(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
先端に筒先部(22、97)を有する外筒本体(12、92)と、前記筒先部(22、97)に螺合により着脱可能に装着され、前記筒先部(22、97)の開口部(23b、98b)を封止するキャップ(14、94)とを備えたシリンジ用外筒(18、91)であって、
前記筒先部(22、97)は、前記筒先部(22、97)の基端部の外周面から径方向に突出形成された突出部(30、118)を有し、
前記キャップ(14、94)は、前記筒先部(22、97)の外周部を覆う筒状のカバー部(50、126)を有し、
前記カバー部(50、126)の基端側内周面(50a、126a)は、前記キャップ(14、94)を前記筒先部(22、97)に螺合させる際の前記キャップ(14、94)の回転軸心(a1、a2)からの距離(L1、L3)が、前記回転軸心(a1、a2)から前記突出部(30、118)の外端までの距離(L2、L4)よりも小さい小距離部(50b、126b)を有し、
前記カバー部(50、126)の前記小距離部(50b、126b)は、前記シリンジ用外筒(18、91)の製造過程において、前記突出部(30、118)が前記カバー部(50、126)の前記基端側内周面(50a、126a)の一部を外方に押し広げることにより、前記基端側内周面(50a、126a)の他の部分が内方に変形することによって形成され、前記筒先部(22、97)に前記キャップ(14、94)が装着された状態で、前記キャップ(14、94)の緩みを防止するように前記突出部(30、118)と係合している、
ことを特徴とするシリンジ用外筒(18、91)。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明に係るシリンジ用外筒及びプレフィルドシリンジについて好適な実施形態を挙げ、添付の図面を参照しながら説明する。
【0021】
図1は、本発明の第1実施形態に係るプレフィルドシリンジ10の斜視図である。
図2は、プレフィルドシリンジ10の分解斜視図である。
図3は、プレフィルドシリンジ10の縦断面図である。
図4は、プレフィルドシリンジ10の先端側の拡大縦断面図である。
【0022】
プレフィルドシリンジ10は、主たる構成要素として、筒先部22が設けられた筒状の外筒本体12と、外筒本体12の筒先部22を封止するキャップ14と、外筒本体12内を液密に摺動可能なガスケット16と、外筒本体12内に形成される充填室13に充填された薬剤Mとを備える。このプレフィルドシリンジ10では、外筒本体12とキャップ14とにより、シリンジ用外筒18が構成される。
【0023】
図2及び
図3に示すように、外筒本体12は、その主要部分を構成する胴体部20と、胴体部20の先端に設けられた筒先部22と、胴体部20の基端から径方向外方に突出形成されたフランジ24とを有する。筒先部22は、外筒本体12の先端部から、外筒本体12に対して縮径して先端方向に突出する。筒先部22は、オスルアー82(
図8B参照)が挿入及び接続可能なメスルアー23を形成する。メスルアー23は、先端方向に向かうに従って内径が増大するテーパ状の内周面23a(
図4参照)を有する。
【0024】
図2に示すように、メスルアー23の先端外周部には、キャップ14を着脱自在に固定する雄ネジ部26が設けられる。本実施形態において、雄ネジ部26は、外筒本体12の軸線を基準として互いに反対方向に突出した2つの係合突起27により構成される。さらに、メスルアー23の先端には、先端方向に突出し且つ外筒本体12の軸線を中心として周方向に延在するリング状の押圧部28が設けられる。当該押圧部28は、キャップ14がメスルアー23に固定(装着)された状態で、後述する封止部39を開口部23bに沿って一周押し潰す部分である。
【0025】
メスルアー23の基端側の外周面には、使用前においてキャップ14の緩みを防止するための突出部30が設けられる。本実施形態では、外筒本体12の軸線を基準として互いに反対方向に突出する一対の突出部30が設けられる。突出部30は、キャップ14がメスルアー23に固定された状態で後述するカバー部50の基端側内周面50aと係合する。これにより、突出部30は、メスルアー23に対するキャップ14の螺合が緩むことを防止する。なお、突出部30によるキャップ14の緩み防止機能については、キャップ14の具体的構成を説明した後に改めて説明する。突出部30は、メスルアー23の基端近傍、すなわち胴体部20の先端面20a(
図4参照)から若干だけ先端方向に離間した位置に設けられる。
【0026】
上記のように構成される外筒本体12の構成材料としては、例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリ塩化ビニル、ポリ−(4−メチルペンテン−1)、アクリル樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル、環状ポリオレフィンのような各種樹脂が挙げられるが、その中でも成形が容易で耐熱性があることから、ポリプロピレン、環状ポリオレフィンのような樹脂が好ましい。
【0027】
次に、メスルアー23に対して着脱可能に装着されるキャップ14の構成について説明する。
図2〜
図4に示すように、キャップ14は、メスルアー23の開口部23bを封止する弾性部材32と、弾性部材32を支持する本体部34とを有する。メスルアー23にキャップ14が装着された使用前の状態では、キャップ14によりメスルアー23の開口部23b(
図2参照)が液密に封止され、当該開口部23bから薬剤Mが漏れ出ないようになっている。
【0028】
弾性部材32は、本体部34内(後述する凹部42)に配置される。弾性部材32は、先端が開口すると共に基端が閉塞しキャップ14の軸方向に延在する筒状部36と、筒状部36の先端開口を囲み且つ径方向外方に突出するフランジ部38とを有する。弾性部材32は、筒状部36とフランジ部38とが切れ目なく一体成形されたものである。筒状部36は、メスルアー23内に挿入される挿入部37を形成する。フランジ部38は、メスルアー23の開口部23bを封止する封止部39を形成する。
【0029】
弾性部材32の構成材料としては、例えば、天然ゴム、ブチルゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、シリコーンゴムのような各種ゴム材料や、ポリウレタン系、ポリエステル系、ポリアミド系、オレフィン系、スチレン系等の各種熱可塑性エラストマー、あるいはそれらの混合物等が挙げられる。
【0030】
図4に示すように、キャップ14がメスルアー23に固定(装着)された状態で、挿入部37は、メスルアー23の内周面23aから離間する。すなわち、挿入部37の外径は、メスルアー23の内径よりも小さく、メスルアー23の内周面23aと挿入部37の外周面との間には、環状の隙間40が形成される。当該環状の隙間40は、外筒本体12の胴体部20の内部と連通する。
【0031】
また、キャップ14がメスルアー23に固定(装着)された状態で、封止部39は、メスルアー23の開口部23bに沿ってメスルアー23の先端面(押圧部28)に一周密着し、押圧部28によって先端方向に押し潰されて先端方向に凹んでいる。なお、自然状態での封止部39(押圧部28によって押し潰されていない状態の封止部39)の基端面は平坦である。
【0032】
キャップ14の本体部34は、弾性部材32よりも硬質な材料(例えば、上述した外筒本体12の構成材料として例示したもの)により構成され、基端方向に開口する凹部42が設けられる。具体的には、本体部34は、メスルアー23に設けられた雄ネジ部26と螺合する雌ネジ部44と、弾性部材32のフランジ部38を支持する支持部46と、本体部34に対する弾性部材32の相対回転を防止する回転防止部48と、メスルアー23の外周部を覆うカバー部50とを有する。なお、本体部34の外周面には、キャップ14を回転操作する際の滑り止め用の凹凸形状が形成されている。
【0033】
雌ネジ部44は、カバー部50の内周面に突出形成される。支持部46は、凹部42の底部外周側によって構成され、弾性部材32のフランジ部38が挿入及び保持される。回転防止部48は、凹部42の底部中央からキャップ14の軸線に沿って基端方向に突出する。支持部46の自由端(キャップ14の基端側の端部)は、本体部34の基端開口34aよりも先端側に位置する。
【0034】
回転防止部48は、弾性部材32の筒状部36内に挿入されると共に筒状部36の内周面36aと係合する。具体的には、
図5に示すように、回転防止部48は、キャップ14の軸方向に沿って延在する柱状部52と、柱状部52の外周面から外方に突出し且つ軸方向に延在する複数のリブ54とを有する。
【0035】
リブ54は、柱状部52の外周面において、周方向に間隔をおいて複数設けられる。
図4におけるVI−VI線に沿った横断面図である
図6に示すように、リブ54を有する回転防止部48が弾性部材32の筒状部36の内周面36aを凹凸状に弾性変形させた状態で、回転防止部48が筒状部36に嵌合する。これにより、本体部34に対する弾性部材32の相対回転が防止されている。
【0036】
なお、柱状部52に設けられるリブ54は、1つだけでもよく、この場合でも、本体部34に対する弾性部材32の相対回転の防止効果が得られる。また、弾性部材32の筒状部36の内周面36aに、軸方向に延在し且つ径方向内方に突出する内方リブを1つ又は周方向に間隔をおいて複数設けてもよい。この構成の場合、弾性部材32の内方リブが柱状部52のリブ54と係合するため、本体部34に対する弾性部材32の相対回転防止効果を一層高めることができる。回転防止部48は、リブ54が設けられる構成に限られず、軸方向に垂直な横断面での輪郭形状が非円形となる構成であればよい。回転防止部48の横断面での輪郭形状が非円形であれば、本体部34に対する弾性部材32の相対回転を防止することができる。
【0037】
図4に示すように、カバー部50は、キャップ14の基部56から基端方向に延出する。キャップ14がメスルアー23に固定された状態で、カバー部50は、メスルアー23の略全長を覆い、カバー部50の基端は、外筒本体12の胴体部20の先端面20aに近接する。カバー部50は、突出部30が設けられたメスルアー23と比較して薄肉且つ変形し易い。
【0038】
図4におけるVII−VII線に沿った横断面図である
図7に示すように、カバー部50の基端側内周面50aは、キャップ14を筒先部22に螺合させる際のキャップ14の回転軸心a1からの距離L1が、回転軸心a1から突出部30の外端までの距離L2よりも小さい小距離部50bを有する。本実施形態では、カバー部50の基端側内周面50aの横断面形状は、正確な円形ではなく、楕円形状(図中、矢印A方向に長軸を有する楕円形状)となっている。具体的には、メスルアー23に設けられた突出部30によってカバー部50の基端側内周面50aが径方向外方に押し広げられることにより、基端側内周面50aの他の部分が内方に変形することによって、小距離部50bが形成されている。本実施形態では、シリンジ用外筒18の製造前のカバー部50の基端側内周面50aは、カバー部50の軸線に対して垂直な断面形状が円形形状であるため、回転軸心a1を基準として互いに反対側の各箇所に小距離部50bが設けられる。従って、カバー部50の基端側内周面50aが楕円形状となっている。
【0039】
すなわち、本体部34が製造された時点でのカバー部50の基端側内周面50aの横断面形状は、
図7において二点鎖線で示すように円形形状(略真円)であるが、プレフィルドシリンジ10の製造工程において、外筒本体12にキャップ14が装着され、小距離部50bを有する楕円形状となる。この結果、カバー部50の基端側内周面50aで構成される非円形構造に、2つの突出部30で構成される非円形構造が係合するため、メスルアー23に対するキャップ14の緩み止め機能が発現する。具体的には、カバー部50の小距離部50bが突出部30と係合するため、キャップ14が緩みにくくなる。また、プレフィルドシリンジ10は、その製造工程において外筒本体12にキャップ14が装着された状態でオートクレーブ滅菌が施されている。このため、キャップ14がオートクレーブ滅菌に伴う高熱で熱変形し、突出部30によるカバー部50の基端側内周面50aの変形が定着する。これにより、カバー部50の基端側内周面50aがより確実に小距離部50bを有する楕円形状となる。なお、オートクレーブ滅菌を施さない場合でも、突出部30によるカバー部50の基端側内周面50aの変形は徐々に定着するため、カバー部50の基端側内周面50aは小距離部50bを有する楕円形状となり得る。
【0040】
また、カバー部50の小距離部50bと突出部30との係合力は、弾性部材32(具体的には封止部39)の弾発力に基づいてキャップ14に作用する回転力よりも大きい。これにより、キャップ14の緩みを確実に防止することができる。
【0041】
なお、メスルアー23に設けられる突出部30は、1つだけでもよく、この場合でも、製造工程においてカバー部50の基端側内周面50aの横断面形状を非円形にし、小距離部を形成することができる。また、突出部30を例えば、60°間隔で配置してもよく、この場合には、製造工程においてカバー部50の基端側内周面50aの横断面形状を三角形に近い形状(三角形の各頂点を丸くした形状)にし、小距離部を形成することができる。また、突出部30は、その外縁がメスルアー23の外周を一周する楕円形状となるように形成されていてもよい。この場合、楕円形状の突出部30の短軸の長さは、カバー部50の基端側内周面50aの直径よりも小さく、楕円形状の突出部30の長軸の長さは、カバー部50の基端側内周面50aの直径よりも大きい。これにより、製造工程においてカバー部50の基端側内周面50aの横断面形状を、突出部30の楕円形状と短軸及び長軸が揃った楕円形状にし、小距離部を形成することができる。
【0042】
次に、
図3を参照し、ガスケット16について説明する。ガスケット16は、外筒本体12内に挿入される。ガスケット16の先端面60は、先端に向かって細くなるテーパ形状である。ガスケット16の外周部には、軸方向に間隔をおいて複数(図示例では、2つ)のリング状のシール突起62が形成される。ガスケット16が外筒本体12内に挿入された状態で、シール突起62は外筒本体12の内周面に密着する。これにより、ガスケット16は、外筒本体12内を液密に摺動可能である。
【0043】
ガスケット16の外面には、外筒本体12の内周面に対する摺動抵抗を低減する被膜が形成されてもよい。このような被膜としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合樹脂(PFA)、四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合体(FEP)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等のフッ素系樹脂、ポリパラキシリレン、ダイヤモンドライクカーボン等が挙げられる。
【0044】
また、ガスケット16の外筒本体12に対する摺動抵抗を低減するため、外筒本体12の内周面又はガスケット16の外周面には、液体潤滑剤(例えば、シリコーンオイル等)が塗布されていてもよい。
【0045】
ガスケット16には、基端側に開口する嵌合凹部64が設けられる。嵌合凹部64の内周部には雌ネジ66が形成されており、嵌合凹部64は、図示しない押し子の先端部と螺合可能である。ガスケット16の構成材料としては、例えば、キャップ14の弾性部材32の構成材料として例示したものが挙げられる。
【0046】
なお、本実施形態に係るプレフィルドシリンジ10では、外筒本体12の基端部(フランジ24)に、ガスケット16が外筒本体12から基端方向に抜け出ることを防止するためのガスケットストッパ68が着脱可能に取り付けられる。
図2及び
図3に示すように、ガスケットストッパ68は、軸方向に貫通し且つ外筒本体12の胴体部20の内径よりも小径の孔部70が形成されたストッパプレート72と、外筒本体12のフランジ24に係合する側方が開放した半円状の係合プレート74とを有する。係合プレート74の内側に外筒本体12の胴体部20が挿入されると共に、ストッパプレート72と係合プレート74との間にフランジ24が挿入されることで、ガスケットストッパ68が外筒本体12の基端部に取り付けられる。
【0047】
次に、外筒本体12とガスケット16とキャップ14とによって規定される充填室13に充填される薬剤Mについて説明する。薬剤Mは、希釈側のプレフィルドシリンジ80(
図8B及び
図8C参照)内に充填される医療用液体L(具体的には、生理食塩水等の溶解液)に溶解・希釈するものであれば、粉末状薬剤、凍結乾燥薬剤、固形状薬剤、液状薬剤等、どのようなものであってもよい。
【0048】
このような薬剤Mとしては、例えば、タンパク製剤、抗腫瘍剤、ビタミン剤(総合ビタミン剤)、各種アミノ酸、ヘパリンのような抗血栓剤、インシュリン、抗生物質、鎮痛剤、強心剤、静注麻酔剤、医療用麻薬、抗パーキンソン剤、潰瘍治療剤、副腎皮質ホルモン剤、不整脈用剤等が挙げられる。
【0049】
本実施形態に係るシリンジ用外筒18及びプレフィルドシリンジ10は、基本的には以上のように構成されるものであり、以下、その作用及び効果について説明する。
【0050】
プレフィルドシリンジ10の製造工程においては、所定の清浄品質を得るために、オートクレーブ滅菌(高圧蒸気滅菌)を行う。このような滅菌処理の1つの手順としては、
図1及び
図3の状態に組み立てられたプレフィルドシリンジ10に対して、滅菌処理を行う。この滅菌処理によって、プレフィルドシリンジ10の外表面、ガスケット16の基端面及び嵌合凹部64、外筒本体12のガスケット16よりも基端側の内周面が、高温高圧の蒸気に晒され、滅菌がなされる。また、これらの部位だけでなく、充填室13を形成するシリンジ内面に対しても滅菌がなされる。
【0051】
すなわち、充填室13には薬剤Mが充填されているため、滅菌処理に伴う高温によって加熱された薬剤Mと接するシリンジ内面が滅菌され、また、充填室13内に薬剤未充填空間がある場合でも、薬剤Mの蒸気(薬剤Mが液体の場合)によってシリンジ内面が滅菌される。この場合、
図4に示すように、メスルアー23の内周面23aとキャップ14の挿入部37の外周面との間には、環状の隙間40が形成されているため、高温の薬剤M又は薬剤Mの蒸気が当該隙間40に入り込むことで、メスルアー23の内周面23aに対しても有効に滅菌がなされる。
【0052】
滅菌処理の別の手順としては、薬剤Mの充填及びガスケット16の挿入がなされる前の状態のシリンジ用外筒18に対して滅菌処理を行う。具体的には、外筒本体12に対してキャップ14を装着することによってシリンジ用外筒18を組み立てた後、当該シリンジ用外筒18に対してオートクレーブ滅菌を行う。この場合、メスルアー23の内周面23aとキャップ14の挿入部37との間には、環状の隙間40が形成されているため、高温蒸気が当該隙間40に入り込むことで、メスルアー23の内周面23aに対しても有効に滅菌がなされる。そして、滅菌処理後、無菌空間内(例えば、アイソレータ内)で、滅菌されたシリンジ用外筒18の外筒本体12内に薬剤Mを充填すると共に、ガスケット16を外筒本体12内に挿入し、最後にガスケットストッパ68を取り付ける。これにより、
図1に示したプレフィルドシリンジ10が完成する。
【0053】
カバー部50の基端側内周面50aの横断面形状は、上述したオートクレーブ滅菌時の熱によってカバー部50が熱変形することにより形成される。すなわち、オートクレーブ滅菌をする前のカバー部50の基端側内周面50aの横断面形状は、
図7において仮想線で示すように円形形状(略真円)である。しかし、オートクレーブ滅菌時、メスルアー23と比較して薄肉且つ変形し易いカバー部50が、突出部30によって矢印A方向の外側に向かって押圧力を受けた状態で、熱によって軟化し、熱変形する。この結果、滅菌処理後のカバー部50の基端側内周面50aは、
図7に示すように、ロックアダプタ100に設けられた2つの突出部30に適合する楕円形状となる。すなわち、突出部30とカバー部50との周方向の位置に無関係に、突出部30がカバー部50の一部を外方に押し広げるため、確実に基端側内周面50aの他の部分が内方に変形して小距離部50bが形成される。これにより、メスルアー23に対するキャップ14の緩み止め機能が発現する。
【0054】
次に、プレフィルドシリンジ10の操作方法(使用方法)について、主として
図3、
図8A〜
図8Cを参照して説明する。プレフィルドシリンジ10の使用前の状態においては、
図3に示すように、外筒本体12のメスルアー23にキャップ14が装着されている。この場合、プレフィルドシリンジ10では、弾性材料で形成された封止部39が、メスルアー23の先端面に一周密着しているため、メスルアー23の開口部23bが液密に封止されている。しかも、メスルアー23の先端に設けられた押圧部28が、封止部39を開口部23bに沿って一周押し潰しているため、押圧部28と封止部39とが十分に密着し、良好なシール性能が得られる。
【0055】
キャップ14がメスルアー23に装着された状態、すなわち押圧部28が封止部39を押し潰している状態では、封止部39の弾発力に基づき、キャップ14が緩む方向にキャップ14を回転させようとする力が作用する。プレフィルドシリンジ10の使用前にキャップ14が緩むと、薬剤Mが漏れ出る可能性がある。そこで、本実施形態では、メスルアー23の基端側の外周面に突出部30を設けることによって、使用前にキャップ14が緩むことを防止する構造としている。すなわち、滅菌処理時の熱変形に伴って非円形形状(楕円形状)となった本体部34(カバー部50)の小距離部50bに、メスルアー23の基端側の外周面に設けられた突出部30が精度よく係合している。このため、使用前におけるキャップ14の緩みが効果的に防止される。具体的には、小距離部50bがあることにより、キャップ14とメスルアー23との螺合が緩む方向にキャップ14を回転させようとすると、小距離部50bが突出部30を乗り越えるための抵抗が発生する。その結果として、キャップ14が緩みにくくなる。このように、小距離部50bは、緩み抵抗発生部として機能する。
【0056】
プレフィルドシリンジ10を使用する際には、
図8Aに示すように、キャップ14の開封を行う。具体的には、外筒本体12に対してキャップ14を所定方向に回転させることにより、雌ネジ部44と雄ネジ部26との螺合を解除し、メスルアー23からキャップ14を取り外す。この場合、キャップ14に対して所定以上の回転操作力を掛けると、本体部34(カバー部50)の基端側が弾性変形することで、キャップ14の回転が許容されるため、キャップ14を取り外すことができる。
【0057】
特に、本実施形態では、メスルアー23の基端側の外周面に突出部30が設けられるため、キャップ14を少し回転させるだけで突出部30と本体部34との係合が解除される。このように、キャップ14の開封操作において、突出部30と本体部34とが係合しているのは、開封操作の初期段階だけであり、その後は軽い操作力でキャップ14を回転させることができる。よって、キャップ14の開封操作が容易である。
【0058】
本実施形態の場合、キャップ14には回転防止部48が設けられるため、キャップ14の開封操作時に弾性部材32は本体部34と一体的に回転する。このため、キャップ14の回転に伴って弾性部材32はメスルアー23の押圧部28から確実に離脱する。従って、弾性部材32がメスルアー23の押圧部28に貼り付いてメスルアー23側に残ることがない。
【0059】
メスルアー23からキャップ14を取り外したら、次に、
図8Bに示すように、医療用液体Lが充填されたプレフィルドシリンジ80をプレフィルドシリンジ10に接続する。具体的には、プレフィルドシリンジ80に設けられた筒先部であるオスルアー82をプレフィルドシリンジ10のメスルアー23に挿入し接続する。この場合、キャップ14の未開封状態で弾性部材32の筒状部36(挿入部37)がメスルアー23内に挿入されることによってオスルアー82の体積相当分が予め確保されているため、オスルアー82の接続時に外筒本体12内から薬剤Mが漏れ出ることはない。
【0060】
プレフィルドシリンジ80に充填される医療用液体Lとしては、注射用蒸留水、生理食塩水等の薬剤溶解液、さらには、薬剤(例えば、ビタミン剤、ミネラル類)を含有すると共にプレフィルドシリンジ10内の薬剤Mの溶解又は希釈が可能な薬液でもあってもよい。なお、医療用液体Lは、本実施形態のように予めプレフィルドシリンジ80に充填されたものでなく、バイアル等から必要に応じて空のシリンジ内に必要量吸引されたものでもよい。
【0061】
次に、
図8Cに示すように、プレフィルドシリンジ80に設けられた図示しない押し子を基端方向に引っ張り操作することにより、外筒本体12内からプレフィルドシリンジ80内へと薬剤Mを吸引し、プレフィルドシリンジ80内で混合し、溶解又は希釈する。これにより、所望の薬液M1が調製される。
【0062】
以上説明したように、本実施形態に係るシリンジ用外筒18及びプレフィルドシリンジ10によれば、キャップ14の緩みを防止するように突出部30と係合するカバー部50の小距離部50bは、突出部30からの力を受けて変形した結果得られたものであるため、突出部30とカバー部50とが正確な位置関係で係合する。従って、キャップ14と筒先部22との螺合構造と、突出部30との位置合わせをする必要がなく、ガタのないキャップ14の緩み止め構造が容易に得られる。また、突出部30と係合するカバー部50の小距離部50bは、カバー部50の基端側内周面50aに形成されているため、キャップ14を少し回転させるだけで突出部30とカバー部50との係合が解除される。よって、キャップ14の開封操作を容易に行うことができる。
【0063】
また、本実施形態の場合、筒先部22の軸線を基準として互いに反対方向に突出した2つの突出部30が設けられる。この構成によれば、互いに反対側の2箇所で突出した突出部30によりカバー部50の基端側内周面50aが楕円形状に変形するため、より確実に小距離部50bを形成することができ、キャップ14の高い緩み止め効果が得られると共に、筒先部22に対してキャップ14を同軸に保持することができる。
【0064】
特に、本実施形態の場合、カバー部50の小距離部50bと突出部30との係合力は、封止部39の弾発力に基づいてキャップ14に作用する回転力よりも大きいため、キャップ14の緩みを確実に防止することができる。
【0065】
また、カバー部50の小距離部50bは、筒先部22にキャップ14が装着された状態で熱処理が施されることに伴って形成されるため、カバー部50の基端側内周面50aに突出部30が正確に係合する構造を容易に得ることができる。しかも、前記熱処理はオートクレーブ滅菌であり、オートクレーブ滅菌はシリンジ用外筒18(プレフィルドシリンジ10)の製造工程において行われる処理であるため、カバー部50の小距離部50bを効率的に得ることができる。
【0066】
次に、
図9〜
図13を参照し、本発明の第2実施形態に係るシリンジ用外筒91及びプレフィルドシリンジ90について説明する。なお、プレフィルドシリンジ90において、第1実施形態に係るプレフィルドシリンジ10と同一又は同様な機能及び効果を奏する要素には同一の参照符号を付し、詳細な説明を省略する。
【0067】
図9は、本発明の第2実施形態に係るプレフィルドシリンジ90の斜視図である。
図10は、プレフィルドシリンジ90の分解斜視図である。
図11は、プレフィルドシリンジ90の縦断面図である。
図12は、プレフィルドシリンジ90の先端側の拡大縦断面図である。
図13は、
図12におけるXIII−XIII線に沿った横断面図である。
【0068】
プレフィルドシリンジ90は、主たる構成要素として、筒先部97が設けられた筒状の外筒本体92と、外筒本体92の筒先部97を封止するキャップ94と、外筒本体92内を液密に摺動可能なガスケット16と、外筒本体92内に形成される充填室93に充填された薬剤M2とを備える。このプレフィルドシリンジ90では、外筒本体92とキャップ94とにより、シリンジ用外筒91が構成される。
【0069】
図10及び
図11に示すように、外筒本体92は、その主要部分を構成する胴体部96と、胴体部96の先端に設けられたオスルアー98と、オスルアー98の外側に配置されたロックアダプタ100と、胴体部96の基端から径方向外方に突出形成されたフランジ102とを有する。胴体部96、オスルアー98及びフランジ102は一体形成される。このプレフィルドシリンジ90では、オスルアー98とロックアダプタ100とにより、筒先部97が構成される。
【0070】
オスルアー98は、図示しないメスルアーに挿入及び接続可能であり、外筒本体92の先端部から外筒本体92に対して縮径して先端方向に突出する。オスルアー98は、先端方向に向かうに従って外径が縮小するテーパ状の外周面98aを有する。オスルアー98の基端側外周部には、外方に突出する環状の外方係合突起104が設けられ、当該外方係合突起104と胴体部96の先端面96aとの間に環状の係合凹部105が形成される。また、オスルアー98の基端外周部には、周方向に間隔をおいて複数(図示例では、2つ)のリブ106が設けられる。
【0071】
図12に示すように、ロックアダプタ100は、オスルアー98の外側にオスルアー98を囲んで配置された中空状の部材である。ロックアダプタ100は、オスルアー98の基端部に接続された基部108と、当該基部108から先端方向に延出した筒状壁部110とを有する。
【0072】
基部108の内周部には、内方に突出する環状の内方係合突起112が設けられる。内方係合突起112は、その内端が係合凹部105に配置されると共に、外方係合突起104と係合することにより先端方向への抜け止めがなされている。また、
図10に示すように、基部108の基端内周部には、リブ106に係合する溝部114が、周方向に間隔をおいて複数(2つ)設けられる。リブ106と溝部114との係合により、ロックアダプタ100とオスルアー98との相対回転が防止される。
【0073】
筒状壁部110は、オスルアー98との間に、先端方向に開口する環状凹部113(
図12参照)を形成するようにオスルアー98を囲んで軸方向に延在する略中空円筒状の部分である。筒状壁部110の内周面には、キャップ94を着脱可能に固定するための雌ネジ部116が形成される。
【0074】
筒状壁部110の基端外周部には、使用前においてキャップ94の緩みを防止するための突出部118が設けられる。本実施形態では、外筒本体92の軸線を基準として互いに反対方向に突出する一対の突出部118が設けられる。突出部118は、キャップ94が筒先部97に固定された状態で後述するカバー部126の基端側内周面126aと係合する。これにより、突出部118は、筒先部97に対するキャップ94の螺合が緩むことを防止する。なお、突出部118によるキャップ94の緩み防止機能については、キャップ94の具体的構成を説明した後に改めて説明する。
【0075】
なお、本図示例のロックアダプタ100は、オスルアー98及び胴体部96とは別部品として構成されているが、オスルアー98の基端部又は胴体部96の先端部に一体形成によって設けられてもよい。
【0076】
上記のように構成される外筒本体92の構成材料としては、例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリ塩化ビニル、ポリ−(4−メチルペンテン−1)、アクリル樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル、環状ポリオレフィンのような各種樹脂が挙げられるが、その中でも成形が容易で耐熱性があることから、ポリプロピレン、環状ポリオレフィンのような樹脂が好ましい。
【0077】
次に、筒先部97に対して着脱可能に装着されるキャップ94の構成について説明する。
図10〜
図12に示すように、キャップ94は、オスルアー98の開口部98bを封止する封止部120と、封止部120を支持する本体部122とを有する。筒先部97にキャップ94が装着された使用前の状態では、キャップ94によりオスルアー98の開口部98b(
図10参照)が液密に封止され、当該開口部98bから薬剤M2が漏れ出ないようになっている。
【0078】
封止部120は、弾性材料により構成され、本体部122内(後述する凹部125)に配置される。本図示例の封止部120は、オスルアー98の開口部98bよりも大径の円盤状に構成される。
【0079】
封止部120の構成材料としては、例えば、天然ゴム、ブチルゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、シリコーンゴムのような各種ゴム材料や、ポリウレタン系、ポリエステル系、ポリアミド系、オレフィン系、スチレン系等の各種熱可塑性エラストマー、あるいはそれらの混合物等が挙げられる。
【0080】
キャップ94が筒先部97に固定(装着)された状態で、封止部120は、オスルアー98の開口部98bに沿ってオスルアー98の先端面に一周密着し、当該先端面によって先端方向に押し潰されて先端方向に凹んでいる。なお、自然状態での封止部120(オスルアー98の先端面によって押し潰されていない状態の封止部120)の基端面は平坦である。
【0081】
キャップ94の本体部122は、封止部120よりも硬質な材料(例えば、上述した外筒本体92の構成材料として例示したもの)により構成される。本体部122は、キャップ94が筒先部97に装着された状態でオスルアー98を収納する中空状の収納部124と、収納部124の外側に設けられたカバー部126とを有する。
【0082】
収納部124は、先端が閉じ、基端が開口した略円筒状の凹部125を形成する。当該凹部125の底部に上述した封止部120が配置及び保持される。収納部124の内径は、オスルアー98の外径よりも大きい。従って、キャップ94が筒先部97に装着された状態で、収納部124の内周面とオスルアー98の外周面98aとは非接触であり、当該内周面と当該外周面98aとの間には管状の隙間が形成される。また、収納部124の外周面には、筒先部97の雌ネジ部116と螺合する雄ネジ部127が設けられる。
【0083】
カバー部126は、収納部124と同心状に形成された中空円筒状の部分である。カバー部126と収納部124との間には、基端方向に開口した環状の挿入凹部130が形成される。当該挿入凹部130にロックアダプタ100が挿入される。カバー部126は、突出部118が設けられたロックアダプタ100と比較して薄肉であり且つ変形し易い。キャップ94が筒先部97に装着された状態で、カバー部126は、筒先部97のロックアダプタ100(の筒状壁部110)を覆い、ロックアダプタ100に設けられた突出部118と係合する。
【0084】
図13に示すように、カバー部126の基端側内周面126aは、キャップ94を筒先部97(ロックアダプタ100)に螺合させる際のキャップ94の回転軸心a2からの距離L3が、回転軸心a2から突出部118の外端までの距離L4よりも小さい小距離部126bを有する。本実施形態では、カバー部126の基端側内周面126aの横断面形状は、正確な円形ではなく、楕円形状(図中、矢印A方向に長軸を有する楕円形状)となっている。具体的には、突出部118によってカバー部126の基端側内周面126aが径方向外方に押し広げられることにより、基端側内周面126aの他の部分が内方に変形することによって、小距離部126bが形成されている。本実施形態では、シリンジ用外筒91の製造前のカバー部126の基端側内周面126aは、カバー部126の軸線に対して垂直な断面形状が円形形状であるため、回転軸心a2を基準として互いに反対側の各箇所に小距離部126bが設けられる。従って、カバー部126の基端側内周面126aが楕円形状となっている。
【0085】
すなわち、本体部122が製造された時点でのカバー部126の基端側内周面126aの横断面形状は、
図13において二点鎖線で示すように円形形状(略真円)であるが、プレフィルドシリンジ90の製造工程において、外筒本体92にキャップ94が装着され、小距離部126bを有する楕円形状となる。この結果、カバー部126の基端側内周面126aで構成される非円形構造に、2つの突出部118で構成される非円形構造が係合するため、筒先部97に対するキャップ94の緩み止め機能が発現する。具体的には、カバー部126の小距離部126bが突出部118と係合するため、キャップ94が緩みにくくなる。また、プレフィルドシリンジ90は、その製造工程において外筒本体92にキャップ94が装着された状態でオートクレーブ滅菌が施されている。このため、キャップ94がオートクレーブ滅菌に伴う高熱で熱変形し、突出部118によるカバー部126の基端側内周面126aの変形が定着する。これにより、カバー部126の基端側内周面126aがより確実に小距離部126bを有する楕円形状となる。なお、オートクレーブ滅菌を施さない場合でも、突出部118によるカバー部126の基端側内周面126aの変形は徐々に定着するため、カバー部126の基端側内周面126aは小距離部126bを有する楕円形状となり得る。
【0086】
カバー部126と突出部118との係合力は、封止部120の弾発力に基づいてキャップ94に作用する回転力よりも大きい。キャップ94が筒先部97に固定された状態で、カバー部126の基端側内周面126aと、ロックアダプタ100に設けられた突出部118とが係合することにより、キャップ94が緩むことが防止される。
【0087】
なお、ロックアダプタ100に設けられる突出部118は、1つだけでもよく、この場合でも、製造工程においてカバー部126の基端側内周面126aの横断面形状を非円形にし、小距離部を形成することができる。また、突出部118を例えば、60°間隔で配置してもよく、この場合には、製造工程においてカバー部126の基端側内周面126aの横断面形状を三角形に近い形状(三角形の各頂点を丸くした形状)にし、小距離部を形成することができる。また、突出部118は、その外縁がロックアダプタ100の外周を一周する楕円形状となるように形成されていてもよい。この場合、楕円形状の突出部118の短軸の長さは、カバー部126の基端側内周面126aの直径よりも小さく、楕円形状の突出部118の長軸の長さは、カバー部126の基端側内周面126aの直径よりも大きい。これにより、製造工程においてカバー部126の基端側内周面126aの横断面形状を、突出部118の楕円形状と短軸及び長軸が揃った楕円形状にし、小距離部を形成することができる。
【0088】
プレフィルドシリンジ90におけるガスケット16は、第1実施形態に係るプレフィルドシリンジ10におけるガスケット16と同様に構成される。充填室93に充填される薬剤M2としては、例えば、塩化ナトリウムや乳酸カリウム等の電解質補正用注射液、ビタミン剤、ワクチン、抗生物質注射液、ステロイド剤、インシュリン、抗体医薬、蛋白質分解酵素阻害剤、脂肪乳剤、各種蛋白製剤、抗癌剤、麻酔薬、覚せい剤、麻薬のような各種薬液、各種診断薬等が挙げられる。
【0089】
本実施形態に係るシリンジ用外筒91及びプレフィルドシリンジ90は、基本的には以上のように構成されるものであり、以下、その作用及び効果について説明する。
【0090】
プレフィルドシリンジ90の製造工程においては、所定の清浄品質を得るために、オートクレーブ滅菌(高圧蒸気滅菌)を行う。カバー部126の基端側内周面126aの横断面形状は、オートクレーブ滅菌時の熱によってカバー部126が熱変形することにより形成される。すなわち、オートクレーブ滅菌をする前のカバー部126の基端側内周面126aの横断面形状は、
図13において仮想線で示すように円形形状(略真円)である。しかし、オートクレーブ滅菌時、ロックアダプタ100と比較して薄肉且つ変形し易いカバー部126が、突出部118によって矢印A方向の外側に向かって押圧力を受けた状態で、熱によって軟化し、熱変形する。この結果、滅菌処理後のカバー部126の基端側内周面126aは、
図13に示すように、2つの突出部118に適合する楕円形状となる。すなわち、突出部118とカバー部126との周方向の位置に無関係に、突出部118がカバー部126の一部を外方に押し広げるため、確実に基端側内周面126aの他の部分が内方に変形して小距離部126bが形成される。これにより、筒先部97に対するキャップ94の緩み止め機能が発現する。
【0091】
プレフィルドシリンジ90の操作方法(使用方法)は、概略、以下の通りである。プレフィルドシリンジ90の使用前の状態においては、
図11に示すように、外筒本体92の筒先部97にキャップ94が装着されている。この場合、プレフィルドシリンジ90では、弾性材料で形成された封止部120がオスルアー98の先端面に一周密着すると共に、オスルアー98の先端面が封止部120を先端方向に押し潰している。これにより、オスルアー98の開口部98bが液密に封止されている。
【0092】
このようにキャップ94が筒先部97に装着された状態、すなわち押圧部28が封止部120を押し潰している状態では、封止部120の弾発力に基づき、キャップ94が緩む方向にキャップ94を回転させようとする力が作用する。プレフィルドシリンジ90の使用前にキャップ94が緩むと、薬剤M2が漏れ出る可能性がある。そこで、本実施形態では、ロックアダプタ100の基端側の外周面に突出部118を設けることによって、使用前にキャップ94が緩むことを防止する構造としている。すなわち、滅菌処理時の熱変形に伴って非円形形状(楕円形状)となった本体部122(カバー部126)の小距離部126bに、ロックアダプタ100の基端側の外周面に設けられた突出部118が精度よく係合している。このため、使用前におけるキャップ94の緩みが効果的に防止される。具体的には、小距離部126bがあることにより、キャップ94とロックアダプタ100との螺合が緩む方向にキャップ94を回転させようとすると、小距離部126bが突出部118を乗り越えるための抵抗が発生する。その結果として、キャップ94が緩みにくくなる。このように、小距離部126bは、緩み抵抗発生部として機能する。
【0093】
プレフィルドシリンジ90を使用する際には、キャップ94の開封を行う。具体的には、外筒本体92に対してキャップ94を所定方向に回転させることにより、雌ネジ部116と雄ネジ部127との螺合を解除し、筒先部97からキャップ94を取り外す。この場合、キャップ94に対して所定以上の回転操作力を掛けると、本体部122(カバー部126)の基端側が弾性変形することで、キャップ94の回転が許容されるため、キャップ94を取り外すことができる。
【0094】
特に、本実施形態では、ロックアダプタ100の基端側の外周面に突出部118が設けられるため、キャップ94を少し回転させるだけで突出部118と本体部122との係合が解除される。このように、キャップ94の開封操作において、突出部118と本体部122とが係合しているのは、開封操作の初期段階だけであり、その後は軽い操作力でキャップ94を回転させることができる。よって、キャップ94の開封操作が容易である。
【0095】
ガスケット16に押し子が予め接続されていない場合には、ガスケット16に押し子を接続した後に、キャップ94の開封操作を行う。そして、筒先部97からキャップ94を取り外したら、オスルアー98を図示しない輸液ライン等に接続し、前記押し子を操作して薬剤M2の投与を行う。なお、プレフィルドシリンジ90において、ガスケット16に予め押し子が接続されていてもよい。
【0096】
以上説明したように、本実施形態に係るシリンジ用外筒91及びプレフィルドシリンジ90によれば、キャップ94の緩みを防止するように突出部118と係合するカバー部126の小距離部126bは、突出部118からの力を受けて変形した結果得られたものであるため、突出部118とカバー部126とが正確な位置関係で係合する。従って、キャップ94と筒先部97との螺合構造と、突出部118との位置合わせをする必要がなく、ガタのないキャップ94の緩み止め構造が容易に得られる。また、突出部118と係合するカバー部126の小距離部126bは、カバー部126の基端側内周面126aに形成されているため、キャップ94を少し回転させるだけで突出部118とカバー部126との係合が解除される。よって、キャップ94の開封操作を容易に行うことができる。
【0097】
また、本実施形態の場合、筒先部97の軸線を基準として互いに反対方向に突出した2つの突出部118が設けられる。この構成によれば、互いに反対側の2箇所で突出した突出部118によりカバー部126の基端側内周面126aが楕円形状に変形するため、より確実に小距離部126bを形成することができ、キャップ94の高い緩み止め効果が得られると共に、筒先部97に対してキャップ94を同軸に保持することができる。
【0098】
特に、本実施形態の場合、カバー部126の小距離部126bと突出部118との係合力は、封止部120の弾発力に基づいてキャップ94に作用する回転力よりも大きいため、キャップ94の緩みを確実に防止することができる。
【0099】
また、カバー部126の小距離部126bは、筒先部97にキャップ94が装着された状態で熱処理が施されることに伴って形成されるため、カバー部126の基端側内周面126aに突出部118が正確に係合する構造を容易に得ることができる。しかも、前記熱処理はオートクレーブ滅菌であり、オートクレーブ滅菌は、プレフィルドシリンジ90の製造工程において行われる処理であるため、カバー部126の小距離部126bを効率的に得ることができる。
【0100】
上記において、本発明について好適な実施形態を挙げて説明したが、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の改変が可能なことは言うまでもない。