(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
A.装置の構成:
図1(a)は、微粒子測定システム10を搭載した車両500の概略構成を例示した説明図である。
図1(b)は、車両500に取り付けられた微粒子測定システム10の概略構成を例示した説明図である。微粒子測定システム10は、微粒子センサ100と、ケーブル200と、センサ駆動部300とを備えており、内燃機関400から排出される排ガスに含まれる煤などの微粒子の量を測定する。内燃機関400は、車両500の動力源であり、ディーゼルエンジン等によって構成されている。車両500は、微粒子センサ100の他に、車両500内の種々の部署に設けられた各種のセンサ406を備えている。これらのセンサ406からは、種々の運転条件パラメータの測定値が車両制御部420に供給される。これらの運転条件パラメータとしては、例えば、車両の速度や、内燃機関400の回転数、内燃機関400のトルク、内燃機関400の排ガス温度、内燃機関400の排気圧、内燃機関400の吸気圧、EGR開閉度(EGR弁(Exhaust Gas Recirculation valve)が設けられている場合)、内燃機関400への吸入空気量、燃料噴射量、点火時期、等がある。これらの運転条件パラメータは、いずれも排ガス中の微粒子の量や大きさなどに影響を与えると考えられるパラメータである。
【0013】
微粒子センサ100は、内燃機関400から延びる排ガス配管402に取り付けられ、
ケーブル200によってセンサ駆動部300と電気的に接続されている。本実施形態では、微粒子センサ100は、フィルタ装置410(例えば、DPF(Diesel particulate filter))よりも下流側の排ガス配管402に取り付けられている。微粒子センサ100は、排ガスに含まれる微粒子の量に相関する信号をセンサ駆動部300に出力する。
【0014】
センサ駆動部300は、微粒子センサ100を駆動するとともに、微粒子センサ100から入力される信号に基づいて排ガス中の微粒子の量を測定する。本実施形態において、「微粒子の量」は、排ガス中の微粒子の質量の合計に比例する値として測定される。但し、「微粒子の量」は、微粒子の表面積の合計に比例する値として測定されてもよく、又は、排ガスの単位体積中に含まれる微粒子の個数に比例する値として測定されてもよい。センサ駆動部300は、検出した排ガス中の微粒子量を示す信号を車両制御部420に出力する。車両制御部420は、センサ駆動部300から入力される信号に応じて、内燃機関400の燃焼状態や、燃料配管405を介して燃料供給部430から内燃機関400に供給される燃料の供給量などを制御する。車両制御部420は、例えば、排ガス中の微粒子量が所定の上限値(閾値)よりも多い場合には、フィルタ装置410の劣化や異常を車両500の運転手に警告するように構成されていてもよい。センサ駆動部300と車両制御部420には、電源部440から電力が供給される。
【0015】
図1(b)に示すように、微粒子センサ100は、円筒形状の先端部100eを備えており、この先端部100eが排ガス配管402の内側に挿入された状態で、排ガス配管402の外表面に固定されている。ここでは、微粒子センサ100の先端部100eは、排ガス配管402の延伸方向DLに対してほぼ垂直に挿入されている。先端部100eのケーシングCSの表面には、排ガスをケーシングCSの内部に取り込むための流入孔45と、取り込んだ排ガスをケーシングCSの外部に排出するための排出孔35と、が設けられている。排ガス配管402の内部を流通する排ガスの一部は、流入孔45を介して先端部100eのケーシングCSの内部に取り込まれる。取り込まれた排ガス中に含まれる微粒子は、微粒子センサ100が生成するイオン(ここでは、陽イオン)によって帯電される。帯電した微粒子を含む排ガスは、排出孔35を介してケーシングCSの外部に排出される。ケーシングCSの内部の構成や、微粒子センサ100の具体的な構成については後述する。
【0016】
微粒子センサ100の後端部100rには、ケーブル200が取り付けられている。ケーブル200は、第1の配線221と、第2の配線222と、信号線223と、空気供給管224と、を束ねた構成を備えている。第1の配線221、第2の配線222、および、信号線223は、センサ駆動部300に電気的に接続されている。空気供給管224は、空気供給部800に接続されている。
【0017】
センサ駆動部300は、センサ制御部600と、電気回路部700と、空気供給部800とを備えている。センサ制御部600と電気回路部700との間、および、センサ制御部600と空気供給部800との間は、それぞれ電気的に接続されている。
【0018】
センサ制御部600は、マイクロコンピュータを含んでおり、電気回路部700と、空気供給部800とを制御する。また、センサ制御部600は、電気回路部700から入力される信号から排ガス中の微粒子の量を決定し、排ガス中の微粒子量を表す信号を車両制御部420に出力する。
【0019】
電気回路部700は、第1の配線221および第2の配線222を介して、微粒子センサ100を駆動するための電力を供給する。また、電気回路部700には、信号線223を介して、排ガスに含まれる微粒子の量に相関する信号が微粒子センサ100から入力される。電気回路部700は、信号線223から入力される信号を用いて、排ガス中の微粒子量に応じた信号をセンサ制御部600に出力する。これらの信号の具体的な内容については後述する。
【0020】
空気供給部800は、ポンプ(図示しない)を含んでおり、センサ制御部600からの指示に基づいて、空気供給管224を介して、高圧空気を微粒子センサ100に供給する。空気供給部800から供給される高圧空気は、微粒子センサ100による微粒子量測定の際に用いられる。なお、空気供給部800によって空気を供給する代わりに、他の種類のガスを微粒子センサ100に供給してもよい。
【0021】
図2は、微粒子センサ100の先端部100eの概略構成を模式的に示す説明図である。この先端部100eは、ケーシングCSの中に、イオン発生部110と、排ガス帯電部120と、イオン捕捉部130と、を設けた構成を有する。すなわち、ケーシングCS中に、これらの3つの処理部110,120,130がこの順に先端部100eの基端側(
図2の上方)から先端側(
図2の下方)に向かって、微粒子センサ100の軸線方向に沿って並んでいる。ケーシングCSは、導電性部材によって形成され、信号線223(
図1)を介して二次側グランドSGL(
図3)に接続されている。
【0022】
イオン発生部110は、排ガス帯電部120に供給するイオン(ここでは陽イオン)を発生させるための処理部であり、イオン発生室111と、第1の電極112とを含んでいる。イオン発生室111は、ケーシングCSの内側に形成された小空間であり、内周面には空気供給孔55とノズル41とが設けられ、内部には第1の電極112が突出した状態で取り付けられている。空気供給孔55は、空気供給管224(
図1)と連通しており、空気供給部800(
図1)から供給される高圧空気をイオン発生室111に供給する。ノズル41は、排ガス帯電部120との間を区画する隔壁42の中心部付近に設けられた微小孔(オリフィス)であり、イオン発生室111で発生したイオンを排ガス帯電部120の帯電室121に供給する。第1の電極112は、棒状の外形を有し、先端部が隔壁42と近接した状態で、その基端部がセラミックパイプ25を介してケーシングCSに固定されている。第1の電極112は、第1の配線221(
図1)を介して電気回路部700(
図1)に接続されている。
【0023】
イオン発生部110は、電気回路部700から供給される電力を用いて、第1の電極112を陽極とし、隔壁42を陰極として、直流電圧(例えば、2〜3kV)を印加する。イオン発生部110は、この電圧の印加によって、第1の電極112の先端部と、隔壁42との間にコロナ放電を生じさせることによって、陽イオンPIを発生させる。イオン発生部110において発生した陽イオンPIは、空気供給部800(
図1)から供給される高圧空気とともに、ノズル41を介して排ガス帯電部120の帯電室121に噴射される。ノズル41から噴射される空気の噴射速度は音速程度とすることが好ましい。
【0024】
排ガス帯電部120は、排ガスに含まれる微粒子を陽イオンPIによって帯電させるための部位であり、帯電室121を備えている。帯電室121は、イオン発生室111と隣接する小空間であり、ノズル41を介してイオン発生室111と連通している。また、帯電室121は、流入孔45を介して、ケーシングCSの外部と連通し、ガス流路31を介してイオン捕捉部130の捕捉室131と連通している。帯電室121は、ノズル41から陽イオンPIを含む空気が噴射されたときに内部が負圧になり、流入孔45を介してケーシングCSの外部の排ガスが流入するように構成されている。ノズル41から噴射された陽イオンPIを含む空気と、流入孔45から流入した排ガスとは、帯電室121の内部において混合される。このとき、流入孔45から流入した排ガスに含まれる微粒子Sの少なくとも一部には、ノズル41から供給される陽イオンPIが帯電される。帯電した微粒子Sと帯電に供されなかった陽イオンPIとを含む空気は、ガス流路31を介してイオン捕捉部130の捕捉室131に供給される。
【0025】
イオン捕捉部130は、微粒子Sの帯電に使用されなかったイオンを捕捉するための部位であり、捕捉室131と、第2の電極132とを含んでいる。捕捉室131は、帯電室121と隣接する小空間であり、ガス流路31を介して帯電室121と連通している。また、捕捉室131は、排出孔35を介して、ケーシングCSの外部と連通している。第2の電極132は、上端がテーパー状となった略棒状の外形を備え、長手方向がガス流路31を流通する空気の流通方向(ケーシングCSの延伸方向)に沿うようにしてケーシングCSに固定されている。第2の電極132は、第2の配線222(
図1)を介して電気回路部700(
図1)に接続されている。第2の電極132には、100V程度の電圧が印加されて、微粒子Sの帯電に供されなかった陽イオンの捕捉を補助する補助電極として機能する。具体的には、イオン捕捉部130には、第2の電極132を陽極とし、帯電室121及び捕捉室131を構成するケーシングCSを陰極とした電圧が印加されている。これにより、微粒子Sの帯電に用いられなかった陽イオンPIは、第2の電極132から斥力を受けて、その進行方向が第2の電極132から離れる方向へと偏向される。進行方向が偏向された陽イオンPIは、陰極として機能する捕捉室131やガス流路31の内周壁に捕捉される。一方、陽イオンPIが帯電された微粒子Sは、陽イオンPIの単体と同様に第2の電極132から斥力を受けるが、質量が陽イオンPIと比べて大きいため、斥力による偏向の度合いが、単体の陽イオンPIに比べて小さい。そのため、帯電した微粒子Sは、排ガスの流れに従って、排出孔35からケーシングCSの外部へと排出される。
【0026】
微粒子センサ100は、イオン捕捉部130における陽イオンPIの捕捉量に応じた電流の変化を示す信号を出力する。センサ制御部600(
図1)は、微粒子センサ100から出力された信号に基づいて、排ガス中に含まれる微粒子Sの量を決定する。微粒子センサ100から出力される信号から排ガス中に含まれる微粒子Sの量を決定する方法については後述する。
【0027】
図3は、電気回路部700の概略構成を示すブロック図である。電気回路部700は、
一次側電源回路710と、絶縁トランス720と、コロナ電流測定回路730と、測定信号生成回路740と、第1の整流回路751と、第2の整流回路752と、を備えている。
【0028】
一次側電源回路710は、電源部440から供給される直流電圧を昇圧して絶縁トランス720に供給するとともに、絶縁トランス720を駆動する。一次側電源回路710は、放電電圧制御回路711と、トランス駆動回路712とを備えている。放電電圧制御回路711は、DC/DCコンバータを含んでおり、センサ制御部600の制御によって、絶縁トランス720への供給電圧を任意に変更可能である。この供給電圧の制御は、例えば、第1の配線221を介して微粒子センサ100の第1の電極112に供給される入力電流I
inの電流値が、目標電流値(例えば、5μA)となるように実質的に実行される。この制御の方法については後述する。これにより、イオン発生部110において、コロナ放電によって発生する陽イオンPIの発生量を一定にすることができる。
【0029】
トランス駆動回路712は、絶縁トランス720の一次側のコイルに流れる電流の方向を切り換え可能なスイッチ回路を含んでおり、このスイッチ回路の切り換えによって絶縁トランス720を駆動する。本実施形態では、トランス駆動回路712は、例えばプッシュプル方式の回路として構成されているが、ハーフブリッジ方式やフルブリッジ方式などの他の方式の回路として構成されていてもよい。
【0030】
絶縁トランス720は、一次側電源回路710から供給される電力に対して電圧変換をおこない、変換後の電力(ここでは、交流電力)を二次側の整流回路751、752に供給する。絶縁トランス720は、2次側のコイル構成によって、第1の整流回路751に供給される電力と、第2の整流回路752に供給される電力とに対して、異なる増幅率を設定することが可能である。本実施形態の絶縁トランス720は、一次側のコイルと二次側のコイルとが物理的に接触しておらず、磁気によって結合するように構成されている。絶縁トランス720の一次側の回路としては、一次側電源回路710のほか、センサ制御部600や電源部440が含まれる。絶縁トランス720の二次側の回路としては、微粒子センサ100や整流回路751、752が含まれる。コロナ電流測定回路730と測定信号生成回路740は、絶縁トランス720の一次側の回路と二次側の回路との間に跨がる回路であり、両方の回路にそれぞれ電気的に接続されている。コロナ電流測定回路730は、後述するように、絶縁トランス720の一次側の回路に電気的に接続される回路部分と、二次側の回路に電気的に接続されている回路部分との間が物理的に絶縁されている。ここでは、一次側の回路の基準電位を示すグランド(接地電位)を「一次側グランドPGL」とも呼び、二次側の回路の基準電位を示すグランドを「二次側グランドSGL」とも呼ぶ。絶縁トランス720の一次側のコイルの端部は一次側グランドPGLに接続され、二次側のコイルの端部は二次側グランドSGLに接続されている。微粒子センサ100のケーシングCSは、信号線223及びシャント抵抗230を介して二次側グランドSGLに接続されている。
【0031】
整流回路751、752は、絶縁トランス720から出力された交流電力を直流電力に変換する。第1の整流回路751は、第1の配線221及びショート保護用抵抗753を介して、微粒子センサ100の第1の電極112に接続されている。第2の整流回路752は、第2の配線222及びショート保護用抵抗754を介して、微粒子センサ100の第2の電極132に接続されている。
【0032】
コロナ電流測定回路730は、配線761,762を介して信号線223上のシャント抵抗230の両端に接続されており、また、配線763を介してセンサ制御部600に接続されている。コロナ電流測定回路730は、信号線223上をケーシングCSから二次側グランドSGLに向けて流れる電流(I
dc+I
trp)の電流値を示す信号S
dc+trpをセンサ制御部600に出力する。ここで「電流値を示す信号」とは、電流値を直接的に示す信号に限定されず、電流値を間接的に示す信号も該当する。例えば、信号から得られる情報に演算式やマップを適用することによって電流値を特定できる信号も「電流値を示す信号」に含まれる。
【0033】
センサ制御部600は、コロナ電流測定回路730から入力される信号S
dc+trpに応じて、放電電圧制御回路711を制御する。センサ制御部600による放電電圧制御回路711の制御の概要は後述する。
【0034】
測定信号生成回路740は、イオン捕捉部130において捕捉されずに外部に流出した陽イオンPIの電流Iesc(以下、「漏洩電流Iesc」と呼ぶ)相当する電流Icを測定する。測定信号生成回路740は、配線771を介して二次側の信号線223に接続されるとともに、配線772,773を介して一次側のセンサ制御部600に接続される。また、測定信号生成回路740は、配線775を介して一次側グランドPGLに接続されている。測定信号生成回路740は、配線772を介して低感度測定信号SWescをセンサ制御部600に出力し、また、配線773を介して高感度測定信号SSescをセンサ制御部600に出力する。なお、低感度測定信号SWescと高感度測定信号SSescの両方を生成する必要は無く、いずれか一方(例えば高感度測定信号SSesc)のみを生成してセンサ制御部600に供給するようにしてもよい。
【0035】
微粒子センサ100の先端部100eを流れる電流相互には、下記(1)式の関係が成り立つ。
I
in=I
dc+I
trp+I
esc ・・・(1)
ここで、I
inは第1の電極112の入力電流であり、I
dcは隔壁42を介してケーシングCSに流れる放電電流であり、I
trpはケーシングCSに捕捉された陽イオンPIの電荷量に相当する捕捉電流であり、I
escはイオン捕捉部130において捕捉されずに外部に流出した陽イオンPIの電荷量に相当する漏洩電流である。
【0036】
放電電流I
dcと捕捉電流I
trpは、ケーシングCSから信号線223を介して二次側グランドSGLに流れるため、信号線223上のシャント抵抗230にはそれらの合計の電流(I
dc+I
trp)が流れる。ここで、(I
dc+I
trp)の電流値は、入力電流I
inの電流値とほぼ等しい。式(1)の漏洩電流Iescは、信号線223を流れる電流(I
dc+I
trp)のおよそ1/10
6倍程度の大きさであり、入力電流I
inの変動を監視するにあたっては実質的に無視することができるためである。入力電流I
inの電流値とイオン発生部110のコロナ電流の電流値とは等しいことから、信号線223を流れる電流(I
dc+I
trp)の電流値は、コロナ電流の電流値とほぼ等しいといえる。このことから、コロナ電流測定回路730は、イオン発生部110のコロナ電流の電流値を示す信号S
dc+trpをセンサ制御部600に出力しているといえる。これを受けて、センサ制御部600は、コロナ電流測定回路730から入力される信号S
dc+trpに応じて、入力電流I
inの電流値が目標電流値となるように、放電電圧制御回路711を制御する。
【0037】
漏洩電流I
escは、入力電流I
inと、シャント抵抗230を流れる電流(I
dc+I
trp)との差分に等しい。
I
esc=I
in−(I
dc+I
trp) ・・・(2)
測定信号生成回路740は、この漏洩電流Iescに相当する電流Icに応じた測定信号SSesc(又はSWesc)を生成してセンサ制御部600に出力する。センサ制御部600は、測定信号SSesc(又はSWesc)に基づいて排ガス中の微粒子量を決定する。また、この際、以下に説明するように、センサ駆動部300は、車両の運転条件に応じて、微粒子測定を有効とするか無効とするかの切り換えを実行する。
【0038】
B.運転条件による微粒子測定の有効/無効の切り換え:
図4は、排ガス中の微粒子量と測定信号との関係の一例を示すグラフである。横軸は排ガス中の微粒子量であり、縦軸は測定信号SSescである。正確に言えば、横軸は、排ガス中の微粒子濃度(mg/m
3)で表されており、縦軸は、測定信号SSescの電圧レベルに対応する電流Icの電流値(pA)で表されている。図中には、プロットされたすべての測定点に関する一次近似式y=a・xと、その相関係数Rの2乗とが示されている。一般に、R
2が大きいほど(すなわち、1に近いほど)相関度が高い。この例では、R
2が約0.7であり、パラメータx,yの相関度はあまり高く無いことが理解できる。
【0039】
図5は、
図4のグラフを車両500の速度の範囲で分類したものである。ここでは、車両500の速度の範囲として、0〜20km/hと、40〜100km/hと、110〜120km/hの3つの範囲が使用されている。これらの3つの範囲のそれぞれにおける測定点の部分集合では、微粒子量と測定信号との相関度が
図4に比べて向上している。なお、車両500の速度の範囲に応じて、微粒子量と測定信号との相関関係が変化する理由は、以下に説明するように、排ガス中の微粒子径が車両500の速度に応じて変わるからだと推定される。
【0040】
図6は、排ガス中の微粒子の粒子径分布が車両500の速度に応じて変化することを示すグラフである。横軸は微粒子の直径(nm)であり、縦軸は微粒子数(個/cm
3)である。このグラフに示されるように、粒子径分布は車両500の速度に応じて変化し、これに応じて粒子径の平均値も変化する。ところで、微粒子に付着する陽イオンPI(
図3)の個数は、微粒子の表面積が大きいほど多くなる傾向にあると推定される。一方、微粒子の表面積は粒子径の2乗に比例し、微粒子の重量は粒子径の3乗に比例する。本実施形態では、測定信号SSescに対応付けられている微粒子量は、微粒子の重量である。従って、車両500の速度の変化によって、粒子径の平均値が変化すると、測定信号SSescの信号レベルと微粒子の重量との間の関係も変化してしまうと推定される。
【0041】
このように、微粒子量と測定信号(測定結果)との関係は、車両の速度に応じてかなり大幅に変化する。本願の発明者は、車両の速度に限らず、内燃機関400の回転数や、内燃機関400のトルク等の他の運転条件パラメータに関しても、同様の傾向があることを見出した。そこで、本実施形態では、車両の運転条件が、微粒子測定に適した運転条件範囲内にあるか否かに応じて、微粒子測定の有効と無効とを切り換えることによって、測定精度の低下を抑制する。
【0042】
図7(A)は、微粒子測定の適正条件の成立時における動作の一例を示す説明図である。ここでは、まず、車両制御部420が、センサ駆動部300に対して運転条件パラメータのパラメータ値を送信する。このパラメータ値としては、例えば、車両500の速度と、内燃機関400の回転数と、内燃機関400のトルクと、3つの運転条件パラメータ値が送信される。
【0043】
運転条件パラメータ値が、予め定められた適正な範囲内にある場合には、センサ駆動部300が微粒子測定を実行して微粒子量を決定し、決定した微粒子量を車両制御部420に通知する。車両制御部420は、通知された微粒子量に応じて、警告の要否を判断し、必要な場合には警告通知部425を用いて微粒子量に関する警告を発する。この警告は、例えば、微粒子量が予め定められた許容上限値よりも多い場合に、フィルタ装置410の検査が必要であることを通知する警告ランプを点灯する、というものである。このような警告を受けると、車両500の運転者が、微粒子量が多いこと(又はフィルタ装置410に問題があること)を認識することができ、適切な対応(例えば車両の検査依頼)を取ることが可能となる。このような
図7(A)の処理及び動作は、微粒子の量の測定を有効に実行する処理に該当する。但し、警告の要否の判断、及び、警告の実施は、「微粒子の量の測定を有効に実行する処理」の後で行われる別の処理と考えることも可能である。
【0044】
なお、運転条件パラメータ値の「適正な範囲」とは、微粒子測定を精度良く実行できる範囲として予め設定された範囲である。例えば、
図5の結果を利用する場合には、40km/h以上100km/h以下が車両500の速度の適正な範囲であるとして設定される。内燃機関400の回転数と内燃機関400のトルクについても同様に、それぞれ適正な範囲が設定される。そして、車両500の速度と、内燃機関400の回転数と、内燃機関400のトルクと、の3つの運転条件パラメータ値のすべてがそれぞれの適正な範囲内にある場合に、微粒子測定のための適正条件が成立するものと判断される。
【0045】
図7(B)は、微粒子測定の適正条件の不成立時における動作の一例を示す説明図である。この例では、センサ駆動部300は、車両制御部420からパラメータ値を受信した後に、車両500の速度と、内燃機関400の回転数と、内燃機関400のトルクと、の3つの運転条件パラメータ値の少なくとも1つが適正な範囲内に無い場合に、微粒子測定のための適正条件を満足しないものと判断する。このとき、センサ駆動部300と車両制御部420は、例えば、以下の3種類の無効化処理のうちのいずれか1つを適用する。
(a)第1の無効化処理:センサ駆動部300が、微粒子センサ100を用いた微粒子測定そのものを実行しない。
(b)第2の無効化処理:センサ駆動部300が、微粒子センサ100を用いた微粒子測定を実行するが、微粒子量を車両制御部420に通知しない。
(c)第3の無効化処理:センサ駆動部300が、微粒子センサ100を用いた微粒子測定を実行し、微粒子量を車両制御部420に通知するが、車両制御部420が通知された微粒子量を無効とする。
ここで、「通知された微粒子量を無効とする」という意味は、通知された微粒子量に応じた警告の要否の判断を行わないことを意味する。なお、第3の無効化処理を行う場合には、微粒子量と運転条件パラメータ値とを、センサ駆動部300から車両制御部420に通知することが好ましい。
【0046】
なお、上記第1の無効化処理は、微粒子量の測定を実行しない処理に該当し、上記第2の無効化処理と第3の無効化処理は、微粒子量の測定結果を無効とする処理に該当する。このうち、第2の無効化処理では、センサ駆動部300が微粒子量の測定結果を無効としている。一方、第3の無効化処理では、車両制御部420が微粒子量の測定結果を無効としている。
【0047】
図7(A),(B)の例では、運転条件パラメータ値を車両制御部420からセンサ駆動部300に送信するものとしたが、この送信を省略し、微粒子測定のための適正条件を満足するか否かの判断と、測定の有効/無効の処理と、の両方を、車両制御部420で行うものとしても良い。この場合には、センサ駆動部300は、車両の運転条件に拘わらず、微粒子量の測定値を車両制御部420に通知することが好ましい。但し、
図7(A),(B)で説明したように、運転条件パラメータ値をセンサ駆動部300に送信し、センサ駆動部300が微粒子測定のための適正条件を満足するか否かの判断を行うようにすれば、車両制御部420の負荷を軽減することができる点で好ましい。
【0048】
このように、本実施形態では、車両500の速度と、内燃機関400の回転数と、内燃機関400のトルクと、3つの運転条件パラメータに基づいて、微粒子測定の有効/無効の切り換えを実行するので、運転条件が変化した場合にも、有効な微粒子測定の精度を過度に低下させることなく高い精度に維持することができる。
【0049】
なお、上記実施形態では、車両500の速度と、内燃機関400の回転数と、内燃機関400のトルクと、の3つの運転条件パラメータのすべてを用いて微粒子測定のための適正条件を満足するか否かを判断したが、この代わりに、これらの3つの運転条件パラメータのうちの1つ又は2つを用いてこの判断を行ってもよい。但し、上記の3つの運転条件パラメータは、いずれも微粒子の量や粒径に大きな影響を与えるので、3つの運転条件パラメータのすべてを用いて判断を行えば、より的確に測定精度の低下を抑制することが可能である。
【0050】
また、微粒子測定の有効/無効の切り換えの判断に用いる運転条件パラメータとしては、上述した3つのパラメータ以外のものを使用してもよい。例えば、内燃機関400の排ガス温度、内燃機関400の排気圧、内燃機関400の吸気圧、EGR開閉度、内燃機関400への吸入空気量、燃料噴射量、点火時期、等の運転条件パラメータを用いても良い。これらの運転条件パラメータは、いずれも排ガス中の微粒子の量や大きさなどに影響を与えると考えられるパラメータである。
【0051】
なお、内燃機関400のトルクは、1回のエンジンサイクル(2ストトーク又は4ストロークで構成される1サイクル)の中で大きな変化を示す。従って、微粒子測定のための適正条件を満足するか否かの判断に用いるトルク値としては、トルクセンサで測定されたトルクの中で、各エンジンサイクルにおけるピーク値を使用することができる。この点は、各種の運転条件パラメータのうちで、トルクと同様にエンジンサイクル毎の変動が大きなパラメータ(例えば、内燃機関400の排気圧や吸気圧)についても同様である。なお、微粒子量の測定信号の補正に用いるトルク値としては、各エンジンサイクルにてトルクセンサで測定されたトルクの平均値を用いたりしてもよい。
【0052】
C.測定信号生成回路の構成例:
図8は、測定信号生成回路740の構成を示すブロック図である。測定信号生成回路740は、I−V変換回路742と、I−V変換回路742の後段に設けられた高感度測定回路744とを備える。以下で説明するように、第1実施形態において、I−V変換回路742は低感度測定回路としても機能する。
【0053】
I−V変換回路742は、第1の増幅回路AMP1と、その負帰還抵抗R1とを含む。第1の増幅回路AMP1としてはオペアンプを利用可能である。第1の増幅回路AMP1の反転入力端子は、配線223を介して二次側グランドSGLに接続されている。この配線223は、
図3に示すように、微粒子センサのケーシングCSに接続されている。第1の増幅回路AMP1の非反転入力端子には、一次側グランドPGLに対して一定の基準電圧(例えば、0.5V)を与える電源Vrefが接続されている。以下の説明では、この電源Vrefの基準電圧を表す際にも同じ符号「Vref」を用いる。第1の増幅回路AMP1の非反転入力端子に基準電圧Vrefを入力すれば、第1の増幅回路AMP1の2つの入力端子間の電位差を、誤差(バイアス電流やオフセット電圧による誤差等)の生じにくい電位差範囲に近づけるように調整することができる。第1の増幅回路AMP1の反転入力端子には、後に詳述するように、微粒子センサ100の漏洩電流Iesc(
図3)に相当する電流Icが流れる。この電流Icは、第1の増幅回路AMP1によって第1の電圧E1に変換される。第1の電圧E1を示す信号SWescは、低感度測定信号として、配線772を介してセンサ制御部600に供給される。
【0054】
第1の増幅回路AMP1の反転入力端子に流れる電流Icが、微粒子センサ100の漏洩電流Iescに相当する電流となる理由は、以下の通りである。漏洩電流Iescが発生すると、二次側グランドSGLの基準電位は、漏洩電流Iescの大きさに応じて、一次側グランドPGLの基準電位よりも低下する。これは、一次側電源回路710(
図3)を含む一次側回路から、微粒子センサ100に供給されるエネルギー(電力)と、信号線223を介して微粒子センサ100から出力されるエネルギー(電力)との間に、漏洩電流Iescに対応するエネルギーの差異が生じるためである。漏洩電流Iescの発生により、二次側グランドSGLの基準電位と一次側グランドPGLの基準電位との間に差異が生じると、第1の増幅回路AMP1の反転入力端子には、この差異に応じた補償電流Icが流れる。この補償電流Icは、漏洩電流Iescと電流値が等しく、二次側グランドSGLの基準電位と一次側グランドPGLの基準電位との間の差異を補償する電流である。従って、I−V変換回路742は、この補償電流IcをI−V変換することによって、漏洩電流Iescを表す第1の電圧E1(及び低感度測定信号SWesc)を生成することができる。
【0055】
高感度測定回路744は、第2の増幅回路AMP2と、3つの抵抗R2,R3,R4と、オフセット電圧調整回路745とを含む。第2の増幅回路AMP2としてはオペアンプを利用可能である。第2の増幅回路AMP2の非反転入力端子は、I−V変換回路742の出力端子に接続されている。第2の増幅回路AMP2の反転入力端子は、抵抗R2を介してオフセット電圧調整回路745に接続されている。オフセット電圧調整回路745には、配線774を介してセンサ制御部600から、オフセット電圧Voffsetを示す信号レベルを有するオフセット信号Soffsetが供給される。オフセット電圧調整回路745は、このオフセット信号SoffsetをD/A変換(又はデコード)してオフセット電圧Voffsetを出力し、抵抗R2を介して第2の増幅回路AMP2の反転入力端子に供給する。第2の増幅回路AMP2の出力端子は、抵抗R3,R4を介して一次側グランドPGLに接続されている。これらの2つの抵抗R3,R4の間の接点は、第2の増幅回路AMP2の反転入力端子に接続されている。従って、抵抗3は、負帰還抵抗として機能する。この高感度測定回路744は、I−V変換回路742の出力電圧E1を増幅して電圧E2を生成する。この電圧E2を表す信号SSescは、高感度測定信号として、配線773を介してセンサ制御部600に供給される。
【0056】
2つの増幅回路AMP1,AMP2の出力電圧E1,E2は、以下の式で与えられる。
【数1】
ここで、Icは補償電流、R1〜R4は抵抗R1〜R4の抵抗値、Vrefは第1の増幅回路AMP1の基準電圧、Voffsetは第2の増幅回路AMP2のオフセット電圧である。
【0057】
抵抗値R2〜R4を調整することによって、第2の増幅回路AMP2の増幅率(すなわち、高感度測定回路744の増幅率)を調整することが可能である。例えば、第2の増幅回路AMP2の増幅率を、約10
3倍に設定することができる。また、後述するように、オフセット電圧Voffsetを調整することによって、高感度測定回路744における補償電流Ic(すなわち漏洩電流Iesc)の測定可能範囲(すなわち微粒子量の測定ウィンドウ)を、シフトさせることが可能である。
【0058】
センサ制御部600は、測定信号生成回路740から供給される低感度測定信号SWescと高感度測定信号SSescに基づいて、排ガス中に含まれる微粒子Sの量を決定する。測定信号SSesc(又はSWesc)から排ガス中に含まれる微粒子Sの量を決定する方法としては、例えば、測定信号SSesc(又はSWesc)の電圧値と排ガス中の微粒子Sの量との対応関係が示されているマップを参照する方法や、測定信号SSesc(又はSWesc)の電圧値と排ガス中の微粒子Sの量との関係を示す関係式を用いる方法を利用可能である。
【0059】
センサ制御部600は、アナログ信号としての高感度測定信号SSescおよび低感度測定信号SWescの電圧値を所定の分解能(例えば、8ビット)によってデジタル値に変換する。また、センサ制御部600は、これらの測定信号SSesc,SWescのいずれにおいても電圧値の読み取り可能な範囲(フルスケールの範囲)が同じ大きさとなるように構成されている。
【0060】
高感度測定信号SSescは、低感度測定信号SWescに比べて、漏洩電流Iescの電流値に対する感度(分解能)が高い。例えば、低感度測定信号SWescの1Vが漏洩電流Iescの1nAに相当するのに対して、高感度測定信号SSescの1Vは漏洩電流Iescの1pAに相当する。一方、センサ制御部600における測定信号SSesc,SWescの電圧の分解能(最小識別可能電位差)は等しい(例えば、0.02V)。従って、センサ制御部600の電圧分解能に相当する漏洩電流Iescの電流値は、高感度測定信号SSescでは小さく(例えば、0.02pA)、低感度測定信号SWescでは大きい(例えば、0.02nA)。換言すれば、センサ制御部600は、高感度測定信号SSescに基づいて、低感度測定信号SWescに比べて、漏洩電流Iescのより小さな変動を検出することが可能である。これらの説明からも理解できるように、本明細書において「感度」とは、分解能又は最小測定単位を意味する。すなわち、「高感度」は微粒子量の最小測定単位が小さいことを意味し、「低感度」は微粒子量の最小測定単位が大きいことを意味する。
【0061】
このように、高感度測定信号SSescから取得できる排ガス中の微粒子量は、低感度測定信号SWescから取得できる排ガス中の微粒子量よりも最小識別可能単位が小さく精度が高い。一方、センサ制御部600の読み取り可能な電圧範囲(例えば、0〜5V)は、低感度測定信号SWescの電圧範囲の全体が含まれるように設定されている。そのため、低感度測定信号SWescよって測定可能な排ガス中の微粒子量の範囲は、高感度測定信号SSescによって測定可能な排ガス中の微粒子量の範囲よりも広く、排ガス中の微粒子量が、低感度測定信号SWescの全電圧範囲に相当する範囲内であれば、その全範囲において微粒子量を測定することができる。
【0062】
一方、高感度測定信号SSescを用いた場合には、排ガス中の微粒子量がかなり狭い測定ウィンドウ(測定範囲)にある間は、センサ制御部600が微粒子量を決定することが可能であるが、その測定範囲から外れると、第2の増幅回路AMP2の電圧範囲を超えてしまうので、微粒子量を決定できなくなる。そこで、第1実施形態では、以下の処理手順で説明するように、オフセット電圧調整回路745から出力されるオフセット電圧Voffsetを、低感度測定信号SWescの電圧レベルE1に応じて変更することによって、高感度測定信号SSescによる微粒子量の測定ウィンドウを変更する。
【0063】
図9は、第1実施形態における微粒子測定処理の動作の流れを示すフローチャートである。微粒子測定処理が開始されると、ステップS100において、低感度測定が実行され、センサ制御部600が低感度測定信号SWescを受信する。このとき、センサ制御部600は、低感度測定信号SWescの電圧レベルに基づいて微粒子量を算出又は決定してもよい。ステップS110では、センサ制御部600が、低感度測定信号SWescの電圧レベルE1に応じて、高感度測定回路744のオフセット電圧Voffsetを算出する。この際、オフセット電圧Voffsetとしては、第2の増幅回路AMP2から出力される高感度測定回路744の出力電圧E2が、第2の増幅回路AMP2の出力電圧範囲内の所定の値(例えば中央値)になるように決定される。例えば、第2の増幅回路AMP2の出力電圧範囲の下限値がVminであり、上限値がVmaxの場合には、出力電圧E2が(Vmin+Vmax)/2に等しくなるようにオフセット電圧Voffsetを算出することができる。このようなオフセット電圧Voffsetの計算は、オフセット電圧Voffsetと2つの電圧E1,E2の間の既知の関係式(例えば上記(3b)式)を使用して実行可能である。
【0064】
ステップS120では、センサ制御部600が、算出されたオフセット電圧Voffsetを表す信号レベルを有するオフセット信号Soffsetを、オフセット電圧調整回路745に出力する。オフセット電圧調整回路745は、このよってオフセット信号SoffsetをD/A変換(又はデコード)してオフセット電圧Voffsetを出力し、抵抗R2を介して第2の増幅回路AMP2の反転入力端子に供給する。ステップS130では、高感度測定が実行され、センサ制御部600が高感度測定信号SSescを受信する。ステップS140では、センサ制御部600が、高感度測定信号SSescに基づいて、微粒子量を算出又は決定する。上述したように、高感度測定では、高感度測定信号SSescの電圧レベルE2が、第2の増幅回路AMP2の出力電圧範囲に収まるように決定されているので、センサ制御部600は、高感度測定信号SSescに応じて微粒子量を高感度に決定可能である。ステップS150では、微粒子測定を終了するか否かが判定され、終了が指示されるまでステップS100〜S150が繰り返し実行される。ステップS100〜S150の繰り返し周期は、例えば1ms〜2msに設定可能である。
【0065】
図10は、低感度測定範囲と高感度測定範囲との関係を示す説明図である。
図10の横軸は微粒子量であり、縦軸は増幅回路AMP1,AMP2の出力電圧レベルである。低感度測定信号SWescに基づいて測定可能な微粒子量の範囲(低感度測定の測定ウィンドウ)は、0〜Mmaxにわたる広い範囲である。一方、高感度測定信号SSescに基づいて測定可能な微粒子量の範囲(高感度測定の測定ウィンドウ)は、低感度測定の測定ウィンドウ0〜Mmaxの極一部の範囲(例えば1/1000の範囲)である。そこで、前述した
図9の手順に従ってオフセット電圧Voffsetを調整し、高感度測定の測定ウィンドウを適応的に移動させることによって、その時点の微粒子量に関わらず、高感度に微粒子量を測定することが可能となる。
【0066】
以上説明した第1実施形態の微粒子測定システムによれば、低感度測定信号SWescの電圧レベルに応じて高感度測定信号SSescの測定ウィンドウを適応的に移動させることによって、微粒子量が多いか少ないかに関わらず、高感度に微粒子量を測定することが可能となる。また、高感度測定信号の測定ウィンドウの調整を、増幅回路AMP2の入力端子に供給されるオフセット電圧Voffsetの調整によって実行するので、簡易な回路構成で測定ウィンドウの調整を行うことが可能である。さらに、第1実施形態では、センサ制御部600が、低感度測定信号SWescの電圧レベルに基づいて決定された信号レベルを有するオフセット信号Soffsetをオフセット電圧調整回路745に供給することによって、オフセット電圧調整回路745にオフセット電圧Voffsetを調整させて、高感度測定信号SSescの測定ウィンドウを適応的に変更するので、測定ウィンドウの調整を正確に行うことが可能である。また、イオン発生部110から発生されたイオンの量と、捕捉部130に捕捉されたイオンの量との差分に相当する電流に基づいて、低感度測定信号SWescと高感度測定信号SSescを生成するので、ガス中の微粒子が微量であっても精度の良い測定が可能である。
【0067】
D.変形例:
なお、この発明は上記の実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば次のような変形も可能である。
【0068】
・変形例1:
第1実施形態において説明した微粒子測定システム10の構成は例示であり、本発明は、第1実施形態で示した微粒子測定システム10以外の構成によっても実現することができる。例えば、微粒子測定システム10は、第2の電極132を備えていなくてもよい。また、微粒子測定システム10は、イオン発生部110が微粒子センサ100の内側ではなく、微粒子センサ100とは別体として構成されていてもよい。さらに、第1の電極112を隔壁42の先後を貫くように帯電室121内に配置させ、第1の電極112の先端部と帯電室121の内壁面との間にコロナ放電を生じさせるようにしてもよい。この場合には、イオン発生部110と排ガス帯電部120とは一体化されることになる。また、測定信号生成回路740は、微粒子量を示す信号を生成できるものであれば良く、上述した各実施形態で説明した構成以外の種々の構成を採用することが可能である。
【0069】
・変形例2:
上述した実施形態の微粒子測定システム10は、コロナ放電により第1の電極112と隔壁42との間で陽イオンを発生させる構成としたが、微粒子測定システム10は、コロナ放電により陰イオンを発生させる構成としてもよい。例えば、第1の電極112、隔壁42の正負の接続先を変更することにより、第1の電極112と隔壁42との間で陰イオンを発生させることができる。