(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6383169
(24)【登録日】2018年8月10日
(45)【発行日】2018年8月29日
(54)【発明の名称】車両側部構造
(51)【国際特許分類】
B60R 21/04 20060101AFI20180820BHJP
B60J 5/00 20060101ALI20180820BHJP
【FI】
B60R21/04
B60J5/00 P
B60J5/00 M
【請求項の数】1
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-74615(P2014-74615)
(22)【出願日】2014年3月31日
(65)【公開番号】特開2015-196431(P2015-196431A)
(43)【公開日】2015年11月9日
【審査請求日】2017年3月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120514
【弁理士】
【氏名又は名称】筒井 雅人
(72)【発明者】
【氏名】平塚 雅人
(72)【発明者】
【氏名】高延 宣文
【審査官】
飯島 尚郎
(56)【参考文献】
【文献】
特開平10−250512(JP,A)
【文献】
特開2014−028572(JP,A)
【文献】
特開2009−190664(JP,A)
【文献】
特開2000−264153(JP,A)
【文献】
特開2006−044635(JP,A)
【文献】
特開2008−068715(JP,A)
【文献】
特開2001−080439(JP,A)
【文献】
特開2009−012560(JP,A)
【文献】
特開2013−216169(JP,A)
【文献】
特開2008−254635(JP,A)
【文献】
特開2014−121887(JP,A)
【文献】
特開2011−179579(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2010/0225144(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 21/04
B60J 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のサイドドアに取り付けられた衝撃吸収体と、
前記サイドドアの後部寄りの位置に設けられたドアロックユニットと、
を備えており、
前記衝撃吸収体は、天板部と、この天板部に一体的に繋がって前記天板部の外周縁から車幅方向に起立する周壁部とを有するボックス状とされ、かつ車幅方向外方からの所定以上の負荷入力によって前記周壁部が屈曲変形可能とされている、車両側部構造であって、
前記衝撃吸収体は、前記ドアロックユニットに接近するようにして前記ドアロックユニットよりも車両前方寄りに配され、かつ前記周壁部は、五角形筒状とされており、
車両側面視において、前記周壁部の前部側には、前記周壁部の2つのコーナ部が上下高さ方向に互いに離間して位置し、かつ後部側には、前記周壁部の他の3つのコーナ部が上下高さ方向に互いに離間して位置する構成とされており、
前記周壁部は、前記2つのコーナ部の相互間に位置し、かつ前記周壁部の前壁部としての第1の壁部、前記周壁部の下壁部としての第2の壁部、前記3つのコーナ部の相互間に位置し、かつ前記周壁部の2つの後壁部としての第3および第4の壁部、ならびに前記周壁部の上壁部としての第5の壁部を備えており、
これら第1ないし第5の壁部のうち、前記第1の壁部は、最も大きな幅とされており、かつ前記第1の壁部の起立方向の中間部分は、前記衝撃吸収体の内側に窪み、または前記衝撃吸収体の外方に膨出した屈曲状または湾曲状とされていることを特徴とする、車両側部構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両側面衝突に好適に対応することが可能な車両側部構造に関する。
【背景技術】
【0002】
車両側部構造の一例として、特許文献1に記載された構造がある。
同文献に記載された構造においては、車両のサイドドアのドアトリムとドアパネルとの間に、衝撃吸収体が配されている。この衝撃吸収体は、全体が樹脂製のボックス状であり、天板部と、この天板部に一体的に繋がって前記天板部の外周縁から車幅方向に起立する周壁部とを有している。この衝撃吸収体は、車幅方向外方からの所定以上の負荷入力があると、周壁部が屈曲変形し、このことにより衝撃エネルギ吸収作用が得られる。したがって、乗員保護に役立つ。
【0003】
しかしながら、前記従来技術においては、次のように、改善余地がある。
【0004】
すなわち、車両側面衝突時には、サイドドアのドアアウタパネルなどが変形する結果、サイドドア内に設けられているドアロックユニットにも負荷が入力し、このドアロックユニットが不当に作動したり、あるいは損傷するといった虞がある。ドアロックユニットが不当に作動し、ロック解除がなされたのでは、サイドドアが開く虞がある。また、ドアロックユニットが損傷したのでは、サイドドアのロック状態の解除が困難となる虞がある。これに対し、前記従来技術においては、前記したような事態を好適に防止することは困難なものとなっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−264971号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、前記したような事情のもとで考え出されたものであり、車両側面衝突時における乗員保護を適切に図りつつ、ドアロックユニットへの負荷入力を適切に抑制することが可能な車両側部構造を提供することを、その課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するため、本発明では、次の技術的手段を講じている。
【0008】
本発明により提供される車両側部構造は、車両のサイドドアに取り付けられた衝撃吸収体と、前記サイドドアの後部寄りの位置に設けられたドアロックユニットと、を備えており、前記衝撃吸収体は、天板部と、この天板部に一体的に繋がって前記天板部の外周縁から車幅方向に起立する周壁部とを有するボックス状とされ、かつ車幅方向外方からの所定以上の負荷入力によって前記周壁部が屈曲変形可能とされている、車両側部構造であって、前記衝撃吸収体は、前記ドアロックユニットに接近するようにして前記ドアロックユニットよりも車両前方寄りに配され
、かつ前記周壁部は、五角形筒状とされており、車両側面視において、前記周壁部の前部側には、前記周壁部の2つのコーナ部が上下高さ方向に互いに離間して位置し、かつ後部側には、前記周壁部の他の3つのコーナ部が上下高さ方向に互いに離間して位置する構成とされており、前記周壁部は、前記2つのコーナ部の相互間に位置し、かつ前記周壁部の前壁部としての第1の壁部、前記周壁部の下壁部としての第2の壁部、前記3つのコーナ部の相互間に位置し、かつ前記周壁部の2つの後壁部としての第3および第4の壁部、ならびに前記周壁部の上壁部としての第5の壁部を備えており、これら第1ないし第5の壁部のうち、前記第1の壁部は、最も大きな幅とされており、かつ前記第1の壁部の起立方向の中間部分は、前記衝撃吸収体の内側に窪み、または前記衝撃吸収体の外方に膨出した屈曲状または湾曲状とされていることを特徴としている。
【0009】
このような構成によれば、次のような効果が得られる。
第1に、衝撃吸収体の周壁部は、その後部側が前部側よりもコーナ部の数が多くされて
いるが、衝撃吸収体の特性として、コーナ部の数が多いほど周壁部が屈曲変形し難くなる。したがって、衝撃吸収体は、前部側が変形し易く、後部側は変形し難くなる。衝撃吸収体の後部側は、ドアロックユニットに近い部分とされているために、ドアロックユニットの近傍部分においては、サイドドアのアウタパネルなどが車幅方向内方へ大きく変形することが衝撃吸収体によって抑制される。したがって、ドアロックユニットへの負荷入力を好適に防止し、または抑制することができる。
第2に、衝撃吸収体の前部側は、既述したように、変形を生じ易い部分であり、衝撃エネルギを効率よく吸収し得る部分である。この衝撃吸収体の前部側は、ドアロックユニットよりも車両前方側へ適当な距離だけ離れた箇所に配置することができ、たとえば乗員の腰に対応する位置へ好適に配置することが可能である。したがって、乗員に向けての負荷入力に対しては、衝撃吸収体の前部によって衝撃エネルギを適切に吸収させ、乗員保護を好適に図ることができる。
第3に、本発明は、衝撃吸収体の形状および配置に工夫を施すことにより、前記した効果が得られるものであり、別部材などを用いる必要はない。また、衝撃吸収体の製造工程や組み付け工程が、従来と比較して煩雑化するといったこともない。したがって、生産性がよく、製造コストを廉価にすることもできる。
【0011】
さらに、前記構成によれば、その詳細については後述の実施形態で説明するが、衝撃吸収体の前部側の屈曲変形の確実化を図り、乗員保護をより好適に図ることができる。一方、衝撃吸収体の後部側の屈曲変形防止効果を高め、ドアロックユニットへの負荷入力防止をより徹底して図ることが可能となる。
【0012】
本発明のその他の特徴および利点は、添付図面を参照して以下に行なう発明の実施の形態の説明から、より明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】(a)は、本発明に係る車両側部構造の一例を示す説明図であり、(b)は、(a)のIb−Ib概略断面図であり、(c)は、(a)のIc−Ic断面を模式的に示す概略平面断面図である。
【
図2】(a)は、
図1に示す車両側部構造において用いられている衝撃吸収体の斜視図であり、(b)は、その正面図であり、(c)は、(a)のIIc−IIc断面図であり、(d)は、(a)のIId−IId断面図である。
【
図3】
図1に示す車両側部構造の作用を模式的に示す概略平面断面図である。
【
図4】
車両側部構造の他の例を模式的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の好ましい実施の形態について、図面を参照して具体的に説明する。
図面において、矢印Frは車両前方を示し、矢印Ouは車幅方向外方を示し、矢印Upは上方を示している。
以下の説明における「前後方向」は、車両前後方向と一致した方向である。
【0015】
図1に示す車両側部構造Aにおいては、自動車のサイドドア1に、ドアロックユニット2および衝撃吸収体EAが取り付けられている。サイドドア1は、同図(b)に示すように、サイドドアアウタパネル10(以下、アウタパネル10)と、サイドドアインナパネ
ル(以下、インナパネル11)とを接合して構成され、インナパネル11には、ドアトリム12が取り付けられている。ドアロックユニット2は、サイドドア1の施錠および解錠動作を行なうためのユニットであり、たとえばアウタパネル10とインナパネル11との間に配されて、サイドドア1の後部寄りの位置に設けられている。
【0016】
衝撃吸収体EAは、樹脂製であり、内部空洞のボックス状である。
図2に示すように、この衝撃吸収体EAは、天板部3、この天板部3の外周縁から天板部3の厚み方向(車幅方向に相当)に起立する周壁部4、この周壁部4の先端部に繋がった取付け用座部5を有しており、これら全体は一体成形されている。
【0017】
周壁部4は、5つのコーナ部C(C1〜C5)を有する5角形筒状とされ、5つのコーナ部Cによって区画された第1ないし第5の壁部4a〜4eを有している。各コーナ部Cは、比較的大きい丸みをもっているが、このようなコーナ部も、本発明でいうコーナ部に含まれる。周壁部4は、より詳細には、不等辺五角形の筒状である。第1ないし第5の壁部4a〜4eのうち、最も車両前方寄りに位置する第1の壁部4aが、最も大きな幅とされている。第2および第5の壁部4b,4eは、略同一の幅である。第3および第4の壁部4c,4dは、略同一の幅であり、かつ最も小さい幅とされている。
【0018】
好ましくは、第1ないし第5の壁部4a〜4eのそれぞれは、平面状ではなく、それらの起立方向の略中央部が衝撃吸収体EAの内側へ僅かに窪み、または衝撃吸収体EAの外側へ僅かに膨出するように、小さい角度で屈曲した面とされている。第1ないし第5の壁部4a〜4eの起立方向の中間部分には、これらが屈曲変形する際の起点となる屈曲線L1〜L5が形成されている。第1、第3および第4の壁部4a,4c,4dについては、その屈曲変形時に衝撃吸収体EAの内側への屈曲が確実化されるようにそれらの起立方向の中間部分が窪んでいる。これに対し、第2および第5の壁部4b,4eについては、屈曲変形時に衝撃吸収体EAの外側への屈曲が確実化されるようにそれらの中間部分が膨出している。なお、第1ないし第5の壁部4a〜4eを、屈曲線L1〜L5が形成された屈曲面とすることに代えて、屈曲線L1〜L5を有しない湾曲面とすることもできる。また、本発明においては、第1ないし第5の壁部4a〜4e
(第1の壁部4aを除く)を屈曲や湾曲のない平面状に形成することもできる。
【0019】
図1(b),(c)に示すように、衝撃吸収体EAは、たとえばドアトリム12の車幅方向外方側に取り付けられている。この取り付けは、
図2で示した取付け用座部5を、ビス止めするなどして行なわれる。衝撃吸収体EAとアウタパネル10との間には、アウタパッド8が介装されている。
図1(a),(b)に示すように、衝撃吸収体EAは、ドアロックユニット2に接近し、かつドアロックユニット2よりも車両前方寄りとなる位置に配されている。加えて、衝撃吸収体EAのうち、3つのコーナ部C3〜C5は、衝撃吸収体EAの後部側に位置してドアロックユニット2に接近し、かつ2つのコーナ部C1,C2は、衝撃吸収体EAの前部側に位置してドアロックユニット2から比較的距離が離れた配置とされている。衝撃吸収体EAの前部側は、乗員との関係においては、たとえば乗員の腰部に対応する配置となっている。
【0020】
次に、前記した車両側部構造Aの作用について説明する。
【0021】
まず、衝撃吸収体EAの周壁部4は、後部側に3つのコーナ部C3〜C5が設けられ、かつ前部側には2つのコーナ部C1,C2が設けられた構成とされている。周壁部4は、コーナ部Cが多くされている部分ほど剛性が高くなるため、相対的に、衝撃吸収体EAの後部側は変形し難く、かつ前部側は変形し易いものとなる。
【0022】
したがって、
図3に模式的に示すように、車両側面衝突により所定以上の負荷Fがサイ
ドドア1に入力した際には、衝撃吸収体EAの前部側(第1の壁部4aが位置する側)の屈曲変形量を大きくすることにより、衝撃エネルギ吸収が好適に行なわれ、乗員保護が図られる。一方、衝撃吸収体EAの後部側については、屈曲変形が抑制されることにより、アウタパネル10の進入を抑制し、ドアロックユニット2への負荷入力を回避することが可能である。このため、負荷入力に起因してドアロックユニット2が不当に起動したり、あるいは損傷するといったことを防止することができる。
【0023】
本実施形態においては、次のような原理により、衝撃吸収体EAの前部側と後部側との屈曲変形量の差をより顕著にすることが可能である。
すなわち、車両側面衝突時によってアウタパネル10が車幅方向内方に進入する際には、殆どの場合において、サイドドア1の後部側よりも中央部側の方が、進入量が大きい状態となる。このため、衝撃吸収体EAの周壁部4のうち、最も前側に位置する第1の壁部4aが最初に屈曲変形を開始する。ここで、
図2(d)の矢印N1で示すように、第1の壁部4aが内側に屈曲変形すると、これに伴って、第2および第5の壁部4b,4eには、これらを矢印N2で示す外側方向に屈曲変形させようとする力が発生する。第2および第5の壁部4b,4eが実際に前記の方向に屈曲変形すると、第3および第4の壁部4c,4dには、これらを矢印N3で示す内側方向に屈曲変形させようとする力が発生するが、これらはコーナ部C4を挟んで隣接しているため、互いに干渉し合い、前記方向への変形は抑制される。
【0024】
このような作用により、本実施形態によれば、衝撃吸収体EAの前部側を利用した衝撃エネルギ吸収を好適に行なわせつつ、衝撃吸収体EAの後部側の変形抑制によるドアロックユニット2への負荷入力防止作用が、より的確に得られることとなる。
なお、第1ないし第5の壁部4a〜4eの屈曲方向は、前記とは反対方向とすることも可能であり、第1、第3および第4の壁部4a,4c,4dが外側方向に屈曲し、第2および第5の壁部4b,4eが内側方向に屈曲するように構成した場合においても、前記したのと同様な作用が得られる。
【0025】
本実施形態の車両側部構造Aにおいては、衝撃吸収体EAの形状や配置に工夫を施しているものの、衝撃吸収体EAに特別な追加部品を設けるような必要はない。衝撃吸収体EAは、金型を用いて容易に樹脂成形可能である。また、衝撃吸収体EAをサイドドア1に特殊な態様で取り付ける必要もないため、生産性もよい。したがって、製造コストを廉価にすることができる利点も得られる。
【0026】
図4は、
車両側部構造の他の実施形態を示している。同図において、前記実施形態と同一または類似の要素には、前記実施形態と同一の符号を付している。
【0027】
図4に示す実施形態においては、衝撃吸収体EAの周壁部4が、3つのコーナ部C1〜C3を有する三角形筒状とされている。衝撃吸収体EAの前部側には、1つのコーナ部C1が存在するのに対し、後部側には、2つのコーナ部C2,C3が存在し、これらのコーナ部C2,C3がドアロックユニット2に接近している。
【0028】
本実施形態によれば、衝撃吸収体EAの前部側と後部側とでは、コーナ部の数が相違することに基づき、前部側を変形し易く、かつ後部側を変形し難くすることが可能である。また、車両側面衝突時には、
図4における第1の壁部4aが最初に屈曲変形を開始するが、これに伴って第2および第3の壁部4b,4cが屈曲変形しようとする際には、これらがコーナ部C2の近辺において干渉し合い、コーナ部C2の近辺がとくに変形し難くなる作用が得られる。
【0030】
本発明は、上述した実施形態の内容に限定されない。本発明に係る衝撃吸収体の各部の具体的な構成は、本発明の意図する範囲内において種々に設計変更自在である。
たとえば、衝撃吸収体の適当な箇所に、孔部や切り欠きを設けるといった手段を採用することもできる。
【符号の説明】
【0031】
A 車両側部構造
C(C1〜C5) コーナ部
EA 衝撃吸収体
1 サイドドア
2 ドアロックユニット
3 天板部(衝撃吸収体の)
4 周壁部(衝撃吸収体の)