【文献】
山口 順之,同時方程式モデルを用いたJEPXの電力取引動向の実証研究,電力中央研究所報告 Y06006,2007年 3月,pp.1-61
【文献】
下境 芳典,日本卸電力取引所の取引状況と回帰分析による価格予想,社会経済研究,財団法人電力中央研究所,2008年 2月,No.56
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
卸電力取引所により公表される、時刻に対応した電力商品ごとの約定価格、約定量、売り入札総量および買い入札総量のそれぞれの実績値を、日付に対応付けて取得して格納する実績値格納部と、
前記約定量を前記売り入札総量で割った売り約定率および前記約定量を前記買い入札総量で割った買い約定率のそれぞれを説明変数として、前記実績値格納部に格納されている、複数の日付にわたる前記約定価格の前記実績値を、前記電力商品ごとにスプライン回帰することで、前記電力商品ごとに、前記売り約定率を入力値とする売り約定率関数、および、前記買い約定率を入力値とする買い約定率関数をそれぞれ決定する約定率関数決定部と、
約定率関数決定部により決定された前記売り約定率関数を用いて、売り入札量の累積値を前記売り入札総量で割った売り入札率と入札価格との関係を与える関数である供給率関数を決定するとともに、約定率関数決定部により決定された前記買い約定率関数を用いて、買い入札量の累積値を前記買い入札総量で割った買い入札率と入札価格との関係を与える関数である需要率関数を決定する入札関数決定部と
を備える電力取引支援装置。
前記予測値算出部は、買い約定率および売り約定率の少なくとも一方の予測値の入力を受け付け、前記買い約定率および売り約定率の少なくとも一方の予測値および前記残差予測部により予測された残差を、前記約定率関数決定部により決定された前記供給率関数および前記需要率関数の少なくとも前記予測値に対応する方に適用して、前記約定価格の予測値を算出する請求項6に記載の電力取引支援装置。
前記予測値算出部は、買い入札総量を売り入札総量で割った需給比率の予測値の入力を受け付け、前記需給比率の前記予測値および前記残差予測部により予測された残差を、前記約定率関数決定部により決定された前記供給率関数と前記需要率関数との均衡条件に適用して、前記約定価格および前記約定量の予測値を算出する請求項6に記載の電力取引支援装置。
卸電力取引所により公表される、時刻に対応した電力商品ごとの約定価格、約定量、売り入札総量および買い入札総量のそれぞれの実績値を、日付に対応付けて取得して実績値格納部に格納する実績値格納段階と、
前記約定量を前記売り入札総量で割った売り約定率および前記約定量を前記買い入札総量で割った買い約定率のそれぞれを説明変数として、前記実績値格納部に格納されている、複数の日付にわたる前記約定価格の前記実績値を、前記電力商品ごとにスプライン回帰することで、前記電力商品ごとに、前記売り約定率を入力値とする売り約定率関数、および、前記買い約定率を入力値とする買い約定率関数をそれぞれ決定する約定率関数決定段階と、
前記約定率関数決定段階により決定された前記売り約定率関数を用いて、売り入札量の累積値を前記売り入札総量で割った売り入札率と入札価格との関係を与える関数である供給率関数を決定するとともに、前記約定率関数決定段階により決定された前記買い約定率関数を用いて、買い入札量の累積値を前記買い入札総量で割った買い入札率と入札価格との関係を与える関数である需要率関数を決定する入札関数決定段階と
をコンピュータが実行する電力取引支援方法。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本実施形態に係る電力取引支援装置100を用いる電力卸取引システム10の概念図を示す。
【
図2】取引所サーバ20により行われる約定処理を説明する概念図である。
【
図3】電力取引支援装置100の機能ブロックを示す。
【
図4】電力取引支援装置100の実績値格納部110に格納される情報の例を示す。
【
図5】電力取引支援装置100の動作の一例を示すフローチャートである。
【
図6】電力取引支援装置100の動作の他の例を示すフローチャートである。
【
図7】9時から19時まで2時間おきの時間帯価格に対する、同時推定問題における数式11の売り平滑化スプライン関数の推定結果を示す。
【
図8】21時から7時まで2時間おきの時間帯価格に対する、同時推定問題における数式11の売り平滑化スプライン関数の推定結果を示す。
【
図9】9時から19時まで2時間おきの時間帯価格に対する、同時推定問題における数式11の買い平滑化スプライン関数の推定結果を示す。
【
図10】21時から7時まで2時間おきの時間帯価格に対する、同時推定問題における数式11の買い平滑化スプライン関数の推定結果を示す。
【
図11】9時から19時まで2時間おきの時間帯価格に対する、同時推定問題における数式11の気温の平滑化スプライン関数の推定結果を示す。
【
図12】21時から7時まで2時間おきの時間帯価格に対する、同時推定問題における数式11の気温の平滑化スプライン関数の推定結果を示す。
【
図13】同時推定問題における数式11の曜日・祝日ダミー係数の推定結果を示す。
【
図14】同時推定問題における数式11の定数項と日時ダミー係数の年間変換値の推定結果を示す。
【
図15】数式11、6、7の自由度調整済決定係数を時間帯ごとに比較したものである。
【
図16】数式11、6、7のAICを時間帯ごとに比較したものである。
【
図20】
図7に対応する、売り平滑化スプライン関数の推定結果を単調化したものを示す。
【
図21】
図8に対応する、売り平滑化スプライン関数の推定結果を単調化したものを示す。
【
図22】
図9に対応する、売り平滑化スプライン関数の推定結果を単調化したものを示す。
【
図23】
図10に対応する、売り平滑化スプライン関数の推定結果を単調化したものを示す。
【
図24】単調性の変換を行った供給率関数および需要率関数を用いた場合の、
図17に対応する推定の結果である。
【
図25】単調性の変換を行った供給率関数および需要率関数を用いた場合の、
図18に対応する推定の結果である。
【
図26】単調性の変換を行った供給率関数および需要率関数を用いた場合の、
図19に対応する推定の結果である。
【
図27】単調化していない関数を用いた場合の決定係数と、単調化した関数を用いた決定係数との比較を示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明するが、以下の実施形態は特許請求の範囲にかかる発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0010】
図1は、本実施形態に係る電力取引支援装置100を用いる電力卸取引システム10の概念図を示す。電力取引支援装置100は、電力取引における実績値から入札関数を推定し、将来の約定価格等を予測することで、電力取引を支援することを目的とする。なお、以下、説明のために取引方法はJEPXにおけるスポット電力約定を例として用いる。
【0011】
電力卸取引システム10は、取引所が管理する取引所サーバ20と、電力を供給する供給者が管理する供給者端末30と、電力を入用とする需要者が管理する需要者端末40と、それらの間のデータ送受信を媒介するネットワーク50とを有する。ネットワーク50には、さらに、気象庁が管理する気象庁サーバ60と、電力取引支援装置100が接続されている。
【0012】
供給者は供給者端末30を用いて、24時間を30分ごとに区切った48区分を電力商品として、電力商品ごとに、売る電力の量である売り入札量および売り価格の情報を取引所サーバ20に送信することにより売り入札を行う。一方、需要者は需要者端末40を用いて、電力商品ごとに、買う電力の量である買い入札量および買い価格の情報を取引所サーバ20に送信することにより売り入札を行う。なお、以下、入札量の累積値とは、売りすなわち供給については価格の安い方から売り入札量を積み上げた値をいい、買いすなわち需要については価格の高い方から買い入札量を積み上げた値をいう。
【0013】
図2は、取引所サーバ20により行われる約定処理を説明する概念図である。取引所サーバ20は前日までの全ての売り入札について、価格の低い方から売り入札量を価格単位で積み上げて、「売り入札量の累積値−価格線」を作成する。これは、価格P
S以下で売ることが可能な電力量Sについて、S=s(P
S)となる関数sを求めることに対応する。なお、価格が最も高い側の入札量の累積値が売り入札総量となり、
図2の例では25(×1000kWh/h)である。
【0014】
同様に、取引所サーバ20は前日までの全ての買い入札について、価格の高い方から買い入札量を価格単位で積み上げて、「買い入札量の累積値−価格線」を作成する。これは、価格P
D以上で買うことが可能な電力量Dについて、D=d(P
D)となる関数dを求めることに対応する。なお、価格が最も低い側の入札量の累積値が買い入札総量となり、
図2の例では28(×1000kWh/h)である。
【0015】
取引所サーバ20は、「売り入札量の累積値−価格線」と「買い入札量の累積値−価格線」の交点を与える入札量と価格とをそれぞれ約定量および約定価格に決定する。
図2の例では、約定量は12(×1000kWh/h)であり、価格は8.10(円/kWh)である。これは、入札量累積値と価格の関係を連続的な関数s、dを用いて表現することで、下記数式1を需給均衡とする均衡量V^と均衡価格P^を求めることに対応する。なお、入札価格や入札量は離散的な値であり、欠測値をもつこともあるので、これらの関数もまた、本来、価格や入札量のデータから平滑化や補間、回帰などの処理を経て推定するものであることに注意する。
【0017】
ここで、関数sの逆関数s
−1は供給関数を与え、関数dの逆関数d
−1は需要関数を与える。しかしながら、JEPXでは入札価格や対応する入札量は非公表であり、供給関数および需要関数をこれらのデータから直接的に推定することはできない。一方、JEPXの市場参加者(売り手側、買い手側)にとっては、近似的にでも供給関数および需要関数が推定されれば、それらを取引に活用する強いニーズがある。また、JEPXからは、日付に対応付けて、電力商品ごとの約定価格、約定量および入札総量が公表されており、これらの限られた情報から供給関数、需要関数を如何に効率的に(精度よく)推定することができるかが、実務上は大きな課題である。なお、以下の説明において、入札総量は、売り入札総量および買い入札総量の両方を総称するが、いずれか一方を指す場合もある。入札率は、売り入札量の累積値、買い入札量の累積値をそれぞれ売り入札総量、買い入札総量で除した値(売り入札率、買い入札率)の両方を総称するが、いずれか一方を指す場合もある。同様に、入札率関数は、売り入札率と価格の関係を与える関数(供給率関数)と買い入札率と価格の関係を与える関数(需要率関数)の両方を総称するが、いずれか一方を指す場合もある。入札関数は、売り入札量の累積値と価格の関係を与える関数(供給関数)と買い入札量の累積値と価格の関係を与える関数(需要関数)の両方を総称するが、いずれか一方を指す場合もある。
【0018】
本発明者は、JEPXから公表されている上記情報のうち約定量と入札総量とを用いて、約定量を入札総量で割った約定率を新たな変数として導入すれば、約定価格が約定率を説明変数とするスプライン回帰でよく説明されることを見出した。さらに本発明者は、スプライン回帰で求めた、約定率の関数である約定率関数を用いて、入札率と入札価格の関係を与える関数である入札率関数が近似的に表され、かつ、入札量の累積値と入札価格の関係を与える関数である入札関数が近似的に表されることを見出した。これらの知見に基づいて、当該電力取引支援装置100を提案するに至った。なお約定率関数は、売り約定率関数および買い約定率関数の両方を総称するが、いずれか一方を指す場合もある。
【0019】
ここで、売り入札総量S
−、買い入札総量D
−と入札量の累積値S、Dを用いて、売り入札率r
Sおよび買い入札率r
Dは下記数式2のように定義される。
【0021】
このとき、売り入札率r
Sについての単調増加関数f
−が存在する。同様に、買い入札率r
Dについての単調減少関数g
−が存在する。これらにより、売り価格P
Sおよび買い価格P
Dは下記数式3のように書くことができる。
【0023】
需給均衡においては、P
S=P
Dが成り立つので、上記数式1を満たす約定量V^に対し、P
S=P
Dを満たすr
S、r
Dの組(r^
S,r^
D)は下記数式4を満たす。
【0025】
上記f
−、g
−をそれぞれ「供給率関数」、「需要率関数」と呼ぶ。また、(r^
S,r^
D)を「売り約定率」、「買い約定率」と呼ぶ。なお、これら供給率関数および需要率関数が求まれば、需要関数および供給関数は下記数式5の関係で与えられる。
【0027】
図3は、電力取引支援装置100の機能ブロックを示す。
図4は、電力取引支援装置100の実績値格納部110に格納される情報の例を示す。
【0028】
電力取引支援装置100は、例えばパーソナルコンピュータ等の情報処理端末である。電力取引支援装置100は、実績値格納部110、約定率関数決定部120、入札関数決定部130、残差予測部140および予測値算出部150を有する。電力取引支援装置100は、CD−ROM102等の媒体に記録された、または、ネットワーク50を介して供給されたプログラムがインストールされることによりその手順が実行されてもよい。
【0029】
実績値格納部110は、電力取引所により公表される、時刻に対応した電力商品ごとの約定価格、約定量および入札総量のそれぞれの実績値を、日付に対応付けて取得して格納する。この場合に、実績値格納部110は、上記情報を、ネットワーク50を介して取引所サーバ20から取得して格納する。上記情報の一例を
図4に示した。
【0030】
約定率関数決定部120は、約定率を説明変数として、実績値格納部110に格納されている、複数の日付にわたる約定価格の実績値を、電力商品ごとにスプライン回帰計算する。これにより約定率関数決定部120は、電力商品ごとに約定率関数を決定する。この場合に、気温および周期性ダミー変数(1年365日の周期を表すトレンドダミー変数)の少なくとも一方をさらに説明変数としてスプライン回帰することが好ましい。さらに、少なくともカレンダーバラメータをコントロールパラメータとしてスプライン回帰することがさらに好ましい。なお、日々観測される約定率は、入札率の一部が観測されるものであり、約定率関数決定部120によって決定される約定率関数は、入札率関数のうち気温や季節要因の影響を取り除いたものを、観測変数である約定率から推定したものであることに注意する。
【0031】
入札関数決定部130は、キーボード等を介してユーザから電力商品および日付の指定を受け付ける。さらに、入札関数決定部130は、約定率関数決定部120により決定された売り約定率関数に対し、コントロールパラメータによって計算された回帰関数部分を足し戻し供給率関数を決定する。同様に、入札関数決定部130は、約定率関数決定部120により決定された買い約定率関数に対し、コントロールパラメータによって計算された回帰関数部分を足し戻し需要率関数を決定する。入札関数決定部130は、受け付けた電力商品および日付における実績値格納部110に格納されている入札総量の実績値を、約定率関数に適用することにより、供給関数および需要関数を決定する。さらに、入札関数決定部130は当該関数、および当該関数によって与えられる入札価格、入札量の推定値をディプレイに表示したり、ネットワーク50を介して供給者端末30、需要者端末40等に出力したり、実績値格納部110に格納したりする。
【0032】
残差予測部140は、スプライン回帰における残差を予測する。予測値算出部150は、残差予測部140により予測された残差を、供給率関数、需要率関数に適用して、将来時点における約定価格の予測値を算出する。この場合に予測値算出部150は、キーボード等を介してユーザから買い約定率の予測値、売り約定率の予測値、または、買い入札総量を売り入札総量で割った需給比率の予測値の入力を受け付け、これらの値をさらに用いて約定価格および約定量を予測することが好ましい。気温については、気象庁が提供する予測値を入力してもよいし、時系列モデルから気温予測値を求めて入力することも可能である。なお、気温の代わりに周期性ダミーをコントロール変数として約定率のスプライン回帰モデルを構築した場合、気温の予測値の入力は不要である。さらに、予測値算出部150は約定価格の予測値をディプレイに表示したり、ネットワーク50を介して供給者端末30、需要者端末40等に出力したり、実績値格納部110に格納したりする。
【0033】
図5は、電力取引支援装置100の動作の一例を示すフローチャートである。
図5において、電力取引支援装置100は、入札関数を出力する動作(S10)を実行する。当該動作はキーボード等を介したユーザからの指示により開始する。
【0034】
まず、実績値格納部110は、卸電力取引所により公表される、時刻に対応した電力商品ごとの約定価格、約定量および入札総量のそれぞれの実績値を、日付に対応付けて取得して格納する(S100)。実績値格納部110は予め一定期間ごとに自動的に取引所サーバから上記情報を取得して格納していてもよい。
【0035】
約定率関数決定部120は、約定率を説明変数として約定価格の実績値を、電力商品ごとにスプライン回帰計算することにより約定率関数を決定し、実績値格納部110に格納する(S110)。この場合に、約定率関数決定部120は、供給率関数と需要率関数とを、個別推定問題として解いてもよいし、同時推定問題として解いてもよい。なお、以下、00分と30分のデータを平均して24個の時刻mを電力商品として説明する。
【0036】
まず、個別推定問題として解く例を説明する。第t日における時刻mの時間帯価格をP
(m)t、t=1,・・・N、m=0,・・・23とし、売り約定率をS
(m)t、買い約定率をB
(m)t、全国気温インデックス値をT
(m)tとする。ただし、約定率は第t日における時間帯mの約定量を売り入札総量または買い入札総量で除した値であり、下記数式6で表される。また、全国気温インデックスは、気象庁サーバ60の気象庁HP「全国の気温」でカバーする日本国内20都市ごとの24時間の気温を、地域別人口で加重平均したものである。
【0038】
次に、下記数式7、8に示す一般化加法モデル(GAMと略す)を適用する。当該モデルは予め設定されて約定率関数決定部120のメモリに記憶されていてもよいし、キーボード等を介してユーザにより入力されてもよい。
【0041】
ただし、f
(m)、g
(m)、h
(m)f、h
(m)g、m=0,1,・・・23は平滑化スプライン関数、ε
(m)t、η
(m)tは残差項である。特に、f
(m)は売り約定率関数であり、g
(m)は買い約定率関数である。Mon
t、・・・Sat
tは曜日効果を示すダミー変数であり、Holiday
tは休日効果を示すダミー変数であり、Period
tは長期線形トレンドを示す日付ダミー変数である。
【0042】
以下、記法を簡単にするため、特に断りがない限り時間帯に関する引数mは省略するが、全ての変数、平滑化スプライン関数および回帰係数は時間帯ごとに観測または推定される。
【0043】
入札関数決定部130は、キーボード等を介して日付および電力商品の指定を受け付ける(S116)。入札関数決定部130は、さらに、上記売り約定率関数および買い約定率関数を用いた供給率関数および需要率関数を決定する(S118)。上記数式7、8が構築されれば、説明変数の実測値S
t、B
t、T
t、コントロールパラメータである、日付および曜日に関するダミー変数値に対し、下記数式9、10で定義されるf
−t、g
−tは、時点tにおける供給率関数および需要率関数の推定値を与える。なお、f
−t、g
−tは、目的変数のP
tの実測値に対し、均衡条件f
−t(S
t)=g
−t(B
t)=P
tを満たしている。入札関数決定部130は、当該推定値をディプレイに表示したり、実績値格納部110に格納したりする。
【0046】
入札関数決定部130は、供給率関数および需要率関数に単調性の変換をし(S120)、さらに上記数式5の関係を用いて、入札量の累積値と価格の関係を与える関数である供給関数および需要関数を決定する(S122)。さらに入札関数決定部130は、供給関数および需要関数をディスプレイ等に出力する。なお、単調性の変換とは、スプライン関数から推定した約定率関数が単調性(売り約定率関数であれば単調増加、買い約定率であれば単調減少)の条件を満たすように、推定した約定率の関数値と変換後の関数値の2乗誤差を単調性制約の下で最小化する、二次計画問題を解くことによって単調性を満たす約定率関数を求め、入札率関数を再構築するものである。
【0047】
上記ステップS110において、同時推定問題として解く例を説明する。下記数式11に示す一般化加法モデル(GAMと略す)を適用して、供給率関数f
−と需要率関数g
−を同時に推定する。
【0049】
ここで、f、g、h、ε
t、Sat
t等の各項は個別推定問題における数式7および8と同様の意味である。また、数式11の第3項以降は、売り約定率関数f
−、買い約定率関数g
−を構築する場合の共通項である。共通項をまとめて下記数式12のように表すと、関数f
−t、g
−tは下記数式13の通りに定義される。
【0052】
上記数式13における第1項以外の項は、時点tにおける説明変数の実測値または予測値が与えられれば固定する。f、gがそれぞれ単調増加、単調減少であれば、価格の実績値Ptに対し、f
−t(r
S)、g
−t(r
D)は、r
S=S
t、r
D=B
tで有一の交点をもち、この時の回帰式の値f
−t(S
t)=g
−t(B
t)は、P
tの均衡価格の推定値となる。実測値として価格P
tも与えられれば、残差ε
tも計算されるので、関数f
−t、g
−tを下記数式14のように再定義すれば、価格の実績値価格P
tに対してf
−t(S
t)=g
−t(B
t)=P
tが成り立つ。
【0054】
よって、上記数式14の関数f
−t、g
−tはそれぞれ、観測変数に関する実績値が与えられた場合の供給率関数、需要率関数の推定値を与える。一方、後述するように、S
t、B
tを所与として、将来時点の価格を予測する場合に、残差ε
tを0に設定することがある。このような場合は、数式13の関数f
−t、g
−tを、供給率関数、需要率関数の推定値として利用することができる。
【0055】
なお、約定率関数決定部120は、供給率関数と前記需要率関数とを、個別推定問題および同時推定問題の両方で解き、その結果を実績値格納部110に格納してもよい。さらに、約定率関数決定部120は、個別推定問題および同時推定問題のいずれで解いた供給率関数等であることを示すフラグを付与して実績値格納部110に格納してもよい。
【0056】
また、上記GAMはいずれも、気温を説明変数にしている。これに代えて、1年間の日付によって特定される、季節性トレンドを表す年次周期ダミー変数をコントロールパラメータとして導入してもよい。
【0057】
図6は、電力取引支援装置100の動作の他の例を示すフローチャートである。
図6において、電力取引支援装置100は、約定価格等の予測値を出力する動作(S20)を実行する。当該動作はキーボード等を介したユーザからの指示により開始する。
【0058】
まず、電力取引支援装置100は、実績値格納部110に格納されている約定率関数を読み出す(S200)。さらに、キーボード等を介して日付および電力商品の指定を受け付ける(S202)。
【0059】
残差予測部140は、受け付けた日付および電力商品に関して、上記約定率関数における残差を予測する(S204)。この場合に、残差の予測には、残差の時系列を用いて多変量自己回帰モデル(以下、VARモデルという)を構築し、条件付き期待値予測を用いることが好ましい。
【0060】
予測値算出部150は、キーボード等を介して予測補助パラメータの入力を受け付ける(S206)。入力される予測補助パラメータの一例は、供給率関数に対する売り約定率の予測値、または、需要率関数に対する買い約定率の予測値である。売り約定率の予測値が入力された場合に、予測値算出部150は、日付、電力商品、予測された残差が特定された数式7に売り約定率の予測値を代入して、直接的に約定価格の予測値を得る(S208)。同様に、買い約定率の予測値が入力された場合に、予測値算出部150は、日付、電力商品、予測された残差が特定された数式7に売り約定率の予測値を代入して、直接的に約定価格の予測値を得る(同ステップ)。
【0061】
受け付ける予測補助パラメータと、受け付けた予測補助パラメータからの約定価格の予測値の算出方法は上記に限られない。他の方法として、買い入札総量を売り入札総量で割った需給比率の予測値の入力を受け付け、当該需給比率の予測値を供給率関数と需要率関数との均衡条件に適用して、約定価格の予測値を算出してもよい。なお、需給比率の代わりに買い入札総量と売り入札総量の予測値が与えられれば、同じく供給率関数と需要率関数との均衡条件に適用して、約定価格、および約定量の予測値が算出される。
【0062】
ここで、需給比率、あるいは約定率の予測値は、ユーザから直接的に与えられることもできるし、需給比率、あるいは約定率自体の時系列モデルを用いた条件付き期待値予測から、予測値を算出してもよい。
【実施例1】
【0063】
JEPXから公表されているシステムプライスを上記約定価格として、約定量、売り入札総量および買い入札総量の実績値を用いて、上記個別推定問題および同時推定問題を解いた。ただし、約定量、売り入札総量および買い入札総量は、毎時0分と30分の平均をとって、時間別に換算した。データの起算点は2005年8月8日とし、終点を2014年6月10日とした。この場合、時系列方向のサンプル数Nは3229個である。
【0064】
図7から
図14は、それぞれ同時推定問題における数式11の平滑化スプライン関数、曜日・祝日ダミー係数、定数項と日時ダミー係数の年間変換値の推定結果を示す。ただし、
図7、
図9および
図11は9時から19時まで2時間おきの時間帯価格に対する推定結果を示し、
図8、
図10および
図12は21時から7時まで2時間おきの時間帯価格に対する推定結果を示す。
図7から
図10における垂直な点線は、横軸で与えられる約定率の中央値を示す。また、
図7および
図8は売り約定率のスプライン関数を示し、
図9および
図10は買い約定率のスプライン関数を示す。
【0065】
なお、これらのスプライン関数は平均値が0になるように標準化されている。各時間帯におけるこれら平均の和は説明変数の影響を除いた時間帯価格の平均水準を与えるものと考えられるが、この値は
図14の実線が示す定数項に一致する。
【0066】
図7および
図8の推定結果からは、約定率が0.7を上回る辺りから約定率の上昇とともに価格が大きく上昇し、約定率の上昇に対する価格感応度も高いことが分かる。売り入札の原資を与えると考えられる火力発電の場合、発電コストの高い発電所の電力ほど高い価格で入札されるものと考えられるが、約定率が高い場合、通常は約定されない高い価格の電力も約定されるので、このような急激な価格上昇が生じるものと考えられる。特に、約定率が0.9以上の場合と0.7以下の場合では全ての時間帯において価格に10円程度の差があり、売り約定率が高い値で推移した場合、約定率の変化が価格の大幅な上昇につながることが示唆される。
【0067】
図9および
図10の推定結果からは、売りの場合とは逆に約定率の低下にともなう価格の上昇が観測される。ただし、買い約定率のスプライン関数の場合、日中と夜間とで傾向が異なり、夜間の方は時間帯ごとに形状が若干異なる。一方、日中の場合、約定率が減少するにつれて価格は緩やかに上昇するが、0.6以下のところで傾きが急になり、中央値を与える0.3から0.35以下の辺りで一度フラットになる。さらに、約定率が0.2を下回るあたりで価格が大きく上昇することが見てとれる。
【0068】
図11および
図12の気温のスプライン関数(ただし、平均が0になるように標準化)については、日中である午前11時、午後1時、3時については、気温の価格に与える影響が気温の高い場合と低い場合とで異なることが分かる。例えば、午後1時のスプライン関数の場合、気温が高いところで価格が高く、かつ気温が低いところでも価格が低くなるという、夏季および冬季の冷房需要、暖房需要がそれぞれ反映されていることが分かる。また、夏季の気温が高い場合の気温に対する価格感応度の方が、冬季の気温が低い場合に対する価格感応度よりも絶対値が高く、冷暖房需要の相対的な影響の違いが観測されている。一方、夜間から明け方にかけては、気温が低いところでの価格感応度は高いが、気温が高いところでは価格は気温に対してほとんど反応せず、深夜・早朝は暖房需要が気温による価格変動の大きな要因であるといえる。
【0069】
図15および
図16は、数式11、6、7の自由度調整済決定係数(調整済R
2ともいう)とAICをそれぞれ時間帯ごとに比較したものである。ただし、黒の実線(Kion)は、数式6または数式7で約定率の項を除外した、スプライン関数に関しては気温スプライン関数のみを含むGAMを示す。濃いグレーの実線(Kion+Vol.)はこれに約定量のスプライン関数を追加したGAMを示し、残りの薄いグレーの実線(Kion+Sell)、黒の点線(Kion+Buy)、濃いグレーの点線(Kion+Sell+Buy)は、それぞれ、数式6、7、11のGAMを示す。まず、日中の時間帯である午前8時から午後6時においては、Kion、Kon+Vol.、Kion+Sell、Kion+Buy、Kion+Sell+Buyの順に調整済R
2で見積もられる当てはまり精度が向上し、AICも小さくなる傾向にある。特に同時推定である数式11から得られるスプライン回帰関数の推定結果は、昼間の時間帯を含む午前7時から午後7時の調整済R
2が70%前後で推移しており、他のモデルと比べて、価格に対する高い説明力を有している。
【0070】
数式7、数式8、あるいは数式11の残差項の時系列を24時間分集めた多変量時系列に対してVARモデルを適用し、条件付き期待値を用いて残差の予測値を計算することで、残差の予測情報を約定量価格等の予測に利用することができる。このように残差予測を行った際の予測精度は、下記数式15の予測誤差決定係数と平均絶対誤差(MAEともいう)によって評価される。ただし、FE
t,τは、第t日までの残差を用いて構築したVARモデルを用いて予測したτ日後の残差(ただしmは時間帯を表す引数)の予測誤差(実績値と予測値の差)であり、MAEとは残差予測値と実績値との差の絶対値について平均をとったものである。また、これらの値は全て、予測値の計算に外挿予測(アウトオブサンプル予測)と呼ばれる、予測時点より前の残差時系列からVARモデルを構築し、残差予測を実施することによって計算するものとする。
【0071】
【数15】
【0072】
図17、
図18は、数式11において気温を説明変数とすることに代えて、周期性トレンドを用いて構築したGAMの残差に対して残差予測を行った際の、予測誤差決定係数、およびMAEの推定結果を時間帯ごとに表示したものである。ただし、線の種類は予測期間によって異なり、一番精度のよい(予測誤差決定係数は1に近く、MAEは最小のもの)値を示す線が翌日の残差を予測した結果である。予測補助パラメータとして売り約定率、買い約定率が与えられれば、数式15の予測誤差決定係数は当該予測モデルから得られる約定価格予測値の予測精度を与え、予測誤差決定係数が1の場合に、予測値は実績値に一致することに注意する。これらの図から明らかなように、当該残差予測は高い予測精度を示している。なお、数式11の代わりに数式6あるいは数式7に対しても、同様の残差予測手法が適用でき、この場合、約定価格予測に必要な予測補助パラメータは、売り約定率、あるいは買い約定率のどちらか一方である。
【0073】
図19は入札関数を推定した結果の一例を示す。
図19は、2012年7月2日における9時の入札関数を推定したものである。図から明らかな通り、入札関数として、右上がりの供給関数と右下がりの需要関数とが得られている。なお、同時推定問題(数式11)、あるいは個別推定問題(数式6、7)を適用したいずれの場合も、推定期間における約定価格と約定量は、当該手法を適用することから求められる供給曲線、需要曲線の交点によって与えられる。
【0074】
図20から23は、
図7から
図10のスプライン関数に対して単調性の変換を行ったものである。また、
図24から
図26は、単調性の変換を行った供給率関数および需要率関数を用いた場合の、
図17から
図19に対応する推定の結果である。
【0075】
図20から
図23を
図7から
図10と比較すると、
図20から
図23のスプライン関数はいずれも単調増加または単調減少のいずれかになっている。また、
図26を
図19と比較すると、
図19の供給曲線は単調増加であり、需要曲線は単調減少となっている。これらの交点である約定価格および約定量の実績値は、
図19と同じである。
【0076】
図27は、単調化していない関数を用いた場合の決定係数と、単調化した関数を用いた場合の決定係数との比較を示す。実線は単調化した関数を用いた決定係数であり、目盛は左側の軸に示されている。点線は、単調化していない関数を用いた場合の決定係数と、単調化した関数を用いた決定係数との差分であり、目盛は右側の軸に示されている。
図27に示すように、決定係数の違いは全ての時間帯で1.5%以下であった。なお、この図における単調化していない関数を用いた場合の決定係数とは、
図15におけるKion+Sell+Buyの自由度調整済み決定係数に対応する。
【0077】
以上、本実施形態によれば、約定率を説明変数として約定価格をスプライン回帰し、当該スプライン回帰による約定率関数を用いて、入札率と価格の関係を与える関数である入札率関数を推定することで、JEPXによる公開データのみでは直接推定することのできない需要関数、供給関数を推定することができる。さらに、残差予測値、および約定率などの変数を入力することで、より適切に将来時点の約定価格等を予測することができる。
【0078】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、多様な変更または改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。その様な変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【0079】
特許請求の範囲、明細書、および図面中において示した装置、システム、プログラム、および方法における動作、手順、ステップ、および段階等の各処理の実行順序は、特段「より前に」、「先立って」等と明示しておらず、また、前の処理の出力を後の処理で用いるのでない限り、任意の順序で実現しうることに留意すべきである。特許請求の範囲、明細書、および図面中の動作フローに関して、便宜上「まず、」、「次に、」等を用いて説明したとしても、この順で実施することが必須であることを意味するものではない。