特許第6383188号(P6383188)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6383188
(24)【登録日】2018年8月10日
(45)【発行日】2018年8月29日
(54)【発明の名称】α−ナトリウムフェライト類の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01G 49/00 20060101AFI20180820BHJP
   B01J 20/34 20060101ALI20180820BHJP
   B01D 53/62 20060101ALI20180820BHJP
   B01J 20/06 20060101ALI20180820BHJP
   C01B 32/50 20170101ALI20180820BHJP
【FI】
   C01G49/00 AZAB
   B01J20/34 H
   B01D53/62
   B01J20/06 C
   C01B32/50
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-123288(P2014-123288)
(22)【出願日】2014年6月16日
(65)【公開番号】特開2016-3156(P2016-3156A)
(43)【公開日】2016年1月12日
【審査請求日】2017年6月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】504190548
【氏名又は名称】国立大学法人埼玉大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】特許業務法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】柳瀬 郁夫
【審査官】 廣野 知子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−021781(JP,A)
【文献】 特開平11−090219(JP,A)
【文献】 特開平10−067519(JP,A)
【文献】 特開2005−317511(JP,A)
【文献】 特開平08−171900(JP,A)
【文献】 特開2006−198550(JP,A)
【文献】 特開平09−099214(JP,A)
【文献】 特開2007−090207(JP,A)
【文献】 特開2003−212510(JP,A)
【文献】 三浦隼 et al.,Na置換型LiFeO2の構造相転移とCO2吸収能,日本セラミックス協会年会講演予稿集,日本,2013年,1P192
【文献】 YANASE Ikuo et al.,CO2 absorption and structural phase transition of α-LiFeO2,Journal of the Ceramic Society of Japan,日本,2010年,Vol.118、No.1,p.48-51
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 49/00−49/08
B01D 53/34−53/73
B01D 53/74−53/85
B01D 53/92、53/96
C01B 32/00−32/991
C04B 35/00−35/047
C04B 35/053−35/106
C04B 35/109ー35/22
C04B 35/45−35/457
C04B 35/547−35/553
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
α-ナトリウムフェライト又はα-ナトリウムフェライト中のナトリウムの一部がリチウム及び/若しくはカリウムで置換された置換型α-ナトリウムフェライトを含有する炭酸ガス吸収材であって、気孔率が30%〜50%の多孔質体であることを特徴とする炭酸ガス吸収材
【請求項2】
前記置換型α-ナトリウムフェライトのナトリウムに対するリチウム及び/又はカリウムのモル比は、0.85:0.15〜1未満:0超の範囲であることを特徴とする、請求項1に記載の炭酸ガス吸収材。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の炭酸ガス吸収材と、前記炭酸ガス吸収材を収納し、炭酸ガスを導入するための炭酸ガス導入口とを具備することを特徴とする、炭酸ガス吸収装置。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の炭酸ガス吸収材に、炭酸ガスを反応させて生成した生成物と、前記生成物を加熱し炭酸ガスを放出させるための加熱装置と、前記生成物を収納し、前記炭酸ガスを排出する生成ガス排出口とを具備することを特徴とする、炭酸ガス分離装置。
【請求項5】
γ-Fe2O3及びNaNO3を混合して混合粉末MP1を得る工程(a1)、又はγ-Fe2O3、NaNO3並びにLiNO3及び/又はKNO3を混合して混合粉末MP2を得る工程(a2)と、
得られた混合粉末MP1又はMP2を570℃〜750℃の温度に加熱してα-ナトリウムフェライト又は置換型α-ナトリウムフェライトを生成させる工程(b1)、又は得られた混合粉末MP1又はMP2を550〜600℃の温度T1に加熱し、次いで、570〜750℃の温度T2(但し、T1<T2)に昇温してさらに加熱してα-ナトリウムフェライト又は置換型α-ナトリウムフェライトを生成させる工程(b2)、
を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の炭酸ガス吸収材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、α-ナトリウムフェライト類の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
地球温暖化対策の1つとして、排ガス中からのCO2除去技術が注目されている。代表的な手法の1つとして、リチウムフェライト(α-LiFeO2)を用いたCO2吸収材が知られている。
【0003】
特開2005−270842号公報(特許文献1)には、CO2ガスの吸収温度が300〜500℃程度であるリチウムフェライト(α-LiFeO2)を用いたCO2吸収材が公開されている。このCO2吸収材は、鉄の一部をコバルトやマンガンで置換して合成したα-LiFeO2であり、CO2ガスの吸収速度の向上とCO2吸収後のα-LiFeO2への再生温度の低温化を目指している。
【0004】
同様に、リチウムフェライト(α-LiFeO2)を用いたCO2吸収材であって、CO2吸収率を向上させたものとして、α-LiFeO2と炭酸カリウムを混合する手法によって得たリチウムフェライトに関する技術も公開されている[M.Katoら、CO2 absorption property of lithium ferrite for application as a high-temperature CO2 absorption, Journal of the ceramic society of Japan, 113[10], 684-686 (2005)(非特許文献1)]。
【0005】
さらに、200〜500℃の温度域でCO2吸収能を有し、特に450℃以下の比較的低温域におけるCO2吸収率を改良した新たなα-LiFeO2及びその製造方法が、特許文献2に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−270842号公報
【特許文献2】特開2009−234810号公報(特許5279310号)
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】M.Katoら、Journal of the ceramic society of Japan, 113[10], 684-686 (2005)
【非特許文献2】M.C.Blesaら、Solid State Ionic 126(1999)81-87
【非特許文献3】M.C.Blesaら、Journal of Solid State Chemistry 129, 123-129 (1997)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献2に記載のα-LiFeO2は、前述のように、200〜500℃の温度域でCO2吸収能を有し、450℃以下の比較的低温域におけるCO2吸収率も向上した材料であり、炭酸ガスの吸収に有効な材料であった。しかし、成分としてリチウムを用いることから、コスト高及び資源の獲得に不安がある材料であった。さらに、CO2吸収をより低温域において可能にする新たな材料の提供も望まれている。
【0009】
そこで、本発明は、上記課題を解決することを目的とするものであり、リチウムを主原料として用いることなく、かつ400℃以下の低温域において高いCO2吸収率を示す新たな材料とその製造方法を提案することを主な目的とする。
【0010】
さらに本発明は、上記新たな材料を炭酸ガスの吸収剤として用いる、炭酸ガスの吸収方法、炭酸ガス吸収装置、および炭酸ガスの分離装置を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決することを目的に種々の検討を行った。その結果、α-NaFeO2及びNaの一部を他のアルカリ金属で置換した置換型α-NaFeO2が400℃以下の低温域において高いCO2吸収率を示すことを見出し、かつこれらの化合物の新たな製造方法を見出して本発明を完成させた。
【0012】
尚、α-NaFeO2は100年以上も前から知られている化合物であり、製造方法としては例えば、非特許文献2に記載のゲータイト(FeOOH)とNaOHの水溶液を原料とする水熱合成法及び非特許文献3において引用されているα-Fe2O3とNa2O2を原料とする固相合成法が知られている。しかし、これらの文献には、α-NaFeO2のCO2吸収挙動についての記載はない。
【0013】
本発明は、以下のとおりである。
[1]
γ- Fe2O3とNaNO3を混合して混合粉末MP1を得る工程(a1)、又は
γ- Fe2O3とNaNO3とLiNO3及び/又はKNO3を混合して混合粉末MP2を得る工程(a2)、但し、NaNO3に対するLiNO3及び/又はKNO3のモル比は0.85:0.15〜1未満:0超の範囲である、
得られた混合粉末MP1又はMP2を570℃〜750℃の温度に加熱してα-NaFeO2又は置換型-NaFeO2を生成させる工程(b1)、又は
得られた混合粉末MP1又はMP2を550〜600℃の温度T1に加熱し、次いで、570〜750℃の温度T2(但し、T1<T2)に昇温してさらに加熱してα-NaFeO2又は置換型-NaFeO2を生成させる工程(b2)、
但し、置換型-NaFeO2は、Naの一部がLi及び/又はKで置換された化合物である、
を含むα-ナトリウムフェライト類の製造方法。
[2]
工程(b1)における混合粉末MP1又はMP2の加熱時間は40時間以上である、[1]に記載の製造方法。
[3]
工程(b2)における温度T1における混合粉末MP1又はMP2の加熱時間は1〜50時間であり、温度T2における混合粉末MP1又はMP2の加熱時間は5〜30時間の範囲である、[1]に記載の製造方法。
[4]
炭酸ガスを含む気体に[1]〜[3]のいずれかに記載の製造方法で得られたα-ナトリウムフェライト類を含有する炭酸ガス吸収材を接触させて、前記炭酸ガスを含む気体中の前記炭酸ガスと選択的に反応させる炭酸ガス吸収方法。
[5]
[1]〜[3]のいずれかに記載の製造方法で得られたα-ナトリウムフェライト類を含有する炭酸ガス吸収材と、前記炭酸ガス吸収材を収納し、炭酸ガスを導入するための炭酸ガス導入口とを具備することを含む、炭酸ガス吸収装置。
[6]
[1]〜[3]のいずれかに記載の製造方法で得られたα-ナトリウムフェライト類を含有する炭酸ガス吸収材に炭酸ガスを反応させて生成した生成物と、前記生成物を加熱し炭酸ガスを放出させるための加熱装置と、前記生成物を収納し、前記炭酸ガスを排出する生成ガス排出口とを具備することを含む、炭酸ガス分離装置。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、リチウムを主原料として用いることなく、かつ400℃以下の低温域において高いCO2吸収率を示す新たな材料とその製造方法を提案することができる。
さらに本発明によれば、上記新たな材料を炭酸ガスの吸収剤として用いる、炭酸ガスの吸収方法、炭酸ガス吸収装置、および炭酸ガスの分離装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】従来型CO2吸収体α-LiFeO2 のXRDパターンを示す。(a) α-LiFeO2、(b) Na5%置換型α-LiFeO2、(b) Na15%置換型α-LiFeO2
図2】原料混合粉末を550℃、600℃、あるいは750℃15hで一段階熱処理した粉末のXRDパターンを示す。
図3】原料混合粉末を550℃15h熱処理後に600℃15h熱処理(ニ段階熱処理)した粉末のXRDパターンを示す。
図4】KNO3あるいはLiNO3をぞれぞれ10%あるいは5%含む原料混合粉末を550℃15h熱処理後に600℃15h熱処理(ニ段階熱処理)した粉末のXRDパターンを示す。(a)K10%置換型α-NaFeO2、(b)Li5%置換型α-NaFeO2
図5】原料混合粉末を550℃15h熱処理後に650〜750℃15h熱処理(ニ段階熱処理)した粉末のXRDパターンを示す。(a) α-NaFeO2, (b) α-NaFeO2, (c) α-NaFeO2,
【発明を実施するための形態】
【0016】
<α-ナトリウムフェライト類の製造方法>
工程(a1)
工程(a1)では、γ- Fe2O3とNaNO3を混合して混合粉末MP1を得る。γ- Fe2O3とNaNO3の混合比率は、モル比で1:1であることが適当である。前記モル比が1:1から外れても目的とするα-ナトリウムフェライト類を得ることはでき、実用的には、例えば、1:0.9〜1.2の範囲とすることが好ましく、1:0.95〜1.15の範囲とすることがより好ましい。原料として用いるγ- Fe2O3及びNaNO3には特に制限はなく、市販品をそのまま用いることができる。但し、市販品の純度によっては、公知の方法にて適宜精製した後に混合粉末とすることもできる。また、γ- Fe2O3は、NaNO3との反応性を考慮すると、粒子径が比較的小さい粉末であることが好ましい場合がある。
【0017】
工程(a2)
工程(a2)では、γ- Fe2O3とNaNO3とLiNO3及び/又はKNO3を混合して混合粉末MP2を得る。γ- Fe2O3とNaNO3、LiNO3及び/又はKNO3の混合比率(γ- Fe2O3: (NaNO3+LiNO3及び/又はKNO3))は、モル比で1:1である。前記モル比が1:1から外れても目的とするα-ナトリウムフェライト類を得ることはでき、実用的には、例えば、1:0.9〜1.2の範囲とすることが好ましく、1:0.95〜1.15の範囲とすることがより好ましい。また、NaNO3に対するLiNO3及び/又はKNO3のモル比は0.85:0.15〜1未満:0超、例えば、0.999:0.001の範囲である。NaNO3に対するLiNO3及び/又はKNO3のモル比は、Li及び/又はKによるNaの置換量に応じて変化するCO2吸収特性を考慮して決定される、Li及び/又はKによるNaの希望の置換量に基づいて適宜決定できる。但し、前記モル比が0.85:0.15を外れると、下記の加熱条件において置換型-NaFeO2の生成が困難になる傾向がある。置換型-NaFeO2の合成の容易さ及びCO2吸収特性及び置換の効果がより明らかになるという観点からは、NaNO3に対するLiNO3及び/又はKNO3のモル比は0.9:0.1〜0.99:0.01の範囲である。また、γ- Fe2O3は、NaNO3、LiNO3及び/又はKNO3との反応性を考慮すると、粒子径が比較的小さい粉末であることが好ましい場合がある。
【0018】
工程(b1)
工程(b1)においては、得られた混合粉末MP1又はMP2を570℃〜750℃の温度に加熱してα-NaFeO2又は置換型-NaFeO2を生成させる。
混合粉末MP1を570℃〜750℃の温度に加熱するとα-NaFeO2が生成する。加熱時間は、α-NaFeO2の生成状況に基づいて適宜決定することができ、比較的低温である570℃〜625℃の範囲においては、例えば、40時間以上であることが適当である。加熱時間の上限はないが、例えば、100時間以下であることができる。例えば、570℃〜600℃未満の範囲においては、好ましくは45時間以上であり、600℃〜625℃範囲においては、好ましくは40時間以上である。また、比較的高温である625℃超の範囲においては例えば、40時間未満の加熱によってもα-NaFeO2を生成させることができる。但し、上記加熱時間は、目安であり、限定する意図ではない。尚、工程(b1)においても、加熱の途中で、1回又は2回以上加熱温度を上下させることもできる。
【0019】
混合粉末MP2を570℃〜700℃の温度に加熱すると置換型-α-NaFeO2が生成する。加熱時間は、置換型-α-NaFeO2の生成状況に基づいて適宜決定することができ、比較的低温である570℃〜625℃の範囲においては例えば、40時間以上であることが適当である。加熱時間の上限はないが、例えば、100時間以下であることができる。例えば、570℃〜600℃未満の範囲においては、好ましくは45時間以上であり、600℃〜625℃範囲においては、好ましくは40時間以上である。また、比較的高温である625℃超の範囲においては例えば、40時間未満の加熱によってもα-NaFeO2を生成させることができる。
【0020】
工程(b2)
工程(b2)においては、得られた混合粉末MP1又はMP2を550〜600℃の温度T1に加熱し、次いで、570〜750℃の温度T2(但し、T1<T2)に昇温してさらに加熱してα-NaFeO2又は置換型-NaFeO2を生成させる。
混合粉末MP1を550℃〜600℃の温度T1に加熱しても、加熱時間が比較的短い場合にはα-NaFeO2は生成しにくいか、または生成しない。しかし、温度T1に加熱した試料を570〜750℃の温度T2(但し、T1<T2)に昇温してさらに加熱すると、比較的容易にα-NaFeO2を生成させることができる。粉末を加熱する時間は、α-NaFeO2の生成状況に基づいて適宜決定することができ、温度T1での加熱は、例えば、1〜50時間の範囲であり、温度T2での加熱は、例えば、5〜30時間の範囲とすることでα-NaFeO2を生成させることができる。より具体的には、温度T1が、550℃〜570℃未満の範囲における加熱時間は好ましくは10〜50時間の範囲であり、温度T1が、570℃以上、600℃未満の範囲における加熱時間は好ましくは1〜40時間未満である。尚、工程(b2)の温度T2における加熱においては、加熱の途中で、1回又は2回以上加熱温度を上下させることもできる。
【0021】
混合粉末MP2を550℃〜600℃の温度T1に加熱しても、加熱時間が比較的短い場合には置換型α-NaFeO2は生成しにくいか、または生成しない。しかし、温度T1に加熱した試料を570〜750℃の温度T2(但し、T1<T2) に昇温してさらに加熱すると、比較的容易に置換型α-NaFeO2を生成させることができる。混合粉末MP2の加熱時間は、α-NaFeO2の生成状況に基づいて適宜決定することができ、温度T1での加熱は、例えば、1〜50時間の範囲であり、温度T2での加熱は、例えば、5〜30時間の範囲とすることで置換型α-NaFeO2を生成させることができる。より具体的には、温度T1が、550℃〜570℃未満の範囲における加熱時間は好ましくは10〜50時間の範囲であり、温度T1が、570℃以上、600℃未満の範囲における加熱時間は好ましくは1〜40時間未満である。尚、工程(b2)の温度T2における加熱においては、加熱の途中で、1回又は2回以上加熱温度を上下させることもできる。
【0022】
置換型α-NaFeO2は、Naの一部がLi及び/又はKで置換された化合物であり、Naに対するLi及び/又はKのモル比は0.85:0.15〜1未満:0超、例えば、0.999:0.001の範囲である。置換型α-NaFeO2は、Li及び/又はKによるNaの置換量に応じてCO2吸収特性が変化する。Naに対するLi及び/又はKのモル比は、例えば、0.9:0.1〜0.99:0.01の範囲であることができる。置換型α-NaFeO2は、Naの一部がLiで置換された、Li置換型α-NaFeO2、Naの一部がKで置換された、K置換型α-NaFeO2及びNaの一部が及びKで置換された、K,Li置換型α-NaFeO2を挙げることができる。
【0023】
本発明の製造方法で得られるα-NaFeO2、及び置換型α-NaFeO2は、比表面積が3〜5 m2/gの範囲であることができ、3.5〜4.6 m2/gの範囲であることができる。本発明のα-NaFeO2類は、実施例の表1に示すように100〜600℃の範囲の温度においてCO2との反応性を有し、特に、β-NaFeO2、及びα-LiFeO2に比べて比較的低温である200〜500℃において、優れたCO2吸収能を示した。
【0024】
[炭酸ガス吸収方法]
本発明は、炭酸ガス吸収方法を包含する。この炭酸ガス吸収方法は、炭酸ガスを含む気体に本発明の製造方法で得られたナトリウムフェライト類を含有する炭酸ガス吸収材を接触させて、前記炭酸ガスを含む気体中の前記炭酸ガスと選択的に反応させるものである。反応式は、ナトリウムフェライト類がα-NaFeO2の場合は、以下の通りである。
反応式;2α-NaFeO2 + CO2 → Na2CO3 + Fe2O3
【0025】
炭酸ガス吸収材は、ナトリウムフェライト類を含有するものであるが、炭酸ガス吸収材は、粉末のままでは作業上扱い難く、特に反応容器に炭酸ガス吸収材を充填して用いる場合には、細かい粉末が密集して圧力損失を生じやすい。そこで炭酸ガス吸収材は、例えば平均粒径0.1〜5.0mmの粒子からなる多孔質体に成形して用いることができる。成形体に加工すれば作業上扱いやすく、炭酸ガスの流通経路を確保すれば圧力損失も生じにくい。成形は、造粒や押し出しなどにより顆粒、円柱状、円盤状、ハニカムなどの形状にすることができる。この多孔質の気孔率は、30〜50%であることが好ましい。気孔率が50%を超えると、炭酸ガス吸収材の成分(ナトリウムフェライト類)の体積比率が少なくなり、炭酸ガス吸収特性が低下し、気孔率が30%よりも少ないと炭酸ガス吸収材の比表面積、すなわち炭酸ガスとの接触面積が小さくなり、炭酸ガス吸収速度が低下する恐れがある。
【0026】
成形には、粒子を結合させるためのバインダ材料(結合材)を用いることができる。バインダには、無機質の材料、有機質の材料のどちらも用いることができる。例えば無機質材料としては粘土、鉱物、石灰乳などが挙げられる。また有機材料としては、澱粉、メチルセルロース、ポリビニルアルコール、パラフィンなどが挙げられる。バインダの添加量は、炭酸ガス吸収材成分(岩塩型ナトリウムフェライト)に対して0.1〜20wt%とするのが好ましい。
【0027】
炭酸ガスの吸収反応の温度は、炭酸ガス濃度によって多少異なるが、例えば、200〜500℃の温度域で実施することができる。尚、反応生成物であるNa2CO3とFe2O3の混合物は、例えば、炭酸ガスを含まない雰囲気下において加熱することで、炭酸ガスを放出してもとのナトリウムフェライト類に再生される。このような炭酸ガス吸収材の炭酸ガス吸収と、炭酸ガスを放出し、もとの炭酸ガス吸収材へ戻す(再生する)反応は、繰り返し行なうことができる。
【0028】
[炭酸ガス吸収装置]
本発明は、炭酸ガス吸収装置も包含する。この炭酸ガス吸収装置は、前記ナトリウムフェライト類を含有する炭酸ガス吸収材と、この炭酸ガス吸収材を収納し、炭酸ガスを導入するための炭酸ガス導入口とを具備することを含むものである。
【0029】
具体的には、本発明の炭酸ガス吸収装置は、反応容器を含み、炭酸ガス吸収材は、反応容器内に充填される。さらに、炭酸ガス含有気体を反応容器内へ導入するための導入管と、この導入管の一端に連結されており、反応容器内にある内管とからなることができる。内管の壁面には通気孔が備えられており、導入管から内管へ導入された気体を反応容器内部へ通気できるようになっている。例えば多孔質アルミナのような多孔質セラミックから作られ、気体の透過性を有するものを使用しても良い。
【0030】
導入管からCO2含有気体を供給すると、炭酸ガス吸収材は内管から供給されるCO2含有気体を吸収する反応が生じ、反応生成物を生成する(吸収反応)。
【0031】
[炭酸ガス分離装置]
本発明は、前記ナトリウムフェライト類を含有する炭酸ガス吸収材に炭酸ガスを反応させて生成した生成物と、前記生成物を加熱し炭酸ガスを放出させるための加熱装置と、前記生成物を収納し、前記炭酸ガスを排出する生成ガス排出口とを具備することを含むものを包含する。
【0032】
前記本発明の炭酸ガス吸収装置において、吸収反応が終了したら、炭酸ガスの吸収反応によって生成した反応生成物(炭酸塩)が、炭酸ガスの放出が生じる温度領域になるようにヒータなどの加熱手段によって反応容器を加熱する。所定の温度に達すると反応生成物(炭酸塩)からCO2の放出が生じ内管を通じてCO2を導入管より放出させる。加熱手段は任意の加熱されたガスを反応容器の外周に接触させて、反応容器ごと所定の温度まで加温する方法でも良い(再生反応)。
【0033】
吸収反応及び放出反応のどちらの場合においても、反応容器は接触効率を考慮すると流動床式反応容器を利用することもできる。
【実施例】
【0034】
以下本発明を実施例によりさらに詳細に説明する。但し、実施例は本発明の例示であって、本発明は実施例に限定される意図ではない。
【0035】
[前記ナトリウムフェライト類の調製]
・一段階法(α-NaFeO2の合成)
市販試薬のγ-Fe2O3及びNaNO3をFe:Na=1:1(モル比)となるように秤量し、イオン交換水に加えて超音波撹拌を1h行った。その後、エバポレーターを用いてイオン交換水を除去し、120℃で2 h乾燥した。乾燥して得られた原料混合粉末を、NaNO3が潮解しないよう120℃のホットプレート上にてメノウ乳鉢で30 min混合した。調製した原料混合粉末を、NaNO3の熱分解を促進するため大気中550℃で5〜50 h、次いで575℃で5〜50h、または、600〜650℃15h熱処理することでα-NaFeO2粉末を合成した。条件と結果を表1及び2に示す。
【0036】
・ニ段階法(α-NaFeO2の合成)
市販のγ-Fe2O3及びNaNO3をFe:Na=1:1〜1.15(モル比)となるように秤量し、イオン交換水に加えて超音波撹拌を1h行った。その後、エバポレーターを用いてイオン交換水を除去し、120℃で2 h乾燥した。乾燥した原料混合粉末を、NaNO3が潮解しないよう120℃のホットプレート上にてメノウ乳鉢で30 min混合した。このように調製した原料混合粉末を、NaNO3の熱分解を促進するため大気中550℃で5〜50 h、または575℃で5〜50h熱処理した。この熱処理粉末を120℃のホットプレート上にてメノウ乳鉢で10min粉砕した後、大気中600〜650℃で15h熱処理することでα-NaFeO2粉末を合成した。条件と結果を表1〜3に示す。
【0037】
【表1】
【0038】
【表2】
【0039】
【表3】
【0040】
・ニ段階法(KおよびLi置換型α-NaFeO2の合成)
市販のγ-Fe2O3、NaNO3及びKNO3又はLiNO3をFe:Na+KあるいはNa+Li = 1:1〜1.15(モル比)となるように秤量し、イオン交換水に加えて超音波撹拌を1h行った。その後、エバポレーターを用いてイオン交換水を除去し、120℃で2 h乾燥した。乾燥した原料混合粉末を、NaNO3及びKNO3が潮解しないよう120℃のホットプレート上にてメノウ乳鉢で30 min混合した。このように調製した原料混合粉末を、NaNO3、KNO3及びLiNO3の熱分解を促進するため大気中550℃で15 h熱処理した。この熱処理粉末を120℃のホットプレート上にてメノウ乳鉢で10min粉砕した後、大気中600℃で15h熱処理することでKおよびLi置換型α-NaFeO2粉末(表4中、α相と表記)を合成した。条件と結果を表4に示す。尚、表4に示すK又はLiの置換量が0.15の場合、K又はLi置換型α-NaFeO2に加えて、原料のγ-Fe2O3が検出された。これは、NaNO3に比べてKNO3及びLiNO3のγ-Fe2O3との反応性が低いことを示唆し、反応(加熱)温度を高めるか、または加熱時間を長くすることで、α相を得ることができる。
【0041】
【表4】
【0042】
・一段階法(β-NaFeO2の合成)
市販のγ-Fe2O3及びNaNO3をFe:Na=1:1.15(モル比)となるように秤量し、イオン交換水に加えて超音波撹拌を1h行った。その後、エバポレーターを用いてイオン交換水を除去し、120℃で2 h乾燥した。乾燥した原料混合粉末を、NaNO3が潮解しないよう120℃のホットプレート上にてメノウ乳鉢で30 min混合した。調製した原料混合粉末を、750℃で15h熱処理した。生成物は、β-NaFeO2粉末であった。
【0043】
・CO2吸収能の評価
TG-DTA装置を用い、0.01MP、100ml/minのCO2ガス流通下における試料の重量増加率を評価した。結果を表5に示す。
【0044】
【表5】
【0045】
(※1)以下の反応による重量増加率を100%として反応率を算出(M:アルカリ金属)
2MFeO2 + CO2 → M2CO3 + Fe2O3
(※2)N2吸着BET法
(※3)Naの10%をKで置換
(※4)Naの5%をLiで置換
各試料の合成条件は以下のとおりである。
α-NaFeO2;二段階熱処理(550℃15h、600℃15h)
K置換型α-NaFeO2;二段階熱処理(550℃15h、600℃15h)
Li置換型α-NaFeO2;二段階熱処理(550℃15h、600℃15h)
β-NaFeO2;一段階熱処理(750℃15h)
α-LiFeO2;二段階熱処理(600℃4h)
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明は、CO2吸収能を有する材料に関する分野に有用である。
図1
図2
図3
図4
図5