特許第6383178号(P6383178)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6383178洗濯耐久性に優れた血液・ウイルスバリア性積層布帛
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6383178
(24)【登録日】2018年8月10日
(45)【発行日】2018年8月29日
(54)【発明の名称】洗濯耐久性に優れた血液・ウイルスバリア性積層布帛
(51)【国際特許分類】
   D06M 17/00 20060101AFI20180820BHJP
   D06M 17/10 20060101ALI20180820BHJP
   B32B 5/24 20060101ALI20180820BHJP
【FI】
   D06M17/00 M
   D06M17/10
   B32B5/24 101
【請求項の数】3
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-110257(P2014-110257)
(22)【出願日】2014年5月28日
(65)【公開番号】特開2015-224405(P2015-224405A)
(43)【公開日】2015年12月14日
【審査請求日】2017年5月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】592197315
【氏名又は名称】ユニチカトレーディング株式会社
(72)【発明者】
【氏名】中川 清
(72)【発明者】
【氏名】北阪 大輔
【審査官】 加賀 直人
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−065226(JP,A)
【文献】 米国特許第04433026(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06M 17/00
B32B 5/24
D06M 17/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表地、第一接着剤層、透湿性を有する微多孔質ポリテトラフルオロエチレンフィルム、第二接着剤層及び裏地の順に積層一体化されてなる積層布帛において、前記表地及び裏地はポリエステル系繊維を主体として構成されており、前記第一及び第二接着剤層は、何れも透湿性を有しないポリカーボネート系ポリウレタン樹脂を含有する樹脂組成物から構成されており、さらに前記第一及び第二接着剤層のうち、一方は全面状に形成され、他方は非全面状に形成されていることを特徴とする洗濯耐久性に優れた血液・ウイルスバリア性積層布帛。
【請求項2】
JIS L1099B−1法による透湿度が2000〜10000g/m・24hrsの範囲にあることを特徴とする請求項1記載の洗濯耐久性に優れた血液・ウイルスバリア性積層布帛。
【請求項3】
表地及び裏地が同一の織編物である請求項1又は2記載の洗濯耐久性に優れた血液・ウイルスバリア性積層布帛。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として医療従事者の外衣を縫製する際に用いるのに適した、透湿性に優れ洗濯耐久性にも優れた血液・ウイルスバリア性積層布帛に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、透湿性に優れた血液バリア性積層布帛として、表地、第一接着剤層、微多孔質ポリテトラフルオロエチレンフィルム、第二接着剤層及び裏地の順に積層一体化されてなるものが知られている(下記特許文献1の段落0003)。微多孔質ポリテトラフルオロエチレンフィルムが用いられる理由は、これが透湿性や各種薬品に対する耐性に優れかつ血液バリア性にも優れるからである。
【0003】
しかしながら、微多孔質ポリテトラフルオロエチレンフィルムは摩擦耐久性が不十分であることが知られている(下記特許文献1の段落0004)。したがって、この血液バリア性積層布帛を用いた外衣を繰り返し洗濯したり、滅菌処理したりすると、血液バリア性やウイルスバリア性などが低下するという欠点があった。このため、微多孔質ポリテトラフルオロエチレンフィルムの片面に親水性樹脂皮膜を特定の態様で形成して、摩擦耐久性を向上させることが提案されている(下記特許文献1の特許請求項の範囲の項)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−315236号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、上記特許文献1記載の手段を用いずに、摩擦耐久性を向上させ、洗濯及び滅菌処理耐久性に優れた血液・ウイルスバリア性積層布帛を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、接着剤層を構成する樹脂の組成と、接着剤層の形態とを工夫することにより、上記課題を解決したものである。
【0007】
すなわち、表地、第一接着剤層、透湿性を有する微多孔質ポリテトラフルオロエチレンフィルム、第二接着剤層及び裏地の順に積層一体化されてなる積層布帛において、前記表地及び裏地はポリエステル系繊維を主体として構成されており、前記第一及び第二接着剤層は、何れも透湿性を有しないポリカーボネート系ポリウレタン樹脂を含有する樹脂組成物から構成されており、さらに前記第一及び第二接着剤層のうち、一方は全面状に形成され、他方は非全面状に形成されていることを特徴とする洗濯耐久性に優れた血液・ウイルスバリア性積層布帛に関するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る洗濯耐久性に優れた血液・ウイルスバリア性積層布帛は、表地、第一接着剤層、微多孔質ポリテトラフルオロエチレンフィルム、第二接着剤層及び裏地の順に積層一体化されており、第一及び第二接着剤層の組成、形態が特定されているため、繰り返し洗濯及び滅菌処理しても、当初の血液バリア性及びウイルスバリア性を維持するという効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明に係る血液・ウイルスバリア性積層布帛は、洗濯耐久性に優れるものである。すなわち、当該血液・ウイルスバリア性積層布帛を用いた外衣は、使い捨てではなく、繰り返し洗濯及び滅菌処理して使用しうるものである。本発明に係る血液・ウイルスバリア性積層布帛は、表地、第一接着剤層、微多孔質ポリテトラフルオロエチレンフィルム、第二接着剤層及び裏地の順に積層一体化されてなる。
【0010】
表地及び裏地は、ポリエステル系繊維を主体として構成される繊維布帛である。ポリエステル系繊維が採用される理由は、この素材が洗濯及び滅菌処理耐久性に優れており、かつコスト性、汎用性にも優れているからである。ポリエステル系繊維としては、ポリエチレンテレフタレート繊維又はポリブチレンテレフタレート繊維等が用いられる。もちろん、洗濯及び滅菌処理耐久性に影響を与えない範囲で、その他の繊維を混合してもよい。その他の繊維としては、例えば、ナイロン6やナイロン66等のポリアミド系繊維、ポリアクリルニトリル系繊維、ポリビニルアルコール系繊維、トリアセテート系繊維又は綿や麻等の天然繊維が挙げられる。
【0011】
繊維布帛としては、編織物又は不織布等が用いられるが、洗濯及び滅菌処理耐久性という観点からは、織編物であるのが好ましい。具体的には、表地及び裏地として、ポリエチレンテレフタレート繊維よりなるマルチフィラメント糸又は紡績糸を用いて製編織した編織物が用いられる。また、表地と裏地とは、同一の編織物を採用するのが好ましい。同一の編織物を採用すると、洗濯時や滅菌処理時において、表地と裏地が同様の収縮挙動を示すので、表地及び裏地とポリテトラフルオロエチレンフィルムとが剥がれ難くなり、洗濯及び滅菌処理耐久性が向上するからである。
【0012】
透湿性を有する微多孔質ポリテトラフルオロエチレンフィルムは、空孔率が50〜90%程度で、かつ、最大細孔径が0.01〜10μm程度で、公知のものである。また、その厚みは6〜50μm程度である。具体的には、市販品であるゴアテックス(登録商標、W、L、ゴア アンド アソシエイツ インコーポレイティド社製)やテトラテックス(登録商標、日本ドナルドソン社製)等が用いられる。この微多孔質ポリテトラフルオロエチレンフィルムは、第一接着剤層及び第二接着剤層によって、摩擦耐久性等が向上している。
【0013】
第一及び第二接着剤層は、何れも透湿性を有しないポリカーボネート系ポリウレタン樹脂を含有する樹脂組成物から構成される。血液バリア性及びウイルスバリア性を具現する観点から、透湿性を有しないものを使用する必要がある。透湿性を有しないポリカーボネート系ポリウレタン樹脂としては、例えば、ポリカーボネートジオールと有機ポリイソシアネート及び鎖延長剤を一括に仕込んで反応させるワンショット法、又は、予め、ポリカーボネートジオールと有機ポリイソシアネートを反応させ、次いで、鎖延長剤を加えてポリウレタンを製造するプレポリマー法により得られる公知のものが用いられる。
【0014】
ポリカーボネートジオールとしては、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール等のアルキルジオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール、2−ペンチル,2−プロピル−1,3−プロパンジオール等の2,2−ジアルキル−1,3−プロパンジオール等の1種又は2種以上のジオールと、ジフェニルカーボネート、ジトリールカーボネート等のジアリールカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート等のジアルキルカーボネート、エチレンカーボネート、テトラメチレンカーボネート等のアルキレンカーボネート等の1種又は2種以上の炭酸ジエステルとのエステル交換反応により得られるものが挙げられる。その中でも、有機溶剤に対する溶解性や溶融樹脂としての粘性面等から、結晶性を低減させる意味合いで、ジオールとしては、2,2−ジアルキル−1,3−プロパンジオールポリカーボネートジオールを主体とし、炭酸ジエステルとしては、高圧湿熱滅菌に対する耐久性の観点から、ジアリールカーボネートを主体として用いるのが好ましい。
【0015】
有機ポリイソシアネートとしては、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート等の脂肪族ジイソシアネート、1,4−シクロヘキサンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート等の脂環族ジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニールジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネートが挙げられる。中でも、高圧湿熱滅菌に対する耐久性の観点から、芳香族ジイソシアネートを主体として用いるのが好ましい。
【0016】
鎖延長剤としては、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、エチレンジアミン等を単独又は併用して用いられる。
【0017】
第一及び第二接着剤層を構成する樹脂組成物には、上記のような透湿性を有しないポリカーボネート系ポリウレタン樹脂が含有されており、これのみで当該樹脂組成物を組成してもよいが、必要に応じてこれ以外の樹脂を含有させてもよい。この場合の樹脂としては、任意の樹脂が使用でき、例えば、透湿性を有するポリウレタン系樹脂が使用できる。透湿性を有するポリウレタン系樹脂の使用比率としては、血液・ウイルスバリア性の観点から50質量%以下にするのがよい。
【0018】
係るポリウレタン系樹脂としては、ポリイソシアネート成分とポリオール成分とを、前記方法等により、反応させて得られる従来公知のものを採用しうる。
【0019】
ポリイソシアネート成分としては、例えば、トリレン−2,4−ジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネート、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート、1,4−シクロヘキサンジイソシアネート等の脂肪族ジイソシアネート等が用いられる。一方、ポリオール成分としては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のポリエーテルポリオールやエチレングリコールやプロピレングリコールなどのジオールとアジピン酸やセバチン酸などの二塩基酸との反応生成物であるポリエステルポリオールなどが用いられる。特に、高度の透湿性能を得たい場合には、前記ポリオールのオキシエチレン基の比率を相対的に多くしたポリウレタン樹脂を用いるとよい。
【0020】
各接着剤層を構成する樹脂組成物の種類としては、無溶剤型接着剤(ホットメルト型接着剤)でも溶液型接着剤でもよい。無溶剤型接着剤としては、空気中の湿気で硬化するタイプ(湿気硬化型)のものを採用するのが好ましい。溶液型接着剤としては、硬化剤とポリカーボネート系ポリウレタン樹脂とからなる2液型のものを採用するのが好ましい。
【0021】
本発明では、上記第一及び第二接着剤層のうち、一方は全面状に形成され、他方は非全面状に形成されている。これにより、積層布帛全体として、血液・ウイルスバリア性と透湿性とを両立させることができる。
【0022】
全面状とは、文字通り、実質的に隙間なく層が連続的に形成されている態様をいう。具体的には、全接着面に対して95%以上の占有面積を有する状態をいう。
【0023】
一方、非全面状とは、その層の全てが接着剤で構成されているのではなく、接着剤存在区域と接着剤不存在区域とで構成されている態様をいう。具体的には、全接着面に対する占有面積として、好ましくは20〜80%、より好ましくは30〜70%の範囲にある状態をいう。占有面積が20%未満では、接着剤層をいくら厚くしても、層間剥離する傾向にあり、一方、80%を超えると、全面状に形成されているもう一方の接着剤層の透湿性レベルにも依るが、積層布帛全体としての透湿性が低下し、着用感も低下する傾向にある。非全面の層を形成するには、グラビアロール、ロータリースクリーン等を用いて、点状、線状、格子状、市松模様、亀甲模様等の模様を有する接着剤存在区域を形成すればよい。接着剤存在区域は、規則的に設けられているのが一般的である。
【0024】
本発明における接着剤層は、既述のように、透湿性を有しないポリカーボネート系ポリウレタン樹脂を含有する樹脂組成物から構成される。透湿性を有しないポリカーボネート系ポリウレタン樹脂は、一般に高温高圧下の耐湿熱性等に優れるから、これを含む樹脂組成物で接着剤層を形成すると、積層布帛全体として耐久性のある血液バリア性及びウイルスバリア性が得られる。特に血液バリア性及びウイルスバリア性は、接着剤層を全面状に形成することにより向上する傾向にある。しかし、両接着剤層を全面状に形成してしまうと、血液・ウイルスバリア性の向上は期待できるものの、透湿性が大きく低減することとなる。そこで、本発明では、血液・ウイルスバリア性と透湿性とを両立させる観点から、一方の接着剤層を全面状に形成し、他方を非全面状に形成するのである。
【0025】
接着剤層を形成する樹脂組成物には、前記した通り、必要に応じて透湿性を有するポリウレタン系樹脂等を併含することができる。ただし一般に、透湿性を有するポリウレタン系樹脂は、透湿性を有しないポリカーボネート系ポリウレタン樹脂に比べ耐湿熱性等に劣る傾向にあるから、透湿性を有するポリウレタン系樹脂を併含する樹脂組成物を使用して非全面状側の接着剤層を形成した場合、積層布帛全体として稀に耐久性ある血液・ウイルスバリア性が得られ難くなることがある。そこで、非全面状側の接着剤層は、形成に際し、透湿性を有しないポリカーボネート系ポリウレタン樹脂を主体に含有する樹脂組成物を使用することが好ましい。なお、ここでいう「主体」とは95質量%以上の含有量を満たすものをいう。
【0026】
一方、全面状側の接着剤層については、形成に際し、透湿性を有しないポリカーボネート系ポリウレタン樹脂を主体に含有する樹脂組成物を使用してもよいし、透湿性を有しないものと有するものとを併含する樹脂組成物を使用してもよい。なお、「全面状」の範疇には、例えば、透湿性を有しないポリカーボネート系ポリウレタン樹脂を使用して柄状に層を形成し、同時に透湿性を有するポリウレタン系樹脂を使用して柄状に層を形成し、両者の柄を併せてほぼ全面状にするといった態様も包含される。この場合、両柄の比率は、所望とする透湿性や耐久性に鑑みて、適宜決定すればよい。なお、血液・ウイルスバリア性の洗濯耐久性を考慮すると、透湿性を有するポリウレタン系樹脂のみで当該接着剤層を形成することは、好ましくない。
【0027】
全面状の接着剤層を形成するには、例えば、透湿性を有しないポリカーボネート系ポリウレタン樹脂と透湿性を有するポリウレタン系樹脂とを含有する樹脂組成物を使用する場合には、コンマコータ等を用いて接着剤層を形成すればよい。また、透湿性を有しないものと有するものとを使用して、柄状の層を各々形成するような場合には、ロータリースクリーン、フラットスクリーン、ハンドスクリーン等のプリント機等を用いれば、あわせ柄による全面柄を容易に形成できる。例えば、市松模様であれば、まず、透湿性を有しないポリカーボネート系ポリウレタン樹脂による柄を形成する。その後、このときの非塗布面に、あわせ柄でほぼ全面状となるように、透湿性を有するポリウレタン系樹脂による柄を形成すればよい。
【0028】
接着剤層の厚みとしては、第一及び第二接着剤層の何れも10〜100μm程度でよく、20〜70μmが好ましい。厚みが10μm未満では、接着剤の塗布面積をいくら広げても、剥離耐性のある積層布帛が得られ難く、一方、100μmを超えると、コスト面で不利となる他、積層布帛としての基本的な性能の向上が期待できない傾向にあり、何れも好ましくない。
【0029】
本発明の積層布帛は、透湿性を有する微多孔質ポリテトラフルオロエチレンフィルムを用いているので、透湿防水性能に優れている。具体的に、透湿性能としては、JIS L1099B−1法による透湿度が2000〜10000g/m・24hrsの範囲にあることが好ましい。透湿度が2000g/m・24hrs未満では、透湿性が十分とはいえず、手術着等として着用したとき十分な快適性が得られないことがある。一方、10000g/m・24hrsを超えると、着用と工業洗濯・滅菌処理とを繰り返すうちに、次第にウイルスバリア性が低下する傾向にあり、何れも好ましくない。
【0030】
本発明の積層布帛は、撥水加工されていてもよい。この場合、予め撥水加工された表地、裏地を使用してもよいが、洗濯耐久性の点から、各層を積層後、布帛全体を撥水加工するのが好ましい。撥水剤としては、パラフィン系撥水剤、ポリシロキサン系撥水剤、フッ素系撥水剤など公知のものが使用できる。撥水性能を付与する方法(撥水加工)としても、スプレー法、パディング法、コーティング法など公知の方法が採用できる。一例として、フッ素系撥水剤を3〜10質量%含有する水分散液に積層布帛をピックアップ率30〜100%でパディングし、これを80〜130℃で乾燥した後、150〜180℃で20秒〜2分間熱処理することで、良好な撥水性能が付与できる。
【0031】
本発明の積層布帛は、血液バリア性及びウイルスバリア性の洗濯耐久性に優れているため、手術着等の医療従事者の外衣を縫製する際の素材として好適である。また、食品や薬品等の製造者の作業着を縫製する際の素材としても好適である。
【実施例】
【0032】
以下、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。本発明は、第一接着剤層と第二接着剤層を特定の態様で設けたことにより、洗濯及び滅菌処理耐久性に優れた血液、ウイルスバリア性積層布帛が得られるとの知見に基づくものとして、解釈されるべきである。
【0033】
(実施例1)
表地、裏地、透湿性を有する微多孔質ポリテトラフルオロエチレンフィルム、及び接着剤として以下のものを準備した。
【0034】
〔表地及び裏地〕
ポリエチレンテレフタレートマルチフィラメント糸56dtex24fを用いて、32Gトリコットハーフを編成し、公知の方法で精練(精練剤;日華化学株式会社製「サンモールFL」1g/L、80℃で20分)、染色(分散染料;ダイスタージャパン株式会社製「Dianix Blue UN−SE」0.5%omf、130℃で30分)を行い、表地及び裏地を準備した。表地と裏地は同一である。
【0035】
〔透湿性を有する微多孔質ポリテトラフルオロエチレンフィルム〕
厚み20μmのポリテトラフルオロエチレンフィルム(日本ドナルドソン株式会社製、商品名「Tetratex」(登録商標))を準備した。
【0036】
ポリテトラフルオロエチレンフィルムの片面に、下記の如くグラビアロールにて、透湿性を有しないポリカーボネート系ポリウレタン接着剤(DIC株式会社製、湿気硬化タイプの無溶剤型接着剤、商品名「タイフォースNH−100X」(登録商標))を120℃で溶融したものを塗布し、第一接着剤層を設けた。
【0037】
すなわち、グラビアロールは格子柄の凹部(深度0.2mm)を持ち、格子柄を構成している線数は17本/インチで、各線幅は0.37mmのものであって、格子柄の占有面積(凹部の占有面積)は42%のものである。このグラビアロールの凹部に120℃で溶融させた接着剤(粘度2500mPa・s)を充填し、ポリテトラフルオロエチレンフィルムの片面に格子柄で接着剤を塗布し、第一接着剤層を設けた。接着剤の塗布量は約15g/mであり、接着剤層の厚みは約30μmで塗布面積(全接着面に対する占有面積)は約50%であった。接着剤を塗布した後、自然冷却し、圧力300kPaで前記表地を積層し、40℃で2日間エージングし、表地とポリテトラフルオロエチレンフィルムを備えてなる積層布帛を得た。
【0038】
続いて、前記積層布帛のポリテトラフルオロエチレンフィルム面に、下記処方1に示す組成の透湿性を有しないポリカーボネート系ポリウレタン接着剤(固形分55質量%、粘度3000mPa・s/25℃)をコンマコータにて塗布量50g/mで全面状に塗布し、120℃で3分間乾燥して、厚み約30μmの第二接着剤層を形成した。次いで、圧力300kPaで裏地を積層し、4日間エージングした。
【0039】
<処方1>
レザミンUD−8373 100質量部
(大日精化工業株式会社製、固形分70質量%のポリカーボネート系ポリウレタン接着剤)
レザミンUD架橋剤 12質量部
(大日精化工業株式会社製、固形分75質量%のイソシアネート系架橋剤)
レザミンUD−103NT 1質量部
(大日精化工業株式会社製、反応促進剤)
メチルエチルケトン 30質量部
【0040】
次に、下記処方2に示すフッ素系撥水剤エマルジョンを調製し、パディング法にてピックアップ率40%の割合で撥水剤付与し、120℃で2分間乾燥した後、170℃で1分間ファイナルセットし、洗濯耐久性に優れた血液・ウイルスバリア性積層布帛とした
【0041】
<処方2>
アサヒガードAG−E082 50質量部
(旭硝子株式会社製、フッ素系撥水剤エマルジョン)
メイカネートWEB 10質量部
(明成化学工業株式会社製、ブロックドイソシアネート架橋剤)
イソプロピルアルコール 10質量部
【0042】
(実施例2)
実施例1における処方1に代えて、下記処方3に示す組成のポリカーボネート系ポリウレタン接着剤(固形分53質量%、粘度2500mPa・s/25℃)を使用して第二接着剤層を全面状に形成する以外は、実施例1と全く同一の方法により血液・ウイルスバリア性積層布帛を得た。
【0043】
<処方3>
レザミンUD−8373 70質量部
(大日精化工業株式会社製、固形分70質量%のポリカーボネート系ポリウレタン接着剤)
ハイムレンY−119E 30質量部
(大日精化工業株式会社製、固形分60質量%のポリエーテル系透湿性ポリウレタン接着剤)
レザミンUD架橋剤 11質量部
(大日精化工業株式会社製、固形分75質量%のイソシアネート系架橋剤)
レザミンUD−103NT 1質量部
(大日精化工業株式会社製、反応促進剤)
メチルエチルケトン 15質量部
トルエン 15質量部
【0044】
(実施例3)
第二接着剤層を以下のようにして形成する以外は、実施例1と全く同一の方法により血液・ウイルスバリア性積層布帛を得た。すなわち、ハンドスクリーンプリントによる2段階の塗布によってあわせ柄とすることで、全面柄の第二接着剤層を形成した。
【0045】
具体的には、1段階目のハンドスクリーンプリントは、100メッシュスクリーンを使用して、ポリウレタン系透湿性接着剤(DIC株式会社製、湿気硬化タイプの無溶剤型接着剤、商品名「タイフォースWT−004」(登録商標))を120℃で溶融したもの(粘度3000mPa・s)を、約30μmの厚さで一辺5mmの正方形の市松模様にプリントした。続いて、2段階目は、前記1段階目の非塗布面に、100メッシュスクリーンを使用して、ポリカーボネート系ポリウレタン接着剤(DIC株式会社製、湿気硬化タイプの無溶剤型接着剤、商品名「タイフォースNH−100X」(登録商標))を110℃で溶融したもの(粘度3000mPa・s)を、約30μmの厚さで一辺5mmの正方形の市松模様にプリントし、あわせ柄で全面状となる第二接着剤層とした。
【0046】
(比較例1)
実施例1において、第一接着剤層形成後、第二接着剤層として、もう一方のポリテトラフルオロエチレンフィルム面に当該第一接着剤層と同様の接着剤層を形成すること以外は、実施例1と全く同一の方法により積層布帛を得た。
【0047】
(比較例2)
実施例1における処方1に代えて、下記処方4に示す組成のポリウレタン樹脂溶液(固形分52質量%、粘度2800mPa・s)を使用して第二接着剤層を全面状に形成する以外は、実施例1と全く同一の方法により積層布帛を得た。
【0048】
<処方4>
ハイムレンY−119E 100質量部
(大日精化工業株式会社製、固形分60質量%のポリエーテル系透湿性ポリウレタン接着剤)
レザミンNE架橋剤 11質量部
(大日精化工業株式会社製、固形分75質量%のイソシアネート系架橋剤)
レザミンHI−215 1質量部
(大日精化工業株式会社製、反応促進剤)
トルエン 20質量部
【0049】
(比較例3、4)
実施例3において、第二接着剤層形成の際、1段階目のポリウレタン系透湿性接着剤による市松模様の形成を省くこと(比較例3)、又は2段階目のポリカーボネート系ポリウレタン接着剤による市松模様の形成を省くこと(比較例4)以外は、各々実施例3と全く同一の方法により積層布帛を得た。
【0050】
実施例1〜3及び比較例1〜4の積層布帛の評価結果を表1に示す。
【0051】
【表1】
【0052】
上記の結果から、本発明の積層布帛は、適度な透湿性能を有すると共に、工業洗濯とウイルスバリア性の耐性に非常に優れていることが確認できた。これに対し、比較例に係る積層布帛は、ウイルスバリア性の耐性が不十分であり、特に比較例2、4に係る布帛は、耐剥離性も不十分であった。
【0053】
なお、工業洗濯及び滅菌処理は下記の簡便方法を採用し、耐水圧、透湿度、血液バリア性及びウイルスバリア性等は、下記方法にて評価した。
【0054】
〔工業洗濯〕
工業洗濯機(スガ試験機株式会社製、LM−W型)を用いて、標準的な1回分の洗濯時間「73℃×20分間」から、下記条件を1サイクル(10回分)とした。
浴比;1:40(1.5kg:60L)
洗剤;ピュア−石鹸(株式会社不動化学製)1g/L、苛性ソーダ0.08g/Lを添加しPH値を10に調整したものを用いた。
工程;洗い(73℃×200分間)→湯洗(40℃×30分間)→オーバーフローすすぎ(常温×15分間)→脱水→タンブル乾燥(60℃×20分間)
【0055】
〔滅菌処理(オートクレーブ処理)〕
株式会社平山製作所製、高圧蒸気滅菌器「HV50型」を用いて、標準的な1回分の滅菌時間 「135℃×8分間」から、「135℃×80分間」を1サイクル(10回分)とした。
【0056】
(1)耐水圧
JIS L1092(高水圧法)に基づいて測定した。なお、表裏が編地のために、耐水圧測定時には過剰な膨れが生じ、測定に支障を来たすことが多々あるので、それを防止する目的で、経緯共にナイロン6マルチフィラメント糸78dtex24fを用いた平織物の210本タフタ(経密度120本/吋、緯密度90本/吋)を積層布帛上に重ねて測定した。
【0057】
(2)透湿度
JIS L1099B?1法(酢酸カリウム法)に基づいて測定した。
【0058】
(3)剥離強度
JIS L1089に準じて経方向の剥離強度を測定した。なお、剥離強度測定の際には、表地と裏地をチャックで把持し、表地及び裏地間の剥離強度を測定したものである。
【0059】
(4)人工血液バリア性
ASTM F 1670−08B法に基づいて評価した。
【0060】
(5)ウイルスバリア性
ASTM F 1671−07B法に基づいて評価した。
【0061】
(6)耐性
前記工業洗濯とオートクレーブの連続処理を5サイクル行った試料を対象に、目視による試料の剥離状況を観察し、耐水圧を測定し、さらに人工血液バリア性及びウイルスバリア性も評価した。