(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記網赤血球の分布範囲のうち蛍光強度が低い範囲に含まれる血球の割合に基づいて、前記熱帯熱マラリア原虫の存在の可能性を決定する、請求項1または2に記載の血液分析方法。
前記散乱光データと前記蛍光データに基づいて、前記測定試料中の血球を成熟赤血球、網赤血球、および血小板に分類する、請求項1ないし3の何れか一項に記載の血液分析方法。
前記散乱光データと前記蛍光データに基づく血小板の分布範囲に含まれる血球の数に基づいて、前記熱帯熱マラリア原虫の存在の可能性を決定する、請求項1ないし5の何れか一項に記載の血液分析方法。
前記制御部は、前記網赤血球の分布範囲のうち蛍光強度が低い範囲に含まれる血球の割合に基づいて、前記熱帯熱マラリア原虫の存在の可能性を決定する、請求項12または13に記載の血液分析装置。
前記制御部は、前記散乱光データと前記蛍光データに基づいて、前記測定試料中の血球を成熟赤血球、網赤血球、および血小板に分類する、請求項12ないし14の何れか一項に記載の血液分析装置。
前記制御部は、前記散乱光データと前記蛍光データに基づく血小板の分布範囲に含まれる血球の数に基づいて、前記熱帯熱マラリア原虫の存在の可能性を決定する、請求項12ないし16の何れか一項に記載の血液分析装置。
前記制御部は、前記網赤血球の分布範囲に含まれる血球の数に基づいて、前記熱帯熱マラリア原虫の存在の可能性を決定する、請求項12ないし17の何れか一項に記載の血液分析装置。
血液試料から調製された測定試料中の血球に光を照射することにより生じる散乱光と蛍光とを検出して、血球毎に、前記散乱光に関する散乱光データおよび前記蛍光に関する蛍光データを検出する検出部と、
熱帯熱マラリア原虫の存在の可能性を決定可能な第1の測定と、三日熱マラリア原虫、卵形マラリア原虫、および四日熱マラリア原虫のうち少なくとも1つの存在の可能性を決定可能な第2の測定と、を実行する制御部と、を備えた血液分析装置。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1に示すように、血液分析装置10は、試料調製部20と、検出部30と、制御部40と、記憶部50と、入力部60と、出力部70と、通信部80と、読出部90と、を備える。
【0012】
血液分析装置10は、第1測定と、第2測定と、第3測定を行う。第1測定では、血球等が、好塩基球と、好塩基球を除く白血球と、有核赤血球とに分類される。第2測定では、血球等が、リンパ球と、単球と、好酸球と、好中球および好塩基球を合わせた血球とに分類される。第3測定では、血球等が、成熟赤血球と、網赤血球と、血小板とに分類される。以下では、網赤血球と成熟赤血球の両方を含む概念として、「赤血球」が用いられる。
【0013】
試料調製部20は、患者から採取された末梢血である血液試料11を受け付ける。試料調製部20には、試薬21〜26を収容する容器が接続されている。試料調製部20は、試薬21、22と血液試料11とを混和して測定試料31を調製し、試薬23、24と血液試料11とを混和して測定試料32を調製し、試薬25、26と血液試料11とを混和して測定試料33を調製する。測定試料31〜33は、流路を介して検出部30に送られる。
【0014】
試薬21は、赤血球を溶血させるための界面活性剤を含んでおり、試薬22は、血液試料11中の有核赤血球と白血球との間に蛍光強度の差を生じさせるための蛍光色素を含んでいる。試薬21として、たとえば、シスメックス株式会社製の、ライザセル(登録商標) WNR(登録商標)が用いられ、試薬22として、たとえば、シスメックス株式会社製の、フルオロセル(登録商標) WNRが用いられる。試薬23は、赤血球を溶血させるための界面活性剤を含んでおり、試薬24は、血液試料11中の白血球のサブクラスの間に蛍光強度の差を生じさせるための蛍光色素を含んでいる。試薬23として、たとえば、シスメックス株式会社製の、ライザセル WDF(登録商標)が用いられ、試薬24として、たとえば、シスメックス株式会社製の、フルオロセル WDFが用いられる。試薬25は希釈液であり、試薬26は、血液試料11中の成熟赤血球と網赤血球との間に蛍光強度の差を生じさせるための蛍光色素を含んでいる。試薬25として、たとえば、シスメックス株式会社製の、セルパック(登録商標) DFL(登録商標)が用いられ、試薬26として、たとえば、シスメックス株式会社製の、フルオロセル RET(登録商標)が用いられる。
【0015】
なお、試薬25、26は、いずれも赤血球を溶血させない。試薬25、26は、赤血球を溶血させず、且つ、成熟赤血球と網赤血球を測定できる範囲において、適宜、変更が可能である。ここで、「赤血球を溶血させない」とは、少量の界面活性剤により染色を促進させるよう赤血球にダメージを与えることを含んでいる。なお、本実施形態において、測定試料31〜33の調製を複数の試薬を用いて行った。しかし、これに限らず、血液試料11に対して1つの試薬を混合し測定試料31〜33の調製を行ってもよい。
【0016】
検出部30は、測定試料31〜33に光を照射し、測定試料31〜33中の血球等から生じる前方散乱光と、側方散乱光と、蛍光と、を検出する。検出部30は、各光に基づいて、前方散乱光に関する前方散乱光データと、側方散乱光に関する側方散乱光データと、蛍光に関する蛍光データと、を取得する。検出部30は、これらデータを制御部40に出力する。検出部30については、追って
図2を参照して説明する。
【0017】
制御部40は、前方散乱光データと、側方散乱光データと、蛍光データとを、記憶部50に記憶する。記憶部50は、血球の分析で用いるプログラム51を予め記憶している。制御部40は、プログラム51を実行して、以下に示す血球の分析を行う。
【0018】
制御部40は、第1測定と第2測定とで得られたデータに基づいて、それぞれ上述した分類を行う。さらに、制御部40は、第1測定と第2測定とで得られたデータに基づいて、血液試料11中における熱帯熱マラリア原虫以外の種類のマラリア原虫の存在の可能性を判定する。熱帯熱マラリア原虫以外の種類のマラリア原虫とは、三日熱マラリア原虫、卵形マラリア原虫、四日熱マラリア原虫である。以下、熱帯熱マラリア原虫以外の種類のマラリア原虫を、「他のマラリア原虫」と称する。他のマラリア原虫の存在の可能性を判定する処理については、追って
図3を参照して説明する。
【0019】
制御部40は、第3測定で得られたデータに基づいて、上述した分類を行う。さらに、制御部40は、第3測定で得られたデータに基づいて、血液試料11中における熱帯熱マラリア原虫の存在の可能性を判定する。熱帯熱マラリア原虫の存在の可能性を判定する処理については、追って
図6を参照して説明する。
【0020】
制御部40は、入力部60を介してオペレータからの指示を受け付け、血球の分析結果を出力部70に表示させる。入力部60は、マウスやキーボードであり、出力部70は、ディスプレイである。制御部40は、通信部80を介して外部のコンピュータ等と通信を行い、読出部90を介して外部のプログラムを読み込む。読出部90は、光学ドライブである。血球の分析で用いるプログラム51は、記憶部50に予め記憶されることに限らず、血球の分析前に、通信部80と読出部90を介して、外部から記憶部50に記憶されても良い。
【0021】
図2に示すように、検出部30は、シースフロー系310と、ビームスポット形成系320と、前方散乱光受光系330と、側方散乱光受光系340と、蛍光受光系350と、信号処理回路360と、を備える。
【0022】
シースフロー系310は、フローセル311を備える。フローセル311は、透光性を有する材料によって管状に構成されている。測定試料31〜33は、シース液に包まれた状態で、フローセル311内に流される。測定試料31〜33に含まれる粒子は、一列に整列した状態でフローセル311内を通る。
【0023】
ビームスポット形成系320は、光源321から出射された光が、コリメータレンズ322とコンデンサレンズ323を通って、フローセル311内を流れる測定試料31〜33に照射されるよう構成される。光源321は、半導体レーザであり、光源321から出射される光は、赤色波長帯域のレーザ光である。なお、光源321から出射される光の波長は、上述した血球の分類が可能な範囲において、適宜、変更が可能である。
【0024】
測定試料31〜33に含まれる粒子に光が照射されることにより、測定試料31〜33中の粒子から、前方散乱光と、側方散乱光と、蛍光が生じる。前方散乱光は、粒子の大きさに関する情報を反映し、側方散乱光は、粒子の内部情報を反映し、蛍光は、粒子の染色度合いを反映する。フローセル311に照射された光のうち、粒子に照射されずにフローセル311を透過した光は、ビームストッパ324により遮断される。
【0025】
前方散乱光受光系330は、前方散乱光を光検出器331で受光するように構成されている。光検出器331は、フォトダイオードであり、受光した前方散乱光の強度に応じた電気信号を出力する。側方散乱光受光系340は、側方散乱光を、側方集光レンズ341により集光し、ダイクロイックミラー342で反射させ、光検出器343で受光するよう構成されている。光検出器343は、フォトダイオードであり、受光した側方散乱光の強度に応じた電気信号を出力する。蛍光受光系350は、側方集光レンズ341により集光され、ダイクロイックミラー342を透過した蛍光を、分光フィルタ351を通して、光検出器352で受光するよう構成されている。光検出器352は、アバランシェフォトダイオードであり、受光した蛍光の強度に応じた電気信号を出力する。
【0026】
信号処理回路360は、光検出器331、343、352から出力された電気信号に対して所定の信号処理を施すことにより、それぞれ、前方散乱光と、側方散乱光と、蛍光とに対応する信号波形を取得する。信号処理回路360は、取得したそれぞれの信号波形について、信号波形のピーク値を取得し、取得したピーク値をA/D変換する。これにより、信号処理回路360は、測定試料31〜33に含まれる粒子ごとに、各信号波形のピーク値のデジタルデータ、すなわち、前方散乱光に関する前方散乱光データと、側方散乱光に関する側方散乱光データと、蛍光に関する蛍光データとを取得する。信号処理回路360は、こうして取得した各光のデータを、
図1に示す制御部40に出力する。
【0027】
なお、検出部30の光学系は、
図2に示す構成以外にも適宜変更可能である。
【0028】
次に、血液分析装置10が行う処理についてフローチャートを参照して説明する。オペレータにより開始指示が行われると、血液分析装置10は、血液試料11を吸引して試料調製部20に供給し、
図3に示す第1測定と第2測定とに関する処理と、
図6に示す第3測定に関する処理とを、順に行う。
【0029】
図3に示すように、ステップS101において、試料調製部20は、血液試料11と試薬21、22とを混和して、測定試料31を調製する。測定試料31の調製において、試薬21の作用によって血液試料11内の赤血球が溶血される。このとき、赤血球内にマラリア原虫が存在すると、このマラリア原虫は液中に遊離する。検出部30は、測定試料31をフローセル311に流す。ステップS102において、検出部30は、測定試料31に光を照射して、前方散乱光と、側方散乱光と、蛍光とを、それぞれ、光検出器331、343、352により検出し、粒子ごとに、前方散乱光データと、側方散乱光データと、蛍光データと、を取得する。
【0030】
ステップS103において、制御部40は、ステップS102で取得したデータに基づいて、
図4(a)に示すスキャッタグラム110を作成し、スキャッタグラム110上に範囲111〜113を設定する。スキャッタグラム110の横軸と縦軸は、それぞれ、蛍光データと前方散乱光データを示す。
図4(a)は、マラリアに罹患していない患者から採取した血液試料11に基づく場合のスキャッタグラム110を示している。範囲111〜113は、それぞれ、好塩基球と、好塩基球を除く白血球と、有核赤血球とが含まれると見なされる範囲である。制御部40は、各範囲に含まれる点を、それぞれ、各範囲に対応する血球と見なして分類する。ステップS104において、制御部40は、範囲111〜113に含まれる粒子数を計数して、それぞれ、好塩基球数と、好塩基球を除く白血球数と、有核赤血球数とを取得する。
【0031】
なお、ここでは、説明の便宜上、範囲111〜113内の粒子数を取得するために、スキャッタグラム110を作成し、スキャッタグラム110上に範囲111〜113を設定している。しかしながら、範囲111〜113に対応する粒子数の取得は、必ずしも実際に図形やグラフを用いて行われる必要はない。すなわち、ステップS103、S104の処理に替えて、所定の数値範囲に属する粒子をフィルタリングによって抽出し、抽出した粒子数を計数するデータ処理を行うことにより、範囲111〜113内の粒子数を取得しても良い。同様に、ステップS105、S106と、ステップS109、S110と、ステップS111、S112と、
図6のステップS203、S204においても、粒子数および血球数の取得は、必ずしも実際に図形やグラフを用いて行われる必要はない。
【0032】
ステップS105において、制御部40は、ステップS102で取得したデータに基づいて、
図4(b)に示すスキャッタグラム120を作成し、スキャッタグラム120上に範囲121を設定する。スキャッタグラム120の横軸と縦軸は、それぞれ、側方散乱光データと前方散乱光データを示す。
図4(b)は、三日熱マラリアに罹患している患者から採取した血液試料11に基づく場合のスキャッタグラム120を示している。
【0033】
ここで、マラリア原虫は、赤血球内で、輪状体、成熟栄養体、分裂体などの形態をとる。熱帯熱マラリア原虫以外の他のマラリア原虫は、末梢血の赤血球内で輪状体以外の形態をとる場合が多いため、他のマラリア原虫の大きさは、白血球の大きさと同程度となる場合が多い。したがって、他のマラリア原虫を、白血球の分類を行う第1測定で得られたデータに基づいて分類できる。範囲121は、他のマラリア原虫が含まれると見なされる範囲である。ステップS106において、制御部40は、範囲121に含まれる粒子数を計数して、他のマラリア原虫数を取得する。
【0034】
一方、熱帯熱マラリア原虫は、末梢血の赤血球内で輪状体の形態をとる場合が多いため、熱帯熱マラリア原虫の大きさは、白血球の大きさよりも数段小さい場合が多い。熱帯熱マラリア原虫を含む赤血球が溶血されたとしても、熱帯熱マラリア原虫は、輪状体の形態を維持する。したがって、熱帯熱マラリア原虫を、白血球の分類を行う第1測定で得られたデータに基づいて分類しようとしても、熱帯熱マラリア原虫は、大部分がスキャッタグラム110中のデブリスの範囲に重なるため、熱帯熱マラリア原虫を分類することは困難である。そこで、本実施形態では、網赤血球の分類を行う第3測定で獲られたデータに基づいて、血液試料11中における熱帯熱マラリア原虫の存在の可能性を判定する。この判定については、追って
図6を参照して説明する。
【0035】
続いて、ステップS107において、試料調製部20は、血液試料11と試薬23、24とを混和して、測定試料32を調製する。測定試料32の調製においても、試薬23の作用によって血液試料11内の赤血球が溶血される。このとき、赤血球内にマラリア原虫が存在すると、このマラリア原虫は液中に遊離する。検出部30は、測定試料32をフローセル311に流す。ステップS108においても、ステップS102と同様にして、検出部30は、各光のデータを取得する。
【0036】
ステップS109において、制御部40は、ステップS108で取得したデータに基づいて、
図5(a)に示すスキャッタグラム130を作成し、スキャッタグラム130上に範囲131〜134を設定する。スキャッタグラム110の横軸と縦軸は、それぞれ、側方散乱光データと蛍光データを示す。
図5(a)は、マラリアに罹患していない患者から採取した血液試料11に基づく場合のスキャッタグラム130を示している。範囲131〜134は、それぞれ、リンパ球と、単球と、好酸球と、好中球および好塩基球を合わせた血球とが含まれると見なされる範囲である。制御部40は、各範囲に含まれる点を、それぞれ、各範囲に対応する血球と見なして分類する。ステップS110において、制御部40は範囲131〜134に含まれる粒子数を計数して、それぞれ、リンパ球数と、単球数と、好酸球数と、好中球および好塩基球を合わせた血球数とを取得する。
【0037】
次に、ステップS111において、制御部40は、ステップS108で取得したデータに基づいて、
図5(b)に示すスキャッタグラム140を作成し、スキャッタグラム140上に範囲141を設定する。スキャッタグラム140の横軸と縦軸は、それぞれ、側方散乱光データと前方散乱光データとを示す。
図5(b)は、三日熱マラリアに罹患している患者から採取した血液試料11に基づく場合のスキャッタグラム120を示している。
【0038】
この場合も、熱帯熱マラリア原虫を分類できないものの、他のマラリア原虫を、白血球の分類を行う第2測定で得られたデータに基づいて分類できる。範囲141は、他のマラリア原虫が含まれると見なされる範囲である。ステップS112において、制御部40は、範囲121に含まれる粒子数を計数して、他のマラリア原虫数を取得する。
【0039】
続いて、ステップS113において、制御部40は、ステップS106で取得したマラリア原虫数が所定数以上、または、ステップS112で取得したマラリア原虫数が所定数以上であるかを判定する。制御部40は、ステップS113でYESと判定すると、ステップS114において、血液試料11中に他のマラリア原虫が存在する可能性ありとして、他のマラリアについて陽性と判定する。一方、制御部40は、ステップS113でNOと判定すると、ステップS115において、血液試料11中に他のマラリア原虫が存在する可能性なしとして、他のマラリアについて陰性と判定する。こうして、第1測定と第2測定とに関する処理が終了する。
【0040】
なお、ステップS113における他のマラリアの判定は、第1測定に基づいて取得されるマラリア原虫数のみに基づいて行われても良く、または、第2測定に基づいて取得されるマラリア原虫数のみに基づいて行われても良い。
【0041】
図6に示すように、ステップS201において、試料調製部20は、血液試料11と試薬25、26とを混和して、測定試料33を調製する。測定試料33の調製では、赤血球は溶血されない。赤血球にマラリア原虫が含まれていると、このマラリア原虫は、試薬26により染色される。検出部30は、測定試料33をフローセル311に流す。ステップS202においても、ステップS102と同様にして、検出部30は、各光のデータを取得する。
【0042】
ステップS203において、制御部40は、ステップS202で取得したデータに基づいて、
図7(a)に示すスキャッタグラム150を作成し、スキャッタグラム150上に範囲151、152、152a、152b、152c、153を設定する。スキャッタグラム150の横軸と縦軸は、それぞれ、蛍光データと前方散乱光データとを示す。
図7(a)は、マラリアに罹患していない患者から採取した血液試料11に基づく場合のスキャッタグラム150を示している。
【0043】
範囲151、152、153は、それぞれ、成熟赤血球と、網赤血球と、血小板とが含まれると見なされる範囲である。範囲152a、152b、152cは、範囲152のうち、それぞれ、蛍光強度が低い範囲と、蛍光強度が中程度の範囲と、蛍光強度が高い範囲である。範囲152aは、低蛍光網赤血球、すなわち、蛍光強度が低い網赤血球が含まれると見なされる範囲である。範囲152bは、中蛍光網赤血球、すなわち、蛍光強度が中程度である網赤血球が含まれると見なされる範囲である。範囲152cは、高蛍光網赤血球、すなわち、蛍光強度が高い網赤血球が含まれると見なされる範囲である。制御部40は、各範囲に含まれる点を、それぞれ、各範囲に対応する血球と見なして分類する。
【0044】
ステップS204において、制御部40は、範囲151、152、152a、152b、152c、153に含まれる粒子数を計数して、それぞれ、成熟赤血球数と、網赤血球数と、低蛍光網赤血球数と、中蛍光網赤血球数と、高蛍光網赤血球数と、血小板数と、を取得する。
【0045】
ここで、熱帯熱マラリア原虫を内部に輪状体の形態で含む赤血球は、成熟赤血球が分布すると見なされる範囲151と、網赤血球が分布すると見なされる範囲152との境界を跨ぐように分布する。範囲152に熱帯熱マラリア原虫を含む赤血球が分布すると、
図7(b)に示すように、範囲152における血球の分布状況が正常時の分布状況から変化する。
図7(b)は、熱帯熱マラリアに罹患している患者から採取した血液試料11に基づく場合のスキャッタグラム150を示している。そこで、制御部40は、範囲152における血球の分布状況を、後述する条件1、2により判定することにより、血液試料11中における熱帯熱マラリア原虫の存在の可能性を判定する。
【0046】
ステップS205において、制御部40は、網赤血球幼若指数と、Delta−Heと、RET ratioを、以下の算出式により算出する。
【0047】
・網赤血球幼若指数 = {(中蛍光網赤血球数+高蛍光網赤血球数)/網赤血球数}×100
・Delta−He = (RET−He)−(RBC−He)
・RET ratio = 網赤血球数/(網赤血球幼若指数×1000)
【0048】
RET−Heは、網赤血球に含まれるヘモグロビン量であり、RBC−Heは、成熟赤血球に含まれるヘモグロビン量である。RET−Heは、範囲152に含まれ網赤血球と見なされた粒子の前方散乱光データの平均値をRET−Yとすると、定数C11、C12を用いて、以下の算出式により算出される。
【0049】
・RET−He = C11×exp(C12×RET−Y)
【0050】
RBC−Heは、範囲151に含まれ成熟赤血球と見なされた粒子の前方散乱光データの平均値をRBC−Yとすると、定数C13、C14を用いて、以下の算出式により算出される。
【0051】
・RBC−He = C13×exp(C14×RBC−Y)
【0052】
ステップS206において、制御部40は、条件1が満たされるかを判定する。以下に示す条件(1)〜(4)が全て満たされると、条件1が満たされる。Sh1〜Sh4は、予め設定された閾値である。
【0053】
<条件1>
(1)網赤血球数がSh1以上
(2)網赤血球幼若指数がSh2以下
(3)Delta−HeがSh3以下
(4)RET ratioがSh4以上
【0054】
熱帯熱マラリア原虫を含む赤血球は、上述したように、範囲151、152の境界を跨ぐように分布する。したがって、熱帯熱マラリア原虫を含む赤血球が増えると、範囲152に含まれる血球数が増えるため、条件(1)が満たされ易くなる。また、熱帯熱マラリア原虫を含む赤血球が増えると、範囲152に含まれる血球は、範囲152a側に偏って分布するようになるため、条件(2)、(4)が満たされ易くなる。言い換えれば、条件(2)、(4)では、網赤血球に対応する範囲152のうち、蛍光強度が低い範囲に含まれる血球の割合が高いか否かが判定される。
【0055】
ここで、範囲152に含まれ網赤血球と見なされた粒子の前方散乱光データに基づく重心位置を、第1の重心位置とし、範囲151に含まれ成熟赤血球と見なされた粒子の前方散乱光データに基づく重心位置を、第2の重心位置とする。第1の重心位置は、範囲152に含まれる粒子の前方散乱光データの平均値、すなわちRET−Yであり、第2の重心位置は、範囲151に含まれる粒子の前方散乱光データの平均値、すなわちRBC−Yである。上記のように、RET−HeとRBC−Heは、それぞれ、RET−YとRBC−Yを用いて算出される。よって、RET−HeとRBC−Heは、それぞれ、第1の重心位置と第2の重心位置を反映する値である。
【0056】
したがって、第1の重心位置と第2の重心位置を反映する値は以下のようにして取得できる。すなわち、RET−Yを、範囲152に含まれ網赤血球と見なされた粒子の前方散乱光データの平均値により取得し、RBC−Yを、範囲151に含まれ成熟赤血球と見なされた粒子の前方散乱光データの平均値により取得する。そして、第1の重心位置を反映する値を、C11×exp(C12×RET−Y)により取得し、第2の重心位置を反映する値を、C13×exp(C14×RBC−Y)により取得する。
【0057】
熱帯熱マラリア原虫を含む赤血球は、スキャッタグラム150上において、網赤血球よりもやや下側に現れる。すなわち、熱帯熱マラリア原虫を含む赤血球の前方散乱光データは、マラリア原虫を含まない正常な網赤血球の前方散乱光データに比べて小さい。血液試料11に熱帯熱マラリア原虫が存在すると、第1の重心位置は低くなる。第1の重心位置が低くなることは、第1の重心位置と第2の重心位置との差分が小さくなることにより判断できる。上記のように、RET−HeとRBC−Heは、それぞれ、第1の重心位置と第2の重心位置を反映する値である。したがって、第1の重心位置と第2の重心位置との差分が小さくなることは、RET−HeとRBC−Heとの差分、すなわち、Delta−Heによっても判断できる。よって、熱帯熱マラリア原虫を含む赤血球が増えると、Delta−Heが小さくなり、条件(3)が満たされ易くなる。
【0058】
なお、条件(3)において、第1の重心位置と第2の重心位置を反映する他の値を用いて、第1の重心位置と第2の重心位置との差分が所定の閾値以下であるか否かが判定されても良い。たとえば、第1の重心位置を反映する値を、RET−Yにより取得し、第2の重心位置を反映する値を、RBC−Yにより取得する。そして、条件(3)において、RET−YとRBC−Yとの差分が所定の閾値以下であるか否かを判定しても良い。
【0059】
このように、血液試料11に熱帯熱マラリア原虫が存在し、熱帯熱マラリア原虫を含む赤血球が増えると、条件(1)〜(4)がそれぞれ満たされ易くなる。したがって、条件(1)〜(4)が全て満たされる場合、すなわち、条件1が満たされる場合は、血液試料11に熱帯熱マラリア原虫が存在する可能性が高くなる。制御部40は、ステップS206においてYESと判定すると、処理をステップS207に進め、ステップS206においてNOと判定すると、処理をステップS210に進める。
【0060】
ステップS207において、制御部40は、熱帯熱マラリアのスコアを算出する。熱帯熱マラリアのスコアは、定数C21〜C24を用いて、以下の算出式により算出される。
【0061】
・スコア=(RET ratio)×C21−血小板数×C22−(Delta−He)×C23+C24
【0062】
定数C21〜C24は、後述する条件(5)において熱帯熱マラリアのスコアを所定の基準値と比較することにより、血液試料11における熱帯熱マラリア原虫の存在の可能性を判定できるよう、予め設定される。ここでは、基準値が100に設定される。
【0063】
ステップS208において、制御部40は、条件2が満たされるかを判定する。以下に示す条件(5)が満たされると、条件2が満たされる。
【0064】
<条件2>
(5)熱帯熱マラリアのスコアが、100より大きい
【0065】
熱帯熱マラリア原虫を含む赤血球が増えると、上述したように、RET ratioは大きくなり、Delta−Heは小さくなる。また、患者が熱帯熱マラリアに罹患すると、血液試料11中における血小板数が減る。したがって、患者が熱帯熱マラリアに罹患し、血液試料11に熱帯熱マラリア原虫が存在すると、条件(5)が成立し易くなり、条件2が成立し易くなる。よって、条件2が満たされる場合、血液試料11に熱帯熱マラリア原虫が存在する可能性が高くなる。制御部40は、ステップS208においてYESと判定すると、処理をステップS209に進め、ステップS208においてNOと判定すると、処理をステップS210に進める。
【0066】
制御部40は、ステップS206、S208においてYESと判定した場合、すなわち、条件1、2がいずれも満たされる場合、ステップS209において、血液試料11中に熱帯熱マラリア原虫が存在する可能性ありとして、熱帯熱マラリアについて陽性と判定する。一方、制御部40は、ステップS206、S208の何れかにおいてNOと判定した場合、すなわち、条件1、2の何れかが満たされない場合、ステップS210において、血液試料11中に熱帯熱マラリア原虫が存在する可能性なしとして、熱帯熱マラリアについて陰性と判定する。こうして、第3測定に関する処理が終了する。
【0067】
条件1、2は、いずれも、範囲152における血球の分布状況に基づいて、範囲152における血球の分布状況が正常時の分布状況から変化していることを判定するものである。したがって、第3測定に関する処理において、ステップS206、S208の何れか一方が省略されても良い。すなわち、条件1を満たす場合に、熱帯熱マラリアについて陽性と判定しても良く、条件2を満たす場合に、熱帯熱マラリアについて陽性と判定しても良い。
【0068】
第3測定によれば、検出した粒子の散乱光データと蛍光データに基づいて、粒子を成熟赤血球と、網赤血球と、血小板に分類する。そして、網赤血球が分布すると見なされる範囲152における血球の分布状況を、条件1、2によって判定することにより、血液試料11中における熱帯熱マラリア原虫の存在の可能性を判定する。よって、赤血球の分類と、熱帯熱マラリアの判定とを同時に行うことができる。
【0069】
第3測定によれば、
図6のステップS205〜S210の処理を行うだけで、熱帯熱マラリア原虫の存在の可能性を判定できる。したがって、第3測定を行う装置において熱帯熱マラリア原虫の存在の可能性を判定していない場合でも、ステップS205〜S210の処理を行うプログラムが、この装置のプログラム51に含められるだけで、熱帯熱マラリア原虫の存在の可能性を判定できるようになる。この場合、ステップS205〜S210の処理を行うプログラムは、たとえば、通信部80と読出部90を介して外部から記憶部50に記憶される。
【0070】
なお、血液試料11に他のマラリア原虫が存在する場合、他のマラリア原虫を含む赤血球は、スキャッタグラム150の上端近傍または右端近傍に位置する。このため、第3測定に関する処理によって、血液試料11中における他のマラリア原虫の存在の可能性を正確に判定することは困難である。しかしながら、
図3に示した第1測定と第2測定とに関する処理によって、血液試料11中における他のマラリア原虫の存在の可能性を判定できる。したがって、第1〜第3測定に関する処理によれば、血液試料11中における全てのマラリア原虫の存在の可能性を判定できる。
【0071】
第1測定と第2測定とに関する処理と、第3測定に関する処理とが終了すると、表示処理が行われる。
【0072】
図8(a)に示すように、ステップS301において、制御部40は、網赤血球数と熱帯熱マラリアのスコアとを含む画面200を、出力部70に表示させる。
図8(b)、(c)は、それぞれ、他のマラリアについて陽性と判定された場合の画面例と、熱帯熱マラリアについて陽性と判定された場合の画面例である。
図8(b)、(c)において、領域210には、
図6のステップS204で取得した網赤血球数が、適宜単位が整えられた状態で表示される。領域220には、熱帯熱マラリアのスコアと、熱帯熱マラリアのスコアを視覚的に把握できるバーとが表示される。
【0073】
ステップS302において、制御部40は、第1測定と第2測定とに関する処理で行われた判定に基づいて、他のマラリアについて陽性であるかを判定する。他のマラリアについて陽性であると、ステップS303において、制御部40は、血液試料11中における他のマラリア原虫の存在の可能性を示唆する表示を行う。具体的には、
図8(b)に示すように、領域230に、「三日熱マラリア?卵形マラリア?四日熱マラリア?」が表示される。
【0074】
ステップS304において、制御部40は、第3測定に関する処理で行われた判定に基づいて、熱帯熱マラリアについて陽性であるかを判定する。熱帯熱マラリアについて陽性であると、ステップS305において、制御部40は、血液試料11中における熱帯熱マラリア原虫の存在の可能性を示唆する表示を行う。具体的には、
図8(c)に示すように、領域230に、「熱帯熱マラリア?」が表示される。
【0075】
表示処理によれば、オペレータは、領域220、230の表示内容を見ることで、患者から採取した血液試料11中に熱帯熱マラリア原虫が存在する可能性があるか否かを知ることができる。
【0076】
次に、熱帯熱マラリア原虫の存在の可能性を、第1測定と第2測定とに関する処理によって判定する場合と、第3測定に関する処理によって判定する場合とを、実際の測定結果を示しながら比較する。いずれの場合においても、同じ血液試料群に対して判定が行われた。判定対象の血液試料数は99であった。目視により陽性および陰性と判定された血液試料数は、それぞれ、23および76であった。
【0077】
感度は、目視により陽性と判定された血液試料数に対する、判定結果により陽性と判定された血液試料数の比率である。特異度は、目視により陰性と判定された血液試料数に対する、判定結果により陰性と判定された血液試料数の比率である。PPV(Positive Predictive Value)は、判定結果により陽性と判定された血液試料数に対する、目視により陽性と判定された血液試料数の比率である。NPV(Negative Predictive Value)は、判定結果により陰性と判定された血液試料数に対する、目視により陰性と判定された血液試料数の比率である。
【0078】
図9(a)に示すように、第1測定と第2測定とに関する処理によれば、目視により陽性と判定された23個の血液試料と、目視により陰性と判定された76個の血液試料とが、全て陰性と判定された。これにより、NPVは76.8%であった。
【0079】
一方、
図9(b)に示すように、第3測定に関する処理によれば、目視により陽性と判定された23個の血液試料のうち、17個の血液試料が陽性と判定され、6個の血液試料が陰性と判定された。また、目視により陰性と判定された76個の血液試料のうち、1個の血液試料が陽性と判定され、75個の血液試料が陰性と判定された。これにより、NPVは、76.8%から92.6%と改善され、PPVも94.4%となった。
【0080】
以上の測定結果から分かるとおり、第3測定による処理によれば、第1測定と第2測定とによる処理に比べて、より精度良く、血液試料11中における熱帯熱マラリア原虫の存在の可能性を判定できる。