(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明のベーンポンプの実施の形態について説明する。
【0012】
<第一実施形態>
[ベーンポンプの構成]
まず、本実施形態のベーンポンプの構成について説明する。
図1に、本実施形態のベーンポンプの径方向断面図を示す。
図2に、
図1のII−II方向断面図を示す。
図3に、同ベーンポンプの径方向断面図を示す。
図4に、
図3のIV−IV方向断面図を示す。なお、
図1は、
図2のI−I方向断面に対応している。また、
図3は、
図4のIII−III方向断面に対応している。
図1、
図2に示すベーンポンプ1に対して、
図3、
図4に示すベーンポンプ1は、ロータ3およびベーン4が、90°だけ回転(進行)している。ベーンポンプ1は、ブレーキ装置の倍力装置の負圧源である。ベーンポンプ1は、カムシャフト(図略)により回転駆動される。
図1〜
図4に示すように、ベーンポンプ1は、ハウジング2と、ロータ3と、ベーン4と、を備えている。
【0013】
(ハウジング2)
ハウジング2は、エンジン(図略)の側面に固定されている。ハウジング2は、ハウジング本体20と、カバー21と、ポンプ室Cと、を備えている。カバー21の後面は、本発明の「ハウジングの内面」の概念に含まれる。
【0014】
ハウジング本体20は、前側に開口する有底楕円筒状を呈している。ハウジング本体20は、周壁部200と底壁部201とを備えている。周壁部200は、楕円筒状を呈している。周壁部200は、吸気孔200aを備えている。吸気孔200aは、周壁部200を上下方向に貫通している。吸気孔200aは、逆止弁付きの吸気通路(図略)を介して、ブレーキ装置の倍力装置に連結されている。底壁部201は、周壁部200の後側の開口を封止している。底壁部201は、貫通孔201aと、排気孔201dと、油溝P3と、を備えている。貫通孔201aは、底壁部201を前後方向(軸方向)に貫通している。油溝P3は、貫通孔201aの内周面の上端に凹設されている。油溝P3は、前後方向に延在している。排気孔201dは、底壁部201を前後方向に貫通している。排気孔201dは、ポンプ室Cの、ベーン4の回転方向前端付近に配置されている。排気孔201dは、リードバルブ(図略)により、開閉可能である。
【0015】
カバー21は、ハウジング本体20の前側の開口を封止している。複数のボルト90および複数のナット(図略)により、カバー21は、ハウジング本体20に固定されている。カバー21とハウジング本体20との間には、Oリング92が介装されている。
【0016】
ポンプ室Cは、ハウジング2の内部に区画されている。前側から見て、ポンプ室Cは、楕円形状を呈している。ポンプ室Cは、吸気孔200a、吸気通路を介して、ブレーキ装置の倍力装置に連通している。また、ポンプ室Cは、排気孔201d、リードバルブを介して、ベーンポンプ1の外部(エンジンルーム)に連通している。
【0017】
(ロータ3)
ロータ3は、カムシャフトと共に、回転可能である。ロータ3は、ロータ本体30と、連結凸部31と、油室Aと、を備えている。ロータ本体30は、前側に開口する有底真円筒状を呈している。ロータ本体30は、周壁部300と底壁部301とを備えている。周壁部300は、真円筒状を呈している。周壁部300は、ポンプ室Cに収容されている。周壁部300の前端面は、本発明の「周壁部の端面」の概念に含まれる。周壁部300は、一対のベーン保持溝300aと、複数の油溝300bと、を備えている。一対のベーン保持溝300aは、周壁部300を直径方向に貫通している。
【0018】
複数の油溝300bは、周壁部300の前端面に凹設されている。前側から見て、複数の油溝300bは、ロータ3の径方向中心に対して、所定角度ずつ離間して、放射状に配置されている。複数の油溝300bは、各々、ロータ3の径方向中心に対して、径方向に延在している。油溝300bの横断面形状(延在方向に対して直交する方向の断面形状)は、C字状を呈している。油溝300bの溝深さは、100μm程度である。また、油溝300bの溝幅は、100μm程度である。
図5に、
図4の枠V内の拡大図を示す。
図5に示すように、カバー21の後面と、周壁部300の前端面と、の間には、摺動界面Bが区画されている。摺動界面Bの前後方向の隙間幅は、50μm程度である。当該隙間には、油膜Fが形成されている。
【0019】
図2、
図4に示すように、底壁部301は、周壁部300の後側の開口を封止している。底壁部301は、貫通孔201aに収容されている。底壁部301は、油孔P2を備えている。油孔P2は、底壁部301を直径方向に貫通している。
図2に示すように、油孔P2は、所定の回転角度に限って、油溝P3に連通可能である。
【0020】
連結凸部31は、底壁部301の後側に連なっている。連結凸部31は、底壁部301の直径方向に延在している。連結凸部31は、収容凹部310と油孔P1とを備えている。収容凹部310は、連結凸部31の後端面に凹設されている。油孔P1は、前後方向に延在している。油孔P1は、収容凹部310と油孔P2とを連通している。連結凸部31とカムシャフトとは、カップリング(図略)および給油ジョイント(図略)により、連結されている。カップリングは、カムシャフトからロータ3に、回転力を伝達している。給油ジョイントは、カムシャフトからロータ3(具体的には収容凹部310)に、潤滑油を供給している。
【0021】
油室Aは、ロータ3の内部に区画されている。前側から見て、油室Aは、真円形状を呈している。油室Aは、ベーン4により、一対の半円形状に分断されている。油室Aは、一対のベーン保持溝300a、摺動界面B(複数の油溝300bを含む)を介して、ポンプ室Cに連通している。
【0022】
(ベーン4)
ベーン4は、ロータ3およびカムシャフトと共に、回転可能である。ベーン4は、ベーン本体40と、一対のキャップ41と、を備えている。ベーン本体40は、矩形板状を呈している。ベーン本体40は、ポンプ室Cに収容されている。ベーン本体40は、一対のベーン保持溝300aに沿って、ロータ3の直径方向に往復動可能である。ベーン本体40は、回転角度に応じて、ポンプ室Cを複数の作動室C1〜C3に区画可能である。ベーン本体40の後端面と底壁部301との間には、隙間P4が区画されている。
【0023】
一対のキャップ41は、ベーン本体40の直径方向両端に配置されている。キャップ41は、ベーン本体40に対して、径方向外側に突出可能である。キャップ41は、周壁部200の内周面に摺接している。
【0024】
[ベーンポンプの動き]
次に、本実施形態のベーンポンプの動きについて説明する。
図2に示すように、ベーンポンプ1駆動時(ロータ3、ベーン4回転時)においては、所定の回転角度に限って、油孔P2が油溝P3に連通する。この際、カムシャフトと油室Aとの間に、油路Pが確保される。油路Pは、上流側から下流側に向かって、油孔P1、P2、油溝P3、隙間P4を備えている。潤滑油Oは、油路Pを経由して、カムシャフトから油室Aに導入される。潤滑油Oは、油室Aに貯留される。なお、油室Aにおける潤滑油Oの貯留量、貯留状態等は、特に限定しない。
【0025】
図5に示すように、油溝300bは、上流端(内径端)300b1と、下流端(外径端)300b2と、を備えている。油溝300bの上流端300b1は、本発明の「油溝の一端」の概念に含まれる。油溝300bの下流端300b2は、本発明の「油溝の他端」の概念に含まれる。油室Aの潤滑油Oは、上流端300b1を介して、油溝300bに供給される。油溝300bの潤滑油Oは、摺動界面Bに供給される。供給された潤滑油Oは、ロータ3の回転に伴って、摺動界面Bの全面に行き渡る。このため、摺動界面Bに油膜Fが形成される。油膜F形成後の潤滑油Oは、下流端300b2を介して、ポンプ室Cに排出される。このように、摺動界面Bには、油溝300bの潤滑油Oにより、連続的かつ流動的に、油膜Fが形成される。
【0026】
図1、
図3に示すように、ベーン4の回転に伴って、複数の作動室C1〜C3の容積は、拡縮変化する。当該容積変化に伴って、吸気孔200aを介して、作動室C1〜C3は、倍力装置から、空気を吸引する。吸引された空気は、排気孔201dを介して、作動室C1〜C3から外部に排気される。
【0027】
[ベーンポンプの作用効果]
次に、本実施形態のベーンポンプの作用効果について説明する。
図4、
図5に示すように、ロータ3の周壁部300の前端面は、油溝300bを備えている。油溝300bは、ロータ3の油室Aと、直接、連通している。このため、油溝300bには、油室Aの潤滑油Oが、直接、流れ込む。したがって、本実施形態のベーンポンプ1によると、摺動界面Bに、油膜Fが形成されやすくなる。よって、摺動界面Bのシール性を確保しやすい。また、スラスト荷重から、摺動界面Bを保護しやすい。このため、周壁部300の前端面やカバー21の後面が、摩耗しにくい。また、本実施形態のベーンポンプ1によると、摺動界面Bのシール性を確保するために、特許文献1の付勢部、摺動部材のような部材を、追加配置する必要がない。このため、部品点数の増加を抑制することができる。
【0028】
また、
図4、
図5に示すように、油溝300bは、径方向(周方向に対して交差する方向)に延在している。このため、摺動界面Bの径方向に、潤滑油Oを流動させることができる。また、ロータ3の回転により、摺動界面Bの周方向に、潤滑油Oを行き渡らせることができる。したがって、摺動界面Bの全面に、油膜Fを形成することができる。
【0029】
また、摺動界面Bには、油膜Fを形成する必要がある。このため、摺動界面Bの前後方向の隙間幅(
図5参照)は微小である。したがって、潤滑油Oは、油室Aから摺動界面Bに流れ込みにくい。一方、油室Aには、
図2に示す油路Pを介して、次々と潤滑油Oが流れ込む。このため、
図4に示すように、油室Aには、潤滑油Oが溜まりやすい。よって、潤滑油Oが非圧縮性流体であることとも相俟って、油室Aは、ポンプ室Cに対して、高圧になりやすい。油室Aが高圧になると、圧力を逃がすために、油室Aの潤滑油Oは、一度にかつ大量に、摺動界面Bを介して、ポンプ室Cに流れ込む。また、潤滑油Oの流動に伴い、油室Aの圧力は、大きく変動する。このため、油室Aの圧力変動に伴って、摺動界面Bの前後方向の隙間幅の分だけ、ロータ3が前後方向に動きやすくなる。
【0030】
なお、当該課題は、「ロータ3の油室Aに潤滑油Oが溜まりやすいこと」に起因している。このため、特許文献1に開示されているタイプのベーンポンプ(ロータの径方向内側にシャフトが挿通されており、ロータ内部に油室を有しないベーンポンプ)には、起こり得ない課題である。
【0031】
この点、本実施形態のベーンポンプ1によると、ロータ3の周壁部300の前端面に、油溝300bが配置されている。油溝300bの上流端300b1は、油室Aに開口している。このため、潤滑油Oは、油室Aから摺動界面Bに流れ込みやすい。また、油溝300bの下流端300b2は、ポンプ室Cに開口している。このため、潤滑油Oは、摺動界面Bからポンプ室Cに流れ込みやすい。したがって、油室Aは、ポンプ室Cに対して、高圧になりにくい。また、潤滑油Oが流動しても、油室Aの圧力は、大きく変動しない。よって、摺動界面Bの前後方向の隙間幅が安定しやすい。すなわち、ロータ3が前後方向に動きにくい。
【0032】
また、油溝300bの下流端300b2は、ポンプ室Cに開口している。このため、摺動界面Bに潤滑油Oが過剰供給される場合であっても、過剰分の潤滑油Oを、摺動界面Bからポンプ室Cに、排出することができる。
【0033】
また、油溝300bは、ロータ3の周壁部300の前端面に凹設されている。このため、油溝300bをカバー21の後面に凹設する場合と比較して、カバー21の前後方向の板厚を、薄肉化することができる。したがって、カバー21、延いてはベーンポンプ1を小型化することができる。
【0034】
<第二実施形態>
本実施形態のベーンポンプと、第一実施形態のベーンポンプとの相違点は、油溝が、径方向ではなく周方向に延在している点である。ここでは、相違点についてのみ説明する。
図6に、本実施形態のベーンポンプの径方向断面図を示す。なお、
図1と対応する部位については、同じ符号で示す。
図6に示すように、前側から見て、複数の油溝300cは、ロータ3の径方向中心に対して、同心円状に配置されている。複数の油溝300cは、各々、ロータ3の径方向中心に対して、周方向に無端環状に延在している。複数の油溝300c同士は、摺動界面を介して、間接的に連通している。また、複数の油溝300cは、摺動界面を介して、油室Aおよびポンプ室Cと、間接的に連通している。
【0035】
本実施形態のベーンポンプ1と、第一実施形態のベーンポンプとは、構成が共通する部分に関しては、同様の作用効果を有する。また、本実施形態のベーンポンプ1によると、ロータ3の回転方向と、油溝300cの延在方向と、が一致している。このため、摺動界面に油膜を形成しやすい。本実施形態のベーンポンプ1のように、油溝300cは、油室Aおよびポンプ室Cと、直接、連通していなくてもよい。
【0036】
<その他>
以上、本発明のベーンポンプの実施の形態について説明した。しかしながら、実施の形態は上記形態に特に限定されるものではない。当業者が行いうる種々の変形的形態、改良的形態で実施することも可能である。
【0037】
図7(a)に、その他の実施形態(その1)のベーンポンプの摺動界面付近の軸方向断面図を示す。
図7(b)に、その他の実施形態(その2)のベーンポンプの摺動界面付近の軸方向断面図を示す。
図7(c)に、その他の実施形態(その3)のベーンポンプの摺動界面付近の軸方向断面図を示す。
図7(d)に、その他の実施形態(その4)のベーンポンプの摺動界面付近の軸方向断面図を示す。なお、
図5と対応する部位については、同じ符号で示す。
【0038】
図7(a)に示すように、油溝300dの溝深さが上流端300d1から下流端300d2に向かって浅くなるように、油溝300dを形成してもよい。こうすると、ポンプ室Cから油室Aに、潤滑油Oが逆流しにくい。
【0039】
図7(b)に示すように、油溝300eの溝深さが鋸歯状に変化するように、油溝300eを形成してもよい。また、径方向平面a0に対する、任意の鋸歯部分の油室A向きの斜面a10の傾斜角度をθ1、径方向平面a0に対する、任意の鋸歯部分のポンプ室C向きの斜面a20の傾斜角度をθ2とした場合、傾斜角度θ1<傾斜角度θ2としてもよい。こうすると、ポンプ室Cから油室Aに、潤滑油Oが逆流しにくい。
【0040】
図7(c)に示すように、周壁部300の前端面の径方向内縁に面取部を形成することにより、油溝300fを配置してもよい。油溝300fは、ロータ3の径方向中心に対して、周方向に無端環状に延在している。油溝300fを配置すると、摺動界面Bに潤滑油Oが導入されやすい。また、摺動界面Bの前後方向の隙間幅が安定しやすい。
【0041】
図7(d)に示すように、周壁部300の前端面の径方向外縁に面取部を形成することにより、油溝300gを配置してもよい。油溝300gは、ロータ3の径方向中心に対して、周方向に無端環状に延在している。油溝300gを配置すると、摺動界面Bから潤滑油Oが排出されやすい。また、摺動界面Bの前後方向の隙間幅が安定しやすい。
【0042】
また、周壁部300の前端面に、油溝300fおよび油溝300gを配置してもよい。この場合は、油溝300fの溝深さを、油溝300gの溝深さよりも、大きくする方がよい。こうすると、摺動界面Bに潤滑油Oが導入されやすい。並びに、摺動界面Bから潤滑油Oが排出されやすい。また、摺動界面Bの前後方向の隙間幅が安定しやすい。
【0043】
図8に、その他の実施形態(その5)のベーンポンプの径方向断面図を示す。なお、
図1と対応する部位については、同じ符号で示す。
図8に示すように、周壁部300の前端面に、格子状の油溝300hを凹設してもよい。こうすると、摺動界面Bに潤滑油Oが導入されやすい。並びに、摺動界面Bから潤滑油Oが排出されやすい。また、摺動界面Bの前後方向の隙間幅が安定しやすい。
【0044】
油溝300b〜300hの配置数、延在形状、溝長さ、溝深さ、溝幅は特に限定しない。例えば、
図5に示す油溝300bの上流端300b1は、油室Aに開口していなくてもよい。同様に、下流端300b2は、ポンプ室Cに開口していなくてもよい。また、
図6、
図7(c)、
図7(d)に示す油溝300c、300f、300gは、前側から見て、無端環状に連なっていなくてもよい。例えば、部分弧状(C字状)であってもよい。また、油溝300b〜300hの全長に亘って、溝深さ、溝幅は一定でなくてもよい。また、油溝300b〜300hの横断面形状は特に限定しない。例えば、C字状、U字状、V字状、W字状などであってもよい。
図7(c)、
図7(d)に示す、油溝300f、300g形成用の面取部の形状は特に限定しない。平面取状、または点線a2、b2、a3、b3で示すように、丸面取状(凹面取状、凸面取状)でもよい。
【0045】
油溝300b〜300hを、カバー21の後面(摺動界面Bを区画する部分)に配置してもよい。この場合であっても、摺動界面Bの前後方向の隙間幅が安定しやすい。また、油溝300b〜300hを、周壁部300の前端面およびカバー21の後面の双方に、配置してもよい。この場合であっても、摺動界面Bの前後方向の隙間幅が安定しやすい。
【0046】
また、周壁部300の前端面、およびカバー21の後面のうち少なくとも一方に、凹凸形状(例えば、テーパランド形状、ディンプル形状、梨地模様など)を付与してもよい。この場合であっても、摺動界面Bの前後方向の隙間幅が安定しやすい。