(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6383198
(24)【登録日】2018年8月10日
(45)【発行日】2018年8月29日
(54)【発明の名称】歩行補助具
(51)【国際特許分類】
A61H 3/00 20060101AFI20180820BHJP
A45B 9/02 20060101ALI20180820BHJP
【FI】
A61H3/00 A
A45B9/02 C
【請求項の数】7
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2014-138657(P2014-138657)
(22)【出願日】2014年7月4日
(65)【公開番号】特開2016-15997(P2016-15997A)
(43)【公開日】2016年2月1日
【審査請求日】2017年6月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】513033674
【氏名又は名称】ブライト・ソレイルズ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】304021831
【氏名又は名称】国立大学法人千葉大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000073
【氏名又は名称】特許業務法人プロテック
(74)【代理人】
【識別番号】100167070
【弁理士】
【氏名又は名称】狹武 哲詩
(74)【代理人】
【識別番号】100160071
【弁理士】
【氏名又は名称】町田 隆志
(72)【発明者】
【氏名】山中 晶子
(72)【発明者】
【氏名】下村 義弘
(72)【発明者】
【氏名】勝浦 哲夫
(72)【発明者】
【氏名】早瀬 允人
【審査官】
増山 慎也
(56)【参考文献】
【文献】
特開2005−152592(JP,A)
【文献】
登録実用新案第3189658(JP,U)
【文献】
特表2006−526444(JP,A)
【文献】
特表平06−502793(JP,A)
【文献】
特開昭60−190962(JP,A)
【文献】
特開2008−272389(JP,A)
【文献】
特表平10−513375(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2007/0277865(US,A1)
【文献】
国際公開第2010/046849(WO,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2009/0235966(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61H 3/00
A45B 9/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
直伸部と前記直伸部に対して角度を有する傾斜直伸部とからなる杖元部と、前記傾斜直伸部に取り付け固定された握り部材と、前記直伸部及び/又は前記傾斜直伸部に取り付けられた前腕支持部材と、前記杖元部内で上下に調節可能に位置決めされる杖先端部とからなり、
前記前腕支持部材の前腕載置面と前記傾斜直伸部との為す角度が110度±10度の範囲にあり、前記直伸部と前記傾斜直伸部との為す角度及び前記前腕載置面と前記直伸部との為す角度がいずれも鈍角であることを特徴とする歩行補助杖。
【請求項2】
前記杖元部及び前記杖先端部の素材が、炭素繊維強化プラスチック又はアルミ合金であることを特徴とする請求項1に記載される歩行補助杖。
【請求項3】
前記前腕支持部材の素材が、発泡ウレタン又は炭素繊維強化プラスチックであることを特徴とする請求項1又は2に記載される歩行補助杖。
【請求項4】
前記握り部材の形状が、握り部材の上方で前記前腕支持部材側に傾斜する上部支持部を有することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載される歩行補助杖。
【請求項5】
前記握り部材の材質が、スポンジ又はウレタンであることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載される歩行補助杖。
【請求項6】
前記握り部材の材質が、炭素繊維強化プラスチックであることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載される歩行補助杖。
【請求項7】
歩行補助杖の用途が、リウマチ患者、関節炎患者又は高齢者用であることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載される歩行補助杖。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、杖の分野に属する。
【背景技術】
【0002】
脚部に不都合を抱えた人にとって、杖は自立歩行の際の有力な補助具の役割を果たしている。しかし、脚部の痛みを軽減することにばかり気を取られてしまい、杖に過剰に体重を預けすぎる傾向があるのも事実である。
【0003】
特許文献1に記載される発明は、社会で広く用いられている略T型形状の杖である。この形式の杖は、構造が簡潔で取り扱いやすいことから広く普及している。ただ使い方によっては、ややもすれば、T字状の握り部から腕を介して杖に体重をかけすぎる使い方をする人が散見される。このような使い方は、言ってみれば自己流の範疇に属する使い方であって、余分な体の左右動を招いたり、杖が滑ったり、引っかかったりした時に重大な転倒事故を引き起こす危険性を内在している。また、この杖をリウマチ等により関節痛を有している患者が用いると、腕の関節部の痛みに耐えられないといった問題点を抱えてもいた。
【0004】
また、特許文献2に記載される発明は、「ロフストランドクラッチ」として知られている杖の一種である。腕と手とを使って用いる杖であることから、前腕部支持型杖と呼ばれることもある杖である。腕と手とを使う杖なので好ましい点が多いのではあるが、実際これを用いて歩行する場合は、グリップを常に強い握力で保持したり、カフが前腕から離れないようにバンド等で固定しなければならなかった。またグリップ角度が手首に不自然な姿勢すなわち過度な橈側偏位をもたらし筋や関節の負担が大きかった。したがって杖を保持するために上肢に大きな負担がかかって使いにくく、リウマチ患者等、関節疾患のある人は使うことができないといった問題があった。また、歩行に際し、杖の構造上杖先が進行方向前方に大きく向かうため、杖を地面と垂直な位置を経てから後方に押しやる過程で、上肢が肩ごと大きく上下動して歩きにくいという問題を抱えていた。また、階段で使う際、杖先が段差に引っかかりやすく、階段では使いづらいという問題があった。
【0005】
また、杖の支柱と略直角に前腕支持部を取り付けてベルト等で前腕を前腕支持部材に固定できる様にすると共に、前腕支持部の前方に握り部を設けた杖が肘支持型杖或いはリウマチ杖として知られているが、構造が大がかりになってしまう憾みがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009-226204号公報
【特許文献2】登録実用新案第3058997公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
脚部に不都合を抱えた人にとって、杖は自立歩行の際の有力な補助具であるとの観点から、脚部に不都合を抱えた人が自己流の使い方ができにくい構造の補助具たる杖を提供し、よしんば格段の説明が無くとも誤った使い方のできにくい構成の杖を提供することにあり、肘を自然に曲げて杖を持つという理想の自立歩行補助杖の実現にある。また、リウマチ患者等、関節疾患を抱えた人にも手軽に且つ安全に使用でき、或いはリハビリに用いることのできる、あくまで自立歩行補助の役割に重点を置いた杖の具現化にある。さらに、階段の上り下り時の扱いが容易な杖の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る歩行補助杖は、直伸部と前記直伸部に対して角度を有する傾斜直伸部とからなる杖元部と、前記傾斜直伸部に取り付け固定された握り部材と、前記直伸部及び/又は前記傾斜直伸部に取り付けられた前腕支持部材と、前記杖元部内で上下に調節可能に位置決めされる杖先端部とからなり、
前記前腕支持部材の前腕載置面と前記傾斜直伸部との為す角度が110度±10度の範囲にあり、前記直伸部と前記傾斜直伸部との為す角度及び前記前腕載置面と前記直伸部との為す角度がいずれも鈍角であることを特徴とする。
【0009】
また、本発明に係る歩行補助杖は、前記杖元部及び前記杖先端部の素材が、炭素繊維強化プラスチック又はアルミ合金等の軽量素材であることを特徴とする。
【0010】
また、本発明に係る歩行補助杖は、前記前腕支持部材の素材が、発泡ウレタン又は炭素繊維強化プラスチック等の軽量素材であることを特徴とする。
【0011】
また、本発明に係る歩行補助杖は、前記握り部材の形状が、握り部材の上方で前記前腕支持部
材側に傾斜する上部支持部を有することを特徴とする。
【0012】
また、本発明に係る歩行補助杖は、前記握り部材の材質が、スポンジ、ウレタン等の低反発素材であることを特徴とする。
【0013】
また、本発明に係る歩行補助杖は、前記握り部材の材質が、炭素繊維強化プラスチック等の軽量素材であることを特徴とする。
【0014】
また、本発明に係る歩行補助杖は、歩行補助杖の用途が、リウマチ患者、関節炎患者又は高齢者用であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
前腕支持部材にあてがった前腕と手の平の握り部との角度が人間工学上の理想値に設定されているので、使用者への負担が小さい。肘を自然に曲げて用いるので、杖からの反力が腕全体に分散されて使用者への負担が少ない。重心を杖の稍前方に置く構成なので、操作に無理がなく、階段の上り下りに使用することができる。
また、軽量化が図られているので、使用者の疲れを軽減することができると共に、操作がし易い。
また、握り部の形状や材質に配慮しているので、リウマチ患者や関節炎患者や高齢者の使用にも好適である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は本発明の歩行補助杖の一例を表す全体斜視図である。
【
図2】
図2は本発明の歩行補助杖の他の例を表す分解斜視図である。
【
図3】
図3は
図2に示す本発明の歩行補助杖の他の例の前腕支持部材(カフ)の半部を示す外観図である。
【
図4】
図4は本発明の歩行補助杖のその他の例を表す分解斜視図である。
【
図5】
図5は握り部の他の例と、動作過程を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明を実施するための形態としては、直伸部と前記直伸部に対して角度を有する傾斜直伸部とからなる杖元部と、前記傾斜直伸部に取り付け固定された握り部材と、前記直伸部及び/又は前記傾斜直伸部に取り付けられた前腕支持部材と、前記杖元部内で上下に調節可能に位置決めされる杖先端部とからなり、前記前腕支持部材の前腕載置面と前記傾斜直伸部との為す角度が110度±10度の範囲にあり、前記直伸部と前記傾斜直伸部との為す角度及び前記前腕載置面と前記直伸部との為す角度がいずれも鈍角であることを特徴とする歩行補助杖、とすることが出来る。
【0018】
本発明を実施するための形態としては、前記杖元部及び前記杖先端部の素材が、炭素繊維強化プラスチック又はアルミ合金等の軽量素材であることを特徴とする請求項1に記載される歩行補助杖、とすることが出来る。
【0019】
本発明を実施するための形態としては、前記前腕支持部材の素材が、発泡ウレタン又は炭素繊維強化プラスチック等の軽量素材であることを特徴とする請求項1又は2に記載される歩行補助杖、とすることが出来る。
【0020】
本発明を実施するための形態としては、前記握り部材の形状が、握り部材の上方で前記前腕支持部
材側に傾斜する上部支持部を有することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載される歩行補助杖、とすることができる。
【0021】
本発明を実施するための形態としては、前記握り部材の材質が、スポンジ、ウレタン等の低反発素材であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載される歩行補助杖、とすることができる。
【0022】
本発明を実施するための形態としては、前記握り部材の材質が、炭素繊維強化プラスチック等の軽量素材であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載される歩行補助杖、とすることができる。
【0023】
本発明を実施するための形態としては、歩行補助杖の用途が、リウマチ患者、関節炎患者又は高齢者用であることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載される歩行補助杖、とすることができる。
【実施例】
【0024】
図1は本発明の歩行補助杖の一例を表す全体斜視図である。構成はいたってシンプルであって、折り曲げ加工された中空管部材からなる杖元部13の折曲部を前腕支持部材成形用金型にセットし、合成樹脂を流し込んで一体成形して作成することができる。杖元部13の先端部には握り部材(グリップ)10を差し込み固定する。握り部材(グリップ)10には前腕支持部材12側に傾斜した上部支持部11が一体に設けられている。係止用ねじ部材15を緩めて、ゴム先18が付いた杖先端部17の高さ調整を行った後、係止用ねじ部材15をきつく締めて歩行補助杖は完成する。杖元部13の材料は杖の軽量化を図る意味でも、炭素繊維強化プラスチックやアルミ合金などの軽量素材を用いることが好ましい。握り部材(グリップ)11の材料には、炭素繊維強化プラスチックや軽量プラスチック等の合成樹脂、木材等の天然素材、エボナイトまたはスポンジ、ウレタン等の低反発素材を適用することができる。
【0025】
図2は本発明の歩行補助杖の他の例を表す分解斜視図である。前腕支持部材(カフ)22は、前腕の載置方向で縦方向に二分割される構成を有している。
図3を併せて参照すると、前腕支持部材(カフ)22の半部が示されている。図面手前に接合面226が表れており、後方には前腕擁護壁223が鳥の翼状に表れている。接合面226には杖係合溝222が設けられ、本体を貫通するばか穴224が設けられてもいる。接合面226の適所に係止用突起225が複数設けられており、前腕支持部材(カフ)22の他方の半部の接合面に設けられた係合用凹部と係止するようになっている。したがって、杖元部23の湾曲部233の近傍位置で杖元部23を一対の前腕支持部材(カフ)22で挟み込んで係合用突起225と係合用凹部とが係止するように、ばか穴224に挿入したボルト・ナット、或いは螺子により前腕支持部材(カフ)22の半部同士を固着することができる。杖元部23の傾斜直伸部232に握り部材(グリップ)20を差し込み固定することができる。傾斜直伸部232にローレット等の回り止めを施すこともできるし、接着剤により固着してしまうことや、それらの併用も可能である。ゴム先28を取り付けた杖先端部27の上部にはばねにより通常は上方に突出し、押圧により退避可能に構成された調節ボタン26が設けてあるので、係止用ねじ部材25を緩めてゴム先28を取り付けた杖先端部27を杖元部23内で上下させて調節孔部24の所望の調節孔に調節ボタン26を進入させた後、係止用ねじ部材25を締めつければ杖の使用者の背丈にあった高さ調整をすることができる。
【0026】
図4は本発明の歩行補助杖のその他の例を表す分解斜視図である。前腕支持部材(カフ)32は例えば合成樹脂製の一体物であり、前腕載置面321の両側には前腕擁護壁323が立ち上がっていると共に、直伸する杖係合孔322が設けられている。従って、杖元部33の傾斜直伸部332に前腕支持部材(カフ)32を差し込み、適宜の回り止めを施して固着することができる。さらに、傾斜直伸部332の上部に握り部材(グリップ)30を差し込み適宜の回り止めを施して固着するものとする。傾斜直伸部332にローレット等の回り止めを施すこともできるし、接着剤により固着してしまうことや、適宜の固着手段の併用も可能である。ゴム先38を取り付けた杖先端部37の上部にはばねにより通常は上方に突出し、押圧により退避可能に構成された調節ボタン36が設けてあるので、係止用ねじ部材35を緩めてゴム先38を取り付けた杖先端部37を杖元部33内で上下させて、調節孔部34の所望の調節孔に調節ボタン36を進入させた後、係止用ねじ部材35を締めつければ杖の使用者の背丈にあった高さ調整をすることができる。これらの歩行補助杖に共通する角度関係について説明すると、前腕載置面321と傾斜直伸部332との為す角度(角度1)が110度±10度の範囲であり、最も好ましくは113度である。そして、直伸部331と傾斜直伸部332との為す角度(角度3)及び前腕載置面321と直伸部331の為す角度(角度2)がいずれも鈍角である。また、この例では杖元部33が直伸部331、傾斜直伸部332及び湾曲部333からなる一本ものとして説明したが、直伸部331と傾斜直伸部332とが別体の構成を採用することもできる。その場合には、前腕支持部材(カフ)32に代えて
図1に記載される様な一体型の前腕支持部材12を別途成形加工して、前腕支持部材12に設けられる杖係合孔に杖の直伸部と傾斜直伸部を別個に差し込み固着するものとする。
【0027】
図5は握り部の他の例と、動作過程とを示す説明図である。握り部材(グリップ)41の形状は球形のものでも良いことを示している。この杖は前腕支持部材(カフ)42に前腕をあてがい極く自然に握り部(グリップ)41を握ることができるように作成されている。人間が極く自然な体勢で手の平で物を握った場合の前腕と握られた物の中心線とがなす角度は110度±10度の範囲であり、113度が最も多いという知見に基づいて、前腕支持部材(カフ)42の前腕載置面と握り部材(グリップ)41の軸線との角度が決定されている。また、直伸部331と傾斜直伸部332との為す角度(角度3)及び前腕載置面321と直伸部331との為す角度(角度2)がいずれも鈍角である。Iは、人が肘を曲げて前腕支持部材(カフ)42に前腕をあてがい極く自然に握り部材(グリップ)40を握った状態を示している。その時、前腕を前腕支持部材(カフ)42に載せて握り部材(グリップ)40で握られた杖の重心は、△印で表されるように杖の稍前方に位置しており、杖は地面に対してほぼ直角を為している。この状態から歩行が始まったとすると、もともと重心が握り部材(グリップ)40の後方にあることから、IIに示される位置に移動すると前腕支持部材(カフ)42には上向きのモーメントが働き前腕支持部材(カフ)42の前腕載置面は前腕に押し付けられる様に作用してIIIに至る。その段階で肘を少々上方向に曲げるだけで杖はIで示す位置に戻ることができるのである。この間、肘の若干の曲げ伸ばしで杖の移送が図られるので、肩の上下動などの無用の負担を使用者にかけることがない。そして、肘を軽く曲げるだけで杖先が持ち上がる構造であるから、階段での使用にも十分対応することができる。
【0028】
以上述べたように、本発明は、軽量素材でできていて直伸部と前記直伸部に対して角度を有する傾斜直伸部とからなる杖元部と、前記傾斜直伸部に取り付け固定された握り部材と、前記直伸部及び/又は前記傾斜直伸部に取り付けられた前腕支持部材と、前記杖元部内で上下に調節可能に位置決めされる杖先端部とからなり、前記前腕支持部材の前腕載置面と前記傾斜直伸部との為す角度が110度±10度の範囲にあり、前記直伸部と前記傾斜直伸部との為す角度及び前記前腕載置面と前記直伸部との為す角度がいずれも鈍角であることを特徴とする杖である。これらの工夫により肘および手関節を解剖学的中間位にして、なおかつ小さい握力負担で使用することができる杖である。カフは軽量で例えば炭素繊維強化プラスチックでできているため従来のように重心が後方にならず、グリップを自然に持った場合に従来技術のロフストランドクラッチのように杖先が大きく前方に出ず、グリップが大きく上下動することなく自然な上肢の運動を実現できる。本発明ではカフの軽量化により重心の高さをグリップから十分低くすることができ、杖先がふらふらすることなく安定させる作用がある。従来技術のロフストランドクラッチでは重心がグリップの後方にあるためにカフには下向きのモーメントが発生しカフが前腕から離れるが、本発明では重心がグリップの下方にあることでカフには上向きのモーメントが発生し前腕に自然に押し付けられる作用がある。カフは軸体に対し、従来技術のロフストランドクラッチよりもより後方に傾いた角度2で接合されており、グリップを持った際に自然に前腕にあたる角度となっていることとグリップ上部支持部がグリップを握った使用者の親指と人差指間に引っかかるために握力が弱くても杖が落ちることはないことにより、従来技術のロフストランドクラッチのように固定用のバンドや強い握力は不要であり、歩行中に使用者がカフを前腕にあてるための努力を強制されることが無い。従来技術のロフストランドクラッチでは肘を伸ばした状態でカフと前腕が一体化することにより、階段などの段差を超える場合に肩を持上げながら上肢全体を前方に大きく振り出して杖先を持ち上げる必要があったが、本発明ではグリップとカフの位置関係から肘をやや曲げ気味にした状態で使うことから、肘を軽く曲げるだけで杖先を持ち上げることができるため階段における使用が容易である。またカフは前腕に固定されないため、万が一の転倒の際にも杖が手から離れないことに起因する怪我を負わせることがない。本発明は、グリップとカフを生体構造に合わせた取り付け角にすることとカフを軽量素材とすることによって重心をより前方に位置させる構造として、かつ、グリップ上部に引っ掛かり用の上部支持部を設けて使用者の筋や関節の負担を低減することによって従来の問題を解決している。
【0029】
この杖は、手首、腕、肩にリウマチ等関節疾患を有する患者の歩行補助杖として用いて有効である。リウマチ等関節疾患を有する患者は、握力が弱く関節部に力がかかると痛みに耐えられないという悩みを抱えていることが多い。したがって特許文献1に示したT型の杖や特許文献2に示したロフストランドクラッチを用いると、杖からの反力が伸長している手首関節や肘関節や肩関節に直接作用してしまい、関節部の痛みに耐えかねてしまうので、肘支持型杖或いはリウマチ杖と呼ばれる杖を用いているのが現状である。しかし、この出願の発明に係る歩行補助杖を用いれば肘を軽く曲げて前腕を前腕支持部材(カフ)に載置し、握り部材(グリップ)を握って用いる構造になっているので、杖が自然に前腕に密着して格別の固定バンドを用いなくても杖と前腕部との一体化が得られる。また、杖から伝わる反力も腕の略直角方向からの力となって分散されるので、関節部に直接作用する力は大きく軽減される。そして、握り部材(グリップ)をスポンジ等低反発素材で作成すれば握力の弱い患者でも楽に握ることが可能となり、関節部への負荷が一層低減されるのである。勿論、握力が極度に衰えてしまっている患者が使用する場合には、前腕支持部材(カフ)の前腕擁護壁等に一対の面ファスナを取り付けておいて、前腕を前腕支持部材(カフ)に固定するようにすることもできる。
【産業上の利用可能性】
【0030】
このように、この歩行補助杖は肘を自然に曲げて使用する構成を採っているので、杖に体重を預け過ぎるような使い方が未然に防止されて、不測の転倒事故の発生を低減させることができ、利用者の前腕部への負担が低減されるので新規な構成の歩行補助杖として広く普及することが期待できる。そして、階段の上り下りに適合しているので、有用である。また、リウマチ患者等関節痛を持つ人が用いて、関節部への負担が小さいのでリハビリ等医療器具としての普及が大いに期待できる。
【符号の説明】
【0031】
10 握り部材(グリップ)
11 上部支持部
12 前腕支持部材(カフ)
13 杖元部
14 調節孔部
15 係止用ねじ部材
20 握り部材(グリップ)
21 上部支持部
224 ばか穴
225 係止用突起
226 接合面
23 杖元部
231 直伸部
232 傾斜直伸部
233 湾曲部
24 調節孔部
25 係止用ねじ部材
26 調節ボタン
27 杖先端部
28 ゴム先
30 握り部材(グリップ)
31 上部支持部
32 前腕支持部材(カフ)
321 前腕載置面
322 杖係合孔
323 前腕擁護壁
33 杖元部
331 直伸部
332 傾斜直伸部
333 湾曲部
34 調節孔部
35 係止用ねじ部材
36 調節ボタン
37 杖先端部
38 ゴム先
40 握り部材(グリップ)
42 前腕支持部材(カフ)
43 杖元部
47 杖先端部
48 ゴム先