特許第6382812号(P6382812)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6382812
(24)【登録日】2018年8月10日
(45)【発行日】2018年8月29日
(54)【発明の名称】部品キット
(51)【国際特許分類】
   C04B 41/85 20060101AFI20180820BHJP
   A61K 6/027 20060101ALI20180820BHJP
   C04B 38/00 20060101ALI20180820BHJP
   A61C 13/083 20060101ALI20180820BHJP
   C04B 35/48 20060101ALI20180820BHJP
【FI】
   C04B41/85 C
   A61K6/027
   C04B38/00 304B
   A61C13/083
   C04B35/48
【請求項の数】5
【全頁数】38
(21)【出願番号】特願2015-525416(P2015-525416)
(86)(22)【出願日】2013年3月8日
(65)【公表番号】特表2015-532629(P2015-532629A)
(43)【公表日】2015年11月12日
(86)【国際出願番号】US2013029743
(87)【国際公開番号】WO2014021940
(87)【国際公開日】20140206
【審査請求日】2016年1月29日
(31)【優先権主張番号】12179130.5
(32)【優先日】2012年8月3日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】505005049
【氏名又は名称】スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100077517
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 敬
(74)【代理人】
【識別番号】100087413
【弁理士】
【氏名又は名称】古賀 哲次
(74)【代理人】
【識別番号】100128495
【弁理士】
【氏名又は名称】出野 知
(74)【代理人】
【識別番号】100146466
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 正俊
(74)【代理人】
【識別番号】100186370
【弁理士】
【氏名又は名称】小久保 菜里
(72)【発明者】
【氏名】ホルガー ハウプトマン
(72)【発明者】
【氏名】アンドレアス ヘルマン
(72)【発明者】
【氏名】ブラント ユー.コルブ
【審査官】 浅野 昭
(56)【参考文献】
【文献】 特表2010−534245(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第102344285(CN,A)
【文献】 特表2010−514665(JP,A)
【文献】 SUI, Ruohong, et al.,Direct Synthesis of Zirconia Aerogel Nanoarchitecture in Supercritical CO2,Langmuir,2006年,Vol.22,PP.4390-4396,ISSN:0743-7463, DOI:10.1021/la053513y
【文献】 JARONIEC, C. P., et al.,Comparative studies of structural and surface properties of porous inorganic oxides used in liquid chromatography,Journal of Chromatography A,1998年,Vol.797, No.1-2,PP.93-102,ISSN:0021-9673, DOI:10.1016/S0021-9673(97)00998-9
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/48
C04B 41/85
A61C 13/083
A61K 6/027
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
部品キットであって、
−溶液と、
−多孔質ジルコニア物品と、
を含み、前記溶液が、
−Y、Gd、La、Yb、Tmのイオン及びこれらの混合物から選択され溶媒1リットル当たり0.4〜4モルの量存在する1又は複数の非着色剤の1又は複数のカチオンと、
−1又は複数の前記イオンのための1又は複数の溶媒とを含み、
前記多孔質ジルコニア物品がメソ多孔質である、部品キット。
【請求項2】
請求項1に記載の部品キットであって、前記多孔質ジルコニア物品が、BET表面が10〜200m/gであることによって特徴付けられる、部品キット。
【請求項3】
請求項1又は2のいずれかに記載の部品キットであって、前記溶液が、1又は複数の錯化剤が、0.05〜10重量%の量存在することによって特徴付けられ、但し、重量%は、溶液全体の重量に関するものである、部品キット。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の部品キットであって、前記溶液が、アセチルアセトネート、クラウンエーテル、クリプタンド、エチレンジアミントリアセテート及びその塩、エチレンジアミンテトラアセテート及びその塩、ニトリロトリアセテート及びその塩、クエン酸及びその塩、トリエチレンテトラアミン、ポルフィン、ポリアクリレート、ポリアスパラゲート、酸性ペプチド、フタロシアニン、サリチレート、グリシネート、ラクテート、プロピレンジアミン、アスコルベート、シュウ酸及びその塩並びにこれらの混合物から選択される1又は複数の錯化剤を含む、部品キット。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の部品キットであって、前記溶液が、実質的に380〜740nmの範囲で光吸収がないことによって特徴付けられる、部品キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非着色性イオンを含有する溶液を目的とする。この溶液は、ジルコニアセラミックスの半透明性、特に歯科用セラミック材料の半透明性を改良するために使用することができる。
【背景技術】
【0002】
自然歯は、外部区域から内部区域まで、半透明(エナメル質)から始まりほぼ不透明(象牙質)に至る、半透明性において複雑な勾配を示す。したがって、半透明性は、審美性が問題となる歯科用材料の重要な特性である。高充填オールセラミック修復物において最適な審美性を達成するための現行法は、高強度セラミック(例えば、ジルコニア)材料を低強度高半透明性及びガラス系のべニアリングセラミックでベニアリングすることである。このベニアリング工程は、ほとんどの場合、熟練した実験技術者によって行われねばならず、しばしば時間がかかり、高価である。ベニアリングの脆弱性のために、様々な臨床症例で磁器チッピングが頻繁に観察される。
【0003】
修復物を助ける硬調の歯組織を製造するための別の方法は、審美性が些細な役割しか果たさない区域で(例えば、歯科用状況の後方領域で)ベニアリングなしに、モノリシックジルコニアを使用することである。
【0004】
ジルコニア修復物は、典型的には、CAD/CAMプロセスを介して製造される:
・修復物は、予備焼結済ジルコニアミルブランクからミル粉砕される。
・その後、修復物の審美性は、この材料を着色液で着色することによって増加する。
・修復物は、焼結及び研磨によって仕上げ処理される。
【0005】
国際公開第2004/110959号は、セラミックフレームワークのための着色溶液に関する。この溶液は、溶媒(例えば、水)と、金属塩と、1,000〜200,000の範囲のMnを有するポリエチレングリコールとを含む。
【0006】
国際公開第00/46168(A1)号(米国特許第6,709,694(B1)号に対応)は、イオン又は錯体を含有する溶液が、希土類元素若しくはそのサブグループの元素の少なくとも1つの塩又は錯体を既定の濃度で含有することによって、セラミックスを着色することを言及している。この溶液は、安定剤、錯体ビルダー、色素、及び叩解添加剤のような添加剤を含有してよい。
【0007】
国際公開第2008/098157号は、溶媒と、金属イオンを含む着色剤と、錯化剤とを含む、歯科用セラミックフレームワークのための着色溶液に関し、この錯化剤の量は、溶媒中に着色剤を溶解するのに十分なものである。
【0008】
国際公開第2009/014903号は、歯科用セラミック物品のための着色溶液に関し、この溶液は、溶媒と、少なくとも約0.05モル/l(溶媒)の量で溶液中に存在する希土類元素イオンと、約0.00001〜約0.05モル/l(溶媒)の量で溶液中に存在する遷移イオンとを含む着色剤とを含む。
【0009】
中国特許第102344285号(国際公開第2013/003990号に対応)は、歯科用ジルコニア材料の光透過をどのように変更するかの方法に関する。予備焼結済Y−TZPジルコニアは、イットリウム含有溶液中に2〜15分間浸漬されるか、又はこの溶液で2〜15分間ブラッシング処理される。ジルコニアは乾燥され、1400〜1600℃で2時間焼結される。
【0010】
一方、歯科用セラミックスのための着色液は、当該技術分野において既知である。
【0011】
着色溶液の例は、米国特許第6,709,694号、米国特許出願第2006/0117989号、国際公開第2009/014903号、欧州特許出願第11177189号に記載されている。これら参考文献の内容は、参照として本明細書に組み込まれている。これら着色液は、典型的には、水と、希土類元素、遷移金属及びこれらの混合物から選択される金属カチオンと、場合によっては錯化剤又は(ポリ)エチレングリコールなどの更なる添加剤とを含む。着色液は、典型的には、歯科用セラミックス、特に多孔質歯科用セラミックフレームワークを均一に着色するために使用される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、既知の着色溶液を改良すること並びにその用途を拡大することを意図している。
【0013】
特に、例えば、エナメル質及び象牙質の硬調の歯科組織の個々の半透明性の程度を考慮して、歯科用修復物において自然歯の外観を模倣する必要がある。
【0014】
可能ならば強度及び耐久性の大きな損失なく、経済的な方法でモノリシックブロックから歯科修復物を製造することが可能であるべきである。更に、半透明から不透明への外観の円滑な移行が、しばしば望ましい。
【0015】
したがって、ジルコニア物品、特にジルコニアセラミック物品の半透明性を改良するための手段に対する要望がある。
【0016】
出来れば、これら手段は、塗布が簡単で、製造において安価でなければならない。
【課題を解決するための手段】
【0017】
一態様では、本発明は、部品キットを目的とし、この部品キットは、
・溶液と、
・多孔質ジルコニア物品と、
・所望により塗布装置とを含み、
この溶液は、
・Y、Gd、La、Yb、Tm、Ca、Mgの1又は複数のカチオン及びこれらの混合物と、
・1又は複数の非着色性イオン用の1又は複数の溶媒と、
・所望により、1又は複数の錯化剤と、
・所望により、1又は複数の増粘剤と、
・所望により、1又は複数の有機マーカ物質と、
・所望により、1又は複数の添加剤とを含み、
この多孔質ジルコニア物品は、IUPAC分類に従うIV型等温線によるN2吸着及び/又は脱着を示し、並びに/若しくは窒素に対するその吸着及び/又は脱着挙動に関して分析される場合、ヒステリシスループを示し、特にIUPAC分類に従うIV型等温線のN2吸着及び脱着並びにH1型のヒステリシスループを示す。
【0018】
本発明の更に別の態様は、ジルコニア物品の半透明性を改良するための方法を目的とし、方法は、
・本テキストに記載されている多孔質ジルコニア物品と溶液を用意する工程と、
・本テキストに記載されている溶液を多孔質ジルコニア物品の外側表面の少なくとも一部に塗布する工程と、
・所望により、先の工程の多孔質ジルコニア物品を乾燥させる工程と、
・多孔質ジルコニア物品を焼結して、ジルコニアセラミック物品を得る工程とを含む。
【0019】
本発明はまた、本テキストに記載されている方法によって得られる(焼結済)ジルコニアセラミック物品を目的とする。
【0020】
別の実施形態では、本発明は、焼結後にジルコニア物品の半透明性を改良するための、本文中に記載されている溶液の使用を目的とする。
【0021】
定義
「溶液」は、その中に溶解された可溶性構成成分と共に溶媒を含有する組成物を意味するものとする。この溶液は、周囲の条件で液体である。
【0022】
「溶媒」は、非着色性イオンを溶解することができる任意の溶媒である。この溶媒は、効果剤及び/又は錯化剤と組み合わせる場合、十分に化学的に安定であるべきである。すなわち、この溶媒は、組成物中に存在する他の成分によって分解されないものとする。
【0023】
「可溶性」とは、構成成分(固体)が、溶媒内で完全に溶解され得ることを意味する。すなわち、この物質は、23℃で水中に分散する場合、個々の分子(グルコースのような)又はイオン(ナトリウムカチオン又は塩化物アニオンのような)を形成することができる。しかしながら、溶液プロセスはかなりの時間がかかる場合があり、例えば、二時間以上(例えば、10時間又は20時間)にわたって組成物を攪拌することが必要とされる場合もある。
【0024】
かなり長期間(周囲条件下で少なくとも約4週間〜約12ヶ月超)にわたって安定であり続ける場合、溶液を「保存安定性」であると分類することができる。保存安定溶液は、典型的には、周囲条件(約23℃、約1013mbar(101300Pa))での保存中に、着色剤のいかなる可視の(人間の目に可視の)沈殿も示さず、単一の又は複数の構成成分の溶液又は沈殿物の分解を示さない。
【0025】
用語「溶解するのに十分な量」は、保存安定組成物を得ることができるように特定の溶媒に特定の物質を完全に溶解するために必要とされる剤の量を表す。物質を溶解するのに必要とされる時間は特に制限されないが、しかしながら、溶解は、機械的撹拌機及び加熱器のような一般的な装置を使用して合理的な時間以内(例えば、約10分〜約48時間以内)で行うべきである。
【0026】
「固体粒子」は、幾何学的に測定できる形状を有する固体である物質を意味するものとする。形状は規則的又は非規則的であることができる。粒子は、典型的には、例えば、粒径及び粒径分布に関して分析することができる。
【0027】
「粉末」は、振盪され又は傾けられる場合、自由に流動することができる多数の微細な粒子からなる乾燥したバルク固体を意味する。
【0028】
「非着色剤のカチオン」とは、人間の目に可視のスペクトル(例えば、約380nm〜約780nm)で有意な吸収を有さないイオンを意味するものとし、このイオンが水中で溶解されれば(例えば、0.6モル/lの量で)、非着色溶液をもたらす。
【0029】
吸収は、380nmと780nmとの間の吸収の強度が約20%を超える又は約10%を超えるならば、「有意」として特徴付けることができる。
【0030】
(L色空間の)a及びb値が次の通り:aが0±5又は0±3の範囲以内であり、bが0±20又は0±10の範囲以内であるならば、溶液は「非着色」として定義される。
【0031】
非着色溶液は、実質的に着色性イオンを含有しないか、又は実質的に着色性イオンを含まない。
【0032】
組成物は、その組成物が本質的な特徴として構成成分を含有しない場合、この特定の構成成分を「実質的に又は本質的に含まない」。それゆえに、この構成成分は、そのものとして、若しくは他の構成成分と組み合わせて、又は他の構成成分の成分としてのいずれかで、組成物に意図的には添加されない。特定の構成成分を実質的に含まない組成物は、通常、組成物又は材料の全体に関して、約2重量%未満、又は約1重量%未満、又は約0.1重量%未満又は約0.01重量%未満(又は約0.35モル/l(溶媒)未満、又は約0.18モル/l(溶媒)未満、又は約0.02モル/l(溶媒)未満)の量でその構成成分を含有する。この組成物は、前記構成成分を全く含有しなくてもよい。しかしながら、例えば、不純物に起因し、前記構成成分が少量存在することを回避できない場合もある。
【0033】
「着色性イオン」は、人間の目に可視のスペクトル(例えば、約380nm〜約780nm)で吸収を有するイオンを意味するものとし、この着色性イオンが水中で溶解されれば(例えば、0.6モル/lの量で)、着色溶液をもたらす。
【0034】
可視光線(約380nm〜約780nm)のビームが溶液により散乱せず、側面から観察できない(チンダル現象が生じない)場合に、溶液は本発明の意味内において「透明」として特徴付けることができる。しかしながら、ビームの方向における可視光線の透過ビームの強度は、着色性金属イオンによる光の吸収により、弱められ得る。
【0035】
「ジルコニア物品」は、x、y、z寸法が少なくとも約5mmである3次元物品を意味するものとし、この物品は少なくとも約80重量%のジルコニアからなる。
【0036】
「セラミック」は、熱の適用により製造される無機非金属系材料を意味する。セラミックは、通常、硬質、多孔質及び脆性であるのに対し、ガラス又はガラスセラミックは、実質的に純粋な結晶構造を示す。
【0037】
「結晶質」は、3次元的に周期的なパターンに配置した原子から構成される固体を意味する(すなわち、X線回折により測定されるような長距離結晶構造を有する)。結晶構造としては、正方晶系、単斜晶系、立方晶系ジルコニア及びこれらの混合物が挙げられる。
【0038】
用語「歯科用物品」は、歯科用又は歯科矯正分野で、特に、歯科用修復物、歯型モデル、及びこれらの一部を製造する際に、又はこれらとして使用できる、又は使用されることになる任意の物品を意味する。
【0039】
歯科用物品の例としては、クラウン(モノリシッククラウンなど)、ブリッジ、インレー、オンレー、ベニヤ、前装、根面板、複製歯冠及び架橋骨格、インプラント、橋脚歯、歯科矯正装置(例えば、ブラケット、バッカルチューブ、クリート、及びボタン)及びこれらの一部が挙げられる。
【0040】
歯表面は歯科用物品として見なされない。
【0041】
歯科用物品は、患者の健康状態に有害である構成成分を含有するべきではなく、したがって、歯科用物品から移動することができる有害かつ毒性の構成成分を含まない。
【0042】
「モノリシック歯科用修復物」は、前装又はベニアが付着されていない表面上への歯科用セラミック物品を意味するものとする。すなわち、モノリシック歯科用修復物は、実質的に1つのみの材料組成物からなる。しかしながら、所望される場合、薄いグレージング層が付与され得る。
【0043】
「密度」は、物体の体積に対する質量の比を意味する。密度の単位は、一般的にはg/cmである。物体の密度は、例えば、その体積を決定し(例えば、計算により又はアルキメデスの原理又は方法を適用することにより)、その質量を測定することによって計算することができる。
【0044】
試料の体積は、試料の全体の外形寸法に基づいて決定することができる。試料の密度は、測定された試料体積及び試料質量から計算することができる。セラミック材料の総体積は、試料の質量及び使用された材料の密度から計算することができる。試料中のセルの総体積は、試料体積の残部(100%マイナス材料の総体積)であると想定される。
【0045】
物品は、それがスポンジに匹敵する一定量の液体を吸収する場合、「吸収剤」として分類される。吸収できる液体の量は、例えば、物品の化学的性質、溶媒の粘性、物品の多孔性及び細孔体積に依存する。例えば、予備焼結済セラミック物品、すなわち、完全密度まで焼結させていない物品は、一定量の液体を吸収できる。液体の吸収は、典型的には、この物品が開多孔質構造である場合のみ可能である。
【0046】
「多孔質材料」は、セラミックスの産業上の利用分野においては、空隙、細孔、又はセルによって形成される部分的体積を含む材料を指す。結果的に、材料の「オープンセル型」構造は、「開放多孔質」構造と呼ばれることもあり、「クローズドセル型」材料構造は、「閉鎖多孔質」構造と呼ばれることもある。本技術分野においては、「セル」の代わりに「細孔」が時によっては使用されることを見出す場合もある。材料構造分類の「オープンセル型」及び「クローズドセル型」は、DIN 66133に従って、(例えば、米国のQuantachrome Inc.からの水銀「Poremaster 60−GT」を使用して)異なる材料試料において測定される異なる多孔性について決定することができる。オープンセル型又は開放多孔質構造を有する材料では、例えば、ガスが通過することができる。
【0047】
「オープンセル型」材料についての典型的値は、約15%〜約75%、又は約18%〜約75%、又は約30%〜約70%、又は約34%〜約67%、又は約40%〜約68%、又は約42%〜約67%である。
【0048】
用語「クローズドセル型」は、「閉鎖多孔性」に関連する。クローズドセルは、外側から接近不可能であり、周囲の条件下でガスが侵入することができないようなセルである。
【0049】
「平均連結孔径」は、材料のオープンセル型細孔の平均寸法を意味する。平均連結孔径は、実施例の項で記載されるとおりに計算することができる。
【0050】
用語「焼成」は、揮発性化学結合成分(例えば、有機媒質)の少なくとも90重量パーセントを除去するために固体材料を加熱する工程を指す(例えば、物理的に結合している水を加熱により除去する乾燥工程と比較される)。焼成は、予備焼結工程の実施に必要とされる温度よりも低い温度で実施される。
【0051】
用語「焼結(sintering)」又は「焼成(firing)」は互換的に使用される。予備焼結済セラミック物品は、焼結工程の間に、すなわち、適切な温度が加えられる場合に、収縮する。加える焼結温度は、選択されるセラミック材料に依存する。ZrO系セラミックスについて、典型的な焼結温度範囲は、約1100℃〜約1550℃である。焼結は、典型的には、多孔質材料のより高い密度を有するより多孔質ではない材料(又はより少ないセルを有する材料)への磁器化を含み、場合によっては、材料の相組成の変更(例えば、結晶質相に向かう非晶質相の部分的変換)も含んでもよい。
【0052】
「膜分離精製法」は、有機分子を含有する溶液から塩類又は溶媒類を完全に除去する、置き換える、又は濃度を低減する限外濾過膜を使用する手法である。この手法では、透過性(多孔質)の膜フィルタを利用して、溶液及び懸濁液の成分をそれらの分子量に基づき分離する。
【0053】
用語「エアロゲル」は、3次元寸法を有する低密度(すなわち、理論密度20%未満の)固体を意味するものとする。エアロゾルは、ゲルに由来する多孔質材料であり、ここでは、ゲルの液体構成成分がガスで置き換えられている。この溶媒除去は、しばしば、超臨界条件下で実施される。この工程の間、ネットワークは実質的に縮小せず、高度多孔質、低密度材料を得ることができる。
【0054】
「機械加工」とは、機械によるミリング、研削、切断、カービング、又は成形を意味する。ミリングは、通常、研削よりも速くかつ費用効率に優れている。「機械加工可能な物品」は、3次元形状を有し、機械加工されるのに十分な強度を有する物品である。
【0055】
「等方性焼結挙動」とは、焼結プロセス中の多孔質本体の焼結が、方向x、y及びzに関して実質的に不変量で起こることを意味する。「実質的に不変量」とは、方向x、y及びzに関する焼結挙動における差が、約+/−5%以下又は+/−2%以下又は+/−1%以下の範囲であることを意味する。
【0056】
「周囲条件」は、本発明の溶液が、保管及び取り扱い中に通常さらされる条件を意味する。周囲条件は、例えば、約900〜約1100mbar(9000〜約110000Pa)の圧力、約10〜約40℃の温度、及び約10〜約100%の相対湿度であり得る。実験室においては、周囲条件は、約20〜約25℃及び約1000〜約1025mbar(100000〜約102500Pa)に調整される。
【0057】
本明細書で使用する時、「a」、「an」、「the」、「少なくとも1つの」、及び「1又は2以上の」は、同じ意味で使用されている。用語「含む」又は「含有する」及びこれらの変化形は、これらの用語が明細書及び特許請求の範囲で用いられた場合、制限的な意味を有しない。また本明細書では、端点による数値範囲の記載は、その範囲に含まれるすべての数を含む(例えば、1〜5は、1、1.5、2、2.75、3、3.80、4、5などを含む)。
【0058】
用語への「1又は複数の(s)」の付加は、この用語が単数又は複数形態を含むべきであることを意味する。例えば、用語「1又は複数の添加剤」は、1つの添加剤及びそれよりも多くの添加剤(例えば、2、3、4つ等)を意味する。
【図面の簡単な説明】
【0059】
図1】ジルコニアセラミックディスクを示し、その1つの部分は、本テキストに記載されている溶液で処理されている。
図2】多孔質ジルコニア物品の試料を分析する場合に得られるN吸着及び脱着等温線(収着等温線)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0060】
本テキストに記載されている溶液は、焼結後にジルコニアセラミックの半透明性を改良するために好適であることが判明した。
【0061】
この溶液は、典型的には、ジルコニア物品の表面のパーツに塗布されるためのみならず、多孔質ジルコニア物品の細孔へ移動するためにも十分な粘度を有する。
【0062】
特定の理論に格別とらわれることを望むものではないが、この溶液中に含有される非着色性イオンは、焼結中にジルコニア材料に組み込まれ、結晶構造に影響を及ぼすと考えられる。
【0063】
ジルコニア物品の半透明性は、ジルコニア物品の立方晶系結晶相の含量を改良することによって改善され得ることが判明した。
【0064】
ジルコニアセラミックの立方晶系結晶相含量を改良するために、十分量の好適なイオンが組み込まれなければならない。
【0065】
本テキストに記載されている溶液は、高度に審美的な歯科用セラミック物品、特に、歯科用物品の外側表面の一部だけが溶液で処理されているクラウンのような歯科用セラミック物品を製造するために特に好適である。
【0066】
かかる手法は、どちらかといえば不透明なコア(象牙質)及びどちらかといえば半透明のシェル(エナメル質)を有する歯の自然な外観を模倣する個別化された歯科用セラミック物品の製造を容易にする。
【0067】
特に、本テキストに記載されている溶液及びプロセスは、施術者が高度に審美的なモノリシックの歯科用修復物をもたらすことを可能にする。
【0068】
本発明の溶液は、本テキストで以下に記載されている特性を有する多孔質ジルコニアを焼結する場合に得られたジルコニア物品の半透明性を完了するために特に有用であることが判明した。特に好適なものは、ジルコニアエアロゲルブロックを熱処理する場合に得られる多孔質ジルコニア物品である。
【0069】
本発明によって、色のみならず半透明性によっても歯科用修復物を個別化することがここで可能である。
【0070】
本発明は、歯科用セラミック物品を製造するための部品キットに関し、部品キットは、
・溶液と、
・多孔質ジルコニア物品と、
・所望により、塗布装置とを含み、
この溶液は、
・Y、Gd、La、Yb、Tmのイオン及びこれらの混合物から選択される、1又は複数の非着色剤のカチオンと、
・1又は複数のこのイオンのための溶媒と、
・所望により、1又は複数の錯化剤と、
・所望により、1又は複数の増粘剤と、
・所望により、1又は複数の有機マーカ物質と、
・所望により、1又は複数の添加剤とを含み、
この多孔質ジルコニア物品は、IUPAC分類に従うIV型等温線によるN2吸着及び/又は脱着を示す。
【0071】
本テキストに記載されている溶液及び多孔質ジルコニア物品は、モノリシックブロックから歯科用セラミック物品を製造するために特に有用である。モノリシックブロックから歯科用セラミック物品を製造することは、一方で十分な強度と他方で所望の半透明性との間の矛盾点を解決せねばならない。
【0072】
この矛盾点は、以下の通りに解決することができる:
・多孔質ジルコニア材料は、十分な強度を有するべきであり、これによって、多孔質ジルコニアは機械加工され得る。これは、予備焼結済材料を用意することによって達成することができる。
・歯科用物品の荷重支持部分は、十分に強いものでなければならない。これは、正方晶系安定化相を有する(焼結後に)ジルコニア材料を用意することによって達成することができる。
・この溶液で処理されるジルコニア材料は、十分な開放多孔性を有するべきである。このことが、溶液の取り込みを容易にするであろう。
・半透明性を増大させるために、この溶液は、多量の着色性イオンを含有するべきではない。
・所望される場合、この溶液は、処理されるジルコニア材料の細孔への溶液の浸透を支持するために、有機添加剤を含有してもよい。
・所望される場合、この溶液は、溶液の浸透の深さ及び広がりを制御するために、有機増粘添加剤を含有してもよい。
・所望される場合、この溶液は、更に、歯科用修復物を着色することができるイオン性添加剤を含有してもよい。
・所望される場合、この溶液は、処理された区域をマークするために、有機添加剤を含有してもよい。
【0073】
したがって、本発明はまた、ジルコニア材料のモノリシックブロックからの歯科用セラミック物品の製造を容易にし、この歯科用物品は、(焼結後に)ジルコニア材料を含有する匹敵する高含量の正方晶系相を含む区域(例えば、フレームワーク)と、ジルコニア材料を含有する匹敵する高含量の立方晶系相を含む区域(例えば、表面領域)とを有する。
【0074】
一実施形態によると、この溶液は、以下のパラメータの少なくとも1つにより特徴付けられる:
・pH値:約0〜約9又は約1〜約7又は約2〜約6;
・粘度:約1〜約10,000mPas又は約100〜約6,000Pas又は約500〜約3,000Pas(23℃で測定);
・約380〜約780nmの範囲の有意な光吸収が実質的にないこと又はないこと;
・約80%を超える又は約82%を超える又は約85%を超える又は約90%を超える透過コントラスト比(CT−R)を示すこと;
・着色されていないこと。
【0075】
所望される場合、このpH値、粘度、光吸収及び透過コントラスト比は、以下の実施例項で記載されている通りに決定することができる。
【0076】
この溶液が水を含有する(水性)溶液である場合、溶液は、強酸性から弱塩基性である、0〜9の範囲のpH値を有する。
【0077】
pH値がこの範囲外にある場合、保存安定溶液を達成することは難しい場合がある。特に、非着色剤のカチオンは、溶液から沈殿し始める場合がある。
【0078】
この溶液が錯化剤を含有しない場合、酸性範囲のpH値が、典型的には好ましい。しかしながら、この溶液が錯化剤を含有する場合は、pH値は弱酸性から弱塩基性の範囲(例えば、3〜9又は4〜8)であってもよい。
【0079】
この溶液は、十分な量の溶液がジルコニア材料の表面に塗布され得るばかりではなく、これがジルコニア物品の細孔に移動することもできるように、典型的には適切な粘度を有する。
【0080】
上記に指示される値に粘度を調整することは、溶液が多孔質ジルコニア物品の特定のセクション又は領域により正確に塗布され得るという点で有益であり得る。
【0081】
着色溶液の粘度が高すぎる場合、溶液はジルコニア材料の細孔に十分に入ることができない。これに反して、溶液の粘度が低すぎる場合には、溶液は細孔に余りに急速に移動することがあり、物品全体に拡散することもある。
【0082】
更なる実施形態では、この溶液は透明である。
【0083】
本テキストに記載されている溶液は、ジルコニアセラミックの半透明性を改良するために使用することを意図しているために、しかる故に、この溶液はまた、実質的に透明でなければならない。さもなければ、意図される結果を得ることが難しい場合がある。
【0084】
更なる実施形態では、溶媒及び非着色性イオンを含有する溶液は、約380〜約780nmの範囲で実質的に吸収を示さない。このことは、この溶液が、人間の目には実質的に無色であることを意味する。
【0085】
上記で特定された領域内の高い吸収は、焼結後に望ましくない着色されたジルコニア物品をもたらし得た。
【0086】
この溶液は、1又は複数の非着色剤のカチオンを含む。
【0087】
このカチオンは、Y、Gd、La、Yb、Tm、Ca、Mgのイオン及びこれらの混合物から選択される。
【0088】
この溶液は、上記カチオンの1つだけを、又は上記カチオンの組み合わせを含有してもよい。
【0089】
Yのカチオンを含有する溶液が、時には好ましい。
【0090】
しかしながら、Y及びLa、又はY及びYb、又はY及びGd、又はY及びTmを含むイオンの組み合わせを使用することも可能である。
【0091】
非着色剤は、典型的にはカチオン及びアニオンを含む塩として添加される。
【0092】
このアニオンは、典型的には、NO、NO、CO2−、HCO、ONC、ハロゲンアニオン(フッ化物、塩化物、臭化物)、アセテート及びこれらの混合物からなる群から選択される。
【0093】
カチオンは、典型的には、約0.3〜約5モル/l又は約0.4〜約4モル/l又は約0.5〜約3モル/l又は約0.6〜約2モル/lの量で存在する。
【0094】
この溶液は、1又は複数の非着色性イオンのための溶媒も含む。所望される場合、異なる溶媒の混合物を使用することができる。
【0095】
好適な溶媒としては、水、アルコール(特に低沸点アルコール、例えば約100℃より低い沸点を有するもの)及びケトンが挙げられる。
【0096】
この溶媒は、使用される非着色性イオンを溶解することができなければならない。
【0097】
非着色剤のカチオンを溶解するために使用することができる溶媒の特定の例として、水、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−プロパノール、ブタノール、アセトン及びこれらの混合物が挙げられる。
【0098】
典型的には、錯化剤が、溶媒中の非着色剤の少なくともカチオンを溶解するために又はこれらカチオンの沈殿を防止するために十分な量で、この溶液中に存在する。
【0099】
溶媒は、典型的には、溶媒中に含まれる又は添加される構成成分を溶解するのに十分な量で存在する。
【0100】
溶媒は、典型的には、溶液全体に関する重量%で、約20〜約98重量%又は約30〜約90重量%又は約35〜約85重量%の量で存在する。
【0101】
この溶液はまた、1又は2以上の1又は複数の錯化剤を含有してもよい。
【0102】
錯化剤を添加することは、溶液の保存安定性を改良するために、溶液に添加された塩類の溶解プロセスを加速するために、及び/又は溶液中に溶解され得る塩類の量を増加させるために有益であり得る。
【0103】
錯化剤は、典型的には、溶液中に存在している金属イオンと錯体を形成することができる。形成される錯体は、溶媒中で可溶性でなければならない。典型的には、形成される錯体は、水中よりも溶媒中で可溶性に優れる。
【0104】
例えば、錯化剤は、溶液中に含まれる非着色性オンのモル量に関して少なくとも化学量論比で使用することができる。
【0105】
非着色剤のカチオンに対する錯化剤のモル比が、約1又は約2又は約3以上であるならば、良好な結果を得ることができる。
【0106】
使用される錯化剤の量が低すぎるならば、非着色剤は完全に溶解されない場合がある。
【0107】
使用される錯化剤の量が高すぎるならば、過剰の錯化剤それ自体が溶解されないままで残る場合がある。
【0108】
錯化剤は、通常、溶液の別個の構成成分として添加される。
【0109】
しかしながら、錯化剤は、非着色剤のアニオンの形態で添加され又は存在することもできる。
【0110】
例としては、アセチルアセトネート、クラウンエーテル、クリプタンド、エチレンジアミントリアセテート及びその塩、エチレンジアミンテトラアセテート及びその塩、ニトリロトリアセテート及びその塩、クエン酸及びその塩、トリエチレンテトラアミン、ポルフィン、ポリアクリレート、ポリアスパラゲート、酸性ペプチド、フタロシアニン、サリチレート、グリシネート、ラクテート、プロピレンジアミン、アスコルベート、シュウ酸及びその塩並びにこれらの混合物が挙げられる。
【0111】
錯化配位子のようなアニオン性基を有する錯化剤が好ましい場合がある。少なくとも一部の錯化配位子はアニオン性であるべきである。純粋なアミン(例えば、pH値8〜14のエチレンジアミン)のような非電荷錯化配位子(又は更にはカチオン性配位子)のみを有する錯化剤は、十分に安定な溶液を生じない場合がある。
【0112】
典型的には、錯化剤は、溶液中の非着色剤の少なくともカチオンを溶解するために又はこれらカチオンの沈殿を防止するために十分な量で溶液中に存在する。
【0113】
錯化剤は、組成物全体の量に関して、少なくとも約1重量%、又は少なくとも約5重量%、又は少なくとも約10重量%の量で存在できる。特定の上限はないが、しかしながら、通常、使用される錯化剤の量は、溶液全体の量に関して、約50重量%又は約40重量%又は約30重量%の量を超えない。
【0114】
この溶液は又、1又は2以上の1又は複数の増粘剤を含有してもよい。
【0115】
典型的には、1又は複数のこの増粘剤は、以下の特性の少なくとも1つにより特徴付けることができる:
・粘度:約1〜約2,000mPas又は約100〜約1,500mPas(50s−1のせん断速度にて23℃で測定);
・(メタ)アクリレート基、エポキシ基、炭素−炭素不飽和基のような重合可能な基を含まないこと;
・S、Pのような元素を含有しないこと。
【0116】
1又は複数の使用することができる増粘剤として、1又は複数のポリオール(ポリビニルアルコールを含める)、1又は複数のグリコールエーテル(例えば、PEG 200、PEG 400、PEG 600、ジエチレングリコールメチルエーテル、ジエチレングリコールエチルエーテル)、1又は複数のジアルコール及びポリアルコール(1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、グリセロールを含める)、グリセロールエーテル、1又は複数の多糖類、キサンタンガム、メチルセルロース並びにこれらの混合物が挙げられる。
【0117】
使用することができるポリエチレングリコールは、式(1)
R1O−(CH2−CH2−O)m−R1 (1)
によって表すことができ、式中R1は、H、アシル、アルキル、アリール、アルキルアリール、ポリプロピルグリコール、ポリ−THFであり、好ましくはH、アセチル、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ヘキシル、オクチル、ノニル、デシル、ラウリル、トリデシル、ミリスチル、パルミチル、ステアリル、オレイル、アリル、フェニル、p−アルキルフェニル、ポリプロピレングリコール、ポリ−THFであり、並びに
mは、約2〜約100、好ましくは約2〜約20、より好ましくは約2〜約5である。
【0118】
ポリエチレングリコールの平均分子量(Mw)は、約100〜約5,000の範囲、好ましくは約100〜約1,000の範囲、より好ましくは約100〜約300の範囲であるべきである。
【0119】
存在する場合、増粘剤は、典型的には、次の量で存在する:溶液全体に関する重量%で、約0.01〜約10重量%又は約0.1〜約8重量%又は約0.2〜約5重量%。
【0120】
この溶液はまた、1又は複数のマーカ物質を含有してもよい。
【0121】
1又は複数のマーカ物質を添加することは、特に溶液が透明である場合、使用の際に溶液の視認性を改良するために有益であり得る。したがって、施術者は、ジルコニア物品の表面のどの部分が既に塗布され、どの部分がまだ処理されず、未処理のまま残すべきかを容易に決定することができる。一方、マーカ物質が有機物質であるならば、1又は複数のこのマーカ物質は後の焼結工程中に焼損され、したがって、ジルコニア物品の結晶構造に組み込まれない。
【0122】
1又は複数の使用することができるマーカ物質の例として、リボフラビン(E101)、ポンソー4R(E124)、グリーンS(E142)のような食品着色剤が挙げられる。
【0123】
存在する場合は、マーカ物質は、典型的には、次の量で存在する:溶液全体に関する重量%で、約0.01〜約10重量%又は約0.1〜約5重量%又は約0.2〜約3重量%。
【0124】
本発明の溶液はまた、1又は2以上の1又は複数の添加剤を含有してもよい。
【0125】
添加することができる添加剤としては、安定化剤(メトキシフェノールハイドロキノン、トパノールA、及びこれらの混合物など)、緩衝剤(酢酸塩又はアミノ緩衝剤及びこれらの混合物など)、防腐剤(ソルビン酸又は安息香酸及びこれらの混合物など)並びにこれらの混合物が挙げられる。
【0126】
1又は複数の添加剤が存在する必要がない場合もあるが、これらが存在する場合は、これらは典型的には、溶液を塗布するとき、達成される目的に悪影響を及ぼさない量で存在する。
【0127】
1又は複数の添加剤が存在する場合、これらは、典型的には、溶液全体に関して、約0.01〜約10重量%又は約0.05〜約5重量%又は約0.1〜約3重量%の量で存在する。
【0128】
一実施形態によると、この溶液は、典型的には、以下の構成成分の少なくとも1つを含まない:
・溶媒1リットル当たり約0.1モルを超える又は約0.05モルを超える又は約0.01モルを超える若しくは約2重量%を超える又は約1.5重量%を超える又は約1重量%を超える又は約0.5重量%を超える又は約0.2重量%を超える又は約0.1重量%を超えるイオンの量での、Fe、Mn、Er、Pr、V、Cr、Co、Moのイオン及びこれらの混合物から選択される着色性イオン、
・約2時間を超える保存の際に、この溶液から沈殿する固体粒子。
【0129】
一実施形態では、この溶液は、着色性イオンを実質的に含まない。
【0130】
この溶液は、典型的には、溶液がジルコニア物品の表面に一旦塗布されると、ジルコニア物品の表面上に留まることがある又は留まると予想される固体粒子も含まない。
【0131】
したがって、本テキストに記載されている溶液は、溶媒中の固体粒子の分散液でもなく、スラリーでもない。
【0132】
市販の着色性液は、溶媒1リットル当たり最大約0.4モルの着色性イオンの濃度を有する場合がある。
【0133】
別の実施形態によると、この溶液は、1又は複数の以下の量:
・1又は複数の非着色剤のカチオンの量:約0.5〜約30重量%又は約1〜約25重量%又は約2〜約20重量%又は約3〜約15重量%若しくは約0.3〜約5モル/l又は約0.4〜約4モル/l又は約0.5〜約3モル/l又は約0.6〜約2モル/l、
・溶媒の量:約20〜約98重量%又は約70〜約95重量%、
・1又は複数の任意の錯化剤の量:約0〜約10重量%又は約0.05〜約5重量%、
・1又は複数の任意の増粘剤の量:約0〜約10重量%又は約0.05〜約5重量%、
・1又は複数の任意の有機マーカ物質の量:約0〜約10重量%又は約0.05〜約5重量%、
・所望により、1又は複数の約0〜約10重量%又は約0.05〜約5重量%の量での添加剤、
の構成成分を含む(重量%は組成物全体に関してである)。
【0134】
別の実施形態によると、この溶液は、
・約0.5〜約20重量%の量で、Y、Gd、La、Yb、Tm、Mg、Ca及びこれらの混合物から選択される1又は複数のカチオンで、特にYと、
・約0.01〜約1.5重量%の量で、Tb、Er、Mnから選択される1又は複数のカチオンで、特にTbと、
・所望により、錯化剤と、
・溶媒として水とを含み、
この重量%は、溶液の重量に関してである。
【0135】
この溶液は、その構成成分を混合することによって製造することができる。この製造は、室温で実施することができるか、又は熱を加えることにより及び/又は攪拌しながら実施することができる。
【0136】
熱を加えること及び/又は攪拌することは、非着色性イオンの溶媒への溶解プロセスを加速するために有益であり得る。
【0137】
この組成物は、典型的には、非着色剤のカチオンが溶媒中に完全に溶解されるまで攪拌される。
【0138】
所望される場合、添加剤(上述したもののような)を添加することができる。
【0139】
望ましくない沈殿物は、濾過によって除去することができる。
【0140】
一実施形態によると、本テキストに記載されている溶液で処理される多孔質ジルコニア物品は、次の特徴の少なくとも1つにより特徴付けることができる:
(a)IUPAC分類に従うIV型等温線によるN吸着及び/又は脱着を示すこと;
(b)ヒステリシスループを伴うN吸着及び/又は脱着等温線を示すこと;
(c)IUPAC分類に従うIV型等温線によるN吸着及び/又は脱着及びヒステリシスループを示すこと;
(d)IUPAC分類に従う、H1型のヒステリシスループを伴うIV型等温線によるN吸着及び/又は脱着の等温線を示すこと;
(e)0.70〜0.95のp/p範囲で、IUPAC分類に従う、H1型のヒステリシスループを伴うN吸着及び/又は脱着のIV型の等温線を示すこと;
(f)平均連結孔径:約10〜約100nm又は約10〜約70nm又は約10〜約又は約10〜約50nm又は約15〜約40nm;
(g)平均粒径:約100nm未満又は約80nm未満又は約60nm未満又は約10〜約100又は約15〜約60nm;
(h)BET表面:約10〜約200m/g又は約15〜約100m/g又は約16〜約60m/g;
(i)2軸曲げ強度:約10〜約40MPa又は約15〜約30MPa;
(j)x、y、z寸法:少なくとも約5mm又は少なくとも約10若しくは少なくとも約20mm;
(k)ビッカース硬さ:約25〜約150(HV1)又は約40〜約150(HV1)。
【0141】
次の特徴の組み合わせは特に有益なものであることが判明した:(a)及び(h)、又は(a)及び(b)及び(h)、又は(b)及び(c)、又は(c)、(e)、(g)及び(h)。
【0142】
驚くべきことに、IV型等温線(IUPAC分類に従う)によるN吸着及び/又は脱着及び/又はヒステリシスループ(特に0.70〜0.95のp/p範囲において)を示す材料が特に好適であることが判明した。
【0143】
本テキストに記載されている溶液と組み合わせて、これら材料が使用される場合に達成することができる半透明性の増加は、市販の、いわゆるY−TZPセラミック材料が使用される場合に観察することができる半透明性の増加よりもはるかに良好である。
【0144】
市販のY−TZPセラミック材料は、典型的には、II型等温線によるN吸着(IUPAC分類に従う)を示し、これは、半透明性が改良されるべき場合に、効果が少ないことが判明している。
【0145】
II型等温線を示す材料はマクロ多孔質とされ、一方IV型等温線を示す材料はメソ多孔質とされる。
【0146】
本テキストに記載されている多孔質ジルコニア物品とは対照的に、先行技術で記載されているジルコニア材料は、ヒステリシスループを伴うN吸着及び脱着も、IV型等温線(IUPAC分類に従う)によるN吸着も示さない。
【0147】
特定の理論に格別とらわれることを望むものではないが、IV型等温線及びH1型ヒステリシスループの材料に関する縮合モードは、材料の細孔への溶液のより均一な侵入に寄与することができると想定される。
【0148】
先行技術で記載されているジルコニア材料のBET表面Sは、典型的には、2〜9m/gの範囲内である。
【0149】
したがって、本テキストに記載されている多孔質ジルコニア物品は、独特な混合特徴を有し、これが、特に半透明性に関して高度に審美的なセラミック物品の製造を容易にする。
【0150】
本テキストに記載されているジルコニア物品中のジルコニア粒子の平均粒径は、市販のミルブランクの材料の平均粒度に比べて小さい。
【0151】
小さい粒径は、これがより均一な(化学的視点から)材料に導き、このことがまた、より均一な物理的特性をもたらす場合があるという点で有益であり得る。
【0152】
x、y及びz寸法についての有用な範囲として、約5〜約300nm又は約10〜約200nmが挙げられる。
【0153】
多孔質ジルコニア物品は、加工装置によって機械加工されるために好適な寸法を有する。
【0154】
更に、多孔質ジルコニア物品は、研削又はミリング工具によって、この物品を機械加工するのに好適な曲げ強度及び/又はビッカース硬さを有する。
【0155】
多孔質ジルコニア物品の材料の平均連結孔径は、市販のミルブランク(典型的には、約200nmを超える平均連結孔径を有する)の材料の孔径と比べると低い。
【0156】
この範囲内の平均連結孔径は、これがジルコニア物品の細孔への本発明の溶液の非常に均一な分布を容易にするという点で有益であり得る。
【0157】
小さい孔径はまた、典型的に、比較的大きな内表面及び/又は比較的高い表面エネルギーをもたらす。大きな内表面は、物品の収着特性を改良する場合がある。
【0158】
しかしながら、大きな内表面は、多孔質ジルコニア物品を処理するために使用される溶液の組成及び物理的特性の調整を頻繁に必要とする。
【0159】
所望される場合、上記特徴は、「実施例」の項で説明される通りに測定することができる。
【0160】
一実施形態によると、多孔質ジルコニア物品は、次の特徴の少なくとも1つにより特徴付けることができる:
○ ZrO2含量:約70〜約98モル%又は約80〜約97モル%;
○ HfO2含量:約0〜約2モル%又は約0.1〜約1.8モル%;
○ Y2O3含量:約1〜約15モル%又は約1.5〜約10モル%又は約2〜約5モル%;
○ Al2O3含量:約0〜約1モル%又は約0.005〜約0.5モル%又は約0.01〜約0.1モル%。
【0161】
更なる実施形態によると、多孔質ジルコニア物品は、次に特徴により特徴付けられる組成を有する:
○ ZrO2含量:約90〜約98モル%、
○ HfO2含量:約0〜約2モル%、
○ Y2O3含量:約1〜約5モル%、
○ Al2O3含量:約0〜約0.1モル%。
【0162】
より高いY含量は、典型的には、材料を最終密度に焼成した後に、ジルコニアセラミック材料の中の立方晶系結晶相の増加に導くことが判明した。立方晶系結晶相の高含量は、より良好な半透明性に寄与することができる。
【0163】
特定の実施形態によると、多孔質ジルコニア物品は、次の特徴により特徴付けることができる:
・IUPAC分類に従うIV型等温線によるN吸着及び/又は脱着を示すこと、
・0.70〜0.95のp/p範囲でヒステリシスループを伴うN吸着及び脱着の等温線を示すこと、
・平均連結孔径:約15〜約60、
・平均粒径:約100nm未満、
・BET表面:約15〜約100m/g又は約16〜約60m/g、
・2軸曲げ強度:約10〜約40MPa、
・x、y、z寸法;少なくとも約5mm、
・ビッカース硬さ:約25〜約150、
・密度:理論的密度の約40%〜約60%。
【0164】
別の実施形態によると、多孔質ジルコニア物品は、ジルコニアエアロゲルを熱処理する工程を含むプロセスによって得ることができる。
【0165】
ジルコニアエアロゲルは、典型的には、次の特徴の少なくとも1つにより特徴付けることができる:
a.2nm〜50nm又は約2nm〜約30nm又は約2〜約20又は約2〜約15nmの範囲の平均主要粒径を有する結晶質ジルコニア粒子を含むこと;
b.結晶質ジルコニア粒子の含量:少なくとも約85モル%;
c.少なくとも3重量%又は約3〜約10重量%の範囲内の有機含量を有すること;
d.x、y、zの寸法:少なくとも約5mm又は少なくとも約8mm又は約10mm若しくは少なくとも約20mm。
【0166】
特徴(a)及び(b)又は(a)及び(c)若しくは(a)、(b)及び(c)の組み合わせが好ましい場合がある。
【0167】
多孔質ジルコニア物品を得るための熱処理は、典型的には、次の条件下で実施される:
・温度:約900〜約1100℃又は約950〜約1090℃;約1000〜約1080℃;
・雰囲気:空気又は不活性ガス(例えば、窒素、アルゴン);
・持続時間:約40〜約60の密度の材料の最終密度に到達するまで。
【0168】
熱処理は、1又は2以上の工程で行うことができる。
【0169】
第1の熱処理工程では、全ての有機添加剤を前の工程から除去し、いわゆる「ホワイトボディ」を得るために、結合剤の焼損を実施することができる。
【0170】
第2の熱処理工程では、ホワイトボディの強度及び/又は硬度が、機械加工のような対従プロセスのニーズに調整され得る。機械加工可能なブランクの場合、焼結プロトコルは、温度と強度及び/又は硬度との相互作用を反映するべきである。
【0171】
この温度が低すぎる場合には、結果として生じる物品の硬度及び/又は強度が低過ぎる場合がある。このことは、例えば、チッピングに関するなど、後の機械加工工程の際に問題を引き起こす可能性がある。
【0172】
これに反して、温度が高すぎる場合には、材料の硬度及び/又は強度が高くなりすぎることがある。このことは、例えば、機械加工工具の耐久性に関して、後の機械加工工程の際に十分に問題を引き起こす可能性がある。
【0173】
滞在時間(これは、エアロゲルがこの温度で保持される時間である)は、それほど重要ではない。滞在時間は0である場合もある。しかしながら、滞在時間は、約0〜約24時間又は約0.1〜約5時間の範囲でもあり得る。
【0174】
滞在時間が余りに長すぎる場合、歯科用ミリングブロックは、正当な条件下で機械加工されるために硬くなりすぎることもある。
【0175】
一実施形態によると、多孔質ジルコニア物品は、次の工程を含む方法により得ることができる:
・金属酸化物結晶粒子及び溶媒を含むジルコニアゾルを用意する工程;
・所望により、ジルコニアゾルを濃縮して、濃縮ジルコニアゾルを用意する工程;
・ゾルと重合性有機マトリックスを混合する工程(例えば、ジルコニアゾルに反応性表面改質剤を加える。所望により、開始剤はジルコニアゾルの重合性表面改質粒子であってよい);
・所望により、ジルコニアゾルを型に流し入れ、成形ジルコニアゾルを用意する工程;
・ジルコニアゾルの重合性有機マトリックスを硬化させてゲルを形成する工程(しばしばゲル化工程と呼ばれる);
・ゲルから溶媒を除去して(例えば、まず、存在する場合には、溶媒交換法によりゲルから水を除去し、少なくとも一部脱水されたゲルを用意し、続いて更なる抽出工程により、例えば、超臨界抽出により、残存する溶媒を抽出する)、エアロゲルを調製する工程;
・所望により、エアロゲルより小さな塊に切り出す工程;
・エアロゲルを熱処理して、例えば、機械加工可能な材料又は物品を得る工程。
【0176】
本テキストに記載されている部品キット内に含まれ得る塗布装置としては、ブラシ、スポンジ、(中空の)針、ペン、及び混合用器具が挙げられる。
【0177】
混合用器具の例としては、混合溶液溜め、トレイ、プレート及びスライドが挙げられる。
【0178】
一実施形態によると、溶液は、ペンによってジルコニア物品の表面に塗布され、このペンは、ハウジング、ブラシ先端部、取り外し可能なキャップ及び本テキストに記載されている非水系溶液を格納するための容器を備える。
【0179】
ブラシ先端部は、典型的には、ハウジングの前端に取り付けられるか固定される。容器は、典型的には、ハウジングの後端に固定されるか取り付けられる。取り外し可能なキャップは、典型的には、保管中にブラシ先端部を保護するために使用される。
【0180】
ペンを使用することは、溶液の塗布を容易にすることができ、施術者が時間を短縮することを補助するであろう。
【0181】
現在、着色溶液は、通常、ボトル内に提供され、別個のブラシで又はセラミック全体を着色溶液中に浸漬させることによっても多孔質セラミックスに塗布される。これは、しばしば、着色溶液の浪費を伴う。ペンを使用することで、着色溶液の浪費は実質的に起こらないであろう。
【0182】
更に、キャップを備えるペンは、これが使用されない場合、ペンが乾燥してしまうことを防止するであろう。
【0183】
個々の着色溶液用に個々のペンを用意することは、1又は複数の多孔質歯科用セラミックの表面への組成物の塗布を容易にすることができる。今までは、通常、1本のブラシが使用され、他の着色溶液が塗布される前に、このブラシは十分に洗浄されねばならなかった。
【0184】
しかしながら、1色用に1本のペンが用意されれば、塗布プロセス中に色を交換することは非常に容易であり、歯科技術者にとってより時間の節約になり、一方この種の装置を使用する異なる色の混合は、セラミック表面への異なる色のその後の塗布によって更に可能である。
【0185】
容器の容積は、約1ml〜約10ml又は約2ml〜約5mlの範囲であってもよい。
【0186】
この容器は、取り外し可能であってもよく、又はペンのハウジングに固定されてもよい。
【0187】
一実施形態によると、この容器は交換可能である。この交換可能な容器は、カートリッジ又はビュレットの形状を有してもよい。
【0188】
ブラシ先端部は、典型的には毛を備える。毛の材料は、人工材料又は天然材料からつくられ、又はこれらから選択されることができる。人工材料としては、ポリアミド(ナイロン)、ポリエステル及びこれらの混合物が挙げられる。天然材料としては、通常、種々の動物の体毛が挙げられる。ブラシ先端部は、取り外し可能又は交換可能であってもよい。
【0189】
ペンから延びるブラシ先端部の長さは、典型的には、約5〜20mm又は約8〜15mmの範囲内である。この毛が短すぎるならば、歯科用修復物の内側への溶液の塗布が難しい場合がある。これに反して、毛が長すぎるならば、ブラシそれ自体の取り扱いが、歯科用途に実際的ではない場合もある。
【0190】
ブラシ先端部のその基部における厚さは、典型的には、約0.3〜約5mm又は約1〜約4mmの範囲である。先端部が広すぎるならば、歯科用修復物の内側への溶液の塗布が難しい場合がある。これに反して、毛が長すぎるならば、ブラシそれ自体の取り扱いが、歯科用途に実際的ではない場合もある。
【0191】
更に、ブラシ先端部の長さ及び厚さが短すぎる(薄すぎる)又は長すぎる(厚すぎる)のいずれかであるならば、溶液を適切に塗布することが難しく、すなわち、少なすぎる又は多すぎる溶液のいずれかが塗布されることになる。この双方ともに、正確に着色された歯科用セラミックを達成するために悪影響を及ぼし得る。
【0192】
ブラシ先端部の形状は、圧力が印加される場合、所望される場合、テーパ形状及びファンアウト(扇形に広がる)であるべきである。したがって、ブラシ先端部は、幾分の可撓性を有するべきである。これらの特性を有するブラシ先端部は、細い線を引くために並びにより大きな面積を塗るためにも使用することができる。
【0193】
約8〜約15mmの長さを有する毛を備えるブラシ先端部と約200mPasを超える又は約500mpasを超える粘度(23℃で測定)を有する本テキストに記載されている溶液との組み合わせは有益であることが判明した。かかる組み合わせは、1又は複数の多孔質歯科用セラミックの表面上の溶液の正確な塗布を容易にする。
【0194】
したがって、本発明は、溶液を含む本テキストに記載されているペンも目的とする。
【0195】
この溶液は、典型的には、ジルコニア物品の表面のパーツへ、特に歯科用物品へ選択的に塗布されるために使用される。すなわち、この溶液は、物品の表面のパーツにのみ塗布されるが、通常、表面全体には塗布されない。市販の着色液とは対照的に、物品は、本発明の溶液に完全には浸漬されない。
【0196】
更に、この溶液は、ジルコニアの乾燥した表面に塗布され得るのみならず、湿った表面にも、特に予備焼結済ジルコニア歯科用物品にも塗布され得る。
【0197】
本発明はまた、ジルコニア物品の半透明性を改良するための方法を目的とし、方法は、
・本テキストに記載されている多孔質ジルコニア物品と、本テキストに記載されている溶液を用意する工程と、
・多孔質ジルコニア物品の外側表面の少なくとも一部に溶液を塗布する工程と、
・所望により、前の工程の多孔質ジルコニア物品を乾燥させる工程と、
・多孔質ジルコニア物品を焼結して、ジルコニアセラミック物品を得る工程とを含む。
【0198】
この多孔質ジルコニア物品は、典型的には、予備焼結済段階にある。かかる物品は、通常、開放孔を有し、したがって、吸収剤として説明することができる。
【0199】
多孔質ジルコニア物品の表面に溶液を選択的に塗布することは、通常、例えばブラシを使用して塗ることによって達成される。しかしながら、溶液はまた、スポンジ、布地、ブラシ−ペンを使用することによって、又はスプレー装置(上記により詳細に記載)によって、塗布されることもできる。
【0200】
処理されたジルコニア物品の乾燥は必要不可欠ではないが、焼成に必要とされる時間を削減するため及び望ましくない不均質な色効果を防止するために、好ましいことがある。乾燥は、周囲条件下で数時間(約1〜約3時間)にわたって、例えばプレート上でジルコニア物品をただ保存することにより、作用を発揮できる。しかしながら、高沸点溶媒が使用されるならば、乾燥は達成することが難しい場合もある。
【0201】
一実施形態によると、ジルコニアセラミック物品は、歯科用セラミック物品の形状を有する。
【0202】
歯科用セラミック物品は、クラウン、ブリッジ、インレー、オンレー、ベニヤ、前装、根面板、複製歯冠及び架橋骨格、インプラント、橋脚歯、歯科矯正装置(例えば、ブラケット、バッカルチューブ、クリート及びボタン)及びこれらの一部並びにこれらの部品の形状を有してもよい。
【0203】
一実施形態によると、この溶液は、歯科用修復物の切縁の区域に塗布されるにすぎない。
【0204】
別の実施形態によると、歯科用セラミック物品は、少なくとも2つのセクション、すなわちセクションA及びセクションBを有することができ、セクションAは、本テキストに記載されている溶液で処理されていて、セクションBは、本テキストに記載されている溶液で処理されていない。
【0205】
本発明はまた、本テキストに記載されているプロセスにより得られる又は得られたジルコニア物品を目的とする。かかる物品は、典型的には、物品の他のセクションよりも半透明であるセクションを含むことにより特徴付けられる。
【0206】
焼結済ジルコニアセラミック物品を得るための熱処理は、典型的には、次の条件下で実施される:
・温度:約900〜約1500℃又は約1000〜約1400℃約又は1100〜1350℃又は約1200〜約1400℃若しくは約1300℃以上〜約1400℃又は約1320℃以上〜約1400℃又は約1340℃以上又は約1350℃以上;
・雰囲気:空気又は不活性ガス(例えば、窒素、アルゴン);
・圧力:周囲気圧;
・持続時間:材料の最終密度の約95〜約100%の密度に到達するまで。
【0207】
滞在時間(すなわち、物品がこの温度で保持される間の時間)は、それほど重要ではない。滞在時間は0である場合もある。しかしながら、滞在時間は、約0〜約24時間又は約0.1〜約5時間の範囲であることも可能である。
【0208】
本発明はまた、焼結後にジルコニア物品(例えば、少なくともそのセクション)の半透明性を改良するための本テキストに記載されている溶液の使用を目的とし、あるいは、ジルコニア物品の半透明性を改良するためのプロセスを目的とし、このプロセスは、ジルコニア物品の少なくとも一部にこの溶液を塗布する工程と、このジルコニア物品を焼結する工程とを含む。
【0209】
本発明の溶液は、典型的には、生体組織において毒性応答、有害応答、又は免疫応答を生じる可能性がある構成成分、若しくは特に焼結済セラミックにおいて本発明によって達成されることになる意図される目的を損なう構成成分又は添加剤を含有しない。
【0210】
したがって、例えば、非歯着色物品を最終的にもたらす(例えば、焼結工程後に)量で添加される構成成分又は添加剤は、通常、最終歯科用修復物中には含有されない。一般的に、物品は、これが、当業者に既知であるVita(商標)カラーコードシステムから割り当てられることができるならば、着色された歯として特徴付けられる。
【0211】
溶液はまた、典型的には、不溶性の色素若しくはシリカ(例えば、エロジール)等の不溶性の添加剤又は増粘剤を含まない。
【0212】
更に、可能であれば、この溶液は、焼結プロセス中に焼成装置に有害であり得る成分を含むべきではなく、又はこの少量の成分のみを含むべきである。
【0213】
更なる実施形態によると、本発明の溶液は、ガラス又はガラス/セラミック粒子を含有しない。
【0214】
本テキストに記載されている溶液で処理され得るジルコニア材料の製造は、典型的には、熱間静水圧圧縮成形工程(HIP)の適用も必要としない。
【0215】
本明細書に引用される特許、特許文献、及び刊行物の完全な開示内容を、あたかもそれぞれが個々に組み込まれたのと同様に、それらの全体を参照により組み込むものである。
【0216】
以下の実施例は例示のために与えられるが、本発明の範囲を限定するものではない。
【実施例】
【0217】
指示がない限り、全ての部及びパーセントは重量基準であり、全ての水は脱イオン水であり、全ての分子量は重量平均分子量である。更に、特に指示がない限り、全ての実施例は、周囲条件(23℃、1013mbar(101300Pa))下で行った。
【0218】
測定法
pH値
所望される場合、pH値の測定は、当業者に既知の手段によって達成することができる。例えば、メトローム(Metrohm)(商標)826のような装置又はpH試験紙(pH indicator paper)を使用できる。
【0219】
粘度
所望される場合、粘度の測定は、次のように行うことができる:ビスコシメータMCR300(ANTON Paar Comp.から)を使用する。組成物の一部を、23℃の温度で、8mmの直径及び1mmの隙間を有する2つのスチールディスクの間に配置する。この隙間を組成物で完全に満たす。過剰な組成物を除去する。回転ディスクの間のせん断速度d(γ)/dtを50s−1に一定にセットする。組成物のせん断変換プロセスを開始後500秒で行う。
【0220】
吸収[nm]
吸収を、パルスキセノン光源、D65校正済み照明を使用して、d/8°の光学配置で、フォトスペクトロメータColor i7(X−Rite Corp)を用いて測定し、10nmの波長区間を有する360nmと750nmとの間のスペクトル範囲を記録した。この測定については、透過モードを使用した。色評価は、10°オブザーバ、正反射及び紫外線照射の包含演算で構成された。1mmのチャンバ厚さを有する石英ガラスキュベットを使用した。スペクトロの校正モードは、ライト上及びダーク上についての拡張した測定値を含まねばならない。したがって、キュベットは空であった。
【0221】
着色測定については、キュベットが溶液で満たされた。
【0222】
光線の透過率について、360nmと750nmの間のスペクトルを記録した。このスペクトルが、脱イオン水のスペクトルと比較された。比較されるとは、「(測定スペクトル/水スペクトル)100」を意味する。特定の波長における吸収は、「100−透過率」である。
【0223】
コントラスト比透過率(CR−T)
CR−T値は、コントラスト法を使用する透明性である。
【0224】
吸収測定値から、CR−Tは、ライトバッキング測定値に対するダークバッキング測定値の比で数式を使用するソフトウェアにより、自動的に測定することができる。脱イオン水のCR−Tに比較した測定された溶液のCR−T値に100を乗じて、透明性を得る。CR−Tが高くなるほど、溶液の透明性はより高い。
【0225】
N2収着等温線、BET表面積、細孔体積、平均連結孔径の測定方法
試料に対し、QUANTACHROME AUTOSORB−1 BET解析器(Quantachrome Instruments(Boynton Beach,FL))又はBELSORP−mini(BEL Japan Inc.,大阪、日本)による測定を行った。試料を計量し、200℃で2日間脱気した後、適切な回数及び測定時点分布でN2吸着工程を行った(例えば、1×10〜1のP/P範囲で55回の吸着時点及び20回の吸着時点を設定し、0.05に戻し、完全な等温線を得る)。比表面積SはBET法により算出した(算出法の詳細についてはAutosorb−1 Operating Manual Ver.1.51 IV.Theory and Discussion,Quantachrome Instruments,Incを参照されたい)。総細孔体積Vliqは、相対圧力下での吸着蒸気量に由来するものであり、細孔は次に液体吸着剤により充填されるものと仮定することで、ほぼ単一になる(P/Pは1に最も近い)(算出法の詳細についてはAutosorb−1 Operating Manual Ver.1.51 IV.Theory and Discussion,Quantachrome Instruments,Inc.を参照されたい)。平均孔径(d)は、表面積(S)及び総細孔体積(Vliq):
【0226】
【数1】
から算定される。
【0227】
平均粒径
所望される場合、平均粒径は、線切片解析を用いて決定することができる。
【0228】
70,000倍率のFESEM顕微鏡写真を、グレイン寸法測定に使用する。焼結体の異なる領域を撮った3つ又は4つの顕微鏡写真を、それぞれの試料に使用する。それぞれの顕微鏡写真の高さにわたってほぼ等しい間隔で離間した10本の横線を描く。それぞれの線上で観察されたグレイン境界切片の数を計上し、切片間の平均距離を計算する。それぞれの線の平均距離に1.56を乗じてグレイン寸法を決定し、この値を、それぞれの試料のすべての顕微鏡写真におけるすべての線にわたって平均化する。
【0229】
密度
所望される場合、予備焼結済又は焼結済材料の密度は、アルキメデス法によって測定することができる。密度測定キット(Mettler Instrument Corp.からの「ME 33360」と確認)を使用して、精密天秤(Mettler Instrument Corp.(Hightstown,NJ)からの「AE 160」と確認)で測定を行う。
【0230】
予備焼結済材料の密度を測定するために、試料を先ず空気中で計量する(A)。次いで、真空を用いて、試料を一晩水中に浸す(B)。浸した試料を空気中で計量し(B)、次いで水中で計量する(C)。水は蒸留し、脱イオン化する。250mLの水に、湿潤剤(商品名「TERGITOL−TMN−6」でDow Chemical Co.(Danbury,CT)から入手)を1滴加える。式ρ=(A/(B−C))ρ0を使用して、密度を算出する。式中、ρ0は水の密度である。
【0231】
焼結済材料の密度を測定するために、試料を先ず空気中で計量し(A)、次いで水中に浸す(B)。水は蒸留し、脱イオン化する。250mLの水に、湿潤剤(商品名「TERGITOL−TMN−6」でDow Chemical Co.(Danbury,CT)から入手)を1滴加える。式ρ=(A/(A−B))ρ0を使用して、密度を算出する。式中、ρ0は水の密度である。
【0232】
物質の理論密度(ρt)を参照することで、相対密度を算出することができる。ρrel=(ρ/ρt)100。
【0233】
ビッカース硬さ
所望される場合、ビッカース硬さは、次の変更を用いてISO 843−4に従って測定することができる:試料の表面を、炭化ケイ素研磨紙(P400及びP1200)を使用して研削する。試験荷重を、試料の硬度レベルに調整する。使用された試験荷重は0.2kgと2kgの間であり、各凹み(indentation)に15秒間加えられた。最小限10個の凹みを測定し、平均ビッカース硬さを決定する。この試験は、硬度計Leco M−400−G(Leco Instrumente GmbH)で行うことができる。
【0234】
2軸曲げ強度
所望される場合、2軸曲げ強度は、次の変更でISO 6872(2008)に従って測定することができる:乾式又は湿式カットソーを使用して、試料を1〜2mmの厚さを有するウェハーに切断する。試料の直径は、12mmと20mmの間でなければならない。各ウェハーを3つのスチールボールの支持体上の中心に持っていく。支持体の直径は、試料の直径に応じ、最大で14mmを有さねばならず、試料直径よりも少なくとも1mm小さくなくてはならない。ウェハーと接触させるパンチの直径は3.6mmである。0.1mm/分の速度で、パンチをウェハー上に押す。平均強度を求める際には、最低6試料を測定する。この試験は、インストロン5566自在試験機(Instron Deutschland GmbH)で行うことができる。
【0235】
固体重量パーセントの測定法
固体重量パーセントは、3〜6グラムの重量の試料を120℃で30分間乾燥することにより求めた。パーセント固形分は、以下の式を使用し湿潤試料(すなわち、乾燥前の重量、重量湿潤)と乾燥試料(すなわち、乾燥後の重量、重量乾燥)から計算することができる:重量%固体=100(重量乾燥)/重量湿潤
【0236】
固体の酸化物含量の測定方法
ゾル試料の酸化物含量は、「固体重量パーセントの測定法」に記載の通りに固体含量(パーセント)を測定し、次に本項に記載の通りにこれらの固体の酸化物含量を測定することにより求められる。
【0237】
固体の酸化物含量は、熱重量測定法により測定した(商品名「TGA Q500」としてTA Instruments(New Castle,DE)から得た)。固体(約50mg)をTGAに充填し、温度を900℃に設定した。固体の酸化物含量は、900℃まで加熱した後の残留重量に相当する。
【0238】
金属酸化物体積パーセント
収縮データを使用して逆算し、かつ最終的な焼成ボディを1cm角の立方体(密度100%)であると仮定して、エアロゲル又は焼成金属酸化物中に存在する酸化物の体積パーセントを求めた。したがって、エアロゲル又は焼成金属酸化物の総体積は、(Vt)=[1/(1−S)]となり、式中、Sは、エアロゲル又は焼成状態から最終的な焼成材料への収縮率である。金属酸化物の体積は、収縮立方体の体積(V)=1とする。金属酸化物のパーセント(体積%)=(1/V)100。
【0239】
コントラスト比反射率(CR−R)
CR−R値は、コントラスト比法を用いる不透明度である。
【0240】
CR−Rを、パルスキセノン光源、D65校正済み照明を使用して、d/8°の光学配置で、フォトスペクトロメータColor i7(X−Rite Corp)を用いて記録し、ここでは、10nmの波長区間を有する360nmと750nmとの間のスペクトル範囲を記録した。この測定については、10mmの開口を用いる反射率モードを使用した。色評価は、10°オブザーバ、正反射の排除演算及び紫外線照射の包含演算で構成された。
【0241】
このCR−R値を使用するために、スペクトロの校正モードは、ライト上及びダーク上にわたる拡張測定を含まねばならない。次いで、試料は、ライトバッキング及びダークバッキングの双方を用いて測定されねばならない。CR−Rの算定は、ライトバッキング測定値に対するダークバッキングの比における式を用いる、ソフトウェアによって自動的に行われる。
【0242】
CR−Rは、百分率として表される。CR−Rのレベルがより高くなるほど、材料がより不透明であり、CR−Rのレベルが低くなるほど、材料がより半透明である。
【0243】
使用材料
【0244】
【表1】
【0245】
ZrO(88mol%)/Y(12モル%)ゾル(ゾルC1)の調製
ゾル組成物は、モルパーセントの無機酸化物で報告される。ゾルC1を、次のように調製した。全ての他のゾルも、同様な装置で同様な方法によって調製した。
【0246】
15メートルの平滑なステンレス鋼編組チューブ・ホース(内径0.64cm、壁厚0.17cm;商品名「DUPONT T62 CHEMFLUOR PTFE」でSaint−Gobain Performance Plastics(Beaverton,MI)から入手)から熱水反応器を用意した。この管を、所望の温度に加熱したピーナッツ油の浴槽内に浸した。反応チューブの後には、更に3メートルの平滑なステンレス鋼編組チューブ・ホース(「DUPONT T62 CHEMFLUOR PTFE」;内径0.64cm、壁厚0.17cm)に加え3メートルのステンレス鋼チューブ(直径0.64cmかつ壁厚0.089cm)が続いた。これらのチューブは、材料を冷却するために氷浴に浸漬けられ、背圧制御弁を使用して排出圧を2.76MPaに維持された。
【0247】
酢酸ジルコニア溶液(2.000グラム)を脱イオン水(2205.3グラム)と混合し、前駆溶液を調製した。完全に溶解するまで、混合しながら酢酸イットリウム(327.8グラム)を加えた。得られた溶液の固体含量を重量測定(120℃/時間;強制対流式オーブン)により測定したところ、22.16重量%であった。脱イオン水(718グラム)を加えて、最終濃度を19重量%に調整した。この手順を3回繰り返し、計約15.115グラムの前駆材料を得た。得られた溶液を、熱水反応器を通して11.48mL/分で揚送した。温度は225℃であり、平均滞留時間は42分間であった。透明かつ安定したジルコニアゾルを得た。
【0248】
表2は、ゾルC1と同様に製造した他のゾルに関し使用した組成及び加工条件の要約である。
【0249】
【表2】
【0250】
ゾル濃度及び膜分離精製
得られたゾルを、まずは膜カートリッジ(商品名「M21S−100−01P」でSpectrum Laboratories Inc.(Rancho Dominguez,CA)から入手)を使用して限外濾過を行い、次に同じ膜カートリッジを使用して一定体積膜分離精製(constant volume diafiltration)を行い濃縮した(20〜35重量%固体)。得られたゾルに対し、次に回転蒸発を行い更に濃縮した。
【0251】
ゲルの調製
ゾルを混合して所望の酸化物組成を得て、膜分離精製法、蒸留又はこれらの組み合わせを介して酸化物、酢酸及び溶媒組成を調整することによって、ゲルを調製した。アクリル酸、2−ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)及び反応開始剤を加え、このゾルを成形型に配置し、50℃で4時間にわたって熱硬化させた。典型的な手順は以下のG1に提示されている。全てのゲルの組成は、表3に提示されている(溶媒は、水及びメタノールからなる)。
【0252】
実施例G1
ゾルC1(上記の通りに調製し及び限外濾過し及び濃縮したもの、30.4重量%酸化物及び3.02重量%酢酸)の試料141.1グラム及びゾルT2(上記の通りに調製し及び限外濾過し及び濃縮したもの、44.2重量%酸化物及び2.30重量%酢酸)の400グラムを1000mlの丸底フラスコに充填した。回転蒸発により水(133.3グラム)を除去し、粘稠で、若干乾燥した物質を得た。エタノール(121.2g)、アクリル酸(23.13g)、HEMA(11.8g)をこのフラスコに加えた。内容物を一晩撹拌し、半透明なゾル流体を得た。2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)(「VAZO 67」)(1.2グラム)を加え、溶解するまで撹拌した。次に、フラスコの内容物にNガスを21分間吹き込んだ。試料(半透明かつ低粘度)を円筒容器(29mm直径)に充填した。各容器は容積約18mLであり、各々両端を密閉した(頂部と液面との間には非常に僅かに空気間隙を残した)。試料を約1時間置いた後、炉に入れて硬化させた(50℃、4時間)これにより、透明感のある半透明な青色ゲルが得られた。このゲルを容器から取り出し、473mlの広口瓶中に配置させた(1つの瓶当たり3つのゲル)。この瓶をエタノール(275g、変性)で満たした。試料を24時間浸漬した後、次にエタノールを新しいエタノールと入れ替えた。試料を24時間浸漬し、次にエタノールを新しいエタノールと置き換えた(3回目)。超臨界抽出が得られるまで試料を浸漬した。上記の操作を行うことで、ゲルが空気に曝露される時間を最小限に抑えた。
【0253】
表3は、実施例G1と同様な方法で生成された他のゲルに関して使用したゲル生成条件の要約である。
【0254】
【表3】
【0255】
抽出方法
ゲルを超臨界抽出機に充填した。湿潤ZrO系ゲルを別個にエタノール浴から取り出し、計量し、それぞれ小さなキャンバスパウチの中に入れた後、別のエタノール浴に簡単に浸してから10Lの抽出容器内に入れた。実施例G1のいくつかのゲルの湿潤重量は、21.8グラム、22.7グラム及び22.4グラムであった。実施例G1のすべてのゲルの抽出のために、約3500mlのエタノール(200proof)を実験室規模超臨界流体抽出機ユニットの10L抽出機に入れた。湿潤ジルコニア系ゲルを含有するキャンバスバッグを、加熱され60℃で維持されたジャケット付き抽出容器の内部の液体エタノール中で湿潤ゲルが完全に浸されるように、エタノール浴から10Lの抽出機に移した。抽出容器の蓋を定位置に封止した後に、液化二酸化炭素を冷却したピストンポンプ(設定値:−12.5℃)によって揚送し、熱交換器を経てCOを60℃に加熱し、11.0MPaの内部圧に到達するまで10Lの抽出容器に入れた。これらの条件下では、二酸化炭素は超臨界である。抽出機の操作条件の11MPa及び60℃が満たされたなら、PID制御ニードルバルブの開閉により抽出容器の内圧を制御し、抽出機の廃液は多孔質316Lステンレス鋼フリットを通して排出させた後(Mott Corporationからモデル#1100S−5.480 DIA−.062−10−Aとして入手)、熱変換器を通過させて廃液を30℃に冷却し、最終的には、室温及び5.5MPa未満の圧力に維持した5Lのサイクロン式分離容器に回収した。この分離容器の中では、抽出したエタノール及び気体相CO2を分離し、抽出サイクル中回収し続け、リサイクル及びリユースした。10L抽出容器に7時間にわたって超臨界の二酸化炭素(scCO)を持続的に揚送した。7時間後に操作条件が整った。7時間の抽出サイクル後、60℃にて、抽出容器からサイクロン式分離器へとゆっくりと通気させて16時間かけて11MPaから大気圧にした後、蓋を開け、エアロゲルを入れた乾燥キャンバスパウチを取り出した。その後、キャンバスパウチから実施例G1の乾燥エアロゲルを取り出し、計量し、及びそれぞれ、ティッシュペーパーを詰めた237mlのガラス瓶に移して保管した。
【0256】
乾燥エアロゲルは、青みがかった色合いで半透明であった。実施例G1のエアロゲルの乾燥重量は、11.9g、12.4g及び12.2gであって、これは、45.4%、45.4%及び45.5%の超臨界抽出プロセス中の全重量喪失に相当する。
【0257】
実施例G2〜G4からのゲルを、実施例G1からのゲルと同様な方法で抽出した。
【0258】
焼損/脱結合剤プロセス
上記からの実施例G1の抽出したエアロゲル試料を、それらの閉じた容器から取り出し、酸化アルミニウムプレート上に設置し、酸化アルミニウムシリンダーで覆い、チャンバ炉(「Nabertherm 60リットル」)内で次の計画に従って焼成させた:i−:18℃/時間の速度で、20℃から220℃まで加熱する;ii−1℃/時間の速度で220℃から244℃まで加熱する;iii−6℃の速度で244℃から400℃まで加熱する;iv−60℃/時間の速度で400℃から900℃まで加熱する;v−900℃で2時間保持する;並びにvi−600℃/時間の速度で900℃から20℃まで冷却する。
【0259】
焼損プロセス後に、試料はクラックを有さなかった。実施例G1の脱結合剤処理試料を、約2.0mmの厚さのウェハーに薄切りした。所望により、スライシングは、予備焼結プロセス後に行うことができる。実施例G2〜G4で得た全てのエアロゲルを、実施例G1と同様な方法で脱結合剤処理した。
【0260】
予備焼結プロセス
実施例G1の脱結合剤処理ディスクを、酸化アルミニウムプレート上に設置し、チャンバ炉(「Nabertherm 60リットル」)内で次の計画に従って焼成させた:i−10℃/分の速度で20℃から900℃まで加熱する;ii−2℃/分の速度で900℃からTx℃まで加熱する;iii−Txでy時間にわたって保持する;並びにiv−1時間でTxから600℃まで冷却する。予備焼結工程は、炉が室温まで冷却されたときに終了した。
【0261】
表4は、実施例G1と同様な方法で生成された実施例G2〜G4のエアロゲルに関して使用した予備焼結工程条件の要約である。
【0262】
【表4】
【0263】
半透明性改良液
半透明性改良液の調製については、炭酸イットリウム水和物及び硝酸を使用した。先ず初めに、炭酸イットリウム水和物の酸化イットリウム含量を、熱重力測定解析(「NETZSCH STA 409 C/CD」)により測定した。この解析では、70.2ミリグラムの炭酸イットリウム水和物を、25℃から5℃/分にて1100℃まで加熱した。42.35%の重量喪失が測定され、これは57.65%の酸化イットリウムY)含量に相当する。
【0264】
実施例Y−1については、8グラムの炭酸イットリウム水和物を、18mlの硝酸と混合し、溶液が透明になるまで攪拌した。炭酸イットリウム水和物の重量及び硝酸の体積に起因して、この溶液は、2.26モル/lのイットリウムイオン濃度を有した(水和物及び炭酸塩損失が計算された)。
【0265】
表5は、実施例Y−1と同様な方法で生成された実施例Y2〜Y4に関して使用した半透明性改良液パラメータの要約である。
【0266】
【表5】
【0267】
浸漬/侵入手順
実施例G1−A−Eの予備焼結済ディスクを、上記記載の実施例Y−1の半透明性改良溶液で、2分間の浸漬時間で部分的又は完全に浸漬させた。その後、試料を空気中で乾燥させた。実施例G2〜G4の予備焼結済ディスクを、半透明性限界で特定の浸漬時間にわたって(双方ともに表6に概要を述べている)浸漬させた。
【0268】
焼結
実施例G1−A−Eの浸漬した予備焼結済ディスクを、チャンバ炉(「Nabertherm 1リットル」)内で次の計画に従って、完全な密度まで空気中で焼成した:i−600℃/時間で20℃から600℃まで加熱する;ii−600℃で1時間保持する;iii−600℃/時間で600℃から1000℃まで加熱する;120℃/時間で1000℃から1250℃まで加熱する;v−1250℃で2時間保持する;並びにvi−1時間で1250℃から600℃まで冷却する。実施例G2〜G4の予備焼結し浸漬したディスクを、表6に概要を述べる焼結温度における小さな変更で、実施例G1−A−Eと同様な方法で完全な密度まで焼結させた。
【0269】
実施例VII及びVIIIの比較については、市販のジルコニア材料を使用した。
【0270】
市販のLava(商標)Plus材料(#466760;3M ESPE)をディスク状に薄切りし、上記手順に従って、半透明性改良液で浸漬させた。焼結は、製造業者(3M ESPE)によって推奨されるLava(商標)Plusの標準焼結プロトコルに従って行った。
【0271】
結果
全ての試料は、異なるダイヤモンドペースト(例えば、初めに20μm、次いで9μmの粒径)を使用して、つや出し器(Fa.LECO)で、1.00mm(+/−0.05mm)の厚さまで研磨した。
【0272】
半透明性改良効果を分析するために、試料を人間の目によって観察することによって及び/又はコントラスト比が測定されることによってのいずれかで分析した。結果を表6に示す。
【0273】
【表6】
【0274】
【表7】
【0275】
図1では、実施例I(G1−C)により得られた試料の写真が示されている。半透明性改良溶液で処理された(浸漬され、乾燥されかつ焼結された)ディスクの区域は、半透明性改良溶液で処理されていない区域よりもより半透明である。
【0276】
図2では、上記試料G3について記載されているプロセスに従って生成された予備焼結済試料を分析するとき、ヒステリシスループ(IUPC分類による1型)が得られることを示している。本発明の実施態様の一部を以下の項目[1]−[15]に記載する。
[1]
部品キットであって、
−溶液と、
−多孔質ジルコニア物品と、
−所望により、塗布装置と、
を含み、前記溶液が、
−Y、Gd、La、Yb、Tm、Mg、Caのイオン及びこれらの混合物から選択される1又は複数の非着色剤の1又は複数のカチオンと、
−1又は複数の前記イオンのための1又は複数の溶媒と、
−所望により、1又は複数の錯化剤と、
−所望により、1又は複数の増粘剤と、
−所望により、1又は複数の有機マーカ物質と、
−所望により、1又は複数の添加剤と、
を含み、
前記多孔質ジルコニア物品が、IUPAC分類に従うIV型等温線によるN吸着及び/又は脱着を示す、部品キット。
[2]
項目1に記載の部品キットであって、前記多孔質ジルコニア物品が、次の特徴
−窒素吸着及び脱着挙動に関して分析される場合、ヒステリシスループを示すことと、
−IUPAC分類に従う、H1型のヒステリシスループを伴うN吸着及び脱着等温線を示すことと、
−0.70〜0.95のp/p範囲で、ヒステリシスループを伴うN吸着及び脱着等温線を示すことと、
−平均連結孔径が、約10〜約100nm又は約10〜約80nm又は約10〜約50nmであることと、
−平均粒径が、約100nm未満であることと、
−BET表面が、約10〜約200m/g又は約15〜約100m/g又は約16〜約60m/gであることと、
−2軸曲げ強度が、約10〜約40又は約15〜約30MPaであることと、
−x、y、z寸法が、少なくとも約5mm又は少なくとも約10mm又は少なくとも約20mmであることと、
−ビッカース硬さが、約25〜約150であることと、
のうちの少なくとも1つによって特徴付けられる、部品キット。
[3]
項目2に記載の部品キットであって、前記多孔質ジルコニア物品が、次の特徴
・ZrO含量が約70〜約98モル%であることと、
・HfO含量が、約0〜約2モル%であることと、
・Y含量が、約1〜約15モル%であることと、
・Al含量が、約0〜約1モル%であることと、
のうちの少なくとも1つによって特徴付けられる、部品キット。
[4]
前記多孔質ジルコニア物品が、ジルコニアエアロゲルを熱処理することによって得られたものである、項目1〜3のいずれか一項に記載の部品キット。
[5]
項目1〜4のいずれか一項に記載のキットであって、前記溶液が、次の特徴
−1又は複数の前記非着色剤の1又は複数の前記カチオンが、溶媒1L当たり約0.3〜約5モルの量存在することと、
−1又は複数の前記増粘剤が、約0〜約0.1重量%の量存在することと、
−1又は複数の前記錯化剤が、溶媒1L当たり約0〜約3モルの量存在することと、
−1又は複数の前記有機マーカ物質が、約0〜約5重量%の量存在することと、
−1又は複数の前記添加剤が、約0〜約5重量%の量存在することと、
のうちの少なくとも1つによって特徴付けられ、但し、重量%は、組成物全体の重量に関するものである、キット。
[6]
項目1〜5のいずれか一項に記載のキットであって、前記溶液が、次の特徴
−1又は複数の前記溶媒が、水、アルコール、ケトン及びこれらの混合物から選択されることと、
−存在する場合、1又は複数の前記錯化剤が、アセチルアセトネート、クラウンエーテル、クリプタンド、エチレンジアミントリアセテート及びその塩、エチレンジアミンテトラアセテート及びその塩、ニトリロトリアセテート及びその塩、クエン酸及びその塩、トリエチレンテトラアミン、ポルフィン、ポリアクリレート、ポリアスパラゲート、酸性ペプチド、フタロシアニン、サリチレート、グリシネート、ラクテート、プロピレンジアミン、アスコルベート、シュウ酸及びその塩並びにこれらの混合物から選択されることと、
−存在する場合、1又は複数の前記増粘剤が、1又は複数のポリオール、1又は複数のグリコールエーテル、1又は複数のジアルコール及びポリアルコール、グリセロールエーテル、1又は複数の多糖類、キサンタンガム、メチルセルロース及びこれらの混合物から選択されることと、
−存在する場合、1又は複数の前記有機マーカ物質が、食品着色剤及びこれらの混合物から選択されることと、
−存在する場合、1又は複数の前記添加剤が、1又は複数の緩衝剤、1又は複数の防腐剤、1又は複数の安定化剤及びこれらの混合物から選択されることと、
のうちの少なくとも1つによって特徴付けられる、キット。
[7]
項目1〜6のいずれか一項に記載のキットであって、前記溶液が、次の特徴
−0〜9の範囲のpH値を有することと、
−粘度が、約1〜約10,000mPasであることと、
−実質的に、約380〜約740nmの範囲で光吸収がないことと、
−約80%を超える光透過コントラスト比を示すことと、
−非着色であることと、
−保存安定性であることと、
のうちの少なくとも1つによって特徴付けられる、キット。
[8]
項目1〜7のいずれか一項に記載のキットであって、前記溶液が、少なくとも次の構成成分、
−前記溶液の重量に関して約2重量%を超える量のFe、Mn、Er、Pr、V、Cr、Co、Moのイオン及びこれらの混合物から選択される着色性イオンと、
−約2時間を超える保存の際に、前記溶液から沈殿する固体粒子と、
を含まない、キット。
[9]
ジルコニア物品の半透明性を改良するための方法であって、
−項目1〜8のいずれか一項に記載の多孔質ジルコニア物品及び項目1〜8のいずれか一項に記載の溶液を用意する工程と、
−前記溶液を、前記多孔質ジルコニア物品の前記外側表面の少なくとも一部に塗布する工程と、
−所望により、前述の工程の前記多孔質ジルコニア物品を乾燥させる工程と、
−前記多孔質ジルコニア物品を焼結してジルコニアセラミック物品を得る工程と、
を含む方法。
[10]
項目9に記載の方法によって得られるジルコニアセラミック物品。
[11]
前記ジルコニアセラミック物品が、歯科用セラミック物品の形状を有する、項目10に記載のジルコニアセラミック物品。
[12]
前記歯科用セラミック物品が、クラウン、ブリッジ、インレー、オンレー、ベニヤ、前装、根面板、複製歯冠及び架橋骨格、インプラント、橋脚歯、歯科矯正装置及びその部品の形状を有する、項目11に記載のジルコニアセラミック物品。
[13]
前記歯科用セラミック物品が、少なくとも2つのセクションA及びBを有し、セクションAが、項目1〜8のいずれか一項に記載の前記溶液で処理されたものであり、セクションBが、項目1〜8のいずれか一項に記載の前記溶液で処理されていないものである、項目12に記載のジルコニアセラミック物品。
[14]
ジルコニア物品の半透明性、特に項目12に記載されている歯科用セラミック物品の半透明性を改良するための、項目1〜8のいずれか一項に記載の前記溶液の使用。
[15]
項目14に記載の使用であって、前記ジルコニア物品が、焼結前に、次の特徴
−IUPAC分類に従うIV型の等温線によるN2吸着を示すことと、
−特に0.70〜0.95のp/p範囲で、IUPAC分類に従うH1型のヒステリシスループを伴うN2吸着及び脱着等温線を示すことと、
−平均連結孔径が、約10〜約100であることと、
−平均粒径が、約100nm未満であることと、
BET表面が約10〜約200m2/g又は約15〜約100m2/g又は約16〜約60m2/gであることと、
−2軸曲げ強度が、約10〜約40MPaであることと、
−x、y、z寸法が、少なくとも約5mmであることと、
−ビッカース硬さが、約25〜約150であることと、
−密度が、理論密度の約40%〜約60%であることと、
によって特徴付けられる、使用。
図1
図2