(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6382882
(24)【登録日】2018年8月10日
(45)【発行日】2018年8月29日
(54)【発明の名称】ブレーキ検査装置およびブレーキ検査方法
(51)【国際特許分類】
H02P 3/04 20060101AFI20180820BHJP
F16D 66/00 20060101ALI20180820BHJP
【FI】
H02P3/04 B
F16D66/00 Z
【請求項の数】6
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2016-82220(P2016-82220)
(22)【出願日】2016年4月15日
(65)【公開番号】特開2017-192267(P2017-192267A)
(43)【公開日】2017年10月19日
【審査請求日】2017年6月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】390008235
【氏名又は名称】ファナック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118913
【弁理士】
【氏名又は名称】上田 邦生
(74)【代理人】
【識別番号】100142789
【弁理士】
【氏名又は名称】柳 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100163050
【弁理士】
【氏名又は名称】小栗 眞由美
(74)【代理人】
【識別番号】100201466
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 邦彦
(72)【発明者】
【氏名】安田 龍矢
(72)【発明者】
【氏名】田巻 毅
(72)【発明者】
【氏名】小野 勝也
【審査官】
樋口 幸太郎
(56)【参考文献】
【文献】
特開2015−108764(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 3/04
F16D 66/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータに設けられ該モータのロータを保持または制動するブレーキの状態を検査するモータのブレーキ検査装置であって、
モータの負荷トルクを測定する負荷トルク測定部と、
該負荷トルク測定部により、前記モータのステータに対してロータを制動するブレーキを作動させたときおよび作動解除させたときに測定された前記負荷トルクに基づいて前記ブレーキの状態を判定する判定部とを備えるモータのブレーキ検査装置。
【請求項2】
前記判定部は、前記ブレーキを作動させたときに前記負荷トルク測定部により測定された前記負荷トルクに対する、前記ブレーキを作動解除させたときに前記負荷トルク測定部により測定された前記負荷トルクの比が、所定の閾値より大きい場合に、前記ブレーキに異常があると判定する請求項1に記載のモータのブレーキ検査装置。
【請求項3】
前記判定部が、前記ブレーキを作動させた状態で前記モータを両方向に作動させて前記負荷トルク測定部により測定された正逆方向の前記負荷トルクと、前記ブレーキを作動解除させた状態で、前記モータを両方向に作動させて前記負荷トルク測定部により測定された正逆方向の前記負荷トルクに基づいて前記ブレーキの状態を判定する請求項1に記載のモータのブレーキ検査装置。
【請求項4】
前記判定部は、前記ブレーキを作動させた状態で測定された正逆方向の前記負荷トルクの平均値と、前記ブレーキを作動解除させた状態で測定された正逆方向の前記負荷トルクの平均値との差分の正常時のブレーキトルクに対する比率が所定の閾値より小さい場合に前記ブレーキに異常があると判定する請求項3に記載のモータのブレーキ検査装置。
【請求項5】
前記判定部は、前記ブレーキの異常として、前記ブレーキが正常に解除されていないと判定する請求項2または請求項4に記載のモータのブレーキ検査装置。
【請求項6】
モータに設けられ該モータのロータを保持または制動するブレーキの状態を検査するモータのブレーキ検査方法であって、
ブレーキを作動させたときにモータにかかる負荷トルクを測定する第1のステップと、
前記ブレーキを作動解除させたときに前記モータにかかる前記負荷トルクを測定する第2のステップと、
前記第1のステップおよび前記第2のステップにおいて測定された負荷トルクに基づいて前記ブレーキの状態を判定する第3のステップとを含むモータのブレーキ検査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブレーキ検査装置およびブレーキ検査方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ブレーキを解除した状態での負荷トルクを測定し、測定された負荷トルクを予め設定されている正常な負荷トルクと比較することによりブレーキの異常の有無を検知するブレーキの故障検出方法が知られている(例えば、特許文献1および特許文献2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平6−284766号公報
【特許文献2】特開2000−324885号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、モータの負荷トルクは経時変化およびモータを装着する機械毎の個体差によって変動するため、特許文献1および特許文献2の故障検出方法では、ブレーキの状態を精度よく検出することができないという不都合がある。
【0005】
本発明は上述した事情に鑑みてなされたものであって、モータの負荷トルクが変動してもブレーキの状態を精度よく検出することができるブレーキ検査装置およびブレーキ検査方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明は以下の手段を提供する。
モータの負荷トルクを測定する負荷トルク測定部と、該負荷トルク測定部により、前記モータのステータに対してロータを制動するブレーキを作動させたときおよび作動解除させたときに測定された前記負荷トルクに基づいて前記ブレーキの状態を判定する判定部とを備えるモータのブレーキ検査装置を提供する。
【0007】
本態様によれば、ブレーキを作動させてステータに対してロータを制動状態にして負荷トルク測定部によりモータの負荷トルクが測定されるとともに、ブレーキの作動を解除して、ステータに対してロータを回転可能にして負荷トルク測定部によりモータの負荷トルクが測定され、判定部により2つの負荷トルクに基づいてブレーキの状態が判定される。すなわち、ブレーキの状態が不良の場合、例えば、ブレーキの作動を解除する機構部が故障している場合には、制動を解除した状態で測定される負荷トルクが大きくなって制動時の負荷トルクに近くなる。
【0008】
したがって、ブレーキの作動時と作動解除時に測定された負荷トルクに基づけば、ブレーキの状態を容易に判定することができる。この場合に、経時変化あるいはモータの個体差により、モータの負荷トルクが変動しても、ブレーキの作動時と作動解除時の両方の負荷トルクを測定することによって、両者の比較により、ブレーキの状態を精度よく検出することができる。
【0009】
上記態様においては、前記判定部は、前記ブレーキを作動させたときに前記負荷トルク測定部により測定された前記負荷トルクに対する、前記ブレーキを作動解除させたときに前記負荷トルク測定部により測定された前記負荷トルクの比が、所定の閾値より大きい場合に、前記ブレーキに異常があると判定してもよい。
このようにすることで、ブレーキ作動解除時の負荷トルクが大きくなるとブレーキの作動を解除する機構部が故障している可能性がある。したがって、ブレーキ作動時の負荷トルクに対するブレーキ作動解除時の負荷トルクの比が所定の閾値より大きい場合には、ブレーキが異常であると容易にかつ精度よく判定することができる。
【0010】
また、上記態様においては、前記判定部が、前記ブレーキを作動させた状態で前記モータを両方向に作動させて前記負荷トルク測定部により測定された正逆方向の前記負荷トルクと、前記ブレーキを作動解除させた状態で、前記モータを両方向に作動させて前記負荷トルク測定部により測定された正逆方向の前記負荷トルクに基づいて前記ブレーキの状態を判定してもよい。
このようにすることで、正逆方向に負荷トルクが異なる場合においても、ブレーキの作動時と作動解除時の負荷トルクの比較によってブレーキの状態を容易にかつ精度よく判定することができる。
【0011】
また、上記態様においては、前記判定部は、前記ブレーキを作動させた状態で測定された正逆方向の前記負荷トルクの平均値と、前記ブレーキを作動解除させた状態で測定された正逆方向の前記負荷トルクの平均値との差分の正常時のブレーキトルクに対する比率が所定の閾値より小さい場合に前記ブレーキに異常があると判定してもよい。
このようにすることで、平均値の差分によっても、ブレーキの作動時と作動解除時の負荷トルクの違いを評価に含めることができ、ブレーキの状態を容易にかつ精度よく判定することができる。
【0012】
また、本発明の他の態様は、ブレーキを作動させたときにモータにかかる負荷トルクを測定する第1のステップと、前記ブレーキを作動解除させたときに前記モータにかかる負荷トルクを測定する第2のステップと、前記第1のステップおよび前記第2のステップにおいて測定された前記負荷トルクに基づいて前記ブレーキの状態を判定する第3のステップとを含むモータのブレーキ検査方法を提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、モータの負荷トルクが変動してもブレーキの状態を精度よく検出することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の一実施形態に係るモータのブレーキ検査装置を示すブロック図である。
【
図2】
図1のブレーキ検査装置を用いた本発明の一実施形態に係るブレーキ検査方法を説明するフローチャートである。
【
図3】
図2のブレーキ検査方法の変形例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の一実施形態に係るモータ2のブレーキ検査装置1およびブレーキ検査方法について、図面を参照して以下に説明する。
本実施形態に係るモータ2のブレーキ検査装置1は、
図1に示されるように、モータ2を制御するモータ制御部3に備えられ、モータ2を制御するためにモータ2からモータ制御部3にフィードバックされる電流を測定することによりモータ2にかかる負荷トルクを測定する負荷トルク測定部4と、該負荷トルク測定部4により測定された負荷トルクに基づいてブレーキ7の状態を判定する判定部5と、ブレーキ7を制御するブレーキ制御部6とを備えている。
【0016】
判定部5は、ブレーキ7の状態を検査する検査指示に基づいて、まず、ブレーキ制御部6に対してモータ2のステータ2aに対してロータ2bを制動するブレーキ7の作動を解除させる指令を出力したときに負荷トルク測定部4により測定される負荷トルクT1を記憶するようになっている。次いで、判定部5は、ブレーキ制御部6に対してブレーキ7を作動させる指令を出力したときに負荷トルク測定部4により測定される負荷トルクT2を記憶するようになっている。
【0017】
そして、判定部5は、ブレーキ7作動時の負荷トルクT2に対するブレーキ7作動解除時の負荷トルクT1の比T=T1/T2×100(%)を算出し、算出された負荷トルク比Tが、所定の閾値Taより大きいか否かによってブレーキ7の状態を判定し、判定結果を出力するようになっている。
【0018】
すなわち、判定部5は、負荷トルクの比Tが所定の閾値Ta以下である場合には、ブレーキ7が正常に解除されていると判定し、閾値Taより大きい場合には、ブレーキ7に異常があると判定するようになっている。
【0019】
このように構成された本実施形態に係るブレーキ検査装置1を用いたブレーキ検査方法について以下に説明する。
本実施形態に係るブレーキ検査方法は、
図2に示されるように、ブレーキ制御部6がブレーキ7を作動解除させるステップS1と、そのときの負荷トルクT1を負荷トルク測定部4により測定するステップ(第2のステップ)S2と、ブレーキ制御部6がブレーキ7を作動させるステップS3と、そのときの負荷トルクT2を負荷トルク測定部4により測定するステップ(第1のステップ)S4と、ステップS2およびステップS4において測定された負荷トルクT1,T2に基づいてブレーキ7の状態を判定するステップ(第3のステップ)S5とを含んでいる。
【0020】
第3のステップS5は、第1のステップS4および第2のステップS2において測定された負荷トルクT1,T2の負荷トルク比Tを算出するステップS6と、該ステップS6において算出された負荷トルク比Tを所定の閾値Taと比較する比較ステップS7とを含んでいる。比較ステップS7においては、負荷トルク比Tが所定の閾値Ta以下である場合には、ブレーキ7が正常に解除されている旨を出力し(ステップS8)、閾値Taより大きい場合には、ブレーキ7に異常がある旨を出力するようになっている(ステップS9)。
【0021】
このように構成された本実施形態に係るブレーキ検査装置1およびブレーキ検査方法によれば、常に、その時点でのブレーキ7の状態が、作動状態と作動解除状態での負荷トルクT1,T2の比較により判定することができる。その結果、ブレーキ7が作動解除された状態で測定された負荷トルクT1を、記憶しておいたブレーキ7が正常状態であるときの負荷トルクT2と比較する従来の方法に比べて、モータ2の経時変化や個体差によって負荷トルクT1,T2が変動しても簡易に精度よくブレーキ7の状態を判定することができるという利点がある。
【0022】
なお、本実施形態においては、ブレーキ7を作動させたときの負荷トルクT2に対するブレーキ7を作動解除させたときの負荷トルクT1の負荷トルク比Tに基づいてブレーキ7の状態を検査した。これに代えて、ブレーキ7を作動させた状態と作動解除させた状態で、モータ2を両方向に作動させて負荷トルク測定部4により測定された正逆方向の負荷トルクに基づいてブレーキ7の状態を判定してもよい。
【0023】
具体的には、
図3に示されるように、ブレーキ7を作動解除させた状態(ステップS1)で、プラス方向負荷トルクT1(+)とマイナス方向負荷トルクT1(−)を測定し(ステップS10)、ブレーキ7を作動させた状態(ステップS3)で、プラス方向負荷トルクT2(+)とマイナス方向負荷トルクT2(−)を測定し(ステップS12)、ブレーキ7解除状態の平均負荷トルクT1=(T1(+)−T1(−))/2と、ブレーキ7作動状態の平均負荷トルクT2=(T2(+)−T2(−))/2とを算出する(ステップS11,S13)。
【0024】
そして、ブレーキ7が正常であるか否かを判定する第3のステップS5において、ブレーキトルクTb=T2−T1を算出し(ステップS14)、正常時のブレーキ7の負荷トルクT0として、T=Tb/T0×100(%)を算出する(ステップS6)。これにより、所定の閾値Ta(%)と比較して(ステップS15)、T≧Taであればブレーキ7は正常であると判定し(ステップS8)、T<Taであればブレーキ7に異常があると判定することにしてもよい(ステップS9)。
【0025】
このように、正逆方向の負荷トルクを測定してブレーキ7の状態を判定することにより、負荷トルクがモータ2の正逆方向で異なっても、簡易に精度よくブレーキ7の状態を検査することができるという利点がある。また、本実施形態に係るブレーキ検査装置1およびブレーキ検査方法によれば、ブレーキ7の状態を検査するためにオシロスコープ等の外部機器を設置する必要がなく、設置に要する工数やコストをかけずに、ブレーキ7の状態を定期的にあるいは必要に応じて監視することができるという利点がある。
【0026】
また、重力軸を駆動するモータ2に備えられたブレーキ7を検査する場合には、プラス方向を上方向、マイナス方向を下方向と定め、ブレーキ7作動状態におけるマイナス方向の負荷トルクT2(−)として重力軸が落下するまでのマージントルクTmを採用し、ブレーキトルクTbに対するマージントルクTmの比T=Tm/Tb×100(%)が、所定の閾値Taと比較して、T≧Taであればブレーキ7は正常であると判定し、T<Taであればブレーキ7に異常があると判定することにしてもよい。
【符号の説明】
【0027】
1 ブレーキ検査装置
2 モータ
2a ステータ
2b ロータ
4 負荷トルク測定部
5 判定部
7 ブレーキ
S2 第2のステップ
S4 第1のステップ
S5 第3のステップ
T0,T1,T2 負荷トルク
Ta 閾値
Tb ブレーキトルク