特許第6383213号(P6383213)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6383213-弾性緩衝機能を有する気密端子 図000003
  • 特許6383213-弾性緩衝機能を有する気密端子 図000004
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6383213
(24)【登録日】2018年8月10日
(45)【発行日】2018年8月29日
(54)【発明の名称】弾性緩衝機能を有する気密端子
(51)【国際特許分類】
   H01L 23/04 20060101AFI20180820BHJP
【FI】
   H01L23/04 E
【請求項の数】2
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2014-159154(P2014-159154)
(22)【出願日】2014年8月5日
(65)【公開番号】特開2016-36000(P2016-36000A)
(43)【公開日】2016年3月17日
【審査請求日】2016年3月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】300078431
【氏名又は名称】ショット日本株式会社
(72)【発明者】
【氏名】平井 太郎
(72)【発明者】
【氏名】奥野 晃
【審査官】 中野 和彦
(56)【参考文献】
【文献】 特開平02−018879(JP,A)
【文献】 実開昭59−084771(JP,U)
【文献】 特開平11−303744(JP,A)
【文献】 特開2008−171482(JP,A)
【文献】 特開2013−222955(JP,A)
【文献】 特表2011−511397(JP,A)
【文献】 実開昭51−023466(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 23/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
小判形の金属外環と、この金属外環の外径と相似形に設けた内径部から構成された一つの開口部と、前記開口部を封着した絶縁ガラスと、さらにこの絶縁ガラスに一括封着した少なくとも二段以上の多列配置の貫通導出リードとを備え、金属外環は、周縁断面がU字状をした屈曲部からなる弾性緩衝手段を設けたことを特徴とする整合封止型気密端子。
【請求項2】
請求項1に記載の気密端子を電極端子に用いたハードディスク装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電気・電子装置に用いられる気密端子に関し、特に金属外環に弾性緩衝手段を設けた気密端子に関する。
【背景技術】
【0002】
気密端子(フィード・スルーとも言う)は、金属外環または金属外環の挿通孔に絶縁材を介してリードを気密に封着したもので、気密容器内に収容された電気機器や素子に電流を供給したり、電気機器や素子から信号を外部に導出したりする場合に用いられる。特に金属外環とリードを絶縁ガラスで封着するGTMS(Glass−to−Metal−Seal)タイプの気密端子は、整合封止型と圧縮封止型の2種類に大別される。気密封止の信頼性を確保するには、外環およびリードの金属材と絶縁ガラスの熱膨張係数を適正に選択することが重要となる。封止用の絶縁ガラスは、金属外環とリードの素材、要求温度プロファイルおよびその熱膨張係数によって決定されている。整合封止の場合には、金属材と絶縁ガラスの熱膨張係数が可能な限り一致するように封止素材が選定される。整合封止型気密端子は、気密信頼性ならびに電気絶縁性を確保するため、金属外環およびリード材に広い温度範囲でガラス材と熱膨張係数が一致しているコバール合金(Fe54%、Ni28%、Co18%)を使用して、両者をホウケイ酸ガラスなどの絶縁ガラスで封着するのが一般的である。
【0003】
これら気密端子は、パソコン等に搭載するハードディスク・ドライブ(以下、HDD)の接続端子にも適用されている。近年のHDDは、大記録容量、高記録密度かつ安定した高速アクセスに加えて静粛性や省電力などが要求されている。これら要求を満足させるため特許文献1に記載されるように、磁気ディスク(プラッタとも言う)を収める筐体にHeなどの低密度気体を充填することで、プラッタの高速回転にともなう風損を大幅に低減したHDDがある。Heや水素などの低密度気体は、分子サイズが極めて小さいため拡散リークしやすいので、これらの低密度気体を筐体内に保持し封入しておくために気密端子が用いられる。気密端子はアルミ合金製筐体の開口部周縁にはんだ接合されて筐体を密閉する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−171482号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述のように気密端子は、ガラス材と熱膨張係数を整合させたコバール合金の金属外環とリード材をガラスで絶縁封着して構成されるが、絶縁ガラスの熱膨張係数は、HDDの筐体に使用されるアルミ材と大きく異なるため、熱応力によって気密端子と筐体とを固定するはんだ接合部や気密端子本体が破損しやすいという欠点があった。
【0006】
本発明の目的は、上記課題を解消するため提案するものであり、気密端子を取り付ける筐体の材質が、気密端子の材質よりも熱膨張が大きい場合または熱膨張が小さい場合であっても、気密端子の金属外環に弾性緩衝部を設けたことで気密端子に応力吸収機能を持たせて、気密端子と筐体との間に生じる熱応力を緩和して、気密端子と筐体との接合部が容易に破損しない気密端子を提供することにある。本発明により、気密端子と筐体とを気密封止するはんだ材などの接合部や気密端子本体が熱応力によって容易に破壊されないように保護することができる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、金属外環と、この金属外環に封着した絶縁ガラスと、さらにこの絶縁ガラスに貫通封着した導出リードとを備え、金属外環は、周縁に金属外環の屈曲部からなる弾性緩衝手段を設けて、これにより筐体材料との熱膨張差を緩衝することで、気密端子に応力吸収機能を持たせたことを特徴とする気密端子が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明により気密端子を取り付ける筐体材料と気密端子の構成材料との間に大きな熱膨張差がある組み合わせであっても、金属外環の周縁に設けた屈曲部が両者の熱膨張差を緩衝するダンパーとして働くので、気密端子と筐体とを気密封止するはんだ接合部や気密端子の絶縁ガラスに掛る熱応力を緩和し、気密端子およびその接合部を応力破壊から保護する。金属外環に弾性緩衝手段を設けたことにより、多ピンタイプの整合封止型気密端子でありながら、高信頼性、高気密性の気密端子を実現することができ、これまでHDDなどに用いられていた多ピンタイプの圧縮封止型気密端子に要求されていた金属外環の形状に対する制限を大幅に軽減できる。すなわち、絶縁ガラスに圧縮応力を均等に荷重できるようリード毎に同心円状の貫通孔を用意したり、同一の開口部に多数のリードを植設する場合に、ガラス構造体の長手方向および横手方向に十分な圧縮応力を獲得できるよう開口面積に応じて開口部を小間に区切ったりする設計上の制約が無くなった。本発明によって、金属外環に複数の開口部を設ける必要がなくなったので、金属外環をより単純な構成にでき、より多数の導出リードをより狭ピッチで設けることが可能となる。なお、本発明は整合封止型気密端子を例示して説明するが、整合封止型気密端子のみならず圧縮封止型気密端子にも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明に係る気密端子10を示し、(a)は平面図を、(b)は正面断面図を、(c)は下面図を示す。
図2】本発明に係る気密端子20を示し、(a)は平面図を、(b)は正面断面図を、(c)は下面図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明に係る気密端子は、金属外環と、この金属外環の内径に封着した絶縁ガラスと、さらにこの絶縁ガラスに貫通封着した導出リードとを備え、金属外環は、その外周を屈曲して形成した弾性緩衝手段を設けたことを特徴とする。弾性緩衝手段は、この気密端子を取り付ける筐体材料との熱膨張差を、屈曲部の弾性を利用して緩衝する。金属外環は、少なくとも外周端の断面がU字ないしJ字状となるように屈曲させて成形される。金属外環の断面をJ字状とする場合は、その方向性は特に限定されない。外径端を長尺側とするか、または内径端を長尺側とするか、何れか一方を自由に選択してよい。
【0011】
例えば、図1に示す気密端子10は、コバール、インバーなどの不変鋼の金属外環11と、金属外環11の内径に封着した絶縁ガラス12と、さらに絶縁ガラス12に貫通封着したコバール、インバーなどの不変鋼の導出リード13とを備え、金属外環11は、その外周を屈曲して形成した弾性緩衝手段14を設けたことを特徴とする。弾性緩衝手段14は、この気密端子10を取り付ける筐体材料との熱膨張差を屈曲部の弾性を利用して緩衝する機能を有する。金属外環11は、断面がU字状に成形されており、その内径に導出リード13を貫通封設させた絶縁ガラス12を封着している。弾性緩衝手段14として機能する金属外環11の板厚15は、厚さ0.1mm以上0.5mm以下のものを用いると好ましい。厚さ0.1mm以下となると外力によって変形し易くなり、所定の寸法形状を維持し難くなる。厚さ0.5mm以上となると剛性過大となり、弾性緩衝効果を充分に発揮し難くなる。また、金属外環11は、特に好ましくは、金属外環11の板厚15を1とするとき屈曲部の間隔すなわち開溝幅16は2以上30以下とするのが良い。開溝幅16が30を超えるときには、金属外環11が必要な剛性を失い弾性緩衝手段として機能しなくなる。また、開溝幅16が2を下回るときには、板金加工が困難となり金属外環11に割れ等の不具合が発生するようになる。金属外環11および導出リード13は、はんだ付け性を向上させる目的で、少なくとも露出表面をNiめっき材やAuめっき材などで被覆してもよい。金属外環11は、円形以外にも楕円形ないし小判形のものに変形できる。例えば、図2に示す気密端子20ように、複数の導出リード23を貫通封設した絶縁ガラス22を、断面がU字状をした小判形の金属外環21の内径部に封着する形態に変形してもよい。
【実施例】
【0012】
本発明に係る実施例1の気密端子10は、図1に示すように外径15mm、内径5mm、高さ5mmのコバール合金製金属外環11と、金属外環11の内径に封着したホウケイ酸ガラスからなる絶縁ガラス12と、さらに絶縁ガラス12に貫通封着した直径1mmのコバール合金製導出リード13とを備え、金属外環11は、板厚1mm、開溝幅3mmのU字断面を有する環状曲板からなり、金属外環11の断面をU字にすることで金属外環11に加わる応力に対する弾性緩衝手段とした整合封止型気密端子である。
【0013】
本発明に係る実施例2の気密端子20は、図2に示すように、外径が長径23mm、短径10mm、高さ2.5mm、内径が長径19.2mm、短径6.2mm、高さ2.5mmのコバール合金の金属外環21と、金属外環21の内径に封着したホウケイ酸ガラスからなる絶縁ガラス22と、さらに絶縁ガラス22に貫通封着した複数の直径0.5mmのコバール合金製導出リード23とを備え、金属外環21は、板厚0.25mm、開溝幅1.4mmのU字断面を有する環状曲板からなる。金属外環21の断面をU字にすることにより、金属外環21に加わる応力に対する弾性緩衝手段とした整合封止型気密端子である。
【0014】
実施例2の気密端子20と、比較例として金属外環、導出リード、絶縁ガラスのサイズが実施例2と同一であるが、金属外環に開溝部を有ない一様な矩形断面を持った比較例の気密端子とを、各50個用意し、これをHDD用Alダイキャスト筐体にはんだ付けして気密接合した後、常温雰囲気より−40℃に設定した恒温槽内に投入し、30分間保持する。後に常温雰囲気に取り出し、10秒以内に80℃に設定した恒温槽内に投入する。30分後に常温雰囲気に取り出し、10秒以内に再び−40℃の恒温槽内に投入する。これらを1サイクルとして、100サイクル、200サイクル、500サイクル、1000サイクル繰り返し行った後、接合部に割れの発生がないか確認した。その結果を表1に示す。
【0015】
【表1】
【0016】
比較例の気密端子は、サイクル数が増すにつれて接合部にクラックが生じた個数が増加したが、実施例1の気密端子10は、1000サイクル後も全数異常はなかった。
【産業上の利用可能性】
【0017】
本発明はHDD用の気密端子に適用でき、特にHeガス等の低密度ガスを封入し筐体の高気密性が要求されるHDDに好適に利用できる。
【符号の説明】
【0018】
10,20・・・気密端子、 11,21・・・金属外環、
12,22・・・絶縁ガラス、 13,23・・・導出リード、
14,24・・・弾性緩衝手段、 15,25・・・板厚、
16,26・・・開溝幅、 D・・・断面図の切断線の基点。
図1
図2