【実施例1】
【0011】
以下、本発明を適用したエンジン制御装置の
参考例について説明する。
参考例のエンジン制御装置は、例えば乗用車等の自動車に走行用動力源として搭載される4ストロークのガソリン直噴エンジンに設けられるものである。
図1は、
参考例のエンジン制御装置を有するエンジンの構成を示す模式図である。
エンジン1は、シリンダ10、ピストン20、シリンダヘッド30、吸気装置40、排気装置50、燃料供給装置60、EGR装置70、エンジン制御ユニット100等を有して構成されている。
【0012】
シリンダ10は、ピストン20が挿入されるスリーブを備えている。
シリンダ10は、図示しないクランクケースと一体に形成されたシリンダブロックに形成されている。
クランクケースは、エンジン1の出力軸である図示しないクランクシャフトを、回転可能に支持し、収容するものである。
シリンダ10には、シリンダヘッド30及びスリーブの周囲に形成されたウォータージャケット内に通流される冷却水の水温を検出する水温センサ11が設けられている。
水温センサ11の出力は、エンジン制御ユニット100に伝達される。
【0013】
ピストン20は、シリンダ10のスリーブ内部に挿入され、往復運動する部材である。
ピストン20は、コンロッド21を介して図示しないクランクシャフトに接続されている。
ピストン20の冠面22は、シリンダヘッド30と協働してエンジン1の燃焼室を構成する。
【0014】
シリンダヘッド30は、シリンダ10のクランクシャフト側とは反対側の端部に設けられている。
シリンダヘッド30は、燃焼室31、吸気ポート32、排気ポート33、吸気バルブ34、排気バルブ35、点火栓36等を備えている。
燃焼室31は、ピストン20の冠面22と対向して形成された凹部であって、例えばペントルーフ型に形成されている。
吸気ポート32は、燃焼室31に燃焼用空気(新気)を導入する流路である。
排気ポート33は、燃焼室31から既燃ガス(排ガス)を排出する流路である。
吸気ポート32及び排気ポート33は、例えば、1気筒あたり2本ずつが形成されている。
吸気バルブ34、排気バルブ35は、吸気ポート32、排気ポート33を、所定のバルブタイミングでそれぞれ開閉するものである。
吸気バルブ34、排気バルブ35は、カムシャフト、ロッカアーム等の動弁駆動系によって駆動される。
点火栓36は、エンジン制御ユニット100が生成する点火信号に応じて、所定の点火時期にスパーク(火花)を発生し、混合気に点火するものである。
点火栓36は、燃焼室31の実質的に中心部(シリンダ10の中心軸近傍)に配置されている。
【0015】
吸気装置40は、エンジン1に燃焼用空気を導入するものである。
吸気装置40は、インテークダクト41、エアクリーナ42、スロットル43、インテークマニホールド44等を有して構成されている。
インテークダクト41は、大気中から空気を導入してエンジン1へ供給する管路である。
エアクリーナ42は、インテークダクト41の入口近傍に設けられ、空気中のダスト等を濾過して浄化するものである。
エアクリーナ42の出口には、インテークダクト41内を通過する空気量(エンジン1の吸入空気量)を計測する図示しないエアフローメータが設けられている。
スロットル43は、インテークダクト41におけるエアクリーナ42の下流側に設けられ、吸気空気量を絞ることによってエンジン1の出力調整を行うものである。
スロットル43は、バタフライバルブ等の弁体、弁体を駆動する電動アクチュエータ(スロットルアクチュエータ)、及び、スロットル開度を検出するスロットルセンサ等を備えて構成されている。
スロットルアクチュエータは、エンジン制御ユニット100からの制御信号に応じて駆動される。
インテークマニホールド44は、スロットル43の下流側に設けられ、容器状に形成されたサージタンク、及び、各気筒の吸気ポート32に接続され新気を導入する分岐管を有して構成されている。
【0016】
排気装置50は、エンジン1から排ガスを排出するものである。
排気装置50は、エキゾーストパイプ51、触媒コンバータ52、空燃比センサ53等を有して構成されている。
エキゾーストパイプ51は、排気ポート33から出た排ガスを排出する管路である。
触媒コンバータ52は、エキゾーストパイプ51の中間部に設けられている。
触媒コンバータ52は、ハニカム状のアルミナ担体にプラチナ、ロジウム等の貴金属を担持させて構成され、HC、NOx、CO等を浄化する三元触媒を備えている。
空燃比(A/F)センサ53は、エンジン1の現在の空燃比を排ガスの性状に基づいて検出するリニア出力のラムダセンサである。
空燃比センサ53は、エキゾーストパイプ51の触媒コンバータ52よりも上流側の領域に設けられている。
【0017】
燃料供給装置60は、燃料タンク61、フィードポンプ62、燃料搬送管63、高圧ポンプ64、燃料配管65、デリバリーパイプ66、インジェクタ67等を備えて構成されている。
燃料タンク61は、燃料(ガソリン)を貯留する容器であって、例えば車体後部の床下に搭載されている。
フィードポンプ(低圧ポンプ)62は、燃料タンク61内の燃料を、燃料搬送管63を介して高圧ポンプ64に圧送するものである。
高圧ポンプ64は、フィードポンプ62から供給された燃料を高圧に昇圧し、燃料配管65を経由して蓄圧室を兼ねたデリバリーパイプ66に供給するものである。
高圧ポンプ64は、シリンダヘッド30に設けられ吸気バルブ34を駆動するカム軸64aによって駆動される。
【0018】
インジェクタ67は、例えばソレノイドやピエゾ素子を有するアクチュエータによって駆動されるニードルバルブを備え、デリバリーパイプ66内に蓄圧された高圧燃料を、エンジン制御ユニット100が生成する噴射信号(開弁信号)に応じて、所定の時期に所定の噴射量だけ噴射するものである。
インジェクタ67のノズルは、
図1に示すように、燃焼室31の側方(シリンダボア側)における吸気バルブ34側から筒内に挿入されている。
【0019】
EGR装置70は、エキゾーストパイプ51内を流れる排ガスの一部を抽出してインテークマニホールド44内に導入(還流)させるものである。
EGR装置70は、EGR管路71、EGRバルブ72等を有して構成されている。
EGR管路71は、エキゾーストパイプ51からインテークマニホールド44へ排ガスを搬送する管路である。
EGR管路71の一方の端部は、エキゾーストパイプ51における触媒コンバータ52の上流側の領域に接続されている。
EGR管路71の他方の端部は、インテークマニホールド44のサージタンク部に接続されている。
EGRバルブ72は、EGR管路71の中間部に設けられ、EGR管路71内を通過する排ガスの流量を制御するものである。
EGRバルブ72は、エンジン制御ユニット100からの制御信号に応じて開閉制御される。
【0020】
エンジン制御ユニット100は、エンジン1及びその補機類を統括的に制御するものである。
エンジン制御ユニット100は、
参考例のエンジン制御装置における噴射量制御手段、回転速度検出手段、リーン化作動量算出手段として機能する。
エンジン制御ユニット100は、CPU等の情報処理装置、RAMやROM等の記憶手段、入出力インターフェイス及びこれらを接続するバス等を有して構成されている。
エンジン制御ユニット100は、エアフローメータによって検出されるエンジン1の吸入空気量、スロットルセンサによって検出されるスロットルバルブの開度、図示しないクランク角センサによって検出されるクランクシャフトの回転速度等に基づいて、各気筒のインジェクタ67のサイクル毎の燃料噴射量及び噴射回数を設定するとともに、各回の燃料噴射の噴射時期(噴射開始時期及び噴射終了時期)を設定し、インジェクタ67に対して噴射信号(開弁信号)を与える。
【0021】
また、エンジン制御ユニット100は、エンジン1の始動直後には、燃料性状やエンジン自体の性能のばらつきがあった場合にも確実に着火させ始動性を確保するため、空燃比を理論空燃比に対してリッチとし、始動後に燃料噴射量を逐次減量してリーン化する始動後リーン化制御を行う。
図2は、
参考例のエンジン制御装置における始動後リーン化制御を示すフローチャートである。
図3は、
参考例のエンジン制御装置における始動後リーン化制御時におけるエンジン回転数及びリーン化作動量の推移の一例を示すグラフである。
以下、ステップ毎に順を追って説明する。
【0022】
<ステップS01:クランキング・始動時噴射量噴射>
ECU100は、エンジン1を始動するため、図示しないスタータモータに通電してエンジンのクランクシャフトの回転駆動(クランキング)を行うとともに、インジェクタ67から予め設定された始動時噴射量の燃料を噴射させる。
始動時噴射量は、燃料の性状やエンジン1自体の性能にばらつきがあった場合でも確実に着火させ始動を容易にするため、理論空燃比に対して十分に燃料リッチとなるように始動時増量するよう設定されている。
さらに、ECU100は、点火栓36において所定の点火タイミングでのスパーク発生を開始させる。
その後、ステップS02に進む。
【0023】
<ステップS02:完爆判定>
ECU100は、エンジン1の燃焼室内において燃料が安定して燃焼し、エンジン始動が完了したか(完爆したか)否かを判別する。
具体的には、エンジン1のクランクシャフト回転数(実回転速度)が予め設定された始動判定閾値を上回った場合には、完爆判定を成立させる。
完爆判定が成立した場合にはクランキングを終了してステップS03に進み、不成立の場合にはステップS01に戻って以降の処理を繰り返す。
【0024】
<ステップS03:最大作動量a設定>
ECU100は、始動後リーン化制御における燃料噴射量の減少量であるリーン化作動量の制限値(ガード値)である最大作動量として、予め設定された最大作動量aを設定する。
最大作動量aは、エンジン始動直後に実回転数が目標回転数に対してオーバーシュートした状態であっても、燃料噴射量の減少量が過剰となって回転挙動を不安定としないよう考慮して設定される。
その後、ステップS04に進む。
【0025】
<ステップS04:エンジン回転数Ne取得>
ECU100は、図示しないクランク角センサの出力に基づいて、クランクシャフトの実際の回転数(エンジン実回転数)Neを取得する。
その後、ステップS05に進む。
【0026】
<ステップS05:エンジン回転数Neを目標回転数と比較>
ECU100は、ステップS04において取得したエンジン回転数Ne(実回転数)を、予め設定された所定値である目標回転数と比較する。
実回転数が目標回転数を上回っている場合は、始動後リーン化制御が必要であるとしてステップS06に進み、その他の場合は、始動化リーン制御が完了したものとして一連の処理を終了する。
【0027】
<ステップS06:リーン化作動量算出>
ECU100は、実回転数と目標回転数との差分に基づいて、燃料噴射量の目標減少量であるリーン化作動量を算出する。
リーン化作動量は、例えば、実回転数から目標回転数を減じた差分に、所定の係数を乗じて算出してもよい。また、差分に応じてマップ値が読みだされるマップを用いて設定してもよい。
ここで、リーン化作動量は、偏差の増加に応じて増加するように設定される。
その後、ステップS07に進む。
【0028】
<ステップS07:リーン化作動量を最大作動量と比較>
ECU100は、ステップS06において算出したリーン化作動量を、現在設定されている最大作動量と比較する。
リーン化作動量が最大作動量以上である場合は、ステップS08に進み、リーン化作動量が最大作動量未満である場合は、ステップS09に進む。
【0029】
<ステップS08:最大作動量でリーン化実行>
ECU100は、インジェクタ67から噴射される1サイクルあたりの燃料噴射量を、現在設定されている最大作動量だけ減少させ、空燃比のリーン化を実行する。
その後、ステップS10に進む。
【0030】
<ステップS09:リーン化作動量でリーン化実行>
ECU100は、インジェクタ67から噴射される1サイクルあたりの燃料噴射量を、ステップS06において算出されたリーン化作動量だけ減少させ、空燃比のリーン化を実行する。
その後、ステップS10に進む。
【0031】
<ステップS10:始動後経過時間判断>
ECU100は、ステップS02において完爆判定が成立してからの経過時間(始動後経過時間)を、予め設定された閾値tと比較する。
ここで、閾値tは、例えば、始動直後のエンジン回転数のオーバーシュートが落ち着き、エンジン実回転数が目標回転数近傍に収束する時間に設定することができる。
一例として、閾値tは、例えば2乃至3秒程度に設定することができる。
経過時間が閾値t以上である場合は、ステップS11に進み、その他の場合はステップS04に戻って以降の処理を繰り返す。
【0032】
<ステップS11:最大作動量bに変更>
ECU100は、ステップS03において設定した最大作動量aを、最大作動量b(>最大作動量a)に変更する。
最大作動量bは、例えば、最大作動量aに対して約2倍程度に設定することができる。
その後、ステップS04に戻って以降の処理を繰り返す。
【0033】
以上説明した
参考例においては、
図3に示すように、エンジン始動後の経過時間が所定の閾値tに到達するまでは最大作動量を比較的小さな最大作動量aに設定し、燃料噴射量の過剰減量によって回転挙動が不安定となることを防止できる。
一方、閾値tの経過後は、最大作動量を最大作動量aに対して大きい最大作動量bとすることによって、実回転数が目標回転数に収束して始動後リーン化制御を終了するまでの時間を短縮し、早期に空燃比フィードバック制御へ移行することができる。