特許第6382847号(P6382847)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6382847
(24)【登録日】2018年8月10日
(45)【発行日】2018年8月29日
(54)【発明の名称】電子デバイス冷却のための液体冷却媒体
(51)【国際特許分類】
   H05K 7/20 20060101AFI20180820BHJP
   C09K 5/10 20060101ALI20180820BHJP
   G06F 1/20 20060101ALI20180820BHJP
【FI】
   H05K7/20 M
   H05K7/20 U
   C09K5/10 F
   G06F1/20 A
【請求項の数】8
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-555159(P2015-555159)
(86)(22)【出願日】2013年12月17日
(65)【公表番号】特表2016-513360(P2016-513360A)
(43)【公表日】2016年5月12日
(86)【国際出願番号】US2013075674
(87)【国際公開番号】WO2014116370
(87)【国際公開日】20140731
【審査請求日】2016年12月8日
(31)【優先権主張番号】61/756,020
(32)【優先日】2013年1月24日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】502141050
【氏名又は名称】ダウ グローバル テクノロジーズ エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100104282
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 康仁
(72)【発明者】
【氏名】アニー・エル・フローリ
(72)【発明者】
【氏名】モハメド・エセギエ
【審査官】 梅本 章子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2007/029724(WO,A1)
【文献】 特表2011−518395(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0291059(US,A1)
【文献】 国際公開第2011/090685(WO,A1)
【文献】 特表2000−502493(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K 7/20
C09K 5/10
G06F 1/20
H01L 23/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)電子ハードウェアデバイスと、
(b)液体冷却媒体と
を備えた装置であって、
前記電子ハードウェアデバイスが、前記液体冷却媒体内に少なくとも部分的に沈められ、
前記液体冷却媒体が、6〜12個の炭素原子の範囲内の炭素鎖長の脂肪酸を有する飽和中鎖トリグリセリドを含み、
前記飽和中鎖トリグリセリドが、前記液体冷却媒体の第1の構成要素を構成し、前記液体冷却媒体が、C5〜C10脂肪酸とペンタエリトリトールとの混合エステルを含む合成エステルである第2の構成要素をさらに含み、
前記飽和中鎖トリグリセリドが、前記飽和中鎖トリグリセリドの全重量に基づいて、50〜60重量パーセントの範囲の量で、8個の炭素原子の炭素鎖長の脂肪酸を有するトリグリセリドを含み、前記飽和中鎖トリグリセリドが、前記飽和中鎖トリグリセリドの全重量に基づいて、40〜50重量パーセントの範囲の量で、10個の炭素原子の炭素鎖長の脂肪酸を有するトリグリセリドを含む、前記装置。
【請求項2】
前記飽和中鎖トリグリセリドが、平均8〜10個の炭素原子の範囲内の炭素鎖長の脂肪酸を有する、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記第1の構成要素が、前記液体冷却媒体の総重量に基づいて、前記液体冷却媒体の少なくとも15重量パーセントを構成する、請求項に記載の装置。
【請求項4】
前記液体冷却媒体が、ASTM D92に従って決定される、少なくとも190℃の引火点を有し、前記液体冷却媒体が、ASTM D445に従って決定される、40℃で27センチストーク(「cSt」)以下の粘度を有し、前記液体冷却媒体が、ASTM D92に従って決定される、少なくとも210℃の発火点を有し、前記液体冷却媒体が、ASTM D5930に従って決定される、0.12〜0.14W/m・Kの範囲内の熱伝導率を有する、請求項1に記載の装置。
【請求項5】
前記液体冷却媒体が、ASTM D92に従って決定される、192〜300℃の範囲内の引火点を有する、請求項に記載の装置。
【請求項6】
前記液体冷却媒体が、ASTM D445に従って決定される、40℃で5〜25cStの範囲内の粘度を有する、請求項に記載の装置。
【請求項7】
前記電子ハードウェアデバイスが、コンピュータデバイスまたはコンピュータ構成要素である、請求項1に記載の装置。
【請求項8】
前記電子ハードウェアデバイスが、コンピュータサーバ、サーバマザーボード、及びマイクロプロセッサからなる群から選択される、請求項1に記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2013年1月24日に出願された米国仮特許出願第61/756,020号の利益を主張する。
【0002】
本発明の様々な実施形態は、データセンターのような電子ハードウェアデバイスを浸漬冷却するために用いられる液体冷却媒体に関する。本発明の他の態様は、引火点と粘度のバランスを有する液体冷却媒体に関する。
【0003】
序論
エンタープライズデータセンター(「EDC」)の施設は、複数のサーバを収容する物理的な場所である。サーバは、一般にラック内に積み重ねられ、その中には、他にハードドライブアレイ、ネットワークルータ、データ収集装置、及び電源のような様々なコンピューティングデバイスが搭載される。一貫した信頼性のある性能を提供するために、EDCの主な目標は、ラックの様々な発熱構成要素の適切な温度制御である。従来、ラックは、気流を最大にするように選択的に配置されたファンなどの空気循環デバイスを使用する強制空気対流によって冷却された。EDC内の空気は、通常、ラックに入る前に空気を冷却する熱交換器を通って循環する(ベーパサイクル冷却、または冷却水コイル)。いくつかのEDCでは、熱交換器は、ラックに装着され、サーバに入る空気のラックレベル冷却を提供する。
【0004】
2005年に、米国におけるEDCは、全ての消費する電力の約1.2%を占め、2011年までに倍増すると予想された。EDCの世界的規模の集合は、組み合わせると、世界で6番目に大きなエネルギー消費の集合体となることがさらに推定された。EDCの電力の3分の1超が冷却に専用されている。EDCの予算全体に対する冷却コストの大きい影響と、温室効果ガス排出量を削減する傾向とに加えて、最大稼働率に近いチラーの冷却能力において、エネルギー効率の最適化が重要になっている。また、EDCのさらなる拡張は、冷却能力の拡張に大規模な投資を必要とする。したがって、電子ハードウェアデバイスの冷却の分野で進歩があったが、改善が依然として望まれている。
【発明の概要】
【0005】
一実施形態は、装置であり、
(a)電子ハードウェアデバイスと、
(b)液体冷却媒体と、を備え、
該電子デバイスハードウェアデバイスが、該液体冷却媒体内に少なくとも部分的に沈められ、
該液体冷却媒体が、6〜12個の炭素原子の範囲内の炭素鎖長の脂肪酸を有する飽和中鎖トリグリセリドを含む、装置。
【発明を実施するための形態】
【0006】
本発明の様々な実施形態は、液体冷却媒体内に少なくとも部分的に沈められる電子ハードウェアデバイスを備える装置に関し、液体冷却媒体が特性のある特定の組合せを有する。様々な実施形態では、液体冷却媒体が、少なくとも190℃の引火点を有すると同時に、27センチストーク(「cSt」)以下の粘度を有することができる。ある実施形態では、液体冷却媒体が、平均6〜12個の炭素原子の範囲の炭素鎖長の脂肪酸を有する飽和中鎖トリグリセリドを含むことができる。
【0007】
・液体冷却媒体
「液体冷却媒体」という用語は、サーバのような電子ハードウェアデバイスのための浸漬冷媒としての使用に適する室温及び常圧下で液体である組成物を表す。当該技術分野で知られているように、液体冷却媒体は、一般に、低い粘度を有し、非毒性で化学的に不活性であり、液体冷却媒体が用いられる環境の腐食を促進しない。また、液体冷却媒体は、一般に、空気のような他の冷却媒体に対してより高い熱容量を有する(例えば、1.01J/g/Kと比較して1.67ジュール毎グラム毎ケルビン(「J/g/K」)。
【0008】
上述のように、液体冷却媒体は、少なくとも190℃の引火点を有することができる。様々な実施形態では、液体冷却媒体は、少なくとも192℃、少なくとも195℃、少なくとも200℃、または少なくとも205℃の引火点を有することができる。さらに、このような実施形態のいずれか1つにおいて、液体冷却媒体は、最大300℃、最大280℃、または最大270℃の引火点を有することができる。本明細書で示される引火点は、クリーブランド開放装置を使用するASTM International(「ASTM」)の方法D92に従って決定される。この方法では、約70ミリリットル(「mL」)の試験試料が試験カップ内に充填される。試料の温度は、最初に急速に上昇し、その後緩やかになり、引火点に一定の割合で近付く。試験炎は、指定された間隔でカップにわたって通過する。引火点は、試験炎の適用が試験試料の蒸気に発火をもたらす最低の液体温度に対応する。発火点の決定(後述)のために、試験は、試験炎が発火をもたらし、さらに5秒間以上燃焼を維持するまで継続する。
【0009】
上述のように、液体冷却媒体は、27cSt以下の粘度を有することができる。様々な実施形態では、液体冷却媒体は、27cSt未満、25cSt未満、23cSt未満、20cSt未満、18cSt未満、または15cSt未満の粘度を有することができる。さらに、このような実施形態のいずれか1つでは、液体冷却媒体は、少なくとも5cSt、少なくとも7cSt、または少なくとも10cStの粘度を有することができる。本明細書で示される粘度は、40℃の温度での動粘度についてのASTM D445試験方法に従って決定される。この方法では、較正された粘度計のキャピラリーを通って重力下で一定量の流体が流動する時間を制御された温度で測定する。動粘度は、測定された流動の時間と粘度計の較正定数との積として定義される。
【0010】
上述のように、様々な実施形態において、液体冷却媒体は、ある特定の引火点及び粘度の組合せを有することができる。したがって、1つ以上の実施形態では、液体冷却媒体は、少なくとも190℃、少なくとも192℃、少なくとも195℃、少なくとも200℃、または少なくとも205℃の引火点を有し、同時にまた27cSt以下、27cSt未満、25cSt未満、23cSt未満、20cSt未満、18cSt未満、または15cSt未満の粘度を有することができる。このような実施形態のいずれかでは、液体冷却媒体は、最大300℃、最大280℃、または最大270℃の引火点を有し、同時に少なくとも5cSt、少なくとも7cSt、または少なくとも10cStの粘度を有することができる。
【0011】
様々な実施形態では、液体冷却媒体は、少なくとも210℃、少なくとも215℃、または少なくとも220℃の発火点を有することができる。このような実施形態では、液体冷却媒体は、最大320℃、最大310℃、最大300℃、または最大290℃の発火点を有することができる。発火点は、上述のように本明細書ではASTM D92に従って決定される。
【0012】
様々な実施形態では、液体冷却媒体は、0.12〜0.14ワット毎メートルケルビン(「W/m・K」)の範囲の熱伝導率を有することができる。熱伝導率は、以下の試験方法の項で提供される手順に従って40℃で決定される。
【0013】
上述の特性を有する任意の液体冷却媒体は、本明細書に記載の様々な実施形態で用いることができる。上述のように、ある実施形態では、液体冷却媒体は、中鎖トリグリセリド(「MCT」)を含むことができる。当該技術分野で知られているように、「トリグリセリド」は、グリセロール及び三つの脂肪酸のトリエステルであり、トリグリセリドは、多くの場合、動物脂肪及び植物油のような天然の供給源で見出される。「中鎖」という用語は、カルボニル炭素を含む6個の炭素原子〜12個の炭素原子の範囲の炭素鎖長の脂肪酸を有するトリグリセリドを表す。したがって、例えば、本明細書での使用に適するMCTは、グリセロールと、カプロン酸(C6)、カプリル酸(C8)、カプリン酸(C10)、及びラウリン酸(C12)からなる群から選択される脂肪酸と、のトリエステルであり得る。様々な実施形態では、MCTは飽和している(すなわち、炭素−炭素の2重結合を含まない)が、微量の不飽和化合物(例えば、10百万分率未満)は許容される。実施形態では、使用に適するMCTは、平均8〜10個の炭素原子の範囲の炭素鎖長の脂肪酸を有することができる。さらに、MCTは、単独で、または多成分液体冷却媒体の成分として、のいずれかで使用されるとき、液体冷却媒体の全重量に基づいて1重量パーセント(「重量%」)未満、0.5重量%未満、または0.01重量%未満の遊離脂肪酸を含むことができる。
【0014】
様々な実施形態では、MCTは、C8のトリグリセリドとC10のトリグリセリドとの混合物を含む。そのような実施形態では、C8のトリグリセリドは、MCTの全重量に基づいて全てのMCTの10〜90重量%、20〜85重量%、40〜80重量%、または50〜60重量%の範囲を占め得る。さらに、C10のトリグリセリドは、MCTの全重量に基づいて全てのMCTの10〜90重量%、15〜80重量%、30〜70重量%、40〜50重量%の範囲を占め得る。実施形態では、MCTは、56重量%のC8のトリグリセリドと44重量%のC10のトリグリセリドからなるC8及びC10のトリグリセリドのブレンド物であり得る。
【0015】
様々な実施形態では、MCTは、C6と、C8と、C10と、C12のトリグリセリドとの混合物を含む。このような実施形態では、C6のトリグリセリドは、MCTの全重量に基づいて全てのMCTの0.5〜10重量%、または1〜5重量%の範囲を占め得る。さらに、C8のトリグリセリドは、MCTの全重量に基づいて全てのMCTの50〜80重量%、または60〜70重量%の範囲を占め得る。さらに、C10のトリグリセリドは、MCTの全重量に基づいて全てのMCTの20〜40重量%、または25〜35重量%の範囲を占め得る。このような実施形態では、C12のトリグリセリドは、MCTの全重量に基づいて全てのMCTの0.5〜10重量%、または1〜5重量%の範囲を占め得る。
【0016】
適切な市販のMCTの実施例は、Stepan Company,Northfield,IL,USAから入手可能なMCTのNEOBEE(商標)系列(例えば、NEOBEE(商標)1053及びNEOBEE(商標)M−20)を含む。
【0017】
様々な実施形態では、液体冷却媒体は、上述のMCTと少なくとも1つの鉱物油のうちの任意の1つ以上の混合物を含むことができる。本明細書で使用される場合、「鉱物油」は、石油などの非植物源から派生する一般にC15〜C40の範囲の主としてアルカンの混合物を表す。鉱物油は、一般に約140℃〜185℃の範囲の低い引火点を有する。したがって、鉱物油単独は、一般に液体冷却媒体としての使用に望ましくない。しかしながら、鉱物油は、MCTと併用すると、組み合わせによって上述の特性を有する液体冷却媒体を形成することができる。様々な実施形態では、MCTとの併用に選択される鉱物油は、175〜185℃、180℃〜185℃、または約185℃のような、通常鉱物油に見出される上限近くの引火点を有する。
【0018】
MCTと鉱物油との混合物が液体冷却媒体として使用されると、MCTは、液体冷却媒体の全重量に基づいて液体冷却媒体の10〜90重量%、15〜85重量%、20〜80重量%、または40〜60重量%の範囲を占め得る。さらに、鉱物油は、液体冷却媒体の全重量に基づいて液体冷却媒体の10〜90重量%、15〜85重量%、20〜80重量%、または40〜60重量%の範囲を占め得る。様々な実施形態では、MCT及び鉱物油は、MCT対鉱物油の重量比が2:1〜6:1、3:1〜5:1、または約4:1の範囲で液体冷却媒体中に存在することができる。
【0019】
適切な市販の鉱物油は、ExxonMobil Chemical Company,Houston,TX,USAによって製造されるUNIVOLT(商標)N61B、またはShell Oil Company,Houston,TX,USAによって製造されるDIALA(商標)AXを含む。
【0020】
様々な実施形態では、液体冷却媒体は、上述のMCTのうちの任意の1つ以上と少なくとも1つの合成エステルとの混合物を含むことができる。本明細書で使用する場合、「合成エステル」は、有機(例えば、カルボン)酸とアルコールとの反応によって生成される流体を表す。合成エステルは、一般により高い引火点を有するが、許容できないほどの高い粘度(例えば、40℃で28cSt以上)の問題があり得る。したがって、合成エステル単独は、一般に液体冷却媒体としての使用に望ましくない。しかしながら、合成エステルは、MCTと併用すると、組み合わせによって上述の特性を有する液体冷却媒体を形成することができる。様々な実施形態では、MCTとの併用に選択される合成エステルは、28〜38cSt、28〜33cSt、または約28cStのような、通常合成エステルに見出される下限近くの粘度を有する。
【0021】
MCTと合成エステルとの混合物が液体冷却媒体として使用されると、MCTは、液体冷却媒体の全重量に基づいて液体冷却媒体の10〜90重量%、15〜85重量%、20〜80重量%、または40〜60重量%の範囲を占め得る。さらに、合成エステルは、液体冷却媒体の全重量に基づいて液体冷却媒体の10〜90重量%、15〜85重量%、20〜80重量%、または40〜60重量%の範囲を占め得る。
【0022】
適切な市販の合成エステルの実施例は、M&I Materials Ltd.,Manchester,UKによって製造されるMIDEL(商標)7131を含む。
【0023】
様々な実施形態では、液体冷却媒体は、上述のMCTの任意の1つ以上と少なくとも1つの植物油との混合物を含むことができる。本明細書で使用される場合、「植物油」は、主として、グリセロールと3つの脂肪酸のトリエステルであるが、一般にMCTと比較して長鎖脂肪酸の部分(例えば、C18)を含むトリグリセリドからなる組成物を表す。植物油は、一般により高い引火点を有するが、許容できないほどの高い粘度(例えば、40℃で40cSt以上)の問題があり得る。したがって、植物油単独は、一般に液体冷却媒体としての使用に望ましくない。しかしながら、植物油は、MCTと併用すると、組み合わせによって上述の特性を有する液体冷却媒体を形成することができる。様々な実施形態では、MCTとの併用に選択される植物油は、30〜50cSt、35〜45cSt、または約40cStのような、通常植物油に見出される下限近くの粘度を有する。
【0024】
MCTと植物油との混合物が液体冷却媒体として使用されるとき、MCTは、液体冷却媒体の全重量に基づいて液体冷却媒体の10〜90重量%、15〜85重量%、20〜80重量%、または40〜60重量%の範囲を占め得る。さらに、植物油は、液体冷却媒体の全重量に基づいて液体冷却媒体の10〜90重量%、15〜85重量%、20〜80重量%、または40〜60重量%の範囲を占め得る。様々な実施形態では、MCT及び植物油は、MCT対植物油の重量比が3:1〜1:1の範囲で液体冷却媒体中に存在することができる。
【0025】
本明細書での使用に適する植物油の具体的なタイプは、限定するものではないが、ヒマワリ油、キャノーラ油、及び大豆油を含む。実施形態では、植物油はヒマワリ油である。
【0026】
1つ以上の実施形態では、液体冷却媒体は、ポリアルキレングリコールを含む。「ポリアルキレングリコール」は、主として重合アルキレンオキシド(例えば、エチレンオキシド)からなるオリゴマーまたはポリマーを表す。適切なポリアルキレンオキシドの実施例は、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、及びポリブチレンオキシドを含む。ポリアルキレングリコールが液体冷却媒体に用いられるとき、それは、液体冷却媒体の全重量に基づいて液体冷却媒体の少なくとも50重量%、少なくとも70重量%、少なくとも90重量%、少なくとも99重量%、または全てを占め得る。
【0027】
好適なポリアルキレングリコールは、500〜1,000g/モル、600から800g/モル、または650〜750g/モルの範囲の重量平均分子量(「Mw」)を有することができる。実施形態では、ポリアルキレングリコールは、約700g/モルのMwを有することができる。さらに、好適なポリアルキレングリコールは、0.80〜1.0g/mL、0.85〜0.98g/mL、0.90〜0.94g/mL、または0.91〜0.93g/mLの範囲の密度を有することができる。実施形態では、ポリアルキレングリコールは、約0.92g/mLの密度を有することができる。
【0028】
適切な市販のポリアルキレングリコールの実施例は、The Dow Chemical Company,Midland,MI,USAによって製造されるUCON(商標)OSP及びSynalox OA、及びBASF Corporation,Florham Park,NJ,USAから入手可能なPLURIOL(商標)ポリアルキレングリコールを含む。
【0029】
1つ以上の実施形態では、液体冷却媒体は、パラフィン系オイルを含むことができる。「パラフィン系オイル」は、芳香族炭化水素の含有量が低い、n−アルカンベースの鉱物油のクラスを表す。適切なパラフィン系オイルの実施例は、上述の引火点及び粘度要件を満たす任意のパラフィン系オイルを含む。パラフィン系オイルが液体冷却媒体に用いられるとき、それは、液体冷却媒体の全重量に基づいて液体冷却媒体の少なくとも50重量%、少なくとも70重量%、少なくとも90重量%、少なくとも99重量%、または全てを占め得る。
【0030】
好適な市販のパラフィン系オイルの実施例は、Chevron Corporation,San Ramon,CA,USAによって共に製造されるPARAMOUNT(商標)1001及びPARALUX(商標)1001を含む。
【0031】
前述の実施形態のいずれかにおいて、用いられる液体冷却媒体が2つ以上の成分のブレンド物である場合、このブレンド物は、2つの液体成分をブレンドするための当該技術分野で既知の任意の方法または今後発見される方法によって調製することができる。例えば、複数の液体成分は、攪拌機を使用して機械的にブレンドすることができる。様々な実施形態において、液体冷却媒体を構成する2つ以上の成分は、混和性である。
【0032】
・電子ハードウェアデバイス
上述のように、液体冷却媒体は、データセンターなどの電子ハードウェアデバイスを冷却するために用いることができる。実施形態では、電子ハードウェアデバイスは、コンピュータデバイスまたは構成要素(例えば、コンピュータサーバ)であり得る。用いることができる電子ハードウェアデバイスの具体的な実施例は、コンピュータサーバ、サーバマザーボード、マイクロプロセッサ、及び他の発熱電子デバイスを含む。
【0033】
このような冷却を行うために、電子ハードウェアデバイスは、液体冷却媒体と物理的に接触して配置することができる。例えば、電子ハードウェアデバイスは、部分的に、少なくとも部分的に、または完全に液体冷却媒体内に沈めることができる。
【0034】
液体冷却媒体内に少なくとも部分的な没入を用いる具体的な冷却システムは、多様である。実施例として、一実施形態では、電子ハードウェアデバイスは、液体冷却媒体の個別に密封された槽の中に完全に浸漬される。この実施形態では、液体冷却媒体は、熱を電子ハードウェアデバイスから、水が循環して冷却された槽の隔壁によって形成された一体的熱交換器へ、受動的に転送する。別の実施形態では、サーバマザーボードは、液体冷却媒体の個別に密封された槽の中に完全に浸漬することができる。次に、液体冷却媒体は、密封されたサーバケースを介してポンピングされ、熱交換器として働くポンプに取り付けられたラジエータを通って循環する。さらに別の実施形態では、サーバラック全体が、液体冷却媒体で満たされたタンク内に浸漬することができる。この実施形態では、液体冷却媒体は、熱が外部の空気と直接に交換される屋外のラジエータを介して循環することができる。
【0035】
このような冷却システムの具体的な実施例は、例えば、Hardcore Computer,Incの米国特許第7,403,392号、及びGreen Revolution Cooling,Incの米国特許出願公開第2011/0132579号に見出すことができる。
【0036】
試験方法
発火点
発火点は、ASTM D92に従って決定される。
【0037】
引火点
引火点は、ASTM D92に従って決定される。
【0038】
熱伝導率
熱伝導率は、試料を軸方向の温度勾配に曝すことにより、ASTM D5930に従って決定される。熱流束変換器からの出力とともに試料にわたる温度差を測定することにより、試料の熱伝導率を決定することができる。
【0039】
粘度
粘度は、40℃でASTM D445に従って決定される。
【実施例】
【0040】
実施例1−比較試料試験
上述の試験方法に従って、3つの比較試料(CS A〜C)を分析する。CS Aは、ExxonMobil Chemical Company,Houston,TX,USAから入手可能なUNIVOLT(商標)N61Bの商品名で販売されている100重量%の鉱物油である。UNIVOLT(商標)N61Bは、90〜100%の水素化処理軽ナフテン蒸留物である。CS Bは、Saipol Agro Industrial Company,Paris,Franceから得られる100重量%のヒマワリ油である。CS Cは、M&I Materials Ltd.,Manchester,UKによって製造され、MIDEL(商標)7131の商品名で販売されている100重量%の合成エステルである。MIDEL(商標)7131は、ペンタエリトリトールとC5〜10脂肪酸(直鎖及び分岐鎖)の混合エステルを含む。分析の結果は、以下の表1に示す。
【表1】
【0041】
表1に示す結果からわかるように、鉱物油(CS A)は望ましい低粘度を示すが、それはまた望ましくない低い引火点を呈する。逆に、ヒマワリ油(CS B)及び合成エステル(CS C)は、単独で望ましい高い引火点を有するが、許容できないほどの高い粘度を有する。
【0042】
実施例2−中鎖トリグリセリド
上述の試験方法に従って2つの試料(S1及びS2)を分析した。S1は、Stepan Company,Northfield,IL,USAによって、NEOBEE(商標)1053の商品名で販売されている100重量%の中鎖トリグリセリドである。NEOBEE(商標)1053は、飽和カプリル(C8)/カプリン酸(C10)トリグリセリドである。NEOBEE(商標)1053は、56パーセントの飽和カプリル(C8)脂肪酸鎖、及び44パーセントの飽和カプリル酸(C10)脂肪酸鎖を含む。S2は、Stepan Company,Northfield,IL,USAによって、NEOBEE(商標)M−20の商品名で販売されている100重量%の中鎖トリグリセリドである。NEOBEE(商標)は、1パーセントのC6の脂肪酸鎖、1パーセントのC12の脂肪酸鎖、68パーセントのC8の脂肪酸鎖、及び30パーセントのC10の脂肪酸鎖を含む。分析の結果は、以下の表2に示す。
【表2】
【0043】
表2に示すように、MCTサンプルの両方は、優れた粘度(例えば、約28cSt未満)を示し、同時に良好な引火点を示す(例えば、少なくとも約190℃)。
【0044】
実施例3−MCTと鉱物油との混合物
以下の表3に示す組成に従って、MCT及び鉱物油を含む2つの試料(S3〜S4)を調製する。試料S3〜S4は、2つの成分を15分間にわたって50℃で閉じられた瓶内で磁気攪拌して混合することにより調製される。試料S3及びS4のそれぞれに用いられるMCTは、実施例2で上述したNEOBEE(商標)1053である。試料S3及びS4内の鉱物油は、実施例1で上述したUnivoltによって供給される鉱物油である。
【0045】
上記した試験方法に従って、試料S3及びS4を分析する。結果を以下の表3に示す。
【表3】
【0046】
表3に見られるように、鉱物油単独(CS A、表1)では低い粘度及び高い引火点の好適な組合せを示さないが、MCTと鉱物油との混合物は、そのような組合せを示す。S4は170℃の引火点を達成したに過ぎないが、しかしながら、上記の表1のCS Aによって示されるように、Univoltの鉱物油単独のときの154℃の引火点が大幅に改善されている。
【0047】
実施例4−MCTと植物油との混合物
以下の表4に示す組成に従うMCT及びヒマワリ油を含む5つの試料(S5〜S9)を調製する。試料S5〜S9は、2つの成分を15分間にわたって50℃で閉じられた瓶内で磁気攪拌して混合することにより調製される。試料S5〜S7で用いられるMCTは、実施例2で上述したNEOBEE(商標)1053である。試料S8〜S9で用いられるMCTは、実施例2で上述したNEOBEE(商標)M−20である。試料S5〜S9のヒマワリ油は、実施例1で上述したヒマワリ油と同じである。
【0048】
上記の試験方法に従って試料S5〜S9を分析する。結果を以下の表4に示す。
【表4】
【0049】
表4に見られるように、ヒマワリ油(CS B)単独では、低い粘度及び高い引火点の好適な組合せを示さないが、MCTとヒマワリ油との混合物は、全て優れた粘度及び引火点を示す。
【0050】
実施例5−MCTと合成エステルとの混合物
以下の表5に示す組成に従うMCT及び合成エステルを含む3つの試料(S10〜S12)を調製する。試料S10〜S12は、15分間にわたって50℃で閉じられた瓶内で磁気攪拌して混合することにより調製される。試料S10〜S12で用いられるMCTは、実施例2で上述したNEOBEE(商標)1053である。試料S10〜S12の合成エステルは、実施例1で上述したMIDEL(商標)7131である。
【0051】
上記の試験方法に従って試料S10〜S12を分析する。結果を以下の表5に示す。
【表5】
【0052】
表5に見られるように、合成エステル(CS C)単独では、低い粘度及び高い引火点の好適な組合せを示さないが、MCTと合成エステルとの混合物は、全て優れた粘度及び引火点を示す。
【0053】
実施例6−ポリアルキレングリコール
試料13(S13)は、100重量%のポリアルキレングリコール(「PAG」)である。具体的には、S13は、UCON OSP−18、Dow Chemicalからの油溶性PAGベース流体技術である。試料S13を上記の試験方法に従って分析する。S13は、18.0cStの粘度、204℃の引火点、240℃の発火点、1.96J/g/℃の熱容量、及び0.14w/m・Kの熱伝導率を有する。
【0054】
実施例7−パラフィン系オイル
試料14(S14)は、100重量%のパラフィン系オイルである。具体的には、S14は、Chevronから入手可能なPARAMOUNT(商標)1001である。S14は、20.4cStの粘度及び212℃の引火点を有する。
なお、本発明には以下の態様が含まれることを付記する。
〔1〕
装置であって、
(a)電子ハードウェアデバイスと、
(b)液体冷却媒体と、を備え、
前記電子ハードウェアデバイスが、前記液体冷却媒体内に少なくとも部分的に沈められ、
前記液体冷却媒体が、6〜12個の炭素原子の範囲内の炭素鎖長の脂肪酸を有する飽和中鎖トリグリセリドを含む、装置。
〔2〕
前記飽和中鎖トリグリセリドが、平均8〜10個の炭素原子の範囲内の炭素鎖長の脂肪酸を有する、〔1〕に記載の装置。
〔3〕
6〜12個の炭素原子の範囲内の炭素鎖長の脂肪酸を有する前記飽和中鎖トリグリセリドが、前記液体冷却媒体の第1の構成要素を構成し、前記液体冷却媒体が、鉱物油、植物油、合成エステル、及びそれらのうちの2つ以上の混合物からなる群から選択される第2の構成要素をさらに含む、〔1〕に記載の装置。
〔4〕
前記第1の構成要素が、合計液体冷却媒体重量に基づいて、前記液体冷却媒体の少なくとも15重量パーセントを構成する、〔3〕に記載の装置。
〔5〕
前記飽和中鎖トリグリセリドが、中鎖トリグリセリド全重量に基づいて、50〜60重量パーセントの範囲の量で、8個の炭素原子の炭素鎖長の脂肪酸を有するトリグリセリドを含み、前記飽和中鎖トリグリセリドが、中鎖トリグリセリド全重量に基づいて、40〜50重量パーセントの範囲の量で、10個の炭素原子の炭素鎖長の脂肪酸を有するトリグリセリドを含む、〔1〕に記載の装置。
〔6〕
前記液体冷却媒体が、ASTM D92に従って決定される、少なくとも190℃の引火点を有し、前記液体冷却媒体が、ASTM D445に従って決定される、40℃で27センチストーク(「cSt」)以下の粘度を有し、前記液体冷却媒体が、ASTM D92に従って決定される、少なくとも210℃の発火点を有し、前記液体冷却媒体が、ASTM D5930に従って決定される、0.12〜0.14W/m・Kの範囲内の熱伝導率を有する、〔1〕に記載の装置。
〔7〕
前記液体冷却媒体が、ASTM D92に従って決定される、192〜300℃の範囲内の引火点を有する、〔5〕に記載の装置。
〔8〕
前記液体冷却媒体が、ASTM D445に従って決定される、40℃で5〜25cStの範囲内の粘度を有する、〔5〕に記載の装置。
〔9〕
前記電子ハードウェアデバイスが、コンピュータデバイスまたはコンピュータ構成要素である、〔1〕に記載の装置。
〔10〕
前記電子ハードウェアデバイスが、コンピュータサーバ、サーバマザーボード、及びマイクロプロセッサからなる群から選択される、〔1〕に記載の装置。