(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6383203
(24)【登録日】2018年8月10日
(45)【発行日】2018年8月29日
(54)【発明の名称】プレート一体ガスケットの製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 8/0276 20160101AFI20180820BHJP
H01M 8/10 20160101ALI20180820BHJP
H01M 8/0204 20160101ALI20180820BHJP
F16J 15/10 20060101ALI20180820BHJP
B29C 45/14 20060101ALI20180820BHJP
【FI】
H01M8/0276
H01M8/10 101
H01M8/0204
F16J15/10 N
B29C45/14
【請求項の数】3
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2014-151773(P2014-151773)
(22)【出願日】2014年7月25日
(65)【公開番号】特開2016-29622(P2016-29622A)
(43)【公開日】2016年3月3日
【審査請求日】2017年6月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004385
【氏名又は名称】NOK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100071205
【弁理士】
【氏名又は名称】野本 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100179970
【弁理士】
【氏名又は名称】桐山 大
(72)【発明者】
【氏名】島添 稔大
【審査官】
高木 康晴
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2005/004264(WO,A1)
【文献】
特開2009−281528(JP,A)
【文献】
特開2011−096545(JP,A)
【文献】
特開2010−180963(JP,A)
【文献】
特開2005−098476(JP,A)
【文献】
特開2003−083165(JP,A)
【文献】
特開2004−202861(JP,A)
【文献】
特開2001−121584(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/02
H01M 8/10
B29C 45/14
F16J 15/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プレートの周縁部における厚さ方向両側にゴム状弾性材料からなるガスケット本体を一体に設けたプレート一体ガスケットの製造方法において、
前記プレートのうち、このプレートを金型の分割型間に挟持して型締めすることにより画成されるガスケット成形用キャビティの間に位置する領域を、前記キャビティへ成形材料を注入するゲートの開口との対向位置及びその近傍で相対的に厚肉となるように形成し、
前記プレートの厚さ方向両側の前記キャビティを互いに連通する貫通孔を、相対的に厚肉となっている部分に位置して開設する、
ことを特徴とするプレート一体ガスケットの製造方法。
【請求項2】
相対的に厚肉となっている部分が、金型により挟持される被挟持部から延びることを特徴とする請求項1に記載のプレート一体ガスケットの製造方法。
【請求項3】
キャビティの延長方向の一部にこのキャビティが幅方向へ拡張した拡張部を形成し、ゲートを前記拡張部へ向けて開口させ、プレートのうち、キャビティの間に位置する領域における相対的に厚肉の部分を、前記拡張部に位置するように形成することを特徴とする請求項1又は2に記載のプレート一体ガスケットの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば燃料電池セルを構成するセパレータなどのプレートの周縁部の両面にゴム状弾性材料からなるガスケット本体が一体に設けられたプレート一体ガスケットを製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、電解質膜の両面に一対の電極層を設けた膜電極複合体(MEA:Membrane Electrode Assembly)の厚さ方向両側にガス拡散層を配置し、これにセパレータを積層して燃料電池セルとし、さらにこの燃料電池セルを多数積層したスタック構造としている。各燃料電池セルには、燃料ガスや酸化ガス等をシールするためのガスケットが用いられ、この種のガスケットとしては、従来、
図7に示すようなプレート一体ガスケット100が知られている。
【0003】
図7に示すプレート一体ガスケット100は、燃料電池セルのセパレータとしてのカーボンプレート101の周縁に沿った部分における厚さ方向両側に、ゴム状弾性材料(ゴム材料又はゴム状弾性を有する合成樹脂材料)からなるガスケット本体102,103を一体に設けたものであって、ガスケット本体102,103は、それぞれカーボンプレート101の両面に形成した帯状溝101a,101bに充填状態に形成された基部102a,103aと、その幅方向中間部から山形に隆起形成されたシールリップ102b,103bを有する。厚さ方向両側の基部102a,103aは、カーボンプレート101の帯状溝101a,101b間の薄肉部101cに開設された貫通孔101dを通じて互いに一体に連続している。
【0004】
この種のプレート一体ガスケット100の製造において、カーボンプレート101とガスケット本体102,103の一体成形は、
図8及び
図9に示すような金型200を用いて行われる。すなわち、まずカーボンプレート101を、金型200の分割型201,202間に位置決め配置し、型締めによってカーボンプレート101の両面の帯状溝101a,101bと分割型201,202の間に画成されるキャビティ203,204に成形用液状ゴム材料を充填する。液状ゴム材料の供給口であるゲート205は一方のキャビティ203にのみ開口しているが、
図9に示すように、キャビティ203,204はカーボンプレート101に開設された貫通孔101dを通じて互いに連通しているので、ゲート205からキャビティ203へ射出された液状ゴム材料は、このキャビティ203から貫通孔101dを介してキャビティ204にも流れ込んで賦形される(下記の先行技術文献参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−245341号公報
【特許文献2】特開2001−121584号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、カーボンプレート101は脆いため、帯状溝101a,101b間の薄肉部101cでは、ゲート205からの液状ゴム材料の射出圧力によって割れCを生じることが懸念される。特に、薄肉部101cのうちゲート205の開口部と対向する位置の近傍では、ゲート205からの液状ゴム材料の射出圧力を直接受けるため割れCを生じやすくなり、しかも
図9に示すように貫通孔101dが存在する部分では、この貫通孔101dを起点とする割れCを生じることが懸念される。
【0007】
本発明は、以上のような点に鑑みてなされたものであって、その技術的課題は、カーボンなど脆い材質からなるプレートの両面にゴム状弾性材料からなるガスケット本体を一体成形する際に、プレートの割れを有効に防止することの可能なプレート一体ガスケットの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1の発明に係るプレート一体ガスケットの製造方法は、プレートの周縁に沿った部分における厚さ方向両側にゴム状弾性材料からなるガスケット本体を一体に設けたプレート一体ガスケットの製造
方法において、前記プレートのうち、このプレートを金型の分割型間に挟持して型締めすることにより画成されるガスケット成形用キャビティの間に位置する領域を、前記キャビティへ成形材料を注入するゲートの開口部との対向位置及びその近傍で相対的に厚肉となるように形成
し、前記プレートの厚さ方向両側の前記キャビティを互いに連通する貫通孔を、相対的に厚肉となっている部分に位置して開設する。
【0009】
上記方法によれば、プレートを金型の分割型間に挟持して型締めすることによりプレートの周縁に沿った部分における厚さ方向両側に画成されるガスケット成形用のキャビティに、ゲートから成形材料を注入することによって、プレートの周縁に沿った部分における厚さ方向両側にゴム状弾性材料からなるガスケット本体が一体成形される。型締めに際しては、前記プレートのうち、キャビティの間に位置する領域がゲートの開口部との対向位置及びその近傍で相対的に厚肉となるように形成されているので、前記プレートは、前記ゲートからの成形材料の射出圧力を、キャビティの間に位置する領域のうち相対的に厚肉となっている部分で受ける。そしてこの部分は、相対的に厚肉であることによって機械的強度が高くなっているので、前記プレートが脆い材質からなるものであっても成形材料の射出圧力による割れを生じにくくすることができる。
【0011】
上記方法によれば、貫通孔が開設された部分が相対的に厚肉であるため、貫通孔を起点とする割れを生じにくくすることができる。
【0012】
請求項
2の発明に係るプレート一体ガスケットの製造方法は、請求項
1に記載の方法において、相対的に厚肉となっている部分が、金型の分割型間に挟持される被挟持部から延びるものである。
【0013】
上記方法によれば、相対的に厚肉の部分が、金型の分割型間に挟持される被挟持部に支持されるため、成形材料の射出圧力による割れを一層生じにくくすることができる。
【0014】
請求項
3の発明に係るプレート一体ガスケットの製造方法は、請求項
1又は2に記載の方法において、キャビティの延長方向の一部にこのキャビティが幅方向へ拡張した拡張部を形成し、ゲートを前記拡張部へ向けて開口させ、プレートのうち、キャビティの間に位置する領域における相対的に厚肉の部分を、前記拡張部に位置するように形成するものである。
【0015】
上記方法によれば、プレートのうち、キャビティの間に位置する領域における相対的に厚肉の部分の機械的強度が一層高まる。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係るプレート一体ガスケットの製造方法によれば、カーボンなど脆い材質からなるプレートの両面にゴム状弾性材料からなるガスケット本体を一体成形する際に、ゲートからの成形材料の射出圧力によるプレートの割れを有効に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
プレート一体ガスケットの製造方法の第一の実施の形態を示す金型の型締め状態の部分断面図である。
【
図2】第一の実施の形態により製造されたプレート一体ガスケットを示す部分断面図である。
【
図3】
プレート一体ガスケットの製造方法の第二の実施の形態を示す金型の型締め状態の部分断面図である。
【
図4】
プレート一体ガスケットの製造方法の第三の実施の形態を示す説明図である。
【
図5】
図4のA−A’線位置で切断して示す断面図である。
【
図6】
図4に示す第三の実施の形態の部分的な変更例を示す説明図である。
【
図7】従来の技術により製造されたプレート一体ガスケットを示す部分断面図である。
【
図8】従来の技術に係るプレート一体ガスケットの製造方法の一例を示す金型の型締め状態の部分断面図である。
【
図9】
図8と異なる位置で切断した金型の型締め状態の部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下
、プレート一体ガスケットの製造方法の好ましい実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0019】
図1は第一の実施の形態、
図2は第一の実施の形態による方法で製造されたプレート一体ガスケットを示すものであって、まず
図1において、参照符号1は燃料電池セルにセパレータとして組み込まれるプレート、参照符号2はこのプレート1の周縁部における厚さ方向両側に、
図2に示すようにゴム状弾性材料(ゴム材料又はゴム状弾性を有する合成樹脂材料)からなるガスケット本体3,4を一体に射出成形するための金型である。
【0020】
プレート1はカーボンで成形されたものであって、厚さ方向両面に、周縁(外周縁及び開口縁)に沿って延びる帯状溝11,12が互いに厚さ方向対称の断面形状で形成されており、この帯状溝11,12の内側の領域の厚さ方向両面には、燃料電池セルにおいて反応ガス(燃料ガス及び酸化剤ガス)などを流通させるための多数の流路溝13,14が形成されている。
【0021】
金型2は、プレート1を挟持可能な分割型21,22を備えており、すなわちプレート1を分割型21,22間に位置決め配置して挟持して型締めすることによって、プレート1の周縁部における厚さ方向両側の帯状溝11,12と、分割型21,22との間に、それぞれガスケット成形用のキャビティ23,24が画成されるようになっている。キャビティ23,24は、
図2に示すガスケット本体3,4とネガポジ対応する断面形状を有するものであって、すなわち、それぞれプレート1の帯状溝11,12内へ充填された基部31,41と対応する基部成形部231,241と、前記基部31,41の幅方向中間部から山形に隆起したシールリップ32,42と対応するシールリップ成形部232,242からなる。双方のキャビティ23,24は、両キャビティ23,24間に開設された不図示の貫通孔を通じて互いに連通している。
【0022】
また、一方の分割型21には、成形用液状ゴム材料の供給口であるゲート25が開設されており、このゲート25の下流端部の開口部25aは、金型2の型締めによって前記分割型21とプレート1の帯状溝11の間に画成される一方のキャビティ23における基部成形部231の外周部231aに臨む位置にある。
【0023】
プレート1は、金型2の分割型21,22の間に挟持して型締めすることにより画成されるキャビティ23,24の間となる領域、言い換えれば、帯状溝11,12の間の部分15に、ゲート25の開口部25aとの対向位置及びその近傍で相対的に厚肉となる厚肉部15aが形成されている。この厚肉部15aは、キャビティ23,24(帯状溝11,12)の外周側で分割型21,22に挟持される被挟持部16から張り出すように形成されており、キャビティ23,24(帯状溝11,12)の延長方向すなわち図示の断面と直交する方向へ連続したものであっても良い。
【0024】
そしてプレート1へのガスケット本体3,4の一体成形に際しては、
図1に示す型締め状態において、プレート1の厚さ方向両側に画成されたキャビティ23,24に、成形用液状ゴム材料を注入する。詳しくは、液状ゴム材料は、まず一方の分割型21に開設されたゲート25から一方のキャビティ23に充填され、さらに帯状溝11,12の間の部分15に開設された不図示の貫通孔を通じて他方のキャビティ23へ充填される。
【0025】
このときプレート1は、ゲート25の開口部25aからの液状ゴム材料の射出圧力を、キャビティ23,24(帯状溝11,12)の間の部分15における厚肉部15aで受ける。そしてこの厚肉部15aは、キャビティ23,24(帯状溝11,12)の間の部分15のうち相対的に機械的強度が高い部分であり、かつキャビティ23,24(帯状溝11,12)の外周側で分割型21,22に挟持された被挟持部16に支持されているため、プレート1がカーボンで成形されたものであっても、液状ゴム材料の射出圧力による割れが有効に防止される。
【0026】
そして、キャビティ23,24に充填された液状ゴム材料が架橋硬化することによって、
図2に示すように、プレート1と一体化されたゴム状弾性材料からなるガスケット本体3,4が成形される。
【0027】
図3は
、プレート一体ガスケットの製造方法の第二の実施の形態を示すものであって、上述した第一の実施の形態と異なる点は、プレート1の厚さ方向両側のキャビティ23,24を互いに連通する貫通孔17を、相対的な厚肉部15aに開設したことにある。また、この貫通孔17は、ゲート25の開口部25aと対向する位置にある。このようにすれば、ゲート25からの液状ゴム材料の射出圧力による貫通孔17を起点とする割れの発生が、有効に防止される。
【0028】
図4及び
図5は
、プレート一体ガスケットの製造方法の第三の実施の形態を示すものであって、先に説明した第一の実施の形態と異なる点は、キャビティ23,24の延長方向の一部に、このキャビティ23,24が幅方向外側へ拡張した拡張部233,243を形成し、ゲート25の開口部25aを一方の拡張部233へ開口させ、プレート1のうち、キャビティ23,24の間の部分15における相対的な厚肉部15aを、前記拡張部233,243間に位置するように形成することにある。そして前記拡張部233,243は、
図5に示すように、プレート1の帯状溝11,12の延長方向の一部に、所定間隔でプレート1の周縁側へ向けて浅く切り欠いた切欠部11a,12aを形成することで、型締め時に前記切欠部11a,12aと金型の内面との間に形成され、厚肉部15aは、前記切欠部11a,12aの間の部分として形成されるものである。
【0029】
また、プレート1の厚さ方向両側のキャビティ23,24を互いに連通する貫通孔17は厚肉部15aに開設され、言い換えれば拡張部233,243内に位置して開設される。また、この貫通孔17は、ゲート25の開口部25aと対向する位置にある。
【0030】
この方法によれば、成形に際して、キャビティ23,24の拡張部233,243に流れ込んだ液状ゴム材料が架橋硬化した部分は、ガスケット本体3,4におけるプレート1の帯状溝11,12内へ充填された基部31,41から幅方向へ張り出した張り出し部33,43となる。そして、ゲート25の開口部25aと対向するプレート1の厚肉部15aは、拡張部233,243(切欠部11a,12a)の立ち上がり面に囲まれるように、言い換えれば被挟持部16に囲まれるように形成されているので、ゲート25からの液状ゴム材料の射出圧力に対する機械的強度が一層高いものとなり、しかも、貫通孔17付近に、架橋硬化によるゴム材料の体積収縮による「ひけ」などが発生しても、この「ひけ」はガスケット本体3,4の基部31,41から幅方向へ張り出した張り出し部33,43に生じるため、このような「ひけ」による基部31,41やシールリップ32,42への悪影響が有効に防止される。
【0031】
そして、成形されたプレート一体ガスケットは、張り出し部33,43以外の部分は、すべて
図5に示すような断面形状となるため、均一なシール性を奏することができる。
【0032】
図6は、上述した第三の実施の形態の部分的な変更例を示すものであって、すなわち先に説明した
図4の例では、プレート1の厚さ方向両側のキャビティ23,24を互いに連通する貫通孔17が厚肉部15a(拡張部233,243)の中間部分に開設されているのに対し、変更例では、拡張部233,243の立ち上がり面に寄せて開設されている。このようにすることで、ゲート25からの液状ゴム材料の射出圧力に対する厚肉部15aの機械的強度が一層高いものとなり、ゲート25からの液状ゴム材料の射出圧力による貫通孔17を起点とする割れの発生が、有効に防止される。
【符号の説明】
【0033】
1 プレート
11,12 帯状溝
15a 厚肉部
16 被挟持部
17 貫通孔
2 金型
21,22 分割型
23,24 キャビティ
233,243 拡張部
25 ゲート
3,4 ガスケット本体
33,43 張り出し部