(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6383195
(24)【登録日】2018年8月10日
(45)【発行日】2018年8月29日
(54)【発明の名称】二重防振構造センターベアリングサポートの製造方法
(51)【国際特許分類】
B60K 17/24 20060101AFI20180820BHJP
B29C 45/14 20060101ALI20180820BHJP
B29C 33/12 20060101ALI20180820BHJP
【FI】
B60K17/24
B29C45/14
B29C33/12
【請求項の数】3
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2014-135814(P2014-135814)
(22)【出願日】2014年7月1日
(65)【公開番号】特開2016-13742(P2016-13742A)
(43)【公開日】2016年1月28日
【審査請求日】2017年6月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004385
【氏名又は名称】NOK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100071205
【弁理士】
【氏名又は名称】野本 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100179970
【弁理士】
【氏名又は名称】桐山 大
(72)【発明者】
【氏名】池田 政弘
【審査官】
高橋 祐介
(56)【参考文献】
【文献】
特開2003−094969(JP,A)
【文献】
特開2000−084953(JP,A)
【文献】
特開2003−225917(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 17/24
B29C 33/12
B29C 45/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
センターベアリングサポート本体の膜状の弾性支持部材を成形する弾性支持部材成形空間と、この弾性支持部材成形空間における成形用ゴム材料の流れの下流位置からバリ成形空間を介して連続した所要数のマウント本体成形空間を有する金型を用い、前記弾性支持部材成形空間へ開口した注入ゲートから成形用ゴム材料を注入することによって、この成形用ゴム材料を、前記弾性支持部材成形空間から前記バリ成形空間を経由してマウント本体成形空間まで充填し、
前記バリ成形空間及び前記マウント本体成形空間が、前記弾性支持部材成形空間の外周に周方向等配形成されたことを特徴とする二重防振構造センターベアリングサポートの製造方法。
【請求項2】
バリ成形空間が弾性支持部材成形空間の外周に沿って円弧状に延び、マウント本体成形空間が前記バリ成形空間の周方向一端に形成されたことを特徴とする請求項1に記載の二重防振構造センターベアリングサポートの製造方法。
【請求項3】
弾性支持部材成形空間とバリ成形空間の間に、この弾性支持部材成形空間及びバリ成形空間より流路が狭い薄バリ成形隙間が形成され、この薄バリ成形隙間に、弾性支持部材成形空間で成形される弾性支持部材とバリ成形空間で成形されるバリ部との間で容易に破断可能な薄バリを成形することを特徴とする請求項1〜2のいずれかに記載の二重防振構造センターベアリングサポートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等の車両のプロペラシャフトを回転自在にかつ弾性的に支持するセンターベアリングサポートの製造方法であって、特に、車体側に防振マウントを介して取り付けられる二重防振構造センターベアリングサポートの製造方法に関するもののである。
【背景技術】
【0002】
従来、
図6に示すように、センターベアリングサポートとして、自動車のプロペラシャフトの軸方向中間部に装着されるセンターベアリング200が取り付けられた内環101と、その外周に配置された外環(不図示)と、これら内環101と外環の間に一体的に設けられたゴム状弾性材料(ゴム材料又はゴム状弾性を有する合成樹脂材料)からなる弾性支持部材102とを備えるセンターベアリングサポート本体100が、ブラケット110と、このブラケット110の両端のフランジ111に取り付けられる防振マウント120を介して、
図7に示すように、ボルト130及びこれに螺合するナット131によって車体側のメンバー200に取り付けられる二重防振構造センターベアリングサポートが知られている。
【0003】
防振マウント120は、筒状金具121aとその上端寄りの外周に配置した環状の第一金具121bの間にゴム弾性体からなる上側マウント本体121cを一体成形した上側マウント121と、この上側マウント121における筒状金具121aの下端寄りの外周に外挿可能な環状の第二及び第三金具122a,122bの間にゴム弾性体からなる下側マウント本体122cを一体成形した下側マウント122を備え、上側マウント121の筒状金具121aがボルト130とナット131によって車体側のメンバー200に緊結されると共に、上側マウント121の第一金具121bと下側マウント122の第二金具122aの間にブラケット110のフランジ111を挟持するようになっている(下記の特許文献参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開平5−65640号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来の二重防振構造センターベアリングサポートによれば、防振マウント120が必要であり、その製造において、上側マウント121及び下側マウント122をそれぞれ金型を用いて加硫成形する工程が必要となるため、コストが高くなってしまう問題がある。
【0006】
また、センターベアリングサポート本体100の弾性支持部材102は、プロペラシャフトの軸方向挙動に柔軟に追随しながらこのプロペラシャフトを低いばね定数で支持するために膜状に成形されており、したがって、内環101と外環の間に弾性支持部材102を一体に加硫成形する過程で、気泡の巻き込み等による微小欠陥を生じると、これによって弾性支持部材102の耐久性の低下をきたすおそれがある。
【0007】
本発明は、以上のような点に鑑みてなされたものであって、その技術的課題は、コストの上昇を抑えると共に耐久性に優れた二重防振構造センターベアリングサポートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した技術的課題を有効に解決するための手段として、請求項1の発明に係る二重防振構造センターベアリングサポートの製造方法は、センターベアリングサポート本体の膜状の弾性支持部材を成形する弾性支持部材成形空間と、この弾性支持部材成形空間における成形用ゴム材料の流れの下流位置からバリ成形空間を介して連続した所要数のマウント本体成形空間を有する金型を用い、前記弾性支持部材成形空間へ開口した注入ゲートから成形用ゴム材料を注入することによって、この成形用ゴム材料を、前記弾性支持部材成形空間から前記バリ成形空間を経由してマウント本体成形空間まで充填
し、前記バリ成形空間及び前記マウント本体成形空間が、前記弾性支持部材成形空間の外周に周方向等配形成されたことを特徴とするものである。
【0009】
請求項1の構成によれば、注入ゲートから金型内へ注入される成形用ゴム材料は、弾性支持部材成形空間へ充填され、さらに弾性支持部材成形空間における成形用ゴム材料の流れの下流側からバリ成形空間を通じてマウント本体成形空間へ充填され、硬化することによって、弾性支持部材成形空間で成形された弾性支持部材と、マウント本体成形空間で成形されたマウント本体が、バリ成形空間で成形されたバリ部を介して互いに連続した成形物が得られる。そして賦形(充填)の過程で成形用ゴム材料に巻き込まれた気泡は、弾性支持部材成形空間からバリ成形空間を通じてマウント本体成形空間へ追い出されるので、弾性支持部材成形空間で成形される膜状の弾性支持部材には前記気泡による微小欠陥が生じにくく、しかもセンターベアリングサポート本体の弾性支持部材と、センターベアリングサポート本体側と車体側の間に介在させる防振マウントのマウント本体が、バリ部を介して互いに連続した状態で同時に成形される。
【0011】
また、弾性支持部材成形空間からバリ成形空間を通じてのマウント本体成形空間への成形用ゴム材料の流れによる気泡の追い出しを、弾性支持部材成形空間の外周における周方向等配位置で有効に行うことができる。
【0012】
請求項2の発明に係る二重防振構造センターベアリングサポートの製造方法は、
請求項1に記載の構成において、バリ成形空間が弾性支持部材成形空間の外周に沿って円弧状に延び、マウント本体成形空間が前記バリ成形空間の周方向一端に形成されたことを特徴とするものである。
【0013】
請求項2の構成によれば、弾性支持部材成形空間の外周から円弧状に延びるバリ成形空間への成形用ゴム材料の流れが生じるので、気泡の追い出しを、弾性支持部材成形空間の外周における広い範囲で行うことができる。
【0014】
請求項3の発明に係る二重防振構造センターベアリングサポートの製造方法は、
請求項1〜2のいずれかに記載の構成において、弾性支持部材成形空間とバリ成形空間の間に、この弾性支持部材成形空間及びバリ成形空間より流路が狭い薄バリ成形隙間が形成され、この薄バリ成形隙間に、弾性支持部材成形空間で成形される弾性支持部材とバリ成形空間で成形されるバリ部との間で容易に破断可能な薄バリを成形することを特徴とするものである。
【0015】
請求項3の構成によれば、弾性支持部材とバリ部との間に成形される薄バリが容易に破断可能であるため、成形後に弾性支持部材からバリ部を除去する場合に、その除去作業を容易に行うことができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る二重防振構造センターベアリングサポートの製造方法によれば、センターベアリングサポート本体の膜状の弾性支持部材と、前記センターベアリングサポート本体側と車体側の間に介在させるマウント本体が、バリ部を介して互いに連続した状態で同時に成形されるので、マウント本体を弾性支持部材と別工程で成形する場合に比較して製造コストを著しく低減することができ、取扱いや納入顧客への納入も容易になり、しかも弾性支持部材の微小欠陥の発生も有効に防止して、その耐久性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明に係る二重防振構造センターベアリングサポートの製造方法における好ましい実施の形態で用いられる金型の概略構成を示す平面図である。
【
図2】
図1の金型で成形された成形品を示す斜視図である。
【
図3】
図2の成形品の要部を拡大して示す断面斜視図である。
【
図4】本発明に係る二重防振構造センターベアリングサポートの製造方法における好ましい実施の形態により得られる二重防振構造センターベアリングサポートの概略構成を示す斜視図である。
【
図5】本発明に係る二重防振構造センターベアリングサポートの製造方法における他の実施の形態で用いられる金型の概略構成を示す平面図である。
【
図6】従来の技術により製造された二重防振構造センターベアリングサポートの概略構成の一例を示す斜視図である。
【
図7】従来の技術により製造された二重防振構造センターベアリングサポートの防振マウントの一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係る二重防振構造センターベアリングサポートの製造方法の好ましい実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。まず
図1は、この実施の形態で用いられる金型の概略構成を示すものであり、
図2及び
図3は、
図1の金型で成形された成形品を示すものであり、
図4は、この実施の形態により得られる二重防振構造センターベアリングサポートの概略構成を示すものである。
【0019】
図1に示す金型1は、互いに衝合・分離可能に組み合わされた不図示の複数の分割型の間に、
図2及び
図3に示すセンターベアリングサポート本体2の環状かつ膜状でベローズ状の屈曲した断面形状をなす弾性支持部材21を成形する弾性支持部材成形空間11と、この弾性支持部材成形空間11の径方向中間位置における例えば周方向4等配位置に開口した注入ゲート12と、弾性支持部材成形空間11の外周側における周方向4等配位置にあって、この弾性支持部材成形空間11の外周縁に沿って円弧状に延びると共に周方向一端13aが外径側へ延びるバリ成形空間13と、各バリ成形空間13の周方向一端13aに連続し、
図4に示す左右の防振マウント3における上下各一対のマウント本体31を成形するマウント本体成形空間14と、前記弾性支持部材成形空間11の外周縁と各バリ成形空間13の間にあって、この弾性支持部材成形空間11及びバリ成形空間13より流路が著しく狭い薄バリ成形隙間15が形成されている。
【0020】
図4に示すように、防振マウント3のマウント本体31は、センターベアリングサポート本体2に比較して小径の環状をなすものであり、したがって、マウント本体成形空間14は、弾性支持部材成形空間11に比較して十分に小径のものである。このため、4個のマウント本体成形空間14は、例えば方形の金型1に円形の弾性支持部材成形空間11を形成した場合の金型1の四隅付近のデッドスペースを利用して配置することができるので、金型1の大型化を防止することができる。
【0021】
また、弾性支持部材成形空間11における内周部には、
図2〜
図4に示すセンターベアリングサポート本体2の内環22が、また外周部には、前記センターベアリングサポート本体2の外環23が位置決めセットされるようになっている。
【0022】
すなわち、上述の金型1を用いた成形では、まず弾性支持部材成形空間11に内環22及び外環23を位置決めセットして型締めし、各注入ゲート12から成形用ゴム材料を注入する。この成形用ゴム材料は、まず弾性支持部材成形空間11内へ充填され、このうち注入ゲート12より外周側へ流れる成形用ゴム材料の一部は、周方向等配状に断続した薄バリ成形隙間15を通じて各バリ成形空間13へ流れ込み、さらにこのバリ成形空間13を通じて各マウント本体成形空間14へ充填される。
【0023】
ここで、上述の成形用ゴム材料の賦形過程では、流れの合流部などで気泡が巻き込まれることがあるが、このような気泡は、弾性支持部材成形空間11から成形用ゴム材料と共にバリ成形空間13及びマウント本体成形空間14へ追い出される。そして薄バリ成形隙間15及びバリ成形空間13は、弾性支持部材成形空間11の外周に沿って円弧状に延びていて、周方向等配されているため、弾性支持部材成形空間11のほぼ周方向全域で上述した気泡の追い出し作用を得ることができる。
【0024】
そして賦形された成形用ゴム材料が架橋硬化することによって、弾性支持部材成形空間11内では
図2及び
図3に示すような環状かつ膜状の弾性支持部材21が成形され、その内周部が内環22に一体に接着されると共に、外周部が外環23に一体に接着され、バリ成形空間13内では円弧状の紐のようなバリ部4が成形され、マウント本体成形空間14では環状のマウント本体が成形され、さらに薄バリ成形隙間15では薄バリ5が成形される。なお、薄バリ5は、手指によって容易に破断可能な程度の薄いものである。
【0025】
すなわち、上述した成形工程では、
図2及び
図3に示すように、弾性支持部材21、内環22及び外環23からなるセンターベアリングサポート本体2と、その外周における周方向4等配位置に配置されたマウント本体31が、それぞれ薄バリ5及び紐状のバリ部4を介して互いに連続した成形物10が得られる。
【0026】
この成形物10は、そのまま納入顧客(例えば自動車工場など)へ納入することができる。そして、自動車への取り付けに際しては、成形物10からバリ部4を除去することによってセンターベアリングサポート本体2と4個のマウント本体31を分離し、センターベアリングサポート本体2の外環23を、
図4に示すブラケット6の支持環61に嵌合一体化し、このブラケット6の左右一対のフランジ62を、それぞれ上下一対のマウント本体31及び前記フランジ62の取付孔62aに挿通されるカラー32からなる防振マウント3を介して、この防振マウント3に挿通されるボルト7及びその軸部7aと螺合するナット71によって、不図示の車体メンバーに弾性的に取り付ける。なお、
図4における参照符号8はセンターベアリングサポート本体2の内環22に嵌着されたセンターベアリングである。
【0027】
そして成形物10からバリ部4を除去する作業は、バリ部4は、薄バリ5を手指で破断すると共にマウント本体31側の端部を切断することによって容易に行うことができる。このため輸送や自動車組立ラインでの作業工数を削減することができ、コストの削減が可能となる。
【0028】
また上述のように、成形過程で成形用ゴム材料の合流部などに巻き込まれた気泡は、弾性支持部材成形空間11から成形用ゴム材料と共にバリ成形空間13及びマウント本体成形空間14へ追い出され、しかもこのような気泡の追い出し作用が、弾性支持部材成形空間11の外周部のほぼ周方向全域で得られるため、弾性支持部材成形空間11で成形される弾性支持部材21に気泡による微小欠陥が発生するのを有効に防止することができる。
【0029】
そして上述の成形工程では、マウント本体成形空間14には弾性支持部材成形空間11から追い出された気泡がバリ成形空間13を経て流れ込むことになるが、マウント本体成形空間で成形されたマウント本体は圧縮状態で用いられるため、前記気泡による微小欠陥を生じてもそれによる影響は軽微なものとすることができる。
【0030】
なお、バリ成形空間13及び薄バリ成形隙間15は環状に連続したものであっても良いが、図示の例のように周方向有端の円弧状として、注入ゲート12及びマウント本体成形空間14と対応して配置することが好ましい。
【0031】
また上述の説明では、センターベアリングサポート本体2及びマウント本体31を自動車へ取り付ける際に、成形物10からバリ部4を除去することとしたが、このバリ部4は除去しないようにすることも可能である。すなわちセンターベアリングサポート本体2をブラケット6の支持環61に嵌合一体化すると共に、ブラケット6のフランジ62にカラー32と共にマウント本体31を組み込む作業を、マウント本体31が紐状のバリ部4を介してセンターベアリングサポート本体2と連結された状態のままで行うことも可能である。このようにすれば、バリ部4の除去工程が不要となる分、コストを一層低減することができる。
【0032】
次に
図5は、他の実施の形態において用いられる金型の概略構成を示すものである。この実施の形態は、金型1を多数個取りとしたものであって、すなわち互いに衝合・分離可能に組み合わされた不図示の複数の分割型の間に、
図1と同様、弾性支持部材成形空間11と、その径方向中間位置における周方向4等配位置に開口した注入ゲート12と、弾性支持部材成形空間11の外周側における周方向4等配位置で円弧状に延びるバリ成形空間13と、各バリ成形空間13の周方向一端に連続したマウント本体成形空間14と、前記弾性支持部材成形空間11の外周縁と各バリ成形空間13の間の薄バリ成形隙間15を1組とする成形空間が、複数組(図示の例では4組)形成されている。
【0033】
そしてこの場合も、マウント本体成形空間14を、金型1の四隅付近や、各弾性支持部材成形空間11の間のデッドスペースを利用して配置することができるので、金型1の大型化を防止することができる。
【符号の説明】
【0034】
1 金型
11 弾性支持部材成形空間
12 注入ゲート
13 バリ成形空間
14 マウント本体成形空間
15 薄バリ成形隙間
2 センターベアリングサポート本体
21 弾性支持部材
22 内環
23 外環
3 防振マウント
31
4 バリ部
5 薄バリ
6 ブラケット