に無効であった。しかしながら、種々のリポソーム組成物およびその組合せの防御的作用の詳細な分析は、MRSA2040株とは対照的に、Doppelhof株によって分泌された細胞溶解毒素が、Smのみのリポソームによって効果的に捕捉されたことを実証した(
図8A)。1200μgのSmリポソームは単独で、Doppelhof株に対して有意な防御を示したが、SmリポソームおよびSm:PCリポソームを含む混合物はより低い濃度で、同じ量のSmリポソームまたはSm:PCリポソームのいずれかよりも、より強力であった(
図8B)。コレステロール含有リポソーム(1:1 w/w;600μg)とコレステロール非含有でスフィンゴミエリンのみのリポソーム(1,200μg)との混合物は、黄色ブドウ球菌のDoppelhof株によって分泌された毒素に対して完全に防御的であった(
図8C)。
【0055】
従って、黄色ブドウ球菌または肺炎連鎖球菌は複数の細胞溶解毒素を分泌しているだけでなく、分泌された毒素の相対量も、種々の株間で有意に異なり、その完全な中和のために毒素との高親和性結合を達成するために、複合リポソーム混合物の使用が必要とされる。しかしながら、毒素−リポソーム相互作用の理想的ではない選択性に因り、リポソームの濃度が、その低親和性の毒素との結合を促進するのに十分に高い場合には、単一のリポソームを用いて有意な部分的な防御をすでに達成することができる。
【0056】
種々のリポソーム混合物の詳細な分析は、1,200μg(全脂質)のCh:Sm(1:1 w/w)リポソーム+Ch:PC(1:1 w/w)リポソーム+Smのみのリポソーム+Sm:PC(1:1 w/w)リポソームの1:1:1:1の混合物が、MRSA2040および黄色ブドウ球菌のDoppelhof株の両方に対する防御のために必要とされたことを実証した(
図9)。重要なことには、コレステロール含有リポソームの存在により、4成分混合物はまた、連鎖球菌毒素に対しても防御する(
図1〜5参照)。従って、4成分リポソーム混合物(1200μgの全脂質)は、連鎖球菌およびブドウ球菌の毒素の組合せ作用から、培養細胞を防御することができる。コレステロール含有リポソーム(50%w/wコレステロール)とスフィンゴミエリンのみのリポソームからなる2成分の混合物もまた、試験された全ての細菌培養上清に対して防御的であったが(
図6〜8)、僅かにより高い量(1,800μgの全脂質)のこの混合物が、黄色ブドウ球菌のDoppelhof株によって分泌された毒素に対する完全な防御のために必要とされた(
図8C)。
【0057】
試験された細菌種(肺炎連鎖球菌、黄色ブドウ球菌および化膿性連鎖球菌)は、菌血症などの生命を危うくする容態の発症を誘発またはその原因となることが知られている。好ましい3成分または4成分のリポソーム混合物は、実験的に誘発された菌血症または肺炎から、実験マウスを防御することができる。
【0058】
マウスに、敗血症患者からの臨床単離株である黄色ブドウ球菌のDoppelhof株の致死量を静脈内注射した。細菌の注射から1、5および24時間後、マウスに、通常の食塩水(対照)、1mg/注射のCh:Sm(1:1 w/w)リポソーム、または2mg/注射のCh:Sm(1:1 w/w)リポソームとSmのみのリポソームとSm:PC(1:1 w/w)リポソームの1:2:2の混合物のいずれかを静脈内注射した。どの対照マウスも7日目を超えて生存せず、死亡の90%が36時間以内に起こった(
図10A)。コレステロール−スフィンゴミエリンリポソームで処置されたマウスは、対照よりも2〜3日間より長く生き延びたが、菌血症後には回復しなかった。しかしながら、3成分のリポソーム混合物での処置により、8中6匹のマウスが完全に回復した。
【0059】
肺炎球菌性肺炎モデルにおいて、マウスに、肺炎連鎖球菌D39株を鼻腔内に感染させた。細菌の注射から30分後、マウスは、Ch:Sm(1:1 w/w)リポソーム+Ch:PC(1:1 w/w)リポソーム+Smのみのリポソーム+Sm:PC(3:1 w/w)リポソームの1:1:1:1の2mgの混合物の1回の鼻腔内注射を受けた。
図10Bは、リポソーム混合物が、肺炎に対する防御を与えたことを示す。
【0060】
肺炎球菌性菌血症モデルにおいて、マウスに、致死量の肺炎連鎖球菌D39株を静脈内注射した。細菌の注射から8および12時間後、マウスは、3mg/注射の以下のリポソームを静脈内に受けた:1)Ch:Sm(1:1 w/w)リポソーム+Smのみのリポソームの1:1混合物;2)Ch:Sm(1:1 w/w)リポソーム;3)Smのみのリポソームまたは4)通常の食塩水。
図10Cは、対照もSmのみのマウスも、32時間を超えて生存しなかったことを示す。しかしながら、Ch:Smリポソーム+Smのみのリポソームの混合物を受けた8中6匹のマウス、および、Ch:Smリポソームを受けた8中3匹のマウスは、菌血症の56時間後にも依然として生存していた。
【0061】
ブドウ球菌性菌血症に対するマウスの防御のために必要とされるリポソームの投与量(50〜150mg/kg)は、ラットへの抗生物質の静脈内送達のための担体として使用される場合には無毒性であることが知られている(400mg/kg;Bakker-Woudenberg I.A.J.M. et al., Antimicrobial Agents and Chemotherapy, 2001, 45:1487-1492)。さらに、脂肪酸の代謝機能障害に罹患している患者に静脈内点滴される、推奨用量の脂質乳剤(例えば「イントラリピッド」、「Lipovenos」)は、2.7g/kgの脂肪酸の他に、約300mg/kgの卵黄リン脂質;すなわち、本発明のリポソーム調製物に使用されるリン脂質を含む。従って、ヒト患者の細菌感染症の処置ためにリポソームを投与することは安全であり、リポソームは有害事象を惹起しないだろう。
【0062】
リポソームの毒素捕捉の効力を、さらに改善させることができる。本研究に使用されるリポソームは殆どが多重ラメラリポソームであり、それ故、少なくともその脂質含量の半分は、毒素との結合に利用不可能であるので、単ラメラリポソームの毒素捕捉能力は、少なくとも2倍高いことが予測される。二重層の脂質非混合を劇的に増強することが知られる、均一なアシル鎖を含む選択された合成脂質およびさらなる脂質種(例えばセラミド)から構成されるリポソームは、本研究に使用された天然脂質から製造されたリポソームよりも細菌毒素に対してより良好な標的を提供する。ホスファチジルエタノールアミンのPEG誘導体を使用して、リポソームの循環時間および従ってその効力を、同様に有意に増加させることができる。
【0063】
リポソームの脂質表面(二重層)は、水をベースとした溶媒中で自発的に形成され、それ故、リポソーム生成中に存在し得る水および他の水溶性無機および有機分子をリポソーム内に捕える。本研究で使用される空リポソームは、水および単純な有機または無機分子(例えばNaCl、KCl、MgCl
2、グルコース、HEPES、および/またはCaCl
2)を含む緩衝液中で産生されるリポソームである。しかしながら、複雑な有機分子(抗生物質、ビタミン、アジュバントおよびその他)も同様に、リポソーム生成中に含めることができる(リポソームにローディング)。これらの複雑な有機分子は、リポソームの毒素捕捉特性に干渉しないと予想されるが;それらは追加の治療効果を与えるだろう。
【0064】
本発明はさらに、本明細書で以前に記載されているような、規定の脂質組成の空リポソームまたは規定の脂質組成の空リポソームの混合物の治療有効量をそれを必要とする患者に投与することを含む、細菌感染症の処置に関する。
【0065】
同様に、本発明は、感染のリスクに曝された被験者に、防御に効果的である規定の脂質組成の空リポソームまたは規定の脂質組成の空リポソームの混合物の予防量を投与することを含む、細菌感染症の予防に関する。
【0066】
考えられる細菌感染症は、膜孔形成毒素およびホスホリパーゼを産生する細菌によって引き起こされた、例えばAeromonas hydrophila、Arcanobacterium pyogene、Bacillus thurgiensis、Bacillus anthracis、Bacillus cereus、Clostridium botulinum、Clostridium perfringens、Clostridium septicum、Clostridium sordellii、Clostridium tetani、Corynebacterium diphtheriae、Escherichia coli、Listeria monocytogenes、Pseudomonas aeruginosa、黄色ブドウ球菌(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)を含む)、肺炎連鎖球菌、化膿性連鎖球菌(A群連鎖球菌(GAS)としても知られる)、Streptococcus equisimilis、Streptococcus agalactiae、ブタ連鎖球菌、Streptococcus intermediusまたはVibrio choleraによって引き起こされた、呼吸器、消化管、尿生殖路、心臓血管、または皮膚の感染、並びに全身感染である。
【0067】
考えられるさらに他の細菌感染症は、上咽頭系、CNS系、髄膜、膣、骨(例えば骨髄炎)および関節、腎臓、骨格筋、外耳(例えば外耳炎)、および眼の感染、例えば感染性結膜炎、細菌性角膜炎、および眼内感染である。
【0068】
上記したようなリポソームを用いての処置のための標的として考えられる特定の細菌感染症は、菌血症、細菌感染皮膚病変、髄膜炎、呼吸器感染、例えば肺炎、および腹部感染症、例えば腹膜炎である。
【0069】
感染の処置または予防のために考えられる投与量は、1回の吸入/注射/点滴あたり1mgから300gのリポソーム(全脂質)を1日1回または数回、好ましくは100mgから10gを1日1〜3回である。HED(ヒトへの等価な投与量)は、ヒトにおいて100〜1000mg/m
2、好ましくは約300mg/m
2、または約8mg/kgである。
【0070】
リポソームは、呼吸器感染の処置のためにエアゾールとして投与され得る。本発明の空リポソームなどのリポソームからのエアゾールの調製は、当技術分野において公知である。例えば、リポソームの液体懸濁液を、定量噴霧式吸入器(MDI)すなわち特定量の薬物を気道または肺に送達する装置を用いて、患者によって短時間に大量に吸入されるエアゾール化薬物の形態で送達され得る。
【0071】
皮膚の細菌感染症の処置のために、本発明のリポソームの適用は、液体懸濁液などの局所薬学的組成物の形態であると考えられる。本発明の空リポソームなどのリポソームからの懸濁液の調製は、当技術分野において公知である。例えば、通常の食塩水または任意の他の水溶液中で調製されたリポソーム懸濁液を、皮膚に直接適用することができる。
【0072】
全身細菌感染症の処置のために、本発明の空リポソームは、静脈内、筋肉内または皮下注射の形態で適用される。例えば通常の無菌食塩水中のリポソーム懸濁液などの注射液は、当技術分野において公知の標準的な方法によって調製される。このような懸濁液は直接注射され得る。また、本発明のリポソームを、舌下または頬側適用に有用な製剤で適用することが考えられる。腹膜炎の処置のために、腹腔内適用が考えられる。点眼剤も眼の細菌感染症のために使用され得る。
【0073】
本発明の空リポソームは細菌毒素を捕捉し、従って、宿主の上皮への細菌の浸透またはその全身的な蔓延を防ぐ。このようにして、全身性疾患の発症は、防がれるかまたは遅延され得;病原体は、宿主の自然免疫系の細胞によって効果的に排除され得、前記免疫系は同様にリポソームによって毒素から防御される。
【0074】
リポソームそれ自体は、細胞障害性でもなく、殺菌性でもない。それ故、薬剤耐性菌の出現を促進するであろう抗菌薬選択圧を起こさないようである。本発明の空リポソームは、細菌毒素をおびき寄せるために、宿主細胞にすでに存在している構造を模倣している。それ故、細菌がリポソームの攻撃に適応するとは考えられない:リポソームに対するその毒素の親和性を減少させることによって罠を回避するためのあらゆる試みは、必然的に、宿主細胞に対しても同様に無効である毒素の出現をもたらす。
【0075】
リポソームをベースとした化学療法は、抗生物質療法および毒素捕捉抗体を用いての処置の両方にとって魅力的な代替選択肢である。
【0076】
本発明はまた、細菌感染症の標準的な抗生物質処置の前後、一緒にまたは平行して、治療量の空リポソームを、それを必要とする患者に投与することを含む、細菌感染症の処置に関する。感染の活動期中に活発に分泌される細菌毒素の中和とは別に、抗生物質による処置と組み合わせた、リポソームによる処置は、例えば肺炎連鎖球菌感染(ニューモリシンの急性放出)および化膿性連鎖球菌感染(ストレプトリジンOの急性放出)の髄膜炎の最中において有害であることが知られる容態である、抗生物質による処置中に溶菌した細菌によって放出される毒素を捕捉することによって、患者のためのさらなる利点を提供する。
【0077】
この組合せ処置において、空リポソームおよびリポソーム混合物は補助剤と考えられ得、対応する処置法は補助的処置と考えられ得る。
【0078】
リポソーム療法の限界は、免疫低下個体においてのその限定された効力である。なぜなら、細菌の排除は、化学療法剤によるのではなく、宿主自身の免疫系によるからである。しかしながら、免疫不全患者においてさえも、殺菌的な化学療法と組み合わせたリポソームによる処置は、全身性疾患の発症を減速させるのに有益であり、従って、抗生物質がその完全な殺菌能を展開するのを可能とするために必要とされる多くの時間を生物に与えるだろう。
【0079】
本発明に記載の空リポソームを使用する処置と共に考えられる抗生物質による処置は、例えば、上記に列挙したような、セファロスポリン系および他のβ−ラクタム系抗生物質、グリコペプチド系抗生物質、リンコサミド系抗生物質、リポペプチド系抗生物質、マクロライド系抗生物質、ペニシリン系抗生物質およびペニシリン合剤、キノロン系抗生物質、スルホンアミド系抗生物質、クロラムフェニコールおよびクロラムフェニコール類似体、テトラサイクリン系抗生物質、クリンダマイシン、および葉酸代謝拮抗剤を用いての処置である。本発明の空リポソームと共に処置に考えられる特定の抗生物質は、カルバペネム系抗生物質、例えばイミペネム、シラスタチンおよびメロペネム、第二世代のセファロスポリン系抗生物質、例えばセフロキシム、第三世代のセファロスポリン系抗生物質、例えばセフタジジムおよびセフトリアキソン、第四世代のセファロスポリン系抗生物質、例えばセフェピム、グリコペプチド系抗生物質、例えばバンコマイシン、マクロライド系抗生物質、例えばクラリスロマイシン、ペニシリン系抗生物質、例えばアモキシシリンおよびフルクロキサシリン、ペニシリン合剤、例えばアモキシシリン/クラブラン酸およびピペラシリン/タゾバクタム合剤、並びにキノロン系抗生物質、例えばシプロフロキサシンおよびモキシフロキサシン、並びにフルオロキノロン系抗生物質、例えばレボフロキサシンおよびゲミフロキサシンである。
【0080】
本発明の空リポソームの全成分が、ヒトに天然に存在する物質である。それ故、これらのリポソームは十分な耐容性があり、生理学的経路を介して生体から排除される。リポソームエアゾールは、季節性インフルエンザ流行中に一般集団によって肺炎および呼吸器の他の疾患の予防に使用されるべきである。最も重要なことには、リポソームエアゾールまたは他のリポソームの適用に基づいた予防措置は、院内におけるMRSA肺炎または菌血症、緑膿菌、黄色ブドウ球菌または肺炎連鎖球菌の感染の予防に、および感染症の蔓延に好適な他の設定において役立つだろう。
【0081】
実施例
毒素
化膿性連鎖球菌に由来するストレプトリジンO(SLO)、黄色ブドウ球菌に由来するα−ヘモリシン、Clostridium tetaniに由来するテタノリジン(TL)、およびClostridium perfringensに由来するホスホリパーゼCは、Sigmaから購入した。ニューモリシンは、Kadioglu教授から入手した(Cruse G. et al., J. Immunol. 2012; 184:7108-7115)。他の毒素としては、黄色ブドウ球菌に由来するPanton-Valentineロイコシジン(PVL)、Listeria monocytogenesに由来するリステリオリジンO(LLO)、Clostridium perfringensに由来するパーフリンゴリジンO(PFO)、S. suisに由来するスイリシン(suilysin、SLY)、S. intermediusに由来するインターメディリシン(intermedilysin、ILY)、B. cereusに由来するセレオリジンO(cereolysin O、CLO)、B. thuringiensisに由来するチューリンギオシンO(thuringiolysin O、TLO)、C. botulinumに由来するボツリノリジン(BLY)、C. sordelliに由来するソルデリリシン(SDL)、Arcanobacterium pyogenesに由来するピオリシン(PLO)が挙げられる。肺炎連鎖球菌、化膿性連鎖球菌および黄色ブドウ球菌由来の培養上清は、Muhlemann教授(ベルン)およびE. Gulbins(エッセン)から入手した。
【0082】
細胞培養
ヒト胚腎細胞株(HEK293)を、Monastyrskaya K et al., Cell Calcium. 2007, 41:207-219に記載されているように維持した。ヒト急性単球性白血病細胞株(THP−1)を、10%のFBS、2mMのL−グルタミンおよび100U/mlのペニシリン、100μg/mlのストレプトマイシンを含むRPMI1640培地中で維持した。
【0083】
トランスフェクション
CFP(シアン蛍光タンパク質)をHEK293細胞で一過性に発現させた(Monastyrskaya et al.,上記の文献と同じ)。CFP発現HEK293細胞を、トランスフェクションの2日後にレーザー走査モジュール(LSM)イメージング実験のために使用した。
【0084】
リポソーム
コレステロール(Ch)(C−8667)、ニワトリ卵黄に由来するスフィンゴミエリン(Sm)(S0756)、大豆に由来するホスファチジルコリン(PC)(P7443)、ウシ脳に由来するホスファチジルエタノールアミン(PE)(P9137)、およびウシ脳に由来するホスファチジルセリン(PS)ナトリウム塩(P5660)はSigmaから購入した。脂質をクロロホルム中に1mg/mlの濃度で個々に溶解し、−20℃で保存した。リポソームの調製のために、個々の脂質のクロロホルム溶液を、テキストに示されている組成および比率で混合して、通常50〜500μlの最終溶液を産生した。クロロホルムを60℃で20〜50分間かけて完全に蒸発させた。2.5mMのCaCl
2を含む50μlまたは100μlのタイロード緩衝液(140mMのNaCl、5mMのKCl、1mMのMgCl
2、10mMのグルコース、10mMのHEPES;pH=7.4)を、乾燥脂質のフィルムを含むチューブに加え、激しくボルテックスにかけた。脂質懸濁液を20〜30分間45℃でEppendorf thermomixer中で激しく振とうしながらインキュベーションした。リポソームを産生するために、最終脂質懸濁液を6℃で、5秒間で3回、Bandelin Sonopuls超音波発生装置中で70%の出力で超音波処理にかけた。リポソーム調製物を少なくとも1時間6℃で放置し、その後、実験に使用した。リポソーム中の個々の脂質の濃度は、常に、重量(w/w)比として示される。コレステロールとスフィンゴミエリンを含むリポソームにおける1:1(w/w)比は、50%(w/w)または66mol%のコレステロールに対応する。リポソームの量は、その調製のために使用された全脂質の量として示される。
【0085】
代替的な方法において、約25mlの各製剤は、エタノール水和および押し出し法によって製造された。最終製剤を滅菌ろ過し、オートクレーブ血清ガラスバイアルに充填した(最終濃度:40mg/ml)。リポソーム粒子径は80〜150nmの範囲であり、良好なPDI(多分散指数)を有する。浸透圧の測定結果も含まれる。それらは全て約400mmol/kgの範囲内であり、それは所望の生理学的レベルにかなり近い。
【0086】
【表1】
【0087】
毒素により誘発される細胞溶解およびリポソームの防御効果
ヒト胚腎上皮細胞(HEK293)における、毒素により誘発される溶解を、膜孔により誘導される細胞内CFPの流出に因る細胞質内蛍光の減少としてモニタリングした。15mmのカバーガラス上に播種されたコンフルエントなHEK293細胞(1つのカバーガラスあたり2.5×10
5個の細胞)を、25℃の灌流チャンバー中の2.5mMのCaCl
2を含むタイロード緩衝液中にのせ、その蛍光を63倍の油浸レンズ(Monastyrskaya et al.、上記の文献と同様)を使用して、レーザー走査モジュールLSM510METAを有するAxiovert200M顕微鏡(Zeiss, Germany)で記録した。時点=0において、緩衝液を、さらに細胞溶解量の所与の毒素(例えば120ngの化膿性連鎖球菌に由来するSLO)および20mM/Lのジチオトレイトール(DTT)を含む100μlまたは200μlの同緩衝液と交換した。毒素により誘発される細胞溶解に対するリポソームの防御効果を調べるために、時点=0において、細胞を、通常、毒素/DTTおよび種々の濃度および種々の脂質組成のリポソームを含む100μlの混合物を用いて攻撃した。毒素−リポソーム混合物は、細胞に加える直前に調製された(20〜30秒間の操作の遅延はある)。いくつかの場合、リポソームのみを含む100μlの溶液を、まず細胞に加え(20〜30秒間の操作の遅延はある)、その後、100μlの毒素含有溶液を加えた。リポソームの防御効果は、いずれの実験条件下でも類似していた。画像を、「Physiology evaluation」ソフトウェアパッケージ(Zeiss, Germany)を使用して分析した。
【0088】
ヒト単球細胞株(THP−1)の増殖に対する精製PFTまたは細菌培養上清の作用を、種々の脂質組成のリポソームの存在下または非存在下で評価した。通常、100〜600μlの毒素含有溶液(Ca
2+タイロード緩衝液またはBHIブロス)を、培養培地中に維持された100μl(5×10
4個の細胞)の細胞に加え、50〜150μlの種々の脂質組成のリポソームと事前に混合した。3時間インキュベーションした後、1〜2mlの新鮮な培養培地をチューブに加えた。細胞を、毎日または隔日で8〜12日間計数した。毒素およびリポソームは、全実験期間中に存在していた。図に提示されるデータは、5日目または6日目に対応し、この時、細胞増殖は依然として直線期であった。
【0089】
「空」リポソームと「充填」リポソームの比較
「空」Ch:Smリポソーム+Smのみのリポソームの混合物による、黄色ブドウ球菌または肺炎連鎖球菌の培養上清に対する防御を、フルオレセイン、オレゴングリーン488、ローダミンまたはテキサスレッドなどの蛍光色素で充填されたCh:Smリポソーム+Smのみのリポソームの混合物と比較する。
【0090】
「空」Ch:PCリポソームの混合物による黄色ブドウ球菌または肺炎連鎖球菌の培養上清に対する防御を、フルオレセイン、オレゴングリーン488、ローダミンまたはテキサスレッドなどの蛍光色素で充填されたCh:PCリポソームの混合物と比較する。
【0091】
脂質でコーティングされた表面による防御
コレステロールおよびスフィンゴミエリンによってコーティングされたビーズを、黄色ブドウ球菌または肺炎連鎖球菌の培養上清に対するその毒素捕捉活性について試験する。
【0092】
黄色ブドウ球菌または肺炎連鎖球菌によって誘発された菌血症に対する抗生物質による処置と組み合わせたインビボでの効果
Ch:SmリポソームとSmのみのリポソームの2成分混合物、Ch:SmリポソームとSmのみのリポソームとSm:PCリポソームの(1:2:2)の3成分混合物、および、Ch:SmリポソームとSmのみのリポソームとCh:PCリポソームの(1:1:1:1)の4成分混合物を、ペニシリン感受性肺炎連鎖球菌株またはメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)のいずれかによって誘発されたマウス菌血症モデルにおいて試験する。Panton-Valentineロイコシジン(PVL)毒素を分泌するまたは分泌しないその能力によって特徴付けられる、2種類のMRSA株が考えられる。さらに、Ch:SMリポソームとSmのみのPEG化リポソーム(2%PEGまたは5%PEG)の2成分の混合物も試験される。
【0093】
実験マウスに、約10
7または10
8cfu/mlの細菌を腹腔内(i.p.)、静脈内(i.v.)または鼻腔内(i.n.)注射によって接種する。
【0094】
各細菌株、各感染経路、および各リポソーム混合物(LP混合物)について、2つの異なる用量(2mg/kgまたは6mg/kg)のLP混合物の静脈内注射を、ペニシリンによる処置(30mg/kg)と併用してまたは併用せずに、細菌による攻撃から6時間後(t=6)、12時間後(t=12)、18時間後(t=18)または24時間後(t=24)のいずれかに開始する(各場合において、LP混合物の注射の後、初回注射から12時間後に1回の追加の注射を、または4時間後および24時間後に2回の追加の注射を行なう)。抗生物質による処置を、リポソームによる処置と同時に開始する。2種類の対照を実施した:処置を受けなかった感染、および抗生物質のみで処置された感染(t=6、t=12、t=18またはt=24において)。
【0095】
各細菌株について、および各リポソーム混合物について、並びにリポソームの各投与量および各感染経路について、10個の動物群が存在した。
【0096】
【表2】
【0097】
1群において、群の50%の生存率が少なくとも8日間追跡され、群の25%を細菌による攻撃から1時間後に、残りの25%は細菌による攻撃から6時間後に安楽死させた。
【0098】
血中およびいくつかの臓器、例えば肺、脾臓および腎臓における細菌数を決定した。
【0099】
読み出し情報:生存率、感染の兆候、代謝(体重減少および回復の連続的測定、間接的な熱量測定法によって測定されたO
2消費率およびCO
2産生率、改変されたWeirの式を用いて計算された安静時エネルギー代謝量(REE));炎症性サイトカインプロファイル(腫瘍壊死因子(TNF)−α、マクロファージ炎症タンパク質(MIP)−2、およびIL−1bについてのELISAが血清で実施された)。
【0100】
最小殺菌濃度(MBC)
通常の株に対するスフィンゴミエリン/コレステロールリポソームの活性は全くない:
【0101】
【表3】
【0102】
最小殺菌濃度(MBC)の試験は、臨床・検査標準協会(CLSI)によって提案されたガイドラインに従って実施された。
【0103】
ブロスのマイクロタイター希釈試験のために、50μLの0.5〜16mg/mLのリポソームで補充された96ウェルプレートに、黄色ブドウ球菌1mLあたり1〜5×10
5個のコロニー形成単位(CFU)の細菌細胞懸濁液を含む50μLのミュラーヒントンブロスを接種した。プレートを、36℃で24時間インキュベーションした。ブロスのマイクロタイター希釈プレートのウェルから10μLのアリコートを、コロンビア血液寒天上(Oxoid, Wesel, Germany)に移すことによってMBCを決定した。接種されたプレートを、36℃で24時間さらにインキュベーションし、その後、コロニーを計数した。